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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142055
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ボルト交換方法および装置
(51)【国際特許分類】
   G21C 13/02 20060101AFI20241003BHJP
   G21C 19/02 20060101ALI20241003BHJP
   F16B 23/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G21C13/02 100
G21C19/02 050
G21C13/02 200
F16B23/00 F
F16B23/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054023
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 優
(72)【発明者】
【氏名】南山 彰男
(57)【要約】
【課題】ボルト交換方法および装置において、水中でのボルト交換作業の作業性の向上を図る。
【解決手段】水中に配置された第1構造物に第2構造物を締結したボルトを交換するボルト交換方法において、既設ボルトの回り止め部の除去と第2構造物に対する係止溝の加工とを放電加工により同時に行うステップと、既設ボルトを抜き取るステップと、第2構造物に設けられたボルト貫通孔に回り止めキャップを取付けるステップと、新設ボルトを回り止めキャップおよびボルト貫通孔に貫通させて第1構造物に締結するステップと、回り止めキャップを変形させて新設ボルトと係止溝に係止するステップと、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に配置された第1構造物に第2構造物を締結したボルトを交換するボルト交換方法において、
既設ボルトの回り止め部の除去と前記第2構造物に対する係止溝の加工とを放電加工により同時に行うステップと、
前記既設ボルトを抜き取るステップと、
前記第2構造物に設けられたボルト貫通孔に回り止めキャップを取付けるステップと、
新設ボルトを前記回り止めキャップおよび前記ボルト貫通孔に貫通させて前記第1構造物に締結するステップと、
前記回り止めキャップを変形させて前記新設ボルトと前記係止溝に係止するステップと、
を有するボルト交換方法。
【請求項2】
前記放電加工により前記係止溝を複数加工する、
請求項1に記載のボルト交換方法。
【請求項3】
前記既設ボルトの回り止め部の除去と前記第2構造物に対する係止溝の加工とを放電加工により同時に行うとき、前記ボルト貫通孔に対してざぐり穴拡大加工を行う、
請求項1に記載のボルト交換方法。
【請求項4】
前記放電加工により前記ボルト貫通孔の全周にわたってざぐり穴拡大加工を行う、
請求項3に記載のボルト交換方法。
【請求項5】
前記回り止めキャップは、円筒形状をなし、前記回り止めキャップにおける周方向の一部を内側に変形させて前記新設ボルトに係止し、前記回り止めキャップにおける周方向の一部を外側に変形させて前記係止溝に係止する、
請求項1に記載のボルト交換方法。
【請求項6】
前記新設ボルトは、頭部に切欠部を有し、前記回り止めキャップにおける周方向の一部を内側に変形させて前記切欠部に係止する、
請求項5に記載のボルト交換方法。
【請求項7】
前記第1構造物は、原子炉容器であり、前記第2構造物は、前記原子炉容器の内壁面に固定されるクレビスインサートである、
請求項1に記載のボルト交換方法。
【請求項8】
水中に配置された第1構造物に第2構造物を締結したボルトを交換するボルト交換装置において、
既設ボルトの回り止め部の除去と前記第2構造物に対する係止溝の加工とを放電加工により同時に行う放電加工装置と、
前記既設ボルトを抜き取るボルト抜き取り装置と、
前記第2構造物に設けられたボルト貫通孔に回り止めキャップを取付けるキャップ取付装置と、
新設ボルトを前記回り止めキャップおよび前記ボルト貫通孔に貫通させて前記第1構造物に締結するボルト締結装置と、
前記回り止めキャップを変形させて前記新設ボルトと前記係止溝に係止する変形装置と、
