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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142173
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】設計支援システム及び設計支援方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/12 20200101AFI20241003BHJP
   G06F 16/24 20190101ALI20241003BHJP
【FI】
G06F30/12
G06F16/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054217
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】有馬 世一
【テーマコード(参考)】
5B146
5B175
【Fターム(参考)】
5B146DG02
5B146DL03
5B146DL08
5B175EA03
(57)【要約】
【課題】設計変更の項目や理由を理解し易くし製品の設計効率を向上させる。
【解決手段】
自然言語で記述された第1設計案及び第2設計案に関し、前記第1設計案に対して変更された前記第2設計案の設計項目につき、前記設計項目に係る前記第1設計案の設計値、前記設計項目に係る前記第2設計案の設計値、及び変更理由の各データを前記第1設計案及び前記第2設計案のデータから抽出し、前記第1設計案から前記第2設計案への設計変更に係るデータとして、前記設計項目、前記第1設計案の設計値、前記第2設計案の設計値、及び前記変更理由の各データを登録した設計変更理由データベースを作成し、前記設計変更理由データベースに基づき、前記第1設計案から前記第2設計案への設計変更に係るデータとして、前記設計項目、前記第1設計案の設計値、前記第2設計案の設計値、及び前記変更理由の各データを出力装置に出力する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品の設計を支援する設計支援システムであって、
記憶装置及び処理装置を備え、
前記処理装置は、
自然言語で記述された第1設計案から前記第1設計案を変更して自然言語で記述された第2設計案への設計変更理由のデータを登録する設計変更理由データベースを前記記憶装置に記録し、
前記第1設計案に対して変更された前記第2設計案の設計項目につき、前記設計項目に係る前記第1設計案の設計値、前記設計項目に係る前記第2設計案の設計値、及び変更理由の各データのうち、前記設計変更理由データベースに未登録のデータを前記第1設計案及び前記第2設計案のデータから抽出し、
前記第1設計案から前記第2設計案への設計変更に係るデータとして、前記設計項目、前記第1設計案の設計値、前記第2設計案の設計値、及び前記変更理由の各データを前記設計変更理由データベースに登録し、
入力装置からの要求信号に応じて、前記設計変更理由データベースに基づき、前記第1設計案から前記第2設計案への設計変更に係るデータとして、前記設計項目、前記第1設計案の設計値、前記第2設計案の設計値、及び前記変更理由の各データを出力装置に出力する
設計支援システム。
【請求項2】
請求項1の設計支援システムにおいて、
前記記憶装置は、前記第1設計案及び前記第2設計案のデータを格納するための設計文書データベースを記憶しており、
前記処理装置は、前記未登録のデータを前記設計文書データベースから抽出する
設計支援システム。
【請求項3】
請求項2の設計支援システムにおいて、
前記処理装置は、
前記変更理由の入力画面を前記出力装置に出力し、
前記入力画面で入力された前記第1設計案に対する前記第2設計案の設計変更に係る前記設計項目、及び前記変更理由を取得し、
前記設計項目に係る前記第1設計案及び前記第2設計案の設計値のデータが前記設計変更理由データベースに登録されているかを判定し、
前記第1設計案及び前記第2設計案の設計値の少なくとも一方のデータが前記設計変更理由データベースに未登録である場合、前記設計文書データベースから前記未登録に係るデータを抽出し、前記第1設計案に対する前記第2設計案の設計変更に紐づけて前記設計変更理由データベースに登録する設計支援システム。
【請求項4】
請求項3の設計支援システムにおいて、
前記処理装置は、自然言語処理により前記設計文書データベースから前記未登録に係るデータを抽出する設計支援システム。
【請求項5】
請求項2の設計支援システムにおいて、
