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特開2024-142168測定装置、冷凍装置、測定方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142168
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】測定装置、冷凍装置、測定方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/22 20060101AFI20241003BHJP
   F04C 29/02 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
G01N27/22 B
F04C29/02 321A
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054210
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】花崎 友哉
(72)【発明者】
【氏名】池辺 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】山口 潤己
【テーマコード(参考)】
2G060
3H129
【Fターム(参考)】
2G060AA06
2G060AC04
2G060AE17
2G060AF03
2G060AF10
2G060AG03
2G060HA02
2G060KA06
3H129AA02
3H129AA14
3H129AB03
3H129BB60
3H129CC17
3H129CC27
3H129CC34
(57)【要約】
【課題】冷媒と冷凍機油の混合液中に配置した電極における静電容量値または該静電容量値に相関する第1指標の測定精度を向上させる。
【解決手段】冷媒と冷凍機油との混合液の静電容量値または該静電容量値に相関する第1指標を測定する測定装置であって、冷媒または冷凍機油は、電子極性を有し、混合液中に配置される電極部(61)と、交流電圧を生成して、混合液中の電極部(61)に印加する発信部(62)と、交流電圧の印加時の混合液中の電極部(61)におけるインピーダンスに基づいて静電容量値を求める制御部(101)とを備え、制御部(101)は、インピーダンスから冷媒または冷凍機油による抵抗成分を切り分けることで、電極部(61)における静電容量値または該静電容量値に相関する第1指標を求める。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒と冷凍機油との混合液の静電容量値または該静電容量値に相関する第1指標を測定する測定装置であって、
前記冷媒または前記冷凍機油は、電子極性を有し、
前記混合液中に配置される電極部(61)と、
交流電圧を生成して、前記混合液中の前記電極部(61)に印加する発信部(62)と、
交流電圧の印加時の前記混合液中の前記電極部(61)におけるインピーダンスに基づいて静電容量値を求める制御部(101)とを備え、
前記制御部(101)は、前記インピーダンスから前記冷媒または前記冷凍機油による抵抗成分を切り分けることで、前記電極部(61)における静電容量値または該静電容量値に相関する第1指標を求める
測定装置。
【請求項2】
前記発信部(62)は、一定かつ所定値以上の周波数の交流信号を発生させる
請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記所定値は、2.0kHzである
請求項2に記載の測定装置。
【請求項4】
前記制御部(101)は、前記混合液中の前記電極部(61)における前記インピーダンス、及び電圧と電流との位相差に基づいて前記抵抗成分を求める
請求項1~3のいずれか1つに記載の測定装置。
【請求項5】
前記制御部(101)は、測定された前記静電容量値と前記混合液中の前記冷凍機油の濃度との関係に基づいて、冷凍機油の濃度を求める
請求項1~3のいずれか1つに記載の測定装置。
【請求項6】
前記制御部(101)は、測定された前記静電容量値に基づいて、前記電極部(61)が前記混合液に浸かっているか判定する
請求項1~3のいずれか1つに記載の測定装置。
【請求項7】
請求項1~3のいずれか1つの測定装置と、
