(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142164
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】吸排気システム
(51)【国際特許分類】
F01N 3/023 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
F01N3/023 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054202
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大山 晃
【テーマコード(参考)】
3G190
【Fターム(参考)】
3G190AA02
3G190BA05
3G190CA01
3G190DB05
3G190EA00
3G190EA04
(57)【要約】
【課題】フィルタにおける粒子状物質の堆積状態を適切に推定する。
【解決手段】吸排気システムは、エンジンと、前記エンジンと接続される排気流路と、前記排気流路に設けられるフィルタと、制御装置と、を備え、前記フィルタにおける粒子状物質の堆積量に応じて、前記排気流路における排気抵抗が変化し、前記制御装置は、1つまたは複数のプロセッサと、前記プロセッサに接続される1つまたは複数のメモリと、を有し、前記プロセッサは、前記エンジンの実トルクと目標トルクとの差であるトルク不足分を推定することと、前記トルク不足分の推定結果に基づいて、前記フィルタにおける前記粒子状物質の堆積状態を推定することと、を含む処理を実行する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンと接続される排気流路と、
前記排気流路に設けられるフィルタと、
制御装置と、
を備え、
前記フィルタにおける粒子状物質の堆積量に応じて、前記排気流路における排気抵抗が変化し、
前記制御装置は、
1つまたは複数のプロセッサと、
前記プロセッサに接続される1つまたは複数のメモリと、
を有し、
前記プロセッサは、
前記エンジンの実トルクと目標トルクとの差であるトルク不足分を推定することと、
前記トルク不足分の推定結果に基づいて、前記フィルタにおける前記粒子状物質の堆積状態を推定することと、
を含む処理を実行する、
吸排気システム。
【請求項2】
前記吸排気システムは、車両に搭載され、
前記プロセッサは、前記車両の速度に関する速度情報に基づいて、前記実トルクを推定することを含む処理を実行する、
請求項1に記載の吸排気システム。
【請求項3】
前記プロセッサは、前記エンジンの運転状態に関するエンジン状態情報を加味して、前記トルク不足分を推定することを含む処理を実行する、
請求項1または2に記載の吸排気システム。
【請求項4】
前記吸排気システムは、車両に搭載され、
前記プロセッサは、前記車両が走行する路面に関する路面情報を加味して、前記トルク不足分を推定することを含む処理を実行する、
請求項1または2に記載の吸排気システム。
【請求項5】
前記プロセッサは、前記吸排気システムの周囲環境に関する環境情報を加味して、前記トルク不足分を推定することを含む処理を実行する、
請求項1または2に記載の吸排気システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸排気システムに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンでは、煤等の粒子状物質の排出量を所定の水準以下に抑えることが要求されている。そこで、特許文献1に開示されているように、エンジンと接続される排気流路には、フィルタが設けられる。フィルタによって排気中の煤等の粒子状物質が捕集される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フィルタに粒子状物質が捕集されることによって、フィルタにおける粒子状物質の堆積量は増加していく。また、フィルタにおける粒子状物質の堆積量に応じて、排気流路における排気抵抗は変化する。具体的には、フィルタにおける粒子状物質の堆積量が多いほど、排気流路における排気抵抗は大きくなる。ゆえに、エンジンの制御パラメータを調整すること等の目的で、フィルタにおける粒子状物質の堆積状態を推定する必要がある。そして、フィルタにおける粒子状物質の堆積状態をより適切に推定するための新たな提案が望まれている。
【0005】
そこで、本発明は、フィルタにおける粒子状物質の堆積状態を適切に推定することが可能な吸排気システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一実施の形態に係る吸排気システムは、
エンジンと、
