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<図1>
  • 特開-磁性金属粒子および磁気粘性流体 図1
  • 特開-磁性金属粒子および磁気粘性流体 図2
  • 特開-磁性金属粒子および磁気粘性流体 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142258
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】磁性金属粒子および磁気粘性流体
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/20 20060101AFI20241003BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20241003BHJP
   H01F 1/44 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01F1/20
H01F1/153 108
H01F1/153 133
H01F1/44 170
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054377
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】中谷 光伸
【テーマコード(参考)】
5E041
【Fターム(参考)】
5E041AA04
5E041AA05
5E041AA06
5E041AA07
5E041AA11
5E041BD07
5E041BD12
5E041CA10
5E041NN06
5E041NN15
(57)【要約】
【課題】耐食性が高く、かつ、励磁せん断応力が高い磁気粘性流体を製造可能な磁性金属粒子、および、前記磁性金属粒子を有する磁気粘性流体を提供すること。
【解決手段】磁気粘性流体に用いられる磁性金属粒子であって、Fe基合金材料で構成され、互いに表裏の関係を持つ2つの主面と、前記主面同士をつなぐ側面と、を有する扁平状をなし、前記主面の面積をS[μm]とし、前記主面と平行な方向から観察して最大となるときの前記側面の面積をS[μm]とするとき、面積比S/Sが、4以上であることを特徴とする磁性金属粒子。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気粘性流体に用いられる磁性金属粒子であって、
Fe基合金材料で構成され、
互いに表裏の関係を持つ2つの主面と、前記主面同士をつなぐ側面と、を有する扁平状をなし、
前記主面の面積をS[μm]とし、前記主面と平行な方向から観察して最大となるときの前記側面の面積をS[μm]とするとき、面積比S/Sが、4以上であることを特徴とする磁性金属粒子。
【請求項2】
前記面積比S[μm]/S[μm]が、10以上1000以下である請求項1に記載の磁性金属粒子。
【請求項3】
前記Fe基合金材料は、
Feを主成分とし、
Si、Cr、B、C、Ni、MnおよびCuからなる群から選択される少なくとも1種を含む請求項1または2に記載の磁性金属粒子。
【請求項4】
前記Fe基合金材料は、アモルファス合金材料または微結晶合金材料である請求項3に記載の磁性金属粒子。
【請求項5】
飽和磁化が100emu/g以上250emu/g以下である請求項1または2に記載の磁性金属粒子。
【請求項6】
平均粒径は、1μm以上450μm以下である請求項1または2に記載の磁性金属粒子。
【請求項7】
前記主面の長軸の長さをd1とし、前記主面の短軸の長さをd2とするとき、
前記主面の平均アスペクト比d1/d2が、1.5以上30.0以下である請求項1または2に記載の磁性金属粒子。
【請求項8】
請求項1または2に記載の磁性金属粒子と、
前記磁性金属粒子を分散させる分散媒と、
を有することを特徴とする磁気粘性流体。
【請求項9】
0.8Tの磁場を印加した状態で、せん断速度333[/s]で測定されたせん断応力が、20,000Pa以上である請求項8に記載の磁気粘性流体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性金属粒子および磁気粘性流体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気粘性流体は、例えば分散媒に磁性金属粒子を分散させてなる流体である。磁気粘性流体に磁場を印加すると、磁性金属粒子が磁化されて磁場方向に整列する。これにより、鎖状のクラスターが形成され、流体の粘性が変化する。そこで、粘性の変化を利用して、制振装置や制動装置等の利用が検討されている。
【0003】
これらの装置では、例えば磁場の印加と除去を繰り返すことにより、磁気粘性流体の粘性を調整し、制振、制動等の各種機能を実現するようになっている。
【0004】
例えば、特許文献1には、Feを含む合金で構成された磁性金属粒子およびフュームドシリカの粒子が、ポリαオレフィンを含む液体中に分散してなる磁気粘性流体が開示されている。また、磁性金属粒子は、2モード分布を持つ粒子であることが開示されている。2モード分布とは、直径の分布に2つの異なる極大を持っていることをいう。2モード分布を構成する小型粒子と大型粒子の画分を制御することにより、磁気粘性流体の降伏応力を広範に制御できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-032114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
Feを含む合金では、Feの比率を高めることで、磁気特性が向上する一方、錆が発生しやすくなり、耐食性が低下する傾向がある。合金の組成を変更すれば、耐食性を高めることができるものの、磁気特性が低下する。磁気特性が低下すると、磁気粘性流体の励磁せん断応力が低下する。
【0007】
そこで、耐食性が高く、かつ、励磁せん断応力が高い磁気粘性流体を製造可能な磁性金属粒子の実現が課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の適用例に係る磁性金属粒子は、
磁気粘性流体に用いられる磁性金属粒子であって、
Fe基合金材料で構成され、
互いに表裏の関係を持つ2つの主面と、前記主面同士をつなぐ側面と、を有する扁平状をなし、
前記主面の面積をS[μm]とし、前記主面と平行な方向から観察して最大となるときの前記側面の面積をS[μm]とするとき、面積比S/Sが、4以上である。
【0009】
本発明の適用例に係る磁気粘性流体は、
本発明の適用例に係る磁性金属粒子と、
前記磁性金属粒子を分散させる分散媒と、
を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る磁気粘性流体を示す模式図である。
図2図1に示す磁気粘性流体に磁場を印加したときの状態を模式的に示す図である。
