(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142251
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】溶削方法、及び溶削装置
(51)【国際特許分類】
B23K 7/06 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
B23K7/06 B
B23K7/06 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054366
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仁井谷 洋
(72)【発明者】
【氏名】青木 利一
(72)【発明者】
【氏名】木原 勇輝
(57)【要約】
【課題】薄い溶削厚みを実現することが可能な溶削方法、及び溶削装置を提供する。
【解決手段】鋼材の表面に可燃性ガスと酸素を吹き付けて燃焼させる予熱工程と、鋼材の表面に溶削用酸素を吹き付けるとともに鋼材を搬送し、搬送される鋼材の表面を溶削する溶削工程と、を含み、溶削工程では、溶削用酸素が鋼材と酸化反応して形成される火点の溶削進行方向前方側に、可燃性ガスと酸素とを含むシールドガスを噴出する構成とされており、シールドガスにおいて、式(1)で求められる熱量比κが以下の関係式(2)を満たす溶削方法。
κ=可燃性ガスの燃焼熱量/FeOの生成熱量 ・・・(1)
κ>0.11 ・・・(2)
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材の表面に可燃性ガスと酸素を吹き付けて燃焼させる予熱工程と、
前記鋼材の前記表面に溶削用酸素を吹き付けるとともに前記鋼材を搬送し、搬送される前記鋼材の前記表面を溶削する溶削工程と、
を含み、
前記溶削工程では、前記溶削用酸素が前記鋼材と酸化反応して形成される火点の溶削進行方向前方側に、前記可燃性ガスと前記酸素とを含むシールドガスが噴出され、
前記シールドガスにおいて、式(1)で求められる熱量比κが以下の関係式(2)を満たす
溶削方法。
κ=可燃性ガスの燃焼熱量/FeOの生成熱量 ・・・(1)
κ>0.11 ・・・(2)
【請求項2】
前記シールドガスに含まれる前記酸素の流量は、前記可燃性ガスの完全燃焼に必要な酸素の流量より小さく、
前記可燃性ガスと前記酸素の流量比は、前記可燃性ガスが燃焼を継続する流量比である 請求項1に記載の溶削方法。
【請求項3】
前記溶削工程において、溶削によって対象領域の除去が行われる場合、
前記対象領域は、前記鋼材の表面から厚み方向において2mm以下の領域である
請求項1に記載の溶削方法。
【請求項4】
前記溶削工程において、溶削によって対象領域の除去が行われる場合、前記鋼材の搬送速度は10m/min以下とされている
請求項1に記載の溶削方法。
【請求項5】
前記鋼材は、熱間圧延の対象となる鋼材である
請求項1に記載の溶削方法。
【請求項6】
溶削用酸素を噴出する溶削用酸素噴出部と、
前記溶削用酸素の噴流よりも溶削進行方向前方側において、可燃性ガスと酸素とを含むシールドガスを噴射するシールドガス噴射部と、
を備え、
前記シールドガスにおいて、式(3)で求められる熱量比κが以下の関係式(4)を満たす
溶削装置。
κ=可燃性ガスの燃焼熱量/FeOの生成熱量 ・・・(3)
κ>0.11 ・・・(4)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶削方法、及び溶削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、鋼材の表面を溶削する鋼材の溶削方法に関して、前方シールドガスにおいては、可燃性ガスが完全燃焼するために必要な理論酸素量よりも酸素が多くなるように、酸素(O)と可燃性ガス(G)との流量比O/Gを設定することを特徴とする鋼材の溶削方法が記載されている。
【0003】
特許文献2には、溶削前の予熱工程において、プロパンガスに対する酸素ガスの流量比率が5.0±0.5の範囲を満足するように制御することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-041422号公報
【特許文献2】特開2009-233689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鋼材の製造プロセスにおいて、鋼材の表面に対して溶削による手入れが行われる場合がある。例えば、鋼材の表面に生じた割れは、品質欠陥となるので除去する必要がある。特に、表面品質を重視する高級鋼材、自動車用鋼板等では、表面の割れを除去することが求められる。また、例えば、スラブ1Aの表面に生じた酸化鉄、鋳造時に表層に噛み込んだ介在物及び鋳造パウダ、又は気泡痕等の表層欠陥が、表面の手入れによって除去される。表面手入れ方法として、鋼材の製造プロセスに溶削を適用するにあたっては、歩留まりの低下を避けるため、薄い溶削厚みを実現することが求められる。