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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142255
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】切削加工機
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/22 20060101AFI20241003BHJP
   B23Q 1/62 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B23Q17/22 C
B23Q1/62 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054371
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】317009525
【氏名又は名称】DGSHAPE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121500
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100189887
【弁理士】
【氏名又は名称】古市 昭博
(74)【代理人】
【識別番号】100218084
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊光
(72)【発明者】
【氏名】百々 晋平
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼松 和秀
【テーマコード(参考)】
3C029
3C048
【Fターム(参考)】
3C029AA16
3C048DD06
(57)【要約】
【課題】切削装置および保持装置の移動を改善し、切削装置と保持装置との接触を電気的に検知する。
【解決手段】第1移動装置は、被切削物の保持装置または切削装置を支持する導電性の第1移動体32と、第1直動ガイド33と、を備える。第1直動ガイド33は、筐体130Lに固定されX方向に延びる導電性の第1直動レール33Aと、第1直動レール33Aに摺動可能に係合し第1移動体32を支持する導電性の第1直動ブロック33Bと、を備える。第2移動装置は、筐体に固定され、切削装置または保持装置をY方向に移動させる。第1移動装置は、第1移動体32と第1直動ブロック33Bとの間に挟持され、第1移動体32と第1直動ブロック33Bとを電気的に絶縁する絶縁部材36をさらに備える。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の筐体と、
前記筐体に収容され、被切削物を保持する保持装置と、
前記筐体に収容され、切削ツールを把持して回転させる切削装置と、
前記保持装置および前記切削装置のうちの一方を第1方向に移動させる第1移動装置と、
前記保持装置および前記切削装置のうちの他方を前記第1方向に交差する第2方向に移動させる第2移動装置と、を備え、
前記第1移動装置は、
前記保持装置または前記切削装置を支持する導電性の第1移動体と、
前記筐体に固定され前記第1方向に延びる導電性の第1直動レールと、前記第1直動レールに摺動可能に係合し前記第1移動体を支持する導電性の第1直動ブロックと、を備えた第1直動ガイドと、
前記第1移動体を前記第1直動ブロックとともに前記第1直動レールに沿って移動させる第1駆動部と、を備え、
前記第2移動装置は、
前記切削装置または前記保持装置を支持する導電性の第2移動体と、
前記筐体に固定され前記第2方向に延びる導電性の第2直動レールと、前記第2直動レールに摺動可能に係合し前記第2移動体を支持する導電性の第2直動ブロックと、を備えた第2直動ガイドと、
前記第2移動体を前記第2直動ブロックとともに前記第2直動レールに沿って移動させる第2駆動部と、を備え、
前記第1移動体および前記第2移動体に接続され、前記第1移動体と前記第2移動体とが電気的に接続されたことを検知する検知装置をさらに備え、
前記第1移動装置は、前記第1移動体と前記第1直動ブロックとの間に挟持され、前記第1移動体と前記第1直動ブロックとを電気的に絶縁する絶縁部材をさらに備えている、
切削加工機。
【請求項2】
前記筐体は、金属板を含んで構成されており、
前記第1直動レール、前記第1直動ブロック、前記第2直動レール、および前記第2直動ブロックは、それぞれ、金属塊を含んで構成されている、
請求項1に記載の切削加工機。
【請求項3】
前記第1直動ブロックは、ネジ孔を備え、
前記第1移動体は、前記ネジ孔と向かい合うように設けられた貫通孔を備え、
前記第1移動装置は、
前記貫通孔に挿通されるとともに前記ネジ孔に噛み合わされ、前記第1直動ブロックと前記第1移動体とを固定する金属製のネジと、
前記ネジと前記第1移動体との間に挟持され、前記ネジと前記第1移動体とを電気的に絶縁する絶縁カラーと、を備えている、
請求項1に記載の切削加工機。
【請求項4】
前記絶縁部材は、厚さが1mm以上の板状に構成されている、
請求項1に記載の切削加工機。
【請求項5】
前記絶縁部材は、耐クリープ性がポリカーボネート以上の材料によって構成されている、
請求項1に記載の切削加工機。
【請求項6】
前記第2移動体は、前記第2直動レールおよび前記第2直動ブロックを介して前記筐体と電気的に接続されている、
請求項1に記載の切削加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
被切削物を切削加工することによって、例えば歯科用成形品などを作製する切削加工機が従来から知られている。例えば特許文献1には、加工ツールを把持するスピンドルと、被加工物を保持する保持部材と、スピンドルを所定のY軸方向に移動させる移動機構と、Y軸方向に直交するX軸方向に保持部材を移動させる移動機構と、を備えた切削加工機が記載されている。特許文献1に記載の切削加工機では、Y軸方向の移動機構は、Y軸方向に延びる一対のガイドシャフトに沿ってスピンドルを移動させる。X軸方向の移動機構は、X軸方向に延びる一対のガイドシャフトに沿って保持部材を移動させる。
【0003】
特許文献1に記載の切削加工機は、さらに、保持部材と固定され加工ツールを収容するツールマガジンと、ツールマガジンに設けられ加工ツールと接触したことを検知するツールセンサと、を備えている。ツールセンサは、加工ツールを把持するスピンドルとツールセンサとの間が電気的に導通されることにより、ツールセンサと加工ツールとの接触を検知するように構成されている。特許文献1によれば、ツールセンサによる加工ツールの検知に基づいて加工の際の座標値を補正することにより、被加工物を所望の形状に切削加工できる、とされている。
