(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142273
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】磁性基体、磁性基体を備えるコイル部品、コイル部品を備える回路モジュール、及び回路モジュールを備える電子機器
(51)【国際特許分類】
H01F 17/04 20060101AFI20241003BHJP
H01F 1/24 20060101ALI20241003BHJP
H01F 3/08 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01F17/04 F
H01F1/24
H01F3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054406
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【弁理士】
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】制野 博太朗
(72)【発明者】
【氏名】土屋 健吾
(72)【発明者】
【氏名】冨田 龍也
(72)【発明者】
【氏名】萩原 智也
【テーマコード(参考)】
5E041
5E070
【Fターム(参考)】
5E041AA11
5E041BB03
5E041CA01
5E041CA02
5E041HB11
5E070AA01
5E070AB03
5E070BA12
5E070BB03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】磁性基体内における不均一な磁気飽和の発生を抑制する。
【解決手段】コイル部品1において、磁性基体10は、第1金属磁性粒子群と、第2金属磁性粒子とを有する。第1金属磁性粒子群は、複数の第1金属磁性粒子を含み、第1平均粒径を有する。第1金属磁性粒子は、第1金属部及び第1金属部の表面を覆う第1絶縁膜を有する。第2金属磁性粒子群は、複数の第2金属磁性粒子を含み、第2平均粒径を有する。第2金属磁性粒子は、第2金属部及び第2金属部の表面を覆う第2絶縁膜を有する。第1絶縁膜に波長488nmの励起レーザーを照射して得られるラマンスペクトルにおけるマグネタイトのピーク強度に対するヘマタイトのピーク強度の比を表す第1HM比は、第2絶縁膜に波長488nmの励起レーザーを照射して得られるラマンスペクトルにおけるマグネタイトのピーク強度に対するヘマタイトのピーク強度の比を表す第2HM比よりも大きい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1金属部及び前記第1金属部の表面を覆いヘマタイトを含有する第1絶縁膜を有する第1金属磁性粒子を複数含み、第1平均粒径を有する第1金属磁性粒子群と、
第2金属部及び前記第2金属部の表面を覆いマグネタイトを含有する第2絶縁膜を有する第2金属磁性粒子を複数含み、前記第1平均粒径よりも小さい第2平均粒径を有する第2金属磁性粒子と、
を有し、
前記第1絶縁膜に波長488nmの励起レーザーを照射して得られるラマンスペクトルにおいて波数680cm-1付近に存在するマグネタイトのピーク強度に対する波数300cm-1付近に存在するヘマタイトのピーク強度の比を表す第1HM比は、前記第2絶縁膜に波長488nmの励起レーザーを照射して得られるラマンスペクトルにおいて波数680cm-1付近に存在するマグネタイトのピーク強度に対する波数300cm-1付近に存在するヘマタイトのピーク強度の比を表す第2HM比よりも大きい、
磁性基体。
【請求項2】
前記第1絶縁膜は、マグネタイトをさらに含み、
前記第1HM比は、1より大きい、
請求項1に記載の磁性基体。
【請求項3】
前記第1絶縁膜は、クロマイトをさらに含み、
前記第1絶縁膜に波長488nmの励起レーザーを照射して得られるラマンスペクトルにおいて波数680cm-1付近に存在するマグネタイトのピーク強度に対する波数730cm-1付近に存在するクロマイトのピーク強度の比は、1より大きい、
請求項1又は2に記載の磁性基体。
【請求項4】
前記第2絶縁膜は、ヘマタイトをさらに含み、
前記第2HM比は、1より小さい、
請求項1又は2に記載の磁性基体。
【請求項5】
前記第2絶縁膜は、クロマイトをさらに含み、
前記第2絶縁膜に波長488nmの励起レーザーを照射して得られるラマンスペクトルにおいて波数680cm-1付近に存在するマグネタイトのピーク強度に対する波数730cm-1付近に存在するクロマイトのピーク強度の比は、1より小さい、
請求項1又は2に記載の磁性基体。
【請求項6】
前記第1金属部におけるFeの含有比率が、前記第2金属部におけるFeの含有比率よりも高い、
請求項1又は2に記載の磁性基体。
【請求項7】
第1金属部及び前記第1金属部の表面を覆いヘマタイトを含有する第1絶縁膜を有する第1金属磁性粒子を複数含み、第1平均粒径を有する第1金属磁性粒子群と、第2金属部及び前記第2金属部の表面を覆いマグネタイトを含有する第2絶縁膜を有する第2金属磁性粒子を複数含み、前記第1平均粒径よりも小さい第2平均粒径を有する第2金属磁性粒子群と、を有する磁性基体と、
前記磁性基体内に埋設されたコイル導体と、
を備え、
前記第1絶縁膜に波長488nmの励起レーザーを照射して得られるラマンスペクトルにおいて波数680cm-1付近に存在するマグネタイトのピーク強度に対する波数300cm-1付近に存在するヘマタイトのピーク強度の比を表す第1HM比は、前記第2絶縁膜に波長488nmの励起レーザーを照射して得られるラマンスペクトルにおいて波数680cm-1付近に存在するマグネタイトのピーク強度に対する波数300cm-1付近に存在するヘマタイトのピーク強度の比を表す第2HM比よりも大きい、
コイル部品。
【請求項8】
前記基体は、複数の第1金属磁性粒子から構成される第1領域と、複数の第2金属磁性粒子から構成される第2領域と、に区画され、
前記基体内の閉磁路は、前記第1領域内を通過する第1磁路と、前記第2領域内を通過する第2磁路と、に区画され、
前記第1磁路の長さを表す第1磁路長は、前記第2磁路の長さを表す第2磁路長よりも長い、
請求項7に記載のコイル部品。
【請求項9】
前記閉磁路は、前記第1磁路及び前記第2磁路のみを通過する、
請求項8に記載のコイル部品。
【請求項10】
請求項7又は8に記載のコイル部品を備える回路モジュール。
【請求項11】
請求項10に記載の回路モジュールを含む、電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の開示は、主に、磁性基体、磁性基体を備えるコイル部品、コイル部品を備える回路モジュール、及び回路モジュールを備える電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
コイル部品は、磁性材料から構成される磁性基体と、当該磁性基体に設けられたコイル導体と、当該コイル導体の端部に接続された外部電極とを有する。大電流が流れても磁気飽和が発生しにくい軟磁性金属材料から成る多数の金属磁性粒子を結合することで構成された磁性基体が知られている。
【0003】
コイル部品の磁性基体は、高い透磁率を有することが求められる。磁性基体における金属磁性粒子の充填率を向上させることにより、磁性基体の透磁率を高められることが知られている。例えば、特開2016-208002号公報には、互いに異なる平均粒径を有する3種類以上の金属磁性粒子を含むように磁性基体を構成することにより、磁性基体における金属磁性粒子の充填率を高めることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
互いに平均粒径の異なる2種類以上の金属磁性粒子群を含む磁性基体を備えるコイル部品においては、電流印加時に発生する磁束は、平均粒径が大きい金属磁性粒子群に含まれる大径の金属磁性粒子を選好して通過する。よって、このようなコイル部品においては、大径の金属磁性粒子が多く存在する磁路において磁気飽和が起こりやすいので、磁性基体において磁気飽和が不均一に発生する。磁性基体において磁気飽和が不均一に発生すると、コイル部品の電気的特性を高めることが困難になる。
