(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142206
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】アンモニア態窒素の分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 31/00 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
G01N31/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054268
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】504049626
【氏名又は名称】ビーエルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 頼博
(72)【発明者】
【氏名】高橋 のどか
(72)【発明者】
【氏名】神野 良誠
(72)【発明者】
【氏名】奥西 将之
(72)【発明者】
【氏名】前田 広人
【テーマコード(参考)】
2G042
【Fターム(参考)】
2G042AA01
2G042BA05
2G042BB06
2G042CA02
2G042DA06
2G042DA08
2G042EA05
2G042EA08
2G042FA02
2G042FA06
2G042FA12
(57)【要約】
【課題】金属イオンを比較的多く含む試料においても、アンモニア態窒素を正確に分析するための分析方法を提供することを目的とする。
【解決手段】試料にキレート化剤を加えて金属イオンを捕捉する工程と、金属イオン捕捉後の試料のpHをアルカリ側にすることにより、試料中のアンモニウムイオンをガス状のアンモニアとする工程と、ガス状のアンモニアをガス透過膜により分離する工程と、分離したガス状のアンモニアを吸収液に吸収させてアンモニウムイオンに変換する工程と、吸収液に吸収させたアンモニウムイオンを、インドフェノール青法により定量する分析工程と、を含む、アンモニア態窒素の分析方法により課題を解決する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料にキレート化剤を加えて金属イオンを捕捉する工程と、
金属イオン捕捉後の試料のpHをアルカリ側にすることにより、試料中のアンモニウムイオンをガス状のアンモニアとする工程と、
ガス状のアンモニアをガス透過膜により分離する工程と、
分離したガス状のアンモニアを吸収液に吸収させてアンモニウムイオンに変換する工程と、
吸収液に吸収させたアンモニウムイオンを、インドフェノール青法により定量する分析工程と、を含む、アンモニア態窒素の分析方法。
【請求項2】
前記キレート化剤はエチレンジアミン四酢酸である、請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
前記ガス透過膜はポリテトラフルオロエチレンメンブレンフィルターである、請求項1に記載の分析方法。
【請求項4】
試料のpHをアルカリ側にすることにより、試料中のアンモニウムイオンをガス状のアンモニアとする前記工程において、水酸化ナトリウム及びほう酸を加えることにより、溶液の試料のpHをアルカリ側にする、請求項1に記載の分析方法。
【請求項5】
試料中のアンモニウムイオンを、サリチル酸インドフェノール青法により定量する、請求項1に記載の分析方法。
【請求項6】
流れ分析法である、請求項1に記載の分析方法。
【請求項7】
管路に導入される試料に対して気泡分節を行い、気泡によって区画された複数のセグメントを管路内に作製する、請求項6に記載の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアンモニア態窒素の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニアは人体にとって有害であり、排水基準に、アンモニア、アンモニウム化合物、亜硝酸化合物及び硝酸化合物(水環境中のアンモニア性窒素の硝化のメカニズムを考慮し、アンモニア性窒素については転換係数0.4を乗じることとした上で、硝酸性窒素、亜硝酸性窒素及びアンモニア性窒素の総和)として規制されている。アンモニア態窒素の分析方法として、インドフェノール青法が排水基準に係る検定方法に規定されている(例えば、非特許文献1)。
【0003】
インドフェノール青法では、試料中に含まれる金属イオンが白沈して吸光度検出時に測定の妨害となることから、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート化剤溶液を試料に加えて、金属イオンを捕捉することが行われる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、金属イオンを比較的多く含む試料では、キレート化剤溶液を試料に加えて金属イオンを捕捉した後に、インドフェノール青法によりアンモニア態窒素を分析しても、正確な分析ができない場合があるという問題がある。