【0004】
特許文献1に記載の切削加工機のように、切削ツールを把持する切削装置と被切削物を保持する保持装置との直接または間接的な接触を電気的に検知したい場合には、非接触時において切削装置と保持装置とが電気的に絶縁されている必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-183006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の切削装置では、Y軸方向の移動機構およびX軸方向の移動機構は、それぞれ一対のガイドシャフトに沿って切削装置および保持装置を移動させる。しかし、ガイドシャフトは両端が支持されているだけであるため撓みやすい。そのため、切削装置および保持装置を移動させる際の直進性に改善の余地があり、また、摺動抵抗も大きい。
【0007】
本発明はかかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、切削装置および保持装置を移動させる際の直進性および摺動抵抗を改善できるとともに、切削装置の移動装置と保持装置の移動装置との直接間接の接触を電気的な導通によって検知できる切削加工機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに開示する切削加工機は、導電性の筐体と、前記筐体に収容され、被切削物を保持する保持装置と、前記筐体に収容され、切削ツールを把持して回転させる切削装置と、前記保持装置および前記切削装置のうちの一方を第1方向に移動させる第1移動装置と、前記保持装置および前記切削装置のうちの他方を前記第1方向に交差する第2方向に移動させる第2移動装置と、を備える。前記第1移動装置は、前記保持装置または前記切削装置を支持する導電性の第1移動体と、第1直動ガイドと、第1駆動部と、を備えている。前記第1直動ガイドは、前記筐体に固定され前記第1方向に延びる導電性の第1直動レールと、前記第1直動レールに摺動可能に係合し前記第1移動体を支持する導電性の第1直動ブロックと、を備えている。前記第1駆動部は、前記第1移動体を前記第1直動ブロックとともに前記第1直動レールに沿って移動させる。前記第2移動装置は、前記切削装置または前記保持装置を支持する導電性の第2移動体と、第2直動ガイドと、第2駆動部と、を備えている。前記第2直動ガイドは、前記筐体に固定され前記第2方向に延びる導電性の第2直動レールと、前記第2直動レールに摺動可能に係合し前記第2移動体を支持する導電性の第2直動ブロックと、を備えている。前記第2駆動部は、前記第2移動体を前記第2直動ブロックとともに前記第2直動レールに沿って移動させる。切削加工機は、前記第1移動体および前記第2移動体に接続され、前記第1移動体と前記第2移動体とが電気的に接続されたことを検知する検知装置をさらに備えている。前記第1移動装置は、前記第1移動体と前記第1直動ブロックとの間に挟持され、前記第1移動体と前記第1直動ブロックとを電気的に絶縁する絶縁部材をさらに備えている。
【0009】
上記切削加工機によれば、筐体に固定された第1直動レールおよび第2直動レールをそれぞれ備える第1直動ガイドおよび第2直動ガイドによって切削装置および保持装置を移動させる。そのため、切削装置および保持装置を移動させる際の直進性および摺動抵抗を改善できる。また、第1移動装置と第2移動装置との間、詳しくは第1移動体と第2移動体との間は、第1直動ブロックと第1移動体との間に挟持された絶縁部材により電気的に絶縁されている。そのため、第1移動装置と第2移動装置との直接間接の接触を検知装置により電気的に検知できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る切削加工機の斜視図である。
図2】被切削物およびアダプタの平面図である。
図3】左方から見た切削加工機の縦断面図である。
図4】右方から見た切削加工機の縦断面図である。
図5】ワークホルダの平面図である。
図6】アダプタを交換中の切削加工機を示す縦断面図である。
図7】切削装置室および駆動装置室の斜視図である。
図8】切削加工機のブロック図である。
図9】X軸ガイドの正面図である。
図10】X軸方向移動体およびX軸直動ブロックの左側面図である。
図11】X軸直動ブロックを取り外した状態のX軸方向移動体の一部破断斜視図である。
図12図11のネジ付近を拡大図示したX軸方向移動体の一部破断斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、一実施形態に係る切削加工機について説明する。なお、ここで説明される実施形態は、当然ながら本発明を限定することを意図したものではない。また、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は適宜省略または簡略化する。
【0012】
[切削加工機の構成]
図1は、一実施形態に係る切削加工機10の斜視図である。以下の説明では、切削加工機10を正面から見たときに、切削加工機10から遠ざかる方を前方、切削加工機10に近づく方を後方とする。左、右、上、下とは、切削加工機10を正面から見たときの左、右、上、下をそれぞれ意味するものとする。また、図面中の符号F、Rr、L、R、U、Dは、それぞれ前、後、左、右、上、下を意味するものとする。
【0013】
本実施形態に係る切削加工機10は、アダプタに保持されたディスク状の被切削物を切削加工する切削加工機である。図2は、被切削物1およびアダプタ5の平面図である。切削加工機10は、ここでは、被切削物1を切削して、歯科用成形品、例えば、クラウン、ブリッジ、コーピング、インレー、アンレー、ベニア、カスタムアバットメント等の歯冠補綴物や、人工歯、義歯床等を作製する装置である。本実施形態に係る切削加工機10は、クーラントを使用しないドライ式の切削加工機である。
【0014】
被切削物1は、例えば、PMMA、PEEK、ガラス繊維強化樹脂、ハイブリッドレジン等のレジンや、ガラスセラミックス、ジルコニア等のセラミックス材料、コバルトクロムシンターメタル等の金属材料、ワックス、石膏等で構成されている。被切削物1の材料としてジルコニアを用いるときには、例えば、半焼結したジルコニアが用いられる。ここでは、被切削物1の形状は、ディスク状(円板状)である。ただし、被切削物1は、他の形状、例えばブロック状(例えば立方体状や直方体状)等であってもよい。
【0015】
アダプタ5は、ディスク状の被切削物1を保持する。アダプタ5は、ここでは、被切削物1に対応する略円形の挿入孔5aが中央部に形成された平板状のアダプタである。被切削物1は、挿入孔5aに挿入されることにより、アダプタ5に保持される。被切削物1は、アダプタ5に保持された状態で切削加工機10に収容され、加工される。
【0016】