ケーシング(50)および前記ケーシング(50)内に配置される圧縮機構(52)とを備える冷凍装置であって、
前記電極部(61)は、前記ケーシング(50)内に形成される油貯まり部(56)に配置される
冷凍装置。
【請求項8】
冷媒と冷凍機油との混合液の静電容量値または該静電容量値に相関する第1指標を測定する測定方法であって、
前記冷媒または前記冷凍機油は、電子極性を有し、
前記混合液中に配置される電極部(61)における電圧値及び電流値に基づいて、インピーダンス、および電圧と電流との位相角を求めるステップと、
前記冷媒または前記冷凍機油に起因する抵抗成分と、電極部(61)におけるリアクタンスと求めるステップと、
電極部(61)におけるリアクタンスに基づいて、静電容量値または該静電容量値に相関する第1指標を求めるステップとを含む
測定方法。
【請求項9】
冷媒と冷凍機油との混合液の静電容量値または該静電容量値に相関する第1指標を測定するプログラムであって、
前記冷媒または前記冷凍機油は、電子極性を有し、
前記混合液中に配置される電極部(61)における電圧値及び電流値に基づいて、インピーダンス、および電圧と電流との位相角を求める処理と、
前記冷媒または前記冷凍機油に起因する抵抗成分と、電極部(61)におけるリアクタンスと求める処理と、
電極部(61)におけるリアクタンスに基づいて、静電容量値または該静電容量値に相関する第1指標を求める処理とを実行する
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、測定装置、冷凍装置、測定方法及びプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、圧縮機内の冷媒と冷凍機油との混合液中の油濃度を検出する冷媒圧縮装置が開示されている。この冷媒圧縮機装置は、圧縮機内の油溜まりに配置される電極を備え、電極間(厳密には電極とシェル内面との間)に存在する冷凍機油の比誘電率に基づいて油濃度を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/134742号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、混合液中の冷媒及び冷凍機油のいずれかが電子極性を有する場合、混合液中に配置された電極に電圧を印加することで、混合液の抵抗が変化することが知見として得られている。このような抵抗成分は、電極間の静電容量値の測定値に影響を与え、静電容量値の測定に誤差が生じるおそれがある。
【0005】
本開示の目的は、冷媒と冷凍機油の混合液中に配置した電極における静電容量値または該静電容量値に相関する第1指標の測定精度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様は、
冷媒と冷凍機油との混合液の静電容量値または静電容量値に相関する値を測定する測定装置であって、
前記冷媒または前記冷凍機油は、電子極性を有し、
前記混合液中に配置される電極部(61)と、
交流電圧を生成して、前記混合液中の前記電極部(61)に印加する発信部(62)と、
交流電圧の印加時の前記混合液中の前記電極部(61)におけるインピーダンスに基づいて静電容量値を求める制御部(101)とを備え、
前記制御部(101)は、前記インピーダンスから前記冷媒または前記冷凍機油による抵抗成分を切り分けることで、前記電極部(61)における静電容量値または静電容量値に相関する第1指標を求める測定装置である。
【0007】
第1の態様では、冷媒または冷凍機油由来の抵抗成分が除かれることで、電極部(61)のみにおけるインピーダンスに基づいて静電容量値または静電容量値に相関する第1指標を求めることができる。これにより、静電容量の測定値の信頼性が向上する。
【0008】
第2の態様は、第1の態様において、
前記発信部(62)は、一定かつ所定値以上の周波数の交流信号を発生させる。
【0009】
第2の態様では、発生させる交流信号の周波数が比較的低くかつ不安定であると、出力される静電容量値にばらつきが生じるという知見に基づいて、周波数を一定かつ所定値以上とした。これにより、安定した値の静電容量値を検出できる。
【0010】
第3の態様は、第2の態様において、
前記所定値は、2.0kHzである。
【0011】
第3の態様では、2.0kHz以上の交流信号とすることで、印加開始から比較的速やかに安定した静電容量値の測定値を得ることができる。
