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特開2024-142049スイング解析装置、方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142049
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】スイング解析装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A63B 69/36 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
A63B69/36 541P
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054014
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 弘祐
(72)【発明者】
【氏名】植田 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】辻内 伸好
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 彰人
(57)【要約】
【課題】 ゴルフスイングの特徴量の第1時系列データの波形の特定箇所を主に変更した第2時系列データを生成することが可能なスイング解析装置を提供する。
【解決手段】 スイング解析装置2である。このスイング解析装置2は、プレーヤーPのゴルフスイングの特徴量の第1時系列データを取得する取得部と、第1時系列データの波形を、予め定められた複数の周波数帯の時系列データのセットに分解する分解部と、セットに含まれる少なくとも一つの時系列データの少なくとも一部を変更して修正済セットを作成する変更部と、修正済セットに含まれる複数の周波数帯の時系列データを合成し、特徴量に関する第2時系列データを生成する合成部とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルフスイングを解析するための装置であって、
プレーヤーのゴルフスイングの特徴量の第1時系列データを取得する取得部と、
前記第1時系列データの波形を、予め定められた複数の周波数帯の時系列データのセットに分解する分解部と、
前記セットに含まれる少なくとも一つの前記時系列データの少なくとも一部を変更して修正済セットを作成する変更部と、
前記修正済セットに含まれる前記複数の周波数帯の時系列データを合成し、前記特徴量に関する第2時系列データを生成する合成部とを含む、
スイング解析装置。
【請求項2】
前記特徴量は、トルク、力、エネルギー及びパワーの少なくとも1つを含む、請求項1に記載のスイング解析装置。
【請求項3】
前記分解部は、ウェーブレット変換に基づいて、前記第1時系列データの波形を分解する、請求項1又は2に記載のスイング解析装置。
【請求項4】
前記取得部は、前記ゴルフスイングの計測データに対して逆動力学計算を行うことで、前記第1時系列データを取得する、請求項1又は2に記載のスイング解析装置。
【請求項5】
前記第2時系列データに対して順動力学計算を行うことで、前記第2時系列データに基づいたゴルフスイングを推測する推定部をさらに含む、請求項1又は2に記載のスイング解析装置。
【請求項6】
前記変更部は、前記セットに含まれる少なくとも1つの前記時系列データの特徴量に、予め定められた係数を乗じる、請求項1又は2に記載のスイング解析装置。
【請求項7】
前記取得部は、少なくとも2種類のゴルフクラブについて、それぞれ、前記第1時系列データを取得し、
前記分解部は、前記少なくとも2種類のゴルフクラブの前記第1時系列データの波形を、それぞれ、前記複数の周波数帯の時系列データのセットに分解し、
前記変更部は、前記少なくとも2種類のゴルフクラブの一方のゴルフクラブの前記特徴量を基準として、前記少なくとも2種類のゴルフクラブの他方のゴルフクラブの前記特徴量の増減割合を、前記係数として特定する、請求項6に記載のスイング解析装置。
【請求項8】
ゴルフスイングを解析するための方法であって、
プレーヤーのゴルフスイングの特徴量の第1時系列データを取得する工程と、
前記第1時系列データの波形を、予め定められた複数の周波数帯の時系列データのセットに分解する工程と、
前記セットに含まれる少なくとも一つの前記時系列データの少なくとも一部を変更して修正済セットを作成する工程と、
前記修正済セットに含まれる前記複数の周波数帯の時系列データを合成し、前記特徴量に関する第2時系列データを生成する工程とを含む、
スイング解析方法。
【請求項9】
ゴルフスイングを解析するためのコンピュータプログラムであって、
コンピュータを、
プレーヤーのゴルフスイングの特徴量の第1時系列データを取得する手段と、
前記第1時系列データの波形を、予め定められた複数の周波数帯の時系列データのセットに分解する手段と、
前記セットに含まれる少なくとも一つの前記時系列データの少なくとも一部を変更して修正済セットを作成する手段と、
前記修正済セットに含まれる前記複数の周波数帯の時系列データを合成し、前記特徴量に関する第2時系列データを生成する手段として機能させる、
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイング解析装置、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、プレーヤーがゴルフスイングをするときのスイング挙動を解析するための装置が記載されている。この装置では、先ず、スイング挙動の特徴量の時系列データがフーリエ変換されることで、周波数領域のデータが取得される。次に、取得された周波数領域のデータのうち、特定の周波数帯域のPSD値が変更される。そして、PSD値が変更された周波数領域のデータが逆フーリエ変換されることで、特徴量が変更されたスイング挙動に関する時間領域のデータが取得される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-182668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の装置では、特定の周波数帯域のPSD値を変更したにもかかわらず、その変更の効果が時間領域のデータの波形全体に及ぶ。したがって、上記の装置において、時間領域のデータ波形の特定箇所を変更したようなスイング挙動を生成したい場合には、さらなる改善の余地があった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、ゴルフスイングの特徴量の第1時系列データの波形の特定箇所を主に変更した第2時系列データを生成することが可能なスイング解析装置を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ゴルフスイングを解析するための装置であって、プレーヤーのゴルフスイングの特徴量の第1時系列データを取得する取得部と、前記第1時系列データの波形を、予め定められた複数の周波数帯の時系列データのセットに分解する分解部と、前記セットに含まれる少なくとも一つの前記時系列データの少なくとも一部を変更して修正済セットを作成する変更部と、前記修正済セットに含まれる前記複数の周波数帯の時系列データを合成し、前記特徴量に関する第2時系列データを生成する合成部とを含む、スイング解析装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のスイング解析装置は、上記の構成を採用することで、ゴルフスイングの特徴量の第1時系列データの波形の特定箇所を主に変更した第2時系列データを生成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態のスイング解析装置を含むスイング解析システムを概念的に示す構成図である。
図2】本実施形態のスイング解析システムのブロック図である。
図3】本実施形態のスイング解析方法の処理手順を示すフローチャートである。
図4図1に示したプレーヤーの肩回りのトルクのX軸成分の第1時系列データを示すグラフである。
