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特開2024-141972リチウムイオン二次電池用負極材料、その製造方法、およびそれを用いたリチウムイオン二次電池用負極
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  • 特開-リチウムイオン二次電池用負極材料、その製造方法、およびそれを用いたリチウムイオン二次電池用負極 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024141972
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用負極材料、その製造方法、およびそれを用いたリチウムイオン二次電池用負極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20241003BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241003BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241003BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20241003BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20241003BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20241003BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/36 C
H01M4/13
H01M4/38 Z
H01M4/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053886
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴雅
(72)【発明者】
【氏名】片山 直樹
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB11
5H050DA03
5H050DA10
5H050DA11
5H050DA18
5H050EA23
5H050FA18
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA17
(57)【要約】
【課題】 負極活物質の粒子の断絶を抑制し、導電パスを維持することにより、充放電を繰り返しても容量が低下しにくいリチウムイオン二次電池を実現することができる負極材料、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 リチウムイオン二次電池用負極材料は、負極活物質と、カルボキシ基含有ポリマーおよび導電助剤を有し該負極活物質の表面を被覆するポリマー層と、を有するポリマー被覆活物質と、イミド系ポリマーおよび導電助剤を有し該ポリマー被覆活物質同士を結着するバインダーと、を有する。当該負極材料の製造方法は、カルボキシ基含有ポリマーおよび導電助剤を有する被覆用ポリマー液に負極活物質を分散させて活物質含有液を調製する工程と、イミド系ポリマーおよび導電助剤を有するバインダー液を調製する工程と、該活物質含有液と該バインダー液とを混合して負極材料液を調製する工程と、を有する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質と、カルボキシ基含有ポリマーおよび導電助剤を有し該負極活物質の表面を被覆するポリマー層と、を有するポリマー被覆活物質と、
イミド系ポリマーおよび導電助剤を有し該ポリマー被覆活物質同士を結着するバインダーと、
を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項2】
前記カルボキシ基含有ポリマーの含有量は、前記負極活物質の質量を100質量%とした場合の1.0質量%以上4.0質量%以下である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項3】
前記カルボキシ基含有ポリマーに対する前記イミド系ポリマーの含有比率は、該カルボキシ基含有ポリマーの質量を1とした場合の2以上9以下である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項4】
体積抵抗率は、0.5Ω・cm以下である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項5】
前記イミド系ポリマーの含有量は、前記負極活物質の質量を100質量%とした場合の7.0質量%以上である請求項4に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項6】
前記負極活物質は、ケイ素を有する請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項7】
前記カルボキシ基含有ポリマーは、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、カルボキシルメチルセルロースから選ばれる一種以上である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項8】
前記イミド系ポリマーは、ポリアミドイミドおよびポリイミドから選ばれる一種以上である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料。
【請求項9】
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法であって、
カルボキシ基含有ポリマーおよび導電助剤を有する被覆用ポリマー液に負極活物質を分散させて活物質含有液を調製する活物質含有液調製工程と、
イミド系ポリマーおよび導電助剤を有するバインダー液を調製するバインダー液調製工程と、
該活物質含有液と該バインダー液とを混合して負極材料液を調製する負極材料液調製工程と、