【0007】
本発明は、金属イオンを比較的多く含む試料においても、アンモニア態窒素を正確に分析するための分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一実施形態は、以下の構成を含むものである。
【0009】
[1]試料にキレート化剤を加えて金属イオンを捕捉する工程と、金属イオン捕捉後の試料のpHをアルカリ側にすることにより、試料中のアンモニウムイオンをガス状のアンモニアとする工程と、ガス状のアンモニアをガス透過膜により分離する工程と、分離したガス状のアンモニアを吸収液に吸収させてアンモニウムイオンに変換する工程と、吸収液に吸収させたアンモニウムイオンを、インドフェノール青法により定量する分析工程と、を含む、アンモニア態窒素の分析方法。
【0010】
[2]前記キレート化剤はエチレンジアミン四酢酸である、[1]に記載の分析方法。
【0011】
[3]前記ガス透過膜はポリテトラフルオロエチレンメンブレンフィルターである、[1]又は[2]に記載の分析方法。
【0012】
[4]試料のpHをアルカリ側にすることにより、試料中のアンモニウムイオンをガス状のアンモニアとする前記工程において、水酸化ナトリウム及びほう酸を加えることにより、溶液の試料のpHをアルカリ側にする、[1]~[3]のいずれかに記載の分析方法。
【0013】
[5]試料中のアンモニウムイオンを、サリチル酸インドフェノール青法により定量する、[1]~[4]のいずれかに記載の分析方法。
【0014】
[6]流れ分析法である、[1]~[5]のいずれかに記載の分析方法。
【0015】
[7]管路に導入される試料に対して気泡分節を行い、気泡によって区画された複数のセグメントを管路内に作製する、[6]に記載の分析方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、金属イオンを比較的多く含む試料においても、アンモニア態窒素を正確に分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る分析方法に使用される装置の一例の概略構成を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る分析方法に使用される装置の一例の概略構成を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る分析方法における、ガス透過工程を模式的に示す図である。
【
図4】実施例において使用した装置を示す図である。
【
図5】実施例において、1mg/Lのアンモニア態窒素の測定を行った結果を示す図である。
【
図6】比較例において、1mg/Lのアンモニア態窒素の測定を行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、金属イオンを比較的多く含む試料では、キレート化剤溶液を試料に加えて金属イオンを捕捉した後に、インドフェノール青法でアンモニア態窒素を分析しても、正確な分析ができない場合があることに気付いた。そして、当該現象を解明すべく検討を行う中で、本発明者らは、試料にアンモニア態窒素が同量含まれる場合において、試料に含まれる金属イオンの量が異なると、定量されたアンモニア態窒素の量が変動することに着目した。当該知見に基づいて、検討を行ったところ、本発明者らは、キレート化剤がインドフェノール青法による発色強度を弱めることに気付いた。試料に金属イオンが含まれる場合は、添加したキレート化剤が錯体形成のため消費される。そして、試料に含まれる金属イオンの量に依存して、試料中に含まれる錯体形成に消費されていないキレート化剤の濃度、即ち、発色強度を弱めるキレート化剤の濃度に差異が生じる。その結果、インドフェノール青の発色強度が変動するため、正確な分析ができなくなっていると考えられた。そこで、キレート化剤溶液を試料に加えて金属イオンを捕捉した後に、この金属を捕捉したキレート化剤を含む懸濁物質、及び錯体形成に消費されていないキレート化剤を含む試料のpHをアルカリ側にすることにより、試料中のアンモニウムイオンをガス状のアンモニアにし、ガス透過膜によりアンモニアのみを分離し、分離したアンモニアを吸収液に吸収させてアンモニウムイオン(NH4
+)に変換し、アンモニウムイオンとなったアンモニア態窒素を、インドフェノール青法により定量したところ、試料に含まれる金属イオンの量が異なる場合も、正確な定量を行うことができることを見出し、発明を完成させるに至った。
【0019】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0020】
〔1.分析方法〕
