(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142243
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】導電膜付き基板、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、反射型マスク、および半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/24 20120101AFI20241003BHJP
G03F 1/40 20120101ALI20241003BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G03F1/24
G03F1/40
G03F7/20 521
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054352
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】513240733
【氏名又は名称】ホーヤ エレクトロニクス シンガポール プライベート リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA ELECTRONICS SINGAPORE PTE.LTD.
【住所又は居所原語表記】10 Tampines Industrial Crescent Singapore 528603
(74)【代理人】
【識別番号】100113343
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 武史
(72)【発明者】
【氏名】岸田 響
(72)【発明者】
【氏名】中川 真徳
【テーマコード(参考)】
2H195
2H197
【Fターム(参考)】
2H195BA10
2H195BB25
2H195BC17
2H195CA16
2H195CA22
2H197BA11
2H197CA10
2H197GA01
2H197GA20
2H197HA03
(57)【要約】
【課題】強固に静電チャックに吸着でき、かつ容易に静電チャックから脱離可能な導電膜付き基板を提供する。
【解決手段】基板の第1主面上に導電膜が設けられた導電膜付き基板であって、回折角2θが30度以上90度以下の範囲において、X線回折を用いた2θ/ω測定(ωはX線回折測定におけるX線の入射角)によって得られる回折強度が最大となる回折角2θmaxから算出される前記導電膜の結晶子サイズが2.5nm以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の第1主面上に導電膜が設けられた導電膜付き基板であって、
回折角2θが30度以上90度以下の範囲において、X線回折を用いた2θ/ω測定によって得られる回折強度が最大となる回折角2θmaxから算出される前記導電膜の結晶子サイズが2.5nm以上であることを特徴とする導電膜付き基板。
【請求項2】
前記導電膜は、タンタルまたはクロムを含むことを特徴とする請求項1に記載の導電膜付き基板。
【請求項3】
前記導電膜は、タンタルを95原子%以上含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の導電膜付き基板。
【請求項4】
前記導電膜は、タンタルおよび窒素を合計で95原子%以上含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の導電膜付き基板。
【請求項5】
前記導電膜は、前記基板に接して形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の導電膜付き基板。
【請求項6】
前記導電膜は圧縮応力を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の導電膜付き基板。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の導電膜付き基板の前記第1主面に対向する第2主面上に、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した多層反射膜が形成されていることを特徴とする多層反射膜付き基板。
【請求項8】
請求項7に記載の多層反射膜付き基板の前記多層反射膜上に、吸収体膜が形成されていることを特徴とする反射型マスクブランク。
【請求項9】
前記多層反射膜と前記吸収体膜との間に、保護膜が形成されていることを特徴とする請求項8に記載の反射型マスクブランク。
【請求項10】
請求項8に記載の反射型マスクブランクの前記吸収体膜をエッチングによりパターニングして得られる吸収体膜パターンを有することを特徴とする反射型マスク。
【請求項11】
請求項10に記載の反射型マスクを用いて、露光により前記吸収体膜パターンを転写対象に転写する工程を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電膜付き基板、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、反射型マスク、および半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体装置の製造工程では、フォトリソグラフィ法を用いて微細パターンの形成が行われている。また、この微細パターンの形成には通常何枚ものフォトマスクと呼ばれている転写用マスクが使用される。この転写用マスクは、一般にガラス基板上に、金属薄膜等からなる微細パターンを設けたものであり、この転写用マスクの製造においてもフォトリソグラフィ法が用いられている。
【0003】
フォトリソグラフィ法による転写用マスクの製造には、ガラス基板等の基板上に転写パターン(マスクパターン)を形成するための薄膜(例えば遮光膜など)を有するマスクブランクが用いられる。このマスクブランクを用いた転写用マスクの製造は、マスクブランク上に形成されたレジスト膜に対し、所望のパターン描画を施す描画工程と、描画後、前記レジスト膜を現像して所望のレジストパターンを形成する現像工程と、このレジストパターンをマスクとして前記薄膜をエッチングするエッチング工程と、残存するレジストパターンを剥離除去する工程とを経て行われている。上記現像工程では、マスクブランク上に形成されたレジスト膜に対し所望のパターン描画を施した後に現像液を供給して、現像液に可溶なレジスト膜の部位を溶解し、レジストパターンを形成する。また、上記エッチング工程では、このレジストパターンをマスクとして、ドライエッチング又はウェットエッチングによって、レジストパターンの形成されていない薄膜が露出した部位を除去し、これにより所望のマスクパターンを基板上に形成する。こうして、転写用マスクが出来上がる。
【0004】
転写用マスクの種類としては、従来の基板上にクロム系材料からなる遮光膜パターンを有するバイナリ型マスクのほかに、位相シフト型マスクが知られている。