前記エンジンと接続される排気流路と、
前記排気流路に設けられるフィルタと、
制御装置と、
を備え、
前記フィルタにおける粒子状物質の堆積量に応じて、前記排気流路における排気抵抗が変化し、
前記制御装置は、
1つまたは複数のプロセッサと、
前記プロセッサに接続される1つまたは複数のメモリと、
を有し、
前記プロセッサは、
前記エンジンの実トルクと目標トルクとの差であるトルク不足分を推定することと、
前記トルク不足分の推定結果に基づいて、前記フィルタにおける前記粒子状物質の堆積状態を推定することと、
を含む処理を実行する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、フィルタにおける粒子状物質の堆積状態を適切に推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る吸排気システムの概略構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る制御装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係る制御装置が行う処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、トルク不足分と堆積量との関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す具体的な寸法、材料、数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0010】
<吸排気システムの構成>
図1および
図2を参照して、本発明の実施形態に係る吸排気システム1の構成について説明する。
【0011】
図1は、吸排気システム1の概略構成を示す模式図である。吸排気システム1は、車両100に搭載される。
図1に示されるように、吸排気システム1は、エンジン10と、吸気流路20と、排気流路30と、アクセル開度センサ41と、速度センサ42と、加速度センサ43と、環境センサ44と、制御装置50とを備える。なお、車両100は、駆動源としてエンジン10のみを備えるエンジン車両であってもよく、駆動源としてエンジン10に加えて走行用モータを備えるハイブリッド車両であってもよい。
【0012】
エンジン10は、例えば、火花点火式の内燃機関である。エンジン10は、1つまたは複数の気筒11を有する。
図1では、理解を容易にするために、エンジン10に設けられる複数の気筒11のうちの1つの気筒11のみが示されている。気筒11には、ピストン12が摺動自在に設けられている。気筒11の内部には、燃焼室13が形成される。燃焼室13は、気筒11の内面と、ピストン12の冠面とにより区画される。気筒11には、燃焼室13に臨む点火プラグ14が設けられている。また、気筒11には、燃焼室13に向けて燃料を噴射する燃料噴射弁15が設けられている。燃焼室13には、空気および燃料を含む混合気が形成される。当該混合気が、点火プラグ14により点火され、燃焼する。それにより、各気筒11内のピストン12が直線往復運動を行い、各ピストン12と接続されているクランクシャフトへ動力が伝達される。
【0013】
なお、燃料噴射弁15は、燃焼室13内に燃料を直接噴射する形式のものに限定されない。例えば、燃料噴射弁15は、吸気流路20に設けられ、吸気流路20内に燃料を噴射してもよい。この場合、燃料は、吸気とともに、燃焼室13へ吸入される。また、燃料噴射弁15に供給される燃料は、例えば、ガソリンである。ただし、燃料噴射弁15に供給される燃料は、ガソリン以外の燃料であってもよい。
【0014】
エンジン10の各燃焼室13は、吸気ポートを介して吸気流路20と連通しており、排気ポートを介して排気流路30と連通している。各気筒11には、吸気ポートを開閉可能な吸気バルブ16と、排気ポートを開閉可能な排気バルブ17が設けられている。吸気バルブ16および排気バルブ17が駆動されることにより、燃焼室13への吸気の供給、および、燃焼室13からの排気の排出が行われる。
【0015】
吸気流路20は、エンジン10と接続され、エンジン10の燃焼室13に供給される空気が流通する流路である。吸気流路20の上流側の端部には、車両100の外部から外気が取り込まれる図示しない吸気口が設けられている。吸気流路20のうち吸気口より下流側には、エアフィルタ21が設けられている。エアフィルタ21は、吸気流路20を流通する空気に含まれる異物を除去する。吸気流路20のうちエアフィルタ21より下流側には、スロットルバルブ22が設けられる。スロットルバルブ22は、吸気流路20を通って、エンジン10に送られる吸気の流量を調整する。エンジン10に送られる吸気の流量は、スロットルバルブ22の開度に応じて変化する。