本発明の一実施形態に係るアンモニア態窒素の分析方法は、試料にキレート化剤を加えて金属イオンを捕捉する工程と、金属イオン捕捉後の試料のpHをアルカリ側にすることにより、試料中のアンモニウムイオンをガス状のアンモニアとする工程と、ガス状のアンモニアをガス透過膜により分離する工程と、分離したガス状のアンモニアを吸収液に吸収させてアンモニウムイオンに変換する工程と、吸収液に吸収させたアンモニウムイオンを、インドフェノール青法により定量する分析工程と、を含む。
【0021】
なお、ここで、アンモニア態窒素とは、水性液体中で、アンモニウムイオン(NH4
+)として存在する窒素分を意味する。
【0022】
(金属イオン捕捉工程)
本工程では、試料にキレート化剤を加えて、試料中の金属イオンを捕捉する。前記キレート化剤としては、特に限定されないが、エチレンジアミン四酢酸(以下、「EDTA」と称することがある。)、クエン酸、トランス-1,2-シクロヘキサンジアミン四酢酸-水和物(以下、「CyDTA」と称することがある。)、シアン化合物等を挙げることができる。インドフェノール青法では、金属イオンが白沈して吸光度検出時に測定の妨害となることから、キレート化剤を加えて金属イオンを捕捉することにより、金属イオンによる測定の妨害を防ぐことができる。
【0023】
分析対象である試料は、通常アンモニア態窒素を含む水性の液体であればよいが、アンモニア態窒素の量が0であることを確認するという観点からは、アンモニア態窒素を含まない試料を排除するものではない。また、本発明に係る分析方法は、金属イオンを含む試料においても、アンモニア態窒素を正確に分析することができることから、金属イオンを含む試料に有効である。かかる試料としては、例えば、沼湖水、海水、工業用水、工場排水、鉱山排水、河川水、地下水、温泉水、水道水、原水、処理水、下水道水、浄化槽水等でありうる。
【0024】
(ガス化工程)
本工程では、金属イオン捕捉後の試料のpHをアルカリ側にすることにより、試料中のアンモニウムイオンをガス状のアンモニアとする。
【0025】
金属イオン捕捉後の試料のpHをアルカリ側にする方法としては、特に限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム等のアルカリを添加する方法を挙げることができる。アルカリを添加することにより、試料中のアンモニウムイオンを、ガス化してガス状のアンモニアとすることができる。また、前記アルカリにホウ酸、酢酸、リン酸、クエン酸、酒石酸、トリスヒドロキシメチルアミノメタン等を加えた緩衝液を添加してもよい。緩衝液を添加することにより、試料のpHによる測定への影響を低減することができる。
【0026】
中でも、本工程においては、試料に水酸化ナトリウム及びほう酸を加えることにより、溶液の試料のpHをアルカリ側にすることがより好ましい。
【0027】
(ガス透過工程)
本工程では、前記ガス化工程でガス化されたアンモニアをガス透過膜により分離する。
【0028】
図3は、本工程を模式的に示す図である。
図3に示すように、ガス透過部3において、ガス状のアンモニアを含む試料が、ガス透過膜11に接触すると、試料中のガス状のアンモニアのみが、ガス透過膜11を透過し、試料の残りの部分は廃液として排出される。
【0029】
ガス透過部3により、ガス状となったアンモニアを選択的に透過させて分離することにより、インドフェノール青法による発色強度を弱めるキレート化剤を除去して、試料中のアンモニア態窒素の量を正確に分析することができる。
【0030】
前記ガス透過膜は、ガスを選択的に分離することができる膜であれば特に限定されず、疎水性であっても親水性であってもよいが、ガス透過効率の観点から、疎水性であることがより好ましい。また、前記ガス透過膜の材質も特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」と称することがある。)、セルロース、ガラス繊維等を挙げることができる。
【0031】
加えて、ガス透過部3を備えることにより、サリチル酸を用いたインドフェノール青吸光光度法によるアンモニア態窒素の定量において、測定チャートのベースラインを安定化させることができる。サリチル酸を用いたインドフェノール青法は、フェノールを用いたインドフェノール青法と比べて、フェノールの環境中への排出がない点で好ましい。しかし、サリチル酸を用いたインドフェノール青吸光光度法による分析は、ベースラインが安定しない傾向にある。特に、微量のアンモニア態窒素を含む試料では、ベースラインが安定していることが求められる。ガス透過部3を備える装置を用いて、サリチル酸を用いたインドフェノール青吸光光度法による分析を行うことにより、ベースラインを安定させることができ、それゆえ、微量の窒素を含む試料についても、より正確な測定を行うことができる。
【0032】
(吸収工程)
本工程では、分離したガス状のアンモニアを吸収液に吸収させてアンモニウムイオンに変換する。
【0033】