また、近年、半導体産業において、半導体デバイスの高集積化に伴い、従来の紫外光を用いたフォトリソグラフィ法の転写限界を上回る微細パターンが必要とされてきている。このような微細パターン形成を可能とするため、極紫外(Extreme Ultra Violet:以下、「EUV」と呼ぶ。)光を用いた露光技術であるEUVリソグラフィがある。ここで、EUV光とは、軟X線領域又は真空紫外線領域の波長帯の光を指し、波長が0.2~100nm程度の光のことである。本明細書においては、EUV光とは、波長13.5nmの光を含む光であり、波長13nmから14nmの光、より具体的には、波長13.5nmの光とすることができる。本明細書において、光とは可視光だけでなく電磁波も含む。このEUVリソグラフィにおいて用いられるマスクとして反射型マスクがある。このような反射型マスクは、基板上に露光光であるEUV光を反射する多層反射膜が形成され、該多層反射膜上にEUV光を吸収する吸収体膜がパターン状に形成されたものである。
【0005】
反射型マスクは、例えば半導体基板上へのパターン転写時に、露光装置内の静電チャックによって支持される。一方で、反射型マスクブランクや反射型マスクに用いられる基板は、絶縁性のガラス基板等からなる。このため、反射型マスクブランクや反射型マスクの基板の裏面には、導電膜(裏面導電膜)が形成される。従来技術として、例えば特許文献1には、シリコン、モリブデン、クロム、オキシ窒化クロムまたはTaSiのような、基板よりも高い誘電率の物質の裏面コーティングを有したマスク基板が開示されている。また、特許文献2には、アモルファスのクロム系導電膜が形成された導電膜付基板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2003-501823号公報
【特許文献2】特開2015-215602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、パターン転写時に、静電チャックを用いて可動式のステージ上に載置した反射型マスクの位置ずれが起こると、高精度なパターン転写が困難となる。したがって、反射型マスクの裏面導電膜は、静電チャックに強固に固定されることが好ましい。一方、裏面導電膜が静電チャックに強固に固定されていると、この反射型マスクを静電チャックから脱離するときに、裏面膜由来のパーティクルが発生することがあった。このパーティクルが静電チャック上に残存していると、この静電チャックに別の反射型マスクの基板を吸着させた場合、この反射型マスクの平坦度が低下し、高精度なパターン転写が困難となることがあった。また、このパーティクルが反射型マスクに付着し、欠陥となることもあった。
【0008】
そこで本発明は、このような従来の問題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、第1に、強固に静電チャックに吸着でき、かつ、容易に静電チャックから脱離可能であり、静電チャックへの着脱によるパーティクルの発生を抑制できる導電膜付き基板を提供することである。
また、第2に、上記導電膜付き基板を用いた多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、反射型マスクを提供することであり、第3に、この反射型マスクを使用する半導体装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、従来の課題を解決するべく鋭意研究を続けた結果、以下の発明を完成した。
(構成1)
基板の第1主面上に導電膜が設けられた導電膜付き基板であって、回折角2θが30度以上90度以下の範囲において、X線回折を用いた2θ/ω測定によって得られる回折強度が最大となる回折角2θmaxから算出される前記導電膜の結晶子サイズが2.5nm以上であることを特徴とする導電膜付き基板。
【0010】
(構成2)
前記導電膜は、タンタルまたはクロムを含むことを特徴とする構成1に記載の導電膜付き基板。
(構成3)
前記導電膜は、タンタルを95原子%以上含むことを特徴とする構成1又は2に記載の導電膜付き基板。
【0011】
(構成4)
前記導電膜は、タンタルおよび窒素を合計で95原子%以上含むことを特徴とする構成1又は2に記載の導電膜付き基板。
(構成5)
前記導電膜は、前記基板に接して形成されていることを特徴とする構成1又は2に記載の導電膜付き基板。
【0012】
(構成6)
前記導電膜は圧縮応力を有することを特徴とする構成1又は2に記載の導電膜付き基板。
【0013】
(構成7)
構成1又は2に記載の導電膜付き基板の前記第1主面に対向する第2主面上に、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した多層反射膜が形成されていることを特徴とする多層反射膜付き基板。
【0014】
(構成8)
構成7に記載の多層反射膜付き基板の前記多層反射膜上に、吸収体膜が形成されていることを特徴とする反射型マスクブランク。
(構成9)
前記多層反射膜と前記吸収体膜との間に、保護膜が形成されていることを特徴とする構成8に記載の反射型マスクブランク。
【0015】
(構成10)
構成8に記載の反射型マスクブランクの前記吸収体膜をエッチングによりパターニングして得られる吸収体膜パターンを有することを特徴とする反射型マスク。
【0016】
(構成11)
構成10に記載の反射型マスクを用いて、露光により前記吸収体膜パターンを転写対象に転写する工程を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、強固に静電チャックに吸着でき、かつ、容易に静電チャックから脱離可能であり、静電チャックへの着脱によるパーティクルの発生を抑制できる導電膜付き基板を提供することができる。
また、本発明によれば、上記導電膜付き基板を用いた多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、反射型マスクを提供することができる。
【0018】
さらに、本発明によれば、この反射型マスクを使用する半導体装置の製造方法を提供することができる。この反射型マスクを用いてパターン転写を行うことにより、パターン転写時に、静電チャックを用いて可動式のステージ上に載置した反射型マスクの位置ずれを生じることなく、高精度なパターン転写を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の導電膜付き基板の一実施形態を示す断面図である。
【
図2】本発明の多層反射膜付き基板の一実施形態を示す断面図である。
【
図3】本発明の反射型マスクブランクの一実施形態を示す断面図である。
【
図4】本発明の反射型マスクブランクの他の実施形態を示す断面図である。
【
図5】本発明の反射型マスクブランクのその他の実施形態を示す断面図である。
【
図6】本発明の反射型マスクの一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を詳述する。
