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特開2024-142247インクジェットインク組成物および記録物の製造方法
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  • 特開-インクジェットインク組成物および記録物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142247
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】インクジェットインク組成物および記録物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/322 20140101AFI20241003BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20241003BHJP
   C09C 1/40 20060101ALI20241003BHJP
   C09C 3/08 20060101ALI20241003BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C09D11/322
B41M5/00 120
C09C1/40
C09C3/08
B41J2/01 501
B41J2/01 125
B41M5/00 134
B41M5/00 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054357
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】木田 浩明
(72)【発明者】
【氏名】浅井 伸太朗
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J037
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FC01
2C056HA46
2H186AB12
2H186BA08
2H186DA08
2H186FA09
2H186FA18
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB56
2H186FB58
4J037AA05
4J037CB22
4J037EE02
4J037EE25
4J037EE28
4J037EE43
4J037FF25
4J039AB02
4J039AD09
4J039AE04
4J039AE06
4J039BA06
4J039BA32
4J039BC07
4J039BC08
4J039BC09
4J039BC13
4J039BE01
4J039BE12
4J039CA02
4J039EA44
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】保存安定性に優れるとともに、4.3kHz以上という高周波数帯でのインクジェット法による吐出安定性に優れるインクジェットインク組成物を提供すること。
【解決手段】本発明のインクジェットインク組成物は、記録媒体に向けてインクジェットヘッドからインクジェット法により吐出して記録物の製造に用いられるものであり、平板状アルミニウム顔料と有機溶剤とを含有し、平板状アルミニウム顔料は、厚さが20nm未満で、かつ、表面処理剤による表面処理をされたものであり、インクジェットインク組成物は、記録物の製造において、吐出周波数が4.3kHz以上である前記インクジェットヘッドから吐出され、記録媒体に付着した後に加熱される加熱工程に供されるものであり、平板状アルミニウム顔料は、インクジェットインク組成物を用いて所定の条件で製造した乾燥塗膜の60°光沢度が450以上となるように表面処理が施されたものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に向けて、インクジェットヘッドからインクジェット法により吐出して、記録物の製造に用いられるインクジェットインク組成物であって、
平板状アルミニウム顔料と、有機溶剤と、を含有し、
前記平板状アルミニウム顔料は、厚さが20nm未満で、かつ、表面処理剤による表面処理をされたものであり、
前記インクジェットインク組成物は、前記記録物の製造において、吐出周波数が4.3kHz以上である前記インクジェットヘッドから吐出され、前記記録媒体に付着した後に加熱される加熱工程に供されるものであり、
前記平板状アルミニウム顔料は、前記インクジェットインク組成物を、単位面積当たりの乾燥後の塗布量が0.3g/mとなるように、モノメリックカレンダー塩ビ上に、バーコーターで塗布した後、55℃×15分間の加熱処理を施して得られる乾燥塗膜の60°光沢度が450以上となるように表面処理が施されたものである、インクジェットインク組成物。
【請求項2】
前記吐出周波数が10kHz以上である、請求項1に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項3】
前記インクジェットインク組成物を密封容器に入れ、60℃で48時間静置した場合の、前記インクジェットインク組成物:100g当たりの水素発生量が1mL超6mL未満である、請求項1または2に記載のインクジェットインク組成物。
【請求項4】
前記表面処理剤は、下記式(1)で示される化合物および下記式(2)で示される化合物のうちの少なくとも一方である、請求項1または2に記載のインクジェットインク組成物。
(R1)P(O)(OH) (1)
(R2-O)P(O)(OH)3-a (2)
(式中、R1、R2は独立して、置換基で置換されていてもよい炭素数が14以上の炭化水素基であり、aは1または2である。)
【請求項5】
記録媒体に向けてインクジェット法によりインクジェットインク組成物を吐出する吐出工程と、前記インクジェットインク組成物が付着した記録媒体を加熱する加熱工程と、を有する記録物の製造方法であって、
前記インクジェットインク組成物は、平板状アルミニウム顔料と、有機溶剤と、を含有し、
前記平板状アルミニウム顔料は、厚さが20nm未満で、かつ、表面処理剤による表面処理をされたものであり、
前記吐出工程は、吐出周波数が4.3kHz以上であるインクジェットヘッドを用いて行うものであり、
前記インクジェットインク組成物により前記記録媒体上に形成された記録部の60°光沢度が450以上である、記録物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインク組成物および記録物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、一般的な顔料や染料の代わりにアルミニウム顔料を含む組成物が、インクジェット法により記録媒体に付与するインクジェットインク組成物として用いられてきている。
【0003】
各種金属の中でもアルミニウムは高い光沢性を有しており、安価で入手が容易であることから、アルミニウム顔料を含むインクジェットインク組成物が用いられてきている。
【0004】
アルミニウム顔料を含む組成物では、水との反応により、水素ガスを発生し、保存安定性が損なわれることが知られている。
