(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142278
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】クレビス継手
(51)【国際特許分類】
F16D 3/16 20060101AFI20241003BHJP
F16C 11/04 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F16D3/16 G
F16C11/04 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054411
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】黒坂 隆太
(72)【発明者】
【氏名】増井 亮介
(72)【発明者】
【氏名】野口 泰隆
(72)【発明者】
【氏名】野上 裕
(72)【発明者】
【氏名】藤田 卓也
【テーマコード(参考)】
3J105
【Fターム(参考)】
3J105AA04
3J105AA06
3J105AB09
3J105AC01
(57)【要約】
【課題】ピン孔の周辺に発生する応力を低減できるクレビス継手を提供する。
【解決手段】クレビス継手(100)は第1クレビス(1)と第2クレビス(2)とピン(3)を備える。第1クレビス(1)は2つの第1本体部(12a,12b)を含み、ピン(3)が挿入される第1孔(121a,121b)を有する。第2クレビス(2)は第2本体部(22)を含み、ピン(3)が挿入される第2孔(221)を有する。第1本体部(12a,12b)のうち第1孔(121a,121b)の端部(122a,122b)、及び第2本体部(22)のうち第2孔(221)の両端部(222,223)に、面取り(4)が設けられる。面取り(4)は、軸方向の面取り長さLが径方向の面取り長さDよりも大きい。面取り長さLは、第2本体部(22)の板厚(t0)の4.2~14%である。面取り長さDは、第2孔(221)の直径(d0)の0.1~1.0%である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの第1本体部を含み、前記2つの第1本体部の各々に第1孔を有する第1クレビスと、
前記2つの第1本体部の間に配置される第2本体部を含み、前記第2本体部に前記第1孔と同じ直径の第2孔を有する第2クレビスと、
前記第1孔及び前記第2孔に挿入されるピンと、を備え、
前記2つの第1本体部のうち前記第1孔の前記第2本体部側の端部、及び前記第2本体部のうち前記第2孔の両端部に、面取りが設けられ、
前記面取りは、前記ピンの軸方向における面取り長さLが、前記ピンの径方向における面取り長さDよりも大きく、
前記面取り長さLは、前記第2本体部の板厚の4.2%~14%であり、
前記面取り長さDは、前記第2孔の前記直径の0.1%~1.0%である、クレビス継手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、クレビス継手に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの部材を接続する継手として、クレビス継手が知られている。一般に、クレビス継手は、二山クレビスと一山クレビスとをピンを介して組合せることで、自由度を持つ関節を形成することができる。クレビス継手は、しばしばシリンダやボールねじのような直線運動をする部材の端部に取り付けられる。そのため、クレビスは、直線運動に起因した引張荷重及び圧縮荷重により大きな負荷を受けやすい。過大な負荷によってクレビスが塑性変形すると、クレビスで接続されている部材の性能が低下するおそれがあり、場合によっては、クレビスが破損するおそれがある。
【0003】
クレビス継手は、ダンパと建物とを接続するために使用することができる。ダンパとしては、ボールねじを用いた渦電流式ダンパや、油圧シリンダを用いた流体式ダンパなどが用いられる。
【0004】
例えば、特開2010-7685号公報(特許文献1)、及び特開2006-38117号公報(特許文献2)には、オイルダンパのジョイント部構造が記載されている。これらの特許文献1及び2のジョイント部構造は、クレビスを含む特殊な継手構造を有する。このジョイント部構造により、建物の架構からオイルダンパに加わる面外方向の力を逃がすことができる、と特許文献1及び2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-7685号公報