前記処理装置は、
前記設計文書データベースに格納された前記第1設計案及び前記第2設計案を比較し、
前記第1設計案に対して変更された前記第2設計案の前記設計項目、前記設計項目に係る前記第1設計案の前記設計値、前記設計項目に係る前記第2設計案の前記設計値、及び前記変更理由を抽出し、前記設計変更理由データベースに登録する
設計支援システム。
【請求項6】
請求項5の設計支援システムにおいて、
前記処理装置は、自然言語処理により前記設計文書データベースから前記設計項目、前記第1設計案の前記設計値、前記第2設計案の前記設計値、及び前記変更理由を抽出する設計支援システム。
【請求項7】
請求項1の設計支援システムにおいて、
前記第1設計案及び前記第2設計案は、要求仕様書及び設計書を含む設計支援システム。
【請求項8】
請求項1の設計支援システムにおいて、
前記処理装置は、前記設計項目、前記第1設計案の設計値、前記第2設計案の設計値、及び前記変更理由の各データを図表を用いてモデル化して出力装置に出力する設計支援システム。
【請求項9】
製品の設計を支援する設計支援方法であって、
自然言語で記述された第1設計案及び前記第1設計案を変更して自然言語で記述された第2設計案に関し、前記第1設計案に対して変更された前記第2設計案の設計項目につき、前記設計項目に係る前記第1設計案の設計値、前記設計項目に係る前記第2設計案の設計値、及び変更理由の各データを前記第1設計案及び前記第2設計案のデータから抽出し、
前記第1設計案から前記第2設計案への設計変更に係るデータとして、前記設計項目、前記第1設計案の設計値、前記第2設計案の設計値、及び前記変更理由の各データを登録した設計変更理由データベースを作成し、
前記設計変更理由データベースに基づき、前記第1設計案から前記第2設計案への設計変更に係るデータとして、前記設計項目、前記第1設計案の設計値、前記第2設計案の設計値、及び前記変更理由の各データを出力装置に出力する
設計支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設計支援に係るシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製品やシステム等(以下、製品と称す)の設計分野において、所謂「流用設計」のように、既存の設計案を変更して新しい設計案を作成する場合がある。設計変更を行う場合、設計変更が既存の機能に影響して問題が生じ、その結果手戻りが発生し設計工数が増加することがある。従って、設計変更により生じる影響を把握するために、設計変更の理由等を知ることが重要である。過去の設計変更について、変更項目や変更理由、影響範囲等をデータベース化して蓄積することは、類似製品の設計についてミスや手戻りの発生を抑制する観点で望ましい。
【0003】
それに対し、特許文献1には、特定の対象物に関する情報と対象物に対して設計変更を加えるときの変更目的を示す情報の入力を受け付ける受付手段と、受け付けた2つの情報に基づいて、対象物と類似の特徴を持つ一対の図面であって変更目的に沿って変更が加えられる前と後に対応する一対の図面を検索する検索手段と、検索された一対の図面をユーザに提示する提示手段と、を有する図面管理装置が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、既存の設計モデルにおいて再利用箇所の指定を受け付ける再利用箇所指定部と、再利用箇所として指定された範囲の設計モデルからモデル要素を抽出するモデル抽出部と、抽出されたモデル要素と接続される再利用できないモデル要素と、他の設計モデルのモデル要素との類似性を計算する類似性計算部と、類似度と再利用箇所が指定された設計モデルに含まれる接続情報と、他の設計モデルに含まれる接続情報とから、再利用されるモデル要素における接続候補を作成する接続候補作成部とを備える設計支援システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-57113号公報
【特許文献2】国際公開第2021/024791号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に開示されている技術では、設計変更がなされたときに、変更目的に沿った図面が検索されて類似の特徴を持つ図面がユーザに提示される。しかし、実際の設計において、製品に関する要求仕様や設計値等の殆どの設計情報は要求仕様書等の設計文書において自然言語で記述されている。そのため、設計変更の影響を把握するためには設計文書に記述されている設計情報を検討する必要があり、特許文献1に開示された技術では対応が難しい。
