IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社リケンの特許一覧

<>
  • 特開-遊星ローラ式動力伝達装置 図1
  • 特開-遊星ローラ式動力伝達装置 図2
  • 特開-遊星ローラ式動力伝達装置 図3
  • 特開-遊星ローラ式動力伝達装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142183
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】遊星ローラ式動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 13/08 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
F16H13/08 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054229
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000139023
【氏名又は名称】株式会社リケン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100173794
【弁理士】
【氏名又は名称】色部 暁義
(72)【発明者】
【氏名】白澤 友樹
(72)【発明者】
【氏名】宮山 学
(72)【発明者】
【氏名】石塚 一男
(72)【発明者】
【氏名】吉元 明男
【テーマコード(参考)】
3J051
【Fターム(参考)】
3J051AA01
3J051BA03
3J051BB08
3J051BD02
3J051BE04
3J051ED07
(57)【要約】
【課題】本発明は、遊星ローラの反力のバランスを容易に確保できる、遊星ローラ式動力伝達装置を提供することを目的とする。
【解決手段】遊星ローラ式動力伝達装置1であり、太陽ローラ110と、太陽ローラ110の外周側に配置されているリングローラ20と、遊星ローラ式動力伝達装置1の径方向で太陽ローラ110とリングローラ20との間に配置されるとともに、太陽ローラ110及びリングローラ20に圧接する複数の遊星ローラ130と、太陽ローラ110の軸心110aに垂直な断面視において、遊星ローラ130の外周面130cと該遊星ローラ130に太陽ローラ110の周方向で隣接する遊星ローラ130の外周面130cとを支持可能な2つのガイド部の面140gs1、140gs2及び複数の遊星ローラ130の軸線方向一方側の端面130s1を支持可能なベース部140bを有する第1キャリア140と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊星ローラ式動力伝達装置であり、
太陽ローラと、
前記太陽ローラの外周側に配置されているリングローラと、
前記遊星ローラ式動力伝達装置の径方向で前記太陽ローラと前記リングローラとの間に配置されるとともに、前記太陽ローラ及び前記リングローラに圧接する複数の遊星ローラと、
前記太陽ローラの軸心に垂直な断面視において、前記遊星ローラの外周面と該遊星ローラに前記太陽ローラの周方向で隣接する遊星ローラの外周面とを支持可能な2つのガイド部の面、及び前記複数の遊星ローラの軸線方向一方側の端面を支持可能なベース部を有する第1キャリアと、
を備える、遊星ローラ式動力伝達装置。
【請求項2】
前記太陽ローラの軸心に垂直な断面視において、
前記遊星ローラと、前記ガイド部との間には隙間が形成され、
2つのガイド部における遊星ローラの外周面を支持可能な面が、前記太陽ローラの軸心及び該遊星ローラの軸心をつなぐ直線と平行な直線と重なる、
請求項1に記載の遊星ローラ式動力伝達装置。
【請求項3】
前記太陽ローラの軸心に垂直な断面視において、
2つのガイド部における遊星ローラの外周面を支持可能な面が、前記太陽ローラの軸心及び該遊星ローラの軸心をつなぐ直線に対して対称な直線と重なり、
前記複数の遊星ローラのそれぞれの軸心が、前記太陽ローラの周方向で互いに等間隔に配置されている、
請求項2に記載の遊星ローラ式動力伝達装置。
【請求項4】
前記太陽ローラの軸心に垂直な断面視において、
2つのガイド部における遊星ローラの外周面を支持可能な面が、前記太陽ローラの軸心及び該遊星ローラの軸心をつなぐ直線に対して対称な曲線である、
