(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142082
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】車両用空調システム、及び空調デバイスの再生方法
(51)【国際特許分類】
B60H 3/00 20060101AFI20241003BHJP
F24F 8/167 20210101ALI20241003BHJP
B60H 3/06 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B60H3/00 A
B60H3/00 F
B60H3/00 Z
F24F8/167
B60H3/00 B
B60H3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054070
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 浩貴
【テーマコード(参考)】
3L211
【Fターム(参考)】
3L211BA04
3L211BA09
3L211DA72
3L211GA63
3L211GA72
3L211GA74
(57)【要約】
【課題】機能材(機能材含有層)の再生時に最適な電力を投入し、消費電力を抑えることが可能な車両用空調システムを提供する。
【解決手段】空気が流通可能な空調ダクト10と、空調ダクト10内に配置された空調デバイス20と、空調デバイス20を制御する制御部30とを備える車両用空調システム100である。空調デバイス20は、外周壁22と、外周壁22の内側に配設され、第1端面23aから第2端面23bまで延びる流路となる複数のセル24を区画形成する隔壁25とを有し、少なくとも隔壁25がPTC特性を有する材料で構成されたハニカム構造体21と、ハニカム構造体21に設けられた一対の電極26a,26bと、隔壁25の表面上に形成された機能材含有層27とを含む。制御部30は、一対の電極26a,26bに対して電圧印加を行い、ハニカム構造体21を加熱して機能材含有層27を再生するとともに、ハニカム構造体21のキュリー点に到達した段階で一対の電極26a,26bに対する電圧印加を停止する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気が流通可能な空調ダクトと、
前記空調ダクト内に配置された空調デバイスと、
前記空調デバイスを制御する制御部と
を備え、
前記空調デバイスは、外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、第1端面から第2端面まで延びる流路となる複数のセルを区画形成する隔壁とを有し、少なくとも前記隔壁がPTC特性を有する材料で構成されたハニカム構造体と、前記ハニカム構造体に設けられた一対の電極と、前記隔壁の表面上に形成された機能材含有層とを含み、
前記制御部は、前記一対の電極に対して電圧印加を行い、前記ハニカム構造体を加熱して前記機能材含有層を再生するとともに、前記ハニカム構造体のキュリー点に到達した段階で前記一対の電極に対する電圧印加を停止する、車両用空調システム。
【請求項2】
前記制御部は、前記ハニカム構造体の初期抵抗に対する電圧印加時の経時抵抗の抵抗比を算出することにより、前記ハニカム構造体のキュリー点に到達した段階を判断する、請求項1に記載の車両用空調システム。
【請求項3】
前記制御部は、所定の時間あたりの前記抵抗比の変動量を算出し、前記変動量の最大値を確認した後、前記変動量が前記変動量の最大値の2/3以下となった段階で前記一対の電極に対する電圧印加を停止する、請求項2に記載の車両用空調システム。
【請求項4】
電圧印加を停止する前記変動量が前記変動量の最大値の1/2以下である、請求項3に記載の車両用空調システム。
【請求項5】
前記所定の時間が5~25秒である、請求項3又は4に記載の車両用空調システム。
【請求項6】
前記空調デバイスは、前記一対の電極に接続された端子を更に含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の車両用空調システム。
【請求項7】
PTC特性を有する前記材料はチタン酸バリウムを主成分とし、鉛を実質的に含まない材料で構成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の車両用空調システム。
【請求項8】
PTC特性を有する前記材料の25℃における体積抵抗率が0.5~30Ω・cmである、請求項1~4のいずれか一項に記載の車両用空調システム。
【請求項9】
前記ハニカム構造体は、前記隔壁の厚さが0.300mm以下、セル密度が100セル/cm2以下、且つセルピッチが1.0mm以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の車両用空調システム。
【請求項10】
前記ハニカム構造体は、前記隔壁の厚さが0.08~0.36mm、セル密度が2.54~140セル/cm2、前記セルの開口率が0.70以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の車両用空調システム。
【請求項11】
前記機能材含有層が水蒸気、二酸化炭素、及び揮発成分から選択される一種又は二種以上を吸着する機能を有する機能材を含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の車両用空調システム。
【請求項12】
前記機能材含有層は触媒を更に含有する、請求項11に記載の車両用空調システム。
【請求項13】
外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、第1端面から第2端面まで延びる流路となる複数のセルを区画形成する隔壁とを有し、少なくとも前記隔壁がPTC特性を有する材料で構成されたハニカム構造体と、前記ハニカム構造体に設けられた一対の電極と、前記隔壁の表面上に形成された機能材含有層とを含む空調デバイスにおいて、
前記一対の電極に対して電圧印加を行い、前記ハニカム構造体を加熱して前記機能材含有層を再生するとともに、前記ハニカム構造体のキュリー点に到達した段階で前記一対の電極に対する電圧印加を停止する、空調デバイスの再生方法。
【請求項14】
前記ハニカム構造体のキュリー点に到達した段階は、前記ハニカム構造体の初期抵抗に対する電圧印加時の経時抵抗の抵抗比を算出することにより判断される、請求項13に記載の空調デバイスの再生方法。
【請求項15】
所定の時間あたりの前記抵抗比の変動量を算出し、前記変動量の最大値を確認した後、前記変動量が前記変動量の最大値の2/3以下となった段階で前記一対の電極に対する電圧印加を停止する、請求項14に記載の空調デバイスの再生方法。
【請求項16】
電圧印加を停止する前記変動量が前記変動量の最大値の1/2以下である、請求項15に記載の空調デバイスの再生方法。
【請求項17】
前記所定の時間が5~25秒である、請求項15又は16に記載の空調デバイスの再生方法。
【請求項18】
前記空調デバイスは、前記一対の電極に接続された端子を更に含む、請求項13~16のいずれか一項に記載の空調デバイスの再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調システム、及び空調デバイスの再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの各種車両において、車室環境の向上に対する要求が高まっている。具体的な要求としては、車室内のCO2を低減して運転者の眠気を抑制すること、車室内を調湿すること、及び車室内のにおい成分やアレルギー誘因成分などの有害な揮発成分を除去することなどが挙げられる。このような要求に有効な対策として換気が挙げられるが、換気は、冬場のヒーターエネルギーを大きくロスする要因となり、冬場のエネルギー効率の低下を招く。特に電気自動車(BEV:Battery Electric Vehicle)では、そのエネルギーロスにより、航続距離が大幅に減少するという問題がある。
【0003】
上記の問題を解決する方法として、車室の空気中の水蒸気、CO2などの除去対象成分を吸着材などの機能材に捕捉した後、加熱によって除去対象成分を反応又は離脱させて車外に放出し、機能材を再生する車両用空調システムが知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、再生可能なCO2収着剤と、CO2除去導管と、再生導管とを含むCO2除去アセンブリを備えた、ビークル(車両)の乗客キャビン(車室)の雰囲気を制御するためのシステムが開示されている。このシステムでは、乗客キャビンの内部からの空気(内気)を再生可能なCO2収着剤の上に流し、処理された空気をCO2除去導管によって乗客キャビンに戻すとともに、ヒーターによって加熱した脱離ガスを再生可能なCO2収着剤の上に流してCO2をCO2収着剤から脱離させ、脱離させたCO2を再生導管によって乗客キャビン外の位置で排出する。
