IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セイコーエプソン株式会社の特許一覧

特開2024-142107液体吐出装置及び液体吐出装置の駆動方法
<>
  • 特開-液体吐出装置及び液体吐出装置の駆動方法 図1
  • 特開-液体吐出装置及び液体吐出装置の駆動方法 図2
  • 特開-液体吐出装置及び液体吐出装置の駆動方法 図3
  • 特開-液体吐出装置及び液体吐出装置の駆動方法 図4
  • 特開-液体吐出装置及び液体吐出装置の駆動方法 図5
  • 特開-液体吐出装置及び液体吐出装置の駆動方法 図6
  • 特開-液体吐出装置及び液体吐出装置の駆動方法 図7
  • 特開-液体吐出装置及び液体吐出装置の駆動方法 図8
  • 特開-液体吐出装置及び液体吐出装置の駆動方法 図9
  • 特開-液体吐出装置及び液体吐出装置の駆動方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142107
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】液体吐出装置及び液体吐出装置の駆動方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/055 20060101AFI20241003BHJP
   B41J 2/015 20060101ALI20241003BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20241003BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B41J2/055
B41J2/015 101
B41J2/14 301
B41J2/01 403
B41J2/01 401
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054119
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮岸 暁良
(72)【発明者】
【氏名】岡本 麻美
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056EB30
2C056EB38
2C056EC41
2C056EC42
2C056FA04
2C057AF08
2C057AF22
2C057AG12
2C057AG44
2C057AL11
2C057AL24
2C057AL29
2C057AM15
2C057AM17
2C057AM21
2C057AM22
(57)【要約】
【課題】残留振動の特性のばらつきに起因して、吐出部における液体の吐出状態の判定の精度が低下することがあった。
【解決手段】検査信号Com-Bは、第1期間TPS1において第1電位V0から第2電位VS1に一方向に電位が変化する第1電位変化要素PS1と、第1期間TPS1に続く第2期間TPS2において第2電位VS1を維持する第1電位維持要素PS2と、第2期間TPS2に続く第3期間TPS3において第2電位VS1から第3電位VS2に他方向に電位が変化する第2電位変化要素PS3と、第3期間TPS3に続く第4期間TPS4において第3電位VS2を維持する第2電位維持要素PS4と、を有し、吐出部Dの固有振動周期をTCとした場合、第1期間TPS1は、0.75TC以上の時間長を有し、振動検出部33は、第4期間TPS4に含まれる検出期間において、残留振動を検出する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電素子の変位に応じて圧力室内の液体を吐出する吐出部と、
前記圧電素子を変位させる検査信号を生成する生成部と、
前記圧電素子に前記検査信号が供給された後に、
前記吐出部に生じる残留振動を検出する振動検出部と、
を備え、
前記検査信号は、第1期間において第1電位から第2電位に一方向に電位が変化する第1電位変化要素と、前記第1期間に続く第2期間において前記第2電位を維持する第1電位維持要素と、前記第2期間に続く第3期間において前記第2電位から第3電位に他方向に電位が変化する第2電位変化要素と、前記第3期間に続く第4期間において前記第3電位を維持する第2電位維持要素と、を有し、
前記吐出部の固有振動周期をTCとした場合、前記第1期間は、0.75TC以上の時間長を有し、
前記振動検出部は、前記第4期間に含まれる検出期間において、前記残留振動を検出する、
液体吐出装置。
【請求項2】
前記第1電位は、前記第2電位と前記第3電位との間の電位である、
請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
Nを1以上の自然数とした場合、前記第1期間は、0.75N×TC以上、1.25N×TC以下の時間長を有する、
請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記Nは、1または2である、
請求項3に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記第2期間は、TC以上の時間長を有する、
請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記吐出部が設けられたヘッドユニットの温度を検出する温度検出部を更に備え、
前記生成部は、前記温度検出部の検出結果に応じて、前記第1期間の時間長を補正する、
請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項7】
前記生成部は、前記第1電位に応じて、前記第1期間の時間長を補正する、
請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項8】
前記圧電素子の特性に関する特性情報を取得する取得部を更に備え、
前記生成部は、前記取得部が取得した特性情報に応じて、前記第1期間の時間長を補正する、
請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項9】
前記第3期間は、0.5TC以下の時間長を有する、
請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項10】
前記検出期間は、TC以上の時間長を有する、
請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項11】
前記検査信号は、前記第4期間に続く第5期間において前記第3電位から前記第1電位に電位が変化する第3電位変化要素を含み、
前記第5期間は、0.75TC以上の時間長を有する、
請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項12】
前記検査信号は、前記第4期間に続く第5期間において前記第3電位から前記第1電位に電位が変化する第3電位変化要素を含み、
前記第1期間の時間長は、前記第5期間の時間長よりも長い、
請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項13】
圧電素子の変位に応じて圧力室内の液体を吐出する吐出部と、
前記圧電素子を変位させる検査信号を生成する生成部と、
前記圧電素子に前記検査信号が供給された後に、
前記吐出部に生じる残留振動を検出する振動検出部と、
を備える液体駆動装置の駆動方法であって、
前記検査信号は、第1期間において第1電位から第2電位に一方向に電位が変化する第1電位変化要素と、前記第1期間に続く第2期間において前記第2電位を維持する第1電位維持要素と、前記第2期間に続く第3期間において前記第2電位から第3電位に他方向に電位が変化する第2電位変化要素と、前記第3期間に続く第4期間において前記第3電位を維持する第2電位維持要素と、を有し、
前記吐出部の固有振動周期をTCとした場合、前記第1期間は、0.75TC以上の時間長を有し、
前記第4期間に含まれる検出期間において、前記残留振動を検出する、
液体吐出装置の駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出装置、及び液体吐出装置の駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
