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特開2024-142071内燃機関用のブローバイガス排出用ゴムホース
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142071
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】内燃機関用のブローバイガス排出用ゴムホース
(51)【国際特許分類】
   F01M 13/00 20060101AFI20241003BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20241003BHJP
   C08K 9/10 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F01M13/00 E
C08L21/00
C08K9/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054053
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昭宏
【テーマコード(参考)】
3G015
4J002
【Fターム(参考)】
3G015DA05
3G015DA12
3G015EA11
4J002AC011
4J002AC031
4J002AC061
4J002AC071
4J002AC081
4J002AC091
4J002BB151
4J002BB181
4J002BB182
4J002BD042
4J002BD121
4J002CH041
4J002CP031
4J002EK016
4J002EK036
4J002EK046
4J002EK066
4J002EK086
4J002FB282
4J002FB286
4J002GM00
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】耐薬品性を有するとともに、柔軟さをも有し、さらには比較的安価で得られるブローバイガス排出用ゴムホース、及びその材料組成物を提供する。
【解決手段】 ブローバイガス排出用ゴムホースであって、下記成分(A)及び(B):
(A)当該ブローバイガス排出用ゴムホースの材料ゴムと、
(B)保護カプセルであって、カプセル状樹脂並びに当該カプセル状樹脂に内包された架橋剤及び任意にその他の成分、を含有する前記保護カプセルと、
を含有するゴム組成物から形成され、前記保護カプセルが、前記ブローバイガス排出用ゴムホースの製造時の温度に対して耐熱性を有し、且つ、ブローバイガス中の臭気成分に対して溶解性である、前記ブローバイガス排出用ゴムホース。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブローバイガス排出用ゴムホースであって、下記成分(A)及び(B):
(A)当該ブローバイガス排出用ゴムホースの材料ゴムと、
(B)保護カプセルであって、カプセル状樹脂並びに当該カプセル状樹脂に内包された架橋剤及び任意にその他の成分、を含有する前記保護カプセルと、
を含有するゴム組成物から形成され、
前記保護カプセルが、前記ブローバイガス排出用ゴムホースの製造時の温度に対して耐熱性を有し、且つ、ブローバイガス中の臭気成分に対して溶解性である、
前記ブローバイガス排出用ゴムホース。
【請求項2】
前記カプセル状樹脂は、少なくとも100℃以上の耐熱性を有し、及び
前記架橋剤は、150℃以下の反応温度を有する、
請求項1記載のブローバイガス排出用ゴムホース。
【請求項3】
前記カプセル状樹脂は、ポリ塩化ビニル(PVC)系樹脂及びポリイソブチレン(PIB)系樹脂から成る群より選択される、請求項1又は2に記載のブローバイガス排出用ゴムホース。
【請求項4】
前記架橋剤は、有機過酸化物より選択される、請求項1又は2に記載のブローバイガス排出用ゴムホース。
【請求項5】
前記ゴム組成物が、下記成分:
(B’)保護カプセルであって、カプセル状樹脂並びに当該カプセル状樹脂に内包された架橋剤及び任意にその他の成分、を含有する前記保護カプセル
をさらに含有し、
前記保護カプセルが、前記ブローバイガス排出用ゴムホースの製造時の温度に対して耐熱性を有し、且つ、水に対して溶解性である、
請求項1に記載のブローバイガス排出用ゴムホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用のブローバイガス排出用ゴムホースに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の内燃機関又はその付近には、ブローバイガスを排出するためのゴムホース、例えばPCVホース又はブローバイホースが用いられているのが通常である。
【0003】
