(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142371
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】成形チョコレートの製造方法
(51)【国際特許分類】
A23G 1/30 20060101AFI20241003BHJP
A23G 1/36 20060101ALI20241003BHJP
A23G 1/54 20060101ALI20241003BHJP
A21D 13/31 20170101ALI20241003BHJP
A21D 13/38 20170101ALI20241003BHJP
A21D 13/19 20170101ALI20241003BHJP
【FI】
A23G1/30
A23G1/36
A23G1/54
A21D13/31
A21D13/38
A21D13/19
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054488
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】神田 奈々子
(72)【発明者】
【氏名】本池 英樹
【テーマコード(参考)】
4B014
4B032
【Fターム(参考)】
4B014GB01
4B014GB04
4B014GE02
4B014GG06
4B014GG07
4B014GG11
4B014GK03
4B014GL07
4B014GL10
4B014GL11
4B014GP12
4B014GP14
4B014GQ05
4B014GQ12
4B014GQ15
4B032DB16
4B032DB17
4B032DE05
4B032DE06
4B032DK18
4B032DK34
4B032DK41
4B032DK67
4B032DP30
(57)【要約】
【課題】ブルームなどの外観の不具合が無く、歯ごたえのある成形チョコレートを製造すること、およびその製造方法によって製造された成形チョコレートを提供すること。
【解決手段】油分中のStOSt含量が38~65質量%のチョコレート生地について、所定の温度調整工程を有し、テンパーインデックスを2以上5未満に調整することで、ブルームなどの外観の不具合が無く、歯ごたえのある成形チョコレートを製造することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョコレート油分中のStOSt含量が38~65質量%のチョコレート生地について、以下1)の次に2)、その後3)の温度調整工程を経ることで、
温度調整後のテンパーインデックスを2以上5未満に調整する、
成形チョコレートの製造方法。
1)チョコレート生地の品温を42℃以上に保持して融解状態とする融解工程
2)融解状態のチョコレート生地の品温を30~36℃にする冷却工程
3)冷却工程での温度に対して、0~3℃高い温度にする加温工程
ただし、StOStとは、1位及び3位の脂肪酸がSt(ステアリン酸を示す)であり、2位の脂肪酸がO(オレイン酸を示す)であるトリグリセリドを示す。
【請求項2】
成形チョコレートの油分が25~46質量%である、請求項1に記載の成形チョコレートの製造方法。
【請求項3】
連続式のテンパリングマシンを用いて温度調整工程を実施する、請求項1又は請求項2に記載の成形チョコレートの製造方法。
【請求項4】
成形チョコレートが焼成して用いられる、請求項1または請求項2に記載の成形チョコレートの製造方法。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の製造方法で得られた成形チョコレートと、ベーカリー食品生地を組み合わせて、同時に焼成される、複合食品の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載の製造方法で得られた成形チョコレートと、ベーカリー食品生地を組み合わせて、同時に焼成される、複合食品の製造方法。
【請求項7】
以下の要件を満たす温度調整工程を有する、
油分中のStOSt含量が38~65質量%のチョコレート生地を用いた、成形チョコレートの焼成後の食感維持方法。