吐出部からインク等の液体を吐出させ、記録用紙等の媒体に画像を形成するインクジェットプリンター等の液体吐出装置が広く知られている。液体吐出装置においては、吐出部から液体を正常に吐出できなくなる吐出異常が生じ、当該吐出異常に起因して、媒体に形成される画像の画質が低下することがある。このような吐出異常を把握するため、従来から、吐出部における液体の吐出状態を判定する、吐出状態判定に係る技術が提案されている。例えば、特許文献1には、検査用の駆動信号により駆動された吐出部に生じる残留振動の振幅や周期等の特性に基づいて、吐出部における液体の吐出状態を判定する、吐出状態判定に係る技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-276544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、吐出部の製造ばらつきなどに起因して、検査用の駆動信号により駆動された吐出部に生じる残留振動の特性もばらつくことがある。そして、このような残留振動の特性のばらつきに起因して、吐出部における液体の吐出状態の判定の精度が低下することがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る液体吐出装置は、圧電素子の変位に応じて圧力室内の液体を吐出する吐出部と、前記圧電素子を変位させる検査信号を生成する生成部と、前記圧電素子に前記検査信号が供給された後に、前記吐出部に生じる残留振動を検出する振動検出部と、を備え、前記検査信号は、第1期間において第1電位から第2電位に一方向に電位が変化する第1電位変化要素と、前記第1期間に続く第2期間において前記第2電位を維持する第1電位維持要素と、前記第2期間に続く第3期間において前記第2電位から第3電位に他方向に電位が変化する第2電位変化要素と、前記第3期間に続く第4期間において前記第3電位を維持する第2電位維持要素と、を有し、前記吐出部の固有振動周期をTCとした場合、前記第1期間は、0.75TC以上の時間長を有し、前記振動検出部は、前記第4期間に含まれる検出期間において、前記残留振動を検出する。
【0006】
また、本発明の一態様に係る液体吐出装置の駆動方法は、圧電素子の変位に応じて圧力室内の液体を吐出する吐出部と、前記圧電素子を変位させる検査信号を生成する生成部と、前記圧電素子に前記検査信号が供給された後に、前記吐出部に生じる残留振動を検出する振動検出部と、を備える液体駆動装置の駆動方法であって、前記検査信号は、第1期間において第1電位から第2電位に一方向に電位が変化する第1電位変化要素と、前記第1期間に続く第2期間において前記第2電位を維持する第1電位維持要素と、前記第2期間に続く第3期間において前記第2電位から第3電位に他方向に電位が変化する第2電位変化要素と、前記第3期間に続く第4期間において前記第3電位を維持する第2電位維持要素と、を有し、前記吐出部の固有振動周期をTCとした場合、前記第1期間は、0.75TC以上の時間長を有し、前記第4期間に含まれる検出期間において、前記残留振動を検出する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態に係るインクジェットプリンター1の構成の一例を示すブロック図である。
図2】インクジェットプリンター1の概略的な内部構造の一例を示す斜視図である。
図3】吐出部D[m]の構造の一例を説明するための断面図である。
図4】ヘッドユニット3におけるノズルNの配置の一例を示す平面図である。
図5】ヘッドユニット3の構成の一例を示すブロック図である。
図6】単位期間TPにおけるインクジェットプリンター1の吐出状態判定時の動作を示すためのタイミングチャートの例である。
図7】単位期間TPにおける、個別指定信号Sd[m]と、接続状態指定信号Qa[m]、接続状態指定信号Qb[m]、及び、接続状態指定信号Qs[m]との関係を説明するための説明図である。
図8】単位期間TPにおける駆動信号Com-Bを示すタイミングチャートの例である。
図9】波形PS1が設けられる期間TPS1の時間長と、波形PS1を有する駆動信号Com-Bで吐出部D[m]を駆動させた場合に吐出部D[m]から検出される残留振動の振幅との関係を示す図。
図10】波形PS1が設けられる期間TPS1の時間長と、波形PS1を有する駆動信号Com-Bで吐出部D[m]を駆動させた場合に吐出部D[m]から検出される残留振動の振幅との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。ただし、各図において、各部の寸法及び縮尺は、実際のものと適宜に異ならせてある。また、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0009】
1:第1実施形態
第1実施形態では、インクを吐出して記録用紙Pに画像を形成するインクジェットプリンターを例示して、液体吐出装置を説明する。なお、第1実施形態において、インクとは「液体」の一例であり、記録用紙Pとは「媒体」の一例である。以下、図1図10を参照することにより、第1実施形態に係るインクジェットプリンター1について説明する。インクジェットプリンター1は、「液体駆動装置」の一例である。
【0010】
1-1:インクジェットプリンターの概要
図1は、インクジェットプリンター1の構成の一例を示す機能ブロック図である。
【0011】
図1に例示されるように、インクジェットプリンター1には、パーソナルコンピューターまたはデジタルカメラ等のホストコンピューターから、インクジェットプリンター1が形成すべき画像を示す印刷データImgが供給される。インクジェットプリンター1は、ホストコンピューターから供給される印刷データImgの示す画像を記録用紙Pに形成する印刷処理を実行する。
【0012】
図1に例示されるように、インクジェットプリンター1は、インクジェットプリンター1の各部を制御する制御ユニット2と、インクを吐出する吐出部Dが設けられたヘッドユニット3と、吐出部Dを駆動するための駆動信号Comを生成する駆動信号生成ユニット4と、吐出部Dが設けられたヘッドユニット3の温度を検出する温度検出部5と、ヘッドユニット3に対する記録用紙Pの相対位置を変化させるための搬送ユニット7と、吐出部Dにおけるインクの吐出状態を判定する判定ユニット8と、を備える。
【0013】
なお、本実施形態では、インクジェットプリンター1が、1または複数のヘッドユニット3と、1または複数のヘッドユニット3と1対1に対応する1または複数の駆動信号生成ユニット4と、1または複数のヘッドユニット3と1対1に対応する1または複数の判定ユニット8と、を備える場合を想定する。但し、以下では、説明の便宜上、図1に例示されるように、1または複数のヘッドユニット3のうち一のヘッドユニット3と、1または複数の駆動信号生成ユニット4のうち一のヘッドユニット3に対応して設けられた一の駆動信号生成ユニット4と、1または複数の判定ユニット8のうち一のヘッドユニット3に対応して設けられた一の判定ユニット8と、に着目して説明する。
【0014】
制御ユニット2は、1または複数のCPU(Central Processing Unit)を含んで構成される。但し、制御ユニット2は、CPUの代わりに、または、CPUに加えて、FPGA(field-programmable gate array)等のプログラマブルロジックデバイスを備えるものでよい。また、制御ユニット2は、RAM(Random Access Memory)等の揮発性のメモリーと、ROM(Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、または、PROM(Programmable ROM)等の不揮発性メモリーと、の一方または両方を含んで構成される。
【0015】
詳細は後述するが、制御ユニット2は、印刷信号SI、及び、波形指定信号dCom等の、インクジェットプリンター1の各部の動作を制御するための信号を生成する。
ここで、波形指定信号dComとは、駆動信号Comの波形を規定するデジタルの信号である。また、駆動信号Comとは、吐出部Dを駆動するためのアナログの信号である。本実施形態では、駆動信号Comが、駆動信号Com-Aと、駆動信号Com-Bとを含む場合を想定する。駆動信号生成ユニット4は、DA変換回路を含み、波形指定信号dComにより規定される波形を有する駆動信号Comを生成する。また、印刷信号SIとは、吐出部Dの動作の種類を指定するためのデジタルの信号である。具体的には、印刷信号SIは、吐出部Dに対して駆動信号Comを供給するか否かを指定することで、吐出部Dの動作の種類を指定する信号である。駆動信号生成ユニット4は、「生成部」の一例である。
【0016】
図1に例示されるように、ヘッドユニット3は、供給回路31と、記録ヘッド32と、検出回路33と、を備える。
【0017】
記録ヘッド32は、M個の吐出部Dを備える。ここで、値Mは、「M≧1」を満たす自然数である。なお、記録ヘッド32は、「液体吐出ヘッド」の一例である。また、以下では、記録ヘッド32に設けられたM個の吐出部Dのうち、m番目の吐出部Dを、吐出部D[m]と称する場合がある。ここで、変数mは、「1≦m≦M」を満たす自然数である。また、以下では、インクジェットプリンター1の構成要素または信号等が、M個の吐出部Dのうち、吐出部D[m]に対応する場合は、当該構成要素または信号等を表わすための符号に、添え字[m]を付すことがある。
【0018】
供給回路31は、印刷信号SIに基づいて、駆動信号Comを吐出部D[m]に供給するか否かを切り替える。なお、以下では、駆動信号Comのうち、吐出部D[m]に供給される駆動信号Comを、供給駆動信号Vin[m]と称する場合がある。また、供給回路31は、印刷信号SIに基づいて、吐出部D[m]が具備する圧電素子PZ[m]の上部電極Zu[m]の電位を示す検出電位信号VX[m]を、検出回路33に供給するか否かを切り替える。
