(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142097
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】メタン変換回収用装着型装置
(51)【国際特許分類】
B01D 53/14 20060101AFI20241003BHJP
A01K 29/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B01D53/14 210
A01K29/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054092
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000229519
【氏名又は名称】日本ハム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】小園 正樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 美紗子
(72)【発明者】
【氏名】藤井 勇樹
【テーマコード(参考)】
4D020
【Fターム(参考)】
4D020AA08
4D020BA17
4D020BB04
4D020BC05
4D020CB01
4D020CC11
4D020CC13
4D020CD01
(57)【要約】
【課題】本発明は、家畜から発生するメタンを利用可能な形で回収することを目的とする。
【解決手段】家畜から発生するメタンを酸化反応して、液体へと変換し回収する装着型装置を提供することにより、メタンをメタノール又はギ酸として回収することが可能になる。これにより、大気中に放出されるメタン量を低減するとともに、資源として価値があるメタノール又はギ酸として回収することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸引ポンプと、メタンを酸化反応によってメタノール又はギ酸を含む液体に変換する反応容器と、前記液体を保管する貯蔵容器とを具備し、呼気中のメタンをメタノール又はギ酸に変換して回収する、装着型装置。
【請求項2】
前記反応容器が、フルオラス溶媒及び二酸化塩素を含む反応水溶液を含む、請求項1に記載の装着型装置。
【請求項3】
前記反応容器が、第一区画と、第一区画内に配置され、下向きの開口部を介して第一区画と連通している第二区画とを含み、第一区画にフルオラス溶媒を保持し、第二区画に反応水溶液を保持し、開口部よりも高い位置にフルオラス溶媒と反応水溶液との界面が位置する、請求項2に記載の装着型装置。
【請求項4】
前記反応容器の側壁又は底面に、フルオラス溶媒相の液面より下側に流路に接続された通気口を設け、通気口からメタン含有気体が供給されて、フルオラス溶媒に溶解する、請求項3に記載の装着型装置。
【請求項5】
前記流路がフルオラス溶媒の液面より高い位置を通るように形成されたサイホン流路を形成する、請求項4に記載の装着型装置。
【請求項6】
UV照射部をさらに含む、請求項2に記載の装着型装置。
【請求項7】
前記反応容器の壁面、底面、及び上面の少なくとも1部が、透明の部材で構成され、透明部材を介して、前記UV照射部からUVが照射される、請求項6に記載の装着型装置。
【請求項8】
前記反応容器の側壁又は上面に排気口を設ける、請求項3に記載の装着型装置。
【請求項9】
貯蔵容器に吸収剤を配置し、生成したメタノール含有水相を吸収させる、請求項3に記載の装着型装置。
【請求項10】
第一区画の液面より上部に、気液隔離部材を配置する、請求項3に記載の装着型装置。
【請求項11】
貯蔵容器と、反応容器とが一体となって形成される、請求項1に記載の装着型装置。
【請求項12】
前記反応容器が、メタンからメタノール及び/又はギ酸への酸化反応を触媒するゼオライトを充填して含む、請求項1に記載の装着型装置。
【請求項13】
前記反応容器の上流に脱水部をさらに含む、請求項12に記載の装着型装置。
【請求項14】
脱水部が、珪藻土、シリカゲルを含む物理的乾燥剤、無水無機塩を含む化学的乾燥剤からなる群から選択される、請求項13に記載の装着型装置。
【請求項15】