図1に示すように、切削加工機10は、箱状に構成された筐体11を有している。図3は、左方から見た切削加工機10の縦断面図である。図4は、右方から見た切削加工機10の縦断面図である。図1に示すように、筐体11の内部は、アダプタ5を保持するワークホルダ20が収容された加工室120(図3も参照)と、ワークホルダ20を移動させるホルダ移動装置30(図4参照)が収容された駆動装置室130と、ワークチェンジャ70が収容されたチェンジャ室170と、切削ツール6(図7参照)をツールストッカ80(同じく図7参照)に収納するためのツール交換室180と、を含む複数の空間に区画されている。
【0017】
図1に示すように、加工室120は、筐体11の左下部分に配置されている。図3に示すように、加工室120は、筐体11の後端部まで延びている。チェンジャ室170は、加工室120の前方側部分の上方に配置されている。チェンジャ室170は、筐体11の前後方向の中央部まで延びている。駆動装置室130は、加工室120の右方に配置されている。図4に示すように、駆動装置室130は、筐体11の後端部まで延びている。ツール交換室180は、駆動装置室130の前方側部分の上方に配置されている。ツール交換室180は、筐体11の前後方向の中央部まで延びている。なお、駆動装置室130は加工室120の左方に配置されていてもよい。その場合、ツール交換室180は、チェンジャ室170の左方に配置されていてもよい。
【0018】
加工室120の前面開口部121(図3参照)には、加工室扉122が開閉自在に設けられている。駆動装置室130の前面開口部には、駆動装置室カバー131が設けられている。チェンジャ室170の前面開口部には、チェンジャ室扉171が開閉自在に設けられている。ツール交換室180の前面開口部181(図4参照)には、ツール交換室扉182が開閉自在に設けられている。加工室扉122、チェンジャ室扉171、およびツール交換室扉182には、それぞれ、内部を視認可能なように透明な窓部122a、171a、および182aが設けられている。駆動装置室カバー131の前面には、操作パネル110が設けられている。図3および図4に示すように、筐体11の前面(ここでは、加工室120、駆動装置室130、チェンジャ室170、およびツール交換室180の前面開口部)は、底面に対して斜めに形成されている。筐体11の前面は、後方に傾くように形成されている。
【0019】
図3および図4に示すように、加工室120および駆動装置室130の上方であってチェンジャ室170、およびツール交換室180の後方には、切削装置50と、切削装置50を移動させる主軸移動装置60(後述するが、切削装置50は、回転するスピンドルユニット52を備えた主軸51を有する)と、が収容された切削装置室150が配置されている。切削装置室150は、ここでは、筐体11の左右方向の幅のほぼ全てを占めている。
【0020】
筐体11の外形を形成する外壁部、および、筐体11の内部を複数の室に区画する内壁部は、主として金属板(例えば、鉄板)によって形成されている。筐体11は、導電性を有している。筐体11のいくつかの壁部については後述する。
【0021】
ワークホルダ20は、加工室120に収容されている。ワークホルダ20は、被切削物1を保持する保持装置の一例である。ワークホルダ20は、ここでは、アダプタ5を介して被切削物1を保持する。ただし、ワークホルダ20は、他の部材を介さず、直接に被切削物1を保持してもよい。図5は、ワークホルダ20の平面図である。図5に示すように、ワークホルダ20は、左右一対のアーム21を備えている。アダプタ5は、一対のアーム21の間に挿入されることによってワークホルダ20に保持される。一対のアーム21の間にアダプタ5が挿入される際の切削加工機10の動作については後述する。
【0022】
ホルダ移動装置30は、ワークホルダ20を支持して移動させるものである。本実施形態では、ホルダ移動装置30は、ワークホルダ20を前後方向に移動させる。より詳しくは、図4に示すように、ホルダ移動装置30は、ワークホルダ20を後方に向かって下降するように斜め前後方向に移動させる。ワークホルダ20は、ホルダ移動装置30により前方に移動されると上方にも移動する。ワークホルダ20は、ホルダ移動装置30により後方に移動されると下方にも移動する。図4に示すように、以下では、ホルダ移動装置30によってワークホルダ20が移動される方向をX軸方向とも呼ぶ。また、以下では、特に断る必要がない場合には、X軸方向の前方を単に前方と、X軸方向の後方を単に後方と言うことがある。
【0023】
図5に示すように、ホルダ移動装置30は、左右方向に延びるとともにワークホルダ20を支持する支持アーム31を備えている。図4に示すように、ホルダ移動装置30は、支持アーム31に接続されたX軸方向移動体32と、一対のX軸ガイド33と、X軸方向駆動モータ34と、ボールねじ35と、を備えている。ホルダ移動装置30は、支持アーム31をX軸方向に移動させることにより、ワークホルダ20をX軸方向に移動させる。ホルダ移動装置30のX軸方向移動体32、一対のX軸ガイド33、X軸方向駆動モータ34、ボールねじ35、および支持アーム31の一部は、駆動装置室130に収容されている。
【0024】
図4に示すように、一対のX軸ガイド33は、X軸方向に延びている。X軸方向移動体32は、X軸ガイド33に沿ってX軸方向に移動することが可能である。ボールねじ35は、X軸方向に延びている。ボールねじ35は、X軸方向移動体32に設けられたナットに噛み合わされている。X軸方向駆動モータ34は、ボールねじ35を軸線周りに回転させる。X軸方向駆動モータ34を駆動してボールねじ35を回転させると、X軸方向移動体32は、X軸ガイド33に沿ってX軸方向に移動する。なお、ホルダ移動装置30は、ボールねじ機構を有するものには限定されず、例えば、タイミングベルトやワイヤを有していてもよい。ホルダ移動装置30のさらに詳細については後述する。
【0025】
図5に示すように、支持アーム31は、左右方向に延びる軸線Axb周りに回転する回転シャフト31aと、軸線Axbと直交するように回転シャフト31aに接続され回転シャフト31aとともに前後方向に回転する第1アーム31bと、軸線Axbに平行に(第1アーム31bと直交するように)第1アーム31bに接続された第2アーム31cと、を備えている。図4に示すように、X軸方向移動体32には、回転シャフト31aを軸線Axb周りに回転させるB軸回転モータ41Bが設けられている。支持アーム31とB軸回転モータ41Bとは、ワークホルダ20を回転させることによりワークホルダ20の姿勢を変更する回転装置40の一部を構成している。B軸回転モータ41Bが駆動して回転シャフト31aが回転すると、ワークホルダ20は前後方向に回転する。以下、軸線Axbの伸長方向をB軸方向とも呼び、軸線Axb周りに回転することをB軸周りに回転するとも言う。また、回転装置40のうち、ワークホルダ20をB軸周りに回転させる装置をB軸回転装置40Bとも呼ぶ。
