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  • 特開-電動制動装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142117
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】電動制動装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/00 20060101AFI20241003BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20241003BHJP
   B60T 13/122 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B60T8/00 Z
B60T13/74 G
B60T13/122 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054131
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】北原 康利
【テーマコード(参考)】
3D048
3D246
【Fターム(参考)】
3D048CC02
3D048CC49
3D048CC57
3D048FF16
3D048HH18
3D048HH26
3D048HH50
3D048HH68
3D048PP02
3D048PP03
3D048QQ07
3D048QQ11
3D246BA08
3D246GB15
3D246GC11
3D246JB41
3D246LA13Z
3D246LA15Z
3D246LA33Z
(57)【要約】
【課題】車両走行中の制動では高い制動力を発生させると共に、機械的な制動を行うことも可能な電動制動装置を実現する。
【解決手段】電動制動装置(1)は、第1電磁弁(54)により液路(60)を遮断させた上で、パッド(30)がディスク(3)に近づく方向に、電気モータ(22)により入力ピストン(25)を駆動させて、パッド(30)をディスク(3)に押し付ける第1制動制御と、第1電磁弁(54)により液路(60)を開放させた上で、パッド(30)がディスク(3)に近づく方向に、電気モータ(22)により入力ピストン(25)を駆動させて、パッド(30)をディスク(3)に押し当てる第2制動制御とを、選択的に実行するECU(100)、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪に連動する被押圧部に摩擦材を押し当てて、前記車輪に制動力を付与する電動制動装置において、
電気モータにより駆動されてシリンダ内を摺動する入力ピストンと、
前記入力ピストンと前記シリンダと共に液圧室を区画し、前記液圧室の液圧に対応する力、及び前記入力ピストンから入力される力のいずれか一方により駆動されて前記シリンダ内を摺動し、前記摩擦材が取り付けられる出力ピストンと、
前記液圧室に供給されるフルードを貯留するリザーバと、
前記液圧室と前記リザーバとを接続する液路と、
前記液路に設けられ、前記液路を開閉する電磁弁と、
前記電磁弁により前記液路を遮断させた上で、前記摩擦材が前記被押圧部に近づく方向に、前記電気モータにより前記入力ピストンを駆動させて、前記摩擦材を前記被押圧部に押し付ける第1制動制御と、前記電磁弁により前記液路を開放させた上で、前記摩擦材が前記被押圧部に近づく方向に、前記電気モータにより前記入力ピストンを駆動させて、前記摩擦材を前記被押圧部に押し当てる第2制動制御とを、選択的に実行する制御部と、
を備える、電動制動装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記摩擦材が前記被押圧部と当接している状態で、前記電磁弁により前記液路を遮断させた上で、前記摩擦材が前記被押圧部から離間する方向に、前記電気モータにより前記入力ピストンを駆動させる第3制動制御と、前記第1制動制御により前記摩擦材が前記被押圧部と当接している状態で、前記電磁弁により前記液路を開放させる第4制動制御とを、選択的に実行する、請求項1に記載の電動制動装置。
【請求項3】
前記入力ピストンの位置を維持する維持機構を備え、
前記第2制動制御には、前記車両の停車状態を維持する駐車ブレーキ制御が含まれ、
