(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142259
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】磁気粘性流体および制振装置
(51)【国際特許分類】
H01F 1/44 20060101AFI20241003BHJP
F16F 9/53 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01F1/44 120
H01F1/44 170
F16F9/53
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054378
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100173428
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】市川 祐永
【テーマコード(参考)】
3J069
5E041
【Fターム(参考)】
3J069DD25
3J069EE35
5E041AA01
5E041AA02
5E041AA11
5E041AA19
5E041BC05
5E041BD07
5E041BD12
5E041NN12
5E041NN13
(57)【要約】
【課題】磁場を印加し、その後に磁場を除去した後でも、分散質が良好に再分散し、安定した特性を示す磁気粘性流体、および、かかる磁気粘性流体を有する制振装置を提供すること。
【解決手段】磁性金属粒子を含む分散質と、液状の分散媒と、を有し、前記分散質の保磁力が796[A/m]以下(10[Oe]以下)であり、筒状容器に収容された状態で加速度と時間の積が690km/sとなるように加速度が加えられたときに生じる上澄み層の厚さをtAとし、前記筒状容器に収容された状態で磁場が印加された後、前記加速度が加えられたときに生じる上澄み層の厚さをtBとするとき、変動率|tA-tB|/tAが、10%以下であることを特徴とする磁気粘性流体。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性金属粒子を含む分散質と、
液状の分散媒と、
を有し、
前記分散質の保磁力が796[A/m]以下(10[Oe]以下)であり、
筒状容器に収容された状態で加速度と時間の積が690km/sとなるように加速度が加えられたときに生じる上澄み層の厚さをtAとし、
前記筒状容器に収容された状態で磁場が印加された後、前記加速度が加えられたときに生じる上澄み層の厚さをtBとするとき、
変動率|tA-tB|/tAが、10%以下であることを特徴とする磁気粘性流体。
【請求項2】
前記磁性金属粒子の平均粒径は、0.05μm以上9.0μm以下である請求項1に記載の磁気粘性流体。
【請求項3】
前記磁性金属粒子は、Fe基金属材料を含む請求項1に記載の磁気粘性流体。
【請求項4】
前記Fe基金属材料は、アモルファス金属材料または微結晶金属材料である請求項3に記載の磁気粘性流体。
【請求項5】
前記Fe基金属材料は、
Feが主成分であり、
Siの含有率が1.0原子%以上20.0原子%以下であり、
前記磁性金属粒子の飽和磁化は、50emu/g以上250emu/g以下である請求項3または4に記載の磁気粘性流体。
【請求項6】
前記磁性金属粒子は、
粒子本体と、
前記粒子本体の表面に設けられる酸化物膜を有する請求項1ないし4のいずれか1項に記載の磁気粘性流体。
【請求項7】
前記磁性金属粒子の表面に設けられ、カップリング剤に由来する化合物で構成される被膜を有する請求項1ないし4のいずれか1項に記載の磁気粘性流体。
【請求項8】
前記磁性金属粒子の平均円形度は、0.78以上1.00以下である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の磁気粘性流体。
【請求項9】
前記分散質は、非磁性材料で構成されている固体粒子を含む請求項1ないし4のいずれか1項に記載の磁気粘性流体。
【請求項10】
全体における前記固体粒子の含有率は、0.5質量%以上3.0質量%以下である請求項9に記載の磁気粘性流体。
【請求項11】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の磁気粘性流体と、
前記磁気粘性流体を貯留する容器と、
前記容器に貯留された前記磁気粘性流体に作用する磁場を発生させる磁場発生部と、
を有することを特徴とする制振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気粘性流体および制振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気粘性流体は、例えば分散媒に磁性金属粒子を分散させてなる流体である。磁気粘性流体に磁場を印加すると、磁性金属粒子が磁化されて磁場方向に整列する。これにより、鎖状のクラスターが形成され、流体の粘性が変化する。そこで、粘性の変化を利用して、制振装置や制動装置等への利用が検討されている。
【0003】
これらの装置では、例えば磁場の印加と除去を繰り返すことにより、磁気粘性流体の粘性を調整し、制振、制動等の各種機能を実現するようになっている。
【0004】
例えば、特許文献1には、鉄カルボニル粒子およびフュームドシリカの粒子が、ポリαオレフィンを含む液体中に分散してなる磁気粘性流体が開示されている。また、この磁気粘性流体は、付与した磁界の影響下で流動性を可逆的に変化させる能力を持つため、例えば緩衝器、制振材(制振装置)、トルク伝達装置等に用いられることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の磁気粘性流体では、磁場を印加した後、除去したときに、分散質である磁性粒子の再分散が低下する場合がある。この場合、磁場を印加する前後で、磁気粘性流体の特性が変化することになるため、例えば制振、制動等の各種機能の実現に支障を来すおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の適用例に係る磁気粘性流体は、
磁性金属粒子を含む分散質と、
液状の分散媒と、
を有し、
前記分散質の保磁力が796[A/m]以下(10[Oe]以下)であり、
筒状容器に収容された状態で加速度と時間の積が690km/sとなるように加速度が加えられたときに生じる上澄み層の厚さをtAとし、
前記筒状容器に収容された状態で磁場が印加された後、前記加速度が加えられたときに生じる上澄み層の厚さをtBとするとき、
変動率|tA-tB|/tAが、10%以下である。
【0008】
本発明の適用例に係る制振装置は、
本発明の適用例に係る磁気粘性流体と、
前記磁気粘性流体を貯留する容器と、
前記容器に貯留された前記磁気粘性流体に作用する磁場を発生させる磁場発生部と、
を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る磁気粘性流体を示す模式図である。
【
図2】
図1に示す磁性金属粒子を模式的に示す断面図である。
【
図3】実施形態に係る制振装置を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の磁気粘性流体および制振装置を添付図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0011】
1.磁気粘性流体
まず、実施形態に係る磁気粘性流体について説明する。
【0012】
図1は、実施形態に係る磁気粘性流体1を示す模式図である。
図1に示す磁気粘性流体1は、分散質5と、分散媒4と、を有する。分散質5は、磁性金属粒子2および添加剤3を含み、液状の分散媒4に分散している。