[導電膜付き基板]
まず、本発明の導電膜付き基板について説明する。
図1は、本発明の導電膜付き基板の一実施形態を示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態の導電膜付き基板10は、基板1の第1主面(図示する状態では基板1の裏面)上に導電膜2が設けられている。本実施形態では、前記導電膜2は、前記基板1に接して形成されている。
【0021】
本発明の導電膜付き基板は、回折角2θが30度以上90度以下の範囲において、X線回折を用いた2θ/ω測定(2θ/ωスキャン)によって得られる回折強度が最大となる回折角2θmaxから算出される前記導電膜の結晶子サイズが2.5nm以上であることを特徴とする。
上記ωは、X線回折測定におけるX線の入射角である。
【0022】
<基板>
基板1は、互いに対向する2つの主面および4つの端面を有する。本発明の導電膜付き基板が、例えばEUV露光用の反射型マスクブランクに用いられる場合、上記基板1としてはガラス基板が好ましく、特に、露光時の熱によるパターンの歪みを防止するため、0±1.0×10-7/℃の範囲内、より好ましくは0±0.3×10-7/℃の範囲内の低熱膨張係数を有するものが好ましく用いられる。この範囲の低熱膨張係数を有する素材としては、例えば、SiO2-TiO2系ガラス、多成分系ガラスセラミックス等を用いることが出来る。
【0023】
上記ガラス基板の転写パターンが形成される側の主面は、少なくともパターン転写精度、位置精度を向上させる観点から高平坦度となるように表面加工されている。EUV露光用の場合、ガラス基板の転写パターンが形成される側の主面142mm×142mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、特に好ましくは0.05μm以下である。なお、本明細書において、平坦度は、TIR(Total Indicated Reading)で示される表面の反り(変形量)を表す値である。この値は、基板1の表面を基準として最小二乗法で定められる平面を焦平面とし、この焦平面より上にある基板1の表面の最も高い位置と、焦平面より下にある基板1の表面の最も低い位置との高低差の絶対値である。
【0024】
また、EUV露光用の場合、上記ガラス基板としては、上記のとおり、SiO2-TiO2系ガラスなどの低熱膨張係数を有する素材が好ましく用いられる。ガラス基板の表面粗さの低減、若しくはガラス基板表面の欠陥を低減する目的で、必要に応じて、ガラス基板の転写パターンが形成される側の主面に下地層を形成してもよい。このような下地層の材料としては、露光光に対して透光性を有する必要はなく、下地層表面を精密研磨した時に高い平滑性が得られ、欠陥品質が良好となる材料が好ましく選択される。例えば、Si又はSiを含有するケイ素化合物(例えばSiO2、SiONなど)は、精密研磨した時に高い平滑性が得られ、欠陥品質が良好なため、下地層の材料として好ましく用いられる。下地層の材料は、特にSiが好ましい。このような下地層を用いることで、ガラス基板の表面粗さとして例えば二乗平均平方根粗さ(Rq)で0.1nm以下の高平滑性を実現することができる。
【0025】
下地層の表面は、反射型マスクブランク用基板として要求される平滑度となるように精密研磨された表面とすることが好適である。下地層の表面は、二乗平均平方根粗さ(Rq)で0.15nm以下、特に好ましくは0.1nm以下となるように精密研磨されることが望ましい。また、下地層の表面は、下地層上に形成する多層反射膜の表面への影響を考慮すると、最大高さ(Rmax)との関係において、Rmax/Rqが2~10であることが良く、特に好ましくは、2~8となるように精密研磨されることが望ましい。
下地層の膜厚は、例えば10nm~300nmの範囲が好ましい。
【0026】
<導電膜>
上記導電膜2は、単層からなることができる。これにより、成膜工程が簡便となる。なお、単層の導電膜2の基板1とは反対側の表面は、酸化されていてもよい。すなわち、導電膜2は、基板1とは反対側の表面に、膜厚のごく小さな表面酸化層を有していてもよい。表面酸化層の膜厚は、4nm以下とすることができ、2nm以下が好ましく、1nm以下がより好ましい。これにより、静電チャック脱離時のパーティクル発生をより抑制することができる。また、上記導電膜2は、複数の層を含む積層膜であってもよい。この場合、例えば、積層膜が含む最上層の酸素含有率を他の層よりも高くすることができる。すなわち、最上層を最も酸素含有率の高い層とすることができる。これにより、静電チャック脱離時のパーティクル発生をより抑制することができる。この最上層は、例えば5nm以上とすることが好ましい。
上記導電膜2の膜厚としては、特に限定されないが、例えば10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましい。また、該膜厚は、500nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、100nm以下がさらに好ましい。導電膜2の成膜方法は特に限定されないが、通常、マグネトロンスパッタリング法や、イオンビームスパッタリング法などが好適である。
【0027】
また、導電膜2の基板1との界面領域(基板界面領域)および導電膜2の基板1とは反対側の表層領域は、いずれも導電膜2の組成比が連続的に変化する組成傾斜領域となる。よって、上記の導電膜2が単層からなるとは、導電膜2が、組成傾斜領域(表層領域および基板界面領域)と組成傾斜領域以外の内部領域(組成比が膜厚方向に均一な領域)とからなる場合も含む。ここで、組成比が膜厚方向に均一とは、膜厚方向における各構成元素の差が無視できるほどに小さく、例えば、各構成元素の差がいずれも3原子%以下であることを指す。
【0028】
上記の基板界面領域は、導電膜2と基板1との界面から基板1とは反対側の表面(すなわち、表層領域)に向かって例えば0nm超え5nm以下の厚さまでの範囲にわたる領域である。基板界面領域の厚さは、より好ましくは4nm以下であり、さらに好ましくは3nm以下である。
【0029】
また、上記の表層領域は、導電膜2の基板1とは反対側の表面から基板1に向かって例えば0nm超え5nm以下の厚さまでの範囲にわたる領域である。表層領域の厚さは、より好ましくは4nm以下であり、さらに好ましくは3nm以下である。
【0030】
本発明において、上記導電膜2の材料は特に限定はされないが、例えば、タンタル系材料やクロム系材料が好ましく挙げられる。
タンタル系材料としては、タンタル(Ta)単体、またはタンタルに、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、ホウ素(B)、水素(H)などから選ばれる1以上を含有してもよい。
また、クロム系材料としては、クロム(Cr)単体、またはクロムに、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、ホウ素(B)、水素(H)などから選ばれる1以上を含有してもよい。
