(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142159
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】電気治療装置及び電気刺激付与方法
(51)【国際特許分類】
A61N 1/36 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
A61N1/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054196
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】506208908
【氏名又は名称】学校法人兵庫医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】熱田 達彦
(72)【発明者】
【氏名】平川 武志
(72)【発明者】
【氏名】坂口 顕
(72)【発明者】
【氏名】森 明子
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053BB02
4C053BB36
4C053JJ04
4C053JJ06
4C053JJ24
(57)【要約】
【課題】 痛みを緩和する身体内の仕組みを機能させるための電気刺激付与に係る適切な条件を設定して、通電による電気刺激付与で効率よく痛みの緩和が図れる、電気治療装置を提供する。
【解決手段】 電極部を通じた通電に係る電気信号の繰り返し波形の周波数について、制御部で最小値と最大値を設定すると共に、最小値と最大値との間で複数段階の変化が生じるようにし、身体に対し通電して電気刺激を与えると、低い周波数で繰り返される電気刺激と、高い周波数で繰り返される電気刺激とが、中間の段階を経て切り替わることから、それぞれの周波数での電気刺激に対応する痛み緩和機序による痛みの緩和作用をそれぞれ生じさせつつ、同じ周波数での電気刺激の継続する時間を相対的に短くして慣れを抑えられ、電気刺激付与で効率よく痛みの緩和が図れる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚を通じて身体に対し電気信号を通電出力し、電気刺激を繰り返し身体に付与する電気治療装置において、
少なくとも導電性を有する材質で形成され、皮膚に電気的に接続して前記電気信号を通す複数の電極部と、
前記電気信号を少なくとも制御可能とされる制御部とを備え、
前記電気信号が、変動する周期で繰り返す波形とされ、波形の繰り返しの周波数が時間経過に伴って最小値から最大値に変化する増加期、及び、波形の繰り返しの周波数が時間経過に伴って最大値から最小値に変化する減少期、をそれぞれ有し、前記増加期と減少期で、時間経過に伴って前記周波数が最小値と最大値との間で複数回変化するよう、前記制御部で制御することを
特徴とする電気治療装置。
【請求項2】
前記請求項1に記載の電気治療装置において、
前記電気信号の前記増加期における前記周波数の最大値と、前記減少期における前記周波数の最大値が同じ値とされ、
前記制御部が、前記電気信号を、前記増加期の終了後、直ちに、又は、前記増加期の終了から所定時間経過後に、前記減少期に移行させることを
特徴とする電気治療装置。
【請求項3】
前記請求項1に記載の電気治療装置において、
前記電気信号の増加期が、所定時間経過ごとに前記周波数が所定の第一の増加量ずつ増加していく第一の期間と、当該第一の期間の後で、所定時間経過ごとに前記周波数が前記第一の増加量より大きい第二の増加量で増加していく第二の期間とを含み、
前記電気信号の減少期が、所定時間経過ごとに前記周波数が所定の第三の減少量で減少していく第三の期間と、当該第三の期間の後で、所定時間経過ごとに前記周波数が前記第三の減少量より小さい第四の減少量で減少していく第四の期間とを含むことを
特徴とする電気治療装置。
【請求項4】
前記請求項1に記載の電気治療装置において、
前記電気信号の増加期及び減少期における、前記周波数の最小値が3Hzであり、最大値が100Hzであることを
特徴とする電気治療装置。
【請求項5】
皮膚を通じて身体に対し電気信号を通電出力し、電気刺激を繰り返し身体に付与する電気刺激付与方法において、
前記電気信号が、変動する周期で繰り返す波形とされ、波形の繰り返しの周波数が時間経過に伴って最小値から最大値に変化する増加期、及び、波形の繰り返しの周波数が時間経過に伴って最大値から最小値に変化する減少期をそれぞれ有し、
前記増加期と減少期で、時間経過に伴って前記周波数が最小値と最大値との間で複数回変化することを
特徴とする電気刺激付与方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者の皮膚を通じて身体内部に対し所定の治療に係る電気刺激を与える電気治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
使用者の身体の表面に複数の電極を接触させ、これらの電極を用いて筋肉等の身体の内部に対し電気刺激を付与し、この電気刺激の作用により身体に対し治療を行う電気治療には、様々な手法が存在している。また、そうした手法を実行する電気治療装置も、様々な種類のものが利用されている。
【0003】
例えば、使用者の身体の表面に複数の電極を接触させ、これらの電極を通じて身体の内部に対し電気的に刺激を付与し、その電気刺激の作用で痛みの緩和を図る、経皮的電気神経刺激(Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation: TENS)は、電気治療の一手法として広く知られている。
【0004】
こうした電気治療のうち、特に、腹部や背中などの皮膚表面に接した電極から身体の内部に対し通電を行い、通電に基づく刺激の作用で、女性の月経痛(生理痛や排卵痛とも呼称される)を緩和する効果を得ようとする手法が近年注目されている。
このような従来の電気治療を実行可能な装置の例として、特許第6406554号公報に開示されるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の電気治療を行う治療装置は、前記特許文献に示される構成となっており、低周波電流出力回路と中周波電流出力回路からそれぞれ出力された低周波電流と中周波電流がそれぞれ本体電極パッドで通電することで、身体に低周波電流と中周波電流による治療を施せる仕組みである。また、本体電極パッドでは、低周波電流と中周波電流による干渉波が発生し、発生した干渉波による治療も並行して施されることとなる。