【0013】
このような磁気粘性流体1は、磁場が印加されていないときには液体のように振る舞い、磁場が印加されたときには半固体のように振る舞う流体である。このような粘性の変化を利用することにより、磁気粘性流体1の応力を制御することができる。これにより、応力の変化を利用して様々な機能を発揮する各種装置等に磁気粘性流体1を用いることができる。
【0014】
1.1.磁気粘性流体の特性
1.1.1.分散質の保磁力
本実施形態に係る磁気粘性流体1では、分散質5の保磁力が796[A/m]以下(10[Oe]以下)である。保磁力とは、磁化された磁性体を、磁化されていない状態に戻すために必要な反対向きの外部磁場の値をいう。つまり、保磁力は、外部磁場に対する抵抗力を意味する。保磁力が前記範囲内にある分散質5は、残留磁化が小さいため、磁場が印加されていないときにはほとんど磁化しない一方、磁場の印加に伴って磁化するため、磁場の変化に対する磁化の追従性が高い。このため、このような低保磁力の分散質5を有する磁気粘性流体1は、磁場の変化に対する応答性に優れる。また、このような低保磁力の分散質5は、磁場が印加されていないときに凝集しにくいため、分散媒4に対して高濃度に含まれていても均一に分散可能である。このため、本実施形態に係る磁気粘性流体1は、十分な低粘度回復性を有する。
【0015】
また、低粘度回復性が十分であれば、磁場印加時と磁場除去時との間で粘度変化幅を十分に確保することができる。さらに、粘度変化のヒステリシスを小さく抑えられるため、磁場の印加と除去を繰り返しても粘度変化幅を安定させることができる。これにより、長期にわたって良好な特性を示す磁気粘性流体1を実現することができる。その結果、磁気粘性流体1を用いる各種装置に対し、高い性能および長期信頼性を付与することができる。
【0016】
分散質5の保磁力は、好ましくは398[A/m]以下(5[Oe]以下)とされ、より好ましくは239[A/m]以下(3[Oe]以下)とされる。
【0017】
一方、分散質5の保磁力の下限値は、特に設定されなくてもよいが、製造ロット間の保磁力のバラつきを十分に抑制するという観点で、8[A/m]以上(0.1[Oe]以上)とされる。
【0018】
なお、分散質5の保磁力は、例えば、振動試料型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnetometer)を用いて測定される。振動試料型磁力計としては、例えば、株式会社玉川製作所製のTM-VSM1550HGC等が挙げられる。保磁力を測定する際の最大印加磁場は、例えば1194[kA/m](15[kOe])とされる。また、磁気粘性流体1から分散質5を分離する場合、例えば、ノルマルヘキサンやアセトンのような有機溶剤によって分散媒4を除去する方法が用いられる。
【0019】
1.1.2.磁気粘性流体の再分散性
また、本実施形態に係る磁気粘性流体1を、筒状容器に収容した状態で、磁場が印加された後の再分散性の評価を行う。この再分散性の評価は、筒状容器に所定の磁場を印加する前後における、上澄み層の厚さの変化に基づいて行う。
【0020】
具体的には、磁気粘性流体1を筒状容器に収容し、筒状容器に加速度を加える。そして、加速度を加えた後に磁気粘性流体1に生じる上澄み層の厚さを測定する。
【0021】
次に、筒状容器に収容した磁気粘性流体1に磁場を印加する。
次に、磁場を印加した後の筒状容器に対し、再び、加速度を加える。そして、加速度を加えた後に磁気粘性流体1に生じる上澄み層の厚さを測定する。
【0022】
次に、磁場を印加する前と磁場を印加した後の上澄み層の厚さの変化(変動率)に基づいて、磁気粘性流体1の再分散性を評価する。
【0023】
なお、磁場を印加する前に、磁気粘性流体1を筒状容器に収納したまま、一定の条件で撹拌するようにしてもよい。このような撹拌を行うことで、磁場印加時の磁気粘性流体1の分散状態が一定となるので、磁性金属粒子2に印加される磁場を均一にでき、評価の精度を高められる。
【0024】
また、加速度を加える前に、磁気粘性流体1を筒状容器に収納したまま、一定の条件で撹拌するようにしてもよい。このような撹拌を行うことで、加速度を加える前の磁気粘性流体1の分散状態を揃えることができる。このため、磁場を印加する前後で上澄み層の厚さを比較して磁気粘性流体の再分散性を評価するとき、評価の精度を高められる。
【0025】
このような手順で変動率を算出した結果、本実施形態に係る磁気粘性流体1は、この変動率が10%以下であり、好ましくは7%以下であり、より好ましくは5%以下である。
【0026】
このような変動率を満たす磁気粘性流体1は、凝集を促す加速度が加えられた後、磁場が印加されてもほとんど凝集等を発生させず、安定した再分散性を有する。このため、磁場の印加と除去が繰り返されるような用途で用いられた場合でも、粘度の変化幅が低下しにくく、応力変化に基づく安定した特性を維持できる。その結果、長期にわたって高い性能を発揮する各種装置を実現することができる。
【0027】
なお、変動率が前記上限値を上回る場合、磁気粘性流体1は、磁場を印加し、その後、除去した後の再分散性が十分ではなくなる。この場合、磁場の印加と除去が繰り返されるような用途では、磁気粘性流体1の粘度の変化幅を十分に確保することができない。
【0028】
上記の変動幅は、より具体的には、以下のような手順で測定される。
まず、1mLの磁気粘性流体1を1.5mL遠沈管(筒状溶液)に入れる。測定時の気温は25℃、相対湿度は50±5%とする。なお、磁気粘性流体1は、あらかじめ、この温湿度環境下に24時間以上置いておく。
【0029】
次に、遠沈管を撹拌機にセットし、磁気粘性流体1を撹拌する。撹拌には、例えば、Taitec社製、マイクロチューブ撹拌機E-36が用いられる。また、撹拌条件として、撹拌方式が水平偏芯振とう、振とう速度が2500r/min、振とう時間が10分、という条件が挙げられる。
【0030】
次に、遠沈管に対し、加速度と時間の積が690km/sとなるように加速度を加える。これにより、磁気粘性流体1に凝集を促すエネルギーが加わる。加速度としては、例えば、遠心加速度、重力加速度等が挙げられる。このうち、短時間で作業を行えるという観点で、遠心加速度を加える方法が好ましく用いられる。
【0031】
加速度の印加を終了した直後に、加速度の印加で生じた上澄み層の厚さを測定する。測定結果を「厚さtA」とする。
【0032】
遠心加速度は、例えば遠心分離機を用いて印加できる。遠心分離機としては、例えば、久保田製作所製、マイクロ遠心機Model3300が挙げられる。遠心加速度を印加する方法の一例を挙げると、遠心加速度293Gを4分間印加する方法が挙げられる。遠心加速度293Gは、重力加速度の相対値(相対遠心加速度)であり、単位を変換すると、293×9.81=2874[m/s2]となる。この加速度2874[m/s2]と、時間240秒と、の積は、690[km/s]となる。
【0033】
一方、重力加速度を印加する方法の一例を挙げると、磁気粘性流体1を入れた遠沈管を19.54時間静置することにより印加できる。つまり、重力加速度9.81[m/s2]と、時間70344秒(=3600×19.54)と、の積は、690[km/s]となる。
【0034】
次に、遠沈管を再び撹拌機にセットし、磁気粘性流体1を撹拌する。撹拌には、例えば、Taitec社製、マイクロチューブ撹拌機E-36が用いられる。また、撹拌条件として、撹拌方式が水平偏芯振とう、振とう速度が2500r/min、振とう時間が10分、という条件が挙げられる。
【0035】
次に、遠沈管に対し、磁場を印加する。磁場の印加は、表面磁束密度が0.25Tの磁石を、遠沈管の側面および底面にそれぞれ20分間接触させることにより行う。磁石には、ネオジム磁石が好ましく用いられる。
