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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142125
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】斜面安定化構造及び斜面安定化工法
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
E02D17/20 103A
E02D17/20 103H
E02D17/20 106
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054145
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000219358
【氏名又は名称】東亜グラウト工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】595053777
【氏名又は名称】吉佳エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】大岡 太郎
(72)【発明者】
【氏名】張 満良
【テーマコード(参考)】
2D044
【Fターム(参考)】
2D044DB01
2D044DB52
2D044EA01
(57)【要約】
【課題】施工期間の短縮化や、施工費用の削減を図りつつ、斜面の局部崩壊を適切に防止することができる斜面安定化構造及び斜面安定化工法を提供すること。
【解決手段】帯状の形態を有し、斜面の左右方向に伸長する左右方向帯状網体22及び/又は該左右方向に対して交差する方向に伸長する交差方向帯状網体21が、離間されて並列状態で複数敷設された帯状網体列と、前記斜面に打設され、頭部に取付けられたプレートによって前記帯状網体を前記斜面に押付けて固定する複数のアンカー50と、離間して敷設された前記帯状網体の間を伸長し、該帯状部材の縁部を繋ぐロープ部材14と、を備えたことを特徴とする斜面安定化構造10。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の形態を有し、斜面の左右方向に伸長する左右方向帯状網体及び/又は該左右方向に対して交差する方向に伸長する交差方向帯状網体が、離間されて並列状態で複数敷設された帯状網体列と、
前記斜面に打設され、頭部に取付けられたプレートによって前記帯状網体を前記斜面に押付けて固定する複数のアンカー部材と、
離間して敷設された前記帯状網体の間を伸長し、該帯状部材の縁部を繋ぐロープ部材と、
を備えたことを特徴とする斜面安定化構造。
【請求項2】
前記帯状網体列は、前記左右方向帯状網体と前記交差方向帯状網体との双方が敷設され、
前記ロープ部材は、前記帯状網体により囲まれた開口部分内に緩みなく張り渡されていることを特徴とする請求項1に記載の斜面安定化構造。
【請求項3】
前記開口部分内に張り渡された1本の前記ロープ部材によって、当該開口部分を形成する前記左右方向帯状網体と前記交差方向帯状網体とが繋がれていることを特徴とする請求項2に記載の斜面安定化構造。
【請求項4】
前記帯状網体の幅方向の両縁部には、ロープ状又は棒状の補強部材が前記帯状網体の長さ方向に伸長するように、且つ該帯状網体から離反しないように設けられ、
前記ロープ部材は、前記補強部材に取り付けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の斜面安定化構造。
【請求項5】
前記帯状網体列は、前記左右方向帯状網体と前記交差方向帯状網体との双方が敷設され、
前記帯状網体により囲まれた開口部分の縁部に在る前記補強部材は、前記開口部分を囲む一連のループ状に形成されたループ状補強部材とされたことを特徴とする請求項4に記載の斜面安定化構造。
【請求項6】
帯状の形態を有する帯状網体を、斜面の左右方向及び/又は左右方向に対して交差する方向に、離間させて並列状態で伸長する様に複数敷設する工程と、
前記斜面に打設された複数のアンカー部材の頭部にそれぞれ取り付けられたプレートによって、前記帯状網体を斜面に押付けて固定する工程と、
ロープ部材によって離間した前記帯状網体を繋ぐように、前記ロープ部材を隣り合う前記帯状網体の縁部にそれぞれ取り付ける工程と、
を含むことを特徴とする斜面安定化工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜面安定化構造及び斜面安定化工法であって、特に、自然斜面や法面のすべりや崩壊を防止するための斜面安定化構造及び斜面安定化工法に関する。
【背景技術】
【0002】
自然斜面や、切土・盛土等の法面(以下、これらを含めて「斜面」という)は、雨の多く降る時期に地盤が緩んだ状態になることから、斜面崩壊の発生が懸念される。それ故、斜面近隣のエリアに道路や鉄道、その他の建築物を建設する場合、斜面崩壊による被害の発生を未然に防止するための対策が必要となる。
【0003】
上述した斜面は、表面から1~数mの移動層(表層)と、その下に存在する岩盤等の不動層(深層、つまり安定層)とから形成されるものが多く、一般に、雨による浸食・風化が進んでいる移動層において斜面の崩壊が生じる。
【0004】
移動層における斜面の崩壊は、主に2つのパターンに分けられる。1つは、移動層と不動層との境界面(滑り面)に沿って、移動層が斜面下方へ滑って崩落する現象、いわゆる「表層すべり」であり、もう1つは、境界面が維持された状態で表層の一部が抜け落ちる局部崩壊現象、いわゆる「中抜け」である。
【0005】
従来、斜面崩壊を防止するための斜面安定化構造として、一般に、斜面上にコンクリートやモルタル等からなる格子状の法枠を形成するとともに、格子の各交点にアンカーを打設した法枠構造が用いられている(例えば、特許文献1)。
【0006】
また、近年では、コンクリートやモルタルによる法枠を用いることのない斜面安定化構造として、安定化の対象となる斜面全面にネットを敷設し、間隔をおいて打設された複数のアンカーにより当該ネットを斜面に固定する構造、つまりネット構造も知られている(例えば、特許文献2)。ネット構造では、表層すべりだけではなく、中抜けも防止することができる。
【0007】
