(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142279
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】細胞培養治具及び細胞培養キット
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20241003BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C12M3/00
C12M1/00 A
C12M1/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054412
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青谷 正毅
(72)【発明者】
【氏名】末永 亮
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB11
4B029GA08
4B029GB09
4B029GB10
(57)【要約】
【課題】細胞培養バッグを細胞培養治具に保持して細胞培養を行うにあたり、細胞培養バッグの表面に発生したしわを容易に取り除くことができる細胞培養治具及び細胞培養キット。
【解決手段】細胞培養治具は、細胞培養バッグを保持する細胞培養治具であって、細胞培養バッグを載置する載置台と、載置台に載置された細胞培養バッグを押圧する押圧部材とを含み、載置台に載置された細胞培養バッグと、細胞培養バッグを押圧する押圧部材の押圧面との間の接触面に作用する摩擦力を低減する滑性化面を、押圧部材側に備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養バッグを保持する細胞培養治具であって、
前記細胞培養バッグを載置する載置台と、
前記載置台に載置された前記細胞培養バッグを押圧する押圧部材と
を含み、
前記載置台に載置された前記細胞培養バッグと、前記細胞培養バッグを押圧する前記押圧部材の押圧面との間の接触面に作用する摩擦力を低減する滑性化面を、前記押圧部材側に備える
ことを特徴とする細胞培養治具。
【請求項2】
前記細胞培養バッグと前記押圧部材との間に、前記滑性化面を備えるシート部材を介在させた、請求項1に記載の細胞培養治具。
【請求項3】
前記滑性化面は、粗面化処理が施された粗面化処理面である、請求項1又は2に記載の細胞培養治具。
【請求項4】
前記粗面化処理面の表面粗さ(Ra)が、0.01~0.70μmである、請求項3に記載の細胞培養治具。
【請求項5】
前記シート部材が、自己潤滑性材料からなる、請求項2に記載の細胞培養治具。
【請求項6】
細胞培養バッグと、
前記細胞培養バッグを載置する載置台及び前記載置台に載置された前記細胞培養バッグを押圧する押圧部材を含む、前記細胞培養バッグを保持する細胞培養治具と
を有する、細胞培養キットであって、
前記載置台に載置された前記細胞培養バッグと、前記細胞培養バッグを押圧する前記押圧部材の押圧面との間の接触面に作用する摩擦力を低減する滑性化面を、前記細胞培養バッグ側と前記押圧部材側のいずれか一方、又は両方に備える
ことを特徴とする細胞培養キット。
【請求項7】
前記細胞培養バッグと前記押圧部材との間に、前記滑性化面を備えるシート部材を介在させた、請求項6に記載の細胞培養キット。
【請求項8】
前記滑性化面は、粗面化処理が施された粗面化処理面である、請求項6又は7に記載の細胞培養キット。
【請求項9】
前記粗面化処理面の表面粗さ(Ra)が、0.01~0.70μmである、請求項8に記載の細胞培養キット。
【請求項10】
前記シート部材が、自己潤滑性材料からなる、請求項7に記載の細胞培養キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養治具及び細胞培養キットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬品の生産や、遺伝子治療、再生医療、免疫療法などの分野において、細胞(組織、微生物、ウイルスなどを含む)を人工的な環境下で効率良く大量に培養・分化誘導することが求められている。そのような細胞培養においては、コンタミネーションのリスクを回避するため、閉鎖系の細胞培養バッグが使用されることがある。細胞培養バッグは、例えば、周辺部をシールしたプラスチックフィルムで構成されたバッグ本体と、バッグ本体に取り付けられたポートとから構成されている。
