(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142332
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】美理容用鋏の刃研ぎ装置および刃研ぎ方法
(51)【国際特許分類】
B24B 3/52 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
B24B3/52 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054430
(22)【出願日】2023-03-29
(71)【出願人】
【識別番号】508301283
【氏名又は名称】株式会社ハクブン
(74)【代理人】
【識別番号】100208454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 章夫
(72)【発明者】
【氏名】志村浩一
【テーマコード(参考)】
3C158
【Fターム(参考)】
3C158AA03
3C158CA01
3C158CB03
3C158CB04
3C158CB10
3C158DB02
3C158DB09
(57)【要約】
【課題】単純な構成で、取扱いが容易な、美理容用鋏の刃研ぎ装置および刃研ぎ方法を提供する。
【解決手段】側面に帯状の研磨面を有する円盤形の回転砥石と、回転砥石の側面部の所定の位置において、側面部への接平面と鋭角に交わる平面からなる研磨基準面を有する研磨治具と、研磨治具を固定する固定部と、からなる刃研ぎ装置を用いて、回転砥石の回転中心軸に対して研磨基準面を所定の位置に設定しておき、整髪作業の前、または、整髪作業の合間に、研磨基準面に美理容用鋏の刃裏の面を押し当てて、美理容用鋏の刃線を、研磨基準面を含む平面と回転砥石の側面部における接平面との交線に対して略平行に保ちながら、美理容用鋏の刃線を回転砥石の研磨面に接触させ、さらに、美理容用鋏を刃線方向に複数回往復させて刃線部分を研磨する。
【選択図】
図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
側面に帯状の研磨面を有する、円盤形の回転砥石と、
前記回転砥石の側面部の所定の位置において、前記側面部への接平面と鋭角に交わる平面からなる研磨基準面を有する研磨治具と、
前記研磨基準面が前記円盤形砥石の円形部の面と直交するように前記研磨治具を保持しながら、前記研磨基準面と前記回転砥石の回転中心軸との間の距離を設定して、前記研磨治具を固定する固定部と、
を有する、美理容用鋏の刃研ぎ装置。
【請求項2】
前記研磨治具の研磨基準面を含む前記平面と、前記回転砥石の側面部における前記接平面との間の鋭角角度は、前記研磨基準面と前記回転砥石の回転中心軸との間の距離をもとに設定される、請求項1に記載する美理容用鋏の刃研ぎ装置。
【請求項3】
前記研磨治具の研磨基準面を含む前記平面と、前記回転砥石の側面部における前記接平面との間の鋭角角度は、30度から50度までの範囲である請求項1に記載する美理容用鋏の刃研ぎ装置。
【請求項4】
前記研磨治具は、前記研磨基準面を有する前面部、前記固定部を有する後方部、および、前記研磨治具と前記回転砥石とを接触させない状態で、前記前面部および前記後方部を接続する中間部から構成される、請求項1に記載する美理容用鋏の刃研ぎ装置。
【請求項5】
側面に帯状の研磨面を有する円盤形の回転砥石と、前記回転砥石の側面部の所定の位置において、前記側面部への接平面と鋭角に交わる平面からなる研磨基準面を有する研磨治具と、前記研磨治具を固定する固定部と、からなる刃研ぎ装置を用いる美理容用用鋏の刃研ぎ方法であって、
前記研磨基準面が前記円盤形砥石の円形部の面と直交するように前記研磨治具を保持しながら、前記研磨基準面と前記回転砥石の回転中心軸との間の距離を設定して、前記研磨治具を固定しておき、
整髪作業の前、または、整髪作業の合間に、
前記研磨基準面に美理容用鋏の刃裏の面を押し当てるとともに、前記研磨基準面を含む平面と前記回転砥石の側面部における接平面との交線に対して、前記美理容用鋏の刃線を略平行に保ちながら、前記回転砥石の研磨面に刃線を接触させ、さらに、前記美理容用鋏を刃線方向に複数回往復移動させて、前記美理容用鋏の刃線部分を研磨する、
