(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142176
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】プロトン伝導体並びに固体電解質層及びそれを備えた固体電解質接合体
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1246 20160101AFI20241003BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20241003BHJP
C25B 1/042 20210101ALI20241003BHJP
C25B 9/19 20210101ALI20241003BHJP
C25B 13/04 20210101ALI20241003BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20241003BHJP
【FI】
H01M8/1246
H01B1/06 A
C25B1/042
C25B9/19
C25B13/04 301
H01M8/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054222
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 広平
(72)【発明者】
【氏名】伊井 栞月
(72)【発明者】
【氏名】樋口 勉
(72)【発明者】
【氏名】井手 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 芽生
(72)【発明者】
【氏名】及川 格
(72)【発明者】
【氏名】高村 仁
【テーマコード(参考)】
4K021
5G301
5H126
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021DB40
4K021DB53
5G301CA02
5G301CA08
5G301CA26
5G301CA28
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE02
5H126AA06
5H126BB06
5H126GG01
5H126GG13
5H126JJ05
(57)【要約】
【課題】これまでよりも高いプロトン伝導性の達成が可能なプロトン伝導体を提供すること。
【解決手段】本発明のプロトン伝導体は、Aサイトに二価の陽イオンとなり得る元素を含み、BサイトにZr及びCeからなる群から選択される元素並びに三価の希土類元素及びインジウムよりなる群から選択される元素を含むペロブスカイト酸化物における酸素の一部がハロゲンで置換されている組成を有する。BとMの和に対するMのモル比(M/(B+M))が0.21≦M/(B+M)<0.40を満たす。BとMの和に対するハロゲンXのモル比(X/(B+M))が0<X/(B+M)<0.13を満たす。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
AサイトにA元素を含み、BサイトにB元素及びM元素を含むペロブスカイト酸化物における酸素の一部がX元素で置換されている組成を有するプロトン伝導体であって、
A元素は二価の陽イオンとなり得る元素の少なくとも一種を表し、
B元素はZr及びCeからなる群から選択される少なくとも一種の元素を表し、
M元素は三価の希土類元素及びインジウムよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を表し、
X元素はハロゲンを表し、
B元素とM元素の和に対するM元素のモル比(M/(B+M))が0.21≦M/(B+M)<0.40を満たし、
B元素とM元素の和に対するX元素のモル比(X/(B+M))が0<X/(B+M)<0.13を満たすプロトン伝導体。
【請求項2】
B元素とM元素の和に対するM元素のモル比と、B元素とM元素の和に対するX元素のモル比との差が0.15≦(M/(B+M))-(X/(B+M))≦0.30を満たす、請求項1に記載のプロトン伝導体。
【請求項3】
A元素が第2族元素であり、M元素が希土類元素である、請求項1又は2に記載のプロトン伝導体。
【請求項4】
A元素がバリウムであり、
B元素がジルコニウムであり、
M元素がイットリウムであり、
X元素がフッ素である、請求項1又は2に記載のプロトン伝導体。
【請求項5】
AサイトにA元素を含み、BサイトにB元素及びM元素を含むペロブスカイト酸化物における酸素の一部がX元素で置換されている組成を有するプロトン伝導体を含む固体電解質層であって、
A元素は二価の陽イオンとなり得る元素の少なくとも一種を表し、
B元素はZr及びCeからなる群から選択される少なくとも一種の元素を表し、
M元素は三価の希土類元素及びインジウムよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を表し、
X元素はハロゲンを表し、
B元素とM元素の和に対するM元素のモル比(M/(B+M))が0.21≦M/(B+M)<0.40を満たし、