図3図1に示す磁性金属粒子を模式的に示す部分断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の磁性金属粒子および磁気粘性流体を添付図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0012】
1.磁気粘性流体
まず、実施形態に係る磁気粘性流体について説明する。
【0013】
図1は、実施形態に係る磁気粘性流体1を示す模式図である。図1に示す磁気粘性流体1は、分散質5と、分散媒4と、を有する。分散質5は、磁性金属粒子2および添加剤3を含み、液状の分散媒4に分散している。
【0014】
このような磁気粘性流体1は、磁場が印加されていないときには液体のように振る舞い、磁場が印加されたときには半固体のように振る舞う流体である。このような粘性の変化を利用することにより、磁気粘性流体1の応力を制御することができる。これにより、応力の変化を利用して様々な機能を発揮する各種装置等に磁気粘性流体1を用いることができる。
【0015】
1.1.磁気粘性流体の構成
磁気粘性流体1を構成する磁性金属粒子2(実施形態に係る磁性金属粒子)、添加剤3および分散媒4について順次説明する。
【0016】
1.1.1.磁性金属粒子の特性
まず、磁性金属粒子2の各種特性について説明する。
【0017】
1.1.1.1.扁平度
磁性金属粒子2は、扁平状をなしている。扁平状とは、互いに表裏の関係を持つ2つの主面212、212と、主面212同士をつなぐ側面214と、を有する板状のことをいい、主面212の面積が側面214の最大面積よりも十分に大きい形状のことをいう。
【0018】
より具体的には、磁性金属粒子2の主面212を平面視したときの面積をS[μm]とし、主面212と平行な方向から側面214を観察したとき、最大となるときの側面214の面積をS[μm]とする。このとき、磁性金属粒子2は、面積比S/Sが4以上を満たす。このように十分に大きい扁平度を持つ磁性金属粒子2を用いることにより、高い励磁せん断応力を有する磁気粘性流体1を実現することができる。このような効果は、次のような理由によるものと考えられる。
【0019】
図2は、図1に示す磁気粘性流体1に磁場Bを印加したときの状態を模式的に示す図である。
【0020】
扁平状をなす磁性金属粒子2は、磁場Bの印加によって磁化されると、図2に示すように、磁場Bの方向に並んで鎖状のクラスターCLを形成する。このとき、扁平状をなす磁性金属粒子2が互いに引き付けあって接触すると、互いに大きな接触面積を確保できる。図2は、各磁性金属粒子2を、主面212と平行な方向から見た様子である。磁性金属粒子2同士の接触面積が大きくなると、クラスターCLにおける磁性金属粒子2同士の結合力を高めることができる。その結果、磁気粘性流体1の励磁せん断応力を高めることができる。また、磁性金属粒子2の形状に基づく浮力が得られるため、磁場が印加されていない状態における磁性金属粒子2の凝集や沈降を抑制することができる。これにより、磁性金属粒子2の分散安定性を高めることができる。
【0021】
磁性金属粒子2の面積比S/Sは、前述したように4以上とされるが、好ましくは10以上とされ、より好ましくは30以上とされる。面積比S/Sが前記下限値を下回ると、クラスターCLにおける磁性金属粒子2同士の結合力を十分に高めることができない。そうすると、磁気粘性流体1の励磁せん断応力を十分に高めることができない。また、磁性金属粒子2の凝集や抑制が生じやすくなる。一方、磁性金属粒子2の面積比S/Sは、好ましくは1000以下とされ、より好ましくは500以下とされ、さらに好ましくは100以下とされる。面積比S/Sが前記上限値を上回ると、磁性金属粒子2が薄くなりすぎるため、磁場が印加されたとき、励磁せん断応力を十分に高めることができない。また、面積比S/Sが前記上限値を上回ると、磁性金属粒子2の移動の抵抗が大きくなる。そうすると、磁気粘性流体1の励磁せん断応力が低下したり、変化の応答性が低下したりする。
【0022】
なお、面積比S/Sは、無作為に抽出した50個以上の磁性金属粒子2について測定された面積Sおよび面積Sから算出された面積比S/Sの平均値とする。面積Sおよび面積Sの測定には、例えば、光学顕微鏡、電子顕微鏡、原子間力顕微鏡等を用いることができる。
【0023】
1.1.1.2.アスペクト比
磁性金属粒子2の主面212の長軸の長さをd1とし、主面212の短軸の長さをd2とし、短軸の長さd2に対する長軸の長さd1の比d1/d2を主面212のアスペクト比とする。磁性金属粒子2は、主面212の平均アスペクト比d1/d2が、1.5以上30.0以下であることが好ましく、2.0以上20.0以下であることがより好ましく、2.5以上10.0以下であることがさらに好ましい。主面212の平均アスペクト比が前記範囲内である場合、磁気粘性流体1の励磁せん断応力を特に高めることができる。つまり、主面212の平均アスペクト比が前記範囲内である場合、長軸に沿って鎖状のクラスターCLを形成することにより、磁性金属粒子2同士の接触面積がより広くなる。その結果、クラスターCLにおける磁性金属粒子2同士の結合力をより高めることができる。
【0024】
主面212の平均アスペクト比が前記下限値を下回ると、磁場が印加されたとき、磁性金属粒子2同士の接触面積を十分に大きくできないおそれがある。一方、主面212の平均アスペクト比が前記上限値を上回ると、磁性金属粒子2の移動の抵抗が大きくなるおそれがある。そうすると、磁気粘性流体1の励磁せん断応力が低下したり、変化の応答性が低下したりするおそれがある。
【0025】
なお、長軸の長さd1は、主面212の最大の長さである。また、短軸の長さd2は、主面212の長軸と直交する方向における最大の長さである。主面212の平均アスペクト比は、無作為に抽出した50個以上の磁性金属粒子2について測定、算出されたアスペクト比d1/d2の平均値とする。長軸の長さd1および短軸の長さd2の測定には、例えば、光学顕微鏡、電子顕微鏡、原子間力顕微鏡等を用いることができる。
【0026】
1.1.1.3.平均粒径
磁性金属粒子2の平均粒径は、1μm以上450μm以下であるのが好ましく、3μm以上250μm以下であるのがより好ましく、5μm以上100μm以下であるのがさらに好ましい。磁性金属粒子2の平均粒径が前記範囲内であれば、磁気粘性流体1の励磁せん断応力をより高めることができる。また、磁場が印加されていない状態における磁性金属粒子2の凝集や沈降を抑制することができる。さらに、磁気粘性流体1の磁場応答性が小さくなるのを抑制することができる。
【0027】
なお、磁性金属粒子2の平均粒径が前記下限値を下回ると、磁性金属粒子2の構成材料によっては、磁気粘性流体1の励磁せん断応力が低下したり、磁性金属粒子2の凝集が発生しやすくなったりするおそれがある。また、粘度変化幅が小さくなるおそれがある。一方、磁性金属粒子2の平均粒径が前記上限値を上回ると、磁性金属粒子2の構成材料によっては、分散媒4中で磁性金属粒子2が沈降し、偏在するおそれがある。また、磁性金属粒子2の移動の抵抗が大きくなり、磁気粘性流体1の磁場応答性が小さくなるおそれがある。
【0028】
