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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142101
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】粘性壁
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/023 20060101AFI20241003BHJP
   F16F 9/10 20060101ALI20241003BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F16F15/023 A
F16F9/10
E04H9/02 321B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054100
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹ノ内 浩祐
(72)【発明者】
【氏名】安達 大悟
(72)【発明者】
【氏名】山本 将大
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J069
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AC19
2E139BA15
2E139BD22
3J048AC05
3J048BE04
3J048EA38
3J069AA35
3J069DD38
(57)【要約】
【課題】振動減衰機能が向上した粘性壁を提供する。
【解決手段】建物の上側構造体2と下側構造体3との間に配置される粘性壁1であって、下側構造体3に固定される箱状壁体10と、箱状壁体10の内部に充填される粘性流体20と、上側構造体2に固定され、箱状壁体10に挿入された状態で少なくとも一部が粘性流体20に浸漬され、箱状壁体10に挿入された状態で、板面に沿う第一方向に移動可能に配置された抵抗板30と、を備え、抵抗板30は、粘性流体20に浸漬され、第一方向への移動により粘性抵抗を発生させるように構成された抵抗板本体31と、抵抗板30のうち抵抗板本体31の上方に固定され、抵抗板本体31から少なくとも第一方向に突出して、抵抗板30の第一方向への移動に伴って粘性流体20が上方へ移動することを抑制する可動抑制部32と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の上側構造体と下側構造体との間に配置される粘性壁であって、
前記下側構造体に固定されるとともに、上方に開口する箱状壁体と、
前記箱状壁体の内部に充填される粘性流体と、
前記上側構造体に固定されるとともに下方に垂下する板状に形成され、前記箱状壁体に挿入された状態で少なくとも一部が前記粘性流体に浸漬され、前記箱状壁体に挿入された状態で、板面に沿う第一方向に移動可能に配置された抵抗板と、を備え、
前記抵抗板は、
前記粘性流体に浸漬され、前記第一方向への移動により粘性抵抗を発生させるように構成された抵抗板本体と、
前記抵抗板のうち前記抵抗板本体の上方に固定され、前記抵抗板本体から少なくとも前記第一方向に突出して、前記抵抗板の前記第一方向への移動に伴って前記粘性流体が上方へ移動することを抑制する可動抑制部と、を備える、粘性壁。
【請求項2】
前記可動抑制部は、さらに、前記抵抗板本体から前記抵抗板の板面に交差する第二方向に突出して構成される、請求項1に記載の粘性壁。
【請求項3】
前記箱状壁体の内壁面のうち前記粘性流体が充填された部分には、前記箱状壁体の内方に突出するとともに、前記可動抑制部の下面の少なくとも一部に対向する固定部材が固定されている、請求項2に記載の粘性壁。
【請求項4】
前記可動抑制部の下面が、前記固定部材の上面を摺動する、請求項3に記載の粘性壁。
【請求項5】
前記箱状壁体は、前記第二方向について前記抵抗板との間隔が狭い幅狭部と、前記幅狭部よりも上方に配置されて前記第二方向について前記抵抗板との間隔が前記幅狭部よりも広い幅広部と、を備え、
前記箱状壁体のうち前記幅広部の底壁が前記固定部材を構成し、
前記第一方向について、前記幅広部の差渡し寸法は、前記幅狭部の差渡し寸法よりも大きく形成されており、
前記可動抑制部は前記幅広部に配置されており、
前記第一方向について、前記可動抑制部の一方の端部から他方の端部までの差渡し寸法は、前記幅狭部の差渡し寸法よりも大きく形成されており、