【0016】
吸気流路20のうちスロットルバルブ22より下流側には、サージタンク23が設けられる。サージタンク23には、エンジン10に送られる吸気が一時的に溜められる。吸気流路20のうちサージタンク23より下流側には、図示しないインテークマニホールドが設けられる。インテークマニホールドは、エンジン10の各気筒11に向けて分岐し、各気筒11の吸気ポートと接続される。
【0017】
吸気流路20では、吸気口から外気が取り込まれる。取り込まれた空気は、エアフィルタ21を通過した後、スロットルバルブ22およびサージタンク23を順に通過してエンジン10に送られる。
【0018】
吸気流路20には、エアフローメータ24が設けられる。エアフローメータ24は、吸気流路20へ吸入され吸気流路20を流通する空気の流量である吸入空気量を検出する。エアフローメータ24は、例えば、エアフィルタ21とスロットルバルブ22との間に設けられる。
【0019】
排気流路30は、エンジン10と接続され、エンジン10の燃焼室13から排出される排気が流通する流路である。排気流路30の下流側の端部には、車両100の外部へ排気が排出される図示しない排気口が設けられている。排気流路30には、図示しないエキゾーストマニホールドが設けられる。エキゾーストマニホールドは、エンジン10の各気筒11に向けて分岐し、各気筒11の排気ポートと接続される。
【0020】
排気流路30のうちエキゾーストマニホールドより下流側には、フィルタ31が設けられる。フィルタ31は、排気中の煤等の粒子状物質を捕集する。フィルタ31は、例えば、パティキュレートフィルタとも呼ばれる。排気流路30では、エンジン10から排出された排気が、フィルタ31を通過して、排気口から排出される。
【0021】
アクセル開度センサ41は、ドライバによるアクセル操作の操作量に相当するアクセル開度を検出する。
【0022】
速度センサ42は、車両100の速度を検出する。
【0023】
加速度センサ43は、車両100の加速度を検出する。加速度センサ43は、例えば、加速度として、車両100の前後方向の加速度と、車両100の上下方向の加速度とを検出する。
【0024】
環境センサ44は、車両100の周囲環境に関する環境情報を検出する。なお、車両100の周囲環境は、吸排気システム1の周囲環境に相当し得る。環境センサ44は、例えば、環境情報として、車両100の外部の空気である外気の気温および気圧を検出する。
【0025】
制御装置50は、1つまたは複数のプロセッサ50aと、プロセッサ50aに接続される1つまたは複数のメモリ50bと、を有する。プロセッサ50aは、例えば、CPU(Central Processing Unit)を含む。メモリ50bは、例えば、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などを含む。ROMは、CPUが使用するプログラムおよび演算パラメータ等を記憶する記憶素子である。RAMは、CPUにより実行される処理に用いられる変数およびパラメータ等のデータを一時記憶する記憶素子である。
【0026】
制御装置50は、点火プラグ14、燃料噴射弁15、スロットルバルブ22、エアフローメータ24、アクセル開度センサ41、速度センサ42、加速度センサ43および環境センサ44等の吸排気システム1に設けられる各装置と通信を行う。制御装置50と各装置との通信は、例えば、CAN(Controller Area Network)通信を用いて実現される。
【0027】
図2は、制御装置50の機能構成の一例を示すブロック図である。例えば、
図2に示されるように、制御装置50は、取得部51と、制御部52と、推定部53とを有する。
【0028】
なお、取得部51、制御部52および推定部53により行われる以下で説明する処理を含む各種処理は、プロセッサ50aによって実行され得る。詳細には、メモリ50bに記憶されているプログラムをプロセッサ50aが実行することにより、各種処理が実行される。
【0029】
なお、本実施形態に係る制御装置50の機能は複数の装置に分割されてもよく、複数の機能が1つの装置によって実現されてもよい。制御装置50の機能が複数の装置に分割される場合、当該複数の装置は、CAN等の通信バスを介して、互いに接続されてもよい。
【0030】
取得部51は、制御部52および推定部53が行う処理において用いられる各種情報を取得し、制御部52および推定部53へ出力する。例えば、取得部51は、エアフローメータ24、アクセル開度センサ41、速度センサ42、加速度センサ43および環境センサ44から情報を取得する。
【0031】