【0006】
本明細書において開示される発明の目的は、上述した問題の少なくとも一部を解決または緩和することである。本明細書に開示される発明のより具体的な目的の一つは、磁性基体内における不均一な磁気飽和の発生を抑制することである。本明細書において開示される様々な発明は、「本発明」と総称されることがある。
【0007】
本発明の前記以外の目的は、明細書全体の記載を通じて明らかにされる。本明細書に開示される発明は、「発明を解決しようとする課題」の欄の記載以外から把握される課題を解決するものであってもよい。本明細書に、実施形態の作用効果が記載されている場合には、その作用効果から当該実施形態に対応する発明の課題を把握することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様におけるコイル部品は、第1金属磁性粒子群と、第2金属磁性粒子とを有する。第1金属磁性粒子群は、複数の第1金属磁性粒子を含み、第1平均粒径を有する。第1金属磁性粒子は、第1金属部、及び、第1金属部の表面を覆いヘマタイトを含有する第1絶縁膜を有する。第2金属磁性粒子群は、複数の第2金属磁性粒子を含み、第2平均粒径を有する。第2金属磁性粒子は、第2金属部、及び、第2金属部の表面を覆いマグネタイトを含有する第2絶縁膜を有する。一態様において、第1絶縁膜に波長488nmの励起レーザーを照射して得られるラマンスペクトルにおいて波数680cm-1付近に存在するマグネタイトのピーク強度に対する波数300cm-1付近に存在するヘマタイトのピーク強度の比を表す第1HM比は、第2絶縁膜に波長488nmの励起レーザーを照射して得られるラマンスペクトルにおいて波数680cm-1付近に存在するマグネタイトのピーク強度に対する波数300cm-1付近に存在するヘマタイトのピーク強度の比を表す第2HM比よりも大きい。
【発明の効果】
【0009】
明細書に開示されている発明の一態様によれば、磁性基体内における不均一な磁気飽和の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係るコイル部品を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図1のコイル部品をI-I線で切断した断面を模式的に示す断面図である。
【
図3】
図2の磁性基体の領域Aを拡大して模式的に示す図である。
【
図4a】第1金属磁性粒子の断面を模式的に示す断面図である。
【
図4b】第2金属磁性粒子の断面を模式的に示す断面図である。
【
図5】一実施形態に従ってコイル部品の製造方法の流れを示すフロー図である。
【
図6】別の実施形態に係るコイル部品の断面図である。
【
図7】
図6の磁性基体の領域Bを拡大して模式的に示す図である。
【
図8】別の実施形態に係るコイル部品の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、適宜図面を参照し、本発明の様々な実施形態を説明する。複数の図面において共通する構成要素には当該複数の図面を通じて同一又は類似の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。以下で説明される実施形態は、必ずしも特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。以下の実施形態で説明されている諸要素が発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0012】
1 第1実施形態
1-1 コイル部品1の基本構造
本明細書に開示される様々な実施形態は、磁性基体及び当該磁性基体を備えるコイル部品に関する。
図1及び
図2を参照して、本発明の第1実施形態に係る磁性基体10を備えるコイル部品1の基本構造について説明する。
図1は、コイル部品1を模式的に示す斜視図であり、
図2は、
図1のI-I線に沿った平面で切断されたコイル部品1の模式的な断面図である。
【0013】
図1及び
図2には、コイル部品1の例として、積層インダクタが示されている。図示されている積層インダクタは、本発明を適用可能な磁性基体10を備えたコイル部品1の一例であり、本発明は積層インダクタ以外の様々な種類のコイル部品に適用され得る。コイル部品1は、巻線型のコイル部品、平面コイル、ビーズインダクタ、及び前記以外の任意のコイル部品であってもよい。コイル部品1は、トランス、フィルタ、リアクトル、インダクタアレイ、及びこれら以外の様々なコイル部品であってもよい。コイル部品1は、カップルドインダクタ、チョークコイル及びこれら以外の様々な磁気結合型コイル部品であってもよい。コイル部品1の用途は、本明細書で明示されるものには限定されない。
【0014】
図示されているように、コイル部品1は、磁性基体10と、磁性基体10に設けられたコイル導体25と、磁性基体10の表面に設けられた外部電極21と、磁性基体10の表面において外部電極21から離間した位置に設けられた外部電極22と、を備える。外部電極21は、コイル導体25の一端と電気的に接続されており、外部電極22は、コイル導体25の他端と電気的に接続されている。
【0015】
コイル部品1は、実装基板2aに実装され得る。図示の実施形態において、実装基板2aには、ランド部3a、3bが設けられている。コイル部品1は、外部電極21とランド部3aとを接合し、また、外部電極22とランド部3bとを接続することで実装基板2aに実装される。本明細書では、コイル部品1が搭載された実装基板2aを回路モジュール2と呼ぶ。本発明の一実施形態による回路モジュール2は、コイル部品1と、このコイル部品1が実装される実装基板2aと、を備える。回路モジュール2には、コイル部品1以外の様々な電子部品も実装され得る。回路モジュール2は、様々な電子機器に搭載され得る。回路モジュール2が搭載され得る電子機器には、スマートフォン、タブレット、ゲームコンソール、自動車の電装品、サーバ及びこれら以外の様々な電子機器が含まれる。
【0016】
1-2 磁性基体10の構成
一態様において、磁性基体10は、直方体形状を有するように構成されてもよい。磁性基体10の長さ寸法は、例えば、1.0mm~6.0mmの範囲にあり、幅寸法は、例えば、0.5mm~4.5mmの範囲にあり、高さ寸法は、例えば、0.5mm~4.5mmの範囲にある。磁性基体10の寸法は、本明細書で具体的に説明される寸法には限定されない。本明細書において「直方体」又は「直方体形状」という場合には、数学的に厳密な意味での「直方体」のみを意味するものではない。磁性基体10の寸法及び形状は、本明細書で明示されるものには限定されない。
【0017】
磁性基体10は、上面10a、下面10b、第1端面10c、第2端面10d、第1側面10e、及び第2側面10fを有する。磁性基体10は、これらの6つの面によってその外表面が画定されている。上面10aと下面10bとはそれぞれ磁性基体10の高さ方向両端の面を成し、第1端面10cと第2端面10dとはそれぞれ磁性基体10の長さ方向両端の面を成し、第1側面10eと第2側面10fとはそれぞれ磁性基体10の幅方向両端の面を成している。上面10aと下面10bとの間は磁性基体10の高さ寸法だけ離間しており、第1端面10cと第2端面10dとの間は磁性基体10の長さ寸法だけ離間しており、第1側面10eと第2側面10fとの間は磁性基体10の幅寸法だけ離間している。
【0018】
磁性基体10は、本体層20と、本体層20の下面に設けられた下側カバー層19と、本体層20の上面に設けられた上側カバー層18と、を有する。上側カバー層18、下側カバー層19、及び本体層20は、磁性基体10の構成要素である。
【0019】
1-3 コイル導体