脱水部が、前記反応容器中に配置される、請求項13に記載の装着型装置。
【請求項16】
UV照射部をさらに含む、請求項12に記載の装着型装置。
【請求項17】
前記反応容器の少なくとも一部が透明部材から構成され、透明部材を介して、前記UV照射部からUVが照射される、請求項16に記載の装着型装置。
【請求項18】
前記反応容器が、メタンからメタノール及び/又はギ酸への酸化反応を触媒するゼオライトを含む、1又は複数のカラムを並列及び/又は直列に配置することで構成される、請求項12に記載の装着型装置。
【請求項19】
前記酸化反応は、前記反応容器内における反応温度が40℃未満である、請求項1に記載の装着型装置。
【請求項20】
前記装着型装置の反応容器が、ウシ首又は肩付近に取り付けられ装着具で固定される、請求項1に記載の装置。
【請求項21】
前記貯蔵容器とウシ背部との間に吸収パッドを含む、請求項2に記載の装着型装置。
【請求項22】
連結管を介して前記反応容器に連結された回収部をさらに含む、請求項1に記載の装着型装置。
【請求項23】
前記連結管が首に沿って頭頂部又は頬部を介して配置され、前記回収部が鼻腔又は口付近に配置される、請求項22に記載の装置。
【請求項24】
ウシの呼気中のメタンを液体に変換して回収する装着型のシステムであって、
ウシの鼻又は口付近に装着される回収部、
メタンを、酸化反応によってメタノール又はギ酸を含む液体に変換する反応容器、
貯蔵容器、
回収部と反応容器とを連結する連結管、
前記回収部に陰圧を付与し、ウシの呼気を吸入し、そして反応容器へと吐出する吸引ポンプ、及び
前記吸引ポンプを駆動する電源
を含む、前記システム。
【請求項25】
前記反応容器と貯蔵容器とが、1つの容器として形成される、請求項24に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜のげっぷを含む呼気中(以下、呼気)に含まれるメタンを、液体に変換して回収する、装着型装置に関する。より具体的に、吸引ポンプと、メタンを酸化反応によってメタノール又はギ酸を含む液体に変換する反応容器と、前記液体を保管する貯蔵容器とを含む装着型装置に関する。
【背景技術】
【0002】
メタン(CH4)は、二酸化炭素(CO2)と並ぶ温室効果ガスとして知られている。これらの温室効果ガスは赤外線領域に強い吸収をもち、大気中に放出されると、地表から放射されるエネルギーを吸収し、その一部を下層の地表に向かって放出する。これにより、地表から放出されたエネルギーの一部が温室効果ガスによって再び地表に戻されるため、地球温暖化が起こる。メタンは、CO2の21~72倍の温室効果を発揮するとされており、CO2に比べて大気中の含有量は少ないものの、温暖化への寄与が懸念されている。
【0003】
メタンは、天然ガスやメタンハイドレートとして大量に埋蔵されているほか、火山活動や自然の生態系からも放出されている。生態系からの放出として、湖沼からの放出に加え、動物、特に反芻動物の消化管に含まれるメタン生成細菌によっても生成される。メタンは、草食動物の呼気に含まれ、また糞からも排出される。畜産分野から放出されるメタンは、大気中のメタンガスの21%を占めるともいわれており、地球温暖化への影響が指摘されている。持続可能な開発目標(SDGs)の観点からも畜産分野に対策を求める声が上げられている。
【0004】
これまで、家畜からのメタン発生を減少させるため、細菌や飼料を工夫し、メタン排出量を抑制する試みがされている。一例として、システインを用いる方法(特許文献1)、ビタミン、微量元素、アミノ酸、微生物などのサプリメントを利用する方法(特許文献2)、乳酸菌を利用する方法(特許文献3)、アルカリゲネス菌を利用する方法(特許文献4)などが報告されている。また、メタンの約95%が呼気とげっぷを介して牛の口と鼻孔から排出されることから、ウシの鼻付近に触媒を取り付けることで、生成したメタンを温室効果の少ない二酸化炭素に変換分解する装置について開発が進められている(特許文献5)。以上のように、畜産分野では、発生するメタンの放出の抑制に注力して研究が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-322828号公報