ガス透過膜11を透過した、ガス状のアンモニアは、吸収液に吸収されて再びアンモニウムイオンとなる。当該吸収液に吸収させたアンモニウムイオンを含む液は、分析に供される。なお、
図3中では、ガス状のアンモニアがガス透過膜11を透過することを示すために、ガス透過膜11を透過した後もNH
3と記載しているが、その後吸収液に吸収されてアンモニウムイオンとなる。前記吸収液は、ガス状のアンモニアを吸収してアンモニウムイオンに変換することができれば特に限定されないが、例えば、硫酸、塩酸、酢酸、リン酸等の酸を使用することができる。また、硫酸等の酸とともに、アンモニウムイオンの検出に使用される試薬を含めてもよい。かかる試薬としては、例えば、インドフェノール青法に使用されるニトロプルシッドNa等の試薬を挙げることができる。前記インドフェノール青法に使用される試薬は、前記吸収液に含めずに、吸収工程の後、分析工程の前に添加してもよいし、当該試薬の一部を前記吸収液に含ませるとともに、残りの試薬を吸収工程の後、分析工程の前に添加してもよい。
【0034】
(分析工程)
本工程では、吸収液に吸収させたアンモニウムイオンを、インドフェノール青法により定量する。
【0035】
前記吸収工程の後、分析工程の前に、インドフェノール青法に使用される試薬を添加してもよい。かかる試薬としては、サリチル酸を用いるインドフェノール青法では、例えば、サリチル酸と次亜塩素酸又はその塩(例えば次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸カリウム等)とを添加することができる。この場合、サリチル酸と、次亜塩素酸又はその塩とは、同時に添加されても別々に添加されてもよいが、別々に添加されることがより好ましい。サリチル酸と、次亜塩素酸又はその塩等とを添加する順序は、どちらが先に添加されてもよいが、サリチル酸を添加した後、次亜塩素酸又はその塩を添加することがより好ましい。また、サリチル酸と、次亜塩素酸又はその塩等とは、複数回に分けて添加してもよい。フェノールを用いるインドフェノール青法では、サリチル酸がフェノールと置き換わる以外はサリチル酸を用いるインドフェノール青法と同様である。試薬として、例えば、フェノールと次亜塩素酸又はその塩とを添加する。この場合、フェノールと、次亜塩素酸又はその塩とを、添加する方法、順序等もサリチル酸を用いるインドフェノール青法の場合と同様である。
【0036】
本発明の一実施形態に係る分析方法は、中でも、環境中への負荷が少ないとの観点から、試料中のアンモニウムイオンを、サリチル酸インドフェノール青法により定量する分析方法であることがより好ましい。
【0037】
分析工程においては、インドフェノール青法を採用する場合、検出には、例えば吸光光度計を用いる。前記吸光光度計としては、フローセル式の吸光光度計がより好ましい。
【0038】
〔2.流れ分析法による分析方法〕
本発明の一実施形態に係る分析方法では、流れ分析法を好適に用いることができる。流れ分析法は、管路内に複数の試料を順次連続的に導入して送液し、管路中で試薬との反応等の処理を行った後、分析装置にて分析を行う技術である。以下、本発明の一実施形態に係る、流れ分析法による分析方法について図面を参照して説明する。
【0039】
[2.1]連続流れ分析法
図1は、本発明の一実施形態に係る、流れ分析法による分析方法に使用される装置の一例の概略構成を示す。
【0040】
本分析方法は、試料を管路9に導入する試料導入工程と、前記管路9に導入された試料に対して気泡分節を行い、気泡によって区画された複数のセグメントを前記管路9内に作製する気泡分節工程と、前記管路9内を移送される試料の流れの中にキレート剤を添加して試料中の金属イオンを捕捉する金属イオン捕捉工程と、前記管路9内を移送される金属イオン捕捉後の試料のpHをアルカリ側にすることにより、試料中のアンモニウムイオンをガス状のアンモニアとするガス化工程と、前記ガス化工程でガス化されたアンモニアをガス透過膜により分離するガス透過工程と、分離したガス状のアンモニアを、管路9’内を移送される吸収液に吸収させてアンモニウムイオンに変換する吸収工程と、管路9’内を移送される吸収液に吸収させたアンモニウムイオンを含む液の流れの中に、インドフェノール青法に使用される試薬を添加する分析用試薬添加工程と、吸収液に吸収させたアンモニウムイオンを、インドフェノール青法により定量する分析工程とを含む。
【0041】
(試料導入工程)
試料導入工程では、試料導入部7により、試料を管路9に導入する。試料導入部7は、例えば、試料を管路9に導く採取管と、前記採取管に吸引力を付与するサンプリング用ポンプとを備えている。前記サンプリング用ポンプにより、試料が管路9内に所定の流量で導入される。前記試料は分析対象となる液体である。
【0042】
(気泡分節工程)
