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特開2024-14213頭部装着型ウェアラブル端末を使用した介護者支援システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014213
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】頭部装着型ウェアラブル端末を使用した介護者支援システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/22 20240101AFI20240125BHJP
【FI】
G06Q50/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116876
(22)【出願日】2022-07-22
(71)【出願人】
【識別番号】500129546
【氏名又は名称】誠心堂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100073210
【弁理士】
【氏名又は名称】坂口 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100173668
【弁理士】
【氏名又は名称】坂口 吉之助
(72)【発明者】
【氏名】森口 玉基
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA13
(57)【要約】      (修正有)
【課題】経験が浅い介護者であっても、介護サービス作業を適切に行えるようリアルタイムで支援することができる介護者支援システムを提供する。
【解決手段】介護者が被介護者に対して介護サービスを提供する際に、頭部装着型ウェアラブル端末を装着して実施される介護者支援システム1であって、眼鏡型ウェアラブル端末は、カメラ機能と、スピーカー機能又はディスプレイ機能のいずれか一方又は両方が備えられた構成であり、カメラ機能で介護の様子を撮影する撮影手段と、撮影した映像データを外部コンピューターへリアルタイムで送信する送信手段と、前記映像データに対応した介護者に対するサポート情報を、前記外部コンピューターから受信する手段と、前記サポート情報を、スピーカー機能で発音する手段又は前記ディスプレイ機能に表示する表示手段のいずれか一方又は両方、をと、備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
介護者が被介護者に対して介護サービスを提供する際に、頭部装着型ウェアラブル端末を装着して実施される介護者支援システムであって、
前記眼鏡型ウェアラブル端末は、カメラ機能と、スピーカー機能又はディスプレイ機能のいずれか一方又は両方が備えられた構成であり、
前記カメラ機能で介護の様子を撮影する手段と、撮影した映像データを外部コンピューターへリアルタイムで送信する手段と、
前記映像データに対応した介護者に対するサポート情報を、前記外部コンピューターから受信する手段と、
前記サポート情報を、前記スピーカー機能で発音する手段又は前記ディスプレイ機能に表示する手段のいずれか一方又は両方、
を備えることを特徴とする頭部装着型ウェアラブル端末を使用した介護者支援システム。
【請求項2】
映像データを受信した外部コンピューターが、
前記映像データをビッグデータデータベースに蓄積する手段と、
前記蓄積されたビッグデータに基づいて、人工知能のアルゴリズムによって介護モデルデータを構築する手段と、
最新のビッグデータに基づいて、定期的に介護モデルデータを更新する手段を備える構成であり、
受信する映像データに対応して、前記介護モデルデータに基づいてサポート情報を作成する手段を備える構成であることを特徴とする請求項1に記載の頭部装着型ウェアラブル端末を使用した介護者支援システム。
【請求項3】
サポート情報が、介護者が被介護者に対して行う会話内容の提案であることを特徴とする請求項1又は2に記載の頭部装着型ウェアラブル端末を使用した介護者支援システム。
【請求項4】
被介護者が、心拍数計を装着して実施される介護者支援システムであって、
介護者からの声掛けに対する被介護者の心拍数変化を、介護者に対して伝達する手段を備えることを特徴とする請求項3に記載の頭部装着型ウェアラブル端末を使用した介護者支援システム。
【請求項5】
食事介助の際に、カメラ機能で食べ残しを撮影し、その映像データを外部コンピューターへ送信し、摂取したカロリーと栄養素を把握することによって栄養管理を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の頭部装着型ウェアラブル端末を使用した介護者支援システム。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、介護者が身体介護にあたる際に、その介護サービス作業を支援するためのシステムに関し、詳しくは、頭部装着型ウェアラブル端末を使用して行われる介護者支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
超高齢化社会と言われる我が国では、介護現場における介護者(介護福祉士やヘルパー等、広く身体介護に関わる人員をいう。以下同じ。)等の人材が十分とは言えず、慢性的な人手不足に陥っている介護現場が少なくない。また、いわゆる団塊世代の人々が高齢となり、要介護者(介護・介助を必要とする者)の人数は更に増加することが予想されている。それに伴い、ますます多くの介護者が必要となるが、その人員を確保することは極めて困難な状況になりつつある。厚生労働省が公表した資料によれば、2023年度には約22万人、2025年度には約32万人もの介護者が不足するとの予測もある。
【0003】
