(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142177
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】反射型マスクブランク及び反射型マスク、並びに反射型マスク及び半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/24 20120101AFI20241003BHJP
G03F 1/54 20120101ALI20241003BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G03F1/24
G03F1/54
G03F7/20 521
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054223
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】浜本 和宏
【テーマコード(参考)】
2H195
2H197
【Fターム(参考)】
2H195BA10
2H195BC05
2H195BC19
2H195BC24
2H195CA01
2H195CA07
2H195CA23
2H197BA11
2H197CA10
2H197GA01
2H197HA03
2H197JA05
(57)【要約】
【課題】 薄膜に含まれる2つの層の密着性を向上させることができるマスクブランクを提供する。
【解決手段】 反射型マスクブランクであって、基板と、前記基板の上に設けられた多層反射膜と、前記多層反射膜の上に設けられた薄膜と、を有し、前記薄膜は、下層及び前記下層の上に設けられた上層を含み、前記下層は、アモルファス構造又は微結晶構造を含む材料からなり、前記上層の結晶性は、前記下層より高いことを特徴とする反射型マスクブランクである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射型マスクブランクであって、
基板と、
前記基板の上に設けられた多層反射膜と、
前記多層反射膜の上に設けられた薄膜と、を有し、
前記薄膜は、下層及び前記下層の上に設けられた上層を含み、
前記下層は、アモルファス構造又は微結晶構造を含む材料からなり、
前記上層の結晶性は、前記下層より高いことを特徴とする反射型マスクブランク。
【請求項2】
前記下層と前記上層とは互いに接していることを特徴とする請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項3】
前記薄膜は、吸収体膜であることを特徴とする請求項1又は2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項4】
前記上層の結晶子サイズと前記下層の結晶子サイズとの差は、2nm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項5】
前記薄膜に接して前記薄膜の上に形成されたエッチングマスク膜を有し、前記エッチングマスク膜の結晶性は前記上層よりも低いことを特徴とする請求項1又は2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項6】
前記多層反射膜と前記薄膜との間に保護膜を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項7】
前記下層と前記上層とは、互いに異なる材料からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項8】
前記上層は、Ag、Au、Pt、Pd、Ir、Re、Os、Ru、Ta、Cr、Ti、Nb、Mo、W及びRhから選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項9】
前記上層の結晶子サイズは3nmより大きいことを特徴とする請求項1又は2に記載の反射型マスクブランク。
【請求項10】
反射型マスクであって、
基板と、
前記基板の上に設けられた多層反射膜と、
前記多層反射膜の上に設けられ、パターンを有する薄膜と、を有し、
前記薄膜は、下層及び前記下層の上に設けられた上層を含み、
前記下層は、アモルファス構造又は微結晶構造を含む材料からなり、
前記上層の結晶性は、前記下層より高いことを特徴とする反射型マスク。
【請求項11】
前記下層と前記上層とは互いに接していることを特徴とする請求項10に記載の反射型マスク。
【請求項12】
前記薄膜は、吸収体膜であることを特徴とする請求項10又は11に記載の反射型マスク。
【請求項13】
前記上層の結晶子サイズと前記下層の結晶子サイズとの差は、2nm以上であることを特徴とする請求項10又は11に記載の反射型マスク。
【請求項14】
前記多層反射膜と前記薄膜との間に保護膜を有することを特徴とする請求項10又は11に記載の反射型マスク。
【請求項15】
前記下層と前記上層とは、互いに異なる材料からなることを特徴とする請求項10又は11に記載の反射型マスク。
【請求項16】
前記上層は、Ag、Au、Pt、Pd、Ir、Re、Os、Ru、Ta、Cr、Ti、Nb、Mo、W及びRhから選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項10又は11に記載の反射型マスク。
【請求項17】
前記上層の結晶子サイズは3nmより大きいことを特徴とする請求項10又は11に記載の反射型マスク。
【請求項18】
請求項1に記載の反射型マスクブランクの前記薄膜にパターンが形成されてなる反射型マスク、又は請求項10に記載の反射型マスクを用いて、半導体基板上の転写対象に前記パターンを転写することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造などに使用される反射型マスク及びその製造方法、並びに反射型マスクを製造するために用いられる反射型マスクブランクに関する。また、本発明は、上記反射型マスクを用いた半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における超LSIデバイスの高密度化、高精度化の更なる要求に伴い、極紫外(Extreme Ultra Violet、以下、EUVと称す。)光を用いた露光技術であるEUVリソグラフィが提案されている。
【0003】
反射型マスクは、基板の上に形成された露光光を反射するための多層反射膜と、多層反射膜の上に形成され、露光光を吸収するためのパターン状の吸収体膜である吸収体パターンとを有する。反射型マスクを用いるEUVリソグラフィでは、反射型マスクの多層反射膜により反射された光像が、反射光学系を通してシリコンウェハ等の半導体基板(被転写体)上に転写される。反射型マスクを製造するために反射型マスクブランクが用いられる。
【0004】
反射型マスクの例として、特許文献1には、X線反射膜並びにパターン状に形成された中間層及びX線吸収体層とから構成された反射型X線マスクが記載されている。特許文献1の反射型X線マスクでは、中間層とX線吸収体層とのエッチング選択比が5以上である。また、特許文献1には、中間層が、クロム又はチタンを主成分とする物質からなることが記載されている。
【0005】
また、反射型マスクブランクの例として、特許文献2には、基板上に、順に極端紫外線領域を含む短波長域の露光光を反射する反射層、吸収体層へのパターン形成時に前記反射層を保護するためのバッファ層及び露光光を吸収する吸収体層を有してなるマスクブランクスが記載されている。また、特許文献2には、吸収体層が、極端紫外線領域を含む短波長域の露光光の吸収体で構成する吸収体層を下層とし、マスクパターンの検査に使用する検査光の吸収体で構成する低反射層を上層とした少なくとも2層構造であることが記載されている。また、特許文献2には、上層が、タンタル(Ta)とホウ素(B)と酸素(O)とを含む材料からなることが記載されている。また、特許文献2には、前記バッファ層がCr又はCrを主成分とする物質で形成されていることが記載されている。また、特許文献2には、前記検査光に対する反射率が、多層反射膜表面、バッファ層表面、吸収体層表面の順に低下し、前記吸収体層に形成されるパターンの検査に用いられる光の波長に対する前記吸収体層表面の反射率が20%以下であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8-213303号公報
【特許文献2】特許第4061319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のEUVリソグラフィは、極紫外光(EUV光、Extreme Ultra Violet light)を用いた露光技術である。EUV光とは、軟X線領域又は真空紫外線領域の波長帯の光であり、具体的には波長が0.2~100nm程度の光のことである。EUVリソグラフィの場合、波長13~14nm(例えば波長13.5nm)のEUV光を用いることができる。本明細書において、光とは可視光だけでなく、電磁波も含む。
【0008】
EUVリソグラフィには、吸収体パターンを有する反射型マスクが用いられる。反射型マスクに照射されたEUV光は、吸収体パターンが存在する部分では吸収され、吸収体パターンが存在しない部分では反射される。吸収体パターンが存在しない部分には、多層反射膜(保護膜を含む)が露出している。反射型マスクの表面に露出した多層反射膜がEUV光を反射する。EUVリソグラフィでは、多層反射膜(吸収体パターンが存在しない部分)により反射された光像が、反射光学系を通してシリコンウェハ等の半導体基板(被転写体)上に転写される。
【0009】
反射型マスクの多層反射膜の上に配置される吸収体パターンは、反射型マスクブランクの吸収体膜をパターニングすることによって形成される。また、多層反射膜の上には、保護膜及びエッチングマスク膜など、吸収体膜以外の薄膜が配置される場合がある。また、吸収体膜は、複数の異なる層(薄膜)からなることができる。したがって、反射型マスクブランクの基板の上には、少なくとも多層反射膜及び吸収体膜を含む、複数の薄膜が配置される。
【0010】
基板上に複数の異なる層(薄膜)を積層する場合、隣接する層の界面の密着性が不十分な場合、反射型マスクブランクの製造工程、及び/又は反射型マスクの製造工程において、一方の層が他方の層から剥離してしまい、欠陥が生じることがある。
【0011】
また、半導体の製造工程において、反射型マスクを用いたEUVリソグラフィを行う場合、短波長である13.5nm近傍のEUV光を発生するための光源(露光光源)を用いて、反射型マスクに形成されたパターンを転写対象に転写する。近年、EUVリソグラフィのための露光光源のハイパワー化が検討されている。EUVリソグラフィの際にハイパワーの露光光源を用いる場合、パターン形成用薄膜などの薄膜は、より高い耐久性を備えることが必要になる。なお、ハイパワーの露光光源とは、例えば400W以上のパワーの露光光源のことを意味することができる。
【0012】
