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特開2024-142230積層体、その製造方法およびメタルガスケット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142230
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】積層体、その製造方法およびメタルガスケット
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/06 20060101AFI20241003BHJP
   B32B 25/02 20060101ALI20241003BHJP
   F16J 15/00 20060101ALI20241003BHJP
   F16J 15/12 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B32B15/06 Z
B32B25/02
F16J15/00 B
F16J15/12 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054308
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】塩本 陽平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和宏
【テーマコード(参考)】
3J040
4F100
【Fターム(参考)】
3J040BA04
3J040EA15
3J040EA17
3J040EA43
3J040EA48
3J040FA06
3J040HA01
4F100AB01B
4F100AB03
4F100AB15
4F100AB18
4F100AB20
4F100AJ04
4F100AJ04A
4F100AK25
4F100AK25A
4F100AK27A
4F100AK28A
4F100AK73A
4F100AN00A
4F100AN02
4F100BA02
4F100BA07
4F100DG01
4F100DG01A
4F100EH46
4F100EH71
4F100EJ42
4F100GB32
4F100JK11
4F100JM01
4F100JM01A
4F100YY00A
(57)【要約】
【課題】応力緩和率が改善された積層体を実現する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る積層体は、金属板と、当該金属板の表面に積層されたゴム層とを備え、上記ゴム層は、ゴムおよびセルロースナノファイバーを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板と、当該金属板の表面に積層されたゴム層とを備え、
上記ゴム層は、ゴムおよびセルロースナノファイバーを含んでいる、積層体。
【請求項2】
上記ゴム層において、上記セルロースナノファイバーの含有率は、上記ゴム100重量部に対して5~50重量部である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
上記ゴムが、水性溶媒に分散可能なゴムである、請求項1に記載の積層体。
【請求項4】
上記水性溶媒に分散可能なゴムが、アクリルゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴムおよびスチレン・ブタジエンゴムから選択される1種類以上である、請求項3に記載の積層体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体を含む、メタルガスケット。
【請求項6】
金属板の表面にゴム層を積層する工程を備え、
上記ゴム層はゴムおよびセルロースナノファイバーを含む、積層体の製造方法。
【請求項7】
上記ゴム層を積層する工程は、セルロースナノファイバーを分散させたラテックスと、金属板とを接触させる工程を含む、請求項6に記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
上記ゴムが、アクリルゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴムおよびスチレン・ブタジエンゴムから選択される1種類以上である、請求項6または7に記載の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層体、その製造方法およびメタルガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジン等に使用されるガスケットとして、金属板の表面にゴム層を積層した積層体(以下、ラバーコートメタルとも称する。)が好適に使用される。このような積層体を製造する方法としては、例えば特許文献1に記載されているような、ゴム液に金属板を浸す工程を含む方法がある。また、特許文献2にはシール材、または摺動用部材の表面に有効に適用される水系コーティング剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-166644号公報