1)の次に2)、その後3)の温調工程を経ることで、
温度調整後のテンパーインデックスを2以上5未満に調整する、
1)チョコレート生地の品温を42℃以上に保持して融解状態とする融解工程
2)融解状態のチョコレート生地の品温を30~36℃にする冷却工程
3)冷却工程での温度に対して、0~3℃高い温度にする加温工程
ただし、StOStとは、1位及び3位の脂肪酸がSt(ステアリン酸を示す)であり、2位の脂肪酸がO(オレイン酸を示す)であるトリグリセリドを示す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形チョコレートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チョコレートは、なめらかな口溶けと濃厚な風味により、広く嗜好品として食される。チョコレートのなめらかな口溶けは、その油脂に特徴がある。チョコレートに用いられる油脂としては、カカオバターやカカオバター代替脂が挙げられ、テンパリングと呼ばれる温度調整が必要とされる。
テンパリングの主な目的は、不安定な結晶状態で固化すること避けて、安定した結晶状態で固化することである。安定した結晶状態で固化することで、チョコレート保存中にブルームと呼ばれる結晶の粗大化を抑止することができる。
製品の多様化を目的に、チョコレートの口溶けや食感を変化させた食品の開発が進められている。特許文献1にはとろりとした滑らかな食感のチョコレートに関する発明が開示されている。特許文献2には、チョコレートに含まれる糖が加熱されることでパリパリした食感を付与することができる発明が開示されている。
また、食感の調整以外に、耐熱性の向上を目的として、油脂種を変更させたチョコレートについて開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-165235号公報
【特許文献2】国際公報2012/121327号
【特許文献3】国際公報2006/064709号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者らはチョコレートの口溶けや食感に変化を与えようと検証を行った。特許文献1や特許文献2とは異なる食感を、油脂の配合を調整することで生み出せないかと考えた。チョコレートに耐熱性を付与する油脂は、チョコレートの食感を調整することができ、その食感は非常に歯ごたえのあるものとなることがわかった。
さらに発明者らは、チョコレートの歯ごたえはベーカリー食品生地と組み合わせて焼成した場合にも感じられることを発見し、その製品化を目指した。
【0005】
当初、発明者らは従来知られたテンパリング技術によって、前述した歯ごたえのあるチョコレートの生地を成形し、作製することができると思われた。特許文献3には、耐熱性を付与する油脂を用いたチョコレート生地の温度調整について、具体的な示唆は無い。
発明者らが目指す歯ごたえのあるチョコレートは、油脂を従来とは異なる組成にすると、従来同様のテンパリング操作を行ってもチョコレートにブルームが発生してしまった。ブルームの発生によって外観の不具合だけでなく、発明者らが目指すような、歯ごたえのある食感の成形チョコレートの連続生産が困難であることが判明した。
【0006】
従って本願発明の目的は、ブルームなどの外観の不具合が無く、歯ごたえのある成形チョコレートを製造すること、およびその製造方法によって製造された成形チョコレートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは上記課題を解決すべく更に鋭意検討を重ねた結果、油分中のStOSt含量が38~65質量%のチョコレート生地について、所定の温度調整工程を経ることで、テンパーインデックスを2以上5未満に調整し、ブルームなどの外観の不具合が無く、歯ごたえのある成形チョコレートを製造することができることを見出した。
さらに、上記製造方法で製造された成形チョコレートは、ベーカリー食品生地と同時に焼成しても、喫食時に歯ごたえのあるチョコレートの食感を感じることができることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)チョコレート油分中のStOSt含量が38~65質量%のチョコレート生地について、以下1)の次に2)、その後3)の温度調整工程を経ることで、温度調整後のテンパーインデックスを2以上5未満に調整する、成形チョコレートの製造方法、