を備えるボルト交換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水中にあるボルトを交換するボルト交換方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子炉容器は、内部に炉心槽が配置され、炉心槽は、内部に複数の燃料集合体から構成される炉心が配置される。この場合、炉心槽は、下部が原子炉容器の内壁面に位置決めされ、上部が原子炉容器の内壁面に支持される。すなわち、原子炉容器は、内壁面にクレビスインサートが周方向に間隔を空けて固定され、炉心槽は、外壁面にラジアルキーが周方向に間隔を空けて固定される。炉心槽は、原子炉容器の上部から挿入され、ラジアルキーがクレビスインサートに嵌合することで、ラジアル方向の位置決めがなされる。このような原子炉容器に対する炉心槽に支持構造としては、例えば、特許文献1に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62-140488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クレビスインサートは、原子炉容器の内壁面に複数のボルトにより固定される。複数のボルトは、クレビスインサートを原子炉容器の内壁面に固定し、溶接により回り止めが施されている。原子炉容器を長期間にわたって使用したとき、ボルトを交換する必要が発生することがある。この場合、原子炉容器は、内部に冷却水が充填され、放射線区域であることから、作業者は、遠隔でロボットを操作してボルト交換作業を行うこととなり、作業性の向上が望まれている。
【0005】
本開示は、上述した課題を解決するものであり、水中でのボルト交換作業の作業性の向上を図るボルト交換方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための本開示のボルト交換方法は、水中に配置された第1構造物に第2構造物を締結したボルトを交換するボルト交換方法において、既設ボルトの回り止め部の除去と前記第2構造物に対する係止溝の加工とを放電加工により同時に行うステップと、前記既設ボルトを抜き取るステップと、前記第2構造物に設けられたボルト貫通孔に回り止めキャップを取付けるステップと、新設ボルトを前記回り止めキャップおよび前記ボルト貫通孔に貫通させて前記第1構造物に締結するステップと、前記回り止めキャップを変形させて前記新設ボルトと前記係止溝に係止するステップと、を有する。
【0007】
また、本開示のボルト交換装置は、水中に配置された第1構造物に第2構造物を締結したボルトを交換するボルト交換装置において、既設ボルトの回り止め部の除去と前記第2構造物に対する係止溝の加工とを放電加工により同時に行う放電加工装置と、前記既設ボルトを抜き取るボルト抜き取り装置と、前記第2構造物に設けられたボルト貫通孔に回り止めキャップを取付けるキャップ取付装置と、新設ボルトを前記回り止めキャップおよび前記ボルト貫通孔に貫通させて前記第1構造物に締結するボルト締結装置と、前記回り止めキャップを変形させて前記新設ボルトと前記係止溝に係止する変形装置と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示のボルト交換方法および装置によれば、水中でのボルト交換作業の作業性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、加圧水型原子炉を表す縦断面図である。
図2図2は、原子炉容器に対する炉心槽の位置決め部材を表す水平断面図である。
図3図3は、クレビスインサートを表す正面図である。
図4図4は、本実施形態のボルト交換方法を表すフローチャートである。
図5-1】図5-1は、既設ボルトの締結状態を表す断面図である。
図5-2】図5-2は、既設ボルトの締結状態を表す平面図である。
図6図6は、放電加工電極を表す概略図である。
図7-1】図7-1は、既設ボルトの回り止め除去作業を表す断面図である。
図7-2】図7-2は、既設ボルトの回り止め除去作業を表す平面図である。
図8図8は、放電加工電極の変形例を表す概略図である。
図9-1】図9-1は、ざぐり穴の拡大加工作業を表す断面図である。