請求項1に記載の遊星ローラ式動力伝達装置。
【請求項5】
第2キャリアを更に備え、
前記第1キャリア及び前記第2キャリアは、前記遊星ローラを、前記太陽ローラの軸線方向で挟持する、
請求項1~4のいずれか1項に記載の遊星ローラ式動力伝達装置。
【請求項6】
前記太陽ローラの軸心に垂直な断面視において、
前記遊星ローラはガイド近接点で前記ガイド部に最も近づき、
前記ガイド近接点から前記遊星ローラ式動力伝達装置の径方向に離れるにつれて、前記ガイド部は前記遊星ローラから遠ざかる、
請求項1~4のいずれか1項に記載の遊星ローラ式動力伝達装置。
【請求項7】
前記遊星ローラは、前記遊星ローラ式動力伝達装置の径方向に移動可能である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の遊星ローラ式動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遊星ローラ式動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
遊星ローラ式動力伝達装置は、入力軸の回転を、遊星ローラ機構を介して出力軸へ変速して伝達するものである。具体的には、遊星ローラ式動力伝達装置は、一般に、駆動源から回転伝達される入力軸と、出力軸との間に、リングローラ内で公転運動する遊星ローラと、遊星ローラを保持するキャリアプレートと、遊星ローラの中心に位置する太陽ローラと、を設けてなる遊星ローラ機構を有する(例えば、特許文献1~2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平4-60638号公報
【特許文献2】実開昭53-8473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
各部品の加工誤差により、例えば、遊星ローラの軸心位置に対して、キャリア側に圧入される遊星ローラの支軸の軸心が、遊星ローラ式動力伝達装置の例えば径方向で内側に誤差が生じた状態で組付けられることがある。この場合に、遊星ローラは、剛性の高い遊星ローラの支軸側に引き寄せられる。そのため、遊星ローラに対して、太陽ローラ側から受ける反力ひいては面圧が高まり、リングローラ側から受ける反力が低下する。リングローラ側から受ける面圧が低下することで、伝達性能の低下、出力トルクの変動、振動等を招くおそれがあった。また、軸受け系に径方向の外側に押し上げられる過大な負荷が発生し、製品寿命に影響を及ぼすことがあった。
【0005】
一方で、誤差が、遊星ローラ式動力伝達装置の径方向で外側に誤差が生じた状態で組付けられることもある。この場合、前記事例とは逆の作用が現れる。
【0006】
このように、各部品の加工誤差により、遊星ローラの反力のバランスが損なわれ、遊星ローラ式動力伝達装置性能及び信頼性に影響を与えるおそれがあった。
【0007】
一方で、遊星ローラの反力のバランスを確保するために、部品の寸法及び精度を向上させると、製造コストが増加するおそれがあった。
【0008】
そこで、本発明は、遊星ローラの反力のバランスを容易に確保できる、遊星ローラ式動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨構成は、以下の通りである。
(1)遊星ローラ式動力伝達装置であり、
太陽ローラと、
前記太陽ローラの外周側に配置されているリングローラと、
前記遊星ローラ式動力伝達装置の径方向で前記太陽ローラと前記リングローラとの間に配置されるとともに、前記太陽ローラ及び前記リングローラに圧接する複数の遊星ローラと、
前記太陽ローラの軸心に垂直な断面視において、前記遊星ローラの外周面と該遊星ローラに前記太陽ローラの周方向で隣接する遊星ローラの外周面とを支持可能な2つのガイド部の面、及び前記複数の遊星ローラの軸線方向一方側の端面を支持可能なベース部を有する第1キャリアと、
を備える、遊星ローラ式動力伝達装置。
【0010】
(2)前記太陽ローラの軸心に垂直な断面視において、
前記遊星ローラと、前記ガイド部との間には隙間が形成され、
2つのガイド部における遊星ローラの外周面を支持可能な面が、前記太陽ローラの軸心及び該遊星ローラの軸心をつなぐ直線と平行な直線と重なる、
(1)に記載の遊星ローラ式動力伝達装置。
【0011】
