IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シチズンホールディングス株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ヒゲ玉 図1
  • 特開-ヒゲ玉 図2
  • 特開-ヒゲ玉 図3
  • 特開-ヒゲ玉 図4
  • 特開-ヒゲ玉 図5A
  • 特開-ヒゲ玉 図5B
  • 特開-ヒゲ玉 図6
  • 特開-ヒゲ玉 図7
  • 特開-ヒゲ玉 図8
  • 特開-ヒゲ玉 図9
  • 特開-ヒゲ玉 図10
  • 特開-ヒゲ玉 図11
  • 特開-ヒゲ玉 図12
  • 特開-ヒゲ玉 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142010
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ヒゲ玉
(51)【国際特許分類】
   G04B 17/32 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
G04B17/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023053945
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徳永 大介
(72)【発明者】
【氏名】井上 祥太郎
(72)【発明者】
【氏名】古内 悠介
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 陽介
(72)【発明者】
【氏名】小澤 孝
(57)【要約】
【課題】ヒゲ玉において、ヒゲゼンマイを取り付けた(固定した)後に、ヒゲゼンマイを修正する作業を不要又は修正する作業を低減する。
【解決手段】ヒゲ玉60は、中心部に形成された、天真20が固定される貫通孔63と、外周縁の近傍に、取り付けられるヒゲゼンマイ40の内周端部41aの周方向に沿って形成された、内周端部41aが挿入される溝61と、を備え、溝61を仕切る、中心部を中心軸Cとする半径方向の外側の壁部62が、半径方向の内側の壁部69に向けて変形可能であり、外側の壁部62が変形することにより、溝61に挿入されたヒゲゼンマイ40の内周端部41aを、内側の壁部69と外側の壁部62とで挟んで仮固定する。
【選択図】図5A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心部に形成された、天真が固定される貫通孔と、
外周縁の近傍に、取り付けられるヒゲゼンマイの内周端部の周方向に沿って形成された、前記内周端部が挿入される溝と、を備え、
前記溝を仕切る、前記中心部を中心とする半径方向の外側の壁部が、前記半径方向の内側の壁部に向けて変形可能であり、
前記外側の壁部が変形することにより、前記溝に挿入された前記ヒゲゼンマイの前記内周端部を、前記内側の壁部と前記外側の壁部とで挟んで仮固定する、ヒゲ玉。
【請求項2】
前記貫通孔は、前記天真が嵌め合わされる嵌合部と、前記嵌合部と同軸に配置された、前記嵌合部よりも内径が大きい導入孔と、を備え、
厚さ方向に沿った領域を、前記溝を仕切る前記内側の壁部及び前記外側の壁部が形成された範囲を第1厚さ領域と、前記溝を仕切る底壁部が形成された範囲を第2厚さ領域と、に区分けしたとき、
前記嵌合部は前記第1厚さ領域に形成され、
前記導入孔は前記第2厚さ領域に形成されている、請求項1に記載のヒゲ玉。
【請求項3】
前記嵌合部は、前記導入孔と同じ内径の円周面から前記半径方向の内側に張り出した複数の張り出し部によって形成されている、請求項2に記載のヒゲ玉。
【請求項4】
平面視において、前記嵌合孔の周囲の3箇所に前記半径方向の外側に突出した突出部を有する略三角形状に形成され、
3つの前記突出部のうち1つの突出部に前記溝が形成され、
3つの前記突出部にそれぞれ、前記厚さ方向に貫通した肉抜き孔が形成されている、請求項1又は2に記載のヒゲ玉。
【請求項5】
前記内側の壁部は、前記ヒゲゼンマイの前記内周端部の周方向に沿った輪郭形状で形成されている、請求項1又は2に記載のヒゲ玉。
【請求項6】
前記溝の、前記ヒゲゼンマイが取り付けられた状態での、前記ヒゲゼンマイの内周端縁から遠い側の端部における溝幅が、前記ヒゲゼンマイの内周端縁に近い側の端部における溝幅よりも広くなるように、前記内周端縁から遠い側の端部における前記外側の壁部に,テーパが形成されている、請求項1又は2に記載のヒゲ玉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒゲ玉に関する。