しかしながら、このシステムでは、CO2を脱離させる状態からCO2を吸着する状態に切り替えたとしても、しばらくの間は、CO2を脱離させる状態が継続されるため、制御によってCO2を脱離させる状態が終了した後も、CO2収着剤が所定温度以上である状態が継続し、脱離させた浄化対象物質が車室内に戻されてしまうという問題がある。
【0005】
そこで、この問題を解決するために、特許文献2には、車両の車室と連通する2つの流路(第1流路及び第2流路)を有し、それぞれの流路にCO2などの除去対象成分を吸着する吸着ブロックが配置されるとともに、それぞれの流路に、除去対象成分が除去された空気を車両の車室に戻す流路と、吸着ブロックから除去対象成分を脱離させた空気を車室の外部に排気する流路とを設けたシステムが開示されている。このシステムでは、第1流路と第2流路のうち浄化対象成分を脱離させている側の流路から車室に空気が流れるのを抑制可能なタイミングでそれぞれの構成要素を制御するため、いずれか一方の吸着ブロックが浄化対象成分を吸着して浄化した空気を車両の車室に戻す動作と、他方の吸着ブロックが浄化対象成分を脱離させた空気を車室の外部に排気する動作とを同時期に実現するとともに、浄化できていない空気が車室内に流れるのを抑制することができる。
【0006】
上記のような従来のシステムでは、ヒーターなどの加熱装置によって加熱した空気を用いて吸着材の再生(浄化対象成分の脱離)を行っている。しかしながら、このような加熱装置を用いる場合、吸着材の再生時間に時間がかかるとともに、システムが大型化してしまう。
そこで、自己発熱が可能なヒーターエレメントを、CO2などの除去対象成分を吸着する機能材の担体として用いることが考えられる。例えば、特許文献3には、外周壁と、外周壁の内側に配設され、第1端面から第2端面まで流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁とを有する柱状ハニカム構造体を備え、隔壁がPTC特性を有しており、隔壁の平均厚さが0.13mm以下であり、第1端面及び第2端面における開口率が0.81以上であるヒーターエレメントが開示されている。このヒーターエレメントは、車室の暖房用途に用いられるものであるが、ハニカム構造を有することで加熱面積を大きくすることができるので、効率の良い加熱手段である。したがって、このようなヒーターエレメントを機能材の担体として用いると、機能材の再生時間の短縮化に貢献できると考えられる。特に、このヒーターエレメントは、通電による加熱が可能であり且つPTC特性を有するため、機能材を容易に加熱できる一方で、過剰な発熱を抑制し、機能材の熱劣化を抑制することもできると考えられる。また、過剰な温度になってしまう恐れが回避されるので、初期抵抗を小さく設定して加熱速度を速めても安全を確保でき、短時間での昇温が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2017-528316号公報
【特許文献2】特開2020-104774号公報
【特許文献3】国際公開第2020/036067号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ヒーターエレメントを機能材の担体として用いる場合、ヒーターエレメントを所定の時間通電することによって機能材の再生が行われるが、機能材の再生温度に達した後も通電が継続されてしまうことがある。すなわち、機能材の再生に過剰の電力を投入してしまうことがあり、無駄な消費電力がかかることがある。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、機能材(機能材含有層)の再生時に最適な電力を投入し、消費電力を抑えることが可能な車両用空調システム、及び空調デバイスの再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、所定のハニカム構造体と、所定のハニカム構造体に設けられた一対の電極と、所定のハニカム構造体の隔壁の表面上に形成された機能材含有層とを含む空調デバイスを備える車両用空調システムについて鋭意研究を行った結果、ハニカム構造体を加熱して機能材含有層を再生するとともに、ハニカム構造体のキュリー点に到達した段階で一対の電極に対する電圧印加を停止することにより、上記の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下のように例示される。
【0011】
[1] 空気が流通可能な空調ダクトと、
前記空調ダクト内に配置された空調デバイスと、
前記空調デバイスを制御する制御部と
を備え、
前記空調デバイスは、外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、第1端面から第2端面まで延びる流路となる複数のセルを区画形成する隔壁とを有し、少なくとも前記隔壁がPTC特性を有する材料で構成されたハニカム構造体と、前記ハニカム構造体に設けられた一対の電極と、前記隔壁の表面上に形成された機能材含有層とを含み、
前記制御部は、前記一対の電極に対して電圧印加を行い、前記ハニカム構造体を加熱して前記機能材含有層を再生するとともに、前記ハニカム構造体のキュリー点に到達した段階で前記一対の電極に対する電圧印加を停止する、車両用空調システム。
【0012】
[2] 前記制御部は、前記ハニカム構造体の初期抵抗に対する電圧印加時の経時抵抗の抵抗比を算出することにより、前記ハニカム構造体のキュリー点に到達した段階を判断する、[1]に記載の車両用空調システム。
【0013】
[3] 前記制御部は、所定の時間あたりの前記抵抗比の変動量を算出し、前記変動量の最大値を確認した後、前記変動量が前記変動量の最大値の2/3以下となった段階で前記一対の電極に対する電圧印加を停止する、[2]に記載の車両用空調システム。
【0014】
[4] 電圧印加を停止する前記変動量が前記変動量の最大値の1/2以下である、[3]に記載の車両用空調システム。
【0015】
[5] 前記所定の時間が5~25秒である、[3]又は[4]に記載の車両用空調システム。
【0016】
[6] 前記空調デバイスは、前記一対の電極に接続された端子を更に含む、[1]~[5]のいずれか一つに記載の車両用空調システム。
【0017】
[7] PTC特性を有する前記材料はチタン酸バリウムを主成分とし、鉛を実質的に含まない材料で構成されている、[1]~[6]のいずれか一つに記載の車両用空調システム。
【0018】
[8] PTC特性を有する前記材料の25℃における体積抵抗率が0.5~30Ω・cmである、[1]~[7]のいずれか一つに記載の車両用空調システム。
【0019】
[9] 前記ハニカム構造体は、前記隔壁の厚さが0.300mm以下、セル密度が100セル/cm2以下、且つセルピッチが1.0mm以上である、[1]~[8]のいずれか一つに記載の車両用空調システム。
【0020】
[10] 前記ハニカム構造体は、前記隔壁の厚さが0.08~0.36mm、セル密度が2.54~140セル/cm2、前記セルの開口率が0.70以上である、[1]~[8]のいずれか一つに記載の車両用空調システム。
【0021】
[11] 前記機能材含有層が水蒸気、二酸化炭素、及び揮発成分から選択される一種又は二種以上を吸着する機能を有する機能材を含有する、[1]~[10]のいずれか一項に記載の車両用空調システム。
【0022】
[12] 前記機能材含有層は触媒を更に含有する、[11]に記載の車両用空調システム。
【0023】
[13] 外周壁と、前記外周壁の内側に配設され、第1端面から第2端面まで延びる流路となる複数のセルを区画形成する隔壁とを有し、少なくとも前記隔壁がPTC特性を有する材料で構成されたハニカム構造体と、前記ハニカム構造体に設けられた一対の電極と、前記隔壁の表面上に形成された機能材含有層とを含む空調デバイスにおいて、
前記一対の電極に対して電圧印加を行い、前記ハニカム構造体を加熱して前記機能材含有層を再生するとともに、前記ハニカム構造体のキュリー点に到達した段階で前記一対の電極に対する電圧印加を停止する、空調デバイスの再生方法。
【0024】
[14] 前記ハニカム構造体のキュリー点に到達した段階は、前記ハニカム構造体の初期抵抗に対する電圧印加時の経時抵抗の抵抗比を算出することにより判断される、[13]に記載の空調デバイスの再生方法。
【0025】
[15] 所定の時間あたりの前記抵抗比の変動量を算出し、前記変動量の最大値を確認した後、前記変動量が前記変動量の最大値の2/3以下となった段階で前記一対の電極に対する電圧印加を停止する、[14]に記載の空調デバイスの再生方法。
【0026】
[16] 電圧印加を停止する前記変動量が前記変動量の最大値の1/2以下である、[15]に記載の空調デバイスの再生方法。
【0027】
[17] 前記所定の時間が5~25秒である、[15]又は[16]に記載の空調デバイスの再生方法。
【0028】
