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特開2024-142249ヘテロ二糖の製造に有用な酵素およびそれを用いたヘテロ二糖の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142249
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ヘテロ二糖の製造に有用な酵素およびそれを用いたヘテロ二糖の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/42 20060101AFI20241003BHJP
   C12P 19/12 20060101ALI20241003BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C12N9/42 ZNA
C12P19/12
C12P21/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054359
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(71)【出願人】
【識別番号】000231453
【氏名又は名称】日本食品化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】磯野 直人
(72)【発明者】
【氏名】神田 侑依
(72)【発明者】
【氏名】小川 恵莉
(72)【発明者】
【氏名】柳原 和典
(72)【発明者】
【氏名】石川 涼一
(72)【発明者】
【氏名】高木 宏基
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AF03
4B064AG01
4B064CA19
4B064CA21
4B064CB30
4B064CC24
4B064CD09
4B064DA20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ヘテロ二糖の製造に有用な新規酵素剤およびヘテロ二糖の新規な製造方法の提供。
【解決手段】本発明によれば特定のアミノ酸配列またはその配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質を含んでなる酵素剤と、該酵素剤の存在下で、キシロースと、キシロース以外の単糖とを縮合反応させ、キシロースと前記単糖(好ましくはヘキソース)とからなるヘテロ二糖を得ることを含む、ヘテロ二糖の製造方法が提供される。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)、(b)および(c)からなる群から選択されるタンパク質を含んでなる、酵素剤:
(a)配列番号1のアミノ酸配列を含んでなるタンパク質、
(b)配列番号1のアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、プリメベラーゼ活性を有するタンパク質、および
(c)配列番号1のアミノ酸配列において、1または複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、プリメベラーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項2】
下記の(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)および(G)の特性を有するタンパク質を含んでなる酵素剤:
(A)作用:プリメベロースに作用し、これを加水分解する
(B)分子量(SDS-PAGE)が55±5kDaである
(C)至適pH:5.4~6.8の範囲である
(D)至適温度:20~45℃の範囲である
(E)基質特異性:p-ニトロフェニルβ-d-キシロピラノシドを加水分解する
(F)基質特異性:p-ニトロフェニルβ-d-グルコピラノシド、p-ニトロフェニルβ-d-マンノピラノシド、p-ニトロフェニルβ-d-ガラクトピラノシド、p-ニトロ-N-アセチル-β-d-グルコサミニド、p-ニトロフェニルβ-d-グルクロニド、p-ニトロフェニルβ-d-フコピラノシドおよびp-ニトロフェニルα-l-アラビノピラノシドを分解しない
(G)基質特異性:キシロビオース、ソホロース、ラミナリビオース、セロビオース、ゲンチオビオース、スクロースおよびラクトースを分解しない。
【請求項3】
前記タンパク質が、エバンセラ属(Evansella)に属する微生物に由来する、請求項2に記載の酵素剤。
【請求項4】
キシロースとキシロース以外の単糖とからなるヘテロ二糖の製造に用いるための、請求項1または2に記載の酵素剤。
【請求項5】
前記単糖が、グルコース、マンノースおよびフラクトースからなる群から選択される1種または2種以上である、請求項4に記載の酵素剤。
【請求項6】
請求項1または2に記載の酵素剤の存在下で、キシロースと、キシロース以外の単糖とを縮合反応させ、キシロースと前記単糖とからなるヘテロ二糖を得ることを含む、ヘテロ二糖の製造方法。
【請求項7】
前記単糖が、グルコース、マンノースおよびフラクトースからなる群から選択される1種または2種以上である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
下記(i)、(ii)、(iii)および(iv)からなる群から選択される塩基配列からなるポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを作動可能に連結してなる発現ベクターにより形質転換した宿主を培養する工程を含んでなる、請求項1に記載の酵素剤の製造方法:
(i)配列番号1のアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(ii)配列番号1のアミノ酸配列をコードする塩基配列と80%以上の同一性を有し、かつ、プリメベラーゼ活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
(iii)配列番号1のアミノ酸配列をコードする塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換、挿入および/または付加された塩基配列からなり、かつ、プリメベラーゼ活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、および
(iv)配列番号1のアミノ酸配列をコードする塩基配列の相補配列からなるポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、プリメベラーゼ活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘテロ二糖の製造に有用な新規酵素および該酵素を利用したヘテロ二糖の製造方法に関する。本発明はまた、ヘテロ二糖の製造に有用な新規酵素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリメベロース(primeverose)はキシロースとグルコースがβ-1,6結合したヘテロ二糖であり、医薬品や化粧品の保湿成分として利用可能であることが知られている(特許文献1、2)。プリメベロースは原料基質としてキシロビオースとグルコースを用いてペクチナーゼ存在下の酵素反応で製造できることが知られており(特許文献1、2)、また、原料基質としてキシロビオースとグルコースを用いてβ-キシロシダーゼの糖転移反応により製造できることも知られている(非特許文献1)。
