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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142361
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】火災検出装置
(51)【国際特許分類】
   G08B 17/12 20060101AFI20241003BHJP
   G06T 7/136 20170101ALI20241003BHJP
【FI】
G08B17/12 A
G06T7/136
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054474
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000233826
【氏名又は名称】能美防災株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100188514
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】山岸 貴俊
【テーマコード(参考)】
5C085
5L096
【Fターム(参考)】
5C085AA13
5C085AB01
5C085AC03
5C085BA36
5C085CA08
5L096BA02
5L096BA18
5L096DA02
5L096GA51
(57)【要約】
【課題】種々の監視環境に対応可能なロバスト性を備えた火災検出装置を得る。
【解決手段】赤外線サーモグラフィーで撮像した赤外画像に対して演算処理を施すことで火炎領域を特定する火災検出装置であって、赤外画像の各画素の温度情報と、温度閾値とを比較し、演算処理を施す対象領域を構成する画素として温度情報が温度閾値よりも高い画素を抽出する画素演算処理部を備え、画素演算処理部は、光学系が汚損されて透過率が低下する環境において、汚損の分布を正確に把握することなしに、かつ、感度補償を行うことなしに、あらかじめ想定した汚損状態となるまで高温領域を抽出する性能を維持する温度閾値を設定できる機能を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線サーモグラフィーで撮像した赤外画像に対して演算処理を施すことで火炎領域を特定する火災検出装置であって、
前記赤外画像の各画素の温度情報と、温度閾値とを比較し、前記演算処理を施す対象領域を構成する画素として前記温度情報が前記温度閾値よりも高い画素を抽出する画素演算処理部を備え、
前記赤外線サーモグラフィーの光学系が汚損されていない状態を前記赤外線サーモグラフィーの光学系の波長帯の透過率を100%として、前記光学系が許容可能な汚損限界の透過率をZ%とした場合に、
画素演算処理部は、
適切な温度閾値に相当する設定温度における総光学エネルギーEaと、前記赤外線サーモグラフィーを設置可能な最大温度に相当する環境温度における総光学エネルギーEbとを算出し、
前記設定温度における総光学エネルギーEaおよび前記環境温度における総光学エネルギーEbに基づいて前記温度閾値Tthを決定する
火災検出装置。
【請求項2】
前記画素演算処理部は、前記設定温度における総光学エネルギーEa、および前記環境温度における総光学エネルギーEbから、前記温度閾値Tthを、定数xを用いた下式の指数関数
Tth=((Ea-Eb)×Z/100+Eb)
として決定する
請求項1に記載の火災検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、監視カメラで撮像した入力画像に対して演算処理を施すことで火炎領域を特定する火災検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
煙特有の流動に着目した特徴量を用いて監視対象領域内に発生した煙を検出することで火炎領域を特定する従来装置がある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、入力画像に関して任意の区画で区切られた個々の分割領域を単位として特徴量を算出し、分割単位における特徴量の連結状態を考慮して、流動する煙を検出し、火炎領域の判定を行っている。
【0003】
ここで、分割領域とは、数画素単位でまとめた小領域に相当し、小領域としては、例えば、3×3画素、5×5画素といった領域が挙げられる。特許文献1では、空間的な隣接画素を考慮して特徴量が算出される。また、一定のサンプリング間隔で撮像された入力画像に関しては、時系列的に並んだ小領域同士の隣接関係も考慮して特徴量が算出される。
【0004】
特許文献1に係る従来装置は、このようにして算出された特徴量に基づくことで、監視対象領域内で流動する煙を検出し、煙の検出性能の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-087084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
特許文献1では、煙が発生している領域が部分的に遮蔽された場合には、小領域における特徴量が変化してしまい、この技術を火炎領域の検出へ応用した場合、失報の原因となることが考えられる。また、小領域で得られる特徴量は、小窓から風景を覗いた状態と同じで、得られる特徴量が少なく、そもそも火災検出精度を一定の性能以上に向上させるには、本手法以外にも、特定の現象に対して火災領域と非火災領域を区別するために有効な特徴量を見出して、適切な別の手法を加える必要があるといった課題がある。
【0007】
また、種々の監視環境において火炎領域を高精度に検出するためには、煙の流動性ばかりでなく、監視目的に応じて火災検出に有効な種々の特徴量を考慮し、誤報を抑制した上で検出精度の向上を図ることが重要である。
【0008】
さらに、監視環境によっては、監視カメラの光学系が汚損される状況が想定され、監視カメラで撮像した入力画像が汚損の影響を受けることで、火災検出性能に悪影響を及ぼすことが考えられる。
【0009】
従って、監視目的に応じて、種々の設置環境において、誤報を抑制した上で火災検出精度の向上を図ることができる装置が強く望まれている。
【0010】