【0003】
このような細胞培養バッグのバッグ本体は、可撓性材料からなるため変形しやすく、形状が安定しない。バッグ本体が変形すると内容液が流動してしまい、その結果、細胞のスフェロイド(クラスター)が壊れたり、細胞にダメージを与えてしまったりして、培養に支障をきたすことがある。
【0004】
そこで、細胞培養バッグ内を安定した状態に維持するために、細胞培養バッグをトレイの床面と押さえ板との間に挟んで圧迫する培養用トレイが、特許文献1に記載されている。これにより、細胞培養バッグの変形による内容液の流動が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このようにして細胞培養バッグを二つの部材で挟んで押圧するにあたり、細胞培養バッグのバッグ本体の表面にしわが発生することがある。バッグ表面にしわがあると、培地の液厚が不均一となり、細胞の培養に悪影響を及ぼす虞があり、好ましくない。
【0007】
そこで、本発明者らは、細胞培養バッグを細胞培養治具に保持して細胞培養を行うにあたり、細胞培養バッグの表面に発生したしわを容易に取り除くことができる細胞培養治具及び細胞培養キットについて鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る細胞培養治具は、細胞培養バッグを保持する細胞培養治具であって、前記細胞培養バッグを載置する載置台と、前記載置台に載置された前記細胞培養バッグを押圧する押圧部材とを含み、前記載置台に載置された前記細胞培養バッグと、前記細胞培養バッグを押圧する前記押圧部材の押圧面との間の接触面に作用する摩擦力を低減する滑性化面を、前記押圧部材側に備える構成としてある。
【0009】
また、本発明に係る細胞培養キットは、細胞培養バッグと、前記細胞培養バッグを載置する載置台及び前記載置台に載置された前記細胞培養バッグを押圧する押圧部材を含む、前記細胞培養バッグを保持する細胞培養治具とを有する、細胞培養キットであって、前記細胞培養バッグを押圧する前記押圧部材の押圧面との間の接触面に作用する摩擦力を低減する滑性化面を、前記細胞培養バッグ側と前記押圧部材側のいずれか一方、又は両方に備える構成としてある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、細胞培養バッグを細胞培養治具に保持して細胞培養を行うにあたり、細胞培養バッグの表面に発生したしわを容易に取り除くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態の一例に係る細胞培養治具の概略を示す斜視図である。
【
図2】本実施形態の一例に係る細胞培養治具の概略を示す説明図である。
【
図3】本実施形態の他の例に係る細胞培養治具の概略を示す説明図である。
【
図4】本実施形態の一例に係る細胞培養キットの概略を示す斜視図である。
【
図5】細胞培養治具に保持された細胞培養バッグの本体表面にしわが発生している状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
[第一実施形態]
まず、本発明の第一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る細胞培養治具1の概略を示す斜視図であり、以下に詳述する蓋体5が開いた状態を示している。
図2は、本実施形態に係る細胞培養治具1の概略を示す説明図であり、細胞培養バッグ10を内部に保持した状態の細胞培養治具1を側面視した状態を模式的に示している。なお、
図2においては、以下に説明する細胞培養バッグ10、載置台2、押圧部材3、蓋体5、支持機構51の関係性を示すため、その他の部材については適宜省略して示している。
【0014】
本実施形態の細胞培養治具1は、培養の対象となる細胞(培養細胞)と培地とが供給された細胞培養バッグ10を内部に保持して、細胞培養を行うために使用される。
【0015】
ここで、本実施形態の細胞培養治具1の説明に先立ち、本実施形態で使用する細胞培養バッグ10について簡単に説明する。
本実施形態で使用する細胞培養バッグ10は、バッグ本体11と、このバッグ本体11に取り付けられたポート12とを備えている。細胞培養バッグ10のバッグ本体11の平面形状は、略長方形、正方形状、六角形等の多角形状、楕円形状、又は円形状のような種々の形状とすることができる。バッグ本体11の大きさは特に限定されないが、例えば、縦50~500mm、横50~500mmとすることができる。
【0016】