【0003】
しかし、キシロビオースは高価であるため、これを原料として用いてプリメベロースを製造することは製造コストの観点から現実的ではない。また、キシロビオースに代えてキシロオリゴ糖を使用することもできるが、未反応のキシロオリゴ糖が反応系に残存するため、反応後にキシロオリゴ糖とプリメベロースとを分離する必要があり、製造手順が煩雑となる。このように、プリメベロースを安価にかつ効率的に製造できる方法はこれまで知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-310527号公報
【特許文献2】特開平11-49656号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J.Appl. Glycosci., Vol.46, No.4, p.431-437(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ヘテロ二糖の製造に有用な新規酵素剤およびヘテロ二糖の新規な製造方法を提供することを目的とする。本発明はまた、ヘテロ二糖の製造に有用な新規酵素の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]下記(a)、(b)および(c)からなる群から選択されるタンパク質を含んでなる、酵素剤:
(a)配列番号1のアミノ酸配列を含んでなるタンパク質、
(b)配列番号1のアミノ酸配列に対して80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、プリメベラーゼ活性を有するタンパク質、および
(c)配列番号1のアミノ酸配列において、1または複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、プリメベラーゼ活性を有するタンパク質。
[2]下記の(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)および(G)の特性を有するタンパク質を含んでなる酵素剤:
(A)作用:プリメベロースに作用し、これを加水分解する
(B)分子量(SDS-PAGE)が55±5kDaである
(C)至適pH:5.4~6.8の範囲である
(D)至適温度:20~45℃の範囲である
(E)基質特異性:p-ニトロフェニルβ-d-キシロピラノシドを加水分解する
(F)基質特異性:p-ニトロフェニルβ-d-グルコピラノシド、p-ニトロフェニルβ-d-マンノピラノシド、p-ニトロフェニルβ-d-ガラクトピラノシド、p-ニトロ-N-アセチル-β-d-グルコサミニド、p-ニトロフェニルβ-d-グルクロニド、p-ニトロフェニルβ-d-フコピラノシドおよびp-ニトロフェニルα-l-アラビノピラノシドを分解しない
(G)基質特異性:キシロビオース、ソホロース、ラミナリビオース、セロビオース、ゲンチオビオース、スクロースおよびラクトースを分解しない。
[3]前記タンパク質が、エバンセラ属(Evansella)に属する微生物に由来する、上記[2]に記載の酵素剤。
[4]キシロースとキシロース以外の単糖とからなるヘテロ二糖の製造に用いるための、上記[1]~[3]のいずれかに記載の酵素剤。
[5]前記単糖が、グルコース、マンノースおよびフラクトースからなる群から選択される1種または2種以上である、上記[4]に記載の酵素剤。
[6]上記[1]~[5]のいずれかに記載の酵素剤の存在下で、キシロースと、キシロース以外の単糖とを縮合反応させ、キシロースと前記単糖とからなるヘテロ二糖を得ることを含む、ヘテロ二糖の製造方法。
[7]前記単糖が、グルコース、マンノースおよびフラクトースからなる群から選択される1種または2種以上である、上記[6]に記載の製造方法。
[8]下記(i)、(ii)、(iii)および(iv)からなる群から選択される塩基配列からなるポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを作動可能に連結してなる発現ベクターにより形質転換した宿主を培養する工程を含んでなる、上記[1]に記載の酵素剤の製造方法:
(i)配列番号1のアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(ii)配列番号1のアミノ酸配列をコードする塩基配列と80%以上の同一性を有し、かつ、プリメベラーゼ活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、
(iii)配列番号1のアミノ酸配列をコードする塩基配列において、1または複数個の塩基が欠失、置換、挿入および/または付加された塩基配列からなり、かつ、プリメベラーゼ活性を有するタンパク質をコードする塩基配列、および
(iv)配列番号1のアミノ酸配列をコードする塩基配列の相補配列からなるポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、プリメベラーゼ活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
【0008】
本発明によれば、キシロースおよびキシロース以外の単糖を原料基質としてヘテロ二糖を酵素法により製造できる。原料単糖と生成物のヘテロ二糖の分離は容易であるため、本発明はプリメベロースを含むヘテロ二糖の工業生産の途を拓く点で有利な発明である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】(A)はEcGH30_1のアミノ酸配列(配列番号1)を示す。(B)はEcGH30_1をコードするDNA配列(配列番号2)を示す。
図2図2は、精製したEcGH30_1の純度をSDS-PAGEにより確認した結果を示す電気泳動写真である。
図3図3は、EcGH30_1のpNPX分解反応における温度と活性の関係を示した図である。35℃で反応させたときの活性を100%として示した。
図4図4は、EcGH30_1のpNPX分解反応における反応溶液のpHと活性の関係を示した図である。各pHにおける活性は、反応溶液のpHが6.4(MES緩衝液を使用)のときの活性を100%として示した。
図5図5は、EcGH30_1の(A)プリメベロースおよび(B)キシロビオースに対する二糖加水分解能を評価したTLC分析結果を示した図である。「-」はEcGH30_1を含まない反応を、「+」はEcGH30_1を含む反応をそれぞれ示す。
図6図6は、キシロースおよびグルコースを基質としたEcGH30_1による縮合反応生成物をHPLC解析した結果を示す図である。矢印のピークは縮合反応によって生成した二糖(プリメベロース)を示す。
図7図7は、活性炭・セライトカラムクロマトグラフィーにより縮合反応生成物から二糖を精製および分析した結果を示す図である。
図8図8は、精製した二糖(プリメベロース)のNMRスペクトルを示した図である。(A)はHスペクトルを、(B)は13Cスペクトルをそれぞれ示す。
図9図9は、キシロースとグルコースの縮合反応によるプリメベロースの合成反応式を示す図である。
図10図10は、EcGH30_1による縮合反応に対する反応時間の影響を示した図である。縦軸は二糖(プリメベロース)の生成量である。