【0031】
特に上記のタンタル系材料は洗浄耐性が高いことから、本発明においては、上記導電膜2はタンタル系材料からなることが好ましい。また、上記導電膜2が含む金属は、耐薬性や耐摩耗性の観点から、タンタルのみであることがより好ましい。
【0032】
上記導電膜2がタンタル系材料からなる場合、具体例としては例えば、TaN、TaB、TaBN等が挙げられる。
上記導電膜2がタンタルを含む場合、その含有量は95原子%以上であることが好ましい。また、上記導電膜2がタンタルおよび窒素を含む場合、タンタルおよび窒素の含有量は合計で95原子%以上であることが好ましい。
【0033】
また、本発明においては、上記導電膜2は圧縮応力を有することが好ましい。導電膜2が圧縮応力を有することにより、多層反射膜によって生じる基板1の反りを低減することが向上できる。
【0034】
上記したように、本発明の導電膜付き基板は、回折角2θが30度以上90度以下の範囲において、X線回折を用いた2θ/ω測定によって得られる回折強度が最大となる回折角2θmaxから算出される前記導電膜の結晶子サイズが2.5nm以上であることを特徴とするものである。
【0035】
本発明においては、X線回折測定は、2θ/ωスキャンを用いたOut-of-plane測定であり、導電膜2表面に対してX線を入射角ωで入射させて回折角2θを測定した。
【0036】
以下、本発明におけるX線回折の具体的な測定方法について説明する。
X線回折装置を用い、導電膜2に対して2θ/ωスキャン測定を行った。測定領域(測定点)は、導電膜の中央を含む20mm×20mmの領域内の1点とした。X線源には出力45kV-200mAのCuKα1線(波長:1.5405Å)を用い、ステップ幅0.1°、スキャンスピード1°/分の条件で測定し、データを得た。
【0037】
また、本発明における導電膜2の結晶子サイズの算出方法は以下のとおりである。
回折角2θが30度以上90度以下の範囲において回折強度が最大となる回折ピークの半値幅β(rad)から、以下のシェラーの式(式(1))を用いて、結晶子サイズDを算出した。
D=K・λ/(β・cos(u/2)) ・・・(1)
ここで、K:シェラー定数0.9、λ:X線(CuKα1)波長=1.5405Å
【0038】
なお、uは、回折角2θmaxが30度≦2θ≦90度の範囲において回折強度が最大となる回折角2θmax±2(度)の範囲内の回折スペクトルを下記のガウス関数(式(2))を用いて、最小二乗法によるフィッティングを行うことで得られ、該フィッティングで得られるσから半値幅βを算出した。
【0039】
【0040】
そして、半値幅βは、上記フィッティングで得られたσを用いて、以下の式(式(3))から求めた。
【0041】
【0042】
本発明では、上記導電膜2の結晶子サイズを2.5nm以上とすることで、導電膜2の静摩擦係数を大きくしているため、静電チャック上で導電膜付き基板10が滑ることを抑制することができ、導電膜付き基板10をより強固に静電チャックに固定することができる。さらに、導電膜2の結晶子サイズを2.5nm以上としているため、導電膜2と静電チャックとの実際の接触面積を小さくすることができ、より容易に導電膜付き基板10を静電チャックから脱離することができる。このため、導電膜付き基板10を静電チャックから脱離するときの膜剥がれなどによるパーティクルの発生を抑制することができる。
なお、導電膜2の表面粗さが大きくなりすぎるのを抑制するため、導電膜2の結晶子サイズは、好ましくは25nm以下、より好ましくは23nm以下、さらに好ましくは22nm以下である。
【0043】
以上のとおり、本発明の導電膜付き基板によれば、強固に静電チャックに吸着でき、かつ、容易に静電チャックから脱離可能であり、静電チャックへの着脱によるパーティクルの発生を抑制することができる。
またしたがって、本発明の導電膜付き基板を用いた多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、及び反射型マスク(これらの詳細は後述)においても、上記と同様の効果を奏するものである。
【0044】
[多層反射膜付き基板]
次に、本発明の多層反射膜付き基板について説明する。
図2は、本発明の多層反射膜付き基板の一実施形態を示す断面図である。
図2に示されるように、本発明の一実施形態に係る多層反射膜付き基板20は、上記導電膜付き基板10の前記第1主面に対向する第2主面(図示する状態では基板1の表面)上に、露光光であるEUV光を反射する多層反射膜3が形成されている。
【0045】
本実施形態の多層反射膜付き基板20は、上記導電膜付き基板10の上記第2主面上に、露光光の例えばEUV光を反射する多層反射膜3を成膜することにより作製される。
【0046】
上記多層反射膜3は、低屈折率層と高屈折率層を交互に積層させた多層膜であり、一般的には、重元素又はその化合物の薄膜と、軽元素又はその化合物の薄膜とが交互に30~60周期程度積層された多層膜が用いられる。
例えば、波長13~14nmのEUV光に対する多層反射膜としては、Mo膜とSi膜を交互に40周期程度積層したMo/Si周期積層膜が好ましく用いられる。その他に、EUV光の領域で使用される多層反射膜として、Ru/Si周期多層膜、Mo/Be周期多層膜、Mo化合物/Si化合物周期多層膜、Si/Nb周期多層膜、Si/Mo/Ru周期多層膜、Si/Mo/Ru/Mo周期多層膜、Si/Ru/Mo/Ru周期多層膜などがある。露光波長に応じて、材質を適宜選択すればよい。
【0047】
通常、吸収体膜のパターニング或いはパターン修正の際に多層反射膜を保護する目的で、上記多層反射膜3上には、保護膜(キャッピング層とも呼ばれることがある。)を設けることが好ましい。このような保護膜は、例えば、ルテニウムを主成分として含む材料により形成される。ルテニウムを主成分として含む材料としては、Ru金属単体、Ruにチタン(Ti)、ニオブ(Nb)、ロジウム(Rh)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、ホウ素(B)、ランタン(La)、コバルト(Co)、クロム(Cr)及びレニウム(Re)から選択される少なくとも1つの金属を含有したRu合金、及びそれらに窒素を含む材料が挙げられる。なお、物質Aを主成分として含むとは、物質Aを50%以上含むことを言う。
また、保護膜の膜厚としては、例えば1nm以上が好ましい。また、保護膜の膜厚は、5nm以下が好ましい。
【0048】
以上の多層反射膜3、及び保護膜の成膜方法は特に限定されないが、通常、イオンビームスパッタリング法や、マグネトロンスパッタリング法などが好適である。
【0049】
[反射型マスクブランク]
次に、本発明の反射型マスクブランクについて説明する。
図3は、本発明の反射型マスクブランクの一実施形態を示す断面図である。
図3に示されるように、本発明の一実施形態に係る反射型マスクブランク30は、上記多層反射膜付き基板20の上記多層反射膜3上に、吸収体膜5が形成されている。
【0050】