【特許文献2】特開2006-38117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、ダンパと建物とを接続するクレビス継手において、地震などで建物に大きな揺れが発生したとき、クレビスは過大な負荷を受ける。具体的には、一山クレビスが建物側に取り付けられ、二山クレビスがダンパ本体側に取り付けられる場合、ピンを介して接続される一山クレビス及び二山クレビスにおいて、ピン孔の周辺に高い応力が発生する。この応力がクレビスの材料の降伏点を超えると、クレビスはピン孔の周辺から塑性変形を始める。塑性変形が起こると、その変形は除荷後にも残り続け、ピン孔に対しピンのガタツキが発生する。これにより、建物からダンパへの荷重伝達効率が低下し、ダンパの性能が低下するおそれがある。また、ピン孔の周辺に発生する応力がクレビスの材料の引張強度を超えると、クレビスが破損するおそれがある。
【0007】
特許文献1及び2では、クレビスの塑性変形について着目されていない。当然に、特許文献1及び2には、その塑性変形がクレビスのピン孔の周辺に発生する応力に起因することも着目されていない。
【0008】
本開示の目的は、クレビスのピン孔の周辺に発生する応力を低減することができるクレビス継手を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係るクレビス継手は、第1クレビスと、第2クレビスと、ピンとを備える。第1クレビスは、2つの第1本体部を含む。第1クレビスは、2つの第1本体部の各々に第1孔を有する。第2クレビスは、2つの第1本体部の間に配置される第2本体部を含む。第2クレビスは、第2本体部に第1孔と同じ直径の第2孔を有する。ピンは、第1孔及び第2孔に挿入される。2つの第1本体部のうち第1孔の第2本体部側の端部、及び第2本体部のうち第2孔の両端部に、面取りが設けられる。面取りは、ピンの軸方向における面取り長さLが、ピンの径方向における面取り長さDよりも大きい。面取り長さLは、第2本体部の板厚の4.2%~14%である。面取り長さDは、第2孔の直径の0.1%~1.0%である。
【発明の効果】
【0010】
本開示に係るクレビス継手によれば、クレビスのピン孔の周辺に発生する応力を低減することができる。その結果、クレビスのピン孔の周辺に発生する応力に起因するクレビスの塑性変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るクレビス継手の一例を示す正面図である。
【
図4】
図4は、クレビス継手に引張荷重が作用したときの様子を示す模式図である。
【
図5】
図5は、クレビス継手に圧縮荷重が作用したときの様子を示す模式図である。
【
図6】
図6は、実施例の解析において測定点を示す模式図である。
【
図7】
図7は、実施例における解析結果を示す図である。
【
図8】
図8は、実施例における解析結果を示す図である。
【
図9】
図9は、実施例における解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
従来、ピンを介して接続された一山クレビス及び二山クレビスで構成されるクレビス継手について、クレビスのピン孔の周辺に発生する応力を低減することは着目されていなかった。そのため、本発明者らは、試行錯誤で数々の試験及び解析を実施し、その結果、一山クレビスにおいてピン孔の両端部に高い応力が発生し、二山クレビスにおいてピン孔の一山クレビス側の端部に高い応力が発生することを突き止めた。さらに、本発明者らは、各ピン孔の端部に発生する応力を低減するため、ピン孔の形状と発生応力の関係を調査した。具体的には、本発明者らは、ピン孔の周辺における応力集中を低減する観点から、クレビスのうちピン孔の端部に面取りを設けることを思いつき、面取り無し、及び面取り有りなど、様々な形状の面取りについて、鋭意検討を重ねた。その結果、下記の知見を得た。
【0013】
面取り長さをピン孔の軸方向と径方向とで異なるようにすればよい。特に、ピン孔の軸方向の面取り長さをピン孔の径方向の面取り長さよりも大きくするとともに、ピン孔の軸方向の面取り長さ、及びピン孔の径方向の面取り長さを、それぞれ適当な範囲内に制限すれば、応力の低減効果が高まる。ここで、ピンはピン孔に挿入されるため、ピン孔の軸方向はピンの軸方向に相当し、ピン孔の径方向はピンの径方向に相当する。