【0026】
回転装置40は、ワークホルダ20を左右方向に回転させるA軸回転装置40Aも備えている。図5に示すように、A軸回転装置40Aは、A軸回転モータ41Aと、回転軸42Aと、を備えている。A軸回転モータ41Aは、第2アーム31cに固定されている。回転軸42Aは、A軸回転モータ41Aに接続され、軸線Axaに沿って前後方向に延びている。A軸回転モータ41Aを駆動すると、回転軸42Aは、軸線Axa周りに回転する。以下では、軸線Axaの伸長方向をA軸方向とも呼び、軸線Axa周りに回転することをA軸周りに回転するとも言う。
【0027】
加工室120は、複数の壁部によって区画され、ワークホルダ20を収容している。図3に示すように、複数の壁部は、底壁120D、左側壁120L(図1参照)、右側壁120R、後壁120Rr、前壁120F、および天壁120Uを含んでいる。複数の壁部120D、120L、120R、120Rr、120F、および120Uは、主に金属板によって形成され、導電性を有している。底壁120Dは、ワークホルダ20よりも下方に配置され、加工室120の底面を形成している。加工室120の前壁120Fには、前面開口部121が形成されている。前述したように、前面開口部121には、加工室扉122が開閉可能に設けられている。
【0028】
図3に示すように、天壁120Uは、加工室120とチェンジャ室170との間を区画するとともに、加工室120と切削装置室150との間を区画している。天壁120Uには、加工室120とチェンジャ室170とを連通させる前方側開口部124と、加工室120と切削装置室150とを連通させる後方側開口部125と、が開口している。加工室120の天壁120Uの前方側部分は、チェンジャ室170の底壁でもある。前方側開口部124は、チェンジャ室170の下方に形成されている。前方側開口部124は、ワークチェンジャ70の搬送装置72によって搬送される被切削物1が通過可能な開口部である。後述するが、ここでは、搬送装置72は、アダプタ5を収納したアダプタ収納部71を前方側開口部124から加工室120に搬送する。
【0029】
加工室120の天壁120Uの後方側部分は、切削装置室150の底壁の左側部分でもある。後方側開口部125は、切削装置室150の下方に形成されている。後方側開口部125は、主軸51の下方部分が通過可能な開口部である。後方側開口部125は、後述するZ軸方向移動装置60Zによって主軸51がZ軸方向(図3参照)に移動される際に、切削ツール6および主軸51が通過する開口部である。詳しくは後述するが、後方側開口部125は、駆動装置室130と切削装置室150とを連通させるように、駆動装置室130の上方まで延びている(図7参照)。
【0030】
ワークチェンジャ70は、複数の被切削物1を収納可能に構成されており、加工する被切削物1を交換するために使用される。図3に示すように、ワークチェンジャ70は、複数の被切削物1(ここでは、被切削物1が装着されたアダプタ5、図2参照)を収納可能なアダプタ収納部71と、アダプタ収納部71を加工室120に搬送する搬送装置72と、を備えている。例えば被切削物1の交換時のような場合を除き、アダプタ収納部71は、チェンジャ室170に収容されている。図1に示すように、アダプタ収納部71には、それぞれ1つのアダプタ5を収納する棚状の収納スペース71aが複数設けられている。複数の収納スペース71aは、上下方向に並んでいる。より詳しくは、複数の収納スペース71aは、X軸方向に直交する斜め上下方向(以下、L軸方向とも呼ぶ、図3参照)に並んで配置されている。
【0031】
搬送装置72は、L軸方向に延びるスライドアーム72Aと、L軸方向駆動モータ72Bと、ボールねじ72Cと、を備えている。スライドアーム72Aは、アダプタ収納部71に固定され、L軸方向に伸長および短縮可能である。アダプタ収納部71には、ボールねじ72Cが噛み合っている。L軸方向駆動モータ72Bは、ボールねじ72Cに接続され、ボールねじ72Cを回転させる。L軸方向駆動モータ72Bが駆動することによりボールねじ72Cが回転すると、スライドアーム72Aが伸縮するとともに、アダプタ収納部71がL軸方向に移動する。
【0032】
図6は、アダプタ収納部71が加工室120内に下降した状態を示している。アダプタ収納部71は、加工室120の前方側開口部124を通って加工室120内に移動する。図6に示すように、アダプタ5は、ワークホルダ20がX軸方向の前方側に前進し、アダプタ5の収納スペース71a(図1参照)に突入することにより、ワークホルダ20に保持される。
【0033】
切削装置50および切削装置50の移動装置(主軸移動装置60)は、切削装置室150に収容されている。切削装置50は、ワークホルダ20に保持された被切削物1を切削する。図3に示すように、切削装置50および主軸移動装置60は、ワークホルダ20よりも上方に設けられている。切削装置50は、切削ツール6を把持して回転させる主軸51を備えている。主軸51は、スピンドルユニット52と、スピンドルユニット52の下端部に設けられた把持部53と、を備えている。スピンドルユニット52は、X軸方向と直交する(ここでは、L軸方向と平行な)方向に延びている。以下、この方向をZ軸方向とも呼ぶ。スピンドルユニット52は、把持部53をZ軸方向に平行な軸線周りに回転させる。把持部53は、後述するツールストッカ80の複数の収納孔81に収納された各切削ツール6を把持可能に構成されている。スピンドルユニット52は、ここでは、モータ内蔵のユニットである。ただし、スピンドルユニット52は、例えば、外部のモータとベルト等により接続されていてもよい。把持部53は、例えば、エア駆動式のコレットチャックである。ただし、把持部53の方式は特に限定されない。
【0034】
主軸移動装置60は、切削装置50をZ軸方向および左右方向に移動させる。左右方向は、X軸方向およびZ軸方向に直交する方向である。以下では、左右方向のことをY軸方向とも呼ぶ。主軸移動装置60が切削装置50をY軸方向およびZ軸方向に移動させ、ホルダ移動装置30がワークホルダ20をX軸方向に移動させることにより、切削ツール6と被切削物1との位置関係が三次元的に変化する。Z軸方向は、加工室120の天壁120Uに交差する(ここでは直交する)方向であり、切削装置50は、Z軸方向の移動により、加工室120内に出現し、または、切削装置室150内に退避する。
【0035】
