(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142081
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】メタン回収用装着型装置
(51)【国際特許分類】
A01K 29/00 20060101AFI20241003BHJP
B01D 53/72 20060101ALI20241003BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20241003BHJP
B01D 53/18 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A01K29/00 Z
B01D53/72 ZAB
B01D53/78
B01D53/18 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054069
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000229519
【氏名又は名称】日本ハム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】小園 正樹
【テーマコード(参考)】
4D002
4D020
【Fターム(参考)】
4D002AA40
4D002AB02
4D002AC10
4D002BA02
4D002CA06
4D002DA17
4D002DA35
4D002DA56
4D002EA03
4D020AA08
4D020AA09
4D020BA15
4D020BA17
4D020BB03
4D020BB04
4D020CB01
4D020CC02
(57)【要約】
【課題】本発明は、家畜から発生するメタンを、メタン溶解性溶媒に溶解して回収することを目的とする。
【解決手段】家畜から発生するメタンを、メタン溶解性溶媒に溶解して回収する装着型装置を提供することにより、メタンを回収することが可能になる。これにより、大気中に放出されるメタン量を低減するとともに、資源として利用することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸引ポンプと、通気口と排気口とを含む貯蔵容器を含み、貯蔵容器がメタン溶解性溶媒を含み、呼気中のメタンをメタン溶解性溶媒に溶解して回収する、装着型装置。
【請求項2】
前記メタン溶解性溶媒が、炭素数5~14の炭化水素を含む、請求項1に記載の装着型装置。
【請求項3】
前記貯蔵容器がさらに水を含み、通気口側に水相を配置する、請求項2に記載の装着型装置。
【請求項4】
貯蔵容器内で、2相に分離し、下相に水を配置し、上相に炭素数5~14の炭化水素を配置する、請求項3に記載の装着型装置。
【請求項5】
貯蔵容器を複数の区画に分け、各区画は、前の区画の気相と、後の区画の液相とを連結する通気連結口を介し連結され、通気口を含む第一区画に、水と炭素数5~14の炭化水素を配置し、排気口を含む第二区画にさらに水又は生体安全性溶媒を配置する、請求項2に記載の装着型装置。
【請求項6】
通気連結口及び通気口に、曝気ノズルを配置する、請求項5に記載の装着型装置。
【請求項7】
第一区画の上に第二区画が配置される、請求項5に記載の装着型装置。
【請求項8】
第一区画の横に隣接して第二区画が配置される、請求項5に記載の装着型装置。
【請求項9】
第一区画を、水を含む第一水相区画と、炭素数5~14の炭化水素を含む第一溶媒相区画とに分け、第一水相区画と、第一溶媒相区画とが通気連結口を介し連結される、請求項5~8のいずれか一項に記載の装着型装置。
【請求項10】
前記メタン溶解性溶媒が、フルオラス溶媒を含む、請求項1に記載の装着型装置。
【請求項11】
前記貯蔵容器が、さらに水又は生体安全性溶媒を含み、上相に水又は生体安全性溶媒の相を配置する、請求項10に記載の装着型装置。
【請求項12】
前記貯蔵容器が、さらに水及び生体安全性溶媒を含み、フルオラス溶媒相、水相、及び生体安全性溶媒相の3相を形成する、請求項10に記載の装着型装置。
