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特開2024-142052自然平衡型ろ過装置、およびそのスローダウン洗浄方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142052
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】自然平衡型ろ過装置、およびそのスローダウン洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 24/02 20060101AFI20241003BHJP
   B01D 24/46 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B01D23/10 Z
B01D23/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054019
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(72)【発明者】
【氏名】岡賀 祥平
(72)【発明者】
【氏名】森本 恭史
(72)【発明者】
【氏名】永井 将貴
【テーマコード(参考)】
4D116
【Fターム(参考)】
4D116AA12
4D116BA06
4D116BA07
4D116DD01
4D116FF01A
4D116GG09
4D116KK02
4D116QA16B
4D116QA16F
4D116QA30B
4D116QA30C
4D116QA30D
4D116QA30F
4D116QC04A
4D116QC04B
4D116QC06
4D116QC08D
4D116QC23
4D116QC24
4D116QC26
4D116QC29D
4D116QC34A
4D116QC34B
4D116RR01
4D116RR05
4D116RR16
4D116UU20
4D116VV07
4D116VV08
(57)【要約】
【課題】狭小なスペースでも、短期間の設置工事でスローダウン洗浄を実現することができるスローダウン洗浄用の排水装置を設置することが可能な自然平衡型ろ過装置を提供する。
【解決手段】自然平衡ろ過装置は、ろ過池2に配置されたスローダウン洗浄装置70を備える。スローダウン洗浄装置は、ろ過池2に配置された密閉容器本体71と、本体71内部に配置され、排水トラフ30よりも高い位置で、かつ流出堰45の上端よりも低い位置にある上端を有する少なくとも1つの排水堰73と、本体71内部を排水渠4に連通する水封管75と、本体71内部に圧縮気体を導入する気体導入ライン77と、本体71内部の水位を検知する水位センサ76と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ろ材層および排水トラフが配置されるろ過室と、前記排水トラフよりも高い位置で前記ろ過室に連通する排水ガリットと、を有するろ過池と、
前記ろ過池に隣接して設けられ、流出堰で浄水渠に連通するろ過水渠と、
前記ろ過池の排水ガリットと繋がれる排水渠と、
前記ろ過池に配置されたスローダウン洗浄装置と、を備え、
前記スローダウン洗浄装置は、
前記ろ過池に配置された密閉容器本体と、
前記本体内部に配置され、前記排水トラフよりも高い位置で、かつ前記流出堰の上端よりも低い位置にある上端を有する少なくとも1つの排水堰と、
前記本体内部を前記排水渠に連通する封水管と、
前記本体内部に圧縮気体を導入する気体導入ラインと、
前記本体内部の水位を検知する水位センサと、を備えたことを特徴とする自然平衡型ろ過装置。
【請求項2】
前記スローダウン洗浄装置は、
前記排水堰によって区画された流入室と流出室とを連通する均圧管と、
前記均圧管に配置され、前記流入室から前記流出室への水の流れを遮断する一方で、前記流出室から前記流入室への水の流れを許容する逆止弁と、を備える、請求項1に記載の自然平衡型ろ過装置。
【請求項3】
前記排水堰は、前記本体の底面から延びる堰本体と、前記堰本体に高さ調整機構を介して取り付けられる調整板と、を有する、請求項1に記載の自然平衡型ろ過装置。
【請求項4】
前記少なくとも1つの排水堰は、
前記本体内部が3つ以上の室に区画される、請求項1に記載の自然平衡型ろ過装置。
【請求項5】
前記スローダウン洗浄装置は、
前記気体供給ラインに配置された開閉バルブと、
前記開閉バルブの動作を制御する制御装置と、をさらに備え、