図9-2】図9-2は、ざぐり穴の拡大加工作業を表す平面図である。
図10図10は、既設ボルトの抜き取り作業を表す断面図である。
図11-1】図11-1は、既設ボルトの抜き取り後のねじ孔およびボルト貫通孔を表す断面図である。
図11-2】図11-2は、既設ボルトの抜き取り後のねじ孔およびボルト貫通孔を表す平面図である。
図12-1】図12-1は、回り止めキャップの取付作業を表す断面図である。
図12-2】図12-2は、回り止めキャップの取付作業を表す平面図である。
図13図13は、新設ボルトの挿入作業を表す断面図である。
図14-1】図14-1は、新設ボルトの締結作業を表す断面図である。
図14-2】図14-2は、新設ボルトの締結作業を表す平面図である。
図15図15は、かしめ工具を表す概略図である。
図16-1】図16-1は、回り止めキャップのかしめ作業を表す断面図である。
図16-2】図16-2は、回り止めキャップのかしめ作業を表す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を参照して、本開示の好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本開示が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。また、実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
【0011】
<加圧水型原子炉>
図1は、加圧水型原子炉を表す縦断面図である。
【0012】
原子力発電プラントは、図示しないが、原子炉格納容器内に配置される原子炉および蒸気発生器と、蒸気タービン発電設備とを有する。本実施形態の原子炉は、加圧水型原子炉(PWR:Pressurized Water Reactor)である。但し、原子炉は、沸騰水型原子炉(BWR:Boiling Water Reactor)や高速増殖炉(FBR:Fast Breeder Reactor)などいずれの原子炉であってもよい。
【0013】
図1に示すように、加圧水型原子炉10において、原子炉容器11は、内部に炉内構造物が挿入できるように、原子炉容器本体12とその上部に装着される原子炉容器蓋13により構成され、原子炉容器本体12に対して原子炉容器蓋13が複数のスタッドボルト14およびナット15により開閉可能に固定される。
【0014】
原子炉容器本体12は、上部が開口し、下部が半球形状をなして閉塞された円筒形状をなし、上部に一次冷却材としての軽水を供給する入口ノズル16と、軽水を排出する出口ノズル17が形成される。原子炉容器本体12は、内部に炉心槽18が配置され、上部が原子炉容器本体12の内壁面に支持される。上部炉心支持板19は、原子炉容器本体12の内部に配置され、上部が炉心槽18の上部に支持される。上部炉心板20は、複数の炉心支持ロッド21により上部炉心支持板19に吊下げ支持される。
【0015】
炉心槽18は、下方に下部炉心支持板22が支持され、下部炉心支持板22は、外周部が位置決め部材23により原子炉容器本体12の内壁面に位置決め支持される。炉心槽18は、下部に下部炉心板24が支持されている。炉心25は、多数の燃料集合体26が配置されて構成され、内部に多数の制御棒27が配置され、この制御棒27は、燃料集合体26に挿入可能である。上部炉心支持板19は、多数の制御棒クラスタ案内管28が固定され、内部に制御棒27が挿通可能である。原子炉容器蓋13は、半球形状をなし、制御棒駆動装置29が配置され、複数の制御棒クラスタ駆動軸30が制御棒クラスタ案内管28内に挿通され、下端部に制御棒27が連結される。制御棒駆動装置29は、各制御棒27を炉心25に対して抜き差しすることで、原子炉出力を制御する。
【0016】
<位置決め部材>
図2は、原子炉容器に対する炉心槽の位置決め部材を表す水平断面図、図3は、クレビスインサートを表す正面図である。
【0017】
図2に示すように、位置決め部材23は、クレビスインサート41と、ラジアルキー42とから構成される。クレビスインサート41は、原子炉容器本体12の内壁面12aに固定される。ラジアルキー42は、炉心槽18の外壁面18aに固定される。クレビスインサート41は、原子炉容器本体12の軸方向に沿った凹部43を有し、ラジアルキー42は、炉心槽18の軸方向に沿った凸部44を有する。炉心槽18は、ラジアルキー42の凸部44が原子炉容器本体12におけるクレビスインサート41の凹部43に嵌合することで、原子炉容器本体12のラジアル方向に対して位置決めされる。
