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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142252
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】溶削装置、及び溶削方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 7/06 20060101AFI20241003BHJP
   B21B 45/02 20060101ALI20241003BHJP
   B22D 11/12 20060101ALI20241003BHJP
   B21B 1/26 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
B23K7/06 M
B21B45/02 330
B22D11/12 Z
B21B1/26 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054367
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仁井谷 洋
(72)【発明者】
【氏名】青木 利一
(72)【発明者】
【氏名】木原 勇輝
【テーマコード(参考)】
4E002
【Fターム(参考)】
4E002AD04
4E002BD08
4E002BD10
(57)【要約】
【課題】薄い溶削厚みを実現することが可能な溶削装置、及び溶削方法を提供する。
【解決手段】鋼材の表面に対して酸素と可燃性ガスを噴射することにより、燃焼熱及び鋼材の酸化反応熱によって鋼材の表面を溶削する溶削装置であって、酸素を噴射するための酸素スロットの厚みdが、以下の関係式(1)を満たす溶削装置。
d<5.2(mm) ・・・(1)
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材の表面に対して酸素と可燃性ガスを噴射することにより、燃焼熱及び前記鋼材の酸化反応熱によって前記鋼材の前記表面を溶削する溶削装置であって、
前記酸素を噴射するための酸素スロットの厚みdが、以下の関係式(1)を満たす
溶削装置。
d<5.2(mm) ・・・(1)
【請求項2】
前記酸素スロットの厚みdが、さらに以下の関係式(2)を満たす
請求項1に記載の溶削装置。
d<0.52Vs ・・・(2)
ここで、Vs:搬送速度(m/min)
【請求項3】
前記溶削装置による溶削の対象となる前記鋼材の搬送速度Vsが、10m/min以下とされている
請求項2に記載の溶削装置。
【請求項4】
前記溶削装置が、熱間圧延設備の加熱炉よりも下流側に設けられている
請求項1~3の何れか一項に記載の溶削装置。
【請求項5】
鋼材の表面に対して酸素と可燃性ガスを噴射することにより、燃焼熱及び鋼材の酸化反応熱によって前記鋼材の前記表面を溶削する溶削方法であって、
前記酸素を噴射するための酸素スロットの厚みdが、以下の関係式(3)を満たす
溶削方法。
d<5.2(mm) ・・・(3)
【請求項6】
前記酸素スロットの厚みdが、さらに以下の関係式(4)を満たす
請求項5に記載の溶削方法。
d<0.52Vs ・・・(4)
ここで、Vs:搬送速度(m/min)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶削装置、及び溶削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、薄スラブ連続鋳造鋳型5の下端より連続的に引き抜かれる厚み100mm以下の鋳片7の表層部を、その冷却途中において、鋳片表面加熱装置8,8Aにて加熱し再溶融させる薄スラブ連続鋳造鋳片の表面清浄化方法が記載されている。また、特許文献1には、加熱を薄スラブ連続鋳造機15の機端16または鋳片の完全凝固位置以降から、鋳片切断装置9または加熱炉10入側または加熱炉出側までの位置にて行うことが好ましく、また、鋳片表面加熱装置はプラズマまたはレーザを熱源とするものであることが記載されている。