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、溶削に用いられる前方シールドガスにおいて、可燃性ガスを完全燃焼させるために必要な理論酸素量よりも酸素が多くなるように流量比を設定している。この場合、反応後の物質量の増大、及び過剰な温度上昇によるガス体積の膨張によって、前方シールドガスが溶削用酸素の流れに乱れを生じさせ、溶削に悪影響を及ぼす場合がある。また、特許文献2に記載の技術では、予熱工程におけるプロパンガスと酸素ガスの流量比については考慮されているものの、溶削工程におけるシールドガスにおける流量比については考慮されていない。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、薄い溶削厚みを実現することが可能な溶削方法、及び溶削装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、鋼材の表面に可燃性ガスと酸素を吹き付けて燃焼させる予熱工程と、上記鋼材の表面に溶削用酸素を吹き付けるとともに上記鋼材を搬送し、搬送される上記鋼材の表面を溶削する溶削工程と、を含み、上記溶削工程では、上記溶削用酸素が上記鋼材と酸化反応して形成される火点の溶削進行方向前方側に、上記可燃性ガスと上記酸素とを含むシールドガスが噴出され、上記シールドガスにおいて、式(1)で求められる熱量比κが以下の関係式(2)を満たす溶削方法が提供される。
κ=可燃性ガスの燃焼熱量/FeOの生成熱量 ・・・(1)
κ>0.11 ・・・(2)
【0009】
上記シールドガスに含まれる上記酸素の流量は、上記可燃性ガスの完全燃焼に必要な酸素の流量より小さく、上記可燃性ガスと上記酸素の流量比は、上記可燃性ガスが燃焼を継続する流量比であってもよい。
【0010】
上記溶削工程において、溶削によって対象領域の除去が行われる場合、上記対象領域は、上記鋼材の表面から厚み方向において2mm以下の領域であってもよい。
【0011】
上記溶削工程において、溶削によって対象領域の除去が行われる場合、上記鋼材の搬送速度は10m/min以下とされてもよい。
【0012】
上記鋼材は、熱間圧延の対象となる鋼材であってもよい。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明のその他の観点によれば、溶削用酸素を噴出する溶削用酸素噴出部と、上記溶削用酸素の噴流よりも溶削進行方向前方側において、可燃性ガスと酸素とを含むシールドガスを噴射するシールドガス噴射部と、を備え、上記シールドガスにおいて、式(3)で求められる熱量比κが以下の関係式(4)を満たす溶削装置が提供される。
κ=可燃性ガスの燃焼熱量/FeOの生成熱量 ・・・(3)
κ>0.11 ・・・(4)
【発明の効果】
【0014】
以上、説明したように本発明によれば、薄い溶削厚みを実現することが可能な溶削方法、及び溶削装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る熱間圧延設備の概略構成の一例を示す模式図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る溶削装置の概略構成の一例を示す模式図である。
【
図3】溶削速度と溶削厚みの関係の一例を示すグラフである。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係る溶削の様子の一例を示す模式図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係る熱量比κと最大溶削速度促進量ηとの関係の一例を示すグラフである。
【
図6】本発明の第1の実施形態に係る熱量比κと最小溶削厚み変化量ξとの関係の一例を示すグラフである。
【
図7】本発明の第1の実施形態に係る対象領域の一例を示す模式図である。
【
図8】本発明の第1の実施形態に係る溶削方法の一例を示すフローチャートである。
【
図9】変形例に係る溶削の様子の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0017】
<第1の実施形態>
まず、
図1を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る熱間圧延設備10の概略構成について説明する。
図1は、熱間圧延設備10の概略構成を示す図である。
【0018】
一例として
図1に示すように、熱間圧延設備10は、鋼材1を熱間圧延するための設備である。熱間圧延設備10は、加熱炉20、溶削装置30、デスケーリング装置40、粗圧延装置50、及び仕上圧延装置60を含む。加熱炉20は、連続鋳造機11から排出された鋼材1を所定の長さに切断することにより得られる鋼材1(例えば、スラブ1A)を予め定められた温度まで加熱する。スラブ1Aは、搬送ロール22によって搬送されながら、加熱炉20によって加熱される。ここで、鋼材1は、Cuを含有する鋼材であり、例えば、Cuを0.15wt%以上含有し、特に、Cuを0.25wt%以上含有している鋼材である。なお、ここでは、鋼材1としてスラブ1Aを例に挙げているが、これはあくまでも一例に過ぎず、鋼材1は、ビレットであってもよい。
