(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141956
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】操舵特性制御方法及び操舵特性制御装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20241003BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20241003BHJP
B62D 115/00 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D101:00
B62D115:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053858
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山藤 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 潤一
【テーマコード(参考)】
3D232
【Fターム(参考)】
3D232CC08
3D232DA03
3D232DA23
3D232DA77
3D232DA78
3D232DA86
3D232DA94
3D232DB03
3D232DB05
3D232DB11
3D232DC01
3D232DE02
3D232DE05
3D232EB04
3D232EB12
3D232EC37
3D232GG01
(57)【要約】
【課題】制御対象車両において他車両の操舵特性を模擬して、乗員に他車両の操舵感覚を体感させる。
【解決手段】
制御対象車両のステアリング11に対する操作量θに基づき、該操作量θに対する制御量δ,F
Rの挙動を規定する操舵特性Cを参照してステアリングアクチュエータ14,12の制御目標値δ_
t,F
R_
tを定める操舵特性制御方法を提供する。特に、この操舵特性制御方法では、制御対象車両とは異なる模擬対象車両の操舵特性Cである擬似操舵特性C
sを取得し、制御対象車両の乗員による要求に応じて生成される切り替え指令信号S
r2を検出すると、参照すべき操舵特性Cを制御対象車両に定められた基本操舵特性C
bから擬似操舵特性C
sに切り替える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象車両のステアリングに対する操作量に基づき、該操作量に対する制御量の挙動を規定する操舵特性を参照してステアリングアクチュエータの制御目標値を定める操舵特性制御方法であって、
前記制御対象車両とは異なる模擬対象車両の前記操舵特性である擬似操舵特性を取得し、
前記制御対象車両の乗員による要求に応じて生成される切り替え指令信号を検出すると、参照すべき前記操舵特性を前記制御対象車両に定められた基本操舵特性から前記擬似操舵特性に切り替える、
操舵特性制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の操舵特性制御方法であって、
前記操作量は、前記ステアリングの操舵角を含み、
前記制御量は、前記制御対象車両の転舵輪における転舵角を含み、
前記基本操舵特性は、前記制御対象車両における前記操舵角に対する旋回半径の挙動を示す基本旋回半径特性を含み、
前記擬似操舵特性は、前記模擬対象車両における前記操舵角に対する前記旋回半径の挙動を示す擬似旋回半径特性を含み、
前記基本旋回半径特性と前記擬似旋回半径特性の差に基づいて目標ステアリングギア比を演算し、
前記操舵角及び前記目標ステアリングギア比に基づいて、前記制御目標値としての擬似目標転舵角を演算する、
操舵特性制御方法。
【請求項3】
請求項1に記載の操舵特性制御方法であって、
前記操作量は、前記ステアリングの操舵角を含み、
前記制御量は、前記ステアリングの操舵反力を含み、
前記基本操舵特性は、前記制御対象車両における前記操舵角に対する前記操舵反力の挙動を示す基本操舵反力特性を含み、
前記擬似操舵特性は、前記模擬対象車両における前記操舵角に対する前記操舵反力の挙動を示す擬似操舵反力特性を含み、
前記基本操舵反力特性と前記擬似操舵反力特性の差に基づいて、前記制御目標値としての擬似目標操舵反力を演算する、
操舵特性制御方法。
【請求項4】
請求項1に記載の操舵特性制御方法であって、
前記乗員の操作に基づく模擬対象車両提示指令を受信すると、模擬対象車両データ記憶部を参照して複数の前記模擬対象車両を前記乗員に提示し、