【特許文献2】特表2022-521565号公報
【特許文献3】特開2009-201354号公報
【特許文献4】国際公開第2011/145516号
【特許文献5】国際公開第2022/180375号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、畜産分野で発生するメタンの放出を抑制することについて試みられている一方で、メタンを利用することについてはいまだ研究が進められていない。本発明は、家畜から発生するメタンを利用可能な形で回収することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、家畜から発生するメタンを利用することについて鋭意研究を行い、家畜から発生するメタンを液体に変換して回収する装着型装置を着想した。具体的に、呼気中のメタンを、温室効果ガスではないメタノール又はギ酸を含む液体に変換して回収することで、回収及び貯蔵が難しい気体のメタンを液体の有用物質として回収することが可能になった。
そこで本発明は以下に関する:
[1] 吸引ポンプと、メタンを酸化反応によってメタノール又はギ酸を含む液体に変換する反応容器と、前記液体を保管する貯蔵容器とを具備し、呼気中のメタンをメタノール又はギ酸に変換して回収する、装着型装置。
[2] 前記反応容器が、フルオラス溶媒及び二酸化塩素を含む反応水溶液を含む、項目1に記載の装着型装置。
[3] 前記反応容器が、第一区画と、第一区画内に配置され、下向きの開口部を介して第一区画と連通している第二区画とを含み、第一区画にフルオラス溶媒を保持し、第二区画に反応水溶液を保持し、開口部よりも高い位置にフルオラス溶媒と反応水溶液との界面が位置する、項目2に記載の装着型装置。
[4] 前記反応容器の側壁又は底面に、フルオラス溶媒相の液面より下側に流路に接続された通気口を設け、通気口からメタン含有気体が供給されて、フルオラス溶媒に溶解する、項目3に記載の装着型装置。
[5] 前記流路がフルオラス溶媒の液面より高い位置を通るように形成されたサイホン流路を形成する、項目4に記載の装着型装置。
[6] UV照射部をさらに含む、項目2に記載の装着型装置。
[7] 前記反応容器の壁面、底面、及び上面の少なくとも1部が、透明の部材で構成され、透明部材を介して、前記UV照射部からUVが照射される、項目6に記載の装着型装置。
[8] 前記反応容器の側壁又は上面に排気口を設ける、項目3に記載の装着型装置。
[9] 貯蔵容器に吸収剤を配置し、生成したメタノール又はギ酸を吸収させる、項目3に記載の装着型装置。
[10] 第一区画の液面より上部に、気液隔離部材を配置する、項目3に記載の装着型装置。
[11] 貯蔵容器と、反応容器とが一体となって形成される、項目1に記載の装着型装置。
[12] 前記反応容器が、メタンからメタノール及び/又はギ酸への酸化反応を触媒するゼオライトを充填して含む、項目1に記載の装着型装置。
[13] 前記反応容器の上流に脱水部をさらに含む、項目12に記載の装着型装置。
[14] 脱水部が、珪藻土、シリカゲルを含む物理的乾燥剤、無水無機塩を含む化学的乾燥剤からなる群から選択される、項目13に記載の装着型装置。
[15] 脱水部が、前記反応容器中に配置される 、項目13に記載の装着型装置。
[16] UV照射部をさらに含む、項目12に記載の装着型装置。
[17] 前記反応容器の少なくとも一部が透明部材から構成され、透明部材を介して、前記UV照射部からUVが照射される、項目15に記載の装着型装置。
[18] 前記反応容器が、メタンからメタノール及び/又はギ酸への酸化反応を触媒するゼオライトを含む、1又は複数のカラムを並列及び/又は直列に配置することで構成される、項目12に記載の装着型装置。
[19] 前記酸化反応は、前記反応容器内における反応温度が40℃未満である、項目1に記載の装着型装置。
[20] 前記装着型装置の反応容器が、ウシ首又は肩付近に取り付けられ装着具で固定される、項目1に記載の装置。
[21] 前記貯蔵容器とウシ背部との間に吸収パッドを含む、項目2に記載の装着型装置。
[22] 連結管を介して前記反応容器に連結された回収部をさらに含む、項目1に記載の装着型装置。
[23] 前記連結管が首に沿って頭頂部又は頬部を介して配置され、前記回収部が鼻腔又は口付近に配置される、項目22に記載の装置。