【0007】
また、上記特許文献2に開示されている技術では、既存の設計モデルを再利用して新たな設計モデルが作成される。しかし、既存の設計からの変更項目や変更理由を把握できるようになっていない。そのため、設計変更による影響範囲を設計者が把握しづらく、設計ミス等の発生を効果的に抑制する観点では改善の余地を残している。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的は、設計の変更項目や変更理由を理解し易くし、製品の設計効率を向上させることができる設計支援システム及び設計支援方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、製品の設計を支援する設計支援システムであって、記憶装置及び処理装置を備え、前記処理装置は、自然言語で記述された第1設計案から前記第1設計案を変更して自然言語で記述された第2設計案への設計変更理由のデータを登録する設計変更理由データベースを前記記憶装置に記録し、前記第1設計案に対して変更された前記第2設計案の設計項目につき、前記設計項目に係る前記第1設計案の設計値、前記設計項目に係る前記第2設計案の設計値、及び変更理由の各データのうち、前記設計変更理由データベースに未登録のデータを前記第1設計案及び前記第2設計案のデータから抽出し、前記第1設計案から前記第2設計案への設計変更に係るデータとして、前記設計項目、前記第1設計案の設計値、前記第2設計案の設計値、及び前記変更理由の各データを前記設計変更理由データベースに登録し、入力装置からの要求信号に応じて、前記設計変更理由データベースに基づき、前記第1設計案から前記第2設計案への設計変更に係るデータとして、前記設計項目、前記第1設計案の設計値、前記第2設計案の設計値、及び前記変更理由の各データを出力装置に出力する設計支援システムを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、設計の変更項目や変更理由を理解し易くし、製品の設計効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1実施形態に係る設計支援システムの一構成図を示す模式図
図2】本発明の第1実施形態に係る設計支援システムのデータベースの一構成例を示す模式図
図3A】本発明の第1実施形態に係る設計支援システムのデータベースに格納される第1設計文書の一例
図3B】本発明の第1実施形態に係る設計支援システムのデータベースに格納される第2設計文書の一例
図4】本発明の第1実施形態に係る設計支援システムによるMBSEモデルの生成出力処理の概表すデータフロー図
図5】本発明の第1実施形態に係る設計支援システムの設計変更理由受付画面の一例を表す図
図6】本発明の第1実施形態に係る設計支援システムの設計変更理由データベースの一構成例を示す図
図7】本発明の第1実施形態に係る設計支援システムの変更算出部の処理手順の一例を表すフローチャート
図8】本発明の第2実施形態に係る設計支援システムの処理装置の一構成例を示す模式図
図9】本発明の第2実施形態に係る設計支援システムによるMBSEモデル生成出力処理の概表すデータフロー図
図10】本発明に係るMBSEモデルの一例を示す図
図11】本発明に係る設計支援システムのデータベースの使用例の模式図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。なお、図面は本発明の技術的思想の創作の具体例を示しているが、図示する実施形態は本発明の技術思想の理解を容易にするための例であり、本発明の実施形態は本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0013】
(第1実施形態)
-システム概要-
図1は、本発明の第1実施形態に係る設計支援システムの一構成例を示す模式図である。本実施形態の設計支援システムは、製品の設計を支援するシステムであり、計算機10で実現される。設計支援システムは、ソフトウェアにより仮想的に実現されていても良いし、電子回路等のハードウェアにより実現されていても良い。
【0014】
計算機10には、記憶装置11と処理装置12が備わっている。計算機10には、キーボードやマウス等の入力装置13や、LCD等の表示装置やプリンタ等といった出力装置14が接続されている。出力装置14にタッチパネルを用い、出力装置14が入力装置を兼ねる構成としても良い。記憶装置11には、データベース20が記憶されている。処理装置12には、設計変更理由受付部101、変更算出部102、出力部103が備わっている。設計変更理由受付部101、変更算出部102、出力部103は、処理装置12の機能であり、ソフトウェアにより仮想的に実現されていても良いし、電子回路等のハードウェアにより実現されていても良い。処理装置12は、計算機10に内蔵された処理装置(CPU等)に限らず、計算機10に物理的に又はネットワークを介して接続された処理装置(サーバ等)が含まれ得る。