本開示は、上記の課題を解決するためになされたものであり、種々の監視環境に対応可能なロバスト性を備えた火災検出装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示に係る火災検出装置は、赤外線サーモグラフィーで撮像した赤外画像に対して演算処理を施すことで火炎領域を特定する火災検出装置であって、赤外画像の各画素の温度情報と、温度閾値とを比較し、演算処理を施す対象領域を構成する画素として温度情報が温度閾値よりも高い画素を抽出する画素演算処理部を備え、赤外線サーモグラフィーの光学系が汚損されていない状態を赤外線サーモグラフィーの光学系の波長帯の透過率を100%として、光学系が許容可能な汚損限界の透過率をZ%とした場合に、画素演算処理部は、適切な温度閾値に相当する設定温度における総光学エネルギーEaと、赤外線サーモグラフィーを設置可能な最大温度に相当する環境温度における総光学エネルギーEbとを算出し、設定温度における総光学エネルギーEaおよび環境温度における総光学エネルギーEbに基づいて温度閾値Tthを決定するものである。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、種々の監視環境に対応可能なロバスト性を備えた火災検出装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示の実施の形態1における火災検出装置の機能ブロック図である。
図2】本開示の実施の形態1に係る火災検出装置において画像サンプリングごとに実行される一連処理を示したフローチャートである。
図3】本開示の実施の形態1に係るラベル領域演算処理部によるラベリング処理に関する説明図である。
図4】本開示の実施の形態2に係る火災検出装置における一連処理の流れを示した説明図である。
図5】本開示の実施の形態3に係る第1の機械学習判別器を用いた火災検出装置における一連処理の流れを示した説明図である。
図6】本開示の実施の形態3に係る第2の機械学習判別器を用いた火災検出装置における一連処理の流れを示した説明図である。
図7】本開示の実施の形態3に係る判別器と第1の機械学習判別器と第2の機械学習判別器を併用した火災検出装置における一連処理の流れを示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の火災検出装置の好適な実施の形態につき、図面を用いて説明する。
本開示では、実施の形態1~4に分けて、それぞれの実施の形態に係る火災検出装置が、種々の監視環境に対応可能なロバスト性を備えている点について詳細に説明する。
【0015】
実施の形態1では、画素単位、小領域単位、ラベル領域単位の演算処理を段階的に実施することで、火炎領域を特定するための候補領域を抽出しており、最終的に抽出された候補領域での特徴量に基づいて火炎領域を特定できる点を技術的特徴としている。この結果、高精度かつ部分的な遮蔽に強く、種々の監視環境に対応可能なロバスト性を備えた火災検出装置を実現できる。
【0016】
実施の形態2では、火災判定に必要な条件を個々に分割して構成された複数の小識別器を用いて、ラベル領域ごとに算出された1以上の統計量の組合せに基づいてラベル領域ごとに火災領域であるかを識別し、さらに、判別器を用いて複数の小識別器による識別結果の組合せから火炎領域を特定する点を技術的特徴としている。この結果、単体では精度が低い小識別器でも、火災検出の目的に応じて、複数の小識別器による識別結果の組合せから火炎領域を高い精度で特定でき、種々の監視環境に対応可能なロバスト性を備えた火災検出装置を実現できる。
【0017】
実施の形態3では、実施の形態2において設計者により構築された判別器に代えて、複数の小識別器による識別結果の組合せから火炎領域を特定する機械学習判別器、あるいは、ラベル領域ごとに算出された1以上の統計量の組合せから火炎領域を特定する機械学習判別器を、機械学習判別処理を行う火炎領域特定部として備えている点を技術的特徴としている。また、本実施の形態3では、実施の形態2において設計者により構築された判別器に加えて、機械学習判別器を併用する構成を、機械学習判別処理を行う火炎領域特定部として備えている点を技術的特徴としている。この結果、特性の異なる判別器を用いることで、火災検出の目的に応じて火炎領域を高い精度で特定でき、種々の監視環境に対応可能なロバスト性を備えた火災検出装置を実現できる。
【0018】
実施の形態4では、赤外線サーモグラフィーで撮像した赤外画像における赤外線エネルギー量に着目し、赤外線サーモグラフィーの光学系が汚損されて透過率が劣化した状態を想定した上で、火炎領域を特定するための温度閾値を決定する構成を備えている点を技術的特徴としている。この結果、汚損状況が変わっても、感度補償をすることなしに継続して火災監視が可能となり、種々の監視環境に対応可能なロバスト性を備えた火災検出装置を実現できる。
【0019】
実施の形態1.
図1は、本開示の実施の形態1における火災検出装置の機能ブロック図である。本実施の形態1に係る火災検出装置は、監視カメラ1で撮像した入力画像に対して演算処理を施すことで火炎領域を特定する機能を有しており、画像メモリ10および演算処理部20を備えて構成されている。
【0020】
画像メモリ10は、監視カメラ1によりあらかじめ決められたサンプリング周期ごとに撮像された入力画像を、過去一定期間分、時系列画像として記憶できるように、複数フレーム分の画像メモリとして構成されている。1フレーム分の画像は、複数の画素から構成される。
【0021】
また、演算処理部20は、画素演算処理部21、小領域演算処理部22、およびラベル領域演算処理部23を含んで構成されており、3段階の演算処理を行うことで、火炎領域を特定するための候補領域を抽出する。
【0022】
すなわち、本実施の形態1に係る火災検出器は、図1のような機能を備えることで、火災領域の絞り込みを段階的に行っていき、絞り込まれた火災領域における統計量を算出できることで、高精度であり、かつ部分的な遮蔽に強いロバストな火災検出を可能とする。
【0023】
図2は、本開示の実施の形態1に係る火災検出装置において画像サンプリングごとに実行される一連処理を示したフローチャートである。ステップS210において、火災検出装置は、監視カメラ1により撮像された入力画像を取得し、画像メモリ10に記憶させる。
【0024】
なお、以下の説明では、監視カメラ1として、赤外線サーモグラフィーなどの赤外線カメラを使用し、各画素のデータとしては、温度情報に相当する値が得られる場合を具体例として説明する。この場合、例えば、各画素の輝度値0~255が、0~255℃に相当することとなる。
【0025】