バッグ本体11は、プラスチックフィルムを重ね合わせて周辺部をヒートシールして形成することができ、上面11a及び下面11bを含む。
バッグ本体11は、ガス透過性を有するプラスチックフィルムで形成されることが好ましい。プラスチックフィルムのガス透過性は、JIS K 7126のガス透過度試験方法に準拠して、試験温度37℃で測定した酸素の透過度が、5000mL/(m2・day・atm)以上であるのが好ましい。
バッグ本体11を形成するプラスチックフィルムに用いる材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、シリコーン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などの熱可塑性樹脂が挙げられる。これらは単層で用いても、同種又は異種の材料を積層して用いてもよいが、周辺部をヒートシールする際の熱融着性を考慮すると、シーラント層として機能する層を有しているのが好ましい。
【0017】
ポート12は、培地や細胞などが流通可能な管状の部材からなり、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリスチレン系エラストマー、FEPなどの熱可塑性樹脂で成形することができる。
【0018】
このような細胞培養バッグ10を、細胞培養治具1内部に保持し、二つの部材で挟み込んで加圧することによって、細胞培養バッグ10内の内容液の流動を抑制することが可能となる。
【0019】
本実施形態の細胞培養治具1は、細胞培養バッグ10が載置される載置台2と、載置台2に載置された細胞培養バッグ10を上方から押圧する押圧部材3とを備えている。
【0020】
載置台2は、細胞培養バッグ10の下面11bの面積より大きい略長方形の平面形状を有する板状部材であり、細胞培養バッグ10が水平に載置される載置面2aを有している。細胞培養バッグ10が載置台2に載置されると、細胞培養バッグ10の下面11bがこの載置面2aと接した状態となる。図示する載置面2aの形状は平面状であるが、細胞培養バッグ10が水平に載置できるものであれば、細胞培養バッグ10の下面11bの形状に応じて適宜変更してもよく、特に限定されない。
載置台2は、細胞培養バッグ10の内部の状態などを確認できるように、一部又は全部が透明性を有していてもよく、その場合、当該部分は、例えば、ポリカーボネートなどの透明度の高い合成樹脂やガラスで形成することができる。
【0021】
押圧部材3は、細胞培養バッグ10の上面11aの面積に合わせた略長方形の平面形状を有する板状部材であり、載置台2の載置面2aと実質的に平行となる平坦な押圧面3aを有している。この押圧面3aが、載置台2に載置された細胞培養バッグ10の上面11aと接して、細胞培養バッグ10を上方から押圧する。
【0022】
押圧部材3は、細胞培養バッグ10内部の状態などが視認できるように、一部又は全部が透明性又は透光性を有しているのが好ましく、当該部分は、例えば、後述する蓋体5の開閉を考慮して、軽量かつ透明度の高いポリカーボネートで形成することができる。
【0023】
図示する例では、押圧部材3は、支持機構51によって蓋体5に支持されている。
蓋体5は、ヒンジ52などによって載置台2に対して開閉自在に取り付けられ、載置台2に対してほぼ90°に開くことができ、また、載置台2と実質的に平行となるように閉じてラッチ53a,53bなどにより固定される構造になっている。また、蓋体5は、細胞培養バッグ10内部の状態などを確認できるように、蓋体5の中央部が広く開口して、開口部から押圧部材3の一部が露出するように構成されることや、蓋体5の一部が透明性を有するなどして細胞培養バッグ10内部の状態が視認できるように構成されることが好ましいが、蓋体5の形態は特に限定されない。
【0024】
支持機構51は、押圧部材3の四隅から蓋体5側へ延びて蓋体5のフレームを貫通しているガイドピンと、押圧部材3を蓋体5から遠ざかる方向へ付勢する付勢手段とから構成され、押圧部材3が蓋体5と実質的に平行となる状態で支持している。ここでは、付勢手段として、蓋体5のフレームと押圧部材3との間にばね部材を備えているが、付勢手段として、ばね部材の他にも、例えば磁石の斥力を利用してもよい。このようにして、押圧部材3が、蓋体5と実質的に並行な状態を維持しながら蓋体5との間隔を変動可能に設けられ、かつ、ばね部材の反発力や磁石の斥力を利用して押圧部材3を蓋体5から遠ざかる方向へ(すなわち、蓋体5を閉じた状態で押圧部材3が載置台2へ近づく方向へ)付勢するように構成するのが好ましい。このような態様によれば、細胞培養バッグ10を載置台2に載置して蓋体5を閉じた後、例えば培地等の流出入などにより細胞培養バッグ10の厚みにばらつきが存在しても、細胞培養バッグ10の厚みに応じて押圧部材3が載置台2との間隔を変動させながら、細胞培養バッグ10を載置台2と押圧部材3とで挟み込んで押圧した状態を維持することができる。また、支持機構51が押圧部材3を蓋体5との間隔を変動可能に支持し、かつ付勢手段を有することは、シート部材4により細胞培養バッグ10表面のしわを取り除くにあたっても好ましいが、詳細については後述する。