磁性金属粒子2の平均粒径は、レーザー回折・分散法により体積基準の粒度分布を測定し、この粒度分布から得られた積算分布曲線から求めることができる。具体的には、積算分布曲線において、小径側からの累積値が50%である粒子径(メディアン径)が、磁性金属粒子2の平均粒径D50である。レーザー回折・分散法により粒度分布を測定する装置としては、例えばマイクロトラック・ベル社製のMT3300シリーズ等が挙げられる。
【0029】
1.1.1.4.平均厚さ
扁平状をなす磁性金属粒子2の平均厚さは、特に限定されないが、0.1μm以上200μm以下であることが好ましく、0.5μm以上150μm以下であることがより好ましく、1μm以上100μm以下であることがさらに好ましい。磁性金属粒子2の平均厚さが前記範囲内であることにより、磁性金属粒子2の厚さが十分に薄くなるため、磁性金属粒子2の面積比S/Sが前記範囲内であっても、磁性金属粒子2の沈降が生じにくくなる。
【0030】
図3は、図1に示す磁性金属粒子2を模式的に示す部分断面斜視図である。磁性金属粒子2の平均厚さは、図3に示す厚さtを50個以上の磁性金属粒子2で測定し、平均して得られる平均値である。厚さtの測定には、例えば、光学顕微鏡、電子顕微鏡、原子間力顕微鏡等を用いることができる。
【0031】
1.1.1.5.飽和磁化
磁性金属粒子2の飽和磁化は、50emu/g以上であることが好ましく、100emu/g以上であることがより好ましい。飽和磁化とは、外部から十分大きな磁場を印加した時に磁性材料が示す磁化が磁場に関係なく一定となる場合の磁化の値である。磁性金属粒子2の飽和磁化が高いほど、磁性材料としての機能を十分に発揮させることができる。具体的には、磁気粘性流体1の励磁せん断応力をさらに高めるとともに、粘度変化幅をより拡大することができる。
【0032】
なお、磁性金属粒子2の飽和磁化の上限値は、特に限定されないが、性能とコストのバランスに適する材料選択の容易性の観点から、250emu/g以下とするのが好ましく、200emu/g以下とするのがより好ましい。
【0033】
磁性金属粒子2の飽和磁化は、振動試料型磁力計(VSM)等により測定することができる。飽和磁化を測定する際の最大印加磁場は、例えば1194[kA/m](15[kOe])以上とされる。
【0034】
1.1.1.6.保磁力
磁性金属粒子2の保磁力は、1595[A/m]以下(20[Oe]以下)であることが好ましく、1196[A/m]以下(15[Oe]以下)であることがより好ましく、797[A/m]以下(10[Oe]以下)であることがさらに好ましい。保磁力とは、磁化された磁性体を、磁化されていない状態に戻すために必要な反対向きの外部磁場の値をいう。つまり、保磁力は、外部磁場に対する抵抗力を意味する。保磁力が前記範囲内にある磁性金属粒子2は、残留磁化が小さいため、磁場が印加されていないときにはほとんど磁化しない一方、磁場の印加に伴って磁化するため、磁場の変化に対する磁化の追従性が高い。このため、このような低保磁力の磁性金属粒子2を有する磁気粘性流体1は、磁場の変化に対する応答性に優れる。また、このような低保磁力の磁性金属粒子2は、磁場が印加されていないときに凝集しにくいため、分散媒4に対して高濃度に含まれていても均一に分散可能である。このため、このような磁気粘性流体1は、十分な低粘度回復性を有する。
【0035】
また、低粘度回復性が十分であれば、磁場印加時と磁場除去時との間で粘度変化幅を十分に確保することができる。さらに、粘度変化のヒステリシスを小さく抑えられるため、磁場の印加と除去を繰り返しても粘度変化幅を安定させることができる。これにより、長期にわたって良好な特性を示す磁気粘性流体1を実現することができる。その結果、磁気粘性流体1を用いる各種装置に対し、高い性能および長期信頼性を付与することができる。
【0036】
なお、磁性金属粒子2の保磁力の下限値は、特に設定されなくてもよいが、製造ロット間の保磁力のバラつきを十分に抑制するという観点で、8[A/m]以上(0.1[Oe]以上)とされる。
【0037】
磁性金属粒子2の保磁力は、例えば、振動試料型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnetometer)を用いて測定される。振動試料型磁力計としては、例えば、株式会社玉川製作所製のTM-VSM1550HGC等が挙げられる。保磁力を測定する際の最大印加磁場は、例えば1194[kA/m](15[kOe])とされる。また、磁気粘性流体1から磁性金属粒子2を分離する場合、例えば、ノルマルヘキサンやアセトンのような有機溶剤によって分散媒4を除去する方法が用いられる。
【0038】
1.1.2.磁性金属粒子の含有率
磁性金属粒子2の含有率は、磁気粘性流体1全体の40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。これにより、磁場印加時および磁場除去時における磁気粘性流体1においてそれぞれ適度な粘性が得られるとともに、励磁せん断応力を十分に高くすることができる。一方、磁気粘性流体1のハンドリング性を考慮した場合、磁性金属粒子2の含有率は、95質量%以下であることが好ましい。
【0039】
1.1.3.磁性金属粒子の構成
図3に示す磁性金属粒子2は、粒子本体21と、その表面に設けられた酸化物膜22と、その表面に設けられた表面修飾膜23と、を有する。酸化物膜22および表面修飾膜23は、必要に応じて設けられればよく、いずれか一方または双方が省略されていてもよい。
【0040】
1.1.3.1.粒子本体の構成材料
粒子本体21の構成材料は、Fe基合金材料である。Fe基合金材料は、飽和磁化が大きいという観点で有用である。
【0041】
Fe基合金材料は、Feを主成分とする合金材料である。主成分とは、Fe基合金材料においてFeの含有率が原子数比で50%以上であることをいう。このようなFe基合金材料は、純鉄に比べて耐食性が高く、磁性金属粒子2における発錆の抑制に寄与する。また、フェライト等に比べて飽和磁化が大きく、靭性や強度も高い。このため、Fe基合金材料は、粒子本体21の構成材料として有用である。
【0042】
Fe基合金材料は、Feの他に、NiまたはCoのように単独で強磁性を示す元素を含んでいてもよく、目標とする特性に応じて、Cu、Si、V、Cr、Mn、白金族元素、Sc、Y、Au、Zn、Sn、Re、BおよびCからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。なお、白金族元素とは、Ru、Rh、Pd、Os、IrおよびPtのうちの少なくとも1種を指す。
【0043】
また、Fe基合金材料には、実施形態の効果を損なわない範囲で、不可避的不純物が含まれていてもよい。不可避的不純物とは、原料や製造時に意図せずに混入する不純物である。不可避的不純物としては、例えば、O、N、S、Na、Mg、K等が挙げられる。
【0044】