美理容用鋏の刃研ぎ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、美理容用鋏の刃研ぎ装置および刃研ぎ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の美理容用鋏の刃研ぎ装置は、回転あるいは前後に移動する砥石と、鋏を固定する固定治具とから構成されている(例えば、特許文献1,2)。従来の刃研ぎ装置の固定治具には、砥石の研磨面に対する鋏の位置や向き、角度等を設定する機構が設けられている。従来の美理容用鋏の刃研ぎ装置は、固定治具に鋏を固定することにより、美理容用鋏の刃を、再現性良く研磨できることが知られている。
【0003】
しかし、従来の美理容用鋏の刃研ぎ装置は、所望の研磨条件に、鋏の固定治具を設定するのが容易ではなかった。このため、美容師あるいは理容師は、通常、鋏の研磨を専門に行う業者に、美理容用鋏の研磨を依頼していた。専門業者に研磨を依頼すると、研磨が仕上がるまでに、例えば数日かかるため、美容師あるいは理容師は、常に複数本の鋏を用意しておかなければならないという問題があった。
【0004】
また、従来の美理容用鋏の刃研ぎ装置は、美容師あるいは理容師が、顧客の整髪を行う前、あるいは整髪を行っている合間に、鋏の切れ方を調整するという目的で利用するには、固定治具への鋏の固定手順や研磨条件の設定手順が煩雑すぎるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第2191600号
【特許文献2】日本国特許第2949492号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、単純な構成で、取扱いが容易であり、美容師あるいは理容師が、簡単な手順で利用できる、美理容用鋏の刃研ぎ装置および刃研ぎ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的の達成のために、本発明に係る美理容用鋏の刃研ぎ装置は、
側面に帯状の研磨面を有する、円盤形の回転砥石と、回転砥石の側面部の所定の位置において、側面部への接平面と鋭角に交わる平面からなる研磨基準面を有する研磨治具と、研磨基準面が円盤形砥石の円形部の面と直交するように研磨治具を保持しながら、研磨基準面と回転砥石の回転中心軸との間の距離を設定して、研磨治具を固定する固定部と、を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る美理容用鋏の刃研ぎ方法は、
側面に帯状の研磨面を有する円盤形の回転砥石と、回転砥石の側面部の所定の位置において、側面部への接平面と鋭角に交わる平面からなる研磨基準面を有する研磨治具と、研磨治具を固定する固定部と、からなる刃研ぎ装置を用いる美理容用鋏の刃研ぎ方法であって、研磨基準面が円盤形砥石の円形部の面と直交している状態に研磨治具を保ちながら、研磨基準面と回転砥石の回転中心軸との間の距離を設定して、研磨治具を固定しておき、整髪作業の前、または、整髪作業の合間に、研磨基準面に美理容用鋏の刃裏の面を押し当てるとともに、研磨基準面を含む平面と回転砥石の側面部の接平面との交線に対して、美理容用鋏の刃線を略平行に保ちながら、回転砥石の研磨面に刃線を接触させ、さらに、美理容用鋏を刃線方向に複数回往復移動させて、美理容用鋏の刃線部分を研磨することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る美理容用鋏の刃研ぎ装置は、単純な構成で取扱いが容易であり、美容室あるいは理容室ごとに設置できる。美容師あるいは理容師は、本発明に係る美理容用鋏の刃研ぎ方法によって定期的に刃研ぎを行うことにより、切れ方が良好な状態の美理容用鋏を安定に使い続けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】美理容用鋏60の刃研ぎ装置10の例を示す平面図である。
【
図1B】美理容用鋏60の刃研ぎ装置10の例を示す正面図である。
【
図1C】美理容用鋏60の刃研ぎ装置10の例を示す右側面図である。
【
図2】研磨治具22の形状の例を示す(A)平面図、(B)底面図、(C)正面図、(D)背面図、(E)右側面図、(F)左側面図、および(G)断面図である。