【0018】
図3に示すように、クレビスインサート41は、複数(本実施形態では、8個)のボルト45により原子炉容器本体12に固定される。複数のボルト45は、クレビスインサート41の凹部43を貫通し、原子炉容器本体12に螺合する。
【0019】
<ボルト交換方法>
図4は、本実施形態のボルト交換方法を表すフローチャートである。
【0020】
図1から図3に示すように、本実施形態のボルト交換方法は、水中に配置された原子炉容器本体(第1構造物)12にクレビスインサート(第2構造物)41を締結したボルト45を交換するものである。
【0021】
図3および図4に示すように、ボルト交換方法は、既設ボルト45の回り止め部の除去とクレビスインサート41に対するかしめ溝(係止溝)の加工とを放電加工により同時に行うステップS11と、クレビスインサート41に設けられたボルト貫通孔に対してざぐり穴拡大加工を行うステップS12と、既設ボルト45を抜き取って撤去するステップS13と、ボルト貫通孔に回り止めキャップを取付けるステップS14と、新設ボルトを回り止めキャップおよびボルト貫通孔を貫通させて原子炉容器本体12に締結するステップS15と、回り止めキャップを変形させて新設ボルトとかしめ溝に係止するステップS16とを有する。
【0022】
但し、ステップS12は、新設ボルトの頭部の外径が既設ボルト45の頭部の外径より大きい場合に実施するものである。すなわち、ボルト交換方法は、ステップS11,S13,S14,S15,S16を有すればよいものである。
【0023】
なお、ボルト交換方法は、制御装置がボルト交換装置を駆動制御して実施される。制御装置は、コントローラであり、例えば、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)などにより、記憶部に記憶されている各種プログラムがRAMを作業領域として実行されることにより実現される。また、制御装置は、キーボードなどの操作装置が連結され、作業者が操作装置により制御装置に対して操作指令信号を入力することで、ボルト交換作業が実施される。
【0024】
<ボルト交換方法の具体的例>
図5-1は、既設ボルトの締結状態を表す断面図、図5-2は、既設ボルトの締結状態を表す平面図である。
【0025】
図5-1および図5-2に示すように、既設ボルト45は、頭部45aと、係止部45bと、軸部45cと、ねじ部45dとを有する。頭部45aは、円柱形状をなす。係止部45bは、六角形状をなし、頭部45aの軸方向の一方側(図5-1にて右方側)に一体に設けられる。軸部45cは、所定長さの円柱形状をなし、頭部45aの軸方向の他方側(図5-1にて左方側)に一体に設けられる。ねじ部45dは、所定長さの円柱形状をなし、外周部に螺旋のねじが形成され、軸部45cの軸方向の他方側に一体に設けられる。また、既設ボルト45は、係止部45bに棒形状の回り止めキー45eが固定される。一方、原子炉容器本体12は、ねじ孔46が形成され、クレビスインサート41は、ボルト貫通孔47が形成される。ボルト貫通孔47は、軸方向の一方側(図5-1にて右方側)の大径部47aと、軸方向の他方側(図5-1にて左方側)の小径部47bとを有する。
【0026】
クレビスインサート41は、原子炉容器本体12の内壁面12aに密着し、ボルト貫通孔47が原子炉容器本体12のねじ孔46と同心状に位置するように位置決めされる。すなわち、原子炉容器本体12のねじ孔46の中心とクレビスインサート41のボルト貫通孔47の中心が軸心Oに沿って配置される。既設ボルト45は、クレビスインサート41側からボルト貫通孔47に挿入され、ねじ部45dが原子炉容器本体12のねじ孔46に螺合する。このとき、既設ボルト45の中心も軸心Oに沿う。そして、既設ボルト45は、回り止めキー45eの各端部が溶接部45fによりクレビスインサート41に固定されることで、回り止め処理がなされて緩みが防止される。ここで、既設ボルト45の回り止め部は、2か所の溶接部45fである。このようにクレビスインサート41は、既設ボルト45により原子炉容器本体12に締結されている。