このようなFe基合金材料としては、特に限定されないが、例えば、センダストのようなFe-Si-Al系合金、Fe-Ni系、Fe-Co系、Fe-Ni-Co系、Fe-Si-B系、Fe-Si-Cr-B系、Fe-Si-B-C系、Fe-Si-B-Cr-C系、Fe-Si-Cr系、Fe-B系、Fe-P-C系、Fe-Co-Si-B系、Fe-Si-B-Nb系、Fe-Si-B-Nb-Cu系、Fe-Zr-B系、Fe-Cr系、Fe-Cr-Al系のようなFe基合金材料等が挙げられる。
【0045】
また、粒子本体21の構成材料は、アモルファス(非晶質)合金材料であってもよいし、結晶合金材料であってもよいし、微結晶(ナノ結晶)合金材料であってもよい。このうち、アモルファス合金材料または微結晶合金材料が好ましく用いられる。なお、微結晶合金材料とは結晶粒径が100nm以下の微結晶(ナノ結晶)が存在する合金材料のことをいう。これらは、磁性金属粒子2の保磁力を十分低くして、磁性金属粒子2の再分散性を高めることに寄与する。また、これらは、例えば金属酸化物等に比べて靭性および強度が高いため、粒子本体21の摩耗や欠損等を効果的に抑制することができる。その結果、粘度変化幅が特に安定している磁気粘性流体1を実現することができる。さらに、アモルファス合金材料および微結晶合金材料は、結晶粒界が存在しないか、または、微小であるため、結晶粒界を起点にした腐食が発生しにくい。このため、これらの合金材料を用いることで、磁性金属粒子2の耐食性を特に高めることができる。
【0046】
アモルファス合金材料としては、例えば、Fe-Si-B系、Fe-Si-Cr-B系、Fe-Si-B-C系、Fe-Si-B-Cr-C系、Fe-Si-Cr系、Fe-B系、Fe-B-C系、Fe-P-C系、Fe-Co-Si-B系、Fe-Si-B-Nb系、Fe-Zr-B系のような2元系または多元系のFe基アモルファス合金、Ni-Si-B系、Ni-P-B系のようなNi基アモルファス合金、Co-Si-B系のようなCo基アモルファス合金等が挙げられる。
【0047】
微結晶合金材料としては、例えば、Fe-Si-B-Nb-Cu系、Fe-Zr-B系、Fe-Hf-B系、Fe-Nb-B系、Fe-Zr-B-Co系、Fe-Hf-B-Co系、Fe-Nb-B-Co系、Fe-Si-B-P-Cu系のようなFe基ナノ結晶合金等が挙げられる。
【0048】
特に好ましいFe基合金材料は、Feを主成分とし、Si、Cr、B、C、Ni、MnおよびCuからなる群から選択される少なくとも1種を含む合金材料である。このようなFe基合金材料は、飽和磁化が高く、かつ、耐食性が高い。このため、かかるFe基合金材料を用いることで、耐食性が特に高く、かつ、励磁せん断応力が特に高い磁気粘性流体1を製造可能な磁性金属粒子2が得られる。
【0049】
Fe基合金材料におけるSi(ケイ素)の含有率は、好ましくは1.0原子%以上20.0原子%以下、より好ましくは1.5原子%以上13.0原子%以下、さらに好ましくは2.0原子%以上11.0原子%以下である。このような合金は、透磁率が高いため、飽和磁化が高くなる傾向がある。これにより、励磁せん断応力および磁場応答性が特に高い磁気粘性流体1を製造可能な磁性金属粒子2が得られる。
【0050】
Fe基合金材料におけるB(ホウ素)の含有率は、好ましくは5.0原子%以上16.0原子%以下、より好ましくは9.0原子%以上14.0原子%以下である。Bは、アモルファス化を促進させる元素であり、磁性金属粒子2に安定した非晶質組織または微結晶組織を形成することに寄与する。
【0051】
Fe基合金材料におけるC(炭素)の含有率は、好ましくは0.5原子%以上5.0原子%以下、より好ましくは1.0原子%以上3.0原子%以下である。Cは、アモルファス化を促進させる元素であり、磁性金属粒子2に安定した非晶質組織または微結晶組織を形成することに寄与する。
【0052】
Fe基合金材料におけるCr(クロム)の含有率は、好ましくは1.0原子%以上20.0原子%以下、より好ましくは1.5原子%以上5.0原子%以下である。Crの含有率を前記範囲内にすることで、磁性金属粒子2の耐食性を高めることができる。
【0053】
なお、不純物の含有率は、合計で1.0原子%以下であることが好ましい。この程度であれば、不純物が含有していても、磁性金属粒子2の効果が損なわれない。
【0054】
粒子本体21の構成元素および組成は、JIS G 1258:2014に規定されたICP発光分析法、JIS G 1253:2002に規定されたスパーク発光分析法などにより特定することができる。また、粒子本体21が被覆膜等で被覆されている場合には、化学的または物理的手法でそれらを除去した後、上記手法により測定することができる。また、磁性金属粒子2を切断した上で、コアである粒子本体21の部分をEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)、EDX(Energy Dispersive X-ray spectroscopy)等の分析装置にて分析してもよい。
【0055】
1.1.3.2.粒子本体の製造方法
粒子本体21は、いかなる方法で製造された粒子であってもよい。製造方法の例としては、球形の粒子を製造する工程と、球形の粒子を扁平加工する工程と、を有する方法が挙げられる。
【0056】
球形の粒子を製造する工程には、各種の粉末製造方法が用いられる。粉末製造方法としては、例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、回転水流アトマイズ法等の各種アトマイズ法の他、粉砕法等が挙げられる。このうち、アトマイズ法によれば、粒径の揃った粒子が得られる。
【0057】
球形の粒子を扁平加工する工程には、各種のメカノケミカル法が用いられる。メカノケミカル法としては、例えば、遊星ミル、遊星ボールミル、ジェットミル、ヤコブソンミル、振動ミル、バイブロミル、音響共振ミキサー等のメカノケミカル装置を用いて、球形の粒子に扁平加工を施す方法が挙げられる。なお、本工程は、湿式で行ってもよいし、乾式で行ってもよい。本工程を行う時間を調整することにより、前述した磁性金属粒子2の扁平度やアスペクト比、平均粒径を制御することができる。例えば、本工程を行う時間が長くなると、扁平度、アスペクト比および平均粒径が大きくなる傾向がある。
【0058】
1.1.3.3.酸化物膜
酸化物膜22は、粒子本体21の表面に設けられている被膜である。酸化物膜22は、粒子本体21と後述する表面修飾膜23との間に介在し、粒子本体21に対する表面修飾膜23の密着性を高める。また、酸化物膜22が、粒子本体21を保護するとともに凝集を抑制することができ、かつ、粒子本体21の耐吸湿性および防錆性を高めることができる。なお、酸化物膜22は、粒子本体21の表面全体を覆っているのが好ましいが、表面の一部のみに設けられていてもよい。
【0059】
酸化物膜22の構成材料としては、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化クロム、酸化マンガン、酸化スズ、酸化亜鉛等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物もしくは複合物等が挙げられる。
【0060】