【0003】
特許文献2には、連続鋳造後の高温鋳片を、より高温に加熱して鋳片表面層欠陥部を酸化せしめ、次いで高圧水を吹き付けて酸化物を除去する鋳片表面層の欠陥部除去方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-170020号公報
【特許文献2】特開平9-174500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鋼材の製造プロセスにおいて、鋼材の表面に対して手入れが行われる場合がある。例えば、鋼材の表面に生じた割れは、品質欠陥となるので除去する必要がある。特に、表面品質を重視する高級鋼材、自動車用鋼板等では、表面の割れを除去することが求められる。また、例えば、スラブ1Aの表面に生じた酸化鉄、鋳造時に表層に噛み込んだ介在物及び鋳造パウダ、又は気泡痕等の表層欠陥が、表面の手入れによって除去される。
【0006】
表面手入れ方法として、鋼材の製造プロセスに溶削を適用するにあたっては、歩留まりの低下を避けるため、薄い溶削厚みを実現することが求められる。しかしながら、特許文献1及び2に記載の技術では、何れも溶削については記載されておらず、薄い溶削厚みを実現する溶削の条件についても考慮されていない。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、薄い溶削厚みを実現することが可能な溶削装置、及び溶削方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、鋼材の表面に対して酸素と可燃性ガスを噴射することにより、燃焼熱及び鋼材の酸化反応熱によって鋼材の表面を溶削する溶削装置であって、上記酸素を噴射するための酸素スロットの厚みdが、以下の関係式(1)を満たす溶削装置が提供される。
d<5.2(mm) ・・・(1)
【0009】
上記酸素スロットの厚みdが、さらに以下の関係式(2)を満たしてもよい。
d<0.52Vs ・・・(2)
ここで、Vs:搬送速度Vs(m/min)
【0010】
上記溶削装置による溶削の対象となる上記鋼材の搬送速度Vsが、10m/min以下とされてもよい。
【0011】
上記溶削装置が、熱間圧延設備の加熱炉よりも下流側に設けられてもよい。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の他の観点によれば、鋼材の表面に対して酸素と可燃性ガスを噴射することにより、燃焼熱及び鋼材の酸化反応熱によって上記鋼材の上記表面を溶削する溶削方法であって、上記酸素を噴射するための酸素スロットの厚みdが、以下の関係式(3)を満たす溶削方法が提供される。
d<5.2(mm) ・・・(3)
【0013】
上記酸素スロットの厚みdが、さらに以下の関係式(4)を満たしてもよい。
d<0.52Vs ・・・(4)
ここで、Vs:搬送速度Vs(m/min)
【発明の効果】
【0014】
以上、説明したように本発明によれば、薄い溶削厚みを実現することが可能な溶削装置及び溶削方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1の実施形態に係る熱間圧延設備の概略構成の一例を示す模式図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係る溶削装置の概略構成の一例を示す模式図である。
図3】溶削速度と溶削厚みの関係の一例を示すグラフである。
図4】溶削の様子の一例を示す模式図である。
図5】溶削の様子の一例を示す模式図である。
図6】本発明の第1の実施形態に係る溶削装置の概略構成の一例を示す模式図である。
図7】限界溶削厚みと酸素スロット厚みとの関係の一例を示すグラフである。
図8】限界溶削厚みと酸素スロット厚みとの関係の一例を示すグラフである。
図9】勾配と溶削速度との関係の一例を示すグラフである。
図10】溶削速度と溶削厚みの関係の一例を示すグラフである。