【0014】
本開示に係るクレビス継手は、上記知見に基づいて完成されたものである。以下、本開示の実施形態について説明する。なお、以下の説明では、本開示の実施形態について例を挙げて説明するが、本開示は以下で説明する例に限定されない。以下の説明において特定の数値や特定の材料を例示する場合があるが、本開示はそれらの例示に限定されない。
【0015】
本開示の実施形態に係るクレビス継手は、第1クレビスと、第2クレビスと、ピンとを備える。第1クレビスは、2つの第1本体部を含む。第1クレビスは、2つの第1本体部の各々に第1孔を有する。第2クレビスは、2つの第1本体部の間に配置される第2本体部を含む。第2クレビスは、第2本体部に第1孔と同じ直径の第2孔を有する。ピンは、第1孔及び第2孔に挿入される。2つの第1本体部のうち第1孔の第2本体部側の端部、及び第2本体部のうち第2孔の両端部に、面取りが設けられる。面取りは、ピンの軸方向における面取り長さLが、ピンの径方向における面取り長さDよりも大きい。面取り長さLは、第2本体部の板厚の4.2%~14%である。面取り長さDは、第2孔の直径の0.1%~1.0%である(第1の構成)。
【0016】
第1の構成では、クレビス継手は、2つの第1本体部を含む第1クレビスと、1つの第2本体部を含む第2クレビスとを備え、第1クレビスの第1本体部と第2クレビスの第2本体部とが、第1孔及び第2孔に挿入されたピンを介して接続されている。すなわち、クレビス継手は、二山クレビスと、一山クレビスとを備え、二山クレビスと一山クレビスとが、各孔に挿入されたピンを介して接続されている。ピンを介して接続された第1クレビスの第1本体部及び第2クレビスの第2本体部において、第1孔の第2本体部側の端部及び第2孔の両端部に面取りが設けられている。面取りは、ピンの径方向における面取り長さDと比較して、ピンの軸方向における面取り長さLが大きくなるように形成されている。さらに、面取り長さLは、1つの第2本体部の板厚の4.2%~14%であり、面取り長さDは、第2孔の直径の0.1%~1.0%である。要するに、第1クレビス及び第2クレビスのうち各孔(第1孔及び第2孔)の端部において、面取り長さL(軸方向の面取り長さ)が面取り長さD(径方向の面取り長さ)よりも大きい面取りが設けられ、面取り長さL及び面取り長さDがそれぞれ適当な範囲内に制限されている。したがって、第1の構成に係るクレビス継手によれば、クレビスのピン孔の周辺に発生する応力を低減することができる。その結果、クレビスのピン孔の周辺に発生する応力に起因するクレビスの塑性変形を抑制することができる。
【0017】
以下、本開示の実施形態に係るクレビス継手について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0018】
図1は、本実施形態に係るクレビス継手の一例を示す正面図である。
図1を参照して、クレビス継手100は、第1クレビス1と、第2クレビス2と、ピン3とを備える。クレビス継手100は、2つの部材(図示略)を接続する継手である。例えば、2つの部材の一方をダンパとし、他方を建物の架構とすることができる。ダンパとして、例えば、渦電流式ダンパを用いることができる。あるいは、ダンパとして、流体式ダンパを用いることができる。ただし、クレビス継手100によって接続される対象は、ダンパ及び建物に限定されず、自動車部品などであってもよい。
【0019】
第1クレビス1は、ベース部11と、2つの第1本体部12a,12bとを含む。ベース部11は、クレビス継手100によって接続される2つの部材の一方、例えばダンパ本体に取り付けられる。ベース部11は、板状を有する。ただし、ベース部11の形状は、他の形状であってもよい。2つの第1本体部12a,12bは、ベース部11の表面から突出している。2つの第1本体部12a,12bは、ベース部11と強固に接合されている。接合方法は、例えば溶接である。
【0020】
2つの第1本体部12a,12bは、板状を有する。2つの第1本体部12a,12bは、クレビス継手100の中心線CLに対し、互いに反対側に配置されている。また、2つの第1本体部12a,12bは、互いに対向し、一定の間隔をあけて並列に配置されている。第1本体部12aは、中心線CLに対し、第1本体部12bと対称な形状を有する。ただし、第1本体部12aの形状は、第1本体部12bと対称でなくてもよい。すなわち、第1本体部12aの形状は、第1本体部12bと異なっていてもよい。