(3)前記太陽ローラの軸心に垂直な断面視において、
2つのガイド部における遊星ローラの外周面を支持可能な面が、前記太陽ローラの軸心及び該遊星ローラの軸心をつなぐ直線に対して対称な直線と重なり、
前記複数の遊星ローラのそれぞれの軸心が、前記太陽ローラの周方向で互いに等間隔に配置されている、
(2)に記載の遊星ローラ式動力伝達装置。
【0012】
(4)前記太陽ローラの軸心に垂直な断面視において、
2つのガイド部における遊星ローラの外周面を支持可能な面が、前記太陽ローラの軸心及び該遊星ローラの軸心をつなぐ直線に対して対称な曲線である、
(1)に記載の遊星ローラ式動力伝達装置。
【0013】
(5)第2キャリアを更に備え、
前記第1キャリア及び前記第2キャリアは、前記遊星ローラを、前記太陽ローラの軸線方向で挟持する、
(1)~(4)のいずれか1つに記載の遊星ローラ式動力伝達装置。
【0014】
(6)前記太陽ローラの軸心に垂直な断面視において、
前記遊星ローラはガイド近接点で前記ガイド部に最も近づき、
前記ガイド近接点から前記遊星ローラ式動力伝達装置の径方向に離れるにつれて、前記ガイド部は前記遊星ローラから遠ざかる、
(1)~(5)のいずれか1つに記載の遊星ローラ式動力伝達装置。
【0015】
(7)前記遊星ローラは、前記遊星ローラ式動力伝達装置の径方向に移動可能である、
(1)~(6)のいずれか1つに記載の遊星ローラ式動力伝達装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、遊星ローラの反力のバランスを容易に確保できる、遊星ローラ式動力伝達装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1の実施形態に係る遊星ローラ式動力伝達装置の縦断面図である。
図2図1の遊星ローラ式動力伝達装置のA-A断面図である。
図3図1の遊星ローラ式動力伝達装置のB-B断面図である。
図4】本発明の第2の実施形態に係る遊星ローラ式動力伝達装置の、図1におけるB-B断面と同様の断面の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に例示説明する。
【0019】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る遊星ローラ式動力伝達装置1の縦断面図である。図2は、遊星ローラ式動力伝達装置1のA-A断面図である。図3は、遊星ローラ式動力伝達装置1のB-B断面図である。
【0020】
図1に示すように、この遊星ローラ式動力伝達装置1は、この例で二段の減速機ユニット100、200で構成されている。なお、本発明の遊星ローラ式動力伝達装置は、二段の構成に限定されるものではなく、一段又は三段以上であってもよい。また、遊星ローラ式動力伝達装置の一部の減速機ユニットは、減速機ユニット100又は200と同様の構成を有してもよく、これらから適宜変更されてもよい。さらに、本発明の遊星ローラ式動力伝達装置は減速ユニットを備える構成に限定するものでもなく、後述する入力軸6と出力軸7とを入れ替えて遊星ローラ式動力伝達装置が増速ユニットで構成されてもよい。
【0021】
図1及び2を参照して、出力軸7側の後段の減速機ユニット100、ひいては、本実施形態の遊星ローラ式動力伝達装置1は、太陽ローラ110と、リングローラ20と、複数(本実施形態では5つ)の遊星ローラ130と、出力軸7と一体の第1キャリア140と、を備えている。減速機ユニット100は、第2キャリア150を備えてもよい。
【0022】
図2を参照して、リングローラ20は、太陽ローラ110の外周側に配置されている。遊星ローラ130は、遊星ローラ式動力伝達装置1の径方向で太陽ローラ110とリングローラ20との間に配置されるとともに、太陽ローラ110及びリングローラ20に圧接する。太陽ローラ110の軸心に垂直な断面視において、複数の遊星ローラ130のそれぞれの軸心130aが、太陽ローラ110の周方向で互いに等間隔に配置されてよい。
【0023】
図1及び2を参照して、第1キャリア140は、ガイド部140g(本実施形態では5つのガイド部140g1、140g2、140g3、140g4、140g5)と、ベース部140bとを有する。第1キャリア140は、遊星ローラ130の外周面130c及び軸方向一方側の端面130s1(本実施形態では出力軸7側の端面)を支持する。
【0024】