【0036】
次に、遠沈管を再び撹拌機にセットし、磁気粘性流体1を撹拌する。撹拌には、例えば、Taitec社製、マイクロチューブ撹拌機E-36が用いられる。また、撹拌条件として、撹拌方式が水平偏芯振とう、振とう速度が2500r/min、振とう時間が10分、という条件が挙げられる。
【0037】
次に、遠沈管に対し、再び、加速度と時間の積が690km/sとなるように加速度を加える。加速度としては、例えば、遠心加速度、重力加速度等が挙げられる。このうち、短時間で作業を行えるという観点で、遠心加速度を加える方法が好ましく用いられる。
【0038】
加速度の印加を終了した直後に、再び、加速度の印加で生じた上澄み層の厚さを測定する。測定結果を「厚さtB」とする。
次に、厚さtA、tBから、前述した変動率|tA-tB|/tAを算出する。
【0039】
また、磁気粘性流体1は、上記の加速度と時間の積を下げても、つまり、凝集を促すエネルギーを下げても、良好な分散性を維持することが好ましい。
【0040】
具体的には、加速度と時間の積が340km/sとなるように加速度が加えられたときでも、690km/sの場合と同様、上記の変動率が10%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。このような変動率を満たすことにより、特に安定した再分散性を有する磁気粘性流体1となる。
【0041】
さらに、磁気粘性流体1は、加速度と時間の積を520km/sに下げた場合も、上記の変動率が10%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。このような変動率を満たすことにより、特に安定した再分散性を有する磁気粘性流体1となる。
【0042】
また、磁気粘性流体1は、加速度と時間の積を600km/sに下げた場合も、上記の変動率が10%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。このような変動率を満たすことにより、特に安定した再分散性を有する磁気粘性流体1となる。
【0043】
1.2.磁気粘性流体の構成
前述したように、磁気粘性流体1は、磁性金属粒子2、添加剤3および分散媒4を有する。
【0044】
1.2.1.磁性金属粒子の構成
図2は、
図1に示す磁性金属粒子2を模式的に示す断面図である。
【0045】
図2に示す磁性金属粒子2は、粒子本体21と、その表面に設けられた酸化物膜22と、その表面に設けられた表面修飾膜23と、を有する。なお、酸化物膜22および表面修飾膜23は、必要に応じて設けられればよく、いずれか一方または双方が省略されていてもよい。
【0046】
1.2.1.1.粒子本体
粒子本体21の構成材料としては、例えば、Fe基金属材料、Ni基金属材料、Co基金属材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の複合材料が用いられる。また、これらの金属系磁性材料と酸化物系磁性材料との複合材料であってもよい。このうち、粒子本体21の構成材料には、飽和磁化が高いという観点で、Fe基金属材料が好ましく用いられる。
【0047】
Fe基金属材料は、Feを主成分とする金属材料である。主成分とは、Fe基金属材料においてFeの含有率が原子数比で50%以上であることをいう。このようなFe基金属材料は、フェライト等に比べて飽和磁化が高く、靭性や強度も高い。このため、Fe基金属材料は、粒子本体21の構成材料として有用である。
【0048】
Fe基金属材料は、Feの他に、NiまたはCoのように単独で強磁性を示す元素を含んでいてもよく、目標とする特性に応じて、Cr、Nb、Cu、Al、Mn、Mo、Si、Sn、B、C、P、TiおよびZrからなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。また、Fe基金属材料には、実施形態の効果を損なわない範囲で、不可避的不純物が含まれていてもよい。
【0049】
不可避的不純物とは、原料や製造時に意図せずに混入する不純物である。不可避的不純物としては、例えば、O、N、S、Na、Mg、K等が挙げられる。
【0050】
このようなFe基金属材料としては、特に限定されないが、例えば、純鉄、カルボニル鉄の他、センダストのようなFe-Si-Al系合金、Fe-Ni系、Fe-Co系、Fe-Ni-Co系、Fe-Si-B系、Fe-Si-Cr-B系、Fe-Si-B-C系、Fe-Si-B-Cr-C系、Fe-Si-Cr系、Fe-B系、Fe-P-C系、Fe-Co-Si-B系、Fe-Si-B-Nb系、Fe-Si-B-Nb-Cu系、Fe-Zr-B系、Fe-Cr系、Fe-Cr-Al系のようなFe基合金材料等が挙げられる。
【0051】
また、粒子本体21の構成材料は、アモルファス金属材料であってもよいし、結晶金属材料であってもよいし、微結晶(ナノ結晶)金属材料であってもよい。このうち、アモルファス金属材料または微結晶金属材料が好ましく用いられる。なお、微結晶金属材料とは結晶粒径が100nm以下の微結晶(ナノ結晶)が存在する金属材料のことをいう。これらは、分散質5の保磁力を十分低くして、前述した変動率を最適化するのに寄与する。また、これらは、例えば金属酸化物等に比べて靭性および強度が高いため、粒子本体21の摩耗や欠損等を効果的に抑制することができる。その結果、粘度変化幅が特に安定している磁気粘性流体1を実現することができる。
【0052】
アモルファス金属材料としては、例えば、Fe-Si-B系、Fe-Si-Cr-B系、Fe-Si-B-C系、Fe-Si-B-Cr-C系、Fe-Si-Cr系、Fe-B系、Fe-B-C系、Fe-P-C系、Fe-Co-Si-B系、Fe-Si-B-Nb系、Fe-Zr-B系のような2元系または多元系のFe基アモルファス合金、Ni-Si-B系、Ni-P-B系のようなNi基アモルファス合金、Co-Si-B系のようなCo基アモルファス合金等が挙げられる。
【0053】
微結晶金属材料としては、例えば、Fe-Si-B-Nb-Cu系、Fe-Zr-B系、Fe-Hf-B系、Fe-Nb-B系、Fe-Zr-B-Co系、Fe-Hf-B-Co系、Fe-Nb-B-Co系、Fe-Si-B-P-Cu系のようなFe基ナノ結晶合金等が挙げられる。
【0054】
特に好ましいFe基金属材料は、Feを主成分とし、Si、Cr、B、C、Ni、MnおよびCuからなる群から選択される少なくとも1種を含む合金材料である。このようなFe基金属材料は、飽和磁化が高く、かつ、耐食性が高い。このため、かかるFe基合金材料を用いることで、耐食性が高く、かつ、励磁せん断応力が高い磁気粘性流体1を製造可能な磁性金属粒子2が得られる。
【0055】
Fe基金属材料におけるSi(ケイ素)の含有率は、好ましくは1.0原子%以上20.0原子%以下、より好ましくは1.5原子%以上13.0原子%以下、さらに好ましくは2.0原子%以上11.0原子%以下である。このような合金は、透磁率が高いため、飽和磁化が高くなる傾向がある。これにより、励磁せん断応力および磁場応答性が特に高い磁気粘性流体1を製造可能な磁性金属粒子2が得られる。
【0056】
Fe基金属材料におけるB(ホウ素)の含有率は、好ましくは5.0原子%以上16.0原子%以下、より好ましくは9.0原子%以上14.0原子%以下である。Bは、アモルファス化を促進させる元素であり、磁性金属粒子2に安定した非晶質組織または微結晶組織を形成することに寄与する。
【0057】
Fe基金属材料におけるC(炭素)の含有率は、好ましくは0.5原子%以上5.0原子%以下、より好ましくは1.0原子%以上3.0原子%以下である。Cは、アモルファス化を促進させる元素であり、磁性金属粒子2に安定した非晶質組織または微結晶組織を形成することに寄与する。
【0058】