【0007】
一方、この種の電気治療では、繰り返しの電気刺激をもたらす電気信号のサイクル(繰り返し)の周波数によって、電気刺激の身体に及ぶ影響が異なることが知られている。しかしながら、特許文献1に記載のものは、電気信号の周波数について、低周波、中周波と概略的な表現に留まっており、具体的な値が示されていないことから、所望の治療に係る効果が得られるか否かが明らかでない。
【0008】
加えて、特許文献1に記載の治療装置は、低周波電流出力回路と中周波電流出力回路を有して、低周波電流と中周波電流で発生する干渉波による治療も実行することから、治療のための通電に係る機構が複雑となり、装置のコンパクト化や低コスト化が難しいという問題を有している。
【0009】
本発明は前記課題を解消するためになされたもので、痛みを緩和する身体内の仕組みを機能させるための電気刺激付与に係る適切な条件を設定して、通電による電気刺激付与で効率よく痛みの緩和が図れる、電気治療装置、及びこれに適用される電気刺激付与方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の開示に係る電気治療装置は、皮膚を通じて身体に対し電気信号を通電出力し、電気刺激を繰り返し身体に付与する電気治療装置において、少なくとも導電性を有する材質で形成され、皮膚に電気的に接続して前記電気信号を通す複数の電極部と、前記電気信号を少なくとも制御可能とされる制御部とを備え、前記電気信号が、変動する周期で繰り返す波形とされ、波形の繰り返しの周波数が時間経過に伴って最小値から最大値に変化する増加期、及び、波形の繰り返しの周波数が時間経過に伴って最大値から最小値に変化する減少期、をそれぞれ有し、前記増加期と減少期で、時間経過に伴って前記周波数が最小値と最大値との間で複数回変化するよう、前記制御部で制御するものである。
【0011】
このように本発明の開示によれば、電極部を通じた通電に係る電気信号の繰り返し波形の周波数について、制御部で最小値と最大値を設定すると共に、最小値と最大値との間で複数段階の変化が生じるようにし、電極部から皮膚を通じて身体に対し通電して電気刺激を与えると、周波数の最小値やそれに近い、低い周波数で繰り返される電気刺激と、周波数の最大値やそれに近い、高い周波数で繰り返される電気刺激とが、中間の段階を経て切り替わっていき、それらに対応する身体の反応を生じさせられる。これにより、低い周波数での電気刺激に対応する痛み緩和機序や、高い周波数での電気刺激に対応する痛み緩和機序による、痛みの緩和作用をそれぞれ身体に生じさせつつ、同じ周波数での電気刺激の継続する時間を相対的に短くすることができ、同じ刺激の継続に伴う慣れを抑えられ、電気刺激付与で効率よく痛みの緩和が図れる。また、電気信号の周波数が複数回変化して、電気刺激を受ける際の体感(刺激感)の急変を抑えられることで、電気刺激への不快感を抑制でき、刺激付与を無理なく継続実行可能として最大限の治療効果が得られる。
【0012】
また、本発明の開示に係る電気治療装置は必要に応じて、前記電気信号の前記増加期における前記周波数の最大値と、前記減少期における前記周波数の最大値が同じ値とされ、前記制御部が、前記電気信号を、前記増加期の終了後、直ちに、又は、前記増加期の終了から所定時間経過後に、前記減少期に移行させるものである。
【0013】
このように本発明の開示によれば、通電に係る電気信号の繰り返しの周波数について、最小値から最大値へ変化する増加期の後、最大値から最小値へ変化する減少期となるよう設定し、通電による電気刺激付与を実行することにより、低い周波数で電気刺激の付与間隔が長い状態から、高い周波数で電気刺激の付与間隔が短い状態に移行し、続いて逆の移行が生じることで、周波数の急変による身体への負担が発生しにくく、通電による刺激付与を無理なく適切に継続でき、より確実な痛みの緩和に繋げられる。また、増加期に引き続いて減少期の周波数変化を生じさせるにあたり、増加期の最大値と減少期の最大値とを同じ値としていることで、増加期から減少期への移行の際に刺激感の急激な変化が生じず、違和感や不快感を抑えられる。
【0014】
また、本発明の開示に係る電気治療装置は必要に応じて、前記電気信号の増加期が、所定時間経過ごとに前記周波数が所定の第一の増加量ずつ増加していく第一の期間と、当該第一の期間の後で、所定時間経過ごとに前記周波数が前記第一の増加量より大きい第二の増加量で増加していく第二の期間とを含み、前記電気信号の減少期が、所定時間経過ごとに前記周波数が所定の第三の減少量で減少していく第三の期間と、当該第三の期間の後で、所定時間経過ごとに前記周波数が前記第三の減少量より小さい第四の減少量で減少していく第四の期間とを含むものである。
【0015】
このように本発明の開示によれば、電気信号の周波数が段階的に大きくなる増加期には、周波数が第一の増加量で増加していく第一の期間と、周波数が第一の増加量より大きい第二の増加量で増加していく第二の期間とが含まれ、周波数が段階的に小さくなる減少期には、周波数が第三の減少量で減少していく第三の期間と、周波数が第三の減少量より小さい第四の減少量で減少していく第四の期間とが含まれ、増加期ではその途中で周波数の変化がそれ以前より増加割合の大きい急激な変化となるように変わる一方、減少期ではその途中で周波数の変化がそれ以前より減少割合の小さい緩やかな変化となるように変わることにより、電気信号の周波数が最小値と最大値との間で変化する場合に、中間の段階を介在させつつ、単調な増減変化とならず、最小値又はそれに近い低い周波数での電気刺激付与状態と、最大値又はそれに近い高い周波数での電気刺激付与状態とが明確に区別でき、周波数変化に伴う刺激の変化が緩慢にならないようにして、刺激の差異を体感しやすく、低い周波数と高い周波数とで明確に異なる刺激を身体に与えられ、周波数ごとの刺激による痛みの緩和作用を効率よく発生させられる。
【0016】
また、本発明の開示に係る電気治療装置は必要に応じて、前記電気信号の増加期及び減少期における、前記周波数の最小値が3Hzであり、最大値が100Hzであるものである。
【0017】