気泡分節工程では、気泡分節部8により、前記管路9に導入された試料に対して気泡分節を行い、気泡によって区画された複数のセグメントを前記管路9内に作製する。気泡分節部8は、例えば、気体を管路9に導く気体導入管と、前記気体導入管に吸引力を付与する気体導入用ポンプとを備えている。気泡分節を行うことにより、気泡で分断された分節液内での渦流により、キレート化剤、アルカリ、分析用試薬等の試薬の混合を好適に行うことができる。また、分節液は、気泡で分断され独立して管路9内を流れるため、試料間相互の拡散を防ぐことができる。このように、管路に順次連続的に導入された複数の試料が気泡によって分節された、管路内の連続的な流れの中に、試薬を導入し、反応操作を行った後、下流に設けた検出器で分析を行う方法は、連続流れ分析法(CFA)と呼ばれる。気泡分節の気体としては、アルゴン及びヘリウム等の不活性ガス;窒素;酸素;及び空気等の様々な気体を用いることができる。これらの気体は、単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いることもできる。
【0043】
(金属イオン捕捉工程)
金属イオン捕捉工程では、キレート化剤導入部1により、前記管路9内を移送される試料の流れの中にキレート化剤を添加する。キレート化剤導入部1は、キレート化剤を管路9に導くキレート化剤導入管と、前記キレート化剤導入管に吸引力を付与するキレート化剤導入用ポンプとを備えている。前記キレート剤を添加することにより、試料中の金属イオンを捕捉することができる。
図1の例では、気泡分節部8の下流で、且つ、アルカリ導入部2の上流に、キレート化剤導入部1が備えられているが、当該キレート化剤導入部1は、試料導入部7の下流で、且つ、気泡分節部8の上流に備えられていてもよい。言い換えれば、金属イオン捕捉工程の後に、気泡分節工程を実施してもよい。
【0044】
(ガス化工程)
ガス化工程では、金属イオン捕捉工程を経て前記管路9内を移送される試料のpHをアルカリ側にするために、アルカリ導入部2により、試料の流れの中にアルカリを添加する。アルカリ導入部2は、キレート化剤導入部1の下流で、且つ、ガス透過部3の上流に備えられている。アルカリ導入部2は、アルカリを管路9に導く試薬導入管と、前記試薬導入管に吸引力を付与するアルカリ導入用ポンプとを備えている。キレート化剤導入部1の下流で、且つ、ガス透過部3の上流にて、アルカリを添加することにより、試料中のアンモニウムイオンを、ガス化してガス状のアンモニアとすることができる。また、前記水酸化ナトリウム等のアルカリにホウ酸等を加えた緩衝液を添加してもよい。
【0045】
(ガス透過工程)
ガス化工程を経て前記管路9内を移送されるガス状のアンモニアを含む試料は、ガス透過部3に移送される。ガス透過部3は、
図1及び
図3に示すように、ガス透過膜11を備えており、ガス状のアンモニアを含む試料は、ガス透過膜11と接触しつつ移送されるようになっている。ガス状のアンモニアを含む試料が、ガス透過膜11と接触すると、試料中のガス状のアンモニアのみが、ガス透過膜11を透過し、試料の残りの部分は、引き続き管路9内を移送されて、廃液として排出される。
【0046】
(吸収工程)
ガス透過部3には、管路9を通って、ガス状のアンモニアを含む試料が移送されるとともに、別の管路である管路9’を通って、ガス透過膜11を透過したガス状のアンモニアを吸収する吸収液が移送される。ガス透過部3のガス透過膜11は、一方の面が、管路9内を移送されるガス状のアンモニアを含む試料と接触し、他方の面が、管路9’内を移送される吸収液と接触するようになっている。吸収工程では、ガス透過膜11を透過したガス状のアンモニアは、吸収液により吸収されて、アンモニウムイオンに変換される。
【0047】
また、吸収液は、吸収液導入部4により、管路9’に導入される。吸収液導入部4は、例えば、吸収液を管路9’に導く採取管と、前記採取管に吸引力を付与するサンプリング用ポンプとを備えている。
【0048】
ガス透過部3は、例えば、それぞれ、流路(管路9、9’)として溝が形成された2つの器具を、それぞれの溝同士が対向するように、例えば上下に、重ね合わせ、その間にガス透過膜11を挟む構造とすることができる。かかる構造では、2つの器具の溝の位置が合っているため、ガス透過膜11を挟んで、一方の溝(管路9)を試料、他方の溝(管路9’)を吸収液が流れるようになっている。
【0049】
前記吸収液は気泡で分節されて供給されてもよい。あるいは、吸収工程後のアンモニウムイオンを含む液が気泡で分節されてもよい。当該気泡分節に使用される気体としては、(気泡分節工程)の説明で説明したとおりである。
【0050】
(分析用試薬導入工程)
分析用試薬導入工程では、吸収工程を経た、管路9’内を移送されるアンモニウムイオンを含む液の流れの中に、分析用試薬導入部6により、前述した、インドフェノール青法によるアンモニア態窒素の分析に使用される試薬を添加する。
【0051】
図1の例では、分析用試薬導入部6は、ガス透過部3の下流で、分析部5の上流に備えられているが、分析用試薬導入部6は、吸収液導入部4の下流で、ガス透過部3の上流に備えられていてもよい。或いは、その両方に備えられていてもよい。或いは、分析用試薬の少なくとも一部は、吸収液に混合された状態で、吸収液導入部4により、管路9’に導入されてもよい。