[18] 前記空調デバイスは、前記一対の電極に接続された端子を更に含む、[13]~[17]のいずれか一つに記載の空調デバイスの再生方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、機能材(機能材含有層)の再生時に最適な電力を投入し、消費電力を抑えることが可能な車両用空調システム、及び空調デバイスの再生方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両用空調システムの全体概略構成図である。
【
図2A】本発明の実施形態に係る車両用空調システム及び空調デバイスの再生方法に用いられる空調デバイスの流路方向に平行な断面の模式図である。
【
図2B】
図2Aの空調デバイスにおけるa-a’線の断面の模式図である。
【
図3】ハニカム構造体に対する電圧印加時間と、所定の時間ごとの抵抗比との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の実施形態に係る車両用空調システムは、空気が流通可能な空調ダクトと、空調ダクト内に配置された空調デバイスと、空調デバイスを制御する制御部とを備え;空調デバイスは、外周壁と、外周壁の内側に配設され、第1端面から第2端面まで延びる流路となる複数のセルを区画形成する隔壁とを有し、少なくとも隔壁がPTC特性を有する材料で構成されたハニカム構造体と、ハニカム構造体に設けられた一対の電極と、隔壁の表面上に形成された機能材含有層とを含み;制御部は、一対の電極に対して電圧印加を行い、ハニカム構造体を加熱して機能材含有層を再生するとともに、ハニカム構造体のキュリー点に到達した段階で一対の電極に対する電圧印加を停止するものである。本発明の実施形態に係る車両用空調システムは、このような構成とすることにより、機能材含有層の再生温度に達した後に速やかに電圧印加を停止するため、機能材含有層の再生に過剰の電力が投入されることを抑制できる。したがって、機能材含有層の再生時に最適な電力を投入し、消費電力を抑えることができる。
【0032】
本発明の実施形態に係る空調デバイスの再生方法は、外周壁と、外周壁の内側に配設され、第1端面から第2端面まで延びる流路となる複数のセルを区画形成する隔壁とを有し、少なくとも隔壁がPTC特性を有する材料で構成されたハニカム構造体と、ハニカム構造体に設けられた一対の電極と、隔壁の表面上に形成された機能材含有層とを含む空調デバイスにおいて、一対の電極に対して電圧印加を行い、ハニカム構造体を加熱して機能材含有層を再生するとともに、ハニカム構造体のキュリー点に到達した段階で一対の電極に対する電圧印加を停止するものである。本発明の実施形態に係る空調デバイスの再生方法は、このような構成とすることにより、機能材含有層の再生温度に達した後に速やかに電圧印加を停止するため、機能材含有層の再生に過剰の電力が投入されることを抑制できる。したがって、機能材含有層の再生時に最適な電力を投入し、消費電力を抑えることができる。
【0033】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0034】
<車両用空調システム>
本発明の実施形態に係る車両用空調システムは、車両における空調システムとして好適に利用可能である。車両としては、特に限定されないが、自動車及び電車が挙げられる。自動車としては、特に限定されないが、ガソリン車、ディーゼル車、CNG(圧縮天然ガス)やLNG(液化天然ガス)などを用いるガス燃料車、燃料電池自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車が挙げられる。これらの中でも、消費電力の低減が特に要求される電気自動車に用いるのに好適である。
【0035】
図1は、本発明の実施形態に係る車両用空調システムの全体概略構成図である。
図2Aは、本発明の実施形態に係る車両用空調システムに用いられる空調デバイスの流路方向に平行な断面の模式図である。
図2Bは、
図2Aの空調デバイスにおけるa-a’線の断面の模式図である。
【0036】
図1に示されるように、本発明の実施形態に係る車両用空調システム100は、空気が流通可能な空調ダクト10と、空調ダクト10内に配置された空調デバイス20と、空調デバイス20を制御する制御部30とを備える。
図2A及び2Bに示されるように、空調デバイス20は、外周壁22と、外周壁22の内側に配設され、第1端面23aから第2端面23bまで延びる流路となる複数のセル24を区画形成する隔壁25とを有し、少なくとも隔壁25がPTC特性を有する材料で構成されたハニカム構造体21と、ハニカム構造体21に設けられた一対の電極26a,26bと、隔壁25の表面上に形成された機能材含有層27とを含む。
【0037】
上記のような構成を有する車両用空調システム100では、車室からの空気が、空調ダクト10を通って空調デバイス20に流入し、空調デバイス20を通過する間に機能材含有層27で空気中の除去対象成分が捕捉(除去)される。そして、除去対象成分が除去された空気は、車室へと返送される。機能材含有層27の性能は、除去対象成分の捕捉量が多くなるにつれて徐々に低下するため、機能材含有層27を再生しなければならない。機能材含有層27の再生は、空調デバイス20の一対の電極26a,26bに対して電圧印加を行い、ハニカム構造体21を加熱することにより行われる。ハニカム構造体21の加熱によって機能材含有層27も加熱されるため、機能材含有層27に捕捉された除去対象成分が機能材含有層27から脱離又は反応して放出され、車外に排出される。
【0038】
機能材含有層27の再生は、制御部30によって実行される。制御部30は、ハニカム構造体21のキュリー点に到達した段階で一対の電極26a,26bに対する電圧印加を停止する。PTC特性を有する材料は、温度が上昇してキュリー点を超えると、急激に抵抗値が上昇して電気が流れ難くなるという特性を有するため、上記の段階で電圧印加を停止することにより、機能材含有層27の再生に過剰の電力が投入されることを抑制できる。また、機能材含有層27の過剰な発熱が抑制されるため、機能材含有層27の熱劣化を抑制することもできる。
【0039】
制御部30は、ハニカム構造体21の初期抵抗に対する電圧印加時の経時抵抗の抵抗比を算出することにより、ハニカム構造体21のキュリー点に到達した段階を判断することが好ましい。このようにしてハニカム構造体21のキュリー点に到達した段階を判断することにより、ハニカム構造体21のキュリー点を予め求めた上でハニカム構造体21の温度を継続的に測定することが不要となるため、制御部30による電圧印加状態の制御が容易になる。
なお、初期抵抗及び経時抵抗は、ハニカム構造体21に流れる電流及び電圧の大きさから算出することができる。
【0040】
制御部30は、所定の時間あたりの抵抗比の変動量(以下、「抵抗比変動量」という)を算出し、抵抗比変動量の最大値を確認した後、抵抗比変動量が抵抗比変動量の最大値の1/2以下となった段階で一対の電極26a,26bに対する電圧印加を停止することが好ましい。所定の時間あたりの抵抗比変動量は、所定の時間の始点及び終点における抵抗を測定し、初期抵抗に対する当該抵抗の抵抗比をそれぞれ算出した後、所定の時間の終点における抵抗比と所定の時間の始点における抵抗比との差を求めることによって得ることができる。
ここで、ハニカム構造体21に電圧が印加される時間(電圧印加時間)と、所定の時間あたりの抵抗比変動量との関係を表すグラフを
図3に示す。
図3に示されるように、所定の時間あたりの抵抗比変動量は、電圧印加時間の経過に伴って増大し、電圧印加時間T1で最大値Pとなる。その後、抵抗比変動量は電圧印加時間の経過に伴って徐々に低下する。
【0041】
PTC特性を有する材料は、温度が上昇してキュリー点を超えると、急激に抵抗値が上昇して電気が流れ難くなるという特性を有するため、抵抗比変動量の最大値P付近がハニカム構造体21のキュリー点であると考えられる。したがって、抵抗比変動量の最大値Pを超えた段階(電圧印加時間がT1を超えた段階)が、ハニカム構造体21のキュリー点に到達した段階であると推定できる。ただし、抵抗比変動量の最大値Pを超えた直後であると、ハニカム構造体21のキュリー点に到達していない恐れもある。そのため、抵抗比変動量の最大値Pを超えた後、抵抗比変動量が抵抗比変動量の最大値Pの2/3以下となった段階(電圧印加時間がT2を超えた段階)を、ハニカム構造体21のキュリー点に到達した段階とすることが好ましい。ここで、抵抗比変動量が抵抗比変動量の最大値Pの2/3以下となった段階とは、抵抗比変動量が抵抗比変動量の最大値Pの2/3以下の範囲のいずれかの値(例えば、2/3、1/2、1/3、1/4など)となったときを意味する。典型的な実施形態では、抵抗比変動量の最大値Pが0.6程度であるため、抵抗比変動量が0.4程度となった段階をハニカム構造体21のキュリー点に到達した段階とすればよい。
【0042】
