(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142253
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】文化財等の建築物における補修判断システム、補修判断プログラム及び補修判断方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/08 20120101AFI20241003BHJP
E04G 23/00 20060101ALI20241003BHJP
G06T 17/00 20060101ALI20241003BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20241003BHJP
G06Q 10/20 20230101ALI20241003BHJP
【FI】
G06Q50/08
E04G23/00 ESW
G06T17/00
G06T7/00 610C
G06T7/00 300E
G06Q10/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054368
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】517116773
【氏名又は名称】株式会社DiO
(74)【代理人】
【識別番号】100195431
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 史樹
(72)【発明者】
【氏名】一筆 芳巳
【テーマコード(参考)】
2E176
5B080
5L049
5L050
5L096
【Fターム(参考)】
2E176BB00
5B080AA13
5B080AA19
5B080DA06
5B080FA02
5B080FA09
5B080GA22
5L049CC07
5L049CC15
5L050CC07
5L096AA09
5L096BA03
5L096BA18
5L096CA05
5L096FA67
5L096HA07
(57)【要約】
【課題】文化財等の建築物における建築物補修判断システムを提供する。
【解決手段】サーバが、
フォトグラメトリによって作成された前記三次元モデルを記憶する記憶部220と、
前記記憶部220に記憶されている損傷前の前記建築物Sの前記三次元モデルと、損傷後の前記建築物Sの前記三次元モデルとを比較し判定する建築物比較判定部250と、を含み、
前記建築物比較判定部250は、前記記憶部220に記憶されている前記建築物Sの前記三次元モデルと、損傷後の前記建築物Sの前記三次元モデルとを比較し、当該違いについて、前記建築物全体に対する割合を算出する建築物補修判断システム100を提供する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元モデルの対象物である文化財を含む建築物の補修を判断するため、端末と通信可能なサーバとを含む建築物補修判断システムであって、
前記サーバが、
フォトグラメトリによって作成された前記三次元モデルを記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶されている損傷前の前記建築物の前記三次元モデルと、損傷後の前記建築物の前記三次元モデルとを比較し判定する建築物比較判定部と、を含み、
前記建築物比較判定部は、前記記憶部に記憶されている前記建築物の前記三次元モデルと、損傷後の前記建築物の前記三次元モデルとを比較し、当該違いについて、前記建築物全体に対する割合を算出する建築物補修判断システム。
【請求項2】
三次元モデルの対象物である文化財を含む建築物の補修を判断するため、端末と通信可能なサーバとを含む建築物補修判断システムであって、
前記サーバが、
フォトグラメトリによって作成された前記三次元モデルを記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶されている前記三次元モデルから前記建築物の意匠図を作成する図面作成部と、
GPSを利用して前記建築物の測量を行うGPS測量部と、
前記図面作成部によって作成された前記建築物の前記意匠図に表示される寸法と、前記GPS測量部によって測量された前記建築物の寸法とを比較し判定する建築物比較判定部と、を含み、