B元素とM元素の和に対するX元素のモル比(X/(B+M))が0<X/(B+M)<0.13を満たすプロトン伝導体を含む、固体電解質層。
【請求項6】
組成式Aa(B1-bMb)O3-δXcで表されるプロトン伝導体を含む、固体電解質層。
式中、A元素は二価の陽イオンとなり得る元素の少なくとも一種を表し、
B元素はZr及びCeからなる群から選択される少なくとも一種の元素を表し、
M元素は三価の希土類元素及びインジウムよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を表し、
Xはハロゲンを表し、
δは酸素欠損量を表し、
aは0.9以上1.1以下の数を表し、
bは0.21以上0.40未満の数を表し、
cは0超0.13未満の数を表す。
【請求項7】
請求項6に記載の固体電解質層の各面に電極を配してなる固体電解質接合体。
【請求項8】
請求項7に記載の固体電解質接合体を備えた燃料電池のセル。
【請求項9】
請求項7に記載の固体電解質接合体を備えた水蒸気電解セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプロトン伝導体に関する。また本発明は固体電解質層及びそれを備えた固体電解質接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
クリーンなエネルギーを社会に普及させることは持続可能な世界を構築するために重要な課題と認識されており、その解決の具体的手段として、燃料電池がある。セラミックス材料で構成される固体酸化物形燃料電池(SOFC)は高温で作動でき、燃料電池の中で最も発電効率が高いものである。SOFCの主要構成部材である固体電解質は、選択的にイオンを透過させる材料から構成されており、従来は酸化物イオン伝導体が用いられてきた。近年、酸化物イオン伝導体に代えてプロトン伝導体を用いることでSOFCの発電効率が理論上飛躍的に向上することが報告されており、電解質層にプロトン伝導性セラミックスを適用したプロトン伝導性セラミックス燃料電池(PCFC)の実現への期待が高まっている。
【0003】
プロトン伝導性セラミックスの一つとしてペロブスカイト構造のプロトン伝導体が種々提案されている。その中でもイットリウムをドープしたバリウムジルコネート(以下「BZY」ともいう。)は、強固なZr-O結合に起因して燃料電池の運転雰囲気である水蒸気や二酸化炭素を含む雰囲気において化学的安定性が高いことが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
非特許文献1では、高いプロトン伝導性を示すことで知られている、組成式がBaZr0.8Y0.2O3-δで表されるプロトン伝導体において、ドーパントであるイットリウム濃度を向上させた試料のプロトン伝導性が調査されている。しかし、ドーパント濃度を向上させることでプロトン固溶量は増加するものの、固溶限界を超えてしまうことによる、異相の結晶粒界への析出やドーパントサイトによるプロトントラッピングなどが要因で、プロトン移動度が減少し、結果としてプロトン伝導率が減少することが報告されている。
【0005】
非特許文献2では、BZYのプロトン伝導性を高めることを目的として、組成式がBaZr0.8Y0.2O3-δで表されるプロトン伝導体のO2-サイトをF-で置換することが提案されている。しかし、プロトン伝導性セラミックスに対するプロトン伝導性の向上の要求、特に中低温域におけるプロトン伝導性の向上の要求は一層増している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Solid State Ionics 181, 1043-1051, 2010
【非特許文献2】ChemElectroChem 7, 2242-2247, 2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって本発明の課題は、これまでよりも高いプロトン伝導性の達成が可能なプロトン伝導体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決すべく本発明者は鋭意検討した結果、ペロブスカイト構造のプロトン伝導体に、プロトン伝導性を向上させ得るドーパント元素をハロゲンとともに含有させることで、これまで一般的に採用されていたBサイトに位置するB元素の一部を置換するM元素の最適固溶量を超えて該M元素を固溶させた組成において、高いプロトン伝導性を示す領域が存在することを知見した。
【0010】
本発明は前記知見に基づきなされたものであり、AサイトにA元素を含み、BサイトにB元素及びM元素を含むペロブスカイト酸化物における酸素の一部がX元素で置換されている組成を有するプロトン伝導体であって、
A元素は二価の陽イオンとなり得る元素の少なくとも一種を表し、
B元素はZr及びCeからなる群から選択される少なくとも一種の元素を表し、
M元素は三価の希土類元素及びインジウムよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を表し、
X元素はハロゲンを表し、