【0021】
2つの第1本体部12a,12bは、それぞれ第1孔121a,121bを有する。第1孔121aは、第1本体部12aを板厚方向に貫通する。これと同様に、第1孔121bは第1本体部12bを板厚方向に貫通する。第1孔121aは、第1孔121bと同一軸上に設けられている。第1孔121aの直径は、第1孔121bの直径と実質的に同じである。このような第1クレビス1は、いわゆる二山クレビスである。
【0022】
第2クレビス2は、ベース部21と、1つの第2本体部22とを含む。ベース部21は、クレビス継手100によって接続される2つの部材の他方、例えば建物の架構や基礎に取り付けられる。ベース部21は、板状を有する。ただし、ベース部21の形状は、他の形状であってもよい。第2本体部22は、ベース部21の表面から突出している。第2本体部22は、ベース部21と強固に接合されている。接合方法は、例えば溶接である。
【0023】
第2本体部22は、板状を有する。第2本体部22は、クレビス継手100の中心線CLと重なるように配置されている。また、第2本体部22は、第1本体部12aと第1本体部12bとの間に配置されている。第2本体部22と第1本体部12aとの間、及び第2本体部22と第1本体部12bとの間には、比較的小さい隙間が設けられている。第2本体部22の板厚は、第1本体部12a,12bの板厚よりも大きい。
【0024】
第2本体部22は、第2孔221を有する。第2孔221は、第2本体部22を板厚方向に貫通する。第2孔221は、2つの第1孔121a,121bと同一軸上に設けられている。第2孔221の直径は、2つの第1孔121a,121bの直径と実質的に同じである。このような第2クレビス2は、いわゆる一山クレビスである。
【0025】
ピン3は、円柱状を有する。ピン3の直径は、第1孔121a,121b、及び第2孔221の各直径よりも僅かに小さい。ピン3は、第1本体部12aの第1孔121a、第2本体部22の第2孔221、及び第1本体部12bの第1孔121bに挿入される。各孔121a,221,121bに挿入されたピン3によって、第1本体部12a,12bと第2本体部22とが接続される。すなわち、ピン3によって、第1クレビス1と第2クレビス2とが接続される。これにより、第1クレビス1は、第2クレビス2に対してピン3の軸周りに回動可能に構成される。なお、図示は省略しているが、ピン3の両端には、抜け防止用の金具が取り付けられる。
【0026】
図2及び
図3を参照して、本実施形態に係るクレビス継手100の構成をさらに説明する。
図2は、
図1に示すクレビス継手100の断面図である。
図3は、
図2の一部を拡大した断面図である。
図2及び
図3には、クレビス継手100をピン3の軸心に沿って切断したときの断面が示される。
図3には、第1本体部12aの第1孔121a、第2本体部22の第2孔221、及びピン3の様子が示される。
【0027】
図2を参照して、第1本体部12aにおいて、第1孔121aの第2本体部22側の端部122aに面取りが設けられている。すなわち、第1本体部12aにおいて、面取りは、第1孔121aの内側の端部122aに設けられている。さらに、第1本体部12aにおいて、第1孔121aの外側の端部123aに面取りが設けられていてもよい。
【0028】
第1本体部12bにおいて、第1孔121bの第2本体部22側の端部122bに面取りが設けられている。すなわち、第1本体部12bにおいて、面取りは、第1孔121bの内側の端部122bに設けられている。さらに、第1本体部12bにおいて、第1孔121bの外側の端部123bに面取りが設けられていてもよい。
【0029】
第2本体部22において、第2孔221の第1本体部12a側の端部222に面取りが設けられている。また、第2本体部22において、第2孔221の第1本体部12b側の端部223に面取りが設けられている。すなわち、第2本体部22において、面取りは、第2孔221の両端部222,223に設けられている。
【0030】
図3を参照して、第2本体部22において第2孔221の第1本体部12a側の端部222に設けられた面取り4は、一定の角度で傾斜したテーパ面を有している。面取り4において、面取り長さLは面取り長さDよりも大きい。本明細書において、面取り長さLは、ピン3の軸方向における面取り長さを意味し、面取り長さDは、ピン3の径方向における面取り長さを意味する。軸方向の面取り長さLは、第2本体部22の板厚t0(