前記制御部は、前記駐車ブレーキ制御において、前記摩擦材が前記被押圧部に押し当てられ、前記車両の停車状態を維持する制動力が前記車輪に付与されている状態で、前記維持機構により前記入力ピストンの位置を維持する、請求項1または2に記載の電動制動装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記車輪に付与されている制動力を、前記第3制動制御によって減少させられない場合に、前記第4制動制御によって前記車輪に付与されている制動力を減少させる、請求項2に記載の電動制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載のブレーキ装置は、ブレーキキャリパに形成したホイールシリンダ内に液圧室容積を調整するための調圧ピストンを配置し、調圧ピストンの移動量を制御することによりブレーキ液圧を増減圧できる。上記ブレーキ装置では、走行中に車輪がロックすると、ソレノイドバルブが閉じた状態で、直動モータの駆動によりカム部材が移動する。この結果、傾斜したカム面により調圧ピストンが液圧室の液圧により移動し、液圧室の容積を拡大してブレーキ液圧が減圧され、ブレーキ力が弱められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8-276837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両に対しての制動は、車両が走行中に行われる場合に限られず、例えば駐車ブレーキのように車両停車時においても行われる場合がある。車両停車時では、永続的な制動が必要である。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のブレーキ装置は、油圧式のブレーキ装置であり、車両停車時における永続的な制動には不向きである。永続的な制動を行うために、機械的な制動を行う機構を有していることが望まれる。
【0006】
本開示の一態様は、車両走行中の制動では高い制動力を発生させると共に、機械的な制動を行うことも可能な電動制動装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係る電動制動装置は、車両の車輪に連動する被押圧部に摩擦材を押し当てて、前記車輪に制動力を付与する電動制動装置において、電気モータにより駆動されてシリンダ内を摺動する入力ピストンと、前記入力ピストンと前記シリンダと共に液圧室を区画し、前記液圧室の液圧に対応する力、及び前記入力ピストンから入力される力のいずれか一方により駆動されて前記シリンダ内を摺動し、前記摩擦材が取り付けられる出力ピストンと、前記液圧室に供給されるフルードを貯留するリザーバと、前記液圧室と前記リザーバとを接続する液路と、前記液路に設けられ、前記液路を開閉する電磁弁と、前記電磁弁により前記液路を遮断させた上で、前記摩擦材が前記被押圧部に近づく方向に、前記電気モータにより前記入力ピストンを駆動させて、前記摩擦材を前記被押圧部に押し付ける第1制動制御と、前記電磁弁により前記液路を開放させた上で、前記摩擦材が前記被押圧部に近づく方向に、前記電気モータにより前記入力ピストンを駆動させて、前記摩擦材を前記被押圧部に押し当てる第2制動制御とを、選択的に実行する制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、車両走行中の制動では高い制動力を発生させると共に、機械的な制動を行うことも可能な電動制動装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の実施形態1に係る電動制動装置の構成を示す概略図である。
図2】本開示の実施形態1に係る電動制動装置の構成を示す概略図である。
図3】本開示の実施形態2に係る電動制動装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔実施形態1〕
以下、本開示の一実施形態について、詳細に説明する。
【0011】
<電動制動装置>
図1を参照して、電動制動装置1について説明する。図1は、実施形態1に係る電動制動装置1の構成を示す概略図である。電動制動装置1は、車両に備えられた車輪に対して制動力を付与する装置である。電動制動装置1は、制動ユニット2と、加圧ユニット5と、ECU(Electronic Control Unit)100と、を備える。
【0012】
<制動装置>
