(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142144
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】制御システム、制御装置、制御方法、制御プログラム、自律走行装置
(51)【国際特許分類】
G05D 1/43 20240101AFI20241003BHJP
【FI】
G05D1/02 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054174
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】藤本 啓吾
(72)【発明者】
【氏名】加藤 祐基
【テーマコード(参考)】
5H301
【Fターム(参考)】
5H301AA01
5H301BB05
5H301CC03
5H301CC06
5H301CC10
5H301GG06
5H301GG07
5H301GG08
5H301GG09
5H301HH10
5H301HH19
5H301LL02
5H301LL11
5H301LL14
5H301LL17
(57)【要約】
【課題】人間に対するリスクヘッジ能力を発揮する、自律走行装置の制御技術の提供。
【解決手段】自律走行装置の走行エリアにおける自律走行を制御する制御システムのプロセッサは、走行エリアに存在する物体との間に、自律走行装置が周囲の監視対象者を挟み込むリスクを判定するための、リスク判定条件Crを監視することと、リスク判定条件Crが成立した場合に、自律走行装置を自律走行させるための駆動トルクTdを制限することとを、実行するように構成される。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロセッサ(12)を有し、自律走行装置(1)の走行エリアにおける自律走行を制御する制御システムであって、
前記プロセッサは、
前記走行エリアに存在する物体(Od)との間に、前記自律走行装置が周囲の監視対象者(Om)を挟み込むリスクを判定するための、リスク判定条件(Cr)を監視することと、
前記リスク判定条件が成立した場合に、前記自律走行装置を自律走行させるための駆動トルク(Td)を制限することとを、実行するように構成される制御システム。
【請求項2】
前記リスク判定条件を監視することは、
前記物体と前記自律走行装置との間に生じるフリースペース(Fs)の距離方向におけるスペースサイズ(Ls)が、挟み込みリスクの想定されるリスク範囲(Lr)内まで小さくなることにより成立する、前記リスク判定条件を監視することを、含む請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
前記リスク判定条件を監視することは、
前記物体と前記自律走行装置と前記監視対象者との高さ方向におけるオーバーラップ範囲(Ho)内での前記スペースサイズが、前記距離方向において前記リスク範囲内まで小さくなることにより成立する、前記リスク判定条件を監視することを、含む請求項2に記載の制御システム。
【請求項4】
前記駆動トルクを制限することは、
前記監視対象者の人体部位のうち、前記高さ方向での前記オーバーラップ範囲内に位置するオーバーラップ部位(Omp)に応じた上限トルク(Tdm)に、前記駆動トルクを制限することを、含む請求項3に記載の制御システム。
【請求項5】
前記駆動トルクを制限することは、
前記リスク判定条件が成立した場合に、当該成立が解消する方向へ前記自律走行装置を駆動するための、前記駆動トルクを制限することを、含む請求項1~4のいずれか一項に記載の制御システム。
【請求項6】
前記駆動トルクを制限することは、
前記リスク判定条件が成立した場合に、制限による前記駆動トルクのホールド状態を警告することを、含む請求項1~4のいずれか一項に記載の制御システム。
【請求項7】
前記駆動トルクを制限することは、
前記リスク判定条件が成立した場合に、制限による前記駆動トルクのホールド開始から設定時間(t)の経過に応じて、前記駆動トルクの制御を停止することを、含む請求項1~4のいずれか一項に記載の制御システム。
【請求項8】
プロセッサ(12)を有し、自律走行装置(1)に搭載可能に構成され、前記自律走行装置の走行エリアにおける自律走行を制御する制御装置であって、
前記プロセッサは、
前記走行エリアに存在する物体(Od)との間に、前記自律走行装置が周囲の監視対象者(Om)を挟み込むリスクを判定するための、リスク判定条件(Cr)を監視することと、
前記リスク判定条件が成立した場合に、前記自律走行装置を自律走行させるための駆動トルク(Td)を制限することとを、実行するように構成される制御装置。
【請求項9】
自律走行装置(1)の走行エリアにおける自律走行を制御するために、プロセッサ(12)により実行される制御方法であって、
前記走行エリアに存在する物体(Od)との間に、前記自律走行装置が周囲の監視対象者(Om)を挟み込むリスクを判定するための、リスク判定条件(Cr)を監視することと、
前記リスク判定条件が成立した場合に、前記自律走行装置を自律走行させるための駆動トルク(Td)を制限することとを、含む制御方法。
【請求項10】
自律走行装置(1)の走行エリアにおける自律走行を制御するために記憶媒体(11)に記憶され、プロセッサ(12)に実行させる命令を含む制御プログラムであって、
前記走行エリアに存在する物体(Od)との間に、前記自律走行装置が周囲の監視対象者(Om)を挟み込むリスクを判定するための、リスク判定条件(Cr)を監視することと、
前記リスク判定条件が成立した場合に、前記自律走行装置を自律走行させるための駆動トルク(Td)を制限することとを、実行させる前記命令を含む制御プログラム。