上述の通り、介護現場は慢性的な人手不足に直面していることから、介護者を育てる教育体制も不足しており、新たな介護者を採用しても、十分に教育することができないケースも多い。また、ベテランや中堅等の経験豊富な介護者も、目の前の作業に追われて新人介護者を教育し、又は支援・サポートする余裕がない。かかる状況にあって、新人の介護者は十分なスキルを身に着けることができないことから、思うように介護サービス作業を行うことができない。また、約9割の介護者が、介護拒否を経験するといわれ、その数は増加傾向にある。このような状況では、介護者は遣り甲斐を感じることもできず、離職につながるという問題がある。実際に、介護職の離職率は常に、業種別で最も高い。
【0004】
このように、人手不足を原因の一つとする介護現場の環境により、新人介護者の離職が増えるという悪循環から、介護現場の労働環境はなかなか改善されないという問題がある。
【0005】
上述した介護現場に対する人手不足の問題に対応すべく、介護現場におけるIT(情報技術,Information Technology)化やICT(情報通信技術,Information and Communication Technology)化の必要性が指摘されているが、遅々として進んでいない。この影響により、介護に関わる諸作業の効率化が十分でなく、作業効率改善によるコストダウンや、限られた人員で多くの対象者に介護を提供する環境が整えられていない。
【0006】
IT化・ICT化を進めることにより、介護に関わる諸作業を効率化することができるので、作業コストを低減させると共に、限られた人材で多くの作業を可能とすることが望まれる。
【0007】
厚生労働省では、かかる問題を解決するため、介護事業者等に対してICT化の導入・普及を促進している。このICT化の内容は、主として介護記録の電子化であり、この電子化された介護に関する情報を集約してビックデータを蓄積し、これ解析して課題解決に役立てようというものである。
【0008】
しかし、この電子化された介護記録等は、現場で介護にあたる介護者等がコンピューターやタブレットPC等を利用して手入力したデータであり、入力ミスや入力漏れがあり得る。また、同じ介護内容を実施したとしてもその表現に相違がある、介護記録として残すべきか否かの判断の相違など、その記載内容にバラツキや恣意的要素があるといえる。さらにまた、多くの介護作業を抱える介護者にとって、この介護記録の入力作業すらも大きな負担であるといえる。
【0009】
特許文献1には、「褥瘡、圧力誘因虚血、及び関連する医学的状況を含む医学的状況をモニタリングするシステムであって、体位、温度、加速度、湿潤、抵抗、応力、及び血液酸素負荷を含む群から選択される少なくとも一つの患者特性を検知するべく構成されるセンサと、センサに応答して、前記患者に対する一連の提案されるアクションの決定を支援するべく前記少なくとも一つの検知される特性を代表する信号を処理するプロセッサと、前記一連の提案されるアクションを介護者に通知するディスプレイとを含むシステム」という技術が開示されている。要約すれば、体位や温度といった患者特性を検知するセンサの信号に基づいて、対応する患者に対して提案されるアクションを、介護者に対して通知するシステムである。
【0010】
しかし、この特許文献1に記載の技術では、患者に対して多くのセンサを用意してモニタリングする必要があり、多くのコストを要するだけでなく、これらのセンサが設置された環境でなければ、システムを運用できないという問題があった。
また、センサによって得られる患者特性の異常以外の問題が生じた場合に、検知することができないという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2018-008069
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明の課題は、経験が浅い介護者であっても、介護サービス作業を適切に行えるようリアルタイムで支援することができ、これにより被介護者に対して最適化された介護サービスを提供できると共に、設備が整わない環境であっても実施することができる介護者支援システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記本発明の課題は、下記の手段により達成される。
1.介護者が被介護者に対して介護サービスを提供する際に、頭部装着型ウェアラブル端末を装着して実施される介護者支援システムであって、
前記眼鏡型ウェアラブル端末は、カメラ機能と、スピーカー機能又はディスプレイ機能のいずれか一方又は両方が備えられた構成であり、
前記カメラ機能で介護の様子を撮影する手段と、撮影した映像データを外部コンピューターへリアルタイムで送信する手段と、
前記映像データに対応した介護者に対するサポート情報を、前記外部コンピューターから受信する手段と、
前記サポート情報を、前記スピーカー機能で発音する手段又は前記ディスプレイ機能に表示する手段のいずれか一方又は両方、
を備えることを特徴とする頭部装着型ウェアラブル端末を使用した介護者支援システム。
【0014】
2.映像データを受信した外部コンピューターが、
前記映像データをビッグデータデータベースに蓄積する手段と、
前記蓄積されたビッグデータに基づいて、人工知能のアルゴリズムによって介護モデルデータを構築する手段と、
最新のビッグデータに基づいて、定期的に介護モデルデータを更新する手段を備える構成であり、
受信する映像データに対応して、前記介護モデルデータに基づいてサポート情報を作成する手段を備える構成であることを特徴とする請求項1に記載の頭部装着型ウェアラブル端末を使用した介護者支援システム。
【0015】
3.サポート情報が、介護者が被介護者に対して行う会話内容の提案であることを特徴とする請求項1又は2に記載の頭部装着型ウェアラブル端末を使用した介護者支援システム。
【0016】
4.被介護者が、心拍数計を装着して実施される介護者支援システムであって、