【請求項13】
前記貯蔵容器を複数の区画に分け、各区画は、前の区画の気相と、後の区画の液相とを連結する通気連結口を介し連結され、通気口を含む第一区画に、フルオラス溶媒を配置し、排気口を含む第二区画に水及び/又は生体安全性溶媒を含む、請求項10に記載の装着型装置。
【請求項14】
前記第一区画を、さらに水を含む第一水相区画と、フルオラス溶媒を含む第一溶媒相区画とに分け、第一水相区画と、第一溶媒相区画とが通気連結口を介し連結される、請求項13に記載の装着型装置。
【請求項15】
通気連結口及び通気口に、曝気ノズルを配置する、請求項13に記載の装着型装置。
【請求項16】
前記装着型装置の貯蔵容器が、ウシ首又は肩付近に取り付けられ装着具で固定される、請求項1に記載の装着型装置。
【請求項17】
前記貯蔵容器とウシとの間に吸収パッドを含む、請求項16に記載の装着型装置。
【請求項18】
連結管を介して前記貯蔵容器に連結された回収部をさらに含む、請求項1に記載の装着型装置。
【請求項19】
前記連結管が首に沿って頭頂部又は頬部を介して配置され、前記回収部が鼻腔又は口付近に配置される、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
ウシの呼気中のメタンを回収する装着型のシステムであって、
ウシの鼻又は口付近に装着される回収部、
通気口と排気口とを備え、メタン溶解性溶媒を含む貯蔵容器、
回収部と貯蔵容器とを連結する連結管、
前記回収部に陰圧を付与し、ウシの呼気を吸入し、そして貯蔵容器へと吐出する吸引ポンプ、
前記吸引ポンプを駆動する電源、及び
前記回収部、貯蔵容器、連結管、吸引ポンプ及び電源を、ウシに固定するための装着具
を含む、前記システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜のげっぷを含む呼気中(以下、呼気)中に含まれるメタンを溶媒に溶解して回収する、装着型装置に関する。より具体的に、吸引ポンプと、メタン溶解性溶媒を含む貯蔵容器とを含む装着型装置に関する。
【背景技術】
【0002】
メタン(CH4)は、二酸化炭素(CO2)と並ぶ温室効果ガスとして知られている。これらの温室効果ガスは赤外線領域に強い吸収をもち、大気中に放出されると、地表から放射されるエネルギーを吸収し、その一部を下層の地表に向かって放出する。これにより、地表から放出されたエネルギーの一部が温室効果ガスによって再び地表に戻されるため、地球温暖化が起こる。メタンは、CO2の21~72倍の温室効果を発揮するとされており、CO2に比べて大気中の含有量は少ないものの、温暖化への寄与が懸念されている。
【0003】
メタンは、天然ガスやメタンハイドレートとして大量に埋蔵されているほか、火山活動や自然の生態系からも放出されている。生態系からの放出として、湖沼からの放出に加え、動物、特に反芻動物の消化管に含まれるメタン生成細菌によっても生成される。メタンは、草食動物の呼気に含まれ、また糞からも排出される。畜産分野から放出されるメタンは、大気中のメタンガスの21%を占めるともいわれており、地球温暖化への影響が指摘されている。持続可能な開発目標(SDGs)の観点からも畜産分野に対策を求める声が上げられている。
【0004】
これまで、家畜からのメタン発生を減少させるため、細菌や飼料を工夫し、メタン排出量を抑制する試みがされている。一例として、システインを用いる方法(特許文献1)、ビタミン、微量元素、アミノ酸、微生物などのサプリメントを利用する方法(特許文献2)、乳酸菌を利用する方法(特許文献3)、アルカリゲネス菌を利用する方法(特許文献4)などが報告されている。また、メタンの約95%が呼気とげっぷを介して牛の口と鼻孔から排出されることから、ウシの鼻付近に触媒を取り付けることで、生成したメタンを温室効果の少ない二酸化炭素に変換分解する装置について開発が進められている(特許文献5)。以上のように、畜産分野では、発生するメタンの放出の抑制に注力して研究が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-322828号公報