【0052】
分析用試薬導入部6は、分析用試薬を管路9に導く試薬導入管と、前記試薬導入管に吸引力を付与する試薬導入用ポンプとを備えている。例えば、サリチル酸を用いるインドフェノール青法では、サリチル酸と、次亜塩素酸又はその塩とは、1つの分析用試薬導入部6から添加されてもよいが、ガス透過部3の下流で、且つ、分析部5の上流に2つの分析用試薬導入部が備えられ、これらの2つの分析用試薬導入部6から別々に添加されることがより好ましい。この場合、サリチル酸と、次亜塩素酸又はその塩を添加する順序は、どちらが先に添加されてもよいが、上流側の分析用試薬導入部によりサリチル酸を添加した後、下流側の分析用試薬導入部により次亜塩素酸又はその塩を添加することがより好ましい。
【0053】
(分析工程)
分析工程では、分析部5により、管路9’内を移送される液中のアンモニウムイオンを定量する。本発明の一実施形態においては、分析方法としてインドフェノール青法を採用するため、分析部5は、例えば吸光光度計である。前記吸光光度計としては、フローセル式の吸光光度計がより好ましい。
【0054】
(その他の態様)
図1の例では、流れ分析装置は、試薬導入部として、キレート化剤導入部1、アルカリ導入部2、及び分析用試薬導入部6の3種類の試薬導入部を備えているが、必要に応じてさらなる試薬導入部が備えられていてもよい。かかる試薬導入部にて導入される試薬としては、これに限定されるものではないが、例えば、硝酸、塩酸、硫酸、過塩素酸、リン酸、過酸化水素、及びふっ酸等の酸;過酸化ナトリウム、炭酸カルシウム、及び炭酸ナトリウム等のアルカリ等を挙げることができる。これらの試薬を添加することにより、試料のpHを調節することができる。
【0055】
図1の例では備えられていないが、本実施形態に係る分析方法に使用される装置は、さらに、キレート化剤導入部1、アルカリ導入部2、及び分析用試薬導入部6等の試薬導入部にて添加された試薬と管路内を流れる試料又は液とを混合するための混合コイルが備えられていてもよい。混合コイルはコイル状に形成された管路であり、試料又は液が混合コイルを通過するときに、試薬又は液と管路内を流れる試料とが混合される。前記混合コイルが備えられる位置は、キレート化剤導入部1、アルカリ導入部2、及び/又は分析用試薬導入部6等の試薬導入部の後でありうる。
【0056】
図1の例では備えられていないが、本実施形態に係る分析方法に使用される装置は、前記管路を移送される試料に、加熱処理を行う加熱槽を備えていてもよい。前記加熱槽は、ヒーターを備えた恒温槽でありうる。しかし、前記加熱槽の構成はこれに限定されるものではなく、超音波分解装置、マイクロウェーブ、及びオートクレーブ分解装置等であってもよい。また、前記加熱槽内で、前記管路はコイル又は螺旋を形成している。本発明の一実施形態では、前記加熱槽は、分析用試薬導入部6の下流または分析用試薬導入部6の下流に備えられた前記混合コイルの下流に備えられる。分析用試薬が添加されたアンモニウムイオンを含む液を、加熱することにより、試薬との反応を促進させることができる。
【0057】
また、
図1の例では備えられていないが、本実施形態に係る分析方法に使用される装置は、キレート化剤導入部1とガス透過部3との間にデバブル部を備えていてもよい。これにより、管路内に微細な泡が発生する場合に、そのような泡がガス透過部3に流入することを防ぎ、分析部にて得られるピーク形状の乱れを低減することができる。前記デバブル部は、ガス透過部3の直前もしくはそれに近い工程にて備えられていることが好ましい。言い換えれば、本実施形態に係る分析方法は、金属イオン捕捉工程とガス透過工程との間、より好ましくは、金属イオン捕捉工程とガス化工程との間に、デバブル工程を含んでいることが好ましい。また、前記デバブル部の下流側に新たに気体を管路に導く気泡分節部が備えられていてもよい。
【0058】
また、本実施形態に係る分析方法に使用される装置では、試料導入部7として、オートサンプラーを使用することができる。また、サンプリングの前に、超音波ホモジナイザー又は攪拌器を備えて、試料の粉砕、及び/又は攪拌を行ってもよい。
【0059】
或いは、本実施形態に係る分析方法に使用される装置は、管路9の途中に、さらに希釈装置を備えていてもよい。これにより、サンプルの濃度に応じて希釈を行う必要がある場合に、流れ分析装置中で、自動的に所望の希釈を行うことができる。かかる希釈装置としては、市販の自動希釈装置を好適に用いることができる。
【0060】
さらに、本実施形態に係る分析方法に使用される装置は、固体等の液体以外の試料を前処理して液体試料を調製する装置を、試料導入部7に組み込んだ装置、又は、試料導入部7の上流に組み込んだ装置であってもよい。流れ分析装置は、液体の試料を流れ分析法を用いて分析する装置であり、固体等の液体以外の試料はそのまま測定することばできない。そのため、固体等の液体以外の試料を前処理して液体試料を調製する装置を組み込むことにより、固体等の液体以外の試料の前処理から分析に至るまでを一貫して行うことができる。