制御部52は、吸排気システム1内の各装置の動作を制御する。例えば、制御部52は、点火プラグ14による点火タイミングを制御する。また、例えば、制御部52は、燃料噴射弁15による燃料噴射における燃料噴射タイミングおよび燃料噴射量を制御する。燃料噴射量は、エンジン10に供給される燃料の噴射量である。また、例えば、制御部52は、スロットルバルブ22の開度を制御する。
【0032】
推定部53は、フィルタ31における粒子状物質の堆積状態を推定する。ここで、フィルタ31における粒子状物質の堆積量に応じて、排気流路30における排気抵抗が変化する。具体的には、フィルタ31における粒子状物質の堆積量が多いほど、排気流路30における排気抵抗は大きくなる。ゆえに、エンジン10の制御パラメータを調整すること等の目的で、フィルタ31における粒子状物質の堆積状態を推定する必要がある。本実施形態では、フィルタ31における粒子状物質の堆積状態を推定する処理に対して工夫を施すことによって、フィルタ31における粒子状物質の堆積状態を適切に推定することが実現される。
【0033】
<吸排気システムの動作>
図3および
図4を参照して、本発明の実施形態に係る吸排気システム1の動作について説明する。
【0034】
図3は、制御装置50が行う処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図3に示される処理フローは、例えば、予め設定された時間間隔で繰り返される。
【0035】
図3に示される処理フローが開始されると、まず、ステップS101において、制御部52は、エンジン10の目標トルクを決定する。目標トルクは、エンジン10から出力されるトルクの目標値であり、例えば、ドライバが要求するトルクである。
【0036】
制御部52は、エンジン10から目標トルクに相当するトルクが出力されるように、エンジン10を制御する。具体的には、制御部52は、エンジン10から目標トルクに相当するトルクが出力されるような各制御パラメータを決定し、決定された各制御パラメータに従ってエンジン10を動作させる。上記の制御パラメータとしては、例えば、点火タイミング、燃料噴射タイミング、燃料噴射量およびスロットルバルブ22の開度等が挙げられる。
【0037】
ステップS101では、制御部52は、例えば、アクセル開度に基づいて、目標トルクを決定する。例えば、制御部52は、アクセル開度が大きいほど、大きな値を目標トルクとして決定する。なお、取得部51は、例えば、アクセル開度センサ41の検出結果に基づいてアクセル開度を取得し得る。
【0038】
ステップS101の次に、ステップS102において、推定部53は、エンジン10の実トルクを推定する。実トルクは、エンジン10から実際に出力されるトルクである。
【0039】
上述したように、エンジン10は、目標トルクに相当するトルクが出力されるように制御される。しかしながら、フィルタ31における粒子状物質の堆積量が多く、排気流路30における排気抵抗が大きい場合、エンジン10から実際に出力されるトルクである実トルクが目標トルクに対して不足する。つまり、実トルクが目標トルクよりも小さくなり、実トルクと目標トルクとの差であるトルク不足分が生じる。
【0040】
ステップS102では、推定部53は、例えば、車両100の速度に関する速度情報に基づいて、実トルクを推定する。速度情報は、車両100の速度に関する各種情報を含み、例えば、車両100の速度、または、車両100の加速度等を含み得る。なお、取得部51は、例えば、速度センサ42の検出結果に基づいて車両100の速度を取得し得る。また、取得部51は、例えば、加速度センサ43の検出結果に基づいて車両100の加速度を取得し得る。
【0041】
例えば、推定部53は、車両100が定速走行を行っている状況下で、車両100の速度と対応するトルクを実トルクとして推定する。定速走行は、速度が略一定の状態での走行を意味し、速度が厳密に一定の状態での走行でなくてもよい。定速走行時には、実トルクと走行抵抗とが打ち消し合っている。そして、速度が高いほど走行抵抗が大きくなる。ゆえに、推定部53は、定速走行時の速度が高いほど、大きな値を実トルクとして推定する。なお、走行抵抗は、車両100が走行する路面の勾配に応じて変化する。ゆえに、推定部53は、後述されるように、路面の勾配を加味して実トルクを推定することが好ましい。
【0042】
なお、推定部53は、車両100が定速走行を行っていない状況下において、実トルクを推定してもよい。この場合、推定部53は、例えば、車両100の速度に加えて、車両100の前後方向の加速度に基づいて、実トルクを推定する。それにより、車両100の前後方向の加速度を加味することによって、車両100の速度変化に費やされるトルクを考慮し、実トルクを適切に推定することができる。
【0043】
ステップS102の次に、ステップS103において、推定部53は、実トルクと目標トルクとの差であるトルク不足分を推定する。
【0044】