そのような、内燃機関用ブローバイガス排出用ゴムホース(以下、単に「ブローバイガス排出用ゴムホース」ともいう)の材質としては、例えば、エピクロロヒドリンゴム(ECO)、天然ゴム(NR)及びエチレン-プロピレンゴム(EPM)のような非ジエン系のゴム、並びに、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)及びアクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)のようなジエン系ゴム等、広範にわたる。そしてこのようなゴムは、その構造上、通常、液体を通しにくい反面、それと比較すると、気体の透過を抑制しにくいという特性をも有する。
【0004】
一方で、ブローバイガス排出用ゴムホース内を通るブローバイガスには、ナフタレン誘導体又は燃料未燃生成物などの、気体又は液体の臭気成分が含まれている。
【0005】
このため、ブローバイガス排出用ゴムホース内をブローバイガスが通ると、ブローバイガス中のこれら臭気成分が、必然的にゴムホースの壁を通してその内表面から外表面へと透過してしまう。その結果、そのような臭気成分がゴムホースから車内外へと漏れ出すこととなる。そのため、例えばガレージなどの密閉空間で臭気成分の不快な臭いが充満し、或いは、自動車の搭乗者に対してもその臭いによる不快感を与えるといった課題が生じていた。さらには、この事象は、ブローバイガス排出用ゴムホースの劣化とともに顕著となる傾向にある。
【0006】
このような、ブローバイガス排出用ゴムホースからの臭気成分の透過を抑制又は防止するためには、例えば、ブローバイガス排出用ゴムホースの全部又はその一部の材質を、フッ素ゴムなどの、化学構造が密で硬い材質のものとすることが挙げられる。
【0007】
そのような材質のゴムホースとして、例えば特許文献1(特開平4-267143号公報)は、ゴム外層と、フッ素樹脂からなる樹脂内層との積層構造を有する、二層構造のゴム-樹脂複合ホースを記載している。
【0008】
また、特許文献2(特開2007-269008号公報)及び特許文献3(特開2008-195039号公報)は、フッ素ゴムを含む内層と外層とからなる、二層構造の耐熱エアーホースを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平4-267143号公報
【特許文献2】特開2007-269008号公報
【特許文献3】特開2008-195039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
臭気成分の不快な臭いの防止という観点から、ブローバイガス排出用ゴムホースに求められる特性としては、臭気成分の透過を防止できるという耐薬品性が必要である。さらには、ゴムホース本来の特性として、対象物への挿入性、即ち柔軟さが必要とされることはいうまでもない。
【0011】
この点、上記特許文献1、2及び3に記載されるホースはいずれも、フッ素樹脂を材質としているため、一応の耐薬品性は担保されると考えられる。しかしその反面、フッ素樹脂のような耐薬品性の高い樹脂を用いる場合には、安定した二層構造を構成するための他の樹脂との接着性が課題となること、その硬さ故に対象物との接続部分の密着性が弱いこと、並びに、比較的高コストであること、等の課題を解決しなければならない。
【0012】
以上の観点に鑑み、本発明は、耐薬品性を有するとともに、柔軟さをも有し、さらには比較的安価で得られるブローバイガス排出用ゴムホース、及びその材料組成物を見出すことを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、
ブローバイガス排出用ゴムホースであって、下記成分(A)及び(B):
(A)当該ブローバイガス排出用ゴムホースの材料ゴムと、
(B)保護カプセルであって、カプセル状樹脂並びに当該カプセル状樹脂に内包された架橋剤及び任意にその他の成分、を含有する前記保護カプセルと、
を含有するゴム組成物から形成され、
前記保護カプセルが、前記ブローバイガス排出用ゴムホースの製造時の温度に対して耐熱性を有し、且つ、ブローバイガス中の臭気成分に対して溶解性である、
前記ブローバイガス排出用ゴムホース
を特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によって、耐薬品性が高いとともに柔軟さをも有し、且つ比較的安価で製造できる内燃機関用のブローバイガス排出用ゴムホース、例えばPCVホース又はブローバイホースが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の内燃機関用ブローバイガス排出用ゴムホースは、基本的には単一の層構造を有するものであり、フッ素ゴムなどの耐薬品性の高いゴムでさらなる層構造が人為的に形成されることを要しない。
【0016】
