(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142274
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】薄膜形成装置および薄膜形成方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/517 20060101AFI20241003BHJP
C23C 16/511 20060101ALI20241003BHJP
C23C 16/509 20060101ALI20241003BHJP
C23C 14/22 20060101ALI20241003BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C23C16/517
C23C16/511
C23C16/509
C23C14/22 D
H05H1/46 M
H05H1/46 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054407
(22)【出願日】2023-03-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2022年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 先導研究プログラム/マテリアル・バイオ革新技術先導研究プログラム、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100149320
【弁理士】
【氏名又は名称】井川 浩文
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(72)【発明者】
【氏名】藤井 知
(72)【発明者】
【氏名】福島 潤
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 博胤
(72)【発明者】
【氏名】石井 智規
【テーマコード(参考)】
2G084
4K029
4K030
【Fターム(参考)】
2G084AA05
2G084AA13
2G084BB25
2G084BB30
2G084CC04
2G084CC06
2G084CC12
2G084CC13
2G084CC14
2G084CC25
2G084CC33
2G084DD02
2G084DD03
2G084DD13
2G084DD15
2G084DD55
2G084DD56
2G084DD63
2G084FF26
4K029BA01
4K029BA60
4K029CA04
4K029DA04
4K029DD02
4K030AA18
4K030AA24
4K030BA01
4K030BA38
4K030EA01
4K030FA02
4K030FA03
4K030KA02
4K030KA30
(57)【要約】
【課題】 空洞共振器にマイクロ波を照射することによって発生させた金属プラズマを利用し、基板に薄膜を形成する装置と、その装置を使用する薄膜形成方法を提供する。
【解決手段】 薄膜形成装置100は、金属、合金、金属間化合物及び炭素からなる群より選ばれる少なくとも1種のプラズマ源を収容するためのプラズマ室10と、プラズマ室に連続して設けられ、薄膜を形成させる対象物を収容する反応室20と、プラズマ室および反応室の内部ガスを排気する排気ポンプと、反応室内に設けられる放電電極22,接地電極23と、電極に高周波電力を供給して高周波放電を生じさせる高周波電源71と、少なくとも1つの空洞共振器30と、プラズマ室を介して反応室に原料ガスを供給するガス供給部13とを備える。空洞共振器は、中心に磁場強度分布を形成する手段を有し、プラズマ源の全部又は一部にマイクロ波を照射し、プラズマ源からプラズマを発生させ、反応室内にプラズマを供給する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属、合金、金属間化合物及び炭素からなる群より選ばれる少なくとも1種のプラズマ源を収容するためのプラズマ室と、
前記プラズマ室に連続して設けられ、薄膜を形成させる対象物を収容する反応室と、
前記プラズマ室および反応室の内部ガスを排気する排気ポンプと、
前記反応室内に設けられる放電電極および接地電極と、
前記反応室内の電極に高周波電力を供給して高周波放電を生じさせる高周波電源と、
少なくとも1つの空洞共振器と、
前記プラズマ室を介して前記反応室に原料ガスを供給するガス供給部とを備え、