さらに、より簡易な工法として、法枠やネットを用いることのないノンフレーム工法も提案されており、ノンフレーム工法では、斜面に適宜の間隔をおいてアンカーを打設して、アンカーの頭部にプレートを取付けるとともに、隣接するアンカーの頭部をワイヤロープで連結し、ワイヤロープで斜面の表面を抑えている(例えば、特許文献3)。
【0008】
上述した従来の斜面安定化構造では、複数のアンカーを不動層に固定するとともに、アンカー同士をコンクリート枠やワイヤロープで繋いで移動を拘束することで、滑り面に沿った表層すべりをアンカーによる抵抗で抑制することができ、これにより、斜面の大規模な崩壊が防止されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平07-102574号公報
【特許文献2】特開2001-11863号公報
【特許文献3】特開2002-173939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、法枠構造では、コンクリートやモルタルを現場打ちするため、工期が長くなり、施工費用も嵩むという問題がある。また、多くの場合、自然斜面において立木を伐採して整地をする必要があるため、更なる工期の長期化に繋がっていた。また、斜面を覆うネット構造では、保護対象となる斜面の全域にネットを敷設するため、立木の伐採が必須となり工期が長くなる。
【0011】
一方、ワイヤロープによるノンフレーム工法では、立木を伐採したり、コンクリートの現場打ちを行ったりする必要がないことから、施工期間の短縮化や、施工費用の削減を図ることができるが、法枠やネット等が存在しないことから、地盤斜面を押さえ込む領域が狭く、表層における斜面の局部崩壊、つまり中抜けを十分に防止することができないという問題があった。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、施工期間の短縮化や、施工費用の削減を図りつつ、斜面の局部崩壊を適切に防止することができる斜面安定化構造及び斜面安定化工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の斜面安定化構造は、
帯状の形態を有し、斜面の左右方向に伸長する左右方向帯状網体及び/又は該左右方向に対して交差する方向に伸長する交差方向帯状網体が、離間されて並列状態で複数敷設された帯状網体列と、
前記斜面に打設され、頭部に取付けられたプレートによって前記帯状網体を前記斜面に押付けて固定する複数のアンカー部材と、
離間して敷設された前記帯状網体の間を伸長し、該帯状部材の縁部を繋ぐロープ部材と、
を備えたことを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、斜面に敷設された状態でアンカー部材により固定された帯状網体によって、斜面に生息する立木を離間部分で避けつつ斜面の表層を押さえ付けることができ、且つ帯状網体の敷設領域にて表層の一部が抜け落ちる斜面の局部崩壊(中抜け)の発生を防止することができる。さらに、離間した帯状網体の間をロープ部材によって繋ぎ、それら繋がれた帯状網体の間の領域の局部崩壊をロープ部材の押さえ作用によって防止することができる。また、斜面に打設された複数のアンカー部材によって、斜面の大規模な表層すべりも防止されている。
また、局部崩壊の初動時には、帯状網体に対して長さ方向へ引っ張られる引張力が作用し、これに伴って帯状網体が幅方向へ収縮しようとするが、帯状網体に取り付けられたロープ部材による引っ張り作用によって、帯状網体の幅寸法が維持される。これにより、帯状網体の収縮を抑えて、帯状網体が面状に斜面を押さえ込む力を高く保持することができる。
これにより、帯状網体を敷設しない領域では、斜面に生息する立木を残したままにすることができ、立木の根の存在とロープ部材の押さえ付け作用による斜面の安定化は維持され、且つ帯状網体の敷設領域では斜面を的確に広範囲で押さえ込むことで、従来のワイヤロープだけのノンフレーム工法に比べて局部崩壊の発生を適切に防止することが可能となっている。また、コンクリートやモルタルを用いて法枠を形成する従来の法枠構造に比べて、施工期間の短縮化や施工費用の削減も可能となっている。
【0015】
請求項2に係る斜面安定化構造は、請求項1に記載の斜面安定化構造において、
前記帯状網体列は、前記左右方向帯状網体と前記交差方向帯状網体との双方が敷設され、
前記ロープ部材は、前記帯状網体により囲まれた開口部分内に緩みなく張り渡されていることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、左右方向帯状網体と交差方向帯状網体とにより囲まれた開口部分の内側で局部崩壊(中抜け)が発生しようとした際に、この開口部分内にて緩みなく張り渡されたロープ部材によって、斜面を押さえ付けることにより中抜けの発生を防止できるとともに、ロープ部材に作用した引張力を、このロープ部材が取り付けられている帯状網体に伝達させ、分散させることができるので、局部崩壊をより的確に抑制することができる。また、ロープ部材によって繋がれた帯状網体同士が開口部分の内側に向かって引っ張られることで、帯状部材の幅寸法や開口部分の形状が維持されて、帯状網体によって面状に斜面を押さえ込む力を高く保持することができるので、開口部分内の中抜けに起因して、その周辺の斜面が崩壊することを的確に防止することができる。
【0017】
請求項3に係る斜面安定化構造は、請求項2に記載の斜面安定化構造において、
前記開口部分内に張り渡された1本の前記ロープ部材によって、当該開口部分を形成する前記左右方向帯状網体と前記交差方向帯状網体とが繋がれていることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、左右方向帯状網体と交差方向帯状網体とにより囲まれた開口部分の内側の領域の一部が局部的に崩壊しようとして、1本のロープ部材の一部に大きな荷重が作用した場合に、作用した荷重を当該ロープ部材の全長に亘って作用させて、このロープ部材と繋がれた左右方向帯状網体と交差方向帯状網体との双方にエネルギーを分散させることができる。これにより斜面の局部崩壊に対するロープ部材の耐力を向上させることができる。
【0019】
請求項4に係る斜面安定化構造は、請求項1又は2に記載の斜面安定化構造において、