Fe基金属材料におけるCr(クロム)の含有率は、好ましくは1.0原子%以上20.0原子%以下、より好ましくは1.5原子%以上5.0原子%以下である。Crの含有率を前記範囲内にすることで、磁性金属粒子2の耐食性を高めることができる。
【0059】
なお、不純物の含有率は、合計で1.0原子%以下であることが好ましい。この程度であれば、不純物が含有していても、磁性金属粒子2の効果が損なわれない。
【0060】
粒子本体21の構成元素および組成は、JIS G 1258:2014に規定されたICP発光分析法、JIS G 1253:2002に規定されたスパーク発光分析法などにより特定することができる。また、粒子本体21が被覆膜等で被覆されている場合には、化学的または物理的手法でそれらを除去した後、上記手法により測定することができる。また、磁性金属粒子2を切断した上で、コアである粒子本体21の部分をEPMA(Electron Probe Micro Analyzer)、EDX(Energy Dispersive X-ray spectroscopy)等の分析装置にて分析してもよい。
【0061】
粒子本体21は、いかなる方法で製造された粒子であってもよい。製造方法の例としては、例えば、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、回転水流アトマイズ法等の各種アトマイズ法の他、粉砕法、カルボニル法等が挙げられる。このうち、アトマイズ法によれば、粒子形状がより真球に近い粒子本体21が得られる。このような粒子本体21は、より凝集しにくいものとなる。
【0062】
1.2.1.2.酸化物膜
酸化物膜22は、粒子本体21の表面に設けられている被膜である。酸化物膜22は、粒子本体21と後述する表面修飾膜23との間に介在し、粒子本体21に対する表面修飾膜23の密着性を高める。また、酸化物膜22が、粒子本体21を保護するとともに凝集を抑制することができ、かつ、粒子本体21の耐吸湿性および防錆性を高めることができる。なお、酸化物膜22は、粒子本体21の表面全体を覆っているのが好ましいが、表面の一部のみに設けられていてもよい。
【0063】
酸化物膜22の構成材料としては、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化クロム、酸化マンガン、酸化スズ、酸化亜鉛等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物もしくは複合物等が挙げられる。
【0064】
このうち、酸化ケイ素が好ましく用いられる。酸化ケイ素は、組成式SiOx(0<x≦2)で表される酸化物であるが、好ましくはSiO2である。
【0065】
酸化物膜22の平均厚さは、1nm以上500nm以下であるのが好ましく、3nm以上300nm以下であるのがより好ましく、20nm以上100nm以下であるのがさらに好ましい。酸化物膜22の平均厚さが前記範囲内であれば、前述した酸化物膜22の機能を確保しつつ、酸化物膜22が必要以上に厚くなるのを避けることができる。これにより、磁性金属粒子2の凝集や劣化を抑制しつつ、酸化物膜22の比率が高くなりすぎることに伴う磁性金属粒子2の磁気特性の低下を抑制することができる。
【0066】
酸化物膜22の平均厚さは、磁性金属粒子2の粒子の断面を電子顕微鏡で観察し、10か所以上の酸化物膜22の膜厚を平均した値である。
【0067】
酸化物膜22の成膜方法は、特に限定されないが、例えば、ストーバー法を含むゾルゲル法のような湿式成膜法、ALD(Atomic Layer Deposition)、CVD(Chemical Vapor Deposition)、イオンプレーティングのような気相成膜法等が挙げられる。このうち、ゾルゲル法、特にストーバー法によれば、低コストでムラなく酸化物膜22を形成することができるので有用である。
【0068】
ストーバー法は、シリコンアルコキシドの加水分解により、酸化物膜22を形成する手法である。シリコンアルコキシドとしては、例えば、TEOS(テトラエトキシシラン、Si(OC2H5)4)が好ましく用いられる。
【0069】
1.2.1.3.表面修飾膜
表面修飾膜23は、酸化物膜22を介して粒子本体21の表面を被覆する。これにより、分散媒4中における磁性金属粒子2の分散性を高めることができる。なお、表面修飾膜23は、酸化物膜22または粒子本体21の表面全体を覆っているのが好ましいが、表面の一部のみに設けられていてもよい。
【0070】
表面修飾膜23の構成材料は、カップリング剤、界面活性剤またはポリマー重合膜に由来する有機化合物を含む。カップリング剤は、官能基および加水分解性基を有する化合物である。カップリング剤を用いることにより、酸化物膜22の表面(磁性金属粒子2の表面)に官能基を導入することができる。これにより、磁性金属粒子2の粒子同士の凝集を抑制するとともに、分散媒4への分散性をより高めることができる。これにより、磁場の変化に対する追従性に優れ、かつ、分散媒4に対して高濃度でも均一に分散可能な磁性金属粒子2を実現することができる。
【0071】
また、表面修飾膜23は、磁性金属粒子2の耐湿性、防錆性等を高めることにも寄与する。耐湿性や防錆性が高められることにより、磁性金属粒子2の吸湿や発錆による劣化を抑制することができる。
【0072】
カップリング剤が有する官能基としては、例えば、脂肪族炭化水素基、環状構造含有基、フルオロアルキル基、フルオロアリール基、ニトロ基、アシル基、シアノ基等を含有するものが挙げられ、特に脂肪族炭化水素基または環状構造含有基が好ましく用いられる。
【0073】
脂肪族炭化水素基としては、分岐または非分岐のアルキル基が挙げられる。アルキル基の炭素原子数は、特に限定されないが、1以上12以下であるのが好ましく、1以上6以下であるのがより好ましい。これにより、油性の分散媒4に対して特に良好に分散する磁性金属粒子2が得られる。
【0074】
環状構造含有基は、環状構造を持つ官能基である。環状構造含有基としては、例えば、芳香族炭化水素基、脂環式炭化水素基、環状エーテル基等が挙げられる。
【0075】
芳香族炭化水素基は、芳香族炭化水素から水素原子を除いた残基であり、炭素数は、6以上20以下であるのが好ましい。芳香族炭化水素基としては、例えば、アリール基、アルキルアリール基、アミノアリール基、ハロゲン化アリール基等が挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、インデニル基等が挙げられる。アルキルアリール基としては、例えば、ベンジル基、メチルベンジル基、フェネチル基、メチルフェネチル基、フェニルベンジル基等が挙げられる。
【0076】
脂環式炭化水素基は、脂環式炭化水素から水素原子を除いた残基であり、炭素数は、3以上20以下であるのが好ましい。脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基等が挙げられる。シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。シクロアルキルアルキル基としては、例えば、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基等が挙げられる。
【0077】
環状エーテル基としては、例えば、エポキシ基、3,4-エポキシシクロヘキシル基、オキセタニル基等が挙げられる。
【0078】
フルオロアルキル基は、1つ以上のフッ素原子で置換されている炭素数1以上16以下のアルキル基または炭素数3以上16以下のシクロアルキル基である。特にフルオロアルキル基は、パーフルオロアルキル基であるのが好ましい。
【0079】
フルオロアリール基は、1つ以上のフッ素原子で置換されている炭素数6以上20以下のアリール基である。特にフルオロアリール基は、パーフルオロアリール基であるのが好ましい。