【0019】
溶削装置30は、加熱炉20から排出されたスラブ1Aに対して溶削を行うことにより、スラブ1Aの表面部分を除去する。溶削装置30の詳細については後述する。溶削装置30は、加熱炉20よりもスラブ1Aの搬送方向において下流側に位置している。また、溶削装置30は、デスケーリング装置40よりも上流側に位置している。より具体的には、溶削装置30は、加熱炉20よりも下流側に位置し、かつ加熱炉20において加熱されたスラブ1Aを幅方向に圧延する縦ロール24よりも上流側に位置している。なお、本明細書において、「除去」とは完全な除去を含み、本発明の属する技術分野において一般的に許容される範囲内での除去不足であって、本発明の趣旨に反しない程度での除去不足を含めた意味合いでの除去を指す。
【0020】
デスケーリング装置40は、粗圧延装置50による粗圧延の前にスラブ1Aの表面に形成されたスケール(すなわち、酸化被膜)を除去する。デスケーリング装置40は、ノズル42から流体(例えば、冷却水)をスラブ1Aに噴射することで、スケールを除去する。すなわち、デスケーリング装置40は、例えば、冷却水タンク(図示省略)から供給され、かつポンプ(図示省略)を用いて所定の水圧とされた冷却水Wを、ノズル42からスラブ1Aに対して噴射する。デスケーリング装置40によってスラブ1Aの表面のスケールが除去されるとともに、冷却水による抜熱によってスラブ1Aの表面の温度が1100℃以下とされる。ここで、デスケーリング装置40によるスケール除去後のスラブ1Aの表面の温度(例えば、スラブ1Aの幅方向における側面)は、放射温度計によって測定される。
【0021】
粗圧延装置50は、スラブ1Aに対して粗圧延を行い、所定の厚みまで薄くする。具体的には、粗圧延装置50は、縦ロール24によって幅方向に圧延されたスラブ1Aを上下方向から圧延して粗バー1Bとする。
図1に示す例では、粗圧延装置50は、4台の圧延機51~54を備えている。粗圧延装置50は、スラブ1Aをロールで上下に挟んで圧延機51~54を用いて連続的に圧延する。粗圧延装置50において、スラブ1Aは、例えば、25~50mm程度の板厚まで薄くされることにより、粗バー1Bとして成形される
【0022】
仕上圧延装置60は、粗バー1Bをさらに所定の厚みまで連続して熱間仕上圧延をする。具体的には、粗バー加熱装置62によって再度加熱され、搬送されてきた粗バー1Bを数mm(例えば、1~2mm)程度の板厚まで仕上げ圧延する。これら仕上圧延装置60は、6~7スタンドに亘って上下一直線に並べた仕上圧延ロール64の間隙に粗バー1Bを通過させ、これを徐々に圧下していく。この仕上圧延装置60により所定の板厚まで仕上げ圧延されることにより得られる鋼帯1Cは、冷却装置70へと送られる。なお、ここでは、仕上圧延装置60が、6~7スタンドを有する形態例を示しているが、これはあくまでも一例にすぎず、仕上圧延装置60が、5スタンドを有してもよい。
【0023】
冷却装置70は、仕上圧延後の鋼帯1Cを冷却水Wにより冷却する。冷却装置70は、例えば、パイプラミナーノズル方式の冷却装置である。冷却装置70により冷却された1Cは、巻取装置80により、コイル状に巻き取られ熱延コイル1Dとして熱間圧延設備10から次工程に搬送される。
【0024】
本実施形態に係る熱間圧延設備10において、溶削装置30によって、スラブ1Aの表面が除去される。一例として
図2に示すように、溶削装置30は、鋼材1の表面に対向するように配置されたスカーファーユニット31を有している。このスカーファーユニット31は、予熱用ガス噴出部34と、溶削用酸素噴出部36とを備えている。予熱工程において、予熱用ガス噴出部34は、予熱用酸素32と可燃性ガス33とを噴出する。また、溶削工程において、予熱用ガス噴出部34は、前方シールドガス35を噴射する。すなわち、溶削工程において、予熱用ガス噴出部34は、シールドガス噴射部として機能する。溶削用酸素噴出部36は、溶削用酸素37を噴出する。
【0025】
なお、
図2に示すように、溶削用酸素噴出部36から噴出される溶削用酸素37の噴出流は、予熱用ガス噴出部34から噴出される予熱用酸素32及び可燃性ガス33の噴出流よりも、鋼材1の搬送方向Yの前方側に衝突するように配置されている。
【0026】
溶削装置30においては、まず、
図2の左側に示すように、予熱工程が行われる。予熱工程では、スカーファーユニット31の予熱用ガス噴出部34から予熱用酸素32及び可燃性ガス33を鋼材1の表面に向けて噴出するとともに、この可燃性ガス33を燃焼させる。そして、燃焼する可燃性ガス33の熱により、鋼材1の表面の一部を溶融して、湯溜まり部1Eを形成する。
【0027】
なお、鋼材1の表面に形成される湯溜まり部1Eの搬送方向Yに沿った長さは、例えば20mm~30mm程度の範囲とされる。
【0028】
次に、
