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特開2024-142140回転電機用ロータ、永久磁石組立体、及び回転電機用ロータの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142140
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】回転電機用ロータ、永久磁石組立体、及び回転電機用ロータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/276 20220101AFI20241003BHJP
   H02K 15/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H02K1/276
H02K15/02 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054165
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 克彦
(72)【発明者】
【氏名】牧村 友貴
【テーマコード(参考)】
5H615
5H622
【Fターム(参考)】
5H615AA01
5H615PP02
5H615SS09
5H622PP09
(57)【要約】
【課題】磁石収容孔15に対して永久磁石17を強固に固設する。
【解決手段】本発明に係る回転電機用ロータ11は、複数の磁石収容孔15を有するロータコア13と、複数の永久磁石17と、を備える。磁石収容孔15は、内径側壁面15a及び外径側壁面15bを有する。永久磁石17は、内径面17a及び外径面17bを有する。永久磁石17には、厚み方向に発泡層19a及び接着層19bを積層してなる発泡接着シート19が設けられている。発泡層19aが発泡により膨らんだ状態の発泡接着シート19の発泡層19aが磁石収容孔15の外径側壁面15bに密着すると共に、永久磁石17の内径面17aが磁石収容孔15の内径側壁面15aに密着することにより、永久磁石17が磁石収容孔15に固設される。
【選択図】図1C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に所定の間隔を置いて設けられた複数の磁石収容孔を有する略円環形状のロータコアと、前記複数の磁石収容孔にそれぞれ収容された複数の永久磁石と、を備える回転電機用ロータであって、
前記磁石収容孔は、前記ロータコアを軸方向に貫通させて設けられ、径方向内側で周方向に延びる内径側壁面、及び径方向外側で周方向に延びる外径側壁面を有し、
前記永久磁石は、前記磁石収容孔の前記内径側壁面に対向する内径面、及び前記磁石収容孔の前記外径側壁面に対向する外径面を有し、
前記永久磁石には、厚み方向に発泡層及び接着層を積層してなる発泡接着シートが、該永久磁石の前記外径面に対して前記接着層が接着された状態で設けられており、
前記発泡層が発泡により膨らんだ状態の前記発泡接着シートの該発泡層が前記磁石収容孔の前記外径側壁面に密着すると共に、前記永久磁石の前記内径面が前記磁石収容孔の前記内径側壁面に密着することにより、当該永久磁石が当該磁石収容孔に固設されている
ことを特徴とする回転電機用ロータ。
【請求項2】
周方向に所定の間隔を置いて設けられた複数の磁石収容孔を有する略円環形状のロータコアと、前記複数の磁石収容孔にそれぞれ収容された複数の永久磁石と、を備える回転電機用ロータであって、
前記磁石収容孔は、前記ロータコアを軸方向に貫通させて設けられ、径方向内側で周方向に延びる内径側壁面、及び径方向外側で周方向に延びる外径側壁面を有し、
前記永久磁石は、前記磁石収容孔の前記内径側壁面に対向する内径面、前記磁石収容孔の前記外径側壁面に対向する外径面、及び軸方向に対して直交する方向に拡がる一対の端面を有し、
前記永久磁石には、厚み方向に発泡層及び接着層を積層してなるひとつながりの発泡接着シートが、該永久磁石の前記外径面及び前記一対の端面にわたって前記接着層が接着された状態で設けられており、
発泡により膨らんだ状態の前記発泡接着シートの前記発泡層が前記磁石収容孔の前記外径側壁面に密着すると共に、前記永久磁石の前記内径面が前記磁石収容孔の前記内径側壁面に密着し、かつ、前記発泡接着シートの前記接着層が前記永久磁石の一対の端面に接着されることで該一対の端面を把持することにより、当該永久磁石が当該磁石収容孔に固設されている
ことを特徴とする回転電機用ロータ。
【請求項3】
請求項2に記載の回転電機用ロータであって、