前記帯状網体の幅方向の両縁部には、ロープ状又は棒状の補強部材が前記帯状網体の長さ方向に伸長するように、且つ該帯状網体から離反しないように設けられ、
前記ロープ部材の端部は、前記補強部材に取り付けられていることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、斜面の崩壊時に、ロープ部材や帯状網体に力が加えられたときに、ロープ部材に掛かった力は、それが取り付けられている補強部材にまず加え、この補強部材に沿って帯状網体の長さ方向へ伝達される。したがって、帯状網体に対して一点に力が加えられることがなく、補強部材を介した力は帯状網体の縁部に分散して伝えられる。これにより斜面崩壊時における斜面からのエネルギーは帯状網体及びロープ部材に的確に分散されて受け止められる。
【0021】
請求項5に係る斜面安定化構造は、請求項4に記載の斜面安定化構造において、
前記帯状網体列は、前記左右方向帯状網体と前記交差方向帯状網体との双方が敷設され、
前記帯状網体により囲まれた開口部分の縁部に在る前記補強部材は、前記開口部分を囲む一連のループ状に形成されたループ状補強部材とされたことを特徴とする。
【0022】
請求項5に係る斜面安定化構造は、請求項4に記載の斜面安定化構造において、
前記帯状網体列は、前記左右方向帯状網体と前記交差方向帯状網体との双方が敷設され、
前記帯状網体により囲まれた開口部分の縁部に在る前記補強部材は、前記開口部分を囲む一連のループ状に形成されたループ状補強部材とされたことを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、左右方向帯状網体と交差方向帯状網体とで囲まれた開口部分の内側で、斜面の局部崩壊の初動が生じた場合に、この開口部分内を伸長するロープ部材に作用した力を一連のループ状補強部材を介して左右方向帯状網体と交差方向帯状網体との両方に伝達させることができる。また、局部崩壊の初動時には、開口部分の下方側に存在する左右方向帯状網体に大きな力が加わるが、この力もループ状補強部材を介して他の帯状網体に分散させて、局部崩壊の抑制効果を高めることができる。
【0024】
また、請求項6に記載の斜面安定化工法は、
帯状の形態を有する帯状網体を、斜面の左右方向及び/又は左右方向に対して交差する方向に、離間させて並列状態で伸長する様に複数敷設する工程と、
前記斜面に打設された複数のアンカー部材の頭部にそれぞれ取り付けられたプレートによって、前記帯状網体を斜面に押付けて固定する工程と、
ロープ部材によって離間した前記帯状網体を繋ぐように、前記ロープ部材の端部を隣り合う前記帯状網体の縁部にそれぞれ取り付ける工程と、
を含むことを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、アンカー部材により斜面に固定された帯状網体によって、斜面に生息する立木を避けつつ斜面の表層を押さえ付けることにより、帯状網体の敷説領域にて表層の一部が抜け落ちる斜面の局部崩壊を防止することができると共に、離間した帯状網体の間を伸長するロープ部材によって繋いで帯状網体の間の領域の局所崩壊をロープ部材の押さえ作用によって防止することができる。また、斜面に打設された複数のアンカー部材によって、斜面の大規模な表層すべりも防止することができる。また、斜面に局部崩壊の初動時には、帯状網体に対して長さ方向へ引っ張られる引張力が作用し、これに伴って帯状網体が幅方向へ収縮しようとするが、帯状網体に取り付けられたロープ部材によって、帯状網体が引っ張られることで、帯状網体の幅寸法が維持される。これにより、帯状網体の収縮を抑えて、帯状網体が面状に斜面を押さえ込む力を高く保持することができる。
これにより、帯状網体を敷設しない領域では、斜面に生息する立木を残したままにすることができ、立木の存在とロープ部材の押さえ付け作用によって斜面の安定化は維持され、且つ帯状網体の敷設領域では斜面を的確に広範囲で押さえ込むことで、従来のワイヤロープだけのノンフレーム工法に比べて局部崩壊の発生を適切に防止することが可能となっている。また、コンクリートやモルタルを用いて法枠を形成する従来の法枠構造に比べて、施工期間の短縮化や施工費用の削減が可能となっている。
【発明の効果】
【0026】
本発明の斜面安定化構造及び斜面安定化工法によれば、斜面に敷設されてアンカー部材により固定された帯状網体による斜面の表層を押さえ作用と、離間する帯状網体を繋いで、帯状網体の間を伸長するロープ部材による斜面の表層の押さえ作用とによって、斜面に生息する立木を避けながら斜面の局部崩壊を適切に防止することができる。また、立木を伐採したり法枠を構築する工程を省いて、施工期間の短縮化および施工費用の削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の斜面安定化構造の第1の実施の形態を模式的に示す斜視図である。
図2】斜面安定化構造の平面図である。
図3A図2の要部拡大平面図である。
図3B図3AにおいてAで囲む領域の拡大図である。
図3C】棒状部材の断面図である。
図4】斜面安定化構造による表層すべりの抑制を説明する断面図である。
図5A】斜面安定化構造による局部崩壊の抑制を説明する断面図である。
図5B】斜面安定化構造による局部崩壊の抑制を説明する平面図である。
図6A】斜面安定化構造の第2の実施の形態を示す要部拡大平面図である。
図6B】ロープ部材の設置状態の他の例を示す要部拡大平面図である。
図7】斜面安定化構造の第3の実施の形態の平面図である。
図8A】斜面安定化構造の第4の実施の形態を模式的に示す斜視図である。
図8B】斜面安定化構造の変形例を模式的に示す斜視図である。
図9A】補強部材の取り付け位置の他の例を示す図である
図9B図9AのBで囲む領域の拡大図である。
図10A】プレートの他の例を示す平面図である。
図10B図10Aにおけるb-b線断面図である。
図11図10Aに示すプレートと帯状網体の配置関係を示す図である。
図12】プレートのさらに他の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(第1の実施の形態)