前記空洞共振器は、該空洞共振器の中心に磁場強度分布を形成する手段を有し、前記プラズマ源の全部又は一部にマイクロ波を照射し、前記プラズマ源からプラズマを発生させ、前記反応室内にプラズマを供給することを特徴とする薄膜形成装置。
【請求項2】
前記空洞共振器には、さらにマイクロ波電力が投入され、前記プラズマ源からプラズマを発生させることを特徴とする請求項1に記載の薄膜形成装置。
【請求項3】
前記空洞共振器がシングルモード型であることを特徴とする請求項2に記載の薄膜形成装置。
【請求項4】
前記プラズマ源は、導電率が3000S/m以上であることを特徴とする請求項3に記載の薄膜形成装置。
【請求項5】
前記プラズマ源となる金属は、アルミニウム、チタニウム、鉄、カルシウムまたはマグネシウムのいずれかであり、
前記プラズマ源となる合金は、アルミニウム合金、チタン合金、カルシウム合金、鉄合金またはマグネシウム合金のいずれかであり、
前記プラズマ源となる金属間化合物は、アルミニウム含有金属化合物、チタニウム含有金属化合物、鉄含有金属化合物、カルシウム含有金属間化合物またはマグネシウム含有金属化合物のいずれかである請求項4に記載の薄膜形成装置。
【請求項6】
前記プラズマ源としては、前記金属、合金又は金属間化合物にセラミックを混合させた混合体でもよく、前記セラミックスは、ジルコニア、石英、アルミナ、窒化ホウ素、炭化ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム及び窒化アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種から選択することを特徴とする請求項4に記載の薄膜形成装置。
【請求項7】
前記反応室は、電極を平行平板型もしくはバレル型とするものまたは反応室にコイルが巻かれたものである請求項1に記載の薄膜形成装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の薄膜形成装置を使用する薄膜形成方法であって、
プラズマ室内に、金属、合金、金属間化合物、金属とセラミックスとの混合体、合金とセラミックスとの混合体、金属間化合物とセラミックスとの混合体及び炭素からなる群より選ばれる少なくとも1種のプラズマ源を配置する第1工程と、
反応室内の接地電極に基板を配置する第2工程と、
前記プラズマ室および前記反応室の内部ガスを排気する第3工程と、
前記プラズマ源の全部又は一部にマイクロ波を照射し、前記プラズマ源からプラズマを発生させ、かつ、反応室にプラズマおよび原料ガスを供給する第4工程と、を有し、
該第4工程において、前記プラズマ源に磁場モードのマイクロ波を照射することを特徴とする薄膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属プラズマを利用した薄膜の形成装置および形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特定基板上に薄膜を形成するための装置としてプラズマCVDがあることは周知である。プラズマCVD装置は、減圧下においてプラズマを利用した化学気相成長(CVD)法により薄膜形成するものであり、代表的にはスパッタリング法がある。プラズマを気体から発生させる場合には、高電場により絶縁破壊を起こさせ、外部から高周波電力を与え、その放電を維持させることでプラズマを持続させ、プラズマにより活性となったイオン種を使って表面改質を行うことなどに利用されている。
【0003】
例えば、アルゴンガスを用いて、チタンやアルミニウムのターゲットにRFバイアスを印加してプラズマを発生させ、同時に窒素を供給することによりTiNやAlNを形成することができる。さらに、半導体製造工程では、チタンやアルミニウムを含む有機金属ガスを用いるとともに窒素を供給し、シリコン基板を高温にすることによりガスを分化して、TiNやAlNを形成している。
【0004】
また、固体を用いて、その固体を構成する元素を主として金属蒸気(原子プラズマ)を発生させる方法が開発されている(特許文献1参照)。この技術は、金属材料とセラミックス体との混合体に、マイクロ波を照射して加熱し、金属材料を蒸発させることによって金属蒸気を発生させるものであった。使用するマイクロ波の発生には、マルチモードアプリケータおよびシングルモードアプリケータを使用できるとされている。そして、このように発生させた金属蒸気は、特に、マグネシウム、カルシウム、ナトリウムまたはカリウムなどのアルカリ金属を中心とする材料を採用することにより、酸化金属の還元剤として利用できるものであった。