【
図3】刃研ぎ装置10の変形例を示す正面図である。
【
図4】美理容用鋏60の構造の例を示す(A)外形図、(B)、(C)刃体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を実施するための形態に係る美理容用鋏の刃研ぎ装置および刃研ぎ方法の例について、図面を参照しながら説明する。説明の便宜上、美理容用鋏の構造について予め説明しておくことにする。
【0012】
図4(A)は、美理容用鋏60の構造の例を示す外形図である。美理容用鋏60は、動刃と呼ばれる第1の刃体61と、静刃と呼ばれる第2の刃体62との2枚の刃体から構成される。美理容用鋏60は、要ネジ68を支点として、2枚の刃体を噛み合わせることによって髪の毛を切る道具である。
【0013】
刃裏63は、2枚の刃体を噛み合わせるとき、それぞれの刃体が互いに向き合う側の刃面である。刃表64は、それぞれの刃体における、刃裏63とは反対側の面であって、2枚の刃体を噛み合わせるとき、互いに向き合っていない側の刃面である。
【0014】
刃線65は、それぞれの刃体において、刃先66から刃元67まで延伸し、刃裏63の面と刃表64の面とが交わる交線に相当する。髪の毛を切るときに、美理容用鋏60は、第1の刃体61の刃線65および第2の刃体62の刃線65の間に、髪の毛をはさんで切断する。
【0015】
図4(B)は、美理容用鋏60の第1の刃体61および第2の刃体62の断面形状の例を示す断面図である。
図4(B)は、美理容用鋏60の2枚の刃体を、例えば、
図4(A)の破線BBの位置で切断して、刃元67から刃先66方向に見た切断面であって、刃線65に近い部分を拡大して示した断面図である。
図4(B)に示す角度θは、刃線65をはさんで、刃裏63の面と刃表64の面とが交わる角度を示す。角度θは、美理容用鋏60の種類によって異なりうるが、例えば43°である。
【0016】
美理容用鋏60が未使用の状態では、第1の刃体61および第2の刃体62は、
図4(B)に示すように、刃裏63の面と刃表64の面とが角度θで交わる角の先端部まで刃面が伸びており、刃線65の線幅は十分に細い状態にある。このように細い線幅の刃線65で髪の毛をはさむことにより、美理容用鋏60は、強い剪断力で髪の毛を切断することができる。細い線幅の刃線65を持つ美理容用鋏60で切断された髪の毛は、滑らかな断面をもち、切断時に髪の毛が受けるダメージも少ない。
【0017】
一方、
図4(C)は、美理容用鋏60が使用されて、切れ方が劣化している状態における、第1の刃体61および第2の刃体62の断面形状の例を示す断面図である。刃裏63の面と刃表64の面が角度θで交わっている角の先端部分は摩耗によって後退し、両方の面の交線である刃線65の線幅が広くなっている。
【0018】
図4(C)のような場合には、第1の刃体61の刃線65と第2の刃体62の刃線65の間に髪の毛をはさんでも、剪断力は刃線65の幅方向に広がって作用するため、髪の毛を効率的に切断できない。広い刃線65を有する美理容用鋏60で切断された髪の毛は、凹凸がある断面を有し、髪の毛が受けるダメージも大きい。
【0019】
尚、
図4(C)は、第1の刃体61の刃線65の線幅および第2の刃体62の刃線65の線幅が、摩耗によって、両方とも同じように広くなっている例を示している。使用されて切れ方が劣化した美理容用鋏60の刃線65の断面は、必ずしも
図4(C)に示すような状態になるとは限らない。
【0020】
使用されて切れ方が劣化した美理容用鋏60の刃線65の変化として、第1の刃体61の刃線65だけが摩耗して線幅が広くなったり、第2の刃体62の刃線65だけが摩耗して線幅が広くなったり、あるいは、第1の刃体61の刃線65の線幅および第2の刃体62の刃線65の線幅が、摩耗によって、刃線65の全体ではなく局所的に広くなっている場合もあり得る。そのような場合も、
図4(C)に示す、美理容用鋏60が使用されて切れ方が劣化している状態に対応する。
【0021】
また、美理容用鋏60は、刃裏63の裏すき、刃線65のそり、刃体61,62のひねりなどの構造的特徴を有しており、これらの構造的特徴も、美理容用鋏60の切れ方の性能に係わっている。しかし、これらの構造的特徴は、美理容用鋏60の通常の使用により、容易に変化するものではない。これに対して、