前記制御装置は、
前記ろ過池に溜められた水をろ過する際には、前記開閉バルブを開いて、前記本体に前記圧縮気体を供給することで前記本体内部を水封し、
前記スローダウン洗浄する際には、前記開閉バルブを閉じて、前記本体への圧縮気体の供給を停止することで、前記本体内部にろ過水を導入し、
前記本体内に導入されたろ過水が前記排水堰を超えた時に、前記スローダウン洗浄が開始される、請求項1に記載の自然平衡型ろ過装置。
【請求項6】
前記制御装置は、
前記スローダウン洗浄時に、前記本体内部の水位を前記水位センサで監視し、
前記本体内部の水位が所定の位置よりも高い場合には、前記開閉バルブの開閉動作を制御して、前記本体内部の水位を調整する、請求項5に記載の自然平衡型ろ過装置。
【請求項7】
ろ過室にろ材層および排水トラフが配置され、前記排水トラフよりも高い位置で排水ガリットが前記ろ過室に連通してろ過池を形成し、
流出堰で、浄水渠に連通するろ過水渠が、排水渠により前記排水ガリットと繋がれ、前記ろ過池によりスローダウン洗浄を行う自然平衡型ろ過装置のスローダウン洗浄方法であって、
前記ろ過池に溜められた水をろ過する際には、前記本体に気体導入ラインにより圧縮気体を供給し、
前記本体内部を前記排水渠に連通した封水管により水封し、
前記スローダウン洗浄する際には、前記本体への圧縮気体の供給を停止し、
前記本体内に導入された逆流洗浄排水が、前記排水堰を超えた時に、前記スローダウン洗浄が開始することを特徴とする自然平衡型ろ過装置のスローダウン洗浄方法。
【請求項8】
前記スローダウン洗浄時に、前記本体内部の水位を水位センサで監視し、
前記本体内部の水位が所定の位置よりも高い場合には、前記気体導入ラインから前記圧縮気体を前記本体に供給して、前記本体内部の水位を調整する、請求項7に記載のスローダウン洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上水、工業用水、その他の民間用水などの水をろ過するために使用される自然平衡型ろ過装置、およびそのスローダウン洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自然平衡型ろ過装置は、水の流入、停止、および洗浄水の排出を、サイフォンなどを利用して行うものである。このような自然平衡型のろ過装置は、そのろ材層の洗浄時にろ過水を用いる方式であり、高架水槽や洗浄ポンプが不要であるため、省エネルギーであるという特徴を有する。
【0003】
クリプトスポリジウム等の耐塩素性病原微生物の問題が発生して以来、ろ過水の濁度管理の厳格化が求められるようになっており、自然平衡型ろ過装置においてもクリプトスポリジウム対策を行う必要が生じている。クリプトスポリジウム対策としては、ろ材の洗浄時に、逆洗洗浄速度を段階的に減少する「スローダウン方式」が用いられている。
【0004】
スローダウン方式は、通常の逆流洗浄後に、ろ材層中のろ材が流動化しない速度(例えば0.15~0.30m/min)で、ろ材層を逆流洗浄(すすぎ洗い)する洗浄方式である。スローダウン方式の逆流洗浄(以下、「スローダウン洗浄」と称する)により、ろ材層内の濁質はゆっくりと押し出され、ろ過池内の残留水は十分、洗浄水(ろ過水)に置換される。そのため、ろ過再開後の初期ろ過水の濁度は、目標の0.1度を達成することができる。
【0005】
スローダウン洗浄を行う方式の例としては、ダブルサイフォン方式、ダブルトラフ方式、および連通弁開度調整方式などが挙げられる。ダブルサイフォン方式では、通常1本で構成される排水サイフォンを大小2本構成とし、逆流洗浄時には大小2本の排水サイフォンを使用する一方で、スローダウン洗浄時には小サイフォン1本だけを使用する。この小サイフォンのみを使用することにより、逆流洗浄水量が減少してろ過池内の水位が上昇し、逆流洗浄に必要な水位差が小さくなるので、小水量のスローダウン洗浄が可能となる(例えば、特許文献1、および特許文献2参照)。
【0006】
ダブルトラフ方式では、逆洗排水トラフの上方に小排水トラフを別途設置し、逆流洗浄時は逆洗排水トラフを使用し、スローダウン洗浄時には、小排水トラフを使用する。小排水トラフは、逆洗排水トラフよりも高い位置にあるため、ろ過水越流堰との水位差が小さく、洗浄水量が減少して、スローダウン洗浄が可能となる(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