【0015】
-記憶装置-
記憶装置11は、例えば1つ又は複数のハードディスクやSSD等で構成されており、処理装置12の処理に用いるデータベース20を、電子ファイル形式又はリレーショナル・データベース等のデータベース形式で記憶している。データベース20は、処理装置12の処理に係るデータの集合である。記憶装置11は、計算機10に内蔵された記憶装置に限らず、計算機10に対して物理的に又はネットワークを介して接続された記憶装置が含まれ得る。
【0016】
図2はデータベース20の一構成例を示す模式図である。同図に示したように、データベース20には、設計変更理由DB21、設計文書DB22、MBSEモデルDB23が含まれる。これらデータベースは、処理装置12により記憶装置11に記録され得る。
【0017】
・設計文書DB
設計文書DB22には、自然言語で記述した第1設計案、及び第1設計案を変更して自然言語で記述した第2設計案を含め、製品の設計に関する複数の文書のデータを格納した設計文書データベースである。自然言語は、典型的にはテキストデータを含む形で記憶されており、設計文書が紙媒体で画像として格納されている場合でも文字認識処理により自然言語はテキストデータに変換可能である。第1設計案及び第2設計案は、設計の基礎にされる製品と、これを基礎として設計された製品の設計案という関連性を持つものであり、一組に限らず、典型的には複数組が設計文書DB22に格納されている。また、1つの第1設計案に対して複数の第2設計案がある場合もあれば、1つの第2設計案が複数の第1設計案に基づいている場合もあり得る。第1設計案も第2設計案も、自然言語情報のみならず、図表等を含む場合もある。
【0018】
図3A及び図Bに設計文書DB22に格納される設計文書の一例を示す。図3Aは製品Aの設計文書(第1設計案)の例、図3Bは製品Bの設計文書(第2設計案)の例である。製品Aと製品Bは類似製品、又は同一製品の異なるバージョンである。図3A及び図3Bに、製品A,Bの設計文書のいずれもが要求仕様書と設計書を含む場合を例示している。
【0019】
要求仕様書には、例えば製品A,Bの発注者が要求する仕様が、自然言語等で記述されている。図3Aの例では、「1a:製品AはX国で利用できること。」、「1b:分解能は従来製品と同じであること。」、「1c:X国の安全基準に合格するように最大速度を設定すること。」等といった、発注者の要求する仕様が要求仕様として列挙されている。図3Bの例では、「1a:製品Bの利用地域はY国とZ国に限定する。」、「1b:分解能は従来製品と同じであること。」、「1c:Y国とZ国の安全基準は次の通りであるので、それらに合わせて最大速度を設定すること。」等といった、発注者の要求する仕様が要求仕様として列挙されている。図3A及び図3Bの例では、要求仕様が箇条書きで簡潔に記述されているが、現実には、発注者の要求仕様が文章の流れで記述されている場合もある。また、本願明細書では、「要求仕様」の用語を用いるが、これに相当する事項は、設計文書によって呼び方が異なる場合がある。
【0020】
他方、設計書には、要求仕様を実現するために受注者が設定した、設計目的、設計項目、設計値等の一部又は全部が、自然言語等で記述されている。設計の基礎となる過去の製品がある場合、基礎とする製品、設計の変更点、設計変更の理由の一部又は全部が設計書に記述される場合もある。設計目的は、要求仕様を実現するための主な設計目的である、設計項目は、要求仕様を満たすために具体的に設計すべき項目であり、図3Aの例では、「入力電圧」、「分解能」、「最大速度」等が、列挙されている。設計値は、設計項目の具体的値であり、図3Aの例では、入力電圧について「110kV」、分解能に対して「20mm」、最大速度について「15km」と設定されている。このように設計項目が要求仕様に対応付けされている場合、対応する要求仕様の番号(1a,1b,1c等)が、図3A及び図3Bのように設計項目の欄に付記される場合もある。また、製品Bが製品Aの設計案を基礎として、製品Bの設計案が製品Aの設計案を変更して作成される場合、図3Bの設計書には、「製品A」が基礎とする製品、変更する設計項目と設計値が設計の変更点、変更する理由が文字通り設計変更の理由として、記述される場合もある。例えば、製品A,Bの設計書において、入力電圧の110kVから220kVへの変更は、設計の変更点の一例である。また、製品の利用地域がX国からY国及びZ国に変更されていることは、変更理由の例である。但し、本願明細書では、「設計目的」、「設計項目」、「設計値」、「基礎とする製品」、「設計の変更点」、「設計変更の理由」等の用語を用いるが、これらに相当する事項は、設計文書によって呼び方が異なる場合があり、また項目として挙げられることなく文章で記述される場合もある。