制動ユニット2は、車両の車輪に連動する被押圧部に摩擦材を押し当てて、車輪に制動力を付与する装置である。具体的には、制動ユニット2は、車輪と共に回転するディスク3をパッド30により押圧することで車輪に対して制動力を発生させる。ディスク3は、被押圧部の一例である。パッド30は、摩擦材の一例である。
制動ユニット2は、キャリパ20と、電気モータ22と、入力ピストン25と、出力ピストン26と、パッド30と、を備えている。
【0013】
キャリパ20は、制動ユニット2を構成する部材の一部を収容、又は支持する部材である。キャリパ20は、ディスク3の外周を跨ぐ形状を有している。キャリパ20は、入力ピストン25及び出力ピストン26を内部に配置するシリンダ21を有している。シリンダ21は、第1壁211と、第2壁212と、第3壁213とにより構成されている。
【0014】
第1壁211は、入力ピストン25のシャフト251の軸方向に沿って形成された壁であり、出力ピストン26の径方向外側を覆っている。第1壁211の内周面は、円筒状に形成されている。第2壁212は、シャフト251の軸方向に沿って形成された壁であり、第1壁211と対向している。第2壁212は、入力ピストン25の径方向外側を覆っている。第2壁212は、出力ピストン26の内側に位置している。第3壁213は、シャフト251の軸方向において、パッド30が位置している側とは反対側の第1壁211の端部と、パッド30が位置している側とは反対側の第2壁212の端部とを接続している。
【0015】
電気モータ22は、入力ピストン25の動力源である。電気モータ22は、例えば、ブラシ付モータである。電気モータ22の駆動は、ECU100により制御される。電気モータ22の回転運動は、ギヤユニット23を介して、入力ピストン25に伝達される。電気モータ22が正転駆動すると、入力ピストン25が出力ピストン26に近づく方向に移動する。電気モータ22が逆転駆動すると、入力ピストン25が出力ピストン26から離間する方向に移動する。
【0016】
ギヤユニット23は、1つ以上のギヤにより構成されている。図1に示す例では、ギヤユニット23は複数のギヤ231~234を有している。ギヤ231は、電気モータ22の駆動軸と接続している。電気モータ22の回転運動は、ギヤ231、ギヤ232、ギヤ233、ギヤ234をこの順に伝達される。ギヤ234には内歯が形成されており、ギヤ234の内歯と入力ピストン25に設けられているシャフトのネジ部とが螺合している。ギヤユニット23は、電気モータ22から伝達された回転運動を減速する減速機構としての機能を有していてもよい。
【0017】
ソレノイド24は、入力ピストン25の位置を維持する機構である。ソレノイド24は、維持機構の一例である。ソレノイド24は、図示していない電磁コイルを有しており、電磁コイルに電流が供給されると、プランジャ241が駆動する。プランジャ241は、電磁コイルに電流が供給されるとギヤ231と当接する方向に移動し、ギヤ231と当接する。プランジャ241がギヤ231と当接することで、ギヤユニット23の回転運動が制限される。プランジャ241は、電磁コイルへの電流の供給が停止されるとギヤ231と離間する方向に移動する。
【0018】
入力ピストン25は、電気モータ22により駆動されて、シリンダ21内を摺動する。より詳細には、電気モータ22の回転運動がギヤ234を介して、入力ピストン25に設けられるシャフトに伝達される。シャフトは、電気モータ22の回転運動を直線運動に変換して直動する。シャフトの直動に伴い、入力ピストン25は、出力ピストン26に近づく方向、又は、出力ピストン26から離間する方向に直動する。入力ピストン25が直動すると、シリンダ21の第2壁212により形成される円柱状の空間内を摺動する。入力ピストン25は、出力ピストン26の内面と当接可能である。
【0019】
出力ピストン26は、有底円筒状に形成されている。出力ピストン26は、入力ピストン25よりも大径の部材である。出力ピストン26の内側には、入力ピストン25が位置している。出力ピストン26は、シリンダ21の第1壁211、第2壁212、及び第3壁213により形成された円筒状の空間内を摺動する。出力ピストン26には、パッド30が取り付けられている。より詳細には、出力ピストン26の底部に取り付けられた取付板29を介して、出力ピストン26にパッド30が取り付けられている。パッド30は、パッド30は、出力ピストン26の直線運動と連動する。
【0020】
出力ピストン26は、入力ピストン25とシリンダ21と共に、フルードが貯留する液圧室28を区画する。シリンダ21の第1壁211には、液路60と接続する開口281が形成されている。開口281からシリンダ21の液圧室28内にフルードが供給される。より詳細には、フルードは、第1壁211、第2壁212、及び第3壁213により構成される空間内に供給される。