図11】本発明の第1の実施形態に係る対象領域の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0017】
<第1の実施形態>
まず、図1を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る熱間圧延設備10の概略構成について説明する。図1は、熱間圧延設備10の概略構成を示す図である。
【0018】
一例として図1に示すように、熱間圧延設備10は、鋼材1を熱間圧延するための設備である。熱間圧延設備10は、加熱炉20、溶削装置30、デスケーリング装置40、粗圧延装置50、及び仕上圧延装置60を含む。加熱炉20は、連続鋳造機11から排出された鋼材1を所定の長さに切断することにより得られる鋼材1(例えば、スラブ1A)を予め定められた温度まで加熱する。スラブ1Aは、搬送ロール22によって搬送されながら、加熱炉20によって加熱される。ここで、鋼材1は、Cuを含有する鋼材であり、例えば、Cuを0.15wt%以上含有し、特に、Cuを0.25wt%以上含有している鋼材である。なお、ここでは、鋼材1としてスラブ1Aを例に挙げているが、これはあくまでも一例に過ぎず、鋼材1は、ビレットであってもよい。
【0019】
溶削装置30は、加熱炉20から排出されたスラブ1Aに対して溶削を行うことにより、スラブ1Aの表面部分を除去する。溶削装置30の詳細については後述する。溶削装置30は、加熱炉20よりもスラブ1Aの搬送方向において下流側に位置している。また、溶削装置30は、デスケーリング装置40よりも上流側に位置している。より具体的には、溶削装置30は、加熱炉20よりも下流側に位置し、かつ加熱炉20において加熱されたスラブ1Aを幅方向に圧延する縦ロール24よりも上流側に位置している。なお、本明細書において、「除去」とは完全な除去を含み、本発明の属する技術分野において一般的に許容される範囲内での除去不足であって、本発明の趣旨に反しない程度での除去不足を含めた意味合いでの除去を指す。
【0020】
デスケーリング装置40は、粗圧延装置50による粗圧延の前にスラブ1Aの表面に形成されたスケール(すなわち、酸化被膜)を除去する。デスケーリング装置40は、ノズル42から流体(例えば、冷却水)をスラブ1Aに噴射することで、スケールを除去する。すなわち、デスケーリング装置40は、例えば、冷却水タンク(図示省略)から供給され、かつポンプ(図示省略)を用いて所定の水圧とされた冷却水Wを、ノズル42からスラブ1Aに対して噴射する。デスケーリング装置40によってスラブ1Aの表面のスケールが除去されるとともに、冷却水による抜熱によってスラブ1Aの表面の温度が1100℃以下とされる。ここで、デスケーリング装置40によるスケール除去後のスラブ1Aの表面の温度(例えば、スラブ1Aの幅方向における側面)は、放射温度計によって測定される。
【0021】
粗圧延装置50は、スラブ1Aに対して粗圧延を行い、所定の厚みまで薄くする。具体的には、粗圧延装置50は、縦ロール24によって幅方向に圧延されたスラブ1Aを上下方向から圧延して粗バー1Bとする。図1に示す例では、粗圧延装置50は、4台の圧延機51~54を備えている。粗圧延装置50は、スラブ1Aをロールで上下に挟んで圧延機51~54を用いて連続的に圧延する。粗圧延装置50において、スラブ1Aは、例えば、25~50mm程度の板厚まで薄くされることにより、粗バー1Bとして成形される
【0022】
仕上圧延装置60は、粗バー1Bをさらに所定の厚みまで連続して熱間仕上圧延をする。具体的には、粗バー加熱装置62によって再度加熱され、搬送されてきた粗バー1Bを数mm(例えば、1~2mm)程度の板厚まで仕上げ圧延する。これら仕上圧延装置60は、6~7スタンドに亘って上下一直線に並べた仕上圧延ロール64の間隙に粗バー1Bを通過させ、これを徐々に圧下していく。この仕上圧延装置60により所定の板厚まで仕上げ圧延されることにより得られる鋼帯1Cは、冷却装置70へと送られる。なお、ここでは、仕上圧延装置60が、6~7スタンドを有する形態例を示しているが、これはあくまでも一例にすぎず、仕上圧延装置60が、5スタンドを有してもよい。