そこで、本発明は、薄膜に2つの層が含まれる場合、薄膜の2つの層の密着性を向上させることができるマスクブランクを提供することを目的とする。また、本発明は、薄膜に含まれる2つの層の密着性を向上させることができ、より高い耐久性を有する薄膜を有する反射型マスクブランクを提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明は、その反射型マスクブランクを用いて製造された反射型マスクを提供することを目的とする。また、本発明は、その反射型マスクを用いた半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明は下記の構成を有する。
【0015】
(構成1)
構成1は、反射型マスクブランクであって、
基板と、
前記基板の上に設けられた多層反射膜と、
前記多層反射膜の上に設けられた薄膜と、を有し、
前記薄膜は、下層及び前記下層の上に設けられた上層を含み、
前記下層は、アモルファス構造又は微結晶構造を含む材料からなり、
前記上層の結晶性は、前記下層より高いことを特徴とする反射型マスクブランクである。
【0016】
(構成2)
構成2は、前記下層と前記上層とは互いに接していることを特徴とする構成1の反射型マスクブランクである。
【0017】
(構成3)
構成3は、前記薄膜が、吸収体膜であることを特徴とする構成1又は2の反射型マスクブランクである。
【0018】
(構成4)
構成4は、前記上層の結晶子サイズと前記下層の結晶子サイズとの差が、2nm以上であることを特徴とする構成1から3のいずれかの反射型マスクブランクである。
【0019】
(構成5)
構成5は、前記薄膜に接して前記薄膜の上に形成されたエッチングマスク膜を有し、前記エッチングマスク膜の結晶性は前記上層よりも低いことを特徴とする構成1から4のいずれかの反射型マスクブランクである。
【0020】
(構成6)
構成6は、前記多層反射膜と前記薄膜との間に保護膜を有することを特徴とする構成1から5のいずれかの反射型マスクブランクである。
【0021】
(構成7)
構成7は、前記下層と前記上層とは、互いに異なる材料からなることを特徴とする構成1から6のいずれかの反射型マスクブランクである。
【0022】
(構成8)
構成8は、前記上層は、Ag、Au、Pt、Pd、Ir、Re、Os、Ru、Ta、Cr、Ti、Nb、Mo、W及びRhから選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする構成1から7のいずれかの反射型マスクブランクである。
【0023】
(構成9)
構成9は、前記上層の結晶子サイズは3nmより大きいことを特徴とする構成1から8のいずれかの反射型マスクブランクである。
【0024】
(構成10)
構成10は、反射型マスクであって、
基板と、
前記基板の上に設けられた多層反射膜と、
前記多層反射膜の上に設けられ、パターンを有する薄膜と、を有し、
前記薄膜は、下層及び前記下層の上に設けられた上層を含み、
前記下層は、アモルファス構造又は微結晶構造を含む材料からなり、
前記上層の結晶性は、前記下層より高いことを特徴とする反射型マスクである。
【0025】
(構成11)
構成11は、前記下層と前記上層とは互いに接していることを特徴とする構成10の反射型マスクである。
【0026】
(構成12)
構成12は、前記薄膜が、吸収体膜であることを特徴とする構成10又は11の反射型マスクである。
【0027】
(構成13)
構成13は、前記上層の結晶子サイズと前記下層の結晶子サイズとの差が、2nm以上であることを特徴とする構成10から12のいずれかの反射型マスクである。
【0028】
(構成14)
構成14は、前記多層反射膜と前記薄膜との間に保護膜を有することを特徴とする構成10から13のいずれかの反射型マスクである。
【0029】
(構成15)
構成15は、前記下層と前記上層とは、互いに異なる材料からなることを特徴とする構成10から14のいずれかの反射型マスクである。
【0030】
(構成16)
構成16は、前記上層は、Ag、Au、Pt、Pd、Ir、Re、Os、Ru、Ta、Cr、Ti、Nb、Mo、W及びRhから選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする構成10から15のいずれかの反射型マスクである。
【0031】
(構成17)
構成17は、前記上層の結晶子サイズは3nmより大きいことを特徴とする構成10から16のいずれかの反射型マスクである。
【0032】
(構成18)
構成18は、構成1から9のいずれかの反射型マスクブランクの前記薄膜にパターンが形成されてなる反射型マスク、又は構成10から17のいずれかの反射型マスクを用いて、半導体基板上の転写対象に前記パターンを転写することを特徴とする半導体装置の製造方法である。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、薄膜に2つの層が含まれる場合、薄膜の2つの層の密着性を向上させることができるマスクブランクを提供することができる。また、本発明によれば、薄膜に含まれる2つの層の密着性を向上させることができ、より高い耐久性を有する薄膜を有する反射型マスクブランクを提供することができる。
【0034】
また、本発明によれば、その反射型マスクブランクを用いて製造された反射型マスクを提供することができる。また、本発明によれば、その反射型マスクを用いた半導体装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本実施形態の反射型マスクブランクの一例を示す断面模式図である。
【
図2】本実施形態の反射型マスクブランクの別の一例を示す断面模式図である。
【
図3A-E】本実施形態の反射型マスクの製造方法の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を具体的に説明するための形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0037】
図1に示すように、本実施形態は、基板1と、基板1上に設けられた多層反射膜2と、多層反射膜上に設けられた薄膜とを有する反射型マスクブランク100である。
【0038】
図1は、本実施形態の反射型マスクブランク100の一例を示す断面模式図である。
図1に示す反射型マスクブランク100は、基板1と、基板1上に設けられた多層反射膜2と、多層反射膜2上に設けられた薄膜とを有する。本実施形態の反射型マスクブランク100の薄膜は、下層及び下層の上に設けられた上層を含む。
図1に示す例では、薄膜が吸収体膜4であり、本実施形態の薄膜である吸収体膜4が、下層42及び上層44を有する。本実施形態では、所定の下層及び上層を有する薄膜のことを、「所定の薄膜」という場合がある。
【0039】
本実施形態の所定の薄膜は、多層反射膜2の上に形成された任意の膜であることができる。
図1に示す例では、多層反射膜2の上に、保護膜3、吸収体膜4及びエッチングマスク膜6が配置されている。本実施形態の所定の薄膜は、保護膜3、吸収体膜4及びエッチングマスク膜6から選択される少なくとも1つであることが好ましい。この場合、保護膜3、吸収体膜4及びエッチングマスク膜6から選択される少なくとも1つの薄膜が、下層及び上層を有する所定の薄膜であることができる。なお、下層及び上層としては、上述する隣接する膜のペアであることができる。すなわち、本実施形態の反射型マスクブランク100では、下層が保護膜3であり、上層が吸収体膜4であることができる。この場合、所定の薄膜とは、下層である保護膜3、及び上層である吸収体膜4である。ここで、吸収体膜4が複数の層を含む積層膜である場合、下層は該複数の層のうち保護膜3に接している層であることができる。また、本実施形態の反射型マスクブランク100では、下層が吸収体膜4であり、上層がエッチングマスク膜6であることができる。この場合、所定の薄膜とは、下層である吸収体膜4、及び上層であるエッチングマスク膜6である。ここで、吸収体膜4が複数の層を含む積層膜である場合、上層は該複数の層のうちエッチングマスク膜6に接している層であることができる。
【0040】
図2は、本実施形態の反射型マスクブランク100の別の一例を示す断面模式図である。
図2に示す反射型マスクブランク100は、エッチングマスク膜6を有しない。また、本実施形態の反射型マスクブランク100では、保護膜3の有無は任意である。本実施形態の反射型マスクブランク100は、基板1の上に少なくとも、多層反射膜2と、吸収体膜4とを有する。なお、
図2に示す例では、所定の薄膜が吸収体膜4であり、本実施形態の所定の薄膜である吸収体膜4が、下層42及び上層44を有する。
【0041】
吸収体膜4は、反射型マスクブランクの製造工程、反射型マスクの製造工程及び/又は反射型マスクを用いた半導体製造工程において、繰り返し洗浄液にさらされる。このため、吸収体膜4が上記工程において剥離することを低減できるように、吸収体膜4は吸収体膜4の上及び/又は下に形成される膜に対して高い密着性を有することが好ましい。また、吸収体膜4が複数の層を含む場合には、該複数の層が互いに高い密着性を有することが好ましい。したがって、本実施形態の所定の薄膜は、少なくとも吸収体膜4の一部を含むことが好ましい。
【0042】
本実施形態の反射型マスクブランク100では、下層は、アモルファス構造又は微結晶構造を含む材料からなり、上層の結晶性は、下層より高い。本発明者らは、接して配置される2つの膜(層)である下層及び上層が、所定の結晶性を有することにより、隣接する下層及び上層の密着性を向上させることができ、より高い耐久性を有する所定の薄膜(上層及び下層)を得ることができることを見出し、本発明に至った。
【0043】
所定の薄膜の上層及び下層の結晶性は、X線回折(XRD)法によって確認することができる。所定の薄膜又は層のX線回折(XRD)法によって、所定の薄膜又は層が、アモルファス構造であるか、又は微結晶構造であるかを確認することができる。所定の薄膜又は層が結晶構造又は微結晶構造である場合には、アモルファス構造である場合と比べて、結晶性が高いといえる。ここでX線回折(XRD)法によって結晶性を確認するための回折角度の範囲は、30度以上90度以下とすることができる。
【0044】
所定の薄膜又は層のX線回折(XRD)法によって得られるX線回折プロファイルに判別可能な鋭いピークが観察されない場合には、所定の薄膜又は層がアモルファス構造であると判定することができる。なお、所定の薄膜又は層が結晶構造である場合には、所定の薄膜又は層のX線回折(XRD)法によって得られるX線回折プロファイルに判別可能な鋭いピークが観察される。
【0045】
また、本明細書においては、上記X線回折プロファイル(後述のフィッティング後)における最大ピーク強度Imaxと最小強度(バックグラウンド強度)Iminとしたとき、[Imax-Imin]/[Imax+Imin]が0.15以下となるものを微結晶(又はアモルファス)とする。
【0046】
本明細書において、上層の結晶性が下層より高いということは、上層が結晶構造であるとともに下層がアモルファス構造又は微結晶構造である場合、及び、上層が微結晶構造であるとともに下層がアモルファス構造である場合を意味する。このように上層の結晶性が下層より高い場合、上層の結晶子サイズが下層の結晶子サイズよりも大きいといえる。
【0047】