より具体的に、図2において最も上に位置する遊星ローラ1301の外周面は、ガイド部140g1、140g2によって支持されている。遊星ローラ1301の右側で太陽ローラ110の周方向に隣接する遊星ローラ1302の外周面は、ガイド部140g2、140g3によって支持されている。遊星ローラ1302の下側で太陽ローラ110の周方向に隣接する遊星ローラ1303の外周面は、ガイド部140g3、140g4によって支持されている。遊星ローラ1303の左側で太陽ローラ110の周方向に隣接する遊星ローラ1304の外周面は、ガイド部140g4、140g5によって支持されている。遊星ローラ1304の上側で太陽ローラ110の周方向に隣接する遊星ローラ1305の外周面は、ガイド部140g5、140g1によって支持されている。
【0025】
ガイド部140gは、第1キャリア140においてベース部140bよりも入力軸6側に突出している部分である。本実施形態では、遊星ローラ130の回転軸に接続される支軸は存在せず、遊星ローラ式動力伝達装置1の構成が簡素になり、小径化されている。
【0026】
太陽ローラ110の軸心110aに垂直な断面視において、遊星ローラ130と、ガイド部140gとの間には隙間s1が形成されてもよい。隙間s1は、遊星ローラ式動力伝達装置1の径方向に延びてもよい。1つの遊星ローラ130の周りに、4つの隙間s1が形成されてよい。遊星ローラ130は、例えば隙間s1において、遊星ローラ式動力伝達装置1の径方向に移動可能であってもよい。隙間s1の寸法は、遊星ローラ式動力伝達装置1の各部品の加工誤差に基づいて決められてもよい。太陽ローラ110の軸心110aに垂直な断面視において、隙間s1の遊星ローラ式動力伝達装置1の径方向における最大幅は、例えば10μmであってよい。
【0027】
太陽ローラ110の軸心110aに垂直な断面視において、第1キャリア140は、ガイド部140gにおける遊星ローラ130の外周面130cを支持可能な面140gs1、140gs2が、太陽ローラ110の軸心110a及び遊星ローラ130の軸心130aをつなぐ直線l1に対して対称な直線と重なってもよい。当該面が直線状である第1キャリア140は、当該面が直線状でない構成よりも容易に形成され得る。また、当該面同士が太陽ローラ110の軸心110a及び遊星ローラ130の軸心130aをつなぐ直線l1に対して対称であることによって、遊星ローラ130が2つの面140gs1、140gs2から均等に押圧され得る。太陽ローラ110の軸心110aに垂直な断面視において、ガイド部140gは、ほぼ三角形状である。ガイド部140gは、遊星ローラ式動力伝達装置1の径方向において、リングローラ20側寄りに配置されてよい。第1キャリア140(ガイド部140gを含む)および第2キャリア150は、低摩擦の樹脂材料で構成されてよい。
【0028】
本実施形態では5つのガイド部140gが形成されている。ガイド部140gの個数は、遊星ローラ130の個数と同じであってよい。また後述するように、ガイド部140gの形状は、遊星ローラ130の個数に応じて設計されてよい。太陽ローラ110の軸心110aに垂直な断面視において、複数のガイド部140gのそれぞれが、太陽ローラ110の周方向で互いに等間隔に配置されてよい。当該断面視において、遊星ローラ130のそれぞれの軸心130aが、太陽ローラ110の周方向で互いに等間隔に配置されてよい。
【0029】
本実施形態の遊星ローラ式動力伝達装置1では、太陽ローラ110の軸心110aに垂直な断面視において、遊星ローラ130(一例では1301、以下同じ)の外周面130cと該遊星ローラ130に太陽ローラ110の周方向で隣接する遊星ローラ130(1302)の外周面130cとを支持可能な2つのガイド部140gの面(140gs1、140gs2)、及び複数の遊星ローラ130の軸線方向一方側の端面130s1を支持可能なベース部140bを有する第1キャリア140を備えることによって、各部品の加工誤差により遊星ローラ130の反力F1、F2(図2図4参照)、のバランスが損なわれた場合でも、遊星ローラ130が例えば遊星ローラ130と、ガイド部140gとの間の隙間s1により遊星ローラ式動力伝達装置1の径方向に移動することで、遊星ローラ130の反力F1、F2のバランスが容易に確保され得る。その結果、各遊星ローラ130の面圧不足又は面圧過多の問題が回避される。したがって、遊星ローラ式動力伝達装置1では、性能及び信頼性が向上している。また、遊星ローラ式動力伝達装置1では、出力トルク及び回転の変動が抑制され得る。ここで、反力F1はリングローラ20からの反力を示す。反力F2は太陽ローラ110からの反力を示す。遊星ローラ130は、遊星ローラ式動力伝達装置1の径方向に、抵抗なく、移動可能であってもよい。なお、上述した2つのガイド部140gの面(140gs1、140gs2)は、同一の面上に存在してもよい。