図5】(a)、一方のゴルフクラブのゴルフスイングの軌跡を示すグラフであり、(a)は、Y軸方向(プレーヤーの側面)からみた軌跡を示しており、(b)は、X軸方向(プレーヤーの正面)からみた軌跡を示している。
図6】離散ウェーブレット変換の分解ツリーを示す図である。
図7】複数の周波数帯の時系列データのセットを示すグラフである。
図8】2種類のゴルフクラブの第1時系列データを示すグラフである。
図9】2種類のゴルフクラブのそれぞれについて、複数の周波数帯の時系列データのセットを示すグラフである。
図10】第4周波数帯の時系列データを示すグラフである。
図11】修正済セットに含まれる複数の周波数帯の時系列データを示すグラフである。
図12】第2時系列データを示すグラフである。
図13】他方のゴルフクラブのゴルフスイングの腕及びシャフトの軌跡を示すグラフであり、(a)は、Y軸方向(プレーヤーの側面)からみた軌跡を示しており、(b)は、X軸方向(プレーヤーの正面)からみた軌跡を示している。
図14】表示装置に表示された解析結果の一例を示す図である。
図15】実施例の第4周波数帯の時系列データを示すグラフである。
図16】実施例の第1時系列データ、第2時系列データ、及び、実測の時系列データを示すグラフである。
図17】比較例の第1時系列データ、及び、第1時系列データが変更された時間領域のデータを示すグラフである。
図18】実測の時系列データに基づくゴルフスイングの腕及びシャフトの軌跡を示すグラフであり、(a)は、Y軸方向(プレーヤーの側面)からみた軌跡を示しており、(b)は、X軸方向(プレーヤーの正面)からみた軌跡を示している。
図19】比較例の時間領域のデータに基づくゴルフスイングの腕及びシャフトの軌跡を示すグラフであり、(a)は、Y軸方向(プレーヤーの側面)からみた軌跡を示しており、(b)は、X軸方向(プレーヤーの正面)からみた軌跡を示している。
図20】シャフトの先端の速度と時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態が図面に基づき説明される。図面は、発明の内容の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれることが理解されなければならない。また、各実施形態を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。さらに、実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本発明の内容理解のためのものであって、本発明は、図示されている具体的な構成に限定されるものではない。
【0010】
図1は、本実施形態のスイング解析装置2を含むスイング解析システム1を概念的に示す構成図である。図2は、本実施形態のスイング解析システム1のブロック図である。図1に示されるように、本実施形態のスイング解析システム1(スイング解析装置2)では、プレーヤーPによるゴルフスイングが解析される。
【0011】
本実施形態のゴルフスイングには、ゴルフクラブ3が用いられる。ゴルフクラブ3には、例えば、市販されている様々なものが用いられる。図1には、ウッド型のゴルフクラブ3が示されているが、特に限定されるわけではなく、例えば、アイアン型のゴルフクラブ等であってもよい。ゴルフクラブ3には、シャフト3aと、シャフト3aの一端(以下、「先端」ということがある。)に固着されたクラブヘッド3bと、シャフト3aの他端に固着されたグリップ3cとが含まれる。
【0012】
ゴルフスイングには、ゴルフクラブ3とともに、ゴルフボール4が用いられてもよい。ゴルフボール4には、市販されている様々なものが用いられるが、実際のゴルフボールよりも柔らかいゴルフボール(例えば、スポンジボールなど)が用いられてもよい。このような柔らかいゴルフボール4により、インパクト時のゴルフスイングへの影響が低減され、ゴルフスイングの安定した測定が可能となる。
【0013】
本実施形態において、解析対象のプレーヤーPのゴルフのレベルは、特に限定されない。したがって、初心者、中級者及び上級者等のゴルフスイングが解析されうる。
【0014】
プレーヤーPのゴルフスイングは、適宜解析されうる。本実施形態では、少なくとも2種類のゴルフクラブのうち、一方のゴルフクラブ3A(図1に示す)のゴルフスイングの計測データから、他方のゴルフクラブ(図示省略)のゴルフスイングが予測される。これにより、プレーヤーPは、他方のゴルフクラブのゴルフスイングを行うことなく、一方のゴルフクラブ3Aのゴルフスイングから、他方のゴルフクラブのゴルフスイングを容易に解析することが可能となる。したがって、本実施形態のスイング解析装置2は、ゴルフクラブの開発、ゴルフクラブのフィッティング、及び、ゴルフのレッスン等の様々な場面で活用されうる。
【0015】
少なくとも2種類のゴルフクラブは、例えば、特性(例えば、質量や番手等)が互いに異なっていれば、適宜選択されうる。したがって、少なくとも2種類のゴルフクラブには、ウッド型のゴルフクラブが選択されてもよいし、アイアン型のゴルフクラブが選択されてもよいし、ウッド型やアイアン型などのゴルフクラブが組み合わされて選択されてもよい。本実施形態では、少なくとも2種類のゴルフクラブとして、質量が異なるゴルフクラブが選択される。
【0016】
一方のゴルフクラブ3Aは、少なくとも2種類のゴルフクラブから1つ選択されうる。本実施形態の一方のゴルフクラブ3Aには、他方のゴルフクラブ(図示省略)に比べて質量が小さいゴルフクラブが選択されるが、他方のゴルフクラブに比べて質量が大きいゴルフクラブが選択されてもよい。本実施形態において、他方のゴルフクラブは、少なくとも2種類のゴルフクラブから1つ選択される。
【0017】
[スイング解析システム]
本実施形態のスイング解析システム1は、スイング解析装置2と、計測装置5とを含んで構成されている。スイング解析システム1(スイング解析装置2)は、後述のスイング解析方法の実行に用いられる。
【0018】
[計測装置]
計測装置5は、図1に示したプレーヤーPによるゴルフスイングを計測して、その計測データを取得するためのものである。本実施形態の計測データには、プレーヤーP及びゴルフクラブ3の少なくとも一方において、1又は複数の部位の挙動が含まれる。
【0019】
計測装置5は、ゴルフスイングの計測データを取得することができれば、種々のものが採用されうる。本実施形態の計測装置5には、上記の特許文献1と同様に、ゴルフクラブ3に取り付けられた慣性センサユニット5Aが採用されているが、例えば、距離画像センサや、モーションキャプチャシステム等が採用されてもよい。
【0020】
本実施形態の計測装置5は、ゴルフクラブ3のグリップ3cに取り付けられているが、特に限定されるわけではなく、例えば、取得したい計測データに応じて、ゴルフクラブ3のシャフト3aなど、任意の位置に取り付けられてもよい。また、計測装置5は、ゴルフスイングを妨げないように、小型かつ軽量であるのが望ましい。
【0021】
図2に示されるように、本実施形態の計測装置5(慣性センサユニット5A)には、角速度計測部5a、加速度計測部5b、及び、地磁気計測部5cが含まれている。これらの計測部5a~5cは、上記の特許文献1と同様に、三軸センサとして構成されている。このような計測装置5により、その計測装置5が取り付けられた位置(本例では、グリップ3c)において、ゴルフスイング中の角速度、加速度及び地磁気を含む物理量が計測可能とされている。なお、計測装置5は、その他の物理量が計測可能とされていてもよい。
【0022】
本実施形態の計測装置5には、通信部5dが含まれる。通信部5dは、スイング解析装置2に、計測データを送信するためのものである。本実施形態では、1回のスイング動作(ゴルフボールを1球打つ)ごとに、計測データが送信可能とされているのが好ましい。また、通信部5dには、無線方式や有線方式のものが採用されうるが、ゴルフスイングを妨げない観点から、無線方式のものが採用されるのが好ましい。
【0023】
計測装置5は、通信部5dに代えて、又は、通信部5dとともに、取り外し可能な記憶媒体(図示省略)が設けられていてもよい。このような記憶媒体により、ゴルフスイングの計測データが記憶され、かつ、その記憶された計測データがスイング解析装置2に取り込まれうる。