電圧印加を停止する抵抗比変動量は抵抗比変動量の最大値Pの1/2以下であることがより好ましい。この段階(電圧印加時間がT3を超えた段階)であれば、ハニカム構造体21のキュリー点に確実に到達した段階であるということができる。ここで、抵抗比変動量が抵抗比変動量の最大値Pの1/2以下となった段階とは、抵抗比変動量が抵抗比変動量の最大値Pの1/2以下の範囲のいずれかの値(例えば、1/2、1/3、1/4、1/5など)となったときを意味する。
なお、電圧印加を停止する抵抗比の下限値は、特に限定されないが、例えば、1/5である。
【0043】
抵抗比変動量を算出するための所定の時間は、特に限定されないが、5~25秒であることが好ましい。このような範囲であれば、抵抗の測定頻度を最小限に抑えつつ、抵抗比の変動量を確実に捉えることができる。
【0044】
以下、車両用空調システム100の各構成要素について詳細に説明する。
【0045】
(1.空調ダクト10)
空調ダクト10は、空気が流通可能な流路である。空調ダクト10は、車室からの空気を流入させるとともに、空調デバイス20を通過した空気を車室に流入又は車外に排出させる。したがって、空調ダクト10は、空調デバイス20の下流側において、車室に流入する第1経路10aと車外に排出する第2経路10bとに分岐していることが好ましい。
【0046】
空調ダクト10内には、空気の流れを第1経路10aと第2経路10bとの間で切替え可能な切替バルブ40を有することができる。切替バルブ40としては、電気で駆動し、流路を切換える機能を有するバルブであれば特に限定されず、電磁弁及び電動弁などを用いることができる。たとえば、切替バルブ40は、回転軸に支持された開閉ドアと、回転軸を回動操作するモータなどのアクチュエータを備える。アクチュエータは制御部30によって制御可能に構成することができる。
また、空調ダクト10内には、車室からの空気を空調デバイス20に流入させるための通風機(図示していない)を備えることができる。通風機の位置は、特に限定されないが、例えば、空調デバイス20の上流側に設けることができる。
【0047】
(2.空調デバイス20)
空調デバイス20は、
図2A及び2Bに示されるように、外周壁22と、外周壁22の内側に配設され、第1端面23aから第2端面23bまで延びる流路となる複数のセル24を区画形成する隔壁25とを有するハニカム構造体21と、ハニカム構造体21に設けられた一対の電極26a,26bと、隔壁25の表面上に形成された機能材含有層27とを含む。空調デバイス20は、一対の電極26a,26bに接続された端子28を更に含むことができる。端子28を設けることにより、外部電源に接続された導線との接続が容易になる。
(2-1.ハニカム構造体21)
ハニカム構造体21の形状は、特に限定されない。例えば、ハニカム構造体21の流路方向(セル24が延びる方向)に直交する断面の外形を、四角形(長方形、正方形)、五角形、六角形、七角形、八角形などの多角形、円形、オーバル形状(卵形、楕円形、長円形、角丸長方形など)などにすることができる。なお、端面(第1端面23a及び第2端面23b)は、当該断面と同一の形状である。また、断面及び端面が多角形の場合、角部を面取りしてもよい。
【0048】
セル24の形状は、特に限定されないが、ハニカム構造体21の流路方向に直交する断面において、四角形、五角形、六角形、七角形、八角形などの多角形、円形、オーバル形状にすることができる。これらの形状は、単一であってもよいし、又は二種以上を組み合わせてもよい。また、これらの形状の中でも四角形又は六角形が好ましい。このような形状のセル24を設けることにより、空気が流通する際の圧力損失を小さくすることができる。
【0049】
ハニカム構造体21は、複数のハニカムセグメントと、複数のハニカムセグメントの外周側面同士間を接合する接合層とを有するハニカム接合体であってもよい。ハニカム接合体を用いることにより、クラックの発生を抑えながら空気の流量確保に重要なセル24の総断面積を増やすことが可能となる。
なお、接合層は、接合材を用いて形成することができる。接合材としては、特に限定されないが、セラミックス材料に、水などの溶媒を加えてペースト状にしたものを用いることができる。接合材は、PTC特性を有する材料を含有してもよく、外周壁22及び隔壁25と同一の材料を含有してもよい。接合材は、ハニカムセグメント同士を接合する役割に加えて、ハニカムセグメントを接合した後の外周コート材として用いることも可能である。
【0050】
ハニカム構造体21の強度確保、空気がセル24を通過する際の圧力損失の低減、機能材の担持量確保、及び、セル24内を流れる空気との接触面積の確保等の観点から、隔壁25の厚さ、セル密度、及びセルピッチ(又はセル24の開口率)を好適に組み合わせることが望ましい。
本明細書においてセル密度とは、ハニカム構造体21の一方の端面(第1端面23a又は第2端面23b)の面積(外周壁22を除く隔壁25及びセル24の合計面積)でセル数を除して得られる値である。
本明細書においてセルピッチとは、以下の計算によって求められる値を指す。まず、セル数で、ハニカム構造体21の一方の端面(第1端面23a又は第2端面23b)の面積(外周壁22を除く隔壁25及びセル24の合計面積)を除して1セル当たりの面積を算出する。次いで、1セル当たりの面積の平方根を算出し、これをセルピッチとする。
本明細書においてセル24の開口率とは、ハニカム構造体21の流路方向に直交する断面において、隔壁25によって区画されるセル24の合計面積を、一方の端面(第1端面23a又は第2端面23b)の面積(外周壁22を除く隔壁25及びセル24の合計面積)で除して得られた値である。なお、セル24の開口率を算出するに当たり、一対の電極26a,26b及び機能材含有層27は考慮しない。
【0051】
十分な量の機能材を担持する観点で有利な実施形態においては、隔壁25の厚さが0.300mm以下、セル密度が100セル/cm2以下、且つセルピッチが1.0mm以上である。好ましい実施形態においては、隔壁25の厚さが0.200mm以下、セル密度が70セル/cm2以下、且つセルピッチが1.2mm以上である。より好ましい実施形態においては、隔壁25の厚さが0.130mm以下、セル密度が65セル/cm2以下、且つセルピッチが1.3mm以上である。
【0052】
ハニカム構造体21の強度を確保すること、及び電気抵抗を低く保つ観点から、隔壁25の厚さの下限は、0.010mm以上であることが好ましく、0.020mm以上であることがより好ましく、0.030mm以上であることが更に好ましい。
ハニカム構造体21の強度を確保すること、電気抵抗を低く保つこと、及び表面積を増やして反応、吸着、離脱を促進する観点から、セル密度の下限は、30セル/cm2以上であることが好ましく、35セル/cm2以上であることがより好ましく、40セル/cm2以上であることが更に好ましい。
ハニカム構造体21の強度を確保すること、電気抵抗を低く保つこと、及び表面積を増やして反応、吸着、離脱を促進する観点から、セルピッチの上限は、2.0mm以下であることが好ましく、1.8mm以下であることがより好ましく、1.6mm以下であることが更に好ましい。
【0053】
圧力損失の低減と強度の維持とを両立する観点で有利な実施形態においては、隔壁25の厚さが0.08~0.36mm、セル密度が2.54~140セル/cm2、セル24の開口率が0.70以上である。好ましい実施形態においては、隔壁25の厚さが0.09~0.35mm、セル密度が15~100セル/cm2、セル24の開口率が0.80以上である。より好ましい実施形態においては、隔壁25の厚さが0.14~0.30mm、セル密度が20~90セル/cm2、セル24の開口率が0.85以上である。
【0054】
ハニカム構造体21の強度を確保する観点から、セル24の開口率の上限は、0.94以下であることが好ましく、0.92以下であることがより好ましく、0.90以下であることが更に好ましい。
【0055】
外周壁22の厚さは、特に限定されないが、次の観点に基づいて決定することが好ましい。まず、ハニカム構造体21を補強するという観点から、外周壁22の厚さは、好ましくは0.05mm以上、より好ましくは0.06mm以上、更に好ましくは0.08mm以上である。一方、電気抵抗を大きくして初期電流を抑える観点、及び空気が流通する際の圧力損失を低減する観点から、外周壁22の厚さは、好ましくは1.0mm以下、より好ましくは0.5mm以下、更に好ましくは0.4mm以下、更により好ましくは0.3mm以下である。
本明細書において外周壁22の厚さとは、流路方向に直交する断面において、外周壁22と最も外周側のセル24又は隔壁25との境界からハニカム構造体21の側面までの、当該側面の法線方向の長さを指す。
【0056】
ハニカム構造体21の流路方向の長さ及び流路方向に直交する断面積は、要求される空調デバイス20のサイズに合わせて調整すればよく、特に限定されない。例えば、所定の機能を確保しつつコンパクトな空調デバイス20に用いられる場合、ハニカム構造体21は、流路方向の長さを2~20mm、流路方向に直交する断面積を10cm2以上とすることができる。なお、流路方向に直交する断面積の上限値は、特に限定されないが、例えば、300cm2以下である。