【0012】
第4の態様は、第1~第3の態様において、
前記制御部(101)は、前記混合液中の前記電極部(61)におけるインピーダンス、及び電圧と電流との位相差に基づいて前記抵抗成分を求める。
【0013】
第4の態様では、インピーダンスは、混合液中の上記抵抗成分と電極部(61)との合成抵抗値と見做すことができる。このインピーダンスと位相角とにより、混合液による上記抵抗成分と電極部(61)のリアクタンスとを切り分けることができる。これにより、抵抗成分を省き電極部(61)のリアクタンスのみに基づいた静電容量値を取得できる。
【0014】
第5の態様は、第1~第3の態様において、
前記制御部(101)は、測定された静電容量値と混合液中の前記冷凍機油の濃度との関係に基づいて、冷凍機油の濃度を求める。
【0015】
第5の態様では、静電容量値の測定精度が向上するため、油濃度の測定の精度も向上できる。
【0016】
第6の態様は、第1~第5の態様のいずれか1つにおいて、
前記制御部(101)は、測定された静電容量値に基づいて、前記電極部(61)が混合液に浸かっているか判定する。
【0017】
第6の態様では、例えば圧縮機内の混合液の油面の高さを検出できる。
【0018】
第7の態様は、
第1~第6の態様のいずれか1つの測定装置と、圧縮機(21)とを備える冷凍装置であて、
前記圧縮機(21)は、ケーシング(50)と、前記ケーシング(50)内に配置される圧縮機構(52)とを備え、
前記電極部(61)は、前記ケーシング(50)内に形成される油貯まり部(56)に配置される。
【0019】
第7の態様では、油貯まり部(56)に貯留する混合液の油濃度を測定できる。
【0020】
第8の態様は、
冷媒と冷凍機油との混合液の静電容量値を測定する測定方法であって、
前記冷媒または前記冷凍機油は、電子極性を有し、
前記混合液中に配置される電極部(61)における電圧値及び電流値に基づいて、インピーダンス、及び電圧と電流との位相角を求めるステップと、
前記冷媒または前記冷凍機油に起因する抵抗成分と、電極部(61)におけるリアクタンスと求めるステップと、
電極部(61)におけるリアクタンスに基づいて、静電容量値または静電容量値に相関する第1指標を求めるステップとを含む。
【0021】
第9の態様は、
冷媒と冷凍機油との混合液の静電容量値を測定するプログラムであって、
前記冷媒または前記冷凍機油は、電子極性を有し、
前記混合液中に配置される電極部(61)における電圧値及び電流値に基づいて、インピーダンス、及び電圧と電流との位相角を求める処理と、
前記冷媒または前記冷凍機油に起因する抵抗成分と、電極部(61)におけるインピーダンスと求める処理と、
電極部(61)におけるインピーダンスに基づいて、静電容量値または静電容量値に相関する第1指標を求める処理とを実行する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、実施形態に係る空気調和装置の配管系統図である。
図2図2は、空気調和装置の主要機器を示すブロック図である。
図3図3は、圧縮機の構成を示す概略図である。
図4図4は、実施形態に係る測定装置の構成を示す概略図である。
図5図5は、油濃度の測定方法を示すフローチャートである。
図6図6は、電極部と抵抗成分との等価回路を示す図である。
図7図7は、インピーダンスから抵抗成分RpとリアクタンスCpとを求め方を説明するための図である。
図8図8は、交流周波数ごとに電極部に印加した状態の静電容量値の時間変化を示したデータである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。また、以下に説明する各実施形態、変形例、その他の例等の各構成は、本発明を実施可能な範囲において、組み合わせたり、一部を置換したりできる。
【0024】
(1)空気調和装置の構成
空気調和装置(1)は、本開示の冷凍装置(1)の一例である。空気調和装置(1)は、対象空間の空気の温度を調節する。対象空間は、例えばビル等の室内空間である。
【0025】
図1に示すように、空気調和装置(1)は、室外ユニット(20)、室内ユニット(40)、連絡配管(12)、及び制御装置(100)を有する。空気調和装置(1)は、測定装置(10)を有する。本実施形態の測定装置(10)は、冷媒と冷凍機油との混合液中の冷凍機油の濃度(以下、油濃度という)を測定する。測定装置(10)の詳細は後述する。