【0005】
このような問題を解決する目的で、アルミニウム顔料を含む組成物を、分散媒として水を用いない非水系組成物とし、その組成を調整すること、特に、強く疎水化されたアルミニウム顔料を含む組成とすることにより、水素ガスの発生を抑制する試みがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-043722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、水分との反応抑制のために強く疎水化されたアルミニウム顔料を含む組成物は、インクジェットヘッドからの吐出時に疎水性相互作用により軟凝集体を形成し、組成物の吐出を不安定化させる。
【0008】
このような現象は、高輝度な平板状アルミニウム顔料を含む場合により顕著となり、特に、高周波数帯での吐出性が不安定化する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することができる。
【0010】
本発明の適用例に係るインクジェットインク組成物は、記録媒体に向けて、インクジェットヘッドからインクジェット法により吐出して、記録物の製造に用いられるインクジェットインク組成物であって、
平板状アルミニウム顔料と、有機溶剤と、を含有し、
前記平板状アルミニウム顔料は、厚さが20nm未満で、かつ、表面処理剤による表面処理をされたものであり、
前記インクジェットインク組成物は、前記記録物の製造において、吐出周波数が4.3kHz以上である前記インクジェットヘッドから吐出され、前記記録媒体に付着した後に加熱される加熱工程に供されるものであり、
前記平板状アルミニウム顔料は、前記インクジェットインク組成物を、単位面積当たりの乾燥後の塗布量が0.3g/mとなるように、モノメリックカレンダー塩ビ上に、バーコーターで塗布した後、55℃×15分間の加熱処理を施して得られる乾燥塗膜の60°光沢度が450以上となるように表面処理が施されたものである。
【0011】
本発明の適用例に係る記録物の製造方法は、記録媒体に向けてインクジェット法によりインクジェットインク組成物を吐出する吐出工程と、前記インクジェットインク組成物が付着した記録媒体を加熱する加熱工程と、を有する記録物の製造方法であって、
前記インクジェットインク組成物は、平板状アルミニウム顔料と、有機溶剤と、を含有し、
前記平板状アルミニウム顔料は、厚さが20nm未満で、かつ、表面処理剤による表面処理をされたものであり、
前記吐出工程は、吐出周波数が4.3kHz以上であるインクジェットヘッドを用いて行うものであり、
前記インクジェットインク組成物により前記記録媒体上に形成された記録部の60°光沢度が450以上である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例1~8および比較例1、2のインクジェットインク組成物の条件、評価結果をまとめて示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
[1]インクジェットインク組成物
まず、本発明のインクジェットインク組成物について説明する。
【0014】
本発明のインクジェットインク組成物は、記録媒体に向けて、インクジェットヘッドからインクジェット法により吐出して、記録物の製造に用いられるものである。特に、記録物の製造において、吐出周波数が4.3kHz以上であるインクジェットヘッドから吐出され、記録媒体に付着した後に加熱される加熱工程に供されるものである。
【0015】
本発明のインクジェットインク組成物は、平板状アルミニウム顔料と、有機溶剤と、を含有する。
【0016】
また、平板状アルミニウム顔料は、厚さが20nm未満で、かつ、表面処理剤による表面処理をされたものである。
【0017】
そして、平板状アルミニウム顔料は、インクジェットインク組成物を、単位面積当たりの乾燥後の塗布量、すなわち、固形分の塗布量が0.3g/mとなるように、モノメリックカレンダー塩ビ上に、バーコーターで塗布した後、55℃×15分間の加熱処理を施して得られる乾燥塗膜の60°光沢度が450以上となるように表面処理が施されたものである。
【0018】
上記のような構成により、保存安定性に優れるとともに、インクジェット法による吐出安定性に優れ、特に、4.3kHz以上という高周波数帯での吐出安定性に優れるインクジェットインク組成物を提供することができる。また、本発明のインクジェットインク組成物は、光沢性に優れる記録部を有する記録物の製造に好適に用いることができる。また、本発明のインクジェットインク組成物を用いることにより、記録物の生産性を優れたものとすることができる。
【0019】
これに対し、上記のような条件を満たさない場合には、満足のいく結果が得られない。
例えば、インクジェットインク組成物がアルミニウム顔料を含むものであっても、平板状アルミニウム顔料を含まない場合には、インクジェットインク組成物を用いて形成される記録部は著しく光沢性に劣ったものとなる。
【0020】
また、インクジェットインク組成物が平板状アルミニウム顔料を含むものであっても、当該アルミニウム顔料の厚さが20nm以上であると、平板状アルミニウム顔料の質量基準含有量を増やさないと、記録媒体上に並ぶ平板状アルミニウム顔料の枚数を十分に増やすことが困難となり、十分な隠蔽性、光沢性を発揮することができない。一方、平板状アルミニウム顔料の質量基準含有量を増やすと、インクジェットインク組成物の保存安定性が低下する。
【0021】
また、平板状アルミニウム顔料が、表面処理剤による表面処理をされていないものであると、インクジェットインク組成物の保存安定性が著しく劣ったものとなる。
【0022】
また、インクジェットインク組成物が高周波数帯での吐出に供されるものでない、より具体的には、吐出周波数が4.3kHz以上であるインクジェットヘッドから吐出されるものでないと、記録物の生産性を十分に優れたものとすることができない。
【0023】
また、インクジェットインク組成物が記録媒体に付着した後に加熱されるものでないと、インクジェットインク組成物による記録部の記録媒体に対する密着性を十分に優れたものとすることができず、例えば、記録物の耐擦性等が著しく劣ったものとなる。また、インクジェットインク組成物が記録媒体に付着した後に加熱処理を施さずに、室温等で長期間放置することも考えられるが、このような場合、記録物の生産性は著しく劣ったものとなる。
【0024】
また、アルミニウム顔料が表面処理を施されたものであっても、上記のような所定の条件でインクジェット法による吐出、加熱工程を行うことにより形成される乾燥塗膜の60°光沢度が450未満であると、インクジェットインク組成物を用いて製造される各種記録物の記録部において、安定的に優れた光沢性を得ることができない。
【0025】
なお、モノメリックカレンダー塩ビとしては、例えば、ORAJET 3165G-010(ORAFOL社製、塩化ビニル)を用いることができる。
【0026】
また、バーコーターとしては、例えば、安田精機社製のROD No.7を用いることができる。
【0027】
[1-1]平板状アルミニウム顔料
本発明のインクジェットインク組成物は、平板状アルミニウム顔料を含んでいる。
【0028】