【0080】
カップリング剤が有する加水分解性基としては、例えば、アルコキシ基、アシルオキシ基、アリールオキシ基、アミノキシ基、アミド基、ケトオキシム基、イソシアネート基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0081】
カップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、アルミニウムカップリング剤、ジルコニウムカップリング剤等が挙げられるが、特にシランカップリング剤が好ましく用いられる。
【0082】
カップリング剤の添加量は、粒子本体21の量を1質量部としたとき、0.01質量部以上1.0質量部以下であるのが好ましく、0.02質量部以上0.10質量部以下であるのがより好ましい。
【0083】
1.2.2.磁性金属粒子の物性
磁性金属粒子2の飽和磁化は、50emu/g以上であることが好ましく、100emu/g以上であることがより好ましい。飽和磁化とは、外部から十分大きな磁場を印加した時に磁性材料が示す磁化が磁場に関係なく一定となる場合の磁化の値である。磁性金属粒子2の飽和磁化が高いほど、磁性材料としての機能を十分に発揮させることができる。具体的には、磁場中における磁性金属粒子2の移動速度を向上させることができるため、磁場に対する応答性を高めることができる。また、粘度変化幅をより拡大することができる。
【0084】
なお、磁性金属粒子2の飽和磁化の上限値は、特に限定されないが、性能とコストのバランスに適する材料選択の容易性の観点から、250emu/g以下とするのが好ましく、220emu/g以下とするのがより好ましい。
【0085】
磁性金属粒子2の飽和磁化は、振動試料型磁力計(VSM)等により測定することができる。飽和磁化を測定する際の最大印加磁場は、例えば1194[kA/m](15[kOe])以上とされる。
【0086】
磁性金属粒子2の平均粒径は、0.05μm以上9.0μm以下であるのが好ましく、0.1μm以上7.0μm以下であるのがより好ましく、0.5μm以上5.0μm以下であるのがさらに好ましい。磁性金属粒子2の平均粒径が前記範囲内であれば、磁場が印加されていない状態における磁性金属粒子2の凝集や沈降を抑制することができる。また、磁場応答性が小さくなるのを抑制することができる。
【0087】
なお、磁性金属粒子2の平均粒径が前記下限値を下回ると、磁性金属粒子2の構成材料によっては、磁場を印加していない状態でも磁性金属粒子2の凝集が発生しやすくなるおそれがある。また、粘度変化幅が小さくなるおそれがある。一方、磁性金属粒子2の平均粒径が前記上限値を上回ると、磁性金属粒子2の構成材料によっては、分散媒4中で磁性金属粒子2が沈降し、偏在するおそれがある。
【0088】
磁性金属粒子2の平均粒径は、レーザー回折・分散法により体積基準の粒度分布を測定し、この粒度分布から得られた積算分布曲線から求めることができる。具体的には、積算分布曲線において、小径側からの累積値が50%である粒子径(メディアン径)が、磁性金属粒子2の平均粒径D50である。レーザー回折・分散法により粒度分布を測定する装置としては、例えばマイクロトラック・ベル社製のMT3300シリーズ等が挙げられる。
【0089】
また、磁性金属粒子2について取得された粒度分布の積算分布曲線において、小径側からの累積値が90%である粒子径を、磁性金属粒子2の90%粒径D90とする。磁性金属粒子2において平均粒径D50に対する90%粒径D90の比D90/D50は、3.0以下であるのが好ましく、2.0以下であるのがより好ましく、1.7以下であるのがさらに好ましい。これにより、粗大な磁性金属粒子2の含有率が低くなるため、粗大な磁性金属粒子2が周囲の比較的小さな磁性金属粒子2を引き寄せて凝集し、凝集体が生じるのを抑制することができる。凝集体が生じると、自重によって沈降しやすくなり、磁気粘性流体1の粘度変化幅が減少したり、粘度変化幅が安定しなかったりするおそれがある。
【0090】
磁性金属粒子2の平均円形度は、0.78以上1.00以下であるのが好ましく、0.80以上0.98以下であるのがより好ましく、0.82以上0.97以下であるのがさらに好ましい。これにより、磁性金属粒子2の比表面積が小さくなるため、凝集体が生じるのを抑制することができる。その結果、磁気粘性流体1の粘度変化幅の安定化を図ることができる。
【0091】
なお、平均円形度が前記下限値を下回ると、平均円形度が低下するため、磁気粘性流体1の粘度変化幅が小さくなるおそれがある。一方、平均円形度が前記上限値を上回ると、製造難易度が高くなり、磁気粘性流体1の製造効率が低下するおそれがある。
【0092】
磁性金属粒子2の平均円形度は、次のようにして測定される。
まず、走査型電子顕微鏡(SEM)で磁性金属粒子2の画像(二次電子像)を撮像する。次に、得られた画像を画像処理ソフトウェアに読み込ませる。画像処理ソフトウェアには、例えば、株式会社マウンテック製の画像解析式粒度分布測定ソフトウェア「Mac-View」等が用いられる。なお、1つの画像に50~100個の粒子が写るように、撮像倍率を調整する。そして、合計300個以上の粒子像が得られるように、複数枚の画像を取得する。
【0093】
次に、ソフトウェアを用いて、300個以上の粒子像の円形度を算出し、平均値を求める。得られた平均値が、磁性金属粒子2の平均円形度となる。なお、円形度をeとし、粒子像の面積をSとし、粒子像の周囲長をLとするとき、円形度eは、次式で求められる。
e=4πS/L2
【0094】
磁性金属粒子2の含有率は、磁気粘性流体1全体の40質量%以上95質量%以下であることが好ましく、50質量%以上90質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上85質量%以下であることがさらに好ましい。これにより、磁場印加時および磁場除去時における磁気粘性流体1においてそれぞれ適度な粘性が得られるとともに、磁気粘性流体1における粘度変化幅を十分に大きくすることができる。
【0095】
1.2.3.添加剤
添加剤3としては、例えば、沈降抑制剤、清浄剤、分散剤、酸化防止剤、摩耗防止剤、極圧剤、摩擦調整剤、界面活性剤、チクソトロピー付与剤(増粘剤)、減粘剤等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物が用いられる。
【0096】
沈降抑制剤としては、例えば、ヒュームドシリカ、ベントナイトやヘクトライトのような粘土粉等の非磁性材料で構成されている固体粒子が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上の混合物が用いられる。このような固体粒子は、磁性金属粒子2とは構成材料が異なる非磁性材料の粒子であり、磁性金属粒子2の沈降を抑制する。これにより、磁場が印加されていない期間が長く続いても、粘度変化幅の減少を抑制することができる。
【0097】
固体粒子の含有率は、磁気粘性流体1全体の5.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上3.0質量%以下であることがより好ましい。これにより、粘度変化幅に影響を及ぼすことなく、磁性金属粒子2の沈降を抑制し、長期にわたる粘度変化幅の安定化を図ることができる。したがって、適切な添加剤3を添加することにより、前述した変動率を最適化することができる。
【0098】
分散剤としては、例えば、オレイン酸塩、ナフテン酸塩、スルホン酸塩、リン酸エステル、ステアリン酸、ステアリン酸塩、モノオレイン酸グリセロール、セスキオレイン酸ソルビタン、ラウリン酸、脂肪酸、脂肪アルコール等が挙げられる。
【0099】