【0024】
[スイング解析装置]
図1に示されるように、スイング解析装置2は、例えば、コンピュータ2Aで構成されている。コンピュータ2Aの一例には、デスクトップ型コンピュータ、ノート型コンピュータ、タブレットコンピュータ、スマートフォン、及び、クラウドサーバ等が挙げられる。本実施形態のコンピュータ2Aには、デスクトップ型コンピュータが採用される。
【0025】
図2に示されるように、本実施形態のスイング解析装置2は、例えば、入力装置7と、表示装置8と、通信装置9と、演算処理装置10とを含んで構成されている。
【0026】
[入力装置]
入力装置7には、例えば、図1に示したキーボード7aや、マウス7b等が用いられる。このような入力装置7により、図2に示した演算処理装置10に、スイング解析方法の実行に必要な命令等が入力されうる。
【0027】
[表示装置]
表示装置8は、例えば、ディスプレイ装置で構成されている。このような表示装置8により、スイング解析方法による解析結果が出力されうる。
【0028】
[通信装置]
図2に示されるように、本実施形態の通信装置9は、計測装置5の通信部5dと、通信可能に接続されている。このような通信装置9により、計測装置5で取得された計測データを受信することが可能となる。受信した計測データは、演算処理装置10に取り込まれうる。なお、上述の記憶媒体(図示省略)を介して、演算処理装置10に計測データが取り込まれる場合には、その記憶媒体に記憶された計測データを読み取り可能な装置(図示省略)が、入力装置7に含まれてもよい。
【0029】
[演算処理装置]
本実施形態の演算処理装置10は、例えば、各種の演算を行う演算部(CPU)11と、データやプログラム等が記憶される記憶部12と、作業用メモリ13とを含んで構成されている。
【0030】
[記憶部]
記憶部12は、例えば、磁気ディスク、光ディスク又はSSD等からなる不揮発性の情報記憶装置である。本実施形態の記憶部12には、データ部14と、プログラム部15とが含まれる。
【0031】
[データ部]
データ部14は、ゴルフスイングの解析に必要なデータ(情報)や、計算結果等を記憶するためのものである。本実施形態のデータ部14には、計測データ入力部14a、時系列データ入力部14b、及び、スイング入力部14cが含まれる。なお、データ部14は、このような態様に限定されるわけではなく、例えば、これらの一部が省略されてもよいし、その他のデータを記憶するための入力部(図示省略)がさらに含まれてもよい。データの詳細は、後述される。
【0032】
[プログラム部]
プログラム部15は、ゴルフスイングの解析に必要なプログラム(コンピュータプログラム)である。このプログラム部(プログラム)15が、演算部11によって実行されることにより、コンピュータ2Aを、ゴルフスイングを解析するための特定の手段として機能させることができる。
【0033】
本実施形態のプログラム部15には、計測部15a、取得部15b、分解部15c、変更部15d、合成部15e、推定部15f、及び、出力部15gが含まれる。なお、プログラム部15は、このような態様に限定されるわけではなく、例えば、これらの一部が省略されてもよいし、その他の機能を有するプログラム部(図示省略)がさらに含まれてもよい。これらのプログラム部15の機能の詳細は、後述される。
【0034】
[スイング解析方法(第1実施形態)]
次に、本実施形態のスイング解析方法が説明される。図3は、本実施形態のスイング解析方法の処理手順を示すフローチャートである。本実施形態において、スイング解析方法の各工程は、図1及び図2に示したスイング解析装置2(コンピュータ2A)によって実行される。
【0035】
[ゴルフスイングの計測データを取得]
本実施形態のスイング解析方法では、先ず、図1に示したプレーヤーPのゴルフスイングの計測データが取得される(工程S1)。
【0036】
本実施形態の工程S1では、先ず、図2に示したプログラム部15に含まれる計測部15aが、作業用メモリ13に読み込まれる。計測部15aは、ゴルフスイングの計測データを取得するためのプログラムである。この計測部15aが、演算部11によって実行されることで、コンピュータ2Aを、計測データを取得するための手段として機能させることができる。
【0037】
本実施形態の工程S1では、図1に示されるように、計測装置5が取り付けられたゴルフクラブ3が、解析対象のプレーヤーPによって把持される。上述したように、本実施形態では、少なくとも2種類のゴルフクラブのうち、一方のゴルフクラブ3Aのゴルフスイングの計測データから、他方のゴルフクラブ(図示省略)のゴルフスイングが予測される。したがって、工程S1では、プレーヤーPによって、一方のゴルフクラブ(本例では、他方のゴルフクラブよりも質量が小さいゴルフクラブ)3Aが把持される。
【0038】
次に、本実施形態の工程S1では、一方のゴルフクラブ3Aを把持したプレーヤーPにより、ゴルフスイングが行われる。これにより、計測装置5(慣性センサユニット5A)によって、ゴルフスイングの計測データが取得(計測)される。
【0039】
本実施形態では、上記の特許文献1と同様に、ゴルフスイング中において、ゴルフスイングをする様子(スイング挙動)を時系列に表す計測データが取得される。本実施形態の計測データは、ゴルフスイング中において、アドレスからフィニッシュまで取得されるが、特に限定されるわけではなく、例えば、アドレスからインパクトまで取得されてもよい。
【0040】
計測データには、ゴルフクラブ3の角速度、加速度、及び、地磁気を含む物理量が含まれる。これらの物理量は、予め定められたサンプリング周波数に対応する時間間隔刻みで取得される。サンプリング周波数は、例えば、ゴルフスイングの計測精度などに応じて、適宜設定することができる。サンプリング周波数は、例えば、300~1000Hz(本例では、500Hz)に設定される。
【0041】
計測データは、図2に示した計測装置5に含まれる通信部5dを介して、スイング解析装置2の通信装置9に送信される。これにより、計測データが通信装置9によって受信され、受信された計測データが、データ部14の計測データ入力部14a(コンピュータ2A)に記憶される。
【0042】
本実施形態では、1回のゴルフスイング動作(本例では、図1に示したゴルフボール4を1球打つ)ごとに、その計測データが、計測装置5から通信装置9に送信される。そして、通信装置9によって受信された計測データが、計測データ入力部14aに記憶されうる。
【0043】
[第1時系列データを取得]
次に、本実施形態のスイング解析方法では、図1に示したプレーヤーPのゴルフスイングの特徴量の第1時系列データが取得される(工程S2)。第1時系列データの取得には、工程S1で取得された計測データが用いられる。
【0044】
本実施形態の工程S2では、先ず、図2に示した計測データ入力部14aに入力された計測データが、作業用メモリ13に読み込まれる。次に、プログラム部15に含まれる取得部15bが、作業用メモリ13に読み込まれる。この取得部15bは、第1時系列データを取得するためのプログラムである。この取得部15bが演算部11によって実行されることで、コンピュータ2Aを、第1時系列データを取得するための手段として機能させることができる。
【0045】
本実施形態の工程S2では、先ず、上記の特許文献1と同様の手順に基づき、ゴルフスイングの計測データ(本例では、加速度、角速度、及び、角加速度)に対して、逆動力学計算が行われる。これにより、ゴルフスイングの特徴量の第1時系列データが取得される。
【0046】
第1時系列データの特徴量は、ゴルフスイング中(本例では、アドレスからフィニッシュまでの間)において、上述の時間間隔刻みの各時刻で計算される。特徴量は、例えば、解析の目的に応じて、適宜計算される。本実施形態の特徴量には、トルク、力、エネルギー及びパワー(仕事率)の少なくとも1つが含まれる。このような特徴量により、ゴルフスイングの特徴が的確に把握され、ゴルフスイングの詳細な解析が可能となる。
【0047】
