(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142267
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】発振回路、半導体集積回路
(51)【国際特許分類】
H03B 5/32 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
H03B5/32 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054391
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】古謝 望
(72)【発明者】
【氏名】本木 健一
【テーマコード(参考)】
5J079
【Fターム(参考)】
5J079AA04
5J079BA24
5J079BA41
5J079EA02
5J079EA16
5J079FA05
5J079FA14
5J079FA21
5J079FB09
5J079GA04
5J079JA06
(57)【要約】
【課題】発振回路の消費電流を抑えつつ、起動時間を短縮する。
【解決手段】第1端子INは、水晶振動子102の第1端が接続され、第2端子OUTは、水晶振動子102の第2端が接続される。第1抵抗R1は、第1端子INと第2端子OUTの間に接続される。第1トランジスタM1は、ソースが接地され、ゲートが第1端子INと接続され、ドレインが第2端子OUTと接続される。第2トランジスタM2は、ドレインが第1トランジスタM1のドレインと接続される。第3トランジスタM3は、定電流によってバイアスされている。第1状態φ1では、第1トランジスタM1と第2トランジスタM2がインバータ回路として動作する。第2状態φ2では、第2トランジスタM2と第3トランジスタM3がカレントミラー回路として動作する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振回路であって、
水晶振動子の第1端が接続されるべき第1端子と、
水晶振動子の第2端が接続されるべき第2端子と、
前記第1端子と前記第2端子の間に接続された第1抵抗と、
ソースが接地され、ゲートが前記第1端子と接続され、ドレインが前記第2端子と接続されたNチャンネルの第1トランジスタと、
ドレインが前記第1トランジスタの前記ドレインと接続されたPチャンネルの第2トランジスタと、
定電流によってバイアスされたPチャンネルの第3トランジスタと、
を備え、
前記第1トランジスタと前記第2トランジスタがインバータ回路として動作する第1状態と、前記第2トランジスタと前記第3トランジスタがカレントミラー回路として動作する第2状態とが切り替え可能に構成された、発振回路。
【請求項2】
前記第1トランジスタのゲートと前記第2トランジスタのゲートの間に接続された第1スイッチをさらに備える、請求項1に記載の発振回路。
【請求項3】
前記第2トランジスタのゲートと前記第3トランジスタのゲートの間に接続された第2スイッチをさらに備える、請求項1または2に記載の発振回路。
【請求項4】
請求項1または2に記載の発振回路を備える、半導体集積回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発振回路に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路において、高精度な周波数のクロック信号を生成するために、水晶発振器が利用される。水晶発振器は、半導体集積回路に外付けされる水晶振動子と、半導体集積回路に集積化される発振回路を備える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
半導体集積回路の低消費電力化の要請が高まっており、発振回路の消費電流も例外ではない。しかしながら、発振回路の消費電流と起動時間はトレードオフの関係にあり、消費電流を減らすと、起動時間が長くなってしまう。
【0004】
本開示は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、消費電流を抑えつつ、起動時間を短縮した発振回路の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示のある態様の発振回路は、水晶振動子の第1端が接続されるべき第1端子と、水晶振動子の第2端が接続されるべき第2端子と、第1端子と第2端子の間に接続された第1抵抗と、ソースが接地され、ゲートが第1端子と接続され、ドレインが第2端子と接続されたNチャンネルの第1トランジスタと、ドレインが第1トランジスタのドレインと接続されたPチャンネルの第2トランジスタと、定電流の経路上に設けられたPチャンネルの第3トランジスタと、を備える。この発振回路は、第1トランジスタと第2トランジスタがインバータ回路として動作する第1状態と、第2トランジスタと第3トランジスタがカレントミラー回路として動作する第2状態とが切り替え可能に構成される。
【発明の効果】
【0006】
本開示のある態様によれば、消費電流を抑えつつ、起動時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態に係る発振回路を備える発振器の回路図である。
【
図2】
図2は、発振回路の具体的な構成例を示す回路図である。
【
図3】
図3は、第1状態の水晶発振器の等価回路図である。
【
図4】
図4は、第2状態の水晶発振器の等価回路図である。
【
図5】