【請求項11】
請求項8に記載の制御装置(10)を搭載した、自律走行装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自律走行装置の走行エリアにおける自律走行を制御する技術に、関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、走行エリアの路面状態に応じて、自律走行装置の走行速度を制御する技術を、開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の開示技術には、自律走行装置が周囲の人間と共存する走行エリアにおいて、当該人間の突発的行動に対するリスクまでは、想定されていない。例えば、壁等の物体と自律走行装置との間に周囲から突然進入した子供等の人間に対して、挟み込みを回避するには、リスクを想定しての自律走行装置の制御が必要である。
【0005】
本開示の課題は、人間に対するリスクヘッジ能力を発揮する、自律走行装置の制御技術を提供することにある。本開示の別の課題は、人間に対するリスクヘッジ能力を発揮するように制御される、自律走行装置を提供することにある
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、課題を解決するための本開示の技術的手段について、説明する。尚、特許請求の範囲及び本欄に記載された括弧内の符号は、後に詳述する実施形態に記載された具体的手段との対応関係を示すものであり、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【0007】
本開示の第一態様は、
プロセッサ(12)を有し、自律走行装置(1)の走行エリアにおける自律走行を制御する制御システムであって、
プロセッサは、
走行エリアに存在する物体(Od)との間に、自律走行装置が周囲の監視対象者(Om)を挟み込むリスクを判定するための、リスク判定条件(Cr)を監視することと、
リスク判定条件が成立した場合に、自律走行装置を自律走行させるための駆動トルク(Td)を制限することとを、実行するように構成される。
【0008】
本開示の第二態様は、
プロセッサ(12)を有し、自律走行装置(1)に搭載可能に構成され、自律走行装置の走行エリアにおける自律走行を制御する制御装置であって、
プロセッサは、
走行エリアに存在する物体(Od)との間に、自律走行装置が周囲の監視対象者(Om)を挟み込むリスクを判定するための、リスク判定条件(Cr)を監視することと、
リスク判定条件が成立した場合に、自律走行装置を自律走行させるための駆動トルク(Td)を制限することとを、実行するように構成される。
【0009】
本開示の第三態様は、
自律走行装置(1)の走行エリアにおける自律走行を制御するために、プロセッサ(12)により実行される制御方法であって、
走行エリアに存在する物体(Od)との間に、自律走行装置が周囲の監視対象者(Om)を挟み込むリスクを判定するための、リスク判定条件(Cr)を監視することと、
リスク判定条件が成立した場合に、自律走行装置を自律走行させるための駆動トルク(Td)を制限することとを、含む。
【0010】
本開示の第四態様は、
自律走行装置(1)の走行エリアにおける自律走行を制御するために記憶媒体(11)に記憶され、プロセッサ(12)に実行させる命令を含む制御プログラムであって、
走行エリアに存在する物体(Od)との間に、自律走行装置が周囲の監視対象者(Om)を挟み込むリスクを判定するための、リスク判定条件(Cr)を監視することと、
リスク判定条件が成立した場合に、自律走行装置を自律走行させるための駆動トルク(Td)を制限することとを、実行させる命令を含む。
【0011】
本開示の第五態様は、
第二態様の制御装置を搭載した、自律走行装置である。
【0012】
このような第一~第五態様では、走行エリアに存在する物体との間に、自律走行装置が周囲の監視対象者を挟み込むリスクを判定するための、リスク判定条件が監視される。そこで第一~第五態様によると、リスク判定条件が成立した場合には、自律走行装置を自律走行させるための駆動トルクが制限される。これによれば、物体と自律走行装置との間に周囲から監視対象者が進入するという、突発的な行動に対する挟み込みのリスクを事前に把握して、当該挟み込みリスクへ備えた制限トルクに駆動トルクを抑えておくことができる。故に、人間である監視対象者に対して、リスクヘッジ能力を発揮することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】一実施形態による制御システムの物理構成を示すブロック図である。
【
図2】一実施形態による自動走行装置の外観を示す斜視図である。
【
図3】一実施形態による自動走行装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】一実施形態による地図情報を説明するための斜視模式図である。
【
図5】一実施形態による制御システムの機能構成を示すブロック図である。
【
図6】一実施形態による制御フローを示すフローチャートである。
【
図7】一実施形態によるリスク判定条件を説明するための水平面視模式図である。
【
図8】一実施形態によるリスク判定条件を説明するための水平面視模式図である。
【
図9】一実施形態によるリスク判定条件を説明するための鉛直面視模式図である。
【
図10】一実施形態によるリスク判定条件を説明するための鉛直面視模式図である。
【
図11】一実施形態によるリスク判定条件を説明するための鉛直面視模式図である。
【
図12】一実施形態による駆動トルクの定常制御を説明するためのグラフである。
【