このように本発明の開示によれば、電気刺激の付与に伴って皮膚下の筋肉に収縮が生じ、特に、低い周波数での電気刺激付与では筋肉に単収縮が繰り返し生じ、高い周波数での電気刺激付与では筋肉に繰り返しの単収縮が加重した状態の強縮が生じる状況で、電気信号の周波数における最小値を3Hz、最大値を100Hzとすることにより、低い周波数での電気刺激に伴って筋肉に単収縮が繰り返し生じても、不快に感じない程度に留められ、より低い周波数の場合のように、過度に筋肉を収縮させて不快感を与えることを防止できる。また、高い周波数での電気刺激付与では、筋肉の強縮を身体に負担がかからず疲労を感じない程度に抑えられ、無理なく痛みの緩和作用を生じさせられる。
【0018】
また、本発明の開示に係る電気刺激付与方法は、皮膚を通じて身体に対し電気信号を通電出力し、電気刺激を繰り返し身体に付与する電気刺激付与方法において、前記電気信号が、変動する周期で繰り返す波形とされ、波形の繰り返しの周波数が時間経過に伴って最小値から最大値に変化する増加期、及び、波形の繰り返しの周波数が時間経過に伴って最大値から最小値に変化する減少期をそれぞれ有し、前記増加期と減少期で、時間経過に伴って前記周波数が最小値と最大値との間で複数回変化するものである。
【0019】
このように本発明の開示によれば、通電に係る電気信号の繰り返し波形の周波数について、最小値と最大値を設定し、これら最小値と最大値との間で複数段階の変化が生じるようにして、皮膚に通電して電気刺激を与えると、周波数の最小値やそれに近い、低い周波数で繰り返される電気刺激と、周波数の最大値やそれに近い、高い周波数で繰り返される電気刺激とが、中間の段階を経て切り替わっていき、それらに対応した身体の反応が生じることにより、低い周波数での電気刺激に対応する痛み緩和機序や、高い周波数での電気刺激に対応する痛み緩和機序による、痛みの緩和作用をそれぞれ身体に生じさせつつ、同じ周波数での電気刺激の継続する時間を相対的に短くすることができ、同じ刺激の継続に伴う慣れを抑えられ、電気刺激付与で効率よく痛みの緩和が図れる。また、電気信号の周波数が複数回変化して、電気刺激を受ける際の体感(刺激感)の急変を抑えられることで、電気刺激への不快感を抑制でき、刺激付与を無理なく継続実行可能として最大限の鎮痛効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る電気治療装置の正面図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る電気治療装置の背面図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る電気治療装置の平面図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係る電気治療装置の出力する電気信号の波形の説明図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係る電気治療装置における電気信号の周波数変化状態説明図である。
【
図6】本発明の実施例1による疼痛緩和効果の時間的変化の説明図である。
【
図7】本発明の他の実施例による疼痛緩和効果の評価結果説明図である。
【
図8】本発明の実施例2による疼痛緩和効果の時間的変化の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係る電気治療装置及び電気刺激付与方法を前記
図1ないし
図5に基づいて説明する。
前記各図において本実施形態に係る電気治療装置10は、使用者の身体表面に着脱可能に保持される本体部11と、導電性を有する材質で形成され、本体部11における使用者の身体に向けられる面に配設される複数の電極部12と、これら電極部12に電気的に接続されて前記本体部11に配設され、使用者の身体に対し通電出力される電気信号を少なくとも制御可能とされる制御部13と、使用者による通電状態切り替え等の指示操作を受け入れる操作部14とを備える構成である。
【0022】
本実施形態に係る電気治療装置10に適用される電気刺激付与方法は、皮膚を通じて身体に対し電気信号を通電出力し、電気刺激を繰り返し身体に付与して、疼痛の緩和を図るものである。この刺激付与方法では、詳細には、通電出力される電気信号が、変動する周期で繰り返す波形とされ、波形の繰り返しの周波数が時間経過に伴って最小値から最大値に変化する増加期、及び、波形の繰り返しの周波数が時間経過に伴って最大値から最小値に変化する減少期をそれぞれ有することとなる。
そして、電気信号は、前記増加期と減少期で、時間経過に伴って前記周波数が最小値と最大値との間で段階的に複数回変化するものとされる。
【0023】
前記本体部11は、可撓性を有する略シート状の基部11aと、この基部11aから突出する凸部11bとを有する構成である。この本体部11は、樹脂等の絶縁体製とされ、基部11aにおける表面の中央に凸部11bが突出する形状として形成される。
【0024】
そして、本体部11は、基部11aにおける凸部11bが突出する表面に対する裏面に、電極部12を複数配設される。本体部11は、この電極部12のある裏面を使用状態で使用者の身体に向けられることとなる。
また、本体部11は、凸部11bの先端部に、この凸部11bの突出方向とは逆向きにわずかに凹んだ曲面を有しており、この曲面に操作部14を設けられる。
【0025】
本体部11における凸部11cの内部には、制御部13等の電気回路や電源としての電池(図示を省略)が配設される。制御部13は、基部11aにおける裏面側の電極部12と電気的に接続されると共に、凸部11c先端の操作部14とも電気的に接続される仕組みである。
【0026】
本体部11における基部11aの裏面には、少なくとも電極部12のある範囲に、例えば、公知の低周波治療器の電極パッドで採用されているような、導電性を有すると共に粘着性のあるゲル材などで形成される粘着シートが貼設されている。本体部11は、このような粘着シートにより使用者の身体の皮膚に貼り付けられることで、身体表面に保持可能とされる仕組みである。これにより、本体部11は、使用者の腹部周りに着用された衣類の内側、すなわち、衣類の内面と身体との間に配置されることとなる。
【0027】
前記電極部12は、導電性を有する材質でシート状に形成され、使用者の皮膚に電気的に接続して電気信号を通すものである。この電極部12は、使用者の皮膚に電気的に接続可能となる接触面を有し、後述する制御部13と電気的に接続される。なお、電極部12の接触面については、導電性が確保されていれば、前記粘着シートのような、身体表面への密着性を重視した材質で覆われていてもかまわない。