図2に示されているように、コイル導体25は、厚さ方向(T軸方向)に沿って延びるコイル軸Ax1の周りに巻回されている周回部25aと、周回部25aの一端から磁性基体10の第1端面10cまで延伸する引出部25b1と、周回部25aの他端から磁性基体10の第2端面10dまで延伸する引出部25b2と、を有する。周回部25aは、コイル軸Ax1の周りの周方向に延びる導体パターンC11~C17を有する。導体パターンC11~C17のうち隣接するもの同士は、不図示のビアにより接続されている。
【0020】
1-4 外部電極
外部電極21は、磁性基体10の第1端面10cに設けられる。外部電極22は、磁性基体10の第2端面10dに設けられる。各外部電極は、図示のように、磁性基体10の下面まで延伸してもよい。各外部電極の形状及び配置は、図示された例には限定されない。例えば、外部電極21,22はいずれも磁性基体10の下面10bに設けられてもよい。この場合、コイル導体25は、ビア導体を介して、磁性基体10の下面10bに設けられた外部電極21,22と接続される。外部電極21と外部電極22とは、長さ方向において互いから離間して配置されている。
【0021】
1-5 磁性基体10に含有される金属磁性粒子
次に、
図3、
図4a、及び
図4bを参照して、磁性基体10に含有される金属磁性粒子について説明する。
図3は、
図2に示されている断面の領域Aを拡大して模式的に示す拡大断面図である。
図3は、磁性基体10の断面の領域Aを走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影したSEM像を模式的に示している。領域Aは、磁性基体10をLT面に沿って切断した断面に含まれる任意の領域である。
図3には、磁性基体10に含まれる多数の金属磁性粒子のうちの一部分が模式的に示されている。
【0022】
磁性基体10は、複数の第1金属磁性粒子31及び複数の第2金属磁性粒子を含む。本明細書では、磁性基体10に含まれる複数の第1金属磁性粒子31をまとめて第1金属磁性粒子群と呼び、磁性基体10に含まれる複数の第2金属磁性粒子32をまとめて第2金属磁性粒子群と呼ぶことがある。つまり、第1金属磁性粒子群は複数の第1金属磁性粒子31から構成され、第2金属磁性粒子群は複数の第2金属磁性粒子32から構成される。
【0023】
一態様において、複数の第1金属磁性粒子31の平均粒径(すなわち、第1金属磁性粒子群の平均粒径)は、3~15μmの範囲にある。一態様において、複数の第2金属磁性粒子32の平均粒径(すなわち、第2金属磁性粒子群の平均粒径)は、例えば1~5μmの範囲にある。本明細書においては、複数の第1金属磁性粒子31の平均粒径を「第1平均粒径」と呼び、複数の第2金属磁性粒子32の平均粒径を「第2平均粒径」と呼ぶことがある。第2平均粒径は、第1平均粒径よりも小さい。
【0024】
一態様において、第1金属磁性粒子群の平均粒径は、第2金属磁性粒子群の平均粒径の1.5倍から5倍の範囲にある。第1金属磁性粒子群の平均粒径を第2金属磁性粒子群の平均粒径の1.5倍から5倍とすることにより、第1金属磁性粒子31と比べて小径の第2金属磁性粒子32が第1金属磁性粒子31の間に入り込み易くなる。このように、磁性基体10が複数の第1金属磁性粒子31と複数の第2金属磁性粒子32とを含むことにより、磁性基体10における金属磁性粒子の充填率(Density)を高めることができる。
【0025】
磁性基体10に含まれる複数の第1金属磁性粒子31の平均粒径は、以下のようにして定めることができる。まず、磁性基体10をその厚さ方向(T軸方向)に沿って切断して断面を露出させ、当該断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により1000倍から2000倍程度の倍率で撮影したSEM像において、画像解析により複数の第1金属磁性粒子31の各々の円相当径(ヘイウッド径)を求める。次に、複数の第1金属磁性粒子31の各々の円相当径の平均値を算出し、この平均値を複数の第1金属磁性粒子31の平均粒径とすることができる。第1金属磁性粒子31の平均粒径は、原料粉の平均粒径と大きく異ならないため、第1金属磁性粒子31の原料粉の粒度分布をJIS Z 8825に従ってレーザ回折散乱法により測定し、このレーザ回折散乱法によって測定された体積基準の粒度分布のD50値を、磁性基体10に含まれる第1金属磁性粒子31の平均粒径としてもよい。第2金属磁性粒子32の平均粒径も、第1金属磁性粒子31の平均粒径と同様にして算出することができる。
【0026】
磁性基体10が平均粒径の異なる第1金属磁性粒子群及び第2金属磁性粒子群を有することは、次のようにして確認することができる。まず、磁性基体10に含まれる金属磁性粒子の各々の粒径を測定し、この測定結果に基づいて粒径の分布を示す粒度分布を作成する。粒度分布は、横軸が粒径を示し、縦軸が粒子のカウント数を示すグラフである。この粒度分布において、横軸の異なる2つの位置の各々にピークが現れる場合に、磁性基体10が、平均粒径が互いと異なる第1金属磁性粒子群及び第2金属磁性粒子群を有すると判断することができる。
【0027】
磁性基体10は、第1金属磁性粒子群及び第2金属磁性粒子群に加えて、第2金属磁性粒子群の平均粒径よりも小さい平均粒径を有する第3金属磁性粒子群を含んでもよい。磁性基体10は、互いに異なる平均粒径を有する3種類以上の金属磁性粒子を含んでいてもよい。
【0028】
図4aに示されているように、第1金属磁性粒子31は、磁性を発現する第1金属部31aと、この第1金属部31aの表面を覆う第1絶縁膜31bと、を有する。また、
図4bに示されているように、第2金属磁性粒子32は、磁性を発現する第2金属部32aと、この第2金属部32aの表面を覆う第2絶縁膜32bと、を有する。第1絶縁膜31bは、走査型電子顕微鏡(SEM)による10000倍程度のSEM像において、明度の違いに基づいて、第1金属部31aから区別することができる。同様に、第2絶縁膜32bは、SEM像における明度の差により第2金属部32aから区別することができる。
【0029】
一態様において、第1金属部31aは、Feを含有する軟磁性金属材料から構成される。一態様において、第1金属部31aは、Feを93.5wt%以上含有する。第1金属部31aは、Feを93.5~97wt%の範囲で含有することができる。第1金属部31aは、Feに加えて、Si、Cr、Al、Zr、Ti、Ni及びSiから成る群より選択される少なくとも一つの添加元素を含むことができる。第1金属部31aは、例えば、Fe-Cr-Al、Fe-Si-Cr-Al、又はこれらの混合材料から構成される。第1金属部31a用の軟磁性金属材料は、上述のものには限られない。
【0030】
一態様において、第1絶縁膜31bは、Feの酸化物を含有する。第1絶縁膜31bは、絶縁性のヘマタイト(Fe2O3)を含有する。第1絶縁膜31bは、ヘマタイトに加えてマグネタイト(Fe3O4)を含有してもよい。ヘマタイトは、マグネタイトよりも絶縁性に優れるが軟磁性を示さない。他方、マグネタイトは、ヘマタイトと比べて絶縁性に劣るが軟磁性を示す。一態様において、第1絶縁膜31bにおけるマグネタイトの含有比率は、ヘマタイトの含有比率より低い。一態様において、第1絶縁膜31bにおいて、ヘマタイトの含有比率は、マグネタイトの含有比率より高い。一態様において、第1絶縁膜31bにおけるヘマタイトの含有比率とマグネタイトの含有比率との高低は、第1絶縁膜31bに波長488nmの励起レーザーを照射して得られるラマンスペクトルにおける波数300cm-1付近に存在するヘマタイトのピーク強度と波数680cm-1付近に存在するマグネタイトのピーク強度とを比較することで定められる。本明細書において、第1絶縁膜31bに波長488nmの励起レーザーを照射して得られるラマンスペクトルにおいて波数680cm-1付近に存在するマグネタイトのピーク強度に対する波数300cm-1付近に存在するヘマタイトのピーク強度の比を「第1HM比」と呼ぶことがある。一態様において、第1HM比は、1より大きい。第1絶縁膜31bにおけるヘマタイトの含有比率を導電性のマグネタイトの含有比率よりも高くすることにより(言い換えると、第1HM比を1より大きくすることにより)、第1絶縁膜31bの絶縁性を高めることができる。第1絶縁膜31bの絶縁性を高めることにより、第1金属部31a同士や第1金属部31aと第2金属部32aとの電気的な接続を防止することができるので、磁性基体10における渦電流損失を抑制することができる。