を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。
【請求項10】
前記活物質含有液調製工程において、前記カルボキシ基含有ポリマーに対する前記導電助剤の配合比率は、該カルボキシ基含有ポリマーの質量を1とした場合の0.3以上1.0以下である請求項9に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。
【請求項11】
前記活物質含有液調製工程において、前記被覆用ポリマー液は、前記導電助剤を分散させるための分散剤を有する請求項9に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。
【請求項12】
前記分散剤は、アクリル酸重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、およびマレイン酸-アクリル酸共重合体から選ばれる一種以上である請求項11に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法。
【請求項13】
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材料を有する負極材料層と、集電体と、を備えるリチウムイオン二次電池用負極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウムイオン二次電池用負極に関し、特に負極材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、比較的高いエネルギー密度を有することから、各種電子機器の電源、電気自動車やハイブリッド自動車の電源などとして広く使用されている。リチウムイオン二次電池を構成する負極は、粉末状の負極活物質とバインダーとを混合し、溶媒を加えてペースト状にした負極材料を、集電体の表面に塗布、乾燥することにより形成される。負極活物質としては炭素材料が知られているが、電池容量をより大きくするという観点から、容量密度が大きいケイ素材料を用いる検討が進められている。
【0003】
ケイ素(Si)やケイ素酸化物(SiO)などのケイ素材料は、充放電時のリチウムイオンの吸蔵、放出に伴い大きく膨張、収縮する。膨張、収縮を繰り返すと、活物質の粒子が崩壊したり、活物質同士の繋がりが断たれたりして導電パスが失われる。結果、リチウムイオンの吸蔵、放出に寄与するケイ素材料が減少し、容量が低下してしまう。このように、ケイ素材料を用いると、繰り返しの充放電による容量の低下が大きく、サイクル寿命が短いという課題がある。
【0004】
リチウム二次イオン電池のサイクル特性を向上させる技術として、例えば、特許文献1には、ケイ素酸化物などの負極活物質の粒子表面を炭素で被覆し、その表面にさらに炭素繊維をポリイミド樹脂などで接着した負極材料が記載されている。特許文献1には、当該負極材料、リチウムイオンを吸蔵、放出する炭素材料、およびバインダーを含む層が、集電体上に形成されている負極が記載されている。特許文献2には、ポリアミドイミドとカルボキシ基含有ポリマーとを混合した結着剤(バインダー)が記載されている。特許文献2には、ケイ素材料からなる負極活物質と、当該混合バインダーと、導電助剤と、を混合した負極合材に有機溶剤を加えたスラリーを、集電体の表面に塗布、乾燥して負極を製造することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2015/083262号
【特許文献2】特開2016-46151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の負極材料においては、負極活物質の粒子表面に接着した炭素繊維により、導電パスを形成している。しかしながら、同文献の段落[0029]、[0032]に記載されているように、炭素繊維は、負極活物質とその周囲に存在する炭素材料との間の導電パスを形成するものに過ぎない。よって、炭素繊維を接着させても、負極活物質の膨張、収縮に伴う粒子の崩壊や、活物質同士の断絶を抑制することは難しい。
【0007】
特許文献2においては、ポリアミドイミドとカルボキシ基含有ポリマーという、異なる樹脂成分を有するバインダーを用いることにより、負極活物質の保持能力を高めている。同文献の段落[0024]、[0034]にも記載されているように、ポリアミドイミドとカルボキシ基含有ポリマーとは、リチウムイオンに対する反応性、強度などの点で特性が異なる。しかしながら、特許文献2によると、予めポリアミドイミドとカルボキシ基含有ポリマーとを混合してバインダーを製造してから、それを負極活物質と混合する(段落[0054]-[0059])。この場合、ポリアミドイミドとカルボキシ基含有ポリマーとが混合された状態で負極活物質の周囲に配置されるため、各々の成分の特性が発揮されにくい。例えば、カルボキシ基含有ポリマーはリチウムイオン伝導性を有するが、ポリアミドイミドはそれを有しない。このため、負極活物質の近傍に存在するカルボキシ基含有ポリマーが少ないと、負極活物質にリチウムイオンが供給されにくくなる。
【0008】
また、負極には、導電性(電子伝導性)を向上させるために、バインダーと共にアセチレンブラックなどの導電助剤が配合されることが多い。本発明者が検討を重ねたところ、導電助剤は、カルボキシ基含有ポリマーに分散しにくいため、導電助剤をポリアミドイミドとカルボキシ基含有ポリマーとの混合物に配合すると、導電助剤はポリアミドイミド側に偏在するおそれがあるという知見を得た。よって、ポリアミドイミドとカルボキシ基含有ポリマーとの混合物であるバインダーと、導電助剤と、負極活物質と、を混合した場合には、仮にカルボキシ基含有ポリマーが負極活物質の近傍に存在したとしても、そこに含まれる導電助剤が少ないため、負極活物質の表面における電子伝導性が低下して、負極活物質におけるリチウムイオンの吸蔵、放出が阻害されるおそれがある。
【0009】