このうち、酸化ケイ素が好ましく用いられる。酸化ケイ素は、組成式SiO(0<x≦2)で表される酸化物であるが、好ましくはSiOである。
【0061】
酸化物膜22の平均厚さは、1nm以上500nm以下であるのが好ましく、3nm以上300nm以下であるのがより好ましく、20nm以上100nm以下であるのがさらに好ましい。酸化物膜22の平均厚さが前記範囲内であれば、前述した酸化物膜22の機能を確保しつつ、酸化物膜22が必要以上に厚くなるのを避けることができる。これにより、磁性金属粒子2の凝集や劣化を抑制しつつ、酸化物膜22の比率が高くなりすぎることに伴う磁性金属粒子2の磁気特性の低下を抑制することができる。
【0062】
酸化物膜22の平均厚さは、磁性金属粒子2の粒子の断面を電子顕微鏡で観察し、10か所以上の酸化物膜22の膜厚を平均した値である。
【0063】
酸化物膜22の成膜方法は、特に限定されないが、例えば、ストーバー法を含むゾルゲル法のような湿式成膜法、ALD(Atomic Layer Deposition)、CVD(Chemical Vapor Deposition)、イオンプレーティングのような気相成膜法等が挙げられる。このうち、ゾルゲル法、特にストーバー法によれば、低コストでムラなく酸化物膜22を形成することができるので有用である。
【0064】
ストーバー法は、シリコンアルコキシドの加水分解により、酸化物膜22を形成する手法である。シリコンアルコキシドとしては、例えば、TEOS(テトラエトキシシラン、Si(OC)が好ましく用いられる。
【0065】
1.1.3.4.表面修飾膜
表面修飾膜23は、酸化物膜22を介して粒子本体21の表面を被覆する。これにより、分散媒4中における磁性金属粒子2の分散性を高めることができる。なお、表面修飾膜23は、酸化物膜22または粒子本体21の表面全体を覆っているのが好ましいが、表面の一部のみに設けられていてもよい。
【0066】
表面修飾膜23の構成材料は、カップリング剤、界面活性剤またはポリマー重合膜に由来する有機化合物を含む。このうち、カップリング剤は、官能基および加水分解性基を有する化合物である。カップリング剤を用いることにより、酸化物膜22の表面(磁性金属粒子2の表面)に官能基を導入することができる。これにより、磁性金属粒子2の粒子同士の凝集を抑制するとともに、分散媒4への分散性をより高めることができる。これにより、磁場の変化に対する追従性に優れ、かつ、分散媒4に対して高濃度でも均一に分散可能な磁性金属粒子2を実現することができる。
【0067】
また、表面修飾膜23は、磁性金属粒子2の耐湿性、防錆性等を高めることにも寄与する。耐湿性や防錆性が高められることにより、磁性金属粒子2の吸湿や発錆による劣化を抑制することができる。
【0068】
カップリング剤が有する官能基としては、例えば、脂肪族炭化水素基、環状構造含有基、フルオロアルキル基、フルオロアリール基、ニトロ基、アシル基、シアノ基等を含有するものが挙げられ、特に脂肪族炭化水素基または環状構造含有基が好ましく用いられる。
【0069】
脂肪族炭化水素基は、分岐または非分岐のアルキル基が挙げられる。アルキル基の炭素原子数は、特に限定されないが、1以上12以下であるのが好ましく、1以上6以下であるのがより好ましい。これにより、油性の分散媒4に対して特に良好に分散する磁性金属粒子2が得られる。
【0070】
環状構造含有基は、環状構造を持つ官能基である。環状構造含有基としては、例えば、芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基、環状エーテル基等が挙げられる。
【0071】
芳香族炭化水素基は、芳香族炭化水素から水素原子を除いた残基であり、炭素数は、6以上20以下であるのが好ましい。芳香族炭化水素基としては、例えば、アリール基、アルキルアリール基、アミノアリール基、ハロゲン化アリール基等が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、インデニル基等が挙げられる。アルキルアリール基としては、例えば、ベンジル基、メチルベンジル基、フェネチル基、メチルフェネチル基、フェニルベンジル基等が挙げられる。
【0072】
脂環式炭化水素基は、脂環式炭化水素から水素原子を除いた残基であり、炭素数は、3以上20以下であるのが好ましい。脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基等が挙げられる。シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。シクロアルキルアルキル基としては、例えば、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基等が挙げられる。
【0073】
環状エーテル基としては、例えば、エポキシ基、3,4-エポキシシクロヘキシル基、オキセタニル基等が挙げられる。
【0074】
フルオロアルキル基は、1つ以上のフッ素原子で置換されている炭素数1以上16以下のアルキル基または炭素数3以上16以下のシクロアルキル基である。特にフルオロアルキル基は、パーフルオロアルキル基であるのが好ましい。
【0075】
フルオロアリール基は、1つ以上のフッ素原子で置換されている炭素数6以上20以下のアリール基である。特にフルオロアリール基は、パーフルオロアリール基であるのが好ましい。
【0076】
カップリング剤が有する加水分解性基としては、例えば、アルコキシ基、アシルオキシ基、アリールオキシ基、アミノキシ基、アミド基、ケトオキシム基、イソシアネート基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0077】
カップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、ジルコニウムカップリング剤等が挙げられるが、特にシランカップリング剤が好ましく用いられる。
【0078】
カップリング剤の添加量は、粒子本体21の量を1質量部としたとき、0.01質量部以上1.0質量部以下であるのが好ましく、0.02質量部以上0.10質量部以下であるのがより好ましい。
【0079】
1.1.4.添加剤
添加剤3としては、例えば、沈降抑制剤、清浄剤、分散剤、酸化防止剤、摩耗防止剤、極圧剤、摩擦調整剤、界面活性剤、チクソトロピー付与剤(増粘剤)、減粘剤等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物が用いられる。
【0080】
沈降抑制剤としては、例えば、ヒュームドシリカ、ベントナイトやヘクトライトのような粘土粉等の非磁性材料で構成されている固体粒子が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物が用いられる。このような固体粒子は、磁性金属粒子2とは構成材料が異なる非磁性材料の粒子であり、磁性金属粒子2の沈降を抑制する。これにより、磁場が印加されていない期間が長く続いても、粘度変化幅の減少を抑制することができる。