B元素とM元素の和に対するM元素のモル比(M/(B+M))が0.21≦M/(B+M)<0.40を満たし、
B元素とM元素の和に対するX元素のモル比(X/(B+M))が0<X/(B+M)<0.13を満たすプロトン伝導体を提供するものである。
【0011】
また本発明は、AサイトにA元素を含み、BサイトにB元素及びM元素を含むペロブスカイト酸化物における酸素の一部がX元素で置換されている組成を有するプロトン伝導体を含む固体電解質層であって、
A元素は二価の陽イオンとなり得る元素の少なくとも一種を表し、
B元素はZr及びCeからなる群から選択される少なくとも一種の元素を表し、
M元素は三価の希土類元素及びインジウムよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を表し、
X元素はハロゲンを表し、
B元素とM元素の和に対するM元素のモル比(M/(B+M))が0.21≦M/(B+M)<0.40を満たし、
B元素とM元素の和に対するX元素のモル比(X/(B+M))が0<X/(B+M)<0.13を満たすプロトン伝導体を含む、固体電解質層を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明プロトン伝導体によれば、これまでよりも高いプロトン伝導性の達成が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1(a)及び
図1(b)は、実施例及び比較例で得られたプロトン伝導体の相の同定結果を示すX線回折図である。
【
図2】
図2は、実施例及び比較例で得られたプロトン伝導体の結晶粒の観察結果を示す走査型電子顕微鏡像である。
【
図3】
図3は、実施例及び比較例で得られたプロトン伝導体の
19F NMRスペクトルの測定結果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明はプロトン伝導体に係るものである。本発明のプロトン伝導体はペロブスカイト酸化物からなるものである。ペロブスカイト酸化物は一般に、ペロブスカイト構造におけるAサイトに位置する元素及びBサイトに位置する元素を有する。
【0015】
本発明のプロトン伝導体は、ペロブスカイト構造におけるAサイトにA元素を含み、BサイトにB元素及びM元素を含む。A元素、B元素及びM元素は互いに相違する元素である。
【0016】
A元素は二価の陽イオンとなり得る元素の少なくとも一種である。そのようなA元素としては、例えば第2族元素であるBe、Ca、Mg、Sr及びBaなどが挙げられる。これらのA元素は一種を単独で用いてもよく、あるいは二種以上を組み合わせて用いてもよい。特にA元素としてBaを用いると、本発明のプロトン伝導体のプロトン伝導性が高まるので好ましい。
【0017】
B元素は、Zr及びCeからなる群から選択される少なくとも一種である。これらのB元素は一種を単独で用いてもよく、あるいは二種以上を組み合わせて用いてもよい。特にB元素としてZrを用いると、本発明のプロトン伝導体のプロトン伝導性が向上し、また化学的安定性も高まる点から好ましい。
【0018】
M元素は、ペロブスカイト構造におけるBサイトに位置するB元素の一部を置換する元素である。M元素は、三価の希土類元素及びインジウムよりなる群から選択される少なくとも一種である。M元素のうち、希土類元素としては、例えばSc及びY並びにランタノイド元素が挙げられる。ランタノイド元素としては、La、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuが挙げられる。これらのM元素は一種を単独で用いてもよく、あるいは二種以上を組み合わせて用いてもよい。プロトン伝導性及びプロトン輸率の観点から、M元素はY、Sc、Yb、Lu、Inよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、とりわけYを用いると、本発明のプロトン伝導体のプロトン伝導性が高まるので好ましい。
【0019】
ペロブスカイト構造におけるA元素、B元素及びM元素の定量方法としては、例えば波長分散型又はエネルギー分散型の蛍光X線分析やICP発光分光分析が挙げられる。
【0020】
本発明のプロトン伝導体は、ペロブスカイト構造における酸素元素の一部がX元素で置換されている。X元素はハロゲンである。ハロゲンとしては、例えばF、Cl、Br及びIなどが挙げられる。これらのハロゲンは一種を単独で用いてもよく、あるいは二種以上を組み合わせて用いてもよい。特にハロゲンとしてFを用いると、本発明のプロトン伝導体のプロトン伝導性が高まるので好ましい。この理由はF-イオンのイオン半径が、O2-イオンのイオン半径に近いからであると考えられる。また、F-イオンは電気陰性度が大きいことから、化学的安定性が増す可能性がある。
ペロブスカイト構造における酸素元素の一部がX元素で置換されていることは、例えばX元素がFである場合、19F NMRの化学シフト値や、XRD測定における回折ピークの位置から判断することができる。19F NMRの化学シフト値の決定方法については実施例において説明する。
【0021】