図2の右側に示すように、溶削工程が行われる。溶削工程では、スカーファーユニット31の溶削用酸素噴出部36から溶削用酸素37が鋼材1の表面に向けて噴出されるとともに、湯溜まり部1Eが形成された鋼材1が搬送方向Yに向けて搬送される。このとき、予熱用ガス噴出部34から前方シールドガス35が噴射される。前方シールドガス35は、可燃性ガス35Bと酸素35Aとを含んでいる。前方シールドガス35の流れは、溶削用酸素37に対して、溶削進行方向(すなわち、搬送方向であるY方向の反対方向)において、前方側に位置している。前方シールドガス35は、溶削用酸素37の酸素濃度を保つための保護ガスとして噴射されている。また、溶削用酸素37に対して、溶削進行方向において後方側に後方シールドガス38が噴射される。後方シールドガス38は、溶削用酸素37の酸素濃度を保つための保護ガスとして噴射されている。後方シールドガス38は、可燃性ガスであり、例えば、LPGである。換言すれば、前方シールドガス35及び後方シールドガス38によって、溶削用酸素37における外部からの空気(例えば、主に窒素)の流入、又は外部への酸素の流出が抑制され、溶削用酸素37の酸素濃度の変化が抑制されている。
【0029】
溶削工程において、溶削用酸素噴出部36から噴出される溶削用酸素37の噴出流が、搬送される鋼材1の湯溜まり部1Eの溶融鉄に衝突し、溶融鉄と溶削用酸素37の酸化反応が生じる。この酸化反応熱によって、鋼材1の表面が次々に溶融し、鋼材1の表面が溶削される。すなわち、湯溜まり部1Eの搬送方向Yの後方側が、酸化反応熱によって溶削されることになる。このように、溶削装置30によって、加熱炉20において加熱された後のスラブ1Aの表面が溶削される。
【0030】
ところで、鋼材1に対して薄い溶削厚みでの溶削を行う場合、溶削の際の鋼材1の搬送速度(以下単に、「溶削速度」とも称する)を速くするか、溶削用酸素37の圧力を下げるといった方法が考えられる。一般に、溶削速度を速くすると、おおむね速度に反比例して溶削厚みは薄くなる。一例として
図3に示すように、溶削速度15m/min以上では2.0mm未満の溶削を実現することが可能となる(図中の高圧(例えば、0.76MPa)参照)。しかし、さらに溶削速度を速くし、20m/min以上にすると、溶削反応が途切れ、溶削箇所が連続的にならず、断続的に存在する溶削不良(いわゆる、トラ刈り現象)が発生してしまう。このように、溶削現象は、ある溶削速度を超えると突然溶削が出来なくなる溶削限界(
図3の点線参照)が存在する。一方、溶削用酸素37の圧力を低くする(図中の低圧(例えば、0.49MPa)参照)と、低速で溶削厚みを低減できるが、溶削反応が途切れる溶削限界も低速に遷移してしまい、結果として溶削用酸素37の圧力を高くした場合と比較して、実現可能な溶削厚みは厚くなり、2.0mm未満の溶削厚みが実現できなくなってしまう。そのため、溶削速度に機械的な制約(例えば、搬送速度の上限)がある場合、酸素圧力を下げる等の溶削条件を調整しても、溶削限界以下の溶削厚みを実現することは困難であった。
【0031】
そこで、溶削限界以下に溶削厚みを低減させるため、本発明者らは、先ず、溶削速度を速くした場合に溶削が途切れるメカニズムについて詳細に検討した。その結果、溶削が安定して進行するためには、一例として
図4に示すように、溶削域WRで確実に溶削反応(例えば、Fe+1/2O
2=FeO)が進行するように、予熱域HRで、鉄の点火温度まで昇温させる必要があることに想到した。
【0032】
ここで、上述したように、前方シールドガス35は、溶削用酸素37の酸素濃度を保つための保護ガスとして噴射されている。発明者らは、前方シールドガス35の保護ガスとしての機能以外に、前方シールドガス35の燃焼熱を利用することで、前方シールドガス35を溶削反応の進行を補助するガスとしても機能させることを想到した。
【0033】
前方シールドガス35の熱量を増やすには、一般に、完全燃焼付近に設定することが考えられる。完全燃焼のためには、例えば、可燃性ガス35Bがプロパンの場合、プロパンガスに対して物質量で5倍の酸素を必要とする。さらに、燃焼反応(C3H8+5O2=3CO2+4H2O)の結果、発生するガスの物質量は1.4倍に増える。そして、燃焼に伴う温度上昇によって発生後のガスの体積は10倍近く膨張するため、前方シールドガス35の運動量が過剰に増大する。このような前方シールドガス35の膨張は、溶削用酸素37の流れを乱し、溶削の安定的な進行に影響を与える可能性がある。
【0034】
従って、前方シールドガス35において、可燃性ガス35Bの流量に対する酸素の流量の比をできる限り小さく保つことで、可燃性ガス35Bを完全燃焼させる流量比にする場合より、前方シールドガス35の燃焼熱量を大きくすることができる。
【0035】
前方シールドガス35に含まれる酸素35Aの流量は、可燃性ガス35Bの完全燃焼に必要な酸素量より小さくなるように設定されている。ここで、完全燃焼とは、可燃性ガスが燃焼反応によって完全に酸化することを指す。例えば、プロパンガスの場合、燃焼反応(C3H8+5O2=3CO2+4H2O)が進行することを指す。なお、完全とは、本実施形態の属する技術分野において許容される範囲での誤差であって、本開示の技術の趣旨に反しない程度の誤差を含めた意味合いでの完全を指す。
【0036】