前記乗員が選択した一の前記模擬対象車両の情報を含む前記切り替え指令信号を受信すると、前記模擬対象車両データ記憶部を参照して、選択された前記模擬対象車両に紐づいた前記擬似操舵特性を抽出する、
操舵特性制御方法。
【請求項5】
請求項1に記載の操舵特性制御方法であって、
前記擬似操舵特性を参照して定められる前記制御目標値に基づいて、前記制御対象車両の旋回時における予測車両軌道を演算し、
演算した前記予測車両軌道を、前記乗員に提示する、
操舵特性制御方法。
【請求項6】
請求項2に記載の操舵特性制御方法であって、
前記擬似目標転舵角が、前記制御対象車両のハードウェア構成において実現可能な転舵角範囲を超える場合には、前記擬似目標転舵角を前記転舵角範囲における上限値に置き換える、
操舵特性制御方法。
【請求項7】
請求項2に記載の操舵特性制御方法であって、
前記切り替え指令信号を検出すると、前記制御対象車両が旋回中であるかを判定し、
当該判定の結果が肯定的である場合には、前記制御目標値の切り替えを実行した際の前記旋回半径の変化率を所定値以下に制限する、
操舵特性制御方法。
【請求項8】
請求項1に記載の操舵特性制御方法であって、
前記切り替え指令信号を検出すると、前記制御対象車両が走行中であるかを判定し、
前記制御対象車両が走行中である場合には、
前記制御対象車両の走行環境情報を取得し、
前記走行環境情報に基づいて予め定められた切り替え許可条件を満たすかを判定し、
前記切り替え許可条件を満たすと判断すると前記制御目標値の切り替えを実行し、
前記制御対象車両が停車中である場合には、
前記切り替え許可条件の確認を経ずに前記制御目標値の切り替えを実行する、
操舵特性制御方法。
【請求項9】
制御対象車両のステアリングに対する操作量に基づき、該操作量に対する制御量の挙動を規定する操舵特性を参照してステアリングアクチュエータの制御目標値を定める操舵特性制御装置であって、
前記制御対象車両とは異なる模擬対象車両の前記操舵特性である擬似操舵特性を取得する取得部と、
前記制御対象車両の乗員による要求に応じて生成される切り替え指令信号を検出すると、参照すべき前記操舵特性を、前記制御対象車両に定められた基本操舵特性から前記擬似操舵特性に切り替える切り替え部と、を有する、
操舵特性制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵特性制御方法及び操舵特性制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の乗員に対して、走行環境や運転感覚を含む様々な車両使用感を与えるために、当該車両において乗員の使用感に影響し得る種々の擬似環境を生成する技術が注目されている。例えば、特許文献1には、電動モータを駆動源として搭載した電動車両において内燃機関を駆動源として搭載した車両の運転感覚を擬似するように、モータトルクの出力を内燃機関の出力トルク特性に似た特性をとるように制御する方法が提案されている。また、特許文献2では、モータを走行駆動源とする電動車両において、擬似的にエンジン音を生成して、乗員に走行臨場感や快適なドライブ感を与える制御方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-252526号公報
【特許文献2】特開2014-202856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかる状況の下、本発明者らは、制御対象車両において他車両の操舵特性を模擬して、乗員に他車両の操舵感覚を体感させることのできる新規な制御方法を開発するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のある態様によれば、制御対象車両のステアリングに対する操作量に基づき、該操作量に対する制御量の挙動を規定する操舵特性を参照してステアリングアクチュエータの制御目標値を定める操舵特性制御方法が提供される。
【0006】
特に、この操舵特性制御方法では、制御対象車両とは異なる模擬対象車両の操舵特性である擬似操舵特性を取得し、制御対象車両の乗員による要求に応じて生成される切り替え指令信号を検出すると、参照すべき操舵特性を前記制御対象車両に定められた基本操舵特性から擬似操舵特性に切り替える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、制御対象車両において他車両の操舵特性を模擬して、乗員に他車両の操舵感覚を体感させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態による操舵制御システムの概略構成を示す図である。