【背景技術】
【0002】
機械式時計におけるテンプは、環状に形成された部分と環状の中心部まで架け渡されたアームとを有する天輪と、天輪の中心に配置される天真と、渦巻き状に形成されたヒゲゼンマイと、ヒゲゼンマイの内周側の一端部を天真に固定するヒゲ玉と、ヒゲゼンマイの外周側の一端部をテンプ受等の動かない部分に固定するヒゲ持と、を備えている。
【0003】
ここで、ヒゲゼンマイをヒゲ玉の側面に溶接することで、ヒゲゼンマイをヒゲ玉に固定したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-167532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ヒゲゼンマイをヒゲ玉の側面に溶接で接合したものは、溶接時の熱変形により、ひげの収縮時に芯ずれを起こし易い。このため、溶接後に、ヒゲゼンマイの形状を修正する必要があり、この修正作業に手間がかかる。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであって、ヒゲゼンマイを取り付けた(固定した)後に、ヒゲゼンマイを修正する作業を不要とし、又はヒゲゼンマイを修正する作業の発生を低減することができるヒゲ玉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、中心部に形成された、天真が固定される貫通孔と、外周縁の近傍に、取り付けられるヒゲゼンマイの内周端部の周方向に沿って形成された、前記内周端部が挿入される溝と、を備え、前記溝を仕切る、前記中心部を中心とする半径方向の外側の壁部が、前記半径方向の内側の壁部に向けて変形可能であり、前記外側の壁部が変形することにより、前記溝に挿入された前記ヒゲゼンマイの前記内周端部を、前記内側の壁部と前記外側の壁部とで挟んで仮固定する、ヒゲ玉である。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るヒゲ玉は、ヒゲゼンマイを取り付けた(固定した)後に、ヒゲゼンマイを修正する作業を不要とし、又はヒゲゼンマイを修正する作業の発生を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】機械式時計の調速装置におけるテンプを示す平面図である。
図2図1におけるA-A線に沿った断面を示す断面図である。
図3図2におけるB部を拡大した部分拡大図である。
図4】ヒゲゼンマイとヒゲ持ちとヒゲ玉とが接合された状態を示す平面図である。
図5A】ヒゲ玉の、ヒゲ持ちの配置に近い上面を上に向けた姿勢での斜視図である。
図5B】ヒゲ玉の、ヒゲ持ちの配置から遠い下面を上に向けた姿勢での斜視図である。
図6】ヒゲ玉の厚さ方向Tに沿って、上面を見た平面図である。
図7図5A及び図6におけるD-D線に沿った断面を示す断面図である。
図8】溝にヒゲゼンマイの内周端部を挿入した状態で仮固定し、その後に、溶接Pによって最終的な固定(本固定)を行った状態を示す模式図である。
図9】実施形態のヒゲ玉の変形例1としてのヒゲ玉の溝の詳細を示す、図8相当の図である。
図10】実施形態のヒゲ玉の変形例2としてのヒゲ玉の溝の詳細を示す、図8相当の図である。
図11】ヒゲ玉を電気鋳造の工程で製造する場合の製造工程(製造方法)の一例の流れを、図5A及び図6におけるD-D線に沿った断面において模式的に示した図(その1)である。
図12】ヒゲ玉を電気鋳造の工程で製造する場合の製造工程(製造方法)の一例の流れを、図5A及び図6におけるD-D線に沿った断面において模式的に示した図(その2)である。
図13】ヒゲ玉を電気鋳造の工程で製造する場合の製造工程(製造方法)の一例の流れを、図5A及び図6におけるD-D線に沿った断面において模式的に示した図(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係るヒゲ玉の実施形態は、図面を用いて、以下のように説明される。図1は、機械式時計の調速装置におけるテンプ100を示す平面図、図2図1におけるA-A線に沿った断面を示す断面図、図3図2におけるB部を拡大した部分拡大図、図4はヒゲゼンマイ40とヒゲ持ち50とヒゲ玉60とが接合された状態を示す平面図である。図示のテンプ100におけるヒゲ玉60は、本発明に係るヒゲ玉の一実施形態である。
【0011】