図1は、斜面安定化構造10の第1の実施の形態を模式的に示す斜視図であり、図2は、斜面安定化構造10の平面図、図3Aは、図2の要部拡大平面図である。斜面安定化構造10は、自然斜面や、切土・盛土等の法面を含む斜面に適用され、斜面の崩壊を防止するものであり、本実施の形態では、立木82のある斜面80に適用した例を示している。
【0029】
斜面安定化構造10は、複数の帯状に形成された帯状網体20を斜面80に格子状に敷設された帯状網体列である網状フレーム12と、隣り合う帯状網体20を繋ぐロープ部材14と、帯状網体20の交差部に位置する、ロックボルト等のアンカー50と、アンカー50の頭部に取り付けられて帯状網体20の交差部を斜面80に対して固定するプレート52と、を備える。帯状網体20には、補強部材30と、棒状部材40とが取り付けられている。
【0030】
帯状網体20は、多数の網目を有する網体を、所定幅を有して一方向に伸びる帯状に形成したものである。この帯状網体20は、複数の網目が幅方向に並ぶように所定の幅寸法が設定されており、この幅寸法は、例えば、20cm~100cm、好ましくは30cm~70cmとすることができる。
【0031】
本実施の形態において、帯状網体20は、金属製のワイヤーを編み込んで形成されている。このワイヤーは、例えば、JIS G 3506に規定された硬鋼線材から制作されたワイヤー、例えば、硬鋼線(JIS G 3521)や亜鉛めっき鋼線(JIS G 3548)等を用いることができる。硬鋼線材から制作されたワイヤーは、JIS G 3505に規定された軟鋼線材から制作されたワイヤーと比較して塑性変形し難く、高い引張強度及びバネ性を有する。ワイヤーは、素線引張強度400N/mm~2,000N/mmの範囲のものが用いられ、好ましくは、1,000N/mm~2,000N/mmの範囲のものが用いられる。ワイヤーを構成する硬鋼線の直径φは、2.6mm~4.0mmの範囲であり、3.0mm以上のものが好ましい。ワイヤーには防食処理が施されていることが好ましく、有利な防食処理としては、硬鋼線の表面に先ずZn/Alメッキを施し、その上に飽和ポリエステル(PET)の被覆を設ける方法が挙げられる。なお、他の防食処理も適用可能である。また、ワイヤーは、金属製のものに限られず、例えば、カーボン繊維、ガラス繊維又はアラミド繊維等によって形成されたワイヤーや、防食性の高い樹脂製ワイヤーを用いることができる。さらに、帯状網体20として、ジオグリッドを使用してもよい。ジオグリッドを使用する場合、斜面80に沿ってほぼ平面状に敷設される。
【0032】
本実施の形態の帯状網体20は、菱形形状の網目を有しており、網目の大きさは、例えば、一方(図3Aに示す網目の対角線の短い方)の対角線長さが50~150mm、他方(図3Aに示す網目の対角線の長い方)の対角線長さが50~200mmとすることができる。なお、帯状網体20の網目の形状はこれに限られず、三角形状等の多角形状であってもよく、円形状や楕円形状であってもよい。また、これら形状を組み合わせた網目形状としてもよい。
【0033】
複数の帯状網体20は、左右方向(すなわち横方向)と、左右方向に対してほぼ直角に交差する交差方向(すなわち縦方向)とに伸びて、四角形の格子状に敷設され、網状フレーム12を形成している。また、帯状網体20は、立木82の間を通るように敷設されている。以下の説明では、左右方向に長く伸びる左右方向帯状網体20を横長帯状網体22、交差方向に長く伸びる交差方向帯状網体20を縦長帯状網体21ともいう。縦長帯状網体21と横長帯状網体22とは、それぞれ、菱形形状の網目を有し、菱形形状の長い方の対角線が、斜面崩壊の発生時に引張力が高く作用する方向となるように各帯状網体21,22が形成されている。具体的には、縦長帯状網体21では、菱形網目の長い方の対角線が縦方向、横長帯状網体22では横方向となっている。また、帯状網体20の側部に位置する菱形網目の短い方の対角線側の端部には、ねじり加工が施された結束部25が形成されており、図3Bに示すように、2つの結束部25A及び25Bの環状部が連結されている。
【0034】
網状フレーム12の1つの格子の大きさ(すなわち、隣り合う2つの縦長帯状網体21の幅方向中央位置の間の距離、及び、隣り合う2つの横長帯状網体22の幅方向中央位置の間の距離のそれぞれ)は、適宜設定することができ、例えば、約1m~3mとすることができる。また、網状フレーム12は、表面がモルタルやコンクリートでコーティングされた構成であってもよい。
【0035】
各帯状網体20には、補強部材30と棒状部材40とが取り付けられている。補強部材30は、ワイヤロープ等のロープ状部材、及び/又は、鋼棒等の高剛性の棒部材で構成され、帯状網体20において長さ方向に伸びる少なくとも一方の側部(幅方向の縁部)に、帯状網体20の長さ方向に沿って取り付けられる。本実施の形態では、図3Aに示すように、帯状網体20の両側部にロープ状の補強部材30が取り付けられている。
【0036】
補強部材30は、帯状網体20を構成するワイヤーと同様のワイヤーで形成することができる。本実施の形態では、硬鋼線材から制作され、帯状網体20を構成するワイヤーよりも直径の大きいワイヤーで補強部材30を形成している。補強部材30を構成する硬鋼線の直径φは、6.0mm~11mmの範囲であることが好ましい。なお、直径の大きは帯状網体20のワイヤーと同じ又は小さくてもよいが、大きくすることでより高い引張強度を得ることができる。補強部時30は、帯状網体20の幅方向の縁部の網目を通るように絡められた状態で取り付けることができる。なお、図示していないが、補強部材30は、別体の線材により、長さ方向に所定の間隔をおいて複数個所、帯状網体20に結び付けられる構成であってもよい。
【0037】
補強部材30は、帯状網体20に対して、緩みなく張り渡された状態であることが好ましい。ここで、緩みなく張り渡されるとは、補強部材30が帯状網体20に取り付けられ、且つ斜面崩壊等の外的作用による引張力が発生していない通常状態では、ワイヤロープ30に引張力がほぼ作用していない又は僅かな引張力の作用があり、斜面崩壊が発生した際に、直ぐに引張力が作用する程度に張り渡されることをいい、例えば、通常状態では、補強部材30の引張応力が零、又は破断応力の5%以下となるように設定することができる。
【0038】