連通弁開度調整方式では、ろ過水渠とろ過池とを連通する連通路が設けられ、当該連通路に連通弁が配置される。スローダウン洗浄時には、連通弁の開度を絞り、流入水量を減少させることで、スローダウン洗浄を可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001-252506号公報
【特許文献2】特開2002-126415号公報
【特許文献3】特開2012-45459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
現在、新規に建設される自然平衡型ろ過装置だけでなく、既設の自然平衡型ろ過装置にもクリプトスポリジウム対策を施す要請が多々あり、スローダウン洗浄の採用への要請が高まっている。しかしながら、既設の自然平衡型ろ過装置を改造するには長い工期を必要とし、施工費用も高額となる。特に、上述したスローダウンの各方式には、次のような問題がある。
【0010】
ダブルサイフォン方式では、自然平衡型ろ過装置の躯体の構造上および場内スペースの関係上、小排水サイフォンまたは二重サイフォン管を設置できない場合がある。例えば、小排水サイフォン設置箇所のスペースが狭いため、小排水サイフォン設置スペースを確保できない。さらに、工事が大掛かりになるため、工期も長期に及ぶという問題もある。そのため、所定の期日までに自然平衡型ろ過装置の更新を終えることができない場合がある。ダブルトラフ方式でも、各ろ過池に排水トラフを2段設置する必要がある。このため、工事費用が高くなり、工期も長期に及ぶことになる。
【0011】
連通弁開度調整方式では、ろ過水渠とろ過池との間に電動化された連通弁をろ過池毎に設置しなければならないため、連通弁あるいは連通ゲートを有していない自然平衡型ろ過装置の場合は、そもそも連通弁開度調整方式を採用できない。さらに、連通弁開度調整方式では、自動化された大型弁が必要であり、費用が高くなる。加えて、ろ過水渠は自然平衡型ろ過装置全体で共通であるのが通常であり、浄水場など24時間運転している設備では、水運用の関係上、施工できない場合がある。
【0012】
そこで、狭小なスペースでも、短期間の設置工事でスローダウン洗浄を実現することができるスローダウン洗浄用の排水装置を設置することが可能な自然平衡型ろ過装置が提供される。
さらに、このような自然平衡型ろ過装置を用いることで、スローダウン洗浄方法が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一態様では、ろ材層および排水トラフが配置されるろ過室と、前記排水トラフよりも高い位置で前記ろ過室に連通する排水ガリットと、を有するろ過池と、前記ろ過池に隣接して設けられ、流出堰で浄水渠に連通するろ過水渠と、前記ろ過池の排水ガリットと繋がれる排水渠と、前記ろ過池に配置されたスローダウン洗浄装置と、を備え、前記スローダウン洗浄装置は、前記ろ過池に配置された密閉容器本体と、前記本体内部に配置され、前記排水トラフよりも高い位置で、かつ前記流出堰の上端よりも低い位置にある上端を有する少なくとも1つの排水堰と、前記本体内部を前記排水渠に連通する封水管と、前記本体内部に圧縮気体を導入する気体導入ラインと、前記本体内部の水位を検知する水位センサと、を備える、自然平衡型ろ過装置が提供される。
【0014】
一態様では、前記スローダウン洗浄装置は、前記排水堰によって区画された流入室と流出室とを連通する均圧管と、前記均圧管に配置され、前記流入室から前記流出室への水の流れを遮断する一方で、前記流出室から前記流入室への水の流れを許容する逆止弁と、をさらに備える。
一態様では、前記排水堰は、前記本体の底面から延びる堰本体と、前記堰本体に高さ調整機構を介して取り付けられる調整板と、を有する。
一態様では、前記少なくとも1つの排水堰は、前記本体内部が3つ以上の室に区画される。
【0015】
一態様では、ろ材層および排水トラフが配置されるろ過室と、前記排水トラフよりも高い位置で前記ろ過室に連通する排水ガリットと、を有するろ過池と、前記ろ過池に隣接して設けられ、流出堰で浄水渠に連通するろ過水渠と、前記ろ過池の排水ガリットと繋がれる排水渠と、前記ろ過池に配置されたスローダウン洗浄装置と、を備えた自然平衡型ろ過装置のスローダウン洗浄方法であって、前記スローダウン洗浄装置は、前記ろ過池に配置された密閉容器状の本体と、前記本体内部に配置され、前記排水ガリットよりも高い位置で、かつ前記流出堰の上端よりも低い位置にある上端を有する少なくとも1つの排水堰と、前記本体内部を前記排水渠に連通する封水管と、前記本体内部に圧縮気体を導入する気体導入ラインと、前記本体内部の水位を検知する水位センサと、を備えており、前記ろ過池に溜められた水をろ過する際には、前記本体に前記圧縮気体を供給するとともに、前記封水管を用いて、前記本体内部を水封し、前記スローダウン洗浄する際には、前記本体への圧縮気体の供給を停止し、前記本体内に導入された逆流洗浄排水が前記排水堰を超えた時に、前記スローダウン洗浄が開始される、スローダウン洗浄方法が提供される。