<テンプの構成>
図示のテンプ100は、天輪10と、天真20と、振り座30と、ヒゲゼンマイ40と、ヒゲ持ち50と、ヒゲ玉60と、を備えている。
【0012】
天輪10は環状に形成されている。天輪10は、環状の部分と環状の中心部とを架け渡す複数のアーム15を有している。天真20は、天輪10の中心部のアーム15及び振り座30に圧入されて、天輪10及び振り座30と一体に、天輪10の中心軸C回りに回転可能となっている。
【0013】
ヒゲゼンマイ40は、図4に示すように、アルキメデス曲線(アルキメデスの螺旋)で渦巻き状に巻かれた輪郭形状を有している。ヒゲゼンマイ40の渦巻きの内周側の端部(内周端部)41aは、後述するヒゲ玉60に接合して取り付けられている(固定されている)。ヒゲゼンマイ40の渦巻きの外周側の端部(外周端部)42は、後述するヒゲ持ち50に接合されている。ヒゲ持ち50は、図2に示すようにヒゲゼンマイ40の渦巻きの面に対して上方に偏った位置において、例えばテンプ受等の動かない部分に固定されている。
【0014】
ヒゲ玉60に接合されているヒゲゼンマイ40の内周端部41aは、内周端縁41の近傍の部分を意味するが、内周端部41aには内周端縁41を含んでもよい。つまり内周端部41aは、内周端縁41のみを示すという狭い意味ではなく、内周端縁41の近傍の部分まで含める意味であり、したがって、内周端部41aは、内周端縁41を含んでもよいし、内周端縁41を含まなくてもよい。本実施形態のヒゲ玉60においては、図4に示す通り、内周端部41aは内周端縁41を含まない。本実施形態のヒゲ玉60においては、外周端部42は、内周端部41aと同様に、外周端縁を含んでもよいし、外周端縁を含まなくてもよい。本実施形態のヒゲ玉60においては、外周端部42は外周端縁を含む。
【0015】
<ヒゲ玉の構成>
図5A,5Bはヒゲ玉60を示す斜視図であり、図5Aは、ヒゲ持ち50の配置に近い上面60aを上に向けた姿勢での斜視図であり、図5Bは、ヒゲ持ち50の配置から遠い下面60bを上に向けた姿勢での斜視図である。なお、図5A,5Bにおいて、上面60aと下面60bとにそれぞれ直交する方向がヒゲ玉60の厚さ方向Tである。
【0016】
図6はヒゲ玉60の厚さ方向Tに沿って上面60aを見た平面図であり、図7図5A及び図6におけるD-D線に沿った断面を示す断面図、図8は溝61にヒゲゼンマイ40の内周端部41aを挿入した状態で仮固定し、その後に、溶接Pによって最終的な固定(本固定)を行った状態を示す模式図である。
【0017】
ヒゲ玉60は、例えば、ニッケルで形成されている。なお、ヒゲ玉60は、ニッケルに限定されるものではなく、後述する溝61の外側の壁部62が内側の壁部69に向けて変形可能な材料であれば、ニッケル以外の材料で形成されてもよい。
【0018】
なお、ヒゲ玉60は、後述する、新規な工程を含むLIGA(Lithographie,Galvanoformung,Abformung)工法によって製造されるものであることが好ましいため、このLIGA工法で製造可能な材料であることが好ましい。
【0019】
LIGA工法は、導電性の基板上にレジストを形成し、そのレジストに、可溶部と不溶部のパターンを形成することで、パターンに対応した電鋳型を製造し、この電鋳型を用いた電気メッキにより製品(電鋳品)を製造する製造方法であり、微細で高精度な製品を製造することができる点で、時計の部品を製造するのに適している。
【0020】
ヒゲ玉60は、平面視において、中心軸Cを含む中心部に貫通孔63が形成されている。貫通孔63は、内側に天真20が固定される孔である。貫通孔63は、図5A,5Bに示すように、導入孔63bと嵌合部63aとが、中心軸Cを共通にした同軸に、厚さ方向Tに沿って隣接して設けられている。
【0021】
導入孔63bは、図3に示すように、天真20の外径よりも大きい内径で形成され、貫通孔63に天真20を挿入する際に、天真20が嵌合部63aよりも先に挿入される配置となっている。一方、嵌合部63aは、導入孔63bから挿入された天真20が通されて、天真20を嵌め合わせ、天真20をヒゲ玉60に固定する。
【0022】
嵌合部63aは、図5A,5Bに示すように、導入孔63bと同じ内径の円周面から半径方向の内側に張り出した複数の張り出し部64によって形成されている。本実施例における張り出し部64は、中心軸C回りの周方向に沿って、略等角度間隔で7個、形成されている。なお、嵌合部63aを、円周面から半径方向の内側に張り出した複数の張り出し部64によって形成する場合、張り出し部64の数は、3つ以上であればよく、7つに限定されない。