【0057】
ハニカム構造体21を構成する隔壁25は、通電によって発熱可能な材料で構成されており、具体的にはPTC(Positive Temperature Coefficient)特性を有する材料で構成される。必要に応じて外周壁22も隔壁25と同様にPTC特性を有する材料で構成されていてもよい。このような構成とすることにより、発熱する隔壁25(及び必要に応じて外周壁22)からの伝熱によって機能材含有層27を加熱することが可能である。また、PTC特性を有する材料は、温度が上昇してキュリー点を超えると、急激に抵抗値が上昇して電気が流れ難くなるという特性を有する。そのため、隔壁25(及び必要に応じて外周壁22)が高温になったときに、これらに流れる電流が制限されるので、ハニカム構造体21の過剰な発熱が抑制される。したがって、過剰な発熱に起因する機能材含有層27の熱劣化を抑制することも可能である。
【0058】
PTC特性を有する材料の25℃における体積抵抗率の下限は、適度な発熱を得る観点からは、0.5Ω・cm以上であることが好ましく、1Ω・cm以上であることがより好ましく、5Ω・cm以上であることが更に好ましい。PTC特性を有する材料の25℃における体積抵抗率の上限は、低い駆動電圧で発熱させるという観点からは、30Ω・cm以下であることが好ましく、18Ω・cm以下であることがより好ましく、16Ω・cm以下であることが更に好ましい。本明細書において、PTC特性を有する材料の25℃における体積抵抗率はJIS K6271:2008に従って測定される。
【0059】
通電発熱可能であり、且つPTC特性を有するという観点から、外周壁22及び隔壁25は、チタン酸バリウム(BaTiO3)を主成分とする材料から構成されていることが好ましい。また、この材料は、Baの一部が希土類元素で置換されたチタン酸バリウム(BaTiO3)系結晶粒子を主成分とする材料で構成されるセラミックスであることがより好ましい。なお、本明細書において「主成分」とは、成分全体に占める割合が50質量%を超える成分のことを意味する。BaTiO3系結晶粒子の含有量は、蛍光X線分析により求めることができる。その他の結晶粒子についても、この方法と同様にして測定することができる。
【0060】
Baの一部が希土類元素で置換されたBaTiO3系結晶粒子の組成式は、(Ba1-xAx)TiO3で表すことができる。組成式中、Aは一種以上の希土類元素を表し、0.0001≦x≦0.010である。
Aは、希土類元素であれば特に限定されないが、好ましくはLa、Ce、Pr、Nd、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Y及びYbからなる群から選択される一種以上であり、より好ましくはLaである。xは、室温における電気抵抗が高くなり過ぎることを抑制する観点から、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.0015以上である。一方、xは、焼結不足となって室温における電気抵抗が高くなりすぎることを抑制する観点から、好ましくは0.009以下である。
Baの一部が希土類元素で置換されたBaTiO3系結晶粒子のセラミックスにおける含有量は、主成分となる量であれば特に限定されないが、好ましくは90質量%以上、より好ましくは92質量%以上、より好ましくは94質量%以上である。なお、BaTiO3系結晶粒子の含有量の上限値は、特に限定されないが、一般的に99質量%、好ましくは98質量%である。
このBaTiO3系結晶粒子の含有量は、蛍光X線分析によって測定することができる。その他の結晶粒子についても、この方法と同様にして測定することができる。
【0061】
外周壁22及び隔壁25に用いられる材料は、環境負荷を軽減するという観点から、鉛(Pb)を実質的に含まないことが望ましい。具体的には、外周壁22及び隔壁25は、Pb含有量が、好ましくは0.01質量%以下、より好ましくは0.001質量%以下、更に好ましくは0質量%である。Pb含有量が少ないことにより、例えば、発熱中の隔壁25に接触させることで加温された空気をヒトなどの生物に安全に当てることができる。なお、外周壁22及び隔壁25において、Pb含有量は、PbOに換算すると、好ましくは0.03質量%未満、より好ましくは0.01質量%未満、更に好ましくは0質量%である。鉛の含有量は、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析)により求めることができる。
【0062】
外周壁22及び隔壁25を構成する材料のキュリー点の下限は、機能材含有層27を効率良く加熱する観点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、更に好ましくは125℃以上である。また、キュリー点の上限については、車室又は車室近傍に置かれる部品としての安全性の観点から、好ましくは250℃以下、より好ましくは225℃以下、更に好ましくは200℃以下、更により好ましくは150℃以下である。
【0063】
外周壁22及び隔壁25を構成する材料のキュリー点は、シフターの種類及び添加量によって調整可能である。例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)のキュリー点は約120℃であるが、Ba及びTiの一部をSr、Sn及びZrの一種以上で置換することにより、キュリー点を低温側にシフトさせることができる。
【0064】
本明細書において、キュリー点は以下の方法により測定される。試料を測定用の試料ホルダーに取りつけ、測定槽(例:MINI-SUBZERO MC-810P エスペック株式会社製)内に装着して、10℃から昇温したときの温度変化に対する試料の電気抵抗の変化を、直流抵抗計(例:マルチメーター3478A YOKOGAWA HEWLETT PACKARD,LTD製)を用いて測定する。測定により得られた電気抵抗-温度プロットにより、抵抗値が室温(20℃)における抵抗値の2倍になるときの温度をキュリー点とする。
【0065】
(2-2.一対の電極26a,26b)
一対の電極26a,26bの位置は、特に限定されないが、
図2Aに示されるように、第1端面23a及び第2端面23bに設けることができる。また、一対の電極26a,26bは、セル24が延びる方向に平行な一対の外周壁22に設けてもよい。
一対の電極26a,26bの間に電圧を印加することで、ジュール熱によりハニカム構造体21を発熱させることが可能となる。
【0066】
一対の電極26a,26bとしては、特に限定されないが、例えば、Cu、Ag、Al、Ni及びSiから選択される少なくとも一種を含有する金属又は合金を使用することができる。また、PTC特性を有する外周壁22及び/又は隔壁25とオーミック接触が可能なオーミック電極を使用することもできる。オーミック電極は、例えば、ベース金属としてAl、Au、Ag及びInから選択される少なくとも一種を含有し、ドーパントとしてn型半導体用のNi、Si、Zn、Ge、Sn、Se及びTeから選択される少なくとも一種を含有するオーミック電極を使用することができる。また、一対の電極26a,26bは、1層構造としてもよいし、2層以上の積層構造としてもよい。一対の電極26a,26bが2層以上の積層構造を有する場合、各層の材質は、同じ種類であってもよいし、異なる種類であってもよい。
【0067】
一対の電極26a,26bの厚さは、一対の電極26a,26bの形成方法に応じて適宜設定することができる。一対の電極26a,26bの形成方法としては、スパッタリング、蒸着、電解析出、化学析出のような金属析出法が挙げられる。また、電極ペーストを塗布した後、焼き付ける方法や、溶射によっても一対の電極26a,26bを形成することもできる。さらに、金属板又は合金板を接合することによって一対の電極26a,26bとしてもよい。
【0068】
一対の電極26a,26bの厚さは、例えば、電極ペーストの焼付けでは5~30μm程度、スパッタリング及び蒸着のような乾式めっきでは100~1000nm程度、溶射では10~100μm程度、電解析出及び化学析出のような湿式めっきでは5~30μm程度とすることが好ましい。また、金属板又は合金板の接合では、それらの厚さを5~100μm程度とすることが好ましい。
【0069】
(2-3.端子28)
端子28は、一対の電極26a,26bの少なくとも一部に設けられる。端子28を設けることにより、外部電源との接続が容易になる。端子28は、外部電源に接続された導線に接続される。
【0070】
端子28の材質としては、特に限定されないが、例えば、金属とすることができる。金属としては、単体金属及び合金などを採用することもできるが、耐食性、電気抵抗率及び線膨張率の観点から、例えば、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Al及びTiよりなる群から選択される少なくとも一種を含む合金とすることが好ましく、ステンレス鋼及びFe-Ni合金、リン青銅がより好ましい。