平板状アルミニウム顔料は、インクジェットインク組成物を用いて製造される記録物において、その外観に大きな影響を与える成分である。特に、平板状アルミニウム顔料は、記録媒体に付着して形成した記録部に光輝性を付与する機能を有する。
【0029】
アルミニウムは、鉄等と比べて低い比重である。これにより、アルミニウムで構成された顔料をインクジェットインク組成物中に分散させた場合の沈降が非常にゆっくり進行するため、濃度むらの発生等を効果的に防止しつつ、より長期間にわたってインクジェットインク組成物を安定的に保管することができる。
【0030】
加えて、インクジェットインク組成物を用いて製造される記録物の生産コストの上昇を抑制しつつ、インクジェットインク組成物を用いて形成される記録部の光沢性、高級感を特に優れたものとすることができる。
【0031】
平板状アルミニウム顔料は主としてアルミニウムで構成されたものであればよく、例えば、アルミニウム以外の成分を不純物として含んでいてもよいが、平板状アルミニウム顔料中におけるアルミニウムの含有量は、90質量%以上であるのが好ましく、95質量%以上であるのがより好ましく、99質量%以上であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0032】
本発明のインクジェットインク組成物は、平板状のアルミニウム顔料、すなわち、平板状アルミニウム顔料を含んでいる。
【0033】
これにより、インクジェットインク組成物が付与される記録媒体上で、アルミニウム顔料の主面が記録媒体の表面形状に沿うように配置することができる。その結果、アルミニウムが本来有している光沢性等を、得られる記録物においても、より効果的に発揮させることができ、記録物の光沢性、高級感を特に優れたものとすることができるとともに、記録物における記録部と記録媒体との密着性を特に優れたものとすることができる。
【0034】
本発明において、平板状とは、所定の角度から観察した際、例えば、平面視した際の面積が、当該観察方向と直交する角度から観察した際の面積よりも大きい形状のことをいう。特に、投影面積が最大となる方向から観察した際、すなわち、平面視した際の面積S[μm]の、当該観察方向と直交する方向のうち観察した際の面積が最大となる方向から観察した際の面積S[μm]に対する比率S/Sが、好ましくは2以上であり、より好ましくは5以上であり、さらに好ましくは8以上である。さらには10以上が好ましく、20以上がより好ましい。S/Sの上限は、特に限定されないが、1000であるのが好ましく、500であるのがより好ましく、100であるのがさらに好ましい。この値としては、例えば、任意の50個の粒子について観察を行い、これらの粒子について算出される値の平均値を採用することができる。観察は、例えば電子顕微鏡、原子間力顕微鏡等を用いて行うことができる。
【0035】
または、後述する体積平均粒子径(D50)と、平均厚さを用い、単位を合わせたうえで、体積平均粒子径(D50)/平均厚さとし、これを上記範囲としてもよい。
【0036】
平板状アルミニウム顔料の厚さは、20nm未満であればよいが、18nm以下であるのが好ましく、16nm以下であるのがより好ましい。これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0037】
平板状アルミニウム顔料の厚さは、原子間力顕微鏡を用いて測定することができる。例えば、NanoNavi E-Sweep(SIIナノテクノロジー社製)を用いた原子間力顕微鏡法により測定することができる。例えば、任意の50個の平板状アルミニウム顔料で測定を行い平均値とする。
【0038】
平板状アルミニウム顔料の体積平均粒子径は、特に限定されないが、0.2μm以上2.0μm以下であるのが好ましく、0.3μm以上1.5μm以下であるのがより好ましい。
【0039】
これにより、インクジェットインク組成物中における平板状アルミニウム顔料の分散安定性、インクジェットインク組成物の保存安定性、吐出安定性等をより優れたものとしつつ、インクジェットインク組成物を用いて製造される記録物における不本意な色むらの発生等をより効果的に防止し、記録物における記録部の密着性、光沢性をより優れたものとすることができる。
【0040】
なお、本発明において、体積平均粒子径とは、粒子分散液をレーザー回折・散乱法を用いて測定された体積分布のメジアン径のことを指し、多数個の測定結果を大きさ毎の存在比率の累積として表した場合に、累積でちょうど中央値の50%を示す粒子のサイズである。平板状アルミニウム顔料の粒子径は、当該平板状アルミニウム顔料の投影面積と同じ投影面積を持つ円と想定したときの当該円の直径である。
【0041】
平板状アルミニウム顔料は、インクジェットインク組成物中において、後に詳述する表面処理剤により表面修飾されている。より具体的には、平板状アルミニウム顔料の表面のOH基が表面処理剤と反応することにより、平板状アルミニウム顔料と表面処理剤とが共有結合または水素結合により結合しているものと考えられる。
【0042】
平板状アルミニウム顔料は、インクジェットインク組成物を、単位面積当たりの乾燥後の塗布量、すなわち、固形分の塗布量が0.3g/mとなるように、モノメリックカレンダー塩ビ上に、バーコーターで塗布した後、55℃×15分間の加熱処理を施して得られる乾燥塗膜の60°光沢度が450以上となるように表面処理が施されたものであるが、当該光沢度は、455以上600以下であるのが好ましく、460以上580以下であるのがより好ましく、465以上530以下であるのがさらに好ましい。
【0043】
これにより、インクジェットインク組成物を用いて製造される各種記録物の記録部において、より安定的に優れた光沢性を得ることができるとともに、前記記録部の光沢性をより優れたものとすることができる。また、インクジェットインク組成物を用いて形成される記録部の光沢性と、インクジェットインク組成物の保存安定性および高周波数帯での吐出安定性とをより高いレベルで両立することができる。
【0044】
上記光沢度は、表面処理剤として、表面処理剤が後述する[1-2]の条件を満たす場合に、好適に実現することができる。
【0045】
平板状アルミニウム顔料は、外観上視認される部位の少なくとも一部が主としてアルミニウムで構成されていればよいが、少なくとも、外表面付近が主としてアルミニウムで構成されているのが好ましく、平板状アルミニウム顔料全体が主としてアルミニウムで構成されているのがより好ましい。ただし、平板状アルミニウム顔料の表面に不働態膜のような酸化被膜等が形成されていてもよい。
【0046】
インクジェットインク組成物中における平板状アルミニウム顔料の含有量は、特に限定されないが、0.10質量%以上10.0質量%以下であるのが好ましく、0.20質量%以上5.0質量%以下であるのがより好ましく、0.30質量%以上2.5質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0047】
これにより、インクジェットインク組成物中における平板状アルミニウム顔料の分散安定性、インクジェットインク組成物の保存安定性、吐出安定性等をより優れたものとしつつ、インクジェットインク組成物を用いて製造される記録物における不本意な色むらの発生等をより効果的に防止し、記録物における記録部の密着性、光沢性をより優れたものとすることができる。