【
図2】
図2は、ECU(操舵制御装置)の構成を説明するブロック図である。
【
図3】
図3は、操舵特性制御方法における各処理を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、切替判定処理の詳細を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、停車中に操舵特性を変更した場合の制御結果の一例を示すタイミングチャートである。
【
図6】
図6は、走行中に操舵特性を変更した場合の制御結果の一例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
図1は、操舵特性制御システム10の概略構成を示すブロック図の一例である。操舵特性制御システム10は、後述する操舵特性制御の対象となる車両(以下、「制御対象車両」と称する)に搭載される。操舵特性制御システム10は、主として、ステアリングホイール11と、反力アクチュエータ12と、転舵アクチュエータ14と、ステアリングギア16と、転舵輪18と、ECU(Electric Control Unit)50と、車載表示装置60と、を有する。特に、本実施形態の操舵特性制御システム10では、転舵輪18の転舵角δに対するステアリングホイール11の操舵角(ステアリング角)θの伝達比(θ/δ)として規定されるステアリングギア比K(V)を任意に調整可能な、いわゆるステアバイワイヤ方式が採用されている。以下では、各構成の詳細を説明する。
【0011】
ステアリングホイール11は、制御対象車両の乗員(より詳細には運転者)の操作に供される操舵装置である。
【0012】
反力アクチュエータ12は、ECU50からの指令に応じて、所望の操舵反力FR(以下、「目標操舵反力FR_t」と称する)をステアリングホイール11に作用させる装置である。反力アクチュエータ12は、電動機(モータ)により構成される。なお、反力アクチュエータ12の機能は、いわゆるパワーステアリング機能を実現するためのパワステモータにより実現されても良いし、別途追加されたモータにより実現されても良い。また、本実施形態の反力アクチュエータ12は、乗員によるステアリングホイール11に対する操作量に応じた操舵角θを検出し、ECU50に送信する機能も具備する。以下では、反力アクチュエータ12によって得られる操舵角θの検出値を、特に「操舵角検出値θ_d」と称する。
【0013】
転舵アクチュエータ14は、ECU50からの指令に応じて、所望の転舵角δ(以下、「目標転舵角δ_t」と称する)を実現するように、ステアリングギア16を介して転舵輪18を操作する。転舵アクチュエータ14は、電動機(モータ)により構成される。
【0014】
ステアリングギア16は、転舵アクチュエータ14から転舵輪18へ伝達される力(回転力)における伝達比を規定する機械要素である。
【0015】
ECU50は、制御対象車両に搭載されるコンピュータであり、各種入力情報に基づいて、反力アクチュエータ12及び転舵アクチュエータ14を操作するとともに、車載表示装置60に必要な表示を行うための表示データを送信する。なお、ECU50の構成の詳細は後述する。
【0016】
車載表示装置60は、乗員が各種情報を入力するための入力インターフェース(操作ボタン又はタッチパネル等)、所望の情報を表示するためのディスプレイ、及びこれらを制御する表示制御器により構成される。特に、車載表示装置60は、乗員による複数の模擬対象車両に係る情報の提示要求に係る操作を検出すると、模擬対象車両提示指令Sr1を生成してECU50に送信し、当該指令の応答としてECU50から車両リストLIを受信し、これを表示する。また、車載表示装置60は、乗員による車両リストLIから一の模擬対象車両の選択及び切り替えの要求に係る操作を検出すると、切り替え指令信号Sr2を生成してECU50に送信し、当該指令の応答としてECU50から予測車両軌道Traを受信し、これを表示する。
【0017】