介護者からの声掛けに対する被介護者の心拍数変化を、介護者に対して伝達する手段を備えることを特徴とする請求項3に記載の頭部装着型ウェアラブル端末を使用した介護者支援システム。
【0017】
5.食事介助の際に、カメラ機能で食べ残しを撮影し、その映像データを外部コンピューターへ送信し、摂取したカロリーと栄養素を把握することによって栄養管理を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の頭部装着型ウェアラブル端末を使用した介護者支援システム。
【発明の効果】
【0018】
上記1に示す発明によれば、介護者に対して、介護現場の状況に応じたサポート情報がリアルタイムで送信され、これを音声又は映像で確認することができるため、経験の浅い介護者であっても、介護サービス作業を適切に行うことができる。もし、介護作業中に何らかのトラブルが発生したとしても、その解決手段などのサポート情報をリアルタイムで得ることができるため、介護者にとってはいつでもサポートを受けることができるという安心感のもと、介護作業にあたることができる。
【0019】
また、上記1に示す発明によれば、頭部装着型ウェアラブル端末によって、必要な機能や設備がすべてカバーされるため、カメラやディスプレイ等の設備が整っていない環境であっても、サポート情報を得ることができる。特に、訪問介護の現場において有意である。
【0020】
また、上記1に示す発明によれば、カメラ機能による撮影、外部コンピューターとの通信、外部コンピューターによるサポート情報の作成、スピーカー機能又はディスプレイ機能によるサポート情報の確認といった機能のすべてを、自動かつハンズフリーの状態で実施することができるため、介護者は被介護者に対する介護サービス作業に集中することができる。新型コロナウィルス感染症の拡大に伴って、介護現場ではフェイスシールドを装着して介護サービス作業にあたることが一般化しており、介護者は頭部装着型ウェアラブル端末を装着することへの抵抗感が低い状況であり、普及に対するハードルが低い状況といえる。
【0021】
上記2に示す発明は、外部コンピューターに介護現場で撮影された映像データが逐次蓄積される構成であり、この蓄積された映像データによってビッグデータデータベースが作成され、この蓄積されたビッグデータに基づいて、人工知能のアルゴリズムによって介護モデルデータが構築される構成である。この介護モデルデータは、逐次蓄積されるビッグデータによって構築されるので、データ量が増えるにつれて成熟されるといえる。
【0022】
この蓄積されたビッグデータに基づいて構築された介護モデルデータによって、受信した映像データに対応したサポート情報が作成される構成なので、介護現場で必要なサポート情報をリアルタイムで介護者に対して提供することが可能である。
【0023】
かかる構成から、ビッグデータデータベースには、各介護現場から日々送られてくる映像データが蓄積されるので、これに基づいて構築される介護モデルデータは常時成長・成熟することができる。この成長・成熟する介護モデルデータに基づいてサポート情報が作成されるので、本発明に係る介護者支援システムは、成長するシステムや学習するシステムということができ、そのサポート情報の精度は上昇し続ける、最適化され続けるということができる。
【0024】
上記3に示す発明は、外部コンピューターによって作成され送信されるサポート情報が、介護者が被介護者に対して行う会話(介護者からの一方的な「呼びかけ」や「声掛け」を含む。以下同じ。)内容とした構成である。被介護者との会話をサポート情報の内容とした理由については、次のとおりである。
【0025】
被介護者の中には認知症を患う者も多く、介護者の呼びかけに対して素直に応じてくれない場合も少なくない。呼びかけに応じてくれないばかりか、介護者の言動に対して怒りを露にして、暴言や暴力に及ぶケースもある。
【0026】
このような問題行動のある被介護者に対しては、介護キャリアが長く、介護能力に優れた優秀な介護者が対応に当たるケースが多く、これによって問題行動が比較的抑えられる傾向にある。このように、優秀な介護者が介護にあたる場合と、キャリアの浅い介護者が介護にあたる場合とで、問題行動のある被介護者の態度に違いが生ずることに、本発明者は着目した。この違いが出る理由について、本発明者は介護現場への取材を通じて追及したところ、「被介護者との会話や声掛け」の内容や質に差があることを突き止めた。
【0027】
即ち、優秀な介護者は、問題行動のある被介護者が、いかなる言動を好み又は嫌うのかを熟知しており、更には、個々の被介護者の病状、体調、認知能力又は心理状態等を総合的に判断して、その被介護者が穏やかに応じられ、問題行動に発展することのない「会話・声掛け」をしていることが分かった。
【0028】
そこで、上記3に示す発明では、サポート情報として「被介護者に対する会話・声掛け」の内容を提案することとした。
このサポート情報を基に、被介護者に対して適切な会話・声掛けを実践すれば、被介護者が問題行動に出ることを抑制することができる。また、問題行動に出る行為を抑制することで、介護サービス作業を効率的に行うこともできる。
【0029】
上記4に示す発明は、被介護者に心拍数計を装着させ、被介護者の心拍数変化を把握することで、介護者からの声掛けに反応しているか否かを確認することができる。この心拍数変化に着目した理由は、次のとおりである。
【0030】
被介護者の中には、認知症の者や耳が遠い者も多く、介護者の声掛けに対して返答をしない又は返答できない者も少なくない。介護現場において、介護者は被介護者に対して多くの声掛けをすることが求められるが、被介護者から返答がないことも多く、特に経験の浅い介護者にとっては声掛けの効果を把握又は理解することができず、これが遣り甲斐・モチベーションの低下を招くこともあり、ひいては離職につながる場合もある。
【0031】
