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特開2024-142188キャビテーション発生の定量的評価方法、キャビテーション発生の定量的評価プログラム及びキャビテーション発生の定量的評価装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142188
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】キャビテーション発生の定量的評価方法、キャビテーション発生の定量的評価プログラム及びキャビテーション発生の定量的評価装置
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/00 20170101AFI20241003BHJP
   G06T 7/262 20170101ALI20241003BHJP
   G06T 7/586 20170101ALI20241003BHJP
   G06T 7/60 20170101ALI20241003BHJP
   B63B 71/10 20200101ALI20241003BHJP
   G01N 21/85 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G06T7/00 610
G06T7/262
G06T7/586
G06T7/60 150S
B63B71/10
G01N21/85 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054238
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白石 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】澤田 祐希
(72)【発明者】
【氏名】藤沢 純一
(72)【発明者】
【氏名】新川 大治朗
【テーマコード(参考)】
2G051
5L096
【Fターム(参考)】
2G051AA07
2G051AB20
2G051BA20
2G051CA04
2G051EA08
5L096AA06
5L096AA09
5L096BA03
5L096BA18
5L096CA04
5L096DA01
5L096DA02
5L096FA23
5L096FA26
5L096GA08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】キャビテーション発生の定量的評価装置、方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】方法は、キャビテーション発生画像を撮影する高速度撮影ステップと、キャビテーション発生画像から時系列画像データを生成する時系列画像形成ステップと、時系列画像データからキャビテーション画像だけを抽出するキャビテーション画像抽出ステップと、キャビテーション変動圧又は流体中騒音を含む波形データを計測する波形データ計測ステップと、キャビテーション発生画像から個々の画素の輝度時系列データを求める輝度時系列データ生成ステップと、波形データと輝度時系列データを時系列ウェーブレット変換するウェーブレット変換ステップと、輝度時系列データから輝度変化エネルギーを算出する輝度変化エネルギー演算ステップと、キャビテーション発生画像に画像処理を施してキャビテーション形状を算出するキャビテーション形状演算ステップと、を備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビテーション発生画像を画像解析し、キャビテーション発生の定量的評価を行う方法であって、
キャビテーション発生場所を照明装置で照らし、前記キャビテーション発生画像を高速度カメラで撮影する高速度撮影ステップと、
前記高速度撮影ステップで撮影した前記キャビテーション発生画像から連続した時系列画像データを処理して生成する時系列画像形成ステップと、
連続した前記時系列画像データを処理してキャビテーション画像だけを抽出するキャビテーション画像抽出ステップと、
前記高速度カメラによる撮影と同時にキャビテーション変動圧又は流体中騒音を含む波形データを計測する波形データ計測ステップと、
抽出した前記キャビテーション発生画像から個々の画素の輝度時系列データを求める輝度時系列データ生成ステップと、
前記波形データ計測ステップで計測した前記波形データと前記輝度時系列データを時系列ウェーブレット変換するウェーブレット変換ステップと、