ステップS103では、推定部53は、ステップS101で決定された目標トルクからステップS102で推定された実トルクを減算した値をトルク不足分として推定する。
【0045】
ステップS103の次に、ステップS104において、推定部53は、フィルタ31における粒子状物質の堆積状態を推定し、
図3に示される処理フローは終了する。
【0046】
ステップS104では、推定部53は、トルク不足分の推定結果に基づいて、フィルタ31における粒子状物質の堆積状態を推定する。堆積状態は、フィルタ31における粒子状物質の堆積の程度の状態を意味する。換言すると、堆積状態は、フィルタ31に粒子状物質がどの程度堆積しているのかの状態を意味する。
【0047】
図4は、トルク不足分と堆積量との関係の一例を示すグラフである。
図4に示されるように、フィルタ31における粒子状物質の堆積量は多いほど、トルク不足分が大きくなる。ゆえに、推定部53は、ステップS103で推定されたトルク不足分が大きいほど、フィルタ31における粒子状物質の堆積量が多いと推定する。
【0048】
より詳細には、トルク不足分が大きいほど、フィルタ31における粒子状物質の堆積量が多くなるので、排気流路30における排気抵抗が大きくなる。ゆえに、推定部53は、例えば、ステップS103で推定されたトルク不足分が大きいほど、排気流路30における排圧に相当する排気抵抗として大きな値を推定する。そして、推定部53は、推定された排気流路30における排気抵抗と、排気流路30における排気の流量とに基づいて、フィルタ31における粒子状物質の堆積量を推定することができる。
【0049】
フィルタ31における粒子状物質の堆積状態の推定結果は、制御部52による各種処理に利用され得る。
【0050】
例えば、制御部52は、堆積状態の推定結果に基づいて、エンジン10の制御パラメータを調整してもよい。この場合、制御部52は、例えば、トルク不足分が小さくなるように、点火タイミング、燃料噴射タイミング、燃料噴射量またはスロットルバルブ22の開度等の制御パラメータを調整する。制御部52は、例えば、フィルタ31における粒子状物質の堆積量が多いほど、制御パラメータの調整量を大きくする。
【0051】
なお、上記の制御パラメータの調整が行われた後に
図3の処理フローが行われる場合、推定部53は、制御パラメータの調整に対応するトルク不足分の低下量を考慮して、堆積状態を推定する。例えば、推定部53は、ステップS103において、ステップS101で決定された目標トルクからステップS102で推定された実トルクを減算した値に対して、制御パラメータの調整に対応するトルク不足分の低下量を差し引いてトルク不足分を推定する。
【0052】
また、例えば、制御部52は、堆積状態の推定結果に基づいて、フィルタ31の再生処理を実行してもよい。再生処理では、制御部52は、例えば、燃料噴射量を増加させることによって、フィルタ31内の温度を上昇させ、フィルタ31に堆積している粒子状物質を除去する。制御部52は、例えば、フィルタ31における粒子状物質の堆積量が基準量を超えた場合に、再生処理を実行する。
【0053】
以上説明したように、本実施形態では、推定部53は、エンジン10の実トルクと目標トルクとの差であるトルク不足分を推定し、トルク不足分の推定結果に基づいて、フィルタ31における粒子状物質の堆積状態を推定する。それにより、フィルタ31への粒子状物質の堆積に起因して排気流路30における排気抵抗が増大して実トルクが低下する現象に着目して、フィルタ31における粒子状物質の堆積状態を適切に推定することができる。
【0054】
ここで、フィルタ31における粒子状物質の堆積状態を推定する他の方法として、排気流路30のうちフィルタ31より上流側の圧力とフィルタ31より下流側の圧力との差圧に基づいて、堆積状態を推定する方法がある。この場合、差圧を検出するためにセンサが用いられ、当該センサが外気に晒されることによる当該センサの凍結、および、車両100から当該センサへの入熱による熱害等に対する対策を施す必要が生じる。一方、本実施形態では、当該センサを利用することなく、フィルタ31における粒子状物質の堆積状態を推定できる。それにより、当該センサへの対策が不要となり、かつ、コストを低減できる。
【0055】
以上、
図3のフローチャートを参照して、制御装置50が行う処理について説明した。ただし、制御装置50が行う処理は、上記で説明した処理に対して変更が加えられた処理であってもよい。
【0056】
例えば、トルク不足分をより精度良く推定する観点では、推定部53は、上記で挙げた情報以外の情報を加味して、トルク不足分を推定することが好ましい。
【0057】