【0021】
入力ピストン25にはシール部材252が設けられ、シール部材252は入力ピストン25と第2壁212との間にてフルードが漏れることを防止している。出力ピストン26にはシール部材27が設けられ、シール部材27は出力ピストン26と第1壁211との間にてフルードが漏れることを防止している。
【0022】
出力ピストン26は、液圧室28の液圧に対応する力により、パッド30がディスク3を押圧する方向に、又はパッド30がディスク3から離間する方向に移動する。液圧室28の液圧は、入力ピストン25によりフルードが押圧されることで加圧される。出力ピストン26の受圧面積は、入力ピストン25の受圧面積よりも大きい。そのため、入力ピストン25によりフルードを押圧する押圧力よりも大きい押圧力で、パッド30によりディスク3を押圧することができる。
【0023】
また、出力ピストン26は、出力ピストン26の内面と当接した入力ピストン25により押圧されると、パッド30がディスク3を押圧する方向に移動し、入力ピストン25による押圧力が減少すると、パッド30がディスク3から離間する方向に移動する。第1電磁弁54と第2電磁弁55が閉弁している状態(液圧室28が液密の状態)で入力ピストン25をパッド30がディスク3から離間する方向に移動させると、液圧室28の容積を維持するように出力ピストン26が移動するため、パッド30がディスク3から離間する。
【0024】
<加圧ユニット>
次に、加圧ユニット5について説明する。加圧ユニット5は、液圧室28にフルードを供給し、液圧室28内の液圧を加圧又は減圧するユニットである。加圧ユニット5は、マスタシリンダ51と、リザーバ52と、ストロークシミュレータ53と、液路60及び61と、第1電磁弁54と、第2電磁弁55と、第3電磁弁56と、液圧センサ57と、を備えている。
【0025】
マスタシリンダ51は、ブレーキペダル50の操作量に応じた液圧を発生させる。マスタシリンダ51内の図示していないピストンは、ブレーキペダル50の操作量に応じて移動し、マスタシリンダ51内のフルードが液路61を介してストロークシミュレータ53に供給される。リザーバ52は、液圧室28に供給されるフルードを貯留するタンクである。ストロークシミュレータ53は、ブレーキペダル50の操作量に応じた反力を発生させる。
【0026】
液路60は、シリンダ21の液圧室28とリザーバ52とを接続する液路である。液路60には、液圧室28の液圧を測定する液圧センサ57が設けられている。液路60は、リザーバ液路60Aと、マスタ液路と、還流液路62とにより構成されている。リザーバ液路60Aは、リザーバ52と液圧室28とを直接接続する液路である。マスタ液路60Bは、マスタシリンダ51と液圧室28とを接続する液路である。還流液路62は、マスタシリンダ51とリザーバ52とを接続する液路である。リザーバ52と液圧室28とは、マスタ液路60B及び還流液路62により、マスタシリンダ51を介して間接的に接続されている。液路61は、ストロークシミュレータ53と、マスタシリンダ51とを接続する液路である。
【0027】
第1電磁弁54は、液路60に設けられている。より詳細には、第1電磁弁54は、リザーバ液路60Aに設けられている。第1電磁弁54は、常閉型の電磁弁である。第1電磁弁54に通電することで、遮断されていたリザーバ液路60Aが開放する。これにより、シリンダ21の液圧室28内のフルードが、リザーバ52へ直接供給可能となる。
第2電磁弁55は、液路60に設けられている。より詳細には、第2電磁弁55は、マスタ液路60Bに設けられている。第2電磁弁55は、常開型の電磁弁である。第2電磁弁55は、ブレーキペダル50の操作に応じて開閉する。第2電磁弁55に通電することで、開放されていたマスタ液路60Bが遮断される。これにより、マスタシリンダ51とシリンダ21の液圧室28との間にてフルードの送液が行われなくなる。
第3電磁弁56は、液路61に設けられている。第3電磁弁56は、常閉型の電磁弁である。第3電磁弁56に通電することで、遮断されていた液路61が開放される。
【0028】
<ECU>