【0048】
平板状アルミニウム顔料は、いかなる方法で製造されたものであってもよいが、気相成膜法により主としてアルミニウムで構成された膜を形成し、その後、当該膜を粉砕することにより得られたものであるのが好ましい。これにより、本発明のインクジェットインク組成物を用いて形成される記録部において、アルミニウムが本来有している光沢性等をより効果的に表現させることができる。また、各粒子間での特性のばらつきを抑制することができる。また、当該方法を用いることにより、平板状アルミニウム顔料が比較的薄いものであっても好適に製造することができる。
【0049】
このような方法を用いて平板状アルミニウム顔料を製造する場合、例えば、基材上に、主としてアルミニウムで構成された膜の形成を行うことにより、平板状アルミニウム顔料を好適に製造することができる。前記基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のプラスチックフィルム等を用いることができる。また、基材は、成膜面に離型剤層を有するものであってもよい。
【0050】
また、前記粉砕は、液体中において、前記膜に超音波振動を付与することにより行われるものであるのが好ましい。これにより、前述したような粒子径の平板状アルミニウム顔料を容易かつ確実に得ることができるとともに、平板状アルミニウム顔料の各粒子間での大きさ、形状、特性のばらつきの発生を抑制することができる。
【0051】
また、上記のような方法で、粉砕を行う場合、前記液体としては、アルコール化合物、炭化水素系化合物、エーテル系化合物や、プロピレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサノン、アセトニトリル等の極性化合物を好適に用いることができる。このような液体を用いることにより、平板状アルミニウム顔料の不本意な酸化等を防止しつつ、平板状アルミニウム顔料の生産性を特に優れたものとし、また、各粒子間での大きさ、形状、特性のばらつきを特に小さいものとすることができる。
【0052】
アルコール化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等が挙げられる。また、炭化水素系化合物としては、例えば、n-ヘプタン、n-オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、トルエン、キシレン、シメン、デュレン、インデン、ジペンテン、テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレン、シクロヘキシルベンゼン等が挙げられる。また、エーテル系化合物としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールn-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、ビス(2-メトキシエチル)エーテル、p-ジオキサン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0053】
[1-2]表面処理剤
前述した平板状アルミニウム顔料は、表面処理剤により表面修飾されている。
【0054】
本発明のインクジェットインク組成物において、表面処理剤は、平板性アルミニウム顔料が水と反応することにより水素ガスを発生することを好適に防止し、インクジェットインク組成物の保存安定性を優れたものとしつつ、インクジェット法によるインクジェットインク組成物の吐出安定性、特に、高周波数帯での吐出安定性を優れたものとすることができるように、平板性アルミニウム顔料を表面修飾するものである。
【0055】
表面処理剤としては、例えば、アルキルリン酸エステル、アルキルホスホン酸等を用いることができるが、下記式(1)で示される化合物および下記式(2)で示される化合物のうちの少なくとも一方であるのが好ましい。
【0056】
(R1)P(O)(OH) (1)
(R2-O)P(O)(OH)3-a (2)
(式中、R1、R2は独立して、置換基で置換されていてもよい炭素数が14以上の炭化水素基であり、aは1または2である。)
【0057】
これにより、インクジェットインク組成物中における平板状アルミニウム顔料の分散安定性、インクジェットインク組成物の保存安定性、インクジェットインク組成物のインクジェット法による吐出安定性(特に、高周波数帯での吐出安定性)、インクジェットインク組成物を用いて形成される記録部の光沢性をより優れたものとすることができる。このような特に優れた効果が得られるのは、以下のような理由によると考えられる。すなわち、上記のような表面処理剤は、平板状アルミニウム顔料の表面との間でより強力な水素結合を形成するため、平板状アルミニウム顔料の分散安定性に大きく寄与し、インクジェット法による吐出安定性も向上するためであると考えられる。
【0058】
上記式(1)中のR1、上記式(2)中のR2の炭素数は、14以上であればよいが、14以上30以下であるのが好ましく、14以上26以下であるのがより好ましく、14以上20以下であるのがさらに好ましい。
【0059】
これにより、インクジェットインク組成物中における平板状アルミニウム顔料の分散安定性、インクジェットインク組成物の保存安定性、インクジェット法による吐出安定性(特に、高周波数帯での吐出安定性)をさらに優れたものとすることができるとともに、インクジェットインク組成物を用いて形成される記録部の光沢性、記録媒体との密着性をさらに優れたものとすることができる。
【0060】
本発明のインクジェットインク組成物は、表面処理剤として、複数種の化合物を含んでいてもよい。このような場合、同一の粒子に複数種の表面処理剤による表面処理が施されていてもよい。また、本発明のインクジェットインク組成物は、平板状アルミニウム顔料として、互いに異なる表面処理剤で表面処理された粒子を含んでいてもよい。
【0061】
表面処理剤による平板状アルミニウム顔料への表面処理は、例えば、前述したように、気相成膜法により形成した、主としてアルミニウムで構成された膜を液体中で粉砕して平板状アルミニウム顔料を形成する際に、当該液体中に表面処理剤を含ませておくことにより行うものであってもよい。
【0062】
同一の粒子に対し、複数種の表面処理剤による表面処理を施す場合、各表面処理剤に対応する複数の工程に分けて表面処理を行ってもよいし、同一工程で、複数種の表面処理剤による表面処理を行ってもよい。
【0063】
インクジェットインク組成物中において、表面処理剤は、少なくとも一部が平板状アルミニウム顔料の表面に付着していればよく、平板状アルミニウム顔料の表面に付着していないもの、例えば、遊離状態のものを含んでいてもよい。
【0064】
インクジェットインク組成物中における表面処理剤の含有量は、特に限定されないが、0.01質量%以上1.5質量%以下であるのが好ましく、0.03質量%以上1.0質量%以下であるのがより好ましく、0.05質量%以上0.8質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0065】