推定部53は、例えば、エンジン10の運転状態に関するエンジン状態情報を加味して、トルク不足分を推定してもよい。エンジン状態情報は、エンジン10の運転状態に関する各種情報を含み、例えば、点火タイミング、燃料噴射タイミング、燃料噴射量、吸入空気量、または、エンジン10の暖機が完了しているか否かの情報等を含み得る。
【0058】
エンジン状態情報を加味してトルク不足分を推定する場合において、例えば、推定部53は、ステップS102において、速度情報に加えて、エンジン状態情報に基づいて、実トルクを推定する。例えば、ノッキングを抑制するために点火タイミングの調整が行われている場合がある。この場合、推定部53は、ステップS102において、点火タイミングの調整量を加味して実トルクを推定する。
【0059】
なお、推定部53は、エンジン状態情報を、ステップS102の実トルクの推定の処理に用いずに、ステップS103のトルク不足分の推定の処理に直接利用してもよい。例えば、推定部53は、ステップS103において、ステップS101で決定された目標トルクからステップS102で推定された実トルクを減算した値に対して、点火タイミングの調整量に対応するトルク不足分の変化量を差し引いてトルク不足分を推定してもよい。
【0060】
なお、推定部53は、燃料噴射タイミング、燃料噴射量、吸入空気量、または、エンジン10の暖機が完了しているか否かの情報等の点火タイミング以外のエンジン状態情報を加味して、トルク不足分を推定してもよい。また、吸排気システム1に過給機が設けられている場合において、推定部53は、エンジン状態情報としての過給圧を加味して、トルク不足分を推定してもよい。
【0061】
また、推定部53は、例えば、車両100が走行する路面に関する路面情報を加味して、トルク不足分を推定してもよい。路面情報は、車両100が走行する路面に関する各種情報を含み、例えば、路面の勾配、路面の摩擦係数、または、路面が舗装路であるか未舗装路であるかの情報等を含み得る。
【0062】
路面情報を加味してトルク不足分を推定する場合において、例えば、推定部53は、ステップS102において、速度情報に加えて、路面情報に基づいて、実トルクを推定する。推定部53は、例えば、ステップS102において、定速走行時における走行抵抗に対して路面の勾配が与える影響を加味して実トルクを推定する。例えば、推定部53は、同一の速度であっても、車両100が登坂路を走行している場合、車両100が降坂路を走行している場合と比べて、大きな値を実トルクとして推定する。なお、取得部51は、例えば、加速度センサ43により検出される車両100の上下方向の加速度に基づいて、路面の勾配を取得し得る。
【0063】
なお、推定部53は、路面情報を、ステップS102の実トルクの推定の処理に用いずに、ステップS103のトルク不足分の推定の処理に直接利用してもよい。例えば、推定部53は、ステップS103において、ステップS101で決定された目標トルクからステップS102で推定された実トルクを減算した値に対して、路面の勾配に対応するトルク不足分の変化量を差し引いてトルク不足分を推定してもよい。
【0064】
なお、推定部53は、路面の摩擦係数、または、路面が舗装路であるか未舗装路であるかの情報等の路面の勾配以外の路面情報を加味して、トルク不足分を推定してもよい。
【0065】
また、推定部53は、例えば、吸排気システム1の周囲環境に関する環境情報を加味して、トルク不足分を推定してもよい。環境情報は、吸排気システム1の周囲環境に関する各種情報を含み、例えば、外気の気温および気圧等を含み得る。
【0066】
環境情報を加味してトルク不足分を推定する場合において、例えば、推定部53は、ステップS102において、速度情報に加えて、環境情報に基づいて、実トルクを推定する。ここで、エンジン10に吸入される空気の温度および圧力に応じて、実トルクが変化し得る。ゆえに、推定部53は、例えば、ステップS102において、エンジン10に吸入される空気の温度および圧力に対して外気の気温および気圧が与える影響を加味して実トルクを推定する。なお、取得部51は、例えば、環境センサ44の検出結果に基づいて、外気の気温および気圧を取得し得る。
【0067】
なお、推定部53は、環境情報を、ステップS102の実トルクの推定の処理に用いずに、ステップS103のトルク不足分の推定の処理に直接利用してもよい。例えば、推定部53は、ステップS103において、ステップS101で決定された目標トルクからステップS102で推定された実トルクを減算した値に対して、外気の気温および気圧に対応するトルク不足分の変化量を差し引いてトルク不足分を推定してもよい。
【0068】
なお、推定部53は、天候情報等の外気の気温および気圧以外の環境情報を加味して、トルク不足分を推定してもよい。
【0069】