また、前方シールドガス35において、可燃性ガス35Bと酸素35Aの流量比は、可燃性ガス35Bが燃焼を継続することが可能な流量比に設定される。これは、酸素35Aが全くないと、可燃性ガス35Bの燃焼反応が継続しないためである。すなわち、可燃性ガス35Bと酸素35Aの流量比は、可燃性ガス35Bが、反応物のまま滞留しない程度の流量比に設定される。ここで、燃焼反応を継続することが可能な流量比は、爆発限界で表現される。例えば、プロパンガスの場合、静止状態(すなわち、プロパンガスと酸素の流速が十分小さい場合)では、爆発限界となる流量比は、0.75<O/G<43である。しかし、前方シールドガス35の流速が増加すると、流量比の下限が増加する。そのため、実際に安定して前方シールドガス35を点火させるには、流量比は、2.0≦O/Gに設定され、静止状態と比較して多くの酸素が必要である。この場合において、O/Gの上限は、可燃性ガス35Bを完全燃焼させない範囲かつ鋼材1を溶削するために必要な流量比の範囲内で適宜設定され得る。例えば、O/G<5.0に設定される。
【0037】
また、前方シールドガス35において酸素35Aが全くないと、前方シールドガス35の全体の流量低下により保護機能が低下し、さらに前方シールドガス35の燃焼が継続しないため燃焼熱量による溶削補助の機能が失われてしまう。
【0038】
前方シールドガス35の燃焼熱による溶削反応への補助機能についてさらに検討するため、本発明者らは、前方シールドガス35の燃焼熱量を、溶削反応におけるFeO生成熱量と比較することを想到した。この場合において、FeO生成熱量は、溶鉄の燃焼熱の最大値として溶削されたFeがすべてFeOに変化したと考えた場合のFeO生成熱量とした。すなわち、FeOの生成熱量は、下記式(1)によって表すことができる。
【0039】
FeOの生成熱量=hWVsρ・64(Mcal/kmol)/55.8(kg/kmol) ・・・(1)
ここに、
h:溶削厚[m]
W:溶削幅[m]
Vs:溶削速度[m/h]
ρ:鋼の密度[kg/m3]
FeO生成反応のモル当たり熱量:64(Mcal/kmol)
FeOの分子量:55.8(kg/kmol)
【0040】
また、可燃性ガス35Bの発熱量は、例えば、可燃性ガス35Bがプロパンを主成分とするLPG(Liquefied Petroleum Gas)なので下記式(2)で表すことが出来る。
LPGの発熱量=QLPG・20.78Mcal/m3 ・・・(2)
ここに、
QLPG: LPG流量[m3/h]
【0041】
そして、FeOの生成熱量に対するLPGの発熱量の比κ(カッパ)は、下記式(3)の通り表すことができる。
κ=LPG燃焼熱÷FeO生成熱・・・(3)
【0042】
そして、前方シールドガス35の燃焼熱によってどれだけ溶削が安定するかを示す指標として、下記式(4)により表される最大溶削速度促進量ηを用いる。最大溶削速度促進量ηは、最大溶削速度がどれだけ向上するかの度合いである。
【0043】
η=Vmax/Vmax,0 ・・・(4)
ここに、
Vmax:前方シールドガス35の可燃性ガス35Bを増やした場合の最大溶削速度
Vmax,0:溶削が安定する最低限の流量の前方シールドガス35の場合の最大溶削速度
【0044】
なお、上述したように、前方シールドガス35は、溶削用酸素37の酸素濃度を保つために必要である。溶削用酸素37の酸素濃度を保ち、溶削が安定する最低限の流量の場合の前方シールドガス35において、LPG燃焼熱量とFeO生成熱量の比κは、概ね0.05である。この場合、最大溶削速度促進量ηは、1を示す。
【0045】
一例として
図5に示すように、熱量比κと最大溶削速度促進量ηの関係において、熱量比κが増えるほど最大溶削速度促進量ηが増える傾向が示されている。熱量比κが0.36では最大溶削速度促進量ηが2となり、可燃性ガス35Bによる最大溶削速度の増加の度合いが2倍を示す。また、熱量比κと最大溶削速度促進量ηの関係において、熱量比κに対する溶削速度の増加は、概ね線形を示す。近似直線と、η=1の直線との交点において、熱量比κ=0.11である。従って、κ>0.11でη>1.0となり、最大溶削速度が増加することが分かる。
【0046】
また、熱量比κの上限は、κ≦0.4となるように設定され得る。熱量比κを大きくするためには、例えば、可燃性ガス35Bの流量を増加させる。この結果、熱量比κが0.4より大きくなると、可燃性ガス35Bを含む前方シールドガス35の流れによって、溶削用酸素37の流れが阻害される場合がある。これにより、溶削が安定して行われなくなる場合がある。そのため、熱量比κ≦0.4となるように設定され得る。
【0047】
最大溶削速度が増えるということは、溶削の安定性が向上することを意味する。すなわち、鋼材製造プロセスにおいて、途中で溶削不良(例えば、溶削箇所が途切れる現象)が発生しにくくなる。一方で、最大溶削速度が増える分、溶削速度(すなわち、溶削対象となる鋼材の搬送速度)を上げることで、溶削厚みが、より薄くなることを意味する。そこで、最低限の流量の前方シールドガス35で溶削した時の最小溶削厚みに対して、前方シールドガス35の可燃性ガス35Bの燃焼熱を増すことで、どれだけ溶削厚みが薄くなるかを下記式(5)の通り、ξで表す。
【0048】
