(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142179
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】遊星ローラ式動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16H 13/08 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
F16H13/08 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054225
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000139023
【氏名又は名称】株式会社リケン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100173794
【弁理士】
【氏名又は名称】色部 暁義
(72)【発明者】
【氏名】白澤 友樹
(72)【発明者】
【氏名】宮山 学
(72)【発明者】
【氏名】石塚 一男
(72)【発明者】
【氏名】吉元 明男
【テーマコード(参考)】
3J051
【Fターム(参考)】
3J051AA01
3J051BA03
3J051BB06
3J051BD02
3J051BE04
3J051ED08
(57)【要約】
【課題】遊星ローラ式動力伝達装置の耐久性及び信頼性が向上し得る、遊星ローラ式動力伝達装置を提供する。
【解決手段】遊星ローラ式動力伝達装置1であり、太陽ローラ10と、太陽ローラ10の外周側に配置されているリングローラ20と、遊星ローラ式動力伝達装置1の径方向で太陽ローラ10とリングローラ20との間に配置されるとともに、太陽ローラ10及びリングローラ20に圧接する遊星ローラ30と、を備え、リングローラ20は、該リングローラ20の内周面20iにおける遊星ローラ30と接触する領域の端より内側の領域に、リングローラ20の周方向に延びるとともに潤滑油が導入される複数の油溝21を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊星ローラ式動力伝達装置であり、
太陽ローラと、
前記太陽ローラの外周側に配置されているリングローラと、
前記遊星ローラ式動力伝達装置の径方向で前記太陽ローラと前記リングローラとの間に配置されるとともに、前記太陽ローラ及び前記リングローラに圧接する遊星ローラと、
を備え、
前記リングローラは、該リングローラの内周面における前記遊星ローラと接触する領域の端より内側の領域に、前記リングローラの周方向に延びるとともに潤滑油が導入される複数の油溝を備える、
遊星ローラ式動力伝達装置。
【請求項2】
前記リングローラは、該リングローラの内周面における前記遊星ローラとの接触面であって、該遊星ローラにおける、幅方向端と該幅方向端から幅方向中心側に所定距離隔てた幅方向位置との間の幅方向領域に対応する、前記リングローラの端部領域を除く、前記リングローラの中心領域に、前記複数の油溝を備え、
前記所定距離は、前記遊星ローラの全幅の1/40である、
請求項1に記載の遊星ローラ式動力伝達装置。
【請求項3】
前記リングローラの内周面の少なくとも前記端部領域は、前記太陽ローラの軸心方向断面視において平坦で、前記遊星ローラと接触可能である、
請求項2に記載の遊星ローラ式動力伝達装置。
【請求項4】
前記遊星ローラの外周面に、潤滑油の濡れ性を高める表面加工が施されている、
請求項1~3のいずれか一項に記載の遊星ローラ式動力伝達装置。
【請求項5】
前記リングローラの前記複数の油溝は、前記リングローラの内周面の前記遊星ローラとの接触面の幅方向に等間隔に配置され、
前記油溝の深さは、前記5μmからリングローラの内径の5.0%までの範囲である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の遊星ローラ式動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊星ローラ式動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
遊星ローラ式動力伝達装置は、入力軸の回転を、遊星ローラ機構を介して出力軸へ変速して伝達するものである。具体的には、遊星ローラ式動力伝達装置は、一般に、駆動源から回転伝達される入力軸と、出力軸との間に、リングローラ内で公転運動する遊星ローラと、遊星ローラの中心に位置する太陽ローラと、を設けてなる遊星ローラ機構を有する(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、特許文献1には、リングローラの内周面に潤滑剤を溜める溝を形成する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第2536871号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
遊星ローラとリングローラとの間の面圧に関して、遊星ローラのスキュー(軸の傾き)によって、遊星ローラの軸線方向端部に過大な面圧が加わることがある。この過大な面圧が、遊星ローラひいては遊星ローラ式動力伝達装置の耐久性及び信頼性に影響を与えることがあった。