【0027】
図6は、放電加工電極を表す概略図、図7-1は、既設ボルトの回り止め除去作業を表す断面図、図7-2は、既設ボルトの回り止め除去作業を表す平面図である。
【0028】
まず、既設ボルト45の溶接部(回り止め部)45fの除去とクレビスインサート41に対するかしめ溝の加工とを放電加工により同時に行う。図6に示すように、既設ボルト45の回り止め部の除去と、クレビスインサート41に対するかしめ溝の加工とは、放電加工装置50を用いて行う。放電加工装置50は、電極51を有する。電極51は、U字形状をなす。すなわち、電極51は、一対の電極部52と、連結部53と、支持部54とを有する。一対の電極部52は、半円断面形状を有するロッドであり、基端部同士が連結部53により連結され、連結部53に支持部54が固定される。電極51は、支持部54に図示しない移動装置に支持されると共に、図示しない電源部が接続される。
【0029】
図7-1および図7-2に示すように、作業者は、放電加工装置50を操作し、移動装置により電極51を移動し、既設ボルト45の頭部45aに対向する位置に電極51を配置させる。このとき、一対の電極部52が一対の溶接部45f(図5-1参照)に対向する位置に配置させる。そして、作業者は、放電加工装置50により電極51に電流を流すと共に、電極51を既設ボルト45に向けて移動する。すると、一対の電極部52が一対の溶接部45fに向かって移動し、一対の電極部52の先端部から発生するアーク放電により一対の溶接部45fを溶解させながら除去する。
【0030】
このとき、一対の電極部52をクレビスインサート41の表面から所定厚さだけ厚さ方向に移動することで、一対の溶接部45fと共にクレビスインサート41におけるボルト貫通孔47の大径部47aの内径の一部を溶解させる。すなわち、電極部52が半円断面形状をなすことから、電極部52により既設ボルト45の回り止め部である溶接部47fの除去と、クレビスインサート41に対するかしめ溝71の加工を放電加工により同時に行うことができる。このとき、2個のかしめ溝71が形成される。その後、既設ボルト45の溶接部47fの除去作業とクレビスインサート41のかしめ溝71の加工作業が完了すると、作業者は、放電加工装置50を操作し、移動装置により電極51を既設ボルト45から離間する方向に移動し、放電加工を終了する。
【0031】
図8は、放電加工電極の変形例を表す概略図、図9-1は、ざぐり穴の拡大加工作業を表す断面図、図9-2は、ざぐり穴の拡大加工作業を表す平面図である。
【0032】
なお、既設ボルト45に対して交換する新設ボルトの頭部の外径が大きい場合、既設ボルト45の回り止め部の除去とクレビスインサート41に対するかしめ溝の加工とを放電加工により同時に行うとき、クレビスインサート41に設けられたボルト貫通孔47に対してざぐり穴拡大加工を連続して行う。図8に示すように、既設ボルト45の回り止め部の除去と、クレビスインサート41に対するかしめ溝の加工と、クレビスインサート41のボルト貫通孔47に対するざぐり穴拡大加工とは、放電加工装置60を用いて行う。放電加工装置60は、電極61を有する。電極61は、円筒形状をなす。すなわち、電極61は、円筒電極部62と、一対の半円電極部63と、支持部64とを有する。円筒電極部62は、軸方向の一方が開口し、軸方向の他方が閉塞する円筒形状をなす。一対の半円電極部63は、半円断面形状を有するロッドであり、半円電極部63の周方向に180度間隔で一体に設けられる。円筒電極部62は、支持部64が固定される。電極61は、支持部64に図示しない移動装置に支持されると共に、図示しない電源部が接続される。
【0033】
図9-1および図9-2に示すように、作業者は、放電加工装置60を操作し、移動装置により電極61を移動し、既設ボルト45の頭部45aに対向する位置に電極61を配置させる。このとき、一対の半円電極部63が一対の溶接部45f(図5-1参照)に対向する位置に配置させる。そして、作業者は、放電加工装置60により電極61に電流を流すと共に、電極61を既設ボルト45に向けて移動する。すると、一対の半円電極部63が一対の溶接部45fに向かって移動し、一対の半円電極部63の先端部から発生するアーク放電により一対の溶接部45fを溶解させながら除去する。