火災検出装置は、監視カメラ1により入力画像を取得した後には、ステップS220による画素単位での演算処理、ステップS230による小領域単位での演算処理、およびステップS240によるラベル領域単位での演算処理を順次実行する。
【0026】
ステップS220による画素単位での演算処理は、ステップS221~ステップS223によって構成されており、画素演算処理部21によって実行される。ステップS221において、画素演算処理部21は、入力画像の各画素に関して、高温領域を抽出するためにあらかじめ設定された温度閾値を用いて、高温領域を抽出する。例えば、温度閾値として炎を検出でき、また通常環境温度を排除可能な温度200℃を設定する。
【0027】
次に、ステップS222において、画素演算処理部21は、画像内に新たに侵入してきた物体がないかを判断する侵入領域の抽出処理を行う。具体的には、画素演算処理部21は、火災のない通常状態における複数の入力画像から、背景画素の確率密度分布を作成する。
【0028】
そして、画素演算処理部21は、火災監視時に取得した入力画像の対象画素の値が、確率密度分布中での出現頻度が低い値に相当する場合には、画像内に新たに侵入してきた物体があると判断する。このような侵入領域の抽出を行うことで、火災が発生した領域を侵入領域として抽出することができる。
【0029】
なお、背景画素の確率密度分布を作成するに当たっては、例えば、公知のカーネル密度推定法が適用でき、詳細な説明は省略する。
【0030】
次に、ステップS223において、画素演算処理部21は、前回のサンプリング時に取得した入力画像と、今回のサンプリング時に取得した入力画像とに基づいて、各画素に関する差分を算出するフレーム差分処理を実行する。その後、ステップS230による小領域単位での演算処理に進む。
【0031】
画素単位での演算処理結果として得られた、高温領域として抽出された画素、侵入領域として抽出された画素、フレーム差分が算出された画素に関する情報は、後段において、小領域単位での演算処理による特徴量の算出、およびラベル領域単位での演算処理による特徴量の算出に活用することができる。
【0032】
ステップS230による小領域単位での演算処理は、ステップS231によって構成されており、小領域演算処理部22によって実行される。ステップS231において、小領域演算処理部22は、先のステップS221~ステップS223により得られた画素単位での演算結果、および画像メモリ10に記憶された入力画像の時系列データに基づいて、小領域単位での種々の特徴量を算出する。
【0033】
具体的には、小領域演算処理部22は、例えば、以下のような3つの特徴量1~特徴量3を、小領域単位で算出する。ここで、小領域とは、隣接する数画素単位でまとめた領域に相当し、例えば、3×3画素、5×5画素といった領域が挙げられる。
【0034】
<特徴量1>
小領域演算処理部22は、ステップS221による画素単位での高温領域抽出処理に基づいて、小領域内に占める高温を示す画素数の比率を特徴量1として算出する。例えば、小領域を3×3とした場合に、高温を示す画素が5画素存在する小領域は、
特徴量1=5/9
として算出される。
【0035】
<特徴量2>
小領域演算処理部22は、ステップS222による画素単位での侵入領域の抽出処理に基づいて、小領域内に占める侵入物と判定された画素数の比率を特徴量2として算出する。例えば、小領域を3×3とした場合に、侵入物と判定された画素数が7画素存在する小領域は、
特徴量2=7/9
として算出される。
【0036】
<特徴量3>
小領域演算処理部22は、ステップS223による画素単位でのフレーム差分処理に基づいて、小領域内に占める一定の差分値以上を示す画素数の比率を特徴量3として算出する。例えば、小領域を3×3とし、一定の差分値を10とした場合に、一定の差分値以上を示す画素数が3画素存在する小領域は、
特徴量3=3/9
として算出される。その後、ステップS240によるラベル領域単位での演算処理に進む。
【0037】
小領域単位での演算処理結果として得られた、小領域における種々の特徴量に関する情報は、後段において、ラベル領域単位での演算処理によるラベリング処理および特徴量の統計量算出処理に活用することができる。
【0038】
なお、上述した特徴量1~特徴量3は、一例であり、小領域演算処理部22は、画像メモリ10に記憶された入力画像の時系列データに基づいて、輝度変化、相関関係等を示す汎用性の高い複数の特徴量を算出することが可能である。すなわち、小領域演算処理部22は、火災検出の目的、あるいは監視環境に応じて、火災に起因する汎用性の高い特徴量を算出するように構成することができる。
【0039】
さらに、小領域演算処理部22は、画像メモリ10に記憶された入力画像の時系列データに基づいて、小領域における空間的特徴量あるいは時間変化特徴量を算出し、特徴量ごとに過去から現在までの所定期間における算出結果を時系列データとして時系列記憶領域に記憶させておくことができる。
【0040】
複数の特徴量として時系列記憶領域に記憶された小領域における空間的特徴量あるいは時間変化特徴量の各時系列データは、後段のステップS241、ステップS242において用いられることとなる。
【0041】
ステップS240によるラベル領域単位での演算処理は、ステップS241~ステップS243によって構成されており、ラベル領域演算処理部23によって実行される。ステップS241において、ラベル領域演算処理部23は、先のステップS231により得られた種々の特徴量の算出結果に基づいて、所定の条件を満たす隣接する小領域を統合するラベリング処理を行う。
【0042】
例えば、ラベル領域演算処理部23は、時系列記憶領域に記憶された複数の特徴量に基づいて、以下のような2つの条件を満たす小領域を抽出する。
<条件1>
画像メモリ10に記憶された過去5回分の入力画像に対して、上述した特徴量1が算出された時系列データを参照し、例えば、5回中1回でも特徴量1が検出された小領域を抽出する。
<条件2>
画像メモリ10に記憶された過去5回分の入力画像に対して、上述した特徴量2が算出された時系列データを参照し、例えば、5回中1回でも特徴量2が検出された小領域を抽出する。
【0043】
そして、ラベル領域演算処理部23は、条件1および条件2をともに満たす小領域を1に設定する。さらに、ラベル領域演算処理部23は、1に設定された隣接する小領域を統合するラベリング処理を行う。
【0044】
図3は、本開示の実施の形態1に係るラベル領域演算処理部23によるラベリング処理に関する説明図である。図3(A)は、小領域演算処理部22での処理結果に基づいて所定の条件を満たす隣接する小領域を抽出した部分が白抜きの小領域として示されている。