【0023】
嵌合部63aは、上述した複数の張り出し部64によって形成されたものに限定されず、単に、内径が天真20の外径よりも小さく、周方向において導入孔63bよりも均一に半径方向の内側に張り出した孔として形成されてもよい。ただし、嵌合部63aを、複数の張り出し部64によって形成したものは、内径の小さい孔で形成したものに比べて、ヒゲ玉60の重さを低減することができ、ヒゲ玉60の中心軸C回りの慣性モーメントを小さくすることができる。
【0024】
嵌合部63aは、図6に示すように、7つの張り出し部64の、半径方向の内側に張り出した先端の面64aを滑らかに結んだ仮想線Ceが、中心軸Cからの半径で描かれる円となり、この仮想線Ceによる円の内径が、天真20の外径よりも小さく形成されている。これにより、天真20は嵌合部63aの先端の面64aに嵌め合わされてヒゲ玉60に固定される。
【0025】
なお、導入孔63bと嵌合部63aとは、厚さ方向Tに沿って隣接して設けられているが、図7に示すように、導入孔63bは、ヒゲ玉60の厚さ方向Tに沿った、溝61を仕切る底壁68が形成された第2厚さ領域60dに形成され、導入孔63bよりも半径方向の内側に張り出した嵌合部63aは、ヒゲゼンマイ40が固定される溝61を仕切る内側の壁部69及び外側の壁部62が形成された第1厚さ領域60cに形成されている。
【0026】
ヒゲ玉60は、図5A,5Bに示すように、貫通孔63の周囲の3箇所に、中心軸Cからの半径方向の外側に突出した3つの突出部60A,60B,60Cを有し、これら3つの突出部60A,60B,60Cにより、平面視で略三角形状に形成されている。
【0027】
3つの突出部60A,60B,60Cにはそれぞれ、厚さ方向Tに貫通した肉抜き孔65,66,67が形成されている。肉抜き孔65,66,67は、ヒゲ玉60の重さを低減して、ヒゲ玉60の中心軸C回りの慣性モーメントを低下させるとともに、ヒゲ玉60にヒゲゼンマイ40が固定された状態での中心軸C回りの回転のバランスを調整する機能を発揮することができる。
【0028】
ヒゲ玉60の1つの突出部60Cには、貫通孔63よりも半径方向の外側で、突出部60Cの外周縁の近傍に、溝61が形成されている。この溝61は、ヒゲ玉60に取り付けられるヒゲゼンマイ40の内周端部41a(図4参照)が挿入される。内周端部41aの意義は前述した通りであり、本実施形態においては、溝61に、ヒゲゼンマイ40の内周端縁41は挿入されていないが、溝61にヒゲゼンマイ40の内周端縁41まで挿入されてもよい。
【0029】
溝61は、図7に示すように、中心軸Cからの半径方向の外側の壁部62と半径方向の内側の壁部69と厚さ方向Tの下側の底壁68とによって仕切られて形成されている。内側の壁部69は、ヒゲゼンマイ40の内周端部41aの周方向に沿った輪郭形状で形成されている。ヒゲゼンマイ40は、前述したようにアルキメデス曲線の輪郭形状で形成されているため、内側の壁部69は、アルキメデス曲線の輪郭形状で形成されている。
【0030】
溝61の外側の壁部62は、内側の壁部69に向けて変形可能に形成されている。外側の壁部62と内側の壁部69との間隔で規定される溝61の幅は、ヒゲゼンマイ40の厚さに比べてわずかに大きく(溝幅に対して例えば3~5[μm]大きく)形成されている。
【0031】
なお、溝61を仕切る内側の壁部69及び外側の壁部62は、図7に示すように、ヒゲ玉60の厚さ方向Tにおけるヒゲ玉60の上面60a側である第1厚さ領域60cに形成されている。一方、溝61を仕切る底壁68は、ヒゲ玉60の厚さ方向Tにおけるヒゲ玉60の下面60b側であるが第2厚さ領域60dに形成されている。
【0032】
つまり、ヒゲ玉60は、溝61と嵌合部63aとが厚さ方向Tにおける同じ厚さ領域(第1厚さ領域60c)に形成され、底壁68と導入孔63bとが厚さ方向Tにおける同じ厚さ領域(第2厚さ領域60d)に形成されている。
【0033】
そして、溝61にヒゲゼンマイ40の内周端部41aが挿入された状態で、図8に示すように、外側の壁部62が内側の壁部69に向けて押圧して塑性変形されることで、ヒゲゼンマイ40の内周端部41aを、内側の壁部69と外側の壁部62とで挟んで、ヒゲゼンマイ40がヒゲ玉60に対して一定の強度で動かないように固定する(仮固定する)ことができる。
【0034】
仮固定された状態のヒゲゼンマイ40の内周端部41aは、内側の壁部69に沿うため、ヒゲゼンマイ40の内周端部41aを、アルキメデス曲線の形状に維持する。