本開示は、このような実状に鑑みてなされたものであり、負極活物質の粒子の崩壊、および負極活物質同士の繋がりの断絶を抑制し、導電パスを維持することにより、充放電を繰り返しても容量が低下しにくいリチウムイオン二次電池を実現することができる負極材料、その製造方法、およびそれを用いたリチウムイオン二次電池用負極を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記課題を解決するため、本開示のリチウムイオン二次電池用負極材料は、負極活物質と、カルボキシ基含有ポリマーおよび導電助剤を有し該負極活物質の表面を被覆するポリマー層と、を有するポリマー被覆活物質と、イミド系ポリマーおよび導電助剤を有し該ポリマー被覆活物質同士を結着するバインダーと、を有することを特徴とする。
【0011】
本開示のリチウムイオン二次電池用負極材料(以下、単に「本開示の負極材料」と称する場合がある。)は、負極活物質の表面がポリマー層で被覆されたポリマー被覆活物質を有する。ポリマー層を構成するカルボキシ基含有ポリマーは、リチウムイオン伝導性を有するため、負極活物質へのリチウムイオンの移動は阻害されにくい。カルボキシ基含有ポリマーは、比較的柔軟で負極活物質に対する密着性が高いため、負極活物質の変形に対する追従性に優れる。さらに、ポリマー層は導電助剤を有する。これにより、負極活物質の表面における電子伝導性が維持され、負極活物質におけるリチウムイオンの吸蔵、放出がスムーズに行われる。
【0012】
ポリマー被覆活物質同士を結着するバインダーは、イミド系ポリマーを有する。イミド系ポリマーは、強度が大きいため、負極活物質(ポリマー被覆活物質)の膨張、収縮による変形を抑制し、活物質の粒子の分離を抑制することができる。これにより、充放電を繰り返しても、導電パスを維持することができる。さらに、バインダーは導電助剤を有する。これにより、バインダーにおける電子伝導性も維持される。
【0013】
本開示の負極材料は、カルボキシ基含有ポリマー、イミド系ポリマーという特性が異なる二種類のポリマーを、その特性が生かせる場所に配置するという技術思想に基づいて開発されている。そして、負極活物質の表面を被覆するポリマー層にも導電助剤を確実に配置することにより、負極活物質の表面の電子伝導性を維持している。本開示の負極材料によると、カルボキシ基含有ポリマー(ポリマー層)によりリチウムイオン伝導性を維持しつつ、強度が大きいイミド系ポリマーにより負極活物質の変形を抑制して電子伝導性を維持することができる。結果、充放電を繰り返しても容量が低下しにくい、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を実現することができる。
【0014】
(2)上記構成において、前記カルボキシ基含有ポリマーの含有量は、前記負極活物質の質量を100質量%とした場合の1.0質量%以上4.0質量%以下である構成としてもよい。本構成によると、負極活物質の表面に適量のポリマー層を形成し、電子伝導性およびリチウムイオン伝導性の付与などの効果を十分に発揮させることができる。
【0015】
(3)上記いずれかの構成において、前記カルボキシ基含有ポリマーに対する前記イミド系ポリマーの含有比率は、該カルボキシ基含有ポリマーの質量を1とした場合の2以上9以下である構成としてもよい。本構成によると、イミド系ポリマーによる負極活物質の変形抑制効果を高めつつ、リチウムイオン二次電池を構成した際に電解液中のリチウムイオンとの不可逆的な反応を低減して、容量の低下を抑制することができる。
【0016】
(4)上記いずれかの構成において、本開示の負極材料の体積抵抗率は、0.5Ω・cm以下である構成としてもよい。本構成によると、所望の電子伝導性を実現することができる。
【0017】
(5)上記(4)の構成において、前記イミド系ポリマーの含有量は、前記負極活物質の質量を100質量%とした場合の7.0質量%以上である構成としてもよい。本構成によると、負極活物質の変形抑制効果が高いため、充放電を繰り返しても初期(充放電を行う前)の高い導電性を維持することができ、容量の低下を抑制することができる。
【0018】
(6)上記いずれかの構成において、前記負極活物質は、ケイ素を有する構成としてもよい。本構成によると、容量が大きなリチウムイオン二次電池を実現することができる。
【0019】
(7)上記いずれかの構成において、前記カルボキシ基含有ポリマーは、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、カルボキシルメチルセルロースから選ばれる一種以上である構成としてもよい。本構成によると、カルボキシ基含有ポリマーが負極活物質を被覆してSEI(Solid Electrolyte Interphase)の役割を果たすことにより、負極活物質と電解液とが直接接触しにくくなり、電解液の分解反応が抑制され、サイクル特性の悪化を抑制することができる。また、負極電位に対して十分な耐還元性を有するため、充放電によるポリマー層の劣化が起こりにくく、サイクル特性の悪化を抑制することができる。
【0020】
(8)上記いずれかの構成において、前記イミド系ポリマーは、ポリアミドイミドおよびポリイミドから選ばれる一種以上である構成としてもよい。本構成のポリマーは、強度が大きいため、負極活物質の膨張、収縮による変形抑制効果が高く、バインダー内の導電パスを維持しやすい。
【0021】
(9)本開示の負極材料の製造方法の一形態である本開示のリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法(以下、単に「本開示の製造方法」と称する場合がある。)は、カルボキシ基含有ポリマーおよび導電助剤を有する被覆用ポリマー液に負極活物質を分散させて活物質含有液を調製する活物質含有液調製工程と、イミド系ポリマーおよび導電助剤を有するバインダー液を調製するバインダー液調製工程と、該活物質含有液と該バインダー液とを混合して負極材料液を調製する負極材料液調製工程と、を有することを特徴とする。
【0022】
本開示の製造方法においては、活物質含有液調製工程において、被覆用ポリマー液に負極活物質を分散させる。こうすることにより、負極活物質の表面がカルボキシ基含有ポリマーおよび導電助剤を有するポリマー層で被覆されたポリマー被覆活物質が生成される。これとは別に、バインダー液調製工程において、イミド系ポリマーおよび導電助剤を有するバインダー液を調製する。そして、負極材料液調製工程において、ポリマー被覆活物質を有する活物質含有液とバインダー液とを混合する。
【0023】