ECU100は、電動制動装置1を構成する各構成要素、本実施形態では、制動ユニット2及び加圧ユニット5を制御する電子制御ユニットである。ECU100は、制御部の一例である。ECU100は、プロセッサ、メモリ、駆動回路、及び入出力インタフェースを備えたマイクロコンピュータにより構成される。ECU100には少なくとも一つのプロセッサが備えられ、プロセッサはメモリに格納された制御プログラムに従って、各種制御を実行する。プロセッサの一例として、CPU(Central Processing Unit)を挙げることができる。メモリには、制御プログラムと共に、各種データが格納されている。メモリの例として、RAM、ROM、フラッシュメモリ等を挙げることができる。駆動回路は、制動ユニット2及び加圧ユニット5へ電流を供給する。より詳細には、駆動回路は、制動ユニット2の電気モータ22及びソレノイド24に電流を供給し、加圧ユニット5の各電磁弁54~56に電流を供給する。ECU100は、入出力インタフェースを介して、液圧センサ57からのセンサデータを取得する。
【0029】
<ECUによる制動時の制御について>
次に、ECU100が実行する制御について説明する。ECU100は、車輪に対して制動力を発生させる場合、第1制動制御と、第2制動制御とを選択的に実行する。
【0030】
(第1制動制御)
図1を参照して、第1制動制御について説明する。第1制動制御は、第1電磁弁54によりリザーバ液路60Aを遮断させ、第2電磁弁55によりマスタ液路60Bを遮断させてパッド30がディスク3に近づく方向に入力ピストン25を駆動させる制御である。第1制動制御は、液圧室28の液圧を加圧することで、車輪に対して制動力を発生させる制御である。第1制動制御は、走行中の車両に対して制動力を発生させるサービスブレーキに用いられる制御である。
【0031】
ECU100は、第1電磁弁54を閉弁させた状態に維持する。これにより、シリンダ21の液圧室28からリザーバ52に向けてフルードの供給が行われない状態となる。ECU100は、ブレーキペダル50が操作されると第2電磁弁55を閉弁させた状態に維持する。これにより、マスタシリンダ51と液圧室28との間にてフルードの送液が行われない状態となる。また、ECU100は、第3電磁弁56を開弁させた状態に維持する。図1の矢印にて示すように、マスタシリンダ51のピストンにより押圧されたフルードは、液路61を介してストロークシミュレータ53に供給される。
【0032】
ECU100は、ブレーキペダル50の操作に応じて電気モータ22を正転駆動する。電気モータ22が正転駆動すると、入力ピストン25が出力ピストン26に近づく方向に移動する。図1に示すように、入力ピストン25は、液圧室28内のフルードを押圧するため、液圧室28内の液圧が加圧される。液圧室28内の液圧が加圧されると、出力ピストン26は、パッド30がディスク3を押圧する方向に移動する。また、ECU100は、ソレノイド24を駆動していない。
【0033】
(第2制動制御)
図2を参照して、第2制動制御について説明する。図2は、実施形態1に係る電動制動装置1の構成を示す概略図である。第2制動制御は、第1電磁弁54によりリザーバ液路60Aを開放させた上で、パッド30がディスク3に近づく方向に入力ピストン25を駆動させる制御である。第2制動制御は、第1制動制御にて発生させる制動力よりも弱い制動力を発生させる場合に用いられる制御である。以下の説明では、第2制動制御は、車両の停車状態を維持する駐車ブレーキ制御である電動駐車ブレーキ(EPB:Electric Parking Brake)において実行される制御として説明する。なお、第2制動制御は、EPBの制御時に実行する制御に限られない。
【0034】
ECU100は、車両が停車している状態において、第2制動制御を実行する。ECU100は、第1電磁弁54を開弁させた状態に維持する。これにより、図2の矢印にて示すように、シリンダ21の液圧室28からリザーバ52に向けてフルードの供給が可能となる。また、ECU100は、第2電磁弁55を閉弁させた状態に維持する。これにより、マスタシリンダ51から液圧室28に向けてフルードの供給が行われない。また、ECU100は、第3電磁弁56を開弁させた状態に維持する。
【0035】
ECU100は、第2制動制御のプログラムに応じて、電気モータ22の駆動を制御する。電気モータ22が正転駆動すると、入力ピストン25が出力ピストン26に近づく方向に移動する。入力ピストン25により押圧された液圧室28内のフルードは、液路60を介して、リザーバ52に供給される。即ち、液圧室28の液圧が加圧されない。電気モータ22が正転駆動を続けると、図2に示すように、入力ピストン25が出力ピストン26に当接する。更に、電気モータ22が正転駆動を続けると、パッド30がディスク3を押圧する方向に入力ピストン25が出力ピストン26を押圧する。これにより、機械的な制動を行うことができる。