【0031】
第1絶縁膜31bは、クロマイト(FeCr2O4)をさらに含有してもよい。第1絶縁膜31bにおいて、マグネタイトの含有比率は、クロマイトの含有比率より低くともよい。第1絶縁膜31bにおいて、クロマイトの含有比率は、マグネタイトの含有比率より高くともよい。一態様において、第1絶縁膜31bにおけるマグネタイトの含有比率とクロマイトの含有比率との高低は、第1絶縁膜31bに波長488nmの励起レーザーを照射して得られるラマンスペクトルにおける波数680cm-1付近に存在するマグネタイトのピーク強度と波数730cm-1付近に存在するクロマイトのピーク強度とを比較することで定められる。例えば、第1絶縁膜31bに波長488nmの励起レーザーを照射して得られるラマンスペクトルにおいて波数680cm-1付近に存在するマグネタイトのピーク強度に対する波数730cm-1付近に存在するクロマイトのピーク強度の比が1より大きい場合に、第1絶縁膜31bにおけるクロマイトの含有比率がマグネタイトの含有比率よりも高いと判定することができる。クロマイトは、マグネタイトよりも絶縁性に優れるが軟磁性を示さない。第1絶縁膜31bにおけるクロマイトの含有比率を導電性のマグネタイトの含有比率よりも高くすることにより、第1絶縁膜31bの絶縁性を高めることができる。第1絶縁膜31bの絶縁性を高めることにより、第1金属部31a同士や第1金属部31aと第2金属部32aとの電気的な接続を防止することができるので、磁性基体10における渦電流損失を抑制することができる。
【0032】
一態様において、第2金属部32aは、Feを含有する軟磁性金属材料から構成される。一態様において、第2金属部32aは、Feを93.5wt%以上含有する。第2金属部32aは、Feを93.5~96wt%の範囲で含有することができる。第1金属部31aは、Feに加えて、Si、Cr、Al、Zr、Ti、Ni及びSiから成る群より選択される少なくとも一つの元素を含むことができる。第2金属部32a用の軟磁性金属材料として、例えば、Fe-Si、Fe-Si-Cr、Fe-Si-Mn、又はこれらの混合材料を用いることができる。第2金属部32a用の軟磁性金属材料は、上述のものには限られない。
【0033】
一態様において、第2絶縁膜32bは、Feの酸化物を含有する。第2絶縁膜32bは、軟磁性を示すマグネタイトを含有する。第2絶縁膜32bは、マグネタイトに加えてヘマタイトを含有してもよい。一態様において、第2絶縁膜32bにおけるマグネタイトの含有比率は、ヘマタイトの含有比率より高い。一態様において、第2絶縁膜32bにおけるヘマタイトの含有比率とマグネタイトの含有比率との高低は、第2絶縁膜32bに波長488nmの励起レーザーを照射して得られるラマンスペクトルにおける波数300cm-1付近に存在するヘマタイトのピーク強度と波数680cm-1付近に存在するマグネタイトのピーク強度とを比較することで定められる。本明細書において、第2絶縁膜32bに波長488nmの励起レーザーを照射して得られるラマンスペクトルにおいて波数680cm-1付近に存在するマグネタイトのピーク強度に対する波数300cm-1付近に存在するヘマタイトのピーク強度の比を「第2HM比」と呼ぶことがある。一態様において、第2HM比は、1より小さい。
【0034】
第2絶縁膜32bは、クロマイトをさらに含有してもよい。第2絶縁膜32bにおけるマグネタイトの含有比率は、クロマイトの含有比率より高くともよい。一態様において、第2絶縁膜32bにおけるマグネタイトの含有比率とクロマイトの含有比率との高低は、第2絶縁膜32bに波長488nmの励起レーザーを照射して得られるラマンスペクトルにおける波数680cm-1付近に存在するマグネタイトのピーク強度と波数730cm-1付近に存在するクロマイトのピーク強度とを比較することで定められる。例えば、第2絶縁膜32bに波長488nmの励起レーザーを照射して得られるラマンスペクトルにおいて波数680cm-1付近に存在するマグネタイトのピーク強度に対する波数730cm-1付近に存在するクロマイトのピーク強度の比が1より小さい場合に、第2絶縁膜32bにおけるマグネタイトの含有比率がクロマイトの含有比率よりも高いと判定することができる。
【0035】
磁性基体10において、第1金属磁性粒子31は、隣接する別の第1金属磁性粒子又は第2金属磁性粒子32と、第1絶縁膜31b及び第2絶縁膜32bの少なくとも一方を介して結合する。よって、第1金属部31a同士、及び、第1金属部31aと第2金属部32aとの間は、電気的に絶縁されている。
【0036】
一態様において、第1絶縁膜31b及び第2絶縁膜32bは、Si、Cr、Al、Zr、Ti、Ni及びSiから成る群より選択される少なくとも一つの添加元素の酸化物を含有する。一態様において、第1絶縁膜31b及び第2絶縁膜32bの少なくとも一方は、上記添加元素の窒化物を含有してもよい。第1絶縁膜31b及び第2絶縁膜32bにおいて、Feの酸化物は、添加元素の酸化物及び窒化物の径方向外側に形成される。
【0037】
一態様において、第1絶縁膜31bに波長488nmの励起レーザーを照射して得られるラマンスペクトルにおいて波数680cm-1付近に存在するマグネタイトのピーク強度に対する波数300cm-1付近に存在するヘマタイトのピーク強度の比を表す第1HM比は、第2絶縁膜32bに波長488nmの励起レーザーを照射して得られるラマンスペクトルにおいて波数680cm-1付近に存在するマグネタイトのピーク強度に対する波数300cm-1付近に存在するヘマタイトのピーク強度の比を表す第2HM比よりも大きい。
【0038】
既述のとおり、第1絶縁膜31b及び第2絶縁膜32bにおけるヘマタイト、マグネタイト及びクロマイトの含有比率の高低は、ラマン分光分析によるピーク強度に基づいて決めることができる。一態様において、第1絶縁膜31bにおけるラマン分光強度の分析は、磁性基体10をT軸に沿って切断した断面(例えば、LT面の沿って切断された磁性基体10の切断面)において、隣接している2つの第1金属磁性粒子31を特定し、その隣接している2つの第1金属磁性粒子31の間に介在している第1絶縁膜31bに対して波長488nmの励起レーザーを照射したときの散乱光を分光測定装置により測定することにより得られるラマンスペクトルを用いて行うことができる。第1絶縁膜31bにおけるラマン分光強度の分析は、磁性基体10をT軸に沿って切断した断面において、第1金属磁性粒子31の三重点を特定し、この三重点に存在している第1絶縁膜31bに対して波長488nmの励起レーザーを照射したときの散乱光を分光測定装置により測定することにより得られるラマンスペクトルを用いて行うことができる。
【0039】
上記のようにして得られるラマンスペクトルにおいて、ヘマタイト、マグネタイト及びクロマイトのそれぞれに由来するピークのピーク強度を求め、このヘマタイト、マグネタイト及びクロマイトのそれぞれのピーク強度の大小に応じて、第1絶縁膜31bにおけるヘマタイト、マグネタイト及びクロマイトの含有比率の大小を決定することができる。例えば、取得したラマンスペクトルにおいて、ヘマタイトに由来するピークのピーク強度が、マグネタイトに由来するピークのピーク強度よりも大きい場合に、ヘマタイトの含有比率がマグネタイトの含有比率よりも高いと決定することができる。ラマンスペクトルにおいて、波数300cm-1付近に存在するピークは、ヘマタイト(Fe2O3)に由来するピークであり、波数680cm-1付近に存在するピークは、マグネタイト(Fe3O4)に由来するピークであり、波数730cm-1付近に存在するピークは、クロマイト(FeCr2O4)に由来するピークである。ヘマタイト(Fe2O3)に由来するピークは、ラマンスペクトルにおいて波数270cm-1~330cm-1の範囲に現れ得る。マグネタイト(Fe3O4)に由来するピークは、ラマンスペクトルにおいて波数665cm-1~695cm-1の範囲に現れ得る。クロマイト(FeCr2O4)に由来するピークは、ラマンスペクトルにおいて、波数700cm-1~760cm-1の範囲に現れ得る。ラマン分光分析の散乱光の測定には、日本分光株式会社製のラマン分光光度計(NRS-3300)を用いることができる。