ブローバイガス排出用ゴムホース内をブローバイガスが流れると、当該ガス中に含まれるナフタレン、その誘導体及び燃料未燃生成物等、ガソリン又は潤滑油由来の臭気成分は、ゴムホースを構成する材質の化学構造のうち、比較的疎となった部位をより透過しやすい。したがって、ブローバイガス排出用ゴムホースの耐薬品性は、そのような疎の部位の化学構造の架橋密度を高めて、その化学構造を密となすことによって向上すると考えられる。
【0017】
さらにいえば、ブローバイガス排出用ゴムホースの耐薬品性を、当該ゴムホースの化学構造のうち臭気成分が透過しやすい疎の部位においてピンポイントで向上させることが、効率的でもある。即ち本発明の場合、単層のゴムホースの材質の化学構造そのものの耐薬品性を高めるため、耐薬品性の高い別のゴム層をさらに積層するという工程が必要無い。言い換えると、本発明においては、ブローバイガス排出用ゴムホースを複層構造にする必要が無いため、他層との接着性も問題とならず、且つコストも安価に抑えられる。
【0018】
但し、ブローバイガス排出用ゴムホースの化学構造のうち疎の部位の耐薬品性をピンポイントで向上させるためには、なにより当該疎の部位を特定しなければならない。
【0019】
この点、本発明においては、上記のとおりのブローバイガス排出用ゴムホースの耐薬品性の向上が、当該ゴムホース壁を透過しようとする臭気成分を逆に利用することによって達成されている。この点につき、以下具体的に説明する。
【0020】
本発明においては例えば、まずブローバイガス排出用ゴムホースの製造用のゴム組成物が提供される。
【0021】
当該ゴム組成物は、ホース形状に成形される前の、各材料が混合した状態のものである。このゴム組成物は、本発明においては、ブローバイガス排出用ゴムホースの材料ゴムのほか、マイクロメーター単位の大きさを有する粒形の保護カプセルを含有している。当該保護カプセルはさらに、その外殻を構成するカプセル状樹脂、並びに当該カプセル状樹脂に内包された架橋剤及び任意にその他の成分を含有している。
【0022】
この保護カプセルの外郭を構成するカプセル状樹脂は、ブローバイガス排出用ゴムホースの製造時の温度に対して耐熱性を有する。即ち、当該カプセル状樹脂は、ブローバイガス排出用ゴムホースが硬化のために架橋される温度に曝されても破壊又は溶解されない材質の樹脂で構成されている。このため、ゴム組成物がホースの形状に成形され、そしてその後に加熱による架橋を経たとしても、得られた架橋したゴムホースの化学構造中には、保護カプセルがその加熱によっても破壊されることなく保持されている。
【0023】
架橋したゴムホースは、そのままブローバイガス排出用ゴムホースとして用いられ、その内側にはブローバイガスが通ることとなる。そして、ブローバイガス中の臭気成分が、ゴムホースの構造のうち疎の部位を透過しようとする。このとき、カプセル状樹脂は、臭気成分に対して溶解性のもので構成されているために、ブローバイガス排出用ゴムホース構造の疎の部位を透過しようとする臭気成分と接触すると、カプセルが溶解し、内包していた架橋剤が溶け出す。そして溶け出した架橋剤は、ブローバイガスの熱によって活性化する。さらに、活性化した架橋剤は、当該疎の部位及びその周辺の領域の構造の架橋をさらに進行させて架橋密度をより高め、それによって、疎の部位及びその周辺の領域を、密の部位及び密の領域へと変える。結果として、臭気成分が透過し易かった部位を、耐薬品性の高い部位へとピンポイントで強化することができる。
【0024】
このとき、架橋密度が高められた部位は、複数が互いに連続することによって、全体的に一連の層構造を形成していてもよい。
【0025】
このように、本発明においては、ブローバイガス排出用ゴムホースの耐薬品性を、人為的に複数層の構造とすることなく、自発的に且つ部分的に向上させることができる。さらに、ブローバイガス排出用ゴムホースの全体を、硬い耐薬品性の高い樹脂で層形成させることも無く、架橋する部位も部分的に抑えることができるため、当該ゴムホース本来の柔軟さも維持される。即ち、柔軟さが必要な接続部位はゴムホース本来の柔軟さが維持される。
【0026】
本発明においては、上記説明したとおりのブローバイガスに含まれる臭気成分に対する耐薬品性のほか、同様にブローバイガス中に含まれるその他の物質に対する耐薬品性をも付与することができる。例えば、ブローバイガス中に含まれる潤滑油の添加剤のカルシウム化合物によるブローバイガス排出用ゴムホース構造中への侵入の抑制効果をも、さらに付加することができる。また、ゴムホース外部に融雪剤のような塩化カルシウムなどのカルシウムが侵入した場合についても効果を発揮する。
【0027】
そのようなカルシウムは通常、水分中に、カルシウムイオン単体又はその化合物単体として含まれている。そして、ブローバイガスがブローバイガス排出用ゴムホース内を流れて、当該ブローバイガス中の水分がゴムホースと接触すると、接触した水分中のカルシウムが当該ゴムホースの構造中に入り込む。その結果、入り込んだカルシウムがホースにひび割れを引き起こすことがある。ゴムホース外部からの当該ゴムホース構造中へのカルシウムの侵入についても同様である。