【0005】
なお、プラズマにより活性となったイオンを還元剤として利用する技術として、特許文献2および3に開示される技術がある。これらの技術は、いずれもマイクロ波の照射により金属材料とセラミックス体との混合物を加熱し、金属材料を蒸発させることを基本としたものであった。また、非特許文献1は、酸化スカンジウムを還元することができることが開示され、非特許文献2は、酸化バナジウムを還元する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-141190号公報
【特許文献2】特開2018-178180号公報
【特許文献3】特開2018-178234号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S. Fujii, E. Suzuki, N. Inazu, S. Tsubaki, J. Fukushima, H. Takizawa, and Y. Wada, “Micro-wave Irradiation Process for Al Cs Alloy Production,” Scientific Reports, Vol. 1-, pp. 2689, February 14, 2020
【非特許文献2】N. Inazu et-al, “A facile formation of vanadium(0) by the reduction of vanadium pentoxide pelletized with magnesium oxide enabled by microwave irradiation,” Chemistry Select, Vol. 5, pp. 2949-2953, Mar. 2020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のプラズマCVDによる場合には、活性種の衝突により欠陥の発生が懸念されるものであり、また、気体を使用する場合には、基板を高温に維持させる必要があるため、基板が反ってしまう欠点があった。
【0009】
ところで、本願の発明者らは、1または2以上の空洞共振器を使用し、少なくとも一つの空洞共振器の中心に磁場強度分布を形成する手段(形式)として、マクロ波を照射することにより、金属のプラズマ源から金属プラズマを発生させ、還元対象となる酸化物を還元させる反応装置を開発した(特願2022-014599)。この技術は、プラズマ源とは別に還元対象の酸化物を収容し、同時に加熱することにより還元反応を実現させるものであった。
【0010】
本発明は、上記諸点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、従来のプラズマCVDによる欠点を解消すべく、空洞共振器にマイクロ波を照射することによって発生させた金属プラズマを利用し、基板に薄膜を形成する装置および薄膜の形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、薄膜形成装置に係る本発明は、以下の発明の手段を提供する。
[1] 金属、合金、金属間化合物及び炭素からなる群より選ばれる少なくとも1種のプラズマ源を収容するためのプラズマ室と、前記プラズマ室に連続して設けられ、薄膜を形成させる対象物を収容する反応室と、前記プラズマ室および反応室の内部ガスを排気する排気ポンプと、前記反応室内に設けられる放電電極および接地電極と、前記反応室内の電極に高周波電力を供給して高周波放電を生じさせる高周波電源と、少なくとも1つの空洞共振器と、前記プラズマ室を介して前記反応室に原料ガスを供給するガス供給部とを備え、 前記空洞共振器は、該空洞共振器の中心に磁場強度分布を形成する手段を有し、前記プラズマ源の全部又は一部にマイクロ波を照射し、前記プラズマ源からプラズマを発生させ、前記反応室内にプラズマを供給することを特徴とする薄膜形成装置。
[2] 前記空洞共振器には、さらにマイクロ波電力が投入され、前記プラズマ源からプラズマを発生させることを特徴とする前項1に記載の薄膜形成装置。
[3] 前記空洞共振器がシングルモード型であることを特徴とする前項1又は2に記載の薄膜形成装置。
[4] 前記プラズマ源は、導電率が3000S/m以上であることを特徴とする前項1~3の何れか一項に記載の薄膜形成装置。