【0081】
固体粒子の含有率は、磁気粘性流体1全体の5.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上3.0質量%以下であることがより好ましい。これにより、粘度変化幅に影響を及ぼすことなく、磁性金属粒子2の沈降を抑制し、長期にわたる粘度変化幅の安定化を図ることができる。したがって、適切な添加剤3を添加することにより、前述した変動率を最適化することができる。
【0082】
分散剤としては、例えば、オレイン酸塩、ナフテン酸塩、スルホン酸塩、リン酸エステル、ステアリン酸、ステアリン酸塩、モノオレイン酸グリセロール、セスキオレイン酸ソルビタン、ラウリン酸、脂肪酸、脂肪アルコール等が挙げられる。
【0083】
摩耗防止剤としては、例えば、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンやジアルキルジチオリン酸モリブデンのような有機モリブデン化合物、ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛やジアルキルジチオリン酸亜鉛のような有機亜鉛化合物等が挙げられる。
【0084】
また、添加剤3の合計の含有率は、磁気粘性流体1全体の10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることがさらに好ましい。これにより、添加剤3によって磁性金属粒子2の機能が阻害されてしまうのを抑制することができる。
【0085】
なお、添加剤3は、必要に応じて添加されればよく、省略されていてもよい。また、磁気粘性流体1には、上記の磁性金属粒子2以外の磁性粒子、例えば、扁平状をなしていない(球形に近い)磁性粒子や、フェライト粒子のような非金属磁性粒子等が添加されていてもよい。
【0086】
1.1.5.分散媒
分散媒4は、磁性金属粒子2や添加剤3を分散させ得る液体であれば、特に限定されない。分散媒4としては、例えば、シリコーンオイル、ポリ-α-オレフィン基油、芳香族系合成油、パラフィン油、アルキル化フェニルエーテル油、エーテル油、エステル油、ポリブテン油、ポリアルキレングリコール類、鉱物油、植物性油、動物性油のような油類、トルエン、キシレン、ヘキサンのような有機溶剤、エチルメチルイミダゾリウム塩、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム塩、1-メチルピラゾリウム塩のようなイオン性液体(常温溶融塩)類等が挙げられる。また、分散媒4は、これらの2種以上を含む混合物であってもよく、これらのうちの1種または2種以上と上記以外の液体とを含む混合物であってもよい。
【0087】
このうち、エステル油としては、例えば、1価アルコールとジカルボン酸とから製造されるジエステル、ポリオールとモノカルボン酸とから製造されるポリオールエステル、または、ポリオールとモノカルボン酸とポリカルボン酸とから製造されるコンプレックスエステル等が挙げられる。
【0088】
ジエステルとしては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の二塩基酸のエステルが挙げられる。二塩基酸としては、炭素数4~36の脂肪族二塩基酸が好ましい。二塩基酸のエステルのエステル部を構成するアルコール残基は、炭素数4~26の1価アルコール残基が好ましい。このようなジエステルとしては、ジオクチルアジペート、ジオクチルセバケート、ジイソデシルアジペート、ジオクチルアゼレート等が挙げられる。
【0089】
ポリオールエステルおよびコンプレックスエステルに用いられるポリオールとしては、具体的には、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ネオペンチルグリコール等のβ水素を持たないヒンダードアルコールが好適に用いられる。ポリオールエステルおよびコンプレックスエステルに用いられるモノカルボン酸としては、ヤシ油脂肪酸、ステアリン酸等の直鎖飽和脂肪酸、オレイン酸等の直鎖不飽和脂肪酸、イソステアリン酸等の分岐脂肪酸等が挙げられる。
【0090】
ポリカルボン酸としてはコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の直鎖飽和ポリカルボン酸が好適に用いられる。
【0091】
アルキル化フェニルエーテル油としては、アルキル化ジフェニルエーテル、(アルキル化)ポリフェニルエーテル等が挙げられる。
【0092】
ポリアルキレングリコール類としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、エチレンオキサイド-プロピレンオキサイドコポリマー、プロピレンオキサイド-ブチレンオキサイドコポリマー、またはこれらの誘導体等が挙げられる。
【0093】
1.2.磁気粘性流体の特性
磁気粘性流体1は、0.8Tの磁場を印加した状態で、せん断速度333[/s]で測定されたせん断応力が、20,000Pa以上であることが好ましく、25,000Pa以上であることがより好ましい。このような励磁せん断応力を有する磁気粘性流体1は、応力の変化を利用して様々な機能を発揮する各種装置等に用いられたとき、各種装置の高性能化に寄与する。
【0094】
せん断応力の測定には、例えば、アントンパール社製、レオメーターMCR102が用いられる。また、測定時に磁場を印加する機器として、例えば、アントンパール社製、磁場印加アタッチメントMRD70等が挙げられる。
【0095】
せん断応力は、磁気粘性流体を200μLサンプリングし、装置の試料台と直径20mmのローターとの間に挟んだ状態でローターを回転させ、所定のせん断速度を加えた状態で、磁場の印加を切り替えつつ測定する。試料台とローターとの隙間は0.5mmとする。
【0096】
なお、せん断応力の上限値は、特に設定されなくてもよいが、磁場を除去したときにせん断応力が十分に低下し、応力の変化幅を十分に確保するという観点で、50,000Pa以下であることが好ましい。
【0097】
1.3.磁気粘性流体の用途例
磁気粘性流体1の用途としては、磁場の印加を切り替えたときの応力の差を利用した、様々な装置やデバイス等が挙げられる。かかる装置やデバイスとしては、例えば、リニアダンパー、ロータリーダンパー、ショックアブソーバーのような制振装置、ブレーキのような制動装置、クラッチのような動力伝達装置、ロボットの筋肉部分やエンドエフェクター、液体流量制御用バルブ、触覚呈示装置、音響装置、医療・福祉用ロボットハンド、介護ハンド、パーソナルモビリティー等が挙げられる。
【0098】
1.4.磁気粘性流体の製造方法
磁気粘性流体1の製造方法は、まず、上述した磁気粘性流体1の原材料を混合し、撹拌する。撹拌方法としては、例えば、ヘラによる撹拌、ボルテックスミキサー、ハイシアミキサー、低周波音響共振ミキサー等が挙げられる。このうち、ハイシアミキサーとしては、例えば、シルバーソン社製、L5シリーズ等が挙げられる。低周波音響共振ミキサーとしては、例えば、レゾダイン社製、LabRAM2等が挙げられる。