図2)の4.2%~14%である。径方向の面取り長さDは、第2孔221の直径d0(
図2)の0.1%~1.0%である。
【0031】
第1本体部12aにおいて第1孔121aの第2本体部22側の端部122aに設けられた面取り4も、第2本体部22において第2孔221の端部222に設けられた面取り4と同様の構成を有する。このような面取り4の構成は、第2本体部22において第2孔221の第1本体部12b側の端部223に設けられた面取り、及び第1本体部12bにおいて第1孔121bの第2本体部22側の端部122bに設けられた面取りにも共通である。
【0032】
第1本体部12aにおいて、第1孔121aの外側(すなわち端部122aの反対側)の端部123aに面取りが設けられてもよい。例えば、ピン3を挿入しやすくするため、第1孔121aの外側の端部123aにいわゆるC面取り、つまり角度45°で傾斜したテーパ面を有する面取りが設けられてもよい。第1本体部12bにおいて、第1孔121bの外側の端部123bに設けられる場合も、同様のことが言える。
【0033】
[効果]
ピンを介して接続された二山クレビス(第1クレビス1)及び一山クレビス(第2クレビス2)で構成されるクレビス継手では、引張荷重及び圧縮荷重が作用することにより、クレビスのピン孔の周辺に高い応力が発生する。
図4及び
図5を参照して、その様子を具体的に説明する。
図4は、クレビス継手に引張荷重が作用したときの様子を示す模式図である。
図5は、クレビス継手に圧縮荷重が作用したときの様子を示す模式図である。言い換えると、
図4及び
図5は、
図2に相当する断面図である。
図4及び
図5には、荷重の負荷される方向を矢印で示し、高い応力が発生している部分に塗潰しを付している。
【0034】
図4を参照して、クレビス継手100に引張荷重が負荷された場合、第2クレビス2の第2本体部22において、第2孔221の両端部222,223のうちピン3に対してベース部21の反対側の部分に、ピン3が強く接触し、当該両端部222,223に高い応力が発生する。この反作用により、第1クレビス1の第1本体部12a,12bにおいて、第1孔121a,121bの第2クレビス2側の端部122a,122bのうちピン3に対してベース部11の反対側の部分に、ピン3が強く接触し、当該端部122a,122bに高い応力が発生する。
【0035】
図5を参照して、クレビス継手100に圧縮荷重が負荷された場合、第2クレビス2の第2本体部22において、第2孔221の両端部222,223のうちピン3に対してベース部21側の部分に、ピン3が強く接触し、当該両端部222,223に高い応力が発生する。この反作用により、第1クレビス1の第1本体部12a,12bにおいて、第1孔121a,121bの第2クレビス2側の端部122a,122bのうちピン3に対してベース部11側の部分に、ピン3が強く接触し、当該端部122a,122bに高い応力が発生する。
【0036】
このような状況に対し、本実施形態に係るクレビス継手100は、2つの第1本体部12a,12bを含む第1クレビス1と、1つの第2本体部22を含む第2クレビス2とを備え、第1本体部12a,12bと第2本体部とが、第1孔121a,121b及び第2孔221に挿入されたピン3を介して接続されている。すなわち、クレビス継手100は、二山クレビスと、一山クレビスとを備え、二山クレビスと一山クレビスとが、各孔121a,121b,221に挿入されたピン3を介して接続されている。ピン3を介して接続された第1本体部12a,12b及び第2本体部22において、第1孔121a,121bの第2本体部22側の端部122a,122b、及び第2孔221の両端部222,223に面取り4が設けられている。
【0037】
面取り4は、ピン3の径方向における面取り長さDと比較して、ピン3の軸方向における面取り長さLが大きくなるように形成されている。さらに、軸方向の面取り長さLは、1つの第2本体部22の板厚t0の4.2%~14%であり、径方向の面取り長さDは、第2孔221の直径d0の0.1%~1.0%である。要するに、第1クレビス1の第1孔121a,121bにおける第2本体部22側の端部122a,122b及び第2クレビス2の第2孔221における第1本体部12a,12b側の端部222,223において、面取り長さL(軸方向の面取り長さ)が面取り長さD(径方向の面取り長さ)よりも大きい面取り4が設けられ、面取り長さL及び面取り長さDがそれぞれ適当な範囲内に制限されている。したがって、本実施形態に係るクレビス継手100によれば、クレビスのピン孔の周辺に発生する応力を低減することができる。その結果、クレビスのピン孔の周辺に発生する応力に起因するクレビスの塑性変形を抑制することができる。