前記第二方向について、前記可動抑制部の一方の端部から他方の端部までの差渡し寸法は、前記幅狭部の差渡し寸法よりも大きく形成されている、請求項4に記載の粘性壁。
【請求項6】
前記固定部材の上面に、上方に突出するとともに前記可動抑制部を下方から支持する支持部材を備える、請求項5に記載の粘性壁。
【請求項7】
前記支持部材は、前記幅狭部の開口部を、閉じた環状に囲う形状に形成されており、
前記可動抑制部の下面は、前記支持部材の全周と接触している、請求項6に記載の粘性壁。
【請求項8】
前記箱状壁体は、前記可動抑制部の上方の位置に、少なくとも前記可動抑制部が上方に移動したときに上方から当接して前記可動抑制部が上方に移動することを抑制する押さえ部材を備える、請求項7に記載の粘性壁。
【請求項9】
前記抵抗板は前記箱状壁体に組付けられた状態で前記第一方向に移動可能に配置されており、
前記抵抗板が前記第一方向に移動可能な全領域にわたって、前記可動抑制部は、前記幅狭部の開口部を塞ぐ、請求項8に記載の粘性壁。
【請求項10】
前記押さえ部材は常に前記可動抑制部に上方から当接しており、
前記押さえ部材に上方から押圧されることにより、前記可動抑制部と、前記支持部材と、が液密に密着する、請求項9記載の粘性壁。
【請求項11】
前記押さえ部材は、前記箱状壁体に、前記第二方向の延びる軸を中心に回転可能に取付けられている、請求項10に記載の粘性壁。
【請求項12】
前記箱状壁体の内壁面に、内方に突出するとともに、前記抵抗板の前記第一方向への移動をガイドし、且つ前記抵抗板の板面に交差する第二方向への移動を規制するガイド部材を備える、請求項1に記載の粘性壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘性壁に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の下側の梁、床などの下側構造体に固定した箱状壁体の内部に粘性流体を充填し、粘性流体中に抵抗板を挿入するとともに、この抵抗板を建物の上側の梁、床などの上側構造体に固定し、この上側構造体を介して伝達される建物の振動エネルギーを抵抗板の受ける粘性流体の流速抵抗と面抵抗によって減衰させる粘性壁として、特許文献1に記載のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5-86744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の技術によると、地震等の荷重によって抵抗板が粘性流体中を水平移動するに伴い粘性流体が抵抗板の一方の端部で押されることにより粘性流体の液面が隆起する。このように抵抗板に荷重が加わったときに粘性流体が移動することにより、抵抗板と粘性流体との間に加わる荷重が低下し、振動減衰機能が低下する恐れがある。
【0005】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、振動減衰機能が向上した粘性壁を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
建物の上側構造体と下側構造体との間に配置される粘性壁であって、
前記下側構造体に固定されるとともに、上方に開口する箱状壁体と、
前記箱状壁体の内部に充填される粘性流体と、
前記上側構造体に固定されるとともに下方に垂下する板状に形成され、前記箱状壁体に挿入された状態で少なくとも一部が前記粘性流体に浸漬され、前記箱状壁体に挿入された状態で、板面に沿う第一方向に移動可能に配置された抵抗板と、を備え、
前記抵抗板は、
前記粘性流体に浸漬され、前記第一方向への移動により粘性抵抗を発生させるように構成された抵抗板本体と、
前記抵抗板のうち前記抵抗板本体の上方に固定され、前記抵抗板本体から少なくとも前記第一方向に突出して、前記抵抗板の前記第一方向への移動に伴って前記粘性流体が上方へ移動することを抑制する可動抑制部と、を備える、粘性壁にある。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、抵抗板が第一方向に移動したときに、粘性流体が上方に移動することを抑制できる。これにより、抵抗板本体から粘性流体に加えられた荷重が上方に逃げることが抑制されるので、抵抗板の振動減衰機能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態1の粘性壁が上側構造体と下側構造体の間に配置された状態を示す正面図。