ペロブスカイト構造におけるX元素は、例えば波長分散型又はエネルギー分散型の蛍光X線分析によって定量できる。あるいは、試料をアルカリ融解した後、水蒸気蒸留分離を行い、フッ素イオン電極法によって定量できる。
【0022】
上述のとおり本発明のプロトン伝導体はペロブスカイト構造を有するものであるところ、このプロトン伝導体は好適には組成式Aa(B1-bMb)O3-δXcで表される。この組成式におけるA元素、B元素、M元素及びX元素の詳細は上述のとおりである。組成式におけるa、b及びcについては後述する。
δは酸素欠損量を表す。δの値はA元素、M元素及びX元素の量に応じて決定される。ペロブスカイト構造におけるアニオンサイトの欠損量はδ-cで表される。δ-cは一般に0.0超0.3未満であることが好ましく、0.0超0.2以下であることが更に好ましく、0.0超0.1以下であることが一層好ましい。δ-cを0.3未満に設定することによって、プロトン伝導体がペロブスカイト構造を維持できなくなることに起因するプロトン伝導体の耐久性の低下を抑制することができる。
【0023】
ペロブスカイト構造のプロトン伝導体における酸素元素の一部をハロゲンで置換する技術は先に述べた非特許文献2に記載されている。同文献に記載されているプロトン伝導体について本発明者は更に検討を推し進めた結果、ペロブスカイト構造における酸素元素の一部を置換するハロゲンの量を調整することで、これまで一般的に採用されていたBサイトに位置するB元素の一部を置換するM元素の最適固溶量を超えて該M元素を固溶させた組成において、高いプロトン伝導性を示す領域が存在することを見出した。従来技術、例えば非特許文献1に記載の技術では、M元素の置換量を多くすると固溶限界を超えてしまい、異相が結晶粒界に析出してしまい、プロトン伝導性向上の妨げになっていた。また、ドーパントであるM元素の置換量を多くすると、ドーパントサイトによるプロトントラッピングが起こり、プロトン伝導率が低下することがある。
M元素の置換量が多くなるとプロトン伝導性が高まる理由は、B元素の原子価が四価であるのに対し、M元素の原子価は三価であることから、B元素をM元素で置換することに起因する電荷補償で酸素欠損が生じるからであると考えられる。
【0024】
詳細には、X元素の置換量に関し、B元素とM元素の和に対するX元素のモル比であるX/(B+M)の値が0<X/(B+M)<0.13を満たすことが、B元素をM元素で置換する量を高めることができ、それによって高いプロトン伝導性を達成し得る点から好ましい。尤も、X元素の置換量が過剰であるとアニオンサイトの欠損量が減少し、プロトン固溶量が減少する懸念がある。この点から、X/(B+M)の値は0.01≦X/(B+M)≦0.09であることが更に好ましく、0.02≦X/(B+M)≦0.06であることが一層好ましい。
【0025】
M元素の置換量に関しては、B元素とM元素の和に対するM元素のモル比であるM/(B+M)の値が0.21≦M/(B+M)<0.40を満たすことが、B元素をM元素で置換する量を高めることができ、それによって高いプロトン伝導性を達成し得る点から好ましい。尤も、B元素をM元素で置換する量が過剰であるとドーパントサイトによるプロトントラッピングが起こり、プロトン伝導率が低下する懸念がある。この観点から、M/(B+M)の値は0.23≦M/(B+M)≦0.35であることが更に好ましく、0.25≦M/(B+M)≦0.30であることが一層好ましい。
【0026】
M元素とX元素の置換量の差に関しては、B元素とM元素の和に対するM元素のモル比と、B元素とM元素の和に対するX元素のモル比との差である(M/(B+M))-(X/(B+M))の値が、0.15≦(M/(B+M))-(X/(B+M))≦0.30を満たすことが、M元素の置換量をX元素の置換量よりも一定以上高めることができ、それによって電荷補償によりアニオンサイトの空孔が減少することが防止され、プロトン伝導性が向上する観点から好ましい。
尤も、M元素の置換量がX元素の置換量に比べて多すぎると電荷補償の観点からアニオンサイトの空孔が多くなり過ぎるので、プロトン伝導体がペロブスカイト構造を維持できなくなる懸念がある。この観点から、(M/(B+M))-(X/(B+M))の値は0.17≦(M/(B+M))-(X/(B+M))≦0.28であることが更に好ましく、0.20≦(M/(B+M))-(X/(B+M))≦0.25であることが一層好ましい。
【0027】
本発明のプロトン伝導体は、ペロブスカイト構造を有する限り、各元素について多少の組成のずれは許容される。例えば、A元素に対する、B元素とM元素の和のモル比は厳密に1であることを要せず、例えば0.9以上1.1以下であってもよい。
【0028】
本発明のプロトン伝導体が上述した組成式Aa(B1-bMb)O3-δXcで表される場合、X元素の置換量及びM元素の置換量を添え字a、b及びcで表すと、aについては0.9以上1.1以下の数であることが、高いプロトン伝導性を達成し得る点から好ましい。この観点からaは0.95以上1.05以下であることが更に好ましく、0.98以上1.02以下であることが一層好ましい。
【0029】