【0034】
このとき、一対の半円電極部63をクレビスインサート41の表面から所定厚さだけ厚さ方向に移動することで、一対の溶接部45fと共にクレビスインサート41におけるボルト貫通孔47の大径部47aの内径の一部を溶解させる。すなわち、半円電極部63が半円断面形状をなすことから、半円電極部63により既設ボルト45の回り止め部である溶接部47fの除去と、クレビスインサート41に対するかしめ溝71の加工を放電加工により同時に行うことができる。
【0035】
また、電極61を既設ボルト45に向けて移動するとき、円筒電極部62がクレビスインサート41厚さ方向にさらに移動することで、クレビスインサート41におけるボルト貫通孔47の大径部47aの内周面を溶解させる。すなわち、円筒電極部62が円筒断面形状をなすことから、円筒電極部62によりクレビスインサート41のボルト貫通孔47に対して内径を拡大するためのざぐり穴拡大加工を行う放電加工により連続して行うことができる。クレビスインサート41は、ボルト貫通孔47における大径部47aが拡大した新たな大径部72が形成される。その後、既設ボルト45の溶接部47fの除去作業とクレビスインサート41のかしめ溝71の加工作業とボルト貫通孔47のざぐり穴拡大加工とが完了すると、作業者は、放電加工装置60を操作し、移動装置により電極61を既設ボルト45から離間する方向に移動し、放電加工を終了する。
【0036】
図10は、既設ボルトの抜き取り作業を表す断面図、図11-1は、既設ボルトの抜き取り後のねじ孔およびボルト貫通孔を表す断面図、図11-2は、既設ボルトの抜き取り後のねじ孔およびボルト貫通孔を表す平面図である。
【0037】
図10に示すように、既設ボルト45の溶接部47fの除去作業とクレビスインサート41のかしめ溝71の加工作業、また、必要に応じて、ボルト貫通孔47のざぐり穴拡大加工が完了すると、次に、ねじ孔46とボルト貫通孔47からボルト抜き取り装置80により既設ボルト45を抜き取って撤去する。ボルト抜き取り装置80は、水中ロボットにより構成され、ロボットハンド81を有する。ロボットハンド81は、既設ボルト45の頭部45aを把持可能である。ボルト抜き取り装置80は、ロボットハンド81により既設ボルト45の頭部45aを把持し、軸方向に移動することで、ねじ孔46とボルト貫通孔47から既設ボルト45を抜き取る。
【0038】
図11-1および図11-2に示すように、既設ボルト45が抜き取られると、原子炉容器本体12は、ねじ孔46が開放され。クレビスインサート41は、ボルト貫通孔47が開放される。クレビスインサート41は、ボルト貫通孔47に2個のかしめ溝71が形成される。また、クレビスインサート41は、必要に応じて、ボルト貫通孔47の大径部47aが拡大されて大径部72が形成される。このとき、ねじ孔46とボルト貫通孔47に対して清掃作業を行うと共に、異物確認作業を行う。
【0039】
図12-1は、回り止めキャップの取付作業を表す断面図、図12-2は、回り止めキャップの取付作業を表す平面図である。
【0040】
図12-1および図12-2に示すように、既設ボルト45が抜き取られると、続いて、キャップ取付装置(図示略)によりボルト貫通孔47に回り止めキャップ91を取付ける。回り止めキャップ91は、円筒形状をなす。回り止めキャップ91は、円筒部92と、円板部93とを有する。円筒部92における軸方向に一端部に円板部93が一体に設けられる。そして、円板部93に貫通孔94が形成される。円筒部92の外径がボルト貫通孔47の大径部47a(72)の内径より若干小さく、回り止めキャップ91は、ボルト貫通孔47の大径部47a(72)に嵌合可能である。貫通孔94は、ボルト貫通孔47の小径部47bとほぼ同径であり、新設ボルト45Aの軸部45c(図13参照)の外径より小さい。
【0041】
なお、キャップ取付装置は、ボルト抜き取り装置80と同様に、水中ロボットであり、ロボットハンドを有する。キャップ取付装置をボルト抜き取り装置80と共用してもよい。
【0042】
図13は、新設ボルトの挿入作業を表す断面図、図14-1は、新設ボルトの締結作業を表す断面図、図14-2は、新設ボルトの締結作業を表す平面図である。
【0043】