図4(C)に示すような、摩耗による刃線65の線幅の変化に起因する、美理容用鋏60の切れ方の劣化は、美理容用鋏60を通常の方法で一定回数以上使用すれば、日常的に起こりうるものである。
【0022】
そこで、美理容用鋏60を使用する美容師あるいは理容師は、美理容用鋏60の刃線65の断面が
図4(C)のような状態になる前に、
図4(B)の状態を維持できれば、美理容用鋏60の切れ方が良好な状態を安定に維持しながら、美理容用鋏60を使い続けられることになり、非常に効果的である。
【0023】
このような目的で用いられる、美理容用鋏60の刃研ぎ装置および刃研ぎ方法の例について次に説明する。
【0024】
図1Aは、美理容用鋏60の刃研ぎ装置10の例を示す平面図である。
図1Bは、美理容用鋏60の刃研ぎ装置10の例を示す正面図である。
図1Cは、美理容用鋏60の刃研ぎ装置10の例を示す右側面図である。
図1の各図の座標系において、XY方向は例えば水平方向を示し、Z方向は例えば鉛直方向を示す。これらの図をもとに、刃研ぎ装置10の各部の構成と配置を説明する。各図面において、同じ符号を付した部分は、同じ部分を表す。
【0025】
図1の各図に示すように、美理容用鋏60の刃研ぎ装置10の例は、回転砥石12、砥石回転用モータ18、研磨治具22、ガイド部32、固定部42、および、それらを搭載して各部の位置関係を定める装置台52などから構成される。この刃研ぎ装置10の例は、発明を実施するための形態を説明するのに必要な部分だけを示している。刃研ぎ装置10には、このほかに、砥石回転用モータ18への電源配線やスイッチ、回転砥石12のカバー等が設けられていてよい。しかし、
図1の各図では、これらを図示していない。
【0026】
図1Bの正面図に示すように、回転砥石12は、XZ方向の面からなる円形部14と、Y軸方向の中心軸Cとを有する、円盤形の砥石である。回転砥石12の円形部14の直径は、例えば150mmである。
図1Aの平面図に示すように、回転砥石12は、円盤の側面部16に帯状の研磨面を有する。側面部16のY軸方向幅は、例えば30mmである。回転砥石12の側面部16は、例えば800番の粗さの研磨面を有する。
【0027】
砥石回転用モータ18は、回転砥石12の+Y側に配置され、装置台52に固定されている。砥石回転用モータ18は、Y軸方向を向いた回転軸19を有する。砥石回転用モータ18の回転軸19は、回転砥石12を中心軸Cの周りに回転させるように、回転砥石12に接続されている。
【0028】
砥石回転用モータ18は、例えば、毎分3000回転程度の回転速度で、回転砥石12を回転させる。この砥石回転用モータ18の回転速度は、回転砥石12の側面部16において、研磨面を23m/s程度の速度で移動させる速度である。砥石回転用モータ18は、
図1Bの円形部14に示した矢印の回転方向、即ち、回転砥石12の+Y側にある砥石回転用モータ18から見て時計回りの方向に、回転砥石12を回転させる。
【0029】
研磨治具22は、回転砥石12の-X側に配置される部材である。研磨治具22は、例えば、PLA樹脂(ポリ乳酸樹脂)などの樹脂を材料として一体成型により作成されてよい。研磨治具22は、例えば、三次元積層造形装置(3Dプリンタ)を用いて作成されてよい。
【0030】
研磨治具22は、+X側端部にYZ方向の研磨基準面24を有する。研磨基準面24は、回転砥石12の円形部14が含まれるXZ面と直交するように配置される。研磨治具22は、
図1Bに示すように、研磨基準面24を含むYZ方向の平面Pが、回転砥石12の側面部16と、Y軸方向の交線Qで交わるように配置される。研磨治具22は、研磨基準面24を含むYZ方向の面Pが、交線Qにおける、回転砥石12の側面部16への接平面Rと所定の鋭角角度αで交わるように配置される。ここで、接平面Rは、回転砥石12の側面部16上の交線Qにおける、回転砥石12の研磨面の回転方向と研磨面の幅方向とから決まる平面である。また、後に示すように、鋭角角度αは所定の範囲で変更可能であるが、例えば43°である。
【0031】