【0035】
ヒゲ玉60は、図8に示すように、溝61にヒゲゼンマイ40の内周端部41aを仮固定した状態で、ヒゲゼンマイ40と外側の壁部62及び内側の壁部69とを溶接Pによって接合することで、ヒゲゼンマイ40をヒゲ玉60に最終的な固定(本固定)を行うことができる。
【0036】
本実施形態のヒゲ玉60は、ヒゲゼンマイ40を仮固定して動かない状態としているが、ヒゲゼンマイ40を仮固定しない従来のヒゲ玉は、ヒゲゼンマイ40をヒゲ玉に溶接Pによって接合する際に、溶接の熱の影響によって、ヒゲゼンマイ40を固定する位置がずれたり、ヒゲゼンマイ40を固定した姿勢がずれたりし易く、固定した位置や姿勢のずれによる歩度の影響を抑制するために、固定後のヒゲゼンマイの形状等を修正する作業が必須であった。
【0037】
これに対して、本実施形態のヒゲ玉60は、ヒゲゼンマイ40を仮固定した状態で溶接Pによって接合することができるため、溶接の熱によるヒゲゼンマイ40の固定位置のずれや固定姿勢のずれを防止することができる。したがって、ヒゲ玉60は、ヒゲゼンマイ40と接合された組立体の状態で、ヒゲゼンマイ40の内周端部41aを、アルキメデス曲線の形状に維持することができる。
【0038】
したがって、本実施形態のヒゲゼンマイ40は、ヒゲゼンマイ40を固定した後の修正作業が不要となり、ヒゲ玉60とヒゲゼンマイ40とからなる組立体の製造コストを低減し、本実施形態におけるテンプ100を備えた時計の製造コストも低減させることができる。
【0039】
また、本実施形態のヒゲ玉60は、嵌合部63aと溝61とが、ヒゲ玉60の厚さ方向Tにおける同じ厚さ領域(第1厚さ領域60c)に形成されているため、嵌合部63aで固定された天真20と溝61で固定されたヒゲゼンマイ40とを、厚さ方向Tにおける同一の平面状に配置することができる。
【0040】
これにより、ヒゲ玉60は、ヒゲゼンマイ40の揺動中心をヒゲゼンマイ40の面内で天真20に固定することができ、ヒゲゼンマイ40の揺動中心をヒゲゼンマイ40の面外(ヒゲゼンマイ40の面から厚さ方向Tに外れた位置)で天真20に固定したものに比べて、ヒゲゼンマイ40の揺動を安定させることができる。
【0041】
<変形例1>
図9は、上述した実施形態のヒゲ玉60の変形例1としてのヒゲ玉160の溝61の詳細を示す、図8相当の図である。図示のヒゲ玉160は、ヒゲ玉60に対して、溝61の、ヒゲ玉160にヒゲゼンマイ40が取り付けられた状態におけるヒゲゼンマイ40の内周端縁41(図4参照)から遠い側の端部61bにおける溝幅w2が、ヒゲゼンマイ40の内周端縁41に近い側の端部61cにおける溝幅w1よりも広くなる(w1<w2)ように、端部61bにおける外側の壁部62にテーパ62bが形成されている点が異なる以外は、ヒゲ玉60と同じである。
【0042】
このように構成された変形例1のヒゲ玉160は、ヒゲ玉60と同様の作用、効果を発揮する。加えて、ヒゲ玉160は、ヒゲゼンマイ40の内周端縁41を、一方の端部61bから溝61に挿入する際に、相対的に狭い溝幅w1の他方の端部61cから挿入する場合に比べて、挿入し易くすることができる。
【0043】
<変形例2>
図10は、上述した実施形態のヒゲ玉60の変形例2としてのヒゲ玉260の溝61の詳細を示す、図8相当の図である。図示のヒゲ玉260は、ヒゲ玉60に対して、溝61の、一方の端部61bから途中の位置までの範囲は、溝幅が、ヒゲゼンマイ40の厚さt1よりもわずかに広い溝幅w1(>t1)であるが、その途中の位置から他方の端部61cに向かう範囲は、溝幅が、ヒゲゼンマイ40の厚さt1よりも狭い溝幅w3(<t1)で形成されている点が異なる以外は、ヒゲ玉60と同じである。
【0044】
このように構成された変形例2のヒゲ玉260は、ヒゲ玉60と同様の作用、効果を発揮する。また、ヒゲゼンマイ40の内周端縁41を、一方の端部61bから溝61に挿入すると、ヒゲゼンマイ40は内周端縁41が途中の位置に達するまでは、ヒゲゼンマイ40は溝61に挿入されるが、内周端縁41が溝幅w3の位置まで達すると、内周端縁41は、外側の壁部62の壁面62aと内側の壁部69の壁面69aとに挟まれて突き当たり、それ以上先にまで挿入されない。
【0045】
つまり、ヒゲ玉260は、溝幅w3によって、溝61に対するヒゲゼンマイ40の挿入位置を一定に設定することができる。すなわち、従来のヒゲ玉は、ヒゲゼンマイ40の内周端縁41を溝61の他方の端部61cから突出させて、端部61cから突出したヒゲゼンマイ40長さを、治具等を用いて設定することにより、ヒゲ玉に対するヒゲゼンマイ40の挿入位置を一定にするように管理する必要がある。