上記では、トルク不足分の推定に加味され得る情報として、エンジン状態情報、路面情報および環境情報を挙げた。ただし、推定部53は、エンジン状態情報、路面情報および環境情報以外の情報を加味して、トルク不足分を推定してもよい。また、推定部53は、複数種類の情報を加味して、トルク不足分を推定してもよい。例えば、推定部53は、エンジン状態情報、路面情報および環境情報のうちの任意に選択した複数種類の情報を加味して、トルク不足分を推定してもよい。
【0070】
また、例えば、推定部53は、トルク不足分の推定の処理に用いられる情報が安定している場合に限り、フィルタ31における粒子状物質の堆積状態を推定してもよい。なお、情報が安定していることは、例えば、当該情報が示す値の単位時間における変化幅が所定値以下であること等を意味する。例えば、推定部53は、トルク不足分の推定の処理に用いられる情報のうち、全ての情報が安定している場合に限り、フィルタ31における粒子状物質の堆積状態を推定してもよい。
【0071】
<吸排気システムの効果>
本発明の実施形態に係る吸排気システム1の効果について説明する。
【0072】
本実施形態に係る吸排気システム1は、エンジン10と、エンジン10と接続される排気流路30と、排気流路30に設けられるフィルタ31と、制御装置50と、を備え、フィルタ31における粒子状物質の堆積量に応じて、排気流路30における排気抵抗が変化する。そして、制御装置50のプロセッサ50aは、エンジン10の実トルクと目標トルクとの差であるトルク不足分を推定することと、トルク不足分の推定結果に基づいて、フィルタ31における粒子状物質の堆積状態を推定することと、を含む処理を実行する。それにより、フィルタ31への粒子状物質の堆積に起因して排気流路30における排気抵抗が増大して実トルクが低下する現象に着目して、フィルタ31における粒子状物質の堆積状態を適切に推定することができる。さらに、フィルタ31より上流側の圧力とフィルタ31より下流側の圧力との差圧を検出するためにセンサを利用することなく、フィルタ31における粒子状物質の堆積状態を推定できる。それにより、当該センサへの対策が不要となり、かつ、コストを低減できる。
【0073】
また、本実施形態に係る吸排気システム1は、車両100に搭載され、プロセッサ50aは、車両100の速度に関する速度情報に基づいて、実トルクを推定することを含む処理を実行することが好ましい。それにより、例えば、定速走行時の車両100の速度と対応するトルクを実トルクとして推定することによって、エンジン10の実トルクを適切に推定することができる。
【0074】
また、本実施形態に係る吸排気システム1では、プロセッサ50aは、エンジン10の運転状態に関するエンジン状態情報を加味して、トルク不足分を推定することを含む処理を実行することが好ましい。それにより、例えば、エンジン10の運転状態の調整が行われている場合等において、トルク不足分をより精度良く推定することができる。
【0075】
また、本実施形態に係る吸排気システム1は、車両100に搭載され、プロセッサ50aは、車両100が走行する路面に関する路面情報を加味して、トルク不足分を推定することを含む処理を実行することが好ましい。それにより、例えば、定速走行時における走行抵抗に対して路面の状態が与える影響を加味して実トルクを推定することによって、トルク不足分をより精度良く推定することができる。
【0076】
また、本実施形態に係る吸排気システム1では、プロセッサ50aは、吸排気システム1の周囲環境に関する環境情報を加味して、トルク不足分を推定することを含む処理を実行することが好ましい。それにより、例えば、エンジン10の運転状態に対して環境が与える影響を加味して実トルクを推定することによって、トルク不足分をより精度良く推定することができる。
【0077】
以上、添付図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されないことは勿論であり、特許請求の範囲に記載された範疇における各種の変更例または修正例についても、本発明の技術的範囲に属することは言うまでもない。
【0078】
例えば、本明細書においてフローチャートを用いて説明した処理は、必ずしもフローチャートに示された順序で実行されなくてもよい。また、追加的な処理ステップが採用されてもよく、一部の処理ステップが省略されてもよい。
【符号の説明】
【0079】
1 吸排気システム
10 エンジン
11 気筒
12 ピストン
13 燃焼室
14 点火プラグ
15 燃料噴射弁
16 吸気バルブ
17 排気バルブ
20 吸気流路
21 エアフィルタ
22 スロットルバルブ
23 サージタンク
24 エアフローメータ
30 排気流路
31 フィルタ
41 アクセル開度センサ
42 速度センサ
43 加速度センサ
44 環境センサ
50 制御装置
50a プロセッサ
50b メモリ
51 取得部
52 制御部
53 推定部
100 車両