【0016】
一態様では、前記スローダウン洗浄時に、前記本体内部の水位を前記水位センサで監視し、前記本体内部の水位が所定の位置よりも高い場合には、前記気体導入ラインから前記圧縮気体を前記本体に供給して、前記本体内部の水位を調整する。
【発明の効果】
【0017】
小型化が可能なスローダウン洗浄装置をろ過池に設置するだけで、スローダウン洗浄を実施可能な自然平衡型ろ過装置を提供することができる。したがって、狭小なスペースでも、スローダウン洗浄を実現することができるスローダウン洗浄装置を自然平衡型ろ過装置に設置することができる。さらに、大掛かりな仮設を用いずとも、スローダウン洗浄装置を据え付ける工事が可能なため、短期間の工事で既設の自然平衡型ろ過装置にスローダウン洗浄機能を付与できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、一実施形態に係る自然平衡型ろ過装置で水がろ過されている状態を示した模式図である。
図2図2は、図1に示す自然平衡型ろ過装置のろ材層が逆流洗浄されている状態を示した模式図である。
図3図3は、図1に示す自然平衡型ろ過装置のろ材層がスローダウン洗浄されている状態を示した模式図である。
図4図4は、一実施形態に係るスローダウン洗浄装置を模式的に示す斜視図である。
図5図5(a)は、排水堰の変形例を示す模式図であり、図5(b)は、図5(a)に示す高さ調整機構を示す模式図である。
図6図6は、図4に示すスローダウン洗浄装置の変形例を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は、一実施形態に係る自然平衡型ろ過装置で水がろ過されている状態を示した模式図である。図2は、図1に示す自然平衡型ろ過装置のろ材層が逆流洗浄されている状態を示した模式図である。図1に示されるように、自然平衡型ろ過装置は、沈殿池(図示せず)に連通する流入渠1と、この流入渠1の下方に配置されて水をろ過処理するろ過池2と、ろ過池2を通過したろ過水が流れ込むろ過水渠3と、ろ過池2に隣接して設置された排水渠4とを有している。通常、1つの浄水処理施設につき複数のろ過池2が設けられ、排水渠4は、これら複数のろ過池2に対して共通に1つ設けられている。図1および図2では、1つのろ過池2のみが示されている。
【0020】
流入渠1の内部には、垂直堰5と流入堰6が設けられているとともに、この垂直堰5を跨いで逆U字状の流入サイフォン管7が配置される。この流入サイフォン管7の両端部は、水没させた状態におかれている。そして、この流入サイフォン管7の頂部には、流入サイフォン形成弁11と流入サイフォン破壊弁12とを有する流入サイフォン形成管10が連結される。流入サイフォン形成弁11は、図示しない真空ポンプなどの真空源に接続されている。
【0021】
流入サイフォン形成弁11を開き、流入サイフォン破壊弁12を閉じると、流入サイフォン管7内が真空状態となって、この内部を水が流れ、流入堰6を溢流した水が流入管8を通じてろ過池2内に流れ込む。流入サイフォン形成弁11を閉じた状態で、流入サイフォン破壊弁12を開くと、流入サイフォン管7内の真空状態が破壊されることで、内部の水流が失われ、流入渠1内の水は、垂直堰5と流入堰6に堰き止められ、ろ過池2内への水の流入が停止するようになっている。
【0022】
ろ過池2は、仕切壁20によって排水ガリット21とろ過室22とに仕切られる。ろ過室22の内部には、排水ガリット21に連通する排水トラフ30と、ろ材(例えば、アンスラサイトや珪砂)からなるろ材層40が設けられ、このろ材層40の下部に集水装置41が配置される。排水トラフ30は、ろ材層40の上方に配置されている。集水装置41は、ろ材層40を通過したろ過水を通水するための装置であり、集水装置41として、有孔ブロック型、ストレーナ型、多孔管型、多孔板型などの各種集水装置を用いることができる。このろ過池2は、そのろ材層40の下方において、ろ過水連通路42を介して、ろ過水渠3に連通する。このろ過水渠3は、ろ過池2に隣接して設けられており、流出堰45を介して浄水渠46に連通する。