【特許文献2】特開2016-204509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1および2では、得られる積層体の応力緩和率については考慮されていない。発明者らは、特許文献1に記載されている積層体の製造方法では、使用するゴムの種類によっては、応力緩和率において改善の余地があることを見出した。また、特許文献2に記載の水系コーティング剤は、金属板と積層することについては考慮されていなかった。
【0005】
本発明の一態様は、上記課題を鑑みたものであり、応力緩和率に優れる積層体を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を鑑みた結果、セルロースナノファイバーを含有させたゴム層を金属板に積層することにより、上記課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は以下の構成を含む。
<1>金属板と、当該金属板の表面に積層されたゴム層とを備え、上記ゴム層は、ゴムおよびセルロースナノファイバーを含んでいる、積層体。
<2>上記ゴム層において、上記セルロースナノファイバーの含有率は、上記ゴム100重量部に対して5~50重量部である、<1>に記載の積層体。
<3>上記ゴムが、水性溶媒に分散可能なゴムである、<1>または<2>に記載の積層体。
<4>上記水性溶媒に分散可能なゴムが、アクリルゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴムおよびスチレン・ブタジエンゴムから選択される1種類以上である、<3>に記載の積層体。
<5><1>~<4>のいずれかに記載の積層体を含む、メタルガスケット。
<6>金属板の表面にゴム層を積層する工程を備え、上記ゴム層はゴムおよびセルロースナノファイバーを含む、積層体の製造方法。
<7>上記ゴム層を積層する工程は、セルロースナノファイバーを分散させたラテックスと、金属板とを接触させる工程を含む、<6>に記載の積層体の製造方法。
<8>上記ゴムが、アクリルゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴムおよびスチレン・ブタジエンゴムから選択される1種類以上である、<6>または<7>に記載の積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、応力緩和率に優れる積層体を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る、積層体を示した模式図である。
図2】実施例におけるラバーコートメタルの製造装置の概略構造を示す模式図である。
図3】実施例におけるラバーコートメタルの製造工程を示す模式図である。
図4】実施例および比較例に係る積層体の、応力緩和率試験結果を示したグラフである。
図5】実施例、比較例、および参考例に係る積層体の、応力緩和率試験結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔1.積層体〕
以下、本発明の一実施形態に係る積層体(以下、本積層体とも称する。)は、金属板と、当該金属板の表面に積層されたゴム層とを備え、上記ゴム層は、ゴムおよびセルロースナノファイバーを含む。
【0010】
従来、積層体のゴム層を形成する際に、ゴムを有機溶剤に溶解させることが一般的だが、水性溶媒に分散可能なゴムを使用できれば有機溶剤を使用する必要がなくなるため、環境負荷の観点から好ましい。本発明者らは水性溶媒に分散可能なゴムをゴム層に使用することを検討したところ、その過程で、積層体の応力緩和率が低下するという課題があることを独自に見出した。本発明者らは、応力緩和率を高める方法として、水性溶媒に分散可能な充填剤であるシリカ等を添加する方法も検討したが、十分な応力緩和率は得られなかった。本積層体においては、上記ゴム層がセルロースナノファイバーを含むことにより、任意のゴムを使用した場合でも応力緩和率の低下を防ぐことができる。さらに、本積層体のゴムとしては水性溶媒に分散可能なゴムを使用可能であるため、従来の積層体とは異なり、有機溶剤を使用することなく製造することが可能である。
【0011】
本明細書において、「応力緩和率に優れる」とは例えば100℃、圧力20.6MPaで22時間加圧した場合に、ASTM F1276によって測定される応力緩和率が10%以下であることを意味する。