【特許文献2】特表2022-521565号公報
【特許文献3】特開2009-201354号公報
【特許文献4】国際公開第2011/145516号
【特許文献5】国際公開第2022/180375号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、畜産分野で発生するメタンの放出を抑制することについて試みられている一方で、家畜から発生するメタンを回収して利用することについてはいまだ研究が進められていない。本発明は、家畜から発生するメタンを回収することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、家畜から発生するメタンを利用することについて鋭意研究を行い、家畜から発生するメタンを溶媒に溶解して回収する装着型装置を着想した。具体的に、呼気中のメタンを、温室効果ガスではないメタン溶解性溶媒に溶解して回収することで、回収及び貯蔵が難しい気体のメタンを回収することが可能になった。
そこで本発明は以下に関する:
[1] 吸引ポンプと、通気口と排気口とを含む貯蔵容器を含み、貯蔵容器がメタン溶解性溶媒を含み、呼気中のメタンをメタン溶解性溶媒に溶解して回収する、装着型装置。
[2] 前記メタン溶解性溶媒が、炭素数5~14の炭化水素を含む、項目1に記載の装着型装置。
[3] 前記貯蔵容器がさらに水を含み、通気口側に水相を配置する、項目2に記載の装着型装置。
[4] 貯蔵容器内で、2相に分離し、下相に水を配置し、上相に炭素数5~14の炭化水素を配置する、項目3に記載の装着型装置。
[5] 貯蔵容器を複数の区画に分け、各区画は、前の区画の気相と、後の区画の液相とを連結する通気連結口を介し連結され、通気口を含む第一区画に、水と炭素数5~14の炭化水素を配置し、排気口を含む第二区画にさらに水又は生体安全性溶媒を配置する、項目2に記載の装着型装置。
[6] 通気連結口及び通気口に、曝気ノズルを配置する、項目5に記載の装着型装置。
[7] 第一区画の上に第二区画が配置される、項目5に記載の装着型装置。
[8] 第一区画の横に隣接して第二区画が配置される、項目5に記載の装着型装置。
[9] 第一区画を、水を含む第一水相区画と、炭素数5~14の炭化水素を含む第一溶媒相区画とに分け、第一水相区画と、第一溶媒相区画とが通気連結口を介し連結される、項目5~8のいずれか一項に記載の装着型装置。
[10] 前記メタン溶解性溶媒が、フルオラス溶媒を含む、項目1に記載の装着型装置。
[11] 前記貯蔵容器が、さらに水又は生体安全性溶媒を含み、上相に水又は生体安全性溶媒の相を配置する、項目10に記載の装着型装置。
[12] 前記貯蔵容器が、さらに水及び生体安全性溶媒を含み、フルオラス溶媒相、水相、及び生体安全性溶媒相の3相を形成する、項目10に記載の装着型装置。
[13] 前記貯蔵容器を複数の区画に分け、各区画は、前の区画の気相と、後の区画の液相とを連結する通気連結口を介し連結され、通気口を含む第一区画に、フルオラス溶媒を配置し、排気口を含む第二区画に水及び/又は生体安全性溶媒を含む、項目10に記載の装着型装置。
[14] 前記第一区画を、さらに水を含む第一水相区画と、フルオラス溶媒を含む第一溶媒相区画とに分け、第一水相区画と、第一溶媒相区画とが通気連結口を介し連結される、項目13に記載の装着型装置。
[15] 通気連結口及び通気口に、曝気ノズルを配置する、項目13に記載の装着型装置。
[16] 前記装着型装置の貯蔵容器が、ウシ首又は肩付近に取り付けられ装着具で固定される、項目1に記載の装着型装置。
[17] 前記貯蔵容器とウシとの間に吸収パッドを含む、項目16に記載の装着型装置。
[18] 連結管を介して前記貯蔵容器に連結された回収部をさらに含む、項目1に記載の装着型装置。
[19] 前記連結管が首に沿って頭頂部又は頬部を介して配置され、前記回収部が鼻腔又は口付近に配置される、項目18に記載の装置。
[20] ウシの呼気中のメタンを回収する装着型のシステムであって、
ウシの鼻又は口付近に装着される回収部、