摩耗防止剤としては、例えば、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンやジアルキルジチオリン酸モリブデンのような有機モリブデン化合物、ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛やジアルキルジチオリン酸亜鉛のような有機亜鉛化合物等が挙げられる。
【0100】
また、添加剤3の合計の含有率は、磁気粘性流体1全体の10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることがさらに好ましい。これにより、添加剤3によって磁性金属粒子2の機能が阻害されてしまうのを抑制することができる。
なお、添加剤3は、必要に応じて添加されればよく、省略されていてもよい。
【0101】
1.2.4.分散媒
分散媒4は、磁性金属粒子2や添加剤3を分散させ得る液体であれば、特に限定されない。分散媒4としては、例えば、シリコーンオイル、ポリ-α-オレフィン基油、芳香族系合成油、パラフィン油、アルキル化フェニルエーテル油、エーテル油、エステル油、ポリブテン油、ポリアルキレングリコール類、鉱物油、植物性油、動物性油のような油類、トルエン、キシレン、ヘキサンのような有機溶剤、エチルメチルイミダゾリウム塩、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム塩、1-メチルピラゾリウム塩のようなイオン性液体(常温溶融塩)類等が挙げられる。また、分散媒4は、これらの2種以上を含む混合物であってもよく、これらのうちの1種または2種以上と上記以外の液体とを含む混合物であってもよい。
【0102】
このうち、エステル油としては、例えば、1価アルコールとジカルボン酸とから製造されるジエステル、ポリオールとモノカルボン酸とから製造されるポリオールエステル、または、ポリオールとモノカルボン酸とポリカルボン酸とから製造されるコンプレックスエステル等が挙げられる。
【0103】
ジエステルとしては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の二塩基酸のエステルが挙げられる。二塩基酸としては、炭素数4~36の脂肪族二塩基酸が好ましい。二塩基酸のエステルのエステル部を構成するアルコール残基は、炭素数4~26の1価アルコール残基が好ましい。このようなジエステルとしては、ジオクチルアジペート、ジオクチルセバケート、ジイソデシルアジペート、ジオクチルアゼレート等が挙げられる。
【0104】
ポリオールエステルおよびコンプレックスエステルに用いられるポリオールとしては、具体的には、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ネオペンチルグリコール等のβ水素を持たないヒンダードアルコールが好適に用いられる。ポリオールエステルおよびコンプレックスエステルに用いられるモノカルボン酸としては、ヤシ油脂肪酸、ステアリン酸等の直鎖飽和脂肪酸、オレイン酸等の直鎖不飽和脂肪酸、イソステアリン酸等の分岐脂肪酸等が挙げられる。
【0105】
ポリカルボン酸としてはコハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の直鎖飽和ポリカルボン酸が好適に用いられる。
【0106】
アルキル化フェニルエーテル油としては、アルキル化ジフェニルエーテル、(アルキル化)ポリフェニルエーテル等が挙げられる。
【0107】
ポリアルキレングリコール類としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、エチレンオキサイド-プロピレンオキサイドコポリマー、プロピレンオキサイド-ブチレンオキサイドコポリマー、またはこれらの誘導体等が挙げられる。
【0108】
1.3.磁気粘性流体の用途例
磁気粘性流体1の用途としては、磁場の印加を切り替えたときの応力の差を利用した、様々な装置やデバイス等が挙げられる。かかる装置やデバイスとしては、例えば、リニアダンパー、ロータリーダンパー、ショックアブソーバーのような制振装置、ブレーキのような制動装置、クラッチのような動力伝達装置、ロボットの筋肉部分やエンドエフェクター、液体流量制御用バルブ、触覚呈示装置、音響装置、医療・福祉用ロボットハンド、介護ハンド、パーソナルモビリティー等が挙げられる。
【0109】
1.4.磁気粘性流体の製造方法
磁気粘性流体1の製造方法は、まず、上述した磁気粘性流体1の原材料を混合し、撹拌する。撹拌方法としては、例えば、ヘラによる撹拌、ボルテックスミキサー、ハイシアミキサー、低周波音響共振ミキサー等が挙げられる。撹拌時間は、撹拌方法に応じて適宜設定されるが、5分以上4時間以下であるのが好ましい。撹拌温度は、撹拌方法に応じて適宜設定されるが、15℃以上70℃以下であるのが好ましい。
【0110】
2.制振装置
次に、実施形態に係る制振装置について説明する。
【0111】
図3は、実施形態に係る制振装置100を示す縦断面図である。なお、
図3の制振装置100は、使用時の姿勢を特に限定されるものではないが、以下の説明では、
図3における上方を「上」、下方を「下」として説明する。
【0112】
図3に示す制振装置100は、上下端が閉塞した円筒状のシリンダー200(容器)と、シリンダー200の外部からシリンダー200の上部210を貫通し、シリンダー200内に延伸するよう設けられたピストンロッド310と、このピストンロッド310の下端に設けられ、シリンダー200内を上下に摺動するピストン300と、を有している。また、シリンダー200内には、磁気粘性流体1が収納されている。
【0113】
このような制振装置100は、ピストンロッド310の上端部に接続された部材と、シリンダー200の下端部に接続された部材との間で伸縮するように動作する。例えば、ピストンロッド310の上端部が自動車の車体に接続され、シリンダー200の下端部が車輪または車軸に接続されている場合、車体と車輪(車軸)との間隔が伸縮する際に、制振装置100に伸縮力が付与される。
【0114】
制振装置100では、各部材間に加わった伸縮力に伴ってピストン300が摺動するが、この摺動の際、ピストン300には、前述の伸縮力を緩和する方向に磁気粘性流体1から抵抗力が付与される。その結果、ピストン300は、各部材間に加わった伸縮力を緩和し、減衰させる緩衝器として機能する。
【0115】
また、制振装置100は、ピストン300内に設けられ、シリンダー200内に収納された磁気粘性流体1に対して磁場を付与するコイル400と、コイル400に電圧を印加する図示しない電源回路と、を有している。これにより、コイル400および電源回路は、磁場形成装置として機能する。
【0116】
磁気粘性流体1は、磁場の有無や強度に応じて粘度が変化する。このため、前述の磁場形成装置による磁場の有無や強度を適宜設定することにより、磁気粘性流体1の粘度を調整することができる。このような特性を利用することにより、制振装置100は、その減衰力を制御し得る減衰力可変ダンパーとなる。そして、磁気粘性流体1を用いることで、長期にわたって良好な性能を維持し得る制振装置100が得られる。
【0117】
以下、制振装置100の各部について詳述する。
図3に示すシリンダー200は2層構造(複筒式)になっており、外側の外筒220と内側の内筒230とで構成されている。
【0118】
また、内筒230の内側の空間は、ピストン300の上方のロッド側室200aと、ピストン300の下方のピストン側室200bとに分けられている。
【0119】
さらに、ピストン側室200bの下方には、内筒230の内側の空間を仕切るように設けられたベースバルブ240を介して、第1リザーバー室250が設けられている。
【0120】