図13に示すように、ボルト貫通孔47に回り止めキャップ91が取付けられると、続いて、新設ボルト45Aを回り止めキャップ91およびボルト貫通孔47を貫通させてねじ孔46に挿入する。新設ボルト45Aは、既設ボルト45と同様に、頭部45aと、軸部45cと、ねじ部45dとを有すると共に、新たに係止溝45gと、切欠部45hとを有する。係止溝45gは、六角形状をなし、頭部45aの軸方向の一方側(図13にて右方側)に開口する。切欠部45hは、頭部45aの軸方向の一方側にて、周方向の一部が切り欠かれて形成される。
【0044】
図14-1および図4-2に示すように、回り止めキャップ91およびボルト貫通孔47に挿入された新設ボルト45Aをボルト締結装置により回転し、ねじ部45dをねじ孔46に螺合させることで、クレビスインサート41を原子炉容器本体12に締結する。なお、ボルト締結装置は、図示しないが、新設ボルト45Aの頭部45aに嵌合するソケットをと、ソケットを回転する駆動装置とを有するものである。
【0045】
図15は、かしめ工具を表す概略図、図16-1は、回り止めキャップのかしめ作業を表す断面図、図16-2は、回り止めキャップのかしめ作業を表す平面図である。
【0046】
新設ボルト45Aを回り止めキャップ91およびボルト貫通孔47に挿入し、ねじ部45dをねじ孔46に螺合させてクレビスインサート41を原子炉容器本体12に締結すると、かしめ装置(変形装置)100により回り止めキャップ91を変形させて新設ボルト45Aとかしめ溝71に係止させる。図15に示すように、かしめ装置100は、中子101と、第1かしめ爪102と、第2かしめ爪103とを有する。中子101は、円柱形状をなし、軸方向に移動可能に支持される、第1かしめ爪102と第2かしめ爪103は、中子101の外側で軸方向に沿って配置され、軸方向の一端部が円筒部104により連結される。中子101が軸方向に移動することで、第1かしめ爪102と第2かしめ爪103は、先端部が径方向に移動する。
【0047】
図15図16-1および図16-2に示すように、作業者は、かしめ装置100を移動し、新設ボルト45Aの頭部45aに対向する位置に配置させる。そして、作業者は、かしめ装置100を新設ボルト45Aの頭部45a側に移動し、第1かしめ爪102により回り止めキャップ91における周方向の一部を内側に変形させ、変形部91aを新設ボルト45Aの切欠部45hに係止させる。続いて、中子101が前進させることで、第1かしめ爪102と第2かしめ爪103を径方向の外側に移動させ、回り止めキャップ91における周方向の一部を外側に変形させ、変形部91bをかしめ溝71に係止させる。
【0048】
回り止めキャップ91は、変形部91aが新設ボルト45Aの切欠部45hに係止し、変形部91bがかしめ溝71に係止することで、クレビスインサート41に対して新設ボルト45Aの回り止め処理がなされる。
【0049】
[本実施形態の作用効果]
第1の態様に係るボルト交換方法は、既設ボルト45の溶接部(回り止め部)45fの除去とクレビスインサート41に対するかしめ溝(係止溝)71の加工とを放電加工により同時に行うステップと、既設ボルト45を抜き取るステップと、クレビスインサート41(第2構造物)に設けられたボルト貫通孔47に回り止めキャップ91を取付けるステップと、新設ボルト45Aを回り止めキャップ91およびボルト貫通孔47に貫通させて原子炉容器本体(第1構造物)12に締結するステップと、回り止めキャップ91を変形させて新設ボルト45Aとかしめ溝71に係止するステップとを有する。
【0050】
第1の態様に係るボルト交換方法によれば、既設ボルト45の溶接部45fの除去作業と、クレビスインサート41に対するかしめ溝71の加工作業を放電加工により同時に行うことから、水中での放電加工作業を短時間で容易に行うことができ、水中でのボルト交換作業の作業性の向上を図ることができる。
【0051】
第2の態様に係るボルト交換方法は、第1の態様に係るボルト交換方法であって、さらに、放電加工によりかしめ溝71を複数加工する。これにより、新設ボルト45Aの回り止めを適切に行うことができる。
【0052】