図11図11は、EcGH30_1による縮合反応に対する反応温度の影響を示した図である。縦軸は二糖(プリメベロース)の生成量である。
図12図12は、キシロースおよび種々の単糖を基質とした縮合反応生成物をHPLC解析した結果を示す図である。(A)はキシロースとグルコースを基質とした反応生成物を、(B)はキシロースとマンノースを基質とした反応生成物を、(C)はキシロースとガラクトースを基質とした反応生成物を、(D)はキシロースとフルクトースを基質とした反応生成物を、それぞれ示す。矢印のピークは縮合反応によって生成した二糖を示す。
【発明の具体的説明】
【0010】
<<酵素剤>>
本発明の酵素剤はプリメベラーゼ活性を有するものである。本発明において「プリメベラーゼ」とは、βキシロシダーゼ活性を有する酵素であって、プリメベロース(β-1,6結合)に作用するが、キシロビオース(β-1,4結合)には作用しない酵素を意味し、「プリメベラーゼ活性を有する」とはこのような酵素活性を有することを意味する。すなわち、本発明の酵素剤はプリメベロースに選択的な酵素活性を有する酵素剤であることから、プリメベロースの選択的合成および選択的分解に有用な酵素剤である。なお、「βキシロシダーゼ」はβ-キシロシドを加水分解してキシロースを生じる酵素を意味する。
【0011】
本発明の酵素剤は、前記(a)、(b)および(c)からなる群から選択される少なくとも一つのタンパク質(以下、「本発明のタンパク質」ということがある)を含んでなるものである。
【0012】
本発明の酵素剤が前記(a)のタンパク質を含む場合、本発明のタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列を含んでなるものであっても、配列番号1のアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0013】
前記(b)において、「同一性」は「相同性」を含む意味で用いられる。ここで「同一性」は、例えば、比較する配列同士を適切に整列(アライメント)させたときの同一性の程度であり、前記配列間のアミノ酸の正確な一致の出現率(%)を意味する。同一性の算出にあたっては、例えば、配列におけるギャップの存在およびアミノ酸の性質が考慮される(Wilbur, Natl. Acad. Sci. U.S.A. 80:726-730(1983))。前記アライメントは、例えば、任意のアルゴリズムの利用により行うことができ、具体的に、BLAST(Basic local alignment search tool)(Altschul et al., J. Mol. Biol. 215:403-410 (1990))、FASTA(Peasron et al., Methods in Enzymology 183:63-69 (1990))、Smith-Waterman(Meth. Enzym., 164, 765 (1988))などの公に利用可能な相同性検索ソフトウェアを使用することができる。また、同一性の算出は、例えば、前記のような公に利用可能な相同性検索プログラムを用いて行うことができ、例えば、米国国立生物工学情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムBLAST(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)において、デフォルトのパラメーターを用いることによって算出することができる。
【0014】
前記(b)における同一性は、例えば、80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは96%以上、97%以上、98%以上、99%以上または99.5%である。
【0015】
前記(c)のタンパク質は、配列番号1のいずれかのアミノ酸配列において、欠失、置換、挿入および付加からなる群から選択される1個または複数個の改変を有していてもよい。改変されるアミノ酸の個数は、例えば、1~100個、1~97個または1~73個、好ましくは1~50個または1~48個、より好ましくは1~24個または1~20個、より一層好ましくは1~15個または1~10個、特に好ましくは1~数個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個または1個である。改変されるアミノ酸の個数はまた、部位突然変異誘発法などの公知の方法により生じる程度の変異数、あるいは、天然に生じる程度の変異数とすることができる。このため「改変」は変異を含む意味で用いられるものとする。前記アミノ酸配列において、前記改変は、連続して生じてもよいし、不連続に生じてもよい。前記改変はまた、複数の同種の改変(例えば、複数の置換)であってもよいし、複数の異種の改変(例えば、1個以上の欠失と1個以上の置換の組合せ)であってもよい。
【0016】
また、前記(c)におけるアミノ酸の挿入としては、例えば、アミノ酸配列の内部への挿入が挙げられる。さらに、アミノ酸の付加は、例えば、アミノ酸配列のN末端およびC末端のいずれかへの付加であっても、N末端およびC末端の両末端への付加であってもよい。
【0017】
前記アミノ酸の改変は保存的改変(例えば、保存的変異)であってもよい。「保存的改変」または「保存的変異」は、タンパク質の機能を実質的に改変しないように、1個または複数個のアミノ酸を改変し、または変異させることを意味する。前記アミノ酸の置換はまた、保存的置換であってもよい。「保存的置換」は、タンパク質の機能を実質的に改変しないように、1個または複数個のアミノ酸を、別のアミノ酸および/またはアミノ酸誘導体に置換することを意味する。保存的置換において、置換されるアミノ酸と置換後のアミノ酸とは、例えば、性質および/または機能が類似していることが好ましい。具体的には、疎水性および親水性の指標、極性、電荷などの化学的性質、あるいは二次構造などの物理的性質が類似していることが好ましい。このように、性質および/または機能が類似するアミノ酸またはアミノ酸誘導体は、当該技術分野において公知である。例えば、非極性アミノ酸(疎水性アミノ酸)としては、例えば、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニンなどが挙げられる。極性アミノ酸(中性アミノ酸)は、グリシン、セリン、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システインなどが挙げられる。陽電荷を有するアミノ酸(塩基性アミノ酸)は、アルギニン、ヒスチジン、リジンなどが挙げられ、負電荷を有するアミノ酸(酸性アミノ酸)は、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。
【0018】
前記(b)および(c)において、「プリメベラーゼ活性を有するタンパク質」であるか否かは、被験タンパク質の加水分解活性を指標に評価することができ、例えば、被験タンパク質をプリメベロースまたはキシロビオースに作用させ、反応液を薄層クロマトグラフィー(TLC)分析に供することにより評価することができる(実施例3参照)。
【0019】