【0025】
このような押圧部材3によって載置台2に載置された細胞培養バッグ10を押圧する際には、細胞培養バッグ10のバッグ本体11が撓んで上面11aにしわが発生することがある。これは、細胞培養バッグ10が大きくなるほど起きやすい傾向にある。一旦できてしまったしわは、細胞培養バッグ10のバッグ本体11の表面と押圧部材3との間の接触面に作用する摩擦力により、簡単には取り除くことができない。細胞培養バッグ10の表面にしわがある状態では、内部に充填された培地の液厚が不均一となってしまう。また、培地交換の際に培地の流速が局所的に増大してしまうことによって細胞が流動しやすくなってしまったりする。このようにして、細胞培養バッグ10のバッグ本体11表面にしわがある状態は、細胞の培養に悪影響を及ぼす虞があるため好ましくない。
【0026】
そこで、本実施形態における細胞培養治具1は、押圧部材3側に滑性化面を備えている。より具体的には、細胞培養バッグ10の上面11aと接触する押圧部材3の押圧面3aを滑性化面としている。これにより、載置台2に載置された細胞培養バッグ10と、細胞培養バッグ10を押圧する押圧部材3との間の接触面に作用する摩擦力を低減させている。
【0027】
押圧部材3の押圧面3aは、例えば、ブラスト加工などの粗面化処理を施して、表面粗さ(Ra)を0.01~0.70μmとした粗面化処理面とすることによって、滑性化面とすることができる。表面粗さの程度は、押圧部材3や細胞培養バッグ10のバッグ本体11を形成する素材などの構成に応じて、適宜変更できるが、押圧部材3の押圧面3aと細胞培養バッグ10の上面11aとの動摩擦係数が0より大きく1.0以下となるように、好ましくは0.05以上1.0以下、より好ましくは0.1以上0.7以下、さらに好ましくは0.3以上0.7以下となるように、押圧部材3の押圧面3aが構成されると、細胞培養バッグ10表面のしわを取り除くために必要な押圧部材3の揺動回数を減らすことができ、好ましい。
【0028】
このような細胞培養治具1によれば、細胞培養バッグ10を載置台2に載置し、蓋体5を閉じて、押圧部材3により細胞培養バッグ10を押圧した際に、細胞培養バッグ10の上面11aにしわが寄っていても、以下のようにして容易にしわを取り除くことができる。
バッグ本体11表面のしわを確認したら、押圧部材3が細胞培養バッグ10のバッグ本体11の表面から離れる方向に揺動させる。すると、細胞培養バッグ10内の培地等の内容物が僅かに揺れることに伴ってバッグ本体11の上面11aが動き、押圧部材3の押圧面3aが滑り性を有する滑性化面として機能して、細胞培養バッグ10の上面11aが平板状の押圧面3a上を滑り、押圧面3aの形状に沿うように上面11aが平らにならされる。このようにして、細胞培養バッグ10のバッグ本体11表面のしわを除去することができる。
【0029】
押圧部材3をバッグ本体11の表面から離れる方向に揺動させるのは、押圧部材3を支持する蓋体5ごと動かすようにしてもよい。または、前述した支持機構51によって、押圧部材3が蓋体5との間隔を変動可能に支持されるとともに、付勢手段によって蓋体5から遠ざかるように付勢されている場合は、蓋体5をラッチ53a,53bなどにより載置台2にロックした後であっても、押圧部材3の縁側に手指などをかけて押圧部材3を蓋体5に近づけるように押し上げるなどして揺動することが可能であるため、好ましい。
【0030】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について説明する。
図3は、本実施形態に係る細胞培養治具1の概略を示す説明図であり、細胞培養バッグ10を内部に保持した状態の細胞培養治具1を側面視した状態を模式的に示している。なお、
図3においては
図2と同様に、以下に説明する細胞培養バッグ10、載置台2、押圧部材3、シート部材4、蓋体5、支持機構51の関係性を示すため、その他の部材については適宜省略して示している。