以下では、吐出部D[m]から検出回路33に対して検出電位信号VX[m]が供給される場合、当該吐出部D[m]を、判定対象吐出部DSと称する場合がある。
なお、圧電素子PZ[m]及び上部電極Zu[m]については、図3において後述する。
【0019】
検出回路33は、判定対象吐出部DSから供給回路31を介して供給される検出電位信号VX[m]に基づいて、検出信号SK[m]を生成する。具体的には、検出回路33は、例えば、検出電位信号VX[m]を増幅しノイズ成分を除去することで検出信号SK[m]を生成する。
【0020】
温度検出部5は、吐出部Dが設けられたヘッドユニット3の温度を検出する。また、温度検出部5は、検出した温度を示す温度検出信号TIを生成し、生成した温度検出信号TIを制御ユニット2に供給する。
【0021】
判定ユニット8は、検出信号SK[m]に基づいて、吐出部D[m]におけるインクの吐出状態が正常であるか否か、すなわち、吐出部D[m]において吐出異常が生じていない正常吐出状態であるか否かを判定し、当該判定結果を示す吐出状態判定情報JH[m]を生成する。ここで、吐出異常とは、吐出部D[m]におけるインクの吐出状態が異常となること、つまり、吐出部D[m]が具備するノズルNからインクを正確に吐出することのできない状態の総称である。例えば、吐出異常とは、吐出部D[m]からインクを吐出できない状態、吐出部D[m]が駆動信号Comにより規定されるインクの吐出量とは異なる量のインクを吐出する状態、及び、吐出部D[m]が駆動信号Comにより規定されるインクの吐出速度とは異なる速度でインクを吐出する状態、等を含む。なお、以下では、吐出部D[m]におけるインクの吐出状態の判定に関連する処理を、吐出状態判定処理と称する場合がある。すなわち、判定対象吐出部DSとは、吐出状態判定処理の対象となる吐出部D[m]である。
【0022】
制御ユニット2は、印刷処理が実行される場合、印刷データImgに基づいて、印刷信号SI等のヘッドユニット3を制御するための信号を生成する。また、制御ユニット2は、印刷処理が実行される場合、波形指定信号dCom等の駆動信号生成ユニット4を制御するための信号を生成する。また、制御ユニット2は、印刷処理が実行される場合、搬送ユニット7を制御するための信号を生成する。これにより、制御ユニット2は、印刷処理において、ヘッドユニット3に対する記録用紙Pの相対位置を変化させるように搬送ユニット7を制御しつつ、吐出部D[m]からのインクの吐出の有無、インクの吐出量、及び、インクの吐出タイミング等を調整し、印刷データImgに対応する画像が記録用紙Pに形成されるように、インクジェットプリンター1の各部を制御する。
【0023】
制御ユニット2は、吐出状態判定処理が実行される場合、吐出部D[m]が判定対象吐出部DSとして駆動されることを指定する印刷信号SIを生成し、当該印刷信号SIを供給回路31に供給する。この場合、印刷信号SIは、吐出部D[m]から検出回路33に対して検出電位信号VX[m]が供給される旨を指定する。その後、検出回路33は、吐出状態判定処理において、判定対象吐出部DSとして駆動された吐出部D[m]から供給回路31を介して供給される検出電位信号VX[m]に基づいて、検出信号SK[m]を生成する。そして、判定ユニット8は、吐出状態判定処理において、検出回路33から供給される検出信号SK[m]に基づいて、吐出状態判定情報JH[m]を生成する。
【0024】
図2は、インクジェットプリンター1の概略的な内部構造の一例を示す斜視図である。
【0025】
図2に例示されるように、本実施形態では、インクジェットプリンター1がシリアルプリンターである場合を想定する。具体的には、インクジェットプリンター1は、印刷処理を実行する場合、副走査方向に記録用紙Pを搬送しつつ、副走査方向に交差する主走査方向にヘッドユニット3を往復動させながら、吐出部D[m]からインクを吐出させることで、記録用紙P上に、印刷データImgに応じたドットを形成する。
以下では、+X方向とその逆方向である-X方向とを「X軸方向」と総称し、X軸方向に交差する+Y方向とその逆方向である-Y方向とを「Y軸方向」と総称し、X軸方向及びY軸方向に交差する+Z方向とその逆方向である-Z方向とを「Z軸方向」と総称する。そして、本実施形態では、図2に例示されるように、上流側である-X側から下流側である+X側に向かう方向を副走査方向とし、+Y方向及び-Y方向を主走査方向とする。また、本実施形態では、図2に例示されるように、+Z方向が、吐出部D[m]からのインクの吐出方向に該当することとする。
【0026】
図2に例示されるように、本実施形態に係るインクジェットプリンター1は、筐体100と、筐体100内をY軸方向に往復動可能であり、1または複数のヘッドユニット3を搭載するキャリッジ110と、を備える。
本実施形態では、図2に例示されるように、キャリッジ110が、シアン、マゼンタ、イエロー、及び、ブラックの、4色のインクと1対1に対応する4個のインクカートリッジ120を格納している場合を想定する。また、本実施形態では、一例として、インクジェットプリンター1が、4個のインクカートリッジ120と1対1に対応する、4個のヘッドユニット3を備える場合を想定する。各吐出部D[m]は、当該吐出部D[m]が設けられたヘッドユニット3に対応するインクカートリッジ120からインクの供給を受ける。これにより、各吐出部D[m]は、供給されたインクを内部に充填し、充填したインクをノズルNから吐出することができる。なお、インクカートリッジ120は、キャリッジ110の外部に設けられてもよい。ノズルNについては、図3で後述する。
【0027】
また、上記のとおり、本実施形態に係るインクジェットプリンター1は、搬送ユニット7を備える。搬送ユニット7は、図2に例示されるように、キャリッジ110をY軸方向に往復動させるためのキャリッジ搬送機構71と、キャリッジ110をY軸方向に往復自在に支持するキャリッジガイド軸76と、記録用紙Pを搬送するための媒体搬送機構73と、キャリッジ110の+Z側に設けられたプラテン75と、を具備する。このため、搬送ユニット7は、印刷処理が実行される場合に、キャリッジ搬送機構71により、ヘッドユニット3をキャリッジ110と共にキャリッジガイド軸76に沿ってY軸方向に往復動させると共に、媒体搬送機構73により、プラテン75上の記録用紙Pを+X方向に搬送することで、記録用紙Pのヘッドユニット3に対する相対位置を変化させ、記録用紙Pの全体に対するインクの着弾を可能とする。
【0028】
図3は、吐出部D[m]を含むように記録ヘッド32を切断した、記録ヘッド32の概略的な一部断面図である。
【0029】
図3に例示されるように、吐出部D[m]は、圧電素子PZ[m]と、内部にインクが充填されたキャビティ322と、キャビティ322に連通するノズルNと、振動板321と、を備える。吐出部D[m]は、圧電素子PZ[m]が供給駆動信号Vin[m]により駆動されることにより、キャビティ322内のインクをノズルNから吐出させる。キャビティ322は、キャビティプレート324と、ノズルNが形成されたノズルプレート323と、振動板321と、により区画される空間である。キャビティ322は、インク供給口326を介してリザーバ325と連通している。リザーバ325は、インク取入口327を介して、吐出部D[m]に対応するインクカートリッジ120と連通している。圧電素子PZ[m]は、上部電極Zu[m]と、下部電極Zd[m]と、上部電極Zu[m]及び下部電極Zd[m]の間に設けられた圧電体Zm[m]と、を有する。下部電極Zd[m]は、電位VBSに設定された給電線Ldと電気的に接続される。そして、上部電極Zu[m]に供給駆動信号Vin[m]が供給されて、上部電極Zu[m]及び下部電極Zd[m]の間に電圧が印加されると、当該印加された電圧に応じて圧電素子PZ[m]が+Z方向または-Z方向に変位し、その結果、圧電素子PZ[m]が振動する。振動板321には、下部電極Zd[m]が接合されている。このため、圧電素子PZ[m]が供給駆動信号Vin[m]により駆動されて振動すると、振動板321も振動する。そして、振動板321の振動によりキャビティ322の容積及びキャビティ322内の圧力が変化し、キャビティ322内に充填されたインクがノズルNより吐出される。
【0030】
図4は、+Z方向からインクジェットプリンター1を平面視した場合の、キャリッジ110に搭載された4個のヘッドユニット3と、当該4個のヘッドユニット3に設けられた合計4M個のノズルNの配置の一例を説明するための説明図である。
【0031】
図4に例示されるように、キャリッジ110に設けられた各ヘッドユニット3には、ノズル列NLが設けられる。ここで、ノズル列NLとは、所定方向に列状に延在するように設けられた複数のノズルNである。本実施形態では、各ノズル列NLが、X軸方向に延在するように配置されたM個のノズルNから構成される場合を、一例として想定する。