前記図面作成部によって作成された前記意匠図に表示される前記建築物の寸法と、前記GPS測量部によって測量された前記建築物の寸法とが一致しない場合、前記建築物比較判定部は、エラー通知を通知する建築物補修判断システム。
【請求項3】
前記GPS測量部が、搬送波位相を利用して前記建築物の寸法を測量する請求項2記載の建築物補修判断システム。
【請求項4】
前記GPS測量部が、スタティック法を利用して前記建築物の寸法を測量する請求項2記載の建築物補修判断システム。
【請求項5】
前記GPS測量部が、衛星画像に基づいて前記建築物の寸法を測定する請求項2記載の建築物補修判断システム。
【請求項6】
前記建築物比較判定部が、寸法が一致するか否かの判定において、あらかじめ設定した誤差を考慮して判定する請求項2記載の建築物補修判断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、文化財等の建築物における補修判断システム、補修判断プログラム及び補修判断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
文化財保護法の施行から60年近くが経ち、社寺や宝物等の「希少で価値の高いもの」こそが文化財であるという認識から、文化財と呼ばれるものの裾野は大きく広がった。
【0003】
1975年の文化財保護法改正による伝統的建造物群保存地区制度の導入、1996年の登録文化財制度の導入など、人々の文化財に対する認識の広がりと共に制度は変革を遂げてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
文化財等の古い建築物は、火事や地震等により焼失又は倒壊する場合があり、また、全壊しなかった場合であっても大規模半壊、中規模半壊、半壊、準半壊、一部損壊するおそれがある。
【0006】
全壊、大規模半壊、中規模半壊、半壊、準半壊、及び、一部損壊のいずれに該当するか否かは、(1)外観による判定、(2)傾斜による判定、(3)部位による判定で判断される。
【0007】
外観による判定の場合、(1)一見して住家全部が倒壊、(2)一見して住家の一部の階が全部倒壊、(3)一見して住家全部が流出又はずり落ち、(4)地盤の液状化等により基礎のいずれかの辺が全部倒壊かつ基礎直下の地盤が流出・陥没、(5)地盤面の亀裂が住家直下を縦断・横断、の場合は全壊と判断される。
【0008】
傾斜による判定の場合、外壁又は柱の傾斜が1/20以上の場合に全壊と判断される。
【0009】
部位による判定の場合、基礎又は柱(又は耐力壁)の損傷率が75%以上の場合に全壊と判断される。
【0010】
部位による判定の場合、基礎又は柱(又は耐力壁)の損傷率が75%未満の場合、各部位の損傷程度等(及び傾斜)から住家の損害割合を算定する。
【0011】
住家の損害割合は、50%以上の場合は全壊、40%以上50%未満の場合は大規模半壊、30%以上40%未満の場合は中規模半壊、20%以上30%未満の場合は半壊、10%以上20%未満の場合は準半壊、10%未満の場合は一部損壊と判断される。
【0012】
しかしながら、損害割合が何%か判断するのは非常に困難である。
【0013】
特に、文化財等の古い建築物の場合、比較対象となる建築物が損傷しており、また、図面がなかったり、図面があっても現物と違ったりする場合、損害割合を算定するのは困難であるという問題がある。
【0014】
本発明の主な目的は、文化財等の建築物における補修判断システムを提供することである。
【0015】
本発明の他の目的は、文化財等の建築物における補修判断プログラムを提供することである。
【0016】
本発明の他の目的は、文化財等の建築物における補修判断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1の局面に係る建築物補修判断システムは、三次元モデルの対象物である文化財を含む建築物の補修を判断するため、端末と通信可能なサーバとを含む建築物補修判断システムであって、
前記サーバが、
フォトグラメトリによって作成された前記三次元モデルを記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶されている損傷前の前記建築物の前記三次元モデルと、損傷後の前記建築物の前記三次元モデルとを比較し判定する建築物比較判定部と、を含み、