図13】一実施形態による駆動トルクの制限制御を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の一実施形態を図面に基づき説明する。
【0015】
図1に示す一実施形態の制御システム10は、
図2,3に示す自律走行装置1の走行エリアにおける自律走行を制御する。自律走行装置1は、前後左右の任意方向へ自律走行可能に構築されている。
【0016】
自律走行装置1は、走行エリアとしてのスマートシティ又はスマートステーションにおける建造物内外の走行路、又は走行エリアとしての外界ルート上の走行路(即ち、道路)を自律走行して荷物を配送する、配送ロボットであってもよい。自律走行装置1は、走行エリアとしての飲食店内又は病院内の走行路を自律走行して飲食物を配膳する、配膳ロボットであってもよい。自律走行装置1は、走行エリアとしての物流施設において倉庫内外の走行路を自律走行して荷物を運搬する、物流ロボットであってもよい。自律走行装置1は、走行エリアとしての災害地を自律走行して物資を運搬又は情報を収集する、災害支援ロボットであってもよい。自律走行装置1は、これら以外のロボットであっても勿論よい。さらにいずれの種の自律走行装置1も、外部センタによりリモートでの走行支援又は走行制御を受けてもよい。
【0017】
自律走行装置1は、ボディ2、駆動系3、バッテリ4、センサ系5、通信系6、地図データベース7、及び情報提示系8を備えている。ボディ2は、例えば金属等により、中空状に形成されている。ボディ2は、自律走行装置1の他の構成要素を、内部に又は内部から外部に跨って保持している。
【0018】
駆動系3は、車輪30、及び電動アクチュエータ34を備えている。車輪30は、ボディ2により複数支持されている。各車輪30は、それぞれ独立して回転可能に構成されている。複数車輪30のうち、ボディ2の左右に一つずつとなる一対の駆動輪300は、それぞれ個別の電動アクチュエータ34により独立して駆動される。特に本実施形態では、これら各駆動輪300間での回転速度差(即ち、単位時間当たりの回転数差)に応じて、自律走行装置1の走行状態が直進走行と旋回走行とのいずれかに切り替わる。
【0019】
具体的には、左右二つの駆動輪300間での回転速度差が零値、又は零値と擬制可能な範囲では、自律走行装置1が直進駆動される。一方、左右の駆動輪300間での回転速度差が増大する範囲では、自律走行装置1の旋回駆動される旋回半径が、当該回転速度差の増大に応じて縮小する。ここで旋回半径とは、ボディ2の鉛直中心線と旋回駆動の旋回中心との平面視における距離を意味することから、旋回半径が実質0に縮小される旋回駆動は、点旋回駆動となる。尚、複数の車輪30には、駆動輪300に従動して回転する少なくとも一つの従動輪が、含まれていてもよい。
【0020】
バッテリ4は、ボディ2に少なくとも一つ、搭載される。バッテリ4は、例えばリチウムイオン電池等の蓄電池を主体に、構成されている。バッテリ4は、放電によってボディ2内の電装品へ供給する電力を、外部からの充電により蓄える。バッテリ4は、電動アクチュエータ34からの回生電力を、蓄えてもよい。バッテリ4は、電力の供給先となる電動アクチュエータ34、センサ系5、通信系6、地図データベース7、及び情報提示系8に対し、ワイヤハーネスを介して電力供給可能に接続されている。
【0021】
電動アクチュエータ34は、ボディ2により一対支持されている。ボディ2の左右に一つずつとなる各電動アクチュエータ34は、それぞれ電動モータ340及びモータドライバ341の組を主体に構成されている。各電動アクチュエータ34において電動モータ340は、それぞれ対応する駆動輪300を独立して回転駆動する。各電動アクチュエータ34においてモータドライバ341は、同一組の電動モータ340へ印加する電流を制御システム10からの電流指令値に応じて調整することで、対応駆動輪300に対して当該電流指令値に従う駆動トルクの出力を制御する。
【0022】
各電動アクチュエータ34は、それぞれ対応する駆動輪300の回転中に制動を与える、ブレーキユニットを備えていてもよい。各電動アクチュエータ34は、それぞれ対応する駆動輪300を停止中にロックする、ロックユニットを備えていてもよい。
【0023】
センサ系5は、制御システム10により利用可能なセンシング情報を、自律走行装置1における外界及び内界のセンシングにより取得する。そのためにセンサ系5の構成要素は、ボディ2の複数箇所に搭載されている。具体的にセンサ系5は、外界センサ50と内界センサ51とを含んで構成されている。
【0024】
外界センサ50は、自律走行装置1の周囲環境となる外界から、センシング情報としての外界情報を取得する。外界センサ50は、自律走行装置1の外界に存在する物体を検知することで、外界情報を取得する。物体検知タイプの外界センサ50は、例えばカメラ、LiDAR(Light Detection and Ranging / Laser Imaging Detection and Ranging)、レーダ、ソナー、衝撃センサ、及び接触センサ等のうち、少なくとも一種類である。
【0025】
ここで、
図2に例示するように物体検知タイプの外界センサ50としては、前方を撮影するカメラ502が、鉛直面方向としての高さ方向における自律走行装置1の、例えば中間部等に設けられてもよい。それと共に物体検知タイプの外界センサ50としては、前方の水平面方向及び高さ方向を走査する三次元LiDAR500と、当該水平面方向を走査する二次元LiDAR501とが、それぞれ高さ方向における自律走行装置1の上部と下部とに、設けられてもよい。ここで特に下部の二次元LiDAR501は、例えば走行路上に寝そべった子供等を、検知可能であるとよい。
【0026】