前記発泡接着シートは、前記接着層が前記永久磁石の前記外径面を覆う部分である磁石本体被覆部と、前記接着層が前記永久磁石の前記一対の端面をそれぞれ覆う部分である一対の磁石端面被覆部と、を備える
ことを特徴とする回転電機用ロータ。
【請求項4】
回転電機用ロータに備わる略円環形状のロータコアに設けた磁石収容孔に組み込まれる永久磁石組立体であって、
軸方向に延びると共に横断面が矩形状に形成された永久磁石と、当該永久磁石に設けられ、厚み方向に発泡層及び接着層を積層してなるひとつながりの発泡接着シートと、からなり、
前記永久磁石は、前記磁石収容孔の内径側壁面に対向する内径面、前記磁石収容孔の外径側壁面に対向する外径面、及び軸方向に対して直交する方向に拡がる一対の端面を有し、
前記永久磁石には、前記発泡接着シートが、当該永久磁石の前記外径面及び前記一対の端面にわたって、前記接着層が接着された状態で設けられており、
前記発泡接着シートは、前記接着層が前記永久磁石の前記外径面を覆う部分である磁石本体被覆部と、前記接着層が前記永久磁石の前記一対の端面をそれぞれ覆う部分である一対の磁石端面被覆部と、を備える
ことを特徴とする永久磁石組立体。
【請求項5】
周方向に所定の間隔を置いて設けられた複数の磁石収容孔を有する略円環形状のロータコアと、前記複数の磁石収容孔にそれぞれ収容された複数の永久磁石と、を備え、
前記磁石収容孔は、前記ロータコアを軸方向に貫通させて設けられ、径方向内側で周方向に延びる内径側壁面、及び径方向外側で周方向に延びる外径側壁面を有し、
前記永久磁石は、軸方向に延びると共に横断面が矩形状に形成され、前記磁石収容孔の前記内径側壁面に対向する内径面、前記磁石収容孔の前記外径側壁面に対向する外径面、及び軸方向に対して直交する方向に拡がる一対の端面を有する、回転電機用ロータの製造方法であって、
前記永久磁石に対し、厚み方向に発泡層及び接着層を積層してなるひとつながりの発泡接着シートを、該永久磁石の前記外径面及び前記一対の端面にわたって前記接着層が接着された状態で設けてなる永久磁石組立体を製造する工程と、
前記永久磁石組立体を前記磁石収容孔に、前記永久磁石の前記内径面を前記磁石収容孔の前記内径側壁面に対向させた状態で挿し込み収容する工程と、
前記磁石収容孔の一対の開口部を通して臨む前記永久磁石の前記一対の端面を、治具を用いて押圧した状態で前記磁石収容孔に収容された前記永久磁石組立体を加熱することで前記発泡接着シートの前記発泡層を発泡させる工程と、を有し、
前記発泡により膨らんだ状態の前記発泡接着シートの前記発泡層が前記磁石収容孔の前記外径側壁面に密着すると共に、前記永久磁石の前記内径面が前記磁石収容孔の前記内径側壁面に密着し、かつ、前記治具を用いた押圧により前記発泡接着シートの前記接着層が前記永久磁石の一対の端面に強固に接着されることで該一対の端面を把持することにより、当該永久磁石が当該磁石収容孔に固設される
ことを特徴とする回転電機用ロータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両等に搭載される回転電機用ロータ、回転電機用ロータに組み込まれる永久磁石組立体、及び回転電機用ロータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、低炭素社会の実現に向けた取り組みとして、車両の駆動源である内燃機関に加えて又は代えて、回転電機を搭載した電動車両が普及している。
【0003】
回転電機は、円環形状のステータ、及び円筒形状のロータを備えて構成されている。ステータは、ステータコアに備わる複数のスロットのそれぞれに、ステータコイルを設けて構成される。ロータは、ステータの内周面に対して僅かな空隙を隔てて、回動自在に設けられる。ロータに備わるロータコアには、周方向に等しい間隔を置いて複数の永久磁石が配設されている。
【0004】
本願出願人は、ロータに備わるロータコアと、ロータコアに設けた磁石収容孔に収容された永久磁石と、を備える回転電機用ロータに関する発明を開示している(特許文献1参照)。
特許文献1に係る回転電機用ロータでは、永久磁石と磁石収容孔との間に、発泡層及び接着層が径方向に積層する発泡接着シートが設けられている。発泡層が発泡して、接着層が磁石収容孔に密着することで、永久磁石が磁石収容孔に固設される。
特許文献1に係る回転電機用ロータによれば、磁石収容孔に永久磁石を固設する際に、磁石固設用の樹脂注入を要することなく、永久磁石を磁石収容孔に固設することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-100353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に係る回転電機用ロータでは、永久磁石と磁石収容孔との間に、発泡層及び接着層が径方向に積層する発泡接着シートを発砲層が永久磁石の方を向くように配設した状態で発泡層を発泡させ、永久磁石に係る外径側壁面及び磁石収容孔に係る外径側壁面間に押圧力(せん断応力)を生じさせることによって、磁石収容孔に対する永久磁石の固設を行っている。