本発明のタンパク質が配列番号1のアミノ酸配列に基づいて定められた前記(b)または前記(c)のタンパク質である場合、該タンパク質はプリメベロースの加水分解活性について、温度20~50℃、pH5~9(好ましくは35℃、pH6.5)の条件下で配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質の約70%以上の活性、約80%以上の活性、約90%以上の活性、約95%以上の活性または約100%以上の活性を有するものとすることができ、さらに、キシロビオースの加水分解活性について、上記と同様の条件下で分解活性が認められないものとすることができる。
【0020】
本発明の酵素剤はまた、前記特性(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)および(G)を有するタンパク質(以下、「本発明の酵素タンパク質」ということがある)を含んでなるものである。前記の本発明のタンパク質は、特性(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)および(G)のいずれかまたはすべてを有するものとすることができ、以下の本発明の酵素タンパク質の記載に従ってその内容を特定することができる。なお、本明細書においては、本発明のタンパク質および本発明の酵素タンパク質をあわせて、「本発明の酵素剤の有効成分であるタンパク質」ということがある。
【0021】
特性(A)に関し、本発明の酵素タンパク質は、プリメベロースに作用し、これを加水分解する加水分解酵素である。この加水分解酵素反応の逆反応により、キシロースとキシロース以外の単糖とを基質とし、プリメベロースを含むヘテロ二糖を生成する。後述するように、この加水分解反応の逆反応により、本発明の酵素剤を用いてヘテロ二糖を製造することができる。なお、キシロース以外の単糖としてはヘキソース(六炭糖)が挙げられ、例えば、ガラクトース以外のヘキソースであり、ヘキソースの非制限的な例としてはグルコース、マンノースおよびフラクトースが挙げられる。
【0022】
特性(B)に関し、本発明の酵素タンパク質は、SDS-PAGEにより測定で55±5kDaの分子量を有する。SDS-PAGEによる分子量測定は、例えば、ポリアクリルアミドゲルのゲル濃度10%、定電圧200V、タンパク質量1μgの条件で実施することができる。
【0023】
特性(C)に関し、本発明の酵素タンパク質の至適pHは、5.4~6.8の範囲であり、好ましくはpH5.8~6.4の範囲である。本発明の酵素タンパク質の至適pHは、各種pH、35℃、10分間の条件で本発明の酵素タンパク質およびその基質を反応させた際に最大活性を示す本発明の酵素タンパク質の活性(例えば、p-ニトロフェニルβ-d-キシロピラノシドの加水分解活性)を100%とした場合に、20%以上の相対活性を示すpHとすることができ、好ましくは80%以上の相対活性を示すpHとすることができる。
【0024】
特性(D)に関し、本発明の酵素タンパク質の至適温度は、20~45℃の範囲であり、好ましくは30~35℃の範囲である。本発明の酵素タンパク質の至適温度は、各種温度、pH6.4、10分間の条件で本発明の酵素タンパク質およびその基質を反応させた際に最大活性を示す本発明の酵素タンパク質の活性(例えば、p-ニトロフェニルβ-d-キシロピラノシドの加水分解活性)を100%とした場合に、20%以上の相対活性を示す温度とすることができ、好ましくは80%以上の相対活性を示す温度とすることができる。
【0025】
本発明のタンパク質および本発明の酵素タンパク質は、以下の(E)、(F)および(G)からなる群から選択される少なくとも一つの特性を有するものを用いることができ、好ましくは(E)、(F)および(G)すべての特性を有するものを用いることができる。
【0026】
特性(E)に関し、本発明の酵素タンパク質は、基質特異性として、「p-ニトロフェニルβ-d-キシロピラノシドを加水分解する」という性質を有する。この性質はβキシロシダーゼ活性に対応する。
【0027】
特性(F)に関し、本発明の酵素タンパク質は、基質特異性として、「p-ニトロフェニルβ-d-グルコピラノシド、p-ニトロフェニルβ-d-マンノピラノシド、p-ニトロフェニルβ-d-ガラクトピラノシド、p-ニトロ-N-アセチル-β-d-グルコサミニド、p-ニトロフェニルβ-d-グルクロニド、p-ニトロフェニルβ-d-フコピラノシドおよびp-ニトロフェニルα-l-アラビノピラノシドを分解しない」という性質を有する。
【0028】
特性(G)に関し、本発明の酵素タンパク質は、基質特異性として、「キシロビオース、ソホロース、ラミナリビオース、セロビオース、ゲンチオビオース、スクロースおよびラクトースを分解しない」という性質を有する。
【0029】
本発明の酵素タンパク質は、エバンセラ属(Evansella)に属する微生物由来のものを用いることができ、好ましくはEvansella cellulosilyticaに属する微生物由来のものを用いることができる。本発明の酵素タンパク質はまた、後述するように天然微生物あるいは組換え微生物から発現させたものを使用することができる。
【0030】
本発明の酵素剤は、本発明の酵素剤の有効成分であるタンパク質そのものでもよく、あるいは本発明の酵素剤の有効成分であるタンパク質に加えて他の成分を含んでいてもよい。当該他の成分としては、賦形剤、安定化剤、塩類などが挙げられる。また、その形態も特に制限はなく、液状でもよく、粉末状でもよく、担体に担持させた形態であってもよい。
【0031】
<<ヘテロ二糖の製造方法>>
本発明によれば、本発明の酵素剤の存在下で、キシロースと、キシロース以外の単糖とを縮合反応させ、キシロースと前記単糖からなるヘテロ二糖を得ることを含む、ヘテロ二糖の製造方法が提供される。
【0032】
本発明の製造方法では、キシロースとキシロース以外の単糖とからヘテロ二糖を選択的に合成できる本発明の酵素剤を使用するため、原料基質と縮合生成物との分離が容易である点で有利である。
【0033】
本発明の製造方法において原料となる糖質は、キシロースとキシロース以外の単糖である。キシロース以外の単糖としては、グルコース、マンノースおよびフラクトースが挙げられ、これらのうち1種を基質として用いても、これらを組み合わせて基質として用いてもよい。
【0034】
原料としてキシロースとグルコースを用いた場合、得られるヘテロ二糖は、キシロースとグルコースがβ-1,6結合したプリメベロースである。
【0035】
本発明の製造方法において、原料となるキシロースおよびキシロース以外の単糖は水溶液(シラップ)を用いることができ、その反応効率を考慮すると固形分濃度50質量%以上の濃度の水溶液とすることが好ましく、より好ましくは固形分濃度66質量%以上の水溶液である。原料のキシロースおよびキシロース以外の単糖は純品でもよいが、コストや入手し易さを考慮すると他の糖質が混合した糖組成物でもよく、グルコースについては、例えば、液状ブドウ糖(#9865、日本食品化工)等を原料として用いることができる。
【0036】
本発明の製造方法において、酵素を基質に作用させる条件は特に制限はなく、酵素の特性に合わせて適宜調整すればよいが、例えば、pH5~8、温度30~60℃の条件で、24~240時間反応させることができる。
【0037】
本発明の製造方法においては、所望のヘテロ二糖が得られた後、必要に応じて酵素の失活処理、濾過・脱色・脱臭・脱塩などの精製処理および/または濃縮処理を行うことができる。これらの処理は常法に従って実施することができる。また、得られたヘテロ二糖は、適宜濃縮して液状品としてもよく、噴霧乾燥などにより粉末品としてもよい。さらに、膜分画、樹脂分画などの分画処理や、微生物による資化処理などによって残存した原料や副産物を除去したり、特定重合度のものを分取したりすることにより、ヘテロ二糖の含量をより高めることができる。