一方で、介護者の声掛けに対して返答をしない又は返答できない場合であっても、この声掛けに対して反応をしているケースもある。その反応のひとつとして、介護者から呼びかけられた被介護者に、心拍数の変化が表れることが知られている。この現象を利用して、介護者が、被介護者の心拍数変化を把握することができれば、声掛けに対して被介護者が反応しているか否かを判断することができる。
【0032】
そこで、上記4に示す発明では、被介護者に心拍数計を装着させ、介護者からの声掛けに対する被介護者の心拍数変化を検知し、これを介護者に伝達する構成を採用した。
この上記4に示す発明であれば、声掛けに対する被介護者の反応を把握することができるので、上述した遣り甲斐・モチベーションの低下を防止・抑制することができ、離職原因の一つを解消することができる。ひいては、離職者の数を減少させる効果が期待できる。
【0033】
上記5に示す発明によれば、頭部装着型ウェアラブル端末のカメラ機能を使用して、被介護者の食事の食べ残しを撮影することで、摂取した食物、その食物から得られたカロリーと栄養素等を正確に把握することができる。
【0034】
上記5において、食事の食べ残しに着目した理由は、次のとおりである。
介護施設等において、被介護者に配膳する食事については、個々の被介護者の健康状態、持病、アレルギー又は体調などを考慮して、必要なカロリーや栄養素を摂取できるように献立が作られる。即ち、食事面において栄養管理がされている。
【0035】
一方で、必要なカロリーや栄養素を摂取できる食事を配膳したとしても、被介護者がその食事を残さず食べきるとは限らない。食べ残しがあると、その分のカロリーや栄養素は摂取できていないことになり、栄養管理が万全とはいえない。また、被介護者が何らかの理由で体調を崩した際に、その前に食した食事の内容を確認するのが一般的である。この場合でも、食べ残しを正確に把握していないと、体調を崩した理由が食事にあるか否かの判断が適切に行えないという問題がある。
【0036】
食事の食べ残しについて、担当する介護者が、介護記録として残している場合もあるが、この介護記録を作成する作業でさえも、人手不足の介護現場では負担であり、これらを自動的に把握することができれば有意である。
【0037】
そこで、上記5に示す発明では、介護者が装着する頭部装着型ウェアラブル端末を使用して、食事を片付ける際に食べ残しを撮影し、その撮影した映像データを外部コンピューターへ送信することにより、この外部コンピューターにて実際に摂取した食事内容と、その食事から摂取されたカロリーと栄養素を正確に把握することができる。その結果、被介護者が適切に栄養を摂取しているか、体調を崩した際に、食事内容が影響しているか否か等の判断を正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明に係る介護者支援システムの一実施例を表す体系図
図2】頭部装着型ウェアラブル端末の一実施例を表す概略説明図
図3】心拍数計と頭部装着型ウェアラブル端末の関係の一実施例を表す概略説明図
図4】本発明の一部を構成する声掛けに対する反応判定するシステムの一実施例を表す体系図
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明に係る頭部装着型ウェアラブル端末を使用した介護者支援システム1(以下、省略して「介護者支援システム1」ともいう。)について、図面に従って説明する。
なお、この明細書において、被介護者Yとは、介護や介助を必要としてサービスを受ける高齢者や障害者等をいい、介護者Zとは、被介護者Yに対して介護サービスを提供する者、例えば介護福祉士やヘルパー等の介護実務に従事する者、特に身体介護を行う者をいう。
【0040】
図1は、介護支援システム1の基本構成を表す体系図である。
介護支援システム1は、図1に示される通り、
(1)介護の様子を撮影する手段(撮影手段)、
(2)撮影した映像データを送受信する手段(送信手段)、
(3)映像データをデータベースに蓄積する手段(蓄積手段)、
(4)介護モデルデータを構築する手段(構築手段)、
(5)介護モデルデータを定期的に更新する手段(更新手段)、
(6)サポート情報を作成する手段(作成手段)、
(7)作成したサポート情報を送受信する手段(返信手段)、
(8)受信したサポート情報を発音又は表示する手段(表示手段)、
を有する構成である。
【0041】
上記した(1)~(8)の手段を、順に説明する。
上記(1)の撮影手段は、介護者Zが被介護者Yに対して介護サービス作業を行う様子を撮影する手段である。映像として撮影すると共に周囲の音を集音して、映像データとして記録することが好ましい。この明細書において特に断らない限り、撮影は録音を伴うものとし、映像データには音が含まれる。
【0042】
撮影手段は、頭部装着型ウェアラブル端末Wに備えられたカメラ機能W1を使用して行われ得る。これにより、介護者Zの視線で撮影し、介護の様子を映像データとして記録することができる。
【0043】
上記(2)の送信手段は、頭部装着型ウェアラブル端末Wで撮影され記録された映像データを、外部コンピューターCへ送信し、この外部コンピューターCが受信するという、通信手段を用いた映像データの送受信手段である。
用いられる通信手段に限定はないが、無線通信であることが好ましい。例えば、Wi-Fi等を用いた無線LAN、携帯電話等における通信に使用される移動通信システムを挙げることができる。特に、第5世代移動通信システム(通称「5G」)を使用すれば、大容量のデータを高速で送受信することができ、高解像度の映像データを送受信することができるので好ましい。
【0044】
上記(3)の蓄積手段は、上記(2)で外部コンピューターCが受信した映像データを、この外部コンピューターC又はこれに接続された外部記憶装置Sに記録されたビッグデータデータベース(以下、単に「データベース」ともいう。)に蓄積する機能である。