主軸移動装置60は、Y軸方向移動装置60Yと、Z軸方向移動装置60Zと、を備えている。Y軸方向移動装置60Yは、切削装置50をY軸方向に移動させる装置である。Z軸方向移動装置60Zは、切削装置50をZ軸方向に移動させる装置である。図7は、切削装置室150および駆動装置室130の斜視図である。図7では、切削装置室150および駆動装置室130の内部が見えるように、一部の部材の図示を省略している。図7に示すように、Y軸方向移動装置60Yは、Y軸方向に延びる一対のY軸ガイド61Yと、Y軸ガイド61Yに沿って移動可能に構成されたY軸方向移動体62Yと、Y軸方向駆動モータ63Yと、ボールねじ64Yと、を備えている。一対のY軸ガイド61Yは、切削装置室150の底壁150Dに設けられている。本実施形態では、切削装置室150の底壁150Dは、加工室120の天壁120U(図3参照)および駆動装置室130の天壁130Uを含んでいる。切削装置室150の底壁150Dは、金属板から形成され、導電性を有している。Y軸ガイド61Yは、駆動装置室130の上方まで延びている。Y軸方向移動体62Yは、Y軸ガイド61Yに沿って駆動装置室130の上方まで移動することができる。Y軸方向移動体62Yは、Z軸方向移動装置60Zを支持している。Z軸方向移動装置60Zは、Z軸方向に移動可能に切削装置50を支持している。
【0036】
図7に示すように、ボールねじ64Yは、Y軸方向に延びている。ボールねじ64Yは、Y軸方向移動体62Yに設けられた図示しないナットに噛み合わされている。Y軸方向駆動モータ63Yは、ボールねじ64Yを回転させる。Y軸方向駆動モータ63Yが駆動し、ボールねじ64Yが回転すると、Y軸方向移動体62Yは、Y軸ガイド61Yに沿ってY軸方向に移動する。これにより、Z軸方向移動装置60Zおよび切削装置50がY軸方向に移動する。Y軸方向移動装置60Yのさらに詳細については後述する。
【0037】
図3に示すように、Z軸方向移動装置60Zは、Z軸方向に延びる一対のZ軸ガイドシャフト61Zと、Z軸ガイドシャフト61Zに摺動可能に係合し切削装置50を支持するZ軸方向移動体62Zと、Z軸方向駆動モータ63Zと、図示しないボールねじと、を備えている。Z軸方向移動装置60Zも、Y軸方向移動装置60YがZ軸方向移動装置60Zを移動させるのと同様に、ボールねじの回転によって切削装置50をZ軸方向に移動させる。
【0038】
図7に示すように、本実施形態では、ツールストッカ80は、駆動装置室130に収容されている。ツールストッカ80は、複数の切削ツール6を収納可能に構成されている。複数の切削ツール6は、例えば、被切削物1の材料や切削の種類に応じて使い分けられる。図7に示すように、ツールストッカ80は、X軸方向移動体32に支持されている。詳しくは、ツールストッカ80は、X軸方向移動体32の上面に固定されている。従来、ツールストッカは、ホルダ移動装置の支持アームに支持されていた。そのため、従来の切削装置では、支持アームが撓みやすく、被切削物1の切削において被切削物1にあまり負荷を掛けることができなかった。具体的には、切削による負荷を考慮して、時間当たりの切削量を制限するなどしていた。本実施形態では、ツールストッカ80がX軸方向移動体32に支持されることにより、支持アーム31の負荷が低減されている。
【0039】
切削装置50は、ツールストッカ80に収納された各切削ツール6を把持可能に構成され、把持した切削ツール6によってワークホルダ20に保持された被切削物1を切削する。これを可能とするように、主軸移動装置60は、切削装置50を駆動装置室130と加工室120との間で移動させる。また、ホルダ移動装置30は、ツールストッカ80を切削装置室150の下方に移動させる。
【0040】
図3および図7に示すように、本実施形態では、切削装置50は、ワークホルダ20およびツールストッカ80よりも上方に設けられている。主軸移動装置60のY軸方向移動装置60Yは、切削装置50が駆動装置室130の上方と加工室120の上方との間を移動するように、切削装置50をY軸方向に移動させる。主軸移動装置60のZ軸方向移動装置60Zは、切削装置50をZ軸方向に移動させる。ホルダ移動装置30は、Y軸方向移動装置60Yによる切削装置50の移動経路の下方に設定されたツール把持位置P1(図7参照)にツールストッカ80を移動させることが可能に構成されている。ツール把持位置P1は、後方側開口部125の下方の位置である。ツール把持位置P1にツールストッカ80を移動させ、かつ、切削装置50をツール把持位置P1の上方の位置に移動させた状態でZ軸方向移動装置60Zを駆動して切削装置50を下降させることにより、切削装置50にツールストッカ80の切削ツール6を把持させることができる。
【0041】
ホルダ移動装置30は、ツール把持位置P1よりも前方に設定されたツール交換位置P2にツールストッカ80を移動させることが可能に構成されている。図7に示すように、ツール交換位置P2は、ツール交換室180の底壁183の下方に設定されている。ツール交換室180の底壁183は、ツール交換室180と駆動装置室130とを区画している。図7に示すように、ツール交換室180の底壁183には、ツール交換位置P2の上方に開口した開口部184が形成されている。開口部184は、ユーザがツールストッカ80に切削ツール6を抜き差しするための開口部である。開口部184は、底壁183をZ軸方向に貫通している。ホルダ移動装置30を駆動してツールストッカ80をツール交換位置P2に移動させると、ユーザは、開口部184を通してツールストッカ80にアクセスすることができる。前述したように、本実施形態では、筐体11は、前向きに開口したツール交換室180の前面開口部181を備えている。前面開口部181は、ツールストッカ80よりも前方に配置され、ツールストッカ80にアクセス可能に開口している。ツール交換室180を設けることにより、切削ツール6の交換時などにユーザがホルダ移動装置30に触れてしまうことが防止されている。また、かかる構成により、切削ツール6の交換時などに駆動装置室130に外部の異物が侵入することが抑制されている。
【0042】
図8は、切削加工機10のブロック図である。図8に示すように、本実施形態に係る切削加工機10は、X軸方向移動体32とY軸方向移動体62Yとが電気的に接続されたことを検知する接触検知装置90を備えている。接触検知装置90は、X軸方向移動体32およびY軸方向移動体62Yに接続されている。X軸方向移動体32およびY軸方向移動体62Yは、金属のブロック、例えばアルミブロックによって形成され、導電性を有している。接触検知装置90は、ここでは、X軸方向移動体32およびY軸方向移動体62Yに接続された図示しない検知回路と、検知回路に設けられX軸方向移動体32とY軸方向移動体62Yとの間に電圧を掛ける電源装置91と、検知回路に設けられ、X軸方向移動体32とY軸方向移動体62Yとが電気的に接続されて検知回路に電流が流れるとこれを検知する検知端92と、を備えている。検知端92は、例えば、リレーのようなものであってもよく、電流計であってもよい。
【0043】