【0028】
電極部12は、本体部10内で制御部13と電気的に接続されており、皮膚と接触している状態では、制御部13により各電極部12間を皮膚を介した通電状態とすることができる。
【0029】
前記制御部13は、本体部11に内蔵されて電極部12に電気的に接続され、これら電極部12を通じて出力される電気信号を制御するものである。また、制御部13は、使用者の操作部14への入力操作を受けて、電極部12間の通電を制御し、皮膚への通電状態、例えば、通電により使用者の皮膚を流れる電流の強さ、を調整可能とするものである。
【0030】
制御部13は、詳細には、経皮的電気神経刺激(以下、TENSと略称する)の手法に則り、電極部12を通じて使用者の身体に対し電気信号を通電出力するにあたって、この電気信号を変動する周期で繰り返す波形とするように制御を行う。
【0031】
TENSにより活性化する身体の痛み緩和機序については、通電出力される電気信号における繰り返し波形の周波数の高低に応じて、活動すると考えられる神経伝達物質などが異なることが知られている。制御部13は、そうした周波数ごとに異なる痛みの緩和作用をそれぞれ有効化するように電気信号を生成して、効率よく痛みの緩和を図ることとなる。
【0032】
制御部13により制御される電気信号は、正極性のパルスと負極性のパルスを含む所定の基本波を、振幅0の期間と組合せたものであり、変動する周期に合わせて振幅0の期間を変えつつ繰り返す波形とされる。このうち基本波は、その周波数(基本周波数)を1kHzないし5kHzの範囲内の所定値、より好ましくは2.5ないし3kHzに設定される。
【0033】
制御部13による具体的な電気信号波形の制御では、電気信号が、その波形の繰り返しの周波数が時間経過に伴って最小値から最大値に変化する増加期、及び、波形の繰り返しの周波数が時間経過に伴って最大値から最小値に変化する減少期をそれぞれ有し、これら増加期と減少期で、時間経過に伴って周波数が最小値と最大値との間で段階的に複数回変化することとなる。
【0034】
ただし、電気信号の増加期における周波数の最大値と、減少期における周波数の最大値は同じ値とされる。そして、電気信号は、増加期の終了後、直ちに減少期に移行するようにされる。
電気信号の増加期及び減少期における、周波数の最小値は、1ないし5Hzの範囲内の所定値であり、最大値は90ないし200Hzの範囲内の所定値である。
【0035】
電気信号における増加期は、所定時間経過ごとに周波数が所定の第一の増加量(例えば、1ないし3Hz)で増加していく第一の期間と、この第一の期間の後で、所定時間経過ごとに周波数が第一の増加量より大きい第二の増加量(例えば、5ないし20Hz)で増加していく第二の期間とを含むものである。
【0036】
この増加期において、第一の期間では、周波数が最小値から第一の増加量ずつ増加する過程を複数回繰り返して所定の中間値に達する。また、第二の期間では、周波数が前記中間値から第二の増加量ずつ増加する過程を複数回繰り返して最大値に達する。
【0037】
一方、電気信号における減少期は、所定時間経過ごとに周波数が所定の第三の減少量(例えば、5ないし20Hz)で減少していく第三の期間と、この第三の期間の後で、所定時間経過ごとに周波数が第三の減少量より小さい第四の減少量(例えば、1ないし3Hz)で減少していく第四の期間とを含むものである。
【0038】
この減少期において、第三の期間では、周波数が最大値から第三の減少量ずつ減少する過程を複数回繰り返して所定の中間値に達する。また、第四の期間で、周波数が前記中間値から第四の減少量ずつ減少する過程を複数回繰り返して最小値に達する。
【0039】
こうして、増加期で、第一の期間には刺激付与間隔の周波数を最小値から十数Hz程度までの低い周波数域で少しずつ増加させた後、第二の期間にはより高い周波数域で増加量を大きくして増加させるようにする一方、減少期では、第三の期間に刺激付与間隔の周波数を最大値からこれより数十Hz程度小さい値までの高い周波数域で大きい減少割合で減少させた後、第四の期間により低い周波数域で減少割合を小さくして少しずつ減少させるようにして、電気信号を変化させることにより、周波数の変化が単調な変化とならず、電気信号の低い周波数に伴う刺激付与間隔が長い状態と高い周波数に伴う刺激付与間隔が短い状態とが明確に区別できる状態として、刺激が緩慢に変化することを防いで、刺激感の変化を与えられる。また、低い周波数域で刺激を与える状態を時間的に十分に確保する一方、高い周波数域の周波数変化を急峻なものとすることでも刺激感の変化を与えることができ、刺激に対する慣れを防げる。
【0040】
なお、本発明では、電気信号の波形における繰り返しの周波数の最小値と最大値との相対的な差に基づいて、最小値及びこれに近い十数Hz程度までの周波数を低い周波数、最大値やそれに近い数十Hzから200Hzまでの周波数を高い周波数と称することとする。
【0041】
前記操作部14は、本体部11における凸部11bの先端部に設けられ、電源の入切や通電の強弱を切り替える各スイッチ(電源スイッチ14a及び強度切替スイッチ14b)を有し、使用者の入力操作を受けて、制御部13に治療に係る制御を実行させるものである。
【0042】
操作部14は、電源スイッチ14aを中心に位置させると共に、これを挟むように強度切替スイッチ14bを配置される構成である。強度切替スイッチ14bは、通電強度を強側に変化させる操作を受ける強(+)のスイッチ、及び、通電強度を弱側に変化させる操作を受ける弱(-)のスイッチからなる。
【0043】
操作部14の各スイッチは、使用者の操作でスイッチ機構を動かして物理的に接点を接触させるスイッチに限られるものではなく、例えば、使用者の身体の一部がスイッチに触れた状態を検出してスイッチ操作として認識し、スイッチとしてのオンオフ制御を実行する、タッチセンサータイプのスイッチであってもかまわない。
【0044】
この操作部14のある凸部11bの先端部は、その中央部が外縁部に対し基部11a寄りに凹んだ曲面となっており、衣類の凸部11bに対する接触面圧を操作部14上では小さくなるようにして、衣類の接触面圧で操作部14が押されて誤って操作された状態となることを防いでいる。
【0045】