【0040】
第2絶縁膜32bにおけるヘマタイト、マグネタイト及びクロマイトの含有比率の大小も、第1絶縁膜31bにおけるヘマタイト、マグネタイト及びクロマイトの含有比率の大小の決定方法と同様にして決定することができる。
【0041】
第1絶縁膜31bにおけるマグネタイトの含有比率に対するヘマタイトの含有比率の比を表す第1HM比は、磁性基体10の断面に露出した第1絶縁膜31bに励起レーザーを照射したときに生じる散乱光から得られるラマンスペクトルにおいて、ヘマタイトのピーク強度とマグネタイトのピーク強度を求め、このようにして得られたヘマタイトのピーク強度をマグネタイトのピーク強度で除することで算出される。第2絶縁膜32bにおけるマグネタイトの含有比率に対するヘマタイトの含有比率の比を表す第2HM比は、磁性基体10の断面に露出した第2絶縁膜32bに励起レーザーを照射したときに生じる散乱光から得られるラマンスペクトルにおいて、ヘマタイトのピーク強度とマグネタイトのピーク強度を求め、このようにして得られたヘマタイトのピーク強度をマグネタイトのピーク強度で除することで算出される。
【0042】
一態様において、第1金属部31aにおけるFeの含有比率は、第2金属部32aにおけるFeの含有比率よりも高い。Feは高い飽和磁化を有するため、第1金属部31aにおけるFeの含有比率を第2金属部32aにおけるFeの含有比率よりも高くすることにより、第1金属磁性粒子31を通過する磁路において磁気飽和を起こりにくくすることができる。第1金属部31aに含まれるFeの含有比率及び第2金属部32aに含まれるFeの含有比率は、コイル軸Ax1に沿って磁性基体10を切断することで磁性基体10の断面を露出させ、この断面においてエネルギー分散型X線分光(EDS)分析を行うことにより測定される。Feの含有比率の測定は、エネルギー分散型X線分光(EDS)検出器を搭載した走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて行うことができる。EDS検出器を搭載したSEMによるEDS分析は、SEM-EDS分析と呼ばれる。Feの含有比率は、例えば、株式会社日立ハイテク製の走査型電子顕微鏡SU7000及びアメテック株式会社製のエネルギー分散型X線分光検出器Octane Eliteを用い、加速電圧5kVで測定される。第1軟磁性金属粒子30aに含まれるFe以外の元素の含有比率も、Feの含有比率と同様にSEM-EDS分析により測定される。
【0043】
第1絶縁膜31b及び第2絶縁膜32bは、第1金属磁性粒子31及び第2金属磁性粒子32の原料粉を含む成形体に対して加熱処理を行うことで、原料粉に含まれるFe等の元素が酸化することで形成される酸化膜であってもよい。詳しくは後述するように、磁性基体10は、軟磁性材料からなる原料粉を樹脂と混合して混合樹脂組成物を生成し、この混合樹脂組成物を加熱することで作製され得る。この磁性基体10の製造プロセスにおける加熱処理により、原料粉に含まれている元素が原料粉の表面に拡散し、原料粉の表面で酸化されることにより、第1絶縁膜31b及び第2絶縁膜32bが形成されてもよい。第1絶縁膜31b及び第2絶縁膜32bは、Feを含有する第1金属部31aの原料粉及びFeを含有する第2金属部32aの原料粉の表面に形成されたコーティング層を加熱することで形成されてもよい。
【0044】
一実施形態において、第1絶縁膜31b及びび第2絶縁膜32bの厚さは100nm以下とされる。第1絶縁膜31b及びび第2絶縁膜32bの厚さは、当該軟磁性金属粒子の平均粒径に応じて変更され得る。
【0045】
1-6 コイル部品1の製造方法
次に
図5を参照して、コイル部品1の製造方法の一例について説明する。コイル部品1を製造する過程で磁性基体10が作製されるので、磁性基体10の製造方法についても
図5を参照して説明される。
図5は、本発明の一実施形態によるコイル部品1の製造方法を示すフロー図である。以下の説明では、コイル部品1がシート積層法により製造されることを想定している。コイル部品1は、シート積層法以外の公知の方法で作製されてもよい。例えば、コイル部品1は、印刷積層法、薄膜プロセス法、又はスラリービルド法などの積層法により作製され得る。
【0046】
まず、ステップS1において、磁性体シートが作製される。磁性体シートは、軟磁性金属粒子の原料となる軟磁性金属粉(原料粉)をバインダー樹脂及び溶剤と混練して得られる磁性材ペーストから生成される。原料粉は、第1金属磁性粒子31の原料粉である第1原料粉と、第2金属磁性粒子32の原料粉である第2原料粉とを混合することで生成される混合粉である。第2原料粉の平均粒径は、第1原料粉の平均粒径よりも小さい。第1原料粉及び第2原料粉はいずれも、Feを主成分とする。原料粉は、93.5t%以上のFeを含有することができる。第1原料粉及び第2原料粉は、Si、Cr、Al、Zr、Ti、Ni及びSiから成る群より選択される少なくとも一つの元素を添加元素として含むことができる。添加元素はいずれも、ステップS12の加熱工程において酸素よりも酸化されやすい元素である。第1原料粉におけるCrの含有比率は、第2原料粉におけるCrの含有比率より高くてもよい。第2原料粉におけるAlの含有比率は、第1原料粉におけるAlの含有比率より高くても良い。第2原料粉におけるSiの含有比率は、第1原料粉におけるSiの含有比率より高くてもよい。
【0047】
第1原料粉及び第2原料粉の表面には、上記の添加元素を含有するコーティング層が形成されていてもよい。コーティング層は、例えば、ゾルゲル法により形成される。
【0048】
磁性材ペースト用のバインダー樹脂は、例えば、アクリル樹脂である。磁性材ペースト用のバインダー樹脂は、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、前記以外のバインダー樹脂として公知の樹脂、又はこれらの混合物であってもよい。溶剤は、例えば、トルエンである。この磁性材ペーストは、ドクターブレード法又はこれ以外の一般的な方法にてプラスチック製のベースフィルムの表面に塗布される。このベースフィルムの表面に塗布された磁性材ペーストを乾燥させることでシート状の成形体が得られる。このシート状の成形体を型内で10~100MPa程度の成型圧力で加圧成型することにより磁性体シートが複数作製される。
【0049】
次に、ステップS2において、ステップS1で準備された複数の磁性体シートの一部に導電性ペーストが塗布される。導電性ペーストは、Ag、Pd、Cu、Al又はこれらの合金等の導電性に優れた導電性材料から構成される導体粉をバインダー樹脂及び溶剤と混練して生成される。導電性ペースト用のバインダー樹脂は、磁性材ペースト用のバインダー樹脂と同じ種類の樹脂であってもよい。導電性ペースト用のバインダー樹脂及び磁性材ペースト用のバインダー樹脂はいずれもアクリル樹脂であってもよい。
【0050】
磁性体シートに導電性ペーストを塗布することにより、当該磁性体シートに、焼成後に導体パターンC11~C17となる未焼成導体パターンが形成される。磁性体シートの一部には積層方向に貫通する貫通孔が形成される。貫通孔を有する磁性体シートに導電性ペーストが塗布されるときには、貫通孔内にも導電性ペーストが埋め込まれる。このようにして、磁性体シートの貫通孔内に未焼成ビアが形成される。導電性ペーストは、例えば、スクリーン印刷法により磁性体シートに塗布される。
【0051】
