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特開2024-142060正極材、正極材の製造方法及び二次電池
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  • 特開-正極材、正極材の製造方法及び二次電池 図1
  • 特開-正極材、正極材の製造方法及び二次電池 図2A
  • 特開-正極材、正極材の製造方法及び二次電池 図2B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142060
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】正極材、正極材の製造方法及び二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/36 20060101AFI20241003BHJP
   H01M 4/58 20100101ALN20241003BHJP
   H01M 4/525 20100101ALN20241003BHJP
   H01M 4/505 20100101ALN20241003BHJP
【FI】
H01M4/36 A
H01M4/36 D
H01M4/58
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054033
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(71)【出願人】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 勝弥
(72)【発明者】
【氏名】獅野 和幸
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA07
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CA29
5H050CB12
5H050EA12
5H050FA17
5H050FA20
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】ハイレート特性及びサイクル特性に優れた二次電池用の正極材、及びその製造方法を提供する、
【解決手段】二次電池用の正極材であって、正極活物質10と、正極活物質10の表面の一部に付着した結晶性を有する金属酸化物20とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池用の正極材であって、
正極活物質と、
前記正極活物質の表面の一部に付着した結晶性を有する金属酸化物と
を含む、正極材。
【請求項2】
前記金属酸化物は、複数種の金属を含む複合酸化物である、請求項1に記載の正極材。
【請求項3】
前記金属酸化物は、チタンと、チタン以外の遷移金属とを含む複合酸化物である、請求項2に記載の正極材。
【請求項4】
前記チタン以外の遷移金属は、ニオブ、タンタル、ジルコニア、モリブデン、及びタングステンのうちの何れか1種である、請求項3に記載の正極材。
【請求項5】
前記金属酸化物は、チタンとニオブの複合酸化物である、請求項3に記載の正極材。
【請求項6】
前記正極活物質は、粒径の異なる2種類以上の正極活物質からなる、請求項1に記載の正極材。
【請求項7】
前記金属酸化物の前記正極活物質と接する界面は、アモルファス状態になっている、請求項1に記載の正極材。
【請求項8】
二次電池用の正極材の製造方法であって、
正極活物質の粉末と、金属酸化物の粉末とを、深共晶溶媒中で混練し、混練物を得る工程と、
前記混練物を加熱して、前記正極活物質の表面の一部に、結晶性を有する金属酸化物を析出させる工程と
を含む、正極材の製造方法。
【請求項9】
前記金属酸化物の粉末は、複数種の金属酸化物の粉末を含み、
前記正極活物質の表面の一部に析出する金属酸化物は、前記複数種の金属酸化物における各金属の複合酸化物である、請求項8に記載の正極材の製造方法。
【請求項10】
前記金属酸化物の粉末は、酸化チタンの粉末と、チタン以外の遷移金属の酸化物の粉末とを含み、
前記正極活物質の表面の一部に析出する金属酸化物は、チタンと、チタン以外の遷移金属とを含む複合酸化物である、請求項8に記載の正極材の製造方法。
【請求項11】
前記チタン以外の遷移金属の酸化物は、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ジルコニア、酸化モリブデン、及び酸化タングステンのうちの何れか1種である、請求項10に記載の正極材の製造方法。
【請求項12】
前記チタン以外の遷移金属の酸化物は、酸化ニオブであって、
前記酸化チタンの粉末と前記酸化ニオブの粉末との合計の質量は、前記正極活物質の粉末の質量に対して、0.2~0.7wt%の範囲にある、請求項11に記載の正極材の製造方法。
【請求項13】