なお、操作部14は、本体部11における凸部11bの先端部に設けられ、使用状態で衣類と重なることで、この操作部14への操作は衣類の上から衣類の生地を介して行われる。このため、操作部14においては、衣類の上から触れても各スイッチが判別可能となる凹凸などの判別手段を各スイッチ上に形成することが望ましい。この他、操作部14が発光するようにすれば、衣類の生地が薄手の場合、操作部14から発する光が透けて見える状態となることで、操作部14の各スイッチの識別が容易となり、操作性が向上し、好ましい。
【0046】
次に、本実施形態に係る電気治療装置の身体装着状態及び作動状態について説明する。前提として、使用者は電気治療装置1を腹部に位置させ、操作部14から治療に係る作動の開始を指示入力すると、装置による電気刺激付与をあらかじめ設定された期間の終了まで無理なく継続できる程度に、本体部11の基部11aは腹部への十分な保持力を有しており、且つ、電気治療装置1の内蔵電源(電池)は十分な容量を有しているものとする。
【0047】
まず、電気治療装置1の身体への装着として、腹部を覆う衣類をずらすなどして、腹部の皮膚を露出させてから、本体部11の基部11aを腹部の皮膚に向けつつ、本体部11を使用者の身体に近付け、皮膚に当接させる。
【0048】
これに伴い、本体部11は腹部に貼り付けられて拘束されると共に、本体部11の基部11aにある電極部12が、ちょうど腹部表面の皮膚に電気的に接続された状態となる。
また、使用者の身体と衣類との間に配置されている本体部11が身体に拘束され、動かないことで、本体部11は衣類に対してもほとんど動かずに保持された状態となる。
【0049】
なお、電極部12を使用者の腹部皮膚に当接させる位置については、使用者におけるいわゆるデルマトーム(感覚支配領域)が、痛みの発生する箇所(子宮)と対応する、皮膚の所定領域、例えば、へそ下方部位の皮膚表面に電極部12が当接するように設定することが望ましい。より具体的には、電極部12が子宮底・子宮体部のデルマトームである第10胸髄節から第12胸髄節の皮膚分節領域に位置するようにする。
【0050】
続いて、電気治療装置の電気刺激付与に係る作動について説明する。
電極部12が皮膚に接した状態で、使用者が操作部14の電源スイッチ14aを操作して、電源ONとすると、制御部13は対をなす電極部12間に、変動する周期で繰り返す波形を有し、その周波数が前記最小値から最大値までの範囲となる電気信号を出力する、通電状態を開始させる。
【0051】
この通電状態で、使用者が操作部14の強度切替スイッチ14bを操作すると、制御部13は通電における電流の出力レベル(大きさ)を調整して、通電状態における電気刺激の強度を増大又は減少させる。
【0052】
電気信号は、波形の繰り返しの周波数が時間経過に伴って最小値から最大値Hzに複数段階を経て変化する増加期、及び、波形の繰り返しの周波数が時間経過に伴って最大値から最小値に複数段階を経て変化する減少期を、増加期の次が減少期となる順序で、間を置かずに複数回繰り返すものとなる。
【0053】
電気信号の増加期では、まず第一の期間で、所定時間(例えば、5ないし30秒)経過ごとに周波数が第一の増加量ずつ増加していき、最小値から中間値(例えば、10ないし20Hz)に達する。続く第二の期間で、所定時間経過ごとに周波数が第二の増加量ずつ増加していき、中間値から最大値に達することとなる。
【0054】
TENSにおける低い周波数の電気刺激では、脳や脊髄、末梢神経において、神経伝達物質の放出と、それらの受容体、特に、μオピオイド受容体、GABA受容体、及びセロトニン受容体などへの結合とを促して、受容体を活性化し、鎮痛効果を得られる、とされている。
【0055】
第一の期間における、低い周波数(1ないし十数Hz)の電気刺激による月経痛の緩和機序は、TENSにおける低い周波数での電気刺激に対応するものとして通説となっている痛み緩和機序から、以下のようになると考えられる。
【0056】
低い周波数の電気刺激に基づき、使用者の身体では、脳など身体各部において内因性オピオイド(例えば、ベータエンドルフィンやエンケファリン)が産生、放出され、脊髄や末梢のオピオイド受容体(μ受容体、δ受容体)に結合して、月経痛に係る痛みの情報の伝達を抑制する作用をもたらす。また、これと合わせて、使用者の脊髄に到る下行路において所定の抑制系神経伝達物質(ノルアドレナリンやセロトニン)が放出され、脊髄後角のニューロンでの月経痛に対応する侵害刺激(痛み刺激)の伝達を抑制する作用をもたらす。
こうした低い周波数の電気刺激に伴って、通電部分では筋肉の単収縮が生じるが、周波数の下限(最小値)を適切に設定すれば、過度の収縮とならず、不快な刺激とならない。
【0057】
さらに、装置を身体に装着して電気刺激を付与している間は、いわゆるゲートコントロールセオリーによる鎮痛機序、すなわち、太い神経線維(Aβ線維)で伝わる非侵害性刺激情報(触覚、圧覚など)が、細い神経線維(Aδ線維、C線維)による侵害性刺激情報(痛み)の伝達に影響を及ぼし、伝達を抑制する仕組みにより、装置から皮膚への電気刺激の付与に伴って触覚や圧覚などとして加わる刺激に基づいた、月経痛の緩和効果も得られると考えられる。
【0058】
一方、TENSにおける高い周波数の電気刺激では、脳や脊髄、末梢神経において、神経伝達物質の放出と、それらの受容体、特に、δオピオイド受容体、GABA受容体、及びムスカリン受容体などへの結合とを促して、受容体を活性化し、鎮痛効果を得られる、とされている。
【0059】
第二の期間における、高い周波数(数十ないし200Hz)の電気刺激による月経痛の緩和機序は、TENSにおける高い周波数での電気刺激に対応するものとして通説となっている痛み緩和機序から、第一の期間の場合とは一部異なり、以下のようになると考えられる。
【0060】
高い周波数の電気刺激に基づいて、使用者の脳など身体各部において第一の期間とは別の内因性オピオイド(例えば、ダイノルフィン)が産生、放出され、脊髄や末梢のオピオイド受容体(κ受容体)に結合して、月経痛に係る痛みの情報の伝達を抑制する作用をもたらす。また、これと合わせて、使用者の脊髄に到る下行路において所定の神経伝達物質(ノルアドレナリンやセロトニン)が放出され、脊髄後角のニューロンでの月経痛に対応する侵害刺激(痛み刺激)の伝達を抑制する作用をもたらす。
【0061】
また、第二の期間における電気刺激に伴って、通電部分では第二の期間前半で筋肉の単収縮の加重による不完全強縮が、第二の期間後半で筋肉の強縮がそれぞれ生じるが、第一の期間における低い周波数の電気刺激に伴う単収縮に引き続いてのものとなるため、過度の収縮は生じず、また、周波数の上限(最大値)を適切に設定すれば、筋肉の疲労を抑えられ、不快な刺激とならない状態を維持できる。