[5] 前記プラズマ源となる金属は、アルミニウム、チタニウム、鉄、カルシウムまたはマグネシウムのいずれかであり、前記プラズマ源となる合金は、アルミニウム合金、チタン合金、カルシウム合金、鉄合金またはマグネシウム合金のいずれかであり、前記プラズマ源となる金属間化合物は、アルミニウム含有金属化合物、チタニウム含有金属化合物、鉄含有金属化合物、カルシウム含有金属間化合物またはマグネシウム含有金属化合物のいずれかである前項1~4の何れか一項に記載の薄膜形成装置。
[6] 前記プラズマ源としては、前記金属、合金又は金属間化合物にセラミックを混合させた混合体でもよく、前記セラミックスは、ジルコニア、石英、アルミナ、窒化ホウ素、炭化ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム及び窒化アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種から選択することを特徴とする前項1~4の何れか一項に記載の薄膜形成装置。
[7] 前記反応室は、電極を平行平板型もしくはバレル型とするものまたは反応室にコイルが巻かれたものである前項1~6の何れか一項に記載の薄膜形成装置。
[8] 前項1~7のいずれかに記載の薄膜形成装置を使用する薄膜形成方法であって、 プラズマ室内に、金属、合金、金属間化合物、金属とセラミックスとの混合体、合金とセラミックスとの混合体、金属間化合物とセラミックスとの混合体及び炭素からなる群より選ばれる少なくとも1種のプラズマ源を配置する第1工程と、反応室内の接地電極に基板を配置する第2工程と、前記プラズマ室および前記反応室の内部ガスを排気する第3工程と、前記プラズマ源の全部又は一部にマイクロ波を照射し、前記プラズマ源からプラズマを発生させ、かつ、反応室にプラズマおよび原料ガスを供給する第4工程と、を有し、該第4工程において、前記プラズマ源に磁場モードのマイクロ波を照射することを特徴とする薄膜形成方法。
【0012】
すなわち、薄膜形成装置に係る本発明は、金属、合金、金属間化合物及び炭素からなる群より選ばれる少なくとも1種のプラズマ源を収容するためのプラズマ室と、前記プラズマ室に連続して設けられ、薄膜を形成させる対象物を収容する反応室と、前記プラズマ室および反応室の内部ガスを排気する排気ポンプと、前記反応室内に設けられる放電電極および接地電極と、前記反応室内の電極に高周波電力を供給して高周波放電を生じさせる高周波電源と、少なくとも1つの空洞共振器と、前記プラズマ室を介して前記反応室に原料ガスを供給するガス供給部とを備え、前記空洞共振器は、該空洞共振器の中心に磁場強度分布を形成する手段(形式)を有し、前記プラズマ源の全部又は一部にマイクロ波を照射し、前記プラズマ源からプラズマを発生させ、前記反応室内にプラズマを供給することを特徴とする。
【0013】
上記構成の薄膜形成装置によれば、プラズマ室に収容される金属等のプラズマ源に対して、空洞共振器の中心に磁場強度分布を形成する手段により、マイクロ波を照射することによって、金属プラズマを発生させることができる。このプラズマ室に連続して設けられる反応室内では高周波放電を生じさせることにより、プラズマ室で発生したプラズマを維持させることができる。また、金属プラズマに含まれるラジカルな金属原子は、プラズマ室を通過した原料ガスと反応し、反応室内に設置した対象物、例えば基板表面に薄膜を形成することができる。基板は接地電極に設置され、当該接地電極に加熱手段を設け、基板を適度な温度に維持させてもよく、基板の適度な温度上昇により、薄膜形成を容易にすることができる。前記対象物の形状は何でもよく、基板以外の形状であってもよい。
【0014】
本発明に係る薄膜形成装置では、前記空洞共振器にはマイクロ波電力が投入され、前記プラズマ源からプラズマを発生させることが好ましく、また、空洞共振器がシングルモード型であることが好ましい。ここで、シングルモードとは、プラズマ室に対し、発生する磁場モードや電場モードの定在波の腹部分を一つとするものである。マイクロ波照射をシングルモードとすることにより、プラズマ源を容易にプラズマ化することができる。
【0015】
本発明に係る薄膜形成装置では、前記プラズマ源が、導電率が3000S/m以上であることが好ましい。プラズマ源を所定の導電率とすることにより、空洞共振器によるプラズマの安定的な発生を可能とする。
【0016】
本発明に係る薄膜形成装置では、前記プラズマ源となる金属は、アルミニウム、チタニウム、鉄、カルシウムまたはマグネシウムのいずれかであり、前記プラズマ源となる合金は、アルミニウム合金、チタン合金、カルシウム合金、鉄合金またはマグネシウム合金のいずれかであり、前記プラズマ源となる金属間化合物は、アルミニウム含有金属化合物、チタニウム含有金属化合物、鉄含有金属化合物、カルシウム含有金属間化合物またはマグネシウム含有金属化合物のいずれかであることが好ましい。これらのプラズマ源は、プラズマの発生が可能であり、薄膜形成に利用可能である。