【0021】
・設計変更理由DB
設計変更理由DB21は、第1設計案から第2設計案への設計変更理由等のデータを登録するデータベースである。設計変更理由DB21には、例えば初期段階では登録データがない場合もあるし、初期段階から一定の初期データが登録されている場合もある。設計支援システムの運用に伴って登録データは拡充される。
【0022】
・MBSEモデルDB
MBSEモデルDB23は、第1設計案から第2設計案への設計変更について、変更履歴や変更理由等を確認するためのMBSEモデルのデータを登録するデータベースである。「MBSEモデル」は、第1設計案から第2設計案への設計変更に係るデータとして、設計の変更点について、設計項目、第1設計案の設計値、第2設計案の設計値、及び設計の変更理由の各データを、図表等を用いてモデル化したものであり、変更理由等の一覧性に優れている。
【0023】
ところで、製品の要求分析、設計、検証を効率的に行う方法として、MBSE(Model-Based Systems Engineering)が提唱されている。MBSEとは、MBSEモデルを活用したシステムズエンジニアリングである。本願明細書に記載するMBSEモデルとは、製品の部品構造、要求機能、設計パラメータ等といった製品や製品設計に関する情報を関係性とともに視覚的に理解し易くグラフ等で構造的に表現したものである。MBSEモデルを活用することにより、設計の効率化とミスの抑制が図られる。但し、自然言語の文章で記載された設計文書からMBSEモデルを作成するためには、一般的には多大な工数がかかる。
【0024】
-処理装置-
処理装置12は、記憶装置11に前述した各データベースを適宜記録したり、入力装置13の操作によりユーザから出力要求された第1設計案から第2設計案への設計項目について、MBSEモデルDB23に基づいてMBSEモデルを出力装置14に出力したりする機能を有する。このとき、MBSEDB23に格納されるデータは、設計変更理由DB21に格納されるデータの一部である。処理装置12は、MBSEDB23にデータを格納する過程で、第1設計案から第2設計案への設計項目について設計変更理由DB21のデータに不足がある場合、その不足するデータを設計文書DB22から抽出する機能を有する。
【0025】
概略すると、処理装置12は、まず、第1設計案に対して変更された第2設計案の設計項目につき、変更された設計項目に係る第1設計案の設計値、変更された設計項目に係る第2設計案の設計値、及び変更された設計項目に係る変更理由のうち、設計変更理由DB21に登録されていない未登録のデータを設計文書DB22の該当する第1設計案及び第2設計案のデータから抽出する。
【0026】
設計文書DB22から該当するデータを抽出した場合、処理装置12は、第1設計案から第2設計案への設計変更に係るデータとして、設計項目、第1設計案の設計値、第2設計案の設計値、及び変更理由のデータを、抽出したデータで補って設計変更理由DB21に登録(更新)する。
【0027】
これにより、処理装置12は、ユーザの操作に応じて入力装置13から入力される要求信号に応じて、設計変更理由DB21のデータに基づき、第1設計案から第2設計案への設計変更に係るデータとして、設計項目、第1設計案の設計値、第2設計案の設計値、及び変更理由を図表等を用いてモデル化し、MBSEモデルとして出力装置14に出力する。
【0028】
この一連の処理を実現する具体的手段として、処理装置12には、上記の設計変更理由受付部101、変更算出部102、出力部103を備えている。
【0029】
図4は処理装置12によるMBSEモデルの生成出力処理の概要を表すデータフロー図である。
【0030】
処理装置12は、例えばユーザの入力装置13の操作に伴って入力される要求信号に応じて、設計変更理由受付部101により、設計変更理由の受付画面(入力画面)を出力装置14に出力する。本実施形態において、処理装置12は、設計変更理由受付画面でユーザにより任意に入力された設計項目や設計変更の理由のデータを、第1設計案に対する第2設計案の設計変更に係る設計項目や設計変更の理由として取得する。処理装置12は、取得した設計項目や設計変更の理由を、指定された第1設計案及び第2設計案に紐づけて設計変更理由DB21に登録する。