ロープ部材14は、隣り合う帯状網体20を繋ぐように、離間して敷設された帯状網体20の間を伸長した状態で設置される。本実施の形態では、隣り合う縦長帯状網体21が、横方向に伸びる複数本のロープ部材14で連結されており、隣り合う横長帯状網体22が、縦方向に伸びる複数本のロープ部材14で連結されている。ロープ部材14は、斜面崩壊の初動時に引張力が作用するように、緩みなく張り渡された状態であることが好ましい。ロープ部材14は、例えば図2に示すように、ロープ部材14の一部が立木82の外周に沿って湾曲した状態で、緩みなく張り渡すことができる。図3Aに示すように、ロープ部材14の端部14aは、ロープ部材14によって帯状網体20が幅方向外側へ引っ張られるように、帯状網体20の幅方向の両縁部に取り付けられ、各縁部から帯状網体20の幅方向外側へ伸びていることが好ましい。本実施の形態では、各ロープ部材14が、帯状網体20上を横切らないように、網状フレーム12で形成された格子の開口部分28(以下、格子開口28とも称する)内に架け渡されている。
【0039】
本実施の形態では、ロープ部材14の端部14aが、帯状網体20の縁部と、該縁部に設置された補強部材30とに取り付けられており、具体的には、ロープ部材14の端部14aが環状に曲げられており、その内部に補強部材30が挿通されている。環状の端部14aは、ロープ部材14を環状にしてクランプ管16でカシメ固定することで形成することができる。なお、ロープ部材14の端部14aは、シャックル等の連結金具を用いて帯状網体20に取り付ける構造であってもよい。なお、帯状網体20が補強部材30を有していない場合には、帯状網体20の縁部の網目にロープ部材14を通して取付けることができる。
【0040】
ロープ部材14は、帯状網体20を構成しているワイヤーと同等又はそれ以上の引張強度を有することが好ましく、補強部材30と同等又はそれ以上の引張強度を有することがより好ましい。本実の施形態では、帯状網体20を構成しているワイヤーよりも太く、引張強度が高い硬鋼線材で構成されたロープ部材14を用いている。
【0041】
アンカー50は、帯状網体20の交差部にそれぞれ配置され、図4に示すように、地中の滑り面85よりも下層側にある不動層88まで伸長している。
【0042】
プレート52は、アンカー50が挿通される貫通孔を有する板材であり、斜面80との間に縦長帯状網体21及び横長帯状網体22を挟み込んだ状態で、アンカー50の頭部に螺合されるナット54により斜面80に固定される。プレート52は、例えば、鋼板や補強材が埋め込まれた樹脂板等によって形成することができる。なお、図示例では、帯状網体20の交差部の略中央に、交差部の面積よりも小さいプレート52を設置しているが、プレート52の大きさはこれに限られず、例えば、交差部のほぼ全域を覆う大きさであってもよい。なお、図示していないが、さらに、アンカー50の頭部及びナット54を覆うキャップを設けてもよい。
【0043】
図3Aに示すように、本実施の形態では縦長帯状網体21及び横長帯状網体22の交差部に、棒状部材40を設けている。棒状部材40は、帯状網体20の幅寸法を維持するためのものであり、帯状網体20の幅方向に伸長して、両端部が帯状網体20の幅方向の縁部に取り付けられている。棒状部材40は、例えば金属材料や樹脂材料など、強度が高く変形し難い材料で形成されている。棒状部材40は、補強部材30よりも高い剛性を有することが好ましい。棒状部材40の両端部の取り付け構造は、例えば、棒状部材40に両端部に形成した図示していない貫通孔に線材を通して帯状網体20及び/又は補強部材30に結び付ける構造や、この貫通孔に補強部材30を通す構造とすることができる。また、これに替えて、例えば、棒状部材40の両端部に溝を形成して、この溝に、帯状網体20又は補強部材30を嵌め込んで取り付ける構造を採用することができる。縦長帯状網体21に設置された棒状部材40と横長帯状網体22に設置された棒状部材40とは、それぞれ、交差した状態で、プレート52によって斜面80に押し付けられて固定されている。図3Cに示すように、棒状部材40は、設置状態で斜面80と対向する面に、複数の突起46を設けられていることが好ましい。本実施の形態では円柱状の突起46を設けている。設置状態では、この突起が帯状網体20の網目内を貫通するように配置されることが好ましい。
【0044】
次に、上述した斜面安定化構造10の施工方法を説明する。
【0045】
まず、斜面80に、複数のアンカー50を表層である移動層86から滑り面85よりも下層の不動層88まで届くように間隔をおいて打設する。アンカー50は、横方向に間隔をおいて複数配置されるアンカー50の列(すなわち、アンカー50が横方向に並ぶ列)が、上下方向に所定の間隔をあけて複数形成されるように、打設される。本実施の形態では特に、アンカー50が、所定の間隔をおいて格子の交点となる位置に配置される。
【0046】
次に、打設されたアンカー50が交差部に位置するように、補強部材30が取り付けられた複数の帯状網体20を格子状に敷設し、網状フレーム12を形成する。具体的には、上下方向に並ぶアンカー50の列に重なるように、縦長帯状網体21を所定の間隔をあけて並列状態で敷設し、横方向に並ぶアンカー50の列に重なるように、横長帯状網体22を所定の間隔をあけて並列状態で敷設する。アンカー50及び帯状網体20は、斜面80の立木82を避けるように配置され、帯状網体20は立木82の間を伸長する。
【0047】
次に、帯状網体20から突出したアンカー50の頭部をプレート52の貫通孔に通し、その後、頭部にナット54を螺合して、プレート52をアンカー50に取り付けるとともに、帯状網体20の交差部を斜面80に対して上方から緊張固定する。本実施の形態では、アンカー50にプレート52を取り付ける際、プレート52の下方側にプレート52と重なるように、帯状部材20の交差部に棒状部材40を取り付けている。
【0048】
次に、隣り合う帯状部材20を繋ぐように、帯状網体20にロープ部材14を取り付ける。本実施の形態では、補強部材30を介して帯状網体20にロープ部材14に取り付けている。
【0049】
なお、補強部材30は、斜面80に敷設した後、プレート52を取り付ける前又は取り付けた後に帯状網体20に取り付けてもよい。
【0050】
次に、上述した斜面安定化構造10の作用を説明する。本実施の形態の斜面安定化構造では、図1に示すように、斜面80に敷設された状態でアンカー50により固定された帯状網体20によって、斜面80に生息する立木82を帯状網体20の離間部分で避けつつ斜面80の表層を押さえ付けることができる。