このように、本開示の製造方法においては、カルボキシ基含有ポリマーとイミド系ポリマーとを予め混合せずに使用する。そして、特性が異なる二種類のポリマーを、その特性が生かせる場所に配置することにより、互いの特性を阻害することなく、個々の特性を発揮させることができる。また、活物質含有液とバインダー液との両方に導電助剤を配合することにより、導電助剤のイミド系ポリマーへの偏在を抑制し、負極活物質を被覆するポリマー層にも導電助剤を確実に配置することができる。本開示の製造方法によると、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を実現することができる上記本開示の負極材料を、容易に製造することができる。
【0024】
(10)上記(9)の構成における前記活物質含有液調製工程において、前記カルボキシ基含有ポリマーに対する前記導電助剤の配合比率は、該カルボキシ基含有ポリマーの質量を1とした場合の0.3以上1.0以下である構成としてもよい。本構成によると、ポリマー層に所望の電子伝導性を付与することができると共に、ポリマー層の柔軟性などへの影響が小さく、脆化を抑制することができる。
【0025】
(11)上記(9)または(10)の構成における前記活物質含有液調製工程において、前記被覆用ポリマー液は、前記導電助剤を分散させるための分散剤を有する構成としてもよい。本構成によると、導電助剤の分散性を向上させて、ポリマー層に導電助剤をより均一に含有させることができる。
【0026】
(12)上記(11)の構成において、前記分散剤は、アクリル酸重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、およびマレイン酸-アクリル酸共重合体から選ばれる一種以上である構成としてもよい。本構成のポリカルボン酸は、疎水部を有する。疎水部を有するポリカルボン酸は、疎水性基および親水性基の両方を有するため、電荷による静電的な分散効果に加えて、疎水性、親水性による分散効果が付加される。したがって、本構成のポリカルボン酸を用いると、分散効果を高めることができる。
【0027】
(13)本開示のリチウムイオン二次電池用負極(以下、単に「本開示の負極」と称する場合がある。)は、上記本開示の負極材料を有する負極材料層と、集電体と、を備える。本開示の負極によると、充放電を繰り返しても容量が低下しにくい、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を実現することができる。
【発明の効果】
【0028】
本開示の負極材料においては、ポリマー被覆活物質のポリマー層により、リチウムイオン伝導性および電子伝導性を維持し、バインダーのイミド系ポリマーにより、負極活物質の変形を抑制して導電パスを維持することができる。結果、充放電を繰り返しても容量が低下しにくい、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を実現することができる。本開示の製造方法によると、カルボキシ基含有ポリマーとイミド系ポリマーとを予め混合せずに使用することにより、得られる負極材料において、各々の特性を発揮させることができる。また、ポリマー層を形成する被覆用ポリマー液とバインダー液との両方に導電助剤を配合することにより、導電助剤のイミド系ポリマーへの偏在を抑制し、負極活物質を被覆するポリマー層にも導電助剤を確実に配置することができる。本開示の負極によると、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本開示のリチウムイオン二次電池用負極材料の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本開示のリチウムイオン二次電池用負極材料、その製造方法、およびそれを用いたリチウムイオン二次電池用負極の実施の形態について説明する。なお、実施の形態は以下の形態に限定されるものではなく、当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することができる。
【0031】
<負極材料>
まず、本開示のリチウムイオン二次電池用負極材料の一例を模式図により説明する。図1に、本開示の負極材料の一例の断面模式図を示す。図1に示したように、負極材料1は、ポリマー被覆活物質10と、バインダー20と、を有している。ポリマー被覆活物質10は、負極活物質11と、ポリマー層12と、を有している。ポリマー層12は、カルボキシ基含有ポリマーおよび導電助剤を有し、負極活物質11の表面を被覆している。バインダー20は、イミド系ポリマーおよび導電助剤を有し、ポリマー被覆活物質10同士を結着している。ポリマー被覆活物質10においては、ポリマー層12により、リチウムイオン伝導性および電子伝導性が維持される。ポリマー被覆活物質10は、バインダー20により結着され、リチウムイオンの吸蔵、放出に伴う変形が抑制される。負極材料1によると、充放電を繰り返しても導電パスが維持されるため、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池を実現することができる。
【0032】
[ポリマー被覆活物質]
ポリマー被覆活物質を構成する負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵、放出可能な材料であれば特に限定されず、炭素材料の他、ケイ素(Si)、スズ(Sn)、ゲルマニウム(Ge)、およびこれらの酸化物、窒化物などが挙げられる。ケイ素、スズ、ゲルマニウムなどは、炭素材料と比較して、容量密度は大きいが、リチウムイオンの吸蔵、放出に伴う体積変化も大きい。この点、本開示の負極材料による効果は、リチウムイオンの吸蔵、放出に伴う体積変化が大きい材料の場合に大きく発揮される。よって、負極活物質としては、容量密度が大きいケイ素を有するケイ素材料を採用することが望ましい。ケイ素材料としては、Siの他、SiO(ケイ素酸化物、0.3≦x≦1.6)、SiN(ケイ素窒化物)などが挙げられる。
【0033】