【0046】
これに対して、変形例2のヒゲ玉260は、溝61の溝幅w3によって、溝61に挿入されるヒゲゼンマイ40の挿入長さを一定にすることができるため、治具等を用いた管理を行う必要がない。
【0047】
<ヒゲ玉の製造方法>
次に、上述した実施形態及び変形例のヒゲ玉60の好ましい製造方法の一例を説明する。図11,12,13は、ヒゲ玉260の製造工程(製造方法)の一例の流れを、図5A及び図6におけるD-D線に沿った断面において模式的に示した図である。この一例の製造方法は、新規な工程を含むLIGA工法である。なお、本発明に係るヒゲ玉は、この新規な工程を含むLIGA工法によって製造されたものに限定されない。
【0048】
(第1塗布工程)
図11の上段に示すように、導電性の基板200上に、第1レジスト110を塗布する。その後、加熱して第1レジスト110内の溶媒を除去する。
【0049】
基板200は、導電性の金属で形成されてもよいし、又は、半導体であるシリコン等の基板本体や非導電性の樹脂などの基板本体に導電性の膜を形成することで、導電性を発揮するものでもよい。
【0050】
第1レジスト110は、厚さ方向Tの1層目である第1型層E1を形成する。第1型層E1は、ヒゲ玉60の、厚さ方向Tにおける第1厚さ領域60c(図7参照)を形成する型(電鋳型)となる。第1レジスト110は、例えば、化学増幅型のエポキシ系ネガ型フォトレジストで形成されている。
【0051】
なお、第1レジスト110は、UV光(紫外線)が照射された部分が溶けない不溶部、照射されなかった部分が溶ける可溶部に構成されるネガ型レジストに限定されず、UV光が照射された部分が可溶部、照射されなかった部分が不溶部に構成されるポジ型レジスト(例えば、ポリメチルメタクリレート系ポジ型フォトレジスト等)であってもよい。この点は、後述する第2レジスト120についても同様である。
【0052】
(第1露光工程)
次いで、図11の中段に示すように、開口部131と遮蔽部132とが形成されたフォトマスク130を介して、図の矢印で示すように、第1レジスト110にUV光Lを照射(露光)する。開口部131と遮蔽部132とは、製造しようとする電鋳品300(図13の中段におけるヒゲ玉60)の第1厚さ領域60cの輪郭形状に応じたパターンで形成されている。ただし、肉抜き孔67とヒゲ玉60の外形輪郭形状を形成するための外側の型枠部分については、ヒゲ玉60の厚さ方向Tの全長に亘る形状に形成するため、第1レジスト110を露光する第1露光工程では露光せずに、後の第2露光工程において、第2レジスト120と同時に露光する。
【0053】
第1レジスト110には、開口部131を通じてUV光Lが照射された領域である第1露光領域111と、遮蔽部132によりUV光Lが照射されなかった領域である第1未露光領域112とが形成される。
【0054】
(庇部配置工程)
次に、図11の下段に示すように、第1レジスト110の上面110aの一部に庇部140を配置する。この庇部140を配置する工程は、従来のLIGA工法にはない新規な工程である。
【0055】
庇部140は、UV光の透過を防止する機能を有する層、又はUV光の透過を防止する機能と反射を防止する機能を有する層である。庇部140を配置する上面110aの一部は、具体的には、第1レジスト110の第1未露光領域112のうち、後述する第2レジスト120の第2露光領域121が形成される範囲である。
【0056】
第1レジスト110の上には、後に、図12の上段に示すように第2レジスト120が塗布されて、第2レジスト120に対して、図12の中段に示すようにUV光Lの照射(露光)が行われる。庇部140の透過防止機能が、この第2レジスト120に照射されたUV光が第1未露光領域112を露光するのを防止する。
【0057】
さらに、その庇部140でUV光Lが反射すると、第2レジスト120における未露光領域(第2未露光領域122)が反射したUV光Lによって露光されるが、庇部140の反射防止機能が、UV光Lが反射するのを防止して、第2未露光領域122が露光するのを防止する。
【0058】
庇部140のUV光Lの透過を防止する機能は、例えばスパッタリングにより銅(Cu)等の金属で形成される。庇部140は、後に電鋳型から電鋳品(ヒゲ玉60)を分離する際に溶解される。したがって、庇部140は、電鋳品を構成する金属材料(例えば、ニッケル)とは異なる金属材料で形成されていればよく、銅に限定されない。