【0099】
撹拌時間は、撹拌方法に応じて適宜設定されるが、5分以上4時間以下であるのが好ましい。撹拌温度は、撹拌方法に応じて適宜設定されるが、15℃以上70℃以下であるのが好ましい。
【0100】
2.前記実施形態が奏する効果
以上のように、前記実施形態に係る磁性金属粒子2は、磁気粘性流体1に用いられる磁性金属粒子であって、Fe基合金材料で構成され、互いに表裏の関係を持つ2つの主面212と、主面212同士をつなぐ側面214と、を有する扁平状をなしている。そして、主面212の面積をS[μm]とし、主面212と平行な方向から観察して最大となるときの側面214の面積をS[μm]とするとき、面積比S/Sが、4以上である。
【0101】
このような構成によれば、耐食性が高く、かつ、励磁せん断応力が高い磁気粘性流体1を製造可能な磁性金属粒子2が得られる。また、磁性金属粒子2の分散安定性を高めることができる。
【0102】
また、面積比S[μm]/S[μm]は、10以上1000以下であることが好ましい。
【0103】
これにより、励磁せん断応力が特に高い磁気粘性流体1を製造可能な磁性金属粒子2が得られる。
【0104】
また、Fe基合金材料は、Feを主成分とし、Si、Cr、B、C、Ni、MnおよびCuからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0105】
このようなFe基合金材料は、飽和磁化が高く、かつ、耐食性が高い。このため、かかるFe基合金材料を用いることで、耐食性が特に高く、かつ、励磁せん断応力が特に高い磁気粘性流体1を製造可能な磁性金属粒子2が得られる。
【0106】
また、Fe基合金材料は、アモルファス合金材料または微結晶合金材料であることが好ましい。
【0107】
これらは、磁性金属粒子2の保磁力を十分低くして、磁性金属粒子2の再分散性を高めることに寄与する。また、これらは、例えば金属酸化物等に比べて靭性および強度が高いため、摩耗や欠損等を効果的に抑制することができる。その結果、粘度変化幅が特に安定している磁気粘性流体1を実現することができる。さらに、これらは、結晶粒界が存在しないか、または、微小であるため、結晶粒界を起点にした腐食が発生しにくい。このため、これらの合金材料を用いることで、磁性金属粒子2の耐食性を特に高めることができる。
【0108】
また、磁性金属粒子2は、飽和磁化が100emu/g以上250emu/g以下であることが好ましい。
【0109】
このような構成によれば、磁性金属粒子2の磁場応答性を高めることができる。また、磁気粘性流体1の励磁せん断応力をさらに高めるとともに、粘度変化幅をより拡大することができる。さらに、磁性金属粒子2の構成材料の選択容易性を高めることができる。
【0110】
また、磁性金属粒子2の平均粒径は、1μm以上450μm以下であることが好ましい。
【0111】
このような構成によれば、磁気粘性流体1の励磁せん断応力をより高めることができる。また、磁場が印加されていない状態における磁性金属粒子2の凝集や沈降を抑制することができる。さらに、磁気粘性流体1の磁場応答性が小さくなるのを抑制することができる。
【0112】
また、主面212の長軸の長さをd1とし、主面212の短軸の長さをd2とするとき、主面212の平均アスペクト比d1/d2は、1.5以上30.0以下であることが好ましい。
【0113】
このような構成によれば、磁気粘性流体1の励磁せん断応力を特に高めることができる。つまり、主面212の平均アスペクト比が前記範囲内である場合、長軸に沿って鎖状のクラスターCLを形成することにより、磁性金属粒子2同士の接触面積がより広くなる。その結果、クラスターCLにおける磁性金属粒子2同士の結合力をより高めることができる。
【0114】
前記実施形態に係る磁気粘性流体1は、前記実施形態に係る磁性金属粒子2と、磁性金属粒子2を分散させる分散媒4と、有する。
【0115】
このような構成によれば、耐食性が高く、かつ、励磁せん断応力が高い磁気粘性流体1が得られる。
【0116】
また、前記実施形態に係る磁気粘性流体1は、0.8Tの磁場を印加した状態で、せん断速度333[/s]で測定されたせん断応力が、20,000Pa以上であることが好ましい。
【0117】
このような励磁せん断応力を有する磁気粘性流体1は、応力の変化を利用して様々な機能を発揮する各種装置等に用いられたとき、各種装置の高性能化に寄与する。
【0118】
以上、本発明の磁性金属粒子および磁気粘性流体について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0119】
例えば、本発明の磁性金属粒子および磁気粘性流体は、前記実施形態に任意の構成が付加されたものであってもよい。
【実施例0120】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
3.磁気粘性流体の作製
3.1.実施例1
まず、水アトマイズ法により、所定の組成を有する合金粉末を作製した。次に、作製した合金粉末に対し、ボールミルを用いた扁平加工を施した。これにより、扁平状をなす磁性金属粒子を得た。
【0121】
次に、得られた磁性金属粒子および添加剤を分散媒に分散させ、磁気粘性流体を作製した。磁気粘性流体の構成は、表1および表2に示すとおりである。添加剤には、固体粒子である粘土紛および液状の有機モリブデン化合物を用いた。分散媒には、ポリ-α-オレフィン基油およびジオクチルセバケート(セバシン酸ジオクチル)の混合物を用いた。
【0122】
磁気粘性流体における磁性金属粒子の含有率は、85質量%とし、固体粒子の含有率は、2.0質量%とし、有機モリブデン化合物の含有率は、3.0質量%とした。
【0123】
3.2.実施例2~7
磁気粘性流体の構成を表1および表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして磁気粘性流体を得た。
【0124】
3.3.実施例8
磁性金属粒子として、前述した合金粉末からなる粒子本体と、その表面に成膜された酸化物膜と、その表面に成膜された表面被覆膜と、を有する粒子を用いるとともに、磁気粘性流体の構成を表1および表2に示すようにした以外は、実施例1と同様にして磁気粘性流体を得た。酸化物膜の形成には、ストーバー法を用いた。また、酸化物膜の平均厚さは、表2に示す通りである。表面修飾膜は、シランカップリング剤(SC)由来の化合物で構成された膜とし、シランカップリング剤としてメチルトリメトキシシランを用いた。
【0125】
3.4.実施例9
酸化物膜を省略した磁性金属粒子を用いるとともに、磁気粘性流体の構成を表1および表2に示すようにした以外は、実施例8と同様にして磁気粘性流体を得た。
【0126】
3.5.実施例10
表面修飾膜を省略した磁性金属粒子を用いるとともに、磁気粘性流体の構成を表1および表2に示すようにした以外は、実施例8と同様にして磁気粘性流体を得た。
【0127】
3.6.実施例11~14