1)チョコレート生地の品温を42℃以上に保持して融解状態とする融解工程、
2)融解状態のチョコレート生地の品温を30~36℃にする冷却工程、
3)冷却工程での温度に対して、0~3℃高い温度にする加温工程、
ただし、StOStとは、1位及び3位の脂肪酸がSt(ステアリン酸を示す)であり、2位の脂肪酸がO(オレイン酸を示す)であるトリグリセリドを示す、
(2)成形チョコレートの油分が25~46質量%である、(1)に記載の成形チョコレートの製造方法、
(3)連続式のテンパリングマシンを用いて温度調整工程を実施する、(1)又は(2)に記載の成形チョコレートの製造方法、
(4)成形チョコレートが焼成して用いられる、(1)または(2)に記載の成形チョコレートの製造方法、
(5)(1)または(2)に記載の製造方法で得られた成形チョコレートと、ベーカリー食品生地を組み合わせて、同時に焼成される、複合食品の製造方法、
(6)(4)に記載の製造方法で得られた成形チョコレートと、ベーカリー食品生地を組み合わせて、同時に焼成される、複合食品の製造方法、
(7)以下の要件を満たす温度調整工程を有する、
油分中のStOSt含量が38~65質量%のチョコレート生地を用いた、成形チョコレートの焼成後の食感維持方法、
1)の次に2)、その後3)の温調工程を経ることで、温度調整後のテンパーインデックスを2以上5未満に調整する、
1)チョコレート生地の品温を42℃以上に保持して融解状態とする融解工程、
2)融解状態のチョコレート生地の品温を30~36℃にする冷却工程 、
3)冷却工程での温度に対して、0~3℃高い温度にする加温工程、
ただし、StOStとは、1位及び3位の脂肪酸がSt(ステアリン酸を示す)であり、2位の脂肪酸がO(オレイン酸を示す)であるトリグリセリドを示す、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ブルームなどの外観の不具合が無く、歯ごたえのある成形チョコレートを製造すること、およびその製造方法によって製造された成形チョコレートを提供することができる。
特に、ベーカリー食品生地と同時に焼成しても、喫食時に歯ごたえのあるチョコレートの食感を感じることができるような、成形チョコレートを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。
【0011】
本発明においてチョコレートとは、チョコレート類、バタークリーム、スプレッド類のことをいい、油脂が連続相をなす食品全般のことをいう。本発明において言うところの「チョコレート類」とは全国チョコレート業公正取引協議会、チョコレート利用食品公正取引協議会が規定するところの、「純チョコレート」、「チョコレート」、「準チョコレート」及び「チョコレート利用食品」に限定されるものでなく、カカオバター以外の油脂とカカオ固形分以外の可食物よりなる「チョコレート様食品」、その他、例えば野菜や果物由来の粉末を混合させる抹茶風味、イチゴ風味といった、油脂をベースとして可食物を分散させた食品を総称するものであってもよい。
本発明における成形チョコレートとは、融解状態のチョコレート生地を所定の形状に成形したものをいい、形状は特に限定されないが、例をあげると、板状、チップ状、フレーク状、円形状、球状などに成形される。チョコレート生地が板状に成形される場合には、特定の厚みを有する。厚みには特に限定はないが、歯ごたえのある食感のためには5mm以上の厚みがあることが好ましい。また、厚すぎると歯で噛み割ることが困難になる場合があるため、20mm以下であることが好ましい。
【0012】
本発明において歯ごたえのある食感とは、硬くスナップ性の高い食感をいう。従来の成形チョコレートはパンと同時に焼成することで、固化している結晶が融解し、放冷により再び固化した後はスナップ性のない軟らかな食感になってしまっていた。これに対し、本発明の成形チョコレートは焼成しない場合には、従来の成形チョコレートよりも著しく高いスナップ性が有り、焼成、放冷後も、非焼成の成形チョコレートのような、スナップ性の高い食感を呈する。