負極活物質がケイ素材料である場合、ケイ素材料の粒子表面における電子伝導性の向上や、粒子の補強などを目的として、粒子表面が炭素で被覆されていることが望ましい。すなわち、負極活物質は、ケイ素材料粒子と、該ケイ素材料粒子の少なくとも一部を覆う炭素層と、から構成されることが望ましい。この場合、炭素層の厚さは、1nm以上100nm以下であると好適である。炭素層が薄すぎると電子伝導性の向上効果および補強効果が得られず、反対に、炭素層が厚すぎると活物質の容量密度が低下してしまう。ケイ素材料粒子を炭素で被覆する方法としては、例えば、炭化水素ガスを用いた化学気相成長法により、粒子表面に炭素皮膜を成長させる方法、炭素を含む化合物で粒子を被覆した後に炭化させる方法などを用いることができる。
【0034】
ポリマー被覆活物質を構成するポリマー層は、負極活物質の表面の全体を被覆していても、一部を被覆していてもよい。ポリマー層は、カルボキシ基含有ポリマーおよび導電助剤を有する。カルボキシ基含有ポリマーとしては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、カルボキシルメチルセルロースなどが挙げられる。これらの一種を単独で、または二種以上組み合わせて用いればよい。なかでも、負極電位に対して十分な耐還元性を有し、60℃程度の高温でも軟化せずに強度を維持することができるという理由から、ポリアクリル酸が好適である。
【0035】
負極活物質の表面に適量のポリマー層を形成し、電子伝導性およびリチウムイオン伝導性の付与などの効果を十分に発揮させるという観点から、カルボキシ基含有ポリマーの含有量は、負極活物質の質量を100質量%とした場合の1.0質量%以上であることが望ましい。1.2質量%以上であるとより好適である。他方、形成されるポリマー層が厚すぎると、バインダーによる補強効果が低下したり、リチウムイオンの移動抵抗が大きくなったり、活物質の容量密度が低下したりするため、カルボキシ基含有ポリマーの含有量は、負極活物質の質量を100質量%とした場合の4.0質量%以下であることが望ましい。3.9質量%以下であるとより好適である。
【0036】
導電助剤としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、気相成長炭素繊維などの炭素材料を用いればよく、これらの一種を単独で、または二種以上組み合わせて用いることができる。導電助剤の含有量は、ポリマー層に電子伝導性を付与できればよく、後述するように、ポリマー層を形成する工程において、被覆用ポリマー液における導電助剤の配合量を調整すればよい。
【0037】
[バインダー]
バインダーは、ポリマー被覆活物質同士を結着し、イミド系ポリマーおよび導電助剤を有する。イミド系ポリマーとしては、ポリアミドイミド、ポリイミドなどが挙げられる。これらの一種を単独で、または二種以上組み合わせて用いればよい。なかでも、強度が高く、かつ比較的柔軟であるという理由から、ポリアミドイミドが好適である。
【0038】
ポリマー被覆活物質同士を結着し、膨張、収縮による変形を抑制するというバインダーとしての効果を十分に発揮させるためには、カルボキシ基含有ポリマーに対するイミド系ポリマーの含有比率を、該カルボキシ基含有ポリマーの質量を1とした場合の2以上にするとよい。他方、リチウムイオン二次電池を構成した際に電解液中のリチウムイオンとの不可逆的な反応を低減して、容量の低下を抑制するという観点においては、カルボキシ基含有ポリマーに対するイミド系ポリマーの含有比率を、該カルボキシ基含有ポリマーの質量を1とした場合の9以下にするとよい。また、負極活物質の変形抑制効果を高るめという観点から、イミド系ポリマーの含有量は、負極活物質の質量を100質量%とした場合の7.0質量%以上であるとよい。
【0039】
導電助剤としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、気相成長炭素繊維などの炭素材料から選ばれる一種以上を用いればよい。導電助剤は、ポリマー層に含有される導電助剤と同じでも異なっていてもよい。導電助剤の含有量は、バインダーに電子伝導性を付与できればよく、後述するように、バインダーを形成するためのバインダー液において、導電助剤の配合量を調整すればよい。
【0040】
[体積抵抗率]
本開示のリチウムイオン二次電池用負極材料の体積抵抗率は、高い電子伝導性を維持するという観点から、0.5Ω・cm以下であることが望ましい。本明細書における体積抵抗率は、電極抵抗測定システム(日置電機(株)製「RM2610」)を用いて測定した値である。
【0041】
<リチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法>
本開示のリチウムイオン二次電池用負極材料の製造方法は、活物質含有液調製工程と、バインダー液調製工程と、負極材料液調製工程と、を有する。以下、各工程について説明する。
【0042】
[活物質含有液調製工程]
本工程は、カルボキシ基含有ポリマーおよび導電助剤を有する被覆用ポリマー液に負極活物質を分散させて活物質含有液を調製する工程である。本工程により、負極活物質の表面がカルボキシ基含有ポリマーおよび導電助剤を有するポリマー層で被覆されたポリマー被覆活物質が生成される。活物質含有液は、所定の溶媒にカルボキシ基含有ポリマー、導電助剤、負極活物質などを加えて調製してもよく、予め調製しておいた被覆用ポリマー液に負極活物質を加えて調製してもよい。前者の場合、負極活物質を除いた液状組成物が被覆用ポリマー液になる。後者の場合、本工程は、カルボキシ基含有ポリマーおよび導電助剤を有する被覆用ポリマー液を調製する被覆用ポリマー液調製工程と、該被覆用ポリマー液に負極活物質を分散させて活物質含有液を調製する分散工程と、を有する。被覆用ポリマー液、活物質含有液に用いられる溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などの有機溶剤を用いればよい。活物質含有液の調製は、室温で行えばよい。
【0043】