本実施形態において、逆動力学計算や順動力学計算には、図1に示したゴルフスイングに用いられたゴルフクラブ3の仕様データが用いられる。この仕様データには、例えば、全体の質量、クラブヘッド3bやシャフト3aの質量、シャフト3aの長さ、及び、シャフト3aのフレックス等が含まれる。これらの仕様データは、例えば、工程S2の実施に先立ち、記憶部12(コンピュータ2A)に予め入力されているのが好ましいが、工程S2の実施中に、入力装置7から直接入力されてもよい。
【0048】
逆動力学計算や順動力学計算には、例えば、上記の特許文献1と同様の解析モデルが用いられる。解析モデルには、例えば、2リンクモデルや、3リンクモデル等が含まれる。2リンクモデルは、例えば、ゴルフクラブ3及びプレーヤーPの腕をリンクとし、プレーヤーPの肩(右肩又は左肩、或いはこれらを代表する点)、及び、手首を節点とするモデルである。3リンクモデルは、例えば、2リンクモデルの節点に加えて、肘の節点を含むモデルである。
【0049】
本実施形態の工程S2では、上記の解析モデルが用いられることで、プレーヤーPやゴルフクラブ3等の各部位(解析モデルの節点やリンク)で発揮されるトルク、力、エネルギー及びパワーが計算されうる。トルクの一例には、プレーヤーPの肩、手首、及び、肘等の各関節(節点)で発揮される当該関節周りのトルク、並びに、腕(上腕、前腕)やゴルフクラブ3等の各部位(リンク)で発揮される当該部位の重心周りのトルク等が含まれる。力、エネルギー及びパワーの一例には、プレーヤーPの腕(上腕、前腕)や、ゴルフクラブ3等の各部位(リンク)で発揮される力、エネルギー及びパワー等が含まれる。
【0050】
図4は、図1に示したプレーヤーPの肩回りのトルクのX軸成分の第1時系列データ21を示すグラフである。図4において、時間を示す横軸の値「0」は、ゴルフスイングのうち、インパクトのタイミングを示している。このようなグラフにより、ゴルフスイング中の特徴量(本例では、肩回りのトルクのX軸成分)と時間との関係が、第1時系列データ21の波形によって示されうる。なお、工程S2では、肩回りのトルクのX軸成分の第1時系列データ21だけでなく、手首回りのトルクのX軸成分の第1時系列データや、肘回りのトルクのX軸成分の第1時系列データなどが取得されてもよい。第1時系列データ21は、図2に示した時系列データ入力部14b(コンピュータ2A)に記憶される。
【0051】
本実施形態の工程S2は、上記の特許文献1と同様に、図1に示したプレーヤーPの腕やシャフト3aの軌跡が計算されてもよい。図5は、一方のゴルフクラブ3Aのゴルフスイングの軌跡を示すグラフである。図5(a)は、Y軸方向(プレーヤーPの側面)からみた軌跡を示している。図5(b)は、X軸方向(プレーヤーPの正面)からみた軌跡を示している。
【0052】
図5には、一方のゴルフクラブ3Aのゴルフスイングについて、トップからインパクトを経て、フォロースルーまでの軌跡(以下、「第1スイング軌跡31」ということがある。)が示されている。第1スイング軌跡31は、図2に示したスイング入力部14c(コンピュータ2A)に記憶される。
【0053】
[第1時系列データの波形を分解]
次に、本実施形態のスイング解析方法では、図4に示した第1時系列データ21の波形が、予め定められた複数の周波数帯の時系列データのセットに分解される(工程S3)。
【0054】
本実施形態の工程S3では、先ず、図2に示した時系列データ入力部14bに入力された第1時系列データ21が、作業用メモリ13に読み込まれる。次に、プログラム部15に含まれる分解部15cが、作業用メモリ13に読み込まれる。この分解部15cは、第1時系列データ21の波形を、複数の周波数帯の時系列データのセットに分解するためのプログラムである。この分解部15cが演算部11によって実行されることで、コンピュータ2Aを、上述のセットに分解するための手段として機能させることができる。
【0055】
第1時系列データ21の波形の分解は、複数の周波数帯の時系列データのセットに分解可能であれば、適宜行われうる。本実施形態では、ウェーブレット変換に基づいて、第1時系列データ21の波形が分解される。このようなウェーブレット変換により、第1時系列データ21の時間の情報を維持したまま、第1時系列データ21の波形が、複数の周波数帯の時系列データのセットに容易に分解されうる。
【0056】
ウェーブレット変換の一例としては、離散ウェーブレット変換や、連続ウェーブレット変換が挙げられる。本実施形態では、離散ウェーブレット変換に基づいて、第1時系列データ21の波形が分解される。図6は、離散ウェーブレット変換の分解ツリーを示す図である。
【0057】
図6に示されるように、離散ウェーブレット変換では、元の波形データ23が、低周波データ(スケーリング関数)24aと、高周波データ(ウェーブレット関数)25aとに分解される。この低周波データ24aが、さらに低い周波数帯の低周波データ24b~24eと、高周波データ25b~25eとに順次分解される。これにより、元の波形データ23が、複数の周波数帯の低周波データ24a~24eのセット26に分解されうる。これらの低周波データ24a~24eのセット26には、高周波データ25a~25eに比べて、元の波形データ23の主要な成分が含まれている。
【0058】
また、分解された複数の周波数帯の低周波データ24a~24eと、高周波データ25a~25eとが合成されると、元の波形データ23が生成(復元)されうる。離散ウェーブレット変換に基づく計算には、例えば、市販の数値解析ソフトウェア(MathWorks 社製の「MATLAB」など)が用いられてもよい。
【0059】
本実施形態では、離散ウェーブレット変換に基づいて、図4に示した第1時系列データ21の波形が、低周波データ24a~24eと、高周波データ25a~25eとに順次分解される。これにより、第1時系列データ21の波形が、複数の周波数帯の時系列データのセット(すなわち、低周波データ24a~24eのセット26)に分解される。
【0060】
複数の周波数帯は、公知の離散ウェーブレット変換と同様に、サンプリング周波数に応じて予め設定されうる。本実施形態のように、例えば、サンプリング周波数が500Hzの場合、第1周波数帯~第5周波数帯に分解される。第1周波数帯は、125~250Hzである。第2周波数帯は、62.5~125Hzである。第3周波数帯は、31.25~ 62.5Hzである。第4周波数帯は、15.625~31.25Hzである。第5周波数帯は、0~15.625Hzである。
【0061】
図7は、複数の周波数帯の時系列データのセット27を示すグラフである。本実施形態のセット27には、第1周波数帯の時系列データ28a、第2周波数帯の時系列データ28b、第3周波数帯の時系列データ28c、第4周波数帯の時系列データ28d、及び、第5周波数帯の時系列データ28eが含まれる。
【0062】
これらの時系列データ28a~28eは、図6に示した低周波データ24a~24eに相当する。なお、図6に示した高周波データ25a~25eに相当する時系列データのグラフについては、図示が省略される。
【0063】
図7に示されるように、時系列データ28a~28eでは、上記の特許文献1で行われるフーリエ変換とは異なり、図4に示した第1時系列データ21の時間の情報が維持されている。複数の周波数帯の時系列データ(低周波データ)28a~28eのセット27と、図示が省略された高周波データの時系列データとは、図2に示した時系列データ入力部14b(コンピュータ2A)に記憶される。
【0064】
[時系列データの一部を変更した修正済セットを作成]
次に、本実施形態のスイング解析方法では、図7に示したセット27に含まれる少なくとも一つの時系列データ28a~28eについて、少なくとも一部を変更した修正済セットが作成される(工程S4)。この工程S4で作成される修正済セットは、図3に示した後述の工程S5において、図4に示した第1時系列データ21の波形の特定箇所を主に変更した第2時系列データの生成に用いられる。本実施形態において、第2時系列データは、他方のゴルフクラブ(図示省略)のゴルフスイングの予測に用いられる。
【0065】
本実施形態の工程S4では、先ず、図2に示した時系列データ入力部14bに入力された複数の周波数帯の時系列データ28a~28eのセット27(図7に示す)が、作業用メモリ13に読み込まれる。次に、プログラム部15に含まれる変更部15dが、作業用メモリ13に読み込まれる。この変更部15dは、修正済セットを作成するためのプログラムである。この変更部15dが演算部11によって実行されることで、コンピュータ2Aを、修正済セットを作成するための手段として機能させることができる。