また、所定の薄膜又は層のX線回折(XRD)法によって、所定の薄膜又は層の結晶子サイズを測定することにより、結晶性を判断することができる。X線回折(XRD)法としては、例えば、インプレーン測定(2θχ/φスキャン)を用いることができる。結晶子サイズがより大きい薄膜又は層の方が、結晶子サイズがより小さい薄膜又は層と比べて、結晶性が高いといえる。
【0048】
所定の薄膜又は層の結晶子サイズは、次のようにして求めることができる。すなわち、まず、所定の薄膜又は層のX線回折(XRD)法による測定で得られたX線回折プロファイルのうちピークを含む回折角の範囲のプロファイルを、下記のガウス関数(式1)を用いて、最小二乗法によるフィッティングを行うことで回折角u及びσを得ることができる。結晶子サイズDは、回折角uと、σから算出される半値幅βとから、シェラー(Scherrer)の式(下記式2参照)により求めることができる。なお、半値幅βは、フィッティングにより得られるσから下記式3により求めることができる。
【数1】
D = Kλ/β・cos(2/u) ・・・(式2)
【数2】
【0049】
式2において、Dは結晶子サイズ(nm)、Kはシェラー定数0.9、λはX線の波長(nm)、βは回折線幅の半値幅(rad)である。本明細書において、λはX線(CuKα1)の波長0.15405(nm)とした。
【0050】
なお、所定のX線回折プロファイルに観察されるピークが複数ある場合には、最もピーク強度の大きいピーク、又は最もピーク面積が大きいピーク(積分強度が大きいピーク)を選択し、このピークから結晶子サイズを求めることができる。最もピーク強度の大きいピーク及び/又は最もピーク面積が大きいピークが複数存在し、選択すべきピークの判別が困難な場合には、これらの複数のピークのうち、最も半値幅が小さなピークを選択することができる。
【0051】
X線回折プロファイルの測定範囲は、2θが30度から90度の範囲(θが15度から45度の範囲)とすることができる。
【0052】
また、X線回折プロファイルにピークが観察されない場合には、測定された所定の薄膜又は層がアモルファス構造あると判定することができる。
【0053】
本実施形態の反射型マスクブランク100では、上層の結晶子サイズと下層の結晶子サイズとの差が、2nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがより好ましい。これにより、上層の下層との密着性を向上することができる。さらに、上層の結晶子サイズは、3nmより大きいことが好ましく、8nmより大きいことがより好ましい。上層の結晶子サイズが所定の値より大きいことにより、下層との密着性を向上することができる。また、上層の結晶子サイズは、20nm以下であることが好ましく、19nm以下より好ましく、18nm以下であることが更に好ましい。上層の結晶子サイズが所定の値以下であることにより、上層を含む所定の薄膜の表面粗さを小さくすることができるので、良好な薄膜の表面を得ることができる。
【0054】
本実施形態の反射型マスクブランク100に含まれる所定の薄膜では、上層の結晶性を高く(結晶子サイズを大きく)している。一般的に、ある薄膜の結晶性を高くすると薄膜表面の表面粗さが大きくなる。一方、本実施形態の反射型マスクブランク100に含まれる所定の薄膜では、下層をアモルファス構造又は微結晶構造とすることなどにより、下層の結晶性を低くすることにより、所定の薄膜全体としての表面粗さが大きくなりすぎることを抑制することができる。
【0055】
本実施形態の反射型マスクブランク100では、所定の薄膜の上層の結晶性を大きくすることで、上層のエッチングレートを高めることができる。一方、本実施形態の反射型マスクブランク100の所定の薄膜の下層は結晶が比較的低く、例えば下層はアモルファス構造又は微結晶構造であるため、下層は上層のエッチングガスに対してより耐性を持つことができる。そのため、上層のエッチングの際の下層のダメージを低減することができる。これにより、所定の薄膜の下層より更に下(基板方向)に存在する他の薄膜又は層(例えば、所定の薄膜が吸収体膜4である場合には、他の薄膜である多層反射膜2及び/又は保護膜3)のダメージをより抑制することができ、結果として、多層反射膜2からの反射率を高く維持することができる。
【0056】
一般的に、ある薄膜をエッチングでパターニングする場合、結晶子サイズが大きい方が、薄膜内にエッチャントがより浸透しやすく、エッチングレートが向上する。本実施形態では、所定の薄膜の上層の結晶性が高いので、上層のエッチングレートを向上させることができる。すなわち、所定の薄膜内の上層の結晶子サイズを、下層の結晶子サイズよりも大きくすることにより、所定の薄膜内の領域のエッチングに対するエッチングレートは、上層を除く領域よりも、上層の方を速くすることができる。上層をエッチングするのに必要な時間が長いほど、上層以外の膜や層がダメージを受ける可能性が高まる。しかし上記のような構成とすることで、下層のような上層以外の膜や層のダメージを抑制することができる。
【0057】
上述のX線回折(XRD)法により得られた所定の層のX線回折プロファイルの回折角度から、ブラッグの法則により、所定の格子面の面間隔を求めることができる。格子面は、X線回折プロファイルの回折角度が30度から90度の範囲内において、最もピーク強度の大きいピーク、又は最もピーク面積が大きいピーク(積分強度が大きいピーク)に対応するミラー指数を有するものを用いることができる。最もピーク強度の大きいピーク及び/又は最もピーク面積が大きいピークが複数存在し、選択すべきピークの判別が困難な場合には、これらの複数のピークのうち、最も半値幅が小さなピークを選択することができる。XRD法により得られる上層の格子面間隔dは、0.27nm以下であることが好ましく、0.25nm以下であることがより好ましく、0.23nm以下であることが更に好ましい。これにより、動的分子径が0.346nmの酸素、及び動的分子径が0.289nmの水素が、所定の薄膜に侵入することを抑制することができる。この結果、所定の薄膜のダメージ及び/又は変質を抑えることができる。
【0058】
本実施形態の反射型マスクブランクは、所定の薄膜の下層と上層とは、互いに異なる材料からなることが好ましい。所定の薄膜の下層と上層とは、互いに異なる材料からなることにより、下層及び上層が所定の結晶性となるように制御することが容易になる。また、下層及び上層をエッチングする際のエッチングガスに対する選択比を適切なものとすることができる。
【0059】
本実施形態の反射型マスクブランクは、下層と上層とは互いに接していることが好ましい。下層と上層とは互いに接していることにより、隣接する下層及び上層の密着性を向上させることができ、より高い耐久性を有する所定の薄膜(上層及び下層)を得ることができる。
【0060】
図1及び
図2に示す反射型マスクブランク100は、裏面導電膜5などの他の薄膜を更に有することができる。また、
図3Aに示すように、本実施形態の反射型マスクブランク100は、更にレジスト膜11を有することができる。
【0061】
本明細書において、「膜A(又は基板)の上に膜Bを配置(形成)する」とは、膜Bが、膜A(又は基板)の表面に接して配置(形成)されることを意味する場合の他、膜A(又は基板)と、膜Bとの間に他の膜Cを有することを意味する場合も含む。また、本明細書において、例えば「膜Bが膜A(又は基板)の表面に接して配置される」とは、膜A(又は基板)と膜Bとの間に他の膜を介さずに、膜A(又は基板)と膜Bとが直接、接するように配置されていることを意味する。また、本明細書において、「上に」とは、必ずしも鉛直方向における上側を意味するものではない。「上に」とは、膜及び基板などの相対的な位置関係を示しているに過ぎない。本実施形態では、反射型マスクブランク100に膜A及び膜Bの2つの膜が存在するときに、膜Aの方が膜Bより基板から遠い位置に配置される場合、「膜Aは膜Bの上にある(配置される)」という。本実施形態の反射型マスクブランク100の上層は、下層の上に設けられるので、上層は、下層より基板から遠い位置に配置されることになる。
【0062】
本実施形態の反射型マスクブランク100では、所定の薄膜は、吸収体膜4であることが好ましい。吸収体膜4の場合、性能を向上させるために複数の層を形成することがある。そのため、吸収体膜4に含まれる複数の層の密着性の低下により、膜剥がれに起因する欠陥が生じる恐れがある。本実施形態の反射型マスクブランク100により、吸収体膜4に含まれる複数の層の密着性を向上させることができ、欠陥が生じにくく、より高い耐久性を有する吸収体膜4を有する反射型マスクを製造することができる。
【0063】
上述の説明は、反射型マスクを製造するための反射型マスクブランク100を例にしたが、本実施形態の所定の薄膜(下層及び上層)は、反射型マスクブランク以外のマスクブランク(例えば、バイナリマスクブランク及び位相シフト型マスクブランクなど)にも適用することができる。
【0064】
<反射型マスクブランク100>
本実施形態の反射型マスクブランク100について、具体的に説明する。以下、所定の薄膜が吸収体膜4であり、本実施形態の所定の薄膜である吸収体膜4が、下層42及び上層44を有する場合を例に、説明する。
【0065】
<<基板1>>
基板1は、EUV光による露光時の熱による転写パターンの歪みを防止するため、0±5ppb/℃の範囲内の低熱膨張係数を有するものが好ましく用いられる。この範囲の低熱膨張係数を有する素材としては、例えば、SiO2-TiO2系ガラス、多成分系ガラスセラミックス等を用いることができる。
【0066】
基板1の転写パターン(後述の吸収体パターン4a)が形成される側の主表面(第1主表面)は、平坦度を高めるために加工されることが好ましい。基板1の主表面の平坦度を高めることによって、パターンの位置精度や転写精度を高めることができる。例えば、EUV露光の場合、基板1の転写パターンが形成される側の主表面の132mm×132mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、更に好ましくは0.05μm以下、特に好ましくは0.03μm以下である。また、転写パターンが形成される側と反対側の第2主表面(裏面)は、露光装置に静電チャックによって固定される表面である。裏面の142mm×142mmの領域において、平坦度が0.1μm以下、更に好ましくは0.05μm以下、特に好ましくは0.03μm以下である。なお、本明細書において平坦度は、TIR(Total Indicated Reading)で示される表面の反り(変形量)を表す値である。平坦度(TIR)は、基板1の表面を基準として最小二乗法で定められる平面を焦平面とし、この焦平面より上にある基板1の表面の最も高い位置と、焦平面より下にある基板1の表面の最も低い位置との高低差の絶対値である。
【0067】
EUV露光の場合、基板1の転写パターンが形成される側の主表面の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rq)で0.1nm以下であることが好ましい。なお表面粗さは、原子間力顕微鏡で測定することができる。
【0068】
基板1は、その上に形成される薄膜(多層反射膜2など)の膜応力による変形を防止するために、高い剛性を有しているものが好ましい。特に、65GPa以上の高いヤング率を有しているものが好ましい。