前記正極活物質の表面の一部に析出する結晶性を有する複合酸化物は、チタンとニオブの複合酸化物である、請求項12に記載の正極材の製造方法。
【請求項14】
正極集電体上に正極合剤が形成された正極板を備えた二次電池であって、
前記正極合剤は、請求項1~7のいずれか1項に記載の正極材を含む、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用の正極材、正極材の製造方法、及び正極材を含む二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の二次電池は、軽量かつエネルギー密度が高いことから、パソコンや携帯端末等の電源や、車両駆動用の電源として用いられている。
【0003】
二次電池に使用される正極材は、高容量化や高機能化等の観点から、様々な材料が検討されている。例えば、特許文献1には、正極活物質であるリチウム含有遷移金属酸化物の表面に、チタン含有酸化物を付着させ、その後、これを焼結させた正極材が開示されている。これにより、リチウムイオン二次電池の充電深度が高い状態での充電特性が改善されることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、正極活物質であるリチウムニッケル複合酸化物の表面に、酸化ニオブ又は酸化チタンを存在させた後に、これを焼成した正極材が開示されている。これにより、リチウムイオン二次電池の熱安定性が向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-224307号公報
【特許文献2】特許第3835412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された正極材では、リチウム含有遷移金属酸化物の表面に、焼結されたチタン含有酸化物を被覆することによって、正極材と非水電解液との界面が改質され、これにより、リチウムイオンの移動反応が促進されて、広い充電深度の範囲での充電特性が改善される。
【0007】
また、特許文献2に開示された正極材では、リチウムニッケル複合酸化物の表面を被覆する材料を、融点が焼成温度以上の酸化ニオブ又は酸化チタンにすることによって、焼成によって得られたニオブまたはチタンの酸化物が、リチウムニッケル複合酸化物の表面に安定して存在し、これにより、熱安定性の高い正極材が得られる。
【0008】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示された正極材では、正極活物質の表面を被覆しているチタン含有酸化物や、チタンまたはニオブの酸化物は、焼結または焼成によって形成されているため、非晶質になっており、電気抵抗は高い。そのため、正極活物質の表面に、チタン含有酸化物や、チタンまたはニオブの酸化物を被覆しても、正極活物質の表面おける電気抵抗を下げることができない。そのため、充放電時に、大量の電子を流すことができないため、ハイレート特性の向上を図ることは難しい。また、同様の理由により、充放電時の発熱による正極活物質の劣化を抑制することができないため、サイクル特性の向上を図ることも難しい。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたもので、その主な目的は、ハイレート特性及びサイクル特性に優れた二次電池用の正極材、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る正極材は、二次電池用の正極材であって、正極活物質と、正極活物質の表面の一部に付着した結晶性を有する金属酸化物とを含む。
【0011】
ある好適な実施形態において、金属酸化物は、複数種の金属を含む複合酸化物である。
【0012】
ある好適な実施形態において、金属酸化物は、チタンと、チタン以外の遷移金属とを含む複合酸化物である。
【0013】
ある好適な実施形態において、チタン以外の遷移金属は、ニオブ、タンタル、ジルコニア、モリブデン、及びタングステンのうちの何れか1種である。
【0014】
ある好適な実施形態において、金属酸化物は、チタンとニオブの複合酸化物である。
【0015】
本発明に係る正極材の製造方法は、二次電池用の正極材の製造方法であって、正極活物質の粉末と、金属酸化物の粉末とを、深共晶溶媒中で混練し、混練物を得る工程と、混練物を加熱して、正極活物質の表面の一部に、結晶性を有する金属酸化物を析出させる工程とを含む。
【0016】
ある好適な実施形態において、金属酸化物の粉末は、複数種の金属酸化物の粉末を含み、正極活物質の表面の一部に析出する金属酸化物は、複数種の金属酸化物における各金属の複合酸化物である。
【0017】
ある好適な実施形態において、金属酸化物の粉末は、酸化チタンの粉末と、チタン以外の遷移金属の酸化物の粉末とを含み、正極活物質の表面の一部に析出する金属酸化物は、チタンと、チタン以外の遷移金属とを含む複合酸化物である。
【0018】