bについては、0.21以上0.40未満の数であることが、高いプロトン伝導性を達成し得る点から好ましい。この観点からbは0.23以上0.35以下であることが更に好ましく、0.25以上0.30以下であることが一層好ましい。
【0030】
更にcについては、0超0.13未満の数であることが、高いプロトン伝導性を達成し得る点から好ましい。この観点からcは0.01以上0.09以下であることが更に好ましく、0.02以上0.06以下であることが一層好ましい。
【0031】
本発明のプロトン伝導体においては、一層高いプロトン伝導性を達成し得る点から、ペロブスカイト構造におけるAサイトに位置するA元素がBaであり、Bサイトに位置するB元素及びM元素がそれぞれZr及びYであり、酸素元素と置換されるX元素がFであることが好ましい。
前記と同様の観点から、本発明のプロトン伝導体は、組成式Baa(Zr1-bYb)O3-δFc(式中、a、b、c及びδの定義は上述のとおりである。)で表されることが好ましい。
【0032】
本発明のプロトン伝導体は、上述したA元素、B元素、M元素及びX元素並びに酸素元素に加え、該プロトン伝導体の諸特性を向上させ得る元素を含有していてもよい。そのような元素としては例えば該プロトン伝導体を製造するときに用いられる焼結助剤に含まれる元素であるNiなどが挙げられる。
【0033】
本発明のプロトン伝導体は、例えば固相焼結法によって好適に製造できる。この方法においては、A元素源化合物、B元素源化合物、M元素源化合物、及びX元素源化合物それぞれの粉末を混合し、得られた混合粉を酸素含有雰囲気下で焼成することで、目的とするプロトン伝導体が得られる。
【0034】
A元素源化合物としては、例えばA元素を含む塩及び酸化物などを用いることができる。A元素源化合物として、特にA元素を含む炭酸塩、例えば炭酸バリウムを用いることが好ましい。
B元素源化合物としては、例えばB元素を含む酸化物及び塩などを用いることができる。B元素源化合物として、特にB元素の酸化物、例えば酸化ジルコニウムを用いることが好ましい。
M元素源化合物としては、例えばM元素を含む酸化物及び塩などを用いることができる。M元素源化合物として、特にM元素の酸化物、例えば酸化イットリウムを用いることが好ましい。
X元素源化合物としては、例えばA元素、B元素又はM元素のハロゲン化物を用いることができる。X元素源化合物として、特にA元素のハロゲン化物、例えばフッ化バリウムを用いることが好ましい。
【0035】
A元素源化合物、B元素源化合物、M元素源化合物、及びX元素源化合物は、A元素、B元素、M元素及びX元素のモル比が、目的とするプロトン伝導体における組成となるように混合される。
【0036】
A元素源化合物、B元素源化合物、M元素源化合物、及びX元素源化合物を含む成形体の焼成は、例えば1000℃以上1800℃以下で行うことが、目的とするプロトン伝導体を確実に生成させる観点から好ましい。この観点から、焼成温度は1100℃以上1700℃以下とすることが更に好ましく、1200℃以上1600℃以下とすることが一層好ましい。
焼成時間は、目的とするプロトン伝導体を確実に生成させる観点から、1時間以上48時間以下とすることが好ましく、2時間以上36時間以下とすることが更に好ましく、5時間以上24時間以下とすることが一層好ましい。
焼成雰囲気は、大気雰囲気をはじめとする含酸素雰囲気であることが好ましい。
【0037】
このようにして得られたプロトン伝導体は、プロトン伝導性の固体電解質層として好適に用いられる。固体電解質層を製造するためには次の操作を行うことが好ましい。
まず、プロトン伝導体を粉砕機で粉砕して所定の粒径を有する粉末とする。この粉末に少量の有機溶媒を添加してペーストとなす。このペーストを成形して所定形状の成形体を得る。この成形体を焼成することで固体電解質層が得られる。焼結を円滑に進行させるために、前記粉末中に焼結助剤を添加してもよい。焼結助剤としては例えば酸化ニッケルが挙げられる。したがって固体電解質層は、プロトン伝導体を含み且つ焼結助剤に由来する元素も含む。この場合、焼結助剤に由来する元素、例えばNiはペロブスカイト構造中に存在せず、ペロブスカイト酸化物の結晶粒界に専ら存在する。
水や二酸化炭素に対する高い耐性及びプロトン伝導性を確保し易い観点から、焼結助剤に由来する元素の含有量は少ないことが好ましい。例えば、固体電解質層の90質量%以上が、前記組成で表されるペロブスカイト酸化物であることが好ましい。
【0038】
固体電解質層の厚みは、例えば1μm以上50μm以下であることが好ましく、3μm以上20μm以下であることが更に好ましい。固体電解質層の厚みがこの範囲であることで、固体電解質層の抵抗が低く抑えられる。
【0039】
固体電解質層は、その各面に電極(アノード及びカソード)をそれぞれ配置して固体電解質接合体として用いることができる。固体電解質層は、カソードとアノードとの間に挟持されており、固体電解質層の一方の主面は、アノードに接触し、他方の主面はカソードと接触している。
【0040】
固体電解質接合体は、例えばプロトン伝導体と、バインダと、焼結助剤と、分散媒とを含むペーストの塗膜を焼成することにより形成できる。塗膜は、例えば、アノードやカソードの主面に電解質ペーストを塗布することにより形成できる。焼成に先立って、バインダを加熱除去する脱バインダ処理を行ってもよい。焼成は、比較的低温で行う仮焼成と、仮焼成よりも高い温度で行う本焼成とを組み合わせてもよい。