【0062】
さらに、この第二の期間においても、第一の期間と同様、いわゆるゲートコントロールセオリーによる鎮痛機序により、装置から皮膚への電気刺激の付与に伴って触覚や圧覚などとして加わる刺激に基づいた、痛みの緩和効果も得られると考えられる。
【0063】
電気信号の減少期では、まず、第三の期間で、所定時間(例えば、5ないし30秒)経過ごとに周波数が第三の減少量ずつ減少していき、最大値から中間値(例えば、10ないし20Hz)に達する。続く第四の期間で、所定時間経過ごとに周波数が第四の減少量ずつ減少して、中間値から最小値に達する。
【0064】
第三の期間における、高い周波数(数十ないし200Hz)の電気刺激による月経痛の緩和機序は、TENSにおける高い周波数での電気刺激に対応するものとして通説となっている痛み緩和機序から、第二の期間と同様、以下のようになると考えられる。
【0065】
高い周波数の電気刺激に基づいて、使用者の脳など身体各部において、内因性オピオイド(例えば、ダイノルフィン)が産生、放出され、脊髄や末梢のオピオイド受容体(κ受容体)に結合して、月経痛に係る痛みの情報の伝達を抑制する作用をもたらす。また、これと合わせて、使用者の脊髄に到る下行路において所定の神経伝達物質(ノルアドレナリンやセロトニン)が放出され、脊髄後角のニューロンでの月経痛に対応する侵害刺激(痛み刺激)の伝達を抑制する作用をもたらす。
【0066】
また、第三の期間における電気刺激に伴って、通電部分では第三の期間前半で筋肉の強縮が、第三の期間後半で筋肉の単収縮の加重による不完全強縮がそれぞれ生じるが、第二の期間同様、過度の収縮は生じない上、筋肉の疲労も抑えられ、不快な刺激とならない状態が維持される。
【0067】
さらに、この第三の期間においても、第一の期間や第二の期間と同様、いわゆるゲートコントロールセオリーによる鎮痛機序により、装置から皮膚への電気刺激の付与に伴って触覚や圧覚などとして加わる刺激に基づいた、痛みの緩和効果も得られると考えられる。
【0068】
一方、第四の期間における、低い周波数(1ないし十数Hz)の電気刺激による月経痛の緩和機序は、TENSにおける低い周波数での電気刺激に対応するものとして通説となっている痛み緩和機序から、第一の期間と同様、以下のようになると考えられる。
【0069】
低い周波数の電気刺激に基づいて使用者の脳など身体各部において内因性オピオイド(例えば、ベータエンドルフィンやエンケファリン)が産生、放出され、脊髄や末梢のオピオイド受容体(μ受容体、δ受容体)に結合して、月経痛に係る痛みの情報の伝達を抑制する作用をもたらす。また、これと合わせて、使用者の脊髄に到る下行路において所定の抑制系神経伝達物質(ノルアドレナリンやセロトニン)が放出され、脊髄後角のニューロンでの月経痛に対応する侵害刺激(痛み刺激)の伝達を抑制する作用をもたらす。
【0070】
こうした低い周波数の電気刺激に伴って、通電部分では筋肉の単収縮が生じるが、第一の期間同様、周波数の下限を適切に設定すれば、過度の収縮とならず、不快な刺激とならない。
【0071】
また、この第四の期間においても、第一ないし第三の各期間と同様、いわゆるゲートコントロールセオリーによる鎮痛機序により、装置から皮膚への電気刺激の付与に伴って触覚や圧覚などとして加わる刺激に基づいた、痛みの緩和効果も得られると考えられる。
【0072】
皮膚への通電を終える場合は、使用者が操作部14の電源スイッチ14aを操作して電源OFF状態に切替えるようにすれば、電極部12間の通電が停止し、通電による電気刺激付与も終了する。この他、いわゆるOFFタイマー機能として、通電開始からあらかじめ設定した所定時間の経過後に制御部で通電を自動停止して、刺激付与を終了するようにしてもよい。
なお、電源OFFの際の通電の出力レベルを制御部13で記録保持し、次回の皮膚を介した身体内部への通電の際に同じ出力レベルで通電を実行できるようにしてもかまわない。
【0073】
このように、本実施形態に係る電気治療装置は、電極部12を通じた通電に係る電気信号の繰り返し波形の周波数について、制御部13で最小値と最大値を設定すると共に、最小値と最大値との間で複数段階の変化が生じるようにし、電極部12から皮膚を通じて身体に対し通電して電気刺激を与えると、周波数の最小値やそれに近い、低い周波数で繰り返される電気刺激と、周波数の最大値やそれに近い、高い周波数で繰り返される電気刺激とが、中間の段階を経て切り替わっていき、それらに対応する身体の反応を生じさせられることとなる。これにより、低い周波数での電気刺激に対応する痛み緩和機序による痛みの緩和作用と、高い周波数での電気刺激に対応する痛み緩和機序による痛みの緩和作用とをそれぞれ生じさせつつ、同じ周波数での電気刺激の継続する時間を相対的に短くすることができ、同じ刺激の継続に伴う慣れを抑えられ、電気刺激付与で効率よく痛みの緩和が図れる。
【0074】
また、制御部13で電気信号の周波数を複数段階で変化させて、電気刺激を受ける際の体感(刺激感)の急変を抑えられることで、電気刺激への不快感を抑制でき、刺激付与を無理なく継続実行可能として最大限の治療効果が得られる。
【0075】
なお、前記実施形態に係る電気治療装置において、本体部11は、その基部11aを、電極部12が横に並ぶ向きで身体に保持される構成としているが、これに限らず、電極が縦に並ぶ向きで身体に保持するなど、保持する向きを任意に設定してもよい。この他、本体部の基部や凸部の形状についても、別の任意形状として形成する構成としてかまわない。
【0076】
また、前記実施形態に係る電気治療装置において、通電に係る電気信号の繰り返し周波数について、増加期では時間経過と共に周波数が増加する変化のみを、減少期では時間経過と共に周波数が減少する変化のみを、それぞれ生じさせるように、制御部13で電気信号の制御を行う構成としているが、これに限らず、増加期で最小値から最大値に達するまでに、周波数が増加する変化だけでなく、周波数が減少する変化を一又は複数回生じさせたり、減少期で最大値から最小値に達するまでに、周波数が減少する変化だけでなく、周波数が増加する変化を一又は複数回生じさせるように、制御部で制御を行う構成とすることもできる。
【0077】