ある好適な実施形態において、チタン以外の遷移金属の酸化物は、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ジルコニア、酸化モリブデン、及び酸化タングステンのうちの何れか1種である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ハイレート特性及びサイクル特性に優れた二次電池用の正極材、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】正極活物質、酸化チタン、及び酸化ニオブを、深共晶溶媒中で混練して得られた混練物を加熱した後の正極活物質の表面を、走査型電子顕微鏡で撮影した写真である。
図2A】正極活物質の表面に付着した析出物をTEMで撮影した写真である。
図2B図2Aの矢印Aで示した領域を拡大した写真である。
図3】実施例におけるリチウムイオン二次電池の電池容量を示したグラフである。
図4】実施例におけるリチウムイオン二次電池のサイクル特性を示したグラフである。
図5】酸化チタンと酸化ニオブの正極活物質に対する割合を変えて作製したリチウムイオン二次電池の電池容量を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0022】
本実施形態における正極材は、二次電池用の正極材であって、正極活物質と、正極活物質の表面の一部に付着した結晶性を有する金属酸化物とを含む。通常、二次電池の正極は、この正極材と、炭素等の導電材と、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)等のバインダーとを、有機溶媒中で混合してスラリー状の正極合剤を形成し、この正極合剤を、アルミニウム箔等の正極集電体に塗布することによって製造される。
【0023】
二次電池は、リチウムイオン二次電池や、リチウム硫黄二次電池等を含む。例えば、リチウムイオン二次電池の正極活物質としては、LiCoO、LiNiO、LiNi0.8Co0.2、LiMn等のリチウム含有複合酸化物等を用いることができる。正極活物質は、粒径の異なる2種類以上の正極活物質からなることが好ましい。粒径の小さい正極活物質は、例えば、フラックス法を用いて形成することができる。
【0024】
正極活物質の表面に付着した金属酸化物は、結晶性を有し、電気抵抗率が低い材料からなる。金属酸化物の電気抵抗率は、10Ω・cm以下が好ましい。これにより、正極活物質の表面おける電気抵抗を下げることができるため、充放電時に、大量の電子を流すことができ、その結果、ハイレート特性の向上を図ることができる。また、充放電時の発熱による正極活物質の劣化を抑制することができるため、サイクル特性の向上を図ることができる。
【0025】
なお、金属酸化物の正極活物質と接する界面は、アモルファス状態になっていることが好ましい。通常、正極活物質は、充放電に伴う酸化還元反応や、反応熱による収縮によって、結晶格子はアモルファス状に変化している。そのため、金属酸化物の正極活物質と接する界面が結晶状態になっていると、格子不整合が生じ、イオンや電子の移動が悪くなる。そこで、金属酸化物の正極活物質と接する界面をアモルファス状態にすることによって、イオンや電子の移動を良くすることができる。これにより、ハイレート特性をより向上させることができる。
【0026】
金属酸化物は、後述する深共晶溶媒を用いて、結晶性を有する状態で、正極活物質の表面に析出して形成される。これにより、正極活物質の表面に、電気抵抗率の低い金属酸化物が付着される。
【0027】
金属酸化物20は、図1に示すように、正極活物質10の表面の一部に付着している。ここで、図1は、正極活物質10の表面を、走査型電子顕微鏡で撮影した写真である。なお、正極活物質10の表面に付着している金属酸化物20の割合が多すぎると、かえって、正極活物質10からのリチウムイオンの移動が妨げられ、容量低下を招くため好ましくない。ここで、「付着」とは、正極活物質と金属酸化物とが安定して接触している状態を意味し、化学的に結合している場合、物理的に密着している場合などを含む。
【0028】
金属酸化物は、複数種の金属を含む複合酸化物であってもよい。金属酸化物は、例えば、チタンと、チタン以外の遷移金属とを含む複合酸化物からなる。このような複合酸化物は、深共晶溶媒を用いて、結晶性を有する状態で、正極活物質の表面に析出される。チタン以外の遷移金属としては、例えば、ニオブ、タンタル、ジルコニア、モリブデン、タングステン等が挙げられる。
【0029】
次に、本実施形態における二次電池用の正極材の製造方法について説明する。
【0030】
本実施形態における正極材の製造方法は、正極活物質の粉末と、金属酸化物の粉末とを、深共晶溶媒中で混練し、混練物を得る工程と、得られた混練物を加熱して、正極活物質の表面の一部に、結晶性を有する金属酸化物を析出させる工程とを含む。以下、正極活物質の表面に付着した金属酸化物として、チタンと、チタン以外の遷移金属とを含む複合酸化物を例に説明する。