【0032】
1-2:ヘッドユニットの構成
以下、図5を参照しつつ、ヘッドユニット3の構成について説明する。
【0033】
図5は、ヘッドユニット3の構成の一例を示すブロック図である。
【0034】
図5に例示されるように、ヘッドユニット3は、供給回路31と、記録ヘッド32と、検出回路33と、を備える。また、ヘッドユニット3は、駆動信号生成ユニット4から駆動信号Com-Aが供給される配線Laと、駆動信号生成ユニット4から駆動信号Com-Bが供給される配線Lbと、検出電位信号VX[m]を検出回路33に供給するための配線Lsと、を備える。
【0035】
図5に例示されるように、供給回路31は、M個の吐出部D[1]~D[M]と1対1に対応するM個のスイッチWa[1]~Wa[M]と、M個の吐出部D[1]~D[M]と1対1に対応するM個のスイッチWb[1]~Wb[M]と、M個の吐出部D[1]~D[M]と1対1に対応するM個のスイッチWs[1]~Ws[M]と、各スイッチの接続状態を指定する接続状態指定回路310と、を備える。
このうち、接続状態指定回路310は、制御ユニット2から供給される印刷信号SI、ラッチ信号LAT、期間指定信号Tsig、及び、チェンジ信号CHの、少なくとも一部の信号に基づいて、スイッチWa[m]のオンオフを指定する接続状態指定信号Qa[m]と、スイッチWb[m]のオンオフを指定する接続状態指定信号Qb[m]と、スイッチWs[m]のオンオフを指定する接続状態指定信号Qs[m]と、を生成する。
ここで、スイッチWa[m]は、接続状態指定信号Qa[m]に基づいて、配線Laと、吐出部D[m]に設けられた圧電素子PZ[m]の上部電極Zu[m]との、導通及び非導通を切り替える。本実施形態において、スイッチWa[m]は、接続状態指定信号Qa[m]がハイレベルの場合にオンし、ローレベルの場合にオフする。スイッチWa[m]がオンする場合、配線Laに供給される駆動信号Com-Aが、供給駆動信号Vin[m]として、吐出部D[m]の上部電極Zu[m]に供給される。
また、スイッチWb[m]は、接続状態指定信号Qb[m]に基づいて、配線Lbと、吐出部D[m]に設けられた圧電素子PZ[m]の上部電極Zu[m]との、導通及び非導通を切り替える。本実施形態において、スイッチWb[m]は、接続状態指定信号Qb[m]がハイレベルの場合にオンし、ローレベルの場合にオフする。スイッチWb[m]がオンする場合、配線Lbに供給される駆動信号Com-Bが、供給駆動信号Vin[m]として、吐出部D[m]の上部電極Zu[m]に供給される。
また、スイッチWs[m]は、接続状態指定信号Qs[m]に基づいて、配線Lsと、吐出部D[m]に設けられた圧電素子PZ[m]の上部電極Zu[m]との、導通及び非導通を切り替える。本実施形態において、スイッチWs[m]は、接続状態指定信号Qs[m]がハイレベルの場合にオンし、ローレベルの場合にオフする。スイッチWs[m]がオンする場合、吐出部D[m]の上部電極Zu[m]の電位が、検出電位信号VX[m]として、配線Lsを介して検出回路33に供給される。
【0036】
また、検出回路33は、配線Lsから供給される検出電位信号VX[m]に基づいて、検出電位信号VX[m]の波形に応じた波形を有する検出信号SK[m]を生成する。
【0037】
1-3:ヘッドユニットの動作
以下、図6及び図7を参照しつつ、ヘッドユニット3の動作について説明する。
【0038】
本実施形態において、インクジェットプリンター1が、印刷処理または吐出状態判定処理を実行する場合、インクジェットプリンター1の動作期間として、1または複数の単位期間TPが設定される。本実施形態に係るインクジェットプリンター1は、各単位期間TPにおいて、印刷処理または吐出状態判定処理のために各吐出部D[m]を駆動することができる。
【0039】
図6は、単位期間TPにおけるインクジェットプリンター1の動作を示すためのタイミングチャートである。
図6に例示するように、制御ユニット2は、パルスPLLを有するラッチ信号LATを出力する。これにより、制御ユニット2は、パルスPLLの立ち上がりから次のパルスPLLの立ち上がりまでの期間として、単位期間TPを規定する。
また、制御ユニット2は、単位期間TPにおいて、パルスPLCを有するチェンジ信号CHを出力する。そして、制御ユニット2は、単位期間TPを、パルスPLLの立ち上がりからパルスPLCの立ち上がりまでの制御期間TQ1と、パルスPLCの立ち上がりからパルスPLLの立ち上がりまでの制御期間TQ2と、に区分する。
また、制御ユニット2は、単位期間TPにおいて、パルスPLT1及びパルスPLT2を有する期間指定信号Tsigを出力する。そして、制御ユニット2は、単位期間TPを、パルスPLLの立ち上がりからパルスPLT1の立ち上がりまでの制御期間TSS1と、パルスPLT1の立ち上がりからパルスPLT2の立ち上がりまでの制御期間TSS2と、パルスPLT2の立ち上がりからパルスPLLの立ち上がりまでの制御期間TSS3と、に区分する。
【0040】
本実施形態に係る印刷信号SIは、M個の吐出部D[1]~D[M]と1対1に対応するM個の個別指定信号Sd[1]~Sd[M]を含む。個別指定信号Sd[m]は、インクジェットプリンター1が印刷処理または吐出状態判定処理を実行する場合に、各単位期間TPにおける吐出部D[m]の駆動の態様を指定する。
図6に例示されるように、制御ユニット2は、各単位期間TPに先立って、個別指定信号Sd[1]~Sd[M]を含む印刷信号SIを、クロック信号CLに同期させて接続状態指定回路310に供給する。そして、接続状態指定回路310は、当該単位期間TPにおいて、個別指定信号Sd[m]に基づいて、接続状態指定信号Qa[m]、接続状態指定信号Qb[m]、及び、接続状態指定信号Qs[m]を生成する。
【0041】
なお、本実施形態では、吐出部D[m]が、単位期間TPにおいて、大ドットと、大ドットよりも小さい中ドットと、中ドットよりも小さい小ドットとのうち、何れかのドットを形成可能である場合を想定する。そして、本実施形態では、個別指定信号Sd[m]が、単位期間TPにおいて、吐出部D[m]を、大ドットに相当する量のインクを吐出する判定対象外吐出部DPである大ドット形成吐出部DP-1として指定する値「1」と、中ドットに相当する量のインクを吐出する判定対象外吐出部DPである中ドット形成吐出部DP-2として指定する値「2」と、小ドットに相当する量のインクを吐出する判定対象外吐出部DPである小ドット形成吐出部DP-3として指定する値「3」と、インクを吐出しない判定対象外吐出部DPであるドット非形成吐出部DP-4として指定する値「4」と、判定対象吐出部DSとして指定する値「5」との、5つの値のうち、何れか1つの値をとることができる場合を想定する。
【0042】
図6に例示されるように、本実施形態において、駆動信号Com-Aは、制御期間TQ1に設けられた波形PP1と、制御期間TQ2に設けられた波形PP2と、を有する。このうち、波形PP1は、基準電位V0から、基準電位V0よりも低電位の電位VL1、及び、基準電位V0よりも高電位の電位VH1を経て、基準電位V0に戻る波形である。波形PP1を有する供給駆動信号Vin[m]が吐出部D[m]に供給される場合に、吐出部D[m]から、インク量ξ1に相当するインクが吐出されるように、波形PP1が定められる。また、波形PP2は、基準電位V0から、基準電位V0よりも低電位の電位VL2、及び、基準電位V0よりも高電位の電位VH2を経て、基準電位V0に戻る波形である。波形PP2を有する供給駆動信号Vin[m]が吐出部D[m]に供給される場合に、吐出部D[m]から、インク量ξ2に相当するインクが吐出されるように、波形PP2が定められる。
本実施形態において、インク量ξ1は、中ドットに相当するインク量である。また、本実施形態において、インク量ξ2は、インク量ξ1よりも少ないインク量であって、小ドットに相当するインク量である。また、本実施形態において、インク量ξ1とインク量ξ2との合計は、大ドットに相当するインク量である。
なお、本実施形態では、一例として、吐出部D[m]に供給される供給駆動信号Vin[m]の電位が高電位の場合に、低電位の場合と比較して、吐出部D[m]の備えるキャビティ322の容積が小さくなる場合を想定する。このため、吐出部D[m]が波形PP1または波形PP2を有する供給駆動信号Vin[m]により駆動される場合、供給駆動信号Vin[m]の電位が低電位から高電位に変化することで、吐出部D[m]内のインクがノズルNから吐出される。
【0043】