【0030】
図2に示すように、太陽ローラ110の軸心110aに垂直な断面視において、遊星ローラ130は、当該遊星ローラ130の外周面130c上の1点である、ガイド近接点130pで、ガイド部140gに最も近づいてもよい。より具体的に、遊星ローラ130は、ガイド近接点130pで、ガイド部140gからわずかに離れてもよく、ガイド部140gに当接してもよい。ガイド部140gは、ガイド近接点130pから遊星ローラ式動力伝達装置1の径方向に離れるにつれて、遊星ローラ130から遠ざかってもよい。
【0031】
リングローラ20の内周面に、例えば油溝が形成されて、潤滑油が導入されることがある。この構成では、リングローラ20に遊星ローラ130が接触すると、潤滑油が遊星ローラ130に表面張力等によって付着する。その後、遊星ローラ130に太陽ローラ110が接触すると、遊星ローラ130の潤滑油が太陽ローラ110に付着する。さらにその後、太陽ローラ110の潤滑油が別の遊星ローラ130に付着する。これらの際に、太陽ローラ110の軸心110aに垂直な断面視において、遊星ローラ130と第1キャリア140とが、くさび形状を形成することで、いわゆるくさび効果によって、潤滑油が隙間s1に引きずり込まれて潤滑性が向上され得る。太陽ローラ110の軸心110aに垂直な断面視において、隙間s1が遊星ローラ130の両側に形成されている場合、この効果は、遊星ローラ130の回転方向に関わらず得られる。
【0032】
遊星ローラ130の軸方向一方側の端面130s1は、第1キャリア140のベース部140bによって支持されている。ベース部140bは、平坦であってよい。
【0033】
図1に示すように、本実施形態において、遊星ローラ式動力伝達装置1は、第2キャリア150を更に備えている。第1キャリア140及び第2キャリア150は、遊星ローラ130を、太陽ローラ110の軸線方向で挟持している。換言すれば、第2キャリア150は、第1キャリア140ととともに、遊星ローラ130を太陽ローラ110の軸線周りに回転可能に挟持して、遊星ローラ130を太陽ローラ110の軸線方向に固定する。遊星ローラ130と、第1キャリア140及び第2キャリア150との間に隙間が存在してよい。図1を参照してより具体的に、キャリア固定ボルト160が第2キャリア150を貫通して、第2キャリア150を第1キャリア140にネジ留めしてもよい。
【0034】
図3を参照して、入力軸6側の前段の減速機ユニット200は、減速機ユニット100に類似する構成を有する。そのため、以下、減速機ユニット200について、減速機ユニット100と異なる構成を説明する。減速機ユニット200には、4つの遊星ローラ230が設けられている。太陽ローラ210の軸心210aに垂直な断面視において、ガイド部240gは、ほぼ扇形状である。
【0035】
以下、遊星ローラ式動力伝達装置1の動作について説明する。図1及び図3を参照して、前段の減速機ユニット200では、例えばモータにより入力軸6が回転して太陽ローラ210に回転が入力されると、太陽ローラ210の回転は、太陽ローラ210と圧接している遊星ローラ230に伝達される。遊星ローラ230は、リングローラ20の内周面に沿って自転運動しながら公転運動を行う。遊星ローラ230の公転運動によって、遊星ローラ230を支持する第1キャリア240も、太陽ローラ210の軸線周りに回転する。ここで、第1キャリア240の回転は、入力軸6の回転に対して減速されている。
【0036】
図1及び図2を参照して、後段の減速機ユニット100において、太陽ローラ110と一体の、前段の減速機ユニット200の第1キャリア240は入力軸である。前段の減速機ユニット100と同様に、太陽ローラ110の回転が遊星ローラ130に伝達され、第1キャリア140を回転させる。第1キャリア140は出力軸7と一体である。出力軸7の回転は、前段の減速機ユニット200の第1キャリア240の回転に対して、更に減速されている。