【0031】
まず、正極活物質の粉末と、酸化チタンの粉末と、チタン以外の遷移金属の酸化物の粉末とを、深共晶溶媒中で混練し、混練物を得る。チタン以外の遷移金属の酸化物としては、例えば、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ジルコニア、酸化モリブデン、酸化タングステン等が挙げられる。
【0032】
ここで、「深共晶溶媒」とは、水素結合ドナー性の化合物と、水素結合アクセプター性の化合物との混合物によって形成されるもので、共晶により融点が大きく降下し、室温付近で液体になる化合物をいう。水素結合ドナー性の化合物としては、例えば、尿素、アセトアミド、エチレングリコール等を用いることができる。また、水素結合アクセプター性の化合物としては、塩化コリン、N-エチル-2-ヒドロキシ-N等を用いることができる。
【0033】
次に、混練して得られた混練物を加熱して、正極活物質の表面の一部に、チタンと、チタン以外の遷移金属とを含む複合酸化物を析出させる。混練物の加熱は、例えば、管状炉に、正極活物質の粉末等を混練した深共晶溶媒を入れ、管状炉内に、窒素を流しながら行うことができる。
【0034】
混練物の加熱は、深共晶溶媒が熱分解する温度以上の温度で行うことが好ましい。これにより、深共晶溶媒が蒸発し、酸化チタンと、チタン以外の遷移金属との複合酸化物が、結晶状態で、正極活物質の表面に析出する。その結果、正極活物質の表面の一部に、結晶性を有する金属酸化物が付着した正極材が得られる。
【0035】
なお、酸化チタンと、チタン以外の遷移金属との複合酸化物が、正極活物質の表面に析出した後、依然として深共晶溶媒は高温状態であるため、析出した複合酸化物は、正極活物質と化学反応して、複合酸化物の正極活物質と接する界面は、アモルファス状態になっている。
【実施例0036】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
<正極材の製造>
1.0gの正極活物質(リン酸リチウム鉄(LFP))の粉末と、0.004gの酸化チタンの粉末と、0.001gの酸化ニオブの粉末とを、0.01gの深共晶溶媒(塩化コリンと尿素との混合物)中で、30分間、混練した。
【0038】
次に、混練した混練物を管状炉に入れて、窒素を0.5L/minの流量で流しながら、800℃で、3時間加熱した。深共晶溶媒の熱分解温度は、約400℃であるが、深共晶溶媒を早く蒸発させて、深共晶溶媒の残渣を少なくするために、加熱温度を高めの800℃に設定した。
【0039】
<正極活物質の表面の析出物の観察>
図1は、混練物を加熱した後の正極活物質の表面を、SEM(走査型電子顕微鏡)で撮影した写真である。図1に示すように、正極活物質10の表面に、析出物20が付着しているのが確認され、この析出物20は、SEM-EDX(走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法)による元素解析により、チタン及びニオブを含む物質であることが確認され、チタンとニオブの複合酸化物であると推定される。この析出物20は、正極活物質10の表面に、面接触して付着しているのが分かる。
【0040】
図2Aは、正極活物質10の表面に付着した析出物(チタンとニオブの複合酸化物)20をTEM(透過電子顕微鏡)で撮影した写真で、図2Bは、図2Aの矢印Aで示した領域を拡大した写真である。図2Bに示すように、正極活物質10の表面に付着した析出物20は、結晶が規則正しく整列しており、結晶性を有することが確認された。
【0041】
<リチウムオイン二次電池の作製>
上記の方法により作製した正極材と、導電材(アセチレンブラック)と、バインダー(PVDF)とを、90:5:5の重量比率で、有機溶媒(N-メチル-ピロリドン(NMP))中で混合して、スラリー状の正極合剤を作製した。
【0042】
この正極合剤を、アルミニウム箔に塗布し、120℃で乾燥させた後、アルミニウム箔とともにプレスして、正極板を作製した。
【0043】
負極板は、リチウム金属箔を用いた。
【0044】
正極板と負極板とを、セパレータを介して捲回して電極体を作製し、この電極体を非水電解液とともに電池ケースに収容して、リチウムイオン二次電池(以下、「実施例のリチウムイオン二次電池」という)を作製した。
【0045】
また、比較のため、表面に金属酸化物(チタンとニオブの複合酸化物)を付着させる処理を行っていない正極活物質を用いて、上記と同様の方法により、リチウムイオン二次電池(以下、比較例のリチウムイオン二次電池)という)を作製した。
【0046】
<電池容量の測定>
作製したリチウムイオン二次電池を、0.05C~5Cの充放電レートで、充放電を3サイクルずつ行って、電池容量[mAh/g]を測定した。
【0047】