次に、ステップS3において、ステップS1で作製された磁性体シートを積層することで、上側カバー層18となる上部積層体、本体層20となる中間積層体、及び下側カバー層19となる下部積層体を作製する。上部積層体及び下部積層体はそれぞれ、ステップS1で準備された磁性体シートのうち未焼成導体パターンが形成されていないものを4枚積層することによって形成される。中間積層体は、未焼成導体パターンが形成された磁性体シート7枚を所定の順序で積層することにより形成される。上記のように作製された中間積層体を上下から上部積層体及び下部積層体で挟み込み、この上部積層体及び下部積層体を中間積層体に熱圧着して本体積層体を得る。次に、ダイシング機やレーザー加工機などの切断機を用いて当該本体積層体を所望のサイズに個片化することでチップ積層体が得られる。チップ積層体は、加熱処理後に磁性基体10となる素体及び加熱処理後にコイル導体25となる未焼成導体パターンを含む成形体の例である。加熱処理後に磁性基体10となる素体及び加熱処理後にコイル導体25となる未焼成導体パターンを含む成形体は、シート積層法以外の方法で作製されてもよい。
【0052】
次に、ステップS4において、ステップS3で作製された成形体に対して脱脂処理が行われる。磁性材ペースト及び導電性ペーストのバインダー樹脂として熱分解性樹脂が用いられる場合には、成形体に対する脱脂処理は、窒素雰囲気等の非酸素雰囲気下で行うことができる。脱脂処理を非酸素雰囲気下で行うことにより、脱脂処理において原料粉に含まれるFeが酸化されることを防止できる。脱脂処理は、磁性材ペースト用のバインダー樹脂の熱分解開始温度よりも高い温度で行われる。磁性材ペースト用のバインダー樹脂としてアクリル樹脂が用いられる場合には、脱脂は、アクリル樹脂の熱分解開始温度よりも高い温度、例えば300~500℃で行われる。脱脂処理により、成形体に含まれる熱分解性樹脂が分解されるので、脱脂処理の完了後の成形体には、熱分解性樹脂は残存しない。導電性ペースト用のバインダー樹脂を磁性材ペースト用のバインダー樹脂と同じ熱分解性樹脂とすることにより、ステップS4の脱脂処理において、未焼成導体パターンに含まれる熱分解性樹脂も熱分解される。このように、ステップS4においては、成形体を構成する磁性体シート及び未焼成導体パターンの両方が脱脂される。
【0053】
次に、ステップS5において、脱脂された成形体に対して第1加熱処理が施される。第1加熱処理は、5~1000ppmの範囲の酸素を含有する低酸素濃度雰囲気において、750℃~900℃の第1加熱温度で行われる。第1加熱処理は、5~10ppm程度の低酸素濃度雰囲気で行われてもよい。原料粉を750~900℃で加熱することにより、各原料粉において添加元素(例えば、Cr、Al、及びSi)が熱拡散により表面付近に拡散し、雰囲気中の酸素と結合する。第1加熱処理においては、各原料粉の表面に移動した添加元素のうち、酸化されやすいAl、Cr及びSiの酸化物が生成される。第1加熱処理により、加熱された第1原料粉及び第2原料粉の表面に、添加元素の酸化物(例えば、Al2O3、Cr2O3、SiO2)が形成される。第1加熱処理が行われる第1加熱時間は、1時間~6時間の間とすることができる。第1加熱処理においては、添加元素に加えて、Feも僅かに酸化する可能性がある。第1加熱処理は、低酸素濃度雰囲気において行われるため、Feが酸化される場合、Feの酸化物としては、ヘマタイト(Fe2O3)に比べてマグネタイト(Fe3O4)の方が多く生成される。第1加熱処理において、Feの酸化物は、添加元素の酸化物よりも径方向外側に生成される。
【0054】
次に、ステップS6において、第1加熱処理で加熱された後の成形体に対して、第1加熱処理における酸素濃度よりも高い酸素濃度で第2加熱処理が施される。第2加熱処理は、1000ppmより大きく10000ppm以下の低酸素雰囲気で行われてもよい。第2加熱処理は、第1加熱処理よりも高い酸素濃度で行われるため、第2加熱処理において、第1原料粉の表面に形成されていたマグネタイトの一部がさらに酸化されてヘマタイトが生成される。他方、第2原料粉においては、Al及びSiの含有比率が第1原料粉よりも高いので、第2原料粉の周囲に供給された酸素の多くは、Al及びSiの酸化のために消費される。このため、第2原料分の表面では、第1原料粉の表面で起こる反応と比較して、マグネタイトからヘマタイトへの変化が進みにくい。また、第2加熱処理において、第1加熱処理において生成されたマグネタイトがCrと結合し、クロマイト(FeCr2O4)が生成される。第2原料粉よりも第1原料粉の方が高い含有比率でCrを含有しているので、第2原料粉よりも第1原料粉の表面において多くのクロマイトが生成される。
【0055】
このように、第2加熱処理により、第2原料粉の表面よりも第1原料粉の表面において、より多くのヘマタイト及びクロマイトが生成される。また、ヘマタイト及びクロマイトを生成するためにマグネタイトが消費されるので、第1原料粉の表面では、マグネタイトが減少する。よって、第2加熱処理により、第1原料粉の表面において、ヘマタイト及びクロマイトの含有比率をマグネタイトの含有比率よりも高くすることができる。また、第2原料粉の表面においては、第1加熱処理において生成されたマグネタイトがヘマタイトやクロマイトに変化しにくいため、第2原料粉の表面におけるマグネタイトの含有比率をヘマタイト及びクロマイトの含有比率よりも高くすることができる。
【0056】
第2加熱処理においては、原料粉の酸化に加えて、未焼結導体パターン中の導体粉の焼結も起こる。未焼結導体パターン中の導体粉が焼結することで、コイル導体25が得られる。導体粉として銅粉が用いられる場合には、銅結晶が緻密に焼結し、コイル導体25となる。
【0057】
第2加熱処理は、第2加熱温度で、第2加熱時間だけ行われる。第2加熱温度及び第2加熱時間は、原料粉の表面に絶縁性確保のために十分な膜厚を有する絶縁膜が形成されるように定められる。第2加熱温度は、例えば、500~700℃の間の温度とすることができる。第2加熱温度が高いほど酸化の進行が速いため、第2加熱時間は、第2加熱温度によって変わる。第2加熱温度が500℃の場合には、第2加熱時間は、1時間から6時間の間とすることができる。第2加熱温度が700℃の場合には、第2加熱時間は、30分から1時間の間とすることができる。
【0058】
このように、第1加熱処理及び第2加熱処理により、成形体に含まれる第1原料粉及び第2原料粉が酸化されることで、第1原料粉から第1金属磁性粒子31が生成され、また、第2原料粉から第2金属磁性粒子32が生成される。第2加熱処理において、第1金属磁性粒子31の表面には第1絶縁膜31bが形成され、第2金属磁性粒子32の表面には第2絶縁膜32bが形成されている。第2加熱処理により、隣接する金属磁性粒子同士は、互いの表面に形成された絶縁膜を介して結合される。このようにして、軟磁性金属粒子が結合した磁性基体10が得られる。
【0059】
次に、ステップS7において、ステップS6で得られた磁性基体10表面に外部電極21及び外部電極22を形成する。外部電極21は、コイル導体25の一端に接続され、外部電極22は、コイル導体25の他端と接続される。外部電極21、22の形成前に、第2加熱処理後の成形体を樹脂に含浸させてもよい。成形体は、例えば、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂に含浸される。これにより、磁性基体10内の軟磁性金属粒子の隙間に樹脂が浸透する。そして、磁性基体10に含浸した樹脂を硬化させることにより、磁性基体10の機械的強度を向上させることができる。
【0060】
以上の工程により、コイル部品1が作製される。
【0061】
1-7 第1実施形態による作用効果の例示
第1実施形態においては、平均粒径が大きい第1金属磁性粒子群を構成する第1金属磁性粒子31の表面に形成されている第1絶縁膜31bにおける第1HM比が、平均粒径が小さい第2金属磁性粒子群を構成する第2金属磁性粒子32の表面に形成されている第2絶縁膜32bにおける第2HM比よりも大きくなっている。つまり、第1絶縁膜31bと第2絶縁膜32bとをヘマタイト及びマグネタイトの含有比率の観点から比較すると、第1絶縁膜31bにおけるマグネタイトに対するヘマタイトの含有比率は、第2絶縁膜32bにおけるマグネタイトに対するヘマタイトの含有比率よりも高くなっている。ヘマタイトは非磁性であるから、第2絶縁膜32bよりもヘマタイトの含有比率が高い第1絶縁膜31bで大径の第1金属磁性粒子31の表面を覆うことにより、第1金属磁性粒子31への磁束の集中を緩和することができる。よって、第1金属磁性粒子31を通過する磁路における磁気飽和を抑制することができ、その結果、磁性基体10内における磁気飽和の不均一さを緩和することができる。