【0007】
しかし、特許文献1に係る回転電機用ロータでは、発泡接着シートを永久磁石に装着した状態の永久磁石組立体を磁石収容孔へと挿入する際に、発砲層が永久磁石の方を向くように発泡接着シートを永久磁石に装着している。そのため、永久磁石及び発泡接着シート間の接着力が弱く、永久磁石及び発泡接着シート間の位置ずれを生じるおそれがある点で改良の余地があった。
【0008】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、発泡接着シートを永久磁石に装着した状態の永久磁石組立体を磁石収容孔へと挿入する際に、永久磁石及び発泡接着シート間の位置ずれを生じさせることなく、磁石収容孔に対して永久磁石を強固に固設可能な回転電機用ロータ、回転電機用ロータに組み込まれる永久磁石組立体、及び回転電機用ロータの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明に係る回転電機用ロータは、周方向に所定の間隔を置いて設けられた複数の磁石収容孔を有する略円環形状のロータコアと、前記複数の磁石収容孔にそれぞれ収容された複数の永久磁石と、を備える回転電機用ロータであって、前記磁石収容孔は、前記ロータコアを軸方向に貫通させて設けられ、径方向内側で周方向に延びる内径側壁面、及び径方向外側で周方向に延びる外径側壁面を有し、前記永久磁石は、前記磁石収容孔の前記内径側壁面に対向する内径面、及び前記磁石収容孔の前記外径側壁面に対向する外径面を有し、前記永久磁石には、厚み方向に発泡層及び接着層を積層してなる発泡接着シートが、該永久磁石の前記外径面に対して前記接着層が接着された状態で設けられており、前記発泡層が発泡により膨らんだ状態の前記発泡接着シートの該発泡層が前記磁石収容孔の前記外径側壁面に密着すると共に、前記永久磁石の前記内径面が前記磁石収容孔の前記内径側壁面に密着することにより、当該永久磁石が当該磁石収容孔に固設されていることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る回転電機用ロータによれば、発泡接着シートを設けた状態の永久磁石を磁石収容孔へと挿入する際に、永久磁石及び発泡接着シート間の位置ずれを生じさせることなく、磁石収容孔に対して永久磁石を強固に固設することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】本発明の実施形態に係る回転電機用ロータを備える回転電機の正面図である。
図1B図1Aに示す回転電機用ロータの要部(永久磁石組立体なし)を拡大して表す正面図である。
図1C図1Aに示す回転電機用ロータの要部(永久磁石組立体あり)を拡大して表す正面図である。
図2A】本発明の実施形態に係る永久磁石組立体の外観を表す斜視図である。
図2B図2Aに示す永久磁石組立体の一端部を透視して表す斜視図である。
図2C図2Aに示す永久磁石組立体に設けられた発泡接着シートの積層構造を表す斜視図である。
図3】本発明の実施形態に係る回転電機用ロータの製造方法の手順を表す工程図である。
図4図3に示す回転電機用ロータの製造方法のうち、永久磁石組立体を磁石収容孔に挿し込み収容する工程を表す斜視図である。
図5A図3に示す回転電機用ロータの製造方法のうち、永久磁石組立体が磁石収容孔の所定位置に収容された状態を表す断面図である。
図5B図3に示す回転電機用ロータの製造方法のうち、治具を用いた押圧により発泡接着シートの接着層が永久磁石の一対の端面に強固に接着される工程を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る回転電機用ロータ、永久磁石組立体、及び回転電機用ロータの製造方法のそれぞれの実施形態について、適宜の図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、以下に示す図面において、同一の部材又は対応する部材間には同一の参照符号を付する。また、部材のサイズ及び形状は、説明の便宜のため、変形又は誇張して模式的に表す場合がある。
【0013】
〔本発明の実施形態に係る回転電機用ロータ11の要旨〕
はじめに、本発明の実施形態に係る回転電機用ロータ11の要旨について説明する。