【0071】
端子28の大きさ及び形状は、特に限定されない。例えば、
図2Aに示されるように、外周壁22上の一対の電極26a,26bの全体に端子28を設けることができる。また、端子28は、外周壁22上の一対の電極26a,26bの一部に設けてもよいし、外周壁22上の一対の電極26a,26bの外縁よりも外側に延出するように設けてもよい。さらに、端子28は、隔壁25上の一対の電極26a,26bの一部に設けてもよく、一部のセル24を塞ぐように設けてもよい。
また、端子28の厚さは、特に限定されないが、例えば、0.01~10mm、典型的に0.05~5mmである。
【0072】
端子28と一対の電極26a,26bとの接続方法は、電気的に接続されていれば特に限定されず、例えば、拡散接合、機械的な加圧機構、溶接などによって接続することができる。
【0073】
空調デバイス20において、一対の電極26a,26bの体積抵抗率[Ω・cm]をρ1、一対の電極26a,26bの厚さ[mm]をt1、隔壁25の体積抵抗率[Ω・cm]をρ2、隔壁25の厚さ[mm]をt2、端子28の体積抵抗率[Ω・cm]をρ3、端子28の厚さ[mm]をt3とする。
この場合、空調デバイス20は、(ρ1/t1)/(ρ2/t2)が0.003以下である。このような範囲に(ρ1/t1)/(ρ2/t2)の値を制御することにより、一対の電極26a,26bの電気抵抗が、ハニカム構造体21の基材(隔壁25)の電気抵抗よりも十分に低くなる。その結果、一対の電極26a,26bから隔壁25へ電流が均一に広がり易くなるため、電流の偏りが抑制され、空調デバイス20内の温度分布を均一にすることができる。この効果を安定して確保する観点から、(ρ1/t1)/(ρ2/t2)は、0.001以下が好ましく、0.0001以下がより好ましい。なお、(ρ1/t1)/(ρ2/t2)の値は小さいほど上記の効果が得られ易いため、その下限値は特に限定されないが、例えば、0.0000001である。
【0074】
また、空調デバイス20は、(ρ1/t1)/(ρ3/t3)が0.02以上である。このような範囲に(ρ1/t1)/(ρ3/t3)の値を制御することにより、端子28からの電流が一対の電極26a,26bに均一に広がり易くなる。その結果、一対の電極26a,26bから隔壁25へも電流が均一に広がり易くなるため、電流の偏りが抑制され、空調デバイス20内の温度分布を均一にすることができる。なお、(ρ1/t1)/(ρ3/t3)が0.02未満であると、端子内で電流を広げる前に一対の電極26a,26bの一部に電流が流れるため、電流の偏りが生じてしまう。上記の効果を安定して確保する観点から、(ρ1/t1)/(ρ3/t3)は、1以上が好ましく、10以上がより好ましい。なお、(ρ1/t1)/(ρ3/t3)の値は大きいほど上記の効果が得られ易いため、その上限値は特に限定されないが、例えば、5000である。
【0075】
ここで、本明細書において一対の電極26a,26bの厚さは、全ての電極26a,26bの厚さの平均値を指す。また、隔壁25の厚さとは、流路方向に直交する断面において、隣接するセル24の重心同士を線分で結んだときに当該線分が隔壁25を横切る長さを指す。隔壁25の厚さは、全ての隔壁25の厚さの平均値を指す。さらに、端子28の厚さは、全ての端子28の厚さの平均値を指す。
一対の電極26a,26b及び端子28の厚さは、流路方向に平行な断面において測定することができる。或いは、一対の電極26a,26b及び端子28に用いた材料の厚さを、一対の電極26a,26b及び端子28の厚さとしてもよい。また、隔壁25の厚さは、流路方向に直交する断面において測定することができる。
【0076】
一対の電極26a,26b、隔壁25及び端子28の体積抵抗率は、25℃における体積抵抗率を指す。25℃における体積抵抗率はJIS K6271:2008に従って測定される。
【0077】
空調デバイス20において、端子28が一対の電極26a,26bと接触する面の面積[mm2]をS1、ハニカム構造体21の第1端面23a又は第2端面23bの面積[mm2]をS2とする。
この場合、空調デバイス20は、S1/S2が0.010以上であることが好ましい。このような範囲にS1/S2の値を制御することにより、端子28からハニカム構造体21に電流が流れる領域の面積(通電面積)を大きくすることができるため、電流の偏りが抑制され、空調デバイス20内の温度分布を均一にし易くなる。この効果を安定して確保する観点から、S1/S2は、0.050以上がより好ましく、0.150以上が更に好ましい。他方、S1/S2が大きいと、空気が流れる領域(セル24)の面積が小さくなる。そのため、S1/S2は0.430以下が好ましく、0.300以下がより好ましく、0.250以下が更に好ましい。
【0078】
ここで、本明細書において、ハニカム構造体21の第1端面23a又は第2端面23bの面積とは、外周壁22、セル24及び隔壁25から構成される第1端面23a又は第2端面23bの面積のことを指す。
【0079】
空調デバイス20は、必要に応じて、一対の電極26a,26bと端子28との間に中間材を更に備えることができる。
このような構造を有する空調デバイス20において、端子28が中間材と接触する面の面積[mm2]をS3、中間材が一対の電極26a,26bと接触する面の面積[mm2]をS4とする。
この場合、空調デバイス20は、S4/S3が0.50~2.00であることが好ましい。このような範囲にS4/S3の値を制御することにより、一対の電極26a,26bと端子28との間の電流の流れをスムーズにすることができるため、電流の偏りが抑制され、空調デバイス20内の温度分布を均一にし易くなる。S4/S3が2.00よりも大きくなると、上記の効果(電力の偏りによる局所発熱の抑制効果)は得られる一方で、中間材によって空気の流れが阻害されてしまうため、機能材と空気との接触面積が低下し、機能材の性能が十分に得られ難い。また、S4/S3が0.50未満であると、上記の効果(電力の偏りによる局所発熱の抑制効果)が得られ難い。上記の効果を安定して確保する観点から、S4/S3は、0.50~1.20がより好ましく、0.80~1.20が更に好ましい。
【0080】
なお、中間材は、一対の電極26a,26bと端子28との間の接続の構造的な自由度を高めるための部材である。
中間材の材質としては、特に限定されず、上記した端子28の材質と同様にすることができる。また、中間材は、上記した端子28の材質と異なっていてもよい。この場合、中間材は、はんだ、ろう材、導電性接着剤などから形成することができる。
【0081】
中間材の大きさ及び形状は、特に限定されない。例えば、外周壁22上の一対の電極26a,26bの全体に中間材を設けることができる。また、中間材は、外周壁22上の一対の電極26a,26bの一部に設けてもよいし、外周壁22上の一対の電極26a,26bの外縁よりも外側に延出するように設けてもよい。さらに、中間材は、隔壁25上の一対の電極26a,26bの一部に設けてもよく、一部のセル24を塞ぐように設けてもよい。
中間材の厚さは、特に限定されず、例えば、端子28の厚さと同程度とすることができる。
【0082】
中間材と端子28及び一対の電極26a,26bとの接続方法は、電気的に接続されていれば特に限定されず、例えば、拡散接合、機械的な加圧機構、溶接などによって接続することができる。
【0083】
(2-4.機能材含有層27)
機能材含有層27は、隔壁25(最外周のセル24の場合は、最外周のセル24を区画形成する隔壁25及び外周壁22)の表面上に設けることができる。このように機能材含有層27を設けることにより、再生時に機能材を加熱し易くなるため、機能材による所望の機能を再生させることができる。
【0084】
機能材含有層27に含有される機能材としては、所望の機能を発揮させることができる材料であれば特に限定されないが、吸着材、触媒などを用いることができる。吸着材は、空気中の除去対象成分、例えば水蒸気、二酸化炭素、及び揮発成分から選択される一種又は二種以上を吸着する機能を有することが好ましい。また、触媒を用いることにより、除去対象成分を浄化することができる。更に、吸着材による除去対象成分の捕捉機能を高めるなどの目的で、吸着材と触媒とを併用してもよい。
【0085】
吸着材は、除去対象成分、例えば、水蒸気、二酸化炭素及び揮発成分などを-20~40℃で吸着し、60℃以上の高温で離脱することが可能な機能を有することが好ましい。このような機能を有する吸着材としては、ゼオライト、シリカゲル、活性炭、アルミナ、シリカ、低結晶性粘土、非晶質アルミニウムケイ酸塩複合体などが挙げられる。吸着材の種類は、除去対象成分の種類に応じて適宜選択すればよい。吸着材は一種を単独使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0086】
触媒としては、酸化還元反応を促進させることが可能な機能を有することが好ましい。このような機能を有する触媒としては、Pt、Pd、Agなどの金属触媒、CeO2、ZrO2などの酸化物触媒などが挙げられる。触媒は一種を単独使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0087】