【0069】
<<多層反射膜2>>
【0070】
実施形態の反射型マスクブランク100は、多層反射膜2を含む。多層反射膜2は、反射型マスク200において、EUV光を反射する機能を付与するものである。多層反射膜2は、屈折率の異なる物質を主成分とする各層が周期的に積層された多層膜である。
【0071】
一般的には、多層反射膜2として、高屈折率材料である軽元素又はその化合物の薄膜(高屈折率層)と、低屈折率材料である重元素又はその化合物の薄膜(低屈折率層)とが交互に30から60周期程度積層された多層膜が用いられる。
【0072】
多層反射膜2として用いられる多層膜は、基板1側から高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層した高屈折率層/低屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層した構造であることができる。また、多層膜は、基板1側から低屈折率層と高屈折率層をこの順に積層した低屈折率層/高屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層した構造であることができる。なお、多層反射膜2の最表面の層、すなわち、基板1側と反対側の多層反射膜2の表面層は、高屈折率層であることが好ましい。上述の多層膜において、基板1側から高屈折率層と低屈折率層をこの順に積層した高屈折率層/低屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層する場合は、最上層が低屈折率層となる。この場合、低屈折率層が多層反射膜2の最表面を構成すると容易に酸化されてしまうので、反射型マスク200の反射率が減少する可能性がある。そのため、最上層の低屈折率層上に高屈折率層を更に形成して多層反射膜2とすることが好ましい。一方、上述の多層膜において、基板1側から低屈折率層と高屈折率層をこの順に積層した低屈折率層/高屈折率層の積層構造を1周期として複数周期積層する場合は、最上層が高屈折率層となる。したがって、この場合には、更なる高屈折率層を形成する必要はない。
【0073】
高屈折率層としては、ケイ素(Si)を含む層を用いることができる。Siを含む材料としては、Si単体の他に、Siに、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)及び/又は水素(H)を含むSi化合物を用いることができる。Siを含む高屈折率層を用いることによって、EUV光の反射率に優れた反射型マスク200が得られる。また、低屈折率層としては、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、及び白金(Pt)から選択される金属単体、又はこれらの合金を用いることができる。また、これらの金属単体又は合金に、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)及び/又は水素(H)を添加してしてもよい。本実施形態の反射型マスクブランク100においては、低屈折率層がモリブデン(Mo)層であり、高屈折率層がケイ素(Si)層であることが好ましい。例えば波長13nmから14nm(例えば波長13.5nm)のEUV光を反射するための多層反射膜2としては、Mo層とSi層とを交互に30から60周期程度積層したMo/Si周期積層膜を好ましく用いることができる。また、本実施形態の反射型マスクブランク100においては、低屈折率層がルテニウム(Ru)層であり、高屈折率層がケイ素(Si)層であってもよい。例えば波長13nmから14nm(例えば波長13.5nm)のEUV光を反射するための多層反射膜2としては、Ru層とSi層とを交互に30から40周期程度積層したRu/Si周期積層膜を好ましく用いることができる。
【0074】
多層反射膜2の反射率は65%以上であることができ、上限は73%であることができる。本明細書における反射率は、多層反射膜2(保護膜3含む)に対するEUV光の入射角が、反射型マスク200あるいは反射型マスクブランク100から製造された反射型マスク200を用いてパターン転写する際の露光で用いられるEUV光の照射対象に対する入射角と同じである場合の値を意味する。パターン転写する際のEUV光源からのEUV光は、照明光学系を介して、反射型マスク200の主表面に垂直な面に対して、例えば6度から8度傾けた角度で反射型マスク200に照射される。多層反射膜2に対するEUV光の入射角は、特に限定されないが、例えば6度とすることができる。
【0075】
なお、多層反射膜2の各構成層の膜厚及び周期は、露光波長により適宜選択することができる。具体的には、多層反射膜2の各構成層の膜厚及び周期は、ブラッグ反射の法則を満たすように選択することができる。多層反射膜2において、高屈折率層及び低屈折率層はそれぞれ複数存在するが、高屈折率層同士の膜厚、又は低屈折率層同士の膜厚は、必ずしも同じでなくても良い。
【0076】
多層反射膜2の形成方法は当該技術分野において公知である。多層反射膜2は、例えばイオンビームスパッタリング法により、各層を成膜することにより形成できる。上述したMo/Si周期多層膜の場合、例えばイオンビームスパッタリング法又はマグネトロンスパッタリング法により、まずSiターゲットを用いて厚さ4nm程度のSi膜を基板1の上に成膜し、その後Moターゲットを用いて厚さ3nm程度のMo膜を成膜し、これを1周期として、30~60周期積層して、多層反射膜2を形成する(最表面の層はSi膜とする)。なお、60周期とした場合、30周期より工程数は増えるが、EUV光に対する反射率を高めることができる。
【0077】
<<保護膜3>>
本実施形態の反射型マスクブランク100は、多層反射膜2と、後述する吸収体膜4との間に、保護膜3を含むことが好ましい。保護膜3は、多層反射膜2の表面のうち、基板1とは反対側の表面に接して配置される。反射型マスクブランク100が保護膜3を含む場合、多層反射膜2の反射光とは、保護膜3を介して多層反射膜2に入射した光が、保護膜3を介して反射した光を指す。すなわち、反射型マスクブランク100が保護膜3を含む場合、基板1上の多層反射膜2上に保護膜3が形成された状態における保護膜3の表面からの反射光を多層反射膜2の反射光として測定すればよい。
【0078】
本実施形態の反射型マスクブランク100において、多層反射膜2と吸収体膜4との間に保護膜3が形成されていることにより、反射型マスクブランク100を用いて反射型マスク200(EUVマスク)を製造する際の多層反射膜2の表面へのダメージを抑制することができる。そのため、得られる反射型マスク200のEUV光に対する反射率特性が良好となる。
【0079】
保護膜3は、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)及びイリジウム(Ir)から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。保護膜3は、ルテニウム(Ru)及びロジウム(Rh)から選択される少なくとも1つを含むことがより好ましい。また、保護膜3は、上述の元素に加えて、更に添加元素を含むことができる。保護膜3に含まれる添加元素は、Tl、Hf、Ti、Zr、Mn、In、Ga、Cd、Bi、Ta、Pb、Ag、Al、V、Nb、Sn、Zn、Hg、Cr、Fe、Sb、W、Mo及びCuから選択される1以上の元素であることが好ましい。
【0080】
保護膜3に用いるRuの含有率は、50原子%以上100原子%未満、好ましくは80原子%以上100原子%未満、より好ましくは95原子%以上100原子%未満である。また、Rhの含有率は、10原子%以上70原子%未満、好ましくは20原子%以上60原子%未満、より好ましくは30原子%以上50原子%未満である。この場合の保護膜3は、EUV光の反射率を十分確保しながら、マスク洗浄耐性、吸収体膜4をエッチング加工したときのエッチングストッパ機能、及び多層反射膜2の経時的変化防止の機能を兼ね備えることが可能となる。
【0081】
また、保護膜3は、2層以上の積層構造とすることができる。
【0082】
また、本実施形態の反射型マスクブランク100では、基板10と多層反射膜2との間に下地層を形成しても良い。下地層は、基板10の主表面の平滑性向上の目的、欠陥低減の目的、多層反射膜2の反射率増強効果の目的、並びに多層反射膜2の応力補正の目的で形成することができる。
【0083】
<<裏面導電膜5>>
本実施形態の反射型マスクブランク100は、静電チャック用の裏面導電膜5を有することができる。裏面導電膜5は、基板1の第2主表面(裏面)の上に形成することができる。第2主表面とは、多層反射膜2の形成面の反対側の主表面である。基板1の第2主表面に水素侵入抑制膜等の中間層が形成されている場合には、中間層の上に裏面導電膜5を形成することができる。静電チャック用として、裏面導電膜5に求められるシート抵抗は、通常100Ω/□(Ω/square)以下である。裏面導電膜5の形成方法は、例えば、クロム又はタンタル等の金属、又はそれらの合金のターゲットを使用したマグネトロンスパッタリング法又はイオンビームスパッタリング法である。裏面導電膜5のクロム(Cr)を含む材料は、Crにホウ素、窒素、酸素、及び炭素から選択した少なくとも1つを含有したCr化合物であることが好ましい。Cr化合物としては、例えば、CrN、CrON、CrCN、CrCON、CrBN、CrBON、CrBCN及びCrBOCNなどを挙げることができる。裏面導電膜5のタンタル(Ta)を含む材料としては、Ta(タンタル)、Taを含有する合金、又はこれらのいずれかにホウ素、窒素、酸素、及び炭素の少なくとも1つを含有したTa化合物を用いることが好ましい。Ta化合物としては、例えば、TaB、TaN、TaO、TaON、TaCON、TaBN、TaBO、TaBON、TaBCON、TaHf、TaHfO、TaHfN、TaHfON、TaHfCON、TaSi、TaSiO、TaSiN、TaSiON、及びTaSiCONなどを挙げることができる。裏面導電膜5の膜厚は、静電チャック用としての機能を満足する限り特に限定されないが、通常10nmから200nmである。また、この裏面導電膜5はマスクブランク100の第2主表面側の応力調整も兼ね備えている。すなわち、裏面導電膜5は、第1主表面側に形成された各種膜からの応力とバランスをとって、平坦な反射型マスクブランク100が得られるように調整される。
【0084】
なお、反射型マスクブランク100は、必ずしも裏面導電膜5を含む必要はない。例えば、後述の吸収体膜4を形成した反射型マスクブランク100に対して、必要に応じて裏面導電膜5を形成することができる。
【0085】
<<吸収体膜4>>
図1及び2に示すように、本実施形態の反射型マスクブランク100の吸収体膜4は、上述の多層反射膜2の上に配置される。反射型マスクブランク100が保護膜3を含む場合には、吸収体膜4は、保護膜3の上に配置される。吸収体膜4は保護膜3の表面に接して配置されることができる。また、反射型マスクブランク100が保護膜3を含まない場合には、吸収体膜4は、多層反射膜2の表面に接して配置されることができる。
【0086】