図3に示すように内界センサ51は、自律走行装置1の内部環境となる内界から、センシング情報としての内界情報を取得する。内界センサ51は、自律走行装置1の内界において特定の運動物理量を検知することで、内界情報を取得する物理量検知タイプであってもよい。物理量検知タイプの内界センサ51は、例えば速度センサ、加速度センサ、ヨーレートセンサ、及び慣性センサ等のうち、少なくとも一種類である。
【0027】
ボディ2の一部として運搬ボックス20が存在する場合(
図2の例示構造参照)に内界センサ51は、当該ボックス20の内界となる荷室内を検知することで、内界情報を取得する荷室内検知タイプであってもよい。荷室内検知タイプの内界センサは、例えば重量センサ、圧力センサ、カメラ、及びRFID(Radio Frequency Identifier)リーダ等のうち、少なくとも一種類である。
【0028】
通信系6は、制御システム10により利用可能な通信情報を、自律走行装置1の外界との間における無線通信により送受信する。通信系6は、自律走行装置1の外界に存在するGNSS(Global Navigation Satellite System)の人工衛星から測位信号を受信することで、通信情報を取得する測位タイプであってもよい。測位タイプの通信系6は、例えばGNSS受信機等である。
【0029】
通信系6は、自律走行装置1の外界に存在するV2Xシステムとの間において通信情報を送受信する、V2Xタイプであってもよい。V2Xタイプの通信系6は、例えばDSRC(Dedicated Short Range Communications)通信機、及びセルラV2X(C-V2X)通信機等のうち、少なくとも一種類である。通信系6は、自律走行装置1の外界に存在する移動端末との間において通信情報を送受信する端末通信タイプであってもよい。端末通信タイプの通信系6は、例えばブルートゥース(Bluetooth:登録商標)機器、Wi-Fi(登録商標)機器、及び赤外線通信機器等のうち、少なくとも一種類である。
【0030】
地図データベース7は、制御システム10により利用可能な地図情報を、記憶する。地図データベース7は、例えば半導体メモリ、磁気媒体、及び光学媒体等のうち、少なくとも一種類の非遷移的実体的記憶媒体(non-transitory tangible storage medium)を含んで構成されている。地図データベース7は、自律走行装置1の自己位置を推定するロケータの、データベースであってもよい。地図データベース7は、自律走行装置1の走行を計画するプランニングユニットの、データベースであってもよい。地図データベース7は、これらのデータベース等のうち複数種類の組み合わせにより、構成されていてもよい。
【0031】
地図データベース7は、例えば外部センタとの通信等により、最新の地図情報を取得して記憶する。ここで地図情報は、自律走行装置1の走行エリアを表す情報として、二次元又は三次元にデータ化されている。特に三次元の地図データとしては、高精度地図のデジタルデータが採用されるとよい。
【0032】
地図情報は、例えば走行路に関する位置座標、サイズ、形状、及び路面状態等のうち、少なくとも一種類を表した走行路情報を含んでいてもよい。地図情報は、例えば走行路にした建造物、構造物、及び植栽物に関する位置座標、サイズ、並びに形状等のうち、少なくとも一種類を表した静止物情報を含んでいてもよい。地図情報は、例えば走行路としての道路に付属する標識、区画線、及び信号機に関する位置座標、サイズ、並びに形状等のうち、少なくとも一種類を表した道路標示情報を含んでいてもよい。
【0033】
ここで地図情報は、例えば外部センタ等のインフラシステムにおけるインフラデータベースから通信系6を介して地図データベース7にダウンロードされたデータとして、取得されてもよい。このとき特に地図情報は、
図4に示すように走行エリアを三次元配列状に仮想分割した複数の三次元ボクセルVi(即ち、三次元グリッド)別に、又は走行エリアを二次元タイル状に仮想分割した複数の二次元グリッド別に、それぞれ個別の空間IDと紐付けられた、例えば物体Od等の点群データDvとして取得されるとよい。
【0034】
図3に示す情報提示系8は、自律走行装置1の周囲者へ向けた報知情報を、提示する。情報提示系8は、周囲者の視覚を刺激することで、報知情報を提示してもよい。視覚刺激タイプの情報提示系8は、例えばモニタユニット、及び発光ユニット等のうち、少なくとも一種類である。情報提示系8は、周囲者の聴覚を刺激することで、報知情報を提示してもよい。聴覚刺激タイプの情報提示系8は、例えばスピーカ、ブザー、及びバイブレーションユニット等のうち、少なくとも一種類である。
【0035】
図1に示す制御システム10は、自律走行装置1の外界及び自己位置を認識しつつ、走行計画の走行軌道に追従して同装置1の自律走行を制御する。そのために制御システム10は、ボディ2に搭載されたコンピュータを含んだ、少なくとも一つの専用コンピュータから構成されている。そこで、制御システム10を構成する専用コンピュータは、例えばLAN(Local Area Network)回線、ワイヤハーネス、内部バス、及び無線通信回線等のうち少なくとも一種類を介して、
図3に示す電動アクチュエータ34、バッテリ4、センサ系5、通信系6、地図データベース7、及び情報提示系8に接続されている。
【0036】
制御システム10を構成する専用コンピュータは、自律走行装置1の走行計画として走行軌道を計画する、プランニングECU(Electronic Control Unit)であってもよい。制御システム10を構成する専用コンピュータは、自律走行装置1の目標軌道に実軌道を追従させる、軌道制御ECUであってもよい。制御システム10を構成する専用コンピュータは、自律走行装置1の電動アクチュエータ34を制御する、アクチュエータECUであってもよい。制御システム10を構成する専用コンピュータは、自律走行装置1のセンサ系5を制御する、センシングECUであってもよい。