通気口と排気口とを備え、メタン溶解性溶媒を含む貯蔵容器、
回収部と貯蔵容器とを連結する連結管、
前記回収部に陰圧を付与し、ウシの呼気を吸入し、そして貯蔵容器へと吐出する吸引ポンプ、
前記吸引ポンプを駆動する電源、及び
前記回収部、貯蔵容器、連結管、吸引ポンプ及び電源を、ウシに固定するための装着具
を含む、前記システム。
【発明の効果】
【0008】
メタンを回収することで、畜産分野からの温室効果ガスの発生を抑制することが可能になるとともに、回収されたメタンを資源として利用することができる。気体のメタンを、メタン溶解性溶媒に溶解させることで、小さい容積の貯蔵容器に保管することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は本発明に係る装着型装置及びシステムを簡略化して示す模式図である。
【
図2】
図2は、メタン溶解性溶媒と水とを含む貯蔵容器2を簡略化して示す模式図である。
【
図3】
図3は、メタン溶解性溶媒と水を含む第一区画と、生体安全性溶媒を含む第二区画とを、上下に重ねて含む貯蔵容器2を簡略化して示す模式図である。
【
図4】
図4は、水を含む第一水相区画と、メタン溶解性溶媒を含む第一溶媒相区画と、第二区画とを上下に重ねて含む、貯蔵容器2を簡略化して示す模式図である。
【
図5】
図5は、水を含む第一水相区画と、メタン溶解性溶媒を含む第一溶媒相区画と、第二区画とを隣接して含む、貯蔵容器2を簡略化して示す模式図である。
【
図6】
図6は、本発明に係る装着型装置1を牛に装着させた模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は家畜の呼気中に含まれるメタンを、メタン溶解性溶媒に溶解して回収する、装着型装置(以下、本発明に係る装着型装置と呼ぶ)、又は当該装着型装置を含むシステムに関する。
【0011】
本発明に係る装着型装置1は、呼気中のメタンを、メタン溶解性溶媒10に溶解して回収するために、吸引ポンプ4と、通気口3と排気口8とを含む貯蔵容器とを含む。この貯蔵容器2には、メタンを溶解可能なメタン溶解性溶媒10が配置される。この構成を有することにより、気体であるメタンを、メタン溶解性溶媒10に溶解して回収することができ、装置を小型化することができる。これにより装着型装置とすることができ、家畜の行動に対する制限が少ないという利点を有する。
【0012】
メタン溶解性溶媒10としては、メタンを溶解可能な溶媒であれば、任意の溶媒を使用することができる。装置を小型化する観点から、メタン溶解性溶媒への溶解性は、家畜を飼育する室内又は野外温度において0.3L/mL~2.0L/mL以上の溶解性を有する溶媒を使用することが好ましい。メタン溶解性溶媒は、温度によってメタンの溶解性が変化するが、畜産場にて使用する観点から、-20℃~50℃の範囲にて上述の溶解性を有することが好ましい。装置を小型化する観点から、一例として、溶解性は、25℃で0.4L/mL以上が好ましく、0.5L/mL以上が好ましい。このような溶解性を有する溶媒として、常温で液体の炭化水素が挙げられ、かかる炭化水素は飽和炭化水素であってもよいし、不飽和炭化水素であってもよい。常温で液体の炭化水素としては、一例として炭素数5~14のアルカンを使用することができ、直鎖状、分岐状、又は環状であってもよい。臭気を伴わない観点から、直鎖状のアルカンが好ましい。畜産場の気温において溶媒が沸点に達しない溶剤とする観点から、炭素数5以上が好ましく、一例としてヘプタン又はヘキサンが好ましい。また、畜産場の気温において溶媒が凍結しない融点を選定する観点から、0℃以下の融点を有する炭素数14以下が好ましく、-20℃以下の極環境でも対応可能な炭素数11以下がより好ましい。特に、n-ヘキサン、n-ヘプタンを用いることができる。メタン溶解性溶媒10の別の例として、フルオラス溶媒を用いることができる。フルオラス溶媒は、ガス、特にメタンガスの溶解度が非常に高く、安定性が高く、かつ毒性が低いため、装着型装置に用いるのに適している。フルオラス溶媒としては、一例として、以下の式で表される少なくとも1の化合物、又はその混合溶媒が用いられうる:
【化1】
メタン溶解性溶媒10は、以上列挙された溶媒の混合液であってもよく、また、任意の添加物を含んでもよい。このような添加物としては、一例としてpH調整剤、反応促進剤、脱水剤などが挙げられうる。
【0013】
家畜が排出するメタン量、メタン溶解性溶媒10のメタン溶解性、及び装置装着時間に応じて、装着型装置の貯蔵容器に含めるメタン溶解性溶媒の量を決定することができ、それにより装着型装置の大きさが決定されうる。ウシが、1日に呼気により排出するメタンは、およそ14mol/日になるといわれている。6時間装置を装着することを仮定すると、約3.6molのメタンを排出する。n-ヘキサンやn-ヘプタンは、常温で0.55~0.67L/mLのメタンを溶解可能であることから、200mL程度の量で、10時間の間に放出されるメタンを全て溶解することができる。この程度の量の溶媒を含む貯蔵容器であれば、家畜に装着した場合も、家畜の行動に対する制限が少なく、家畜への負担も少ないという利点を有する。使用されるメタン溶解性溶媒の量は、家畜への装着させる貯蔵容器の大きさに応じて適宜設定することができ、一例として、100~1000mLの範囲で設定することができる。
【0014】
メタン溶解性溶媒10は、揮発性や臭気を伴うことから、メタン溶解性溶媒10をそのまま使用すると、漏出した際に問題を生じうる。かかる漏出した際の危険性を減少させるため、家畜にとって安全な生体安全性溶媒14に希釈して用いることができる。斯かる家畜にとって安全な生体安全性溶媒14としては、水、エタノール、または油脂、例えば植物油、鉱物油などが挙げられる。植物油としては、市販される油であれば任意のものであってよく、キャノーラ油、オリーブ油、ひまわり油、ごま油、ベニバナ油、ひまし油などを用いてもよいが、これらに限定されることはない。油脂に混和することで、臭気が減少し、また希釈されたことで生体への悪影響を軽減することができる。
【0015】
メタン溶解性溶媒10は、揮発性を有しており、漏出や逆流した場合の家畜への影響が問題となる。したがって、装着型装置とする場合には、漏出や逆流を防止する形態とすることが好ましい。一例として、貯蔵容器2の排気口8側にもメタン溶解性溶媒10とは異なる溶媒を配置することができる。これにより、メタン溶解性溶媒10が揮発した場合も、排気口8からのメタン溶解性溶媒10の揮発成分が放出されることを防止することができる。また、同様に、貯蔵容器2の通気口3側にメタン溶解性溶媒10とは異なる溶媒を配置することが好ましい。通気口3側にかかる溶媒が配置されることで、貯蔵容器2内の液体が逆流した場合であっても、メタン溶解性溶媒10が逆流して漏出することを防止することができる。排気口8側及び通気口3側に配置される溶媒は、水や有機溶媒など、生体に安全なものであれば任意の溶媒(以下、生体安全性溶媒14という)であってよい。排気口8側には、揮発したメタン溶解性溶媒10をトラップする観点から、生体にとって安全な有機溶媒、例えば油脂、例えば植物油、鉱物油などが挙げられる。植物油としては、市販される油であれば任意のものであってよく、キャノーラ油、オリーブ油、ひまわり油、ごま油、ベニバナ油、ダイズ油、ひまし油などを用いてもよいが、これらに限定されることはない。特に食用油を用いることが好ましい。通気口3側に配置する溶媒は、メタン溶解性溶媒10と分離する観点から、例えば水又は水溶液が用いられることが好ましい。
【0016】
溶媒の配置は、互いに混合しない溶媒を接触させて相形成させることで所望の位置に溶媒を配置してもよい(
図2)し、接触させて相形成させる代わりに、2以上の区画に分けることで配置してもよい(
図4及び5)し、それらの組み合わせであってもよい(
図3)。本明細書中では、「相」とは、便宜上、2つ以上の溶媒を接触させて相形成をしている場合のみならず、単独の溶媒を区画に分けて配置した場合も含むものとする。したがって、2相式の貯蔵容器は、
図2に表されるように単一の区画内に相形成をさせてもよいし、2つの区画に配置することで相形成させてもよい。3相式の貯蔵容器は、単一の区画内に相形成をさせてもよいし、2区画を含む貯蔵容器の一方の区画に2つ溶媒を接触させた相形成をさせてもよい(