[24] ウシの呼気中のメタンを液体に変換して回収する装着型のシステムであって、
ウシの鼻又は口付近に装着される回収部、
メタンを、酸化反応によってメタノール又はギ酸を含む液体に変換する反応容器、
貯蔵容器、
回収部と反応容器とを連結する連結管、
前記回収部に陰圧を付与し、ウシの呼気を吸入し、そして反応容器へと吐出する吸引ポンプ、及び
前記吸引ポンプを駆動する電源
を含む、前記システム。
[25] 前記反応容器と貯蔵容器とが、1つの容器として形成される、項目24に記載のシステム。
【発明の効果】
【0008】
メタンを回収することで、畜産分野からの温室効果ガスの発生を抑制することが可能になるとともに、回収されたメタノール又はギ酸は資源として利用することができる。気体のメタンを、メタノール又はギ酸を含む液体に変換することで、小さい容積の貯蔵容器に保管することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は本発明に係る装着型装置及びシステムを簡略化して示す模式図である。
【
図2】
図2は、溶液型反応によりメタンをメタノール又はギ酸に変換する装着型装置1における反応容器2及び貯蔵容器3を簡略化して示す模式図である。(A)は、反応容器2及び貯蔵容器3が別個に存在する態様を示す。(B)は、UV照射部17及び気液隔離部材を備えた態様を示す。(C)は反応容器2及び貯蔵容器3が一体に形成された態様を示す。(B)、(C)では、反応容器2に水を添加しフルオラス溶媒14と水相による二相を形成させている。
【
図3】
図3は、固相型反応によりメタンをメタノール又はギ酸に変換する装着型装置1における反応容器2及び貯蔵容器3を簡略化して示す模式図である。
【
図4】
図4は、本発明に係る装着型装置1を牛に装着させた模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は家畜の呼気中に含まれるメタンを、メタノール又はギ酸を含む液体に変換して回収する、装着型装置(以下、本発明に係る装着型装置と呼ぶ)、又は当該装着型装置を含むシステムに関する。
【0011】
本発明に係る装着型装置は、呼気中のメタンを、メタノール又はギ酸を含む液体に変換して回収するために、吸引ポンプと、メタンを酸化反応によってメタノール又はギ酸を含む液体に変換する反応容器と、前記液体を保管する貯蔵容器と含む。この構成を有することにより、気体であるメタンを、メタノール又はギ酸を含む溶液として回収することができ、装置を小型化することができる。これにより装着型装置とすることができ、家畜の行動に対する制限が少ないという利点を有する。
【0012】
メタンを酸化反応によってメタノール又はギ酸を含む液体に変換する反応としては、溶液型及び固相型の反応が挙げられる。これらの反応は、通常、反応容器内における反応温度が40℃未満であり、装着型装置に反応容器が組み込まれても、家畜に対して負担が少ない。
【0013】
[溶液型の反応]
溶液型の反応として、メタンを溶解する有機溶媒と、二酸化塩素を含む反応水溶液とを含む、2相光反応を利用することができる。より具体的に、メタンを溶解する有機溶媒としては、フルオラス溶媒を利用することができる。フルオラス溶媒とは、炭素とフッ素原子のみから構成される溶媒をいう。フルオラス溶媒は、ガス、特にメタンガスの溶解度が非常に高く、難分解性であるため、ガスを用いた化学反応に適する。また、安定性が高く、かつ毒性が低く、装着型装置に用いるのに適している。フルオラス溶媒としては、一例として、以下の式で表される少なくとも1の化合物、又はその混合溶媒が用いられうる:
【化1】
メタンを溶解し、二酸化塩素と反応させる溶媒の観点からは、二酸化塩素との反応性の乏しく且つメタノールやギ酸の溶解性の乏しい脂肪族炭素のうち、C-F結合、C-C結合だけで構成されるパーフルオロアルカン(ペルフルオロアルカン)、ペルフルオロメチルシクロヘキサン、パーフルオロデカリンを使用することが好ましい。パーフルオロアルカンにおいては、沸点が40℃以上である溶媒が好ましく炭素数6以上が好ましい。フルオラス溶媒には、適宜、メタンのメタノール又はギ酸への反応を安定又は促進させる目的で、添加物を含んでもよい。このような添加物としては、一例としてpH調整剤、反応促進剤、脱水剤などが挙げられうる。