上記反射型マスクブランク30は、上記多層反射膜付き基板20における上記多層反射膜3(多層反射膜3の表面に上記保護膜を有する場合には、その保護膜)上に、EUV光を吸収する吸収体膜5を成膜することにより作製される。
【0051】
上記吸収体膜5は、露光光である例えばEUV光を吸収する機能を有するもので、上記反射型マスクブランクを使用して作製される反射型マスク60(
図6参照)において、上記多層反射膜3(多層反射膜3の表面に上記保護膜を有する場合には、その保護膜)による反射光と、吸収体膜パターン5a(
図6参照)による反射光との間で所望の反射率差を有するものであればよい。例えば、EUV光に対する吸収体膜5の反射率は、0.1%以上40%以下の間で選定される。また、上記反射率差に加えて、上記多層反射膜3(多層反射膜3の表面に上記保護膜を有する場合には、その保護膜)による反射光と、吸収体膜パターン5aによる反射光との間で所望の位相差を有するものであってもよい。なお、上記多層反射膜3(多層反射膜3の表面に上記保護膜を有する場合には、その保護膜)による反射光と、吸収体膜パターン5aによる反射光との間で所望の位相差を有する場合、反射型マスクブランクにおける吸収体膜5を位相シフト膜と称する場合がある。上記多層反射膜3(多層反射膜3の表面に上記保護膜を有する場合には、その保護膜)による反射光と、吸収体膜パターン5aによる反射光との間で所望の位相差を設けて、コントラストを向上させる場合、位相差は150度から310度の範囲に設定するのが好ましく、吸収体膜5の反射率は、3%以上40%以下に設定するのが好ましい。
【0052】
上記吸収体膜5は、単層でも積層構造であってもよい。積層構造の場合、同一材料の積層膜、異種材料の積層膜でもよい。積層膜は、材料や組成が膜厚方向に段階的及び/又は連続的に変化したものとすることができる。吸収体膜5が積層膜である場合、吸収体膜5は、例えば、膜厚方向において最も基板に近い位置に、保護膜に対してエッチング選択性を有する層(バッファ層)を含んでもよい。
【0053】
上記吸収体膜5の材料としては、例えばEUV光を吸収する機能を有し、エッチング等により加工が可能(好ましくは塩素(Cl)系ガス及び/又はフッ素(F)系ガスのドライエッチングでエッチング可能)であり、上記多層反射膜3(多層反射膜3の表面に上記保護膜を有する場合には、その保護膜)に対してエッチング選択比が高い材料である限り、特に限定されない。そのような機能を有するものとして、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、白金(Pt)、金(Au)、イリジウム(Ir)、タングステン(W)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、スズ(Sn)、タンタル(Ta)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)、ハフニウム(Hf)、鉄(Fe)、銅(Cu)、テルル(Te)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、ゲルマニウム(Ge)、アルミニウム(Al)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、及びケイ素(Si)から選ばれる少なくとも1つの金属、2以上の金属を含む合金又はこれらの化合物を好ましく用いることができる。化合物は、上記金属又は合金に、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)及び/又はホウ素(B)を含んでもよい。
【0054】
上記吸収体膜5の膜厚としては、例えば30nm~100nm程度の範囲が好ましい。吸収体膜5の成膜方法は特に限定されないが、通常、マグネトロンスパッタリング法や、イオンビームスパッタリング法などが好適である。
【0055】
また、
図4は、本発明の反射型マスクブランクの他の実施形態を示す断面図である。
図4に示されるように、本実施形態の反射型マスクブランク40は、上記多層反射膜3の表面に前述の保護膜4を有しており、すなわち、上記多層反射膜3と上記吸収体膜5との間に、保護膜4が形成されている。保護膜4については前述のとおりである。
【0056】
また、
図5は、本発明の反射型マスクブランクのその他の実施形態を示す断面図である。
図5に示されるように、本実施形態の反射型マスクブランク50は、上記吸収体膜5上に、エッチングマスク膜6が形成されている。
【0057】
上記エッチングマスク膜6は、吸収体膜5をパターニングする際にマスク機能を有するものであり、吸収体膜5の最上層の材料とエッチング選択性が異なる材料により構成する。例えば、吸収体膜5がTa単体又はTaを含む材料の場合、エッチングマスク膜6は、クロムやクロム化合物、若しくはケイ素やケイ素化合物などの材料を使用することができる。クロム化合物としては、CrとN、O、C、Hから選ばれる少なくとも一つの元素を含む材料が挙げられる。ケイ素化合物としては、SiとN、O、C、Hから選ばれる少なくとも一つの元素を含む材料や、ケイ素やケイ素化合物に金属を含む金属ケイ素(金属シリサイド)や金属ケイ素化合物(金属シリサイド化合物)などの材料が挙げられる。金属ケイ素化合物としては、金属、SiとN、O、C、Hから選ばれる少なくとも一つの元素を含む材料が挙げられる。
また、吸収体膜5が、多層反射膜3側からTaを含む材料と、Crを含む材料の積層膜の場合、エッチングマスク膜6の材料は、Crを含む材料とエッチング選択性が異なるケイ素、ケイ素化合物、金属シリサイド、金属シリサイド化合物などを選択することができる。
【0058】
また、本実施形態に係る反射型マスクブランク50(上述の反射型マスクブランク30、40においても同様)は、吸収体膜5を、互いにエッチング選択性が異なる材料からなる最上層とそれ以外の層との積層膜で構成し、最上層がそれ以外の層に対するエッチングマスク膜としての機能を有するようにした構成とすることもできる。
【0059】
以上のとおり、上述の実施形態に係る反射型マスクブランク30、40、50における吸収体膜5は、単層膜には限られず、同一材料の積層膜、異種材料の積層膜で構成することができ、さらには、上記のような積層膜あるいは単層膜の吸収体膜5とエッチングマスク膜としての機能を有する膜との積層膜の構成とすることができる。
【0060】
また、上述の実施形態に係る反射型マスクブランク30、40、50には、上記吸収体膜5(反射型マスクブランク50のように吸収体膜5上にエッチングマスク膜6を有する場合には、そのエッチングマスク膜6)上にレジスト膜を形成した態様も含まれる。このようなレジスト膜は、反射型マスクブランクにおける吸収体膜5をフォトリソグラフィ法によりパターニングする際に用いられる。
【0061】
[反射型マスク]
本発明は、上記反射型マスクブランク30等を用いて作製される反射型マスクについても提供するものである。
図6は、本発明の反射型マスクの一実施形態を示す断面図である。