ξ=hVmax/hVmax,0 ・・・(5)
ここに、
ξ:最小溶削厚み変化量
hVmax:Vmaxの場合の溶削厚み
hVmax,0:Vmax,0の場合の溶削厚み
【0049】
一例として
図6に示すように、熱量比κと最小溶削厚み変化量ξの関係において、最小溶削厚み変化量ξは、0.66まで低下する。すなわち、前方シールドガス35の可燃性ガス35Bの燃焼熱を利用することで、例えば、最大で34%の溶削厚みを低減できることを示している。
【0050】
このように、前方シールドガス35において、可燃性ガス35Bの燃焼熱を利用することで溶削反応が安定して進行することが実現される。さらに、溶削反応が安定して進行することで、最小溶削厚みを低減することができる。すなわち、前方シールドガス35における可燃性ガス35Bの燃焼熱を利用しない場合の溶削限界以下での溶削を実現することができる。
【0051】
ところで、近年、鋼材の製造プロセスにおける二酸化炭素排出量削減のため、鉄鉱石以外の鉄源が利用されるようになっている。例えば、鉄源として鉄屑の使用比率を上げることが検討されている。
【0052】
しかしながら、鉄源として鉄屑を利用する場合、鋼材の製造段階において鉄屑に含まれる銅(Cu)に起因した表面欠陥が生じる場合がある。例えば、熱間圧延プロセスにおいて、Cuが鋼材の表面に濃化することによる赤熱脆化割れが生じ、鋼材の表面品質が低下する。このため、Cuを含む鉄屑の鉄源中の使用比率を上げることは困難であり、環境に配慮した鋼材製造プロセスの実現の妨げとなっている。
【0053】
そこで、スラブ1Aの表面におけるCu濃化層の除去を熱間圧延における加熱炉20による加熱の後に行う。すなわち、熱間圧延における熱履歴において、鋼材1は、加熱炉20を出た後、粗圧延工程で1000℃以下になって以降は、再び1000℃以上に昇温されることがない。従って、加熱炉20による加熱の後、Cu濃化層の除去を行えば、それ以降の工程においてスケールが発生することが抑制される。この結果、Cu濃化現象も抑制され、赤熱脆化割れも抑制されることとなる。
【0054】
Cu濃化層は表層2mm未満のみで生成し、多くとも2mm程度の溶削厚み、Cu含有量又は加熱条件によっては1.0mm以下の溶削厚みの溶削を行えば、赤熱脆化割れを抑制することができる。
【0055】
そこで、一例として
図7に示すように、溶削装置30は、Cu濃化層Rを含む領域である対象領域Tを除去する。ここで、対象領域Tは、鋼材1の厚み方向tにおいて、鋼材1の表面(すなわち、スケールSの表面)から予め定められた距離の範囲である。予め定められた距離は、例えば、0mmより大きく3mm以下であり、好ましくは、0mmより大きく2mm以下であり、より好ましくは、0mmより大きく1mm以下である。
【0056】
鋼材1が粗バー1Bである場合、鋼材1の厚みは、例えば、25~50mm程度とされている。そこで、対象領域Tとして鋼材1の表面からの距離で1mm以下の領域を除去することで、鋼材1の厚みが減少することを抑制し、歩留まりを向上できる。
【0057】
なお、
図7に示す例では、鋼材1の厚み方向における一の表面が溶削される形態例を示しているが、本実施形態に係る溶削装置30は、鋼材1の厚み方向における他の面も溶削される。この場合において、溶削装置30は、鋼材1の一の表面及び他の表面の各々に対向する位置にスカーファーユニット31を備える。
【0058】
Cu濃化層Rを含む対象領域Tが溶削されて除去されることで、結晶粒界GBに存在する割れCが除去される。この結果、鋼材1の表面における赤熱脆化割れが抑制される。
【0059】
また、上述したように、本実施形態では、前方シールドガス35において、可燃性ガス35Bの燃焼熱を利用することで溶削反応が安定して進行することが実現される。さらに、溶削反応が安定して進行することで、最小溶削厚みを低減することができる。すなわち、前方シールドガス35における可燃性ガス35Bの燃焼熱を利用しない場合の溶削限界以下での溶削を実現することができる。これにより、鋼材1の表面に存在するCu濃化層Rを含む領域である対象領域Tを除去する場合に、2mm以下、好ましくは1mm以下の溶削を安定して行うことが実現される。
【0060】
また、熱間圧延設備においては、部分的に10m/min以下の低速での搬送が行われる場合がある。この場合、前方シールドガス35における可燃性ガス35Bの燃焼熱を利用しない条件で溶削を行おうとすると、溶削限界があるため、溶削厚み2mm以下で安定して溶削を行うことは困難である(
図3参照)。しかしながら、本実施形態では、前方シールドガス35において、可燃性ガス35Bの燃焼熱を利用することで溶削反応が安定して進行することが実現される。さらに、溶削反応が安定して進行することで、最小溶削厚みを低減することができ、溶削厚み2mm以下での安定した溶削が実現される。
【0061】
次に、
図8を参照しながら、本実施形態に係る溶削方法について説明する。
図8は、本実施形態に係る溶削方法を説明するためのフローチャートである。
図8に示すように、先ず、ステップST10において、鋼材1の表面に可燃性ガス33と予熱用酸素32を吹き付けて燃焼させることにより、鋼材1の表面を予熱する。ステップST10の工程が実行された後、溶削方法は、ステップST12に移行する。