【0006】
そこで、本発明は、遊星ローラ式動力伝達装置の耐久性及び信頼性が向上し得る、遊星ローラ式動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨構成は、以下の通りである。
(1)遊星ローラ式動力伝達装置であり、
太陽ローラと、
前記太陽ローラの外周側に配置されているリングローラと、
前記遊星ローラ式動力伝達装置の径方向で前記太陽ローラと前記リングローラとの間に配置されるとともに、前記太陽ローラ及び前記リングローラに圧接する遊星ローラと、
を備え、
前記リングローラは、該リングローラの内周面における前記遊星ローラと接触する領域の端より内側の領域に、前記リングローラの周方向に延びるとともに潤滑油が導入される複数の油溝を備える、
遊星ローラ式動力伝達装置。
【0008】
(2)前記リングローラは、該リングローラの内周面における前記遊星ローラとの接触面であって、該遊星ローラにおける、幅方向端と該幅方向端から幅方向中心側に所定距離隔てた幅方向位置との間の幅方向領域に対応する、前記リングローラの端部領域を除く、前記リングローラの中心領域に、前記複数の油溝を備え、
前記所定距離は、前記遊星ローラの全幅の1/40である、
(1)に記載の遊星ローラ式動力伝達装置。
【0009】
(3)前記リングローラの内周面の少なくとも前記端部領域は、前記太陽ローラの軸心方向断面視において平坦で、前記遊星ローラと接触可能である、
(2)に記載の遊星ローラ式動力伝達装置。
【0010】
(4)前記遊星ローラの外周面に、潤滑油の濡れ性を高める表面加工が施されている、
(1)~(3)のいずれか1つに記載の遊星ローラ式動力伝達装置。
【0011】
(5)前記リングローラの前記複数の油溝は、前記リングローラの内周面の前記遊星ローラとの接触面の幅方向に等間隔に配置され、
前記油溝の深さは、前記5μmからリングローラの内径の5.0%までの範囲である、
(1)~(4)のいずれか1つに記載の遊星ローラ式動力伝達装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、遊星ローラ式動力伝達装置の耐久性及び信頼性が向上し得る、遊星ローラ式動力伝達装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る、遊星ローラ式動力伝達装置の斜視図である。
【
図2】
図1の遊星ローラ式動力伝達装置の部分正面図である。
【
図3】
図2の遊星ローラ式動力伝達装置のA-A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に例示説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る、遊星ローラ式動力伝達装置1の斜視図である。
図2は、遊星ローラ式動力伝達装置1の部分正面図である。
図3は、
図2の遊星ローラ式動力伝達装置1のA-A断面図である。
【0016】
図1を参照して、遊星ローラ式動力伝達装置1は、太陽ローラ10と、リングローラ20と、遊星ローラ30と、を備えている。
【0017】
リングローラ20は、太陽ローラ10の外周側に配置されている。
【0018】
遊星ローラ30は、遊星ローラ式動力伝達装置1の径方向で太陽ローラ10とリングローラ20との間に配置されるとともに、太陽ローラ10及びリングローラ20に圧接する。遊星ローラ30は、太陽ローラ10の周方向に沿って複数(例えば、5つ)設置されていてよい。なお、
図1では、便宜的に遊星ローラ30を1つのみ示している。遊星ローラ30は、キャリアプレート(図示せず)に挟持され、回転自在に位置決めされる。
【0019】
遊星ローラ式動力伝達装置1は、減速機ユニット又は増速機ユニットを構成してよい。遊星ローラ式動力伝達装置1が減速機ユニットを構成する場合、太陽ローラ10は、入力軸(図示せず)と一体であり、又は入力軸に結合されている。また遊星ローラ30は、キャリア(図示せず)側に回転自在に支持され、出力軸に一体に結合されている。尚、リングローラ20は、ケーシング等に固定(回転しない)される。遊星ローラ式動力伝達装置1が増速機ユニットを構成する場合、太陽ローラ10は、出力軸と一体であり、又は出力軸に結合されている。遊星ローラ30は、入力軸と一体であり、又は入力軸に結合されている。また、リングローラは、減速機ユニットと同様に、ケーシング側に固定される。
【0020】
図3を参照して、リングローラ20は、リングローラ20の内周面20iにおける遊星ローラ30と接触する領域の端20ceより内側(リングローラ20の幅方向内側)の領域に、リングローラ20の周方向に延びるとともに潤滑油が導入される複数(
図3では3つの)の油溝21を備える。なお、リングローラにおいて、遊星ローラ30の幅方向中心30cに対称な偶数個(例えば2つ)の油溝が形成されていてもよい。
【0021】
油溝21には、潤滑油が導入される。
図3を参照して、遊星ローラ式動力伝達装置1の動作時に、遊星ローラ30が(
図1では時計回りに)回転し、遊星ローラ30における油溝21と接触する部分30оに、潤滑油が表面張力等によって付着する。その後、遊星ローラ30が更に回転して、遊星ローラ30の潤滑油が付着した部分30оが太陽ローラ10に接触すると、当該部分30оの潤滑油が、(