形成されるポリマー層に所望の電子伝導性を付与するという観点から、カルボキシ基含有ポリマーに対する導電助剤の配合比率は、カルボキシ基含有ポリマーの質量を1とした場合の0.3以上であることが望ましい。他方、導電助剤の配合量が多すぎると、ポリマー層が脆くなったり、ポリマー層の柔軟性が低下したりする。これにより、充放電を繰り返すことにより導電パスが断たれ、サイクル特性の低下を招くおそれがある。よって、導電助剤の配合比率は、カルボキシ基含有ポリマーの質量を1とした場合の1.0以下であることが望ましい。また、前述したように、負極活物質の表面に適量のポリマー層を形成するという観点から、カルボキシ基含有ポリマーの配合量は、負極活物質100質量部に対して1.0質量部以上であることが望ましい。1.2質量部以上であるとより好適である。他方、形成されるポリマー層が厚すぎると、バインダーによる補強効果が低下したり、リチウムイオンの移動抵抗が大きくなったり、活物質の容量密度が低下したりするため、カルボキシ基含有ポリマーの配合量は、負極活物質100質量部に対して4.0質量部以下であることが望ましい。3.9質量部以下であるとより好適である。
【0044】
導電助剤の分散性を向上させるため、分散剤を用いるとよい。すなわち、被覆用ポリマー液は、導電助剤を分散させるための分散剤を有する構成にするとよい。分散剤としては、アクリル酸重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、およびマレイン酸-アクリル酸共重合体などが挙げられる。
【0045】
[バインダー液調製工程]
本工程は、イミド系ポリマーおよび導電助剤を有するバインダー液を調製する工程である。本工程と、前述した活物質含有液調製工程と、の実施順は、いずれが先でも構わないし、同時でもよい。バインダー液は、所定の溶媒にイミド系ポリマー、導電助剤などを加えて調製すればよい。バインダー液の調製は、室温で行えばよい。バインダー液に用いられる溶媒は、活物質含有液と同じでも異なっていてもよく、NMPなどの有機溶剤を用いればよい。
【0046】
バインダーに所望の電子伝導性を付与するという観点から、イミド系ポリマーに対する導電助剤の配合比率は、イミド系ポリマーの質量を1とした場合の0.3以上であることが望ましい。他方、導電助剤の配合量が多すぎると、バインダーが脆くなったり、バインダーの接着性が低下したりする。これにより、負極活物質の変形抑制効果が低下して、サイクル特性の低下を招くおそれがある。よって、導電助剤の配合比率は、イミド系ポリマーの質量を1とした場合の1.0以下であることが望ましい。
【0047】
[負極材料液調製工程]
本工程は、該活物質含有液と該バインダー液とを混合して負極材料液を調製する工程である。本工程についても、室温で行えばよい。そして、調製された負極材料液から溶媒を除去することにより、負極材料が得られる。溶媒の除去は、負極材料液を加熱するなどして乾燥させればよい。加熱温度は、溶媒の種類に応じて適宜決定すればよい。
【0048】
活物質含有液とバインダー液とを混合する際、バインダーとしての効果を十分に発揮させるためには、カルボキシ基含有ポリマーに対するイミド系ポリマーの配合比率を、該カルボキシ基含有ポリマーの質量を1とした場合の2以上にするとよい。他方、リチウムイオン二次電池を構成した際に電解液中のリチウムイオンとの不可逆的な反応を低減して、容量の低下を抑制するという観点においては、イミド系ポリマーの配合比率を9以下にするとよい。また、負極活物質の変形抑制効果を高めるという観点から、イミド系ポリマーの配合量を、負極活物質の質量を100質量%とした場合の7.0質量%以上にするとよい。
【0049】
<負極>
本開示のリチウムイオン二次電池用負極は、本開示の負極材料を有する負極材料層と、集電体と、を備える。負極材料層は、例えば、前述した本開示の製造方法において調製した負極材料液を、集電体の表面に塗布した後、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成することができる。集電体の材質は、電子伝導性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、銅、ニッケル、ステンレス鋼などが好適である。集電体の形状も特に限定されないが、例えば、厚さが1μm以上100μm以下の箔が好適である。負極材料液の塗布方法としては、ドクターブレード法、ロールコート法、ディッピング法、スプレー法などが挙げられる。乾燥には、温風乾燥機、赤外線加熱機などの乾燥機を用いればよい。なお、集電体の酸化を抑制するために、乾燥は、真空中、または不活性ガス雰囲気中で行うことが望ましい。
【0050】
<リチウムイオン二次電池>
本開示のリチウムイオン二次電池用負極を用いて、リチウムイオン二次電池を構成する場合、負極以外の構成は、公知のリチウムイオン二次電池の構成に従えばよい。すなわち、本開示の負極と、正極と、両極の間に挟装されるセパレータと、電解液と、を密閉ケースに収容してリチウムイオン二次電池を構成すればよい。正極は、正極活物質とバインダーとを混合し、溶媒を加えてペースト状にした正極材料を、集電体の表面に塗布、乾燥することにより形成される。正極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵、放出することができる化合物であればよく、4V級の電池を構成できるという観点から、Co、Niなどを主構成元素とするリチウム遷移金属複合酸化物が好適である。バインダーは、正極活物質同士を結着できればよく、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。正極材料は、さらに導電助剤を有することが望ましく、負極の導電助剤と同様に、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、気相成長炭素繊維などの炭素材料を用いることができる。また、これらの材料を分散させる溶媒としては、NMPなどの有機溶剤を用いればよく、集電体としては、負極の集電体と同様に、金属箔などが好適である。
【0051】
セパレータは、正極と負極とを分離し電解液を保持するものである。セパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの絶縁性の微多孔膜が用いられる。電解液は、有機溶媒に電解質であるリチウム塩を溶解させたものである。有機溶媒としては、非プロトン性有機溶媒であるエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメトキシエタン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。電解質としては、LiClO、LiAsF、LiBF、LiPF、LiCFSO、LiN(CFSOなどのリチウム塩が挙げられる。また、電解液の代わりにポリエチレンオキシドなどの高分子ゲル電解質を用いることもできる。