外部コンピューターCが受信した映像データは、その都度データベースに蓄積されるので、このデータベースに蓄積されたデータ量は次第に増大し、後述する上記(6)の作成手段において、その精度を次第に向上させることができる。
【0045】
また、データベースには、上述した映像データのほか、予め用意された介護モデルが記録されることが好ましい。介護モデルについては、上記(4)構築手段の項で後述する。予め用意された介護モデルを記録することで、映像データの収集が十分でない状態であっても、データ量として一定程度の情報を確保することができる。
【0046】
上記(4)の構築手段は、データベースに蓄積された映像データ等からなるビッグデータを基に、人工知能のアルゴリズムによって介護モデルデータを構築する手段である。
この介護モデルデータとは、介護サービスにおいて規範や手本又は標準となるモデルを内容とするデータである。介護モデルを換言すれば、介護サービスにおける規範モデル、手本モデル又は標準モデルである。介護の状況に応じた、介護手順や対処方法等の規範や手本又は標準となるモデルが構築される。
【0047】
また、上記(4)の構築手段は、頭部装着型ウェアラブル端末Wから送信される映像データに基づいて構築される他、ビッグデータの一部として予め用意された介護モデルも参照した上で、介護モデルデータが構築されることが好ましい。これにより、映像データの収集が十分でない状態であっても、データ量として一定程度の情報を確保することができ、介護モデルデータの精度も確保することができる。
【0048】
上述の予め用意された介護モデルについて、以下に例示する。
上述したとおり、介護モデルデータは、介護サービスにおいて規範や手本又は標準となるモデルを内容とするデータである。よって、この介護モデルデータは、介護経験が豊富なベテランや、介護現場において優秀とされる介護者(単に「優秀な介護者」ともいう。)による介護サービス作業を学習して構築されることが好ましい。
具体的には、まず、本発明に係る介護支援システム1が運用される前の段階において、優秀な介護者に頭部装着型ウェアラブル端末Wを装着させて、介護現場において行われた介護サービス作業の様子を撮影し、映像データを収集する。
【0049】
この収集した映像データをデータベースに記録し、これを基に、介護モデルデータを構築する。ここで構築された介護モデルデータが基礎として、サポート情報が作成される。
その後、介護支援システム1の運用が開始されてからは、この基礎となる介護モデルデータに、新たに送られてきた映像データによる学習内容が反映されるので、より精度の高い、最適化された介護モデルデータを構築することができる。なお、新たに送られてきた映像データを、基礎となる介護モデルデータに反映させる工程は、後述する上記(5)更新手段の内容とも重複する。
【0050】
この介護モデルデータは、個別具体的な介護サービス作業手段として構築される。例えば、歩行介助の場面であれば、「介護者Zの立ち位置は、被介護者Yの斜め後ろであること」、「被介護者Yが右利きならば左側、左利きならば右側に立つこと」、「被介護者Yに麻痺がある場合は、その麻痺がある側に立つこと」、「被介護者Yの重心移動に気を配ること」、「同じリズムで歩行できるように、『イチ、ニ、イチ、ニ』や『右、左、右、左』などと声掛けすること」などが、介護モデルデータとして構築される。
【0051】
上記(5)の更新手段は、上述した介護モデルデータを定期的に更新する手段である。具体的には、都度データベースに蓄積される映像データを反映させたうえで、介護モデルデータを最新のものに更新する手段である。介護モデルデータを、最適化する手段ともいえる。
【0052】
上記(1)~(4)の手段により、介護モデルデータ構築の基となる映像データは次第に増大していき、映像データのデータ量、即ちビッグデータとしてのデータ量は増大していく。基となるデータ量が多いほど、介護モデルとしての精度は高いといえる。
従って、この更新手段を備えることによって、介護モデルとしての精度が次第に向上し、換言すれば最適化される。この介護支援システム1は、学習して成長するシステムであるということができる。
【0053】
上記(6)の作成手段は、外部コンピューターCが、介護モデルデータに基づいて、受信した映像データに対応するサポート情報を作成する手段である。
サポート情報とは、介護現場における介護者Zの介護サービス作業を支援するための情報であって、介護手順やトラブル発生時の対処方法等が文字、記号、図表、画像、映像又は音声等として表された情報である。
【0054】
サポート情報は、上記(4)によって構築され、上記(5)によって更新された介護モデルデータに基づいて、人工知能のアルゴリズムによって作成される。介護モデルデータには、介護の状況に応じた介護手順や対処方法等が記録されており、送信された映像データから介護現場の状況を把握して、この状況に応じた最適な介護手順や対処方法等を選定して、これをサポート情報として作成するものである。
このサポート情報の具体的内容については、後述する。
【0055】
上記(7)の返信手段は、外部コンピューターCにて、受信した映像データに対応して作成されたサポート情報を、頭部装着型ウェアラブル端末Wへ返信し、この頭部装着型ウェアラブル端末Wが受信するという、通信手段を用いたサポート情報の送受信手段である。
上記(2)と同じく、用いられる通信手段に限定はないが、無線通信であることが好ましい。例えば、Wi-Fi等を用いた無線LAN、携帯電話等における通信に使用される移動通信システムを挙げることができる。特に、第5世代移動通信システム(通称「5G」)を使用すれば、大容量のデータを高速で送受信することができ、高解像度の映像データを送受信することができるので好ましい。
【0056】
上記(8)の表示手段は、介護者が装着した頭部装着型ウェアラブル端末Wにて、受信したサポート情報を発音又は表示する手段である。