【0051】
図4に示すように、本実施の形態の斜面安定化構造10は、滑り面85に沿って移動層86が斜面80下方へ滑る表層すべり(白抜き矢印で示すすべり)に対しては、移動層86を貫通して不動層88に固定された複数のアンカー50の引抜き抵抗性、すなわち、斜面80下方に荷重が作用した際にアンカー50に作用するせん断力等によって、移動層86が滑ろうとする際にアンカー50に引張力が発生し、これにより、斜面80の大規模なすべりの発生が抑止される。
【0052】
図5A及び図5Bに示すように、滑り面85が維持された状態で移動層86の一部87が抜け落ちる中抜けに対しては、斜面80に固定された網状フレーム12の引張力により表層が押さえ付けられることで、帯状網体20の敷設領域にて中抜けの発生が抑止される。さらに、離間した帯状網体20の間をロープ部材14によって繋ぎ、それら繋がれた帯状網体20の間の領域の局部崩壊をロープ部材14の押さえ作用によって防止することができる。また、斜面に打設された複数のアンカー部材によって、斜面の大規模な表層すべりも防止されている。
【0053】
また、網状フレーム12全体により、比較的大きな表層の崩壊も防止することができ、帯状網体20を規則的に格子状に敷設することで、網状フレーム12の押圧力を斜面80に均一的に作用させることができる。さらに、ロープ部材14とともに、網状フレーム12の網目内の立木82の根が表層を押さえることで、網目内に生じる小さな崩壊を効果的に抑制することができる。
【0054】
また、局部崩壊の初動時には、帯状網体20に対して長さ方向へ引っ張られる引張力が作用し、これに伴って帯状網体20が幅方向へ収縮しようとするが、本実施の形態の斜面安定化構造10では、帯状網体20に取り付けられたロープ部材14の引っ張り作用によって、帯状網体20の幅寸法が維持される。これにより、帯状網体20の収縮を抑えて、帯状網体20が面状に斜面80を押さえ込む力を高く保持することができる。
【0055】
このように、帯状網体20を敷設しない領域では、斜面80に生息する立木82を残したままにすることができ、立木82の根の存在とロープ部材14の押さえ付け作用による斜面80の安定化は維持される。また、帯状網体20の敷設領域では斜面80を広範囲で押さえ込むことで、従来のワイヤロープだけのノンフレーム工法に比べて局部崩壊の発生を適切に防止することが可能となっている。また、コンクリートやモルタルを用いて法枠を形成する従来の法枠構造に比べて、施工期間の短縮化や施工費用の削減も可能となっている。
【0056】
また、本実施の形態の斜面安定化構造10では、斜面崩壊の初動時において、ロープ部材14や帯状網体20に力が加えられた際、ロープ部材14に掛かった力は、それが取り付けられている補強部材30に伝達され、この補強部材30に沿って帯状網体の長さ方向へ伝達される。したがって、帯状網体20に対して一点に力が加えられることがなく、補強部材30を介した力は帯状網体20の縁部に分散して伝えられる。これにより斜面崩壊時に斜面80から受けるエネルギーは帯状網体20及びロープ部材14に的確に分散されて受け止められる。
【0057】
さらに、ロープ状の補強部材30によって帯状網体20を補強することで、網状フレーム12の最大引張荷重を高めて、斜面80の局部崩壊の抑止効果を高めることができる。また、棒状部材40によって帯状網体20の幅寸法を維持しているので、例えば、雨風等の影響によって帯状網体20の形状が崩れて、網状フレーム12による斜面の押さえ込み力が低下することを防止することができる。
【0058】
このように、網状フレーム12とロープ部材14とを用いた斜面安定化構造10では、表層すべりと中抜けとの両方を効果的に防止することができるとともに、コンクリートを用いた従来の法枠構造に比べて、施工期間の短縮化や施工費用の削減を図ることができる。また、斜面80に立木82が有る場合であっても、立木82を回避しながら格子状に帯状網体20を敷設することができる。特に、帯状網体20は、コンクリート枠と異なり、柔軟性が高く施工性に優れるため、立木82の回避が容易である。また、立木82を伐採する必要がないため、斜面80全面をネットで覆う従来のネット構造に比べて施工期間の短縮や施工費用の削減を図ることができるとともに、立木82を斜面崩壊防止に利用することが可能である。また、網状フレーム12が帯状網体20で形成されているため、コンクリート法枠に比して雨等による浸食に対する耐久性が高い。
【0059】
(第2の実施の形態)
次に、図6Aを用いて、斜面安定化構造10の第2の実施の形態について説明する。なお、図7では、第1の実施の形態と対応する部位に同一符号を付している。また、以下に説明する第2の実施の形態において、第1の実施の形態と同一の構成については詳細な説明を省略する。
【0060】
本実施の形態の斜面安定化構造10では、並列された縦長帯状網体21と横長帯状網体22とによって形成される開口部分28に、1本のロープ部材14が緩みなく張り渡されており、このロープ部材14によって、この開口部分28を形成している全ての帯状部材20が繋がれている。図示例では、ロープ部材14の端部14aを縦長帯状網体21と横長帯状網体22との交差部分に取り付けており、ロープ部材14を途中で屈曲させることにより、ロープ部材14の伸長方向を変えつつ、左右の縦長帯状網体21と上下の横長帯状網体22とを繋いでいる。なお、図示していないが、他の開口部分28も同様に1本のロープ部材14によって、開口部分28を形成している縦長帯状網体21と横長帯状網体22とが繋がれている。なお、1つの開口部分28に設けられる1本のロープ部材14の配置は、図6Aに示すものに限られず、適宜変更することができ、例えば図6Bに示すように設けられていてもよい。1本のロープ部材14は、四角形の開口部分28の4つの辺のそれぞれに少なくとも1箇所繋がれていればよく、2箇所以上繋がれていることがより好ましい。
【0061】