【0026】
室外ユニット(20)と室内ユニット(40)とは、連絡配管(12)を介して互いに接続される。この接続により、閉回路である冷媒回路(11)が構成される。冷媒回路(11)には、冷媒が充填される。本実施形態の冷媒は、電子極性を有する。空気調和装置(1)は、室外ユニット(20)と室内ユニット(40)との間で冷媒を循環させて冷凍サイクルを行い、室内空間の空気調和を行う。
【0027】
冷媒回路(11)は、室外ユニット(20)に設けられる室外回路(20a)と、室内ユニット(40)に設けられる室内回路(40a)とを含む。連絡配管(12)は、液連絡配管(13)とガス連絡配管(14)とを含む。液連絡配管(13)及びガス連絡配管(14)のそれぞれの一端は、室外回路(20a)に接続され、それぞれの他端は、室内回路(40a)に接続される。
【0028】
(1-1)室外ユニット
室外ユニット(20)は、圧縮機(21)、室外熱交換器(22)、室外ファン(23)、室外膨張弁(26)、及び四方切換弁(25)を有する。
【0029】
圧縮機(21)は、吸入した冷媒を圧縮する。圧縮機(21)は、圧縮した冷媒を吐出する。圧縮機(21)は、スクロール型の回転式圧縮機である。圧縮機(21)は、揺動ピストン式、ローリングピストン式、スクリュー式などの他の回転式圧縮機でああってもよい。圧縮機(21)は、インバータ装置により運転周波数(回転数)が可変に構成される。
【0030】
室外ファン(23)は、室外熱交換器(22)に室外空気を搬送する。
【0031】
室外熱交換器(22)は、その内部を流れる冷媒と室外ファン(23)により搬送された室外空気とを熱交換させる。
【0032】
室外膨張弁(26)は、冷媒を減圧する。室外膨張弁(26)は、開度が調節可能な電動膨張弁である。
【0033】
四方切換弁(25)は、第1ポート(P1)と第2ポート(P2)と第3ポート(P3)と第4ポート(P4)とを有する。四方切換弁(25)は、第1状態(図1の実線で示す状態)と、第2状態(図1の破線で示す状態)とに切り換わる。四方切換弁(25)が第1状態と第2状態とに切り換わることによって、空気調和装置(1)は、冷房運転と暖房運転とを切り換えて運転する。
【0034】
(1-2)室内ユニット
室内ユニット(40)は、室内熱交換器(42)、室内ファン(43)及び室内膨張弁(41)を有する。
【0035】
室内ファン(43)は、室内熱交換器(42)に室内空気を搬送する。
【0036】
室内熱交換器(42)は、室内空気と、冷媒とを熱交換させる。
【0037】
室内膨張弁(41)は、冷媒を減圧する。室内膨張弁(41)は、開度が調節可能な電動膨張弁である。
【0038】
(1-3)制御装置
制御装置(100)は、運転指令に応じて、空気調和装置(1)が有する各種の機器を制御する。図2に示すように、制御装置(100)は、第1制御装置(100A)及び第2制御装置(100B)を有する。第1制御装置(100A)は室外ユニット(20)に配置される。第2制御装置(100B)は室内ユニット(40)に配置される。第1制御装置(100A)及び第2制御装置(100B)は、マイクロコンピュータと、該マイクロコンピュータを動作させるためのソフトウエアを格納するメモリディバイス(具体的には半導体メモリ)とを用いて構成されている。
【0039】
第1制御装置(100A)は、圧縮機(21)、室外ファン(23)、四方切換弁(25)及び室外膨張弁(26)を制御する。具体的には、第1制御装置(100A)は、圧縮機(21)の運転及び停止と、圧縮機(21)の回転数と、室外ファン(23)の運転及び停止と、室外ファン(23)の回転数と、四方切換弁(25)の流路の連通状態と、室外膨張弁(26)の開度とを制御する。
【0040】
第2制御装置(100B)は、室内ファン(43)及び室内膨張弁(41)を制御する。第2制御装置(100B)は、室内ファン(43)の回転数と、室内膨張弁(41)の開度とを制御する。
【0041】
(1-4)圧縮機の詳細
図3に示すように、圧縮機(21)は、ケーシング(50)と、ケーシング(50)の内部に収容される電動機(51)及び圧縮機構(52)を有する。圧縮機(21)は、電動機(51)と圧縮機構(52)とを連結する回転軸(53)を有する。ケーシング(50)は、中空の縦長の容器である。ケーシング(50)の内部は、圧縮機構(52)から圧縮された吐出冷媒が満たされる。圧縮機(21)は、いわゆる高圧ドーム型である。ケーシング(50)の内部には、吐出冷媒が流れる内部流路(54)が形成される。ケーシング(50)の外部は、外気雰囲気となる。