前記輝度時系列データから輝度変化エネルギーを算出する輝度変化エネルギー演算ステップと、
前記キャビテーション発生画像にSfS(Shape from Shading:陰影からの形状復元法)又は照度差ステレオ法による画像処理を施してキャビテーショ形状を算出するキャビテーション形状演算ステップを備えることを特徴とするキャビテーション発生の定量的評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載のキャビテーション発生の定量的評価方法であって、
前記ウェーブレット変換ステップにおいて前記波形データと前記輝度時系列データを時系列ウェーブレット変換することによって時間と周波数にかかわる信号情報を同時に抽出することを特徴とするキャビテーション発生の定量的評価方法。
【請求項3】
請求項1に記載のキャビテーション発生の定量的評価方法であって、
前記キャビテーション画像抽出ステップにおいて、前記キャビテーション発生がある画像と、前記キャビテーション発生がない画像との差分を取ることで前記キャビテーション発生画像のみを抽出することを特徴とするキャビテーション発生の定量的評価方法。
【請求項4】
請求項1に記載のキャビテーション発生の定量的評価方法であって、
前記高速度カメラの前記照明装置として、高輝度のメタルハライドランプ又はLED照明を使用することを特徴とするキャビテーション発生の定量的評価方法。
【請求項5】
キャビテーション発生画像を画像解析し、キャビテーション発生の定量的評価を行うプログラムであって、
コンピュータに、
処理制御部に請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の時系列画像形成ステップと、キャビテーション画像抽出ステップと、波形データ計測ステップと、輝度時系列データ生成ステップと、ウェーブレット変換ステップと、輝度変化エネルギー演算ステップと、キャビテーション形状演算ステップとを実行させることを特徴とするキャビテーション発生の定量的評価プログラム。
【請求項6】
キャビテーション発生画像を画像解析し、キャビテーション発生の定量的評価を行う装置であって、
高速度カメラ、照明装置、及びコンピュータを備え、
前記コンピュータに請求項5に記載のキャビテーション発生の定量的評価プログラムを実行させてキャビテーション発生を定量的に評価することを特徴とするキャビテーション発生の定量的評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャビテーション発生の定量的評価方法、キャビテーション発生の定量的評価プログラム及びキャビテーション発生の定量的評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶等のプロペラの回転数がある範囲を越えるとプロペラ羽根によって、水が加速され、水との相対速度の関係で羽根表面にある限界の圧力より低い部分が発生すると気泡が生ずるキャビテーション(空洞現象)が生ずる。プロペラの背面にキャビテーションが広がると推力が減少したり、騒音・振動が発生したり、さらにキャビテーションで発生した気泡がプロペラ表面の近くで崩壊するとプロペラ表面を腐食したりする。したがって、プロペラ等に発生するキャビテーションを評価する方法が必要とされている。
【0003】
プロペラから発生するノイズ信号を採取し、逆フーリエ変換によって得られたノイズ信号に対してフィルタリングし、フィルタリング済みの再構築された時間領域信号にウェーブレット変換を適用することでプロペラのキャビテーション状態を把握する方法が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-18818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
キャビテーションを撮影した動画(画像)からキャビテーションの現象をより容易に定量的に評価できる方法が必要とされている。また、別途取得した変動圧や流体中騒音とキャビテーションの状態を直接的に比較して現象を理解できる方法が望まれている。
【0006】