【0066】
図7に示したセット27に含まれる少なくとも一つの時系列データ28a~28eについて、その少なくとも一部の変更は、ゴルフスイングの解析の目的に応じて、適宜実施される。上述したように、本実施形態では、少なくとも2種類のゴルフクラブのうち、一方のゴルフクラブ3Aのゴルフスイングの計測データから、他方のゴルフクラブ(図示省略)のゴルフスイングが予測される。このため、他方のゴルフクラブの仕様や特性等に応じて、時系列データが変更されるのが好ましい。
【0067】
本実施形態では、図7に示したセット27において、少なくとも1つの時系列データ28a~28eの特徴量(トルク)に、予め定められた係数が乗じられる。係数は、ゴルフスイングの解析の目的に応じて、適宜特定される。本実施形態では、一方のゴルフクラブ3Aのゴルフスイングの特徴量を基準として、他方のゴルフクラブのゴルフスイングの特徴量の増減割合が、係数として特定されうる。
【0068】
係数は、スイング解析方法の実施に先立って特定されているのが好ましい。これにより、ゴルフスイングの迅速な解析が可能となる。なお、係数は、スイング解析方法の実施中に特定されてもよい。
【0069】
以下、係数を特定するための手順の一例が説明される。本実施形態では、先ず、少なくとも2種類のゴルフクラブについて、それぞれ、第1時系列データ(図示省略)が取得される。本実施形態では、上記の工程S2と同様に、図2に示したプログラム部15に含まれる取得部15bが、演算部11によって実行されることで、これらの第1時系列データが取得されうる。すなわち、少なくとも2種類のゴルフクラブのそれぞれのゴルフスイングの計測データに対して、逆動力学計算が行われることで、これらの第1時系列データがそれぞれ取得されうる。
【0070】
少なくとも2種類のゴルフクラブのそれぞれのゴルフスイングの計測データについては、上記の工程S1と同様に、図2に示したプログラム部15に含まれる計測部15aが、演算部11によって実行されることで取得されてもよい。
【0071】
図8は、2種類のゴルフクラブの第1時系列データ41を示すグラフである。図8には、一方のゴルフクラブ3Aの第1時系列データ41aと、他方のゴルフクラブ(図示省略)の第1時系列データ41bとが示されている。
【0072】
少なくとも2種類のゴルフクラブのそれぞれのゴルフスイングは、同一のプレーヤーによって行われるのが好ましい。これは、異なるプレーヤーの力量の差などが、少なくとも2種類のゴルフクラブの第1時系列データ41a、41bに影響するのを防ぐためである。これにより、これらの第1時系列データには、図1に示したゴルフクラブ3の特性(本例では、質量)の差が、主として影響しうる。したがって、図1に示した一方のゴルフクラブ3Aの特徴量(トルク)を基準として、他方のゴルフクラブ(図示省略)の特徴量の増減割合を示す係数の特定が可能となる。
【0073】
また、少なくとも2種類のゴルフクラブのそれぞれのゴルフスイングは、同一のプレーヤー(図示省略)によって行われれば、図1に示した解析対象のプレーヤーPとは異なるプレーヤーによって行われてもよい。
【0074】
次に、図8に示した2種類のゴルフクラブの第1時系列データ41a、41bの波形が、それぞれ、複数の周波数帯の時系列データのセットに分解される。本実施形態では、上記の工程S3と同様に、図2に示したプログラム部15に含まれる分解部15cが、演算部11によって実行されることで、これらの時系列データのセットに分解される。すなわち、本実施形態では、離散ウェーブレット変換に基づいて、2種類のゴルフクラブの第1時系列データ41a、41bの波形がそれぞれ、図6に示した低周波データ24a~24eと、高周波データ25a~25eとに順次分解される。これにより、第1時系列データ41a、41bの波形が、複数の周波数帯の時系列データのセットにそれぞれ分解されうる。
【0075】
図9は、2種類のゴルフクラブのそれぞれについて、複数の周波数帯の時系列データのセットを示すグラフである。図9には、一方のゴルフクラブ3A(図1に示す)の時系列データのセット42と、他方のゴルフクラブ(図示省略)の時系列データのセット43とが示されている。
【0076】
一方のゴルフクラブ3A(図1に示す)のセット42には、複数の周波数帯の時系列データ44が含まれる。これらの時系列データ44には、第1周波数帯の時系列データ44a、第2周波数帯の時系列データ44b、第3周波数帯の時系列データ44c、第4周波数帯の時系列データ44d、及び、第5周波数帯の時系列データ44eが含まれる。
【0077】
他方のゴルフクラブ(図示省略)のセット43には、複数の周波数帯の時系列データ45が含まれる。これらの時系列データ45には、第1周波数帯の時系列データ45a、第2周波数帯の時系列データ45b、第3周波数帯の時系列データ45c、第4周波数帯の時系列データ45d、及び、第5周波数帯の時系列データ45eが含まれる。
【0078】
次に、一方のゴルフクラブ3A(図1に示す)の特徴量(トルク)を基準として、他方のゴルフクラブ(図示省略)の特徴量の増減割合が、係数として特定される。
【0079】
図9に示されるように、ゴルフスイング中の一部の時間(インパクトを示す横軸の「0」に近い時間)において、他方のゴルフクラブの時系列データ45の特徴量(トルク)が、一方のゴルフクラブ3Aの時系列データ44の特徴量よりも大きくなっている。これは、一方のゴルフクラブ3Aの質量に対する他方のゴルフクラブの質量の増加分により、一方のゴルフクラブ3Aの時系列データ44に比べて、他方のゴルフクラブの時系列データ45の特徴量を示す波形の絶対エネルギー値が大きくなったためと考えられる。なお、絶対エネルギー値は、ゴルフスイング中の時系列データ44、45の波形が示す特徴量(トルク)の二乗和で特定される。
【0080】
本実施形態では、上述の波形の絶対エネルギー値を考慮して、以下の式(1)に基づいて、係数が特定される。
【0081】
【数1】

ここで、
R(L):係数
1(L):一方のゴルフクラブの特徴量
2(L):他方のゴルフクラブの特徴量
L:周波数帯を特定するための変数
t:時間を特定するパラメータ
【0082】
係数R(L)では、図9に示した一方のゴルフクラブの時系列データ44の特徴量W1(L)を基準として、他方のゴルフクラブの時系列データ45の特徴量W2(L)の増減割合が示されている。この係数R(L)は、変数Lで特定される周波数帯(本例では、第1周波数帯~第5周波数帯)毎に特定される。
【0083】
上記の式(1)において、係数R(L)を特定するには、先ず、一方のゴルフクラブ3Aのゴルフスイングの絶対エネルギー値を基準として、他方のゴルフクラブのゴルフスイングの絶対エネルギー値の増減割合が求められる。一方のゴルフクラブ3Aのゴルフスイングの絶対エネルギー値は、時系列データ44の時間tの特徴量W1(L)の二乗和∫(W1(L))2dtで特定される。他方のゴルフクラブのゴルフスイングの絶対エネルギー値は、時系列データ45の時間tの特徴量W2(L)の二乗和∫(W2(L))2dtで特定される。
【0084】
次に、絶対エネルギー値の増減割合∫(W2(L))2dt/∫(W1(L))2dtに対して、平方根を取ることで、係数R(L)が特定される。このように、係数R(L)の特定に、絶対エネルギー値が用いられることで、時系列データ44、45の時間t毎に変化する特徴量の増減割合について、時系列データ44、45の全ての時間tの増減割合を考慮した係数R(L)の特定が可能となる。
【0085】
係数R(L)は、全ての周波数帯(本例では、第1周波数帯~第5周波数帯)毎に特定されてもよい。これにより、特徴量W1(L)に対する特徴量W2(L)の増減割合の大小関係を、周波数帯ごとに比較することが可能となる。
【0086】