図5は、第2状態に固定して起動したときの動作波形図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係る水晶発振器の動作波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。この概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、すべての実施形態の重要な要素を特定することも、一部またはすべての態様の範囲を線引きすることも意図していない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0009】
一実施形態に係る発振回路は、水晶振動子の第1端が接続されるべき第1端子と、水晶振動子の第2端が接続されるべき第2端子と、第1端子と第2端子の間に接続された第1抵抗と、ソースが接地され、ゲートが第1端子と接続され、ドレインが第2端子と接続されたNチャンネルの第1トランジスタと、ドレインが第1トランジスタのドレインと接続されたPチャンネルの第2トランジスタと、定電流の経路上に設けられたPチャンネルの第3トランジスタと、を備える。発振回路は、第1トランジスタと第2トランジスタがインバータ回路として動作する第1状態と、第2トランジスタと第3トランジスタがカレントミラー回路として動作する第2状態とが切り替え可能に構成される。
【0010】
この態様によると起動開始後の第1期間は、第1状態を選択して、第1トランジスタと第2トランジスタがインバータを構成することで、起動速度を高めることができ、起動時間を短縮できる。起動完了後の定常的な発振状態では、第2状態を選択し、第2トランジスタを第3トランジスタによってバイアスすることにより、第1トランジスタに流れる電流を制限することで、消費電力を抑制できる。
【0011】
一実施形態において、発振回路は、第1トランジスタのゲートと第2トランジスタのゲートの間に接続された第1スイッチをさらに備えてもよい。第1期間において、第1スイッチをオンすることで、第1トランジスタと第2トランジスタをインバータとして動作さえることができる。
【0012】
一実施形態において,発振回路は、第2トランジスタのゲートと第3トランジスタのゲートの間に接続された第2スイッチをさらに備えてもよい。第2期間において、第2スイッチをオンすることで、第2トランジスタと第3トランジスタをカレントミラー回路として動作さえることができる。
【0013】
一実施形態に係る半導体集積回路は、上述のいずれかの発振回路を備えてもよい。
【0014】
(実施の形態)
以下、好適な実施の形態について図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0015】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0016】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、それらの電気的な接続状態に実質的な影響を及ぼさない、あるいはそれらの結合により奏される機能や効果を損なわせない、その他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0017】
図1は、実施形態に係る発振回路200を備える水晶発振器100の回路図である。水晶発振器100は、水晶振動子102と発振回路200を備える。
【0018】
発振回路200は、半導体集積回路202に集積化されている。半導体集積回路202の機能は特に限定されず、電源IC、モータドライバなどのASIC(Application Specific Integrated Circuit)であってもよいし、マイコンであってもよい。
【0019】
半導体集積回路202は、第1端子INおよび第2端子OUTを有している。第1端子INには、外付け部品である水晶振動子102の一端が接続され、第2端子OUTには、水晶振動子102の他端が接続される。また第1端子IN、第2端子OUTにはそれぞれ、外付けのキャパシタC1,C2が接続される。
【0020】
発振回路200は、第1トランジスタM1、第2トランジスタM2、第3トランジスタM3、第1抵抗R1、切替回路210を備える。
【0021】
第1抵抗R1は、第1端子INと第2端子OUTの間に接続される。第1トランジスタM1は、NチャンネルのMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)である。第1トランジスタM1のソースは接地され、ゲートは第1端子INと接続され、ドレインは第2端子OUTと接続される。
【0022】
第2トランジスタM2は、PチャンネルのMOSFETであり、ドレインが第1トランジスタM1のドレインと接続される。
【0023】
第3トランジスタM3は、第2トランジスタM2と同型のトランジスタ、すなわちPチャンネルのMOSFETであり、ゲートドレイン間が結線される。第3トランジスタM3のドレインには、電流源CS1が接続される。
【0024】
発振回路200は、(i)第1トランジスタM1と第2トランジスタM2がインバータ回路として動作する状態φ1と、(ii)第2トランジスタM2と第3トランジスタM3がカレントミラー回路として動作する状態φ2とが切り替え可能に構成される。
【0025】
図2は、発振回路200の具体的な構成例(200a)を示す回路図である。切替回路210aは、第1スイッチSW1、第2スイッチSW2を含む。
【0026】
第1スイッチSW1は、第1トランジスタM1のゲートと第2トランジスタM2のゲートの間に接続される。第1スイッチSW1がオンとなると、第1トランジスタM1と第2トランジスタM2のゲート同士が接続され、インバータ回路が形成される。
【0027】