前記建築物比較判定部は、前記記憶部に記憶されている損傷前の前記建築物の前記三次元モデルと、損傷後の前記建築物の前記三次元モデルとを比較し、当該違いについて、前記建築物全体に対する割合を算出する建築物補修判断システムである。
【0018】
前記建築物の前記三次元モデルと、損傷後の前記建築物の前記三次元モデルとを比較することにより、建築物の損傷前後の違いが、建築物全体の何%異なるかという割合(損傷割合)を算出することができる。なお、割合は%でなくてもよい。
【0019】
本発明の第2の局面に係る建築物補修判断システムは、三次元モデルの対象物である文化財を含む建築物の補修を判断するため、端末と通信可能なサーバとを含む図面作成システムであって、
前記サーバが、
フォトグラメトリによって作成された前記三次元モデルを記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶されている前記三次元モデルから前記建築物の意匠図を作成する図面作成部と、
GPSを利用して前記建築物の測量を行うGPS測量部と、
前記図面作成部によって作成された前記意匠図に表示される前記建築物の寸法と、前記GPS測量部によって測量された前記建築物の寸法とが一致するか否か判定する建築物比較判定部と、を含み、
前記図面作成部によって作成された前記意匠図に表示される前記建築物の寸法と、前記GPS測量部によって測量された前記建築物の寸法とが一致しない場合、前記建築物比較判定部は、エラー通知を通知する建築物補修判断システムである。
【0020】
フォトグラメトリから建築図面である意匠図を作成することにより、文化財等の建築物に図面がない場合や現物と図面が異なる場合であっても、その建築物の図面を作成することができる。
【0021】
また、建築物比較判定部が、図面作成部によって作成された意匠図に表示される建築物の寸法と、GPS測量部によって測量された建築物の寸法とが一致するか否か判定することにより、図面作成部によって作成された意匠図に表示される寸法が正しいか否か確認することができる。
【0022】
建築物の寸法とは、平面視上の建築物の寸法である。
【0023】
また、建築物の寸法が一致しない場合、地震等により建築物が損傷を受けている可能性があると判断することができる。
【0024】
なお、寸法が一致するか否かは、予め設定された所定範囲ないである誤差の範囲も含めてもよい。つまり、寸法が一致するか否かは、完全同一でなくてもよく、予め設定された所定範囲ないであれば、建築物比較判定部は、寸法が一致すると判定する。
【0025】
建築物の三次元モデルの空間座標の距離((x1,y1,z1)と(x2,y2,z2)との距離)からの実際の距離(寸法に記載された数字)を算出することができ、図面作成部は、これにより意匠図に寸法を表示する。
【0026】
「文化財」とは、文化財保護法によって保護される国宝、重要文化財、史跡、名勝又は天然記念物だけでなく、人類の文化的活動によって生み出された有形又は無形の文化的所産のことをいう。
【0027】
本発明の第3の局面に係る建築物補修判断システムは、第2の局面に係る建築物補修判断システムであって、GPS測量部が、搬送波位相を利用して前記建築物の寸法を測量する建築物補修判断システムである。
【0028】
搬送波位相を利用することにより、GPS測量部は、建築物の寸法を精度良く測量することができる。
【0029】
本発明の第4の局面に係る建築物補修判断システムは、第2の局面に係る建築物補修判断成システムであって、GPS測量部が、スタティック法を利用して前記建築物の寸法を測量する建築物補修判断システムである。
【0030】
スタティック法を利用することにより、GPS測量部は、精度良く建築物の寸法を測量することができる。
【0031】
本発明の第5の局面に係る建築物補修判断システムは、第2の局面に係る建築物補修判断システムであって、GPS測量部が、衛星画像に基づいて前記建築物の寸法を測定する建築物補修判断システムである。
【0032】
衛星画像に基準となる距離を設定することにより、GPS測量部は、衛星画像に基づいて建築物の寸法を測定することができる。
【0033】
本発明の第6の局面に係る建築物補修判断システムは、第2の局面に係る建築物補修判断システムであって、建築物比較判定部が、寸法が一致するか否かの判定において、あらかじめ設定した誤差を考慮して判定する建築物補修判断システムである。
【0034】
誤差の範囲は、あらかじめ設定された所定範囲であり、任意であるが、図面を作成する上で支障のない程度に限られる。