【0023】
冷却装置70は、仕上圧延後の鋼帯1Cを冷却水Wにより冷却する。冷却装置70は、例えば、パイプラミナーノズル方式の冷却装置である。冷却装置70により冷却された1Cは、巻取装置80により、コイル状に巻き取られ、熱延コイル1Dとして熱間圧延設備10から次工程に搬送される。
【0024】
本実施形態に係る熱間圧延設備10において、溶削装置30によって、スラブ1Aの表面が除去される。一例として図2に示すように、溶削装置30は、鋼材1の表面に対向するように配置されたスカーファーユニット31を有している。このスカーファーユニット31は、予熱用ガス噴出部34と、酸素スロット36とを備えている。予熱工程において、予熱用ガス噴出部34は、予熱用酸素32と可燃性ガス33とを噴出する。また、溶削工程において、予熱用ガス噴出部34は、前方シールドガス35を噴射する。すなわち、溶削工程において、予熱用ガス噴出部34は、シールドガス噴射部として機能する。酸素スロット36は、溶削用酸素37を噴出する。
【0025】
なお、図2に示すように、酸素スロット36から噴出される溶削用酸素37の噴出流は、予熱用ガス噴出部34から噴出される予熱用酸素32及び可燃性ガス33の噴出流よりも、鋼材1の搬送方向Yの前方側に衝突するように配置されている。
【0026】
溶削装置30においては、まず、図2の左側に示すように、予熱工程が行われる。予熱工程では、スカーファーユニット31の予熱用ガス噴出部34から予熱用酸素32及び可燃性ガス33を鋼材1の表面に向けて噴出するとともに、この可燃性ガス33を燃焼させる。そして、燃焼する可燃性ガス33の熱により、鋼材1の表面の一部を溶融して、湯溜まり部1Eを形成する。
【0027】
なお、鋼材1の表面に形成される湯溜まり部1Eの搬送方向Yに沿った長さは、例えば20mm~30mm程度の範囲とされる。
【0028】
次に、図2の右側に示すように、溶削工程が行われる。溶削工程では、スカーファーユニット31の酸素スロット36から溶削用酸素37が鋼材1の表面に向けて噴出されるとともに、湯溜まり部1Eが形成された鋼材1が搬送方向Yに向けて搬送される。このとき、予熱用ガス噴出部34から前方シールドガス35が噴射される。前方シールドガス35は、可燃性ガス35Bと酸素35Aとを含んでいる。前方シールドガス35の流れは、溶削用酸素37に対して、溶削進行方向(すなわち、搬送方向であるY方向の反対方向)において、前方側に位置している。前方シールドガス35は、溶削用酸素37の酸素濃度を保つための保護ガスとして噴射されている。また、溶削用酸素37に対して、溶削進行方向において後方側に後方シールドガス38が噴射される。後方シールドガス38は、溶削用酸素37の酸素濃度を保つための保護ガスとして噴射されている。後方シールドガス38は、可燃性ガスであり、例えば、LPGである。換言すれば、前方シールドガス35及び後方シールドガス38によって、溶削用酸素37における外部からの空気(例えば、主に窒素)の流入、又は外部への酸素の流出が抑制され、溶削用酸素37の酸素濃度の変化が抑制されている。
【0029】
溶削工程において、酸素スロット36から噴出される溶削用酸素37の噴出流が、搬送される鋼材1の湯溜まり部1Eの溶融鉄に衝突し、溶融鉄と溶削用酸素37の酸化反応が生じる。この酸化反応熱によって、鋼材1の表面が次々に溶融し、鋼材1の表面が溶削される。すなわち、湯溜まり部1Eの搬送方向Yの後方側が、酸化反応熱によって溶削されることになる。このように、溶削装置30によって、加熱炉20において加熱された後のスラブ1Aの表面が溶削される。
【0030】
ところで、鋼材1に対して薄い溶削厚みでの溶削を行う場合、溶削の際の鋼材1の搬送速度(以下単に、「溶削速度」とも称する)を速くするか、溶削用酸素37の圧力を下げるといった方法が考えられる。一般に、溶削速度を速くすると、おおむね速度に反比例して溶削厚みは薄くなる。一例として図3に示すように、溶削速度15m/min以上では2.0mm未満の溶削を実現することが可能となる(図中の高圧(例えば、0.76MPa)参照)。しかし、さらに溶削速度を速くし、20m/min以上にすると、溶削反応が途切れ、溶削箇所が連続的にならず、断続的に存在する溶削不良(いわゆる、トラ刈り現象)が発生してしまう。このように、溶削現象は、ある溶削速度を超えると突然溶削が出来なくなる溶削限界(図3の点線参照)が存在する。