図6に例示されるように、本実施形態において、駆動信号Com-Bは、単位期間TPに設けられた波形PSを有する。ここで、波形PSは、制御期間TSS1において、基準電位V0から、基準電位V0よりも高電位の電位VS1を経て、基準電位V0よりも低電位の電位VS2に変化した後、電位VS2を維持する波形である。また、波形PSは、制御期間TSS2において、電位VS2を維持する波形である。また、波形PSは、制御期間TSS3において、電位VS2から基準電位V0に変化した後、基準電位V0を維持する波形である。基準電位V0から電位VS1に変化する方向と、電位VS1から電位VS2に変化する方向とは、互いに逆方向である。なお、基準電位V0は「第1電位」の一例である。電位VS1は「第2電位」の一例である。電位VS2は「第3電位」の一例である。また、本発明において、「一の信号が一の期間において一の電位を維持する」とは、「一の信号が一の期間において一の電位に一致した電位を維持する」場合の他に、「一の信号が一の期間において一の電位に一致した電位を設計上において維持する」場合、及び、「ノイズを排除すれば一の信号が一の期間において一の電位に一致した電位を維持していると看做すことができる」場合を含む概念である。
【0044】
以下では、後述する図8に記載のように、波形PSのうち、基準電位V0から電位VS1に変化する部分を、波形PS1と称する。波形PS1は、「第1電位変化要素」の一例である。また、波形PSのうち、電位VS1を維持する部分を、波形PS2と称する。波形PS2は、「第1電位維持要素」の一例である。また、波形PSのうち、電位VS1から電位VS2に変化する部分を、波形PS3と称する。波形PS3は、「第2電位変化要素」の一例である。また、波形PSのうち、電位VS2を維持する部分を、波形PS4と称する。波形PS4は、「第2電位維持要素」の一例である。また、波形PSのうち、電位VS2から基準電位V0に変化する部分を、波形PS5と称する。本実施形態において、波形PS1及び波形PS5は、圧電素子PZ[m]を+Z方向に変位させるための波形であり、波形PS3は、圧電素子PZ[m]を-Z方向に変位させるための波形である。
また、後述する図8に記載のように、単位期間TPのうち、波形PS1が設けられた期間を、期間TPS1と称する。期間TPS1は、「第1期間」の一例である。単位期間TPのうち、波形PS2が設けられた期間を、期間TPS2と称する。期間TPS2は、「第2期間」の一例である。単位期間TPのうち、波形PS3が設けられた期間を、期間TPS3と称する。期間TPS3は、「第3期間」の一例である。単位期間TPのうち、波形PS4が設けられた期間を、期間TPS4と称する。期間TPS4は、「第4期間」の一例である。単位期間TPのうち、波形PS5が設けられた期間を、期間TPS5と称する。期間TPS5は、「第5期間」の一例である。
【0045】
また、図8に示される例において、基準電位V0は、電位VS1と電位VS2との間の電位である。図8に示される例では、駆動信号Com-Bの電位は、期間TPS1において、基準電位V0から、いったん基準電位V0よりも高電位の電位VS1に変化した後、期間TPS3において、電位VS1から、基準電位V0よりも低電位の電位VS1に変化する。この結果、吐出部D[m]に備わる圧電素子PZ[m]に対してより大きな変位を与えることができる。図8に示される例においては、電位VS1は、基準電位V0よりも高電位であり、電位VS2は、基準電位よりも低電位である。しかし、これとは逆に、電位VS1は、基準電位V0よりも低電位であり、電位VS2は、基準電位よりも高電位であってもよい。
なお、本実施形態では、一例として、波形PSを有する供給駆動信号Vin[m]が吐出部D[m]に供給される場合に、吐出部D[m]からインクが吐出されないように、波形PSが定められている場合を想定する。
【0046】
図7は、単位期間TPにおける、個別指定信号Sd[m]と、接続状態指定信号Qa[m]、接続状態指定信号Qb[m]、及び、接続状態指定信号Qs[m]との関係を説明するための説明図である。
【0047】
図7に例示されるように、個別指定信号Sd[m]が、単位期間TPにおいて吐出部D[m]を大ドット形成吐出部DP-1として指定する値「1」を示す場合、接続状態指定回路310は、接続状態指定信号Qa[m]を、制御期間TQ1及び制御期間TQ2に亘りハイレベルに設定する。この場合、スイッチWa[m]が単位期間TPに亘りオンする。このため、吐出部D[m]は、単位期間TPにおいて、波形PP1及び波形PP2を有する供給駆動信号Vin[m]により駆動され、大ドットに相当する量のインクを吐出する。
また、個別指定信号Sd[m]が、単位期間TPにおいて吐出部D[m]を中ドット形成吐出部DP-2として指定する値「2」を示す場合、接続状態指定回路310は、接続状態指定信号Qa[m]を、制御期間TQ1においてハイレベルに設定する。この場合、スイッチWa[m]が制御期間TQ1においてオンする。このため、吐出部D[m]は、単位期間TPにおいて、波形PP1を有する供給駆動信号Vin[m]により駆動され、中ドットに相当する量のインクを吐出する。
また、個別指定信号Sd[m]が、単位期間TPにおいて吐出部D[m]を小ドット形成吐出部DP-3として指定する値「3」を示す場合、接続状態指定回路310は、接続状態指定信号Qa[m]を、制御期間TQ2においてハイレベルに設定する。この場合、スイッチWa[m]が制御期間TQ2においてオンする。このため、吐出部D[m]は、単位期間TPにおいて、波形PP2を有する供給駆動信号Vin[m]により駆動され、小ドットに相当する量のインクを吐出する。
また、個別指定信号Sd[m]が、単位期間TPにおいて吐出部D[m]をドット非形成吐出部DP-4として指定する値「4」を示す場合、接続状態指定回路310は、接続状態指定信号Qa[m]、接続状態指定信号Qb[m]、及び、接続状態指定信号Qs[m]を、単位期間TPに亘りローレベルに設定する。この場合、スイッチWa[m]、スイッチWb[m]、及び、スイッチWs[m]が、単位期間TPに亘りオフする。このため、吐出部D[m]には、単位期間TPにおいて供給駆動信号Vin[m]が供給されず、吐出部D[m]からはインクが吐出しない。
【0048】
また、個別指定信号Sd[m]が、単位期間TPにおいて吐出部D[m]を判定対象吐出部DSとして指定する値「5」を示す場合、接続状態指定回路310は、接続状態指定信号Qb[m]を、制御期間TSS1及び制御期間TSS3においてハイレベルに設定し、接続状態指定信号Qs[m]を、制御期間TSS2においてハイレベルに設定する。この場合、スイッチWb[m]が、制御期間TSS1及び制御期間TSS3においてオンし、スイッチWs[m]が、制御期間TSS2においてオンする。このため、判定対象吐出部DSとして指定された吐出部D[m]が、制御期間TSS1において、波形PS1及び波形PS3を有する供給駆動信号Vin[m]により駆動された結果として、吐出部D[m]に振動が生じる場合、当該振動は、制御期間TSS2においても残留する。そして、制御期間TSS2において、吐出部D[m]に振動が残留している場合、吐出部D[m]に設けられた上部電極Zu[m]の電位が変化する。そして、制御期間TSS2において、吐出部D[m]に振動が残留している場合、上部電極Zu[m]の電位が、スイッチWs[m]を介して、検出電位信号VX[m]として検出回路33に供給される。
すなわち、制御期間TSS2において吐出部D[m]から検出される検出電位信号VX[m]の波形は、制御期間TSS2において吐出部D[m]に残留する振動の波形を示す。そして、制御期間TSS2において吐出部D[m]から検出される検出電位信号VX[m]に基づいて生成される検出信号SK[m]の波形は、制御期間TSS2において吐出部D[m]に残留する振動の波形を示す。検出回路33は、制御期間TSS2内の、期間TPS4に含まれる検出期間において、吐出部D[m]に残留する振動を検出する。検出回路33は、「振動検出部」の一例である。
【0049】
判定ユニット8は、検出回路33から供給される検出信号SK[m]によって示される残留振動の振幅や周期等の特性に基づいて、吐出部D[m]におけるインクの吐出状態が正常であるか否を判定し、吐出状態の判定結果を示す吐出状態判定情報JH[m]を生成する。
【0050】
1-4:駆動信号Com-Bの詳細
以下、図8を参照しつつ、駆動信号Com-Bの詳細について説明する。図8は、単位期間TPにおける駆動信号Com-Bを示すタイミングチャートの例である。なお、駆動信号Com-Bは、「検査信号」の一例である。
【0051】
本実施形態において、駆動信号Com-Bが有する波形PS1の開始から終了までの期間TPS1は、吐出部Dの固有振動周期TCに基づいて定められる。ここで、本実施形態では、一例として、固有振動周期TCが、記録ヘッド32が備えるM個の吐出部D[1]~D[M]が有する固有振動周期の平均値である場合を想定する。このうち、吐出部D[m]の固有振動周期とは、吐出部D[m]におけるインクの吐出状態が正常である場合に、駆動信号Com-B等により駆動された吐出部D[m]から検出される残留振動の周期である。例えば、吐出部D[m]の固有振動周期とは、インクジェットプリンター1の出荷前の品質検査において実施される吐出状態判定処理において、駆動信号Com-B等により駆動された吐出部D[m]から検出される残留振動の周期であってもよい。
【0052】
但し、本発明はこのような態様に限定されるものでは無い。例えば、吐出部Dの固有振動周期TCとして、複数のインクジェットプリンター1が有する複数の吐出部Dの固有振動周期の平均値を採用してもよい。