図7に示すように、ツールストッカ80には、切削ツール6を接触させ、切削ツール6の位置を補正するためのツールセンサ82が設けられている。ツールストッカ80およびツールセンサ82は導電性を有しており、ツールセンサ82は、X軸方向移動体32およびツールストッカ80を介して接触検知装置90の検知回路に電気的に接続されている。ツールストッカ80およびツールセンサ82は、主に金属によって形成されている。切削ツール6は金属によって形成されており、Y軸方向移動体62Y、Z軸方向移動装置60Z、および切削装置50を介して接触検知装置90の検知回路に電気的に接続されている。Z軸方向移動装置60Zおよび切削装置50は、Y軸方向移動体62Yと把持部53とを電気的に接続させるように構成されている。
【0044】
図8に示すように、制御装置100は、ホルダ移動装置30のX軸方向駆動モータ34と、回転装置40のA軸回転モータ41AおよびB軸回転モータ41Bと、切削装置50のスピンドルユニット52および把持部53と、主軸移動装置60のY軸方向駆動モータ63YおよびZ軸方向駆動モータ63Zと、ワークチェンジャ70のL軸方向駆動モータ72Bと、操作パネル110と、に接続され、それらの動作を制御している。また、制御装置100は、接触検知装置90に接続され、接触検知装置90からの信号を受信している。
【0045】
制御装置100の構成は特に限定されない。制御装置100は、例えばマイクロコンピュータである。マイクロコンピュータのハードウェア構成は特に限定されないが、例えば、ホストコンピュータ等の外部機器から切削データ等を受信するインターフェイス(I/F)と、制御プログラムの命令を実行する中央演算処理装置(CPU:central processing unit)と、CPUが実行するプログラムを格納したROM(read only memory)と、プログラムを展開するワーキングエリアとして使用されるRAM(random access memory)と、上記プログラムや各種データを格納するメモリ等の記憶装置と、を備えている。
【0046】
図8に示すように、制御装置100は、主軸移動装置60を制御して切削ツール6をツールセンサ82に接触させ、切削ツール6とツールセンサ82とが接触したときの座標に基づいて切削ツール6の位置を補正する座標補正部101を備えている。また、制御装置100は、ユーザの誤操作等によって、例えば、ワークホルダ20と切削ツール6、あるいはワークホルダ20と把持部53とが接触し、X軸方向移動体32とY軸方向移動体62Yとが電気的に接続されると、ホルダ移動装置30および主軸移動装置60を直ちに停止させる緊急停止部102を備えている。制御装置100は、被切削物1の切削動作を制御する制御部など他の制御部をさらに備えていてもよいが、ここでは図示および説明を省略する。
【0047】
[ホルダ移動装置の構成]
以下では、ホルダ移動装置30の構成についてさらに詳細に説明する。前述したように、ホルダ移動装置30は、ワークホルダ20を支持するX軸方向移動体32と、X軸方向に延びるとともにZ軸方向に並んだ一対のX軸ガイド33と、X軸方向駆動モータ34と、ボールねじ35と、を備えている。図4に示すように、X軸ガイド33は、X軸直動レール33Aと、X軸直動レール33Aに摺動可能に係合したX軸直動ブロック33Bと、を備えた直動ガイドである。X軸直動レール33Aは、筐体11、ここでは加工室120と駆動装置室130とを仕切る駆動装置室130の左側壁130L(加工室120の右側壁120R)に固定され、X軸方向に延びている。X軸直動ブロック33Bは、X軸方向移動体32を支持している。X軸方向駆動モータ34は、X軸方向移動体32を、X軸直動ブロック33BとともにX軸直動レール33Aに沿って移動させる。
【0048】
X軸直動レール33Aは主に金属塊によって構成され、導電性を有している。X軸直動レール33Aは、典型的には、鉄棒またはステンレス棒を切削加工したものである。ただし、X軸直動レール33Aの材料は、ある程度以上の剛性を備えた金属である限りで限定されない。図9は、X軸ガイド33の正面図(X軸方向視の正面図)である。図9に示すように、X軸直動レール33Aは、駆動装置室130の左側壁130Lに面接触する平坦な底面33A1を備えている。X軸直動レール33Aは、X軸方向に並んだ複数のネジ33C(図4参照)によって左側壁130Lに固定されている。X軸直動レール33Aの直線性(撓みの少なさ)は、X軸直動レール33A自体の剛性とともに、左側壁130Lに面接触することによって確保されている。X軸直動レール33Aの一対の側面には、X軸直動ブロック33Bが係合する溝33A2がそれぞれ形成されている。
【0049】
X軸直動ブロック33Bも主に金属塊によって構成され、導電性を有している。X軸直動ブロック33Bは、典型的には、鉄またはステンレスのブロックを切削加工したものである。ただし、X軸直動ブロック33Bの材料は、ある程度以上の剛性を備えた金属である限りで限定されない。図9に示すように、X軸直動ブロック33Bは、略C字の断面を有している。X軸直動ブロック33Bの略C字の向かい合う一対の内側面には、X軸直動レール33Aの一対の溝33A2に係合する一対の突起33B1が形成されている。X軸直動ブロック33Bの他の1つの内側面は、X軸直動レール33Aの天面(右方を向いた面)と接している。X軸直動ブロック33Bの直進性は、X軸直動レール33Aの直線性と、溝33A2および突起33B1の加工精度とによって確保されている。
【0050】
図10は、X軸方向移動体32およびX軸直動ブロック33Bの左側面図である。X軸直動ブロック33Bは、X軸方向移動体32に固定されている。X軸方向移動体32は、X軸直動ブロック33BをスライドさせてX軸直動レール33Aから抜くことにより、X軸直動ブロック33BとともにX軸直動レール33Aから離脱させることができる。図10に示すように、X軸方向移動体32には、3つのX軸直動ブロック33Bが固定されている。X軸方向移動体32の上部には、上方のX軸直動レール33Aに係合する1つのX軸直動ブロック33Bが固定されている。X軸方向移動体32の下部には、下方のX軸直動レール33Aに係合する2つのX軸直動ブロック33Bが固定されている。
【0051】
図11は、X軸直動ブロック33Bを取り外した状態のX軸方向移動体32の一部破断斜視図である。図11に示すように、ホルダ移動装置30は、X軸方向移動体32とX軸直動ブロック33B(2点鎖線で示す)との間に挟持され、X軸方向移動体32とX軸直動ブロック33Bとを電気的に絶縁する絶縁プレート36を備えている。絶縁プレート36は、平板状に構成されている。絶縁プレート36は、ここでは、厚さが1mm以上の樹脂板である。絶縁プレート36の厚さは、好ましくは、1mm以上2mm以下である。絶縁プレート36は、例えば、PC(ポリカーボネート)によって形成されている。絶縁プレート36は、例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、POM(ポリアセタール)、FR4(ガラスエポキシ基板材料)等の材料によって形成されていてもよい。絶縁プレート36の材料としては、耐クリープ性が高い材料が好ましく、その耐クリープ性は、好適には、PC以上である。PPS、PEEK、およびFR4の耐クリープ性はPCよりも高く、POMの耐クリープ性はPCと同等である。ただし、絶縁プレート36の材料、厚さ、形状等は特に限定されない。