図2】実施形態1の粘性壁を示す、図3のII-II線断面図。
図3】実施形態1の粘性壁を示す、図2のIII-III線断面図。
図4】実施形態1の粘性壁を示す、平面図。
図5】実施形態1の抵抗板が左方に移動したときの作用効果を説明するための断面図。
図6】実施形態2の粘性壁を示す、図7のVI-VI線断面図。
図7】実施形態2の粘性壁を示す、図6のVII-VII線断面図。
図8】実施形態2の箱状壁体を示す、平面図。
図9】実施形態2の粘性壁を示す、平面図。
図10】実施形態2の抵抗板が左方に移動した状態を示す断面図。
図11】実施形態2の抵抗板が右方に移動した状態を示す断面図。
図12】実施形態3の粘性壁を示す断面図。
図13】実施形態4の粘性壁を示す断面図。
図14】実施形態5の粘性壁を示す断面図。
図15】実施形態6の粘性壁を示す断面図。
図16】実施形態6の粘性壁を示す断面図。
図17】実施形態6の粘性壁を示す平面図。
図18】実施形態7の粘性壁を示す断面図。
図19】実施形態7の粘性壁を示す断面図。
図20】実施形態8の粘性壁を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施形態1)
1.粘性壁1の概略構造
図1を参照して、実施形態1に係る粘性壁1について説明する。粘性壁1は、図示しない建物の上側構造体2と下側構造体3との間に配置される。上側構造体2および下側構造体3としては、建物を構成する梁、床等が挙げられる。粘性壁1は、例えば、建物の壁の内部に設けられた空間内に配置される。
【0010】
図1に示すように、粘性壁1は、下側構造体3に固定される箱状壁体10と、箱状壁体10に充填される粘性流体20と、上側構造体2に固定される抵抗板30と、を備える。
【0011】
2.箱状壁体10
図2および図3に示すように、箱状壁体10は、上方に開口する箱状に形成されている。箱状壁体10を構成する材料としては、鋼板、繊維強化樹脂板等を用いることができる。箱状壁体10は、左右方向(第一方向の一例)に長尺に形成された底壁11Aと、底壁11Aのうち左右方向に長尺な側縁から上方に延びる2つの長側壁11Bと、底壁11Aのうち左右方向と直交する前後方向(第二方向の一例)に延びる側縁から上方に延びる2つの短側壁11Cと、を備える。
【0012】
箱状壁体10の内部空間であって、底壁11A、長側壁11B、および短側壁11Cで囲まれる空間は、粘性流体20が充填される充填空間12とされる。充填空間12内には粘性流体20が充填されている。
【0013】
底壁11Aは、下側構造体3に、ボルト締結、溶接等、公知の手法により固定されている。
【0014】
3.粘性流体20
粘性流体20は特に限定されず、例えば、ポリイソブチレン等のポリブテン系材料や、シリコーン組成物が重合されてなるもの等、任意の材料を適宜に選択できる。
【0015】
シリコーン組成物としては、例えば、下記の(A)成分を主成分とし下記の(B)~(D)成分を含有するシリコーン組成物であって、下記の(A)成分100重量部に対する下記の(B)成分の含有割合が0.00003~0.003重量部であり、かつ上記シリコーン組成物中における下記の(A)成分のビニル基のモル数(M1)と下記の(D)成分のヒドロシリル基のモル数(M2)との比(M1:M2)が1:0.5~1:4を満たすものを用いることができる。ここで、上記「主成分」とは、本発明のシリコーン組成物の必須成分である下記の(A)~(D)成分の総重量の50重量%を上回る割合を占めるもののこととする。
(A)分子鎖の両末端にビニル基を有する、ビニル基変性シリコーン。
(B)白金触媒。
(C)遅延剤。
(D)鎖延長剤。
【0016】
(C)成分の含有量は、(A)成分100重量部に対し0.01~1重量部であることが好ましい。粘性流体20は、30℃での粘度が6000~100000Pa・sであることが好ましい。
【0017】
4.抵抗板30
図2に示すように、抵抗板30は全体として板状に形成されている。抵抗板30を構成する材料としては、鋼板、繊維強化樹脂板等を用いることができる。抵抗板30の上端部は、上側構造体2にボルト締結、または溶接等の公知の手法により固定されている(図1参照)。抵抗板30は、箱状壁体10の充填空間12内に挿入された状態で、少なくとも一部が粘性流体20に浸漬される構成とされる。
【0018】
図2に示すように、抵抗板30は、箱状壁体10の充填空間12内に、板面を前後方向に向けた姿勢で挿入される。抵抗板30が箱状壁体10の充填空間12内に挿入された状態で、抵抗板30の板面に沿う方向(第一方向の一例、本形態では左右方向)に移動可能に配置されている。