本発明は、キャビテーション発生の定量的評価方法、キャビテーション発生の定量的評価プログラム及びキャビテーション発生の定量的評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に係るキャビテーション発生の定量的評価方法は、キャビテーション発生画像を画像解析し、キャビテーション発生の定量的評価を行う方法であって、キャビテーション発生場所を照明装置で照らし、前記キャビテーション発生画像を高速度カメラで撮影する高速度撮影ステップと、前記高速度撮影ステップで撮影した前記キャビテーション発生画像から連続した時系列画像データを処理して生成する時系列画像形成ステップと、連続した前記時系列画像データを処理してキャビテーション画像だけを抽出するキャビテーション画像抽出ステップと、前記高速度カメラによる撮影と同時にキャビテーション変動圧又は流体中騒音を含む波形データを計測する波形データ計測ステップと、抽出した前記キャビテーション発生画像から個々の画素の輝度時系列データを求める輝度時系列データ生成ステップと、前記波形データ計測ステップで計測した前記波形データと前記輝度時系列データを時系列ウェーブレット変換するウェーブレット変換ステップと、前記輝度時系列データから輝度変化エネルギーを算出する輝度変化エネルギー演算ステップと、前記キャビテーション発生画像にSfS(Shape from Shading:陰影からの形状復元法)又は照度差ステレオ法による画像処理を施してキャビテーショ形状を算出するキャビテーション形状演算ステップを備えることを特徴とする。
【0008】
ここで、前記ウェーブレット変換ステップにおいて前記波形データと前記輝度時系列データを時系列ウェーブレット変換することによって時間と周波数にかかわる信号情報を同時に抽出することが好適である。
【0009】
また、前記キャビテーション画像抽出ステップにおいて、前記キャビテーション発生がある画像と、前記キャビテーション発生がない画像との差分を取ることで前記キャビテーション発生画像のみを抽出することが好適である。
【0010】
また、前記高速度カメラの前記照明装置として、高輝度のメタルハライドランプ又はLED照明を使用することが好適である。
【0011】
本発明の請求項5に係るキャビテーション発生の定量的評価プログラムは、キャビテーション発生画像を画像解析し、キャビテーション発生の定量的評価を行うプログラムであって、コンピュータに、処理制御部に上記の時系列画像形成ステップと、キャビテーション画像抽出ステップと、波形データ計測ステップと、輝度時系列データ生成ステップと、ウェーブレット変換ステップと、輝度変化エネルギー演算ステップと、キャビテーション形状演算ステップとを実行させることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項6に係るキャビテーション発生の定量的評価装置は、キャビテーション発生画像を画像解析し、キャビテーション発生の定量的評価を行う装置であって、高速度カメラ、照明装置、及びコンピュータを備え、前記コンピュータに請求項5に記載のキャビテーション発生の定量的評価プログラムを実行させてキャビテーション発生を定量的に評価することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の請求項1に係るキャビテーション発生の定量的評価方法は、キャビテーション発生画像を画像解析し、キャビテーション発生の定量的評価を行う方法であって、キャビテーション発生場所を照明装置で照らし、前記キャビテーション発生画像を高速度カメラで撮影する高速度撮影ステップと、前記高速度撮影ステップで撮影した前記キャビテーション発生画像から連続した時系列画像データを処理して生成する時系列画像形成ステップと、連続した前記時系列画像データを処理してキャビテーション画像だけを抽出するキャビテーション画像抽出ステップと、前記高速度カメラによる撮影と同時にキャビテーション変動圧又は流体中騒音を含む波形データを計測する波形データ計測ステップと、抽出した前記キャビテーション発生画像から個々の画素の輝度時系列データを求める輝度時系列データ生成ステップと、前記波形データ計測ステップで計測した前記波形データと前記輝度時系列データを時系列ウェーブレット変換するウェーブレット変換ステップと、前記輝度時系列データから輝度変化エネルギーを算出する輝度変化エネルギー演算ステップと、前記キャビテーション発生画像にSfS(Shape from Shading:陰影からの形状復元法)又は照度差ステレオ法による画像処理を施してキャビテーショ形状を算出するキャビテーション形状演算ステップを備えることによって、流体内に配置された物体によるキャビテーションを定量的に評価することが可能になる。
【0014】