【0014】
安全性の観点から二酸化塩素の発生源として亜塩素酸ナトリウムを使用してもよく、亜塩素酸ナトリウムを含む水溶液の濃度は反応効率を高める観点で適宜選択することができ、例えば0.1~39%とすることができる。ラジカルの発生量の観点から0.5%以上が好ましく、0.7%以上がさらに好ましい。二酸化塩素ガスの発生による家畜の安全性の観点から、8%以下が好ましく、5%以下がさらに好ましい。反応を促進させる観点から、水溶液には、さらに追加の成分が含まれてもよく、例えばpH調整剤、反応促進剤などが含まれうる。
【0015】
メタンを溶解する有機溶媒、特にフルオラス溶媒と、二酸化塩素を含む水溶液とは2相に分離し、有機相が下相になり、水相が上相となる。メタンの酸化反応は、水相の二酸化塩素にUVが照射されることによりClラジカルが発生し、Clラジカルが有機相(フルオラス溶媒)に移行し、有機溶媒に溶解しているメタンの酸化が促進されることによる。この反応により、有機溶媒中でメタノール又はギ酸が生成し、生成したメタノール又はギ酸は有機溶媒から分離して液相を形成する。したがって、反応容器を透明部材により作成し、太陽光の下で反応させてもよいし、別途UV照射部を取り付けて、UVを照射してもよい。
【0016】
UV照射部17としては、本技術分野において通常される任意のものを使用することができるが、UVランプやUV-LEDを用いることができる。UV照射部17は、反応容器外に配置して、透明部材を介して照射してもよいし、反応容器2内に配置してもよい。二酸化塩素を含む反応水溶液に照射する観点から、反応容器内2、特に以下に説明する二酸化塩素を含む反応水溶液を保持する第二区画10の周囲にUV照射部を配置することが好ましい。別の態様では、反応容器2外の上面或いは底面に照射部を配置することができる。
【0017】
反応は界面でのみ生じるわけでなく、フルオラス溶媒14に移行したClラジカルにより生じるため、有機相全体で生じうる。したがって、生成したメタノール又はギ酸は、有機相から分離して水相を形成する。二酸化塩素を含む水溶液と有機溶媒との界面を限局させることで、生成したエタノール又はギ酸による二酸化塩素を含有する水溶液の希釈が抑制されるとともに、生成したエタノール又はギ酸の回収が容易になる。一例として、二酸化塩素を含む水溶液と有機溶媒との界面を第二区画10内に限局させることで、生成したメタノール又はギ酸が、有機溶媒相の上に相形成しうる。生成したメタノール又はギ酸の分離を容易にする観点から、第二区画10以外の領域において有機溶媒相の上に水溶液を追加し、あらかじめ水相を形成していてもよい(
図2B、C)。これによりフルオラス溶媒14からのメタノールの分離を容易にするとともに、第二区画10から発生する二酸化塩素ガスを水溶液として捕捉することで異臭等の安全面を担保する働きをもつ。
【0018】
二酸化塩素を含む水溶液と有機溶媒との界面を限局させるために、溶液型の反応容器2において、2つ以上の区画に分けることが好ましい。一例として、溶液型の反応容器2には、第一区画9と、第一区画9内に形成され、下向きに開口して第一区画9と連通する第二区画10とを設けてもよい。第一区画9に、フルオラス溶媒14を配置し、第二区画10に二酸化塩素を含む水溶液15を配置し、界面を第二区画10の開口部より上側に形成させることで、二酸化塩素を含む水溶液と有機溶媒との界面を、第二区画10内に限局させることができる。第二区画10の開口部は狭めた形状としてもよい。第一区画9は、反応容器2の底面、壁面、上面の一部又は全部を共有してもよく、第二区画10は反応容器2の底面、壁面、上面の一部を共有してもよい。
【0019】