図3)し、3区画を含む貯蔵容器の各区画に溶媒を配置することで3つの相を形成してもよい(
図4及び
図5)
【0017】
一の例として、貯蔵容器2内に2以上の区画を用いて分離することにより、排気口8側に生体安全性溶媒14を配置することができる(
図3)。分離された区画は、それぞれ通気連結口12を用いて連結して、気体のみが移動可能に構成することができる。通気連結口12は、前の区画の気相と、後の区画の液相とを連結することが好ましい。一例として、貯蔵容器2を2つの区画に分け、通気口を有する区画を第一区画15とし、排気口を有する区画を第二区画16とする。この場合、第一区画15にメタン溶解性溶媒10を配置し、第二区画16に生体安全性溶媒14を配置することができる。これにより揮発したメタン溶解性溶媒10は、生体安全性溶媒14によってトラップされ、排出されることはない。第一区画15には、後述する通り、相分離を利用してさらに水9を配置してもよい(
図3)し、さらに区画を区分することで水9を配置してもよい(
図4及び5)。これにより、第一区画15から逆流による、メタン溶解性溶媒10の流出を抑制することができる。分離された区画は、それぞれ通気連結口12を用いて連結して、気体のみが移動可能に構成することができる。通気連結口12は、前の区画の気相と、後の区画の液相とを連結することが好ましい。通気連結口12は逆止弁を設けてもよく、これにより前の区画から気体のみを通過させる一方、後の区画からの液体の逆流を防止することができる。
【0018】
通気口3側に水9を配置するためには、一例として水9と、メタン溶解性溶媒10とを接触させて相形成させてもよい(
図2)。相形成させる場合、下相が水相となるようにメタン溶解性溶媒10を選択することが好ましい。液体の飽和アルカンは、水と混合した場合に、下に水相、上に有機相を形成するため好ましい。別の例として、貯蔵容器内を2以上の区画を用いて分離し、通気口を含む区画に水9を配置し、メタン溶解性溶媒10を別の区画に配置してもよい。分離された区画は、それぞれ通気連結口12を用いて連結して、気体のみが移動可能に構成することができる。通気連結口12は、前の区画の気相と、後の区画の液相とを連結することが好ましい。通気連結口12は逆止弁を設けてもよく、これにより前の区画から気体のみを通過させる一方、後の区画からの液体の逆流を防止することができる。
【0019】
相形成は、互いに溶解性を有さない溶媒の密度に応じて、下相・上相のいずれに分離するかが決定される。水相と炭素数5~14の炭化水素とでは、水相が下相となり、炭素数5~14の炭化水素が上相となる。同様に油脂と、炭素数5~14の炭化水素は互いに溶解性を有すため、生体安全性溶媒14として油脂を用いる場合、水、炭素数5~14の炭化水素及び油脂を貯蔵容器2に配置すると、下相に水、上相に炭素数5~14の炭化水素相及び油脂相の混合溶媒による2相を形成する。
一方、フルオラス溶媒と、水又は油脂とを接触させて相形成させると、フルオラス溶媒が下相となり、水又は油脂が上相となる。したがって、フルオラス溶媒を用いる場合の
図2の水9とメタン溶解性溶媒10との関係は逆となる。フルオラス溶媒を用いる場合に、水相を通気口側に配置するためには、通常
図4及び
図5のように水を含む区画を設ける必要がある。一方水又は油脂は、フルオラス溶媒上に相形成するため、
図3~5のように生体安全性溶媒14を第2区画とせずに、単に相形成させることで、排出口8側に生体安全性溶媒14を形成することができるし、
図3~5のように生体安全性溶媒14を第2区画としてもよい。
【0020】
より具体的に、3相式の貯蔵容器として、貯蔵容器2を2つの区画に分け、通気口3を有する区画を第一区画15とし、排気口8を有する区画を第二区画16とし、第一区画15をさらに、通気口3を有する第一水相区画18と、第一水相区画と通気連結口12で連結された第一溶媒相区画17とに分離することで、3つの区画を有する貯蔵容器とすることができる(