【0052】
図11に示すように、X軸直動ブロック33Bは、ネジ37によってX軸方向移動体32に締結されている。X軸直動ブロック33Bは、複数のネジ孔33B2(図10参照)を備えている。図12は、図11のネジ37付近を拡大図示したX軸方向移動体32の一部破断斜視図である。図12に示すように、X軸方向移動体32は、X軸直動ブロック33Bの複数のネジ孔33B2(図10参照)とそれぞれ向かい合うように設けられた複数の貫通孔32aを備えている。ネジ37は、X軸方向移動体32の貫通孔32aに挿通されるとともにX軸直動ブロック33Bのネジ孔33B2に噛み合わされ、X軸直動ブロック33BとX軸方向移動体32とを固定している。ネジ37は、金属によって形成されている。図12に示すように、ホルダ移動装置30は、さらに、ネジ37とX軸方向移動体32との間に挟持され、ネジ37とX軸方向移動体32とを電気的に絶縁する絶縁カラー38を備えている。
【0053】
絶縁カラー38は、ここでは、ネジ37の頭部37aとX軸方向移動体32との間に挟持された鍔部38aと、ネジ37の軸部37bとX軸方向移動体32の貫通孔32aとの間に差し込まれた筒状部38bと、を備えている。筒状部38bの外周面は、貫通孔32aの内周面と向かい合っている。筒状部38bの孔には、ネジ37の軸部37bが挿入されている。ただし、絶縁カラー38の形状はこれに限定されない。絶縁カラー38は、例えば、鍔部38aに相当する部分だけを備えたリング状であってもよい。絶縁カラー38は、硬い樹脂のような弾性変形しにくい材料で形成されていることが好ましいが、ゴムのような容易に弾性変形する材料によって形成されていてもよい。図12に示すように、絶縁プレート36は、X軸方向移動体32の貫通孔32aに挿入された筒状部36aを備えている。筒状部36aには、貫通孔36bが形成されている。ネジ37の軸部37bは、貫通孔36bにも挿通されている。筒状部36aは、絶縁カラー38とともに、ネジ37がX軸方向移動体32に接触するのを防止している。
【0054】
[Y軸方向移動装置の構成]
Y軸方向移動装置60Yも、ホルダ移動装置30と類似の構成を備えている。Y軸方向移動装置60Yは、切削装置50を支持するY軸方向移動体62Yと、Y軸方向に延びるとともに前後方向に並んだ一対のY軸ガイド61Yと、Y軸方向駆動モータ63Yと、ボールねじ64Yと、を備えている。図7に示すように、Y軸ガイド61Yは、Y軸直動レール61Aと、Y軸直動レール61Aに摺動可能に係合したY軸直動ブロック61Bと、を備えた直動ガイドである。Y軸直動レール61Aは、筐体11、ここでは切削装置室150の底壁150Dに固定され、Y軸方向に延びている。Y軸直動ブロック61Bは、Y軸方向移動体62Yを支持している。Y軸方向駆動モータ63Yは、Y軸方向移動体62Yを、Y軸直動ブロック61BとともにY軸直動レール61Aに沿って移動させる。
【0055】
Y軸直動レール61Aは主に金属塊によって構成され、導電性を有している。Y軸直動レール61Aは、底壁150Dに面接触する平坦な底面を備えている。Y軸直動レール61Aは、Y軸方向に並んだ複数のネジ61Cによって底壁150Dに固定されている。Y軸直動ブロック61Bも、主に金属塊によって構成され、導電性を有している。Y軸直動ブロック61BのY軸直動レール61Aへの係合の仕方は、ここでは、X軸直動ブロック33BのX軸直動レール33Aへの係合の仕方と同じである。ただし、Y軸直動ブロック61BおよびY軸直動レール61Aの構成は、X軸直動ブロック33BおよびX軸直動レール33Aと異なっていてもよい。
【0056】
Y軸方向移動体62Yは、Y軸直動レール61AおよびY軸直動ブロック61Bを介して筐体11と電気的に接続されている。本実施形態では、Y軸方向移動装置60Yは、絶縁プレート36および絶縁カラー38を備えない。Y軸直動ブロック61Bは、Y軸方向移動体62Yに直接固定されている。ただし、Y軸方向移動装置60Yは、Y軸方向移動体62YとY軸直動ブロック61Bとの間に挟持され、Y軸方向移動体62YとY軸直動ブロック61Bとを電気的に絶縁する絶縁部材を備えていてもよい。
【0057】
[実施形態の作用効果]
以下に、本実施形態に係る切削加工機10の作用効果を説明する。
【0058】
本実施形態に係る切削加工機10は、導電性の筐体11と、筐体11に収容され、被切削物1を保持するワークホルダ20と、筐体11に収容され切削ツール6を把持して回転させる切削装置50と、ワークホルダ20をX軸方向に移動させるホルダ移動装置30と、切削装置50をY軸方向に移動させるY軸方向移動装置60Yと、を備えている。ホルダ移動装置30は、ワークホルダ20を支持する導電性のX軸方向移動体32と、X軸ガイド33と、X軸方向駆動モータ34と、を備えている。X軸ガイド33は、筐体11に固定されX軸方向に延びる導電性のX軸直動レール33Aと、X軸直動レール33Aに摺動可能に係合しX軸方向移動体32を支持する導電性のX軸直動ブロック33Bと、を備えている。X軸方向駆動モータ34は、X軸方向移動体32をX軸直動ブロック33BとともにX軸直動レール33Aに沿って移動させる。
【0059】
Y軸方向移動装置60Yは、切削装置50を支持する導電性のY軸方向移動体62Yと、Y軸ガイド61Yと、Y軸方向駆動モータ63Yと、を備えている。Y軸ガイド61Yは、筐体11に固定されY軸方向に延びる導電性のY軸直動レール61Aと、Y軸直動レール61Aに摺動可能に係合しY軸方向移動体62Yを支持する導電性のY軸直動ブロック61Bと、を備えている。Y軸方向駆動モータ63Yは、Y軸方向移動体62YをY軸直動ブロック61BとともにY軸直動レール61Aに沿って移動させる。
【0060】
本実施形態に係る切削加工機10は、X軸方向移動体32およびY軸方向移動体62Yに接続され、X軸方向移動体32とY軸方向移動体62Yとが電気的に接続されたことを検知する接触検知装置90を備えている。ホルダ移動装置30は、X軸方向移動体32とX軸直動ブロック33Bとの間に挟持され、X軸方向移動体32とX軸直動ブロック33Bとを電気的に絶縁する絶縁プレート36を備えている。
【0061】