【0037】
制御システム10を構成する専用コンピュータは、自律走行装置1の自己位置を地図データベース7に基づき推定する、ロケータECUであってもよい。制御システム10を構成する専用コンピュータは、自律走行装置1の情報提示系8を制御する、表示ECUであってもよい。制御システム10を構成する専用コンピュータは、例えば通信系6を介して通信可能な外部センタ又はモバイル端末等を構成する、ボディ2外のコンピュータであってもよい。
【0038】
図1に示すように制御システム10を構成する専用コンピュータは、メモリ11及びプロセッサ12を、少なくとも一つずつ有している。メモリ11は、コンピュータにより読み取り可能なプログラム及びデータ等を非一時的に記憶する、例えば半導体メモリ、磁気媒体、及び光学媒体等のうち、少なくとも一種類の非遷移的実体的記憶媒体(non-transitory tangible storage medium)である。プロセッサ12は、例えばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、RISC(Reduced Instruction Set Computer)-CPU、DFP(Data Flow Processor)、及びGSP(Graph Streaming Processor)等のうち、少なくとも一種類をコアとして含んでいる。
【0039】
制御システム10においてプロセッサ12は、自律走行装置1の走行エリアにおける自律走行を制御するためにメモリ11に記憶された、制御プログラムに含まれる複数の命令を実行する。これにより制御システム10は、自律走行装置1の走行エリアにおける自律走行を制御するための機能ブロックを、複数構築する。制御システム10において構築される複数の機能ブロックには、
図5に示すように監視ブロック100、及び制御ブロック110が含まれている。
【0040】
これらのブロック100,110の共同により、制御システム10が自律走行装置1の走行エリアにおける自律走行を制御するための制御方法は、
図6に示す制御フローに従って実行される。本制御フローは、自律走行装置1の起動中に繰り返し実行される。尚、本制御フローにおける各「S」は、制御プログラムに含まれた複数命令によってシーケンス実行される各ステップを、それぞれ意味している。
【0041】
S10において監視ブロック100は、走行エリアでの自律走行において自律走行装置1に想定されるリスクを判定するための、リスク判定条件Crを監視する。具体的にS10における監視ブロック100は、
図7~11に示すように走行エリアに存在する物体Odとの間に自律走行装置1が周囲の監視対象者Omを挟み込む挟み込みリスクに関して、リスク判定条件Crの成立有無を監視する。
【0042】
S10において監視されるリスク判定条件Crは、
図7~11の如く物体Odと自律走行装置1との間に生じるフリースペースFsの距離方向におけるスペースサイズLsが、挟み込みリスクの想定されるリスク範囲Lr内まで小さくなることで、成立する。このとき特に本実施形態のリスク判定条件Crは、
図9~11の如く物体Odと自律走行装置1と監視対象者Omとの高さ方向におけるオーバーラップ範囲Ho内でのスペースサイズLsが、距離方向におけるリスク範囲Lr内まで小さくなることで、成立する。
【0043】
図6のS10においてリスク判定条件Crを構成する三要素Od,1,Omのうち物体Odとしては、例えば建造物の壁、建造物内外の構造物、及び建造物内外の植栽物等のうち、自律走行装置1の走行エリアに存在する複数種類が想定される。そこでS10では、距離方向となる水平面方向及び高さ方向となる鉛直面方向の三次元で物体Odを識別するための物体識別情報として、例えば距離、位置座標、サイズ、及び形状等のうち、少なくとも距離及び高さ方向サイズ(以下、単に高さという)が取得される。こうした物体識別情報は、外界センサ50(
図2の例示ではLiDAR500,501及びカメラ502)からのセンシング情報、通信系6からの通信情報、及び地図データベース7からの地図情報等のうち、少なくとも一種類に基づくことで取得されるとよい。
【0044】
S10においてリスク判定条件Crを構成する三要素Od,1,Omのうち監視対象者Omとしては、自律走行装置1の走行エリアに存在する人間が、想定される。このような監視対象者Omには、物体識別情報に基づき認識される物体Odから自律走行装置1までの間のフリースペースFsに位置する人間が、定義されるとよい。そこでS10では、距離方向となる水平面方向及び高さ方向となる鉛直面方向の三次元で監視対象者Omを識別するための対象識別情報として、例えば距離、位置座標、高さとしての身長、並びに挟みリスクを左右する年齢及び障害度等のうち、少なくとも位置座標及び身長が取得される。こうした対象識別情報は、外界センサ50(
図2の例示ではLiDAR500,501及びカメラ502)からのセンシング情報、通信系6からの通信情報、及び地図データベース7からの地図情報等のうち、少なくとも一種類に基づくことで取得されるとよい。
【0045】
ここで特に、S10によって取得される対象識別情報は、例えばスマートシティ、スマートステーション、飲食店、病院、又は物流施設等の走行エリアへの入門若しく入場時に、例えば外部センタ等のインフラシステムにより取得されてもよい。このとき、インフラセンサが監視対象者Omを検知した検知情報、又は監視対象者Omの保有するモバイル端末若しくはカードからインフラセンサの読み取った読取情報が、通信系6から直接に、あるいは通信系6を介して地図データベース7に記憶されてから、対象者情報として取得されてもよい。