【0045】
また、図3(B)は、白抜きされた小領域を統合するラベリング処理を施すことで、「1」~「4」にラベル付けされた4つの島が火災判定処理領域として抽出された状態を示している。
【0046】
次に、ステップS242において、ラベル領域演算処理部23は、抽出した火災判定処理領域のそれぞれにおいて、時系列記憶領域に記憶された小領域における空間的特徴量あるいは時間変化特徴量の各時系列データの統計量を算出することで、ラベル単位での火災判定に必要な候補領域と特徴量の統計量を抽出する。
【0047】
具体的には、ラベル領域演算処理部23は、例えば、上述した高温領域に関する特徴量1に基づいて、以下のような統計量1、統計量2を、ラベル領域単位で算出する。
【0048】
<統計量1>
時系列記憶領域に記憶された小領域における特徴量1に関する時系列データに基づいて、ラベル領域ごとに、過去5回分において例えば2回以上の比率で高温領域として特定された小領域の数をカウントすることで、ラベル領域中の高温領域の面積を算出する。
【0049】
<統計量2>
時系列記憶領域に記憶された小領域における特徴量1に関する時系列データに基づいて、ラベル領域ごとに、過去5回分において共通して高温領域として特定された小領域の数をカウントし、ラベル領域に含まれる小領域の数で正規化することで、ラベル領域中の高温領域の面積比を算出する。
【0050】
また、ラベル領域演算処理部23は、例えば、上述したフレーム差分に関する特徴量3に基づいて、以下のような統計量3を、ラベル領域単位で算出する。
【0051】
<統計量3>
ラベル領域ごとに、特徴量3の条件を満たす小領域の数をカウントし、ラベル領域に含まれる小領域の数で正規化することで、ラベル領域中で特徴量3を示す領域の面積比を算出する。
【0052】
なお、上述した統計量1~統計量3は、一例であり、ラベル領域演算処理部23は、小領域演算処理部22で算出された空間的特徴量あるいは時間変化特徴量に関する種々の特徴量に基づいて、火炎領域を特定するための候補領域の抽出と、火災判定に適した特徴量の統計量の算出とが可能である。すなわち、ラベル領域演算処理部23は、火災検出の目的、あるいは監視環境に応じて、候補領域を抽出し、火災判定に適した特徴量の統計量を算出するように構成することができる。
【0053】
より具体的には、ラベル領域演算処理部23は、小領域演算処理部22で算出された小領域における空間的特徴量あるいは時間変化特徴量に基づいて、ラベリング処理を実行し、ラベル領域ごとに、種々の特徴量の統計量を算出することができる。
【0054】
次に、ステップS243において、ラベル領域演算処理部23は、ステップS242で算出されたラベル領域ごとの統計量に基づいて、火炎領域を特定する。なお、このステップS243における火炎領域を特定するための具体的な処理については、実施の形態2および実施の形態3において詳細に説明する。
【0055】
上述した本実施の形態1に係る火災検出装置の特徴をまとめると、以下のようになる。
<特徴1>
本実施の形態1に係る火災検出装置では、以下の3つの演算処理部を備えている。
・入力画像を構成する画素単位での演算処理を行う画素演算処理部
・複数の画素をまとめた小領域単位での演算処理を行う小領域演算処理部
・小領域単位でラベリング処理を行うことで得られたラベル領域単位での演算処理を行うラベル領域演算処理部
【0056】
具体的には、画素演算処理部は、入力画像に対する第1段階の処理として画素単位での演算処理を行い、小領域演算処理部は、画素演算処理部での第1段階による処理結果および入力画像を用いて、第2段階の処理として前記小領域単位での演算処理を行う。
【0057】
さらに、ラベル領域演算処理部は、小領域演算処理部での第2段階による処理結果に基づいて所定の条件を満たす隣接する小領域を統合するラベリング処理を行うことでラベル領域を火災判定処理領域として抽出する。また、ラベル領域演算処理部は、火災判定処理領域のそれぞれに対する第3段階の処理としてラベル領域単位での演算処理を行うことで火炎領域を特定するための特徴量の統計量を抽出する。
【0058】
このような構成により、汎用性の高い複数の特徴量を小領域ごとに算出し、算出結果に基づいてラベリング処理を実行することで火災判定処理領域に相当するラベル領域を特定し、ラベル領域ごとに空間的特徴量あるいは時間変化特徴量の統計量を算出し、候補領域の絞り込みを段階的に行うことができる。この結果、高精度、かつ部分的な遮蔽に強いロバストな火災検出を行うための演算処理を実現することが可能となる。
【0059】
<特徴2>
本実施の形態1に係る火災検出装置では、特に、小領域演算処理部およびラベル領域演算処理部が、以下のような機能を備えている。
小領域演算処理部は、小領域単位での複数の特徴量として、小領域における空間的特徴量あるいは時間変化特徴量を算出し、特徴量ごとに過去から現在までの所定期間における算出結果を時系列データとして時系列記憶領域に記憶させる。
【0060】
ラベル領域演算処理部は、時系列記憶領域に記憶された複数の特徴量に関する時系列データに基づいてラベリング処理を行うことで抽出した火災判定処理領域のそれぞれにおいて、空間的特徴量あるいは時間変化特徴量に関する時系列データの統計量を算出する。
【0061】
このような演算処理では、ラベル領域において、炎特有のゆらぎ周波数の情報を用いることなしに、火災検出処理を行っている。従って、画像を取得するサンプリング間隔は、一般に炎のゆらぎエネルギーが集中する周波数帯(例えば、10Hz以下までの帯域)を考慮する必要がない。すなわち、炎のゆらぎエネルギーが集中する周波数帯である10Hz以下の全域の周波数成分を保持しないサンプリング間隔で、入力画像を取得することができる。
【0062】
より具体的には、入力画像を取得するためのサンプリング間隔は、例えば0.5~2秒程度に設定できる。この結果、折り返し雑音の発生するサンプリング条件で取得した動画像であっても、高い検出精度を発揮できる。
【0063】
さらには、特徴2を備えることで、折り返し雑音が発生した画像でも高い精度を実現できるため、画像のサンプリング間隔のジッタの許容度が極めて高く、例えば、トラフィックが変動するネットワーク経由で画像を取得した場合に対しても、安定した検出性能を発揮できる火災検出装置を実現できる。
【0064】
以上のように、実施の形態1によれば、種々の監視環境に対応可能なロバスト性を備えた火災検出装置を得ることができる。
【0065】
実施の形態2.