【0031】
一方、溶削用酸素37の圧力を低くする(図中の低圧(例えば、0.49MPa)参照)と、低速で溶削厚みを低減できるが、溶削反応が途切れる溶削限界も低速に遷移してしまい、結果として溶削用酸素37の圧力を高くした場合と比較して、実現可能な溶削厚みは厚くなり、2.0mm未満の溶削厚みが実現できなくなってしまう。そのため、溶削速度に機械的な制約(例えば、搬送速度の上限)がある場合、酸素圧力を下げる等の溶削条件を調整しても、溶削限界以下の溶削厚みを実現することは困難であった。
【0032】
一般に、溶削厚みを低減させるには、一例として図4に示すように、溶削領域WRを狭くするか、溶削領域WRの角度θ(=tan-1(溶削厚みt1/溶削領域長さ))を緩やかにする必要がある。例えば、溶削速度を速くした場合、溶削領域WRに溶削用酸素37がさらされる時間が短くなり、溶削領域WRの角度θが緩やかになる。しかし、溶削速度を速くする場合、10m/min以下の搬送速度を達成する目的と相反する。
【0033】
また、溶削用酸素37の圧力を低下させた場合も、厚み方向の溶削進行速度が抑制され、角度θが緩やかになる。しかし、溶削用酸素37の圧力を低下させた場合、酸素噴流の運動量が低下し、溶削されて発生した溶鉄1Fを排除することができなくなり、溶削不良が発生しやすくなる。この結果、最小溶削厚みが厚くなってしまう。そこで、本発明者らは、鋭意検討したところ、溶削速度を速くすることなく、溶削用酸素37の圧力を十分に保ったまま溶削厚みt1を薄くするには、物理的に溶削領域WRを狭くすることを想到し、一例として図5に示すように、溶削用酸素37の噴流の厚みを薄くすることを考案した。
【0034】
一例として図6に示すように、溶削装置30におけるスカーファーユニット31は、アッパーブロック31A、ロアーブロック31B、及びシュー31Cを備えている。アッパーブロック31Aの先端部に予熱用ガス噴出部34が形成されている。また、アッパーブロック31Aとロアーブロック31Bとの間に、酸素スロット36が形成されている。酸素スロット36は、予め設定された酸素スロット厚みdを有する開口である。溶削用酸素37は、酸素スロット36を介して鋼材1に向かって噴射される。
【0035】
図7は、溶削速度10m/minの場合の、様々な酸素スロット厚みdと、溶削用酸素37を減らしていった際の溶削不良(例えば、トラ刈り)が生じずに安定して溶削のできる最小の溶削厚みhとの関係を示している。一例として図7に示すように、酸素スロット厚みdと最小溶削厚みhとの関係は、線形を示している。図7に示す例では、安定して溶削可能な溶削厚みhは、h>0.39dで表すことができる。これによると、溶削速度10m/minで2.0mm以下の溶削厚みを実現するには、酸素スロット厚みdを5.2mm以下にするとよいことがわかる。
【0036】
図8は、溶削速度25m/minの場合の、酸素スロット厚みdと最小溶削厚みhとの関係を示している。一例として図8に示すように、溶削速度10m/minの場合と比較して、溶削可の領域が拡がることが分かる。そして、図7及び図8に示したように、各溶削速度における限界溶削厚み(すなわち、最小溶削厚み)hと酸素スロット厚みdとの関係は以下の通り表せる。
h>0.39d (Vs=10m/min) ・・・(1)
h>0.16d (Vs=25m/min) ・・・(2)
【0037】
図9は、溶削速度と勾配との関係を示している。一例として図9に示すように、上記式(1)及び上記式(2)の右辺の係数は、Vsが大きいほど減少する反比例の関係になっている。この式の係数を図9から、さらに整理すると以下の式で表すことができる。
h>3.8d/Vs ・・・(3)
上記式(3)より2.0mm以下で溶削するための条件は、下記式(4)の通りである。
d<0.52Vs ・・・(4)