【0031】
図5に設計変更理由受付画面の一例を示す。同図に示した設計変更理由受付画面501は、例えば出力装置14に表示される所定の画面で入力装置13を操作して設計文書DB22に格納されている設計文書から第1設計案と第2設計案を指定することで、出力装置14に表示される。設計変更理由受付画面501には、図5に示したように、少なくとも設計項目と設計変更の理由の各入力欄が表示される。設計項目について変更前の設計値(第1設計案の設計値)又は変更後の設計値(第2設計案の設計値)の入力欄が表示されるようにしてもよい。設計変更理由受付画面501の各欄に入力されたデータが上記の通り設計変更理由DB21に格納される。
【0032】
図6で設計変更理由DB21のデータ構造について説明する。設計変更理由DB21に格納される各設計変更に係るデータは、少なくとも以下の項目を含んでいる。即ち、該当する第1設計案と第2設計案との間で変更された設計項目、変更前の設計値、変更後の設計値、対応する要求仕様のID、設計変更の理由のデータである。設計変更前の設計値と設計変更後の設計値は、例えば「設計変更点」として1項目にまとめてもよい。
【0033】
図4に戻り、処理装置12は、変更算出部102により、設計変更理由受付部101で取得したデータに、該当する設計変更について設計項目に係る第1設計案及び第2設計案の設計値のデータが設計変更理由DB21に登録されているかを判定する。この判定が満たされない場合としては、例えば、設計変更理由受付画面501に設計変更前後の設計値の入力欄がない場合や、入力欄があっても入力されなかった場合が考えられる。第1設計案及び第2設計案の設計値の少なくとも一方のデータが設計変更理由DB21に未登録である場合、処理装置12は、変更算出部102により、設計文書DB22から該当する第1設計案及び第2設計案の少なくとも一方のデータを読み込んで、これら第1設計案及び第2設計案の少なくとも一方のデータから未登録に係る設計値のデータを抽出する。処理装置12は、抽出した設計値のデータを、該当する第1設計案に対する第2設計案の設計変更に紐づけて設計変更理由DB21に登録し、設計変更に関する不足データを補完する。なお、本実施形態では、未登録のデータを設計文書DB22から抽出する例を説明したが、設計支援システムが設計文書DB22を備えている必要は必ずしもない。例えばネットワークを介して処理装置12と接続された他のシステムのデータベースに第1設計案や第2設計案のデータが記録されている場合、他のシステムのデータベースから第1設計案や第2設計案のデータを読み込み未登録のデータを抽出するように、処理装置12を構成することもできる。
【0034】
図7は変更算出部102による処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0035】
ステップS701において、処理装置12は、設計変更理由受付部101で取得した設計変更に係る設計項目について設計変更理由DB21を参照する。
【0036】
ステップS702において、処理装置12は、ステップS701で参照した設計項目の設計変更前の設計値が登録済であるかどうかを判定する。具体的には、設計変更理由DB21に、該当する設計項目の設計変更前の設計値が存在する場合は登録済であると判定され、存在しない場合は未登録であると判定される。処理装置12は、設計変更前の設計値が登録済の場合はステップS704へ手順を移し、未登録である場合はステップS703に手順を移す。
【0037】
ステップS703に手順を移すと、処理装置12は、設計文書DB22から、設計変更前の対象製品に関する設計文書(つまり第1設計案)を設計変更理由受付部101で取得したデータに基づき特定し、特定した設計文書から該当する設計項目を探索し、探査した設計項目の設計値(つまり設計変更前の設計値)を抽出する。設計項目及び設計値の抽出には、自然言語処理が適用される。例えば、自然言語処理の分野で正則表現等に基づくルールベースの探索手法、形態素解析やBERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers)等の技術を利用して設計項目や設計値を抽出することができる。
【0038】