図1では反時計回りに)回転する太陽ローラ10に押しつぶされて太陽ローラ10の幅方向に広がりながら、太陽ローラ10に付着する。
【0022】
遊星ローラ30が更に回転して、
図2を参照して潤滑油がリングローラ20に押しつぶされて、リングローラ20の幅方向全体に付着する。このときに、潤滑油の一部が油溝21に戻る。
【0023】
このように、遊星ローラ30と太陽ローラ10との接触部分の幅方向全体、及びリングローラ20と遊星ローラ30との接触部分の幅方向全体に、潤滑油の均一な油膜が介在する。このことによって、ローラ間が適切に潤滑され、遊星ローラ式動力伝達装置1の耐久性及び信頼性を向上させることができる。
【0024】
また、リングローラ20に複数の油溝21が形成されているため、リングローラ20は十分な量の潤滑油を遊星ローラ30及び太陽ローラ10に供給することができる。
【0025】
ここで一般に、遊星ローラのスキューによって、リングローラに接触する遊星ローラの軸線方向端部に過大な面圧が加わることがある。この過大な面圧が、遊星ローラひいては遊星ローラ式動力伝達装置の耐久性及び信頼性に影響を与えることがあった。
【0026】
これに対し、本実施形態の遊星ローラ式動力伝達装置1では、
図3を参照して、リングローラ20が、該リングローラ20の内周面20iにおける遊星ローラ30と接触する領域の端20ceより内側の領域に、リングローラ20の周方向に延びるとともに潤滑油が導入される複数の油溝21を備える。この構成により、リングローラ20において油溝21が形成されていない領域(具体的には内径が小さい領域)に、遊星ローラ30の幅方向端部が接触して力F-F、又はF’-F’での負荷を受ける。その結果、遊星ローラ30の最大幅でモーメントを受けられるためスキューが抑えられ、遊星ローラ軸線方向端部の面圧も低減させることができる。したがって、遊星ローラ30ひいては遊星ローラ式動力伝達装置1の耐久性及び信頼性を高めることができる。
【0027】
リングローラ20は、リングローラ20の端部領域20reを除く、リングローラの中心領域20rcに、複数の油溝21を備えてよい。端部領域20reは、リングローラ20の内周面20iにおける遊星ローラ30との接触面である。端部領域20reは、遊星ローラ30における、幅方向端30eと該幅方向端30eから幅方向中心30c側に所定距離d隔てた幅方向位置との間の幅方向領域に対応する。言い換えれば、リングローラ20の内周面20iの少なくとも端部領域20reは、太陽ローラ10の軸心方向断面視において平坦で、遊星ローラ30と接触可能であってよい。所定距離dは、遊星ローラ30の全幅twの1/40であってよく、1/8であってよく、1/4であってよい。この構成によって、遊星ローラ30の幅方向端部を、より確実に、リングローラ20において油溝21が形成されていない(内径が小さな)領域20reに接触させることができる。したがって、遊星ローラ30ひいては遊星ローラ式動力伝達装置1の耐久性及び信頼性を更に高めることができる。
【0028】
一般に、遊星ローラと太陽ローラとの当接面では、これらローラの回転に伴う遠心作用のため、当接面を潤滑する潤滑油(オイルやグリス)が、太陽ローラの半径方向へ飛散するため、潤滑油が不足する場合があった。その結果、遊星ローラ式動力伝達装置の耐久性及び信頼性が損なわれるおそれがあった。
【0029】
これに対して、遊星ローラ30の外周面に、潤滑油の濡れ性(吸着性)を高める表面加工が施されていてもよく、遊星ローラ30の表面張力を高めることができ、油溝21内の潤滑油の一部を、遊星ローラ30の表面に付着させ太陽ローラ10側へ循環させることができ、また、潤滑油付着量を調整することもできることから遊星ローラ式動力伝達装置1の運転条件等に応じた表面加工や表面処理等が選択されてもよい。例としては、レーザ加工、ショットピーニング、ナノ高速加工、化成処理等である。
【0030】
リングローラ20の複数の油溝21は、リングローラ20の内周面20iの遊星ローラ30との接触面の幅方向に等間隔に配置されてよい。この構成により、遊星ローラ30、太陽ローラ10及びリングローラ20の幅方向全体に、より均一な油膜が形成され得る。
【0031】
油溝21の深さは、5μmからリングローラ20の内径の5.0%までの範囲であってよい。油溝21の深さを5μm以上とすることで、遊星ローラ式動力伝達装置1の動作時にリングローラ20が(弾性)変形しても、油溝21の形状が実質的に保たれ、潤滑油を保持し得る。油溝21の深さをリングローラ20の内径の5.0%以下とすることで、油溝21に潤滑油が十分に満たされ、潤滑油の遊星ローラ30への転写をより円滑に行うことができる。
【0032】
上述したところは、本発明の例示的な実施形態を説明したものであり、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で様々な変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0033】
1:遊星ローラ式動力伝達装置
10:太陽ローラ
20:リングローラ
20ce:遊星ローラと接触する領域の端
20i:内周面
20rc:中心領域
20re:端部領域
21:油溝
30:遊星ローラ
30c:幅方向中心
30о:油溝と接触する部分
30e:幅方向端
d:所定距離
F、F’:力