図1の各図に示すガイド部32は、回転砥石12の-X側に配置され、装置台52に固定されている部材である。ガイド部32は、例えばX軸方向に延びたレール状の部材であり、研磨治具22のY方向の両側から研磨治具22を挟んで、研磨治具22の可動方向をX軸方向に拘束する。これにより、ガイド部32は、研磨治具22の+X端部の研磨基準面24を、回転砥石12の円形部14が含まれるXZ方向と直交する方向、即ちYZ方向に設定する。
【0032】
固定部42は、回転砥石12の-X側に配置され、研磨治具22を装置台52に固定する部材である。固定部42は、
図1Aに示すように、例えば、研磨治具22に設けられたX軸方向の長孔43、押さえ板44、ネジ45などから構成される。
【0033】
研磨治具22は、固定部42のネジ45を緩めた状態で、ガイド部32に規制されながら、X軸方向に移動させることができる。研磨治具22は、研磨治具22の研磨基準面24を含む面Pと回転砥石12の中心軸Cとの間のX軸方向距離Lを設定した状態で、固定部42のネジ45によって、押さえ板44を含めて装置台52に固定される。これにより、研磨治具22の研磨基準面24と、回転砥石12の中心軸Cとの間の距離Lが設定される。
【0034】
図1Bに示すように、研磨治具22の研磨基準面24を含む平面Pと、回転砥石12の側面部16への接平面Rとの間の角度αは、研磨基準面24と回転砥石12の中心軸Cとの間の距離Lに依存する。平面Pと接平面Rとの間の角度αは、研磨基準面24を含む平面Pと回転砥石12の中心軸Cとの間の距離Lを変えることによって変更可能である。角度αと距離Lとの関係は、例えば以下の通りである。
【0035】
表1 角度αと距離Lとの関係
α(deg)| L(mm)
===============
35 | 61.4
37 | 59.9
39 | 58.3
41 | 56.6
43 | 54.9
45 | 53.0
47 | 51.1
49 | 49.2
51 | 47.2
【0036】
距離Lを略55mmに設定すれば、角度αは43°となる。角度αが43°となる研磨治具22の位置を基準に、角度αを約4°大きくしようとすると、研磨基準面24と回転砥石12の中心軸Cとの間の距離Lが略4mm小さくなるように、研磨治具22をX軸方向に略+4mm移動させればよい。また、角度αが43°となる研磨治具22の位置を基準に、角度αを約4°小さくしようとすると、研磨基準面24と回転砥石12の中心軸Cとの間の距離Lが略3mm大きくなるように、研磨治具22をX軸方向に略-3mm移動させればよい。また、この移動のために、ガイド部32または装置台52の適切な位置に、X軸方向に等間隔な、例えば1mm間隔の目盛りを印しておき、研磨治具22の位置を、この物差しを基準に決めてよい。
【0037】
図1の各図に示す刃研ぎ装置10を使って、美理容用鋏60の刃研ぎ方法は、例えば、以下のように行う。
【0038】
研磨基準面24を、回転砥石12の円形部14が含まれるXZ方向と直交する方向、即ちYZ方向に保ちながら、研磨基準面24と回転砥石12の中心軸Cとの間の距離Lを設定して、固定部42によって、研磨治具22を装置台52に固定する。研磨治具22を、例えば、距離Lが略55mmである位置に固定して、平面Pと接平面Rとの間の角度αを、刃裏63の面と刃表64の面との間の角度θに等しい角度である(
図4(B)参照)、例えば、α=43°に設定する。
【0039】
美容師あるいは理容師は、整髪作業の前、または、整髪作業の合間に、刃研ぎ装置10を使用して、次のような手順で美理容用鋏60の刃研ぎ作業を行う。
【0040】
美理容用鋏60の第1の刃体61と第2の刃体62とを、要ネジ68のまわりに大きく開いて、第1の刃体61の刃先66と第2の刃体62の刃先66とが、略反対の方向に向く状態にする。この状態で、研磨する刃体の刃裏63の面を、例えば
図1Cの右側面図に見える研磨治具22の研磨基準面24に押し当てる。これにより、研磨する刃体の刃裏63の面が、研磨基準面24に沿うようにする。
【0041】
研磨する刃体の刃裏63の面を研磨基準面24に沿わせながら、刃線65を平面Pと接平面Rとの交線Qに近づけ、回転している回転砥石12の側面部16の研磨面に刃線65を接触させる。さらに、研磨する刃体の刃線65が、交線Qと略平行になるように保ちながら、刃体を刃線65の方向に複数回、例えば2~3回、往復させる。これにより、整髪に使用する刃線65の範囲を研磨する。
【0042】