詳細は後述するが、頭部装着型ウェアラブル端末Wは、スピーカー機能W2又はディスプレイ機能W3のいずれか一方又は両方が備えられた構成である。このスピーカー機能W2(イヤホン等の形態を含む。詳しくは後述する。)を使用して、音声等の聴覚を通じて認識可能なサポート情報が発音されるか、または、ディスプレイ機能W3を使用して、文字、記号、図表、画像又は映像等の視覚を通じて認識可能なサポート情報が表示される。この発音又は表示されたサポート情報を、介護者Zが確認することによって、被介護者Yに対する介護サービス作業に反映させることができる。
【0057】
続いて、介護者Zが装着する頭部装着型ウェアラブル端末Wについて、図2に従って説明する。
ウェアラブル端末とは、人間が身に着けて使用する情報端末である。手首に装着するリストバンド型や腕時計型、腕に装着するアームバンド型、頭部・顔部に装着する眼鏡型、ヘッドバンド型又はヘッドセット型などが普及している。
【0058】
本発明で使用するウェアラブル端末は、頭部装着型ウェアラブル端末Wである。具体的構成に限定はなく、公知公用の頭部装着型ウェアラブル端末を特別の制限なく採用することができる。前述の通り、頭部・顔部に装着する眼鏡型、ヘッドバンド型又はヘッドセット型を例示することができる。介護者Zが、自身の視線で撮影することができることから、眼鏡型のウェアラブル端末であることが好ましい。
【0059】
図2に示されるように、頭部装着型ウェアラブル端末Wは、カメラ機能W1と、スピーカー機能W2又はディスプレイ機能W3のいずれか一方又は両方を有する構成である。
【0060】
カメラ機能W1とは、映像を撮影して記録する機能であり、映像と共に音も記録される。このカメラ機能によって、介護者Zが被介護者Yに対して介護サービス作業を行う様子が撮影される。
カメラ機能W1の具体的構成に特別な限定はなく、映像を撮影して記録するカメラ機能として公知公用の構成を特別の制限なく採用することができる。
【0061】
スピーカー機能W2とは、音声等の聴覚を通じて認識可能なサポート情報を発音する機能である。これにより、介護者Zは、聴覚を通じてサポート情報を認識することができる。
スピーカー機能W2の具体的構成に特別な限定はなく、音を出す装置として公知公用の構成を特別の制限なく採用することができる。例えば、イヤホンやヘッドホンのような形態を例示することができる。
また、本発明におけるスピーカー機能W2には、一般的にインカムと呼称される構成も含まれるものとする。インカムとは、インターコミュニケーションの略称であり、スピーカー及びマイクロフォンの機能を備え、複数の者と同時に通信を行うことができるコミュニケーションツールである。インターカムと呼称されることもある。
上述の通り、スピーカー機能としてインカムを例示したが、インカムの構成と同じく、本発明の構成では、スピーカー機能と共に、マイクロフォン機能を備える構成とすることが好ましい。
【0062】
ディスプレイ機能W3とは、文字、記号、図表、画像又は映像等の視覚を通じて認識可能なサポート情報を表示する機能である。これにより、介護者Zは、視覚を通じてサポート情報を認識することができる。
ディスプレイ機能の具体的構成に特別な限定はなく、文字や画像等を表示する装置として公知公用の構成を特別の制限なく採用することができる。例えば、スマートグラスにおけるディスプレイ機能のような形態を例示することができる。
【0063】
その他、頭部装着型ウェアラブル端末Wは、通信手段を備える構成である(図示しない)。
採用される通信手段に限定はないが、無線通信であることが好ましい。例えば、Wi-Fi等を用いた無線LAN、携帯電話等における通信に使用される移動通信システムを挙げることができる。特に、第5世代移動通信システム(通称「5G」)を使用すれば、大容量のデータを高速で送受信することができ、高解像度の映像データを送受信することができるので好ましい。
【0064】
頭部装着型ウェアラブル端末Wは、フェイスシールドとしての機能を備えることが好ましい。
現在、新型コロナウィルス感染症対策として、介護の現場において介護者はフェイスシールドを着用することが求められている。従って、頭部装着型ウェアラブル端末Wに、フェイスシールドW4が取り付けられた又は取り付け可能な構成であることが特に好ましい(図2参照)。
【0065】
従来であれば、介護者Zは自身の身体に何らかの器具が取り付けられる事を煩わしく思う傾向にあったが、新型コロナ感染症の蔓延に伴いフェイスシールドの着用が義務となっている介護現場が多い。かかる事情から、フェイスシールドと共にウェアラブル端末を装着することに対して抵抗感が低くなっている。この機会に、介護者Zが頭部装着型ウェアラブル端末Wを装着し、本発明に係るシステムを実施することができれば便宜である。
【0066】
ウェアラブル端末Wの実施例として、図2を示す。
図2は、介護者Zが頭部装着型ウェアラブル端末Wを装着した様子を表した図である。頭部装着型ウェアラブル端末Wには、カメラ機能W1、スピーカー機能W2及びディスプレイ機能W3が備えられている。カメラ機能W2は介護者Zの眼部に近い位置に、スピーカー機能W2は耳に近い位置に、ディスプレイ機能W3は介護者Zが目視可能な位置にそれぞれ設けられることが好ましい。
また、介護者Zの顔面を覆う態様で、フェイスシールドW4が設けられることが好ましい。これにより、飛沫感染等を防止するために装着するフェイスシールドを、本発明の実施に必要な頭部装着型ウェアラブル端末Wと共に装着することができる。なお、フェイスシールドW4が設けられる範囲として、介護現場では介護者Zがマスクを着用することが必須となっているため、その他の顔面部分(特に、眼部及びその周辺。)を覆う範囲であることが好ましい。
【0067】
続いて、サポート情報の具体的内容を例示する。