【0017】
本発明に係る薄膜形成装置では、前記プラズマ源としては、前記金属、合金又は金属間化合物にセラミックを混合させた混合体でもよく、前記セラミックスは、ジルコニア、石英、アルミナ、窒化ホウ素、炭化ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム及び窒化アルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種から選択することができる。セラミックスを混合させることによりプラズマを発生させやすくすることができる。
【0018】
本発明に係る薄膜形成装置では、前記反応室は、電極を平行平板型もしくはバレル型とするものまたは反応室にコイルが巻かれたものとすることができる。いずれの場合においても反応室内に高周波放電を生じさせることができる。
【0019】
他方、薄膜形成方法に係る本発明は、プラズマ室内に、金属、合金、金属間化合物、金属とセラミックスとの混合体、合金とセラミックスとの混合体、金属間化合物とセラミックスとの混合体及び炭素からなる群より選ばれる少なくとも1種のプラズマ源を配置する第1工程と、反応室内の接地電極に基板を配置する第2工程と、前記プラズマ室および前記反応室の内部ガスを排気する第3工程と、前記プラズマ源の全部又は一部にマイクロ波を照射し、前記プラズマ源からプラズマを発生させ、かつ、反応室にプラズマおよび原料ガスを供給する第4工程と、を有し、該第4工程において、前記プラズマ源に磁場モードのマイクロ波を照射することを特徴とする。
【0020】
上記構成の薄膜形成方法によれば、プラズマ室では、磁場モードのマイクロ波照射により、プラズマ源を加熱し、プラズマ源からプラズマを発生させ、同時に原料ガスを反応室に供給し、反応室では、プラズマ室で発生させたプラズマを維持させつつ、原料ガスとの反応により、設置基板に配置した基板表面に薄膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、空洞共振器にマイクロ波を照射することによって発生させた金属プラズマを利用し、基板に薄膜を形成する装置を提供できる。また、この薄膜形成装置を利用して、成膜面の損傷および基板の反りを抑えた良好な薄膜形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】薄膜形成装置に係る実施形態を示す説明図の一例である。
【
図2】
図1中のII-II線による断面図の一例である。
【
図3】薄膜形成装置に係る実施形態の作動状態を示す説明図の一例である。
【
図4】薄膜形成方法の工程概要を示す説明図の一例である。
【
図5】実験結果による走査型電子顕微鏡によるSEM像の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、以下に示す実施形態は。本発明の例示であって、本発明が各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲において、各要素を適宜変更し、または他の要素を追加することは可能である。
【0024】
本発明の薄膜形成装置は、金属、合金、金属間化合物及び炭素からなる群より選ばれる少なくとも1種のプラズマ源を収容するためのプラズマ室と、前記プラズマ室に連続して設けられ、薄膜を形成させる対象物を収容する反応室と、前記プラズマ室および反応室の内部ガスを排気する排気ポンプと、前記反応室内に設けられる放電電極および接地電極と、前記反応室内の電極に高周波電力を供給して高周波放電を生じさせる高周波電源と、少なくとも1つの空洞共振器と、前記プラズマ室を介して前記反応室に原料ガスを供給するガス供給部とを備え、前記空洞共振器は、該空洞共振器の中心に磁場強度分布を形成する形式を有し、前記プラズマ源の全部又は一部にマイクロ波を照射し、前記プラズマ源からプラズマを発生させ、前記反応室内にプラズマを供給するものである。そこで、薄膜形成装置の実施形態としては、次のような構成がある。
【0025】
<薄膜形成装置の構成>
図1は、本実施形態に係る薄膜形成装置の構成を示す一例である。また、
図2は、
図1中のII-II線における断面の一例を示している。これらの図に示されるように、本実施形態の薄膜形成装置100は、大別すると、プラズマ室10と、反応室20とで構成されるものである。プラズマ室10は、専ら金属プラズマを発生させるためのものであり、反応室20は、プラズマに含まれるラジカルな金属原子と原料ガスとを反応させ、薄膜を基板Xに形成させるためのものである。