車室の空気中に含まれる揮発成分は、例えば、揮発性有機化合物(VOC)や、VOC以外のにおい成分などである。揮発成分の具体例としては、アンモニア、酢酸、イソ吉草酸、ノネナール、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、パラジクロロベンゼン、エチルベンゼン、スチレン、クロルピリホス、フタル酸ジ-n-ブチル、テトラデカン、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、ダイアジノン、アセトアルデヒド、N-メチルカルバミン酸-2-(1-メチルプロピル)フェニルなどが挙げられる。
【0088】
機能材含有層27の厚さは、セル24の大きさに応じて決定すればよく、特に限定されない。例えば、機能材含有層27の厚さは、空気との接触を十分確保する観点から、好ましくは20μm以上、より好ましくは25μm以上、更に好ましくは30μm以上である。一方、隔壁25や外周壁22から機能材含有層27が剥離することを抑制する観点から、機能材含有層27の厚さは、好ましくは400μm以下、より好ましくは380μm以下、更に好ましくは350μm以下である。
【0089】
機能材含有層27の厚さは、以下の手順で測定する。ハニカム構造体21の流路方向に平行な任意の断面を切り出し、走査型電子顕微鏡などで50倍程度の断面画像を取得する。また、この断面は、ハニカム構造体21の流路に直交する断面における重心位置を通るようにする。断面画像から視認される各機能材含有層27について、断面積をセル24の流路方向の長さで除することで厚さを算出する。この計算を当該断面画像から視認される全ての機能材含有層27について行い、全体の平均値を機能材含有層27の厚さとする。
【0090】
空調デバイス20内で所望の機能を発揮するという観点から、機能材含有層27の量は、ハニカム構造体21の容積に対して、50~500g/Lであることが好ましく、100~400g/Lであることがより好ましく、150~350g/Lであることが更に好ましい。なお、ハニカム構造体21の容積は、ハニカム構造体21の外形寸法により定まる値である。
【0091】
(2-5.空調デバイス20の製造方法)
空調デバイス20の製造方法は、特に限定されず、公知の方法に準じて行うことができる。以下、空調デバイス20を製造する方法について例示的に説明する。
空調デバイス20を構成するハニカム構造体21の製造方法は、成形工程及び焼成工程を含む。
成形工程では、BaCO3粉末、TiO2粉末、及び希土類の硝酸塩又は水酸化物の粉末を含むセラミックス原料を含有する坏土を成形し、相対密度が60%以上のハニカム成形体を作製する。
セラミックス原料は、所望する組成となるように各粉末を乾式混合することによって得ることができる。
坏土は、セラミックス原料に、分散媒、バインダ、可塑剤及び分散剤を添加して混練することによって得ることができる。坏土には、シフター、金属酸化物、特性改善剤、導電体粉末などの添加剤を必要に応じて含有させてもよい。
セラミックス原料以外の成分の配合量は、ハニカム成形体の相対密度が60%以上となるような量であれば特に限定されない。
【0092】
ここで、本明細書において「ハニカム成形体の相対密度」とは、セラミックス原料全体の真密度に対するハニカム成形体の密度の割合のことを意味する。具体的には、以下の式によって求めることができる。
ハニカム成形体の相対密度(%)=ハニカム成形体の密度(g/cm3)/セラミックス原料全体の真密度(g/cm3)×100
ハニカム成形体の密度は、純水を媒体とするアルキメデス法により測定することができる。また、セラミックス原料全体の真密度は、各原料の質量を合計した値(g)を、各原料の実の体積を合計した値(cm3)で除することによって求めることができる。
【0093】
分散媒としては、水、又は水とアルコールなどの有機溶媒との混合溶媒などを挙げることができるが、特に水を好適に用いることができる。
【0094】
バインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロポキシルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコールなどの有機バインダを例示することができる。特に、メチルセルロース及びヒドロキシプロポキシルセルロースを併用することが好適である。バインダは一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよいが、アルカリ金属元素を含有していないことが好ましい。
【0095】
可塑剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリカルボン酸系高分子、アルキルリン酸エステルなどを例示することができる。
【0096】
分散剤には、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコールなどの界面活性剤を用いることができる。分散剤は、一種を単独で使用するものであっても、二種以上を組み合わせて使用するものであってもよい。
【0097】
ハニカム成形体は、坏土を押出成形することによって作製することができる。押出成形に際しては、所望の全体形状、セル形状、隔壁厚さ、セル密度などを有する口金を用いることができる。
【0098】
押出成形によって得られるハニカム成形体の相対密度は、60%以上、好ましくは65%以上である。このような範囲にハニカム成形体の相対密度を制御することにより、ハニカム成形体を緻密化し、室温における電気抵抗を低下させることが可能となる。なお、ハニカム成形体の相対密度の上限値は、特に限定されないが、一般に80%、好ましくは75%である。
【0099】
ハニカム成形体は、焼成工程の前に乾燥させることができる。乾燥方法としては、特に限定されないが、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥などの従来公知の乾燥方法を用いることができる。これらの中でも、成形体全体を迅速かつ均一に乾燥することができる点で、熱風乾燥と、マイクロ波乾燥又は誘電乾燥とを組み合わせた乾燥方法が好ましい。
【0100】
焼成工程は、1150~1250℃で保持した後、20~600℃/時の昇温速度で1360~1430℃の最高温度に昇温させて0.5~10時間保持することを含む。
ハニカム成形体を1360~1430℃の最高温度で0.5~10時間保持することにより、Baの一部が希土類元素で置換されたBaTiO3系結晶粒子を主成分とするハニカム構造体21を得ることができる。
また、1150~1250℃で保持することにより、焼成過程で生成するBa2TiO4結晶粒子が除去され易くなるため、ハニカム構造体21を緻密化させることができる。
さらに、1150~1250℃から1360~1430℃の最高温度までの昇温速度を20~600℃/時とすることにより、1.0~10.0質量%のBa6Ti17O40結晶粒子をハニカム構造体21に生成させることができる。
【0101】
1150~1250℃での保持時間は、特に限定されないが、好ましくは0.5~10時間である。このような保持時間とすることにより、焼成過程で生成するBa2TiO4結晶粒子が安定して除去され易くなる。
【0102】
焼成工程は、昇温時に900~950℃で0.5~5時間保持することを含むことが好ましい。900~950℃で0.5~5時間保持することにより、BaCO3が効率良く分解し、所定の組成を有するハニカム構造体21が得られ易くなる。
【0103】
なお、焼成工程の前には、バインダを除去するための脱脂工程を行ってもよい。脱脂工程の雰囲気は、有機成分を完全に分解するために大気雰囲気とすることが好ましい。
また、焼成工程の雰囲気も、電気特性の制御と製造コストの観点から大気雰囲気とすることが好ましい。
焼成工程や脱脂工程に用いられる焼成炉としては、特に限定されないが、電気炉、ガス炉などを用いることができる。
【0104】
このようにして得られたハニカム構造体21に、一対の電極26a,26bを形成する。一対の電極26a,26bは、スパッタリング、蒸着、電解析出、化学析出のような金属析出法によって形成することができる。また、一対の電極26a,26bは、電極ペーストを塗布した後、焼き付けることによっても形成することもできる。さらに、一対の電極26a,26bは、溶射によって形成することもできる。一対の電極26a,26bは単層で構成してもよいが、組成の異なる複数の電極層で構成することもできる。以下、一対の電極26a,26bの代表的な形成方法を説明する。
【0105】