【0038】
<<本発明の酵素剤の製造方法>>
本発明の酵素剤は、本発明のタンパク質の産生能を有する天然微生物あるいは後述の組換え微生物を培養することにより製造することができる。
【0039】
すなわち、本発明の別の側面によれば、前記(i)、(ii)、(iii)および(iv)からなる群から選択される塩基配列からなるポリヌクレオチド(以下、「本発明のポリヌクレオチド」ということがある)または該ポリヌクレオチドを作動可能に連結してなる発現ベクターにより形質転換した宿主微生物を培養する工程を含んでなる、本発明の酵素剤の製造方法が提供される。本発明の製造方法は、培養工程の後、培養して得られた宿主微生物および/または培養物から発現産物を採取し、場合によっては酵素剤を単離または精製する工程をさらに含んでいてもよい。
【0040】
本発明において「ポリヌクレオチド」には、DNAおよびRNAが含まれ、さらには、これらの修飾体や人工核酸が含まれるが、好ましくはDNAである。また、DNAには、cDNA、ゲノムDNAおよび化学合成DNAが含まれる。
【0041】
前記(i)、(ii)、(iii)および(iv)において、「アミノ酸配列をコードする塩基配列」とは、特定のアミノ酸配列が与えられることによって、遺伝暗号(すなわち、コドン)に基づいて特定することができる。例えば、配列番号1のアミノ酸配列を、対応するコドンに置き換えることによって塩基配列を特定することができ、具体例としては、配列番号2の塩基配列が挙げられる。
【0042】
前記(ii)において、「同一性」は「相同性」を含む意味で用いられる。ここで、「同一性」は、前記(b)について述べたのと同様に、比較する配列同士を適切に整列(アライメント)させたときの同一性の程度であり、前記配列間の塩基の正確な一致の出現率(%)を意味する。同一性の算出にあたっては、例えば、配列におけるギャップの存在および塩基の性質が考慮される(Wilbur, Natl. Acad. Sci. U.S.A. 80:726-730 (1983))。アライメントや同一性の算出は、前記(b)についての記載内容に従って実施することができる。
【0043】
前記(ii)における同一性は、例えば、80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは96%以上、97%以上、98%以上、99%以上または99.5%以上である。
【0044】
前記(iii)の塩基配列は、配列番号1のアミノ酸配列をコードする塩基配列において、欠失、置換、挿入および付加からなる群から選択される1個または複数個の改変を有していてもよい。改変される塩基の個数は、例えば、1~100個、1~97個または1~73個、好ましくは1~50個または1~48個、より好ましくは1~24個または1~20個、より一層好ましくは1~15個または1~10個、特に好ましくは1~数個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個または1個である。改変される塩基の個数はまた、部位突然変異誘発法などの公知の方法により生じる程度の変異数、あるいは、天然に生じる程度の変異数とすることができる。このため「改変」は変異を含む意味で用いられるものとする。前記欠失、挿入および/または付加された塩基配列は、特に制限されないが、例えば、配列番号1のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と、同じ読み枠の塩基配列である。前記欠失、挿入および/または付加される塩基は、例えば、連続する3つの塩基からなるコドンが好ましく、このようなコドンの数は、例えば、1~30個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~6個、特に好ましくは1~数個、1~3個、1~2個または1個である。前記塩基配列において、前記改変は、連続して生じてもよいし、不連続に生じてもよい。前記改変はまた、複数の同種の改変(例えば、複数の置換)であってもよいし、複数の異種の改変(例えば、1個以上の欠失と1個以上の置換の組合せ)であってもよい。
【0045】
また、前記(iii)における塩基の挿入としては、例えば、塩基配列の内部への挿入が挙げられる。さらに、塩基の付加は、例えば、塩基配列の5’末端および3’末端のいずれかへの付加であっても、5’末端および3’末端の両末端への付加であってもよい。
【0046】
前記(iv)において、「ハイブリダイズする」とは、あるポリヌクレオチドが標的となるポリヌクレオチドと相補的なそれぞれの塩基同士の水素結合により二本鎖を形成することをいう。「ハイブリダイズ」は、各種ハイブリダイゼーションアッセイにより検出することができる。ハイブリダイゼーションアッセイとしては、例えば、サザンハイブリダイゼーションアッセイ、コロニーハイブリダイゼーションアッセイなどの公知の方法が挙げられる。
【0047】
前記(iv)において、「ハイブリダイズ」あるいは「ハイブリダイゼーション」は、ストリンジェントな条件下で実施することができ、例えば、ハイブリダイゼーション緩衝液中でハイブリダイゼーション反応を行った後、洗浄緩衝液で洗浄することにより実施することができる。ここで「ストリンジェントな条件」は、ポリヌクレオチド間で特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、ある塩基配列とその相補鎖との二重鎖のTm(℃)および必要な塩濃度などに依存して決定することができる。例えば、配列番号1のアミノ酸配列をコードする塩基配列(例えば、配列番号2の塩基配列)を選択した後にそれに応じたストリンジェントな条件を設定することは当業者に周知の技術である(例えば、J. Sambrook, E. F. Frisch, T. Maniatis; Molecular Cloning 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory(1989)参照)。ストリンジェントな条件としては、例えば、ハイブリダイゼーションに通常用いられる適切な緩衝液(例えば、SSC溶液)中で、塩基配列によって決定されるTmよりわずかに低い温度(例えば、Tmよりも0~10℃低い温度、Tmよりも0~5℃低い温度あるいはTmよりも0~2℃低い温度)においてハイブリダイゼーション反応を実施することが挙げられる。ストリンジェントな条件としてはまた、ハイブリダイゼーション反応後の洗浄を非特異的なハイブリッド形成をした二本鎖ポリヌクレオチドに対して厳しい条件(例えば、高温低塩濃度溶液)で実施することが挙げられる。
【0048】
前記(ii)、(iii)および(iv)において、「プリメベラーゼ活性を有するタンパク質」であるか否かは、被験タンパク質の加水分解活性を指標に評価することができ、例えば、被験タンパク質をプリメベロースまたはキシロビオースに作用させ、反応液をTLC分析に供することにより評価することができる(実施例3参照)。
【0049】