【0042】
電動機(51)は、ステータ(51a)とロータ(51b)とを有する。ステータ(51a)は、ケーシング(50)の内周面に固定される。ステータ(51a)は、ステータコアと、ステータコアに巻回されるコイルとを有する(図示省略)。ロータ(51b)は、ステータ(51a)の内部に配置され、回転軸(53)と連結する。電動機(51)では、コイルが通電することで回転磁界が形成される。この回転磁界によりロータ(51b)及び回転軸(53)が回転する。
【0043】
圧縮機構(52)は、回転軸(53)によって駆動される。圧縮機構(52)は、その内部の圧縮室において冷媒を圧縮する。圧縮機構(52)には、圧縮室で圧縮した冷媒が吐出される吐出ポート(52a)が形成される。
【0044】
ケーシング(50)の胴部(50a)には、吐出管(19)が接続される。吐出管(19)の入口端はケーシング(50)の内部に連通し、吐出管(19)の出口端は冷媒回路(11)の高圧ガスラインと繋がる。
【0045】
ケーシング(50)の内部には、圧縮機構(52)の吐出ポート(52a)から吐出管(19)までの間に内部流路(54)が形成される。圧縮機構(52)の吐出ポート(52a)から吐出された冷媒は、内部流路(54)を通過して吐出管(19)に送られる。
【0046】
ケーシング(50)の底部には、油貯まり部(56)が形成される。油貯まり部(56)には、冷凍機油と冷媒との混合液が貯まる。油貯まり部(56)には、測定装置(10)の電極部(61)が配置される。
【0047】
回転軸(53)の下端部には、給油ポンプ(53b)が設けられている。給油ポンプ(53b)の吸込口は、ケーシング(50)の油貯まり部(56)に開口している。給油ポンプ(53b)の吐出口は、回転軸(53)の内部に設けられた給油路(53a)に接続されている。給油ポンプ(53b)は、油貯まり部(56)の混合液を給油路(53a)へ搬送する。混合液は給油路(53a)を介して、圧縮機構(52)の摺動部分や回転軸(53)の軸受け(図示省略)へ供給される。
【0048】
(2)運転動作
空気調和装置(1)の運転動作について図1を参照しながら説明する。空気調和装置(1)は、冷房運転と暖房運転とを切り換える。図1では、冷房運転時の冷媒の流れを実線矢印で示し、暖房運転時の冷媒の流れを破線矢印で示している。
【0049】
(2-1)冷房運転
冷房運転では、第1制御装置(100A)が圧縮機(21)及び室外ファン(23)を運転させ、四方切換弁(25)を第1状態とし、室外膨張弁(26)を全開とする。第2制御装置(100B)が室内ファン(43)を運転させ、室内膨張弁(41)を所定開度に調節する。
【0050】
冷房運転時の冷媒回路(11)は、室外熱交換器(22)が放熱器(厳密には、凝縮器)として機能し、室内熱交換器(42)が蒸発器として機能する冷凍サイクルを行う。
【0051】
具体的には、圧縮機(21)で圧縮された冷媒は、室外熱交換器(22)を流れる。室外熱交換器(22)では、冷媒が室外空気へ放熱して凝縮する。室外熱交換器(22)で凝縮した冷媒は、液連絡配管(13)を流れ、室内回路(40a)に流入する。室内回路(40a)では、冷媒が室内膨張弁(41)で減圧された後、室内熱交換器(42)を流れる。室内熱交換器(42)では、冷媒が室内空気から吸熱して蒸発する。各室内熱交換器(42)で蒸発した冷媒は、ガス連絡配管(14)を流れ、圧縮機(21)に吸入される。
【0052】
(2-2)暖房運転
暖房運転では、第1制御装置(100A)が圧縮機(21)及び室外ファン(23)を運転させ、四方切換弁(25)を第2状態とし、室外膨張弁(26)を所定開度に調節する。第2制御装置(100B)が室内ファン(43)を運転させ、室内膨張弁(41)を所定開度に調節する。
【0053】
暖房運転時の冷媒回路(11)は、室内熱交換器(42)が放熱器(厳密には、凝縮器)として機能し、室外熱交換器(22)が蒸発器として機能する冷凍サイクルを行う。
【0054】