【0046】
S10においてリスク判定条件Crに関する二種類の成立基準Lr,Hoのうち、
図7,8の如き距離方向のスペースサイズLsに関するリスク範囲Lrは、固定範囲又は可変範囲に設定される。ここで、固定範囲の場合におけるリスク範囲Lrは、設計上にて複数仮説可能なワーストシーンでは挟み込みリスクとしての挟み込み確率が100%となるスペースサイズLsのうち、安全側となる最大値としての、例えば50cm等の距離範囲に予設定されるとよい。そこで、固定範囲の場合におけるリスク範囲Lrは、物体Od及び自律走行装置1の各々において例えば最近接部同士等での水平面方向の距離範囲(
図7参照)、又は物体Od周囲の所定形状範囲(
図8参照)に、地図データベース7の地図情報に基づき予設定されてもよい。尚、リスク範囲Lrが最近接部同士での距離範囲に予設定される場合のリスク範囲Lrは、
図7の如く物体Odを起点に想定されてもよいし、自律走行装置1を起点に想定されてもよい。
【0047】
一方、可変範囲の場合におけるリスク範囲Lrは、例えば対象識別情報のうち監視対象者Omの年齢、障害度、及びサイズ、自律走行装置1の速度、加速度、及びサイズ、並びに走行路の路面状態、横幅、走行分離状態、及び人流状況等のうち、少なくとも一種類に基づき予想される挟み込みリスクとして挟み込み確率が高くなるほど、物体Odとの距離方向に長く設定されるとよい。このとき、オーバーラップ範囲Hoに位置する監視対象者Omのオーバーラップ部位Omp(
図9~11参照)に応じて、例えば頭部又は首部等の障害リスクが高い部位Ompに対しては、物体Odとの距離方向において、より長くリスク範囲Lrが設定されてもよい。これらのことから、可変範囲の場合におけるリスク範囲Lrの設定には、外界センサ50(
図2の例示ではLiDAR500,501及びカメラ502)からのセンシング情報、通信系6からの通信情報、及び地図データベース7からの地図情報等のうち、少なくとも一種類が利用されるとよい。
【0048】
S10においてリスク判定条件Crに関する二種類の成立基準Lr,Hoのうち、
図9~11の如く同条件Crを構成する三要素Od,1,Omが高さ方向において共通にオーバーラップするオーバーラップ範囲Hoは、それら三要素Od,1,Omの相関に応じて認識される。このときオーバーラップ範囲Hoの上限値は、三要素Od,1,Omのうち最も低い要素の高さに定義される。それと共にオーバーラップ範囲Hoの下限値は、例えば物体Od及び自律走行装置1の各々における最近接部同士の間にて監視対象者Omを通る鉛直面上等での、物体Odの最下部高さに定義される(特に
図11参照)。尚、オーバーラップ範囲Hoの下限値は、そうした物体Odの最下部高さに代えて、監視対象者Omの候補のうち寝そべった子供に一般的に想定される頭部の、例えば最小高さ(約13cm)等に定義されてもよい。
【0049】
これらの定義によりオーバーラップ範囲Hoは、例えば物体識別情報のうち物体Odの高さ、対象識別情報のうち監視対象者Omの身長、及び自律走行装置1の高さから認識されることになる。そこで、S10におけるオーバーラップ範囲Hoの認識には、外界センサ50(
図2の例示ではLiDAR500,501及びカメラ502)からのセンシング情報、通信系6からの通信情報、及び地図データベース7からの地図情報等のうち、少なくとも一種類が利用されるとよい。
【0050】
このようなS10においてリスク判定条件Crの不成立判定(例えば
図8の場合)が下されると、
図6に示すように制御フローはS20へ移行する。S20において制御ブロック110は、自律走行装置1を自律走行させるために各駆動輪300を回転駆動する駆動トルクTdを、定常制御する。具体的にS20における定常制御では、各電動アクチュエータ34から対応駆動輪300へ個別に出力される駆動トルクTdが、
図12に実線グラフで示すように自律走行装置1の走行計画に従った走行速度及び走行ヨーレートに相関する、電動モータ340の回転速度ωdを与えるトルクとして、それら各電動アクチュエータ34の仕様に応じた定格トルク以下の範囲でフィードバック制御される。こうしたS20の実行完了後には、
図6に示すように制御フローがS10へ戻る。
【0051】
一方、S10においてリスク判定条件Crの成立判定(例えば
図7,9~11の場合)が下されると、制御フローはS30へ移行する。S30において制御ブロック110は、自律走行装置1を自律走行させるために各駆動輪300を回転駆動する駆動トルクTdを、制限制御する。具体的にS30における制限制御では、各電動アクチュエータ34から対応駆動輪300へ個別に出力される駆動トルクTdの上限トルクTdmが、
図13に二点鎖線グラフで示す定常制御に準じたフィードバック制御中に、同図に実線グラフで示すように定格トルク未満の値に制限される。
【0052】
S30において制限制御により制限される駆動トルクTdの上限トルクTdmは、固定値又は可変値に設定される。ここで、固定値の場合における上限トルクTdmは、ISO 3691-4に準拠して、例えば250N又は400N等の作動力を自律走行装置1に発生させる駆動トルクTdに設定されてもよい。固定値の場合における上限トルクTdmは、ISO TR23482-1に準拠して、例えば顔部に対する65N、首部に対する150N、及び頭部に対する130N等のうちいずれかの最大許容力を、自律走行装置1に発生させる駆動トルクTdに設定されてもよい。
【0053】
一方、可変値の場合における上限トルクTdmは、監視対象者Omの人体部位のうち、