ここで、前記ウェーブレット変換ステップにおいて前記波形データと前記輝度時系列データを時系列ウェーブレット変換することによって時間と周波数にかかわる信号情報を同時に抽出することによって、周波数成分が時間的に変化する波形データや輝度時系列データにおいて適切に時間-周波数解析を行うことができる。
【0015】
また、前記キャビテーション画像抽出ステップにおいて、前記キャビテーション発生がある画像と、前記キャビテーション発生がない画像との差分を取ることで前記キャビテーション発生画像のみを抽出することによって、キャビテーションのみを抽出したうえでキャビテーションの特性を適切に評価することができる。
【0016】
また、前記高速度カメラの前記照明装置として、高輝度のメタルハライドランプ又はLED照明を使用することによって、評価対象物によって発生したキャビテーションを明瞭に撮影することができる。
【0017】
本発明の請求項5に係るキャビテーション発生の定量的評価プログラムは、キャビテーション発生画像を画像解析し、キャビテーション発生の定量的評価を行うプログラムであって、コンピュータに、処理制御部に上記の時系列画像形成ステップと、キャビテーション画像抽出ステップと、波形データ計測ステップと、輝度時系列データ生成ステップと、ウェーブレット変換ステップと、輝度変化エネルギー演算ステップと、キャビテーション形状演算ステップとを実行させることによって、流体内に配置された物体によるキャビテーションを定量的に評価することが可能になる。
【0018】
本発明の請求項6に係るキャビテーション発生の定量的評価装置は、キャビテーション発生画像を画像解析し、キャビテーション発生の定量的評価を行う装置であって、高速度カメラ、照明装置、及びコンピュータを備え、前記コンピュータに請求項5に記載のキャビテーション発生の定量的評価プログラムを実行させることによって、流体内に配置された物体によるキャビテーションを定量的に評価することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施の形態におけるキャビテーション発生の定量的評価装置の構成を示す図である。
図2】本発明の実施の形態におけるキャビテーションの定量的評価を行う際の構成を示す図である。
図3】本発明の実施の形態におけるキャビテーション発生の定量的評価装置の構成を示す図である。
図4】本発明の実施の形態におけるキャビテーション発生の定量的評価方法を示すフローチャートである。
図5】本発明の実施の形態におけるキャビテーション発生画像の例を示す図である。
図6】本発明の実施の形態におけるキャビテーションの画像を抽出する処理を示す図である。
図7】本発明の実施の形態における輝度時系列データを生成する処理を示す図である。
図8】本発明の実施の形態におけるキャビテーションの形状を演算する処理を示す図である。
図9】本発明の実施の形態におけるキャビテーション発生の定量的評価処理の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態におけるキャビテーション発生の定量的評価装置100は、図1に示すように、撮像部102、照明部104、センサ106及び処理制御部108を含んで構成される。
【0021】
図2は、キャビテーション発生の定量的評価装置100を用いて評価対象物200によって発生するキャビテーションを定量的に評価するための構成を示す。評価対象物200は、キャビテーションを発生する物体である。図2に示すように、評価対象物200は、流体202が流れる導管204内に配置される。本実施の形態では、評価対象物200はプロペラとする。ただし、評価対象物200は、プロペラに限定されるものでなく、水力発電水車やポンプ等の流体202内においてキャビテーションを発生する物体であればよい。流体202は、評価対象物200によってキャビテーションを発生する物質であればよく、例えば、水等の液体、空気等の気体とすることができる。流体202の流れは導管204に設けられたポンプ等で適宜制御できるようにすることが好適である。導管204には、透明な観察窓206が設けられている。定量的評価装置100は、観察窓206を透して、流体202中に配置された評価対象物200の画像を撮影し、当該画像に対して画像処理を適用して評価対象物200によって発生するキャビテーションを解析及び評価する。
【0022】