【0012】
また、上記構成によれば、水性溶媒に分散可能なゴムを材料として使用可能であるため、有機溶剤を使用することなく積層体を製造することができる。このような効果は、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「すべての人に健康と福祉を」等の達成にも貢献するものである。
【0013】
本積層体について図1を用いて説明する。図1は、本積層体の断面構造の一例を示した模式図である。図1に示されるように、本積層体は金属板1の表面にゴムおよびセルロースナノファイバーを含むゴム層2が積層されてなる。本積層体には、必要に応じて前記ゴム層2と金属板1との間に、接着剤層10が存在していてもよい。接着剤層10が存在することにより、前記ゴム層2と金属板1との密着性が向上する。
【0014】
<ゴム層>
積層体に備えられているゴム層は、ゴムおよびセルロースナノファイバーを含む。ゴム層は金属板の少なくとも片面に設けられており、好ましくは金属板の両面に設けられている。
【0015】
十分な応力緩和率を確保する観点から、ゴム層の厚みは好ましくは片面0.1mm以下であり、より好ましくは片面0.05mm以下である。一方で密封性能の観点から、ゴム層の厚みは好ましくは0.025mm以上であってもよいし、より好ましくは0.05mm以上であってもよいし、0.1mm以上であってもよい。
【0016】
(セルロースナノファイバー)
本積層体のゴム層は、セルロースナノファイバーを含む。本明細書において「セルロースナノファイバー」とは、植物バイオマス由来のセルロースを加工して得られる、ナノサイズのセルロース繊維を意味する。以下、セルロースナノファイバーをCNFとも称する。
【0017】
上記ゴム層において、上記CNFの含有率は、上記ゴム100重量部に対して、好ましくは5~50重量部、より好ましくは5~40重量部、さらに好ましくは5~35重量部である。CNFの含有量が5重量部以上であれば、得られる積層体の応力緩和率が向上する。また、CNFの含有量が50重量部以下であれば、密封性能に優れる。また、別の実施形態において、CNFの含有量は例えば25重量部以上であってもよい。
【0018】
CNFの繊維幅もしくは繊維径は、好ましくは500nm以下であり、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下である。繊維幅もしくは繊維径の下限値は、例えば3nm以上であってもよい。CNFの繊維長は、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下であり、さらに好ましくは10μm以下である。CNFの繊維長は、例えば1μm以上であってもよい。CNFのアスペクト比は、好ましくは10以上、より好ましくは50以上、さらに好ましくは100以上であってもよい。アスペクト比の上限は、例えば30000以下であってもよい。CNFの繊維長が長い程補強性に優れ、CNFの繊維長が短い程分散性に優れる。
【0019】
(ゴム)
本積層体のゴム層は、ゴムを含む。ゴム層に含まれるゴムの種類は特に限定されず、任意のゴムを使用することができる。また、ゴム層に含まれるゴムは1種類のみであってもよいし、複数種類のゴムを適宜組み合わせて使用してもよい。
【0020】
上記ゴムは、ゴム液とすることができるゴムであることが好ましい。ゴム液とは、任意の溶媒中にゴムが分散している液体を意味する。上記ゴムをゴム液とすることができる場合、金属板の表面上へのゴム層の積層を容易に行うことができる。特に、ゴム液の中でも溶媒が水性溶媒であるゴム液を本明細書においては「ラテックス」とも称する。
【0021】
上記ゴムは、水性溶媒に分散可能なゴム(以下、水分散性ゴムとも称する。)であることが好ましい。換言すれば、水分散性ゴムは、ラテックスを形成可能なゴムとも言える。上記ゴムが水分散性ゴムである場合、水性溶媒を使用してゴムを分散させることにより、ラテックスを形成できる。これにより、ゴム液の製造過程で有機溶剤を使用する必要が無くなるため、安全性を向上させ、かつ環境負荷を低減することができる。
【0022】
前記水分散性ゴムは、カルボニル基、イソシアネート基、ビニル基から選択される1種類以上の官能基を有することが好ましい。水分散性ゴムが上記官能基を有することにより、水分散性ゴムが水性溶媒に対して分散しやすくなる。
【0023】
上記水分散性ゴムは、好ましくは分子中にウレタン結合、炭素-炭素二重結合、水素結合から選択される1種類以上を含んでいてもよい。水分散性ゴムが上記結合を含むことにより、ラジカル、または脱水縮合による架橋構造の形成が容易となる。
【0024】