【0023】
上記したように流入サイフォン管7を動作させることにより、流入管8からろ過池2内に水が流れ込み、当該流入水でろ過池2内の水位は上昇していく。そして、ろ過池2内の水位が流出堰45よりも高い位置に達した時にろ過が開始される。水はろ材層40および集水装置41を通過し、ろ過水連通路42を通ってろ過水渠3に流入する。ろ材層40でろ過されたろ過水は、流出堰45を溢流して、浄水渠46へ流れる。
【0024】
次に、図2を参照して、ろ材層40の逆流洗浄について説明する。
ろ過を継続するに従い、ろ材層40に捕捉された濁質(堆積物)が蓄積することで、ろ材層40のろ過抵抗が徐々に増大し、ろ過池2の損失水頭が増加する。このため、ろ過池2に配置されたろ材層40を必要に応じて逆流洗浄する。
【0025】
ろ過池2の排水ガリット21と排水渠4は、排水手段である逆U字状の排水サイフォン管50で繋がれており、この排水サイフォン管50の両端部は水没するようになっている。そして、排水サイフォン管50の頂部に、排水サイフォン形成弁61と排水サイフォン破壊弁62とを有する排水サイフォン形成管60が連結される。排水サイフォン形成弁61は、図示しない真空ポンプなどの真空源に接続されている。
【0026】
排水サイフォン形成弁61を開き、排水サイフォン破壊弁62を閉じると、排水サイフォン管50内が真空状態となって、この内部をろ過池2内の水が流れ、排水渠4に導かれる。ろ過池2内の水を排水渠4に導くことにより、一旦ろ過したろ過水渠3内のろ過水が逆流する。これにより、逆流するろ過水がろ材層40を通過し、当該逆流水は、排水トラフ30、排水ガリット21、および排水サイフォン管50を通って排水渠4内に導入される。逆流水は、排水トラフ30と、流出堰45との間の水位差を駆動力として水が流れる。このようにして、ろ材層40の逆流洗浄が行われる。排水サイフォン形成弁61を閉じた状態で、排水サイフォン破壊弁62を開くと、排水サイフォン管50内の真空状態が破壊されることで、内部の水流が失われ、逆流洗浄が停止する。
【0027】
次に、図3および図4を参照して、ろ材層40のスローダウン洗浄について説明する。
図3は、図1に示す自然平衡型ろ過装置のろ材層がスローダウン洗浄されている状態を示した模式図であり、図4は、一実施形態に係るスローダウン洗浄装置を模式的に示す斜視図である。図4に示すスローダウン洗浄装置70が図1乃至図3に示す自然平衡ろ過装置に配置されている。スローダウン洗浄とは、ろ材層40中のろ材が流動化しない速度でろ材層40を逆流洗浄(すすぎ洗い)する洗浄方式であり、逆流洗浄後にスローダウン洗浄を行うことで、ろ過再開直後のろ過水濁度の上昇を抑えることができる。スローダウン洗浄時にろ材層40内を通過する逆流洗浄水の流速は、例えば、0.1~0.3m/minである。
【0028】
図1乃至図3に示すように、自然平衡型ろ過装置は、ろ材層のスローダウン洗浄を実行するためのスローダウン洗浄装置70を有している。図4に示すように、スローダウン洗浄装置70は、中空構造を有し、水の流入口71aを有する本体71と、本体71の内部に配置された排水堰73と、本体71に連結された水封管75と、本体71内の水位を検知可能な水位センサ76と、本体71に気体を供給する気体供給ライン77と、気体供給ライン77に配置された開閉バルブ78と、を備えている。本実施形態では、本体71は、直方体形状を有する密閉容器であり、水位センサ76は電極センサである。水位センサ76の種類および構成は、本体71内の水位を検知可能な限り任意である。例えば、水位センサ76は、超音波式水位センサ、電波式水位センサ、レーザー式水位センサなどの非接触式の水位センサであってもよい。
【0029】
排水堰73によって、本体内部71は、流入室71bと流出室71cとに区画されており、流入室71bと流出室71cとは、排水堰73の上方で互いに連通している。流入口71aは、流入室71bに開口しており、水は、流入口71aを通って、本体71に導入される。本実施形態では、流入口71aは、流入室71bの底面全体に形成されている。言い換えれば、本体71において、流入室71bの底壁全体が省略されている。一実施形態では、図4の円形状の一点鎖線で示すように、流入室71bの底壁の一部に開口を設け、該開口を流入口71aとしてもよい。気体供給ライン77は、流入室71bに連通するように、本体71に連結されている。
【0030】