【0062】
ステップST12において、ステップST10で予熱された鋼材1に対して、鋼材1の表面に対して溶削用酸素37が吹き付けられるとともに鋼材1が搬送される。これにより、溶削用酸素37と鋼材1との酸化反応熱によって、搬送される鋼材1の表面が溶削される。この場合、可燃性ガス35Bと酸素35Aとを含む前方シールドガス35が噴出されており、前方シールドガス35において、上記式(3)で求められる熱量比κがκ>0.11となる様に設定されている。ステップST12の工程が実行された後、本実施形態に係る溶削方法は、終了する。
【0063】
以上説明したように、本実施形態に係る溶削方法では、鋼材1の表面を予熱する工程と、溶削用酸素37と鋼材1との酸化反応熱によって鋼材1の表面を溶削する工程とを含んでいる。溶削工程では、可燃性ガス35Bと酸素35Aとを含む前方シールドガス35が噴射される。前方シールドガス35では、FeOの生成熱量に対する可燃性ガス35Bの発熱量の比κが、κ>0.11となる様に設定されている。これにより、前方シールドガス35において、可燃性ガス35Bの燃焼熱を利用することで溶削反応が安定して進行することが実現される。さらに、溶削反応が安定して進行することで、最小溶削厚みを低減することができる。すなわち、前方シールドガス35における可燃性ガス35Bの燃焼熱を利用しない場合の溶削限界以下での溶削を実現することができる。
【0064】
また、本実施形態に係る溶削方法では、前方シールドガス35に含まれる酸素35Aの流量は、可燃性ガス35Bの完全燃焼に必要な酸素量より小さくなるように設定されている。また、前方シールドガス35において、可燃性ガス35Bと酸素35Aの流量比は、可燃性ガス35Bが燃焼を継続することが可能な流量比に設定される。これにより、完全燃焼に伴う前方シールドガス35の膨張に起因した溶削の安定的な進行への影響を抑制しつつ、前方シールドガス35の燃焼反応を継続的に生じさせることができる。この結果、溶削反応が安定して進行し、最小溶削厚みを低減することが実現される。
【0065】
また、本実施形態に係る溶削方法では、鋼材1の表面から厚み方向tにおいて、2mm以下の対象領域Tが、溶削によって除去される。鋼材1の表層欠陥の多くは、一般に表面から2mm以下の対象領域Tに存在する。例えば、Cu濃化層Rは表層2mm未満のみで生成し、多くとも2mm程度の溶削厚みの溶削を行えば、赤熱脆化割れを抑制することができる。また、溶削により除去する対象領域Tを2mm以下とすることで、鋼材1の歩留まりを向上できる。
【0066】
また、本実施形態に係る溶削方法では、溶削によって対象領域Tの除去が行われる場合の鋼材1の搬送速度は、10m/min以下とされている。低速での溶削では、溶削限界があるため、溶削厚み2mm以下で安定して溶削を行うことは困難である(
図3参照)。本構成では、前方シールドガス35において、可燃性ガス35Bの燃焼熱を利用することで溶削反応が安定して進行することで、最小溶削厚みを低減でき、溶削厚み2mm以下での安定した溶削が実現される。
【0067】
また、本実施形態に係る溶削方法では、鋼材1は、熱間圧延の対象となる鋼材である。熱間圧延工程における鋼材1では、表層にCu濃化層Rが発生し、圧延において赤熱脆化割れを発生させる。本構成では、前方シールドガス35において、可燃性ガス35Bの燃焼熱を利用することで溶削反応が安定して進行することで、最小溶削厚みを低減でき、Cu濃化層Rに対する安定した溶削が実現される。
【0068】
(変形例)
なお、上記実施形態では、前方シールドガス35の噴射方向と、溶削用酸素37の噴射方向とが一致している形態例を挙げて説明したが、これはあくまでも一例にすぎない。例えば、一例として
図9に示すように、前方シールドガス35の噴射方向を、溶削用酸素37の噴射方向に対して交差するように角度をつけた向きに設定してもよい。
【0069】
この場合、前方シールドガス35において可燃性ガス35Bを完全燃焼付近に設定した場合の溶削の安定的な進行への影響は、上記実施形態の場合よりも大きくなる。すなわち、可燃性ガス35Bの完全燃焼によって前方シールドガス35が膨張し、運動量が過剰に増大することで、溶削用酸素37の噴射に影響を及ぼす。このため、溶削反応が不安定になりやすくなる。
【0070】
本変形例では、上記実施形態と同様に、可燃性ガス35Bと酸素35Aとを含む前方シールドガス35が噴射され、FeOの生成熱量に対する可燃性ガス35Bの発熱量の比κが、κ>0.11となる様に設定されている。これにより、前方シールドガス35において、可燃性ガス35Bの燃焼熱を利用することで溶削反応が安定して進行することが実現される。
【0071】