次に、ECU50の詳細について説明する。本実施形態のECU50は、操舵角検出値θ_dに基づいて、操舵角θに対する制御量(操舵反力FR及び転舵角δ)の挙動を規定する操舵特性Cを参照して、反力アクチュエータ12及び転舵アクチュエータ14のそれぞれの制御目標値である目標操舵反力FR_t及び目標転舵角δ_tを定める。特に、ECU50は、制御対象車両の乗員による要求に応じて生成される切り替え指令信号Sr2を検出すると、目標操舵反力FR_t及び目標転舵角δ_tを、制御対象車両に定められた基本操舵特性Cbに応じた基本目標操舵反力FRb_t及び基本目標転舵角δb_tから、擬似操舵特性Csに応じた擬似目標操舵反力FRs_t及び擬似目標転舵角δs_tに切り替える。
【0018】
図2は、ECU50の構成を示すブロック図である。ECU50は、主として、切替判定処理部51と、特性抽出部52と、模擬車両DB53と、制御目標値演算部54と、制御量補正部55と、予測軌道演算部56と、表示制御部57と、を有している。
【0019】
切替判定処理部51は、車速検出値V_d、周辺状況情報Isurr、走行路情報Iroad、及び切り替え指令信号Sr2を入力として切替判定処理を実行し、切替許可フラグfl1及び変化速度緩和フラグfl2を設定する。
【0020】
ここで、車速検出値V_dは、図示しない車速センサ又は車速推定装置により得られる、制御対象車両の車速Vの検出値又は推定値である。周辺状況情報Isurrは、制御対象車両の周辺状況、特に制御対象車両を中心とした所定距離範囲に他車両、歩行者、及び/又は障害物などの周囲物体が存在するか否かを示唆する情報である。周辺状況情報Isurrは、例えば、図示しない車載カメラで得られる撮影画像に基づく解析、及び/又は車載のレーダーによる検知に基づく解析によって生成することができる。走行路情報Iroadは、制御対象車両が走行している道路に関する情報である。特に、本実施形態の走行路情報Iroadは、制御対象車両が走行している道路の法定車速が含まれる。なお、法定車速は、例えばGPS情報に基づいて特定した制御対象車両の位置情報と、車載の記憶領域、又は外部装置との通信により取得される道路マップデータと、を照合することで取得することができる。
【0021】
切替判定処理とは、制御目標値(δ_t,FR_t)を基本操舵特性Cbに基づく基本制御目標値(δb_t,FRb_t)から、擬似操舵特性Csに基づく擬似制御目標値(δs_t,FRs_t)に切り替えるにあたり、制御対象車両の車速Vや周辺状況が安全性を確保する観点から定められる条件(以下、「切替許可条件」と称する)を満たすかの判定、及び制御目標値(δ_t,FR_t)の切り替えが旋回中に行われるかの判定を実行するための処理である。
【0022】
特に、切替判定処理部51は、切替許可条件を満たすと判断した場合に切替許可フラグfl1をONに設定し、満たさないと判断した場合には切替許可フラグfl1をOFFに設定する。さらに、本実施形態の切替判定処理部51は、切替許可条件を満たす場合であっても制御対象車両が旋回中である場合には、変化速度緩和フラグfl2をONに設定する。
【0023】
特性抽出部52は、切り替え指令信号Sr2を受信すると、模擬車両DB53から擬似操舵特性Csを抽出する。より具体的に、特性抽出部52は、切り替え指令信号Sr2に含まれる乗員が選択した模擬対象車両の情報をキーとして、模擬車両DB53から該当する擬似操舵特性Csを抽出する。
【0024】
模擬車両DB53は、複数の模擬対象車両候補の情報(ID及び車種名など)に、各模擬対象車両候補ごとの操舵特性Cを紐づけて記憶させたデータベースである。模擬車両DB53に保有されるデータは、制御対象車両の出荷時(販売時)などに予め生成されるか、外部サーバ(クラウド100)との通信(ダウンロード)によって生成される。なお、模擬車両DB53の保有データを制御対象車両の出荷時に生成しつつ、当該保有データをクラウド100との通信により適宜更新する構成を採用しても良い。
【0025】
制御目標値演算部54は、操舵角検出値θ_d、車速検出値V_d、切替許可フラグfl1、変化速度緩和フラグfl2、及び擬似操舵特性Csを入力として、制御目標値(δ_t,FR_t)を定める。
【0026】
より具体的に、制御目標値演算部54は、切替許可フラグfl1がオフである場合には、制御目標値(δ_t,FR_t)を基本制御目標値(δb_t,FRb_t)に設定し、当該基本制御目標値(δb_t,FRb_t)に基づいて各アクチュエータ14,12を操作する。
【0027】
一方、切替許可フラグfl1がオンである場合には、制御目標値演算部54は、模擬対象車両の擬似操舵特性Csに応じた擬似制御目標値(δs_t,FRs_t)を演算して、当該擬似制御目標値(δs_t,FRs_t)を制御目標値(δ_t,FR_t)に設定する。
【0028】