【0059】
庇部140のUV光Lの反射を防止する機能は、例えば、庇部140の表面に微細な凹凸を形成する表面処理や、反射防止コーティングなどを施すことにより実現することができるが、例えば、透過を防止する機能を有する透過防止層141と、その上に、反射を防止する機能を有する反射防止層142を形成した2層構造で構成してもよい。
【0060】
この場合、反射防止層142は、例えば、有機系ARC(Anti-Reflection Coating)材料や、無機系ARC材料、又は微小突起配列フィルムなどの材料を用いればよい。反射防止層142は、スパッタリング法、CVD法、真空蒸着法、スピンコーティング等により形成することができる。
【0061】
なお、図11の下段に示した庇部140は、第1レジスト110の第1未露光領域112のうち第2レジスト120の第2露光領域121が形成される範囲だけでなく、第1レジスト110の第1未露光領域112に隣接する第1露光領域111の一部まで延びて形成されている。このように、庇部140が、第1未露光領域112に隣接する第1露光領域111の一部まで延びて形成されている理由は、以下の通りである。
【0062】
すなわち、庇部140が、第1未露光領域112のうち第2レジスト120の第2露光領域121が形成される範囲のみに形成されている場合、庇部140の、第1未露光領域112に隣接する第1露光領域111の側の端縁で回折したUV光Lが第1未露光領域112に進行して第1未露光領域112を露光する可能性がある。そこで、回折したUV光Lによって第1未露光領域112が露光するのを防止するために、庇部140は、第1未露光領域112に隣接する第1露光領域111の一部まで延びて形成されていることが好ましい。
【0063】
ただし、庇部140は、少なくとも、第1レジスト110の第1未露光領域112のうち第2レジスト120の第2露光領域121が形成される範囲に形成されていればよく、第1レジスト110の第1未露光領域112に隣接する第1露光領域111の一部まで延びて形成されていなくてもよい。
【0064】
(第2塗布工程)
次に、図12の上段に示すように、庇部140の上を含めて第1レジスト110の上に、第2レジスト120を塗布する。
【0065】
第2レジスト120は、厚さ方向Tの2層目である第2型層E2を形成する。第2型層E2は、ヒゲ玉60の、厚さ方向Tにおける第2厚さ領域60d(図7参照)を形成する型(電鋳型)となる。第2レジスト120は、例えば、化学増幅型のエポキシ系ネガ型フォトレジストで形成されている。
【0066】
なお、第2レジスト120も、ネガ型に限定されず、例えば、ポリメチルメタクリレート系ポジ型フォトレジスト等であってもよい。ただし、第1レジスト110がネガ型のときは第2レジスト120もネガ型とし、第1レジスト110がポジ型であるときは第2レジスト120もポジ型として、第1レジスト110と第2レジスト120とは互いに同じ材料であることが、工程の簡略化の観点で好ましい。
【0067】
(第2露光工程)
次いで、図12の中段に示すように、開口部151と遮蔽部152とが形成されたフォトマスク150を介して、図の矢印で示すように、第2レジスト120にUV光Lを照射(露光)する。開口部151と遮蔽部152とは、製造しようとする電鋳品300(図13の中段におけるヒゲ玉60)の第2厚さ領域60dの輪郭形状に応じたパターンで形成されている。開口部151のうち最外周の部分は、ヒゲ玉60の外形輪郭形状を形成するための外側の型枠部分に相当する第2露光領域121を形成する。
【0068】
第2レジスト120は、開口部151を通じてUV光Lが照射された領域である第2露光領域121と、遮蔽部152によりUV光Lが照射されなかった領域である第2未露光領域122とが形成される。
【0069】
なお、開口部151を通じて照射されたUV光Lは、第2露光領域121を通じて、第1レジスト110の第1未露光領域112のうち第2露光領域121の真下の領域も露光するため、第1レジスト110の第1未露光領域112のうちそのように露光された領域は、第1露光領域111となる。
【0070】
このように第2露光領域121を通じて第2露光領域121と同時に露光して形成された第1露光領域111は、例えば、肉抜き孔67の型部分やヒゲ玉60の外形輪郭形状を形成するための外側の型枠部分に対応する。そして、このように第1露光領域111と第2露光領域121とが同時に形成された型部分は、第1露光領域111と第2露光領域121との境界に継ぎ目となる境界線が形成されないため、外観品質を向上させることができる。