【0013】
本発明において油脂とは、カカオマスやココアなどのカカオ原料由来の脂肪分(カカオバター)や乳原料由来の乳脂肪分、菜種油、ハイエルシン菜種油、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米ぬか油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、ゴマ油、月見草油、パーム油、シア油、サル脂、ヤシ油、パーム核油等の植物性油脂、培養油脂、乳脂、牛脂、ラード、魚油、鯨油等の動物性油脂、これらの硬化、分別、エステル交換等を施した加工油脂などが挙げられる。
成形チョコレートの油分とは、カカオマスや全脂粉乳などに含まれる油脂すべてを含めた質量%を意味する。
【0014】
本発明の成形チョコレートの油分中には、SUS型のトリグリセリドを含む。トリグリセリドとは、1分子のグリセロールに、3分子の脂肪酸がエステル結合した構造を有するものである。トリグリセリドの1、2、3位とは、脂肪酸が結合した位置を表す。
ここで、Sとは炭素数16~22の飽和脂肪酸、Uとは炭素数16~22の不飽和脂肪酸、を示す。SUSとは、1位及び3位の脂肪酸がSであり、2位の脂肪酸がUであるトリグリセリドを示すトリグリセリドを示す。SUS型トリグリセリドの油分中の好ましい含有量は70~95質量%であり、より好ましくは72~93質量%であり、さらに好ましくは74~90質量%である。
SUS型トリグリセリドの量が適切な範囲であれば、シャープな口溶けを有する成形チョコレートを調製することができる。
油脂のトリグリセリド組成は、基準油脂分析法2.4.6.2-2013に準拠して高速液体クロマトグラフィーにより行った。融解した油脂をアセトンと混合して分析試料を調整し、移動相にアセトン/アセトニトリル=80/20の溶剤を使用してODSカラムで分離し、RI検出器で検出して得られたピーク面積%をそれぞれのトリグリセリド含有量とした。
【0015】
本発明の成形チョコレートの油分中には、SUS型トリグリセリドのうちの、StOStを38~65質量%含む。好ましくは39~63質量%、より好ましくは40~60質量%である。
ここで、Stとは炭素数18の飽和脂肪酸であるステアリン酸、Oとは炭素数18の不飽和脂肪酸であるオレイン酸を示す。StOStとは、1位及び3位の脂肪酸がStであり、2位の脂肪酸がOであるトリグリセリドを示す。
StOStを適切な量にすることで、成形チョコレートに歯ごたえのある食感を付与することができる。StOStが少ない場合には、従来から知られたテンパリング操作によって成形チョコレートを製造することができるが、特にベーカリー食品生地と同時に焼成した場合に、成形チョコレートの歯ごたえが感じにくいものとなる場合がある。
【0016】
本発明において成形チョコレートの油分は、好ましくはチョコレート全体で25~46質量%であり、より好ましくは26~43質量%、さらに好ましくは27~40質量%、28~38質量%、最も好ましくは29~37質量%である。
油脂成分が所定の範囲の場合に、融解状態のチョコレート生地は、テンパリングすると、StOStの含量の増加に応じて、流動性が低下しやすくなる。このStOStの結晶によってチョコレート生地の流動性が低下するために、StOStを多く含むチョコレート生地は、従来のテンパリング操作を行った場合に、ブルーム発生のおそれがあった。
しかし、本発明の製造方法で成形チョコレートを製造することによって、ブルームの発生を抑制し、スナップ性を有し、歯ごたえのある食感の成形チョコレートを製造することが可能となる。
【0017】
本発明の成形チョコレートは、融解状態のチョコレート生地に温度調整を施すことで製造することができる。この温度調整の工程は、一般的にはテンパリングといわれる。テンパリングとは、融解状態のチョコレート生地中に、油脂の安定結晶の結晶核を生じさせる操作である。テンパリングにより、安定な結晶状態でチョコレート生地を成形し、固化することができる。