より具体的に、制御目標値演算部54は、基本旋回半径特性Cb[rb/θ]と擬似旋回半径特性Cs[rs/θ]の差に基づいて目標ステアリングギア比Ks_t(V)を演算する。ここで、基本旋回半径特性Cb[rb/θ]とは、制御対象車両における操舵角θに対する旋回半径r(基本旋回半径rb)の挙動を示す特性である。擬似旋回半径特性Cs[rs/θ]とは、模擬対象車両における操舵角θに対する旋回半径r(擬似旋回半径rs)の挙動を示す特性である。目標ステアリングギア比Ks_t(V)は、ステアリングギア比K(V)の目標値であり、車速Vの関数として与えられる。さらに、制御目標値演算部54は、目標ステアリングギア比Ks_t(V)に、車速検出値V_d及び操舵角検出値θ_dを適用することで、擬似目標転舵角δs_tを演算する。
【0029】
制御目標値演算部54は、基本操舵反力特性Cb[FRb/θ]と擬似操舵反力特性Cs[FRs/θ]の差に基づいて擬似目標操舵反力FRs_tを演算する。ここで、基本操舵反力特性Cb[FRb/θ]とは、制御対象車両における操舵角θに対する操舵反力FR(基本操舵反力FRb)の挙動を示す特性である。擬似操舵反力特性Cs[FRs/θ]とは、模擬対象車両における操舵角θに対する操舵反力FR(擬似操舵反力FRs)の挙動を示す特性である。
【0030】
制御量補正部55は、制御目標値演算部54で演算された擬似目標転舵角δs_tと制御対象車両のハードウェア構成において実現可能な上限転舵角δlimとのミニマムセレクトにより、最終目標転舵角δ*_tを求める。すなわち、演算された擬似目標転舵角δs_tが上限転舵角δlimを超える場合には、当該擬似目標転舵角δs_tを上限転舵角δlimに置き換えて出力する。また、制御量補正部55は、擬似目標転舵角δs_tが上限転舵角δlimを超える場合には、制御目標値演算部54で演算された擬似目標操舵反力FRs_tを補正して最終目標操舵反力F*
R_tを求める。特に、最終目標操舵反力F*
R_tは、操舵角θが上限操舵角θlim付近となる領域において、本来の擬似目標転舵角δs_tよりも大きい値をとるように定められる。これにより、操舵角θが上限操舵角θlim付近になると、ステアリングホイール11の操作に必要な力が大きくなる。このため、乗員に対して制御対象車両において実現可能な操舵特性Cの限界が近いことを認識させることができる。
【0031】
さらに、制御量補正部55は、変化速度緩和フラグfl2を参照し、当該フラグがオンである場合には、最終目標転舵角δ*_tに対して、制御目標値の切り替えを実行した際の旋回半径rの変化率を所定値以下に制限するためのフィルタ処理を行う。
【0032】
予測軌道演算部56は、最終目標転舵角δ*_t、及び車速検出値V_dなどの必要なパラメータに基づいて、制御対象車両の旋回時における予測車両軌道Traを演算する。
【0033】
表示制御部57は、車載表示装置60から模擬対象車両提示指令Sr1を受信すると、模擬車両DB53に記憶されている各模擬車両候補の情報を読み出して車両リストLIを生成し、車載表示装置60に出力する。また、表示制御部57は、予測軌道演算部56から予測車両軌道Traを受信すると、当該予測車両軌道Traを車載表示装置60に出力する。
【0034】
次に、上記のECU50における制御構成に基づいて実行される操舵特性制御方法の流れについて説明する。
【0035】
図3は、本実施形態における操舵特性制御方法を説明するフローチャートである。なお、
図3に示す各処理は、ECU50の各部により所定の演算周期で繰り返し実行される。
【0036】
図示のように、ECU50は、切り替え指令信号Sr2を検出すると(S100のYes)、当該切り替え指令信号Srに含まれる選択された模擬対象車両の擬似操舵特性Csを模擬車両DB53から取得する(S110)。そして、ECU50は、取得した擬似操舵特性Cs及び上述した各入力パラメータを参照して、切替判定処理(S120)を実行する。
【0037】
図4は、切替判定処理の詳細を示すフローチャートである。図示のように、切替判定処理では、先ず、制御対象車両が停車中であるかを判定する(S121)。なお、当該判定は、車速検出値V_
dが基準値以下であるか、及び/又はシフトレバーがパーキング位置であるかなどの停車・走行状態を示唆する任意のパラメータを利用して行うことができる。
【0038】
そして、制御対象車両が停車中であると判断すると、切替許可フラグfl1をオンに設定して切替判定処理を終了する(S121のYes及びS126)。すなわち、制御対象車両が停車しているシーンでは、実質的に制御対象車両の操舵特性Cを変化させることによる影響(乗員の違和感)が生じ難いため、速やかに制御目標値(δ_t,FR_t)の切り替えを許可する。