介護者支援システム1は、サポート情報として、介護者Zが被介護者Yに対して行う会話を内容とする点に特徴がある。被介護者Yとの会話をサポート情報の内容とした理由については、次のとおりである。なお、この「会話」については、介護者Zからの一方的な「呼びかけ」や「声掛け」を含むものとする。
【0068】
前述の通り、問題行動のある被介護者Yに対する会話の内容について、最適な内容とすることで、介護サービス作業を円滑に行うことが可能である。そこで、本発明では、サポート情報として「被介護者に対する会話」の内容を提案内容とした。
【0069】
介護支援システム1は、サポート情報を「被介護者に対する会話」とするために、以下の構成とすることが好ましい。
【0070】
まず、優秀な介護者(問題行動のある被介護者Yへの対応が適切である介護者など)による被介護者Yとの会話内容や呼びかけ・声掛け内容を、外部コンピューターCに、人工知能のアルゴリズムによって学習させ、ビッグデータデータベースに蓄積させ、介護モデルデータの構築に反映させる。この構成は、上記(3)の蓄積手段及び上記(4)の構築手段における構成である。
【0071】
次に、送られてきた映像データから解析される介護現場の状況を把握したうえで、その状況に応じた最適な介護モデルデータを選択して、サポート情報を作成する。この際に作成されるサポート情報は、被介護者に対する会話・声掛けの具体的な内容である。なお、この際のサポート情報の内容に、介護方法など他の情報が含まれても構わない。
【0072】
作成されたサポート情報は、介護者Zが装着する頭部装着型ウェアラブル端末Wへ返信され、介護者Zはこれを参照して被介護者Yに対する会話や声掛けを行うことができる。
これにより、被介護者Yに対して適切な会話・声掛けを実践すれば、被介護者Yが問題行動に出ることを抑制することができる。また、問題行動に出る行為を抑制することで、介護サービス作業を効率的に行うこともできる。
【0073】
会話内容をサポート情報とする例として、次のような事項を挙げることができる。
まず、被介護者Yからの信頼を得るための声掛けをサポート情報とすることが挙げられる。被介護者Yは、視覚や聴覚、認知能力の低下等によって、周りの状況を正確に把握することができないことがある。そこで、介護者Zは、自分が「ここにいます」ということを伝えることが好ましい。介護者Zが傍にいることを把握できず、急に介護作業に入ってくれば、被介護者Yは驚き、怒りの言動をみせることや介護拒否等の問題行動に出ることがあるためである。外部コンピューターCが、送信されてきた映像データに基づいて、被介護者Yが介護者Zに気づいていないと判断すれば、まずは自分が傍にいることを伝えるためのサポート情報を作成することが好ましい。具体的には、「〇〇さん、こんにちは。」、「これから〇〇をしますが、良いですか?」、「私と一緒に、〇〇をしてもらえますか?」等と声掛けすることを提案する内容のサポート情報を作成する。
【0074】
次に、介護現場における会話・声掛けにおいて、大きな目的から伝えることも重要である。「立ってください」や「ここに掴まってください」など細かい内容から伝えると、被介護者Yは何をされるのか理解できず、介護拒否等につながる場合がある。よって、大きな目的である「食事に行きましょう」や「お風呂にいきませんか?」など、大きな目的を伝えたうえで、「それでは立ってください」や「車いすに移動しましょう」など細かい指示を伝えることが好ましく、サポート情報はこのような事項を考慮した上で作成されることが好ましい。
【0075】
次に、介護作業中にあっても、介護者Zが積極的に被介護者Yに対して話しかけることが好ましい場合もある。その場合には、「もっと話しかけましょう。」と会話を促すサポート情報の他、「庭の花が咲いた話をしてはどうですか?」、「ご家族の話をしてはいかがでしょうか。」等の具体的な会話内容の提案をサポート情報として作成し、介護者Zへ伝えることが好ましい。
【0076】
また、会話や声掛けが、被介護者Yに伝わっているかを確認することも重要である。被介護者Yの返事や反応をみることも重要であるが、認知症の者や耳が遠い者の場合、この反応を正確に把握することは容易でない。この反応を把握する手段は、後述する。
なお、被介護者Yが、会話や声掛けに反応していない又は伝わっていない等と判断した場合は、「もう少し大きな声で話しかけましょう。」、「身振り手振りも使って話しかけましょう。」、「被介護者Yの視界に入る位置から話しかけましょう。」等のサポート情報を作成して、再び介護者Zへ伝えることが好ましい。
なおまた、被介護者Yが、介護者Zの声掛けに対して、不快な反応を示した判断した場合には、「声のトーンを高くしましょう。」、「笑顔で話しかけましょう。」等のサポート情報を作成して、再び介護者Zへ伝えることが好ましい。
【0077】
続いて、介護者Zの声掛けに対して、被介護者Yが反応しているか否かを把握する手段について説明する。
【0078】
被介護者Yの中には、認知症の者や耳が遠い者も多く、介護者Zの声掛けに対して返答をしない又は返答できない者も少なくない。介護現場において、介護者Zは被介護者Yに対して多くの声掛けをすることが求められるが、被介護者Yから返答がないことも多く、声掛けの効果を把握することは難しい。声掛けに対する反応を把握できないことにより、介護拒否に遭うこともあり、これが遣り甲斐・モチベーションの低下を招くこともあり、ひいては離職につながる場合もある。
【0079】
一方で、介護者Zの声掛けに対して返答をしない又は返答できない場合であっても、声掛けに対して反応をしているケースもある。その反応のひとつとして、介護者Zから声掛けされた被介護者Yに、心拍数の変化が表れることが知られている。この現象を利用して、介護者Zが、被介護者Yの心拍数変化を把握することができれば、声掛けに対して被介護者Yが反応しているか否かを判断することができる。
【0080】
そこで、被介護者Yに心拍数計Hを装着させ、介護者Zからの声掛けに対する被介護者Yの心拍数変化を検知して、これを介護者Zに伝達する構成を採用した。