【実施例0052】
次に、実施例を挙げて本開示をより具体的に説明する。まず、種々の負極材料を製造して、その体積抵抗率を測定した。次に、当該負極材料を用いた負極を備えるリチウムイオン二次電池の容量維持率を測定した。
【0053】
<負極材料の製造>
[負極活物質]
負極活物質として用いる炭素被覆ケイ素酸化物(SiO)粒子を、次のようにして製造した。まず、Si粉末とSiO粉末とを所定の割合で混合して造粒した後、真空下で加熱後冷却することにより、SiO粒子を析出させた。次に、得られたSiO粒子を平均粒子径が5μmになるように粉砕し、ロータリーキルンを用いて、炭化水素ガス雰囲気中、850℃で15分間熱処理した。これにより、表面が炭素で被覆されたSiO粒子を得た。熱処理は、SiO粒子の表面の炭素層の厚さが、30nm程度になるように行った。
【0054】
[イミド系ポリマー]
バインダーを構成するイミド系ポリマーとして、ポリアミドイミド(PAI)を次のようにして製造した。まず、トリジンジイソシアネート(TODI)(日本曹達(株)製「TODI/R203」)と、それと同モルの無水トリメリット酸(三菱ガス化学(株)製「TMA」)と、をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させた。NMP溶液における固形分濃度は20質量%とした。次に、NMP溶液を、窒素気流下、撹拌しながら1時間かけて130℃まで昇温し、そのまま130℃で約5時間反応させて、ポリアミドイミドを得た。
【0055】
[実施例1]
実施例1の負極材料を次のようにして製造した。使用した材料の配合量については、後出の表1に示す。まず、カルボキシ基含有ポリマーのポリアクリル酸(PAA)(富士フイルム和光純薬(株)製「20CLPAH」)および導電助剤のアセチレンブラック(AB)(デンカ(株)製「デンカブラック(登録商標)」)にNMPを加えて撹拌し、被覆用ポリマー液を調製した。次に、被覆用ポリマー液に負極活物質の炭素被覆SiO粒子を加えて撹拌し、活物質含有液を調製した(活物質含有液調製工程)。これとは別に、製造したポリアミドイミドおよび導電助剤のアセチレンブラック(同上)にNMPを加えて撹拌し、バインダー液を調製した(バインダー液調製工程)。そして、活物質含有液とバインダー液と混合し、スラリー状の負極材料液を調製した。負極材料の製造工程における混合、撹拌は、実施例、後述する参考例および比較例のいずれにおいても、(株)シンキー製の自転・公転ミキサー「あわとり練太郎(登録商標)、ARE-310」を用いて行った。
【0056】
集電体として、厚さ10μmの電解銅箔を準備した。負極材料液を、電解銅箔の表面にドクターブレードを用いて塗布した後、80℃で15分間乾燥して、塗膜の厚さが24μmの仮乾燥負極材料層を形成した。それから、仮乾燥負極材料層を真空下、200℃で2時間乾燥して、負極材料層を得た。得られた負極材料層を、実施例1の負極材料と称す。負極材料層は、本開示の負極材料の概念に含まれる。このようにして、集電体の表面に負極材料層が形成された負極を得た。
【0057】
[実施例2~4および参考例1~6]
使用した材料の配合量を変更した点以外は、実施例1と同様にして実施例2~4および参考例1~6の負極材料を製造した。材料の配合量については、後出の表1に示す。なお、参考例3の負極材料については、被覆用ポリマー液を調製する際にアセチレンブラックを使用せず、ポリアクリル酸のみにNMPを加えて撹拌した。
【0058】
材料の配合量について、実施例1の負極材料と実施例2~4の負極材料との主な相違点は次のとおりである。実施例2の負極材料においては、カルボキシ基含有ポリマーに対するイミド系ポリマーの配合比率(PAI/PAA)を大きくした。反対に、実施例3の負極材料においては、同配合比率を小さくした。実施例4の負極材料においては、カルボキシ基含有ポリマーに対する導電助剤の配合比率(PAA:AB)、およびイミド系ポリマーに対する導電助剤の配合比率(PAI:AB)を大きくした。
【0059】
同じく、実施例1の負極材料と参考例1~6の負極材料との主な相違点は次のとおりである。参考例1、2の負極材料においては、負極活物質に対するイミド系ポリマーの配合量を少なくすると共に、カルボキシ基含有ポリマーに対するイミド系ポリマーの配合比率(PAI/PAA)を小さくした。参考例3の負極材料においては、被覆用ポリマー液に導電助剤を配合しなかった。すなわち、カルボキシ基含有ポリマーに対する導電助剤の配合比率(PAA:AB)を1:0とした。参考例4の負極材料においては、負極活物質に対するイミド系ポリマーの配合量を少なくした。参考例5の負極材料においては、カルボキシ基含有ポリマーに対する導電助剤の配合比率(PAA:AB)、およびイミド系ポリマーに対する導電助剤の配合比率(PAI:AB)を小さくした。反対に、参考例6の負極材料においては、カルボキシ基含有ポリマーに対する導電助剤の配合比率(PAA:AB)、およびイミド系ポリマーに対する導電助剤の配合比率(PAI:AB)を大きくした。
【0060】
[比較例1]
比較例1の負極材料を次のようにして製造した。負極活物質の炭素被覆SiO粒子85質量部、導電助剤のアセチレンブラック(同上)5質量部、およびバインダーとしてのポリアクリル酸(同上)10質量部にNMPを加えて撹拌し、スラリー状の負極材料液を調製した。この負極材料液を用いて、前述した実施例1の負極製造方法と同様にして、電解銅箔の表面に負極材料層を形成した。
【0061】
[比較例2]
比較例2の負極材料を次のようにして製造した。負極活物質の炭素被覆SiO粒子85質量部、導電助剤のアセチレンブラック(同上)5質量部、およびバインダーとしてのポリアミドイミド(同上)10質量部にNMPを加えて撹拌し、スラリー状の負極材料液を調製した。この負極材料液を用いて、前述した実施例1の負極製造方法と同様にして、電解銅箔の表面に負極材料層を形成した。
【0062】
[比較例3]