本実施形態では、水封管75は、U字形状を有する管であり、流出室71cに連通している。水封管75は、スローダウン洗浄時は、本体71から水を排出する排出管として機能し、スローダウン洗浄終了後には、本体71の内部空間を外部から封水する。図4に示す水封管75は、U字形状を有しているが、水封管75の種類および形状は、スローダウン洗浄時に、本体71から水を排出する排出管として機能し、スローダウン洗浄終了後に、本体71の内部空間を外部から封水できる限り任意である。
【0031】
図4に示すように、スローダウン洗浄装置70は、流入室71bと流出室71cとを連通する均圧管87を有していてもよい。均圧管87には、流入室71bから流出室71cへの水の流れを遮断する一方で、流出室71cから流入室71bへの水の流れを許容する逆止弁88が配置されている。均圧管87と逆止弁88によって、本体71が封水された後の流出室71cの水位と流入室71bとの水位の平衡が保たれ、安定した本体71の封水が確保される。
【0032】
本実施形態では、本体71に供給される気体の圧力と流量を調整可能なように、気体供給ライン77には、圧力調整バルブ80と、流量調整バルブ81とが配置されている。一実施形態では、開閉バルブ78に流量調整機能を持たせ、流量調整バルブ81を省略してもよい。
【0033】
排水堰73は、本体71の底面から上向きに延びている。排水堰73の上端は、流出堰45の上端よりも低い位置にある一方で、排水トラフ30よりも高い位置にある。スローダウン洗浄時は、排水堰73の上端と流出堰45の上端の水位差を利用して、スローダウン洗浄時の逆流洗浄排水が本体71から水封管75を介して排水渠4に導入される。言い換えれば、スローダウン洗浄時にろ材層40を通過するろ過水の流速は、排水堰73の上端と流出堰45の上端の水位差によって決定される。したがって、スローダウン洗浄時のろ材層40を通過するろ過水の流速が適切な値(例えば、0.1~0.3m/min)となるように、流出堰45に対する本体71および/または排水堰73の位置が決定される。
【0034】
次に、図1乃至図4を参照して説明された自然平衡型ろ過装置の運転について説明する。
図1乃至図3に示すように、自然平衡型ろ過装置は、流入サイフォン管7、排水サイフォン管50、およびスローダウン洗浄装置70の動作の制御を行う制御装置15を有している。この自然平衡型ろ過装置でろ過水処理を行う際には、制御装置15が流入サイフォン管7の流入サイフォン形成弁11を開き、流入サイフォン破壊弁12を閉じるようにこれらに指令を発する。すると、上述したように、流入サイフォン管7内が真空状態となって、この内部を水が流れるので、流入管8からろ過池2内に水が流れ込む(図1参照)。
【0035】
ろ過池2内の水位が流出堰45を超えると、ろ材層40内を水が通過するろ過処理が開始される。ろ過処理中は、ろ過池2内の水位は、スローダウン洗浄装置70の本体71の流入口71aよりも上に位置するが、制御装置15は、気体供給ライン77に配置された開閉バルブ78を開き、本体71に圧縮気体(例えば、圧縮空気)を供給する。本体71に供給される圧縮気体と、水封管78とによって、本体71内の封水が達成されるので、スローダウン洗浄装置70を介してろ過池2内の水が排水渠4に流出することはない。
【0036】
ろ過処理を継続することで、ろ材層40のろ過抵抗、すなわち損失水頭が徐々に増加する。この損失水頭またはろ過継続時間が設定値に達したとき、制御装置15は、流入サイフォン破壊弁12を開いて、ろ過池2内への水の流入を停止させる。
【0037】
ろ過池2への水の流入が停止すると、ろ過池2内の水位は流出堰45と同じ高さまで低下する。その後、制御装置15は、排水サイフォン管50の排水サイフォン形成弁61を開き、排水サイフォン破壊弁62を閉じるように指令を発する。すると、排水サイフォン管50内が真空状態となって、この内部をろ過池2内の水が流れ、排水渠4に導かれるようになり、逆流洗浄が開始される(図2参照)。この逆流洗浄では、ろ材層40のろ材が流動化する流速でろ過水がろ材層40内を逆流する。
【0038】
逆流洗浄が開始されると、ろ過池2内の水位が低下していく。制御装置15は、スローダウン洗浄装置70の水位センサ76を用いて、本体71内の水位を監視している。水位センサ76がろ過池2内の水位が本体71の流入口71aよりも低下したことを検知すると、制御装置15は、開閉バルブ78を閉じて、本体2内を大気開放状態にする。
【0039】
逆流洗浄が所定の設定時間行われると、制御装置15は、排水サイフォン破壊弁62を開くように指令を発する。これにより、排水サイフォン管50から排水渠4への水を排出する逆流洗浄が停止される。