これにより、インクジェットインク組成物中における平板状アルミニウム顔料の分散安定性、インクジェットインク組成物の保存安定性、インクジェット法による吐出安定性(特に、高周波数帯での吐出安定性)、インクジェットインク組成物を用いて形成される記録部の光沢性、インクジェットインク組成物を用いて製造される記録物における記録部と記録媒体との密着性をさらに優れたものとすることができる。
【0066】
インクジェットインク組成物中における表面処理剤の含有量は、特に限定されないが、平板状アルミニウム顔料:100質量部に対して、1.0質量部以上50質量部以下であるのが好ましく、1.5質量部以上40質量部以下であるのがより好ましく、2.0質量部以上30質量部以下であるのがさらに好ましい。
【0067】
これにより、インクジェットインク組成物中における平板状アルミニウム顔料の分散安定性、インクジェットインク組成物の保存安定性、インクジェット法による吐出安定性(特に、高周波数帯での吐出安定性)、インクジェットインク組成物を用いて形成される記録部の光沢性、インクジェットインク組成物を用いて製造される記録物における記録部と記録媒体との密着性をさらに優れたものとすることができる。
【0068】
インクジェットインク組成物を構成する平板状アルミニウム顔料を、表面処理剤で表面修飾する際には、例えば、加熱処理を施してもよい。
【0069】
これにより、平板状アルミニウム顔料の表面のOH基が表面処理剤との反応をより好適に進行させることができ、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0070】
インクジェットインク組成物を構成する平板状アルミニウム顔料を、表面処理剤で表面修飾する際に、加熱処理を施す場合、加熱温度は、40℃以上80℃以下であるのが好ましく、45℃以上75℃以下であるのがより好ましく、50℃以上70℃以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0071】
インクジェットインク組成物を構成する平板状アルミニウム顔料を、表面処理剤で表面修飾する際には、平板状アルミニウム顔料および表面処理剤を含む液体に超音波振動を付与してもよい。
【0072】
これにより、平板状アルミニウム顔料の表面のOH基が表面処理剤との反応をより好適に進行させることができ、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0073】
インクジェットインク組成物を構成する平板状アルミニウム顔料を、表面処理剤で表面修飾する際に、平板状アルミニウム顔料および表面処理剤を含む液体に超音波振動を付与する場合、当該超音波の振動数は、20kHz以上50kHz以下であるのが好ましく、22kHz以上45kHz以下であるのがより好ましく、24kHz以上40kHz以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0074】
[1-3]有機溶剤
本発明のインクジェットインク組成物は、通常、平板状アルミニウム顔料を分散させる分散媒として機能する有機溶剤を含有している。
【0075】
有機溶剤は、それ単独で、液状をなす成分である。
有機溶剤は、平板状アルミニウム顔料を分散させる分散媒として機能するとともに、平板状アルミニウム顔料以外の成分の少なくとも一部を分散する分散媒や、平板状アルミニウム顔料以外の成分の少なくとも一部を溶解する溶媒として機能してもよい。
【0076】
インクジェットインク組成物が有機溶剤を含むことにより、インクジェット法によるインクジェットインク組成物の吐出を好適に行うことが可能となり、インクジェットインク組成物を記録媒体に好適に付着させることができる。
【0077】
有機溶剤としては、例えば、アルコール化合物、炭化水素系化合物、エーテル系化合物、ケトン化合物、エステル化合物や、プロピレンカーボネート、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサノン、アセトニトリル等の極性化合物を好適に用いることができる。
【0078】
アルコール化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等の1価アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-ヘキサンジオール等の多価アルコール等が挙げられる。また、炭化水素系化合物としては、例えば、n-ヘプタン、n-オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカン、トルエン、キシレン、シメン、デュレン、インデン、ジペンテン、テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレン、シクロヘキシルベンゼン等が挙げられる。また、エーテル系化合物としては、例えば、グリコールエーテル化合物等が挙げられ、好ましい。グリコールエーテル化合物としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールn-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、ビス(2-メトキシエチル)エーテル等が挙げられる。エーテル系化合物としては他にも、p-ジオキサン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。また、ケトン化合物としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等が挙げられる。また、エステル化合物としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。エステル化合物としては、環状エステル化合物も挙げられる。環状エステル化合物としては、例えば、γ-ブチロラクトン等のラクトン化合物が挙げられ、好ましい。
【0079】
インクジェットインク組成物中に含まれる有機溶剤は、エーテル化合物、エステル化合物、ケトン化合物およびアルコール化合物よりなる群から選択される1種または2種以上を含むのが好ましい。特に、エーテル化合物およびエステル化合物よりなる群から選択される少なくとも1種を含むのが好ましく、グリコールエーテル化合物、環状エステル化合物であるのがより好ましく、グリコールエーテル化合物がさらに好ましい。
【0080】
中でも、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテルおよびγ-ブチロラクトンよりなる群から選択される1種または2種以上を含むのがより好ましい。
【0081】
これにより、インクジェットインク組成物中における平板状アルミニウム顔料の分散安定性、インクジェットインク組成物の保存安定性、インクジェットインク組成物のインクジェット法による吐出安定性、インクジェットインク組成物を用いて形成される記録部の光沢性、インクジェットインク組成物を用いて製造される記録物における記録媒体と記録部との密着性をより優れたものとすることができる。また、インクジェットインク組成物の保湿性を向上させることができ、インクジェットヘッド等での乾燥等により、インクジェットインク組成物の固形分が不本意に析出してしまうこと等をより効果的に防止することができる。また、インクジェットインク組成物の粘度をより好適に調整することができる。