【0019】
(1)抵抗板本体31
図2に示すように、抵抗板30は、抵抗板本体31と、可動抑制部32と、突出部33と、を備える。抵抗板本体31は、前方から見て長方形状に形成されている。抵抗板本体31は、抵抗板30が箱状壁体10の充填空間12内に挿入された状態で、粘性流体20に浸漬される。抵抗板本体31は、抵抗板30が左右方向に移動することにより、粘性流体20との間で粘性抵抗を発生させる構成となっている。
【0020】
抵抗板30が左方に移動すると、抵抗板本体31の左端部が粘性流体20を左方に押圧する。また、抵抗板30が右方に移動すると、抵抗板本体31の右端部が粘性流体20を右方に押圧する。これにより、抵抗板本体31と、粘性流体20との間に抵抗が発生する。また、抵抗板30が左右方向に移動することにより、抵抗板本体31の前面および後面が、粘性流体20と摩擦する。これにより、抵抗板本体31と、粘性流体20との間に抵抗が発生する。上記の抵抗により、地震や風などにより生じた建物の振動が、減衰される構成となっている。
【0021】
図2に示すように、抵抗板30が箱状壁体10の充填空間12に挿入された状態で、抵抗板本体31の大部分は、箱状壁体10の充填空間12に上方から挿入される。
【0022】
(2)可動抑制部32
図2に示すように、抵抗板30のうち抵抗板本体31の上方には、可動抑制部32が固定されている。可動抑制部32は、上方から見て長方形状に形成されている(図4参照)。可動抑制部32は、板面を上下方向に向けた姿勢で、抵抗板本体31に、ボルト締結、溶接等の公知の手法で固定されている。
【0023】
本形態の可動抑制部32は、抵抗板本体31から左右方向に突出している。換言すると、可動抑制部32の左端部は、抵抗板本体31の左端部よりも左方に突出しており、可動抑制部32の右端部は、抵抗板本体31の右端部よりも右方に突出している。
【0024】
本形態の可動抑制部32は、抵抗板本体31から、抵抗板30の板面に交差する方向(第二方向の一例、本形態では前後方向)に突出している。換言すると、可動抑制部32の前端部は、抵抗板本体31の前面よりも前方に突出しており、可動抑制部32の後端部は、抵抗板本体31の後面よりも後方に突出している。
【0025】
抵抗板30が箱状壁体10の充填空間12に挿入された状態で、可動抑制部32は、箱状壁体10の充填空間12内に充填された粘性流体20に浸漬されている。
【0026】
可動抑制部32は、抵抗板30の左右方向への移動に伴って、粘性流体20が上方へ移動することを抑制する構成とされる。
【0027】
(3)突出部33
図3に示すように、抵抗板30は、可動抑制部32の上面から上方に突出する突出部33を備える。突出部33は前方から見て長方形状に形成されている。図4に示すように、突出部33の前後方向の厚さ寸法は、抵抗板本体31の前後方向の厚さ寸法と同じに形成されている。突出部33の左右方向の長さ寸法は、抵抗板本体31の左右方向の長さ寸法よりも小さく形成されている。ただし、突出部33の左右方向の長さ寸法は、抵抗板本体31の左右方向の長さ寸法と同じに形成されても良い。
【0028】
図3に示すように、抵抗板30が箱状壁体10の充填空間12内に挿入された状態で、突出部33の上端部は、箱状壁体10の上端部から上方に突出している。図1に示すように、突出部33の上端部は、上側構造体2とボルト締結、または溶接等の公知の手法により固定される。突出部33の一部は、幅広部13Bに充填された粘性流体20に浸漬されている。
【0029】
5.本形態の作用効果
続いて、図5を参照して、本形態の作用効果について説明する。図5の矢線Aに示すように、例えば抵抗板30に左向きの力が加えられると、抵抗板30が左方に移動する。すると、抵抗板本体31の左端部が粘性流体20を左方に押圧する。これにより、粘性流体20と抵抗板本体31との間に抵抗が生じる。この抵抗により、抵抗板30が左方に移動する際に加えられた力が減衰される。
【0030】
このとき、抵抗板本体31の左端部により押圧された粘性流体20は、箱状壁体10の短側壁11Cと、抵抗板本体31の左端部との間に圧縮されて、矢線Bに示すように上方へ移動しようとする。上方へ移動しようとした粘性流体20は、可動抑制部32によって上方への移動が抑制される。これにより、抵抗板本体31から粘性流体20に加えられた荷重が上方に逃げることが抑制されるので、抵抗板30の振動減衰機能を向上させることができる。
【0031】