【0062】
また、第1金属磁性粒子31の表面をヘマタイトの含有比率が高い第1絶縁膜31bで覆うことにより、第1金属磁性粒子31の絶縁性を高めることができる。このため、第1金属磁性粒子31と、隣接する他の金属磁性粒子(別の第1金属磁性粒子31又は第2金属磁性粒子32)とが電気的に接続されることによる、大きな渦電流損失の発生を抑制できる。
【0063】
一態様において、第1絶縁膜31bにおけるマグネタイトの含有比率はヘマタイトの含有比率よりも低い(つまり、第1HM比が1より大きい)ので、第1絶縁膜31bにより、第1金属磁性粒子31への磁束の集中をより緩和することができ、また、第1金属磁性粒子31の絶縁性をより向上することができる。
【0064】
一態様において、第1絶縁膜31bにおけるマグネタイトの含有比率は、非磁性のクロマイトの含有比率よりも低い。このような第1絶縁膜31bにより、第1金属磁性粒子31への磁束の集中をさらに緩和することができる。
【0065】
一態様において、第2絶縁膜32bにおけるマグネタイトの含有比率は、非磁性のヘマタイトの含有比率よりも高いので、第2絶縁膜32bにより、第2金属磁性粒子32を通過する磁路の磁気抵抗を低下させることができる。これにより、第1金属磁性粒子31への磁束の集中を抑制することができるので、磁性基体10における磁気飽和の不均一さをさらに緩和することができる。
【0066】
一態様において、第2絶縁膜32bにおけるマグネタイトの含有比率は、非磁性のクロマイトの含有比率よりも高いので、第2絶縁膜32bにより、第2金属磁性粒子32を通過する磁路の磁気抵抗を低下させることができる。これにより、第1金属磁性粒子31への磁束の集中を抑制することができるので、磁性基体10における磁気飽和の不均一さをさらに緩和することができる。
【0067】
一態様において、第1金属部31aにおけるFeの含有比率が第2金属部32aにおけるFeの含有比率よりも高い。Feは飽和磁化が高いので、第1金属部31aにおけるFeの含有比率を高くすることにより、第1金属磁性粒子31(第1金属部31a)を通過する磁束による磁気飽和の発生を抑制することができる。これにより、磁性基体10における磁気飽和の不均一さをさらに緩和することができる。
【0068】
2 第2実施形態
続いて、
図6及び
図7を参照して、第2実施形態に係るコイル部品1について説明する。
図6は、第2実施形態に係るコイル部品1をLT面に沿って切断した断面を示す断面図であり、
図7は、
図6に示されている断面の領域Bを拡大して模式的に示す拡大断面図である。第2実施形態においては、磁性基体10が第1領域50a及び第2領域50bに区画されている点で、第1実施形態と異なっている。
【0069】
図6に示されているように、磁性基体10は、第1領域50aと、第2領域50bと、に区画されている。図示の実施形態において、磁性基体10は、複数の第2領域50bを有している。第2領域50bの各々は、導体パターンC11~C17のうち隣接する導体パターン間に配置されている。第2領域50bは、LW平面に平行に第1端面10cから第2端面10dまで、また、第1側面10eから第2側面10fまで延伸する板状の部材である。第1領域50aは、磁性基体10のうち第2領域50b以外の領域である。
【0070】
図7に示されているように、第1領域50aは、第1金属磁性粒子31から構成されている。第1領域50aは、第2金属磁性粒子32を含まない。第2領域50bは、第2金属磁性粒子32から構成されている。第2領域50bは、第1金属磁性粒子31を含まない。
【0071】
図6には、コイル導体25を通って外部電極21、22間に流れる電流が変化したときに生じる磁束が通過する磁路MPが示されている。磁路MPの全長は、磁性材料から構成された磁性基体10内を通過しているので、磁路MPは、閉磁路である。磁束は、磁路MPに沿って、コイル導体25の周りに流れる。
図6には、磁束の流れを矢印で模式的に示されている。
【0072】
磁路MPは、第1領域50a内を通過する第1磁路と、第2領域50bを通過する第2磁路と、に区画される。第1磁路は、磁路MPが第1領域50aと重複する領域を示す。第2磁路は、磁路MPが第2領域50bと重複する領域を示す。一態様において、第1領域50a及び第2領域50bは、第1磁路の長さを表す第1磁路長が第2磁路の長さを表す第2磁路長よりも長くなるように配置されている。図示の実施形態においては、磁路MPのうちT軸に沿って延びている領域の半分弱が第2領域50bと重複しているが、磁路MPのうちT軸に沿って延びる残りの領域及び磁路MPのうちL軸に沿って延びる領域はいずれも第1領域50aと重複している。よって、磁路MPのうち第1領域50aと重複している第1磁路の長さは、磁路MPのうち第2領域50bと重複している第2磁路の長さよりも長い。コイル導体25の周囲には、複数の磁路が発生する。第1磁路及び第2磁路の長さを決める際には、複数の磁路のうち、コイル導体25の周囲を最短距離で1周する磁路が第1領域50aと重複する領域を第1磁路とし、当該磁路が第2領域50bと重複する領域を第2磁路とすることができる。コイル導体25の周囲を最短距離で1周する磁路は、
図6に示されている磁路MPを導体パターンC11の上面、導体パターンC17の下面、導体パターンC11~C17の各々のL軸方向の両端を通るように縮めた経路である。
【0073】
磁性基体10は、第1領域50aと第2領域50bとに区画されており、他の領域を含まなくともよい。つまり、一態様において、磁性基体10は、第1領域50a及び第2領域50b以外の領域は有していない。
【0074】
第2実施形態に係る磁性基体10及びコイル部品1は、第1実施形態に係る磁性基体10及びコイル部品1と同様の作用効果を奏することができる。また、第2実施形態によれば、磁路MPのうち過半を占める経路は、平均粒径が大きな第1金属磁性粒子群から構成されている第1領域50aを通過するので、第1金属磁性粒子31と第2金属磁性粒子32とを混在させる第1金属磁性粒子31よりも、磁路MPの磁気抵抗を低減することができ、コイル部品1のインダクタンスを向上させることができる。インダクタンスをさらに向上させるために、磁路MPのうち第1領域50aと重複している第1磁路の長さは、磁路MPのうち第2領域50bと重複している第2磁路の長さの2倍以上であることが望ましい。
【0075】
3 第3実施形態
続いて、
図8及び
図9を参照して、本発明の別の実施形態によるコイル部品101について説明する。
図8は、コイル部品101をLT面に沿って切断した断面を示す断面図であり、
図9は、コイル部品101の平面図である。
図9においては、基体を透過してコイル導体が描かれている。コイル部品101は、磁性基体10に代えて磁性基体110を備えており、コイル導体25に代えてコイル導体125を備えている点でコイル部品1と異なっている。以下では、コイル部品101においてコイル部品1と異なる点を中心に説明する。
【0076】
図10に示されているように、コイル導体125は、平面視において(T軸から見た視点において)外部電極21から外部電極22に向かって直線状に延びている。このように、コイル導体125は、平面視したときに磁性基体10内で互いに対向して配置される部分を有していない。このように、コイル導体125は、平面視したときに磁性基体10内で互いに対向して配置される部分を有していないことにより、平面視で互いに対向する部分を有する内部導体を有する従来のインダクタと比較して、磁性基体10の体積抵抗率を変えずに絶縁信頼性(耐電圧)を高くすることができる。
【0077】
磁性基体110は、第1領域150aと、第2領域150bと、に区画されている。