図6に示すように、本実施形態の反射型マスク60は、例えば前述の反射型マスクブランク40の前記吸収体膜5をエッチングによりパターニングして得られる吸収体膜パターン5aを有する。
【0062】
反射型マスクブランク40における、転写パターンとなる上記吸修体膜5をパターニングする方法は、フォトリソグラフィ法が最も好適である。すなわち、上述の反射型マスクブランク40上に電子線描画用レジストを塗布し、ベーキングすることによりレジスト膜を形成し、電子線描画装置を用いてレジスト膜を描画、現像し、レジスト膜に転写パターンに対応したレジストパターン形成する。その後、このレジストパターンをマスクにして吸収体膜5をパターニングして吸収体膜パターン5aを形成することにより
図6に示す反射型マスク60が作製される。
【0063】
なお、吸収体膜パターン5aを形成したことにより露出した領域の保護膜4は最終的には除去してもよいが、残存していても反射型マスクとしての機能に影響がなければ、特に除去しなくてもよい。また、上述のエッチングマスク膜6を含む構成の反射型マスクブランク50を用いて反射型マスクを製造する場合、エッチングマスク膜6は最終的には除去してもよいが、残存していても反射型マスクとしての機能に影響がなければ、特に除去しなくてもよい。
【0064】
[半導体装置の製造方法]
さらに、上述の本発明の反射型マスク60を用い、上記転写パターン(吸収体膜パターン5a)を転写対象、たとえば半導体基板上のレジスト膜に露光転写することにより、欠陥の少ない高品質の半導体装置を製造することができる。本発明の導電膜付き基板を用いた反射型マスク60を用いてパターン転写を行うことにより、パターン転写時に、静電チャックを用いて可動式のステージ上に載置した反射型マスク60の位置ずれを生じることなく、高精度なパターン転写を行うことができる。
【0065】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、強固に静電チャックに吸着でき、かつ、容易に静電チャックから脱離可能であり、静電チャックへの着脱によるパーティクルの発生を抑制できる導電膜付き基板を提供することができる。
また、本発明によれば、上記導電膜付き基板を用いた多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、反射型マスクを提供することができる。
【0066】
さらに、この反射型マスクを用いて露光によるパターン転写を行うことにより、高精度なパターン転写を行うことができ、欠陥の少ない高品質の半導体装置を製造することができる。
【実施例0067】
以下、実施例により、本発明の実施形態を更に具体的に説明する。
(実施例1)
基板として、SiO2-TiO2系のガラス基板(大きさが約152.0mm×約152.0mm、厚さが約6.35mmの6インチ角の基板)を準備した。このガラス基板は、機械研磨により、二乗平均平方根粗さ(Rq)で0.25nmの平滑な表面と100nm以下の平坦度を有している。なお、表面粗さは原子間力顕微鏡(AFM)にて測定し、測定領域は1μm×1μmとした。
【0068】
まず、上記基板の裏面に、タンタルからなるTa導電膜を形成した。スパッタリング装置内に上記基板を設置し、タンタル(Ta)ターゲットを用い、キセノン(Xe)ガスをスパッタリングガスとし、スパッタリングによって、膜厚70nmのTa膜を形成した。
【0069】
形成した上記Ta導電膜に対し、回折角2θが30度以上90度以下の範囲において、X線回折を用いた2θ/ω測定によって得られる回折強度が最大となる回折角2θmaxから算出される上記導電膜の結晶子サイズは、21.3nmであった。具体的な測定、算出方法は前記の方法で行った。
【0070】
以上のようにして得られた導電膜付き基板を用いて、静電チャックへの着脱を100回繰り返した後、欠陥検査装置を用いて、導電膜における1.0μm以上の欠陥を検査した。
【0071】
次に、上記と全く同様にして作製した別の導電膜付き基板における導電膜とは反対側の基板表面上に、イオンビームスパッタリング装置を用いて、Si膜(膜厚:4.2nm)とMo膜(膜厚:2.8nm)を一周期として、40周期積層し、最後にSi膜(膜厚:4nm)を形成し、さらにその上に、Ruからなる保護膜(膜厚:2.5nm)を成膜して、多層反射膜付き基板を得た。
【0072】
続いて、DCマグネトロンスパッタリング装置を用いて、上記多層反射膜付き基板の保護膜上に、TaBN膜(膜厚:56nm)とTaBO膜(膜厚:14nm)の積層膜からなる吸収体膜を形成した。以上のようにして反射型マスクブランクを得た。
【0073】
次に、この反射型マスクブランクを用いて、反射型マスクを作製した。
まず、反射型マスクブランク上に電子線描画用レジストをスピンコーティング法により塗布し、ベーキングしてレジスト膜を形成した。このレジスト膜に対して電子線により所定のマスクパターンを描画、現像を行い、レジストパターンを形成した。
【0074】
このレジストパターンをマスクとし、吸収体膜に対してフッ素系ガス(CF4ガス)によりTaBO膜を、塩素系ガス(Cl2ガス)によりTaBN膜をエッチング除去して、保護膜上に吸収体膜パターンを形成した。
さらに、吸収体膜パターン上に残ったレジストパターンを熱硫酸で除去し、反射型マスクを得た。
【0075】
こうして得られた本実施例の反射型マスクを露光装置内の静電チャックによって可動式のステージ上にセットし、レジスト膜を形成した半導体基板上へのパターン転写を行った。
【0076】
(実施例2)
実施例1と同様にして用意した基板の裏面に、タンタルおよび窒素からなるTaN導電膜を形成した。スパッタリング装置内に上記基板を設置し、タンタル(Ta)ターゲットを用い、キセノン(Xe)および窒素(N2)の混合ガス(流量比(%) Xe:N2=60:40)をスパッタリングガスとし、反応性スパッタリングによって、膜厚70nmのTaN膜(組成比 Ta:N=81原子%:19原子%)を形成した。
【0077】
形成した上記TaN導電膜に対し、回折角2θが30度以上90度以下の範囲において、X線回折を用いた2θ/ω測定によって得られる回折強度が最大となる回折角2θmaxから算出される上記導電膜の結晶子サイズは、2.9nmであった。
【0078】
以上のようにして得られた導電膜付き基板を用いて、実施例1と同様に、静電チャックへの着脱を100回繰り返した後、欠陥検査装置を用いて、導電膜における1.0μm以上の欠陥を検査した。
【0079】
次に、上記と全く同様にして作製した別の導電膜付き基板における導電膜とは反対側の基板表面上に、実施例1と同様にして、多層反射膜、保護膜および吸収体膜を順に成膜して、反射型マスクブランクを得た。
次に、この反射型マスクブランクを用いて、実施例1と同様にして、実施例2の反射型マスクを作製した。
【0080】
こうして得られた実施例2の反射型マスクを露光装置内の静電チャックによって可動式のステージ上にセットし、レジスト膜を形成した半導体基板上へのパターン転写を行った。
【0081】
(実施例3)