本発明の実施形態に係る回転電機用ロータ11(図1A図1C参照)は、周方向に所定の間隔を置いて設けられた複数の磁石収容孔15を有する略円環形状のロータコア13と、前記複数の磁石収容孔15にそれぞれ収容された複数の永久磁石17と、を備える。
磁石収容孔15は、ロータコア13を軸方向に貫通させて設けられ、径方向内側で周方向に延びる内径側壁面15a(図1B図1C参照)、及び径方向外側で周方向に延びる外径側壁面15b(図1B図1C参照)を有する。永久磁石17は、磁石収容孔15の内径側壁面15aに対向する内径面17a(図1C参照)、及び磁石収容孔15の外径側壁面15bに対向する外径面17b(図1C参照)を有する。
永久磁石17には、厚み方向に発泡層19a及び接着層19bを積層してなる発泡接着シート19(図1C図2A参照)が、永久磁石17の外径面17bに対して接着層19bが接着された状態で設けられている。発泡層19aが発泡により膨らんだ状態の発泡接着シート19の該発泡層19aが磁石収容孔15の外径側壁面15bに密着すると共に、永久磁石17の内径面17aが磁石収容孔15の内径側壁面15aに密着することにより、当該永久磁石17が当該磁石収容孔15に固設されている。
本発明の実施形態に係る回転電機用ロータ11によれば、発泡接着シート19を設けた状態の永久磁石17を磁石収容孔15へと挿入する際に、永久磁石17及び発泡接着シート19間の位置ずれを生じさせることなく、磁石収容孔15に対して永久磁石17を強固に固設することができる。
以下、本発明の実施形態に係る回転電機用ロータ11の詳細について、順次説明する。
【0014】
〔本発明の実施形態に係る回転電機用ロータ11、永久磁石組立体31の構成〕
次に、本発明の実施形態に係る回転電機用ロータ11、永久磁石組立体31の構成について、図1A図1C図2A図2Bを適宜参照して詳細に説明する。
図1Aは、本発明の実施形態に係る回転電機用ロータ11を備える回転電機10の正面図である。図1Bは、図1Aに示す回転電機用ロータ11の要部(永久磁石組立体31なし)を拡大して表す正面図である。図1Cは、図1Aに示す回転電機用ロータ11の要部(永久磁石組立体31あり)を拡大して表す正面図である。図2Aは、本発明の実施形態に係る永久磁石組立体31の一端部を透視して表す斜視図である。図2Bは、図2Aに示す永久磁石組立体31に設けられた発泡接着シート19の積層構造を表す斜視図である。
【0015】
はじめに、本発明の実施形態に係る回転電機用ロータ(以下、「ロータ」と省略して呼ぶ場合がある。)11が備わる回転電機10の概略構成について、図1Aを参照して説明する。
【0016】
回転電機10は、図1Aに示すように、全体として円筒状のロータ11、及び全体として円環状のステータ21を備えて構成されている。ロータ11は、ステータ21の内周面に対して僅かな空隙を隔てて、回動自在に設けられる。ロータ11に備わるロータコア13には、周方向に所定の間隔を置いて複数の磁石収容孔15が開設されている。複数の磁石収容孔15のそれぞれには、複数の永久磁石17が収容されている。ロータ11には、回転軸20が固設されている。
【0017】
ステータ21は、ステータコア23に備わる複数のスロット25のそれぞれに、ステータコイル27を設けて構成される。
ロータコア13は、例えば、円環状に形成された複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成される。また、ステータコア23は、ロータコア13と同様に、例えば、円環状に形成された複数枚の電磁鋼板を軸方向に積層して構成される。
【0018】
回転電機10では、ステータコイル27にモータ電流を流すと、ステータ21に回転磁界が発生する。こうしてステータ21に発生した回転磁界と、ロータコア13の磁石収容孔15に設けた永久磁石31による磁界と、が相互作用することによって、ロータ11が回転駆動される。
【0019】
本発明の実施形態に係る回転電機用ロータ11に備わるロータコア13には、図1A図1Cに示すように、3つを一組とする磁石収容孔15が、周方向に均しい間隔を置いて都合12組(組数は特に限定されない。)開設されている。3つを一組とする磁石収容孔15は、中央に位置する磁石収容孔15が周方向に沿って延びるように配設される一方、その周方向両側の位置する磁石収容孔15のそれぞれが、中央に位置する磁石収容孔15に対して線対称に傾斜して延びるように配設されている。これにより、3つを一組とする磁石収容孔15を軸方向から観た横断面は、例えば、径方向外側に向かって開く略V字状に形成されている。
なお、以下では、本発明に係る説明をするのに適した中央に位置する磁石収容孔15の構成に注目して説明を進めることとする。
【0020】