【0026】
プラズマ室10は、例えば、二重の石英管11,12によって構成され、外管11の一端(先端)は、反応室20の内部において開口しており、他端(後端)は、原料ガスの供給ための供給管13が接続されている。プラズマ源Yは、内管12に収容されるものである。なお、プラズマ室10を二重構造とし、内管12にプラズマ源Yを収容することにより、蒸着物の析出が生じた際に、内管12を交換可能とするためである。これによりプラズマ室10を構成する二重管全体の交換の頻度を低減させている。
【0027】
プラズマ室10は、円筒状に形成される空洞共振器30の空洞部の内部に貫通させた状態で設置されるものである。空洞共振器30には、チューナ40が接続され、チューナ40にはパワーメータ50が接続され、パワーメータ50にはマイクロ波電源60が接続されている。この空洞共振器30は、例えば、2.45GHzにて磁場強度分布が円筒の中心に形成されるシングルモードアプリケータである。マイクロ波電源60の出力および周波数を制御することにより、パワーメータ50およびチューナ40を介して、空洞共振器30に高周波電力がかかり、空洞共振器30は、プラズマ室10(内管12)の内部空間に配置したプラズマ源Yに対し、シングルモード型の磁場の定在波を作用させることができる。これにより、プラズマ源Yからプラズマを発生させることができる。なお、磁場モードを使用することにより、プラズマ源の金属蒸発の発生、系内への金属の析出がある場合であっても、プラズマの発生を継続し得ることとなる。また、空洞共振器30の周波数は、例えば、915MKz、2.45GHz、5.8GHzとすることが好ましく、高周波出力は、50~2000Wとすることが好ましい。
【0028】
プラズマ源Yは、金属、合金、金属間化合物及び炭素からなる群より選ばれる少なくとも1種である。このプラズマ源Yは、プラズマを発生させやすくするために、常温・常圧において導電率が3000S/m以上であることが好ましい。プラズマ源Yとなる金属は、アルミニウム、チタニウム、鉄、カルシウムまたはマグネシウムのいずれかであり、プラズマ源Yとなる合金は、アルミニウム合金、チタン合金、カルシウム合金、鉄合金またはマグネシウム合金のいずれかであり、また、プラズマ源Yとなる金属間化合物は、アルミニウム含有金属化合物、チタニウム含有金属化合物、鉄含有金属化合物、カルシウム含有金属間化合物またはマグネシウム含有金属化合物のいずれかである。炭素は、グラファイトであることが好ましい。これらのプラズマ源Yはプラズマの発生を容易にするものである。なお、プラズマ源Yは、ハンドリングの向上のため、アルミナボードに入れて、内管12の中に配置することが好ましく、粉状、粒状、板状または箔状のいずれかで使用することができる。
【0029】
供給する原料ガスは、上記プラズマ源Yと反応させるべき元素を含む気体であり、例えば、窒化物による薄膜形成の場合は、窒素ガスであり、その他の所望の元素を含むガスを供給することができる。
【0030】
反応室20は、室内を減圧化するための排気部21が設けられ、内部ガスを排気する排気ポンプ(図示省略)に接続される。この排気ポンプによる内部ガスの排気により、反応室20の内部を減圧化し、さらに、反応室20に連続して設けられるプラズマ室10の内部も減圧化することができる。
【0031】
また、反応室20の内部には、放電電極22および接地電極23が設けられている。放電電極22には、高周波電力を供給するための高周波電力装置70が接続されている。高周波電力装置70は、高周波電源71と、この高周波電源71に接続されるマッチングボック72と、ブロッキングコンデンサ73が順次接続されている。従って、反応室20の内部における両電極22,23の間に高周波放電を生じさせ、プラズマを維持させることができる。
【0032】
高周波電源71の周波数は、13.56MHzとしてRF放電を生じさせることが好ましく、接地電極23は内部にヒータを有して加熱可能な構成とすることが好ましい。図示のように平行平板電極により容量結合型とすることが好ましいが、それ以外にバレット型としてもよい。また、誘導結合型として、高周波誘導コイルによる高周波の磁界を印加してもよい。
【0033】
本実施形態の構成は、上記のとおりであるから、
図3に示すように、プラズマ室10において発生した金属プラズマは、反応室20において、高周波放電によりプラズマが維持されるとともに、反応室20に供給される原料ガスとの反応により、金属原子のラジカルと原料ガスのイオンが生成され、両者が結合した分子を基板Xの表面に堆積させることができる。