本実施の形態2では、ラベル領域ごとに算出された複数の統計量に基づいて火炎領域を特定するための具体的な構成について、詳細に説明する。
【0066】
図4は、本開示の実施の形態2に係る火災検出装置における一連処理の流れを示した説明図である。なお、本実施の形態2における図4の説明、および後述する実施の形態3における図5図7の説明では、先の実施の形態1で説明した画素単位での演算処理の後に小領域単位の演算処理を行う部分を、小領域単位の演算処理として1つにまとめて記載している。
【0067】
図4では、一連処理が、ステップS410、S420、S430、S440、S450、S460の6ステップに分けて記載されており、このうち、ステップS410、S420、S430は先の実施の形態1で説明した内容と同等であり、先の図1に示した機能ブロック図と同等の構成により処理される。
【0068】
一方、本実施の形態2における特徴部分であるステップS440、S450、S460は、それぞれ、N個の小識別器1~N、3個の判別器1~3、および投票器51による、図1には記載されていない新たな構成により処理される。そこで、ステップS410、S420、S430については簡単に説明し、ステップS440、S450、S460については詳細に説明することとする。
【0069】
ステップS410において、監視カメラ1で撮像された入力画像が、あらかじめ決められたサンプリング周期で、画像メモリ10に記憶されることで、画像入力処理が行われる。なお、図4では、監視カメラ1として赤外線カメラを用い、入力画像として赤外画像が得られた場合を例示している。
【0070】
次に、ステップS420において、画素単位での演算処理および小領域単位での演算処理が実行されることで、汎用性の高い複数の特徴量1~Lが算出される。その後、ステップS430において、ラベル領域単位での演算処理が実行されることで、ラベリング処理されたラベル領域ごとに空間的特徴量あるいは時間変化特徴量の統計量として、複数の統計量1~Mが算出される。
【0071】
次に、ステップS440において、複数の小識別器30(1)~30(N)のそれぞれを用いて、火災領域であるか非火災領域であるかをラベル領域ごとに識別する処理が行われる。ここで、小識別器30は、ラベル領域演算処理部23によって算出された複数の統計量1~Mのうちの1以上の統計量に基づいて、火災判定に必要な条件を分割した上で、ラベル領域ごとに、火災領域であるか非火災領域であるかを識別するように構成されている。
【0072】
換言すると、小識別器30のそれぞれは、個々としては決して識別精度が高くないが、特定の条件を識別することができるように、適切に選定された統計量に基づいた識別処理を行い、火災領域として識別したラベル領域に対しては1をセットし、非火災領域として識別したラベル領域に対しては-1をセットする。例えば、先に説明した統計量1を用いた小識別器30(1)、および統計量3を用いた小識別器30(2)を、以下のように構成することができる。
【0073】
<小識別器30(1)>
ラベル領域中の高温領域の面積を示す統計量1の時間遷移に基づいて、高温領域が継続して発生するラベル領域における面積変動が所定範囲内であれば火災領域、所定範囲内でなければ非火災領域と識別する。
【0074】
<小識別器30(2)>
ラベル領域中の特徴量3を示す領域の面積比を示す統計量3の時間遷移に基づいて、最大値が所定範囲内であれば火災領域、所定範囲内でなければ非火災領域と識別する。
【0075】
なお、それぞれの小識別器30では、1つの統計量を用いる場合には限定されず、2以上の統計量を組み合わせて用いることもできる。また、それぞれの小識別器30において、使用する統計量、設定される所定範囲は、火災検出の目的、あるいは監視環境に応じて、適切に設定できる。さらに、それぞれの小識別器30は、火災領域を抽出するために適した条件ばかりでなく、非火災領域を抽出するために適した条件を識別するように、個別に設定することができる。
【0076】
小識別器30で用いられる統計量は,ラベル領域の面積に何らかの相関関係を持つものが多くある。そこで、同一の小識別器30内でも、ラベル領域の面積に応じて所定範囲として設定する値を異ならせることで、相関関係を考慮した識別処理を行うように構成してもよい。
【0077】
次に、ステップS450において、複数の判別器40(1)~40(3)のそれぞれを用いて、火災検出の目的に応じて、火災領域であるか非火災領域であるかをラベル領域ごとに判別する処理が行われる。
【0078】
ここで、判別器40は、複数の小識別器30(1)~30(N)の中から1以上の所望の小識別器で構成された小識別器群を、火災検出の目的に応じて選定し、選定した小識別器群に含まれる各小識別器30による識別結果の論理演算により、火災領域であるか非火災領域であるかをラベル領域ごとに判別するように構成されている。
【0079】
換言すると、判別器40のそれぞれは、火災検出の目的に応じて小識別器群を選定し、論理演算により厳密な判別を行うことで、火災領域であるか非火災領域であるかを切り分け、誤報要因の抑制を図っている。
【0080】
次に、ステップS460において、1台の投票器51を用いて、複数の判別器40(1)~40(3)による判別結果の組み合わせ投票により火炎領域を特定する処理が行われる。
【0081】
投票器51は、例えば、比較的大きな面積を有するラベル領域に特化した判別器40(1)による判別結果と、比較的小さな面積を有するラベル領域に特化した判別器40(2)、および判別器40(3)による判別結果との組み合わせ投票により火炎領域を特定することで、単体では精度が低い複数の小識別器30を用いて、複数の判別器40と組み合わせることで、高い精度の火災判別性能を実現できる。なお、本実施の形態では3つの判別器の構成としたが、判別器の数は、この実施例の限りではなく、適切な火災判別ができる数を用意するのがよい。
【0082】
上述した本実施の形態2に係る火災検出装置の特徴をまとめると、以下のようになる。
<特徴1>
本実施の形態2に係る火災検出装置では、先の実施の形態1で説明したラベル領域演算処理部の後段に、以下の3つの構成を備えている。
・ラベル領域演算処理部によって算出された複数の統計量の中から1以上の統計量に基づいて、火災領域であるか非火災領域であるかをラベル領域ごとに識別する複数の小識別器
【0083】
・火災検出の目的に応じて複数の小識別器の中から1以上の所望の小識別器で構成された小識別器群を選定し、選定した小識別器群に含まれる各小識別器による識別結果の論理演算により火災領域であるか非火災領域であるかをラベル領域ごとに判別する複数の判別器
・複数の判別器による判別結果の組み合わせ投票により火炎領域を特定する投票器
【0084】
具体的には、複数の小識別器のそれぞれは、火災判定に必要な条件を分割して構成され、特定の条件に特化して構成されており、特定の誤報要因を火災検出しないことを目的として、火災判定に必要な条件が設定された誤報特定用の小識別器も含むことができる。
【0085】
同様に、複数の判別器として、特定の非火災を検出する判別器を含むように構成することができる。
【0086】
換言すると、本実施の形態2に係る火災検出装置は、あらかじめ汎用性の高い複数の特徴量を多数用意し、これら特徴量から算出される統計量を用いて判別精度が高くはないが有効な小識別器を多数用意し、これら小識別器を組み合わせた複数の判別器による投票を行う構成を備えている。
【0087】
従って、このような構成を備えることで、単体では精度が低い識別器でも、高い精度の火災判別性能を実現できる。すなわち、特定の現象に対して火災領域と非火災領域を区別するために有効な特徴量を見出して、その都度、適切なアルゴリズムを考え出していた従来手法を改善することができる。
【0088】
<特徴2>
本実施の形態2に係る火災検出装置では、ラベル領域の面積に応じて小識別器群に含まれる小識別器の組合せを変更して選定を行うことができ、同一の小識別器内においてもラベル領域の面積に応じて異なる閾値を用いて火災領域と非火災領域との識別処理を実行できる構成を備えている。
【0089】
また、ある特徴量あるいは統計量に注目し、その値が一定の範囲となる場合に、異なる識別器の組み合わせを用いて火災検出をさせることで、例えば、小さい面積の領域だけに特化した火災判別を行わせることができる。
【0090】
以上のように、実施の形態2によれば、種々の監視環境に対応可能なロバスト性を備えた火災検出装置を得ることができる。
【0091】
実施の形態3.