そして、本実施形態の工程S4では、図7に示したセット27に含まれる時系列データ28a~28eのうち、少なくとも1つの時系列データの特徴量に、上記の手順で特定された係数R(L)が乗じられる。工程S4では、任意の周波数帯の時系列データ28a~28eに、係数R(L)が乗じられても良いが、例えば、全ての周波数帯の係数R(L)を特定した上で、それらの係数R(L)が相対的に大きい周波数帯において、図7に示した時系列データの特徴量に、係数R(L)が乗じられてもよい。
【0087】
本実施形態において、最も低い周波数帯を除く全ての周波数帯(本例では、第1周波数帯~第4周波数帯)のうち、係数R(L)が最も大きい周波数帯は、第4周波数帯である。これは、図9に示した第4周波数帯の時系列データが、第1周波数帯~第3周波数帯の時系列データに比べて、特徴量(トルク)の範囲が大きくなっており、波形の主要な成分が含まれることから、特徴量の増減割合も大きくなったことが考えられる。一方、最も低い周波数帯(本例では、第5周波数帯)の時系列データは、第4周波数帯の時系列データに比べて、特徴量の範囲が大きくなっているが、係数R(L)を乗じる対象から除外されている。これは、第5周波数帯(0~15.625Hz)のような低周波の領域に、係数R(L)を乗じて特徴量を変化させると、スイングの挙動が大きく変化する傾向があり、好ましくない場合があるためである。
【0088】
本実施形態の工程S4では、最も低い周波数帯を除く全ての周波数帯のうち、係数R(L)が最も大きい第4周波数帯の時系列データ28dの特徴量に、第4周波数帯の係数R(L)が乗じられる。これにより、一方のゴルフクラブの特徴量(トルク)を基準として、他方のゴルフクラブの特徴量(トルク)の増減割合を考慮した時系列データに変更することが可能となる。
【0089】
図10は、第4周波数帯の時系列データを示すグラフである。図10では、図7に示した変更前の時系列データ28dと、変更後の時系列データ29とが示されている。変更前の時系列データ28dは、インパクトを示す横軸の「0」に近い時間を除いて、特徴量(トルク)が略ゼロとなっている。このような変更前の時系列データ28dの特徴量に、係数R(L)が乗じられることで、ゴルフスイングのうち、特徴量が大きくなるインパクト付近を含む特定箇所の波形が主に変更された時系列データ29が取得される。
【0090】
工程S4では、図7に示した全ての周波数帯の時系列データ28a~28eの特徴量に、それぞれの周波数帯で特定された係数R(L)が乗じられてもよい。しかしながら、これらの全ての周波数帯の時系列データ28a~28eに、係数R(L)が乗じられると、特徴量が大きくなるインパクト付近を含む特定箇所だけでなく、他の箇所の波形も変更されてしまい、波形全体が変更される場合がある。本実施形態では、最も低い周波数帯を除く全ての周波数帯のうち、係数R(L)が最も大きい周波数帯の時系列データ(本例では、第4周波数帯の時系列データ28d)の特徴量に、係数R(L)が乗じられる。これにより、特定箇所以外の波形の変更を、より確実に防ぐことが可能となる。
【0091】
本実施形態の工程S4では、変更された第4周波数帯の時系列データ29を含む修正済セットが作成される。図11は、修正済セット30に含まれる複数の周波数帯の時系列データを示すグラフである。
【0092】
修正済セット30には、変更された第4周波数帯の時系列データ29(図10に示す)に加えて、図7に示したセット27に含まれる第1周波数帯~第3周波数帯の時系列データ28a~28c、及び、第5周波数帯の時系列データ28eが含まれている。修正済セット30は、図2に示した時系列データ入力部14b(コンピュータ2A)に記憶される。
【0093】
[第2時系列データを生成]
次に、本実施形態のスイング解析方法では、図11に示した修正済セット30に含まれる複数の周波数帯の時系列データを合成して、特徴量に関する第2時系列データが生成される(工程S5)。
【0094】
本実施形態の工程S5では、先ず、図2に示した時系列データ入力部14bに入力された修正済セット30(図11に示す)と、高周波データの時系列データ(図示省略)とが、作業用メモリ13に読み込まれる。次に、プログラム部15に含まれる合成部15eが、作業用メモリ13に読み込まれる。この合成部15eは、修正済セット30に含まれる複数の周波数帯の時系列データを合成して、特徴量に関する第2時系列データを生成するためプログラムである。この合成部15eが演算部11によって実行されることで、コンピュータ2Aを、第2時系列データを生成するための手段として機能させることができる。
【0095】
本実施形態の工程S5では、図11に示した修正済セット30の時系列データと、第1時系列データ21の波形を分解する際に生成された高周波データの時系列データ(図示省略)とが合成される。このような時系列データの合成には、例えば、上記の数値解析ソフトウェアが用いられてもよい。
【0096】
図12は、第2時系列データ22を示すグラフである。図12では、第2時系列データ22とともに、図4に示した第1時系列データ21が示されている。第2時系列データ22の特徴量としては、第1時系列データ21と同様に、プレーヤーPの肩回りのトルクのX軸成分である場合が例示される。また、第2時系列データ22は、図4に示した第1時系列データ21、図7に示したセット27に含まれる時系列データ28a~28e、及び、図11に示した修正済セット30に含まれる時系列データについて、それらの時間の情報が維持されている。
【0097】
図12に示されるように、第2時系列データ22は、第1時系列データ21に比べて、横軸の「0」で示されるインパクト付近の特徴量(トルク)が大きくなっている。このような第2時系列データ22の特徴量は、上述の工程S4で変更された時系列データ29(図10及び図11に示す)の特徴量が反映されたものであり、図8に示した他方のゴルフクラブの第1時系列データ41bの特徴量の増減の傾向と略一致している。第2時系列データ22は、図2に示した時系列データ入力部14b(コンピュータ2A)に記憶される。
【0098】
このように、本実施形態のスイング解析方法(スイング解析装置2)では、図4に示した第1時系列データ21の時間の情報を維持したまま、その第1時系列データ21が、図7に示した複数の周波数帯の時系列データ28a~28eのセット27に分解される。これにより、セットに含まれる時系列データ28a~28eの少なくとも1つについて、その波形の特定箇所(本例では、インパクト付近)が変更された場合に、その変更の効果が、図12に示した第2時系列データ22の波形全体に影響が及ぶことがない。したがって、第1時系列データ21の波形の特定箇所を主に変更した第2時系列データ22を生成することが可能となる。
【0099】
本実施形態では、図12に示した第2時系列データ22の特徴量の増減の傾向を、図8に示した他方のゴルフクラブの第1時系列データ41bの特徴量の増減の傾向と略一致させることができる。これにより、図1に示したプレーヤーPが、他方のゴルフクラブ(図示省略)のゴルフスイングを行わなくても、一方のゴルフクラブ3Aの第1時系列データ21(図4に示す)から、他方のゴルフクラブの第2時系列データ(図12に示す)の生成が可能となる。
【0100】
上述したように、時系列データの変更に用いられる係数R(L)の特定に、図1に示した解析対象のプレーヤーPとは異なるプレーヤーのゴルフスイングを用いることができる。これにより、様々なプレーヤーPに対して、同一の係数R(L)が用いられるため、スイング解析方法(スイング解析装置2)の汎用性が向上する。
【0101】
[第2時系列データに基づいたゴルフスイングを推測]
次に、本実施形態のスイング解析方法では、図12に示した第2時系列データ22に対して順動力学計算を行うことで、第2時系列データ22に基づいたゴルフスイングが推測される(工程S6)。
【0102】
本実施形態の工程S6では、先ず、図2に示した時系列データ入力部14bに入力された第2時系列データ22(図12に示す)が、作業用メモリ13に読み込まれる。次に、プログラム部15に含まれる推定部15fが、作業用メモリ13に読み込まれる。この推定部15fは、第2時系列データ22に基づいたゴルフスイングを推測するためのプログラムである。この推定部15fが演算部11によって実行されることで、コンピュータ2Aを、第2時系列データ22に基づいたゴルフスイングを推測するための手段として機能させることができる。