撮像部102は、評価対象物200によって発生するキャビテーションを撮影するカメラを含む。撮像部102のカメラは、特に限定されるものではないが、キャビテーションの変化を捉えることができるフレームレート及び明るさを実現できる高速度カメラとすることが好適である。撮像部102は、処理制御部108からの制御信号に応じて評価対象物200によって発生するキャビテーションを撮影する。撮像部102によって撮像された画像は、LAN等の通信網を介して処理制御部108へ送信される。なお、後述する度差ステレオ法を適用する場合、複数の異なる角度から評価対象物200を撮影できるように複数の撮像部102を使用してもよい。
【0023】
照明部104は、評価対象物200及び評価対象物200によって発生するキャビテーションを照らす照明装置を含む。照明部104は、撮像部102によって評価対象物200及びキャビテーションを明瞭に撮影できるような光量を照射できるものであればよい。照明部104は、例えば、高輝度のメタルハライドランプ又はLED照明とすることができる。照明部104は、必要に応じて複数設けてもよい。
【0024】
センサ106は、キャビテーションに伴って発生する現象を測定する。センサ106は、例えば、キャビテーションの発生に伴う流体202の変動圧(キャビテーション変動圧)を測定する圧力センサとすることができる。また、センサ106は、例えば、キャビテーションの発生に伴う流体202内の騒音(流体中騒音)を測定する音センサとすることができる。ただし、センサ106は、これらに限定されるものではなく、キャビテーションに伴って発生するその他の現象を測定できるものであればよい。センサ106によって測定されたデータは、LAN等の通信網を介して処理制御部108へ送信される。
【0025】
処理制御部108は、キャビテーション発生の定量的評価を行う。処理制御部108は、コンピュータ110によって実現される。
【0026】
コンピュータ110は、図3に示すように、処理部10、記憶部12、入力手段14、出力手段16及び通信手段18を含んで構成される。処理部10は、CPU等の演算処理を行う手段を含む。処理部10は、記憶部12に記憶されているキャビテーション発生の定量的評価プログラムを実行することによってキャビテーション発生の定量的評価処理を行う。記憶部12は、半導体メモリ、ハードディスク等の記憶手段を含む。記憶部12は、処理部10とアクセス可能に接続され、キャビテーション発生の定量的評価プログラム、キャビテーション発生の定量的評価処理に必要な各種の情報を記憶する。入力手段14は、コンピュータ110に情報を入力する手段を含む。入力手段14は、例えば、ユーザからの入力を受けるキーボード等を備える。出力手段16は、コンピュータ110から情報を出力する手段を含む。出力手段16は、例えば、ユーザインターフェース画面(UI)等のコンピュータ110での処理結果を出力する手段を含む。出力手段16は、例えば、ユーザに対して画像を呈示するディスプレイを備える。通信手段18は、LANやインターネット等の情報通信網を介して、撮像部102及びセンサ106や他の情報通信機器と情報をやり取りするためのインターフェースを含んで構成される。通信手段18による通信は有線及び無線を問わない。
【0027】
コンピュータ110は、キャビテーション発生の定量的評価プログラムを実行することによって後述するキャビテーション発生の定量的評価プログラム処理を行う。これによって、コンピュータ110は、画像取得部20、時系列画像形成部22、キャビテーション画像抽出部24、波形データ取得部26、輝度時系列データ生成部28、ウェーブレット変換部30、輝度変化エネルギー演算部32及びキャビテーション形状演算部34として機能する。
【0028】
以下、図4のフローチャートに沿って、キャビテーション発生の定量的評価装置100におけるキャビテーション発生の定量的評価方法について説明を行う。
【0029】
ステップS10では、キャビテーションが発生している状態を撮影したキャビテーション発生画像を取得する処理が行われる。当該ステップにおける処理は、高速度撮影ステップに該当し、当該処理によって処理制御部108は画像取得部20として機能する。撮像部102によって流体202が流れている状態に置かれた評価対象物200及び評価対象物200によって発生しているキャビテーションの様子がキャビテーション発生画像として撮影される。撮像部102によって撮影されたキャビテーション発生画像は処理制御部108へ送信され、処理制御部108はキャビテーション発生画像を取得する。
【0030】
図5は、評価対象物200であるプロペラ及び評価対象物200であるプロペラによって発生しているキャビテーションAを撮影したキャビテーション発生画像の例を示す。図5では、プロペラ翼の先端部分に発生したキャビテーションAが周辺よりも高い輝度値で撮影されている。
【0031】