ロータコア13に開設された磁石収容孔15は、図1B図1Cに示すように、ロータコア13を軸方向に貫通させて設けられ、径方向内側で周方向に延びる内径側壁面15a、及び径方向外側で周方向に延びる外径側壁面15bを有する。
【0021】
磁石収容孔15に収容される永久磁石17は、図2Aに示すように、軸方向に延びると共に横断面が矩形状に形成された棒状体により構成されている。永久磁石17は、磁石収容孔15の内径側壁面15aに対向する内径面17a、磁石収容孔15の外径側壁面15bに対向する外径面17b、及び、軸方向に対して直交する方向に拡がる一対の端面17c、17dを有する。ロータコア13の磁石収容孔15に収容された永久磁石17によって磁極部が構成されている。
永久磁石17としては、特に限定されないが、高トルク密度化を狙って、例えば、高磁気特性を有するネオジム磁石等の希土類磁石を好適に用いることができる。
【0022】
永久磁石組立体31(詳しくは後記)が磁石収容孔15に収容された状態(図1C参照)において、永久磁石17の軸方向寸法Tmg(図2A図5A参照)は、磁石収容孔15の軸方向寸法、すなわち、ロータコア13の軸方向寸法Trt(図5A参照)と比べて、少なくとも、永久磁石17の一対の端面17c、17dにそれぞれ接着される発泡接着シート19(発泡層19aの発泡前)の厚み分だけ小さいサイズに設定されている。
【0023】
永久磁石組立体31は、図2A図2Bに示すように、永久磁石17と、永久磁石17に設けられ、厚み方向に発泡層19a及び接着層19bを積層してなる(図2C参照)、ひとつながりの発泡接着シート19と、からなる。
【0024】
発泡接着シート19は、図2Aに示すように、永久磁石17の外径面17bを覆う部分である磁石本体被覆部19Aと、永久磁石17の一対の端面17c、17dをそれぞれ覆う部分である一対の磁石端面被覆部19B、19Cと、を備える。発泡接着シート19は、ひとつながりに切れ目なく形成した磁石本体被覆部19A及び一対の磁石端面被覆部19B、19Cを用いて、永久磁石17の外径面17b及び一対の端面17c、17dをもれなく被覆することができる。
【0025】
要するに、永久磁石17には、厚み方向に発泡層19a及び接着層19bを積層してなるひとつながりの発泡接着シート19が、永久磁石17の外径面17b及び一対の端面17c、17dにわたって接着層19bが接着された状態で設けられている。これにより、永久磁石組立体31が構成されている。
【0026】
〔本発明の実施形態に係る回転電機用ロータの製造方法〕
次に、本発明の実施形態に係る回転電機用ロータ11の製造方法について、図3図4図5A図5Bを適宜参照して詳細に説明する。
図3は、本発明の実施形態に係る回転電機用ロータ11の製造方法の手順を表す工程図である。図4は、図3に示す回転電機用ロータ11の製造方法のうち、永久磁石組立体31を磁石収容孔15に挿し込み収容する工程を表す斜視図である。図5Aは、図3に示す回転電機用ロータ11の製造方法のうち、永久磁石組立体31が磁石収容孔15の所定位置に収容された状態を表す断面図である。図5Bは、図3に示す回転電機用ロータ11の製造方法のうち、治具33を用いた押圧により発泡接着シート19の接着層19bが永久磁石17の一対の端面17c、17dに強固に接着される工程を表す断面図である。
【0027】
本発明の実施形態に係る回転電機用ロータ11の製造方法は、図3に示すように、永久磁石17に対し、厚み方向に発泡層19a及び接着層19bを積層してなるひとつながりの発泡接着シート19を、該永久磁石17の外径面17b及び一対の端面17c、17dにわたって接着層19bが接着された状態で設けてなる永久磁石組立体31を製造する工程(ステップS11)と、永久磁石組立体31を磁石収容孔15に、永久磁石17の内径面17aを磁石収容孔15の内径側壁面15aに対向させた状態で挿し込み収容する工程(図4参照;ステップS12)と、磁石収容孔15の一対の開口部15c、15d(図5A図5B参照)を通して臨む永久磁石17の一対の端面17c、17dを、治具33を用いて押圧した状態で磁石収容孔15に収容された永久磁石組立体31を加熱することで発泡接着シート19の発泡層19aを発泡させる工程(ステップS13)と、を有する。
【0028】
ステップS11の永久磁石組立体31を製造する工程では、永久磁石17の外径面17b及び一対の端面17c、17dにわたってひとつながりの発泡接着シート19の接着層19bを接着することにより、永久磁石17に対して発泡接着シート19が仮固定された永久磁石組立体31が製造される。これにより、永久磁石17及び発泡接着シート19間の位置ずれを生じさせることなく、永久磁石組立体31を磁石収容孔15に挿し込み収容する準備が整う。