【0036】
また、ECU100は、パッド30がディスク3に押し当てられ、車両の停車状態を維持する制動力が車輪に付与されている状態で、ソレノイド24を駆動してもよい。図2に示すように、ソレノイド24が駆動すると、プランジャ241がギヤ231と当接することでギヤユニット23の回転運動が制限される。ギヤユニット23の回転運動の制限により、入力ピストン25が出力ピストン26を押圧した状態の位置にて、入力ピストン25の位置が維持される。
【0037】
ソレノイド24を駆動する構成によれば、EPBでは、制動力が高い状態が継続される。第1制動制御でパッド30をディスク3に押し付けて駐車ブレーキをかけた場合、液圧室28内に液圧が付与されている状態が維持されるため、フルード漏れに対する信頼性が低くなる。本開示では、第2制動制御により駐車ブレーキをかけるため、入力ピストン25が出力ピストン26に当接し、出力ピストン26が入力ピストン25により駆動されることでパッド30をディスク3に押し付ける。そのため、液圧室28内に液圧を発生することなく制動力を発生できる。これにより、信頼性の高いEPBと、フルードを介したサービスブレーキ制御とを両立できる。
【0038】
<ECUによる制動解除時の制御について>
次に、ECU100が車輪に対して付与された制動力を解除させる場合、第3制動制御と、第4制動制御とを選択的に実行する。
【0039】
(第3制動制御)
ECU100は、車輪に対して付与された制動力を解除させる場合、第3制動制御を実行する。ECU100は、第3制動制御において、パッド30がディスク3と当接している状態で、第1電磁弁54によりリザーバ液路60Aを遮断させた上で、パッド30がディスク3から離間する方向に入力ピストン25を駆動させる。
【0040】
より詳細には、ECU100は、第1電磁弁54を閉弁させた状態に維持する。ECU100は、第2電磁弁55を閉弁させた状態に維持する。
【0041】
ECU100は、電気モータ22を逆転駆動する。電気モータ22が逆転駆動すると、入力ピストン25が出力ピストン26から離間する方向に移動する。入力ピストン25による液圧室28内のフルードの押圧力が減少するため、液圧室28内の液圧が減圧される。液圧室28内の液圧が減圧されると、出力ピストン26は、パッド30がディスク3から離間する方向に移動する。
【0042】
(第4制動制御)
第4制動制御は、液路60に設けられる第1電磁弁54又は第2電磁弁55を制御して液路60を開放させ、液圧室28内の液圧を減圧させる制御である。液圧室28内のフルードがリザーバ52に供給されると、液圧室28内の液圧が減圧する。液圧室28内の液圧が減圧されると、出力ピストン26は、パッド30がディスク3から離間する方向に移動する。これにより、車輪に付与された制動力を解除することができる。
【0043】
ECU100は、第1制動制御によりパッド30がディスク3と当接している状態で、第4制動制御を実行する。ECU100は、第1制動制御の実行中において実行される第4制動制御において、第1電磁弁54を開弁させた状態に維持する。リザーバ液路60Aが開放されることにより、シリンダ21の液圧室28からリザーバ52に向けてフルードの供給が可能となる。これにより、入力ピストンを移動させずに、液圧室28内の液圧を減圧することができる。
【0044】
第1制動制御の実行中において実行される第4制動制御は、例えば電気モータ22の故障などの原因により、第1制動制御の実行中に入力ピストン25の移動ができない状況、即ち、車輪に付与された制動力を解除することができない状況において実行される。
【0045】
また、ECU100は、車輪に付与されている制動力を、第3制動制御によって減少させられない場合に、第4制動制御を実行してもよい。ECU100は、第3制動制御の実行中の第4制動制御において、第2電磁弁55を開弁させた状態に維持する。マスタ液路60Bが開放されマスタシリンダ51内のピストンが初期位置に戻ることで、マスタシリンダ51とリザーバ52が連通することで、リザーバ52にシリンダ21の液圧室28内のフルードを供給可能となる。これにより、液圧室28内の液圧が減圧される。なお、ECU100は、第3制動制御の実行中の第4制動制御において、第1電磁弁54を開弁する構成としてもよい。
【0046】