また、上記実施形態では、熱間圧延工程において、加熱炉20による加熱工程及び粗圧延工程との間で、溶削装置30による溶削が行われる形態例を挙げて説明したが、これはあくまでも一例にすぎない。例えば、溶削装置30による溶削は、粗圧延工程中に行われてもよい。具体的には、溶削装置30は、粗圧延装置50を形成する各圧延機の間に設けられる。また、例えば、溶削装置30による鋼材1に対する溶削が、粗圧延の後、仕上圧延の前に行われてもよいし、仕上圧延工程中に行われてもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、熱間圧延工程において溶削装置30による溶削が行われる形態例を挙げて説明したが、これはあくまでも一例にすぎない。本実施形態に係る溶削方法は、製鋼工程、又は熱間圧延工程の加熱炉前において適用されてもよい。さらに、本実施形態に係る溶削方法は、鋼材1の製造ラインに適用されるものでなくてもよく、また、溶削の対象となる鋼材1も鋼帯ではなく、鋼管、又はH型鋼であってもよい。
【実施例0073】
本発明に係る溶削方法について性能を評価するため、溶削実験を行い、前方シールドガス35の燃焼熱によって溶削厚みが変化するかを確認した。
【0074】
比較例として、最低限の前方シールドガス35の流量における熱量比κ=0.05に設定した。また、実施例として、前方シールドガス35の熱量比κを増加させた条件とした。
【0075】
溶削厚みから上記式(1)を用いてFeOの生成熱を算出した。また、可燃性ガス35Bとしてプロパンガスを用い、上記式(2)を用いて可燃性ガス35Bの燃焼熱を算出した。熱量比κは、上記式(3)を用いて算出した。
【0076】
最小溶削厚み変化量ξは、比較例の溶削厚み及び実施例の溶削厚みから上記式(5)を用いて算出した。従って、比較例における最小溶削厚み変化量ξは、1.0となる。
【0077】
溶削条件としてユニット距離Hを変化させた。また、溶削用酸素圧力は、すべて同一とした。試験鋼板の幅中央のみ溶削し、溶削厚みは、未溶削領域に対する溶削領域の凹みをレーザー距離計により計測した。溶削厚みは、長手方向(すなわち、溶削の進行方向)における10点で計測した平均値である。試験結果を表1に示す。
【0078】
【0079】
表1に示すように、熱量比κ>0.11となる実施例1~9のいずれの条件も最小溶削厚み変化量ξ<1.0となり、比較例1~4に対して、最低溶削厚みが低減した。すなわち、前方シールドガス35の燃焼熱を利用しない場合と比較して、薄い溶削厚みの溶削が可能であることが示された。
【0080】
次に、前方シールドガス35の酸素35Aと可燃性ガス35Bの流量比O/Gの条件を変化させた試験結果を表2に示す。
【0081】
【0082】
可燃性ガス35Bはプロパンを用いたため、O/G=5.0が完全燃焼条件である。そのため、ほぼ同じκの値であっても、比較例5であるO/G>5.0の完全燃焼より酸素過多の条件では、最小溶削厚み変化量ξを低減する効果があまり発揮できなかったことが分かる。すなわち、実施例10及び11では、O/G≦5.0の完全燃焼ではない条件の流量比で、最小溶削厚み変化量ξを低減できることが示された。
【0083】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は係る例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は応用例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0084】
上記実施形態に加えて、更に以下の付記を開示する。
【0085】
(付記1)
鋼材の表面に可燃性ガスと酸素を吹き付けて燃焼させる予熱工程と、
上記鋼材の表面に溶削用酸素を吹き付けるとともに上記鋼材を搬送し、搬送される上記鋼材の表面を溶削する溶削工程と、
を含み、
上記溶削工程では、上記溶削用酸素が上記鋼材と酸化反応して形成される火点の溶削進行方向前方側に、上記可燃性ガスと上記酸素とを含むシールドガスを噴出する構成とされており、
上記シールドガスにおいて、式(A)で求められる熱量比κが以下の関係式(B)を満たす
溶削方法。
κ=可燃性ガスの燃焼熱量/FeOの生成熱量 ・・・(A)
κ>0.11 ・・・(B)
(付記2)
上記シールドガスに含まれる上記酸素の流量は、上記可燃性ガスの完全燃焼に必要な酸素の流量より小さく、
上記可燃性ガスと上記酸素の流量比は、上記可燃性ガスが燃焼を継続する流量比である 付記1に記載の溶削方法。
(付記3)
上記溶削工程において、溶削によって対象領域の除去が行われる場合、
上記対象領域は、上記鋼材の表面から厚み方向において2mm以下の領域である
付記1又は付記2に記載の溶削方法。
(付記4)
上記溶削工程において、溶削によって対象領域の除去が行われる場合、上記鋼材の搬送速度は10m/min以下とされている
付記1から付記3のうちの何れか一つに記載の溶削方法。
(付記5)
上記鋼材は、熱間圧延の対象となる鋼材である
付記1から付記4のうちの何れか一つに記載の溶削方法。
(付記6)
溶削用酸素を噴出する溶削用酸素噴出部と、
上記溶削用酸素の噴流よりも溶削進行方向前方側において、可燃性ガスと酸素とを含むシールドガスを噴射するシールドガス噴射部と、
を備え、
上記シールドガスにおいて、式(C)で求められる熱量比κが以下の関係式(D)を満たす
溶削装置。
κ=可燃性ガスの燃焼熱量/FeOの生成熱量 ・・・(C)
κ>0.11 ・・・(D)