【0040】
逆流洗浄が終了しても、継続してろ過水渠3からろ過池2へ水が流れ、ろ過池2の水位は上昇していく。そして、ろ過池2の水位がスローダウン洗浄装置70の本体71の流入口71aに達すると、逆流洗浄排水が流入口71aを介して本体71に導入される。ろ過池2の水位がスローダウン洗浄装置70の本体71内に配置された排水堰73の上端を越えると、スローダウン洗浄が開始される。上述したように、スローダウン洗浄時にろ材層40を通過するろ過水の流速は、排水堰73の上端と流出堰45の上端の水位差によって決定される。スローダウン洗浄装置70の本体71に導入されて、排水堰73を越流した逆流洗浄排水は、水封管78を流れて、排水渠4に排出される(図3参照)。
【0041】
スローダウン洗浄を終了するには、制御装置15は、開閉バルブ78を開く。この動作によって、本体71内に所定の圧力を有する圧縮気体が供給され、気体供給ライン77から本体71に供給された圧縮気体の圧力と水封管75との作用によって、本体71内の水が水封され、流入口71aから本体71への逆流洗浄排水の導入と、流出口71cから排水渠4への逆流洗浄排水の排出が停止する。
【0042】
スローダウン洗浄が終了しても、継続してろ過水渠3からろ過池2へろ過水が流れ、ろ過池2の水位は上昇していく。ろ過池2の水位が流出堰45に達すると、ろ過水渠3からろ過池2へろ過水の流出が停止する。その後、制御装置15は、流入サイフォン管7の流入サイフォン形成弁11を開き、流入サイフォン破壊弁12を閉じるようにこれらに指令を発して、流入管8からろ過池2内に水を導入し、水のろ過処理を開始する。
【0043】
スローダウン洗浄時に、制御装置15は、本体71内の水位を水位センサ76を用いて監視してもよい。制御装置15が、水位センサ76によって検知される本体71内の水位が高すぎると判断すると、制御装置15は、気体供給ライン77に配置された開閉バルブ78の開閉動作を制御して、圧縮気体を本体71に供給し、本体71内の水位の調整を行う。例えば、制御装置15は、本体71の水位の閾値を予め記憶しており、水位センサ76によって検知された本体71内の水位が閾値を超えた場合に、開閉バルブ78の開閉制御を開始する。具体的には、制御装置15は、本体71の水位が閾値以下となるように、開閉バルブ78を開閉させて、圧縮気体の本体71への供給と停止を制御する。
【0044】
気体供給ライン77に圧力調整バルブ80が配置されている場合は、制御装置15は、開閉バルブ78を開いた状態に維持しながら、圧力調整バルブ80を用いて本体71に供給される気体の圧力を調整してもよい。具体的には、制御装置15は、本体71の水位が閾値以下となるように、開閉バルブ78を開いた状態に維持しながら、圧縮気体の圧力を制御する。
【0045】
同様に、気体供給ライン77に流量調整バルブ81が配置されている場合は、制御装置15は、開閉バルブ78を開いた状態に維持しながら、流量調整バルブ81を用いて本体71に供給される気体の流量を調整してもよい。具体的には、制御装置15は、本体71の水位が閾値以下となるように、開閉バルブ78を開いた状態に維持しながら、圧縮気体の流量を制御する。
【0046】
本実施形態によれば、比較的小さなスローダウン洗浄装置70をろ過池2に設置するだけで、スローダウン洗浄を実施可能な自然平衡型ろ過装置を提供することができる。例えば、数千m/池程度の処理能力を有するろ過池2であれば、一辺が50~70cm程度の大きさを有する直方体の本体71を用意することで十分にスローダウン洗浄を実行可能である。したがって、狭小なスペースでも、スローダウン洗浄を実現することができるスローダウン洗浄装置を自然平衡型ろ過装置に設置することができる。特に、小規模水道施設では、ろ過池面積が小さいことが多いが、このようなろ過池であっても、スローダウン洗浄装置70を設置できる。
【0047】
なお、比較的小さなスローダウン洗浄装置70をろ過池2に設置するだけの工事で、既設の自然平衡型ろ過装置にスローダウン洗浄機能を付与できる。すなわち、大掛かりな仮設を用いずとも、スローダウン洗浄装置70を据え付ける工事が可能なため、短期間の工事で既設の自然平衡型ろ過装置にスローダウン洗浄機能を付与できる。そのため、ろ過池2の停止可能期間が短い場合であっても、当該期間内に施工完了し、水道施設の安定運転へ貢献できる。
【0048】