先の実施の形態2では、設計者により複数の小識別器30および複数の判別器40が設計され、火災領域および非火災領域を特定する適切な判別処理が行われる場合について説明した。これに対して、本実施の形態3では、機械学習による判別処理を用いる場合について詳細に説明する。
【0092】
なお、機械学習による判別処理を適用する手法としては、以下の3つが考えられる。
(1)複数の小識別器30のそれぞれの識別結果を入力パラメータとして火災領域であるか非火災領域であるかをラベル領域ごとに判別する第1の機械学習判別器
(2)ラベル領域演算処理部23により算出された複数の統計量を入力パラメータとして火災領域であるか非火災領域であるかをラベル領域ごとに判別する第2の機械学習判別器
(3)先の実施の形態2で説明した設計者により設計された複数の判別器40と、第1の機械学習判別器と、第2の機械学習判別器とを組み合わせた判別器
【0093】
そこで、(1)~(3)のそれぞれについて、以下に個別に図面を用いて説明する。
<(1)第1の機械学習判別器について>
図5は、本開示の実施の形態3に係る第1の機械学習判別器61を用いた火災検出装置における一連処理の流れを示した説明図である。図5におけるステップS410、S420、S430、S440の4ステップは、先の図4におけるステップS410、S420、S430、S440の4ステップと同一であり、説明を省略する。
【0094】
一方、本実施の形態3における図5の特徴部分は、ステップS550およびステップS560であり、それぞれ、第1の機械学習判別器61、および投票器52による、図1には記載されていない新たな構成により処理される。そこで、ステップ550およびステップS560について詳細に説明することとする。
【0095】
ステップS550において、第1の機械学習判別器61を用いて、複数の小識別器30(1)~30(N)による識別結果を入力パラメータとして、火災領域であるか非火災領域であるかをラベル領域ごとに判別する処理が行われる。
【0096】
ここで、第1の機械学習判別器61は、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)により火災判定を行う。なお、第1の機械学習判別器61は、複数の小識別器30(1)~30(N)による識別結果としてあらかじめ取得された教師データに基づいて学習済みである。
【0097】
使用するCNNは、例えば、入力層数=小識別器数N、中間層数=入力層数、出力層数=1のCNNであり、入力層に対して複数の小識別器30(1)~30(N)による識別結果が入力され、出力層から判別結果が出力される。
【0098】
なお、第1の機械学習判別器61としては、異なる教師データや初期パラメータに基づいて学習を行った複数のCNNで構成することも可能である。例えば、特定の監視環境ごとに個別のCNNを用いたり、初期値を変えることにより判別特性の異なるCNNを用いることが考えられる。あるいは、火災領域を特定するための学習とは別に、特定の誤報要因について個別のCNNを用いることが考えられる。
【0099】
なお、ニューラルネットワーク自体は公知の技術であり、詳細な説明は省略する。
【0100】
次に、ステップS560において、1台の投票器52を用いて、第1の機械学習判別器61による判別結果の組み合わせ投票により火炎領域を特定する処理が行われる。投票器52は、複数のCNNで構成された第1の機械学習判別器61による判別結果の組み合わせ投票により火炎領域を特定することで、単体では精度が低い複数の小識別器30を用いて、第1の機械学習判別器61と組み合わせることで、高い精度の火災判別性能を実現できる。
【0101】
<(2)第2の機械学習判別器について>
図6は、本開示の実施の形態3に係る第2の機械学習判別器62を用いた火災検出装置における一連処理の流れを示した説明図である。図6におけるステップS410、S420、S430の3ステップは、先の図4におけるステップS410、S420、S430の3ステップと同一であり、説明を省略する。
【0102】
一方、本実施の形態3における図6の特徴的な部分は、ステップS650およびステップS660であり、それぞれ、第2の機械学習判別器62、および投票器53による、図1には記載されていない新たな構成により処理される。そこで、ステップ650およびステップS660について詳細に説明することとする。
【0103】
ステップS650において、第2の機械学習判別器62を用いて、ラベル領域演算処理部23により算出された複数の統計量を入力パラメータとして、火災領域であるか非火災領域であるかをラベル領域ごとに判別する処理が行われる。
【0104】
ここで、第2の機械学習判別器62は、第1の機械学習判別器61と同様に、CNNにより火災判定を行う。なお、第2の機械学習判別器62は、ラベル領域演算処理部23により算出された複数の統計量としてあらかじめ取得された教師データに基づいて学習済みである。
【0105】
使用するCNNは、例えば、入力層数=統計量数M、中間層数=入力層数、出力層数=1のCNNであり、入力層に対してラベル領域演算処理部23により算出された複数の統計量が入力され、出力層から判別結果が出力される。
【0106】
なお、第2の機械学習判別器62としては、異なる教師データや初期パラメータに基づいて個別に学習を行った複数のCNNで構成することも可能である。例えば、特定の監視環境ごとに個別のCNNを用いたり、初期値を変えることにより判別特性の異なるCNNを用いることが考えられる。あるいは、火災領域を特定するための学習とは別に、特定の誤報要因について個別のCNNを用いることが考えられる。
【0107】
なお、ニューラルネットワーク自体は公知の技術であり、詳細な説明は省略する。また、図5に示した第1の機械学習判別器61と図6に示した第2の機械学習判別器62との相違点については、後述する(3)のところで詳細に説明する。
【0108】
次に、ステップS660において、1台の投票器53を用いて、第2の機械学習判別器62による判別結果の組み合わせ投票により火炎領域を特定する処理が行われる。投票器53は、複数のCNNで構成された第2の機械学習判別器62による判別結果の組み合わせ投票により火炎領域を特定することで、複数の統計量を用いて、高い精度の火災判別性能を実現できる。
【0109】
<(3)判別器40と機械学習判別器61、62との組合せについて>
図7は、本開示の実施の形態3に係る判別器40と第1の機械学習判別器61と第2の機械学習判別器62を併用した火災検出装置における一連処理の流れを示した説明図である。