【0035】
本発明の第7の局面に係る建築物補修判断プログラムは、三次元モデルの対象物である文化財を含む建築物の補修を判断するための建築物補修判断プログラムであって、
フォトグラメトリによって作成された前記三次元モデルを記憶する記憶処理と、
前記記憶処理によって記憶されている損傷前の前記建築物の前記三次元モデルと、損傷後の前記建築物の前記三次元モデルとを比較し判定する建築物比較判定処理と、を実行し、
前記建築物比較判定処理は、前記記憶処理で記憶されている損傷前の前記建築物の前記三次元モデルと、損傷後の前記建築物の前記三次元モデルとを比較し、当該違いについて、前記建築物全体に対する割合を算出する建築物補修判断プログラムである。
【0036】
このようなプログラムの場合、第1の局面と同様の効果を奏する。
【0037】
本発明の第8の局面に係る建築物補修判断プログラムは、三次元モデルの対象物である文化財を含む建築物の補修を判断するための建築物補修判断プログラムであって、
フォトグラメトリによって作成された前記三次元モデルを記憶する記憶処理と、
前記記憶処理に記憶されている前記三次元モデルから前記建築物の意匠図を作成する図面作成処理と、
GPSを利用して前記建築物の測量を行うGPS測量処理と、
前記図面作成処理によって作成された前記意匠図に表示される前記建築物の寸法と、前記GPS測量処理によって測量された前記建築物の寸法とが一致するか否か判定する寸法判定処理と、を実行し、
前記図面作成処理によって作成された前記意匠図に表示される前記建築物の寸法と、前記GPS測量処理によって測量された前記建築物の寸法とが一致しない場合、前記寸法判定処理は、エラー通知を通知する建築物補修判断プログラムである。
【0038】
このようなプログラムの場合、第2の局面と同様の効果を奏する。
【0039】
本発明の第9の局面に係る建築物補修判断方法は、三次元モデルの対象物である文化財を含む建築物の補修を判断するための建築物補修判断方法であって、
フォトグラメトリによって作成された前記三次元モデルを記憶する記憶工程と、
前記記憶工程によって記憶されている損傷前の前記建築物の前記三次元モデルと、損傷後の前記建築物の前記三次元モデルとを比較し判定する建築物比較判定工程と、を含み、
前記建築物比較判定工程では、前記記憶工程で記憶されている前記建築物の前記三次元モデルと、損傷後の前記建築物の前記三次元モデルとを比較し、当該違いについて、前記建築物全体に対する割合を算出する建築物補修判断方法である。
【0040】
このような方法の場合、第1の局面及び第7の局面と同様の効果を奏する。
【0041】
本発明の第10の局面に係る建築物補修判断方法は、三次元モデルの対象物である文化財を含む建築物の補修を判断するための建築物補修判断方法であって、
フォトグラメトリによって作成された前記三次元モデルを記憶する記憶工程と、
前記記憶工程によって記憶されている前記三次元モデルから前記建築物の意匠図を作成する図面作成工程と、
GPSを利用して前記建築物の測量を行うGPS測量工程と、
前記図面作成工程によって作成された前記意匠図に表示される前記建築物の寸法と、前記GPS測量工程によって測量された前記建築物の寸法とが一致するか否か判定する寸法判定工程と、を含み、
前記図面作成工程によって作成された前記意匠図に表示される前記建築物の寸法と、前記GPS測量工程によって測量された前記建築物の寸法とが一致しない場合、前記寸法判定工程でエラー通知を通知する建築物補修判断方法である。
【0042】
このような方法の場合、第2の局面及び第8の局面と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】本発明に係る一実施形態におけるフォトグラメトリでの建築物Sの3Dモデルの作成を表す概念図。
【
図2】同実施形態におけるフォトグラメトリでの建築物Sの3Dモデルの作成を表す概念図。
【
図3】本発明に係る一実施形態における建築物補修診断システムの概念図。
【
図4】本発明に係る一実施形態における建築物補修診断システムの図面作成部によって作成された意匠図を表す概念図。
【
図5】本発明に係る一実施形態における建築物補修診断システムのGPS測量部の概念図。
【
図6】本発明に係る一実施形態における建築物補修診断システムのフローチャート。
【