さらに、スローダウン洗浄を行うために従来の自然平衡型ろ過装置で必要であったダブルサイフォン管または二重サイフォン管、あるいはダブルトラフといった大がかりな機器乃至設備が不要となる。その結果、自然平衡型ろ過装置の運転管理における点検項目、定期的なメンテナンス費用および修繕費用の大幅な増加を抑制できる。
【0049】
さらに、スローダウン洗浄装置70は、自然平衡型ろ過装置内の水の流れを直接開閉するバルブを必要としない。そのため、バルブの開閉操作といった運転管理項目の増加を抑えられ、運転管理者の負荷低減(省力化)へ貢献できる。また、スローダウン洗浄装置70を用いれば、バルブの開閉不良といった故障に起因するろ過池の緊急運転停止を避けることが可能となり、水道施設の安定運転へ寄与することができる。
【0050】
図5(a)は、排水堰の変形例を示す模式図であり、図5(b)は、図5(a)に示す高さ調整機構を示す模式図である。図5(a)に示す排水堰73は、流出堰45の上端に対する排水堰73の上端の位置を調整可能な高さ調整機構84を備えている。具体的には、図5に示す排水堰73は、本体71の底面から延びる堰本体73aと、堰本体73aに高さ調整機構84を介して取り付けられる調整板73bとを有する。図5(b)に示す高さ調整機構84は、堰本体73aと調整板73bとに間に挟まれる少なくとも1つの調整バー84aを有しており、調整バー84aには複数の孔84bが貫通している。堰本体73aと調整板73bは、それぞれ、調整バー84aの孔84bに対応して形成された貫通孔を有しており、堰本体73aの孔と調整板73bの孔とを、調整バー84のいずれかの孔84bに合わせた状態で、ボルトをこれら貫通孔に通し、該ボルトにナットを係合させることで、堰73の高さを調整することができる。
【0051】
高さ調整機構84を有する排水堰73によれば、スローダウン洗浄時にろ材層40を通るろ過水の流速を微調整することが可能である。その結果、スローダウン洗浄装置70の試運転を容易に行うことができる。スローダウン洗浄装置70の試運転は、例えば、スローダウン洗浄装置70をろ過池2に設置した直後だけでなく、自然平衡型ろ過装置のメンテナンス後にも行われる。したがって、高さ調整機構84を有する排水堰73によれば、素早い自然平衡型ろ過装置の立ち上げが期待できる。
【0052】
図6は、図4に示すスローダウン洗浄装置の変形例を模式的に示す斜視図である。図6に示すスローダウン洗浄装置70は、複数の(図示した例では、2つの)排水堰73A,73Bを有する点で、図4に示すスローダウン洗浄装置70と異なる。
【0053】
図6に示すように、本体71は、第1排水堰73Aによって、流入室71bと中間室71dとに区画され、流入室71bと中間室71dとは、第1排水堰73aの上方で互いに連通する。同様に、本体71は、第2排水堰73bによって、中間室71dと流出室71cとに区画され、中間室71dと流出室71cとは、第2排水堰73bの上方で互いに連通する。すなわち、流入室71bの上部は、中間室71dの上部を介して流出室71cの上部と連通する。第1排水堰73Aの上端と、第2排水堰73Bの上端とは、流出堰45の上端よりも低い位置にある。本実施形態では、逆止弁88が配置された均圧管87によって、流入室71bと中間室71dとが連通される。
【0054】
複数の排水堰73A,73Bによって、流入室71bと流出室71cとの間に中間室71dが形成され、中間室71dによって、流入室71bが水封管75と完全に離間される。その結果、図4に示す実施形態よりも安定した本体71の封水が確保される。
【0055】
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうる。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲に解釈されるものである。
【符号の説明】
【0056】
2 ろ過池
3 ろ過水渠
4 排水渠
15 制御装置
21 排水ガリット
22 ろ過室
30 排水トラフ
40 ろ材層
45 流出堰
48 排水堰
49 開口
50 排水サイフォン管
52 排水壁
53 排水ゲート
55 排水管
56 スローダウン用弁
60 排水サイフォン形成管
61 排水サイフォン形成弁
62 排水サイフォン破壊弁
70 スローダウン洗浄装置
71 本体
73,73A,73B 排水堰
75 水封管
76 水位センサ
77 気体供給ライン
78 開閉バルブ
80 圧力調整バルブ
81 流量調整バルブ
87 均圧管
88 逆止弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6