磁気粘性流体の構成を表1および表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして磁気粘性流体を得た。なお、結晶質合金2(SUS630)は、Feを主成分とし、Cr、Ni、CuおよびNbを所定量含み、少量(1.0質量%以下)のSiおよびMnを含む合金である。
【0128】
3.7.比較例1~7
磁気粘性流体の構成を表1および表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして磁気粘性流体を得た。
【0129】
3.8.実施例15~24
磁気粘性流体の構成を表1および表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして磁気粘性流体を得た。なお、実施例20-22については、実施例8-10と同様にして酸化物膜および表面被覆膜の少なくとも一方を設けるようにした。
【0130】
3.9.比較例8~10
磁気粘性流体の構成を表1および表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして磁気粘性流体を得た。
【0131】
4.磁気粘性流体の評価結果
各実施例および各比較例の磁気粘性流体について、以下の評価を行った。
【0132】
4.1.耐食性の評価
各実施例および各比較例の磁気粘性流体1mLを、内径6mmのガラス容器に入れた。ガラス容器に入れた磁気粘性流体を、気温60℃、相対湿度90%の空気中に28日間放置した。その後、磁気粘性流体をヘキサンで洗浄し、磁気分離によって一部の磁性金属粒子を取り出した。
【0133】
次に、取り出した磁性金属粒子を目視で観察し、発錆の有無を確認した。そして、確認結果を以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表2および表3に示す。
【0134】
A:錆が認められなかった
B:錆が認められた(磁性金属粒子の表面積の1.5%未満)
C:錆が認められた(磁性金属粒子の表面積の1.5%以上20%未満)
D:錆が認められた(磁性金属粒子の表面積の20%以上)
【0135】
次に、上記の磁気分離で取り出さなかった磁性金属粒子を含む磁気粘性流体を、さらに上記環境で放置し、合計100日間放置した。その後、磁気粘性流体をヘキサンで洗浄し、磁気分離によって磁性金属粒子を取り出した。
【0136】
次に、取り出した磁性金属粒子を目視で観察し、発錆の有無を確認した。そして、確認結果を上記の評価基準に照らして評価した。評価結果を表2および表3に示す。
【0137】
4.2.励磁せん断応力の評価
各実施例および各比較例の磁気粘性流体について、0.8Tの磁場を印加し、その状態で励磁せん断応力を測定した。測定時のせん断速度を333[/s]、磁気粘性流体の温度を25℃とした。
【0138】
測定には、アントンパール社製、レオメーターMCR102を用いた。また、測定時に磁場を印加する機器として、アントンパール社製、磁場印加アタッチメントMRD70を用いた。
【0139】
そして、磁気粘性流体200μLを、装置の試料台と直径20mmのローターとの間に挟んだ状態でローターを回転させ、上記のせん断速度を加えた状態で、上記の磁場の印加した状態で励磁せん断応力を測定した。試料台とローターとの隙間を0.5mmとした。そして、得られた測定結果を以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を「耐食性試験前の励磁せん断応力」として表2および表3に示す。
【0140】
A:励磁せん断応力が25,000Pa以上である
B:励磁せん断応力が20,000Pa以上25,000Pa未満である
C:励磁せん断応力が15,000Pa以上20,000Pa未満である
D:励磁せん断応力が15,000Pa未満である
【0141】
次に、4.1.で28日間の耐食性試験を行った磁気粘性流体について、上記と同様にして励磁せん断応力を測定した。そして、得られた測定結果を上記の評価基準に照らして評価した。評価結果を「耐食性試験後の励磁せん断応力」として表2および表3に示す。
【0142】
4.3.分散安定性の評価
各実施例および各比較例の磁気粘性流体について、下記の方法により、分散安定性を評価した。
【0143】
まず、1mLの磁気粘性流体を1.5mL遠沈管に入れた。測定時の気温は25℃、相対湿度は50%であった。なお、磁気粘性流体は、あらかじめ、この温湿度環境下に24時間置いておいたものである。
【0144】
次に、遠沈管を撹拌機にセットし、磁気粘性流体を撹拌した。撹拌には、Taitec社製、マイクロチューブ撹拌機E-36を用いた。また、撹拌条件として、撹拌方式が水平偏芯振とう、振とう速度が2500r/min、振とう時間が10分、という条件を採用した。
【0145】
次に、遠沈管に対し、加速度と時間の積が690km/sとなるように加速度を加えた。これにより、磁気粘性流体に強制的な分散を促した。この加速度は、遠心加速度293Gを4分間印加する方法で印加した。遠心加速度の印加には、久保田製作所製、マイクロ遠心機Model3300を用いた。
【0146】
加速度の印加を終了した直後に、加速度の印加で生じた上澄み層の厚さを測定した。測定結果を「厚さtA」とする。
【0147】
次に、遠沈管に対し、磁場を印加した。磁場の印加は、表面磁束密度が0.25Tの磁石を、遠沈管の側面および底面にそれぞれ20分間接触させることにより行った。
【0148】
次に、遠沈管を再び撹拌機にセットし、上記と同じ撹拌条件で磁気粘性流体を撹拌した。
【0149】
次に、遠沈管に対し、再び、加速度と時間の積が690km/sとなるように加速度を加えた。
【0150】
加速度の印加を終了した直後に、再び、加速度の印加で生じた上澄み層の厚さを測定した。測定結果を「厚さtB」とする。
【0151】
次に、厚さtA、tBから、変動率|tA-tB|/tAを算出した。そして、算出した変動率を以下の評価基準に照らすことにより、磁気粘性流体の分散安定性を評価した。評価結果を表2および表3に示す。なお、変動率は、小さいほど、磁気粘性流体における分散質の分散安定性が高いことを示す。
【0152】
A:変動率が5%以下である
B:変動率が5%超7%以下である
C:変動率が7%超10%以下である
D:変動率が10%超である
【0153】
【表1】
【0154】
【表2】
【0155】
【表3】
【0156】
表2および表3から明らかなように、各実施例の磁気粘性流体は、耐食性および励磁せん断応力の双方が良好であった。また、各実施例の磁気粘性流体では、扁平度や平均アスペクト比を最適化することにより、分散安定性を高められることも認められた。
【0157】
したがって、本発明に係る磁性金属粒子によれば、耐食性が高く、かつ、励磁せん断応力が高い磁気粘性流体を製造可能であることが認められた。
【符号の説明】
【0158】
1…磁気粘性流体、2…磁性金属粒子、3…添加剤、4…分散媒、5…分散質、21…粒子本体、22…酸化物膜、23…表面修飾膜、212…主面、214…側面、B…磁場、CL…クラスター、d1…長軸の長さ、d2…短軸の長さ、t…厚さ
図1
図2
図3