第3制動制御によって制動力を減少させられない場合は、例えば電気モータ22の故障などの原因により入力ピストン25の移動ができない状況が考えられる。このような状況において、第3制動制御の実行中に第4制動制御が実行される。また、入力ピストン25の移動ができない状況において、第1電磁弁54の故障により閉弁したままの状況であっても、第2電磁弁55を開弁することにより、液圧室28の液圧を減圧することができる。
【0047】
入力ピストン25と出力ピストン26が当接している状態で、電気モータ22やECU100などが故障して入力ピストン25を移動させられない状態となった場合、パッド30がディスク3に当接した状態が維持されてしまう。このような状態において、第1電磁弁54を閉弁、第2電磁弁55を開弁しておき、ブレーキペダル50を操作することにより、液圧室28の液圧が高まり、入力ピストン25を押し戻すことで入力ピストン25と出力ピストン26とを離間させることができる。その後、ブレーキペダル50の操作を解除し、液圧室28の液圧をマスタシリンダ51経由でリザーバ52に開放することで、シール部材27のリトラクト機能(液圧室28の液圧が高まった際にシール部材27が変形し、液圧室28の液圧が減少する際にシール部材の復元力によって出力ピストン26を引き戻す機能)により出力ピストン26を引き戻すことができる。上記操作により、入力ピストン25と出力ピストン26が当接している状態で入力ピストンが移動させられなくても出力ピストン26を引き戻すことができ、制動力を解除することができる。
【0048】
上記構成によれば、第1制動制御では、第1電磁弁54による液路60の遮断により液圧室28は液密になる。その状態で、パッド30がディスク3に近づく方向に、入力ピストン25が電気モータ22により駆動されるため、出力ピストン26が液圧室28を介して入力ピストン25に駆動されて、パッド30がディスク3に押し当てられる。このように第1制動制御によれば、電気モータ22による駆動力が液圧室28を介してディスク3に伝達されるため、入力ピストン25の受圧面積と出力ピストン26の受圧面積との面積比に応じた押圧力で、パッド30をディスク3に押し当てることができる。例えば、出力ピストン26の受圧面積が入力ピストン25の受圧面積よりも大きい本開示の電動制動装置1における第1制動制御では、電気モータ22による駆動力を倍力して、車輪に制動力を付与することができる。また、入力ピストン25の受圧面積が出力ピストン26の受圧面積よりも小さい本開示の電動制動装置1における第1制動制御では、車輪に付与する制動力を精度良く制御することができる。
【0049】
一方、第2制動制御では、第1電磁弁54により液路60が開放された状態で、パッド30がディスク3に近づく方向に、入力ピストン25が電気モータ22により駆動される。すると、液圧室28内のフルードがリザーバ52に戻されるため、入力ピストン25が出力ピストン26に近づく。そして、入力ピストン25が出力ピストン26に当接すると、出力ピストン26が入力ピストン25により駆動されるため、パッド30がディスク3に押し当てられる。このように第2制動制御によれば、電気モータ22による駆動力が液圧室28を介することなくディスク3に伝達されるため、液圧室28の液圧を上昇させることなく車輪に制動力を付与することができる。
【0050】
また、上記構成によれば、第1電磁弁54の開閉の制御を行うことのみで、第1制動制御と、第2制動制御とを選択的に実行することができる。そのため、制動ユニット2に対して第1制動制御と第2制動制御とを切り替える機構を別途設ける必要がない。これにより、簡易な構成により、第1制動制御と第2制動制御とを選択的に実行することができる電動制動装置1を提供することができる。また、第1電磁弁54を制御することにより液路60が開放されるため、ブレーキペダル50を操作した状態においても、入力ピストン25を出力ピストンに当接させる機械的な制動制御を実行することができる。即ち、ブレーキペダルを踏みこんだ状態においても、第2制動制御を実行することができる。
【0051】
また、上記構成によれば、第3制動制御では、第1電磁弁54による液路60の遮断により液圧室は液密になる。その状態で、パッド30がディスク3から離間する方向に、入力ピストン25が電気モータ22により駆動されるため、出力ピストン26が液圧室28を介して入力ピストン25に駆動されて、パッド30がディスク3から離間する。このように第3制動制御では、電気モータ22の駆動制御によってパッド30をディスク3から離間させることができる。