図7】本発明に係る一実施形態における建築物補修診断システムのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の実施形態に関して図面を参照しながら説明する。
【0045】
(フォトグラメトリ)
本実施形態では、3DCGを製作するにあたり、フォトグラメトリを使用している。
【0046】
「フォトグラメトリ」とは、写真からリアルな3DCGを生成する技術である。
【0047】
具体的には、フォトグラメトリとは、対象物(本実施形態では建築物)を様々な角度から撮影した複数の写真を合成する技術である。
【0048】
生成したい3DCGをどの程度リアルで精緻なモデルにしたいかによって、必要な写真点数は異なってくる。必要な写真点数は、数十枚から数百枚に及ぶ。
【0049】
フォトグラメトリの製作工程は、1撮影、2アライメント、3メッシュ生成(点群データ作成)、4簡素化、5Unwrap、6テクスチャ生成、という流れになる。
【0050】
撮影は、撮っていない箇所は再現ができないため、対象物である建築物を様々な角度から撮影する。
【0051】
撮影は、撮り漏らしがあるとアライメントの失敗やメッシュ生成の破綻に繋がるため、注意が必要である。
【0052】
図1及び
図2は、撮影機器Pによる撮影箇所を表した例である。
図1及び
図2からわかるように、撮影は、原則として水平移動及び垂直移動で撮影される。
【0053】
本実施形態では、撮影機器Pは、3Dレーザースキャナ、ハンディスキャナ、ドローンを使用している。
【0054】
レーザースキャンを使用すればより正確なメッシュが得られる。
【0055】
また、ドローンを使用することにより、対象物の屋根など撮影可能である。また、長いポールなどを使用して高所から撮影することも可能である。
【0056】
「アライメント」とは、オブジェクト(要素)の各ポイントを基準にして、要素を配置することである。
【0057】
本実施形態では、アライメントは、建築物Sの各ポイントを基準にして、建築物Sを配置することである。
【0058】
アライメントが成功するように、撮影機器Pによる撮影で撮り漏らしがないようにする必要がある。
【0059】
「メッシュ生成」は、通常の精細でメッシュ化する。画像の縮小を行うことにより品質に影響なく処理時間の短縮を図ることができる。
【0060】
簡素化では、対象物に応じてポリゴン数を調整する。「ポリゴン」とは、3Dグラフィックにおいて、立体的な物体の曲面を表現する際に用いられる多角形(平面)のことである。
【0061】
設定でテクスチャ解像度と枚数等を設定し、その後Unwrapを選択する。
【0062】
「テクスチャ」とは元来、物の表面の質感・手触りなどを指す概念である。3Dコンピュータグラフィックス(CG)においては、物体の表面の質感を表現するために、3Dオブジェクトの表面に貼り付ける模様や画像を「テクスチャ」、このようにテクスチャを貼り付ける手法のことを「テクスチャマッピング」と呼ぶ。
【0063】
「テクスチャマッピング」により、3Dオブジェクトの質感はリアルなものになる。例えば、同じオブジェクトでも、金属のテクスチャを貼り付ければ金属片に見え、木目のテクスチャを貼り付ければ木片に見える。テクスチャマッピングにより、光沢のあるテーブルやガラスへの映り込みを表現することもできる。
【0064】
メッシュデータは、ポリゴンとテクスチャで構成される。
【0065】
このフォトグラメトリで作成した3DCG(3Dモデル、三次元モデル)をメタバース等に使用することができる。
【0066】
また、このフォトグラメトリで作成した建築物S等の3Dモデルは、空間座標(X,Y,Z)が設けられており、座標の位置によって実際の距離が判断可能である。
【0067】
なお、フォトグラメトリは、点群データによって構成されてもよい。点群データは、メッシュデータと比べ、それぞれが独立した点の情報だけで構成されており、センサーから取得できる生データに近いので、多くの場合精度に優れているという特徴がある。
【0068】
本実施形態では、点群データによってフォトグラメトリが作成されている。
【0069】
点群データのデータ形式としては、頂点ごとの空間座標(X,Y,Z)と色(R(赤),G(緑),B(青))の6パラメータが基本の構成要素で、それに加え、スカラー情報と呼ばれる反射率や法線ベクトルなどの情報を含むことがある。
【0070】
図3に示すように、本実施形態に係るシステム100は、サーバであるクラウドサーバ200と、