具体的には、圧縮機(21)で圧縮された冷媒は、ガス連絡配管(14)を流れ、室内回路(40a)に流入する。室内回路(40a)では、冷媒が室内熱交換器(42)を流れる。室内熱交換器(42)では、冷媒が室内空気に放熱して凝縮する。室内熱交換器(42)で凝縮した冷媒は、室内膨張弁(41)で減圧されたのち、液連絡配管(13)に流入する。液連絡配管(13)の冷媒は、室外膨張弁(26)で減圧された後、室外熱交換器(22)を流れる。室外熱交換器(22)では、冷媒が室外空気から吸熱して蒸発する。室外熱交換器(22)で蒸発した冷媒は、圧縮機(21)に吸入される。
【0055】
(3)測定装置の詳細
測定装置(10)は、電極部(61)における混合液中の静電容量値を測定する。測定装置(10)は、測定された静電容量値と混合液中の冷凍機油との関係を示すデータに基づいて、油濃度を求める。
【0056】
図4に示すように、測定装置(10)は、所定の測定回路(60)と制御部(101)とを有する。所定の測定回路(60)には、主に電極部(61)、発信部(62)、電流-電圧変換部(63)、及びベクトル電圧比測定部(64)が接続される。これらの電気部品は、所定の配線に接続される。測定装置(10)は、例えばLCRメータである。
【0057】
電極部(61)は、一対の電極を有する。電極部(61)は、例えばコンデンサである。電極部(61)は、ケーシング(50)内に形成される油貯まり部(56)に配置される。具体的に、電極部(61)は、油貯まり部(56)の混合液中に配置される(図1参照)。
【0058】
発信部(62)は、交流電圧を生成する。発信部(62)は、混合液中の電極部(61)に電圧を印加する。発信部(62)は、一定かつ所定値以上の周波数の交流信号を発生させる。本実施形態では、発信部(62)は、一定かつ2.0kHz以上の周波数の交流信号を発生させる。発信部(62)は、所定の電源と、正弦波発振器と、該電源からの電圧と正弦波発振器からの発振信号とを合成して交流信号を出力する合成回路とを有してもよい。
【0059】
電流-電圧変換部(63)は、基準抵抗(65)と制御アンプ(66)とを有する。基準抵抗は、電極部(61)から出力される出力信号(電流信号)を電圧に変換する。制御アンプ(66)は、電極部(61)と基準抵抗(65)との接続点Lcの電位を基準電位に制御する。
【0060】
ベクトル電圧比測定部(64)は、第1電圧測定部(67)と第2電圧測定部(68)と比率計測部(69)とを有する。第1電圧測定部(67)は、電極部(61)の両端(電極間)の交流電圧を測定する。第2電圧測定部(68)は、基準抵抗(65)の両端の交流電圧を測定する。比率計測部(69)は、第1電圧測定部(67)で測定された電圧V1と、第2電圧測定部(68)で測定された電圧V2との比率(以下、電圧比V1/V2という)を求める。
【0061】
制御部(101)は、マイクロコンピュータと、該マイクロコンピュータを動作させるためのソフトウエアを格納するメモリディバイス(具体的には半導体メモリ)とを用いて構成されている。制御部(101)には、比率計測部(69)から出力された所定の情報が入力される。
【0062】
制御部(101)は、交流電圧の印加時の混合液中の電極部(61)における電圧値と電流値とに基づいて静電容量値を求める。以下、制御部(101)による混合液中の電極部(61)における静電容量値の測定方法について、図5を参照しながら説明する。
【0063】
(4)静電容量値の測定方法
ステップS11では、制御部(101)は、混合液中の電極部(61)におけるインピーダンスZを求める。インピーダンスZは、ベクトル電圧測定部(64)において測定された電圧比V1/V2に基づいて算出される。具体的に、インピーダンスZは、第1電圧測定部(67)で測定される電極部(61)の交流電圧の大きさV1と、基準抵抗(65)に入力される電流I(制御アンプ(66)の制御量に基づく電極部(61)の交流電流の大きさ)とにより求まる。電流Iは、基準抵抗の抵抗値をRrとしたときに、交流電流I=V2/Rrにより求まる。
【0064】
ステップS12では、制御部(101)は、交流電圧V1と交流電流Iとの位相角θを求める。位相差θは、比率計測部(69)により第1交流電圧V1と交流電流Iとの位相差から求まる。
【0065】