本形態においては、可動抑制部32は、さらに、抵抗板本体31から前後方向に突出して構成されている。これにより、図2の矢線Uに示すように、箱状壁体10の幅狭部13Aから上方に移動しようとする粘性流体20を上方から抑え込むことにより、粘性流体20が上方へ移動することを抑制することができる。この結果、抵抗板30の振動減衰機能を向上させることができる。
【0032】
抵抗板30が右向きの力を受ける場合には、単に左を右と読替えるだけなので、説明を省略する。
【0033】
(実施形態2)
次に、図6図9を参照して、実施形態2について説明する。図6に示すように、本形態に係る粘性壁1Aの箱状壁体10において、長側壁11Bのうち下側部分には、前後方向について2つの長側壁11Bの間隔が狭い幅狭部13Aが形成されており、長側壁11Bのうち幅狭部13Aの上方には、前後方向について2つの長側壁11Bの間隔が幅狭部13Aよりも広い幅広部13Bが形成されている。幅狭部13Aと幅広部13Bの上下方向の長さ寸法は特に限定されず、任意の長さ寸法に形成することができる。
【0034】
幅狭部13Aには粘性流体20が充填されている。幅狭部13Aは、幅広部13Bに対して、前後方向について箱状壁体10の内方に突出して形成されている。幅広部13Bの底壁70は、可動抑制部の下面の少なくとも一部と対向している。本形態においては、幅広部13Bの底壁70が、固定部材の一例とされる。ただし、固定部材は、箱状壁体10とは別体の部材を、箱状壁体10の内壁面に固定する構成としても良い。
【0035】
図6および図7に示すように、幅広部13Bの底壁70の上面には、上方に突出する支持部材14が配置されている。支持部材14は、幅広部13Bの底壁70に対して、ボルト締結、溶接、接着等の公知の手法により固定されている。図8に示すように、支持部材14は、左右方向に長尺に形成されている。支持部材14は、幅狭部13Aの開口部を、閉じた環状に囲う形状に形成されている。可動抑制部32の下面は、支持部材14の全周と接触している。
【0036】
支持部材14は、弾力性を有するゴムにより形成されている。支持部材14を構成するゴムは特に限定されず、例えば、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、エチレン-ブテン-ジエンゴム(EBT)、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、水素添加アクリロニトリル-ブタジエンゴム(H-NBR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)などが挙げられる。
【0037】
抵抗板30が箱状壁体10の充填空間12に挿入された状態で、可動抑制部32は、抵抗板本体31のうち幅広部13Bに配置された部分に固定されている。これにより、可動抑制部32は、幅広部13B内に配置された状態になっている。
【0038】
図9に示すように、幅広部13Bには、対向する2つの長側壁11Bの間に、前後方向に長尺な複数(本実施形態では2つ)の押さえ部材60が、前後方向を軸線として回転可能に取付けられている。押さえ部材60は、幅広部13Bに取付けられた状態で、可動抑制部32の上面に上方から当接している。これにより、押さえ部材60は、可動抑制部32を下方に押圧する。可動抑制部32は、下方に押圧されることにより、支持部材14と密着する。可動抑制部32の下面が全周にわたって支持部材14と密着することにより、可動抑制部32と、幅広部13Bの底壁70との間が液密にシールされる。この結果、幅狭部13A内に充填された粘性流体20は、可動抑制部32によって、幅狭部13Aから上方に移動することが抑制されるようになっている。
【0039】
図9に示すように、左右方向について、可動抑制部32の右端部から左端部までの差渡し寸法L1は、幅狭部13Aの差渡し寸法L2よりも大きく設定されている。また、前後方向について、可動抑制部32の前端部から後端部までの差渡し寸法L3は、幅狭部13Aの差渡し寸法L4よりも大きく設定されている。
【0040】
さらに、図10に示すように、可動抑制部32の左端部が、幅広部13Bを構成する左側の短側壁11Cに当接するまで、抵抗板30が左方に移動した状態において、可動抑制部32は幅狭部13Aの開口部を塞いでいる。また、図11に示すように、可動抑制部32の右端部が、幅広部13Bを構成する右側の短側壁11Cに当接するまで、抵抗板30が右方に移動した状態において、可動抑制部32は幅狭部13Aの開口部を塞いでいる。このように、抵抗板30が前後方向に移動可能な全領域にわたって、可動抑制部32は、幅狭部13Aの開口部を塞ぐ構成となっている。