溶液型の反応容器2には、メタン含有気体(呼気)を導入する通気口12が設けられる。通気口12は、曝気を確実にする観点から、反応容器の底面に配置されるか、又は側面の液面より下側に配置される。有機溶媒にメタン含有気体を曝気することで、メタンを有機溶媒に溶解させることができる。通気口12には曝気を促進する曝気ノズルを配置することが好ましい。通気口12には連結管が接続され、通気口からの逆流を防止するために、フルオラス溶媒の液面より高い位置を通るように形成されたサイホン管13を形成してもよい。さらに、連結管には1又は複数の逆止弁7を配置することが好ましい。溶液型の反応容器2の壁面には、フルオラス溶媒14の液面より高い位置に排出口11を設けることができ、フルオラス溶媒から分離されたメタノール又はギ酸を含有する液体を貯蔵容器3に排出することができる。排出口11には連結管を接続してもよいし、貯蔵容器に直接接続されていてもよい。さらに、反応容器2の上面又は壁面に排気口8を設けることができ、フルオラス溶媒14に溶解しなかった気体を反応容器外に排出することができる。かかる排気口8には、逆止弁を形成してよく、外部の空気は入らない一方、所定の内圧がかかった場合にのみ排気を行うことができる。
【0020】
反応容器2中には、フルオラス溶媒14の液面の上側に、気液隔離部材18を配置することができる。気液隔離部材18は、一例として、メッシュ状又は1又は複数の孔が空いた部材であり、気体の移動を妨げない一方で、液体の移動を妨げることができる。気液隔離部材は、一例として内ブタとして機能する。これにより、家畜の動きにより液面が乱れた場合も、フルオラス溶媒14が貯蔵容器3に排出されることを予防することができる。気液隔離部材8は、フルオラス溶媒14の液面と排出口11との間に配置される。これにより、気液隔離部材8を超えて滲出したメタノール又はギ酸を含有する液体が排出口11から排出される。
【0021】
貯蔵容器3は、反応容器2と接続されており、反応容器2において生成したメタノール又はギ酸を保管するように形成される。さらに、貯蔵容器3の上面又は壁面に排気口8を設けることができる。貯蔵容器3には吸収剤16が配置されてもよいし、液体のまま保管してもよい。貯蔵容器3は、カートリッジ式となっており、メタノール又はギ酸は、そのまま、或いは吸収剤に吸収されて回収することができる。吸収剤16としては、一例として、セライト、不織布、スポンジ、多孔物質など、本技術分野において使用される吸収体を使用することができる。貯蔵容器3に保管されたメタノール又はギ酸19は、吸収体と共に回収することができる。一例として貯蔵容器3に交換可能なカートリッジとして吸収体を配置しておくことで、簡便にメタノール又はギ酸を含む吸収体を回収することができる。回収されたメタノール又はギ酸は、資源として利用することができる。貯蔵容器3は、反応容器2と離して形成されてもよいし、一体として形成されてもよい。
【0022】
[固相型の反応]
固相型の反応として、メタンをゼオライトに吸着させて、光反応を利用することがで、メタノールの生成が可能になる。メタンを吸着し、メタノールへと変換が可能なゼオライトとしては、本技術分野において既知のゼオライトを用いることができる(Inorganic Chemistry 2019 58 (1), 327-338)。一例として、亜鉛オキシル種(ZnII-Ot・)結合型のゼオライトを用いることができる。ゼオライトは一般に、下記式:
(MI,MII
1/2)m(AlmSinO2(m+n))・xH2O (n≧m)
[式中、
MIは、Li+、Na+、K+等であり、
MIIは、Ca2+、Mg2+、Ba2+等である]
で表される。メタンから、メタノールへの反応させるためには、金属イオンとして亜鉛オキシル種(ZnII-Ot・)をゼオライトに組み込むことによる。かかるゼオライトに対し、光触媒作用により、メタンからメタノールの酸化が生じうる。この反応は、太陽光により行われてもよいし、紫外線照射下で行われてもよい。
【0023】
本発明に係る固相型の反応容器2は、亜鉛オキシル種結合型ゼオライトを充填して含む。反応容器2の容器壁の少なくとも1部に透明部材を用いる。当該反応容器には、UV照射部17を配置し、透明な容器壁を介して、UVが照射される。一例として、テープ状のUV照射部をカラムに巻き付けて配置することができる。かかる当該反応容器は、一例として亜鉛オキシル種結合型ゼオライトが充填されたカラムであり、複数のカラムを並列又は直列に配置することができる。並列に配置することによって、気体の処理量を増やすことができる。固相型の反応容器2として、1~20本のカラムを並列に配置して用いることができる。反応量を多くすることから、カラムは3本以上が好ましく、5本以上がより好ましい。装置を小型化する観点から、15本以下が好ましく、12本以下がより好ましい。反応容器に対し、連結管を介してメタン含有気体(呼気)が導入される。メタン含有気体は、反応容器の上流において脱水部22を通過することで脱水される。脱水部22は、反応容器2中に配置されてもよいし、反応容器2とは別に配置されてもよい。一の態様では、反応容器2の上流に脱水部22を充填し、下流に亜鉛オキシル種結合型ゼオライト23が充填されたカラムを用いることができる。脱水部22を通過して脱水された気体について、分岐した連結管を用いて、並列して配置されたカラムへと導入してもよい。