チョコレートのテンパリングは、一般的には、例えば、40~50℃で融解しているチョコレート生地を、品温が26~29℃程度になるまで下げた後に、再度28~31℃程度まで加温することによって行うことができる。また、テンパリングには温度調整工程に替えて、シード剤を用いた方法が知られている。シード剤は、SUS型トリグリセリドの安定な状態の結晶を含む。このシード剤を30℃~35℃の融解状態の油性食品に一定量分散させることで、温度調整を施す操作と同等の効果を得ることができる。
本発明の成形チョコレートは、従来のテンパリング条件で製造すると、チョコレート生地の流動性が著しく低下して成形ができなくなる場合がある。あるいは、成形ができるような場合でも、固化後にブルームが発生してしまい、外観不良につながる場合がある。ブルームが発生した成形チョコレートはスナップ性が低く、歯ごたえのある食感が得られない場合がある。
本発明の成形チョコレートは、シード剤を用いたテンパリングを行った場合にも、同様に流動性が低下し、成形作業が困難になる場合がある。あるいは、成形作業ができても、保管中にブルームが発生する場合がある。
【0018】
本発明の成形チョコレートの製造方法は、以下に示す1)、2)及び3)を満たす温度調整工程を有する。
1)チョコレート生地の品温を42℃以上に保持して融解状態とする融解工程、
次に2)融解状態のチョコレート生地の品温を30~36℃にする冷却工程、
続いて3)冷却工程での温度に対して、0~3℃高い温度にする加温工程。
以下にそれぞれの工程について詳述する。
【0019】
1)の温度調整工程は、チョコレート生地中の油脂結晶を融解させることが主な目的である。チョコレート生地の品温は、好ましくは42℃以上55℃以下、より好ましくは43℃以上53℃以下、さらに好ましくは44℃以上50℃以下である。所定の温度条件であれば、チョコレート生地中の油脂結晶を融解し、その後冷却する際の熱効率が良好になる。そのため、成形適性に優れ、生産された成形チョコレート製品のブルーム発生を抑制することができる。
【0020】
2)の温度調整工程は、冷却することで融解状態のチョコレート生地の一部に結晶を析出させることが主な目的である。冷却したチョコレート生地の品温は、好ましくは30.2℃~36.5℃であり、より好ましくは30.5℃~36.2℃、さらに好ましくは30.8℃~36℃である。冷却温度を適切な範囲にすることで、適量の結晶を析出させることができ、チョコレート生地の粘度を上昇させすぎずに温度調整作業をおこなうことができる。そのため、生産された成形チョコレート製品のブルーム発生を抑制することができる。
【0021】
3)の温度調整工程は、冷却によって生じたチョコレート生地の不安定な結晶や過剰に析出した結晶を加温することで消失させることが主な目的である。加温は冷却工程での温度に対して0~3℃高い温度にする。好ましくは、0~2.8℃、0~2.5℃、より好ましくは、0~2.2℃、さらに好ましくは、0~2℃である。適切な加温をすることで、生産された成形チョコレート製品のブルーム発生を抑制することができる。
加温工程のチョコレート生地の具体的な品温としては、例えば30~38℃、31~37.8℃、31.2℃~37.6℃、31.5℃~37.5℃である。
【0022】
2)の冷却工程におけるチョコレート生地の品温と3)の加温工程におけるチョコレート生地の品温差は、0℃であってよい。あるいは温度がわずかに上がるだけであっても良い。この理由は、冷却によって析出した不安定結晶が少なかったり、析出した結晶が適当であったりする場合は、品温差なく保持したり、わずかに加温するだけで良い。その場合の加温工程についても、適切な温度範囲の中で、テンパーインデックスを指標として制御することが可能である。
【0023】
本発明でチョコレート生地の温度調整工程においては、テンパーインデックス値を指標とすることができる。
テンパーインデックス値とは、チョコレートのテンパリング状態を図る一つの指標として用いられる値であり、その詳細を以下に示す。