図9~11に示す高さ方向でのオーバーラップ範囲Ho内に位置するオーバーラップ部位Ompに応じて、可変設定されてもよい。この場合にはISO TR23482-1に準拠して、例えば顔部に対する65N、首部に対する150N、頭部に対する130N、前腕部に対する160N、胸部に対する140N、腹部に対する110N、及び大腿部に対する220N等の最大許容力のうち、単一のオーバーラップ部位Ompに応じた単一値、又は複数のオーバーラップ部位Ompに応じた複数値のうち最小値を、自律走行装置1に発生させる駆動トルクTdに上限トルクTdmが設定されてもよい。
【0054】
こうしたS30における制限制御ではさらに、リスク判定条件Crの成立が解消する駆動方向へ自律走行装置1を駆動するための駆動トルクTdに、上限トルクTdmの制限が与えられてもよい。このとき、リスク判定条件Crの成立が解消する駆動方向とは、例えば自律走行装置1の前方に物体Odが存在する場合には、自律走行装置1の後退方向に設定されるとよい。
【0055】
図6に示す制御フローにおいてS30の実行完了から移行するS40では、S30での制限制御により駆動トルクTdが上限トルクTdmにホールドされているか否かを、制御ブロック110が判定する。その結果、否定判定が下されると、制御フローはS10へ戻る。一方、肯定判定が下されると、制御フローがS50へ移行する。
【0056】
S50において制御ブロック110は、駆動トルクTdのホールド判定が否定判定から肯定判定へ切り替わったS40のうち直近のステップから、設定時間t(例えば1秒等)が経過したか否かを、判定する。その結果、否定判定が下されると、制御フローがS60へ移行する。S60において制御ブロック110は、制限制御による上限トルクTdmへの駆動トルクTdのホールド状態を、警告する。このときホールド状態の警告は、例えば外部センタ又はモバイル端末等に通信系6を通じて遂行されてもよい。ホールド状態の警告は、情報提示系8の制御により自律走行装置1の周囲者に対して遂行されてもよい。こうしたS60の実行完了後、制御フローはS10へ戻る。
【0057】
制御フローにおいてS50での肯定判定により移行するS70では、制限制御による上限トルクTdmへの駆動トルクTdのホールド開始から設定時間tの経過に応じた処理として、当該制限制御による自律走行装置1の自律走行制御自体を制御ブロック110が停止する。そこでS70における制御ブロック110は、駆動トルクTdの制御停止を警告する。このとき制御停止の警告は、例えば外部センタ又はモバイル端末等に通信系6を通じて遂行されてもよい。制御停止の警告は、情報提示系8の制御により自律走行装置1の周囲者に対して遂行されてもよい。こうしたS70の実行完了後には、自律走行装置1の管理者又は周囲者による、例えば同装置1の強制移動等によってリスク判定条件Crの成立が物理的に解消されるまで、制御フローの実行再開は禁止されるとよい。
【0058】
(作用効果)
以上説明した本実施形態の作用効果を、以下に説明する。
【0059】
本実施形態では、走行エリアに存在する物体Odとの間に、自律走行装置1が周囲の監視対象者Omを挟み込むリスクを判定するための、リスク判定条件Crが監視される。そこで本実施形態によると、リスク判定条件Crが成立した場合には、自律走行装置1を自律走行させるための駆動トルクTdが制限される。これによれば、物体Odと自律走行装置1との間に周囲から監視対象者Omが進入するという、突発的な行動に対する挟み込みのリスクを事前に把握して、当該挟み込みリスクへ備えた制限トルクに駆動トルクTdを抑えておくことができる。故に、人間である監視対象者Omに対して、リスクヘッジ能力を発揮することが可能である。
【0060】
本実施形態により監視されるリスク判定条件Crは、物体Odと自律走行装置1との間に生じるフリースペースFsの距離方向におけるスペースサイズLsが、挟み込みリスクの想定されるリスク範囲Lr内まで小さくなることで、成立する。これによれば、フリースペースFsでの相互接近により物体Odと自律走行装置1との間のスペースサイズLsが距離方向に小さくなっても、事前把握される挟み込みリスクへと備えた制限トルクに駆動トルクTdを抑えておくことができる。故に、挟み込みリスクの高い相互接近下にて、監視対象者Omに対するリスクヘッジ能力を発揮することが可能となる。
【0061】
本実施形態により監視されるリスク判定条件Crは、物体Odと自律走行装置1と監視対象者Omとの高さ方向におけるオーバーラップ範囲Ho内でのスペースサイズLsが、距離方向においてリスク範囲Lr内まで小さくなることで、成立する。これによれば、高さ方向において挟み込みリスクが発生し得る三要素Od,1,Omでのオーバーラップ範囲Ho内に絞って、物体Odと自律走行装置1との間のスペースサイズLsが距離方向に小さくなることによる挟み込みリスクの増大を、事前に把握することができる。故に、挟み込みリスクの増大するオーバーラップ範囲Ho内での相互接近下にて、監視対象者Omに対するリスクヘッジ能力を発揮することが可能となる。
【0062】
本実施形態において監視対象者Omのオーバーラップ部位Ompは、高さ方向において挟み込みリスクが発生し得るオーバーラップ範囲Ho内に位置することから、物体Odと自律走行装置1との間のスペースサイズLsが距離方向に小さくなることで、当該挟み込みリスクの増大対象部位となる。そこで本実施形態によると、監視対象者Omの人体部位のうち、高さ方向でのオーバーラップ範囲Ho内に位置するオーバーラップ部位Ompに応じた上限トルクTdmに、駆動トルクTdが制限される。これによれば、特にオーバーラップ部位Ompに対して増大の事前予想される挟み込みリスクに備えて、駆動トルクTdの上限トルクTdmを抑えておくことができる。故に、監視対象者Omのオーバーラップ部位Ompに対するリスクヘッジ能力を発揮することが可能となる。
【0063】