【0029】
ステップS12の永久磁石組立体31を磁石収容孔15に挿し込み収容する工程では、永久磁石組立体31が所定の向きで磁石収容孔15の所定の収容場所に位置決めされる。これにより、永久磁石組立体31を磁石収容孔15の所定の収容場所に位置決めした状態で強固に固設する準備が整う。
ステップS12の準備段階では、図5Aに示すように、磁石本体被覆部19Aの外径側壁面19A1と、磁石収容孔15の外径側壁面15bとの間には、わずかな空隙GPが設けられている。これにより、ステップS12の準備段階において、永久磁石組立体31を磁石収容孔15に円滑に挿し込み収容することができる。
【0030】
ステップS13の発泡接着シート19の発泡層19aを発泡させる工程では、永久磁石組立体31を磁石収容孔15の所定の収容場所に位置決めし、かつ、永久磁石17の一対の端面17c、17dを、治具33を用いて押圧した状態で磁石収容孔15に収容された永久磁石組立体31を加熱することで発泡接着シート19の発泡層19aを発泡させる。
ステップS13の発泡後の段階では、図5Bに示すように、磁石本体被覆部19Aの外径側壁面19A1と、磁石収容孔15の外径側壁面15bとは、発泡層19aの発泡により生じた押圧力の作用によって密着している(空隙GPは消失している)。これにより、永久磁石組立体31を磁石収容孔15の所定の収容場所に位置決めした状態で強固に固設することができる。
【0031】
また、発泡接着シート19のうち一対の磁石端面被覆部19B、19Cでは、治具33を用いた押圧力と、発泡層19aの発泡により生じた押圧力とが相まって、永久磁石17の一対の端面17c、17dにおいて、永久磁石17に対する発泡接着シート19の接着力が飛躍的に高まる一方で、一対の磁石端面被覆部19B、19Cの薄肉化を期待することができる。その結果、例えば、永久磁石17の軸方向寸法を(一対の磁石端面被覆部19B、19Cの薄肉化の分だけ)延ばす等、回転電機10の電磁作用に寄与する構成部材を有効活用可能となる点で、回転電機10の効率を高める効果を期待することができる。
【0032】
本発明の実施形態に係る回転電機用ロータ11の製造方法では、加熱発泡により膨らんだ状態の発泡接着シート19の発泡層19aが磁石収容孔15の外径側壁面15bに密着すると共に、永久磁石17の内径面17aが磁石収容孔15の内径側壁面15aに密着し、かつ、治具33を用いた押圧により発泡接着シート19の接着層19bが永久磁石17の一対の端面17c、17dに強固に接着されることで該一対の端面17c、17dを把持することにより、永久磁石17が磁石収容孔15に固設される。
【0033】
本発明の実施形態に係る回転電機用ロータ11の製造方法によれば、発泡接着シート19を設けた状態の永久磁石17を磁石収容孔15へと挿入する際に、永久磁石17及び発泡接着シート19間の位置ずれを生じさせることなく、磁石収容孔15に対して永久磁石17を強固に固設することができる。
【0034】
また、本発明の実施形態に係る回転電機用ロータ11及び永久磁石組立体31によれば、前記と同様に、発泡接着シート19を設けた状態の永久磁石17を磁石収容孔15へと挿入する際に、永久磁石17及び発泡接着シート19間の位置ずれを生じさせることなく、磁石収容孔15に対して永久磁石17を強固に固設する効果を奏する。
【0035】
〔その他の実施形態〕
以上説明した複数の実施形態は、本発明の具現化の例を示したものである。したがって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されることがあってはならない。本発明はその要旨またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形態で実施することができるからである。
【0036】
例えば、本発明の実施形態に係る回転電機用ロータ11の説明において、3つを一組とする磁石収容孔15を例示して説明したが、本発明はこの例に限定されない。
ロータコア13に設けられる磁石収容孔15の配置構成・配置形状・サイズ・個数は、いかなる配置構成・配置形状・サイズ・個数であっても構わない。
【符号の説明】
【0037】
10 回転電機
11 ロータ(回転電機用ロータ)
13 ロータコア
15 磁石収容孔
15a 磁石収容孔の内径側壁面
15b 磁石収容孔の外径側壁面
17 永久磁石
17a 永久磁石の内径面
17b 永久磁石の外径面
19 発泡接着シート
19a 発泡層
19b 接着層
31 永久磁石組立体
33 治具
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5A
図5B