吸収体膜4の基本的な機能は、EUV光を吸収することである。吸収体膜4は、EUV光の吸収を目的とした吸収体膜4であっても良いし、EUV光の位相差も考慮した位相シフト機能を有する吸収体膜4であっても良い。位相シフト機能を有する吸収体膜4とは、EUV光を吸収するとともに一部を反射させて位相をシフトさせるものである。すなわち、位相シフト機能を有する吸収体膜4がパターニングされた反射型マスク200において、吸収体膜4が形成されている部分では、EUV光を吸収して減光しつつパターン転写に悪影響がないレベルで一部の光を反射させる。また、吸収体膜4が形成されていない領域(フィールド部)では、EUV光は、(保護膜3が存在する場合には保護膜3を介して)多層反射膜2から反射する。そのため、位相シフト機能を有する吸収体膜4からの反射光と、フィールド部からの反射光との間に所望の位相差が生じることになる。位相シフト機能を有する吸収体膜4は、吸収体膜4からの反射光と、多層反射膜2からの反射光との位相差が100度から310度となるように形成される。該位相差は、好ましくは150度以上、より好ましくは180度以上、更に好ましくは200度以上である。また、該位相差は、好ましくは300度以下、より好ましくは280度以下、更に好ましくは250度以下である。反転した位相差の光同士がパターンエッジ部で干渉し合うことにより、投影光学像の像コントラストが向上する。その像コントラストの向上に伴って解像度が上がり、露光量裕度、及び焦点裕度等の露光に関する各種裕度を大きくすることができる。
【0087】
本実施形態の反射型マスクブランク100では、所定の薄膜が、吸収体膜4であることが好ましい。
【0088】
図1及び
図2に示すように、本実施形態の反射型マスクブランク100の吸収体膜4(所定の薄膜)は、下層42及び上層44を含むことができる。下層42は、上層44と多層反射膜2との間(又は保護膜3が存在する場合には上層44と保護膜3との間)に配置される。吸収体膜4は、下層42及び上層44以外の他の膜を含むことができる。本実施形態の反射型マスクブランク100が、所定の薄膜である吸収体膜4であることにより、吸収体膜4に含まれる2つの層(下層42及び上層44)の密着性を向上させることができる
【0089】
本実施形態の反射型マスクブランク100は、下層42と上層44とは互いに接していることが好ましい。下層42と上層44が、互いに接していることにより、下層42及び上層44の密着性の向上を確実にできる。
【0090】
吸収体膜4の下層42は、バッファ層であることができる。吸収体膜4のバッファ層とは、保護膜3と接して配置される層であり、吸収体膜4をエッチングして吸収体パターン4aを形成する際に、保護膜3に対する悪影響を抑制するための層である。具体的には、下層42の材料として、保護膜3に対してダメージを与えないようなエッチングガスを用いてエッチングすることができる材料を用いることができる。この場合、上層44のエッチングの際には、保護膜3に対してダメージが生じる恐れがあるが、上層44のエッチング速度が速いエッチングガスを用いることができる。そのため、吸収体膜4が、バッファ層である下層42と、上層44とを含むことにより、吸収体膜4のエッチング時間を短くすることができ、かつ吸収体膜4をエッチングして吸収体パターン4aを形成する際に、保護膜3に対する悪影響を抑制することができる。
【0091】
具体的には、保護膜3がルテニウム(Ru)を含む材料からなり、吸収体膜4もルテニウム(Ru)を含む材料(例えばPtRu)からなる場合には、保護膜3及び吸収体膜4の両方とも、フッ素系のエッチングガスでエッチングされることになる。この場合、吸収体膜4をエッチングして吸収体パターン4aを形成する際に、保護膜3に対する悪影響を及ぼす可能性がある。そこで、吸収体膜4が上層44及び下層42を含み、下層42がバッファ層としての機能を有するような吸収体膜4とすることにより、保護膜3に対する悪影響を抑制することができる。この場合、下層42であるバッファ層の材料としては、フッ素系のエッチングガスに対してエッチング耐性を有する材料を用いることができる。例えば下層42であるバッファ層の材料として、塩素系のエッチングガスを用いてエッチング可能な材料を用いることができる。
【0092】
本実施形態の反射型マスクブランク100の下層42は、アモルファス構造又は微結晶構造を含む材料からなる。また、本実施形態の反射型マスクブランク100の上層44の結晶性は、下層42より高い。
【0093】
本実施形態の反射型マスクブランク100の所定の薄膜が吸収体膜4である場合、吸収体膜4の下層42は、アモルファス構造又は微結晶構造を含む材料からなる。また、吸収体膜4の上層44の結晶性は下層42より高い。互いに接して配置される下層42及び上層44が、所定の結晶性を有することにより、隣接する下層42及び上層44の密着性を向上させることができる。また、所定の吸収体膜4を有する本実施形態の反射型マスクブランク100を用いることにより、より高い耐久性を有する吸収体パターン4aを得ることができる。
【0094】
本実施形態の反射型マスクブランク100では、吸収体膜4の上層44の結晶子サイズは、3nmより大きいことが好ましく、8nmより大きいことがより好ましい。吸収体膜4の上層44の結晶子サイズが所定の値より大きいことにより、吸収体膜4の下層42との密着性を向上することができる。また、吸収体膜4の上層44の結晶子サイズは、20nm以下であることが好ましく、19nm以下より好ましく、18nm以下であることが更に好ましい。吸収体膜4の上層44の結晶子サイズが所定の値以下であることにより、上層44を含む吸収体膜4の表面粗さを良好なものとすることができる。
【0095】
吸収体膜4の上層44の結晶子サイズを大きくすることにより、上層44のエッチングレートを高めることができる。一方、本実施形態の反射型マスクブランク100では、吸収体膜4の下層42は結晶が比較的低く、例えば下層42はアモルファス構造又は微結晶構造である。そのため、下層42は上層44のエッチングガスに対してより耐性を持つことができ、上層44のエッチングの際の下層42のダメージを低減することができる。そのため、吸収体膜4の下層42より更に下(基板1方向)に存在する他の膜(例えば、多層反射膜2及び/又は保護膜3)のダメージをより抑制することができ、結果として、多層反射膜2からの反射率を高く維持することができる。
【0096】
上述のX線回折(XRD)法により得られた吸収体膜4の上層44及び下層42からのX線の回折角度から、所定の格子面の面間隔を求めることができる。格子面は、上述のとおり、X線回折プロファイルの回折角度が30度から90度の範囲内において、最もピーク強度の大きいピーク、又は最もピーク面積が大きいピーク(積分強度が大きいピーク)に対応するミラー指数を有するものを用いることができる。最もピーク強度の大きいピーク及び/又は最もピーク面積が大きいピークが複数存在し、選択すべきピークの判別が困難な場合には、これらの複数のピークのうち、最も半値幅が小さなピークを選択することができる。XRD法により得られる吸収体膜4の上層44の格子面間隔dは、0.27nm以下であることが好ましく、0.25nm以下であることがより好ましく、0.23nm以下であることが更に好ましい。これにより、動的分子径が0.346nmの酸素、及び動的分子径が0.289nmの水素が、吸収体膜4に侵入することを抑制することができる。この結果、吸収体膜4のダメージ及び/又は変質を抑えることができる。
【0097】
なお、本発明者らが得た知見によると、結晶性の高さと、膜の密度の高さとの間の相関は、低いと考えられる。また、結晶子サイズと膜密度との相関も低いと考えられる。したがって、結晶性が高い場合、又は結晶子サイズが大きい場合には、膜の密度が高くなるとは、必ずしもいえない。
【0098】
本実施形態の反射型マスクブランク100は、吸収体膜4の下層42と上層44とは、互いに異なる材料からなることが好ましい。吸収体膜4の下層42と上層44とが互いに異なる材料からなることにより、下層42及び上層44が所定の結晶性となるように制御することが容易になる。また、吸収体膜4の下層42と上層44とが互いに異なる材料からなることにより、下層42及び上層44をエッチングする際のエッチングガスに対する選択比を適切なものとすることができる。
【0099】
吸収体膜4の下層42は、吸収体膜4の上層44をエッチングする際に、多層反射膜2及び/又は保護膜3を保護できるような材料からなることが好ましい。
【0100】
吸収体膜4の下層42は、アモルファス又は微結晶であり、かつ結晶子サイズが上層44の結晶子サイズよりも小さくなるものであれば、特に限定はない。例えば、吸収体膜4の下層42の材料として、Ta、Cr、Ru、Rh、Mo、Nb、Ti、Zr、Y、Si、Pd、Ag、Ir、W、Co、Mn、Sn、V、Ni、Fe、Hf、Cu、Te、Zn、Mg、Ge及びAlから選択される少なくとも1つを含む材料を挙げることができる。また、吸収体膜4の下層42の材料は、O、N、C及びBから選択される少なくとも1つを更に含むことができる。吸収体膜4の下層42としては、具体的には、Cr系材料、Ta系材料、Ru系材料、RuCr材料、及びRuTa材料を挙げることができ、これらの材料に更にO、N、C及びBから選択される少なくとも1つを更に含む材料などが挙げられる。
【0101】
吸収体膜4の上層44の材料は、下層42よりも上層44の結晶性を高くできれば特に限定はされない。吸収体膜4の上層44の材料として、例えば、Ru、Ta、Cr、Rh、Mo、Nb、Ti、Zr、Y、Si、Pd、Ag、Pt、Au、Ir、W、Co、Mn、Sn、V、Ni、Fe、Hf、Cu、Te、Zn、Mg、Ge、Al、Au、Re、Os及びRnから選択される少なくとも1つを含む材料を挙げることができる。吸収体膜4の上層44の材料は、N、O、C、B及びHから選択される少なくとも1つを更に含むことができる。
【0102】
EUV光に対して消衰係数が高い吸収体膜4を得る場合には、吸収体膜4の上層44は、Ag、Au、Pt、Pd、Ir、Re、Os、Ru、Ta、Cr、Ti、Nb、Mo、W及びRhから選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。吸収体膜4の上層44は、更にN、O、C、B及びHから選択される少なくとも1つを含むことができる。特にPt及び/又はRrを含む材料は、EUV光に対して消衰係数が高く、かつ屈折率の低い位相シフト膜(吸収体膜4)を得るために有用である。
【0103】
吸収体膜4の上層44がPtとRuを含む材料からなる場合、下層42及び/又はエッチングマスク膜6の材料は、Cr系材料又はTa系材料であることが好ましい。下層42及び/又はエッチングマスク膜6の材料は、前記材料に加えて、O、N、C及びBから選択される少なくとも1つを更に含有する材料であることが好ましい。
【0104】