【0082】
インクジェットインク組成物が、有機溶剤として、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテルおよびγ-ブチロラクトンよりなる群から選択される少なくとも1種を含むものである場合、インクジェットインク組成物中に含まれる全有機溶剤中における上記3成分の占める割合は、70質量%以上であるのが好ましく、90質量%以上であるのがより好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0083】
本発明のインクジェットインク組成物中における有機溶剤の含有量は、特に限定されないが、60.0質量%以上99.7質量%以下であるのが好ましく、70.0質量%以上99.5質量%以下であるのがより好ましく、75.0質量%以上99.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0084】
これにより、インクジェットインク組成物中における平板状アルミニウム顔料の分散安定性、インクジェットインク組成物のインクジェット法による吐出安定性、インクジェットインク組成物を用いて形成される記録部の光沢性をより優れたものとすることができる。
【0085】
[1-4]その他の成分
本発明のインクジェットインク組成物は、上述した以外の成分を含むものであってもよい。以下、これらの成分を、その他の成分ともいう。このような成分としては、例えば、樹脂材料、レベリング剤、重合促進剤、重合禁止剤、光重合開始剤、分散剤、界面活性剤、浸透促進剤、保湿剤、着色剤、定着剤、防虫剤、防黴剤、防腐剤、抗菌剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、酸化防止剤、キレート剤、紫外線吸収剤、凝集抑制剤、増粘剤、増感剤、可塑剤等が挙げられる。
【0086】
樹脂材料としては、例えば、アクリル系樹脂、エステル系樹脂、ウレタン系樹脂、セルロース系樹脂等が挙げられる。
【0087】
界面活性剤としては、シリコーン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤等が好ましく挙げられる。
【0088】
ただし、本発明のインクジェットインク組成物中におけるその他の成分の含有量は、5.0質量%以下であるのが好ましく、3.0質量%以下であるのがより好ましく、2.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0089】
特に、本発明のインクジェットインク組成物は、水の含有量が十分に低いものであるのが好ましく、より具体的には、水の含有量が1.0質量%以下であるのが好ましく、0.5質量%以下であるのがより好ましく、0.1質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0090】
これにより、インクジェットインク組成物の保存安定性をより優れたものとすることができる。
【0091】
[1-5]その他
本発明のインクジェットインク組成物は、記録物の製造において、吐出周波数が4.3kHz以上であるインクジェットヘッドから吐出されるものであるが、前記吐出周波数は、10kHz以上であるのが好ましく、11kHz以上50kHz以下であるのがより好ましい。
【0092】
これにより、インクジェットインク組成物のインクジェット法による吐出安定性を十分に優れたものとしつつ、記録物の生産性をより優れたものとすることができる。
【0093】
本発明のインクジェットインク組成物を密封容器に入れ、60℃で48時間静置した場合の、前記インクジェットインク組成物:100g当たりの水素発生量は、1mL超6mL未満であるのが好ましく、1.1mL超5.5mL以下であるのがより好ましく、1.2mL超5mL以下であるのがさらに好ましい。
【0094】
これにより、インクジェットインク組成物の保存安定性をより優れたものとすることができる。また、必要以上に水素の発生を抑制していないので、インクジェットインク組成物のインクジェット法による吐出安定性(特に、高周波数帯での吐出安定性)をより確実に優れたものとすることができる。
【0095】
水素発生量の測定に用いる前記密封容器としては、例えば、密封された状態のアズワン社製のアルミラミネート5層のサンプルバッグ(アルミニウムバッグ AAK-1)を用いることができる。
【0096】
インクジェット法による本発明のインクジェットインク組成物による吐出パターンは、特に限定されず、ベタ印刷でもよい。
【0097】
記録物の製造において、本発明のインクジェットインク組成物が付与される記録媒体は、吸収性または非吸収性のいずれを用いてもよく、例えば、普通紙、インクジェット用専用紙等の紙、プラスチック材料、金属、セラミックス、木材、貝殻、綿、ポリエステル、ウール等の天然繊維・合成繊維、不織布等を用いることができる。また、記録媒体は、いかなる形状、大きさのものであってもよく、例えば、板、壁、床、塀、柵、自動車、その他の物品等であってもよい。
【0098】
プラスチック材料からなる記録媒体として、プラスチックフィルム、プラスチックシート等が挙げられる。プラスチックとしては、限定されないが、例えば、塩化ビニル、ポリエステル、ポリレフィン等が挙げられる。ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。
【0099】
回転式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠して測定される、本発明のインクジェットインク組成物の25℃での粘度の上限は、特に限定されないが、25mPa・sであるのが好ましく、15mPa・sであるのがより好ましい。また、回転式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠して測定される、本発明のインクジェットインク組成物の25℃での粘度の下限は、特に限定されないが、1.5mPa・sであるのが好ましい。
【0100】
これにより、例えば、インクジェットインク組成物のインクジェット法による液滴吐出をより好適に行うことができる。
【0101】
[2]記録物の製造方法
次に、本発明の記録物の製造方法について説明する。
【0102】
本発明の記録物の製造方法は、記録媒体に向けてインクジェット法によりインクジェットインク組成物を吐出する吐出工程と、前記インクジェットインク組成物が付着した記録媒体を加熱する加熱工程と、を有する。
【0103】
前記インクジェットインク組成物は、平板状アルミニウム顔料と、有機溶剤と、を含有するものであり、前記平板状アルミニウム顔料は、厚さが20nm未満で、かつ、表面処理剤による表面処理をされたものである。
【0104】
そして、前記吐出工程は、吐出周波数が4.3kHz以上であるインクジェットヘッドを用いて行うものであり、前記インクジェットインク組成物により前記記録媒体上に形成された記録部の60°光沢度が450以上である。
【0105】