図3は、電池容量の測定結果を示したグラフで、丸で示したグラフが、実施例のリチウムイオン二次電池の電池容量を示し、四角で示したグラフが、比較例のリチウムイオン二次電池の電池容量を示す。
【0048】
図3に示すように、実施例のリチウムイオン二次電池の電池容量は、比較例のリチウムイオン二次電池の電池容量に比べて、大きくなっていることが分かる。特に、充放電時の電流が大きくなるほど、電池容量の差が顕著になり、ハイレート特性が向上していることが分かる。これは、正極活物質の表面に付着した金属酸化物(チタンとニオブの複合酸化物)の電気抵抗率が低いため、正極活物質の表面おける電気抵抗が下がることによって、充放電時に、大量の電子を流すことができたためと考えられる。
【0049】
<サイクル特性の測定>
作製したリチウムイオン二次電池を、1Cの充放電レートで充放電を繰り返し行って放電容量[mAh/g]の変化を測定し、サイクル特性を測定した。
【0050】
図4は、サイクル特性の測定結果を示したグラフで、矢印Aで示したグラフが、実施例のリチウムイオン二次電池のサイクル特性を示し、矢印Bで示したグラフが、比較例のリチウムイオン二次電池のサイクル特性を示す。
【0051】
図4に示すように、実施例のリチウムイオン二次電池のサイクル特性は、比較例のリチウムイオン二次電池のサイクル特性に比べて、放電容量が低下し始めるサイクル数が、2倍以上向上しているのが分かる。これは、正極活物質の表面に付着した金属酸化物(チタンとニオブの複合酸化物)の電気抵抗率が低いため、正極活物質の表面おける電気抵抗が下がることによって、充放電時の発熱による正極活物質の劣化を抑制することができたためと考えられる。
【0052】
<金属酸化物(チタンとニオブの複合酸化物)の正極活物質に対する割合>
酸化チタンと酸化ニオブの正極活物質に対する割合を、下記の表1に示すように変えて正極材を作製し、上記と同様の方法により、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0053】
【表1】
【0054】
図5は、酸化チタンと酸化ニオブの正極活物質に対する割合(wt%)を変えて作製したリチウムイオン二次電池の電池容量を測定した結果を示したグラフである。横軸は、酸化チタンと酸化ニオブの合計の質量の正極活物質の質量に対する割合を示す。また、矢印A、B、C、D、Eで示したグラフは、それぞれ、充放電レートを、0.05C、0.5C、1.0C、2.0C、5.0Cとしたときの電池容量の変化を示す。
【0055】
図5に示すように、全て充放電レートにおいて、酸化チタンと酸化ニオブの合計の質量が、正極活物質の質量に対して、0.2~0.7wt%の範囲にあるとき、リチウムイオン二次電池の電池容量は、比較例のリチウムイオン二次電池の電池容量に対して、増加しているのが分かる。特に、充放電レートが5.0Cのときに、電池容量の増加が顕著になり、ハイレート特性が向上していることが分かる。
【0056】
なお、酸化チタンと酸化ニオブの合計の質量の正極活物質の質量に対する割合が0.2wt%より少ないと、電池容量の増加は認められなかった。これは、正極活物質の表面に付着した金属酸化物(チタンとニオブの複合酸化物)の量が少なかったため、正極活物質の表面おける電気抵抗を下げるまでには至らなかったためと考えられる。また、酸化チタンと酸化ニオブの合計の質量の正極活物質の質量に対する割合が0.7wt%を超えると、比較例のリチウムイオン二次電池の電池容量よりも低下しているのが分かる。これは、正極活物質の表面に付着している金属酸化物(チタンとニオブの複合酸化物)の割合が多すぎると、正極活物質からのリチウムイオンの移動が妨げられ、電池容量の低下を招いたためと考えられる。
【0057】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、もちろん、種々の改変が可能である。例えば、正極活物質の表面に、深共晶溶媒を用いて、結晶性を有するチタンとニオブの複合酸化物を析出する場合、酸化チタンと酸化ニオブの割合(質量比)を変えて、結晶性を有するチタンとニオブの複合酸化物を析出することができるが、この場合、析出するチタンとニオブの複合酸化物の電気抵抗率が、10Ω・cm以下になるように、酸化チタンと酸化ニオブの割合(質量比)を設定すればよい。
【0058】
また、正極活物質の粉末と深共晶溶媒中で混練する金属酸化物の粉末は、複数種の金属酸化物の粉末を含んでいてもよい。この場合、正極活物質の表面の一部に析出する金属酸化物は、複数種の金属酸化物における各金属の複合酸化物である。
【0059】
また、正極集電体上に正極合剤が形成された正極板を備えた二次電池において、本実施形態における正極材を含む正極合剤を用いることができる。
【0060】
また、金属酸化物は、必ずしも全部が結晶構造をとっている必要はない。
【符号の説明】
【0061】
10 正極活物質
20 析出物(金属酸化物)
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5