【0038】
上記式(4)を満たす値に酸素スロット厚みdを設定することで、溶削用酸素37の圧力等の操業パラメータの調整によって、2.0mm以下の溶削厚みを安定して実現することが可能となる。図10に酸素スロット厚みd=4mm、高圧酸素で溶削したときの溶削速度と溶削厚みとの関係を示す。一例として図10に示すように、酸素スロット厚みdが4mmの条件では、溶削速度10m/minで、溶削厚み1.6mmを示している。溶削不良により溶削厚みが0に遷移する限界線(図中破線参照)は、酸素スロット厚みdが4mmの条件では、低速側に遷移しており、低速で薄肉溶削が実現している。
【0039】
ところで、近年、鋼材の製造プロセスにおける二酸化炭素排出量削減のため、鉄鉱石以外の鉄源が利用されるようになっている。例えば、鉄源として鉄屑の使用比率を上げることが検討されている。
【0040】
しかしながら、鉄源として鉄屑を利用する場合、鋼材の製造段階において鉄屑に含まれる銅(Cu)に起因した表面欠陥が生じる場合がある。例えば、熱間圧延プロセスにおいて、Cuが鋼材の表面に濃化することによる赤熱脆化割れが生じ、鋼材の表面品質が低下する。このため、Cuを含む鉄屑の鉄源中の使用比率を上げることは困難であり、環境に配慮した鋼材製造プロセスの実現の妨げとなっている。
【0041】
そこで、スラブ1Aの表面におけるCu濃化層の除去は、熱間圧延における加熱炉20による加熱の後に行われる。すなわち、熱間圧延における熱履歴において、鋼材1は、加熱炉20を出た後、粗圧延工程で1000℃以下になって以降は、再び1000℃以上に昇温されることがない。従って、加熱炉20による加熱の後、Cu濃化層の除去を行えば、それ以降の工程においてスケールが発生することが抑制される。この結果、Cu濃化現象も抑制され、赤熱脆化割れも抑制されることとなる。
【0042】
Cu濃化層は表層2mm未満のみで生成し、多くとも2mm程度の溶削厚み、Cu含有量又は加熱条件によっては1.0mm以下の溶削厚みの溶削を行えば、赤熱脆化割れを抑制することができる。
【0043】
そこで、一例として図11に示すように、溶削装置30は、Cu濃化層Rを含む領域である対象領域Tを除去する。ここで、対象領域Tは、鋼材1の厚み方向tにおいて、鋼材1の表面(すなわち、スケールSの表面)から予め定められた距離の範囲である。予め定められた距離は、例えば、0mmより大きく3mm以下であり、好ましくは、0mmより大きく2mm以下であり、より好ましくは、0mmより大きく1mm以下である。
【0044】
鋼材1が粗バー1Bである場合、鋼材1の厚みは、例えば、25~50mm程度とされている。そこで、対象領域Tとして鋼材1の表面からの距離で1mm以下の領域を除去することで、鋼材1の厚みが減少することを抑制し、歩留まりを向上できる。
【0045】
なお、図11に示す例では、鋼材1の厚み方向における一の表面が溶削される形態例を示しているが、本実施形態に係る溶削装置30は、鋼材1の厚み方向における他の面も溶削される。この場合において、溶削装置30は、鋼材1の一の表面及び他の表面の各々に対向する位置にスカーファーユニット31を備える。
【0046】
また、上述したように、本実施形態では、酸素スロット厚みdが予め定められた条件を満たすことで、低速の溶削速度であっても、限界溶削厚みを下回る薄い溶削厚みでの溶削が実現される。これにより、鋼材1の表面に存在するCu濃化層Rを含む領域である対象領域Tを除去する場合に、2mm以下、好ましくは1mm以下の溶削を安定して行うことが実現される。
【0047】
また、熱間圧延設備においては、部分的に10m/min以下の低速での搬送が行われる場合がある。この場合、酸素スロット厚みdが予め定められた条件を満たさない状態で溶削を行おうとすると、溶削限界があるため、溶削厚み2mm以下で安定して溶削を行うことは困難である(図3参照)。しかしながら、本実施形態では、酸素スロット厚みdが予め定められた条件を満たすことで、最小溶削厚みを低減することができ、溶削厚み2mm以下での安定した溶削が実現される。
【0048】