上記水分散性ゴムとしては例えば、アクリルゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、天然ゴム、ブチルゴム等が挙げられる。これらの中でも、強度および接着性に優れる観点から、好ましくはアクリルゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、より好ましくはアクリルゴムである。
【0025】
前記アクリルゴムのモノマーとしては、例えば、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n-ペンチルアクリレート、イソアミルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2-メチルペンチルアクリレート、n-オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-デシルアクリレート、n-ドデシルアクリレート、n-オクタデシルアクリレート、シアノメチルアクリレート、1-シアノエチルアクリレート、2-シアノエチルアクリレート、1-シアノプロピルアクリレート、および2-シアノプロピルアクリレートから選択される1種、または2種類以上を混合したモノマーが挙げられる。
【0026】
(その他の成分)
前記ゴム層は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述したセルロースナノファイバーおよびゴム以外の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては例えば、充填剤、接着剤、加硫剤、加硫助剤、受酸剤、着色剤、可塑剤、加工助剤、老化防止剤等が挙げられる。これらの成分は、ゴム液に添加することによって、ゴム層に含有させることができる。その他の成分のゴム層における含有量は、例えば0~30重量部であってもよい。
【0027】
<金属板>
本積層体に使用可能な金属板は限定されず、任意の金属板を使用することができる。金属板としては、銅、鉄、鋼、銀、金、ニッケル、クロム、チタン、ステンレス、アルミニウム等からなる金属板、またはこれらの合金板が挙げられる。これらの中でも強度に優れる観点から、金属板の原料は鋼、ステンレスまたはアルミであることが好ましい。
【0028】
金属板の厚さは、0.05mm以上であることが好ましく、0.1mm以上であることがより好ましく、0.2mm以上であることがさらに好ましい。金属板の厚みが0.05mm以上であれば、変形し難く、そして後述のゴム液の層を形成する場合にゴム液の層の厚みにムラが生じ難い。また、金属板の厚みが0.2mm以上であれば、得られる積層体の形状保持性の観点からも好ましい。金属板の厚みは3mm以下であることが好ましく、2mm以下であることがより好ましい。金属板の厚みが3mm以下であれば、金属板に反りが発生し難く、ゴム液の層を形成する場合にゴム液の層の厚みにムラが生じ難い。
【0029】
金属板の形状は特に限定されないが、例えば長方形、環形等であってもよい。積層体を後述するメタルガスケットとする場合は、あらかじめ金属板をメタルガスケットの形状に近い形状としておくことが好ましい。これにより、プレス成形時等に発生するゴム層の廃棄を低減することができる。
【0030】
金属板は、めっきなどの表面処理が施されていてもよい。金属板の具体例としては、JIS(G3313)で示されるSECC、JIS(G4305)で示されるSUS301、JIS(G3141)で示されるSPCC、東洋鋼板製の商品名TE-91などが挙げられる。
【0031】
金属板の表面に接着剤を塗布することにより、接着剤層が形成されていてもよい。接着剤層により、金属板とゴム層との密着性が向上する。接着剤層に含まれる接着剤については特に限定されないが、例えば水系接着剤、フェノール系接着剤、エポキシ系接着剤、シランカップリング剤等が挙げられる。これらの中でも安全性、環境負荷の観点から、水系接着剤が好ましい。なお、水系接着剤とは、エポキシ樹脂等の接着成分を水に溶解、または分散させた、水を溶媒とする接着剤を意味する。
【0032】
<メタルガスケット>
本発明の一実施形態に係るメタルガスケットは、好ましくは上述した本積層体を含む。本積層体を、プレス加工等により所望の形状に加工することにより、メタルガスケットとすることができる。一実施形態において、本積層体それ自体がメタルガスケットとして使用されてもよい。
【0033】
前記メタルガスケットは、応力緩和率に優れるため、耐応力緩和が必要とされる製品として使用することが好ましい。そのような製品としては例えば、自動車のエンジン部品、自動車の電装部品、定型ガスケットが必要な部位等に好適に使用することができる。
【0034】
〔2.積層体の製造方法〕