【0071】
第2露光工程において、第1露光領域111よりも幅方向に突出する第2露光領域121を形成する場合、すなわち、第1未露光領域112上に第2露光領域121が配置される形状の電鋳型においては、第2露光領域121を通過したUV光Lが、下層の第1未露光領域112に向かう。
【0072】
第2露光領域121の下層に形成された第1未露光領域112との境界には、庇部140が形成されているため、第2露光領域121を通過したUV光Lは、庇部140を透過しないため、第1未露光領域112を露光することがない。したがって、この工法は、第1未露光領域112の輪郭形状を精度よく形成することができる。
【0073】
また、庇部140は、庇部140を反射しないため、第2露光領域121を通過したUV光Lが、庇部で反射して第2未露光領域122を露光することもない。したがって、この工法は、第2未露光領域122の輪郭形状を精度良く形成することができる。
【0074】
(現像工程)
次に、図12の下段に示すように、現像処理により、第1レジスト110の第1未露光領域112と第2レジスト120の第2未露光領域122が除去される。これにより、第1露光領域111及び第2露光領域121と、第1未露光領域112に対応した空洞(図12において括弧付きの符号(112)で示す)及び第2未露光領域122に対応した空洞(図12において括弧付きの符号(122)で示す)とで形成される電鋳型180が形成される。
【0075】
電鋳型180は、第1露光領域111と第1未露光領域112に対応した空洞(112)とで第1型層E1を形成し、第2露光領域121と第2未露光領域122に対応した空洞(122)とで第2型層E2を形成するため、厚さ方向Tに沿った位置において、第1型層E1と第2型層E2とで互いに異なる輪郭形状を有する。
【0076】
なお、現像処理によって第1未露光領域112及び第2未露光領域122が除去すると同時に、又はその後に、庇部140の一部(透過防止層141)又は全部を除去してもよい。
【0077】
(メッキ工程)
次いで、図13の上段に示すように、電鋳型180を用いて、基板200との間で、ニッケルを用いた電気メッキを行う。電鋳品300を形成する電気メッキの材料はニッケルに限定されるものではなく、金、銅、錫、コバルトなど、電気メッキが可能の材料であればよい。
【0078】
この電気メッキの工程により、第1未露光領域112に対応した空洞(112)及び第2未露光領域122に対応した空洞(122)に、基板200の側から電気メッキの材料が成長して、電鋳品300が形成される。なお、第1型層E1に対応したメッキ工程と第2型層E2に対応したメッキ工程とを分けずに、連続した1つの工程として実施する。
【0079】
(電鋳品抽出工程)
電気メッキが、図13の上段に示すように、第2型層E2の上面まで成長した後、第2レジスト120の上面120aを、第2型層E2の上面と共に、平坦に研削及び研磨する。その後、第1型層を構成する第1露光領域111及び第2型層E2を構成する第2露光領域121を除去し、さらに基板200も除去することにより、図13の下段に示すように、ヒゲ玉60として形成された電鋳品300が抽出される。
【0080】
このように、新規な工程を含むLIGA工法により製造されたヒゲ玉60は、第1型層E1に対応した第1厚さ領域60cと第2型層E2に対応した第2厚さ領域60dとを分けずに連続して形成されたものとなる。
【0081】
したがって、ヒゲ玉60は、第1厚さ領域60cと第2厚さ領域60dとの境界での強度が、第1厚さ領域60cと第2厚さ領域60dとを分けて不連続に形成されたものにおける第1厚さ領域60cと第2厚さ領域60dとの境界での強度よりも強い。
【0082】
この結果、溝61にヒゲゼンマイ40を仮固定するために、外側の壁部62を内側の壁部69に向けて押圧して変形させても、第1厚さ領域60cと第2厚さ領域60dとの境界で、外側の壁部62が折損等するのを防ぐことができる。
【0083】
また、このように、LIGA工法により製造されたヒゲ玉60は、微小な部品であるため、機械加工によって成形することが難しい肉抜き孔65,66,67等を高精度に形成することができる。
【符号の説明】
【0084】
20 天真
40 ヒゲゼンマイ
41a 内周端部
60 ヒゲ玉
61 溝
62 外側の壁部
63 貫通孔
69 内側の壁部
C 中心軸
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13