【0031】
前述した第一実施形態では、細胞培養バッグ10の上面11aと接触する押圧部材3の押圧面3aを滑性化面として、載置台2に載置された細胞培養バッグ10と、細胞培養バッグ10を押圧する押圧部材3との間の接触面に作用する摩擦力を低減する滑性化面を、押圧部材3側に備える構成とした。これに対して、本実施形態においては、押圧部材3の押圧面3aを滑性化面とするのではなく、細胞培養バッグ10と押圧部材3との間に滑性化面を備えるシート部材4を介在させて、載置台2に載置された細胞培養バッグ10と、細胞培養バッグ10を押圧する押圧部材3との間の接触面に作用する摩擦力を低減させる滑性化面を、押圧部材3側に備える構成としている。
シート部材4は、押圧部材3の押圧面3aに貼り付けることができる可撓性のシートであり、細胞培養バッグ10内部の状態などが視認できるように、透明性又は透光性を有してるのが好ましい。シート部材4は、熱可塑性樹脂で成形することができるが、以下に説明するようにバッグ接触面4aを滑性化面とすることができれば、シート部材4に用いる材料は特に限定されない。
【0032】
本実施形態におけるシート部材4は、押圧部材3の押圧面3aと対向する面とは反対側に、細胞培養バッグ10の上面11aと接触するバッグ接触面4aを備えている。本実施形態では、このバッグ接触面4aを滑性化面としている。
シート部材4のバッグ接触面4aは、例えば、ブラスト加工などの粗面化処理を施して、表面粗さ(Ra)を0.01~0.70μmとした粗面化処理面とすることによって、滑性化面とすることができる。
または、シート部材4を、自己潤滑性が高い材料を用いて成形して、その表面が滑性化面となるようにしてもよい。このような材料としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアセタール、超高分子量ポリエチレン、MCナイロン等が挙げられる。
または、シート部材4のバッグ接触面4aが、滑り性が付与された外層を備えるように形成されてもよい。この場合、シート部材4の外層には、シリコーン、界面活性剤、石油系ワックス、合成パラフィン、流動パラフィン、脂肪酸エステル、アマイド系化合物などのスリップ剤を含んでもよい。細胞培養バッグ10を構成する材料としては培養細胞に影響を与える虞があって使用できないものであっても、シート部材4に用いるには問題がないため、シート部材4は所望の物性を付与するために種々の材料を用いることが可能である。
このようにして、シート部材4のバッグ接触面4aと細胞培養バッグ10の上面11aとの動摩擦係数が0より大きく1.0以下となるように、好ましくは0.05以上1.0以下、より好ましくは0.1以上0.7以下、さらに好ましくは0.3以上0.7以下となるように、シート部材4のバッグ接触面4aが構成されると、細胞培養バッグ10表面のしわを取り除くために必要な押圧部材3の揺動回数を減らすことができ、好ましい。
【0033】
本実施形態の細胞培養治具1によれば、細胞培養バッグ10を載置台2に載置し、蓋体5を閉じて、押圧部材3により細胞培養バッグ10を押圧した際に、細胞培養バッグ10の上面11aにしわが寄っていても、容易に細胞培養バッグ10のバッグ本体11表面のしわを取り除くことができる。すなわち、しわを確認したら、第一実施形態と同様にして押圧部材3が細胞培養バッグ10のバッグ本体11表面から離れる方向に揺動させる。そうすると、押圧部材3の押圧面3aに貼り付けられたシート部材4のバッグ接触面4aが滑り性を有する滑性化面として機能し、細胞培養バッグ10の上面11a側が平板状の押圧面3a上を滑り、押圧面3aの形状に沿うようにバッグ本体11表面が平らにならされて、細胞培養バッグ10のバッグ本体11表面のしわを除去することができる。
【0034】
本実施形態は、上記の点で第一実施形態と異なっているが、他の構成は第一実施形態と同様であるため、重複する説明は省略する。
【0035】
以上、載置台2に載置された細胞培養バッグ10と、細胞培養バッグ10を押圧する押圧部材3の押圧面3aとの間の接触面に作用する摩擦力を低減する滑性化面を、押圧部材3側に備える細胞培養治具1の例を挙げたが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではない。このような滑性化面は、細胞培養バッグ10側に備えるようにしてもよく、以下にその例を示す。
【0036】
[第三実施形態]
本発明の第三実施形態について説明する。