ステップS13では、制御部(101)は、電極部(61)におけるリアクタンスCpを求める。リアクタンスCpは、ステップS11で求めたインピーダンスZと、ステップS12で求めた位相角θとに基づいて、インピーダンスZから電子極性を有する冷媒による抵抗成分Rpを除くことで求められる。具体的に、混合液中の電極部(61)に交流電圧を印加すると、混合液(冷媒)の抵抗成分にも同じ交流電圧が印加されることになる。これは、図6に示す等価回路が成り立っているとみなすことができる。すなわち、インピーダンスZはこの等価回路における抵抗成分RpとリアクタンスCpとの合成抵抗と同等とみなすことができる。これにより、インピーダンスZから抵抗成分Rpを含まない電極部(61)のリアクタンスCpを求めることができる。
【0066】
電極部(61)における交流電圧の印加に伴う電流特性は、混合液(電子極性を有する冷媒)と電極部(61)とで異なる。そのため、図7に示すように、インピーダンスZを複素数で表すと、式(1)となる。なお、交流信号の角速度をω、虚数をjとする。
【0067】
さらに、式(1)を変形して得られた式(2)から、インピーダンスZを実部と虚部との成分に分けた時に、実部及び虚部において、式(3)及び式(4)が成立する。式(3)及び式(4)に基づいて、抵抗成分Rp及びリアクタンスCpが求まる。
【0068】
ステップS14では、制御部(101)は、ステップS13で求めたリアクタンスCpに基づいて、電極部(61)における静電容量値Cを求める。静電容量値Cは、電極部(61)の電極間における混合液の比誘電率εに基づいて求まる。静電容量値Cは、リアクタンスCpと比誘電率εとの関係に基づいて求まる。制御部(101)の記憶部には、リアクタンスCpと比誘電率εとの関係を示す第1データが保存されていてもよい。このように、制御部(101)は、インピーダンスZから電子極性を有する冷媒による抵抗成分を切り分けることで、混合液中の電極部(61)における静電容量値を求める。
【0069】
ステップS15は、制御部(101)は、混合液中の油濃度を求める。油濃度は、ステップS14で求めた静電容量値Cに基づいて求めることができる。具体的に、制御部(101)は、静電容量値と油濃度(また冷媒濃度)との関係に基づいて油濃度を求める。制御部(101)の記憶部には、油濃度と静電容量値Cとの関係を示す第2データが保存されていてもよい。
【0070】
(5)プログラム
制御部(101)または制御装置(100)の記憶部には、上述の静電容量値の測定方法をコンピュータに実行させるためのプログラムが記憶されている。ここでいう測定方法は、上記(4)で述べた静電容量値の測定方法で述べた全ての処理を含む。また、測定方法は、「油濃度の測定」まで含めてもよい。
【0071】
(6)実施形態の効果
(6-1)効果1
本実施形態の測定装置(10)によると、制御部(101)は、混合液中の電極部(61)おけるインピーダンスから、電子極性を有する冷媒による抵抗成分を切り分けることで、混合液中の電極部(61)における静電容量値を求める。
【0072】
電子極性を有する冷媒では、電極部に交流電圧を印加すると、電子配向が整っていくことで抵抗(体積低効率)が変化することが知見として得られている。
【0073】
ここで、冷媒と冷凍機油とを含む混合液中に配置した電極部における静電容量値の測定には、比較的安価な充放電方式による測定装置が用いられることが多い。しかし、充放電方式では、電子極性を有する冷媒による抵抗成分が抽出されないため、このような抵抗成分が検討されることはこれまでになかった。本開示では、このような冷媒による抵抗成分が、電極部(61)における静電容量値の測定誤差の要因となり得ることを新たに見出した。
【0074】
本実施形態によると、電極部(61)におけるインピーダンスから電子極性を有する冷媒による抵抗成分を除くことができる。電極部(61)におけるリアクタンスのみに基づいて、電極部(61)の静電容量値を測定できる。これにより静電容量値の測定精度を向上できる。
【0075】
(6-2)効果2
本実施形態の測定装置(10)によると、発信部(62)は、一定かつ所定値以上の周波数の交流信号を発生させる。一定の周波数を発生させることで、毎回安定した静電容量値を測定できる。一方で、発生する周波数が不安定になると、同じ油濃度の混合液であっても静電容量値の値にばらつきが生じる。本実施形態の測定装置(10)では、このような静電容量値の測定値のばらつきを抑制できる。
【0076】
(6-3)効果3