クラウドサーバ200にアクセスすることが可能な端末である第1端末300と、を含む。
【0071】
クラウドサーバ200は、クラウド上に構築されたサーバであり、インターネットを通じてサーバ機能を利用することができるものである。なお、本実施形態では、サーバとしてクラウドサーバ200を用いているが、通常のサーバであってもよい。
【0072】
図3に示すように、クラウドサーバ200は、第1端末300と通信可能な通信部210と、
フォトグラメトリで作成した対象物である文化財等の建築物Sの3Dモデル(三次元モデル)を記憶する記憶部220と、
記憶部220に記憶されている建築物S等の3Dモデルから意匠図を作成する図面作成部230と、
GPS(Global Positioning System)を用いて測量を行うGPS測量部240と、
記憶部220に記憶されている建築物Sの3Dモデルと、GPS測量部240によって測量された建築物S、又は、地震等によって損傷した建築物Sの3Dモデルとを比較し判定するための建築物比較判定部250と、を含む。
【0073】
通信部210は、第1端末300と通信する。通信方法は、有線、無線いずれであってもよい。第1端末300は、複数あってもよい。
【0074】
記憶部220は、フォトグラメトリで作成された建築物S等の3Dモデルが記憶されている。
【0075】
また、記憶部220は、地震等によって損傷した建築物S等の3Dモデルが記憶される。
【0076】
図面作成部230は、記憶部220に記憶されている建築物S等の3Dモデルから意匠図を作成する。
【0077】
図4は、左側がフォトグラメトリで作成された建築物Sの3Dモデルであり、右側がその3Dモデルから図面作成部230が作成した意匠図Ⅾである。
【0078】
図4に示すように、図面作成部230は、フォトグラメトリで作成された3Dモデルから意匠図(本実施形態では、建築物Sの意匠図Ⅾ)を作成する。
【0079】
フォトグラメトリで作成された3Dモデルには空間座標が設けられており、空間座標の距離が実際の距離に対応している。
【0080】
そして、
図4の寸法Mに示すように、3Dモデルの空間座標の距離から実際の距離が算出され、意匠図Ⅾ上に寸法として表示される。算出された距離は、算出する際に補正が行われる場合がある。
【0081】
また、撮影機器Pのレンズの歪曲収差(ディストーション)が発生する場合は、補正される場合がある。
【0082】
図4の倍率mに示すように、意匠図Ⅾ上の実際の距離((x1,y1,z1)と(x2,y2,z2)との距離)と実際の距離(寸法Mに表示される距離)との倍率(本実施形態では1/200)が表示される。
【0083】
GPS測量部240は、GPSを利用して建築部Sの寸法を測量する。
【0084】
本実施形態におけるGPS測量部240は、搬送波位相による測量を用いており、スタティック法(スタティック測位、短縮スタティック測位)を用いている。なお、キネマティック法(キネマティック測位、リアルキネマティック測位)を用いてもよい。キネマティック法の場合、観測時間が短い(数秒~数分)という利点がある。
【0085】
本実施形態では、スタティック法を用いている。
【0086】
なお、GPS測量部240は、単独測位を用いてもよい。単独測位の場合、誤差が生じやすいため、既知の地点に基地局を置き、そこで把握した誤差情報を、通信メディアを介してユーザに通知するディファレンシャルGPS(DGPS)を用いるのが好ましい。
【0087】
DGPSを用いることにより、通常の単独測位より高精度な測位が可能である。
【0088】
搬送波位相による測量は、場所が既知の基準点から基線長(ベクトル距離)を、cm単位の高精度で測る方法である。
【0089】
スタティック法は、既知の基準点からユーザ位置までの基線ベクトルを、搬送波位相を利用して精度よく求める方法である。
【0090】
図5は、スタティック法の例であり、既知点O、既知点Oと衛星1との距離をr1(O)、既知点Oと衛星2との距離をr2(O)、未知点Aと衛星1との距離をr1(A)、未知点Aと衛星2との距離をr2(A)、それぞれの衛星に対する2点間での距離差をΔr1、Δr2、既知点Oでの衛星1の角度をθ1、既知点Oでの衛星2の角度をθ2、既知点Oと未知点Aとの距離(基線距離)をd、とした概念図である。
【0091】
測定位相値をφ、電波の波数(2π/波長)をk、とすると以下の関係式が成り立つ。
【0092】
【0093】