比較例3の負極材料を次のようにして製造した。バインダーとしてのポリアクリル酸(同上)2.5質量部およびポリアミドイミド(同上)7.5質量部を混合して、バインダー混合物を製造した。バインダー混合物10質量部に、負極活物質の炭素被覆SiO粒子85質量部、導電助剤のアセチレンブラック(同上)5質量部、およびNMPを加えて撹拌し、スラリー状の負極材料液を調製した。この負極材料液を用いて、前述した実施例1の負極製造方法と同様にして、電解銅箔の表面に負極材料層を形成した。
【0063】
<リチウムイオン二次電池の製造>
製造した負極を用いたリチウムイオン二次電池の特性を評価するため、次のようにしてハーフセルのコイン型電池を製造した。まず、製造した負極を直径12mmの円形状に打ち抜いて評価極とし、金属リチウム板を直径14mmの円形状に打ち抜いて対極とした。次に、セパレータとして、ガラスフィルターおよび樹脂シートを準備した。樹脂シートは、ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンからなる三層の微多孔膜である。そして、評価極の負極材料層の上に樹脂シート、ガラスフィルターをこの順に重ね、電解液を含浸させた。電解液としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを体積比で1:1に混合した混合溶媒に、LiPFを(1mol/L)の濃度で溶解したものを用いた。それから、ガラスフィルターの上に対極を重ねて電極体とし、それをコイン型電池ケース(宝泉(株)製「CR2032」)に収容し、かしめ機により圧力を加えて密閉型のコイン型電池を製造した。
【0064】
<評価方法>
[体積抵抗率]
集電体の表面に形成した負極材料層の体積抵抗率を、電極抵抗測定システム(日置電機(株)製「RM2610」)を用いて測定した。
【0065】
[容量維持率]
製造したコイン型電池について、30℃下で充放電サイクル試験を行い、所定のサイクル後の容量維持率を算出した。充放電サイクル試験においては、評価極にLiを吸蔵させることを放電と称し、評価極からLiを放出させることを充電と称す。まず、対極に対する評価極の電圧が0.01Vになるまで0.1Cレートで定電流放電を行い、放電が終了してから10分間休止した。次に、対極に対する評価極の電圧が1.5Vになるまで0.1Cレートで定電流充電を行い、充電が終了してから10分間休止した。このときの放電容量を初回放電容量とし、充電容量を初回充電容量とした。なお、「1Cレート」は、定電流充放電の場合に、電池の理論容量を1時間で完全に充電または放電させる電流値である。この充放電を1サイクルとし、100サイクルまで充放電サイクル試験を行った。30、50、100サイクル後の各々の容量維持率を次式(I)により算出した。なお、本試験においては、30サイクル後の容量維持率が80%以上、かつ100サイクル後の容量維持率が70%以上である場合を、サイクル特性良好と評価した。
容量維持率(%)=(所定のサイクル後の充電容量/初回充電容量)×100・・・(I)
【0066】
<評価結果>
表1に、負極材料の製造に用いた材料および配合量、負極材料の体積抵抗率、リチウムイオン二次電池の容量維持率の測定結果をまとめて示す。
【表1】
【0067】
実施例1~4の負極材料は、ポリアクリル酸(カルボキシ基含有ポリマー)、ポリアミドイミド(イミド系ポリマー)と負極活物質との混合を別々に行い、さらに二つのポリマーの各々に導電助剤を加えて製造されている。表1に示すように、30サイクル後の容量維持率を、二つのポリマーの混合物に負極活物質を混合して製造された比較例3の負極材料と比較すると、実施例1~4の負極材料の方が大きくなった。100サイクル後においては、容量維持率の差はより大きくなった。すなわち、実施例1~4の負極材料を用いると、充放電を繰り返してもリチウムイオン二次電池の容量が低下しにくいことが確認された。また、負極材料中の導電助剤量が同じ実施例1~3の負極材料と、比較例3の負極材料と、を比較すると、実施例1~3の負極材料の体積抵抗率は、比較例3のそれよりも小さくなった。すなわち、実施例1~3の負極材料においては、電子伝導性も向上していることが確認された。
【0068】
他方、比較例1の負極材料には、ポリマーとしてポリアクリル酸しか含まれない。このため、導電助剤の分散性が悪く、体積抵抗率は大きくなった。加えて、負極活物質の膨張、収縮を抑制する効果が小さいため、充放電を繰り返すと導電パスが断たれてしまい、容量が大幅に低下した。また、比較例2の負極材料には、ポリマーとしてポリアミドイミドしか含まれない。ポリアミドイミドは、リチウムイオン伝導性に乏しいため、充放電を繰り返すと容量の低下が大きくなった。
【0069】
参考例1、2の負極材料においては、イミド系ポリマーの配合量が少ないため、バインダーにおける導電助剤の配合比率(PAA:AB)が同じ実施例1~3の負極材料と比較して、体積抵抗率は大きくなった。また、充放電を繰り返すと容量が低下した。この理由としては、カルボキシ基含有ポリマーに対するイミド系ポリマーの配合比率(PAI/PAA)が小さいため、イミド系ポリマーによる負極活物質の変形抑制効果が十分に発揮されなかったことが考えられる。また、参考例3の負極材料においては、被覆用ポリマー液に導電助剤を配合しなかったため、ポリマー層には導電助剤が含まれないと推測される。電子伝導性を有しないカルボキシ基含有ポリマーで負極活物質の表面が被覆され、負極活物質表面への電子供給が減少し、充放電反応に寄与できる負極活物質が減少したため、100サイクル後の容量維持率は小さくなった。参考例4の負極材料においては、体積抵抗率は小さいものの、充放電を繰り返すと容量が低下した。この理由としては、負極活物質に対するイミド系ポリマーの配合量が少ないため、イミド系ポリマーによる負極活物質の変形抑制効果が十分に発揮されなかったことが考えられる。参考例5の負極材料は、実施例1の負極材料と比較して、カルボキシ基含有ポリマーに対する導電助剤の配合比率が小さい。このため、負極活物質表面の電子伝導性が十分ではなく、充放電を繰り返すことにより容量が低下したと考えられる。反対に、参考例6の負極材料は、実施例1の負極材料と比較して、カルボキシ基含有ポリマーに対する導電助剤の配合比率が大きい。これにより、ポリマー層が脆くなり、充放電を繰り返すことにより容量が低下したと考えられる。
【符号の説明】
【0070】
1: 負極材料、10:ポリマー被覆活物質、11:負極活物質、12:ポリマー層、20:バインダー。
図1