これを第1の刃体61および第2の刃体62のそれぞれについて行い、美理容用鋏60を構成する2枚の刃体に対する刃研ぎ作業を行う。
【0043】
以上の刃線65の研磨において、刃線65の断面が
図4(B)の状態であれば、研磨時の刃線65は、平面Pおよび接平面Rの交線Qと略一致する位置にある。一方、刃線65の断面が
図4(C)の状態であれば、研磨時の刃線65は、平面Pおよび接平面Rの交線Qから+Z方向に離れた位置にある。回転砥石12による研磨は、刃線65の断面を
図4(B)の状態に近づけるように進行する。
【0044】
従って、最初に刃線65の断面が
図4(B)の状態にあり、刃線65の摩耗が、その状態からあまり進んでいないときに上記の刃研ぎ作業を行い、さらに、整髪作業の途中においても、適切な時間間隔で上記の刃研ぎ作業を行うということを繰り返せば、刃線65の断面を、常に
図4(B)に近い状態に維持しておくことが可能である。
【0045】
尚、刃研ぎ装置10による上記の刃研ぎ作業を行うと、刃線65に沿って、薄く小さな突起である、かえりが残ることがある。この刃線65のかえりは、例えば、馬皮に刃線65を擦り付けるバフ研磨によって、簡単に取り除くことが可能である。
【0046】
次に、研磨治具22の形状例をより詳しく説明する。
【0047】
図2は、研磨治具22の形状の例を示す、(A)平面図、(B)底面図、(C)正面図、(D)背面図、(E)右側面図、(F)左側面図、および(G)断面図である。
【0048】
図2(A)の平面図に示す研磨治具22の形状例は、
図1Aでは、+Z側から研磨治具22を見た形状に対応する。
図2(C)の正面図に示す研磨治具22の形状例は、
図1Bでは、-Y側から研磨治具22を見た形状に対応する。
図2(E)の右側面図に示す研磨治具22の形状例は、
図1Cでは、+X側から研磨治具22を見た形状に対応する。
図2(G)の断面図は、研磨治具22を、
図2(A)に示す破線AA位置で切断した断面図である。
図2においても、
図1の各図と同一部分には、同一の符号を付している。
【0049】
研磨治具22は、例えば
図2(A)の平面図に示すように、研磨治具22を構成している部分として、前面部25、中間部26、および後方部27を有している。
【0050】
前面部25は、その一端に研磨基準面24を有する部分である。後方部27は、長孔43を有し、研磨治具22を装置台52に固定する部分である。中間部26は、前面部25と後方部27とを接続する部分である。
【0051】
図2(E)の右側面図に、その全体形状が示されている研磨基準面24は、左上部の斜めに切り取られている部分、および下部の開口28部分を含めて、例えば、横方向幅70mm、縦方向高さ50mmの大きさの面である。研磨基準面24の縦方向高さは、研磨するの刃体の刃裏63の面を研磨基準面24に押し当てて、研磨基準面24に沿って刃裏63の面を縦方向に滑らせるのに適切な高さであって良い。また、研磨基準面24の横方向幅は、研磨基準面24を含む平面Pと回転砥石12の側面部16への接平面Rとの交線Qに、研磨する刃体の刃線65を略平行に合わせながら、刃線65の方向に刃体を往復移動させるのに適切な幅であって良い。
【0052】
前面部25は、例えば、
図2(E)の右側面図に示されているように、左上部の角が斜めに切り取られた形状をしている。これは、研磨時に、美理容用鋏60の刃体を、研磨基準面24に沿って刃線65の方向に往復移動させるとき、美理容用鋏60が、前面部25と干渉しないようにするためである。
【0053】
図2(A)の平面図あるいは
図2(B)の底面図に示されているように、中間部26において、前面部25と繋がっている側の一方の角が斜めに切り取られた形状をしているのも同じ理由である。即ち、研磨時に、美理容用鋏60の刃体を、研磨基準面24に沿って刃線65の方向に往復移動させるとき、美理容用鋏60が、研磨治具22と干渉しないようにするためである。
【0054】
尚、これら斜めに切り取られる角の位置は、研磨する美理容用鋏60が、右利き用の美理容用鋏60であるか、左利き用の美理容用鋏60であるか、によって違っていてよい。美理容用鋏60が左利き用の美理容用鋏60である場合は、それに応じて、斜めに切り取られる角の位置を変えてよい。
【0055】
また、