本発明のポリヌクレオチドが配列番号1のアミノ酸配列をコードする塩基配列に基づいて定められた前記(ii)、(iii)または(iv)の塩基配列からなる場合、該ポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質はプリメベロースの加水分解活性について、温度20~50℃、pH5~9(好ましくは35℃、pH6.5)の条件下で配列番号1のアミノ酸配列からなるタンパク質の約70%以上の活性、約80%以上の活性、約90%以上の活性、約95%以上の活性または約100%以上の活性を有するものとすることができ、さらに、キシロビオースの加水分解活性について、上記と同様の条件下で分解活性が認められないものとすることができる。
【0050】
本発明の酵素剤を、本発明のタンパク質の産生能を有する組換え微生物を用いて製造する場合、該組換え微生物としては、前記(i)、(ii)、(iii)および(iv)から選択される塩基配列からなるポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを作動可能に連結してなる発現ベクターにより形質転換した宿主微生物が挙げられる。前記発現ベクターとしては、例えば、大腸菌や枯草菌などの宿主微生物への導入に適したベクターを選択することができ、pET-23a、pET21b、pUC18、pET15b、pET32a、pColdI、pGEX-4T、pJEXOPT2(特開2009-17841号公報参照)、pHT01、pHT43などのプラスミドベクターが挙げられる。これらのうち、本発明のタンパク質を大腸菌で発現させる場合には、pET-23a、pET21b、pUC18、pET15b、pET32a、pColdIおよびpGEX-4Tが好ましく、枯草菌で発現させる場合には、pJEXOPT2、pHT01およびpHT43が好ましい。また、発現ベクターへのポリヌクレオチドの連結は、常法に従って実施することができる。
【0051】
このようにして得られた発現ベクターは、大腸菌、枯草菌をはじめとする宿主微生物に導入し、組換え微生物(すなわち、形質転換体)を得ることができる。宿主微生物への導入は、常法に従って実施することができる。また、前記(i)、(ii)、(iii)および(iv)から選択される塩基配列からなるポリヌクレオチドは、エレクトロポレーション法、リポフェクション法などによりベクターを使用せずに宿主微生物に導入し、組換え微生物を得ることもできる。
【0052】
本発明の酵素剤の有効成分であるタンパク質を生成する組換え微生物および天然微生物は、当該微生物の培養に適した培地において培養することができる。使用する培地は、微生物が生育でき、本発明の酵素剤の有効成分であるタンパク質を産生しうる栄養培地であれば特に限定されず、合成培地および天然培地のいずれでもよい。また、時間、温度などの培養条件は、培養する微生物に適した条件を適宜選択することができる。
【0053】
本発明の酵素剤の製造方法では、組換え微生物または天然微生物を培養した後、本発明の酵素剤の有効成分であるタンパク質を採取する工程を含んでいてもよい。本発明の酵素剤の製造方法では、例えば、天然微生物あるいは組換え微生物を培養した後、溶菌剤、界面活性剤、超音波破砕またはビーズショッカーなどを用いて菌体細胞を破砕し、そのままもしくは不溶性画分を分離したものを粗酵素液とすることができる。本発明においては、粗酵素液をそのまま用いても、濃縮してから用いてもよい。濃縮法としては、硫安塩析法、アセトンおよびアルコール沈殿法、平膜、中空膜法などを採用することができる。
【0054】
本発明の酵素剤は、上記のように、粗酵素液をそのまままたは濃縮して用いることができるものの、必要に応じてカラムクロマトグラフィーなどにより分離・精製したものを利用することができる。例えば、培養液の上清または破砕処理物についてアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製することにより、本発明の酵素剤の有効成分であるタンパク質を、電気泳動的に単一バンドを示す精製酵素として得ることができる。
【0055】
本発明の酵素剤の有効成分であるタンパク質が組換えタンパク質である場合には、組換え微生物の種類によっては酵素が菌体内に蓄積したり、培養液に蓄積したりすることがある。このような場合にも、前記のように、菌体またはその培養物をそのまま使用してもよいが、必要に応じて、細胞を破砕したものを用いてもよい。
【実施例0056】
以下の例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0057】
実施例1:発現用プラスミドの作製
種々の微生物について新規酵素探索を行った。具体的には既知酵素であるハロバチルス・ハロフィラス(Halobacillus halophilus)由来β-1,6-グルコシダーゼのアミノ酸配列を起点に相同性検索を行い、当該酵素との類似性をもつ仮想タンパク質配列を取得した。次に、当該仮想タンパク質間のアミノ酸配列のアラインメントから、活性部位を構成すると推定されるアミノ酸残基が、起点酵素(Halobacillus halophilus由来)と異なる新規配列の選抜を行った。本発明者らは、これら新規配列に対応するタンパク質を遺伝子組換え微生物で生産させ、機能解析を行ったところ、その一つがグルコシド結合を切断しないが、キシロシド結合を切断する酵素活性を有する酵素であることを見出した。本発明者らはそのアミノ酸配列を実施例2以降において遺伝子組換え微生物で生産させ、さらに機能解析を行った。本発明者らが特定したアミノ酸配列は、Evansella cellulosilytica由来のアミノ酸配列(以下、EcGH30_1、データベース:GenBank、アクセッション番号:ADU29101.1)であり、このアミノ酸配列(配列番号1)およびそれをコードする遺伝子のヌクレオチド配列(配列番号2)をそれぞれ図1Aおよび図1Bに示す。
【0058】
以後の実施例では、配列番号1のアミノ酸配列のタンパク質をコードするポリヌクレオチドは、Evansella cellulosilyticaDSM 2522株のゲノムDNAを用いた。Evansella cellulosilyticaDSM 2522株のゲノムDNAはDSMZ(German Collection of Microorganisms and Cell Cultures)から購入した。E. cellulosilyticaのゲノムDNAを鋳型とし、フォワードプライマー(BcGH30_1-007-1S;5’-AAGGAGATATACATATGAAAGCAAAACAAATCACTACCTATTCCG-3’、配列番号3)およびリバースプライマー(BcGH30_1-007-2A;5’-GTGCGGCCGCAAGCTTTGACATTACTACTGTACTGATGGTTT-3’、配列番号4)並びにPrimeSTAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ)を用いてPCRを行い、遺伝子EcGH30_1の増幅断片(1.5kbp)を得た。なお、本発明者らはEvansella cellulosilyticaBacillus cellulosilyticaから名称変更されたことを確認している(Gupta, R. S. et al., International journal of systematic and evolutionary microbiology, (2020) 70(11), pp5753-5798.)。
【0059】