ステップS12では、キャビテーションに伴って発生する現象を測定する処理が行われる。当該ステップにおける処理は、波形データ計測ステップに該当し、当該処理によって処理制御部108は波形データ取得部26として機能する。処理制御部108は、センサ106によって測定されたキャビテーションに伴う流体の変動圧、流体内の騒音、その他のデータを時系列の波形データとして取得する。波形データは、ステップS10におけるキャビテーション発生画像の撮影時刻と同期させて、キャビテーション発生画像の撮影時刻と波形データの測定時刻とを対応付けられるように取得することが好適である。
【0032】
ステップS14では、キャビテーション発生画像を時系列に並べた時系列画像を形成する処理が行われる。当該ステップにおける処理は、時系列画像形成ステップに該当し、当該処理によって処理制御部108は時系列画像形成部22として機能する。処理制御部108は、ステップS10において取得したキャビテーション発生画像を撮像された時刻に沿って時系列に並べて時系列画像とする。
【0033】
ステップS16では、時系列画像からキャビテーションの画像を抽出する処理が行われる。当該ステップにおける処理は、キャビテーション画像抽出ステップに該当し、当該処理によって処理制御部108はキャビテーション画像抽出部24として機能する。処理制御部108は、時系列画像に含まれる各時刻に撮像されたキャビテーション発生画像とキャビテーションが発生していないときの評価対象物200を撮影した背景画像との差分画像をキャビテーション画像として抽出する。
【0034】
図6は、キャビテーション画像抽出処理の例を示す。図6(a)は、キャビテーションが発生している状態の評価対象物200であるプロペラ翼を撮影したキャビテーション発生画像を示す。図6(b)は、キャビテーションが発生していない状態の評価対象物200であるプロペラ翼のみを撮影した背景画像を示す。図6(c)は、これら2つの画像の差分を演算したキャビテーション画像を示す。このように、背景画像との差分を求めることによって、キャビテーション発生画像からキャビテーションのみを抽出したキャビテーション画像を求めることができる。
【0035】
ステップS18では、キャビテーション画像に含まれる各画素の輝度変化の時系列データを求める処理が行われる。当該ステップにおける処理は、輝度時系列データ生成ステップに該当し、当該処理によって処理制御部108は輝度時系列データ生成部28として機能する。処理制御部108は、ステップS16において抽出されたキャビテーションのみを抽出したキャビテーション画像に含まれる各画素について輝度値(画素値)を時系列に並べて輝度時系列データを生成する。
【0036】
図7は、輝度時系列データの生成処理の例を示す。図7に示すように、各時刻について抽出されたキャビテーション画像に含まれる画素毎に輝度値の時間的な変化を輝度時系列データとして求める。
【0037】
ステップS20では、輝度時系列データ及び波形データに対してウェーブレット変換を施す処理が行われる。当該ステップにおける処理は、ウェーブレット変換ステップに該当し、当該処理によって処理制御部108はウェーブレット変換部30として機能する。ウェーブレット変換は、時間-周波数解析手法の1種であり、基底関数としてウェーブレット関数を用いるものである。ウェーブレット変換処理は、既存の処理を適用することができる。ウェーブレット変換を適用することによって、ステップS18で得られた画素毎の輝度時系列データ及びステップS12で得られた流体の変動圧、流体内の騒音、その他の波形データについて時間と周波数の両方の成分を局在化させることができる。
【0038】
ステップS22では、輝度時系列データに対するウェーブレット変換の結果から輝度変化エネルギーを算出する処理が行われる。当該ステップにおける処理は、輝度変化エネルギー演算ステップに該当し、当該処理によって処理制御部108は輝度変化エネルギー演算部32として機能する。処理制御部108は、ステップS20における輝度時系列データのウェーブレット変換の結果から輝度変化エネルギーを算出する。
【0039】
ステップS24では、輝度変化エネルギーからキャビテーションの形状を演算する処理が行われる。当該ステップにおける処理は、キャビテーション形状演算ステップに該当し、当該処理によって処理制御部108はキャビテーション形状演算部34として機能する。輝度変化エネルギーからキャビテーションの形状を演算する方法として、陰影からの形状復元法(SfS:Shape from Shading)法又は照度差ステレオ法が挙げられる。