本実施の形態のように、1本のロープ部材14で開口部分28を形成する縦長帯状網体21と横長帯状網体22とを繋ぐことで、開口部分28の内側で局部崩壊(中抜け)が発生しようとした際に、この開口部分28内に張り渡されたロープ部材によって、斜面80を押さえ付けることにより中抜けの発生を防止できるとともに、ロープ部材14に作用した引張力を、このロープ部材14が取り付けられている縦長帯状網体21と横長帯状網体22とに伝達させて、分散させることができる。これにより、斜面80の局部崩壊をより的確に抑制することができる。また、ロープ部材14によって繋がれた帯状網体20同士が開口部分28の内側に向かって引っ張られることで、帯状部材20の幅寸法や開口部分28の形状が維持される。これにより、帯状網体20が面状に斜面80を押さえ込む力を高く保持することができるので、開口部分28内の中抜けに起因して、その周辺の斜面が崩壊することを的確に防止することができる。
【0062】
(第3の実施の形態)
次に、図7を用いて、斜面安定化構造10の第3の実施の形態について説明する。なお、図7では、第1の実施の形態と対応する部位に同一符号を付している。また、以下に説明する第3の実施の形態において、第1の実施の形態と同一の構成については詳細な説明を省略する。
【0063】
本実施の形態において、帯状網体列である網状フレーム12を構成する帯状網体20は、左右方向に伸びる複数の横長帯状網体22と、上下方向及び左右方向に対して交差する交差方向(すなわち斜め方向)に伸びる複数の第1傾斜帯状網体23及び第2傾斜帯状網体24とを含む。第1傾斜帯状網体23と第2傾斜帯状網体24とは、互いに交差する方向に伸びており、網状フレーム12は、3方向に伸びる帯状網体22,23,24により、略三角形状の開口部分28を有する三角形格子状に形成される。
【0064】
各帯状網体22,23,24の交差部には、アンカー50が打設されており、アンカー50の頭部には、ナット54により帯状網体20を斜面80に固定するプレート52が取り付けられている。
【0065】
ロープ部材14は、開口部分28を形成する横長帯状網体22、第1傾斜帯状網体23及び第2傾斜帯状網体24を繋ぐように配置されている。本実施の形態では、1本のロープ部材によって、1つの開口部分28を形成する3つの帯状網体20、すなわち、横長帯状網体22、第1傾斜帯状網体23及び第2傾斜帯状網体24を繋いでいる。
【0066】
なお、横長帯状網体22、第1傾斜帯状網体23及び第2傾斜帯状網体24には、それぞれ、帯状網体22,23,24の長さ方向に伸びる縁部に、補強部材30を取り付けることが可能である。また、帯状部材20の交差部には、各帯状網体22,23,24の幅寸法を維持する棒状部材40を適宜設置することができる。
【0067】
本実施の形態の斜面安定化構造10では、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができるとともに、帯状網体20の交差部に位置するアンカー50が千鳥状に配置されるので、立木82を避けて施工しやすい。また、図7に示すように、ロープ部材14が帯状網体20上を幅方向に横断するように配置されることで、ロープ部材14によって帯状網体20を上方から押さえ付けて、当該帯状網体20が捲れることを防止することができるとともに、当該帯状網体20による斜面80の押さえ付け効果を向上させることが可能である。
【0068】
(第4の実施の形態)
次に、図8Aを用いて、斜面安定化構造10の第4の実施の形態について説明する。なお、図8Aでは、第1の実施の形態と対応する部位に同一符号を付している。また、以下に説明する第4の実施の形態において、第1の実施の形態と同一の構成については詳細な説明を省略する。
【0069】
本実施の形態では、帯状網体20が、斜面80の左右方向に伸長するように、上下方向に間隔をあけて並列状態で敷設され、一方向にのみ伸びる帯状網体列を構成している。アンカー50は、帯状網体20を貫通した状態で、帯状網体20の長さ方向に間隔をおいて複数配置されており、帯状網体20は、アンカー50の頭部にナット54を用いて取り付けられたプレート52により、斜面80に対して上方から緊張固定されている。ロープ部材14は、隣り合う2つの帯状網体20を繋ぐように、各帯状網体20に複数取り付けられている。なお、各帯状網体20には、棒状部材40と、図示していない補強部材30を取り付けることが可能である。
【0070】
このように、帯状網体20がフレーム構造を形成することなく、横方向にのみ伸長しているものであっても、複数のアンカー50により斜面80の表層すべりを防止することができ、複数の帯状網体20とこれらを繋ぐ複数のロープ部材14とにより表層が押さえ付けられることで、斜面80の局部崩壊を防止することができる。
【0071】
なお、図8Aでは、ロープ部材14が縦方向に伸びているが、図8Bに示すように、ロープ部材14を横方向及び縦方向に対して交差する斜め方向に伸長させてもよい。かかる場合には、隣り合う帯状網体20を1本のロープ部材14で連結することができ、ロープ部材14を途中で屈曲させることで伸長方向を変えながら隣り合う帯状網体20を複数箇所で繋ぐことができる。また、図示していないが、隣り合う帯状網体20間を伸びる2本以上のロープ部材14を交差させてもよい。
【0072】
なお、斜面安定化構造10において、複数の帯状網体20が一方向にのみ伸長するように並列配置される場合、帯状網体20の伸長方向は、左右方向ではなく、左右方向に対して交差する方向であってもよい。図8に示すように、少なくとも左右方向に伸長するように帯状網体20を敷設した場合、表層の一部が斜面下方へ落下することを効果的に防止することができる。
【0073】
(変形例1)
次に、図9A及び図9Bを用いて補強部材の取り付位置の他の例を説明する。図9Aにおいて2点鎖線で示すように、変形例の補強部材32は、網状フレーム12の開口部分28を囲む態様で、帯状網体20の幅方向の縁部に連続するループ状に取り付けられた、ループ状補強部材である。ここで、連続するループ状とは、1本又は2本以上の紐状の補強部材を結び付けて、一連のループ状にしたものを含む意味である。図示例では、四角形の開口部分28に沿って四角形状にロープ状の補強部材32が設けられている。なお、補強部材32は、所要の引張力を受けた際に、ループの長さがほぼ変わらず、開口部分28を維持可能となるように、弾性性能が低く伸縮し難い部材、例えば、金属材料等で形成されることが好ましい。図9Bに示すように、補強部材32は、縦長帯状網体21及び横長帯状網体22のそれぞれの網目を通るように波状に絡められた状態で取り付けられている。なお、図示していないが、第3の実施の形態に示す三角形状の開口部分28を有する網状フレーム12に対しても、同様に、開口部分28を囲むように補強部材32を取り付けることが可能である。補強部材32は、網状フレーム12が敷設された後に、開口部分28に沿って取り付けられる。