チョコレートは、冷却する際の品温を経時で測定及び記録した場合に、一定時間を超えるとその冷却勾配に変化が生じる。これは結晶成長によって潜熱が放出するためで、放出した潜熱によって冷却が遅延する。潜熱の大部分が放出されると、再び一定勾配での冷却が進み、固化する。その結果、冷却カーブに変曲点が生じる。テンパーインデックスとは、冷却カーブに生じた変曲点での傾きに応じて示されるテンパリング状態を表す指標である。具体的には、変曲点での傾きが0のときにテンパーインデックスが5として、変曲点での傾きが正の値の場合、傾きが0から1へと上昇するにつれて、テンパーインデックスは4、3、2と減少する。一方、傾きが負の値の場合、傾きが0から-1へと下降するにつれて、テンパーインデックスは6、7、8、9と増加する。
本発明の成形チョコレートの製造方法では、チョコレート生地の温度調整工程を経ることで、テンパーインデックスを2以上5未満に調整する。テンパーインデックスの下限は好ましく2以上、2.1以上、より好ましくは2.2以上、2.3以上、さらに好ましくは2.4以上に調整する。テンパーインデックスの上限は好ましくは4.9以下、4.8以下、より好ましくは4.7以下、4.6以下、さらに好ましくは4.5以下に調整する。
本発明の成形チョコレートにおいて、調整されるテンパーインデックスは、従来のテンパリングタイプのチョコレート生地とのテンパーインデックスと照合すれば、安定結晶の量が少ないアンダーテンパリング、あるいはわずかにアンダーテンパリングと表される範囲であって、ブルームのおそれが懸念される条件であった。
テンパーインデックスの算出には、テンパーメーターを使用することができる。テンパーメーターは、チョコレートサンプルを冷却する品温を経時で採取し、その冷却フローからテンパーインデックスを算出することができる。一例としては、Aasted社のChocoMeterを用いることができる。その測定条件としては、測定開始温度を32℃とし、冷却セット温度を8℃、測定時間を9分とすることができる。
【0024】
温度調整工程は、チョコレート生地の融解槽とテンパリングマシンを使用して行うことができる。テンパリングマシンはバッチ式と連続式があり、バッチ式ではチョコレート生地を入れた槽の温度を調整することで、融解工程、冷却工程及び加温工程を行うことができる。連続式のテンパリングマシンは、チョコレート生地の融解槽と連結しており、チョコレート生地を送液する際に、冷却工程と加温工程を行うことができる装置である。
本発明の温度調整工程に用いるテンパリングマシンとして、好ましくは連続式のテンパリングマシンを用いる。連続式のテンパリングマシンを用いることで42℃以上に加温したチョコレート生地を連続してテンパリングマシンに供給し、ブルーム発生が抑制された成形チョコレートを連続して製造することができる。
連続式のテンパリングマシンは、チョコレート生地を送液する流量、冷却に使用する冷媒の温度、及び加温に使用する熱媒体の温度を調整することができる。
送液の流量、冷媒の温度、熱媒体の温度はその後の成形作業に使用される装置に合わせて適宜調整することが可能である。一例を挙げると、Aasted社製のテンパリングマシンを用いた場合に、チョコレート送液の流量が、1000~1500kg/h、冷媒及び熱媒体が水であって、冷媒温度が5~20℃、熱媒体温度が31~40℃とすることができる。
【0025】
本発明の成形チョコレートの成形は、工業生産する代表的な方法として、レイヤーカットによる製造方法が挙げられる。レイヤーカットによる製造方法とは、一定速度で運行するベルトコンベアに均一な厚さに延ばし、第一冷却トンネルを通過させて冷却し、運行方向に等間隔で配置されたスリット又は丸刃カッターで縦切りにされた後、ベルトコンベアと直角に配置された刃物を上下に動かすことで横切りにできる装置を用いて適当なサイズに裁断、その後第二冷却トンネルを通過させて冷却固化する方法が挙げられる。
その他の方法として、モールドといわれる型を用いて型抜きによって製造する場合もある。型抜きによって製造する場合は、板状以外に、特殊な形状を製造することができる。
本発明の成形チョコレートの製造方法は、レイヤーカットによる成形だけでなく、モールドを用いた型抜きによる成形など、どのような成形にも対応することができるが、特にレイヤーカットの場合は、大量に生産できることと、多種のサイズに対応できる利点がある。
ベーカリー食品生地と同時に焼成する成形チョコレートは、レイヤーカットによって成形されることが多く、本発明を広く利用することができる。