かかる切削加工機10によれば、筐体11に固定されたX軸直動レール33AおよびY軸直動レール61Aをそれぞれ備えるX軸ガイド33およびY軸ガイド61Yによってワークホルダ20および切削装置50を移動させる。そのため、ワークホルダ20および切削装置50を移動させる際の直進性および摺動抵抗を改善できる。従来の切削加工機では、X軸方向の移動機構およびY軸方向の移動機構は、それぞれ一対のガイドシャフトに沿ってワークホルダおよび切削装置を移動させていた。しかし、ガイドシャフトは両端が支持されているだけであるため撓みやすい。そのため、ワークホルダおよび切削装置を移動させる際の直進性に改善の余地があり、また、摺動抵抗も大きかった。それに対して、本実施形態に係る切削加工機10では、X軸ガイド33のX軸直動レール33AおよびY軸ガイド61YのY軸直動レール61Aは、筐体11に固定されており、撓みにくい。そのため、ワークホルダ20および切削装置50を移動させる際の直進性および摺動抵抗を改善できる。
【0062】
また、ホルダ移動装置30とY軸方向移動装置60Yとの間、詳しくはX軸方向移動体32とY軸方向移動体62Yとの間は、X軸直動ブロック33BとX軸方向移動体32との間に挟持された絶縁プレート36により電気的に絶縁されている。そのため、ホルダ移動装置30とY軸方向移動装置60Yとの直接間接の接触を接触検知装置90により電気的に検知できる。X軸方向移動体32とY軸方向移動体62Yとが電気的に接続されていると、X軸方向移動体32の電位とY軸方向移動体62Yの電位とが等しくなる。そうなると、X軸方向移動体32とY軸方向移動体62Yとが接触しても電流が流れず、接触を検知できない。
【0063】
本実施形態では、X軸方向移動体32とY軸方向移動体62Yとの接触を検知することにより、切削ツール6の位置補正と、ホルダ移動装置30およびY軸方向移動装置60Yの緊急停止を行っている。ただし、X軸方向移動体32とY軸方向移動体62Yとの接触を検知する目的は、これらに限定されない。
【0064】
本実施形態では、筐体11は、金属板を含んで構成されている。X軸直動レール33A、X軸直動ブロック33B、Y軸直動レール61A、およびY軸直動ブロック61Bは、それぞれ、金属塊を含んで構成されている。かかる構成によれば、筐体11、X軸直動レール33A、X軸直動ブロック33B、Y軸直動レール61A、およびY軸直動ブロック61Bが金属製であるため、剛性が高い。よって、ワークホルダ20および切削装置50を移動させる際の直進性および摺動抵抗をさらに改善できる。
【0065】
本実施形態では、X軸直動ブロック33Bは、ネジ孔33B2を備えている。X軸方向移動体32は、ネジ孔33B2と向かい合うように設けられた貫通孔32aを備えている。ホルダ移動装置30は、貫通孔32aに挿通されるとともにネジ孔33B2に噛み合わされ、X軸直動ブロック33BとX軸方向移動体32とを固定する金属製のネジ37を備えている。ホルダ移動装置30は、ネジ37とX軸方向移動体32との間に挟持され、ネジ37とX軸方向移動体32とを電気的に絶縁する絶縁カラー38と、をさらに備えている。かかる構成によれば、絶縁体のネジではなく金属製のネジ37を使用しているため、X軸直動ブロック33BとX軸方向移動体32とを強固に固定できる。
【0066】
本実施形態では、絶縁プレート36は、厚さが1mm以上の板状に構成されている。本願発明者の知見によれば、絶縁プレート36の厚さが薄いと、組立時の金属異物の噛み込み等により、X軸方向移動体32とX軸直動ブロック33Bとの間の絶縁が劣化するおそれがある。本願発明者の知見によれば、絶縁プレート36の厚さが1mm以上であれば、絶縁劣化の可能性は低い。
【0067】
絶縁プレート36は、耐クリープ性がPC(ポリカーボネート)以上の材料によって構成されていることが好ましい。かかる構成によれば、挟持によっても絶縁プレート36がクリープ変形しにくいため、ワークホルダ20のX軸方向への移動の直進性を長く維持することができる。
【0068】
本実施形態では、Y軸方向移動体62Yは、Y軸直動レール61AおよびY軸直動ブロック61Bを介して筐体11と電気的に接続されている。X軸方向移動体32とY軸方向移動体62Yとを絶縁するためには、X軸方向移動体32およびY軸方向移動体62Yのうちのいずれか一方を筐体11から絶縁すれば足りる。そのため、Y軸方向移動体62Yを筐体11と絶縁しない方が、切削加工機10の構成がシンプルになり、部品点数も少なくなる。コストも低減される。
【0069】
[他の実施形態]
以上、一実施形態に係る切削加工機について説明した。しかし、ここに開示する技術は、他の態様により実施することもできる。例えば、上記した実施形態では、ワークホルダ20を移動させる方の移動装置(ホルダ移動装置30)の移動体(X軸方向移動体32)が筐体11から絶縁されていた。しかし、切削装置を移動させる方の移動装置の移動体が筐体から絶縁されていてもよい。または、ワークホルダを移動させる移動装置の移動体および切削装置を移動させる移動装置の移動体がともに筐体から絶縁されていてもよい。
【0070】
上記した実施形態では、絶縁プレート36は平板状の樹脂であったが、例えば、薄いゴムであってもよい。絶縁カラー38はなくてもよく、その場合、絶縁体のネジや表面が絶縁処理された金属ネジで移動体と直動ブロックとが固定されていてもよい。
【0071】
切削加工機の構成は特に限定されない。例えば、切削加工機は、ワークチェンジャを備えていなくてもよい。また、例えば、切削加工機の内部は、上記した実施形態のように区画されていなくてもよい。
【0072】
その他、特に言及されない限りにおいて、実施形態は本発明を限定しない。例えば、切削加工機は、歯科用成形品を作製するデンタル用の切削加工機でなくてもよい。被切削物は、アダプタを介して切削加工機に保持されなくてもよく、切削加工機によって直接保持されてもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 被切削物
6 切削ツール
10 切削加工機
11 筐体
20 ワークホルダ(保持装置)
30 ホルダ移動装置(第1移動装置)
32 X軸方向移動体(第1移動体)
32a 貫通孔
33 X軸ガイド(第1直動ガイド)
33A X軸直動レール(第1直動レール)
33B X軸直動ブロック(第1直動ブロック)
33B2 ネジ孔
34 X軸方向駆動モータ(第1駆動部)
36 絶縁プレート(絶縁部材)
37 ネジ
38 絶縁カラー
50 切削装置
60Y Y軸方向移動装置(第2移動装置)
61A Y軸直動レール(第2直動レール)
61B Y軸直動ブロック(第2直動ブロック)
61Y Y軸ガイド(第2直動ガイド)
62Y Y軸方向移動体(第2移動体)
63Y Y軸方向駆動モータ(第2駆動部)
90 接触検知装置(検知装置)
図1
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