実施例1と同様にして用意した基板の裏面に、タンタルおよび窒素からなるTaN導電膜を形成した。スパッタリング装置内に上記基板を設置し、タンタル(Ta)ターゲットを用い、キセノン(Xe)および窒素(N2)の混合ガス(流量比(%) Xe:N2=47:53)をスパッタリングガスとし、反応性スパッタリングによって、膜厚70nmのTaN膜(組成比 Ta:N=71原子%:29原子%)を形成した。
【0082】
形成した上記TaN導電膜に対し、回折角2θが30度以上90度以下の範囲において、X線回折を用いた2θ/ω測定によって得られる回折強度が最大となる回折角2θmaxから算出される上記導電膜の結晶子サイズは、7.0nmであった。
【0083】
以上のようにして得られた導電膜付き基板を用いて、実施例1と同様に、静電チャックへの着脱を100回繰り返した後、欠陥検査装置を用いて、導電膜における1.0μm以上の欠陥を検査した。
【0084】
次に、上記と全く同様にして作製した別の導電膜付き基板における導電膜とは反対側の基板表面上に、実施例1と同様にして、多層反射膜、保護膜および吸収体膜を順に成膜して、反射型マスクブランクを得た。
次に、この反射型マスクブランクを用いて、実施例1と同様にして、実施例3の反射型マスクを作製した。
【0085】
こうして得られた実施例3の反射型マスクを露光装置内の静電チャックによって可動式のステージ上にセットし、レジスト膜を形成した半導体基板上へのパターン転写を行った。
【0086】
(実施例4)
実施例1と同様にして用意した基板の裏面に、タンタルおよび窒素からなるTaN導電膜を形成した。スパッタリング装置内に上記基板を設置し、タンタル(Ta)ターゲットを用い、キセノン(Xe)および窒素(N2)の混合ガス(流量比(%) Xe:N2=39:61)をスパッタリングガスとし、反応性スパッタリングによって、膜厚70nmのTaN膜(組成比 Ta:N=65原子%:35原子%)を形成した。
【0087】
形成した上記TaN導電膜に対し、回折角2θが30度以上90度以下の範囲において、X線回折を用いた2θ/ω測定によって得られる回折強度が最大となる回折角2θmaxから算出される上記導電膜の結晶子サイズは、16.8nmであった。
【0088】
以上のようにして得られた導電膜付き基板を用いて、実施例1と同様に、静電チャックへの着脱を100回繰り返した後、欠陥検査装置を用いて、導電膜における1.0μm以上の欠陥を検査した。
【0089】
次に、上記と全く同様にして作製した別の導電膜付き基板における導電膜とは反対側の基板表面上に、実施例1と同様にして、多層反射膜、保護膜および吸収体膜を順に成膜して、反射型マスクブランクを得た。
次に、この反射型マスクブランクを用いて、実施例1と同様にして、実施例4の反射型マスクを作製した。
【0090】
こうして得られた実施例4の反射型マスクを露光装置内の静電チャックによって可動式のステージ上にセットし、レジスト膜を形成した半導体基板上へのパターン転写を行った。
【0091】
(実施例5)
実施例1と同様にして用意した基板の裏面に、タンタルおよび窒素からなるTaN導電膜を形成した。スパッタリング装置内に上記基板を設置し、タンタル(Ta)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)および窒素(N2)の混合ガス(流量比(%) Ar:N2=60:40)をスパッタリングガスとし、反応性スパッタリングによって、膜厚70nmのTaN膜(組成比 Ta:N=73原子%:27原子%)を形成した。
【0092】
形成した上記TaN導電膜に対し、回折角2θが30度以上90度以下の範囲において、X線回折を用いた2θ/ω測定によって得られる回折強度が最大となる回折角2θmaxから算出される上記導電膜の結晶子サイズは、4.8nmであった。
【0093】
以上のようにして得られた導電膜付き基板を用いて、実施例1と同様に、静電チャックへの着脱を100回繰り返した後、欠陥検査装置を用いて、導電膜における1.0μm以上の欠陥を検査した。
【0094】
次に、上記と全く同様にして作製した別の導電膜付き基板における導電膜とは反対側の基板表面上に、実施例1と同様にして、多層反射膜、保護膜および吸収体膜を順に成膜して、反射型マスクブランクを得た。
次に、この反射型マスクブランクを用いて、実施例1と同様にして、実施例5の反射型マスクを作製した。
【0095】
こうして得られた実施例5の反射型マスクを露光装置内の静電チャックによって可動式のステージ上にセットし、レジスト膜を形成した半導体基板上へのパターン転写を行った。
【0096】
(実施例6)
実施例1と同様にして用意した基板の裏面に、タンタルおよび窒素からなるTaN導電膜を形成した。スパッタリング装置内に上記基板を設置し、タンタル(Ta)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)および窒素(N2)の混合ガス(流量比(%) Ar:N2=53:47)をスパッタリングガスとし、反応性スパッタリングによって、膜厚70nmのTaN膜(組成比 Ta:N=64原子%:36原子%)を形成した。
【0097】
形成した上記TaN導電膜に対し、回折角2θが30度以上90度以下の範囲において、X線回折を用いた2θ/ω測定によって得られる回折強度が最大となる回折角2θmaxから算出される上記導電膜の結晶子サイズは、5.5nmであった。
【0098】
以上のようにして得られた導電膜付き基板を用いて、実施例1と同様に、静電チャックへの着脱を100回繰り返した後、欠陥検査装置を用いて、導電膜における1.0μm以上の欠陥を検査した。
【0099】
次に、上記と全く同様にして作製した別の導電膜付き基板における導電膜とは反対側の基板表面上に、実施例1と同様にして、多層反射膜、保護膜および吸収体膜を順に成膜して、反射型マスクブランクを得た。
次に、この反射型マスクブランクを用いて、実施例1と同様にして、実施例6の反射型マスクを作製した。
【0100】
こうして得られた実施例6の反射型マスクを露光装置内の静電チャックによって可動式のステージ上にセットし、レジスト膜を形成した半導体基板上へのパターン転写を行った。
【0101】
(実施例7)
実施例1と同様にして用意した基板の裏面に、タンタルおよび窒素からなるTaN導電膜を形成した。スパッタリング装置内に上記基板を設置し、タンタル(Ta)ターゲットを用い、キセノン(Xe)および窒素(N2)の混合ガス(流量比(%) Xe:N2=52:48)をスパッタリングガスとし、反応性スパッタリングによって、膜厚70nmのTaN膜(組成比 Ta:N=75原子%:25原子%)を形成した。
【0102】
形成した上記TaN導電膜に対し、回折角2θが30度以上90度以下の範囲において、X線回折を用いた2θ/ω測定によって得られる回折強度が最大となる回折角2θmaxから算出される上記導電膜の結晶子サイズは、5.6nmであった。
【0103】
以上のようにして得られた導電膜付き基板を用いて、実施例1と同様に、静電チャックへの着脱を100回繰り返した後、欠陥検査装置を用いて、導電膜における1.0μm以上の欠陥を検査した。