まず、電極材、有機バインダ及び分散媒を含む電極スラリーを調製し、ハニカム構造体21の第1端面23a又は第2端面23bに塗布する。分散媒は、水、有機溶媒(例:トルエン、キシレン、エタノール、n-ブタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、テキサノール、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル)又はこれらの混合液とすることができる。ハニカム構造体21の外周の余分なスラリーをブロー及び拭き取りによって除去する。その後、スラリーを乾燥させることによってハニカム構造体21の第1端面23a又は第2端面23bに一対の電極26a,26bを形成することができる。乾燥は、例えば120~600℃程度の温度にヒーターエレメントを加熱しながら行うことができる。塗布、スラリー除去、及び乾燥の一連の工程は1回のみ実施してもよいが、複数回繰り返すことによって所望の厚さの一対の電極26a,26bを設けることができる。
【0106】
次に、一対の電極26a,26bの所定の位置に端子28を配置し、一対の電極26a,26bと端子28とを接続する。一対の電極26a,26bと端子28との接続方法としては、上述の方法を用いることができる。
なお、端子28の設置は、下記の機能材含有層27を形成した後に行ってもよい。
【0107】
次いで、ハニカム構造体21の隔壁25などの表面に機能材含有層27を形成する。
機能材含有層27の形成方法は、特に限定されないが、例えば、以下の工程により形成可能である。機能材、有機バインダ及び分散媒を含むスラリーにハニカム構造体21を所定時間浸漬し、ハニカム構造体21の端面及び外周の余分なスラリーをブロー及び拭き取りによって除去する。分散媒は、水、有機溶媒(例:トルエン、キシレン、エタノール、n-ブタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、テキサノール、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル)又はこれらの混合液とすることができる。その後、スラリーを乾燥させることによって隔壁25の表面に機能材含有層27を形成することができる。乾燥は、例えば120~600℃程度の温度にハニカム構造体21を加熱しながら行うことができる。浸漬、スラリー除去、及び乾燥の一連の工程は1回のみ実施してもよいが、複数回繰り返すことによって所望の厚さの機能材含有層27を隔壁25などの表面に設けることができる。
【0108】
(3.制御部30)
制御部30は、空調デバイス20を制御する部分であり、空調デバイス20と電気的に接続されている。制御部30は、空調デバイス20の一対の電極26a,26bに電圧を印加するためのバッテリーなどの電源(図示していない)を制御することにより、ハニカム構造体21の加熱状態を調整することができる。
また、制御部30は、切替バルブ40にも電気的に接続されており、切替バルブ40も制御することができる。さらに、制御部30は、通風機(図示していない)にも電気的に接続させて通風機を制御することもできる。
【0109】
制御部30としては、特に限定されないが、一般にECU(Engine (electronic) Control Unit)である。ECUは、各種演算処理を実行するCPU、その制御に必要なプログラムやデータが記憶されたROM、CPUでの演算結果などが一時的に記憶されるRAM、外部との間で信号を入出力するための入出力ポートを備える。制御部30は、ハニカム構造体21に流れる電流及び電圧の大きさから抵抗を算出し、その結果に基づいて一対の電極26a,26bに対する電圧印加の要否を決定する。
【0110】
制御部30は、車室中の空気に含まれる除去対象成分を捕捉(除去)するモードの場合、第1経路10aを空気が流通するように切替バルブ40を切替え、通風機を起動させる。このとき、空調デバイス20は加熱しない。このように制御することにより、車室中の空気の浄化又は除湿などが行われる。具体的には、車室からの空気は、空調ダクト10を通って空調デバイス20に流入し、空調デバイス20を通過する間に車室中の空気に含まれる除去対象成分が機能材含有層27によって捕捉される。そして、空調デバイス20から流出した、浄化又は除湿などが行われた空気は、第1経路10aを通って車室へと返送される。
【0111】
制御部30は、機能材含有層27を再生するモードの場合、第2経路10bを空気が流通するように切替バルブ40を切替え、一対の電極26a,26bに電圧を印加するとともに通風機を起動させる。このように制御することにより、機能材含有層27の再生が行われる。具体的には、車室からの空気は、空調ダクト10を通って空調デバイス20に流入し、空調デバイス20を通過する間に、機能材含有層27に捕捉された除去対象成分を離脱又は反応させる。そして、空調デバイス20から流出した除去対象成分を含む空気は、第2経路10bを通って車外へと排出される。なお、一対の電極26a,26bに対する電圧印加を停止するタイミングは、上記で説明した通りである。
【0112】
機能材含有層27を再生するモードにおいて、機能材に捕捉などされた除去対象成分の離脱を促進するため、機能材の種類に応じて離脱温度以上に機能材を加熱することが好ましい。例えば、機能材として吸着材を使用する場合は機能材の少なくとも一部、好ましくは全部を70~150℃に加熱することが好ましく、80~140℃に加熱することがより好ましく、90~130℃に加熱することが更に好ましい。
【0113】
上記の制御を安定して行う観点から、空調デバイス20は車室に近い位置に配置されることが望ましい。したがって、感電防止などの観点から、空調デバイス20の駆動電圧が60V以下であることが好ましい。空調デバイス20に用いられているハニカム構造体21は、室温における電気抵抗が低いため、この低い駆動電圧でのハニカム構造体21の加熱が可能である。なお、駆動電圧の下限は、特に限定されないが、10V以上であることが好ましい。駆動電圧が10V未満であると、ハニカム構造体21の加熱時の電流が大きくなるため、導線を太くする必要がある。
【0114】
<空調デバイスの再生方法>
本発明の実施形態に係る空調デバイスの再生方法は、車両における空調デバイスの再生に好適に利用可能である。
図2A及び2Bに示されるように、本発明の実施形態に係る空調デバイスの再生方法に用いられる空調デバイス20は、外周壁22と、外周壁22の内側に配設され、第1端面23aから第2端面23bまで延びる流路となる複数のセル24を区画形成する隔壁25とを有し、少なくとも隔壁25がPTC特性を有する材料で構成されたハニカム構造体21と、ハニカム構造体21に設けられた一対の電極26a,26bと、隔壁25の表面上に形成された機能材含有層27とを含む。空調デバイス20は、一対の電極26a,26bに接続された端子28を更に含むことができる。
なお、空調デバイス20の詳細については、上記で説明した通りであるため、その説明を省略する。
【0115】
空調デバイス20を再生する場合、一対の電極26a,26bに対して電圧印加を行い、ハニカム構造体21を加熱することにより行われる。これにより、機能材含有層27に捕捉された除去対象成分が機能材含有層27から脱離又は反応して放出されるため、機能材含有層27が再生する。
また、一対の電極26a,26bに対する電圧印加は、ハニカム構造体21のキュリー点に到達した段階で停止する。このような段階で電圧印加を停止することにより、機能材含有層27の再生に過剰の電力が投入されることを抑制できる。また、機能材含有層27の過剰な発熱が抑制されるため、機能材含有層27の熱劣化を抑制することもできる。
【0116】
ハニカム構造体21のキュリー点に到達した段階は、ハニカム構造体21の初期抵抗に対する電圧印加時の経時抵抗の抵抗比を算出することにより判断されることが好ましい。このようにしてハニカム構造体21のキュリー点に到達した段階を判断することにより、ハニカム構造体21のキュリー点を予め求めた上でハニカム構造体21の温度を継続的に測定することが不要となるため、制御部30による電圧印加状態の制御が容易になる。
【0117】
一対の電極26a,26bに対する電圧印加は、所定の時間あたりの抵抗比変動量を算出し、抵抗比変動量の最大値を確認した後、抵抗比変動量が、抵抗比変動量の最大値の2/3以下となった段階で停止することが好ましく、抵抗比変動量の最大値の1/2以下となった段階で停止することがより好ましい。このような構成とすることにより、ハニカム構造体21のキュリー点に到達した段階で一対の電極26a,26bに対する電圧印加を安定して停止することができる。
【0118】
抵抗比変動量を算出するための所定の時間は、特に限定されないが、5~25秒であることが好ましい。このような範囲であれば、抵抗の測定頻度を最小限に抑えつつ、抵抗比の変動量を確実に捉えることができる。
【符号の説明】
【0119】
10 空調ダクト
10a 第1経路
10b 第2経路
20 空調デバイス
21 ハニカム構造体
22 外周壁
23a 第1端面
23b 第2端面
24 セル
25 隔壁
26a,26b 一対の電極
27 機能材含有層
28 端子
30 制御部
40 切替バルブ
100 車両用空調システム