図2(E)の右側面図に示されているように、前面部25は、下部に矩形の開口28が設けられている。この開口28は、中間部26に設けられた空間29に続いている。
図2(G)の断面図に示されているように、前面部25の開口28および中間部26の空間29は、回転砥石12と重なるように研磨治具22を設置しても、研磨治具22が、回転砥石12の側面部16と接触しないように設けられている。
【0056】
これにより、研磨治具22は、研磨基準面24を含む平面Pが、回転砥石12の側面部16と交線Qで交わり、交線Qにおける側面部16の接平面Rとの間に所定の鋭角角度αを有するように配置することができる(
図1B参照)。美理容用鋏60の刃線65部分を所定の角度αで研磨する条件が設定される。
【0057】
また、後方部27は、
図2(A)の平面図あるいは(B)の底面図に示されているように、図の上下方向の両端にガイド部32と接する辺を有する。これによって、後方部27は、回転砥石12に対して研磨治具22が配置される方向を決定する。また、後方部27の長孔43は、研磨治具22を装置台52に固定するための固定部42の一部である。
【0058】
以上説明した刃研ぎ装置10は、円盤形の回転砥石12と、それを回転させる砥石回転用モータ18、樹脂等で一体成型された研磨治具22、および固定部42などから構成されており、部品の点数も少なく、単純な構成で、取扱いも容易である。これにより、刃研ぎ装置10は、美容室あるいは理容室ごとに設置することが可能である。
【0059】
さらに、美容師あるいは理容師は、整髪作業の前、あるいは、整髪作業の合間に、刃研ぎ装置10を使って、簡単かつ少ない手順で刃研ぎ作業を実施し、美理容用鋏60の刃線65の断面を、
図4(B)の状態に保つことができる。これによって、美理容用鋏60を、切れ方が良好な状態に維持することが可能である。
(変形例)
【0060】
図3は、刃研ぎ装置10の変形例を示す。
図3は、
図1Bに示した刃研ぎ装置10の正面図と対応する形で、刃研ぎ装置10の変形例を示す。
図1Bに示されている部分と同じ部分には、同一符号を付して、重複する説明を省略する。
【0061】
図3に示す刃研ぎ装置10の変形例は、研磨治具22の+X方向端部にある研磨基準面24が、YZ方向の面ではなく、X軸方向に傾いている。これにより研磨基準面24を含む平面P1と、回転砥石12の側面部16の接平面Rとの間の角度α1は、
図1Bに示す角度αより小さい角度になる。
【0062】
図3に示す変形例は、研磨基準面24が、YZ方向に対してX軸方向に20°傾いている例を示している。この場合、回転砥石12と研磨治具22とのX軸方向距離L1を、表1の距離Lと同じ条件に設定すれば、角度α1は、15°~31°の範囲を同じ角度の細かさで設定できる(表1参照)。このため、
図3に示す変形例は、
図4(B)に示す刃線65部分の角度θが小さい美理容用鋏60の研磨に特に有効である。
【0063】
一方、
図1Bに示すように研磨基準面24がYZ方向に設定されている場合は、15°~31°という小さい角度範囲に対して、表1と同じ細かさで角度αを変えようとすると、回転砥石12と研磨治具22とのX軸方向距離Lを1mm以内の精度で設定しなければならない。研磨治具22の位置を細かく設定しなければならなくなり、刃研ぎ装置10の取り扱いが困難になる。
【0064】
以上、本発明に係る、美理容用鋏の刃研ぎ装置および刃研ぎ方法について、実施形態の例をもとに説明した。本発明は説明した実施形態に限定されるものではなく、請求項に記載した範囲において変形を行うことが可能である。このような変形を行った形態も本発明の権利範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0065】
10…刃研ぎ装置、12…回転砥石、14…円形部、16…側面部、18…砥石回転用モータ、19…回転軸、22…研磨治具、24…研磨基準面、25…前面部、26…中間部、27…後方部、28…開口、29…空間、32…ガイド部、42…固定部、43…長孔、44…押さえ板、45…ネジ、52…装置台、60…美理容用鋏、61…第1の刃体、62…第2の刃体、63…刃裏、64…刃表、65…刃線、66…刃先、67…刃元、68…要ネジ、C…中心軸、P、P1…平面、Q…交線、R…接平面、L、L1…距離、α、α1…角度