【0040】
SfS法は、画像生成の光学的モデルを考え、画像の明るさ(輝度値による陰影)の情報から形状を復元するアルゴリズムである(日本航空宇宙学会論文集 Vol.52, No. 603, pp. 141-147, 2004等)。SfS法では、照明条件が単純であり、キャビテーションの表面の反射率特性が既知で一様である場合にキャビテーションの形状を復元することができる。SfS法によれば、キャビテーション画像の各画素の輝度値は、キャビテーションの厚みを表しており、局所的なキャビテーションの体積(以下、キャビティ体積という)と考えることができる。
【0041】
照度差ステレオ法は、視点(視線ベクトル)は固定で、異なる光源方向から順に光を照射しながら撮影した複数枚の画像を基に画像に写っているキャビテーションの輝度情報からキャビテーションの表面の傾き(法線ベクトル)を画素毎に推定する方法である。照度差ステレオ法によってキャビテーションの表面の法線ベクトルを得るためには3枚以上の画像が必要である。したがって、照度差ステレオ法を適用する場合、撮像部102を3台以上配置し、ステップS10において同時刻に異なる角度で評価対象物200及びキャビテーションを撮影したキャビテーション発生画像を取得することが好適である。そして、それぞれの撮像部102で撮影されたキャビテーション発生画像の時系列データについて上記処理を適用し、得られた輝度変化エネルギーからキャビテーションの形状を演算することができる。
【0042】
図8は、輝度変化エネルギーからキャビテーションの形状を演算した例を示す。キャビテーション形状を示す画像では、画素の輝度値がキャビテーションの表面の変動、すなわち画素毎(単位面積当たり)のキャビテーションの厚み(キャビティ体積)を示す。
【0043】
ステップS26では、キャビテーション発生の定量的評価装置100による定量的な評価の結果が出力される。処理制御部108は、上記のキャビテーション発生の定量的評価処理によって得られた結果を出力手段16によってユーザに提示する。図9は、キャビテーション発生の定量的評価処理によって得られた結果として、輝度変化エネルギー、変動圧力の時系列データ、キャビテーションの形状を提示した例を示す。
【0044】
なお、キャビテーションは周期的な現象であり、その変化が連続的であると仮定すると、キャビティ体積V(t)の時間tに対する変化はフーリエ変換を用いて数式(1)で表される。キャビティ体積V(t)の時間二階微分は、数式(2)で表される。変動圧Δp(t)はキャビティ体積V(t)の時間二階微分に比例する。この関係は数式(3)で表される。ので、数式(3)から変動圧とキャビティ体積V(t)の時間変化には相関関係があるといえる。
【数1】
【数2】
【数3】
【0045】
以上のように、本実施の形態におけるキャビテーション発生の定量的評価装置、キャビテーション発生の定量的評価プログラム及びキャビテーション発生の定量的評価方法によれば、変動圧や流体中騒音等の波形データとキャビテーションのエネルギー、形状等を直接的に比較できる。したがって、どのキャビテーションが変動圧や騒音の波形データに影響を及ぼしているかを容易に把握することができる。また、キャビテーションの発生の現象を周波数毎に比較することも可能となり、キャビテーションの現象の理解が容易になる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、流体中の物体によるキャビテーション発生の定量的評価に利用することができる。ただし、本発明の適用範囲は、プロペラによるキャビテーション発生の定量的評価に限定されるものではなく、流体中に配置された水力発電水車やポンプ等の他の種類の物体によるキャビテーション発生の定量的評価にも適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
10 処理部、12 記憶部、14 入力手段、16 出力手段、18 通信手段、20 画像取得部、22 時系列画像形成部、24 キャビテーション画像抽出部、26 波形データ取得部、28 輝度時系列データ生成部、30 ウェーブレット変換部、32 輝度変化エネルギー演算部、34 キャビテーション形状演算部、100 定量的評価装置、102 撮像部、104 照明部、106 センサ、108 処理制御部、110 コンピュータ、200 評価対象物、202 流体、204 導管、206 観察窓。
図1
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図9