図4及び5))。各区画の通気連結口12は、前の区画の気相と、後の区画の液相とを連結することが好ましい。通気連結口12は逆止弁を設けてもよく、これにより前の区画から気体のみを通過させる一方、後の区画からの液体の逆流を防止することができる。
【0021】
貯蔵容器2に設けられる通気口3は、曝気を確実にする観点から、通気口3の出口を貯蔵容器の底面に配置されるか、又は側面の液面より下側に配置される。メタン溶解性溶媒10にメタン含有気体を曝気することで、メタンをメタン溶解性溶媒10に溶解させることができる。通気口10には曝気を促進する曝気ノズルを配置することが好ましい。曝気ノズルは市販のものを利用することができる。通気口3には連結管が接続され、通気口3からの逆流を防止するために、水相及び/又はメタン溶解性溶媒10の液面より高い位置を通るように形成されたサイホン管13を形成してもよい。さらに、連結管6には1又は複数の逆止弁7を配置することが好ましい。
【0022】
排気口8は、貯蔵容器2の上面又は壁面に設けることができる。排気口8は、気相の気体を外部へと放出することができる一方、貯蔵容器2に含まれる液体は外へ漏出しない逆止弁を設けてもよい。逆止弁により、外部の空気は入らない一方、所定の内圧がかかった場合にのみ排気を行うことができる。貯蔵容器が複数区画に分かれている場合、通気口から流入する気体は、各区画を連結する通気連結口を介して、各区画を通過し、その一部が排気口から外へ排出される。
【0023】
貯蔵容器に含まれる液体を交換可能とするために、貯蔵容器2には液体取り出し口19を含んでもよい。貯蔵容器2に複数の区画を設ける場合、各区画について、液体取り出し口19を含むことができる。
【0024】
家畜の口及び鼻付近に放出された呼気を貯蔵容器2に導入するために、1又は複数の吸引ポンプ4を任意の箇所に配置してもよい。一の例では、呼気の回収を促進する観点から、貯蔵容器2の通気口3の上流に配置してもよい。この場合、鼻及び口の周囲から回収された気体を、貯蔵容器2内に送り込むことで、貯蔵容器2内を陽圧とすることができる。別の例では、貯蔵容器2の排気口8の下流に配置してもよく、この場合貯蔵容器内に陰圧を付すことで、通気口からの気体を流入させることができる。吸引ポンプ4を貯蔵容器2内に貯蔵容器1と一体に形成することもできる。
【0025】
[システム]
家畜の呼気中に含まれるメタンを、メタン溶解性溶媒10に溶解して回収する、装着型装置は、吸引ポンプ4と貯蔵容器2を基本構成とする。本発明に係る装着型装置は、さらに口及び鼻付近からメタンを回収するために、回収部5を含んでもよく、これらの部材を連結する連結管6をさらに含む。回収部5、吸引ポンプ4、電源、及び貯蔵容器2を家畜、特にウシの体に取り付ける装着具を含めて、家畜の呼気中に含まれるメタンをメタン溶解性溶媒10に溶解して回収するシステム(以下、本発明に係るシステム)ということもできる。したがって、本発明に係るシステムは、
ウシの鼻又は口付近に装着される回収部5、
メタンを、メタン溶解性溶媒に溶解して回収する貯蔵容器2、
回収部と貯蔵容器とを連結する連結管6、
前回収部に陰圧を付与し、ウシの呼気を吸入し、そして貯蔵容器へと吐出する、連結管に配置された吸引ポンプ4、
前記吸引ポンプを駆動する電源、及び
装着具20
を含む。
【0026】
回収部5は、家畜の口及び鼻の付近に取り付け、呼気を回収する部材をいう。摂食を妨げない観点から、口の横、又は鼻を覆うように配置されたマスクやフードであってもよい。回収部5は、連結管6を介して吸引ポンプ4に接続されており、陰圧が付されている。これにより、口及び鼻の周りの空気を常に、又は呼吸をする際に吸引することで、メタン含有気体を回収することができる。回収部5は、装着具20を用いて鼻梁と顎とを通して固定することができる。回収部5に接続されている連結管6は、眉間を介して、或いは顎下又は頬横を介して首又は肩付近に装着された貯蔵容器2に接続されてもよい。回収部5には、気体のみを通すフィルターを配置することで、摂食時の草や抜け毛などのごみの吸引を抑制することができる。鼻輪を付けるための穴を利用して回収部を取り付けることができる。回収部を、連結管と連結された中空のリングであって、リングに気体吸引用の穴を設けたリングを含む、鼻輪型の回収部とすることができる。鼻輪型の回収部を用いることで、鼻及び口の至近から、気体を回収することができる。