【0038】
面取り4における軸方向の面取り長さLが、第2本体部22の板厚t0の7.1%~14%であれば、クレビスのピン孔の周辺に発生する応力をより低減することができる。したがって、面取り長さLは、第2本体部22の板厚t0の7.1%~14%であることが好ましい。また、面取り4における径方向の面取り長さDが、第2孔221の直径d0の0.1%~0.3%であれば、クレビスのピン孔の周辺に発生する応力をより低減することができる。したがって、面取り長さDは、第2孔221の直径d0の0.1%~0.3%であることが好ましい。
【実施例0039】
本実施形態に係るクレビス継手100の効果を検証するため、弾性FEM解析(Abaqus Ver.2017:Dassault Systemes K.K.製)を実施した。具体的には、ダンパと建物とを接続するクレビス継手を模擬した解析を行った。さらに、ダンパ以外の用途で用いられるクレビス継手を模擬した解析を行った。ダンパ用のクレビス継手の解析では、実際のサイズを想定した解析モデル1を作成した。この解析モデル1では、第2クレビス(一山クレビス)について、第2本体部の板厚t0を70mmとし、第2孔の直径d0を90mmとし、ベース部の板厚を48mmとした。第1クレビス(二山クレビス)について、第1本体部の板厚を40mmとし、第1本体部間の距離を76mmとし、第1孔の直径を第2孔の直径d0と同じ90mmとした。ピンの直径を90mmとした。第1クレビス、第2クレビス、及びピンは、全て弾性体とした。ダンパ以外の用途のクレビス継手の解析では、解析モデル1と相似形でそのサイズを解析モデル1に対して1/5に縮小した解析モデル2を作成した。この解析モデル2では、例えば、第2本体部の板厚t0は14mm(=70mm×1/5)であり、第2孔の直径d0は18mm(=90mm×1/5)であった。
【0040】
解析モデル1,2に対し、ピン孔の端部に面取りを導入し、クレビスに150tonf(1470kN)の引張荷重又は圧縮荷重を与える弾性解析を実施した。その際、面取り長さD及び面取り長さLを変化させ、クレビスのピン孔の周辺に発生した相当応力を調査した。引張荷重を負荷した場合、第2クレビスにおいて、軸方向に沿って見て、第2孔の端部のうちピンに対してベース部の反対側の頂上を含む180°の範囲において、高い応力が分布した。圧縮荷重を負荷した場合、第2クレビスにおいて、軸方向に沿って見て、第2孔の端部のうちピンに対してベース部側の頂上を含む90°の範囲において、高い応力が分布した。これらの範囲において、面取り端部における節点の平均相当応力を算出し、この平均相当応力を比較することによって応力低減効果を評価した。
図6に、平均相当応力を算出した節点の位置を丸印で示す。
図6に示すように、節点は、面取り4のテーパ面と孔221,121a,121bとの交点である。
図7~
図14に結果を示す。
【0041】
図7~
図10は、面取り長さLの影響についてまとめた図である。
図7及び
図8には、モデル1の解析結果が示される。これらのうち、
図7には、圧縮荷重を負荷した場合の結果が示され、
図8には、引張荷重を負荷した場合の結果が示される。
図9及び
図10には、モデル1に対して1/5縮小サイズのモデル2の解析結果が示される。これらの図のうち、
図9には、圧縮荷重を負荷した場合の結果が示され、
図10には、引張荷重を負荷した場合の結果が示される。
【0042】
図11~
図14は、面取り長さDの影響についてまとめた図である。
図11及び
図12には、モデル1の解析結果が示される。これらのうち、
図11には、圧縮荷重を負荷した場合の結果が示され、
図12には、引張荷重を負荷した場合の結果が示される。
図13及び
図14には、モデル1に対して1/5縮小サイズのモデル2の解析結果が示される。これらの図のうち、
図13には、圧縮荷重を負荷した場合の結果が示され、
図14には、引張荷重を負荷した場合の結果が示される。
【0043】