図9に示されているように、第2領域50bは、LT平面に平行に上面110aから下面110bまで、また、第1端面110cから第2端面10dまで延伸する板状の部材である。第1領域150aは、磁性基体110のうち第2領域150b以外の領域である。
【0078】
第1領域150aは、第2実施形態の第1領域50aと同様に、第1金属磁性粒子31から構成されている。また、第2領域150bは、第2実施形態の第2領域50bと同様に、第2金属磁性粒子32から構成されている。磁性基体110は、第1領域150aと第2領域150bとに区画されており、他の領域を含まなくともよい。つまり、一態様において、磁性基体110は、第1領域150a及び第2領域150b以外の領域は有していない。
【0079】
図9には、コイル導体25を通って外部電極21、22間に流れる電流が変化したときに生じる磁束が通過する磁路MPが示されている。磁路MPの全長は、磁性材料から構成された磁性基体10内を通過しているので、磁路MPは、閉磁路である。磁束は、磁路MPに沿って、コイル導体25の周りに流れる。
図9には、磁束の流れを矢印で模式的に示している。
【0080】
磁路MPは、第1領域150a内を通過する第1磁路と、第2領域150bを通過する第2磁路と、に区画される。第1磁路は、磁路MPが第1領域150aと重複する領域を示す。第2磁路は、磁路MPが第2領域150bと重複する領域を示す。一態様において、第1領域150a及び第2領域150bは、第1磁路の長さを表す第1磁路長が記第2磁路の長さを表す第2磁路長よりも長くなるように配置されている。図示の実施形態においては、磁路MPのうちW軸に沿って延びている領域の半分弱が第2領域150bと重複しているが、磁路MPのうちW軸に沿って延びる残りの領域及び磁路MPのうちL軸に沿って延びる領域はいずれも第1領域50aと重複している。よって、磁路MPのうち第1領域150aと重複している第1磁路の長さは、磁路MPのうち第2領域150bと重複している第2磁路の長さよりも長い。
【0081】
第3実施形態によれば、磁路MPのうち第1領域150aと重複している第1磁路の方が第2領域150bと重複している第2磁路よりも長くなるように磁性基体110が構成されている。よって、磁路MPのうち過半を占める経路は、平均粒径が大きな第1金属磁性粒子群から構成されている第1領域150aを通過するので、第1金属磁性粒子31と第2金属磁性粒子32とを混在させる場合よりも、磁路MPの磁気抵抗を低減することができ、コイル部品1のインダクタンスを向上させることができる。インダクタンスをさらに向上させるために、磁路MPのうち第1領域150aと重複している第1磁路の長さは、磁路MPのうち第2領域150bと重複している第2磁路の長さの2倍以上であることが望ましい。
【0082】
4 注記
前述の様々な実施形態で説明された各構成要素の寸法、材料及び配置は、それぞれ、各実施形態で明示的に説明されたものに限定されず、当該各構成要素は、本発明の範囲に含まれ得る任意の寸法、材料及び配置を有するように変形することができる。
【0083】
本明細書において明示的に説明していない構成要素を、上述の各実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【0084】
本明細書等における「第1」、「第2」、「第3」などの表記は、構成要素を識別するために付するものであり、必ずしも、数、順序、もしくはその内容を限定するものではない。また、構成要素の識別のための番号は文脈毎に用いられ、一つの文脈で用いた番号が、他の文脈で必ずしも同一の構成を示すとは限らない。また、ある番号で識別された構成要素が、他の番号で識別された構成要素の機能を兼ねることを妨げるものではない。
【0085】
本明細書において、ある構成要素を「含む」又は「有する」という場合は、本発明の内容と矛盾しない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含むことができることを意味する。
【0086】
5 付記
本明細書において開示される実施形態には、以下の事項も含まれる。
【0087】
[付記1]
第1金属部及び前記第1金属部の表面を覆いヘマタイトを含有する第1絶縁膜を有する第1金属磁性粒子を複数含み、第1平均粒径を有する第1金属磁性粒子群と、
第2金属部及び前記第2金属部の表面を覆いマグネタイトを含有する第2絶縁膜を有する第2金属磁性粒子を複数含み、前記第1平均粒径よりも小さい第2平均粒径を有する第2金属磁性粒子と、
を有し、
前記第1絶縁膜に波長488nmの励起レーザーを照射して得られるラマンスペクトルにおいて波数680cm-1付近に存在するマグネタイトのピーク強度に対する波数300cm-1付近に存在するヘマタイトのピーク強度の比を表す第1HM比は、前記第2絶縁膜に波長488nmの励起レーザーを照射して得られるラマンスペクトルにおいて波数680cm-1付近に存在するマグネタイトのピーク強度に対する波数300cm-1付近に存在するヘマタイトのピーク強度の比を表す第2HM比よりも大きい、
磁性基体。
[付記2]
前記第1絶縁膜は、マグネタイトをさらに含み、
前記第1HM比は、1より大きい、
[付記1]に記載の磁性基体。
[付記3]
前記第1絶縁膜は、クロマイトをさらに含み、
前記第1絶縁膜に波長488nmの励起レーザーを照射して得られるラマンスペクトルにおいて波数680cm-1付近に存在するマグネタイトのピーク強度に対する波数730cm-1付近に存在するクロマイトのピーク強度の比は、1より大きい、
[付記1]又は[付記2]に記載の磁性基体。
[付記4]
前記第2絶縁膜は、ヘマタイトをさらに含み、
前記第2HM比は、1より小さい、
[付記1]から[付記3]のいずれか一つに記載の磁性基体。
[付記5]
前記第2絶縁膜は、クロマイトをさらに含み、
前記第2絶縁膜に波長488nmの励起レーザーを照射して得られるラマンスペクトルにおいて波数680cm-1付近に存在するマグネタイトのピーク強度に対する波数730cm-1付近に存在するクロマイトのピーク強度の比は、1より小さい、
[付記1]から[付記4]のいずれか一つに記載の磁性基体。
[付記6]
前記第1金属部におけるFeの含有比率が、前記第2金属部におけるFeの含有比率よりも高い、
[付記1]から[付記5]のいずれか一つに記載の磁性基体。
[付記7]
第1金属部及び前記第1金属部の表面を覆いヘマタイトを含有する第1絶縁膜を有する第1金属磁性粒子を複数含み、第1平均粒径を有する第1金属磁性粒子群と、第2金属部及び前記第2金属部の表面を覆いマグネタイトを含有する第2絶縁膜を有する第2金属磁性粒子を複数含み、前記第1平均粒径よりも小さい第2平均粒径を有する第2金属磁性粒子と、を有する磁性基体と、
前記磁性基体内に埋設されたコイル導体と、
を備え、
前記第1絶縁膜におけるマグネタイトの含有比率に対するヘマタイトの含有比率の比を表す第1HM比は、前記第2絶縁膜におけるマグネタイトの含有比率に対するヘマタイトの含有比率の比を表す第2HM比よりも大きい、
コイル部品。
[付記8]
前記基体は、前記複数の第1金属磁性粒子から構成される第1領域と、前記複数の第2金属磁性粒子から構成される第2領域と、に区画され、
前記基体内の閉磁路は、前記第1領域内を通過する第1磁路と、前記第2領域内を通過する第2磁路と、に区画され、
前記第1磁路の長さを表す第1磁路長は、前記第2磁路の長さを表す第2磁路長よりも長い、
[付記7]に記載のコイル部品。
[付記9]
前記閉磁路は、前記第1磁路及び前記第2磁路のみを通過する、
請求項7又は8に記載のコイル部品。
[付記10]
[付記7]から[付記9]のいずれか一つに記載のコイル部品を備える回路モジュール。
[付記11]
[付記10]に記載の回路モジュールを含む、電子機器。
【符号の説明】
【0088】
1、101 コイル部品
10、110 磁性基体
25、125 コイル導体
31 第1金属磁性粒子
31a 第1金属部
31b 第1絶縁膜
32 第2金属磁性粒子
32a 第2金属部
32b 第2絶縁膜