ステップS702又はS703からステップS704に手順を移すと、処理装置12は、ステップS701で参照した設計項目の設計変更後の設計値が登録済であるかどうかを判定する。この判定処理はステップS702と同様であり、設計変更理由DB21に、該当する設計項目の設計変更後の設計値が存在する場合は登録済であると判定され、存在しない場合は未登録であると判定される。処理装置12は、設計変更前の設計値が登録済の場合は図7の手順を終了し、未登録である場合はステップS705に手順を移す。
【0039】
ステップS705に手順を移すと、処理装置12は、ステップS703と同じ方法を用いて、設計文書DB22から当該設計項目の設計変更後の設計値を抽出する。
【0040】
上記S701からS705までの処理で抽出された設計変更前の設計値と設計変更後の設計値は、設計項目及び設計変更の理由と紐づけられたデータセットとして設計変更理由DB21に格納され、設計変更理由DB21が更新される。
【0041】
図4に戻り、処理装置12は、ユーザによる入力装置13の操作に伴って入力される要求信号に応じ、出力部103により設計変更理由DB21の少なくとも一部のデータを、設計変更に関するデータを表示するMBSEモデルのデータベース又はファイルとしてMBSEDB23に保存する。或いは、当該データをテキスト、テーブル、画像等を適宜用いた視覚的に一覧性に優れる形態のMBSEモデルとして出力装置14に出力しユーザの閲覧に供する。出力装置14により出力形態は異なり、出力装置14がモニタであればMBSEモデルが表示され、プリンタであれば印刷され、記憶媒体であれば記録される。
【0042】
-効果-
本実施形態によれば、上記のように、設計変更に関する設計項目や理由等の簡単な入力作業をするのみで、設計変更の理由を含み視覚的に一覧性に優れたMBSEモデルを自動的に作成することができる。このMBSEモデルを適宜呼び出して参照することにより、例えば対象製品の過去の設計変更について、変更された設計項目や設計変更の理由等といった履歴の要点をユーザは容易かつ効率的に把握することができ、製品の設計効率の向上、設計ミスの抑制、設計工程の期間短縮等、様々な効果が期待できる。
【0043】
(第2実施形態)
本実施形態においても、処理装置12は、入力装置13の操作によりユーザから出力要求された第1設計案から第2設計案への設計項目について、MBSEモデルDB23に基づいてMBSEモデルを出力装置14に出力する機能を有する。第1実施形態と本実施形態が相違する点は、第1実施形態においては処理装置12が入力手続を介して設計変更の理由を取得したのに対し、本実施形態においては、処理装置12が、設計文書DB22に格納された第1設計案及び第2設計案を比較し、第1設計案に対して変更された第2設計案の設計項目、設計項目に係る第1設計案及び第2設計案の設計値、及び設計変更の理由を抽出し、設計変更理由DB21に登録する点である。
【0044】
図8は本発明の第2実施形態に係る設計支援システムの処理装置12の一構成例を示す模式図である。本実施形態の処理装置12は、比較対象指定部201、設計事項抽出部202、設計変更特定部203、設計変更理由抽出部204、MBSEモデル生成部205を備えている。比較対象指定部201、設計事項抽出部202、設計変更特定部203、設計変更理由抽出部204、MBSEモデル生成部205は、ソフトウェアにより仮想的に実現されていても良いし、電子回路等のハードウェアにより実現されていても良い。
【0045】
図9に本実施形態の処理装置によるMBSEモデルの生成出力処理の概要を表すデータフロー図を示す。第2実施形態において、処理装置12は設計文書DB22を入力とする。設計文書DB22を含めてデータベース20は第1実施形態と同様である。
【0046】
比較対象指定部201は、は、例えばユーザによる入力装置13の操作に応じて入力画面(不図示)を出力装置14に出力し、設計変更に係る第1設計案及び第2設計案の指定を受け付け、該当する設計文書を設計文書DB22から抽出する機能である。1つの設計変更につき、第1設計案及び第2設計案は少なくとも1つずつ指定される。前述した通り、典型的には、第1設計案及び第2設計案は、類似製品同士の設計案、又は同一製品に関する異なるバージョン同士の設計案である。例えば、基礎製品から設計変更された対象製品(第2設計案に係る製品)を「対象製品:製品A」、対象製品に対して比較される製品(第1設計案に係る製品)を「比較対象:製品B」といったように、指定する構成とすることができる。また、「対象製品:製品Aの設計バージョン1」、「比較対象:製品Aの設計バージョン2」のように指定する構成とすることができる。
【0047】