例えば、増加期の初期に、電気信号の繰り返し周波数がピーク的に一旦増加してから減少する変化を生じさせた後、前記実施形態同様に時間経過と共に周波数が増加する変化を生じさせるよう制御する構成とすることもできる。この場合、電気刺激による筋肉の単収縮又は強縮の、周波数の増減変化に伴う刺激の質の典型的な変化を通電最初期に体感させることとなる。これにより、筋肉の収縮に対する慣れを生じさせ、通電による筋肉の収縮を筋負荷として感じにくくなり、その後の周波数変化に伴う刺激変化に対する違和感や不快感を抑えられる。
【0078】
また、前記実施形態に係る電気治療装置において、通電に係る電気信号について、制御部13で繰り返しの周波数を増減変化させる制御を行う構成としているが、これに限らず、電気信号における繰り返しの周波数以外の設定値、例えば、基本波の基本周波数を変化させたり、基本波の振幅(電流値や電圧値)を増減変化させる制御を行う構成とすることもできる。この場合、繰り返しの周波数以外の所定の設定値について、繰り返しの周波数の変化と協調させて変化させる制御を行うことで、相乗的な効果を得るようにしてもよい。
【0079】
また、前記実施形態に係る電気治療装置において、通電に係る電気信号について、繰り返しの周波数を増加させる増加期は、周波数の時間あたりの増加量が異なる、第一の期間と第二の期間との二つを含むように制御を行う構成としているが、これに限らず、増加期が時間あたりの増加量の異なる三つ以上の複数の期間を含むように制御を行う構成とすることもできる。同様に、減少期についても、第三の期間と第四の期間との二つを含むように制御を行う構成に限られるものではなく、減少期が時間あたりの減少量の異なる三つ以上の複数の期間を含むように制御を行う構成としてもかまわない。
【0080】
また、前記実施形態に係る電気治療装置において、通電に係る電気信号について、繰り返しの周波数を増加させる増加期では、第一の期間における周波数の第一の増加量や、第二の期間における周波数の第二の増加量を、それぞれ所定の値に設定して制御を行う構成としているが、これに限らず、増加期における複数の期間でそれぞれ周波数の時間あたりの増加量が異なるようにすれば、第一の増加量や第二の増加量としてそれぞれ別の値を設定する構成とすることもできる。この場合、第一の増加量が第二の増加量より大きくなるよう設定してもかまわない。
【0081】
そして、増加期と同様に、減少期についても、この減少期における複数の期間でそれぞれ周波数の時間あたりの減少量が異なるようにすれば、第三の減少量や第四の減少量として、それぞれ別の値を設定してもかまわない。この減少期の場合も、第三の減少量が第四の減少量より小さくなるよう設定してかまわない。
【0082】
また、前記実施形態に係る電気治療装置において、電気信号における繰り返しの周波数を増加させる増加期のうち、第一の期間では周波数を最小値から中間値まで第一の増加量ずつ所定の複数回増加させ、第二の期間では周波数を中間値から最大値まで第二の増加量ずつ所定の複数回増加させるようにしているが、各期間で周波数が段階的に複数回増加するようにしていれば、それぞれの期間でより少ない回数やより多い回数で周波数を増加させるようにしてもよい。
【0083】
そして、増加期と同様に、減少期の第三の期間と第四の期間における周波数の減少回数についても、各期間で周波数が段階的に複数回減少するようにしていれば、それぞれの期間でより少ない回数やより多い回数で周波数を減少させるようにしてもよい。
【0084】
また、前記実施形態に係る電気治療装置においては、通電に係る電気信号について、繰り返しの周波数を増加させる増加期と、繰り返しの周波数を減少させる減少期とを、最初を増加期とし、その次に減少期とする順序で設定し、周波数を変化させる制御を行う構成としているが、これに限らず、最初を減少期とし、その次に増加期とする順序で周波数を変化させる制御を行う構成としてもかまわない。
【0085】
さらに、電気信号では、増加期と減少期の組合せを複数回繰り返す変化としているが、こうした増加期と減少期をそれぞれ一回のみ含む変化としてもよい。なお、増加期と減少期の組合せを複数回繰り返す電気信号においては、減少期の次に増加期が続く場合も生じ得るが、そのような場合、減少期の最小値と増加期の最小値を同じ値として、減少期から増加期への移行の際に刺激感の急激な変化が生じるのを避けるようにすることが望ましい。
【実施例0086】
本発明に係る電気治療装置により、身体に対し通電し、電気刺激を付与した場合に、月経痛を緩和可能か否かを評価するために、実際に被験者が電気治療装置を用いた状態で感じた痛みについてその度合いの測定を行い、得られた測定結果に基づいて、月経痛の緩和効果の有無について評価検証した。
【0087】
まず、本発明に係る電気治療装置の実施例1として、通電に係る電気信号が、前記実施形態で示した増加期と減少期を複数回繰り返す波形とされて、電気刺激を身体に対し付与する電気刺激付与方法の例について、この電気刺激付与方法を適用した電気治療装置を被験者が装着して通電を実行する試験を行い、感じた痛みの度合いの測定を行った。被験者は機能性月経痛のある女性10名である。装置の貼り付け位置は、被験者におけるいわゆる脊椎神経デルマトームのうち、痛みの発生する子宮に対応する、第10胸髄節から第12胸髄節の皮膚分節領域にあたる箇所、具体的には、へその3cm下方の皮膚表面に設定される。また、装置による刺激の強度は、被験者にとって快適となる強度に被験者自身で設定される。
【0088】
出力される電気信号は、前記実施形態で示したように、基本波と振幅0の期間とを組み合わせた波形を有するものである。基本波は、正極性のパルスと負極性のパルスを含んでおり、その波長は2941Hz、基本波の一周期は340μsであり、正極性パルス及び負極性パルスの幅が同じとなるようにしている。
【0089】
この基本波に続く振幅0の期間が、繰り返しの周波数を変えるごとに変化することとなる。周波数変化の最小値は3Hz、最大値は100Hzとしており、周波数が3Hzの場合、振幅0の期間は333333-340(μs)となり、100Hzの場合、振幅0の期間は10000-340(μs)となる。
【0090】
各被験者について、月経開始から終了までの間に、装置を装着した上で通電を行って電気刺激を付与する介入期と、装置を装着するのみで通電を行わない非介入期(プラセボ期)をそれぞれ2回ずつランダムに設定して二通りの試験を行った。いずれの場合も、試験開始から60分まで10分ごとに痛みの度合いを測定した。なお、装置の装着(貼付)時間はいずれの場合も30分間である。
【0091】