【0039】
一方、制御対象車両が停車中ではない(走行中である)と判断すると、切替許可条件の確認に当たるS122及びS123の判定を実行する。より具体的に、S122では、車速検出値V_dが所定の規定車速Vth以下であるかを判定する。
【0040】
ここで、規定車速Vthは、制御目標値(δ_t,FR_t)の切り替えにあたり、制御対象車両における操舵特性Cが変化しても安全が確保され得る車速範囲を規定する閾値である。規定車速Vthは、実験又はシミュレーションによって定めても良いし、制御対象車両の走行路における法定車速として定めても良い。特に、規定車速Vthは、制御対象車両の走行環境に応じて変動する可変値に設定しても良い。例えば、走行路情報Iroad(特にGPS情報)から特定される制御対象車両の走行路に応じた法定車速を取得し、規定車速Vthを当該法定車速に設定しても良い。
【0041】
また、S123では、既に周辺状況情報Isurrから、制御対象車両の周囲に物体(他車両、歩行者、及び/又は障害物など)が存在しないかを判定する。
【0042】
そして、S122及びS123における判定結果の何れが否定的である場合には、切替許可フラグfl1をオフにして切替判定処理を終了する。一方、S122及びS123における判定結果が何れも肯定的である場合には、制御対象車両が旋回中であるかを判定する(S124)。より具体的には、操舵角検出値θ_dと所定の旋回判断閾値との比較結果などから、制御対象車両が旋回中であるか否かを推定する。
【0043】
S124の判定結果が肯定的である場合には、変化速度緩和フラグfl2及び切替許可フラグfl1の双方をオンにして切替判定処理を終了する(S124のYes、S125、及びS126)。一方、S124の判定結果が否定的である場合には、切替許可フラグfl1のみをオンにして切替判定処理を終了する(S124のNo、及びS126)。
【0044】
図3に戻り、切替判定処理(S120)を経て、切替許可フラグfl1がオンであると判断すると(S130のYes)、既に説明した演算ロジックにしたがい、擬似目標転舵角δ
s_
t及び擬似目標操舵反力F
Rs_
tを演算する(S140及びS150)。
【0045】
さらに、擬似目標転舵角δs_tが上限転舵角δlim以下であるかの判定、すなわち擬似目標転舵角δs_tが制御対象車両のハードウェア構成によって実現可能か否かの判定を行う(S160)。
【0046】
上記判定結果が肯定的である場合には、擬似目標転舵角δs_t及び擬似目標操舵反力FRs_tを、そのまま最終目標転舵角δ*_t及び最終目標操舵反力F*
R_tにそれぞれ設定する。そして、最終目標転舵角δ*_t及び最終目標操舵反力F*
R_tに基づいて、転舵アクチュエータ14及び反力アクチュエータ12をそれぞれ操作する(S180)。
【0047】
一方、上記判定結果が否定的である場合には、擬似目標転舵角δs_t及び擬似目標操舵反力FRs_tのそれぞれに対して、上述した制御量補正部55による補正を行い、最終目標転舵角δ*_t及び最終目標操舵反力F*
R_tを求め、各アクチュエータ14,12をそれぞれ操作する(S170及びS180)。
【0048】
また、各アクチュエータ14,12の操作と並行して、最終目標転舵角δ*_tに基づいて演算される予測車両軌道Traを車載表示装置60に表示する。
【0049】
次に、以上説明した操舵特性制御方法を実行した際の制御結果の例について説明する。
【0050】
図5は、切り替え要求(切り替え指令信号S
r2)を検出した際に制御対象車両が停車中(S121のYes)であるシーンにおける制御結果を示す。
【0051】
図5に示すように、停車中に切り替え指令信号S
r2を検出した場合には、制御対象車両の操舵特性Cが速やかに基本操舵特性C
bから擬似操舵特性C
sに切り替わる。このため、後に制御対象車両が走行を開始すると、制御対象車両において模擬対象車両における擬似操舵特性C
sを実現することができ、乗員に対して自ら選択した模擬対象車両のステアリング操作感を体感させることができる。
【0052】
一方、
図6は、切り替え指令信号S
r2を検出した際に制御対象車両が走行中(S121のNo)であるシーンにおける制御結果を示す。
図6に示すように、走行中に切り替え指令信号S