以上説明したように、本実施形態に係る溶削装置30では、鋼材1の表面に対して溶削用酸素37が噴射され、燃焼熱及び鋼材1の酸化反応によって鋼材1の表面が溶削される。溶削装置30において、溶削用酸素37を噴射するための酸素スロット厚みdは、下記関係式(5)を満たすように設定されている。
d<5.2(mm) ・・・(5)
酸素スロット厚みdが、上記関係式(5)を満たすことで、溶削用酸素37の噴流の厚みが薄くなり、溶削速度を速くすることなく、溶削用酸素37の圧力を十分に保ったまま、物理的に溶削領域WRが狭くなる。これにより、限界溶削厚みを下回る薄い溶削厚みでの溶削が実現される。
【0049】
また、本実施形態に係る溶削装置30では、さらに酸素スロット厚みdがさらに以下の関係式(6)を満たす。
d<0.52Vs ・・・(6)
酸素スロット厚みdが、上記関係式(6)を満たすことで、2.0mm以下の溶削厚みを安定して溶削することが実現される。
【0050】
また、本実施形態に係る溶削装置30では、溶削の対象となる鋼材1の搬送速度が10m/min以下とされている。搬送速度10m/min以下の低速では、溶削不良(例えば、トラ刈り)が生じるために、溶削が不安定になる場合がある(図3参照)。すなわち、10m/min以下の低速の溶削速度では、安定して溶削可能な限界溶削厚みが大きくなり、薄い溶削厚みでの溶削が困難である。本構成では、酸素スロット厚みdが予め定められた条件を満たすことで、低速の溶削速度であっても、限界溶削厚みを下回る薄い溶削厚みでの溶削が実現される。
【0051】
また、本実施形態に係る溶削装置30では、熱間圧延設備10において加熱炉20よりも搬送方向の下流側に設けられている。溶削装置30が、加熱炉20よりも下流側に設けられていることで、鋼材1の表面におけるCu濃化層の除去が、熱間圧延における加熱炉20による加熱の後に行われる。加熱炉20による加熱の後、Cu濃化層の除去を行えば、それ以降の工程においてスケールが発生することが抑制される。この結果、Cu濃化現象も抑制され、赤熱脆化割れも抑制されることとなる。また、Cu濃化層は表層2mm未満のみで生成し、多くとも2mm程度の溶削厚み、Cu含有量又は加熱条件によっては1.0mm以下の溶削厚みの溶削を行えば、赤熱脆化割れを抑制することができる。
【0052】
例えば、熱間圧延設備で溶削を行う場合、10m/minの搬送速度で2.0mm未満の薄肉溶削を行うことが必要な場合がある。Cuを含有する鋼材1に特有の赤熱脆化割れを防ぐ目的では、2mmを超える溶削厚みの溶削を行うことは品質上メリットがなく、むしろ歩留まりを低下させる。また、熱間圧延の粗圧延工程前の搬送工程は、一般的に10m/min以下の搬送速度が用いられる。なぜならば、加熱後の鋼材1(例えば、スラブ1A)には、反り、又は曲がりが生じており、10m/minを超える速度で搬送する場合、鋼材1との衝突によって設備に損傷を与える可能性がある。本構成では、搬送速度が、10m/minであっても、酸素スロット厚みdが予め定められた条件を満たすことで、低速の溶削速度であっても、限界溶削厚みを下回る薄い溶削厚みでの溶削が実現される。
【0053】
また、上記実施形態では、熱間圧延工程において、加熱炉20による加熱工程及び粗圧延工程との間で、溶削装置30による溶削が行われる形態例を挙げて説明したが、これはあくまでも一例にすぎない。例えば、溶削装置30による溶削は、粗圧延工程中に行われてもよい。具体的には、溶削装置30は、粗圧延装置50を形成する各圧延機の間に設けられる。また、例えば、溶削装置30による鋼材1に対する溶削が、粗圧延の後、仕上圧延の前に行われてもよいし、仕上圧延工程中に行われてもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、熱間圧延工程において溶削装置30による溶削が行われる形態例を挙げて説明したが、これはあくまでも一例にすぎない。本実施形態に係る溶削方法は、製鋼工程、又は熱間圧延工程の加熱炉前において適用されてもよい。さらに、本実施形態に係る溶削方法は、鋼材1の製造ラインに適用されるものでなくてもよく、また、溶削の対象となる鋼材1も鋼帯ではなく、鋼管、又はH型鋼であってもよい。