本実施形態では、既知点O及び未知点Aを建築物Sでの測量したい地点として、dを建築物Sの寸法(建築物Sの平面の寸法)とすることにより、建築物Sの寸法を求めることができる。
【0094】
また、既知点Oは、国土地理院が整備した常設の電子基準点として、建築物Sの両端をそれぞれ未知点A1、未知点A2として、未知点A1と未知点A2との間の距離(建築物Sの寸法)を求めてもよい。
【0095】
キネマティック法では、基準局(固定点)と移動局(新点)とに分かれ、観測データをスマートフォン等の携帯電話や無線機を利用して通信を行って座標を決定する方法である。
【0096】
スタティック法に比べて精度は劣るものの、観測時間が短くてすみ、少ない人数で作業でき、作業効率が良いという利点がある。
【0097】
GPS測量部240は、このような方法により建築物Sの寸法を求めることができる。
【0098】
なお、GPS測量部240は、あらかじめ基準の距離を設定しておき、衛星画像から建築物Sの寸法(建築物Sの平面の寸法)を測定してもよい。
【0099】
建築物比較判定部250は、図面作成部230によって作成された意匠図Ⅾに示されている寸法と、GPS測量部240によって測量された建築物Sの寸法とを比較し、一致するか判定する。
【0100】
具体的には、建築物比較判定部250は、図面作成部230によって作成された意匠図Ⅾに示されている建築物Sの寸法と、GPS測量部240で測量した建築物Sの寸法とを比較し、一致するか否かを確認する。この際、誤差はあらかじめ設定されている。
【0101】
建築物比較判定部250は、図面作成部230によって作成された意匠図Ⅾに示されている建築物Sの寸法と、GPS測量部240で測量した建築物Sの寸法とを比較し、一致するか否かを判定する。
【0102】
例えば、建築物Sが地震等によって傾斜している場合、建築物Sの寸法が一致しなくなる可能性がある。
【0103】
寸法が一致するか否かは、その数値の違いが予め設定された所定範囲内(誤算の範囲内)に該当するか否かで判断される。
【0104】
つまり、図面作成部230によって作成された意匠図Ⅾに示されている建築物Sの寸法と、GPS測量部240で測量した建築物Sの寸法との違いが、予め設定された所定範囲内(誤算の範囲内)であれば、建築物比較判定部250は、寸法が一致すると判定する。
【0105】
建築物比較判定部250は、寸法が一致している場合はその旨を通知し、一致していない場合はその旨を通知する。
【0106】
具体的には、建築物比較判定部250は、寸法が一致しないと判定した場合、エラー表示(エラー通知)を行う。
【0107】
本実施形態では、建築物比較判定部250は、第1端末300にエラー通知を通知する。
【0108】
第1端末300の利用者は、寸法が一致していない旨の通知(エラー通知)を受けた場合、建築物Sの実際の寸法を確認し、意匠図Ⅾに示された建築物Sの寸法が正しいかどうか確認することができる。
【0109】
また、第1端末300の利用者は、寸法が一致していない旨の通知(エラー通知)を受けた場合、建築物Sに損傷があるか確認することができる。
【0110】
建築物比較判定部250は、記憶部220に記憶されている損傷前の建築物Sの3Dモデルと、地震等の災害により損傷した建築物Sの3Dモデルとを比較する。
【0111】
具体的には、建築物比較判定部250は、記憶部220に記憶されている損傷前の建築物Sの3Dモデルと、地震等の災害により損傷した後の建築物Sの3Dモデルとを比較し、損傷前の建築物Sの3Dモデルから何%異なるか判定する。
【0112】
より具体的には、記憶部220に記憶されている建築物Sの3Dモデルと、地震等の災害により損傷した後の建築物Sの3Dモデルとを重ね合わせ、建築物比較判定部250は、損傷前の建築物Sの3Dモデルから何%異なるか判定する。
【0113】
この場合、例えば建築物Sが傾いている(傾斜)などの違いも違いに該当する。
【0114】
つまり、建築物比較判定部250は、建築物Sの損傷度合を算出する。
【0115】
損傷度合判定部260は、損傷後の建築物Sの3Dモデルが、損傷前の建築物Sの3Dモデルから何%異なるか判定し、50%以上の場合は全壊、40%以上50%未満の場合は大規模半壊、30%以上40%未満の場合は中規模半壊、20%以上30%未満の場合は半壊、10%以上20%未満の場合は準半壊、10%未満の場合は一部損壊と第1端末300に通知する。
【0116】