【0034】
<薄膜形成方法>
本発明の薄膜形成方法は、前述の薄膜形成装置を使用する薄膜形成方法であって、プラズマ室内に、金属、合金、金属間化合物、金属とセラミックスとの混合体、合金とセラミックスとの混合体、金属間化合物とセラミックスとの混合体及び炭素からなる群より選ばれる少なくとも1種のプラズマ源を配置する第1工程と、反応室内の接地電極に基板を配置する第2工程と、前記プラズマ室および前記反応室の内部ガスを排気する第3工程と、前記プラズマ源の全部又は一部にマイクロ波を照射し、前記プラズマ源からプラズマを発生させ、かつ、反応室にプラズマおよび原料ガスを供給する第4工程と、を有し、該第4工程において、前記プラズマ源に磁場モードのマイクロ波を照射することである。
【0035】
そこで、例えば、
図4に示すような手順で行うことができる。使用する薄膜形成装置は、
図1に示す装置100が用いられる。この装置100を使用する場合、プラズマ室内の二重管11,12のうちの内管12に、アルミナボードに入れたプラズマ源Yを設置する(第1工程)。引き続き、反応室内の接地電極23に基板Xを設置する(第2工程)。ここまでは準備工程である。なお、接地電極23に内部ヒータを有する場合は、第2工程においてヒータを作動させ、基板を適宜加熱しておくことが好ましい。
【0036】
次に、排気ポンプを作動させ、反応室20の内部ガスを排出させて減圧する(第3工程)。反応室20の減圧に伴って、これに連続するプラズマ室10の内部ガスも同時に排出され、減圧化されることとなる。プラズマ室10および反応室20がともに十分に減圧化された状態において、空洞共振器30を作動させて、磁場モードのマイクロ波照射により、プラズマ源を加熱し、プラズマ源からプラズマを発生させ、同時に原料ガスを反応室に供給する。反応室20では、高周波電力装置70を作動させて、内部に高周波放電を生じさせる。上記と同時に原料ガスを反応室20に供給する(第4工程)。このような工程を経由することにより、プラズマ源として使用する金属原子のラジカルと原料ガスのイオンが反応室20の内部で生成され、両者が結合した分子を基板Xの表面に堆積させることができる。
【実施例0037】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定さ
れるものではない。
【0038】
<実験例1>
金属のみによるプラズマ源を使用した場合に、金属のみのプラズマが発生することについて実験した。実験は、マグネシウムおよびカルシウムについて行った。実験に使用した装置は、
図1に示す薄膜形成装置100のうちのプラズマ室10および空洞共振器30のみを使用し、原料ガスの供給は行わないものとした。プラズマ室10を形成する二重の石英管11,12のうち、内管12にマグネシウムを1g詰め、空洞共振器30としては、2.45GHzの磁場が中心に形成されるシングルモードアプリケータ(TM110モード)を使用し、電力80Wを投入した。また、カルシウムについても同様の手法で行った。その結果、マグネシウムおよびカルシウムのいずれについてもプラズマを発生させることができたことを確認した。
【0039】
<実験例2>
薄膜形成の実験を行った。実験は、
図1に示す薄膜形成装置100を使用し、金属発生部分のみを使用し、アモルファスカーボン膜の形成を試みた。プラズマ室10を形成する二重の石英管11,12のうちの内管12(内径8mm)に、カーボンフェルトを1cm程度詰め、石英板(基板)を内管12内に設置し、空洞共振器30としては、2.45GHzの磁場が中心に形成されるシングルモードアプリケータ(TM110モード)を使用し、電力80Wを投入した。原料ガスには、窒素を使用した。上記成膜条件を10分程度継続した後、全ての装置を停止し、石英板(基板)を取り出し走査型電子顕微鏡により表面を確認したところ、
図5に示すように、アモルファスカーボン膜の形成を確認することができた。
【0040】
本実験例によれば、プラズマ室10において、N2,CNプラズマを発生させることができ、基板表面にアモルファスカーボン膜を形成することができることが確認された。従って、他のプラズマ源となる金属材料を使用した薄膜の形成が可能である。例えば、半導体工程において頻繁に使用される窒化物(TiNやAlN)の薄膜形成も可能である。
【0041】
これにより、通常のスパッタリングのような欠陥の発生や基板の反りを防止しつつ所望の金属材料による薄膜形成が可能となる。