【0103】
本実施形態の工程S6では、上記の特許文献1と同様に、上記の解析モデルと、図12に示した第2時系列データ22と用いて、順動力学計算が行われる。これにより、第2時系列データ22に基づいて、他方のゴルフクラブ(図示省略)のゴルフスイングが推測される。本実施形態では、第2時系列データ22に基づくゴルフスイングの加速度、角速度、及び角加速度等や、図1に示したプレーヤーPの腕やシャフト3aの軌跡が計算されうる。
【0104】
図13は、他方のゴルフクラブ(図示省略)のゴルフスイングの腕及びシャフトの軌跡を示すグラフである。図13(a)は、Y軸方向(プレーヤーPの側面)からみた軌跡を示している。図13(b)は、X軸方向(プレーヤーPの正面)からみた軌跡を示している。
【0105】
図13には、他方のゴルフクラブ(図示省略)のゴルフスイングについて、トップからインパクトを経て、フォロースルーまでの軌跡(以下、「第2スイング軌跡32」ということがある。)が示されている。このような第2スイング軌跡32が作成されることにより、図1に示したプレーヤーPが他方のゴルフクラブ(図示省略)のゴルフスイングを行わなくても、他方のゴルフクラブのゴルフスイングが容易に把握されうる。第2スイング軌跡32は、図2に示したスイング入力部14c(コンピュータ2A)に記憶される。
【0106】
[解析結果を表示]
次に、本実施形態のスイング解析装置では、ゴルフスイングの解析結果が、図1及び図2に示した表示装置8に出力される(工程S7)。
【0107】
本実施形態の工程S7では、先ず、図2に示した時系列データ入力部14bに入力された第1時系列データ21及び第2時系列データ22(図12に示す)が、作業用メモリ13に読み込まれる。さらに、スイング入力部14cに入力された第1スイング軌跡31(図5に示す)及び第2スイング軌跡32(図13に示す)が、作業用メモリ13に読み込まれる。
【0108】
次に、プログラム部15に含まれる出力部15gが、作業用メモリ13に読み込まれる。出力部15gは、ゴルフスイングの解析結果を、表示装置8に出力するためのプログラムである。この出力部15gが、演算部11によって実行されることで、コンピュータ2Aを、解析結果を出力する手段として機能させることができる。
【0109】
図14は、表示装置8に表示された解析結果の一例を示す図である。図14には、第1時系列データ21及び第2時系列データ22を示すグラフが示されている。このようなグラフにより、図1に示したプレーヤーPが他方のゴルフクラブ(図示省略)のゴルフスイングを行わなくても、一方のゴルフクラブ3Aと他方のゴルフクラブ(図示省略)とにおいて、ゴルフスイングの特徴量(トルク)の比較が可能となる。
【0110】
図14には、第1スイング軌跡31と第2スイング軌跡32とを示すグラフが示されている。第1スイング軌跡31は、一方のゴルフクラブ3Aのゴルフスイングについて、トップからインパクトを経て、フォロースルーまでの軌跡を示したものである。第2スイング軌跡32は、他方のゴルフクラブ(図示省略)のゴルフスイングについて、トップからインパクトを経て、フォロースルーまでの軌跡を示したものである。これらのグラフにより、図1に示したプレーヤーPが他方のゴルフクラブ(図示省略)のゴルフスイングを行わなくても、一方のゴルフクラブ3Aのゴルフスイングと、他方のゴルフクラブのゴルフスイングとの比較が可能となる。
【0111】
このように、本実施形態では、ゴルフスイングの解析結果が出力されることで、例えば、一方のゴルフクラブ3Aと他方のゴルフクラブ(図示省略)との間において、特徴量(トルク)の変化や、ゴルフスイングの軌跡の変化が、容易に把握されうる。これにより、ゴルフクラブの開発、ゴルフクラブのフィッティング、及び、ゴルフのレッスン等の様々な場面で活用することが可能となる。
【0112】
[スイング解析方法(第2実施形態)]
これまでの実施形態おいて、他方のゴルフクラブ(図示省略)は、少なくとも2種類のゴルフクラブから1つ選択されたが、このような態様に限定されない。他方のゴルフクラブは、少なくとも2種類のゴルフクラブから2つ以上選択されてもよい。この場合、工程S4では、これらの他方のゴルフクラブごとに、係数R(L)がそれぞれ特定され、修正済セット30(図11に示す)がそれぞれ作成される。さらに、工程S5では、これらの他方のゴルフクラブごとに、第2時系列データがそれぞれ生成される。そして、工程S6では、それらの他方のゴルフクラブごとに、第2スイング軌跡32(図13に示す)が推測される。
【0113】
このように、この実施形態では、2つ以上の他方のゴルフクラブごとに、第2時系列データ22が生成され、第2スイング軌跡32が推測されるため、一方のゴルフクラブ3Aのゴルフスイングから、様々な種類のゴルフクラブのゴルフスイングの解析が可能となる。したがって、本実施形態のスイング解析装置2(スイング解析方法)は、ゴルフクラブの開発、ゴルフクラブのフィッティング、及び、ゴルフのレッスン等の様々な場面において、有効に活用されうる。
【0114】
他方のゴルフクラブは、例えば、図14に示したプルダウンメニューのようなコントロール要素46によって切り替え可能とされてもよい。このようなコントロール要素46により、2つ以上の他方のゴルフクラブのうち、任意のゴルフクラブに切り替えて、解析結果を表示することが可能となる。
【0115】
[スイング解析方法(第3実施形態)]
これまでの実施形態では、工程S1において、図2に示した計測部15aにより、ゴルフスイングの計測データが取得されたが、このような態様に限定されない。例えば、スイング解析方法の実行に先立って、解析対象のゴルフスイングの計測データが既に取得されている場合には、図3に示した工程S1や、計測部15aが省略されうる。
【0116】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例0117】
図3に示した手順にしたがって、解析対象のプレーヤーによるゴルフスイングが解析された(実施例)。ゴルフスイングの解析には、図1及び図2に示したスイング解析装置が用いられた。
【0118】
実施例では、先ず、質量が異なる2種類のゴルフクラブのうち、質量が相対的に小さい一方のゴルフクラブの第1時系列データが取得された。
【0119】
次に、実施例では、第1時系列データの波形が、予め定められた複数の周波数帯の時系列データのセットに分解された。この第1時系列データの波形の分解には、離散ウェーブレット変換が用いられた。周波数帯は、上述の第1周波数帯~第5周波数帯である。図7は、実施例のセットに含まれる時系列データを示すグラフである。
【0120】
次に、実施例では、セットに含まれる少なくとも一つの時系列データの少なくとも一部が変更された修正済セットが作成された。修正済セットの作成には、セットに含まれる時系列データの特徴量に、予め定められた係数が乗じられた。
【0121】
係数を特定するために、ゴルフスイングの解析に先立って、先ず、2種類のゴルフクラブの第1時系列データの波形が取得された。次に、第1時系列データの波形が複数の周波数帯の時系列データのセットに分解された。そして、一方のゴルフクラブの特徴量を基準として、他方のゴルフクラブの特徴量の増減割合から、係数が特定された。
【0122】
実施例では、最も低い周波数帯を除く全ての周波数帯のうち、係数R(L)が最も大きい第4周波数帯の時系列データに、係数乗じられることで、修正済セットが作成された。図11は、実施例の修正済セット30に含まれる複数の周波数帯の時系列データを示すグラフである。
【0123】
次に、実施例では、修正済セットに含まれる複数の周波数帯の時系列データが合成されて、第2時系列データが生成された。図12は、第2時系列データ22を示すグラフである。この第2時系列データ22は、質量が異なる2種類のゴルフクラブのうち、質量が相対的に大きい他方のゴルフクラブの時系列データに相当する。
【0124】
さらに、実施例では、第2時系列データに対して順動力学計算が行われることで、第2時系列データに基づいたゴルフスイングが推測された。図13は、実施例の他方のグルフクラブのゴルフスイングの軌跡を示すグラフである。
【0125】