【0041】
続いて本形態の作用効果について説明する。本形態によれば、箱状壁体10の内壁面のうち粘性流体20が充填された部分には、箱状壁体10の内方に突出するとともに、可動抑制部32の下面の少なくとも一部に対向する、幅広部13Bの底壁70が固定されている。幅広部13Bの底壁70の上面には、上方に突出するとともに可動抑制部32を下方から支持する支持部材14が配置されている。可動抑制部32の上方の位置に配置された押さえ部材60によって可動抑制部32が上方から押圧されることにより、可動抑制部32と、支持部材14と、が液密に密着している。この支持部材14は、幅狭部13Aの開口部を、閉じた環状に囲う形状に形成されており、可動抑制部32の下面は、支持部材14の全周と接触している。この結果、箱状壁体10の内部に充填された粘性流体20は、幅狭部13Aの上面と、支持部材14と、可動抑制部32とによってシールされた状態で保持される。これにより,抵抗板30が左右方向に移動したときに、抵抗板30の左端部または右端部に押圧されることによって粘性流体20が上方に移動することが抑制される。この結果、抵抗板30の振動減衰機能を向上させることができる。
【0042】
なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0043】
(実施形態3)
次に、図12を参照して、実施形態3について説明する。本形態の粘性壁1Bは、箱状壁体10の長側壁11Bの内壁面に、内方に突出するガイド部材16を備える。
【0044】
ガイド部材16の構造は特に限定されず、箱状壁体10の長側壁11Bから突出するボスでもよいし、リブでもよい。本形態においては、箱状壁体10の長側壁11Bに貫通されたボルト16Aとナット16Bによりガイド部材16が構成されている。
【0045】
ガイド部材16は、抵抗板30の抵抗板本体31と、常に接触して摺接する構成であっても良いし、常には接触せず、抵抗板本体31に前後方向の力が加わったときに接触する構成であって良い。ガイド部材16により、抵抗板30の左右方向の移動がガイドされるとともに、抵抗板30が前後方向に移動することが規制される。
【0046】
(実施形態4)
次に、図13を参照して、実施形態4について説明する。本形態の粘性壁1Cにおいては、粘性流体20は、幅狭部13Aよりも上方であって、幅広部13Bの下端部寄りの位置まで充填されている。詳細には、粘性流体20の液面は、可動抑制部32の下面と上面の間に位置している。ただし、粘性流体20の液面の位置は特に限定されず、可動抑制部32の下面と同じか、または下方であってもよいし、可動抑制部32の上面と同じか、または上方であっても良い。
【0047】
本形態の粘性壁1Cを製造する際、幅狭部13A内に粘性流体20を充填し、さらに、幅広部13Bの下端部寄りの位置まで粘性流体20を充填させておく。その後、抵抗板30を、箱状壁体10内に上方から挿入する。抵抗板30の抵抗板本体31が幅狭部13A内に挿入され、抵抗板30の可動抑制部32が支持部材14の上面に当接する。その後、押さえ部材60を箱状壁体10に固定することにより、可動抑制部32と幅狭部13Aとが支持部材14によって液密にシールされる。このとき、幅狭部13Aから粘性流体20が溢れる状態にしておくことで、可動抑制部32と粘性流体20との間に空気が入り込むことを抑制することができる。これにより、粘性流体20内に入り込んだ空気によって、粘性流体20に加えられた荷重が吸収されてしまうことを抑制できるので、抵抗板30の振動減衰機能を向上させることができる。
【0048】
なお、本形態においては、可動抑制部32と幅狭部13Aとが支持部材14によって液密にシールされているので、幅広部13B内の粘性流体20は幅狭部13A内に流入しない構成になっている。
【0049】
(実施形態5)
次に、図14を参照して、実施形態5について説明する。本形態の粘性壁1Dにおいては、押さえ部材60Aが扁平な板状に形成されている。押さえ部材60Aは、扁平面を上下方向に向けた状態で、幅広部13Bを構成する長側壁11Bに固定されている。本形態の押さえ部材60Aは、前後方向を軸にして回転しないように固定されている。
【0050】
押さえ部材60Aは、少なくとも可動抑制部32が上方に移動したときに上方から当接して可動抑制部32が上方に移動することを抑制する構成とされる。これにより、粘性流体20が上方に移動しようとしたときに、可動抑制部32が粘性流体20に押されて上方にずれてしまうことを抑制できる。この結果、粘性流体20が上方に移動することを、可動抑制部32によって確実に抑制できるので、抵抗板30の振動減衰機能を向上させることができる。