図7に示すように、モデル1の圧縮荷重負荷において、面取り長さD及び面取り長さLを1mmとした場合、つまりダンパ用のクレビス継手においてピン孔に施される一般的なC面取りの場合、第2クレビスでの応力は696MPaであり、第1クレビスでの応力は、第2クレビスでの応力よりも小さくて512MPaであった。また、面取りを施さない場合、つまり面取り長さLが0mmの場合、第2クレビスでの応力は678MPaであり、C面取りの場合と比較して小さくなった。またこの場合、第1クレビスでの応力は、第2クレビスでの応力よりも小さくて449MPaであり、C面取りの場合と比較して小さくなった。これに対して、面取り長さDを0.1mm又は0.3mmに固定した条件では、第2クレビス及び第1クレビスでの応力は、いずれも、面取り長さLが10mm程度以下であれば、C面取り及び面取りなしの場合と比較して小さくなった。
【0044】
この結果より、モデル1の圧縮荷重負荷において、面取り長さLが面取り長さDよりも大きくて、面取り長さLが10mm程度以下であれば、第2クレビスでの応力及び第1クレビスでの応力は、いずれも、C面取り及び面取りなしの場合と比較して小さくなった。さらに、面取り長さLが3mm程度以上であれば、第2クレビスでの応力は、面取りなしの場合と比較して、10%以上小さくなった。特に、面取り長さLが5mm程度以上、10mm程度以下であれば、第2クレビスでの応力は、面取りなしの場合と比較して、面取り長さDが0.1mmのときは22%以上も小さくなり、面取り長さDが0.3mmのときでも19%以上小さくなった。第2クレビスでの応力は、第1クレビスでの応力よりも大きかった。
【0045】
図8に示すように、モデル1の引張荷重負荷において、面取り長さD及び面取り長さLを1mmとした場合、つまりC面取りの場合、第2クレビスでの応力は704MPaであり、第1クレビスでの応力は、第2クレビスでの応力よりも小さくて609MPaであった。また、面取りを施さない場合、つまり面取り長さLが0mmの場合、第2クレビスでの応力は682MPaであり、C面取りの場合と比較して小さくなった。またこの場合、第1クレビスでの応力は、第2クレビスでの応力よりも小さくて596MPaであり、C面取りの場合と比較して小さくなった。これに対して、面取り長さDを0.1mm又は0.3mmに固定した条件では、第2クレビス及び第1クレビスでの応力は、面取り長さLが10mm程度以下であれば、C面取り及び面取りなしの場合と比較して小さくなった。
【0046】
この結果より、モデル1の引張荷重負荷において、面取り長さLが面取り長さDよりも大きくて、面取り長さLが10mm程度以下であれば、第2クレビスでの応力及び第1クレビスでの応力は、いずれも、C面取り及び面取りなしの場合と比較して小さくなった。さらに、面取り長さLが3mm程度以上であれば、第2クレビスでの応力は、面取りなしの場合と比較して、10%以上小さくなった。特に、面取り長さLが5mm程度以上、10mm程度以下であれば、第2クレビスでの応力は、面取りなしの場合と比較して、面取り長さDが0.1mmのときは15%以上小さくなり、面取り長さDが0.3mmのときでも12%以上小さくなった。第2クレビスでの応力の大半は、第1クレビスでの応力よりも大きかった。
【0047】
図9に示すモデル2の圧縮荷重負荷において、面取り長さLに対する第2クレビスでの応力及び第1クレビスでの応力は、
図7に示すモデル1の圧縮荷重負荷のときとほぼ同様の傾向であった。また、
図10に示すモデル2の引張荷重負荷において、面取り長さLに対する第2クレビスでの応力及び第1クレビスでの応力は、
図8に示すモデル1の引張荷重負荷のときとほぼ同様の傾向であった。
【0048】
次に、
図11に示すように、モデル1の圧縮荷重負荷において、面取り長さLを5.0mm又は7.0mmに固定した条件では、第2クレビス及び第1クレビスでの応力は、面取り長さDが0.9mm程度以下であれば、C面取り及び面取りなしの場合と比較して小さくなった。
【0049】
この結果より、モデル1の圧縮荷重負荷において、面取り長さLが面取り長さDよりも大きくて、面取り長さDが0.9mm程度以下であれば、第2クレビスでの応力及び第1クレビスでの応力は、いずれも、C面取り及び面取りなしの場合と比較して小さくなった。特に、面取り長さDが0.1mm程度以上、0.9mm程度以下であれば、第2クレビスでの応力は、面取りなしの場合と比較して、17%以上小さくなった。第2クレビスでの応力は、第1クレビスでの応力よりも大きかった。