また、プラスミドpET-23a(Novagen)を鋳型とし、フォワードプライマー(pET-23a-HindIII;5’- AGCTTGCGGCCGCACTCGAG-3’、配列番号5)およびリバースプライマー(pET-23a-NdeI;5’- TATGTATATCTCCTTCTTAAAG-3’、配列番号6)並びにPrimeSTAR HS DNA Polymeraseを用いてPCRを行い、3.7kbpの増幅断片を得た。
【0060】
これらの2種類の増幅断片の相同配列をNEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mix(New England Biolabs)を用いて融合し、プラスミドpEO-2を作製した。プラスミドのヌクレオチド配列はBigDye Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)とABI PRISM 3100 Genetic Analyzer(Applied Bioscience)を用いて確認した。
【0061】
実施例2:組換え酵素EcGH30_1の生産と精製
pEO-2を用いて大腸菌BL21(DE3)株(Merck)を形質転換し、組換え大腸菌BL21(DE3)/pEO-2を作製した。10mLのLB/Ap培地[10g/Lトリプトン(ナカライテスク)、5g/L酵母エキス(ナカライテスク)、10g/L塩化ナトリウム、100μg/mLアンピシリン]を用いて、大腸菌BL21(DE3)/pEO-2を前培養(37℃、200rpm、一晩)した。この前培養のうち4mLを400mLのLB/Ap培地に加え、振とう培養(25℃、200rpm)した。培養液のOD600が0.6~0.8に達したときに、終濃度が0.4mMになるようにイソプロピル-β-チオガラクトピラノシドを添加した後、さらに振とう培養(25℃、200rpm、16時間)を行った。培養後、遠心分離(4,000×g、10分、4℃)し、細胞を回収した。細胞は使用するまで-20℃で保存した。
【0062】
回収した細胞に40mLの緩衝液A[50mM MOPS、150mM塩化ナトリウム、pH7.5]と1.7mLの緩衝液B[20mM MOPS、250mM塩化ナトリウム、250mMイミダゾール、pH7.5]を加えて懸濁した後、超音波破砕機を用いて破砕した。その後、遠心分離(36,000×g、15分、4℃)し、得られた上清を粗抽出液とした。
【0063】
緩衝液C[20mM MOPS、250mM塩化ナトリウム、10mMイミダゾール、pH7.5]で平衡化したニッケル結合済みのNi-NTA カートリッジ(5mL、富士フイルム和光純薬)に粗抽出液を供した。試料添加後、イミダゾール濃度を20mMとした緩衝液Cでカラムを十分洗浄した後、20-125mMイミダゾールの直線濃度勾配(200mL)によりタンパク質を溶出した。タンパク質濃度の高い画分を回収し、Amicon Ultra-15 (Millipore)を用いて濃縮した。PD-10 Desalting Column(Cytiva)を用いて溶媒を20mM MOPS(pH7.5)に交換した後、終濃度が各1mMになるようにEDTA(pH8.0)とDTTを添加し、4℃で保存した。これを精製EcGH30_1と定義し、純度をSDS-PAGEで確認した(図2)。また、精製EcGH30_1の濃度はA280の測定値とモル吸光係数(86,750cm-1・M-1)を用いて決定し、400mLの培養液から約30mgの精製EcGH30_1を得た。
【0064】
実施例3:EcGH30_1の特性解析
(1)EcGH30_1の活性測定
5μLの1M MES緩衝液(pH6.5)、40μLの2.5mM p-ニトロフェニルβ-d-キシロピラノシド(pNPX)を混合した。35℃で10分予備保温した後、5μLの90μg/mL EcGH30_1を添加し、35℃で10分保持して酵素反応を進行させた。この反応液に対して、100μLの1M炭酸ナトリウムを加え反応を停止させた。このうち140μLの混合液をマイクロプレートのウェルに加え、マイクロプレートリーダーでA405を測定した。この際、既知濃度のp-ニトロフェノール溶液を5mM pNPXの代わりに、20mM MOPS(pH7.0)を酵素液の代わりに用いて検量線を作成した。pNPX以外のp-ニトロフェニル配糖体を用いた活性測定も同様に行った。
【0065】
活性測定の結果、EcGH30_1はpNPXを加水分解し、p-ニトロフェノールを生成した。比活性は5.9μmol/分/mgであった。一方、pNPXに代えて、p-ニトロフェニルβ-d-グルコピラノシド、p-ニトロフェニルβ-d-マンノピラノシド、p-ニトロフェニルβ-d-ガラクトピラノシド、p-ニトロ-N-アセチル-β-d-グルコサミニド、p-ニトロフェニルβ-d-グルクロニド、p-ニトロフェニルβ-d-フコピラノシド、p-ニトロフェニルα-l-アラビノピラノシドのp-ニトロフェニル配糖体を基質として加えた場合にはこれらの基質はほとんど分解されなかった(pNPXに対する活性の0~1%)。
【0066】
次に、EcGH30_1の至適温度および至適pHを評価した。至適温度については、温度条件を20℃、30℃、35℃、40℃、45℃の各温度に設定した以外は、上記酵素反応と同様にpNPXを基質とする酵素反応を行った。また、至適pHについては、1M MES緩衝液(pH6.5)に代えて、1M MES緩衝液(pH5.5、6.0、6.5または7.0)あるいは1M MOPS緩衝液(pH6.5、7.0または7.5)を用いた以外は、上記酵素反応と同様にpNPXを基質とする酵素反応を行った。至適温度および至適pHはそれぞれ図3および図4に示される通りであった。
【0067】
(2)EcGH30_1の二糖加水分解能力の確認
5μLの0.2M MES緩衝液(pH6.5)、4μLの25mM二糖、1μLの1.7mg/mLEcGH30_1からなる混合液(合計10μL)を35℃で1時間保持した後、TLCで分析した。シリカゲル60 TLCプレート(Merck)に2μLの試料をアプライした。酢酸エチル-酢酸-水(2:2:1)を用いて展開した。その後、ドライヤーでプレートを乾燥し、メタノール-硫酸(19:1)に10秒浸した。これを乾燥した後、100℃で5分加熱し、糖のスポットを可視化した。
【0068】
TLC分析の結果、EcGH30_1はプリメベロースを加水分解してグルコースとキシロースを生成した(図5A)。一方、キシロビオースには作用しなかった(図5B)。また、ソホロース、ラミナリビオース、セロビオース、ゲンチオビオース、スクロース、ラクトースにも作用しなかった。
【0069】
実施例4:縮合反応生成物の精製と構造解析
キシロースとグルコースを基質として、EcGH30_1による酵素反応を行った後、反応試料を分析した。具体的には、45mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)、300g/Lキシロース、360g/Lグルコース、0.44mg/mLEcGH30_1の混合液を30℃で96時間反応させた。得られた試料をHPLCで分析すると二糖と思われるひとつの明瞭なピークが観察された。クロマトグラムの一例を図6に示す。当該縮合生成物の精製および構造解析を下記の通り実施した。
【0070】
20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)に溶かした30mLの800g/Lキシロースと30mLの800g/Lグルコースに対して、6.7mLの4.4mg/mL EcGH30_1を加えて、50℃で140時間保持した。90℃で30分加熱して酵素を失活させた後、室温で放置し、遠心分離(11,000×g、15分)した。得られた上清に1.6Lの純水を加えて活性炭・セライトカラムクロマトグラフィーの試料とした。