本実施形態によると、リスク判定条件Crが成立した場合に、当該成立が解消する方向へ自律走行装置1を駆動するための駆動トルクTdが、制限される。これによれば、事前把握される挟み込みリスクへと備えた制限トルクに駆動トルクTdを抑えると同時的に、当該挟み込みリスクを低減乃至は緩和する状況へと自律走行装置1を導くことができる。故に、監視対象者Omに対するリスクヘッジ能力の向上が可能となる。
【0064】
(他の実施形態)
以上、一実施形態について説明したが、本開示は、当該説明の実施形態に限定して解釈されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用することができる。
【0065】
変形例において制御システム10を構成する専用コンピュータは、デジタル回路及びアナログ回路のうち、少なくとも一方をプロセッサとして有していてもよい。ここでデジタル回路とは、例えばASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、SOC(System on a Chip)、PGA(Programmable Gate Array)、及びCPLD(Complex Programmable Logic Device)等のうち、少なくとも一種類である。またこうしたデジタル回路は、プログラムを記憶したメモリを、有していてもよい。
【0066】
変形例の制御フローでは、S10において高さ方向でのオーバーラップ範囲Hoとは無関係に、距離方向でのスペースサイズLsとリスク範囲Lrとの対比に基づきリスク判定条件Crの成立有無が判定されてもよい。変形例の制御フローでは、S60がスキップされることで、S40の肯定判定からS10への戻りが直接的に実行されてもよい。変形例の制御フローでは、S70がスキップされることで、S50の肯定判定後においてリスク判定条件Crの成立が物理的に解消されるまで、制御フローの実行再開が禁止されてもよい。変形例の制御フローでは、S40~S70がスキップされることで、S30の実行完了からS10への戻りが直接的に実行されてもよい。
【0067】
変形例の自律走行装置1において各駆動輪300は、例えばメカナムホイール又はオムニホイール等から、直進走行と旋回走行とを切替可能に構成されていてもよい。ここまでの説明形態の他に上述の実施形態及び変形例は、自律走行装置1に搭載可能に構成されてプロセッサ12及びメモリ11を少なくとも一つずつ有する制御装置として、処理回路(例えば処理ECU等)又は半導体装置(例えば半導体チップ等)の形態で実施されてもよい。さらに上述の実施形態及び変形例は、そうした制御装置を搭載した自律走行装置の形態で実施されてもよい。
【0068】
(付言)
本明細書には、以下に列挙する複数の技術的思想と、それらの複数の組み合わせが開示されている。
【0069】
(技術的思想1)
プロセッサ(12)を有し、自律走行装置(1)の走行エリアにおける自律走行を制御する制御システムであって、
前記プロセッサは、
前記走行エリアに存在する物体(Od)との間に、前記自律走行装置が周囲の監視対象者(Om)を挟み込むリスクを判定するための、リスク判定条件(Cr)を監視することと、
前記リスク判定条件が成立した場合に、前記自律走行装置を自律走行させるための駆動トルク(Td)を制限することとを、実行するように構成される制御システム。
【0070】
(技術的思想2)
前記リスク判定条件を監視することは、
前記物体と前記自律走行装置との間に生じるフリースペース(Fs)の距離方向におけるスペースサイズ(Ls)が、挟み込みリスクの想定されるリスク範囲(Lr)内まで小さくなることにより成立する、前記リスク判定条件を監視することを、含む技術的思想1に記載の制御システム。
【0071】
(技術的思想3)
前記リスク判定条件を監視することは、
前記物体と前記自律走行装置と前記監視対象者との高さ方向におけるオーバーラップ範囲(Ho)内での前記スペースサイズが、前記距離方向において前記リスク範囲内まで小さくなることにより成立する、前記リスク判定条件を監視することを、含む技術的思想2に記載の制御システム。
【0072】
(技術的思想4)
前記駆動トルクを制限することは、
前記監視対象者の人体部位のうち、前記高さ方向での前記オーバーラップ範囲内に位置するオーバーラップ部位(Omp)に応じた上限トルク(Tdm)に、前記駆動トルクを制限することを、含む技術的思想3に記載の制御システム。
【0073】
(技術的思想5)
前記駆動トルクを制限することは、
前記リスク判定条件が成立した場合に、当該成立が解消する方向へ前記自律走行装置を駆動するための、前記駆動トルクを制限することを、含む技術的思想1~4のいずれか一項に記載の制御システム。
【0074】
(技術的思想6)
前記駆動トルクを制限することは、
前記リスク判定条件が成立した場合に、制限による前記駆動トルクのホールド状態を警告することを、含む技術的思想1~5のいずれか一項に記載の制御システム。
【0075】
(技術的思想7)
前記駆動トルクを制限することは、
前記リスク判定条件が成立した場合に、制限による前記駆動トルクのホールド開始から設定時間(t)の経過に応じて、前記駆動トルクの制御を停止することを、含む技術的思想1~6のいずれか一項に記載の制御システム。
【0076】
尚、上述した技術的思想1~7は、制御装置、制御方法、制御プログラム、及び自律走行装置の各形態で実現されてもよい。
【符号の説明】
【0077】
1:自律走行装置、10:制御装置、11:メモリ、12:プロセッサ、Cr:リスク判定条件、Fs:フリースペース、Ho:オーバーラップ範囲、Lr:リスク範囲、Ls:スペースサイズ、Od:物体、Om:監視対象者、Omp:オーバーラップ部位、Td:駆動トルク、Tdm:上限トルク、t:設定時間