【0037】
前段及び後段の減速機ユニット100、200において、減速比は、太陽ローラ110、210の外径と、リングローラ20の内径と、を選定することにより適宜調整することができる。
【0038】
(第2の実施形態)
図4は、本発明の第2の実施形態に係る遊星ローラ式動力伝達装置1の、図1におけるB-B断面と同様の断面の部分拡大図である。以下、本実施形態の遊星ローラ式動力伝達装置1について、図1図3を参照して説明した、本発明の第1実施形態に係る遊星ローラ式動力伝達装置1と同じ構成は再度説明されず、遊星ローラ式動力伝達装置1とは異なる構成が説明される。
【0039】
本実施形態の遊星ローラ式動力伝達装置1は、前段の減速機ユニット300と、後段の減速機ユニット100を備える。減速機ユニット300は、減速機ユニット200と、減速機ユニット200の第1キャリア240とは異なる第1キャリア340を備える点で相違する。
【0040】
本実施形態において、遊星ローラ230の外周面230cは、第1キャリア340のガイド部340gの面340gs1、340gs2によって適度な隙間を確保した上で支持されている。太陽ローラ210の軸心に垂直な断面視において、ガイド部340gにおける遊星ローラ230の外周面230cを支持可能な面340gs1、340gs2は、太陽ローラ210の軸心及び遊星ローラ230の軸心をつなぐ直線l2に対して対称な曲線である。このような構成により、遊星ローラ230は、ガイド部340g上で動きやすくなり得る。
【0041】
より具体的に、遊星ローラ230は、ガイド近接点230pで、ガイド部340gに最も近づく。ガイド部340gは、ガイド近接点230pから遊星ローラ式動力伝達装置1の径方向に離れるにつれて、遊星ローラ230から遠ざかる。本実施形態では、図4に示すように、太陽ローラ210の軸心に垂直な断面視において、ガイド近接点230p近傍では、ガイド部340gにおける遊星ローラ230の外周面230cを支持可能な面340gs1、340gs2の曲率半径は、遊星ローラ230の半径(曲率半径)R1より隙間設定分僅かに大きく、一方で、ガイド近接点230pから離れた領域では、ガイド部340gの当該面340gs1、340gs2の曲率半径R2が、R1より大きい。言い換えれば、ガイド部340gは、ガイド近接点230p近傍と、ガイド近接点230pから離れた領域とで、異なる曲率半径を有してよい。尚、加工精度により加工誤差が大きくなる場合は、ガイド近接点230pの代わりに、加工誤差を吸収できる軸線l2と平行な僅かな長さの直線状部を設定してもよい。ガイド部340gは面取りされていてよい。図4の例では、ガイド部340gの径方向外側の端部が、面取りされている。
【0042】
本実施形態において、第1の実施形態に係る減速機ユニット200と同様に、太陽ローラ210の軸心に垂直な断面視において、遊星ローラ230と第1キャリア340とは、くさび形状を形成する。その結果、いわゆるくさび効果によって、潤滑油が遊星ローラ230とガイド部340gとの間の隙間s3に引きずり込まれやすくなり得る。
【0043】
上述したところは、本発明の例示的な実施形態を説明したものであり、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で様々な変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0044】
1:遊星ローラ式動力伝達装置
100、200、300:減速機ユニット
110、210:太陽ローラ
110a、210a:軸心
130(1301、1302、1303、1304、1305)、230:遊星ローラ
130a、230a:軸心
130c、230c:外周面
130p、230p:ガイド近接点
130s1、230s1:軸方向一方側の端面
140、240、340:第1キャリア
140b、240b:ベース部
140g(140g1、140g2、140g3、140g4、140g5)、240g、340g:ガイド部
140gs1、140gs2、340gs1、340gs2:遊星ローラの外周面を支持可能な面
150、250:第2キャリア
160:キャリア固定ボルト
20:リングローラ
6:入力軸
7:出力軸
R1、R2:曲率半径
l1、l2:太陽ローラの軸心及び遊星ローラの軸心をつなぐ直線
s1、s2、s3:隙間
図1
図2
図3
図4