【0071】
純水で平衡化した活性炭-セライト[活性炭素(富士フイルム和光純薬)とセライト-545(関東化学)を等量混合]カラム(内径5.0cm×50cm)に試料を添加した。画分No.300までは十分量の純水を送液して単糖を除去した。その後、5%(v/v)エタノールを送液して二糖を溶出した。操作は全て流速2.0mL/分で行い20mLずつ分画した。各画分についてジニトロサリチル酸法(DNS法)を用いた還元糖の定量と、HPLCによる試料の成分分析を行った(図7)。目的の二糖を含む画分No.435-525を回収し、ロータリーエバポレーターで濃縮した後、試料を凍結乾燥したところ、約1.6gの試料が得られた。試料は-20℃で保存した。
【0072】
約10mgの試料を0.6mLの重水に溶解し、NMR装置(日本電子、JNM-ECZ500R)を用いて分析に供した結果、精製試料のHおよび13CのNMRスペクトルは既報(J. Appl. Glycosci., 46, 431-437, 1999)のプリメベロースのスペクトルとほぼ同様であった(図8)。
【0073】
純水に溶解した10mg/mLの試料をESI-MS装置(LCMS-2010EV、島津製作所)を用いてMSスペクトル分析に供した結果、ポジティブモードで[M+Na]:312+23=335m/zのイオンピークが検出された。これはプリメベロースの質量(312Da)と矛盾しなかった。
【0074】
以上のことから、キシロースとグルコースを基質とした縮合物はプリメベロース(キシロースとグルコースがβ-1,6結合したヘテロ二糖)であることが確認された。キシロースとグルコースの縮合反応によるプリメベロースの合成の反応式を図9に示す。
【0075】
実施例5:縮合反応の条件検討
縮合反応によりプリメベロースを効率的に合成する条件(反応温度、反応時間、基質濃度比)を下記の通り検討し、反応後の試料をHPLCに供して、生成物の濃度を測定した。
【0076】
反応時間の影響は、キシロース、グルコースおよびEcGH30_1をそれぞれ300mg/mL、360mg/mL、0.44mg/mLの濃度で含有する45mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)を30℃で217時間まで反応させた後、HPLC分析により調べた。
【0077】
反応温度の影響は、キシロース、グルコースおよびEcGH30_1をそれぞれ300mg/mL、360mg/mL、0.44mg/mLの濃度で含有する45mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)を様々な温度で72時間反応させた後、HPLC分析により調べた。
【0078】
基質濃度比(キシロース-グルコース比)の影響は、単糖(キシロースおよびグルコース)およびEcGH30_1をそれぞれ720mg/mL、0.44mg/mLの濃度で含有する18mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)を50℃で72時間反応させた後、HPLC分析により調べた。
【0079】
反応後の試料のHPLC分析は下記の通り行った。適当な倍率に純水で希釈した5μLの試料をカラムCosmosil Sugar-D(内径4.6×250mm、ナカライテスク)に供し、示差屈折検出器によって検出した。溶離液として、アセトニトリル-純水(約3:1)を使用し、流速を1.0mL/分とした。カラム温度を30℃、検出器温度を40℃とした。HPLCシステムとしてAgilent1100(Agilent technologies)を使用した。試料中のプリメベロース濃度はピーク面積から算出し、検量線の作成には50mMの精製プリメベロースを標準試料として使用した。
【0080】
300g/L(2M)キシロースと360g/L(2M)グルコースを基質として30℃で200時間以上反応を行ったところ、反応時間が長くなるにつれて二糖の生成量が多くなり、最大で110mM程度となった(図10)。
【0081】
また、同濃度の基質を用いて30~60℃で72時間の縮合反応を行ったところ、50℃で二糖の生成量が最大(100mM)となった(図11)。
【0082】
基質であるキシロースとグルコースの濃度比と、二糖の生成量の関係について調べた。具体的には、720g/Lの単糖(キシロースおよびグルコース)と0.44mg/mLのEcGH30_1とを含む混合液を50℃で72時間反応させた後、HPLCで解析した。結果は表1に示す通りである。すなわち、キシロースおよびグルコースの合計濃度を720g/Lとして濃度比を1:5から5:1まで変化させたところ、等濃度のときの二糖生成量が最大であった。なお、キシロースのみの反応では二糖は生成しなかった。
【0083】
【表1】
【0084】
実施例6:種々の単糖を用いた縮合反応
EcGH30_1の縮合反応によりグルコース以外の単糖を含む二糖が合成可能であるか検証すべく、キシロースとマンノース、キシロースとガラクトース、あるいはキシロースとフルクトースを基質として反応を行った。20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)に溶かした600mg/mLのキシロースと600mg/mLの様々な単糖(マンノース、ガラクトースまたはフルクトース)を合計18μLとなるように混合し、さらに2μLの4.4mg/mL EcGH30_1を加えた混合液を、50℃で48時間保持し、反応後の試料をHPLCに供した。
【0085】
キシロースとマンノース、あるいはキシロースとフルクトースを基質として反応を行った後の試料を、実施例5に記載された手順に従ってHPLC分析を行ったところ、プリメベロースとは異なる保持時間のピークが観察された(図12(B)および(D))。結合様式は不明であるが、キシロシルマンノースとキシロシルフルクトースが生成したと考えられる。一方、キシロースとガラクトースを基質とした反応では、縮合反応による生成物は観察されなかった(図12(C))。
【0086】
次に、上記HPLC分析においてカラムからの溶出液を、フラクションコレクターを用いて分画し(0.5mL/画分)、図12(B)および(D)の矢印のピークを含む画分をそのままESI-MS装置(LCMS-2010EV、島津製作所)を用いてMSスペクトル分析に供した。その結果、キシロースおよびマンノースを基質とした生成物と、キシロースとフルクトースを基質とした生成物はいずれもポジティブモードで[M+Na]:312+23=335m/zのイオンピークが検出された。このイオンピークはプリメベロース(Xyl-Glc)と同一であり、ペントースとヘキソースが縮合してできた二糖の値と矛盾しなかった。従って、キシロースおよびマンノースを基質とした生成物と、キシロースとフルクトースを基質とした生成物はそれぞれキシロースとマンノースが結合したヘテロ二糖(キシロシルマンノース)、キシロースとフルクトースが結合したヘテロ二糖(キシロシルフルクトース)であることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
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