第3の態様に係るボルト交換方法は、第1の態様または第2態様に係るボルト交換方法であって、さらに、既設ボルト45の溶接部45fの除去とクレビスインサート41に対するかしめ溝71の加工とを放電加工により同時に行うとき、ボルト貫通孔47に対してざぐり穴拡大加工を行う。これにより、既設ボルト45と新設ボルト45Aとの頭部45aの外径が異なっていても、ボルト交換作業を円滑に行うことができる。
【0053】
第4の態様に係るボルト交換方法は、第1の態様から第3の態様のいずれか一つに係るボルト交換方法であって、さらに、放電加工によりボルト貫通孔47の全周にわたってざぐり穴拡大加工を行う。これにより、既設ボルト45と新設ボルト45Aとの頭部45aの外径が異なっていても、新設ボルト45Aを適切に配置することができる。
【0054】
第5の態様に係るボルト交換方法は、第1の態様から第4の態様のいずれか一つに係るボルト交換方法であって、さらに、回り止めキャップ91は、円筒形状をなし、回り止めキャップ91における周方向の一部を内側に変形させて新設ボルト45Aに係止し、回り止めキャップ91における周方向の一部を外側に変形させてかしめ溝71に係止する。これにより、回り止めキャップ91を変形させる作業だけで、新設ボルト45Aの回り止め処理を容易に行うことができる。
【0055】
第6の態様に係るボルト交換方法は、第1の態様から第5の態様のいずれか一つに係るボルト交換方法であって、さらに、新設ボルト45Aは、頭部45aに切欠部45hを有し、回り止めキャップ91における周方向の一部を内側に変形させて切欠部45hに係止する。これにより、新設ボルト45Aの頭部45aに事前に加工を施しておけばよく、新設ボルト45Aの回り止め処理を容易に行うことができる。
【0056】
第7の態様に係るボルト交換方法は、第1の態様から第6の態様のいずれか一つに係るボルト交換方法であって、さらに、第1構造物を原子炉容器本体12とし、第2構造物を原子炉容器本体12の内壁面12aに固定されるクレビスインサート41としている。これにより、クレビスインサート41におけるボルト交換作業の作業性を向上することができる。
【0057】
第8の態様に係るボルト交換装置は、既設ボルト45の溶接部(回り止め部)45fの除去とクレビスインサート(第2構造物)41に対するかしめ溝(係止溝)71の加工とを放電加工により同時に行う放電加工装置50,60と、既設ボルト45を抜き取るボルト抜き取り装置80と、クレビスインサート41に設けられたボルト貫通孔47に回り止めキャップ91を取付けるキャップ取付装置と、新設ボルト45Aを回り止めキャップ91およびボルト貫通孔47を貫通させて原子炉容器本体(第1構造物)12に締結するボルト締結装置と、回り止めキャップ91を変形させて新設ボルト45Aとかしめ溝71に係止するかしめ装置(変形装置)100とを備える。これにより、既設ボルト45の溶接部45fの除去作業と、クレビスインサート41に対するかしめ溝71の加工作業を放電加工により同時に行うことから、水中での放電加工作業を短時間で容易に行うことができ、水中でのボルト交換作業の作業性の向上を図ることができる。
【0058】
なお、上述した実施形態では、第1構造物を原子炉容器本体12とし、第2構造物をクレビスインサート41としたが、この構成に限定されるものではない。水中にある第2構造物に第1構造物を固定したボルトの交換であれば、第1構造物と第2構造物は、限定されない。
【符号の説明】
【0059】
10 加圧水型原子炉
11 原子炉容器
12 原子炉容器本体(第1構造物)
13 原子炉容器蓋
41 クレビスインサート(第2構造物)
42 ラジアルキー
43 凹部
44 凸部
45 ボルト、既設ボルト
45A 新設ボルト
45a 頭部
45b 係止部
45c 軸部
45d ねじ部
45e 回り止めキー
45f 溶接部(回り止め部)
45g 係止溝
45h 切欠部
46 ねじ孔
47 ボルト貫通孔
47a 大径部
47b 小径部
50,60 放電加工装置
51,61 電極
71 かしめ溝(係止溝)
72 大径部
80 ボルト抜き取り装置
91 回り止めキャップ
100 かしめ装置(変形装置)
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6
図7-1】
図7-2】
図8
図9-1】
図9-2】
図10
図11-1】
図11-2】
図12-1】
図12-2】
図13
図14-1】
図14-2】
図15
図16-1】
図16-2】