図4は、本実施形態に係る細胞培養キット100の概略を示す斜視図であり、蓋体5が開いた状態を示している。細胞培養キット100は、細胞培養バッグ10と、細胞培養バッグを載置する載置台2及び載置台2に載置された細胞培養バッグ10を押圧する押圧部材3を含む細胞培養治具1とを有している。
【0037】
前述した第一実施形態では、細胞培養バッグ10の上面11aと接触する押圧部材3の押圧面3aを滑性化面として、載置台2に載置された細胞培養バッグ10と、細胞培養バッグ10を押圧する押圧部材3との間の接触面に作用する摩擦力を低減する滑性化面を、押圧部材3側に備える構成とした。これに対して、本実施形態は、押圧部材3の押圧面3aを滑性化面とすることなく、細胞培養治具1に載置される細胞培養バッグ10の上面11aを滑性化面として、載置台2に載置された細胞培養バッグ10と細胞培養バッグ10を押圧する押圧部材3との間の接触面に作用する摩擦力を低減する滑性化面を、細胞培養バッグ10側に備える構成とした。
【0038】
本実施形態の細胞培養キットに含まれる細胞培養バッグ10の上面11aは、前述したように、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、シリコーン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などの熱可塑性樹脂で成形することができる。
細胞培養バッグ10の上面11aは、例えば、ブラスト加工などの粗面化処理を施して、押圧部材3の表面粗さ(Ra)を0.01~0.70μmとした粗面化処理面とすることによって、滑性化面とすることができる。なお、表面粗さの程度は、押圧部材3や細胞培養バッグ10のバッグ本体11を形成する素材などの構成に応じて、適宜変更できる。
または、細胞培養バッグ10の上面11aを、自己潤滑性が高い材料を用いて成形して、その表面が滑性化面となるようにしてもよい。このような材料としては、ポリテトラフルオロエチレン、超高分子量ポリエチレン等が挙げられる。
このようにして、押圧部材3の押圧面3aと細胞培養バッグ10の上面11aとの動摩擦係数が0より大きく1.0以下となるように、好ましくは0.05以上1.0以下、より好ましくは0.1以上0.7以下、さらに好ましくは0.3以上0.7以下となるように、細胞培養バッグ10の上面11aが構成されると、細胞培養バッグ10表面のしわを取り除くために必要な押圧部材3の揺動回数を減らすことができ、好ましい。
【0039】
このような細胞培養キット100によれば、細胞培養バッグ10を載置台2に載置し、蓋体5を閉じて、押圧部材3により細胞培養バッグ10を押圧した際に、細胞培養バッグ10の上面11aにしわが寄っていても、容易に細胞培養バッグ10のバッグ本体11表面のしわを取り除くことができる。すなわち、しわを確認したら、第一実施形態と同様にして押圧部材3が細胞培養バッグ10のバッグ本体11表面から離れるように揺動させる。そうすると、細胞培養バッグ10の上面11aが滑り性を有する滑性化面として機能し、細胞培養バッグ10の上面11aが平板状の押圧面3a上を滑り、押圧面3aの形状に沿うようにバッグ本体11表面が平らにならされて、細胞培養バッグ10のバッグ本体11表面のしわを除去することができる。
【0040】
本実施形態は、上記の点で第一実施形態と異なっているが、他の構成は第一実施形態と同様であるため、重複する説明は省略する。
【0041】
[第四実施形態]
次に、本発明の第四実施形態について説明する。
前述した第二実施形態では、細胞培養バッグ10と押圧部材3との間にシート部材4を介在させ、シート部材4を押圧部材3の押圧面3aに貼り付けて細胞培養バッグ10の上面11aと接触するシート部材4のバッグ接触面4aを滑性化面として、載置台2に載置された細胞培養バッグ10と、押圧部材3の押圧面3aとの間の接触面に作用する摩擦力を低減する滑性化面を、押圧部材側に備える構成とした。これに対して、本実施形態では、シート部材4を細胞培養バッグ10の上面11aに貼り付けて押圧部材3の押圧面3aに対向するシート部材4の押圧部材対向面4bを滑性化面として、載置台2に載置された細胞培養バッグ10と、押圧部材3の押圧面3aとの間の接触面に作用する摩擦力を低減する滑性化面を、細胞培養バッグ10側に備える構成としている(
図3参照)。
【0042】