これにより、光沢性に優れる記録部を有する記録物を、安定的に優れた生産性で製造することができる。
【0106】
[2-1]吐出工程
吐出工程では、記録媒体に向けてインクジェット法によりインクジェットインク組成物を吐出する。
【0107】
本工程で吐出するインクジェットインク組成物は、平板状アルミニウム顔料と、有機溶剤と、を含有するものであり、前記平板状アルミニウム顔料は、厚さが20nm未満で、かつ、表面処理剤による表面処理をされたものである。
【0108】
本工程で吐出するインクジェットインク組成物は、上記[1]で説明した条件を満たすものであるのが好ましい。
【0109】
インクジェット法の方式としては、ピエゾ方式や、インクを加熱して発生した泡によりインクを吐出させる方式等を用いることができるが、インクジェットインク組成物の変質のし難さ等の観点から、ピエゾ方式が好ましい。
【0110】
本工程で用いるインクジェットヘッドの吐出周波数は、4.3kHz以上であればよいが、10kHz以上であるのが好ましく、11kHz以上50kHz以下であるのがより好ましい。
【0111】
これにより、インクジェットインク組成物のインクジェット法による吐出安定性を十分に優れたものとしつつ、記録物の生産性をより優れたものとすることができる。
【0112】
インクジェット法によるインクジェットインク組成物の吐出は、例えば、公知の液滴吐出装置を用いて行うことができる。
【0113】
インクジェットインク組成物により形成される記録部は、例えば、所定のパターンを有するものであってもよいし、記録媒体の全面に形成されるものであってもよい。
【0114】
[2-2]加熱工程
加熱工程では、インクジェットインク組成物が付着した記録媒体を加熱する。
【0115】
本工程での加熱温度は、35℃以上80℃以下であるのが好ましく、38℃以上70℃以下であるのがより好ましく、40℃以上65℃以下であるのがさらに好ましい。
【0116】
また、記録物の構成材料が不本意に変性すること等を十分に防止しつつ、インクジェットインク組成物による記録部の記録媒体に対する密着性をより優れたものとすることができる。また、記録物の生産性をより優れたものとすることができる。
【0117】
本工程での加熱時間は、1分間以上30分間以下であるのが好ましく、1分間以上20分間以下であるのがより好ましく、1分間以上10分間以下であるのがさらに好ましい。
【0118】
また、記録物の構成材料が不本意に変性すること等を十分に防止しつつ、インクジェットインク組成物による記録部の記録媒体に対する密着性をより優れたものとすることができる。また、記録物の生産性をより優れたものとすることができる。
【0119】
本工程での加熱処理は、加熱温度が一定であってもよいし、変化するものであってもよい。また、本工程での加熱処理は、複数回に分けて行ってもよい。
【0120】
なお、本工程での加熱温度が一定でない場合、35℃以上の加熱処理を施している時間が、上記の条件を満たすのが好ましい。
【0121】
[3]記録物
次に、本発明に係る記録物について説明する。
【0122】
本発明に係る記録物は、上述したようなインクジェットインク組成物を、記録媒体に付与することにより製造されたものであり、上述したような製造方法により好適に得ることができる。
【0123】
このような記録物は、光沢性に優れ、欠陥の発生が効果的に防止された記録部を有するものである。
【0124】
インクジェットインク組成物により記録媒体上に形成された記録部の60°光沢度は、450以上であるのが好ましく、455以上600以下であるのがより好ましく、460以上580以下であるのがさらに好ましく、465以上530以下であるのがもっとも好ましい。
【0125】
これにより、インクジェットインク組成物を用いて形成される記録部の光沢性をより優れたものとすることができる。
【0126】
本発明に係る記録物は、いかなる用途のものであってもよく、例えば、コンソールリッド、スイッチベース、センタークラスター、インテリアパネル、エンブレム、センターコンソール、メーター銘板等の車両用内装品、各種電子機器の操作部、装飾性を発揮する装飾部、指標、ロゴ等の表示物等が挙げられる。
【0127】
以上、本発明について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0128】
例えば、本発明の記録物の製造方法は、前述した吐出工程と加熱工程とを有するものであればよく、さらに他の工程を有していてもよい。このような工程としては、例えば、ドライヤーやブロアーを用いた乾燥工程等が挙げられる。
また、本発明に係る記録物は、前述した方法で製造されたものに限定されない。
【実施例0129】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
[4]インクジェットインク組成物の製造
(実施例1)
まず、表面粗さRaが0.02μm以下で表面が平滑なポリエチレンテレフタレート製のフィルムを基材として用意した。
【0130】
次に、このフィルムの一方の面の全体に、アセトンにより可溶化させた離型樹脂をロールコーターによりコーティングすることで離型層を形成した。
【0131】
離型層が形成されたポリエチレンテレフタレート製のフィルムを5m/sの速度で真空蒸着装置内に搬送し、減圧下において、Alで構成された厚さ12nmの膜を形成した。
【0132】
次に、Alの膜が形成されたポリエチレンテレフタレート製のフィルムを、テトラヒドロフラン中に浸漬し、40kHzの超音波振動を付与することにより、平板状アルミニウム顔料の分散液が得られた。
【0133】
次に、遠心分離機にてテトラヒドロフランを除去し、ジエチレングリコールジエチルエーテルを添加して金属粉末の含有率が5質量%の懸濁液を得た。
【0134】
次に、この懸濁液について、循環型の高出力超音波粉砕機で処理を施すことにより、所定の大きさになるまで平板状アルミニウム顔料を粉砕した。当該処理では、20kHzの超音波を付与した。
【0135】
次に、前記懸濁液に、表面処理剤としての上記式(2)のR2がC1837、aが1の化合物であるステアリルリン酸を加えて混合した。
【0136】
そして、28kHz超音波照射下にて55℃で3時間の熱処理を施すことにより、平板状アルミニウム顔料の表面において表面処理剤を反応させ、表面処理剤で表面修飾された平板状アルミニウム顔料の分散液を得た。
【0137】
その後、得られた平板状アルミニウム顔料の分散液に、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、γ-ブチロラクトンを加え、さらに、アクリル系樹脂であるパラロイドB-60(ロームアンドハース社製)を加え、図1に示す組成のインクジェットインク組成物を得た。
【0138】
このようにして得られたインクジェットインク組成物中に含まれる平板状アルミニウム顔料の体積平均粒子径は0.4μmであり、平均厚さは15nmであった。
【0139】
(実施例2~9)
平板状アルミニウム顔料を図1に示すような構成にするとともに、含有する原料の種類・比率を変更することにより、図1に示すような組成となるようにした以外は、前記実施例1と同様にしてインクジェットインク組成物を製造した。平板状アルミニウム顔料の平均厚さはAlの蒸着時に調整した。平板状アルミニウム顔料の平均粒径は、超音波粉砕の際に、粉砕量を調節し調整した。