【0061】
[2.2]フローインジェクション分析法
図2は、本発明の他の一実施形態に係る、流れ分析法に使用される装置の一例の概略構成を示す。なお、説明の便宜上、「[2.1]連続流れ分析法」にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0062】
本実施形態に係る分析方法に使用される装置は、気泡で分節されていない試料の管路内の流れの中に、試薬を導入し、反応操作を行った後、下流に設けた検出器で分析を行う、フローインジェクション分析法(FIA)を使用する方法である。
【0063】
本分析方法は、キャリアーを管路9に導入するキャリアー導入工程と、試料を管路9に導入する試料導入工程と、前記管路9内を移送される試料の流れの中にキレート剤を添加して試料中の金属イオンを捕捉する金属イオン捕捉工程と、前記管路9内を移送される金属イオン捕捉後の試料のpHをアルカリ側にすることにより、試料中のアンモニウムイオンをガス状のアンモニアとするガス化工程と、前記ガス化工程でガス化されたアンモニアをガス透過膜により分離するガス透過工程と、分離したガス状のアンモニアを、管路9内を移送される吸収液に吸収させてアンモニウムに変換する吸収工程と、管路9’内を移送される吸収液に吸収させたアンモニウムイオンを含む流れの中に、インドフェノール青吸光光度法に使用される試薬を添加する分析用試薬添加工程と、管路9’内を移送されるアンモニウムイオンを、インドフェノール青法により定量する分析工程とを含む。
【0064】
本実施形態に係る分析方法は、試料を管路9に導入する試料導入工程の前に、キャリアーを管路9に導入するキャリアー導入工程を実施し、気泡分節工程を含まない以外は前述の連続流れ分析法と同じ構成である。
【0065】
本実施形態に係る流れ分析方法は、フローインジェクション分析法(FIA)による分析方法であり、キャリアー導入部10により、キャリアーを管路9に導入し、キャリアーが流れる管路9内の流れの中に、試料導入部7により、試料を導入する。
【0066】
前記キャリアーは、試料の分析に好ましくない影響を及ぼさない液体であれば特に限定されるものではなく、例えば、水、界面活性剤、酸性溶液、及びアルカリ性溶液等を挙げることができる。
【0067】
本実施形態に係る分析方法のその他の構成については、「[2.1]連続流れ分析法」において説明したとおりであるので、説明を省略する。
【実施例0068】
以下に示す実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定解釈されるものではなく、各実施例に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施例も、本発明の範囲に含まれることとする。
【0069】
[試薬]
実施例において使用した試薬の調製方法を以下に示す。
【0070】
(1)EDTA試薬
約600mlの純水にエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA-2Na)7.5gを加えて溶解させ、80g/L水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを10とした。得られた溶液に純水を加えて1000mLとした。
【0071】
(2)アルカリ試薬
約800mLの純水に、ホウ酸30gと水酸化ナトリウム30gとを溶解させ、得られた溶液に純水を加えて1000mLとした。
【0072】
(3)硫酸試薬
約800mlの純水に濃硫酸4mLを溶解させ、得られた溶液に純水を加えて1000mLとした。得られた溶液に、50%TritonX-100を2mL添加し、穏やかに攪拌した。
【0073】
(4)サリチル酸試薬
約400mLの純水にヘキサメタリン酸ナトリウム0.5g、及びリン酸三ナトリウム十二水和物3.0gを溶解させた後、さらに、サリチル酸ナトリウム50g、及びペンタシアノニトロシル鉄(III)酸ナトリウム0.25gを溶解させた。得られた溶液に純水を加えて500mLとした。その後、得られた溶液に、水酸化ナトリウム36g、及びホウ酸36gを溶解させた。
【0074】
(5)次亜塩素酸試薬
約400mLの純水に次亜塩素酸ナトリウム(有効塩素約10%の市販品)5mL、及び水酸化ナトリウム5gを溶解させた。得られた溶液に純水を加えて500mLとした。
【0075】
[実施例1]
[装置]