ベースバルブ240には、ベースバルブ240を貫通するオリフィス241が設けられており、このオリフィス241を介してピストン側室200bと第1リザーバー室250とが連通している。
【0121】
また、外筒220と内筒230との間の空間は、第2リザーバー室260である。なお、第1リザーバー室250と第2リザーバー室260とは、内筒230の下端部を介して隣接している。
【0122】
また、内筒230の第1リザーバー室250と第2リザーバー室260とを隔てる部分には、この部分を貫通するオリフィス231が設けられており、このオリフィス231を介して、第1リザーバー室250と第2リザーバー室260とが連通している。
【0123】
シリンダー200は、機械的特性および耐油性に優れた材料、例えば各種金属材料で構成されている。
【0124】
ピストンロッド310は、剛性の高い棒状部材で構成されており、シリンダー200の上部210の中央部を貫通して、シリンダー200の内外に延伸している。
【0125】
ピストン300は、円柱状の部材で構成されており、その外側面がシリンダー200の内筒230の内壁面に摺接している。このピストン300により、前述したように、内筒230の内側の空間が、ロッド側室200aとピストン側室200bとに仕切られている。
【0126】
また、ピストン300を貫通するように、2つのオリフィス320、330が設けられている。この各オリフィス320、330により、ロッド側室200aとピストン側室200bとが連通している。
【0127】
また、ピストン300の上面のうち、オリフィス320の上端開口部付近には、弁体340が設けられている。この弁体340は、オリフィス320の上端開口部を塞いで、オリフィス320を磁気粘性流体1が流通できない状態(閉状態)と、オリフィス320の上端開口部を開放し、オリフィス320を磁気粘性流体1が流通可能な状態(開状態)と、をとり得るよう構成されている。また、この弁体340は、磁気粘性流体1のピストン側室200bからロッド側室200aへ向かう流れを通過させ、その逆向きの流れを遮断する機能を有する一方向弁になっている。なお、
図3は、開状態の弁体340を示している。
【0128】
この弁体340は、シリンダー200に対してピストン300が摺動し、これに伴って発生する、ピストン300に対する磁気粘性流体1の相対的な流れを駆動力として開閉する。なお、弁体340が閉状態から開状態へと移行するためには、磁気粘性流体1が所定の速さより速く流れることによって、弁体340に所定の大きさ以上の圧力を付与する必要がある。したがって、弁体340は、ピストン300が所定の速さ以上の速さで摺動するときにのみ、開状態をとり得るよう構成されている。このような弁体340により、制振装置100では、ピストン300の摺動速度が低速のときと高速のときとで減衰力を異ならせることができる。
【0129】
ピストン300の内部には、リング状のコイル400(磁場発生部)が設けられている。また、コイル400の外側面の一部は、各オリフィス320、330に臨んでいる。
【0130】
また、コイル400には、前述したように電源回路が接続されている。そして、コイル400に電圧を印加すると、コイル400の周囲に磁場が発生する。
【0131】
なお、
図3では、ピストン300の内部にコイル400が設けられているが、コイル400の設置箇所は、特に限定されない。
【0132】
3.前記実施形態が奏する効果
以上のように、前記実施形態に係る磁気粘性流体1は、磁性金属粒子2を含む分散質5と、液状の分散媒4と、を有する。分散質5の保磁力は、796[A/m]以下(10[Oe]以下)である。磁気粘性流体1が筒状容器に収容された状態で加速度と時間の積が690km/sとなるように加速度が加えられたときに生じる上澄み層の厚さをtAとし、磁気粘性流体1が前述した筒状容器に収容された状態で磁場が印加された後、前述した加速度が加えられたときに生じる上澄み層の厚さをtBとするとき、磁気粘性流体1では、変動率|tA-tB|/tAが、10%以下である。
【0133】
このような構成によれば、磁場を印加し、その後に磁場を除去した後でも、分散質5が良好に再分散し、安定した特性を示す磁気粘性流体1が得られる。このような磁気粘性流体1は、磁場の印加と除去が繰り返されるような用途で用いられた場合でも、粘度の変化幅が低下しにくく、応力変化に基づく安定した特性を維持できる。したがって、このような磁気粘性流体1を用いることにより、長期にわたって高い性能を発揮する各種装置を実現することができる。
【0134】
また、磁性金属粒子2の平均粒径は、0.05μm以上9.0μm以下であることが好ましい。
【0135】
これにより、磁場が印加されていない状態における磁性金属粒子2の凝集や沈降を抑制することができる。また、磁場応答性が小さくなるのを抑制することができる。
【0136】
また、磁性金属粒子2は、Fe基金属材料を含んでいてもよい。Fe基金属材料は、フェライト等に比べて飽和磁化が高く、靭性や強度も高い。このため、Fe基金属材料は、磁性金属粒子2の構成材料として有用である。
【0137】
また、Fe基金属材料は、アモルファス金属材料または微結晶金属材料であることが好ましい。これらは、例えば金属酸化物等に比べて靭性および強度が高いため、磁性金属粒子2の摩耗や欠損等を効果的に抑制することができる。その結果、粘度変化幅が特に安定している磁気粘性流体1を実現することができる。
【0138】
また、Fe基金属材料は、Feが主成分であり、Siの含有率が1.0原子%以上20.0原子%以下であることが好ましい。さらに、磁性金属粒子2の飽和磁化は、50emu/g以上250emu/g以下であることが好ましい。
このような構成によれば、磁性金属粒子2の磁場応答性を高めることができる。
【0139】
また、磁性金属粒子2は、粒子本体21と、粒子本体21の表面に設けられる酸化物膜22と、を有していてもよい。
【0140】
酸化物膜22は、粒子本体21を保護するとともに凝集を抑制することができ、かつ、粒子本体21の耐吸湿性および防錆性を高めることができる。
【0141】
また、磁性金属粒子2の表面に設けられ、カップリング剤に由来する化合物で構成される表面修飾膜23(被膜)を有していてもよい。
【0142】
表面修飾膜23は、磁性金属粒子2の表面に官能基を導入することができるので、分散媒4中における磁性金属粒子2の分散性を高めることができる。
【0143】
また、磁性金属粒子2の平均円形度は、0.78以上1.00以下であることが好ましい。
【0144】
このような構成によれば、磁性金属粒子2の比表面積を小さくできるため、凝集体が生じるのを抑制することができる。その結果、磁気粘性流体1の粘度変化幅の安定化を図ることができる。
【0145】
また、分散質5は、非磁性材料で構成されている固体粒子を含んでいてもよい。
このような構成によれば、固体粒子が磁性金属粒子2の沈降を抑制する。これにより、磁場が印加されていない期間が長く続いても、粘度変化幅の減少を抑制することができる。
【0146】
また、磁気粘性流体1の全体における固体粒子の含有率は、0.5質量%以上3.0質量%以下であってもよい。
【0147】
このような構成によれば、粘度変化幅に影響を及ぼすことなく、磁性金属粒子2の沈降を抑制し、長期にわたる粘度変化幅の安定化を図ることができる。その結果、前述した変動率を最適化することができる。
【0148】
前記実施形態に係る制振装置100は、磁気粘性流体1と、シリンダー200(容器)と、コイル400(磁場発生部)と、を有する。シリンダー200は、磁気粘性流体1を貯留する。コイル400は、シリンダー200に貯留された磁気粘性流体1に作用する磁場を発生させる。
【0149】