設計事項抽出部202は、比較対象指定部201で抽出した対象製品と比較対象の各設計文書から設計事項(製品の設計に関する事項)を抽出する機能である。設計事項には、設計項目と設計値、つまり、設計項目、第1設計案の設計値、第2設計案の設計値が含まれる。例えば、設計文書に“最大速度を100km/hとする”のような記述がある場合、設計項目は“最大速度”であり、設計値は“100km/h”である。この設計事項の抽出は、第1実施形態と同様、例えば、自然言語処理技術、例えば形態素解析やBERT等の技術を利用することができる。
【0048】
設計変更特定部203は、設計事項抽出部202で抽出した対象製品及び比較対象の設計事項を比較し、設計変更点を抽出し特定する機能である。
【0049】
設計変更理由抽出部204は、設計変更特定部203で特定した設計変更について、比較対象指定部201で抽出した設計文書から設計変更の理由を抽出する機能である。設計文書中に設計変更の理由が明記されている場合は、明記されている設計変更の理由が抽出される。設計変更の理由が明記されている場合としては、例えば「設計理由」や「設計変更理由」等、設計変更の理由を直接的に表す文言が設計文書中にある場合が挙げられる。設計変更の理由が設計文書中に明記されていない場合、自然言語処理技術を用い、設計文書中の設計項目や設計値の記述の前後に、設計理由を示唆するキーワードを含むテキストが抽出される。設計理由を示唆するキーワードの例としては、「理由」、「のため」、「ように」等が挙げられる。このようなキーワードは、辞書として事前にユーザによって定義できるように構成することができる。設計変更の理由が抽出されない場合は、設計変更の理由は「不明」とされる。抽出された設計変更の理由は設計変更理由DB21に登録される。
【0050】
MBSEモデル生成部205は、設計事項抽出部202で抽出した対象製品と比較対象の設計事項と、設計変更特定部203で特定した設計変更と、設計変更理由抽出部204で抽出した設計変更理由を基に、MBSEモデルを生成する機能である。生成されたMBSEモデルはMBSEモデルDB23に登録され、ユーザの要求に応じて出力装置14に出力される。
【0051】
その他の点において、本実施形態は第1実施形態と同様である。
【0052】
本実施形態においても、MBSEモデルを容易に作成し参照することができ、製品の設計効率の向上、設計ミスの抑制、設計工程の期間短縮等、様々な効果が期待できる。また、設計変更の理由を入力する必要がなく、第1設計案及び第2設計案の設計文書を指定するのみで、MBSEモデルの作成及び閲覧ができるので、第1実施形態と比べても利便性が高い。
【0053】
(MBSEモデルの例)
図10に第1実施形態又は第2実施形態で作成されるMBSEモデルの一例を示す。図10に例示したMBSEモデルは、SysML(System Modeling Language)に準拠した対象製品「製品A」の要求図に相当し、比較対象の「製品B」との比較が示されている。また、設計変更の各設計項目に関して設計変更の根拠がメモで記述されている。
【0054】
(他の使用例)
本実施例は、第1実施形態又は第2実施形態における設計支援システムの設計変更理由DB21の活用例である。本例では、ユーザが入力した設計変更理由について、対応する設計項目と設計変更を設計変更理由DB21から検索し、検索結果をMBSEモデル等の形式で表示される。
【0055】
図11は本例の模式図である。所定の操作により出力装置14に表示される検索画面111には設計変更理由を入力する欄が設けられ、ユーザから任意の設計変更理由が受け付けられる。検索実行をすると、処理装置12は、入力された設計変更理由を、設計変更理由DB21に格納されている設計変更理由のリストと比較し、最も近い設計変更理由を検索し、検索結果表示画面112を出力装置14に出力する。
【0056】
検索結果表示画面112には、最も近い設計変更理由とその設計変更理由に紐付いている設計項目や設計変更点等のデータが表示される。図11ではMBSEモデルの一種であるブロック図で検索結果を表示する例を示すが、ブロック図以外のグラフやテーブル、テキストを用いた表示形式としてもよい。
【0057】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、その技術思想を逸脱しない範囲内で設計変更可であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0058】
11…記憶装置、12…処理装置、13…入力装置、14…出力装置、21…設計変更理由データベース、22…設計文書データベース
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11