また、実施例の第2時系列データの予測精度を確認するために、解析対象のプレーヤーによる他方のゴルフクラブのゴルフスイングが計測され、他方のゴルフクラブの時系列データ(以下、「実測の時系列データ」という。)が取得された。そして、第2時系列データと、実測の時系列データとが比較された。
【0126】
比較のために、上記の特許文献1と同様の手順に基づいて、ゴルフスイングが推測された(比較例)。比較例では、先ず、第1時系列データがフーリエ変換されることで、周波数領域のデータが取得された。次に、取得された周波数領域のデータのうち、第4周波数帯のPSD値が変更された。そして、PSD値が変更された周波数領域のデータが逆フーリエ変換されることで、特徴量が変更されたスイング挙動に関する時間領域のデータが取得された。そして、時間領域のデータに対して順動力学計算が行われること、時間領域のデータに基づくゴルフスイングが推測された。
スイング解析の各種条件は、次のとおりである。
一方のゴルフクラブの質量:302g
他方のゴルフクラブの質量:310g
計測データのサンプリング周波数:500Hz
【0127】
図15は、実施例の第4周波数帯の時系列データを示すグラフである。図15には、第1時系列データの変更前の時系列データと、第1時系列データの変更後の時系列データとが示されている。さらに、図15には、実測の時系列データが示されている。
【0128】
図15に示されるように、実施例では、第4周波数帯において、変更前の時系列データに係数が乗じられることで、変更前の時系列データの波形の特定箇所(-0.1~0.0秒付近)を主に変更した時系列データが取得された。これにより、変更後の時系列データを、実測の時系列データに近似させることができた。
【0129】
図16は、実施例の第1時系列データ、第2時系列データ、及び、実測の時系列データを示すグラフである。実施例では、図15に示した変更後の時系列データを含む修正セットが合成されることで、波形の特定箇所(-0.1~0.0秒付近)が主に変更された第2時系列データが生成された。この第2時系列データは、実測の時系列データに近似した。
【0130】
図17は、比較例の第1時系列データ、及び、第1時系列データが変更された時間領域のデータを示すグラフである。なお、比較例の第1時系列データには、図16に示した実施例の第1時系列データとは異なるものが用いられている。これは、実施例とは異なるプレーヤーによるゴルフスイングの計測データから、第1時系列データが取得されたためであり、実施例との推測精度の比較に影響はない。
【0131】
比較例では、第1時系列データがフーリエ変換された周波数領域のデータ(図示省略)において、第4周波数帯のPSD値を変更したにもかかわらず、その変更の効果が時間領域のデータの波形全体に及んだ。
【0132】
このように、図16に示した実施例では、図17に示した比較例とは異なり、ゴルフスイングの特徴量の第1時系列データの波形の特定箇所を主に変更した第2時系列データを生成することができた。
【0133】
図18は、実測の時系列データに基づくゴルフスイングの腕及びシャフトの軌跡を示すグラフである。図19は、比較例の時間領域のデータに基づくゴルフスイングの腕及びシャフトの軌跡を示すグラフである。図18(a)及び図19(a)は、Y軸方向(プレーヤーPの側面)からみた軌跡を示している。図18(b)及び図19(b)は、X軸方向(プレーヤーPの正面)からみた軌跡を示している。
【0134】
図13に示した実施例の第2時系列データに基づく軌跡は、図18に示した実測の時系列データに基づく軌跡に近似した。一方、図19に示した比較例の時間領域のデータに基づく軌跡では、PSD値の変更の効果が、図17に示した時間領域のデータの波形全体に及んだことで、プレーヤーの腕及びシャフトの軌跡を再現することができなった。
【0135】
図20は、シャフトの先端の速度と時間との関係を示すグラフである。図20には、一方のゴルフクラブの計測データ、他方のゴルフクラブの計測データ、及び、他方のゴルフクラブの推測データが示されている。この推測データは、実施例の第2時系列データに基づく軌跡から求められた。
【0136】
図20のグラフに示されるように、他方のゴルフクラブの推測データは、一方のゴルフクラブの計測データよりも、シャフトの先端の速度が大きくなり、他方のゴルフクラブの計測データに近似した。一方、比較例では、上述したように、プレーヤーの腕及びシャフトの軌跡を再現できないことから、シャフトの先端の速度も推測できなかった。
【0137】
このように、実施例は、比較例に比べて、一方のゴルフスイングの計測データから、他方のゴルフクラブのゴルフスイングを精度よく推測することができた。
【0138】
[付記]
本発明は以下の態様を含む。
【0139】
[本発明1]
ゴルフスイングを解析するための装置であって、
プレーヤーのゴルフスイングの特徴量の第1時系列データを取得する取得部と、
前記第1時系列データの波形を、予め定められた複数の周波数帯の時系列データのセットに分解する分解部と、
前記セットに含まれる少なくとも一つの前記時系列データの少なくとも一部を変更して修正済セットを作成する変更部と、
前記修正済セットに含まれる前記複数の周波数帯の時系列データを合成し、前記特徴量に関する第2時系列データを生成する合成部とを含む、
スイング解析装置。
[本発明2]
前記特徴量は、トルク、力、エネルギー及びパワーの少なくとも1つを含む、本発明1に記載のスイング解析装置。
[本発明3]
前記分解部は、ウェーブレット変換に基づいて、前記第1時系列データの波形を分解する、本発明1又は2に記載のスイング解析装置。
[本発明4]
前記取得部は、前記ゴルフスイングの計測データに対して逆動力学計算を行うことで、前記第1時系列データを取得する、本発明1ないし3のいずれかに記載のスイング解析装置。
[本発明5]
前記第2時系列データに対して順動力学計算を行うことで、前記第2時系列データに基づいたゴルフスイングを推測する推定部をさらに含む、本発明1ないし4のいずれかに記載のスイング解析装置。
[本発明6]
前記変更部は、前記セットに含まれる少なくとも1つの前記時系列データの特徴量に、予め定められた係数を乗じる、本発明1ないし5のいずれかに記載のスイング解析装置。
[本発明7]
前記取得部は、少なくとも2種類のゴルフクラブについて、それぞれ、前記第1時系列データを取得し、
前記分解部は、前記少なくとも2種類のゴルフクラブの前記第1時系列データの波形を、それぞれ、前記複数の周波数帯の時系列データのセットに分解し、
前記変更部は、前記少なくとも2種類のゴルフクラブの一方のゴルフクラブの前記特徴量を基準として、前記少なくとも2種類のゴルフクラブの他方のゴルフクラブの前記特徴量の増減割合を、前記係数として特定する、本発明6に記載のスイング解析装置。
[本発明8]
ゴルフスイングを解析するための方法であって、
プレーヤーのゴルフスイングの特徴量の第1時系列データを取得する工程と、
前記第1時系列データの波形を、予め定められた複数の周波数帯の時系列データのセットに分解する工程と、
前記セットに含まれる少なくとも一つの前記時系列データの少なくとも一部を変更して修正済セットを作成する工程と、
前記修正済セットに含まれる前記複数の周波数帯の時系列データを合成し、前記特徴量に関する第2時系列データを生成する工程とを含む、
スイング解析方法。
[本発明9]
ゴルフスイングを解析するためのコンピュータプログラムであって、
コンピュータを、
プレーヤーのゴルフスイングの特徴量の第1時系列データを取得する手段と、
前記第1時系列データの波形を、予め定められた複数の周波数帯の時系列データのセットに分解する手段と、
前記セットに含まれる少なくとも一つの前記時系列データの少なくとも一部を変更して修正済セットを作成する手段と、
前記修正済セットに含まれる前記複数の周波数帯の時系列データを合成し、前記特徴量に関する第2時系列データを生成する手段として機能させる、
コンピュータプログラム。
【符号の説明】
【0140】
2 スイング解析装置
P プレーヤー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
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図20