【0053】
また、例えば、圧電素子PZ[m]の特性に関する特性情報の示すM個の吐出部D[1]~D[M]の使用時間の平均値に基づいて、吐出部Dの固有振動周期TCを定めてもよい。この場合、図示省略した記憶装置に記憶される、吐出部Dの使用時間と吐出部Dの固有振動周期との関係を示す情報に基づいて、吐出部Dの固有振動周期TCを定めてもよい。ここで、圧電素子PZ[m]の特性に関する特性情報としては、例えば、インクジェットプリンター1の製品出荷から現在までの所定の期間のうち、ヘッドユニット3に対して駆動信号Comが供給された時間である累積通電時間、あるいは、駆動信号Comの供給パルス数が挙げられる。特性情報としての累積通電時間が長いほど、吐出部Dの使用時間は長い。また、特性情報としての駆動信号Comの供給パルス数が多いほど、吐出部Dの使用時間は長い。制御ユニット2は、一例として、ラッチ信号LATにおけるパルスPLLのカウント値に、単位期間TPの時間長を乗じることにより、累積通電時間を算出する。また、制御ユニット2は、一例として、印刷信号SIに基づいて、駆動信号Com-Aの供給パルス数をカウントする。制御ユニット2は、当該累積時間や、駆動信号Comの供給パルス数を、圧電素子PZ[m]の特性に関する特性情報として取得する。なお、制御ユニット2は、「取得部」の一例である。
【0054】
また、例えば、M個の吐出部D[1]~D[M]のうち任意の1個の吐出部D[m]の固有振動周期を、吐出部Dの固有振動周期TCとして採用してもよい。なお、以下では、固有振動周期TCを単に「TC」と表記する場合がある。
【0055】
図8において、期間TPS1は、0.75TC以上の時間長を有する。また、Nを1以上の自然数とした場合、期間TPS1は、0.75N×TC以上、1.25N×TC以下の時間長を有することが、好適である。また、この場合、Nは、1または2であることが更に好適である。また、期間TPS1は、固有振動周期TCの整数倍であることが更に好適である。
【0056】
従来、吐出部D[m]におけるインクの吐出状態を判定する吐出状態判定処理において、吐出部D[m]に生じる残留振動を検出する場合、上記のように、残留振動を検出する前段階で、吐出部D[m]に備わる圧電素子PZ[m]に対して駆動信号Com-Bを供給することで圧電素子PZ[m]を変位させる。圧電素子PZ[m]の変位が大きい方が、変位が小さい場合と比較して、吐出部D[m]に生じる残留振動に基づく吐出状態判定処理の判定精度を向上させることができる。このため、吐出状態判定処理においては、従来、圧電素子PZ[m]の変位をより大きくするために、吐出部D[m]に供給される駆動信号の電位を基準電位V0から一方側に電位変化させた後、そこから他方側に電位変化させていた。この場合、吐出状態判定処理においては、駆動信号Com-Bの一方側への電位変化に起因して吐出部D[m]に生じる一の振動と、駆動信号Com-Bの他方側への電位変化に起因して吐出部D[m]に生じる他の振動とが重なりあった残留振動に基づいて、吐出部D[m]におけるインクの吐出状態が判定される。しかし、吐出部D[m]の製造ばらつき等に起因して、吐出部D[m]に生じる残留振動の特性もばらつくことがある。
具体的には、吐出部D[m]の製造誤差等に起因して、駆動信号Com-Bの一方側への電位変化により吐出部D[m]に生じる一の振動が、駆動信号Com-Bの他方側への電位変化により吐出部D[m]に生じる他の振動に対して与える影響の程度にばらつきが生じ、これにより、駆動信号Com-Bにより駆動された吐出部D[m]に生じる残留振動の特性にばらつきが発生する。
そして、吐出部D[m]に生じる残留振動の特性のばらつきが大きくなる場合、吐出状態判定処理における判定精度が低下する。
特に、駆動信号Com-Bの一方側への電位変化により吐出部D[m]に生じる一の振動と、駆動信号Com-Bの他方側への電位変化により吐出部D[m]に生じる他の振動とが互いに打ち消し合う「制振」が発生する場合、「制振」が発生しない場合と比較して、吐出状態判定処理において検出される残留振動の振幅が小さくなるため、当該残留振動に基づいて行われる吐出状態判定処理の精度が低下する。
なお、吐出部D[m]に生じる一の振動と、吐出部D[m]に生じる他の振動とが互いに強め合う「共振」が発生する場合、「共振」が発生しない場合と比較して、吐出部D[m]からインクが吐出されてしまう誤吐出のリスクが高くなるという問題も生じることがあった。
【0057】
本実施形態においては、期間TPS1を0.75TC以上の時間長に設定することで、期間TPS1を0.75TC未満の時間長に設定する態様と比較して、駆動信号Com-Bが供給された吐出部D[m]のうち、波形PS1に起因する振動を小さく抑えることができる。この結果、本実施形態によれば、期間TPS1を0.75TC未満の時間長に設定する態様と比較して、駆動信号Com-Bが供給された吐出部D[m]において、波形PS3に起因する振動に対する、波形PS1に起因する振動の影響が抑制される。このため、本実施形態に係るインクジェットプリンター1は、期間TPS1が、0.75TC未満の時間長である態様に比較して、吐出部D[m]の吐出状態をより正確に判定できる。
【0058】
図9は、波形PS1が設けられる期間TPS1の時間長と、波形PS1を有する駆動信号Com-Bで吐出部D[m]を駆動させた場合に吐出部D[m]から検出される残留振動の振幅との関係を示す図である。具体的には、図9は、駆動信号Com-Bのうち波形PS1が設けられる期間TPS1の時間長を変化させつつ、駆動信号Com-Bを吐出部D[m]に供給し、吐出部D[m]から検出電位信号VX[m]を検出する実験において得られた、期間TPS1の時間長と検出電位信号VX[m]の振幅との関係をプロットしたグラフである。図9に示すグラフにおいて、横軸は、期間TPS1の時間長を示し、縦軸は、検出電位信号VX[m]の振幅を示す。なお、図9において、固有振動周期TC=7.5usである。
【0059】
図9に示されるグラフにおいて、期間TPS1=1usから期間TPS1=7.5usまで、期間TPS1の値が増加するのに伴って、検出電位信号VX[m]の振幅は減少する。とりわけ、期間TPS1=0.75TC=5.625us以上の値である、期間TPS1=6usにおける検出電位信号VX[m]の振幅は、期間TPS1=1usにおける検出電位信号VX[m]の振幅の30%未満の値となっている。換言すれば、期間TPS1を、0.75TC以上の値とすることにより、波形PS1による一方側への電位変化に起因する残留振動の特性のばらつきは、顕著に抑制される。
【0060】
また、図9に示されるグラフにおいて、期間TPS1=7.5usにおける検出電位信号VX[m]の振幅の値が極小値となった後、期間TPS1=7.5usから期間TPS1=10usまで、期間TPS1の値が増加するのに伴って、検出電位信号VX[m]の振幅の値は増加するが、期間TPS1=1.25TC=9.375us以下の値である、期間TPS1=9usにおける検出電位信号VX[m]の振幅は、期間TPS1=1usにおける検出電位信号VX[m]の振幅の25%未満の値を保っている。その後、期間TPS1=10usから期間TPS1=15usまで、期間TPS1の値が増加するのに伴って、検出電位信号VX[m]の振幅の値は減少し、期間TPS1=15usにおける検出電位信号VX[m]の振幅の値は再度極小値となる。図9に示されるように、期間TPS1が、固有振動周期TC=7.5usの倍数となるごとに、検出電位信号VX[m]の振幅の値は極小値となる。
【0061】
図10は、波形PS1が設けられる期間TPS1の時間長と、波形PS1を有する駆動信号Com-Bで吐出部D[m]を駆動させた場合に吐出部D[m]から検出される残留振動の振幅との関係を示す図である。具体的には、図10では、駆動信号Com-Bのうち波形PS1が設けられる期間TPS1を変化させつつ、駆動信号Com-Bを吐出部D[m]に供給し、吐出部D[m]から検出電位信号VX[m]を検出した場合のシミュレーションによる計算結果としての、期間TPS1の時間長と検出電位信号VX[m]の振幅との関係をプロットしたグラフである。なお、図10に示されるグラフは、波形PS1を小さい階段状の波形の繰り返しとしてみなした上で、各々の波形が起こす振動を合成した合成振動の振幅を算出したグラフである。具体的には、n番目の階段状の波形が起こす振動の振幅をfnとした場合、合成振動の振幅FXは、以下の数式(1)によって算出される。なお、数式(1)において、Nは十分大きい実数である。
【数1】
ここで、各々の階段状の波形の単位時間Δt=0.05usとした場合、n番目の階段状の波形が起こす振動の振幅fnは、n番目の階段状の波形の開始時間tnをΔt×n、振幅のデフォルト値をA、振幅Aの減衰に係る時変数をτとした場合、以下の数式(2)によって算出される。
【数2】
なお、数式(2)において、A=Δt/TPS1である。
【0062】