r2を検出した場合には、先ず、切り替え許可条件(S122及びS123)が満たされているかの確認が行われる。そして、切り替え許可条件が満たされると、操舵特性Cが切り替わる。したがって、走行中に操舵特性Cの切り替え要求が生じた場合には、安全性の観点から定まる切り替え許可条件が満たされるタイミングを的確に検知した上で、操舵特性Cの切り替えを実行することができる。
【0053】
以上説明した操舵特性制御方法の構成及び当該構成による作用効果をまとめて説明する。
【0054】
本実施形態では、制御対象車両のステアリング(ステアリングホイール11)に対する操作量に基づき、該操作量に対する制御量の挙動を規定する操舵特性Cを参照してステアリングアクチュエータ(14,12)の制御目標値(δ_t,FR_t)を定める操舵特性制御方法が提供される。
【0055】
この操舵特性制御方法では、制御対象車両とは異なる模擬対象車両の操舵特性Cである擬似操舵特性Csを取得し、制御対象車両の乗員による要求に応じて生成される切り替え指令信号Sr2を検出すると、参照すべき操舵特性Cを制御対象車両に定められた基本操舵特性Cbから擬似操舵特性Csに切り替える。
【0056】
これにより、乗員の希望に応じて、制御対象車両において所定の模擬対象車両の操舵特性Cを模擬することができる。すなわち、制御対象車両において他車両の操舵特性Cを模擬して、乗員に他車両の操舵感覚を体感させるための具体的な制御ロジックを実現することができる。特に、本実施形態の操舵特性制御方法であれば、制御対象車両の乗員(ユーザ)に対して、過去に販売していた車両(車種)や新たに購入を検討している車両(車種)のステアリング操作感を、現実の車両の乗り換えを要することなく、擬似的に体感させることができる。
【0057】
特に、本実施形態において、上記操作量はステアリングホイール11の操舵角θを含み、上記制御量は制御対象車両の転舵輪18における転舵角δを含む。基本操舵特性Cbは、操舵角θに対する制御対象車両の旋回半径r(基本旋回半径rb)の挙動を示す基本旋回半径特性Cb[rb/θ]を含む。また、擬似操舵特性Csは、操舵角θに対する模擬対象車両の旋回半径r(擬似旋回半径rs)の挙動を示す擬似旋回半径特性Cs[rs/θ]を含む。そして、基本旋回半径特性Cb[rb/θ]と擬似旋回半径特性Cs[rs/θ]の差に基づいて目標ステアリングギア比Ks_t(V)を演算し、操舵角θ(特に操舵角検出値θ_d)及び目標ステアリングギア比Ks_t(V)に基づいて、制御目標値(δ_t,FR_t)としての擬似目標転舵角δs_tを演算する。
【0058】
これにより、制御対象車両の旋回挙動を、模擬対象車両におけるステアリング操作量あたりの旋回半径rの特性に合致させるように擬似目標転舵角δs_tを定めることができる。すなわち、制御対象車両において模擬対象車両の旋回挙動を実現するためのより具体的な制御ロジックを提供することができる。
【0059】
さらに、本実施形態では、上記操作量はステアリングホイール11の操舵角θを含み、上記制御量はステアリングホイール11の操舵反力FRを含む。基本操舵特性Cbは、操舵角θに対する制御対象車両の操舵反力FR(基本操舵反力FRb)の挙動を示す基本操舵反力特性Cb[FRb/θ]を含む。また、擬似操舵特性Csは、操舵角θに対する模擬対象車両の操舵反力FR(擬似操舵反力FRs)の挙動を示す擬似操舵反力特性Cs[FRs/θ]を含む。そして、基本操舵反力特性Cb[FRb/θ]と擬似操舵反力特性Cs[FRs/θ]の差に基づいて、制御目標値(δ_t,FR_t)としての擬似目標操舵反力FRs_tを演算する。
【0060】
これにより、制御対象車両の操舵反力挙動を、模擬対象車両におけるタイヤ径及びパワステ補助トルクに応じた操舵反力FRの特性に合致させるように擬似目標操舵反力FRs_tを定めることができる。すなわち、制御対象車両において模擬対象車両の操舵反力挙動を実現するためのより具体的な制御ロジックを提供することができる。
【0061】
さらに、本実施形態では、乗員の操作に基づく模擬対象車両提示指令Sr1を受信すると、模擬対象車両データ記憶部(模擬車両DB53)を参照して複数の模擬対象車両(車両リストLI)を乗員に提示し、乗員が選択した一の模擬対象車両の情報を含む切り替え指令信号Sr2を受信すると、模擬車両DB53を参照して、選択された模擬対象車両に紐づいた擬似操舵特性Csを抽出する。そして、抽出した擬似操舵特性Csに基づいて、制御目標値(δ_t,FR_t)を演算する。
【0062】