第2スイッチSW2は、第2トランジスタM2のゲートと第3トランジスタM3のゲートの間に接続される。第2スイッチSW2がオンとなると、第2トランジスタM2と第3トランジスタM3のゲート同士が接続され、カレントミラー回路が形成される。
【0028】
なお、ここで示した切替回路210aの構成は一例に過ぎず、さまざまな変形例が存在することが理解される。
【0029】
図3は、第1状態φ1の水晶発振器100aの等価回路図である。水晶発振器100aは起動開始からの第1期間の間、第1状態φ1で動作する。第1トランジスタM1と第2トランジスタM2は、インバータ回路INV1を構成している。
【0030】
図4は、第2状態φ2の水晶発振器100aの等価回路図である。水晶発振器100aは起動開始からの第2期間の間、第2状態φ2で動作する。第2トランジスタM2と第3トランジスタM3が、カレントミラー回路CM1を構成しており、第2トランジスタM2には、電流源CS1が生成する電流のm倍(mはカレントミラー比)の電流が流れ、第1トランジスタM1に供給される。
【0031】
以上が水晶発振器100の構成である。続いてその動作を説明する。
【0032】
比較のために、消費電力を抑制することを優先して、水晶発振器100を第2状態φ2に固定して起動したときの動作を説明する。
【0033】
図5は、第2状態φ2に固定して起動したときの動作波形図である。
図5には、第1端子INの電圧VINおよび第2端子OUTの電圧CLKOUTが示される。起動開始時の時刻t
0において、第1トランジスタM1はオフであり、出力信号CLKOUTは電源電圧V
DD、入力電圧VINは0Vである。入力信号VINと出力信号CLKOUTは相補的な信号である。
【0034】
起動開始とともに、入力信号VINは電源電圧VDDの中点電圧VDD/2に向かって上昇していき、出力信号CLKOUTは中点電圧VDD/2に向かって低下していく。第2状態では、第2トランジスタM2によって第1トランジスタM1に供給される電流が制限されるため、入力信号VINおよび出力信号CLKOUTが中点電圧VDD/2に収束するまでの時間が長くなり、発振開始までに時間がかかる(t1)。また発振開始後に、入力信号VINおよび出力信号CLKOUTの振幅は時間とともに増大していくが、第2トランジスタM2の電流供給能力が低いと、振幅の増大速度が遅いため、矩形波のクロック信号CLKが出力されるまでの時間も長くなってしまう。
【0035】
続いて、水晶発振器100の状態を切り替える場合の動作を説明する。
【0036】
図6は、実施形態に係る水晶発振器100の動作波形図である。起動開始後の第1期間T1の間、第1状態φ1に設定される。第1状態φ1では、第2トランジスタM2のゲート電圧が、第2状態φ2における電圧レベルよりも低くなるため、第2トランジスタM2をより強くオンすることができ、第2トランジスタM2の電流供給能力が高まることとなる。これにより、第1トランジスタM1の動作速度が速くなり、入力信号VINおよび出力信号CLKOUTは、短時間で中点電圧V
DD/2に収束していき、
図5の時刻t
1よりも早い時刻t
1’に発振動作が開始する。
【0037】
さらに、第2トランジスタM2の電流供給能力が高いため、振幅の増大速度が、
図5の増大速度よりも速くなる。時刻t
2に振幅が電源電圧V
DDにまで達すると、矩形波のクロック信号が出力され、水晶発振器100の起動が完了する。水晶発振器100の起動が完了後の第2期間、第2状態φ2に切り替えられる。これにより、第1トランジスタM1に流れる電流が制限され、定常的な発振状態における水晶発振器100の消費電流が削減される。なお、ここでは、矩形波のクロック信号CLKOUTが発生し始めた時刻t
2を起動完了として状態を切り替えたが、切り替えのタイミングは特に限定されない。
【0038】
この発振回路200によれば、第1状態φ1と第2状態φ2を切替えることにより、消費電流の増加を抑制しつつ、起動時間を短縮できる。
【0039】
具体的な用語を用いて説明される実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【0040】
(付記)
本明細書には以下の技術が開示される。
【0041】
(項目1)
発振回路であって、
水晶振動子の第1端が接続されるべき第1端子と、
水晶振動子の第2端が接続されるべき第2端子と、
前記第1端子と前記第2端子の間に接続された第1抵抗と、
ソースが接地され、ゲートが前記第1端子と接続され、ドレインが前記第2端子と接続されたNチャンネルの第1トランジスタと、
ドレインが前記第1トランジスタの前記ドレインと接続されたPチャンネルの第2トランジスタと、
定電流の経路上に設けられたPチャンネルの第3トランジスタと、
を備え、
前記第1トランジスタと前記第2トランジスタがインバータ回路として動作する第1状態と、前記第2トランジスタと前記第3トランジスタがカレントミラー回路として動作する第2状態とが切り替え可能に構成された、発振回路。
【0042】
(項目2)
前記第1トランジスタのゲートと前記第2トランジスタのゲートの間に接続された第1スイッチをさらに備える、項目1に記載の発振回路。
【0043】
(項目3)
前記第2トランジスタのゲートと前記第3トランジスタのゲートの間に接続された第2スイッチをさらに備える、項目1または2に記載の発振回路。
【0044】
(項目4)
項目1から3のいずれかに記載の発振回路を備える、半導体集積回路。
【符号の説明】
【0045】
100 水晶発振器
102 水晶振動子
200 発振回路
M1 第1トランジスタ
M2 第2トランジスタ
M3 第3トランジスタ
R1 第1抵抗
IN 第1端子
OUT 第2端子
CM1 カレントミラー回路
INV1 インバータ回路
202 半導体集積回路
210 切替回路