本積層体の製造方法は、金属板の表面にゴム層を積層する工程を備え、上記ゴム層はゴムおよびセルロースナノファイバーを含む。本積層体、金属板、およびゴム層については、上記〔1.積層体〕に記載した事項を適宜援用できる。
【0035】
上記ゴム層を積層する工程は、好ましくはCNFを分散させたラテックスと、金属板とを接触させる工程を含む。前記ラテックスは、換言すればゴムおよびCNFを含む水分散液である。ゴム液(ラテックス)の固形分濃度は通常10~50重量%である。ゴム液の粘度は50~30000mPa・sであることが好ましい。前記ラテックスと金属板とを接触させる方法としては特に限定されないが、例えば、浸漬、転写、塗布等が挙げられる。金属板の表面への積層が容易であることから、浸漬であることが好ましい。特に特開2016-166644号公報に記載の装置および方法を用いることが好ましい。
【0036】
具体的には、金属板の上部を留め具で挟んで、ゴム液を入れたゴム液槽へ当該留め具を降下させる方法が簡便であり好ましい。留め具を降下させる速度は特に限定されないが通常、10~100mm/秒である。また、ゴム液槽の上方に設けられた2本のロッドを近接させて、当該ロッドの間隔を上記金属板の厚さよりも広い所定の間隔とすることが好ましい。2本のロッドの間隔(W(mm))と金属板の厚さ(t(mm))とが下記式(1)を満たすことが好ましい。下記式(1)において、(W-t)は、好ましくは0.3mm以上であり、より好ましくは0.6mm以下である。
0.1<(W-t)<1 (1)
そして、ゴム液に浸された金属板を、2本のロッドの間を通して引き上げながら、当該ロッドでゴム液の層の表面を均して、金属板の両面にゴム液の層が形成されたラバーコートメタルを得ることが好ましい。金属板を引き上げる速度は特に限定されないが通常、10~100mm/秒である。
【0037】
使用されるCNFの形態は特に限定されないが、製造を容易にする観点から、CNFが溶媒中に分散した分散液を使用することが好ましい。CNFの分散液は、同じく液体であるラテックスに対する分散性が高いため、シリカ等の固体と比較して分散に要する時間の短縮が可能であり、生産性を高めることができる。CNF分散液の溶媒は特に限定されないが、ラテックスと混合した場合の分散性、並びに安全性および環境負荷の観点から、好ましくは水性溶媒である。
【0038】
前記水性溶媒としては、例えば水、または水と水に可溶な溶媒との混合物が挙げられる。そのような溶媒としては例えば、エタノール、メタノール、イソプロパノール等の低級アルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の多価アルコール等が挙げられる。これらの中でも、入手の容易さ、安全性、環境負荷の観点から、水性溶媒は水であることが好ましい。
【0039】
本積層体の製造方法は、金属板の表面に積層したゴム液の層を乾燥する工程、得られた金属板を加熱プレス等により成形する工程等をさらに含んでいてもよい。
【0040】
ゴム液の層を乾燥する方法は特に限定されないが、留め具に挟んでぶら下げたまま乾燥する方法が好ましい。乾燥温度は通常15~80℃である。ゴム液の層に風または熱風を吹き付けることもできる。また、室温にて所定時間放置して、自然乾燥によりゴム液の層を乾燥することもできる。
【0041】
加熱プレスの方法は、特に限定されないが、乾燥したラバーコートメタルを、加熱したプレートで挟む方法が挙げられる。ここで、ラバーコートメタルの周囲にスペーサーを配置することにより、得られる積層体の厚みを調整することもできる。
【0042】
加熱プレスを行った後、必要に応じて、得られた積層体をさらに加熱して、残存する硬化剤を揮発させてもよい。
【0043】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0044】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0045】
〔材料〕
積層体の材料として、以下を使用した。
・金属板:商品名TE-91、東洋鋼板製(Zn+Co+Mo合金めっき鋼材、縦150mm×横120mm×厚み0.2mm、長方形の平板形状)
・ゴム分散液A:商品名LX874、日本ゼオン製(アクリルゴム)
・ゴム分散液B:商品名XA-5032A、トウペ製(ウレタン結合含有アクリルゴム)
・CNF分散液:商品名ELLEX-S、大王製紙製
・接着剤:商品名トアスイセイ21プライマー、トウペ製
・シリカ:商品名ULTRASIL360、エポニック・デグザ・ジャパン製
〔応力緩和率測定試験〕
積層体の応力緩和率を、ASTM F1276に準拠した方法によって測定した。実施例の積層体は、ASTM F868において、9FMF6E11G11H1と定義され、ASTM F104において、701111と定義されるガスケットである。
【0046】
〔装置〕