【0110】
図7におけるステップS410、S420、S430、S440、S450、S460の6ステップは、先の図4におけるステップS410、S420、S430、S440、S450、S460の6ステップと同一である。また、図7におけるステップS550、S560の2ステップは、先の図5におけるステップS550、S560の2ステップと同一である。さらに、図7におけるステップS650、S660の2ステップは、先の図6におけるステップS650、S660の2ステップと同一である。
【0111】
一方、本実施の形態3における図7の特徴的な部分は、ステップS770であり、火災判別器71による、図1には記載されていない新たな構成により処理される。そこで、ステップ770について詳細に説明することとする。
【0112】
ステップS410、S420、S430、S440、S450、S460の6ステップによる一連の処理は、先の実施の形態2で説明したように、設計者により設計された判別器40を用いた火災判別手法である。従って、設計者による複数の小識別器30および複数の判別器40の設計により、火災判別結果が異なる。
【0113】
また、ステップS410、S420、S430、S440、S550、S560の6ステップによる一連処理は、上述した(1)で説明した第1の機械学習判別器61を用いた火災判別手法である。従って、学習内容に応じて火災判別結果が異なる。
【0114】
また、ステップS410、S420、S430、S650、S660の5ステップによる一連処理は、上述した(2)で説明した第2の機械学習判別器62を用いた火災判別手法である。従って、学習内容に応じて火災判別結果が異なる。
【0115】
さらに、判別器40、第1の機械学習判別器61、第2の機械学習判別器62を比較すると、それぞれ以下のような特性を有する。
【0116】
判別器40は、設計者によって性能が左右されるが、設計者の経験、設置環境の特性などから、少ないデータであっても火災判別性能を高められる特性がある。また、意図的に、誤報を抑制するための厳しい火災判別特性を有するように、判別器40を設計することも可能である。
【0117】
また、第1の機械学習判別器61は、実測されたデータから作成された教師データに基づいて種々の状況を考慮した火災判別性能が得られる。また、複数の小識別器30の識別結果を入力パラメータとしているため、小識別器の設計内容に応じた性能になるため、設計者の経験に基づきつつも、実測に基づく火災判別を行うことができる特性を有する。定性的には、このような構成の識別器では、第2の機械学習判別器62と判別器40との中間の特性を有する。
【0118】
さらに、第2の機械学習判別器62は、実測されたデータから作成された教師データに基づいて種々の状況を考慮した火災判別性能が得られる。また、ラベル領域演算処理部23によって算出された複数の統計量を入力パラメータとしているため、設計者の経験外の論理に基づく火災判別特性を有する。定性的には、このような構成の識別器では、火災判別性能は低下するものの、最も迅速な火災判別性能を有する。
【0119】
すなわち、判別器40、第1の機械学習判別器61、第2の機械学習判別器62は、いずれも火災と非火災を正確に判別する完全な結果を得ることはできないが、それぞれ上述したような異なる特性を備えている。そこで、図7に示す構成では、判別器40、第1の機械学習判別器61、第2の機械学習判別器62によるそれぞれの判別処理に基づく投票結果を考慮して、最終段において火災判別処理を行う火災判別器71を備えている。
【0120】
ステップS770において、火災判別器71を用いて、判別器40、第1の機械学習判別器61、第2の機械学習判別器62によるそれぞれの判別処理に基づく投票結果を考慮して、火災領域であるか非火災領域であるかをラベル領域ごとに判別する処理が最終段として行われる。
【0121】
図7に示した一連処理を実行する火災検出装置の特徴をまとめると、以下のようになる。
<特徴1>
火災判別器71は、3つの異なる判別器および投票器を介して、以下の3つの判別結果の提供を受けることとなる。
・第1の機械学習判別器61によるそれぞれの判別結果に基づく投票器52による投票結果が、第1の判別結果として火災判別器71に提供される。
・第2の機械学習判別器62によるそれぞれの判別結果に基づく投票器53による投票結果が、第2の判別結果として火災判別器71に提供される。
・複数の判別器40によるそれぞれの判別結果に基づく投票器51による投票結果が、第3の判別結果として火災判別器71に提供される。
【0122】
そして、火災判別器71は、第1の判別結果と、第2の判別結果と、第3の判別結果による投票に基づいた多数決から、火炎領域を特定することができる。
【0123】
ここで、投票器51、投票器52、および投票器53による3種の投票による個別の判別結果を取得する前段の工程は、第1プロセス部に相当し、火災判別器71により3つの判別結果から最終的な判定結果を生成する後段の工程は、第2プロセス部に相当する。
【0124】
換言すると、本実施の形態3に係る図7の処理構成を備えた火災検出装置は、あらかじめ汎用性の高い複数の特徴量を多数用意し、これら特徴量から算出される統計量を用いて判別精度が高くはないが有効な小識別器を多数用意し、これら小識別器の出力を入力パラメータとした第1の機械学習判別器61による判別結果に対して投票処理を行うことで、第1の判別結果を生成できる。
【0125】
また、あらかじめ汎用性の高い複数の特徴量を多数用意し、これら特徴量から算出される統計量を入力パラメータとした第2の機械学習判別器62による判別結果に対して投票処理を行うことで、第2の判別結果を生成できる。
【0126】
さらに、あらかじめ汎用性の高い複数の特徴量を多数用意し、これら特徴量から算出される統計量を用いて判別精度が高くはないが有効な小識別器を多数用意し、これら小識別器を組み合わせた複数の判別器40による判別結果に対して投票処理を行うことで、第3の判別結果を生成できる。
【0127】
そして、第1乃至第3の3種の判別結果に基づいて、最終的に、火炎領域を特定できる。この結果、それぞれの判別器単体では目標精度に到達できない場合であっても、特性の異なる判別器による判別結果の組合せの効果により、火災判別性能の高精度化を実現できる。
【0128】
以上のように、実施の形態3によれば、種々の監視環境に対応可能なロバスト性を備えた火災検出装置を得ることができる。
【0129】
実施の形態4.