【0028】
本発明においては、用いる保護カプセルの材質を変えることにより、上記説明した臭気成分の透過を抑制する効果のほか、このカルシウムによる悪影響を抑制する効果をも、ブローバイガス排出用ゴムホースに付与することができる。
【0029】
この場合、保護カプセルのカプセル状樹脂としては、水分に溶解する特性のものが用いられる。これにより、ブローバイガス排出用ゴムホースの構造の疎の部位に入り込もうとするカルシウム含有水分と接触すると、カプセル状樹脂が溶解して、内包していた架橋剤及び添加剤が溶け出す。その後、上記説明したのと同様、ブローバイガスの熱によって活性化した架橋剤の作用によって、ブローバイガス排出用ゴムホース構造の疎の部位及びその周辺の領域の架橋密度がより高められる。このようにして、ブローバイガス排出用ゴムホース構造内へのカルシウムの侵入が抑制される。
【0030】
本発明においては、上記のように、ホースに対して悪影響を及ぼす成分の特性に対応してカプセル状樹脂を選定することによって、種々の成分に対する所望の耐薬品性を、ブローバイガス排出用ゴムホースに付与することも期待される。
【0031】
以下、上記説明した本発明において用いる各物質、各成分、製造における条件についてより詳細に説明する。
【0032】
[ブローバイガス排出用ゴムホース]
本発明の対象となるブローバイガス排出用ゴムホースとしては、例えば、自動車のエンジンルーム内で用いられるゴムホース、特に、内燃機関からのブローバイガスを排出するためのゴムホース、例えばブローバイホース又はPCVホースが挙げられる。
【0033】
[ゴム組成物]
ゴム組成物は、本発明のブローバイガス排出用ゴムホースを形成するための原料ともなる組成物である。当該ゴム組成物を、混錬、成形及び架橋させることによって、本発明のブローバイガス排出用ゴムホースが形成される。
【0034】
当該ゴム組成物は、材料ゴムのほか、当該材料ゴムの架橋剤、架橋促進剤、着色剤、加硫剤、可塑剤、紫外線吸収剤及び難燃剤等の添加剤、並びに下述する保護カプセルを含有する。
【0035】
[材料ゴム]
材料ゴムは、本発明のブローバイガス排出用ゴムホースを構成する主成分であり、その使用目的又は細かな用途に応じて、採用する種類が選定される。
【0036】
このような材料ゴムとしては、例えば、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)及びアクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)のようなジエン系ゴム、天然ゴム(NR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、シリコンゴム(MQ)、フッ素ゴム(FKM)及びエピクロロヒドリンゴム(ECO)のような非ジエン系ゴムが汎用的に用いられる。
【0037】
また、架橋剤、架橋促進剤、着色剤、加硫剤、可塑剤、紫外線吸収剤及び難燃剤等の添加剤としては、ブローバイガス排出用ゴムホースの製造において通常用いられるものであればよい。
【0038】
このうち、架橋剤としては、使用する材料ゴムの種類に応じて選択され、過酸化物又は硫黄化合物が挙げられる。
【0039】
上記のとおりの材料ゴムは、ゴム組成物の総質量に基づき、およそ50%~99質量%の割合で含有される。
【0040】
また、添加剤は、ゴム組成物の総質量に基づき、およそ1%~50質量%の割合で含有される。
【0041】
[保護カプセル]
本発明における保護カプセルは、カプセル状樹脂並びに当該カプセル状樹脂に内包された架橋剤及び任意にその他の成分、を含有する。
【0042】
カプセル状樹脂は、保護カプセルの外殻を為す成分であり、内包する架橋剤を、ブローバイガス排出用ゴムホースの製造時における熱から保護するためのものである。そのため、製造時における熱によって、内包される架橋剤が仮に活性化したとしても、その架橋剤がカプセル状樹脂の外へと漏れ出すことを阻むことができる。このため、ゴムホースの構造の意図しないさらなる架橋の促進を防止することができる。より具体的には、カプセル状樹脂は、少なくとも100℃の耐熱性を有し、当該温度において破壊又は溶解されることのない特性を有する樹脂から選択される。
【0043】
また一方では、ブローバイガス排出用ゴムホース製造時の温度への耐熱性と同時に、カプセル状樹脂は、ナフタレン誘導体等の臭気成分と接触すると溶解する材質のもので構成される。
【0044】
このように、臭気成分への耐薬品性の付与のためのカプセル状樹脂に用いられる樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)系樹脂、ポリイソブチレン(PIB)系樹脂及びフェノール系樹脂から成る群より選択される。
【0045】