これにより、制御対象車両の乗員に対して、操舵特性Cを実現することが可能となる複数の模擬対象車両候補を提示するとともに、その中から乗員が希望に従い選択した一の模擬対象車両における操舵特性C(擬似操舵特性Cs)を制御対象車両上で実現させるためのより具体的な制御ロジックを提供することができる。
【0063】
また、本実施形態では、擬似操舵特性Csを参照して定められる制御目標値としての擬似制御目標値(δs_t,FRs_t)に基づいて、制御対象車両の旋回時における予測車両軌道Traを演算し、演算した予測車両軌道Traを乗員に提示する。
【0064】
これにより、操舵特性Cの切り替えを実行することに伴う制御対象車両の旋回挙動の変化を乗員に認識させることができ、当該変化に対する準備を促して安全性を高めることができる。
【0065】
さらに、本実施形態では、擬似目標転舵角δs_tが制御対象車両のハードウェア構成において実現可能な転舵角範囲を超える場合には、擬似目標転舵角δs_tを該転舵角範囲における上限値(上限転舵角δlim)に置き換える。
【0066】
これにより、車体の大きさの相違などのハードウェア上の理由で制御対象車両において擬似操舵特性Csを完全には実現できない場合であっても、可能な範囲でこれに近い操舵特性Cを発揮させることができる。したがって、例えば、制御対象車両が大型車両であって模擬対象車両が小型車両であるなどの車両ハードウェア上の相違が大きい場合であっても、乗員に対して比較的、現実の模擬対象車両に近いステアリング操作感を体感させることができる。
【0067】
また、本実施形態では、切り替え指令信号Sr2を検出すると、制御対象車両が旋回中であるかを判定し、当該判定の結果が肯定的である場合には、制御目標値(δ_t,FR_t)の切り替えを実行した際の旋回半径rの変化率を所定値以下に制限する。
【0068】
これにより、乗員がステアリングホイール11に対して操作を行っている旋回中において、制御目標値(δ_t,FR_t)が切り替わりによる操舵特性Cの急激な変化を緩和することができ、乗員に与える違和感を軽減して安全性をより高めることができる。
【0069】
さらに、本実施形態では、切り替え指令信号Sr2を検出すると、制御対象車両が走行中であるかを判定する。そして、制御対象車両が走行中である場合には、制御対象車両の走行環境情報(走行路情報Iroad及び周辺状況情報Isurr)を取得し、走行環境情報に基づいて予め定められた切り替え許可条件を満たすかを判定し、切り替え許可条件を満たすと判断すると制御目標値(δ_t,FR_t)の切り替えを実行する。一方、制御対象車両が停車中である場合には、切り替え許可条件の確認を経ずに制御目標値(δ_t,FR_t)の切り替えを実行する。
【0070】
これにより、制御対象車両の操舵特性Cが変化しても乗員に違和感を与えない停車中においては、切り替え指令信号Sr2の検出に応答して速やかに制御目標値(δ_t,FR_t)を切り替えることができ、後の走行時において乗員に切り替え後の操舵特性C(擬似操舵特性Cs)を体感させることができる。一方で、走行中においては切り替え指令信号Sr2を検出すると、切り替え許可条件が満たされる状況を確認した後に制御目標値(δ_t,FR_t)が切り替わることとなる。このため、走行中に操舵特性Cが変化しても支障のない状況(安全な状況)を的確に検知した上で、制御目標値(δ_t,FR_t)を切り替えることができる。
【0071】
さらに、本実施形態では、上記操舵特性制御方法の実行に適した操舵特性制御装置として機能するECU50が提供される。ECU50は、制御対象車両のステアリング(ステアリングホイール11)に対する操作量に基づき、該操作量に対する制御量の挙動を規定する操舵特性Cを参照してステアリングアクチュエータ(12,14)の制御目標値を定める。
【0072】
特に、ECU50は、制御対象車両とは異なる模擬対象車両の操舵特性Cである擬似操舵特性Csを取得する取得部(特性抽出部52)と、制御対象車両の乗員による要求に応じて生成される切り替え指令信号Sr2を検出すると、参照すべき操舵特性Cを制御対象車両に定められた基本操舵特性Cbから擬似操舵特性Csに切り替える切り替え部(切替判定処理部51)と、を有する。
【0073】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0074】
10 操舵特性制御システム
11 ステアリングホイール
12 反力アクチュエータ
14 転舵アクチュエータ
14 各アクチュエータ
16 ステアリングギア
18 転舵輪
50 ECU
60 車載表示装置
100 クラウド