本実施の形態4では、監視カメラ1として赤外線サーモグラフィーを用いた場合に、入力画像から高温領域を抽出するために使用される温度閾値Tthの設定方法について説明する。
【0130】
例えば、トンネルや屋外プラントなどの屋外用途として火災検出装置を用いる場合には、監視時における光学系の汚損が、検出性能に重大な影響を与える。そこで、光学式火災検知器などでは、センサの窓材の汚損の程度を把握し、検出感度を補償する機能を有する。
【0131】
屋外用途において、監視カメラ1として赤外線サーモグラフィーを用いて、監視環境の温度に関する情報を取得し、画像処理を施すことで火災監視を行う本開示に係る火災検出装置を適用する場合には、レンズや窓材が汚損すると、実際の温度よりも低い温度が観測されてしまう。
【0132】
しかも、レンズや窓材の汚れは一様ではなく、中央部と周辺部では汚損の度合いが異なることが考えられる。すなわち、監視カメラ1として赤外線サーモグラフィーを用いる場合には、結像光学系を採用するため、画像の位置によって汚損の状況が異なることになる。しかしながら、この汚損の分布を正確に把握することは、非常に困難である。
【0133】
このような課題を解決するために、本実施の形態4では、汚損状況が劣化することをあらかじめ想定した上で、演算処理を施す対象領域を構成する画素として、入力画像から高温領域を構成する画素を抽出するために使用される温度閾値Tthを、汚損に対しロバストな値に設定することに技術的特徴を有しており、具体的な設定方法について以下に説明する。
【0134】
なお、入力画像から高温領域を構成する画素を抽出する処理は、画素演算処理部21により実行される。
【0135】
まず、レンズが汚れていない状態で、安定して火災領域を抽出できる適切な温度閾値を、例えば、設計プロセスで実験的に取得する。このときの適切な温度閾値を、以下では「設定温度」と称す。換言すると、「設定温度」とは、赤外線サーモグラフィーの光学系が汚損されていない状態を、赤外線サーモグラフィーの光学系の波長帯の透過率が100%の状態とし、この100%の状態において赤外線サーモグラフィーで撮像した場合に火災領域を抽出可能な適切な温度閾値に相当する。
【0136】
次に、赤外線サーモグラフィーを、監視環境に設置可能な最大周囲温度に相当する温度環境を設定する。このときの最大温度を、以下では「環境温度」と称す。
【0137】
通常、屋外環境に設置される光学機器の汚損は、管理の都合上、可視光の波長帯の透過率に基づいて管理・設定される。
【0138】
一方、これら光学機器の汚れは、煤塵などの微粒子の付着の蓄積によって起こるものであるが、同一粒径に対する分光透過率は、波長が長くなるほど、回折量が増加し、透過率は増加する。
【0139】
すなわち、赤外線サーモグラフィーの波長帯(物によるが、一般的には3μm~5μm、または8μm~14μm)で透過率を管理すれば、可視光の波長帯では、より低い透過率までの監視性能を確保できる。
【0140】
このような管理手法に基づいて、本実施の形態4では、下式(1)の指数関数を用いて、入力画像から高温領域を抽出するために使用される適切な温度閾値Tthを設定している。
Tth=((Ea-Eb)×Z/100+Eb)x (1)
【0141】
ここで、上式(1)における各記号は、以下の意味を有している。
Ea:設定温度における総光学エネルギー
Eb:環境温度における総光学エネルギー
Z:許容限界まで汚損された場合の透過率(すなわち、光学系が許容可能な汚損限界の透過率) Z%(Zは、100以下の正数)
X:総光学エネルギーから温度閾値を算出するための定数
なお、温度閾値Tthは、設定温度における総光学エネルギーEa、および環境温度における総光学エネルギーEbに基づいて、上式(1)以外によっても決定することができる。
【0142】
例えば、Z=50%として、上式(1)に従って温度閾値Tthを設定した場合には、汚損50%まで、汚損状況が変わったとしても、感度補償をすることなしに継続して監視が可能となる。
【0143】
従って、上式(1)を用いて適切な温度閾値Tthを設定することで、監視時における光学系の汚損が、検出性能に与える影響を抑制でき、感度補償を行うことなしに、あらかじめ想定した汚損状態となるまで高温領域を抽出する性能を維持することが可能となる。
【0144】
以上のように、実施の形態4によれば、種々の監視環境に対応可能なロバスト性を備えた火災検出装置を得ることができる。
【符号の説明】
【0145】
1 監視カメラ、10 画像メモリ、20 演算処理部、21 画素演算処理部、22 小領域演算処理部、23 ラベル領域演算処理部、30 小識別器、40 判別器、51、52、53 投票器、61 第1の機械学習判別器、62 第2の機械学習判別器、71 火災判別器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7