【0041】
バインダとしては、例えばエチルセルロースなどのセルロース誘導体(セルロースエーテルなど)、酢酸ビニル系樹脂(ポリビニルアルコールなどの酢酸ビニル系樹脂のケン化物も含む)、アクリル樹脂などのポリマーバインダ;及び/又はパラフィンワックスなどのワックスなどが挙げられる。
【0042】
仮焼成の温度は、例えば800℃以上1200℃未満であることが好ましい。本焼成の温度は、例えば1200℃~1800℃であることが好ましい。仮焼成及び本焼成は、それぞれ、大気雰囲気下で行ってもよく、大気よりも多くの酸素を含む酸素含有雰囲気下で行ってもよい。
【0043】
固体電解質接合体は、種々の電気化学デバイスとして有用なものである。具体的には、前記固体電解質接合体は、該固体電解質接合体を備えた燃料電池のセル及び水蒸気電解セル等に適用することができる。
【0044】
固体電解質接合体を備えた電気化学デバイスにおけるカソードは、好ましくは多孔質の構造を有している。電気化学デバイスが燃料電池の場合、カソード材料としては、例えばランタンを含み且つペロブスカイト構造を有する化合物が好ましい。これらの化合物のうち、ストロンチウムを含むものがより好ましい。具体的には、ランタンストロンチウムコバルトフェライト(LSCF、La1-x1Srx1Fe1-y1Coy1O3-δ1(0<x1<1、0<y1<1、δ1は酸素欠損量である))、ランタンストロンチウムマンガナイト(LSM、La1-x2Srx2MnO3-δ1(0<x2<1、δ1は酸素欠損量である))、ランタンストロンチウムコバルタイト(LSC、La1-x3Srx3CoO3-δ1(0<x3≦1、δ1は酸素欠損量である))等が挙げられる。プロトンと酸化物イオンとの反応を促進させる観点から、カソードは、Pt等の触媒を含んでいてもよい。触媒を含む場合、カソードは、触媒と前記材料とを混合して、焼結することにより形成することができる。
電気化学デバイスが水蒸気電解セルの場合、カソード材料としては、Niとイットリウム安定化ジルコニアとの複合体などを用いることができる。
【0045】
カソードの厚みは、特に限定されないが、例えば5μm~2mmから適宜決定でき10μm~100μm程度であってもよい。
【0046】
一方、固体電解質接合体電気化学デバイスにおけるアノードは、好ましくは多孔質の構造を有している。アノードの材料としては、燃料電池や水蒸気電解セル等の電気化学デバイスにおいてアノードとして用いられる公知の材料を特に制限なく用いることができる。
電気化学デバイスが燃料電池の場合、アノード材料としては、具体的には触媒成分である酸化ニッケルと、プロトン伝導体(例えば酸化イットリウムやBZY等)との複合酸化物などが挙げられる。電気化学デバイスが水蒸気電解セルの場合は、アノード材料として、ストロンチウムを添加したランタンマンガン酸化物などの酸化性雰囲気下で安定な導電性酸化物を用いることができる。
【0047】
アノードの厚みは、例えば5μm~2mmから適宜決定でき、10μm~100μmであってもよい。
【0048】
上述した実施形態に関し、本発明は更に以下のプロトン伝導体、固体電解質層、燃料電池のセル及び水蒸気電解セルを開示する。
〔1〕 AサイトにA元素を含み、BサイトにB元素及びM元素を含むペロブスカイト酸化物における酸素の一部がX元素で置換されている組成を有するプロトン伝導体であって、
A元素は二価の陽イオンとなり得る元素の少なくとも一種を表し、
B元素はZr及びCeからなる群から選択される少なくとも一種の元素を表し、
M元素は三価の希土類元素及びインジウムよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を表し、
X元素はハロゲンを表し、
B元素とM元素の和に対するM元素のモル比(M/(B+M))が0.21≦M/(B+M)<0.40を満たし、
B元素とM元素の和に対するX元素のモル比(X/(B+M))が0<X/(B+M)<0.13を満たすプロトン伝導体。
〔2〕 B元素とM元素の和に対するM元素のモル比と、B元素とM元素の和に対するX元素のモル比との差が0.15≦(M/(B+M))-(X/(B+M))≦0.30を満たす、〔1〕に記載のプロトン伝導体。
〔3〕 A元素が第2族元素であり、M元素が希土類元素である、〔1〕又は〔2〕に記載のプロトン伝導体。
〔4〕 A元素がバリウムであり、
B元素がジルコニウムであり、
M元素がイットリウムであり、
X元素がフッ素である、〔1〕ないし〔3〕のいずれか一に記載のプロトン伝導体。
〔5〕 AサイトにA元素を含み、BサイトにB元素及びM元素を含むペロブスカイト酸化物における酸素の一部がX元素で置換されている組成を有するプロトン伝導体を含む固体電解質層であって、
A元素は二価の陽イオンとなり得る元素の少なくとも一種を表し、
B元素はZr及びCeからなる群から選択される少なくとも一種の元素を表し、
M元素は三価の希土類元素及びインジウムよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を表し、