本実施形態の測定装置(10)によると、発信部(62)は発生させる周波数は2.0kHz以上である。図6に示すように、交流周波数を2.0kHz以上の場合、印加開始後比較的速やかに静電容量値が安定する。
【0077】
(6-4)効果4
本実施形態の測定装置(10)によると、制御部(101)は、混合液中の電極部(61)におけるインピーダンス、及び電圧と電流との位相差に基づいて電子極性を有する冷媒に由来する抵抗成分を求める。
【0078】
インピーダンスは、電子極性を有する冷媒の抵抗成分と電極部(61)とリアクタンスとの合成抵抗と見做すことができる。このインピーダンス、及び電流と電圧との位相角とにより、インピーダンスから電子極性を有する冷媒に起因する抵抗成分を切り分けることができる。これにより、電極部(61)のリアクタンスのみに基づいた静電容量値を取得できる。
【0079】
(6-5)効果5
本実施形態の測定装置(10)では、制御部(101)は、測定された静電容量値と混合液中の冷凍機油の濃度との関係に基づいて、油濃度を求める。これにより、冷凍機油の濃度の測定値の信頼性も向上する。
【0080】
(6-6)効果6
本実施形態の空気調和装置(1)は、測定装置(10)と圧縮機(21)とを備え、電極部(61)がケーシング(50)に形成される油貯まり部(56)に配置される。これにより、油貯まり部(56)に貯留する混合液の油濃度を測定できる。信頼性の高い静電容量値に基づいて得られた油濃度に基づいて、圧縮機(21)の回転数や膨張弁(26,41)の開度を調節することで、圧縮機構(52)の摺動部分への冷凍機油の供給不足を抑えることができ、圧縮機(21)の故障、ひいては空気調和装置(1)の故障を回避できる。
【0081】
(7)その他の実施形態
上記実施形態は、以下の構成としてもよい。
【0082】
測定装置(10)は、油貯まり部(56)の混合液の液面を検出してもよい。具体的に混合液中の電極部(61)における静電容量値は、電極部(61)の混合液への浸かり具合によっても異なる。このように電極部(61)の混合液への浸かり具合とそれに対応する静電容量値との関係を示すデータを取得することで、該データと測定された静電容量値とに基づいて、油貯まり部(56)内の混合液の液面高さを把握できる。
【0083】
測定装置(10)は、電極部(61)における混合液の静電容量値の代わりに、該静電容量値に相関する第1指標を求めてもよい。第1指標は、電極部(61)における混合液の静電容量値に相関するものであれば限定はない。例えば、上記実施形態において第1指標は、インピーダンスZに相関する値Z1に基づくものであってもよい。具体的に、Z1=V1/V2としたときに、図7中の式(3)のZにZ1を代入することで得られるCpの値を第1指標としてもよい。
【0084】
測定装置(10)は、冷凍装置(1)と一体に構成されていてもよい。冷凍装置(1)に後付けできるものであってもよい。冷凍装置(1)と一体に構成されている場合、冷凍装置(1)の制御装置(100)は、測定装置(10)の制御部(101)を兼用する。
【0085】
混合液は、冷媒及び冷凍機油の少なくともいずれかが電子極性を有するものであればよい。
【0086】
測定装置(10)は、測定された静電容量値または第1指標に基づいて、混合液中の冷媒濃度を求めてもよい。例えば、冷媒と冷凍機油とから混合液が構成されるとして、冷媒濃度は100(wt%)-油濃度(wt%)により求めてもよい。
【0087】
以上、実施形態及び変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態及び変形例は、本開示の対象の機能を損なわない限り、適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。以上に述べた「第1」、「第2」、…という記載は、これらの記載が付与された語句を区別するために用いられており、その語句の数や順序までも限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0088】
以上説明したように、本開示は、測定装置、冷凍装置、測定方法及びプログラムについて有用である。
【符号の説明】
【0089】
1 冷凍装置
10 測定装置
21 圧縮機
50 ケーシング
52 圧縮機構
56 油貯まり部
61 電極部
62 発信部
101 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8