この構成であれば、声掛けに対する被介護者Yの反応を把握することができるので、上述した遣り甲斐・モチベーションの低下を防止・抑制することができ、離職の原因の一つを解消することができるので、ひいては離職者の数を減少させる効果が期待できる。
【0081】
図3は、被介護者Yに心拍数計Hを装着させる実施例を示す図である。
ここで使用する心拍数計Hに限定はないが、手首等に装着可能なウェアラブルタイプの心拍数計であることが好ましい。スマートウォッチ等と呼称される腕時計型の情報端末にも、心拍数を計測する機能を有するものが市販されており、これを使用しても良い。
【0082】
被介護者Yが装着する心拍数計Hは、無線通信機能を有している。例えば、Bluetooth(登録商標)等の近距離無線通信を挙げることができる。身体介護という状況から、被介護者Yが装着する心拍数計Hと、介護者Zが装着する頭部装着型ウェアラブル端末Wは、数メートル以内の距離にあることが想定されるので、近距離無線通信が好ましいと考えられる。
【0083】
この無線通信機能を利用して、介護者Zが装着する頭部装着型ウェアラブル端末Wへ心拍数のデータを送信することにより、介護者Zは、この頭部装着型ウェアラブル端末Wによって被介護者Yの心拍数変化を把握することができる。
【0084】
頭部装着型ウェアラブル端末Wにおける心拍数変化の把握手段として、具体的な心拍数をスピーカー機能W2で音声伝達するか、ディスプレイ機能W3で表示させる手段が挙げられる。この他、具体的な心拍数を知らせるのではなく、心拍数の変化、即ち声掛けに対して反応があったか否かの判定結果のみを知らせる手段を採用してもよい。
【0085】
なお、心拍数の値や反応の判定結果は、頭部装着型ウェアラブル端末W内において直接処理してもよいし、受信した心拍数の情報を一度外部コンピューターCへ送信し、この外部コンピューターCで処理された後、サポート情報の一部として、介護者Zが装着する頭部装着型ウェアラブル端末Wへ返信してもよい。後者の方法であれば、被介護者Yの心拍数データを外部コンピューターCに記録して管理することができ、また、声掛けに対する反応有無の判断を、コンピューターの高度な処理能力を利用して行うこともできる。
【0086】
続いて、被介護者Yが、実際に摂取した食事の内容を正確に把握する手段について説明する。
介護施設等の介護現場においては、被介護者Yに配膳する食事について、個々の被介護者の健康状態や体調などを考慮して、必要な栄養素を摂取できるように献立が作られ、食事面において栄養管理がされている。そして、提供する食事の形状も、「容易にかめる」「歯ぐきでつぶせる」「舌でつぶせる」「かまなくてよい」の4段階があり、被介護者の嚥下機能に合わせて調節されている。
【0087】
一方で、必要な栄養素を摂取できる食事を配膳したとしても、被介護者がその食事を残さず食べきるとは限らない。食べ残しがあると、その分の栄養素は摂取できないことになり、栄養管理が万全とはいえない。また、被介護者が何らかの理由で体調を崩した際に、その前に口にした食事の内容を確認するのが一般的である。この場合でも、食べ残しを正確に把握していないと、体調を崩した理由が食事にあるか否かの判断が適切に行えないという問題がある。
【0088】
本発明は、介護者Zが頭部装着型ウェアラブル端末Wを装着して実施される介護支援システム1である。この頭部装着型ウェアラブル端末Wを利用して、被介護者Yが実際に摂取した食事の内容を正確に把握することができれば便宜である。
【0089】
そこで、本発明では、介護者Zが装着する頭部装着型ウェアラブル端末Wを使用して、食事を片付ける際に食べ残しを撮影し、その撮影した映像データを外部コンピューターCへ送信することにより、この外部コンピューターCにて実際に摂取した食事内容を正確に把握する手段を採用した。頭部装着型ウェアラブル端末Wのマイクロフォン機能を利用して、介護者Zが、被介護者Yの氏名や提供時刻を発話して、対象の被介護者Yが摂取した食事内容を外部コンピューターCで把握しやすくしても良い。食べ残しがない場合であっても、空の食器を撮影することにより、配膳した食事をすべて食した旨を把握することができる。
その結果、被介護者Yが適切に栄養を摂取しているか、体調を崩した際に、食事内容が影響しているか否か等の判断を正確に行うことができる。また、その食事内容を含めた介護記録を正確に残すことができる。
【0090】
最後に、上述した会話、呼びかけ又は声掛けに関する機能について説明する。
上述の通り、我が国では介護者の人数が大幅に不足しており、今後更に不足することが予測されている。その解決策の一つとして、外国人労働者を介護者として採用する方策が挙げられている。この外国人労働者は、ある程度は日本語によるコミュニケーションが可能であるが、介護現場における声掛け等は言葉の選び方などが難しく、最適な声掛け等を行うことは容易でない。
そこで、本発明に係る介護支援システム1には、自動翻訳機能が付加されることが好ましい。自動翻訳機能については、既に様々なツールが提案されており、これらの自動翻訳機能を特別の制限なく採用することができる。中でも、介護者Zが外国語で発した言葉を、日本語に翻訳して自動的に音声化される構成を採用することが好ましい。また、この自動翻訳機能は、頭部装着型ウェアラブル端末Wに搭載されることが好ましい。
これにより、日本語によるコミュニケーションが得意でない者(特に、外国人労働者。)であっても、最適な声掛け等を行うことができる。
【符号の説明】
【0091】
1 介護支援システム
2 声掛けに対する反応判定システム
W ウェアラブル端末
W1 カメラ機能
W2 スピーカー機能
W3 ディスプレイ機能
W4 フェイスシールド
C コンピューター
S 外部記憶装置
H 心拍数計
N ネットワーク(有線・無線)
Y 被介護者
Z 介護者

図1
図2
図3
図4