【0104】
次に、上記と全く同様にして作製した別の導電膜付き基板における導電膜とは反対側の基板表面上に、実施例1と同様にして、多層反射膜、保護膜および吸収体膜を順に成膜して、反射型マスクブランクを得た。
次に、この反射型マスクブランクを用いて、実施例1と同様にして、実施例7の反射型マスクを作製した。
【0105】
こうして得られた実施例7の反射型マスクを露光装置内の静電チャックによって可動式のステージ上にセットし、レジスト膜を形成した半導体基板上へのパターン転写を行った。
【0106】
(実施例8)
実施例1と同様にして用意した基板の裏面に、クロム、酸素および窒素からなるCrON導電膜を形成した。スパッタリング装置内に上記基板を設置し、クロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)、酸素(O2)および窒素(N2)の混合ガス(流量比(%) Ar:O2:N2=50:29:21)をスパッタリングガスとし、反応性スパッタリングによって、膜厚70nmのCrON膜(組成比 Cr:O:N=75原子%:15原子%:10原子%)を形成した。
【0107】
形成した上記CrON導電膜に対し、回折角2θが30度以上90度以下の範囲において、X線回折を用いた2θ/ω測定によって得られる回折強度が最大となる回折角2θmaxから算出される上記導電膜の結晶子サイズは、4.6nmであった。
【0108】
以上のようにして得られた導電膜付き基板を用いて、実施例1と同様に、静電チャックへの着脱を100回繰り返した後、欠陥検査装置を用いて、導電膜における1.0μm以上の欠陥を検査した。
【0109】
次に、上記と全く同様にして作製した別の導電膜付き基板における導電膜とは反対側の基板表面上に、実施例1と同様にして、多層反射膜、保護膜および吸収体膜を順に成膜して、反射型マスクブランクを得た。
次に、この反射型マスクブランクを用いて、実施例1と同様にして、実施例8の反射型マスクを作製した。
【0110】
こうして得られた実施例8の反射型マスクを露光装置内の静電チャックによって可動式のステージ上にセットし、レジスト膜を形成した半導体基板上へのパターン転写を行った。
【0111】
(比較例1)
実施例1と同様にして用意した基板の裏面に、タンタルおよび窒素からなるTaN導電膜を形成した。スパッタリング装置内に上記基板を設置し、タンタル(Ta)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)および窒素(N2)の混合ガス(流量比(%) Ar:N2=65:35)をスパッタリングガスとし、反応性スパッタリングによって、膜厚70nmのTaN膜(組成比 Ta:N=75原子%:25原子%)を形成した。
【0112】
形成した上記TaN導電膜に対し、回折角2θが30度以上90度以下の範囲において、X線回折を用いた2θ/ω測定によって得られる回折強度が最大となる回折角2θmaxから算出される上記導電膜の結晶子サイズは、2.0nmであった。
【0113】
以上のようにして得られた導電膜付き基板を用いて、実施例1と同様に、静電チャックへの着脱を100回繰り返した後、欠陥検査装置を用いて、導電膜における1.0μm以上の欠陥を検査した。
【0114】
次に、上記と全く同様にして作製した別の導電膜付き基板における導電膜とは反対側の基板表面上に、実施例1と同様にして、多層反射膜、保護膜および吸収体膜を順に成膜して、反射型マスクブランクを得た。
次に、この反射型マスクブランクを用いて、実施例1と同様にして、比較例1の反射型マスクを作製した。
【0115】
こうして得られた比較例1の反射型マスクを露光装置内の静電チャックによって可動式のステージ上にセットし、レジスト膜を形成した半導体基板上へのパターン転写を行った。
【0116】
(比較例2)
実施例1と同様にして用意した基板の裏面に、タンタルおよび窒素からなるTaN導電膜を形成した。スパッタリング装置内に上記基板を設置し、タンタル(Ta)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)および窒素(N2)の混合ガス(流量比(%) Ar:N2=72:28)をスパッタリングガスとし、反応性スパッタリングによって、膜厚70nmのTaN膜(組成比 Ta:N=81原子%:19原子%)を形成した。
【0117】
形成した上記TaN導電膜に対し、回折角2θが30度以上90度以下の範囲において、X線回折を用いた2θ/ω測定によって得られる回折強度が最大となる回折角2θmaxから算出される上記導電膜の結晶子サイズは、1.8nmであった。
【0118】
以上のようにして得られた導電膜付き基板を用いて、実施例1と同様に、静電チャックへの着脱を100回繰り返した後、欠陥検査装置を用いて、導電膜における1.0μm以上の欠陥を検査した。
【0119】
次に、上記と全く同様にして作製した別の導電膜付き基板における導電膜とは反対側の基板表面上に、実施例1と同様にして、多層反射膜、保護膜および吸収体膜を順に成膜して、反射型マスクブランクを得た。
次に、この反射型マスクブランクを用いて、実施例1と同様にして、比較例2の反射型マスクを作製した。
【0120】
こうして得られた比較例2の反射型マスクを露光装置内の静電チャックによって可動式のステージ上にセットし、レジスト膜を形成した半導体基板上へのパターン転写を行った。
【0121】
上記したように、実施例1~8および比較例1~2において、導電膜付き基板を、静電チャックへの着脱を100回繰り返した後、欠陥検査装置を用いて、導電膜における1.0μm以上の欠陥を検査した結果、実施例1~8の各導電膜付き基板では、いずれも、1.0μm以上の欠陥は3個未満と無視できるほどに少なかった。つまり、パーティクルの発生を抑制できた。なお、上記欠陥の個数は、1つの導電膜付き基板(1枚の導電膜)あたりの欠陥の個数である。比較例も同様である。
一方、比較例1~2の各導電膜付き基板では、いずれも1.0μm以上の欠陥は、100個以上と大きな値となり、パーティクルの発生が多かった。
【0122】
また、上記したように、実施例1~8の各反射型マスクを用いて、半導体基板上へのパターン転写を行った結果、反射型マスクを搭載するステージの移動速度を速くした場合でも位置ずれを生じることなく、高精度なパターン転写を行うことができた。
一方、比較例1~2の各反射型マスクを用いて、半導体基板上へのパターン転写を行った結果、反射型マスクを搭載するステージの移動速度を速くすると位置ずれが生じ、高精度なパターン転写を行うことができなかった。
【0123】
以上説明した実施例から明らかなように、本発明の導電膜付き基板によれば、強固に静電チャックに吸着でき、かつ、容易に静電チャックから脱離可能であり、静電チャックへの着脱によるパーティクルの発生を抑制することができる。
また、本発明の導電膜付き基板を適用した反射型マスクを用いて露光によるパターン転写を行うことにより、高精度なパターン転写を行うことができ、欠陥の少ない高品質の半導体装置を製造することができる。