【0140】
(比較例1、2)
平板状アルミニウム顔料を図1に示すような構成にするとともに、含有する原料の種類・比率を変更することにより、図1に示すような組成となるようにした以外は、前記実施例1と同様にしてインクジェットインク組成物を製造した。
【0141】
前記各実施例および各比較例のインクジェットインク組成物を構成する平板状アルミニウム顔料の体積平均粒子径D50は、マイクロトラックMT-3300EXII(マイクロトラック・ベル社製、レーザー回析・散乱式粒子径分布測定装置)を用いて測定し、平板状アルミニウム顔料の平均厚さは、前述の原子間力顕微鏡で測定した。また、回転式粘度計を用いて、JIS Z8809に準拠して測定された前記各実施例および各比較例のインクジェットインク組成物の25℃における粘度は、いずれも、1.5mPa・s以上15mPa・s以下の範囲内の値であった。また、前記各実施例および各比較例のインクジェットインク組成物は、いずれも、水の含有量が0.5質量%未満であった。
【0142】
[5]評価
[5-1]インクジェットインク組成物の保存安定性
前記各実施例および各比較例のインクジェットインク組成物を、それぞれ、所定の容器に入れ、60℃の恒温槽で5日間放置した。
【0143】
その後、各インクジェットインク組成物中に含まれる平板状アルミニウム顔料の体積平均粒子径D50は、マイクロトラックMT-3300EXII(マイクロトラック・ベル社製、レーザー回析・散乱式粒子径分布測定装置)を用いて測定し、製造直後の対応するインクジェットインク組成物中に含まれていた平板状アルミニウム顔料の平均粒径と比較し、平均粒径の増加率を求め、以下の基準に従い評価した。平均粒径の増加率が小さいほど、インクジェットインク組成物の保存安定性に優れているといえる。
【0144】
A:平均粒径の増加率が3%未満である。
B:平均粒径の増加率が3%以上5%未満である。
C:平均粒径の増加率が5%以上10%未満である。
D:平均粒径の増加率が10%以上である。
【0145】
[5-2]吐出安定性
前記各実施例および各比較例のインクジェットインク組成物を、それぞれ、所定の容器に入れ、60℃の恒温槽で5日間放置した。
【0146】
その後、サーマルチャンバー内に設置した液滴吐出装置(セイコーエプソン社製のSC-S80650の改造機)を用意し、ピエゾ素子の駆動波形を最適化した状態で、温度25℃、湿度50%の環境下で、前記各実施例および各比較例のインクジェットインク組成物について、インクジェットヘッドの全ノズルから、吐出周波数11.8kHzで、液滴の連続吐出を行った。吐出開始から60秒後の液滴の飛翔画像について、液滴が映っていないもの、初期に吐出した液滴の軌跡から25%以上曲がっているものを数え上げ、まとめてこれを不良ノズル数として、全ノズル数に対する割合を求め、以下の基準に従い評価した。この値が小さいほど吐出安定性に優れているといえる。なお、前記液滴吐出装置は、ノズル径:20μm、圧力室の容積:2900pLで、インク循環構造を有するものである。
【0147】
A:不良ノズル数の割合が1.0%未満である。
B:不良ノズル数の割合が1.0%以上3.0%未満である。
C:不良ノズル数の割合が3.0%以上6.0%未満である。
D:不良ノズル数の割合が6.0%以上である。
【0148】
[5-3]水素発生量
前記各実施例および各比較例のインクジェットインク組成物:50gを、それぞれ、乾燥空気250mLとともに、アルミラミネート5層のサンプルバッグ(アズワン社製、アルミニウムバッグ AAK-1)に入れて密封し、60℃で48時間静置した。
【0149】
その後、水素用検知管を装着したガス採取器により、50mLの気体を採取し、検知管の表示からインクジェットインク組成物:100g当たりの水素発生量を求めた。この値が小さいほど、平板状アルミニウム顔料と水との反応が防止されているといえる。
【0150】
[5-4]バーコーターを用いて形成した乾燥塗膜の光沢性
まず、前記各実施例および各比較例のインクジェットインク組成物を用いて、それぞれ、以下のようにして、乾燥塗膜を形成した。
【0151】
すなわち、まず、バーコーター(安田精機社製、ROD No.7)を用いて、モノメリックカレンダー塩ビであるORAJET 3165G-010(ORAFOL社製、塩化ビニル)の表面に、インクジェットインク組成物を単位面積当たりの乾燥後の塗布量、すなわち、固形分の塗布量が0.3g/mとなるように塗布した。その後、ホットプレートで、55℃×15分間の加熱処理を施して乾燥塗膜を得た。
【0152】
次に、上記のようにして得られた乾燥塗膜について、Konica Minolta社製の光沢度計GM-268Aを用いて、60°光沢度を測定した。
【0153】
[5-5]インクジェット法による記録部の光沢性
まず、前記各実施例および各比較例のインクジェットインク組成物を用いて、それぞれ、以下のようにして、記録物を製造した。
【0154】
すなわち、まず、前記各実施例および各比較例のインクジェットインク組成物を、それぞれ、所定の容器に入れ、60℃の恒温槽で5日間放置した。
【0155】
その後、サーマルチャンバー内に設置した液滴吐出装置を用意し、ピエゾ素子の駆動波形を最適化した状態で、温度25℃、湿度50%の環境下で、前記各実施例および各比較例のインクジェットインク組成物について、インクジェットヘッドの全ノズルから、吐出周波数11.8kHzで、液滴を連続吐出し、記録媒体としてのORAJET 3165G-010(ORAFOL社製、塩化ビニル)に、ベタ印刷を行った。なお、前記液滴吐出装置は、セイコーエプソン社製のSC-S80650の改造機であり、ノズル径:20μm、圧力室の容積:2900pLで、インク循環構造を有するものである。また、ベタ印刷の際には、1パスの主走査方向のドット密度が300dpiになるようにキャリッジ速度を調整し、マルチパス記録を行い最終的な画像の記録解像度は600×600dpiとした。
【0156】
その後、55℃×10分間の加熱処理を施し、ベタ印刷パターンを乾燥させ、記録物を得た。
【0157】
次に、上記の乾燥したベタ印刷パターンである記録部について、Konica Minolta社製の光沢度計GM-268Aを用いて、60°光沢度を測定した。この値が大きいほど、光沢性に優れているといえる。
【0158】
これらの結果を、前記各実施例および各比較例のインクジェットインク組成物の条件とともに、図1にまとめて示した。なお、図1中、ジエチレングリコールジエチルエーテルを「DEDG」、テトラエチレングリコールモノブチルエーテルを「BTGH」、γ-ブチロラクトンを「γBL」、アクリル系樹脂であるパラロイドB-60(ロームアンドハース社製)を「B-60」と示した。
【0159】
図1から明らかなように、本発明では、満足のいく結果が得られたのに対し、各比較例では、いずれも、満足のいく結果が得られなかった。
【0160】
また、前記各実施例について、インクジェットヘッドの吐出周波数を4.3kHzに変更した以外は、上記[5-2]、[5-4]と同様の評価を行ったところ、それぞれ、上記と同様の結果が得られた。
図1