第1端末300の使用者は、損傷度合判定部260からの通知に基づいて、建築物Sの補修が必要か否か判断することができる。
【0117】
(第1端末300)
端末である第1端末300は、クラウドサーバ200にアクセスするため、インターネットにアクセスするための通信機能である第1通信部310と、
クラウドサーバ200の記憶部220に保存されているデータを保存することが可能な第1記憶部320と、
クラウドサーバ200にアクセスして作業内容又は記憶されているデータを表示する第1表示部330と、を含む。
【0118】
第1端末300の例としては、パソコン、タブレットが挙げられる。
【0119】
第1通信部310は、インターネットをするための通信を行うところである。第1通信部310により、第1端末300は、クラウドサーバ200にアクセスすることができる。
【0120】
なお、第1通信部310では、Wi-Fi(無線LAN)又は有線LAN等でインターネットにアクセスすることも含む。
【0121】
(エラー通知のフローチャート)
本実施形態におけるエラー通知のフローチャートを
図6に示す。
まず、フォトグラメトリにより文化財等の建築物Sの3Dモデル(三次元モデル)を作成する(ステップS11、三次元モデル作成工程)。
【0122】
フォトグラメトリで作成された3Dモデルは、メタバース等で利用される。
【0123】
次に、図面作成部230が建築物Sの3Dモデルから意匠図Ⅾを作成する(ステップS12、図面作成工程)。
【0124】
図面作成部230は、建築物Sの3Dモデルの空間座標の距離((x1,y1,z1)と(x2,y2,z2)との距離)からの実際の距離(寸法Mに記載された数字)を算出し、寸法Mとして意匠図Ⅾに表示する。
【0125】
次に、GPS測量部240は、GPSを利用して建築物Sの寸法を測量する(ステップS13、GPS測量工程)。
【0126】
建築物比較判定部250は、図面作成部230によって作成された建築物Sの意匠
図Dに表示されている寸法と、GPS測量部240によって測量された建築物Sの寸法(建築物Sの平面の寸法)とが一致するか否か判定する(ステップS14、寸法判定工程)。
【0127】
寸法が一致するか否かは、予め設定された誤差を考慮して判定される。
【0128】
建築物比較判定部250は、寸法が一致すると判定する場合、その旨を第1端末300に通知する(ステップS15)。
【0129】
建築物比較判定部250は、寸法が一致しないと判定する場合、第1端末300にエラー通知を通知する(ステップS16)。
【0130】
(建築物の損傷確認のフローチャート)
本実施形態における建築物Sの損傷確認のフローチャートを
図7に示す。
まず、フォトグラメトリにより文化財等の建築物Sの3Dモデル(三次元モデル)を作成する(ステップS21、三次元モデル作成工程)。
【0131】
次に、地震や火事等の災害等によって損傷した建築物Sの3Dモデル(三次元モデル)をフォトグラメトリによって作成する(ステップS22、三次元モデル作成工程)。
【0132】
次に、建築物比較判定部250は、損傷前の建築物Sの三次元モデルと、損傷後の建築物Sの三次元モデルとを重ね合わせ、損傷前の建築物Sの3Dモデルから何%異なるか算出する(ステップS23、損傷度合算出工程)。
【0133】
次に、損傷度合判定部260は、損傷後の建築物Sの3Dモデルが、損傷前の建築物Sの3Dモデルから何%異なるか判定し、50%以上の場合は全壊、40%以上50%未満の場合は大規模半壊、30%以上40%未満の場合は中規模半壊、20%以上30%未満の場合は半壊、10%以上20%未満の場合は準半壊、10%未満の場合は一部損壊と第1端末300に通知する(ステップS24、損傷度合判定工程)。
【0134】
第1端末300の使用者は、損傷度合判定部260からの通知に基づいて、建築物Sの補修が必要か否か判断する(ステップS25)。
【0135】
本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の改良、修正、又は変形を加えた態様でも実施できる。
【符号の説明】
【0136】
100…建築物補修判断システム
200…クラウドサーバ(サーバ)
210…通信部
220…記憶部
230…図面作成部
240…GPS測量部
250…建築物比較判定部
260…損傷度合判定部
300…第1端末(端末)
310…第1通信部
320…第1記憶部
330…第1表示部(表示部)