図4に示す連続流れ分析装置(CFA)を使用した。当該流れ分析装置は、試料を管路9に導入する試料導入部と、前記管路9に導入される試料に対して空気による気泡分節を行う気泡分節部と、前記管路9内を移送される試料の流れの中にEDTA試薬を添加するキレート化剤導入部と、空気の気泡により分節された各セグメント内で、試料と添加されたEDTA試薬とを混合する混合コイル12と、前記管路9内を移送される試料中の気泡を除去するデバブル部と、前記管路9内を移送される気泡が除去された試料に対して、新たに空気による気泡分節を行う気泡分節部と、前記管路9内を移送される試料の流れの中にアルカリ試薬を添加するアルカリ導入部と、空気の気泡により分節された各セグメント内で、試料と前記アルカリ試薬を混合する混合コイル12と、前記アルカリ試薬の添加により発生したガス状のアンモニアを透過させ、透過したガス状のアンモニアを、管路9’を移送される吸収液である硫酸試薬に吸収させるガス透過部3と、ガス状のアンモニアを吸収した液に対して空気による気泡分節を行う気泡分節部と、前記管路9’を移送される液の流れの中にサリチル酸試薬を導入する第1の分析用試薬導入部と、空気の気泡により分節された各セグメント内で、前記液と添加されたサリチル酸試薬とを混合する混合コイル12と、前記管路9’を移送される液にさらに次亜塩素酸試薬を導入する第2の分析用試薬導入部と、空気の気泡により分節された各セグメント内で、前記液と添加された次亜塩素酸試薬とを混合する混合コイル12と、液中のアンモニウムイオンとサリチル酸と次亜塩素酸を反応させる加熱槽13と、液中のアンモニウムイオンを分析する分析部14と、を含む装置であった。分析部には、フローセル式の吸光光度計(ビーエルテック株式会社製、SCIC3000)を使用した。フローセル14のセル長は50mmであり、波長660nmにて測定を行った。ガス透過部3には、ガス透過膜として、PTFEメンブレンフィルターが備えられている。
【0076】
前記加熱槽13は、混合コイルが加熱槽内に配置されており、加熱槽13内の温度を45℃とした。
【0077】
[1mg/Lのアンモニア態窒素の測定]
上記装置を用いて、1mg/Lのアンモニア態窒素を含む試料について、当該試料が、金属イオンを含有する条件、及び金属イオンを含有しない条件の下で、アンモニア態窒素の測定を行った。
【0078】
金属イオンを含有する条件下での測定では、1mg/Lのアンモニア態窒素に加えて、亜鉛イオン及び銅イオンを合計で60mg/Lを含む試料を用いた。
【0079】
結果を
図5に示す。
図5中、(a)は、1mg/Lのアンモニア態窒素と、亜鉛イオン及び銅イオンとを含有する試料の測定結果であり、(b)は、1mg/Lのアンモニア態窒素を含有し、金属イオンを含有しない試料の測定結果である。(a)の測定結果における吸光光度のピーク高さは85.78%、(b)の測定結果における吸光光度のピーク高さは84.11%であり、金属イオンの有無によらず同程度のピーク高さとなっている。即ち、本発明の一実施形態に係る分析方法によれば、金属イオンの有無、及びキレート化剤の消費度合いに関わらず、正確な定量を行うことができるといえる。
【0080】
また、本実施例では、亜鉛及び銅イオンの存在/非存在下にて比較を行ったが、EDTAのようなキレート化剤はその他様々な金属の捕捉に用いられるため、亜鉛及び銅以外の金属イオンが存在する場合にも同様に、正確な定量を行うことができると考えられる。
【0081】
[比較例1]
[装置]
アルカリ導入部と、空気の気泡により分節された各セグメント内で、試料と前記アルカリ試薬を混合する混合コイル12と、前記アルカリ試薬の添加により発生したガス状のアンモニアを透過させ、透過したガス状のアンモニアを、吸収液に吸収させるガス透過部3とが備えられていないこと以外は、実施例1と同じ装置を使用した。即ち、実施例1と同じフローでEDTA試薬と混合された試料に、実施例1と同じフローで分析用試薬を添加し、混合・加熱を行って、試料中のアンモニウムイオンを分析した。
【0082】
[1mg/Lのアンモニア態窒素の測定]
上記装置を用いて、1mg/Lのアンモニア態窒素を含む試料について、実施例1と同じ条件で、金属イオンを含有する条件、及び金属イオンを含有しない条件の下で、アンモニア態窒素の測定を行った。
【0083】
結果を
図6に示す。
図6中、(a)は、1mg/Lのアンモニア態窒素と、亜鉛イオン及び銅イオンとを含有する試料の測定結果であり、(b)は、1mg/Lのアンモニア態窒素を含有し、金属イオンを含有しない試料の測定結果である。(a)の測定結果における吸光光度のピーク高さは85.28%、(b)の測定結果における吸光光度のピーク高さは55.79%であり、金属イオン存在下では、キレート化剤が金属を捕捉するために消費され、発色に寄与しないため、金属イオンを含有しない条件下よりも見かけ上のピークが高くなっていることがわかる。
本発明は、金属イオンを比較的多く含む試料においても、アンモニア態窒素を正確に分析することができる。従来法である、JIS K 0102の分析方法では、阻害物質を含む試料は蒸留操作が必要となり、過大な熱エネルギーの損失、分析方法の煩雑さ、開放系で分析を行うことによる精度の悪さが問題であった。それゆえ、本発明は、アンモニア態窒素の分析を行う全ての技術分野において産業上の利用価値が極めて高い。