吸収体膜4が多層反射膜2上に形成された位相シフト膜である場合、EUV光に対する多層反射膜2からの反射光と、所定の薄膜からの反射光との位相差は、100度以上であればよく、好ましくは150度以上、より好ましくは180度以上、更に好ましくは200度以上である。また、EUV光に対する多層反射膜2からの反射光と、所定の薄膜からの反射光との位相差は、好ましくは300度以下、より好ましくは280度以下、更に好ましくは250度以下である。また、EUV光を照射したとき、多層反射膜2からの反射率に対する吸収体膜4からの反射率(相対反射率)は、3%より高いことが好ましく、4%以上であることがより好ましい。また、相対反射率は、好ましくは30%以下であり、より好ましくは20%以下であり、更に好ましくは10%以下である。
【0105】
ここで、吸収体膜4からの相対反射率とは、EUV光を照射したときに多層反射膜2(保護膜3を含む)から反射される光の反射率に対する吸収体膜4の表面から反射される光の反射率を指す。すなわち、吸収体膜4の相対反射率(%)は、吸収体膜4の反射率を多層反射膜2(保護膜3を含む)の反射率で除した値に100を乗じた値である。
【0106】
吸収体膜4の下層42の膜厚は、バッファ層としての機能を果たすために、2nm以上であることが好ましい。また、下層42の膜厚は、いわゆるシャドーイング効果を小さくするために、55nm以下であることが好ましく、25nm以下であることがより好ましい。
【0107】
吸収体膜4の上層44の膜厚は、吸収体膜4としての機能を果たすために、5nm以上であることが好ましい。また、上層44の膜厚は、いわゆるシャドーイング効果を小さくするために、60nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、40nm以下であることがさらに好ましい。
【0108】
下層42及び上層44を含む吸収体膜4は、DCスパッタリング法及びRFスパッタリング法などのマグネトロンスパッタリング法で形成することができる。具体的には、下層42が含有する元素を含むスパッタリング及びスパッタリングガスを用いて、下層42を形成することができる。上層44も同様である。例えば、タンタル化合物等の吸収体膜4は、例えばタンタル及びホウ素を含むターゲットを用い、酸素又は窒素を添加したアルゴンガスを用いた反応性スパッタリング法により、成膜することができる。
【0109】
下層42及び上層44を成膜する際のスパッタリングガスは、希ガスを含むことが好ましい。希ガスとしては、Xeガス、Arガス及びKrガスから選択される1つ、又はこれらの希ガスから選択される2つ以上の希ガスの混合ガスを用いることができる。
【0110】
<<エッチングマスク膜6>>
図1に示すように、本実施形態の反射型マスクブランク100は、吸収体膜4の上に、エッチングマスク膜6を有することができる。エッチングマスク膜6の材料としては、エッチングマスク膜6に対する吸収体膜4のエッチング選択比(吸収体膜4のエッチング速度/エッチングマスク膜6のエッチング速度)が高い材料を用いることが好ましい。エッチングマスク膜6に対する吸収体膜4のエッチング選択比は、1.5以上が好ましく、3以上が更に好ましい。
【0111】
本実施形態の反射型マスクブランク100は、吸収体膜4の上に、エッチングマスク膜6を有することが好ましい。
【0112】
本実施形態の反射型マスクブランク100では、吸収体膜4が所定の薄膜である場合、所定の薄膜(吸収体膜4)に接して所定の薄膜(吸収体膜4)上に形成されたエッチングマスク膜6を有することが好ましい。また、吸収体膜4の結晶性は、エッチングマスク膜6の結晶性よりも高いことが好ましい。具体的には、吸収体膜4の結晶子サイズが、エッチングマスク膜6の結晶子サイズよりも2nm以上大きいことが好ましい。吸収体膜4が複数の層を含む場合は、上層の結晶性がエッチングマスク膜6の結晶性よりも高いことが好ましい。このようなエッチングマスク膜6を有する反射型マスクブランク100を用いることにより、反射型マスク200を製造する工程の中の不適切なタイミングで、エッチングマスク膜6が剥離してしまうことを抑制することができる。
【0113】
エッチングマスク膜6の材料としては、クロム又はクロム化合物を使用することが好ましい。クロム化合物の例としては、Crと、N、O、C及びHから選択される少なくとも1つの元素とを含む材料が挙げられる。エッチングマスク膜6は、CrN、CrO、CrC、CrON、CrOC、CrCN及び/又はCrOCNを含むことがより好ましく、クロム及び酸素を含むCrO系膜(CrO膜、CrON膜、CrOC膜又はCrOCN膜)であることが更に好ましい。
【0114】
エッチングマスク膜6の材料としては、タンタル又はタンタル化合物を使用することが好ましい。タンタル化合物の例として、Taと、N、O、B及びHから選択される少なくとも1つの元素とを含む材料が挙げられる。エッチングマスク膜6は、TaN、TaO、TaON、TaBN、TaBO又はTaBONを含むことがより好ましい。
【0115】
エッチングマスク膜6の材料としては、ケイ素又はケイ素化合物を使用することが好ましい。ケイ素化合物の例として、Siと、N、O、C及びHから選択される少なくとも1つの元素とを含む材料、並びにケイ素及びケイ素化合物に金属を含む金属ケイ素(金属シリサイド)、及び金属ケイ素化合物(金属シリサイド化合物)などが挙げられる。金属ケイ素化合物の例としては、金属と、Siと、N、O、C及びHから選択される少なくとも1つの元素とを含む材料が挙げられる。
【0116】
エッチングマスク膜6の膜厚は、パターンを精度よく吸収体膜4に形成するために、3nm以上であることが好ましい。また、エッチングマスク膜6の膜厚は、レジスト膜11の膜厚を薄くするために、15nm以下であることが好ましい。
【0117】
<反射型マスク200>
本実施形態は、上述の反射型マスクブランク100の吸収体膜4をパターニングした吸収体パターン4aを備える反射型マスク200である。
【0118】
図3Eに示すように、本実施形態の反射型マスク200は、上述の反射型マスクブランク100の多層反射膜2の上、又は保護膜3の上に、吸収体膜4をパターニングした吸収体パターン4aを有する。
【0119】
吸収体パターン4aは、本実施形態の「パターンを有する薄膜」に相当する。パターンを有する所定の薄膜である吸収体パターン4aは、上述のように、下層42及び下層42上に設けられた上層44を含む。したがって、本実施形態の反射型マスク200は、パターンを有する下層42及び上層44(
図3Eに、それぞれ、下層パターン42a及び上層パターン44aとして示す。)を含む。本実施形態の反射型マスク200では、下層パターン42aは、アモルファス構造又は微結晶構造を含む材料からなり、上層パターン44aの結晶性は、下層パターン42aより高い。そのため、本実施形態の反射型マスク200の2つの層(下層パターン42a及び上層パターン44a)の密着性を向上させることができる。また、本実施形態の反射型マスク200の所定の薄膜(下層パターン42a及び上層パターン44a)は、より高い耐久性を有することができる。
【0120】
図3Aから
図3Eは、反射型マスク200の製造方法の一例を示す断面模式図である。上述の本実施形態の反射型マスクブランク100を使用して、本実施形態の反射型マスク200を製造することができる。以下、反射型マスク200の製造方法の例について説明する。
【0121】
まず、基板1と、多層反射膜2と、上層44及び下層42を有する吸収体膜4と、エッチングマスク膜6とを含む反射型マスクブランク100を用意する。反射型マスクブランク100は、保護膜3を有することができる。次に、エッチングマスク膜6の上に、レジスト膜11を形成して、レジスト膜11付きの反射型マスクブランク100を得る(
図3A)。レジスト膜11に、電子線描画装置によってパターンを描画し、更に現像・リンス工程を経ることによって、レジストパターン11aを形成する(
図3B)。
【0122】
次に、レジストパターン11aをマスクとして、エッチングマスク膜6をドライエッチングする。これにより、エッチングマスク膜6のレジストパターン11aによって被覆されていない部分がエッチングされ、エッチングマスクパターン6aが形成される(
図3C)。なお、レジストパターン11aは、レジスト剥離液により除去される。
【0123】
次に、エッチングマスクパターン6aをマスクとして、吸収体膜4をドライエッチングする。これにより、吸収体膜4(上層44及び下層42)のエッチングマスクパターン6aによって被覆されていない部分がエッチングされ、吸収体パターン4aが形成される(
図3D)。なお、このときに、上層44及び下層42を異なるエッチングガスを用いてエッチングすることができる。例えば、下層42のエッチングの際には、保護膜3に対してダメージを与えないようなエッチングガスを用いてエッチングすることができる。また、上層44のエッチングの際には、下層42が保護膜3を覆っているため、保護膜3がダメージを受けることはない。保護膜3がダメージを受ける可能性をより低減するために、上層44に対するエッチング速度が速いエッチングガスを用いることができる。
【0124】
吸収体膜4(上層44及び下層42)のエッチングガスとしては、例えば、フッ素系ガス及び/又は塩素系ガスを用いることができる。フッ素系ガスとしては、CF4、CHF3、C2F6、C3F6、C4F6、C4F8、CH2F2、CH3F、C3F8、SF6、及びF2等を用いることができる。塩素系ガスとしては、Cl2、SiCl4、CHCl3、CCl4、及びBCl3等を用いることができる。また、フッ素系ガス及び/又は塩素系ガスと、O2とを所定の割合で含む混合ガスを用いることができる。これらのエッチングガスは、必要に応じて、更に、He及び/又はArなどの不活性ガスを含むことができる。
【0125】
上層44及び下層42を異なるエッチングガスでエッチングする場合、上層44のエッチングのためのエッチングガスとして、上記フッ素系ガスを用いることが好ましい。また、この場合、下層42のエッチングのためのエッチングガスとして、上記塩素系ガスを用いることが好ましい。保護膜3の材料に応じて、上層44のエッチングに上記塩素系ガスを用い、下層42のエッチングに上記フッ素系ガスを用いてもよい。
【0126】
次に、吸収体パターン4aが形成された後、エッチングマスクパターン6aをドライエッチングにより除去する。エッチングマスクパターン6aを除去した後、酸性やアルカリ性の水溶液を用いたウェット洗浄工程を経ることによって、本実施形態の反射型マスク200を得ることができる(
図3E)。
【0127】
このようにして得られた反射型マスク200は、基板1の上に、多層反射膜2、保護膜3、及び吸収体パターン4aが積層された構造を有している。
【0128】
保護膜3に覆われた多層反射膜2が露出している領域(反射領域)は、EUV光を反射する機能を有している。多層反射膜2及び保護膜3が吸収体パターン4aによって覆われている領域は、EUV光を吸収する機能を有している。本実施形態の反射型マスク200は、吸収体パターン4aに含まれる上層パターン44aと、下層パターン42aとの密着性を向上させることができるので、反射型マスク200の膜剥がれを抑制することができる。また、本実施形態の反射型マスク200は、より高い耐久性を有することができる。本実施形態の反射型マスク200を用いることにより、EUV光に対する高い反射率を維持した反射領域を得ることができるので、EUVリソグラフィにおいて、より微細なパターンを被転写体に転写することができる。
【0129】
<半導体装置の製造方法>