図10に示されるグラフにおいて、期間TPS1=1usから期間TPS1=7.5usまで、期間TPS1の値が増加するのに伴って、合成振動の振幅FXの値は減少する。とりわけ、期間TPS1=0.75TC=5.625us以上の値である、期間TPS1=6usにおける合成振動の振幅FXは、期間TPS1=1usにおける合成振動の振幅FXの20%未満の値となっている。換言すれば、期間TPS1を、0.75TC以上の値とすることにより、波形PS1による一方側への電位変化に起因する残留振動の特性のばらつきは、顕著に抑制される。
【0063】
また、図10に示されるグラフにおいて、期間TPS1=7.5usにおける合成振動の振幅FXの値が極小値となった後、期間TPS1=7.5usから期間TPS1=10usまで、期間TPS1の値が増加するのに伴って、合成振動の振幅FXの値は増加するが、期間TPS1=1.25TC=9.375us以下の値である、期間TPS1=9usにおける合成振動の振幅FXは、期間TPS1=1usにおける合成振動の振幅FXの25%未満の値を保っている。その後、期間TPS1=10usから期間TPS1=15usまで、期間TPS1の値が増加するのに伴って、合成振動の振幅FXの値は減少し、期間TPS1=15usにおける合成振動の振幅FXの値は再度極小値となる。図10に示されるように、期間TPS1が、固有振動周期TC=7.5usの倍数となるごとに、合成振動の振幅FXの値は極小値となる。
【0064】
なお、図9及び図10のグラフから、期間TPS1は、0.75×TC以上、1.25×TC以下の時間長を有することが好適であることが示されたが、期間TPS1は、0.75×2×TC以上、1.25×2×TC以下の時間長を有してもよい。あるいは、Nを自然数とした場合、期間TPS1は、0.75N×TC以上、1.25N×TC以下の時間長を有してもよい。
【0065】
また、図8において、期間TPS2は、固有振動周期TC以上の時間長を有することが好適である。期間TPS2が固有振動周期TC以上の時間長を有することにより、波形PS1による一方側への電位変化に起因する残留振動の特性のばらつきが、顕著に抑制される。
【0066】
また、制御ユニット2は、温度検出部5から取得した温度検出信号TIによって示される温度に応じて波形指定信号dComを補正する。駆動信号生成ユニット4は、補正された波形指定信号dComに基づいて、期間TPS1の時間長を補正する。換言すれば、駆動信号生成ユニット4は、温度検出部5の検出結果に応じて、期間TPS1の時間長を補正する。
【0067】
ヘッドユニット3の温度が高くなるほど、ヘッドユニット3内の吐出部D[m]に備わるキャビティ322の温度が高くなる。この結果、キャビティ322内に充填されたインクの温度も高くなり、当該インクの粘度は低くなる。インクの粘度が低くなると、固有振動周期は長くなる。固有振動周期が長くなったことに伴い、駆動信号生成ユニット4は、期間TPS1の時間長を長くする。逆に、ヘッドユニット3の温度が低くなるほど、駆動信号生成ユニット4は、期間TPS1の時間長を長くする。
【0068】
また、駆動信号生成ユニット4は、基準電位V0に応じて、期間TPS1の時間長を補正する。上記のように、キャビティ322内に充填されたインクの温度が高くなった場合、インクの粘度が低くなり、図8において、電位VS1の値は低くなる。更に、図8に示される波形PSは、全体として縦軸方向に縮小され、基準電位V0の値も低くなる。延いては、固有振動周期が長くなるため、駆動信号生成ユニット4は、期間TPS1の時間長を長くする。換言すれば、基準電位V0の値が低くなった場合には、駆動信号生成ユニット4は、期間TPS1の時間長を長くする。逆に、基準電位V0の値が高くなった場合には、駆動信号生成ユニット4は、期間TPS1の時間長を短くする。
【0069】
また、制御ユニット2は、取得部として取得した特性情報に応じて波形指定信号dComを補正する。駆動信号生成ユニット4は、補正された波形指定信号dComに基づいて、期間TPS1の時間長を補正する。換言すれば、駆動信号生成ユニット4は、制御ユニット2が取得した特性情報に応じて、期間TPS1の時間長を補正する。具体的には、特性情報によって示される累積通電時間が長いほど、圧電素子PZ[m]の経年劣化に起因して、固有振動周期が長くなることが見込まれる。このため、駆動信号生成ユニット4は、累積通電時間が長いほど、期間TPS1の時間長を長くする。ただし、圧電素子PZ[m]の素材によっては、経年劣化するほど固有振動周期が短くなる場合がある。この場合、駆動信号生成ユニット4は、累積通電時間が長いほど、期間TPS1の時間長を短くする。同様に、駆動信号生成ユニット4は、特性情報によって示される供給パルス数が多いほど、期間TPS1の時間長を長くする。ただし、圧電素子PZ[m]の素材によっては、経年劣化するほど固有振動周期が短くなる場合がある。この場合、駆動信号生成ユニット4は、供給パルス数が多いほど、期間TPS1の時間長を短くする。
【0070】
また、図8において、期間TPS3は、0.5TC以下の時間長を有する。期間TPS3が0.5TC以下の時間長となることで、駆動信号Com-Bに含まれる波形PS3によって示される電位は、波形PS1によって示される基準電位V0から電位VS1への電位変化に比較して、電位VS1から電位VS2へと急激に変化する。この結果、波形PS1による一方側への電位変化に起因して吐出部D[m]に生じる一の振動の、波形PS3による他方側への電位変化に起因して吐出部D[m]に生じる他の振動に対する影響が抑制される。延いては、本実施形態に係るインクジェットプリンター1は、従来技術に比較して、吐出部D[m]の吐出状態をより正確に判定できる。
【0071】
また、図8において、期間TPS4に含まれる検出期間は、固有振動周期TC以上の時間長を有する。検出回路33が、十分長い検出期間において、圧電素子PZ[m]の残留振動を検出することにより、本実施形態に係るインクジェットプリンター1は、従来技術に比較して、吐出部D[m]の吐出状態をより正確に判定できる。
【0072】
また、図8において、期間TPS5は、0.75TC以上の時間長を有する。また、期間TPS5は、固有振動周期TCの整数倍であることが更に好適である。
【0073】
期間TPS5が、0.75TC以上の時間長を有することにより、判定対象吐出部DSに隣接する吐出部Dに対する、波形PS5による電位VS2から基準電位V0へ電位変化に起因する振動の影響を抑制できる。また、期間TPS5が、0.75TC以上の時間長を有することにより、判定対象吐出部DSから予期せぬ液滴が吐出することを抑制できる。
【0074】
あるいは、図8において、期間TPS1の時間長は、期間TPS5の時間長よりも長くてもよい。
【0075】
吐出部D[m]の吐出状態の判定において、波形PS1による基準電位V0から電位VS1への電位変化に起因する一の振動の影響は、波形PS5による電位VS2から基準電位V0への電位変化に起因する他の振動の影響よりも大きい。このため、波形PS1に対応する期間TPS1の時間長を、波形PS5に対応する期間TPS5の時間長よりも相対的に長くすることにより、本実施形態に係るインクジェットプリンター1は、従来技術に比較して、吐出部D[m]の吐出状態をより正確に判定できる。
【0076】
1-5:第1実施形態が奏する効果
以上のように、本実施形態に係る液体吐出装置としてのインクジェットプリンター1は、吐出部Dと、生成部としての駆動信号生成ユニット4と、振動検出部としての検出回路33と、を備える。吐出部Dは、圧電素子PZ[m]の変位に応じて、圧力室としてのキャビティ322内の液体を吐出する。駆動信号生成ユニット4は、圧電素子PZ[m]を変位させる検査信号としての駆動信号Com-Bを生成する。検出回路33は、圧電素子PZ[m]に駆動信号Com-Bが供給された後に、吐出部Dに生じる残留振動を検出する。駆動信号Com-Bは、第1期間としての期間TPS1において、第1電位としての基準電位V0から、第2電位としての電位VS1に一方向に電位が変化する第1電位変化要素としての波形PS1と、期間TPS1に続く第2期間としての期間TPS2において、電位VS1を維持する第1電位維持要素としての波形PS2と、期間TPS2に続く第3期間としての期間TPS3において、電位VS1から第3電位としての電位VS2に他方向に電位が変化する第2電位変化要素としての波形PS3と、期間TPS3に続く第4期間としての期間TPS4において電位VS2を維持する第2電位維持要素としての波形PS4と、を有する。吐出部Dの固有振動周期をTCとした場合、第1期間としての期間TPS1は、0.75TC以上の時間長を有する。振動検出部としての検出回路33は、第4期間としての期間TPS4に含まれる検出期間において残留振動を検出する。
【0077】
このため、インクジェットプリンター1は、期間TPS1が、0.75TC未満の時間長である態様に比較して、残留振動の特性のばらつきを抑制することができ、吐出部D[m]における液体の吐出状態の判定の精度をより高めることができる。
【0078】
また、本実施形態に係るインクジェットプリンター1において、第1電位としての基準電位V0は、第2電位としての電位VS1と、第3電位としての電位VS2との間の電位である。