【0027】
吸引ポンプ4は、本システムの径路の途中、例えば連結管の途中に配置することで、気体を上流から下流へと流すことができる。本発明において、空気を取り込む回収部5側を上流とし、貯蔵容器2の排気口8側を下流とすることができる。かかる吸引ポンプ4は、本技術分野において市販の任意のものを使用することができる。吸引ポンプ4は、100~2500mL/分の吐出量であればよく、溶媒のはねを抑制する観点から1000mL/分以下、800mL/分以下の吐出量を選択することができる。口及び鼻から排出されるメタンを効率よく回収する観点から、300mL/分以上の吐出量が好ましく、500mL/分以上の吐出量を選択することもできる。吸引ポンプに対し電力を供給する電源は、一体型のものを用いてもよいし、別途電源を配置してもよい。電源は、電池式であってもよいし充電式であってもよい。
【0028】
本発明の部材間を連結する連結管6は、気体の流量に応じて適宜選択することができる。可撓性を有する素材でできた連結管6が好ましい。可撓性の連結管6の例として、一例としてビニルチューブ、シリコンチューブなどを用いることができ、使用態様に応じてその内径及びチューブ厚を適宜決定することができる。連結管6として、内径0.05~3cmの管を使用することができる。十分な量の呼気を回収する観点から、0.2cm以上が好ましく、0.3cm以上がより好ましい。装置の小型化の観点からは、1.5cm以下が好ましく、1cm以下がさらに好ましい。また、チューブの板厚は、チューブ折れによる流量の減少の観点から、0.2cm以上が好ましく、装置の小型化及び曲げ等の加工性の観点から1cm以下が好ましい。
【0029】
本発明に係る装着型装置は、装着具20を介して、首又は肩付近に配置することができる。これにより、例えば牛の発情行動の一つである乗駕行動を阻害せず、あるいは乗駕行動による装着型装置の損傷を防ぐことが可能となる。また、牛は睡眠時に横臥姿勢をとるが、その際首又は肩付近は比較的水平を保ちやすく、装着型装置内の液体が漏れにくい位置である。装着具20には、装置を固定する固定位置と、装着具20とを含む。装着具20としては、本技術分野に使用される任意の装着具を用いることができ、一例としてベルト、面ファスナー、ひもなどが用いられる。首回りに装着具を回して固定してもよいし、胴部に装着具を回して固定してもよい。装着具20は、貯蔵容器から漏出する液体を吸収するための、吸収パッド21を動物と、貯蔵容器2との間に配置してもよい。吸収パッド21は、液体を吸収可能な素材であれば任意の素材であってよく、布、スポンジ、吸水ポリマーなどが用いられうる。本発明の装着型装置は、メタンを呼気として排出する家畜に装着することができ、一例としてウシ、ヒツジ、ヤギなどの反芻動物に装着することが好ましい。本発明の装着型装置は、動物の種類に応じて設計することができるが、一例としてウシに装着させる場合、例えば装着部全体で10kg以下となるように構成することができ、より好ましくは8kg以下とすることができる。装置を小型化することにより、ウシへの負担を減少させ、子ウシへの使用も可能とすることができる。
【0030】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0031】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例0032】
実施例1.メタン溶解性溶媒の臭気の軽減
ヘキサンのみ(比較)、ヘキサンと油(80:20)、ヘキサンと油(50:50)、ヘキサンと油(20:80)の3条件について、臭気の軽減について官能試験を行った。油としてはサラダ油を用いた。
対照のヘキサンのみ(比較)に比べて臭気が の4段階について3人による官能評価を行った。ヘキサンのみに比較した臭気の変化について、結果を以下に示す。
【表1】
ヘキサンへの油の混合率が50%以上で臭気の低減が認められた。