【0051】
(実施形態6)
次に、図15図17を参照して、実施形態6について説明する。本形態の粘性壁1Eにおいては、粘性流体20は、箱状壁体10の上端部寄りの位置まで充填されている。
【0052】
図15および図16に示すように、本形態の支持部材14Aは板状に形成されている。支持部材14Aは、幅狭部13Aの上面に、板面が上下方向を向く状態で固定されている。本形態の支持部材14Aは、ステンレス鋼、樹脂、繊維強化樹脂、セラミック等、任意の材料を適宜に選択できる。支持部材14Aを構成する材料は、摩擦係数が比較的に小さなものが好ましい。
【0053】
図17に示すように、支持部材14Aは、上方から見て長方形状に形成されている。支持部材14Aの左右方向の長さ寸法M1は、幅狭部13Aの開口部の左右方向についての差渡し寸法M2よりも大きい。また、支持部材の前後方向の長さ寸法M3は、幅狭部13Aの開口部の前後方向についての差渡し寸法M4よりも大きい。
【0054】
また、支持部材14Aには、上下方向に貫通して、抵抗板30の抵抗板本体31が挿通される挿通孔18が形成されている。左右方向について、挿通孔18の差渡し寸法M5は、幅狭部13Aの開口部の差渡し寸法M2と略同じに形成されている。また、前後方向について、挿通孔18の差渡し寸法M6は、幅狭部13Aの開口部の差渡し寸法M4よりも小さく設定されている。
【0055】
支持部材14Aは、幅狭部13Aの開口部を、閉じた環状に囲う形状に形成されており、可動抑制部32の下面は、支持部材14Aの全周と接触している。これにより、可動抑制部32が左右方向に移動した場合、可動抑制部32の下面と支持部材14Aの上面とは摺動する。可動抑制部32に押圧されることにより粘性流体20が上方に移動しようとしても、支持部材14Aと可動抑制部32とが接触しているので、粘性流体20が支持部材14Aと可動抑制部32との隙間から上方に移動することが抑制される。この結果、抵抗板30の振動減衰機能を向上させることができる。
【0056】
また、支持部材14Aは、可動抑制部32を下方から支持する構成とされる。これにより、可動抑制部32の上下方向の位置決めをすることができる。
【0057】
(実施形態7)
次に、図18および図19を参照して、実施形態7について説明する。本形態の粘性壁1Fにおいては、粘性流体20は、箱状壁体10の上端部寄りの位置まで充填されている。
【0058】
本形態においては、抵抗板30の可動抑制部32は、幅広部13Bの底壁70に載置されている。これにより、抵抗板30が左右方向に移動すると、可動抑制部32の下面は、幅広部13Bの底壁70と摺動する構成とされる。可動抑制部32に押圧されることにより粘性流体20が上方に移動しようとしても、幅広部13Bの底壁70と可動抑制部32とが接触しているので、粘性流体20が幅広部13Bの底壁70と可動抑制部32との隙間から上方に移動することが抑制される。この結果、抵抗板30の振動減衰機能を向上させることができる。
【0059】
(実施形態8)
次に、図20を参照して、実施形態8について説明する。本形態の粘性壁1Gにおいては、箱状壁体10の2つの長側壁11Bの各内壁面に、内方に突出する固定部材70Aが固定されている。2つの固定部材70Aの突出端部の間には隙間が形成されている。この隙間に、抵抗板30の抵抗板本体31が挿通されている。
【0060】
本形態によれば、固定部材70Aにより、粘性流体20が上方に移動することが抑制されるので、抵抗板30の振動減衰機能を向上させることができる。
【0061】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0062】
1,1A,1B,1C,1D,1E,1F,1G:粘性壁、2:上側構造体、3:下側構造体、10:箱状壁体、13A:幅狭部、13B:幅広部、14,14A:支持部材、16:ガイド部材、18:挿通孔、20:粘性流体、30:抵抗板、31:抵抗板本体、32:可動抑制部、33:突出部、60,60A:押さえ部材、70:底壁(固定部材)、70A:固定部材、L1:可動抑制部の第一方向の差渡し寸法、L2:幅狭部の第一方向の差渡し寸法、L3:可動抑制部の第二方向の差渡し寸法、L4:幅狭部の第二方向の差渡し寸法、
図1
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