【0024】
家畜の口及び鼻付近に放出された呼気を反応容器に導入するために、1又は複数の吸引ポンプ4を任意の箇所に配置してもよい。一の例では、呼気の回収を促進する観点から、脱水部22の上流に配置してもよい。さらに別の例では、反応容器2における気体及び液体の移動を促進する観点から、反応容器2の下流に吸引ポンプを配置してもよい。複数の反応容器を並列で用いる場合、連結管6の分岐前及び/又は合流後に吸引ポンプを配置することで、ポンプ4の配置数を減らすことができる。
【0025】
脱水部22は、本技術分野において既知の脱水を可能にする部材を用いることができ、一例として珪藻土、シリカゲルを含む物理的乾燥剤、無水無機塩を含む化学的乾燥剤等を用いることができる。無水無機塩としては、本技術分野に周知の脱水剤を用いることができ、一例として無水硫酸ナトリウム、無水硫酸マグネシウム、塩化カルシウム等を使用することができる。これらの部材を充填したカラムを、反応容器の上流に配置することができる。これにより、呼気中に含まれる水分が脱水される。水分は、メタンからメタノールへ変換するゼオライトの反応性を低下させるため、呼気中に含まれる水分を脱水したうえで、固相型の反応容器に導入することが好ましい。
【0026】
[システム]
家畜の呼気中に含まれるメタンを、メタノール又はギ酸に変換して回収する、装着型装置1は、吸引ポンプ4、反応容器2及び貯蔵容器3を基本構成とし、反応容器2及び貯蔵容器3は一体に形成することもできる。本発明に係る装着型装置1は、さらに口及び鼻付近からメタンを回収するために、回収部5を含んでもよく、これらの部材を連結する連結管6をさらに含む。回収部5、吸引ポンプ4、電源、反応容器2及び貯蔵容器3を家畜、特にウシの体に取り付ける装着具を含めて、家畜の呼気中に含まれるメタンを液体に変換して回収するシステム(以下、本発明に係るシステム)ということもできる。したがって、本発明に係るシステムは、
ウシの鼻又は口付近に装着される回収部5、
メタンを、酸化反応によってメタノール又はギ酸を含む液体に変換する反応容器2、
貯蔵容器3、
回収部と反応容器とを連結する連結管6、
前回収部に陰圧を付与し、ウシの呼気を吸入し、そして反応容器へと吐出する吸引ポンプ4、及び
前記吸引ポンプを駆動する電源
を含む。
【0027】
回収部4は、家畜の口及び鼻の付近に取り付け、呼気を回収する部材をいう。摂食を妨げない観点から、口の横、又は鼻を覆うように配置されたマスクやフードであってもよい。回収部は、連結管を介して吸引ポンプに接続されており、陰圧が付されている。これにより、口及び鼻の周りの空気を常に、又は呼気をする際に吸引することで、メタン含有気体を回収することができる。回収部4は、装着具を用いて鼻梁と顎とを通して固定することができる。回収部4に接続されている連結管は、眉間を介して、或いは顎下又は頬横を介して首又は肩付近に装着された反応容器2に接続されてもよい。回収部4には、気体のみを通すフィルターを配置することで、摂食時の草や抜け毛などのごみの吸引を抑制することができる。
【0028】
吸引ポンプ4は、径路の途中に配置することで、気体を上流から下流へと流すことができる。かかる吸引ポンプ4は、本技術分野において市販の任意のものを使用することができる。吸引ポンプ4は、100~2500mL/分の吐出量であればよく、溶媒のはねを抑制する観点から1000mL/分以下、800mL/分以下の吐出量を選択することができる。口及び鼻から排出されるメタンを効率よく回収する観点から、300mL/分以上の吐出量が好ましく、500mL/分以上の吐出量を選択することもできる。
【0029】