図2に示したラバーコートメタルの製造装置101を用いて、金属板1の表面にゴム液の層を形成した。金属板1はアーム113の先端の留め具112に掛けることができる。ゴム液槽111にはゴム液50Lが入れられている。2本のロッド114は直径50mmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の丸棒である。送り出しローラー115に巻かれている保護フィルム117は、厚さ50μmのポリエチレンフィルムである。保護フィルム117は巻き取りローラー116によって巻き取ることができる。
【0047】
〔実施例1〕
以下の手順に従って、金属板の両面にゴム層が積層された積層体を得た。
1. ゴム液中の各成分の比率を、ゴム100重量部、CNF6重量部となるようにゴム分散液AとCNF分散液とを混合してゴム液を調製した。
2. アセトンを用いて金属板を脱脂した。
3. 脱脂した金属板の両面に接着剤を塗布し、80℃で10分間、乾燥を行った。
4. 乾燥を行った金属板の両面にゴム液の層を形成した。以下、図3を用いて手順を説明する。
(1)金属板1を留め具112(図3では省略)に掛け、この留め具112を50mm/秒の速度で下降させて金属板1をゴム液槽111内のゴム液に浸漬させた(図3の工程1001)。
(2)ゴム液槽111の上方に設けられた2本のロッド114を近接させた(図3の工程1002)。このときのロッド114の間隔は0.6mmであった。
(3)ゴム液に金属板1を浸漬させてから1秒経過後、アーム113(図3では省略)を動かして留め具112を50mm/秒の速度で上昇させた。こうすることで、金属板1を2本のロッド114の間を通して引き上げながら、ロッド114を覆っている保護フィルム117でゴム液層の表面を均した(図3の工程1003)。
(4)巻き取りローラー116を回転させてゴム液が付着した保護フィルム117を巻き取った(図3の工程1004)。
5. その後、留め具112に掛けたまま金属板1を80℃で10分間乾燥させた後、留め具112から金属板1を取り外し、金属板1の両面にゴム層が形成されたラバーコートメタルを得た。
6. 表面のゴム層を硬化させるため、ラバーコートメタルをオーブンに入れて、130℃で10分間加熱した。このようにして積層体を得た。
【0048】
〔実施例2〕
ゴム液中の各成分の比率を、ゴム100重量部、CNF33重量部となるようにゴム液を調製したこと以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。
【0049】
〔比較例1〕
ゴム液にCNFを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0050】
〔結果1〕
実施例1、2、および比較例1の積層体に対して、応力緩和率測定試験を行った。結果を図4に示す。
【0051】
図4より、CNFを使用した実施例1、2の積層体は、CNFを使用していない比較例1と比べて、優れた応力緩和率を示した。したがって、ゴム層に使用した場合に応力緩和率が低くなるゴムを使用したとしても、CNFを使用することにより、積層体の応力緩和率を高くできることが示された。
【0052】
〔実施例3〕
ゴム分散液Aの代わりにゴム分散液Bを使用したこと以外は、実施例2と同様にして積層体を得た。
【0053】
〔比較例2〕
ゴム100重量部に対して、CNFの代わりにシリカを33重量部となるように添加したこと以外は実施例3と同様にして積層体を得た。
【0054】
〔参考例1〕
特許第7125105号の段落〔0044〕~〔0055〕の記載に基づいて製造したラバーコートメタルを参考例1とした。
【0055】
〔結果2〕
実施例3、比較例2、参考例1の積層体に対して、応力緩和率測定試験を行った。結果を図5に示す。
【0056】
図5より、実施例3は一般的なシリカを使用した比較例2に比べて、応力緩和率に優れていた。また、有機溶剤を使用して製造された市販のラバーコートメタルである参考例1と比較しても、同程度の応力緩和率を有していた。また、実施例3のゴム液の製造に使用したCNF分散液は液体であり、ラテックスに対する分散性が良好であった。これにより、CNF分散液が容易に分散し、短時間でゴム液を製造できたため、生産性に優れていると判断した。一方比較例2のゴム液の製造に使用したシリカは固体であるためラテックスに対する分散性に劣り、ゴム液を製造する際の分散に長時間を要したため、生産性に劣っていると判断した。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、メタルガスケット等に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 金属板
2 ゴムおよびセルロースナノファイバーを含むゴム層
10 接着剤層
図1
図2
図3
図4
図5