このような制振装置100によれば、コイル400が発生させる磁場の有無や強度を適宜設定することにより、磁気粘性流体1の粘度を調整することができるので、減衰力を制御し得る減衰力可変ダンパーが得られる。そして、磁気粘性流体1を用いることで、長期にわたって良好な性能を維持し得る制振装置100が得られる。
【0150】
以上、本発明の磁気粘性流体および制振装置について、好適な実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0151】
例えば、本発明の磁気粘性流体および制振装置は、前記実施形態に任意の構成が付加されたものであってもよい。また、前記実施形態に係る制振装置の各部の構成は、上記と同様の機能を有する構成物で置換されていてもよい。
【実施例0152】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
4.磁気粘性流体の作製
4.1.実施例1
まず、磁性金属粒子および添加剤を分散媒に分散させ、磁気粘性流体を作製した。磁気粘性流体の構成は、表1および表2に示すとおりである。添加剤には、固体粒子である粘土紛および液状の有機モリブデン化合物を用いた。分散媒には、ポリ-α-オレフィン基油およびジオクチルセバケート(セバシン酸ジオクチル)の混合物を用いた。
【0153】
また、磁性金属粒子には、表面に酸化物膜および表面修飾膜を有するものを用いた。酸化物膜の形成には、ストーバー法を用いた。また、酸化物膜の平均厚さは、表1に示す通りである。表面修飾膜は、シランカップリング剤(SC)由来の化合物で構成された膜とし、シランカップリング剤としてメチルトリメトキシシランを用いた。
【0154】
磁気粘性流体における磁性金属粒子の含有率は、85質量%とし、固体粒子の含有率は、2.0質量%とし、有機モリブデン化合物の含有率は、3.0質量%とした。
【0155】
4.2.実施例2~5
磁気粘性流体の構成を表1および表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして磁気粘性流体を得た。
【0156】
4.3.実施例6
酸化物膜を省略した磁性金属粒子を用いるとともに、磁気粘性流体の構成を表1および表2に示すようにした以外は、実施例1と同様にして磁気粘性流体を得た。
【0157】
4.4.実施例7
表面修飾膜を省略した磁性金属粒子を用いるとともに、磁気粘性流体の構成を表1および表2に示すようにした以外は、実施例1と同様にして磁気粘性流体を得た。
【0158】
4.5.実施例8~12
磁気粘性流体の構成を表1および表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして磁気粘性流体を得た。
【0159】
4.6.比較例1~3
磁気粘性流体の構成を表1および表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして磁気粘性流体を得た。
【0160】
5.磁気粘性流体の特性取得
各実施例および各比較例の磁気粘性流体について、以下のようにして特性を取得した。
【0161】
5.1.分散質の保磁力
各実施例および各比較例の磁気粘性流体の分散質について、保磁力を測定した。測定結果を表2に示す。
【0162】
5.2.上澄み層の厚さの変動率
各実施例および各比較例の磁気粘性流体について、前述した方法により、上澄み層の厚さを測定し、その変動率を算出した。算出結果を表2に示す。なお、上澄み層の厚さの測定および変動率の算出は、加速度と時間の積を340km/s、520km/s、600km/sおよび690km/sの4段階に変えて、それぞれ行った。このうち、340km/s、520km/sおよび690km/sは、遠心分離機による遠心加速度を所定時間加えたものであり、600km/sは、重力加速度を所定時間加えたものである。この変動率は、小さいほど、磁気粘性流体における分散質の分散安定性が高いことを示す。
【0163】
6.磁気粘性流体の評価結果
各実施例および各比較例の磁気粘性流体について、以下の評価を行った。
【0164】
6.1.磁場印加30回後または60回後の安定性の評価
各実施例および各比較例の磁気粘性流体について、磁場の印加と除去を繰り返した。そして、30回繰り返したときの最大のせん断降伏応力および60回繰り返したときの最大のせん断降伏応力について、それぞれ、磁場を印加する直前のせん断降伏応力に対する倍数の算出を行った。そして、算出した倍数を、以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表2に示す。
【0165】
A:倍数が2.0倍未満である
B:倍数が2.0倍以上4.0倍未満である
C:倍数が4.0倍以上6.0倍未満である
D:倍数が6.0倍以上12.0倍未満である
E:倍数が12.0倍以上である
【0166】
なお、磁気粘性流体のせん断降伏応力とは、せん断速度0.01[/s]で測定されたせん断応力のことである。せん断応力の測定には、例えば、アントンパール社製、レオメーターMCR102等が挙げられる。また、測定時に磁場を印加する機器として、アントンパール社製、磁場印加アタッチメントMRD70等を用いることができる。
【0167】
せん断応力は、磁気粘性流体を200μLサンプリングし、装置の試料台と直径20mmのローターとの間に挟んだ状態でローターを回転させ、所定のせん断速度を加えた状態で、磁場の印加を切り替えつつ測定できる。磁場の強さは0.5Tとし、試料台とローターとの隙間を0.5mmとする。
【0168】
磁場の印加と除去を繰り返すとき、磁場印加期間の長さおよび磁場除去期間の長さは、それぞれ80秒間とする。磁場の印加を切り替えると、せん断降伏応力もそれに対応して変動する。磁場除去期間から磁場印加期間への切り替え時には、せん断降伏応力が瞬時に増大する。この増大直前のせん断降伏応力が、前述した「磁場を印加する直前のせん断降伏応力」であって、磁場の初回印加時点からその5秒前までの期間(初回の磁場印加の5秒前から初回の磁場印加の瞬間までの期間)で測定された最小値のことをいう。一方、前述した「最大のせん断降伏応力」は、磁場の印加と除去を30回または60回繰り返す間で測定されるせん断降伏応力の最大値のことをいう。
【0169】
6.2.長期安定性の評価
各実施例および各比較例の磁気粘性流体について、磁場の印加と除去を100回繰り返した。そして、100回繰り返したときの最大のせん断降伏応力について、磁場を印加する直前のせん断降伏応力に対する倍数の算出を行った。そして、算出した倍数を、以下の評価基準に照らして評価した。評価結果を表2に示す。
【0170】
A:倍数が2.0倍未満である
B:倍数が2.0倍以上4.0倍未満である
C:倍数が4.0倍以上6.0倍未満である
D:倍数が6.0倍以上12.0倍未満である
E:倍数が12.0倍以上である
【0171】
【0172】
【0173】
表2から明らかなように、各実施例の磁気粘性流体は、磁場の印加と除去を長期にわたって繰り返しても、粘度変化幅が安定し、その結果、せん断降伏応力の変化幅が安定していることが認められた。
【0174】
したがって、本発明によれば、磁場を印加し、その後に磁場を除去した後でも、分散質が良好に再分散し、安定した特性を示す磁気粘性流体を実現可能であることが認められた。
1…磁気粘性流体、2…磁性金属粒子、3…添加剤、4…分散媒、5…分散質、21…粒子本体、22…酸化物膜、23…表面修飾膜、100…制振装置、200…シリンダー、200a…ロッド側室、200b…ピストン側室、210…上部、220…外筒、230…内筒、231…オリフィス、240…ベースバルブ、241…オリフィス、250…第1リザーバー室、260…第2リザーバー室、300…ピストン、310…ピストンロッド、320…オリフィス、330…オリフィス、340…弁体、400…コイル