吸引ポンプ4及びUV照射部17に対し電力を供給する電源は、吸引ポンプ4及びUV照射部17に一体型のものを用いてもよいし、別途電源を配置してもよい。電源は、電池式であってもよいし充電式であってもよい。
【0030】
本発明の部材間を連結する連結管は、気体の流量に応じて適宜選択することができる。可撓性を有する素材でできた連結管が好ましい。可撓性の連結管の例として、一例としてビニルチューブ、シリコンチューブなどを用いることができ、使用態様に応じてその内径を適宜決定することができる。
【0031】
本発明に係る装着型装置1は、装着具20を介して、首又は肩付近に配置することができる。これにより、例えば牛の発情行動の一つである乗駕行動を阻害せず、あるいは乗駕行動による装着型装置の損傷を防ぐことが可能となる。また、牛は睡眠時に横臥姿勢をとるが、その際首又は肩付近は比較的水平を保ちやすく、装着型装置内の液体が漏れにくい位置である。
装着具20には、装置を固定する固定位置と、装着具とを含む。装着具20としては、本技術分野に使用される任意の装着具を用いることができ、一例としてベルト、面ファスナー、ひもなどが用いられる。首回りに装着具20を回して固定してもよいし、胴部に装着具を回して固定してもよい。装着具20は、反応容器2及び貯蔵容器3から漏出する液体を吸収するための、吸収パッド21を動物と、反応容器2及び貯蔵容器3との間に配置してもよい。吸収パッド21は、液体を吸収可能な素材であれば任意の素材であってよく、布、スポンジ、吸水ポリマーなどが用いられうる。本発明の装着型装置は、メタンを呼気として排出する家畜に装着することができ、一例としてウシ、ヒツジ、ヤギなどの反芻動物に装着することが好ましい。本発明の装着型装置1は、動物の種類に応じて設計することができるが、一例としてウシに装着させる場合、例えば装着部全体で10kg以下となるように構成することができ、より好ましくは8kg以下とすることができる。装置を小型化することにより、ウシへの負担を減少させ、子ウシへの使用も可能とすることができる。
【0032】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0033】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例0034】
実施例1.溶液型反応の確認
亜塩素酸ナトリウムを蒸留水に溶かし0.7%の溶液を200mL作製した。フルオラス溶媒としてパーフルオロヘキサン(富士フィルム和光純薬株式会社(Thermo Scientific社製))800mLを用いた。反応容器として、第一区画と第二区画とを含む容器を用いた(
図2A)。
フルオラス溶媒を反応容器の第一区画に全量加えた後、第二区画の溶液取り出し口から亜塩素酸ナトリウム水溶液を注ぎ入れた。これにより第二区画において、フルオラス溶媒と亜塩素酸ナトリウム水溶液の界面を形成させた。
第二区画上面、側面ならびに底面に波長290nmのLED光源を取り付け、第二区画に対してUV照射を行った。第二区画に通気口からの気体が入らないように第一区画に0.1%メタンを含む空気を、室温(25℃)条件下500mL/minで1時間通気した。通気により発生する泡を小さくしフルオラス溶媒との接触面積を増加させるため、通気口先端部に空気石(エアーストーン)を装着し実施した。フルオラス溶媒上に液相が形成し、かかる液相を回収してガスクロマトグラフ質量分析計を用いて成分分析を行ったところ、ギ酸及びメタノールが生成することが示された。収量はギ酸が13.7g/時間、メタノールが3.2g/時間の収量であった。
【0035】
実施例2.固相型反応の確認
ゼオライト(粒形40μm~120μmの混合担体)(東ソー株式会社製合成ゼオライト)を硝酸亜鉛水溶液で置換した亜鉛イオン交換型ゼオライトとし、水素処理、酸素下でのUV照射、脱気により得られた亜鉛オキシル種(ZnII-Ot・)結合型ゼオライト6gを内径16mm、長さ100mmの透明なポリプロピレン容器に充填した固相カラム1を用意し、前段に珪藻土カラム2(20g)を連結させた。固相カラム1上に波長290nmのLED光源を取り付け、固相カラムへの照射を行った。0.1%メタンを含む空気を500mL/minで1時間吸引した結果、0.3g/時間のメタノールが生成した。