このような細胞培養キット100によれば、細胞培養バッグ10を載置台2に載置し、蓋体5を閉じて、押圧部材3により細胞培養バッグ10を押圧した際に、細胞培養バッグ10の上面11aにしわが寄っていても、容易に細胞培養バッグ10のバッグ本体11表面のしわを取り除くことができる。すなわち、しわを確認したら、第一実施形態と同様にして押圧部材3が細胞培養バッグ10のバッグ本体11表面から離れる方向に揺動させる。そうすると、細胞培養バッグ10の上面11aに貼り付けられたシート部材4の押圧部材対向面4bが滑り性を有する滑性化面として機能し、細胞培養バッグ10の上面11a側が平板状の押圧面3a上を滑り、押圧面3aの形状に沿うようにバッグ本体11表面が平らにならされて、細胞培養バッグ10のバッグ本体11表面のしわを除去することができる。
【0043】
本実施形態は、上記の点で第二実施形態と異なっているが、他の構成は第二実施形態と同様であるため、重複する説明は省略する。
【0044】
このようにして、載置台2に載置された細胞培養バッグ10と、細胞培養バッグ10を押圧する押圧部材3の押圧面3aとの間の接触面に作用する摩擦力を低減する滑性化面を、細胞培養バッグ10側と押圧部材3側のいずれか一方に備えることで、細胞培養バッグ10を細胞培養治具1内部に保持した際に、細胞培養バッグ10のバッグ本体11表面に発生するしわを容易に取り除くことができる。なお、載置台2に載置された細胞培養バッグ10と、細胞培養バッグ10を押圧する押圧部材3の押圧面3aとの間の接触面に作用する摩擦力を低減する滑性化面を、細胞培養バッグ10側と押圧部材3側の両方に備えることもできるのはいうまでもない。
【実施例0045】
以下、具体的な実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。
【0046】
[実施例1]
ポリカーボネートで形成された押圧部材3の押圧面3aに、平均粒径が350μmのゴムの核体に平均粒径11μmのガラス製砥粒を練りこませたショット材(株式会社不二製作所社製)を用いてブラスト加工を施し、表面粗さ(Ra)を0.118μmとした。押圧部材3の透明度(Haze)は36.22であった。細胞培養バッグ10は、バッグ本体11がポリエチレンで成形され、バッグ本体11の平面形状が縦26.7cm×横36.4cmであるのものを用いた。押圧部材3の押圧面3aと細胞培養バッグ10の上面11aとの動摩擦係数は0.39であった。
図1に示す細胞培養治具1であって、前述の構成の押圧部材3を備える細胞培養治具1に、培地が約400ml注入された細胞培養バッグ10を載置し、蓋体5を閉じてラッチによりロックしたところ、細胞培養バッグ10のバッグ本体11表面にしわが発生した。
図5は、細胞培養治具1の内部に保持され、押圧部材3によって押圧された細胞培養バッグ10のバッグ本体11表面にしわが発生している状態を示す図である。その後、押圧部材3の縁側に手指をかけて、押圧部材3を蓋体5に近づけるように1回揺動したところ、しわが取り除かれたことが確認できた。
【0047】
[実施例2]
平均粒径が350μmのゴムの核体に平均粒径0.5μmのガラス製砥粒を練りこませたショット材(株式会社不二製作所社製)を用いてブラスト加工を施し、押圧部材3の押圧面3aの表面粗さ(Ra)を0.018μmとした以外は、実施例1と同様にして、細胞培養治具1及び細胞培養バッグ10を準備した。押圧部材3の透明度(Haze)は4.58、押圧部材3の押圧面3aと細胞培養バッグ10の上面11aとの動摩擦係数は0.61であった。
実施例1と同様にして、実施例2の細胞培養治具1の内部に細胞培養バッグ10を保持したところ、細胞培養バッグ10のバッグ本体11表面にしわが発生した。その後、押圧部材3の縁に手指をかけて、押圧部材3を蓋体5に近づけるように2回揺動したところ、しわが取り除かれたことが確認できた。
【0048】
[実施例3]
平均粒径が350μmのゴムの核体に平均粒径1.2μmのガラス製砥粒を練りこませたショット材(株式会社不二製作所社製)を用いてブラスト加工を施し、押圧部材3の押圧面3aの表面粗さ(Ra)を0.037μmとした以外は、実施例1と同様にして、細胞培養治具1及び細胞培養バッグ10を準備した。押圧部材3の透明度(Haze)は7.76、押圧部材3の押圧面3aと細胞培養バッグ10の上面11aとの動摩擦係数は0.55であった。
実施例1と同様にして、実施例3の細胞培養治具1の内部に細胞培養バッグ10を保持したところ、細胞培養バッグ10のバッグ本体11表面にしわが発生した。その後、押圧部材3の縁に手指をかけて、押圧部材3を蓋体5に近づけるように2回揺動したところ、しわが取り除かれたことが確認できた。
【0049】
[実施例4]