【0079】
このため、インクジェットプリンター1は、吐出部D[m]に備わる圧電素子PZ[m]に対してより大きな変位を与えることができる。
【0080】
また、本実施形態に係るインクジェットプリンター1において、Nを1以上の自然数とした場合、第1期間としての期間TPS1は、0.75N×TC以上、1.25N×TC以下の時間長を有する。
【0081】
このため、インクジェットプリンター1は、期間TPS1が、0.75TC未満の時間長である態様に比較して、残留振動の特性のばらつきを抑制することができ、吐出部D[m]における液体の吐出状態の判定の精度をより高めることができる。
【0082】
また、本実施形態におけるインクジェットプリンター1において、Nは、1または2である。
【0083】
このため、インクジェットプリンター1は、期間TPS1が、0.75TC未満の時間長である態様に比較して、残留振動の特性のばらつきを抑制することができ、吐出部D[m]における液体の吐出状態の判定の精度をより高めることができる。
【0084】
また、本実施形態に係るインクジェットプリンター1において、第2期間としての期間TPS2は、固有振動周期TC以上の時間長を有する。
【0085】
このため、期間TPS2が、固有振動周期TC以上の時間長を有することにより、波形PS1による一方側への電位変化に起因する残留振動の特性のばらつきが、顕著に抑制される。
【0086】
また、本実施形態に係るインクジェットプリンター1は、吐出部Dが設けられたヘッドユニット3の温度を検出する温度検出部5を更に備える。生成部としての駆動信号生成ユニット4は、温度検出部5の検出結果に応じて、第1期間としての期間TPS1の時間長を補正する。
【0087】
このため、温度検出部5によって検出された温度が高くなるほど、ヘッドユニット3内の吐出部Dに備わるキャビティ322の温度が高くなり、キャビティ322内に充填されたインクの粘度が低くなることに対応して、駆動信号生成ユニット4は、期間TPS1の時間長を補正できる。
【0088】
また、本実施形態に係るインクジェットプリンター1において、生成部としての駆動信号生成ユニット4は、第1電位としての基準電位V0に応じて、第1期間としての期間TPS1の時間長を補正する。
【0089】
このため、キャビティ322内に充填されたインクの温度が高くなった場合、基準電位V0の値が低くなることに対応して、駆動信号生成ユニット4は、期間TPS1の時間長を補正できる。
【0090】
また、本実施形態に係るインクジェットプリンター1は、圧電素子PZ[m]の特性に関する特性情報を取得する取得部としての制御ユニット2を更に備える。生成部としての駆動信号生成ユニット4は、制御ユニット2が取得した特性情報に応じて、第1期間としての期間TPS1の時間長を補正する。
【0091】
このため、インクジェットプリンター1は、圧電素子PZ[m]の経年劣化に起因して、固有振動周期が変化することに対応できる。
【0092】
また、本実施形態に係るインクジェットプリンター1において、第3期間としての期間TPS3は、0.5TC以下の時間長を有する。
【0093】
駆動信号Com-Bに含まれる波形PS3によって示される電位は、波形PS1によって示される基準電位V0から電位VS1への電位変化に比較して、電位VS1から電位VS2に急激に変化する。このため、波形PS1による一方側への電位変化に起因して吐出部D[m]に生じる一の振動の、波形PS3による他方側への電位変化に起因して吐出部D[m]に生じる他の振動に対する影響が抑制される。延いては、本実施形態に係るインクジェットプリンター1は、従来技術に比較して、吐出部D[m]の吐出状態をより正確に判定できる。
【0094】
また、本実施形態に係るインクジェットプリンター1において、検出期間は、TC以上の時間長を有する。
【0095】
このため、検出回路33が、十分長い検出期間において、圧電素子PZ[m]の残留振動を検出することにより、本実施形態に係るインクジェットプリンター1は、従来技術に比較して、吐出部D[m]の吐出状態をより正確に判定できる。
【0096】
また、本実施形態に係るインクジェットプリンター1において、検査信号としての駆動信号Com-Bは、第4期間としての期間TPS4に続く、第5期間としての期間TPS5において、第3電位としての電位VS2から第1電位としての基準電位V0に電位変化する第3電位変化要素としての波形PS5を含む。期間TPS5は、0.75TC以上の時間長を有する。
【0097】
このため、インクジェットプリンター1は、判定対象吐出部DSに隣接する吐出部Dに対する、波形PS5による電位VS2から基準電位V0への電位変化に起因する振動の影響を抑制できる。
【0098】
また、本実施形態に係るインクジェットプリンター1において、検査信号としての駆動信号Com-Bは、第4期間としての期間TPS4に続く、第5期間としての期間TPS5において、第3電位としての電位VS2から第1電位としての基準電位V0に電位が変化する第3電位変化要素としての波形PS5を含む。第1期間としての期間TPS1の時間長は、第5期間としての期間TPS5の時間長よりも長い。
【0099】
このため、インクジェットプリンター1は、波形PS1に対応する期間TPS1の時間長を、波形PS5に対応する期間TPS5の時間長よりも相対的に長くすることにより、従来技術に比較して、吐出部D[m]の吐出状態をより正確に判定できる。
【0100】
また以上のように、本実施形態に係る液体吐出装置としてのインクジェットプリンター1の駆動方法は、吐出部Dと、生成部としての駆動信号生成ユニット4と、振動検出部としての検出回路33と、を備えるインクジェットプリンター1の駆動方法である。吐出部Dは、圧電素子PZ[m]の変位に応じて、圧力室としてのキャビティ322内の液体を吐出する。駆動信号生成ユニット4は、圧電素子PZ[m]を変位させる検査信号としての駆動信号Com-Bを生成する。検出回路33は、圧電素子PZ[m]に駆動信号Com-Bが供給された後に、吐出部Dに生じる残留振動を検出する。駆動信号Com-Bは、第1期間としての期間TPS1において、第1電位としての基準電位V0から、第2電位としての電位VS1に一方向に電位が変化する第1電位変化要素としての波形PS1と、期間TPS1に続く第2期間としての期間TPS2において、電位VS1を維持する第1電位維持要素としての波形PS2と、期間TPS2に続く第3期間としての期間TPS3において、電位VS1から第3電位としての電位VS2に他方向に電位が変化する第2電位変化要素としての波形PS3と、期間TPS3に続く第4期間としての期間TPS4において電位VS2を維持する第2電位維持要素としての波形PS4と、を有する。吐出部Dの固有振動周期をTCとした場合、第1期間としての期間TPS1は、0.75TC以上の時間長を有する。振動検出部としての検出回路33は、第4期間としての期間TPS4に含まれる検出期間において残留振動を検出する。
【0101】
このため、インクジェットプリンター1は、期間TPS1が、0.75TC未満の時間長である態様に比較して、残留振動の特性のばらつきを抑制することができ、吐出部D[m] における液体の吐出状態の判定の精度をより高めることができる。
【0102】
2:変形例
以上の各形態は多様に変形され得る。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下に例示される態様と、上記の実施形態において示される態様とは、相互に矛盾しない範囲内で適宜に併合され得る。なお、以下に例示される変形例において作用や機能が実施形態と同等である要素については、以上の説明で参照した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0103】
2-1:変形例1
上記の実施形態においては、図8に示されるように、電位VS1は、基準電位V0よりも高く、電位VS2は、基準電位V0よりも低い。しかし、変形例1として、電位VS1は、基準電位V0よりも低く、電位VS2は、基準電位V0よりも高くてもよい。この場合、波形PS1及び波形PS5は、圧電素子PZ[m]を-Z方向に変位させるための波形であり、波形PS3は、圧電素子PZ[m]を+Z方向に変位させるための波形となる。
【符号の説明】
【0104】
1…インクジェットプリンター、2…制御ユニット、3…ヘッドユニット、4…駆動信号生成ユニット、5…温度検出部、7…搬送ユニット、8…判定ユニット、31…供給回路、32…記録ヘッド、33…検出回路、71…キャリッジ搬送機構、73…媒体搬送機構、75…プラテン、76…キャリッジガイド軸、100…筐体、110…キャリッジ、120…インクカートリッジ、310…接続状態指定回路、321…振動板、322…キャビティ、323…ノズルプレート、324…キャビティプレート、325…リザーバ、326…インク供給口、327…インク取入口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10