本実施形態の半導体装置の製造方法は、上述の所定の薄膜(吸収体膜4)にパターンが形成されてなる反射型マスク200を用いて、EUV露光装置50を使用したリソグラフィプロセスを行い、半導体基板上の転写対象に薄膜パターン(吸収体パターン4a)を転写することにより、転写パターンを形成する工程を有する。
図4に、EUV露光装置50の一例を示す模式図を示す。
【0130】
本実施形態の反射型マスク200を使用したリソグラフィにより、半導体基板60(被転写体)上に転写パターンを形成することができる。この転写パターンは、反射型マスク200のパターンが転写された形状を有している。半導体基板60上に反射型マスク200によって転写パターンを形成することによって、半導体装置を製造することができる。
【0131】
本実施形態の反射型マスク200では、吸収体パターン4aに含まれる上層パターン44aと、下層パターン42aと密着性を向上させることができるので、反射型マスク200の膜剥がれを抑制することができる。また、より高い耐久性を有する反射型マスク200を得ることができる。そのため、本実施形態の反射型マスク200を用いることにより、EUV光に対する高い反射率を維持した反射領域を得ることができるので、EUV光に対する反射率が高い反射型マスク200を得ることできる。そのため、本実施形態の反射型マスク200を用いることにより、半導体装置を、高密度化、高精度化することができる。
【0132】
図4を用いて、レジスト付き半導体基板60にEUV光によってパターンを転写する方法について説明する。
【0133】
図4は、半導体基板60上に形成されているレジスト膜11に転写パターンを転写するための装置であるEUV露光装置50の概略構成を示している。EUV露光装置50は、EUV光生成部51、照射光学系56、レチクルステージ58、投影光学系57及びウェハステージ59が、EUV光の光路軸に沿って精密に配置されている。EUV露光装置50の容器内には、水素ガスが充填されている。
【0134】
EUV光生成部51は、レーザ光源52、錫液滴生成部53、捕捉部54、コレクタ55を有している。錫液滴生成部53から放出された錫液滴に、レーザ光源52からのハイパワーの炭酸ガスレーザが照射されると、液滴状態の錫がプラズマ化しEUV光が生成される。生成されたEUV光は、コレクタ55で集光され、照射光学系56を経てレチクルステージ58に設定された反射型マスク200に入射される。EUV光生成部51は、例えば、13.53nm波長のEUV光を生成する。
【0135】
反射型マスク200で反射されたEUV光は、投影光学系57により通常1/4程度にパターン像光に縮小されて半導体基板60(被転写基板)上に投影される。これにより、半導体基板60上のレジスト膜に所与の回路パターンが転写される。露光されたレジスト膜を現像することによって、半導体基板60上にレジストパターンを形成することができる。レジストパターンをマスクとして半導体基板60をエッチングすることにより、半導体基板60上に集積回路パターンを形成することができる。このような工程及びその他の必要な工程を経ることで、半導体装置が製造される。
【実施例0136】
以下、実施例について説明する。これらの実施例は本発明を限定するものではない。
【0137】
実施例1~11並びに比較例1及び2として、基板1の第1主表面に多層反射膜2、保護膜3、吸収体膜4及びエッチングマスク膜6を形成した反射型マスクブランク100を作製した。その後、実施例1~11並びに比較例1及び2の反射型マスクブランク100を用いて、実施例1~11並びに比較例1及び2の反射型マスク200を作製した。なお、実施例1~11並びに比較例1及び2のそれぞれについて、反射型マスクブランク100及び反射型マスク200は、それぞれ複数作成した。後述する結晶子サイズなどの測定値は、各実施例及び比較例の複数のサンプル(具体的には5個のサンプル)の平均値である。
【0138】
(反射型マスクブランク100)
表1に、実施例及び比較例の反射型マスクブランク100の吸収体膜4の上層44の組成、スパッタリング法での成膜の際のスパッタリングガス、膜厚及び結晶状態を示す。表2に、実施例及び比較例の反射型マスクブランク100の吸収体膜4の下層42の組成、スパッタリング法での成膜の際のスパッタリングガス、膜厚及び結晶状態を示す。表1及び表2に記載した結晶状態におけるCは結晶構造、MCは微結晶構造、Aはアモルファス構造を意味する。実施例及び比較例の吸収体膜4は、いずれも位相シフトの機能を有する位相シフト膜である。実施例及び比較例の反射型マスクブランク100の作製は、次のようにして行った。
【0139】
第1主表面及び第2主表面の両表面が研磨された6025サイズ(約152mm×152mm×6.35mm)の低熱膨張ガラス基板1であるSiO2-TiO2系ガラス基板1を準備し、基板1とした。平坦で平滑な主表面となるように、粗研磨加工工程、精密研磨加工工程、局所加工工程、及びタッチ研磨加工工程よりなる研磨を行った。
【0140】
次に、基板1の主表面(第1主表面)上に、多層反射膜2を形成した。基板1上に形成される多層反射膜2は、波長13.5nmのEUV光に適した多層反射膜2とするために、モリブデン(Mo)とケイ素(Si)からなる周期多層反射膜とした。多層反射膜2は、MoターゲットとSiターゲットを使用し、クリプトン(Kr)ガス雰囲気中でイオンビームスパッタリング法により基板1上にMo層及びSi層を交互に積層して形成した。まず、Si膜を4.2nmの膜厚で成膜し、続いて、Mo膜を2.8nmの膜厚で成膜した。これを1周期とし、同様にして40周期積層し、最後にSi膜を4.0nmの膜厚で成膜し、多層反射膜2を形成した。
【0141】
次に、多層反射膜2の上にRuRhCr膜からなる保護膜3を形成した。保護膜3は、Arガス雰囲気中で、RuRhCrターゲット(Ru:Rh:Cr=60at%:30at%:10at%)を使用したDCマグネトロンスパッタリング法により3.5nmの膜厚で成膜した。
【0142】
次に、保護膜3の上に、所定の吸収体膜4を形成した。なお、成膜は、下層42及び上層44の順番で行った。なお、比較例1のみ、上層44の上に更に最上層を形成した。
【0143】
表1及び表2に示すように、実施例1~11並びに比較例1及び2の吸収体膜4は、下層42及び上層44を有する。
【0144】
実施例1~11及び比較例1の下層42の成膜は、下記のように行った。表2に、実施例1~11並びに比較例1及び2の下層42の組成を示す。
【0145】
実施例1~11及び比較例1の下層42として、多層反射膜2の上に、窒化クロム膜(CrN膜)を50nmの厚さに成膜した。この窒化クロム膜はDCマグネトロンスパッタリング法によって形成し、成膜にはCrターゲットを用い、スパッタガスとしてArに窒素を10%添加したガスを用いた。
【0146】
比較例2の下層42の成膜は、下記のように行った。
【0147】
比較例2の下層42として、RuZr膜を成膜した。比較例2の下層42は以下の条件で形成した。
ターゲット:Ruターゲット、Zrターゲット
スパッタガス:Arガス
出力:150W(Ruターゲット)、50W(Zrターゲット)
膜厚:5nm
【0148】
次に、実施例1~11並びに比較例1及び2の下層42の上に、上層44を成膜した。上層44の成膜は、下記のように行った。表1に、実施例1~11並びに比較例1及び2の上層44の組成を示す。
【0149】
実施例1のPtRu膜の成膜は、Pt及びRuを含むターゲットを用いて、キセノン(Xe)をスパッタリングガスとして用いて、DCマグネトロンスパッタリング法によって形成した。表1に得られたPtRu膜の組成及び膜厚を示す。
【0150】
実施例2のPtRu膜の成膜は、Pt及びRuを含むターゲットを用いて、アルゴン(Ar)をスパッタリングガスとして用いて、DCマグネトロンスパッタリング法によって形成した。表1に得られたPtRu膜の組成及び膜厚を示す。
【0151】
実施例3のPtRuN膜の成膜は、Pt及びRuを含むターゲットを用いて、キセノン及び窒素からなるスパッタリングガスを用いて、DCマグネトロンスパッタリング法(反応性スパッタリング法)によって形成した。
【0152】
実施例4のPtRuN膜の成膜は、Pt及びRuを含むターゲットを用いて、アルゴン及び窒素からなるスパッタリングガスを用いて、DCマグネトロンスパッタリング法(反応性スパッタリング法)によって形成した。表1に得られたPtRuN膜の組成及び膜厚を示す。
【0153】
実施例5のPtRuO膜の成膜は、Pt及びRuを含むターゲットを用いて、アルゴン及び酸素からなるスパッタリングガスを用いて、DCマグネトロンスパッタリング法(反応性スパッタリング法)によって形成した。表1に得られたPtRuO膜の組成及び膜厚を示す。
【0154】
実施例6のPtRuBN膜の成膜は、Pt、Ru及びBを含むターゲットを用いて、キセノン及び窒素からなるスパッタリングガスを用いて、DCマグネトロンスパッタリング法(反応性スパッタリング法)によって形成した。表1に得られたPtRuBN膜の組成及び膜厚を示す。
【0155】
実施例7のPtRuB膜の成膜は、Pt、Ru及びBを含むターゲットを用いて、キセノン(Xe)をスパッタリングガスとして用いて、DCマグネトロンスパッタリング法によって形成した。表1に得られたPtRuB膜の組成及び膜厚を示す。
【0156】
実施例8のRuN膜の成膜は、Ruターゲットを用いて、キセノン(Xe)及び窒素からなるスパッタリングガスを用いて、DCマグネトロンスパッタリング法(反応性スパッタリング法)によって形成した。表1に得られたRuN膜の組成及び膜厚を示す。
【0157】
実施例9のPtTa膜の成膜は、Pt及びTaを含むターゲットを用いて、キセノン(Xe)からなるスパッタリングガスを用いて、DCマグネトロンスパッタリング法(反応性スパッタリング法)によって形成した。表1に得られたPtTa膜の組成及び膜厚を示す。
【0158】
実施例10のPtRuB膜の成膜は、Pt、Ru及びBを含むターゲットを用いて、キセノン(Xe)をスパッタリングガスとして用いて、DCマグネトロンスパッタリング法によって形成した。表1に得られたPtRuB膜の組成及び膜厚を示す。
【0159】
実施例11のPtRuO膜の成膜は、Pt及びRuを含むターゲットを用いて、アルゴン及び酸素からなるスパッタリングガスを用いて、DCマグネトロンスパッタリング法(反応性スパッタリング法)によって形成した。表1に得られたPtRuO膜の組成及び膜厚を示す。
【0160】
比較例1のTaBN膜(上層44)及びTaBO膜(最上層)の成膜は、下記のように行った。
【0161】
比較例1の下層42の上に、上層44として、タンタルホウ素合金の窒化物(TaBN)膜を50nmの厚さに形成した。このTaBN膜は、Ta及びBを含むターゲットを用いて、Arに窒素を10%添加して、DCマグネトロンスパッタリング法によって形成した。表1に示すように、このTaBN膜の組成比は、Taは0.8、Bは0.1、Nは0.1とした。TaBN膜の結晶状態はアモルファスであった。
【0162】