【0052】
一方、第4制動制御では、第1電磁弁54又は第2電磁弁55により液路60が開放される。第1制動制御によりパッド30とディスク3とが当接している状態では、液圧室28内のフルードが大気圧よりも高い液圧となっているため、フルードがリザーバ52に戻され、液圧室28の容積は小さくなる。これにより、パッド30とディスク3から離間する。このように第4制動制御では、液圧室28内のフルードを排出することによって、パッド30をディスク3から離間させることができる。
【0053】
また、上記構成によれば、入力ピストン25の移動ができない状況では、電気モータ22の駆動に応じて制動力を減少させることができなくなる。そのため、第1制動制御により車輪に制動力が付与されている状況で、第3制動制御によって制動力を減少させられない場合、第4制動制御を用いることで、高圧となっている液圧室28内のフルードをリザーバ52に逃がすことができるため、制動力を減少させることができる。
【0054】
〔実施形態2〕
本開示の他の実施形態について、図3を参照して以下に説明する。図3は、実施形態2に係る電動制動装置1Aの構成を示す概略図である。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0055】
図3に示すように、実施形態2に係る電動制動装置1Aは、前輪FL及びFRと後輪RL及びRRとの全ての車輪に制動力を付与するように構成されている。前輪FL及びFRは、制動ユニット2を備えている。後輪RL及びRRは、EMB(Electro Mechanical Brake)と呼ばれる電子機械式のブレーキ装置7を備えている。ブレーキ装置7は、周知のEMBが採用されている。各ブレーキ装置7は、ブレーキ装置7の制御を行うECUを備えている。
【0056】
電動制動装置1Aが備えた加圧ユニット5Aは、第4電磁弁58及び第5電磁弁59を更に備えている。第4電磁弁58及び第5電磁弁59は、常開型の電磁弁である。第4電磁弁58は、前輪FLのシリンダ21の液圧室28とリザーバ52とを接続する液路60を開閉する。第4電磁弁58に通電することで、開放されていた前輪FLの液圧室28と接続する液路60が遮断される。第5電磁弁59は前輪FRのシリンダ21の液圧室28とリザーバ52とを接続する液路60を開閉する。第5電磁弁59に通電することで、開放されていた前輪FRの液圧室28と接続する液路60が遮断される。
【0057】
電動制動装置1Aは、制動ユニット2が備えた各構成要素の制御を行う第1ECU101と、加圧ユニット5Aが備えた各構成要素の制御を行う第2ECU102と、を更に備えている。第1ECU101及び第2ECU102は、制御部の一例である。第1ECU101は、前輪FL及びFRのそれぞれに備えられている。前輪FLが備えた第1ECU101は、前輪FLの制動ユニット2を制御する。前輪FRが備えた第1ECU101は、前輪FRの制動ユニット2を制御する。
【0058】
第1ECU101及び第2ECU102は、プロセッサ、メモリ、及び通信インタフェースを少なくとも備えたマイクロコンピュータにより構成される。第1ECU101、第2ECU102、及びブレーキ装置7のECUとは、例えばCAN(Controller Area Network)のようなネットワークにより通信可能に接続されている。
【0059】
第1ECU101及び第2ECU102により、上述した第1制動制御、第2制動制御、第3制動制御、及び第4制動制御が実行される。第2ECU102は、プログラムに基づき、第4電磁弁58及び第5電磁弁59の制御を行うことで、前輪FL及び前輪FRのいずれか一方に対して、第1制動制御、第3制動制御及び第4制動制御のうち少なくともいずれか1つの制御を実行する構成としてもよい。
【0060】
また、第1ECU101及び第2ECU102は、前輪FL及びFRのみに第2制動制御を実行してもよい。また、第1ECU101及び第2ECU102は、前輪FL、FR、後輪RL及びRRの全てに対して第2制動制御を実行してもよい。
【0061】
本開示は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0062】
1 電動制動装置
2 制動ユニット
3 ディスク
5 加圧ユニット
25 入力ピストン
26 出力ピストン
28 液圧室
30 パッド
52 リザーバ
54 第1電磁弁
55 第2電磁弁
60 液路
100 ECU
図1
図2
図3