X元素はハロゲンを表し、
B元素とM元素の和に対するM元素のモル比(M/(B+M))が0.21≦M/(B+M)<0.40を満たし、
B元素とM元素の和に対するX元素のモル比(X/(B+M))が0<X/(B+M)<0.13を満たすプロトン伝導体を含む、固体電解質層。
〔6〕 組成式Aa(B1-bMb)O3-δXcで表されるプロトン伝導体を含む、固体電解質層。
式中、A元素は二価の陽イオンとなり得る元素の少なくとも一種を表し、
B元素はZr及びCeからなる群から選択される少なくとも一種の元素を表し、
M元素は三価の希土類元素及びインジウムよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を表し、
Xはハロゲンを表し、
δは酸素欠損量を表し、
aは0.9以上1.1以下の数を表し、
bは0.21以上0.40未満の数を表し、
cは0超0.13未満の数を表す。
〔7〕 〔5〕又は〔6〕に記載の固体電解質層の各面に電極を配してなる固体電解質接合体。
〔8〕 〔7〕に記載の固体電解質接合体を備えた燃料電池のセル。
〔9〕 〔7〕に記載の固体電解質接合体を備えた水蒸気電解セル。
【実施例0049】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0050】
〔実施例1〕
炭酸バリウムと、酸化ジルコニウムと、酸化イットリウムと、フッ化バリウムとを、Baと、Zrと、Yと、Fとのモル比が以下の表1に示す仕込み組成となるような量で秤量し、ボールミルで48時間混合した。混合粉を、タンマン管式雰囲気電気炉のタンマン管内で、空気圧縮機より生成された空気中、1300℃にて10時間焼成してプロトン伝導体からなる合成粉末を得た。XRDによってこの合成粉末はペロブスカイト構造を有することが確認された。得られた合成粉末を再度ボールミルで50時間混合した。
この合成粉末にNiOを1mol%添加し、ボールミルで10時間混合した後、加圧成形によって所定形状の成形体を得た。この成形体をタンマン管式雰囲気電気炉のタンマン管内で、空気圧縮機より生成された空気中、1500℃にて24時間熱処理することによりペレット状の高密度な固体電解質を得た。この固体電解質の両面を一様に研磨した。
【0051】
〔実施例2並びに比較例1、2、3及び4〕
炭酸バリウムと、酸化ジルコニウムと、酸化イットリウムと、フッ化バリウムとを、Baと、Zrと、Yと、Fとのモル比が以下の表1に示す仕込み組成となるような量で秤量し、プロトン伝導体からなる焼結体を得た。これ以外は実施例1と同様にして固体電解質を得た。
【0052】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた固体電解質について、以下の方法で組成分析を行った。また以下の方法で相の同定を行った。更に以下の方法で電気伝導率を測定した。更に以下の方法で結晶粒の観察を行った。更に以下の方法でNMRスペクトルの測定を行った。結果を表1及び表2に示す。相の同定結果を
図1に示す。結晶粒の観察結果を
図2に示す。
図3にNMRスペクトルの測定結果を示す。
【0053】
〔組成分析〕
Ba、Zr及びYの定量分析は誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法で行った。Fの定量分析は、試料をアルカリ融解した後、水蒸気蒸留分離を行い、フッ素イオン電極法で行った。
【0054】
〔相の同定方法〕
作製された粉末の相同定には粉末X線回折法(X-ray Diffraction;XRD)(Rigaku製のX回折装置であるRINT-TTR3)を用いた。粉末をジルコニア乳鉢で粉砕し、得られた粉末試料を専用のガラス製ホルダーに充填し、測定を行った。線源としてCuKα線を用い、管電圧を50kV、管電流を300mAとした。ゴニオメータの走査法は2θ/θ法とした。
【0055】
〔固体電解質の電気伝導率の測定〕
固体電解質の両面にスパッタリング法を用いて白金膜を成膜して、交流インピーダンス法によって固体電解質の電気伝導率を測定した。測定は、10mVの振幅で、周波数500kHz-10Hzの範囲で交流を印加して行った。測定雰囲気は加湿窒素雰囲気(水蒸気分圧:0.05atm)下で行った。試料を600℃に保持して十分に水和させた後、5℃/minで降温を行い、50℃低下するごとに50分間保持したのち、交流インピーダンス測定を行った。得られたNyquist Plotから全抵抗(粒内抵抗+粒界抵抗)を算出し、電気伝導率を求めた。加湿窒素雰囲気では、プロトン伝導が発現していると考えられることから、加湿窒素雰囲気下での電気伝導率をプロトン伝導性の評価指標として用いた。
【0056】
〔結晶粒の観察〕
結晶粒の観察にはFE銃型の走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製JSM-7900F)を用いた。固体電解質を粗砕して、断面の微細構造(二次電子像)を観察した。
【0057】
〔NMR測定〕
19F NMRスペクトルを次の条件で測定した。