比較例1の上層44の上に更に最上層として、タンタルホウ素合金の酸化物(TaBO)膜を12nmの厚さに形成した。このTaBO膜は、DCマグネトロンスパッタリング法によって、Ta及びBを含むターゲットを用いて、Arに酸素を30%添加して成膜した。上層44の形成と最上層の形成の間はDCパワーを一旦停止させ、成膜に使用するガスを切り変えた。ここで成膜された最上層のTaBO膜の組成比は、Taは0.4、Bは0.1、Oは0.5とした。最上層のTaBO膜の結晶状態はアモルファスであった。
【0163】
比較例2のRuN膜(上層44)の成膜は、下記のように行った。
【0164】
比較例2のRuN膜(上層44)の成膜は、Ruターゲットを用いて、表1に示す窒素を含むスパッタリングガスを用いて、反応性スパッタリング法によって形成した。表1に得られたRuN膜の組成及び膜厚を示す。なお、スパッタリングの際のガス圧は2.0×10-1Pa、ターゲット面積当たりの投入電力密度は1.7W/cm2、成膜速度は0.017nm/秒とした。
【0165】
次に、実施例1~11並びに比較例1及び2の吸収体膜4の上に、CrNを材料とするエッチングマスク膜6を形成した。エッチングマスク膜6であるCrN膜の成膜は、Crを含むターゲットを用いて、スパッタガスとしてArに窒素を10%添加したスパッタリングガスを用いて、DCマグネトロンスパッタリング法(反応性スパッタリング法)によって形成した。CrN膜の組成は、Cr:N=90at%:10at%であり、膜厚は16nmとした。
【0166】
以上のようにして、実施例1~11並びに比較例1及び2の反射型マスクブランク100を製造した。
【0167】
(結晶子サイズ)
実施例1~11並びに比較例1及び2の反射型マスクブランク100の吸収体膜4(下層42及び上層44)と同様の条件で、下層42及び上層44を成膜し、結晶子サイズを測定した。所定の層のX線回折(XRD)法として、インプレーン測定(2θχ/φスキャン)を用いて、X線回折プロファイルを得た。得られたX線回折プロファイルの回折角u及び半値幅βから、シェラー(Scherrer)の式(下記式2参照)により、結晶子サイズDを求めた。なお、半値幅βは、上述のガウス関数(式1)を用いて、X線回折プロファイルの回折角度が30度から90度において最もピーク強度の大きいピークを含む領域に対して最小二乗法によるフィッティングを行うことでσを得て、このσを上述の式(3)に代入することにより算出した。
D = Kλ/β・cos(2/u) ・・・(式2)
【0168】
式1において、Dは結晶子サイズ(nm)、Kはシェラー定数0.9、λはX線(CuKα1)の波長0.15405(nm)、βは回折線幅の半値幅(rad)である。回折角uは、該フィッティングにより得られる値である。
【0169】
上記のようにして求めた下層42の結晶子サイズは、実施例1~11並びに比較例1のすべてにおいて、1nm未満だった。比較例2における下層42の結晶子サイズは、7.5nmであった。
【0170】
また、上記のようにして求めた上層44の結晶子サイズは次の通りだった。すなわち、実施例1の上層44の結晶子サイズは13.2nmだった。実施例2の上層44の結晶子サイズは12.0nmだった。実施例3の上層44の結晶子サイズは10.6nmだった。実施例4の上層44の結晶子サイズは8.2nmだった。実施例5の上層44の結晶子サイズは11.8nmだった。実施例6の上層44の結晶子サイズは9.3nmだった。実施例7の上層44の結晶子サイズは8.4nmだった。実施例8の上層44の結晶子サイズは18nmだった。実施例9の上層44の結晶子サイズは15.8nmだった。実施例10の上層44の結晶子サイズは4.7nmだった。実施例11の上層44の結晶子サイズは3.2nmだった。比較例1の上層44の結晶子サイズは1nm未満だった。比較例2の上層44の結晶子サイズは6.5nmだった。実施例1~11において、上層44の結晶子サイズと下層42の結晶子サイズとの差は、いずれも2nm以上であった。一方、比較例1及び2の上層44の結晶子サイズと下層42の結晶子サイズとの差は、1nm以下であった。
【0171】
(膜密度)
実施例1~4の反射型マスクブランク100の吸収体膜4の上層44と同様の条件で上層44を成膜し、実施例1~4の上層44の膜密度を算出した。膜密度は、X線反射率法(XRR)により得られたX線反射率と、薄膜モデルから計算されたX線反射率プロファイルとのフィッティングにより得た。このようにして得られた実施例1~4の膜密度は、次の通りだった。すなわち、実施例1の上層44の膜密度は16.4g/cm3だった。実施例2の上層44の膜密度は17.2g/cm3だった。実施例3の上層44の膜密度は11.7g/cm3だった。実施例4の上層44の膜密度は17.1g/cm3だった。
【0172】
なお、上述の結晶子サイズと膜密度の測定結果から、実施例2の上層と実施例4の上層を比べると、膜密度は同程度であるのに対して、結晶子サイズは大きく異なることが理解できる。また、実施例3の上層と実施例4の上層とを比べると、膜密度の大きい実施例4の方が、結晶子サイズは小さかった。すなわち、膜密度の大きい実施例4の上層の方が、実施例3の上層よりも結晶性が低かった。したがって、結晶子サイズ(結晶性)と膜密度の相関は低いと考えられる。また、実施例3の上層と実施例4の上層とは、互いに同じ組成比を有するが、膜密度及び結晶子サイズは同じではなかった。したがって、膜の組成比と結晶子サイズ(結晶性)又は膜密度との相関も低いと考えられる。
【0173】
(上層44の格子面間隔)
実施例1~11の反射型マスクブランク100mの吸収体膜4の上層44と同様の条件で上層44を成膜し、実施例1~11並びに比較例1及び2の上層44の格子面間隔を測定した。X線回折(XRD)法により上層44を測定し、測定で得られた上層44からのX線回折プロファイルの回折角度から、ブラッグの法則により格子面の面間隔を求めた。実施例1~11の上層44の格子面間隔は、すべて0.23nm以下だった。なお、格子面については、上述のとおり、X線回折プロファイルの回折角度が30度から90度の範囲内において、最もピーク強度の大きいピーク、又は最もピーク面積が大きいピークに対応するミラー指数を有するものを用いることができる。実施例1~11では、最もピーク強度の大きいピークを用いて、格子面間隔を求めた。
【0174】
(反射型マスク200)
次に、実施例1~11並びに比較例1及び2の反射型マスクブランク100を用いて、反射型マスク200を製造した。
図3Aから
図3Eを参照して反射型マスク200の製造を説明する。なお、反射型マスクブランク100は、実施例及び比較例のそれぞれについて、5枚作製した。
【0175】
まず、
図3Aに示すように、反射型マスクブランク100の吸収体膜4の上に、レジスト膜11を形成した。そして、このレジスト膜11に回路パターン等の所望のパターンを描画(露光)し、更に現像、リンスすることによって所定のレジストパターン11aを形成した(
図3B)。次に、レジストパターン11aをマスクにしてエッチングマスク膜6(CrN膜)を、ドライエッチングすることで、エッチングマスクパターン6aを形成した(
図3C)。次に、レジストパターン11aを酸素アッシングで剥離した。次に、レジストパターン11aをマスクにして吸収体膜4の上層44をドライエッチングし、下層42をドライエッチングすることで、吸収体パターン4aを形成した(
図6D)。その後、エッチングマスクパターン6aをドライエッチングにより除去した(
図6E)。
【0176】
最後に純水(DIW)を用いたウェット洗浄を行って、実施例1~11並びに比較例1及び2の反射型マスク200を製造した。
【0177】
(位相シフトの位相差)
実施例1~11並びに比較例1及び2の反射型マスク200の吸収体パターン4aは、位相シフト膜のパターンである。そこで、実施例1~11並びに比較例1及び2の反射型マスク200の、EUV光に対する多層反射膜2からの反射光と、吸収体膜4からの反射光との位相差を測定した。実施例1~11並びに比較例1及び2の反射型マスク200の位相差は、100度以上300度以下であり、適切な位相シフト機能を有するといえる。
【0178】
(多層反射膜2の反射率)
実施例1~11並びに比較例1及び2の反射型マスク200の多層反射膜2に、EUV光を照射したとき、多層反射膜2からの反射率に対する吸収体膜4からの反射率(相対反射率)は、3%より高く、30%以下だった。したがって、実施例1~11並びに比較例1及び2の反射型マスク200の相対反射率は、適切な範囲であるといえる。
【0179】
(密着性の評価)
上述のようにして実施例1~11の反射型マスクブランク100及び反射型マスク200を5枚製造したときに、反射型マスクブランク100の工程及び反射型マスク200の製造工程において、いずれのサンプルにおいても膜の剥離は生じなかった。一方、上述のようにして比較例1及び2の反射型マスクブランク100及び反射型マスク200を5枚製造したときに、いずれの比較例においても、一部のサンプルにおいて、吸収体膜4の剥離による欠陥が生じた。吸収体膜4の剥離は、上層44と下層42の界面の剥離に起因するものと特定することができた。したがって、本実施形態の実施例1~11の反射型マスクブランク100及び反射型マスク200の吸収体膜4の上層44及び下層42は、高い密着性を有するといえる。
【0180】
(耐久性の評価)
実施例1~11並びに比較例1及び2において、それぞれ欠陥の生じていない反射型マスク200に対し、EUV光を用いて半導体装置上のレジスト膜(転写対象)に露光転写したときにおける露光転写像のシミュレーションを行った。このシミュレーションで得られた露光転写像を検証したところ、いずれの実施例及び比較例においても、反射率及び位相シフト量は設計仕様を満たす範囲の値だった。更に、実施例1~11並びに比較例1及び2の反射型マスク200に対して、EUV光を累積照射量が20kJ/cm2となるように間欠照射を行った。この累積照射量20kJ/cm2は、例えば反射型マスク200を5万回程度使用したことに相当する。間欠照射後の反射型マスク200に対し、EUV光を用いて半導体装置上のレジスト膜(転写対象)に露光転写したときにおける露光転写像のシミュレーションを行った。このシミュレーションで得られた露光転写像を検証したところ、実施例1~11では、累積照射量20kJ/cm2のEUV光を照射する前後で、反射率の変化及び位相シフト量の変化が0.5%以内だった。以上のことから、本実施形態の実施例の反射型マスクブランク100から製造された反射型マスク200は、耐久性が高く、EUV光による露光転写を累積照射量が例えば20kJ/cm2となるまで行っても、半導体装置上のレジスト膜に対して高精度で露光転写を行うことができるといえる。一方、比較例1において、実施例と同様に、累積照射量20kJ/cm2のEUV光を照射した後の露光転写像を確認したところ、一部の反射型マスク200では、累積照射量20kJ/cm2のEUV光を照射する前後で、反射率の変化及び位相シフト量の変化が0.5%より大きかった。
【0181】
(半導体装置の製造)
実施例1~11の反射型マスク200をEUVスキャナにセットし、被転写体である半導体基板60の上に被加工膜とレジスト膜が形成されたウェハに対してEUV露光を行った。そして、この露光済レジスト膜を現像することによって、被加工膜が形成された半導体基板56の上にレジストパターンを高精度で形成することができた。
【0182】
【0183】