平均粒径が350μmのゴムの核体に平均粒径4μmのガラス製砥粒を練りこませたショット材(株式会社不二製作所社製)を用いてブラスト加工を施し、押圧部材3の押圧面3aの表面粗さ(Ra)を0.062μmとした以外は、実施例1と同様にして、細胞培養治具1及び細胞培養バッグ10を準備した。押圧部材3の透明度(Haze)は17.42、押圧部材3の押圧面3aと細胞培養バッグ10の上面11aとの動摩擦係数は0.41であった。
実施例1と同様にして、実施例4の細胞培養治具1の内部に細胞培養バッグ10を保持したところ、細胞培養バッグ10のバッグ本体11表面にしわが発生した。その後、押圧部材3の縁に手指をかけて、押圧部材3を蓋体5に近づけるように7回揺動したところ、しわが取り除かれたことが確認できた。
【0050】
[実施例5]
平均粒径が350μmのゴムの核体に平均粒径20μmのガラス製砥粒を練りこませたショット材(株式会社不二製作所社製)を用いてブラスト加工を施し、押圧部材3の押圧面3aの表面粗さ(Ra)を0.254μmとした以外は、実施例1と同様にして、細胞培養治具1及び細胞培養バッグ10を準備した。押圧部材3の透明度(Haze)は74.4、押圧部材3の押圧面3aと細胞培養バッグ10の上面11aとの動摩擦係数は0.44であった。
実施例1と同様にして、実施例5の細胞培養治具1の内部に細胞培養バッグ10を保持したところ、細胞培養バッグ10のバッグ本体11表面にしわが発生した。その後、押圧部材3の縁に手指をかけて、押圧部材3を蓋体5に近づけるように8回揺動したところ、しわが取り除かれたことが確認できた。
【0051】
[実施例6]
平均粒径が350μmのゴムの核体に平均粒径40μmのガラス製砥粒を練りこませたショット材(株式会社不二製作所社製)を用いてブラスト加工を施し、押圧部材3の押圧面3aの表面粗さ(Ra)を0.658μmとした以外は、実施例1と同様にして、細胞培養治具1及び細胞培養バッグ10を準備した。押圧部材3の透明度(Haze)は83.26、押圧部材3の押圧面3aと細胞培養バッグ10の上面11aとの動摩擦係数は0.43であった。
実施例1と同様にして、実施例6の細胞培養治具1の内部に細胞培養バッグ10を保持したところ、細胞培養バッグ10のバッグ本体11表面にしわが発生した。その後、押圧部材3の縁に手指をかけて、押圧部材3を蓋体5に近づけるように12回揺動したところ、しわが取り除かれたことが確認できた。
【0052】
[比較例]
押圧部材3の押圧面3aについてブラスト加工を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、細胞培養治具1及び細胞培養バッグ10を準備した。押圧部材3の押圧面3aの表面粗さ(Ra)は0.004μm、押圧部材3の透明度(Haze)は0.72、押圧部材3の押圧面3aと細胞培養バッグ10の上面11aとの動摩擦係数は2.02であった。
実施例1と同様にして、比較例の細胞培養治具1の内部に細胞培養バッグ10を保持したところ、細胞培養バッグ10のバッグ本体11表面にしわが発生した。その後、押圧部材3の縁に手指をかけて、押圧部材3を蓋体5に近づけるように30回揺動したが、しわは取り除かれなかった。
【0053】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることはいうまでもない。
【0054】
例えば、本実施形態では、細胞培養バッグ10の上面11aと押圧部材3との間の摩擦力を下げる構成としたが、細胞培養バッグ10下面11bにできたしわを取り除くように、細胞培養バッグ10と載置台2との間の接触面に作用する摩擦力を低減する滑性化面を、載置台2側又は細胞培養バッグ10側に備えるようにしてもよい。載置面2aを滑性化面としてもよいし、細胞培養バッグ10の下面11bを滑性化面としてもよい。また、細胞培養バッグ10と載置台2との間に、滑性化面を備えるシート部材4を介在させてもよい。この場合は、細胞培養バッグ10の下面11bに発生したしわを取り除くために、細胞培養バッグ10のバッグ本体11を手指で持ち上げるようにして揺動させればよい。
また、図示する例では、バッグ本体11の下面11bの形状は、上面11aと同様に平面状となっているが、下面11bに、各々が細胞培養部となる複数の凹部が形成されていてもよい。この場合は、凹部の潰れ、変形が回避されて凹部内の細胞の流出が防止されるように、載置台2の載置面2aに、細胞培養バッグ10の下面11bに形成された複数の凹部の各々を受け入れる形状として、開口部や凹部を形成して、下面11bの凹部を非接触で支持するようにしてもよい。