【0074】
ループ状補強部材32を用いた斜面安定化構造10では、帯状網体20で囲まれた開口部分の内側で、斜面80の局部崩壊の初動が生じた場合に、この開口部分内を伸長するロープ部材14に作用した力を一連のループ状補強部材32を介して横長帯状網体22と縦長帯状網体21との両方に伝達させることができる。また、局部崩壊の初動時には、開口部分の下方側に存在する横長帯状網体22に大きな力が加わるが、この力もループ状補強部材32を介して他の帯状網体20に分散させて、局部崩壊の抑制効果を高めることができる。
【0075】
また、補強部材32をこのように開口部分28を囲む態様で配設することで、帯状網体20に引張力が作用した際に、帯状網体20の幅が狭まることを防止することができる。なお、図示していないが、斜面安定化構造10は、本変形例のループ状補強部材32と、第1の実施の形態の補強部材30とを両方備えた構成とすることができる。かかる場合には、ロープ部材14の端部は、補強部材30とループ状補強部材32の双方に取り付けられていることが好ましい。
【0076】
(変形例2)
次に、図10及び図11を用いてプレートの他の例を説明する。本変形例のプレート60は、略十字形状の平板からなるプレート本体62と、十字の中央部に形成された貫通孔64と、プレート本体62の一方の面から突出する複数の突起部66とを備える。突起部66は、プレート本体62の中央部から4方向に延びる各延長部63において、1つ以上設けられていることが好ましく、本変形例では、それぞれの延長部63に3つの突起部66が形成されている。
【0077】
プレート60は、突起部66が設けられている側の面が下面(すなわち、斜面80と対向する面)となるように設置され、貫通孔64にはアンカー50の頭部が挿通される。図11に示すように、各突起部66は、網状フレーム12の交差部において、重ねられた縦長帯状網体21及び横長帯状網体22のそれぞれの網目を貫通するように配置される。プレート60は、金属材料や樹脂材料によって形成することができる。
【0078】
このプレート60では、帯状網体20に外力が加わって、例えば、縦長帯状網体21と横長帯状網体22の相対位置がずれる等、帯状網体20が移動しようとした際に、プレート60の突起部66が帯状網体20を形成しているワイヤーに引っかかって、これと係止することにより、帯状網体20の移動が抑止される。これにより、帯状網体20の位置ずれを防止することが可能となる。また、延長部63によって、帯状網体20が幅方向に収縮することを防止することができる。
【0079】
(変形例3)
次に、図12を用いてプレート60のさらに他の例を説明する。本変形例のプレート60は、変形例2に記載したものと同様のプレート本体62、貫通孔64及び複数の突起部66を備えるとともに、プレート本体62の中央部上面(突起部66が形成される面と反対の面)から突出し、貫通孔64と連通する筒体67と、プレート本体62の上面に設けられた複数のリブ68とを有する。リブ68は、各延出部63に設けられ、プレート本体62の上面から突出し、プレート本体62の筒体67から延出部62の先端へ向かって延びる板状に形成されている。リブ68の高さは、延出部63の先端から基端に向かって高くなるように形成されている。
【0080】
本変形例のプレート60では、貫通孔64及び筒体67にアンカー50の頭部が挿通された状態で、筒体67の頂部においてナット54を螺合することで、プレート60が斜面に固定される。プレート60の筒体67及びリブ68は、プレート本体62及び突起部66と同一の材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。例えば、プレート本体62及び突起部66を樹脂材料で形成し、筒体及びリブ68を金属材料で形成することが可能であり、樹脂製のプレート本体62及び突起部66を用いることで、帯状網体20を構成する金属製のワイヤーが、プレート本体62に当接して擦れて、ワイヤーのコーティング層が剥がれることを防止することができる。本変形例のようにリブ68を設けることで、帯状網体20に引張力が作用した際に、帯状網体20を斜面80に押さえつける力を向上させることができる。
【0081】
なお、変形例2及び3のプレート60において、プレート本体62は、十字状ではなく、図12において仮想線69で示すように、略菱形形状に形成されていてもよい。このようにプレート本体62の面積を大きくすることで、プレート60による押し付け力を高めて斜面保護効果を高めることができる。
【0082】
なお、本発明は上述した各実施の形態及び各変形例に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0083】
例えば、網状フレーム12は、帯状網体20を四角形格子状又は三角形格子状に敷設したものに限られず、その他の多角形格子状に敷設したものでもよい。
【0084】
また、ロープ部材14は、各実施の形態で示したロープ部材14とともに、または、これらに変えて、例えば一つ置きに帯状網体20を繋ぐように取り付けられていてもよい。例えば、図8に示す斜面安定化構造10第3の実施の形態において、さらに、斜面80の上方側から一段目と三段目の帯状網体20をロープ部材14で繋ぎ、三段目と五段目の帯状網体20をロープ部材14で繋ぎ、二段目と四段目の帯状網体20をロープ部材14で繋ぐ等の構造としてもよい。このように、間に帯状網体20を挟んで他の帯状網体20とロープ部材14と繋ぐ場合も、各ロープ部材14は、引張力が作用した場合に、帯状網体20を幅方向外側へ引っ張るように、帯状網体20の幅方向の側部に取り付けられることが好ましい。
【符号の説明】
【0085】
10 斜面安定化構造
12 網状フレーム
14 ロープ部材
20 帯状網体
28 開口部分
30,32 補強部材
40 棒状部材
50 アンカー
52,60 プレート
54 ナット
80 斜面
82 立木
85 滑り面
88 不動層
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11
図12