磁場:14.1 T(1H 600MHz、19F 564MHz)
分光器:ブルカー社製AVANCE NEO600
測定及びデータ処理用ソフトウェア:ブルカー社製TopSpin
NMRプローブ:1.3mmMASプローブ
試料回転数:60 kHz
化学シフト値とラジオ波強度の標準試料:ポリテトラフルオロエチレン粉末
化学シフト値の基準:ポリテトラフルオロエチレン粉末のピークの最大点を―122.7ppmとする。
測定手法:OLDFIELD ECHO法
スペクトル中心(O1値-SR値(化学シフト値表記)):―122.7ppm
ラジオ波パルス強度:スペクトル中心が―122.7ppmのときにポリテトラフルオロエチレン粉末のピークを最大にするパルス幅が1.5μsとなる値とする。
ラジオ波パルス幅:励起パルス1.5μs、エコーパルス3.0μs
励起パルスとエコーパルスの間隔:15.17μs
測定間隔:1.0μs(上述のソフトウェア上でDW=0.5μs)
測定ポイント数:12000点(上述のソフトウェア上でTD=24000)
スペクトルポイント数(上述のソフトウェア上のSI):32768点
繰り返し待ち時間(上述のソフトウェア上のD1):16秒
積算回数(上述のソフトウェア上のNS):64回
【0058】
なお、「OLDFIELD ECHO法」は、A.C.KunwarらによるJOURNAL OF MAGNETIC RESONANCE(1969)69巻(1986)124ページの「Solid-State Spin-Echo Fourier Transform NMR of 39K and 67Zn Salts at High Field」に基づくものである。
【0059】
【0060】
ICP発光分光分析と、後述するXRD測定結果から、各実施例及び比較例の固体電解質は表1に示す実測組成であることが分かり、Ni元素の含有量に大きな差が見られないことも分かった。表1に示す結果から明らかなとおり、実施例1及び2で得られた固体電解質は、比較例で得られた固体電解質に比べて電気伝導率が高いことが分かる。
【0061】
図1(a)に示すX線回折図から、各実施例の固体電解質は、各比較例と同様に立方晶ペロブスカイト構造を示すことが確認され、ペロブスカイト構造以外の異相の存在は確認されなかった。
図1(b)は2θが52.4°~53.6°の範囲を拡大した図である。この図に示す比較例1、2及び3から、フッ素のドープ量が増大するに連れてピークは低角度側にシフトすることが分かった。
更に実施例1及び2並びに比較例4から、フッ素のドープ量に加えてイットリウムのドープ量が増大するに連れて、ピークは大きく低角度側にシフトすることを確認した。
以上のことは、イットリウムとフッ素とが固溶できていることを示唆する結果である。
【0062】
図2に示すとおり、比較例1に比べて、イットリウムのドープ量及びフッ素のドープ量が増大した実施例1及び2並びに比較例2~4の結晶粒は粗大であることが分かる。したがって、イットリウムのドープ量及びフッ素のドープ量を増大させることによって結晶粒径が増大し、粒界抵抗値が減少することが示唆される。
【0063】
図3に示すとおり、フッ素がドープされている実施例1及び2及び比較例2ないし4で得られた固体
19F NMRスペクトルは、二つのピーク(P1、P2)が重なった化学シフト値が確認された。
図3は、比較例1からベースラインを作成した。実施例1及び2並びに比較例2~4のスペクトルは元のスペクトルから、比較例1で作成したベースラインを引いた後、試料質量で規格化を行った。また、ピークは下記式(1)に示す擬フォークト関数により分離を行った。
【0064】
【0065】
式(1)において、
xは19F MAS NMRスペクトルの横軸の値(化学シフト値)を表し、
x0はピークトップの化学シフト値を表し、
Sはピークの縦軸の値を実測に合わせるためのスケーリング係数を表し、
ηは-∞(マイナス無限大)から+∞(プラス無限大)の範囲でのローレンツ関数(第1項)のピーク面積比を表し、
Δはピークの半値幅を表し、
πは円周率を表し、
lnは自然対数関数を表し、
expは自然指数関数を表す。
【0066】
ピーク分離では、ピークの個数分の擬フォークト関数各々のx0、Δ、η、Sを変数として実測スペクトルと計算スペクトルの化学シフト値-150ppm以上5ppm以下の範囲の平均二乗偏差が最小となるように計算ソフトのソルバー機能を用いてフィッティングを行った。
【0067】
実施例1及び2及び比較例2ないし4のフィッティング変数を表2に示す。本明細書では、上述のピーク分離によって得られるx0を各ピークの化学シフト値とする。なお、「擬フォークト関数」は、日本結晶学会誌 34、86(1992)「特集 粉末回折法の新しい展開」の「6.プロファイル関数とパターン分解法」に基づくものである。
【0068】
【0069】
表2は、実施例1及び2並びに比較例2~4において二つ存在するピークP1、P2の各ピークのフィッティング変数を示している。ピークはそれぞれ-65~-75ppm近傍と-80~-90ppm近傍に一つずつ存在することが分かった。したがって、組成分析に加えて19F NMR測定を行うことでも、フッ素が結晶中に存在していることを確認することができる。