この他、付与する耐薬品性の目的に応じて、カプセル状樹脂の種類が選択される。意図する耐薬品性の対象が水に含まれるものであれば、用いられる樹脂としては、水溶性の比較的高い樹脂から選択される。そのような樹脂としては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸アルキル、ポリエチレングリコール系樹脂、フェノール樹脂又はカルボキシメチルセルロース等が挙げられる。
【0046】
本発明における保護カプセルは、カプセル状樹脂成分と、架橋剤及びその他の成分とから、例えば、シームレスカプセル技術によって製造される。
【0047】
また、保護カプセルの含有量は、ゴム組成物の総質量に基づき、およそ1%~20質量%の範囲にあることが好ましい。
【0048】
[保護カプセルに含有される架橋剤]
保護カプセルには、特定の架橋剤が含有される。保護カプセル内のこの架橋剤は、ゴム組成物中に材料ゴムとともに直に含有される架橋剤とは、求められる特性が異なる。即ち、保護カプセル内の架橋剤は、ブローバイガスの温度で活性化し反応するような特性を有するものより選択される。言い換えると、10時間半減温度がブローバイガスの温度以下のものより選択される。ブローバイガスはおよそ130~150℃の温度を有するため、保護カプセル内の架橋剤は、およそ150℃以下の反応温度を有するものから選択される。
【0049】
このような保護カプセル内の架橋剤としては、例えば有機過酸化物より選択され、ジアシルパーオキシド、アルキルパーオキシド、パーオキシジカーボネート、パーオキシカーボネート、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキシド及びハイドロパーオキシドが好ましく、ジアシルパーオキシド、アルキルパーオキシド、パーオキシジカーボネート、パーオキシカーボネート及びパーオキシケタールが特に好ましい。
【0050】
当該架橋剤は、保護カプセルの総質量に基づき、およそ1~90質量%の割合で、好ましくはおよそ10~70質量%の割合で、カプセル状樹脂に内包される。
【0051】
また、保護カプセルは、上記架橋剤の他、必要に応じて、架橋促進剤、着色剤、加硫剤、可塑剤、紫外線吸収剤及び難燃剤等の成分を、任意に含有することができる。
【0052】
[本発明のブローバイガス排出用ゴムホースの製造]
ブローバイガス排出用ゴムホースの原料として、主成分となる材料ゴム、保護カプセル、架橋剤、充填剤、及び必要に応じてその他の成分を、それぞれ所望の配合量で、ロール又はニーダーなどの混錬機内で均質となるよう混合して、ゴム原料の混合物であるゴム組成物を得る。
【0053】
次に、得られたゴム組成物を金型に仕込み、プレス成形機又は押出成形機などの成形機を使用して、ホースの形状に成形して、未架橋のゴムホースを得る。
【0054】
さらに続いて、得られた未架橋のゴムホースを、およそ100~200℃の温度で加熱して架橋することにより、本発明のブローバイガス排出用ゴムホースが製造される。
【実施例0055】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明が以下の実施例に限定されるものでないことは言うまでもない。
【0056】
[実施例1.保護カプセルの作製]
下記のとおりの各成分材料から、シームレスカプセル技術を用いて保護カプセルを作製した。
【0057】
カプセル状樹脂(ポリイソブチレン樹脂):50質量部
有機過酸化物架橋剤(パーオキシケタール):20質量部
その他の成分(ハイドロパーオキサイド):20質量部
【0058】
[実施例2.ゴム組成物の作製]
下記のとおりの各成分材料を配合し、ニーダーを用いて混錬することにより、ゴム組成物を製造した。
【0059】
エピクロロヒドリン:100質量部
加硫剤:5質量部
上記保護カプセル:5質量部
【0060】
[実施例3.本発明のブローバイガス排出用ゴムホースの製造]
次に、上記得られたゴム組成物を、押出成形機を使用してホースの形状に成形して、未架橋のゴムホースを得た。さらに、得られた未架橋のゴムホースを、およそ100℃の温度で加熱することにより架橋反応を行って、本発明のブローバイガス排出用ゴムホースを製造した。
【0061】
[試験例1.臭気漏れの確認]
上記実施例3で得られたブローバイガス排出用ゴムホースを、自動車の内燃機関の所定の箇所に取り付け、当該自動車をこれまでと同じように運転しておよそ6ヵ月間走行した。その後、自動車の搭乗者によって車内及び当該自動車を格納したガレージ内のような閉鎖空間で臭気の程度を確認した。
その結果、従来のブローバイガス排出用ゴムホースを用いた場合と比べて、臭気の漏れが大きく抑制されたことが分かった。
【0062】
[試験例2.挿入性の確認]
上記実施例3で得られたブローバイガス排出用ゴムホースを、自動車の内燃機関の所定の箇所に取り付け、その際の対象物との密着性を確認した。
【0063】
その結果、ブローバイガス排出用ゴムホースは、特に時間がかかることもなく、スムーズに取り付けられる程度の挿入性と密着性を確認した。即ちホース本来の柔軟さを有ることが分かった。