【0050】
図12に示すように、モデル1の引張荷重負荷において、面取り長さLを5.0mm又は7.0mmに固定した条件では、第2クレビス及び第1クレビスでの応力は、面取り長さLが0.9mm程度以下であれば、C面取り及び面取りなしの場合と比較して小さくなった。
【0051】
この結果より、モデル1の引張荷重負荷において、面取り長さLが面取り長さDよりも大きくて、面取り長さDが0.9mm程度以下であれば、第2クレビスでの応力及び第1クレビスでの応力は、いずれも、C面取り及び面取りなしの場合と比較して小さくなった。特に、面取り長さDが0.1mm程度以上、0.9mm程度以下であれば、第2クレビスでの応力は、面取りなしの場合と比較して、8%以上小さくなった。特に、面取り長さDが0.1mm程度以上、0.3mm程度以下であれば、第2クレビスでの応力は、面取りなしの場合と比較して、面取り長さLが5.0mmのときは11%以上小さくなり、面取り長さLが7.0mmのときは16%以上小さくなった。第2クレビスでの応力は、その大半が第1クレビスでの応力よりも大きかった。
【0052】
図13に示すモデル2の圧縮荷重負荷において、面取り長さDに対する第2クレビスでの応力及び第1クレビスでの応力は、
図11に示すモデル1の圧縮荷重負荷のときとほぼ同様の傾向であった。また、
図14に示すモデル2の引張荷重負荷において、面取り長さDに対する第2クレビスでの応力及び第1クレビスでの応力は、
図12に示すモデル1の引張荷重負荷のときとほぼ同様の傾向であった。
【0053】
上述した通り、
図7及び
図8に示すモデル1の結果と、
図9及び
図10に示すモデル2の結果とを比較すると、同様の傾向であった。これより、応力低減効果が大きくなる好適な面取り量は、絶対寸法ではなく、クレビスの大きさに比例して変化することが明らかとなった。これはダンパ用のクレビス継手に限らず、大きさの異なる様々な用途に用いられるクレビスでも同様の応力低減効果が見込める結果である。
【0054】
ピン孔の周辺の応力集中は、ピンとの接触に起因して発生するため、その発生応力にはピンの大きさや、ピンとクレビスの接触面積が影響すると考えられる。また、上述した通り、第2クレビスでの応力は第1クレビスでの応力より大きいため、第2クレビスにおいてピンとの接触の影響がより大きくなると考えられる。このため、面取り長さD及びLは、第2クレビスの第2孔221の直径d0、及び第2本体部22の板厚t0によって好適な範囲が変化すると推測される。そこで、今回の解析結果より、面取り長さD及びLの好適な範囲を検討した。
【0055】
まず、面取り長さDについて、面取りによる応力低減効果は、上記の通り、第2クレビス(一山クレビス)で特に大きい。そのため、第2クレビスの結果をもとに面取り長さの好適な範囲を決定した。
図7及び
図8に示すように、モデル1を用いた解析結果より、面取り長さLが、3mm程度以上、10mm程度以下であれば、C面取り及び面取りの無い条件で荷重を負荷した時と比べて、発生応力を低減させることができる。よって、面取り長さLは、第2クレビス(一山クレビス)の第2本体部の板厚t0の4.2~14%の範囲にすることで十分な応力低減効果が得られる。さらに、面取り長さLが、5mm程度以上、10mm程度以下であれば、発生応力をより低減させることができる。したがって、面取り長さLのより好ましい範囲は、第2本体部の板厚t0の7.1~14%である。
【0056】
図11及び
図12に示すように、モデル1を用いた解析結果より、面取り長さDが、0.1mm程度以上、0.9mm程度以下であれば、C面取り及び面取りの無い条件で荷重を負荷した時と比べて、発生応力を低減させることができる。よって、面取り長さDは、ピン孔(第2孔)の直径d0の0.1~1.0%の範囲にすることで十分な応力低減効果が得られる。さらに、面取り長さDが、0.1mm程度以上、0.3mm程度以下であれば、発生応力をより低減させることができる。したがって、面取り長さDのより好ましい範囲は、第2孔の直径d0の0.1~0.3%である。
【0057】
以上、本開示に係る実施形態を説明した。しかしながら、上述した実施形態は例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施形態を適宜変更して実施することができる。