各試験における、月経痛の痛みの度合いの測定は、視覚的アナログスケール(Visual Analogue Scale;VAS)を使用して実行した。
VASは、左から右に、0(痛みが無い)から10(想像できる最大の痛み)に応じたスケール(尺度)を示す長さ10cmのライン(直線)から構成される。被験者が感じた痛みの度合い(0から10まで)に基づいて被験者自身によりマークがライン上に作成される。マーク位置のライン左端からの距離を計測することで、痛みの評価値をミリメートル単位で示すことができる。
【0092】
実施例1としての前記介入期の試験による測定結果と、比較例1としての前記非介入期の試験による測定結果について、試験開始から10分ごとの各時点における被験者全体の痛みの度合いの測定値について、SPSS(登録商標)による二元配置分散分析を行い、実施例1と比較例2とで痛みの感じ方に有意な差があるか検証した。二元配置分散分析に伴って導かれた、試験開始時(0分)、30分経過時、及び60分経過時における測定値の推定周辺平均の値をプロットしたグラフを
図6に示す。
【0093】
図6に示されるように、通電を行う実施例1における測定値の推定周辺平均は、時間が経過するごとに比較例1における測定値の推定周辺平均より小さい値を示している。二元配置分散分析により、一の要因(実施例1と比較例1の違い)と、他の要因(経過時間ごとの違い)との間の交互作用は有意であることがわかっており、そのことは試験開始時から30分経過までの、実施例1と比較例1における各グラフの傾きの違いとしても明確にあらわれている。
【0094】
なお、二元配置分散分析の結果、実施例1(介入期)と比較例1(非介入期)のいずれも、試験開始時と30分経過時との間の差の有意確率(P値)は、有意水準0.05以下となり、差は有意であるといえる。すなわち、装置装着状態(試験開始から30分間)における実施例1と比較例1との間の各測定値の差は有意なものであり、少なくとも装置を装着している間は、装着に伴う触覚や圧覚による刺激だけでなく、電気刺激付与による疼痛緩和効果があるといえる。
【0095】
ただし、同じく二元配置分散分析の結果、実施例1と比較例1のいずれも、30分経過時と60分経過時との間の差の有意確率(P値)は、有意水準0.05を上回っており、差は有意ではない。すなわち、装置を外した以降(試験開始から30分経過以降)における実施例1と比較例1との間の各測定値の差は有意でなく、電気刺激付与による疼痛緩和効果が装置を外した以降も持続しているとは必ずしもいえない。
【0096】
続いて、前記実施例1同様に、電気治療装置を被験者が装着して通電を実行する試験を行い、月経痛緩和の効果を実感できたか否かについて被験者自身による評価を実施した。
評価対象の被験者は、19名の女性である。
各被験者について、試験を行った後、月経痛緩和の効果を実感できたか否かについて、5段階での評価を依頼し、回答を得た。評価結果のグラフ及び表を
図7に示す。
【0097】
被験者の評価の内訳は、「とても実感できた」が4人(全体の21.1%)、「実感できた」が9人(47.4%)、「ふつう」が1人(5.3%)、「実感できなかった」が4人(21.1%)、「とても実感できなかった」が1人(5.3%)、となった。
この評価結果から、被験者全体の約68.4%が効果を実感できていることがわかる。
【0098】
さらに、実施例2として、前記実施例1同様に、電気治療装置を被験者が装着して通電を実行する試験を行い、感じた痛みの度合いを測定する一方、異なる電気信号の通電により電気刺激を身体に対し付与する他例についても試験を行い、痛みの度合いを測定して比較を行った。
実施例2としての、前記実施例1同様に被験者に対し通電を実行する試験については、被験者は10名の女性である。
【0099】
この実施例2としての実施例1同様の試験と並行して、比較例2として、前記比較例1と同様に、実施例2と同じ各被験者に対し装置を装着するのみで通電を行わない非介入期の試験及び痛みの度合いの測定を行っている。
【0100】
一方、比較例3として、電気信号の繰り返し波形の周波数が100Hzに固定された状態で通電し、電気刺激を被験者の身体に対し付与する試験を行い、痛みの度合いを測定した。この場合の電気治療装置は、電気信号を異ならせた以外は前記実施例1と同じものであり、装着条件も前記実施例1と同じである。なお、被験者は3名の女性である。
【0101】
各試験における、月経痛の痛みの感じ方の測定は、前記実施例1及び比較例1同様に、視覚的アナログスケール(VAS)を使用して実行した。
実施例2、比較例2、及び比較例3の各試験については、いずれも試験開始から60分まで10分ごとと、120分経過時に、痛みの度合いを測定した。なお、装置の装着(貼付)時間は30分間である。
【0102】
各測定結果から実施例2と二つの比較例のそれぞれにおける被験者の各測定時点での痛みの度合いの測定値について、前記実施例1の場合と同様に、SPSS(登録商標)による二元配置分散分析を行い、実施例2と各比較例との間での痛みの感じ方の差異を調べた。二元配置分散分析に際し導かれた各測定値の推定周辺平均から求めた、試験開始時(0分)を1とした場合における各測定時点の推定周辺平均の比率について、時間経過に伴う変化をプロットしたグラフを
図8に示す。
【0103】
図8に示されるように、電気信号の周波数を変調させて通電を行う実施例2における測定値の推定周辺平均の比率が、試験開始時から60分までは時間が経過するごとに小さくなっており、装置を外してから時間が経過しても十分な疼痛緩和効果が得られていることがわかる。
【0104】
また、実施例2では、試験開始から10分以降は各比較例における測定値の推定周辺平均の比率より小さい値を示している。これらの結果は、オピオイド放出等に基づく鎮痛作用が生じていることの証拠といえる。
【0105】
特に、電気信号の周波数が固定された比較例3に対して、実施例2における測定値の推定周辺平均の比率が良好な結果となっている。このことから、実施例2の電気信号が増加期と減少期で周波数を段階的に変化させつつ、各期においても周波数変化の度合いを変えて、低い周波数に基づく刺激と高い周波数に基づく刺激の差異を生じさせることで、身体への疼痛緩和の作用が強化されていることは明らかである。
【0106】
以上の結果から、本発明の特別な電気信号の通電による電気刺激が、身体自体が有する疼痛緩和に係る機能を活性化して、月経痛緩和という治療効果を実現できることは明らかであるといえる。