【実施例0055】
本発明に係る溶削装置について性能を評価するため、溶削条件を変えて溶削厚みを調べる溶削実験を行った。
【0056】
溶削条件は次の通りとした。酸素スロット厚みdは、6、4、又は3mmとし、溶削用酸素37の圧力は、高圧として0.76MPa、低圧として0.42MPaの2水準とした。
【0057】
また、溶削速度は、各溶削条件において、溶削不可となる条件となるまで低減させ、(溶削不可となる溶削速度)-(1m/min)の速度を溶削可能な溶削速度とした。溶削不可となった条件は、一部で溶削の途切れ等の溶削不良が発生した条件で、この場合は、例えば、ほぼ全部が溶削できていても、溶削厚みは0mmとした。
【0058】
溶削実験において試験鋼板の幅中央のみ溶削し、溶削厚みは、未溶削領域に対する溶削領域の凹みをレーザ距離計により計測した。溶削厚みは、長手方向(すなわち、溶削の進行方向)における10点で計測した平均値である。
【0059】
酸素スロット厚みd及び溶削用酸素37の圧力を変化させた結果を表1に示す。比較例1では最も薄い溶削厚は2.2mmで、それ以上の速度では溶削が途切れた。比較例2では、高速溶削時の溶削厚みは1.6mmとなり、2.0mm以下を達成したが、溶削速度10m/min以下では溶削厚みは厚く、低速での薄い溶削は実現しなかった。実施例1及び2では酸素スロット厚みdを4mm、又は3mmの条件で溶削を行った。いずれも溶削速度10m/min以下で溶削厚み2.0mm以下の溶削を実現できた。なお、発明例1の酸素スロット厚みdが4mmの条件は、10m/min以下の溶削速度で溶削が可能で、1.6mmより薄い溶削も実現した。
【0060】
【表1】
【0061】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は係る例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は応用例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0062】
上記実施形態に加えて、更に以下の付記を開示する。
【0063】
<付記1>
鋼材の表面に対して酸素と可燃性ガスを噴射することにより、燃焼熱及び鋼材の酸化反応熱によって鋼材の表面を溶削する溶削装置であって、
上記酸素を噴射するための酸素スロットの厚みdが、以下の関係式(A)を満たす
溶削装置。
d<5.2(mm) ・・・(A)
<付記2>
上記酸素スロットの厚みdが、さらに以下の関係式(B)を満たす
付記1に記載の溶削装置。
d<0.52Vs ・・・(B)
ここで、Vs:搬送速度(m/min)
<付記3>
上記溶削装置による溶削の対象となる上記鋼材の搬送速度Vsが、10m/min以下とされている
付記2に記載の溶削装置。
<付記4>
上記溶削装置が、熱間圧延設備の加熱炉よりも下流側に設けられている
付記1~3のいずれか一つに記載の溶削装置。
【符号の説明】
【0064】
1 鋼材
1A スラブ
1B 粗バー
1C 鋼帯
1D 熱延コイル
1E 湯溜まり部
1F 溶鉄
10 熱間圧延設備
11 連続鋳造機
20 加熱炉
22 搬送ロール
24 縦ロール
30 溶削装置
31 スカーファーユニット
31A アッパーブロック
31B ロアーブロック
31C シュー
32 予熱用酸素
33 可燃性ガス
34 予熱用ガス噴出部
35 前方シールドガス
35A 酸素
35B 可燃性ガス
36 酸素スロット
37 溶削用酸素
38 後方シールドガス
40 デスケーリング装置
42 ノズル
50 粗圧延装置
51,52,53,54 圧延機
60 仕上圧延装置
62 粗バー加熱装置
64 仕上圧延ロール
70 冷却装置
80 巻取装置
θ 角度
R Cu濃化層
S スケール
T 対象領域
Vs 搬送速度
W 冷却水
WR 溶削領域
Y 矢印
t 厚み方向
d 酸素スロット厚み
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11