【0026】
本発明の効果を発揮する他の態様としては、モールド成形が例示できる。モールド成形の場合、温度調整工程後のチョコレート生地の粘性が高すぎると、モールドに流して成形する工程中にチョコレート生地に気泡が含まれて、成形製品の形状の一部に欠けが生じる場合がある。粘性が高すぎる場合は、チョコレート生地の結晶が多いことに起因する場合が多く、オーバーテンパリングの状態になってブルームが生じるおそれがある。
しかし、本発明の成形チョコレートの製造方法における温度調整工程を採用することで、ブルームの発現の抑制された外観が良好な成形チョコレートを製造することができる。
【0027】
本発明の効果を最も発揮する成形チョコレートの成形方法は、レイヤーカット成形である。温度調整工程後のチョコレート生地の粘性が高すぎると、ベルトコンベアに均一な厚さにチョコレート生地を延ばし広げることが困難になる場合があり、成形チョコレートのサイズや重量が不均一になる場合がある。
また、レイヤーカット成形の場合、温度調整工程後のチョコレート生地は、第一冷却トンネルを通過後にスリット又はスリッタ-、及び上下運動する刃物によって裁断できる程度の軟性を有する半固化状態であることが求められる。チョコレート生地中の結晶量が多い場合に、裁断できるような半固化状態を維持することができない場合がある。
しかし、本発明の成形チョコレートの製造方法における温度調整工程を採用することで、ブルーム発現の課題以外にも製造条件の設定に課題を有する、レイヤーカット成形の作業性が良好になる。
【0028】
本発明のもっとも好ましい条件としては、油分中のStOSt含量が52~60質量%、SUSが72~91質量%、油分29~36質量%のチョコレート生地を、連続式のテンパリングマシンを用いて、以下1)の次に2)、その後3)の温度調整工程を経ることで、温度調整後のテンパーインデックスを3.6以上4.6以下に調整して、レイヤーカットにて成形する、製造条件である。
1)チョコレート生地の品温を45℃以上に保持して融解状態とする融解工程、
2)融解状態のチョコレート生地の品温を34~36℃にする冷却工程、
3)冷却工程での温度に対して、0.2~1.6℃高い温度にする加温工程。
上記の好ましい条件によって成形された成形チョコレートを、ベーカリー食品生地と同時に焼成すると、焼成後放冷された成形チョコレートは、非焼成の成形チョコレートのようにスナップ性が高く、歯ごたえのある食感を有する。
【0029】
本発明においてベーカリー食品とは、クッキー、マフィン、バターケーキ、スポンジケーキ、ビスケット、ウエハース等の焼き菓子および食パン、コッペパン、フルーツブレッド、コーンブレッド、バターロール、ハンバーガーバンズ、ドーナツ、フランスパン、ロールパン、菓子パン、スイートドウ、乾パン、マフィン、ベーグル、クロワッサン、デニッシュペストリー、ナンなどのパン類が例示することができる。
ベーカリー食品生地とは、先に例示したベーカリー食品を焼成する前のドウ生地のことをいう。
本発明において成形チョコレートと組み合わせて焼成するベーカリー食品生地としては、特にパン類の生地が例示することができる。より好ましいベーカリー食品としては、コッペパン、菓子パン、マフィン、クロワッサンなどのパン類である。
ベーカリー食品生地と成形チョコレートを組み合わせて同時に焼成された複合食品は、例えばベーカリー食品生地に内包する、挟む、混ぜるなどの方法で組み合わせた後に焼成される。
複合食品の焼成条件は特に限定されないが、一例をあげると、コッペパンならば、200℃で12分、菓子パンならば、200℃で10分、マフィンならば180℃で25分など、ベーカリー食品生地に合わせて適宜調整することができる。
【0030】
本発明においてブルームとは、チョコレートで一般的に知られる結晶の粗大化によって生じるものをいう。ブルームはチョコレートの表面が白く見えるため外観が悪くなるが、結晶が粗大化することで口溶け悪化の影響も生じる。結晶の粗大化を進むと、喫食時にチョコレートの食感がざらついたり、ぼそぼそとした食感を感じたりする不具合が起こるおそれがある。
【0031】
本発明において成形チョコレートの製造に用いられるチョコレート生地は、一般的なチョコレート類を製造する要領で行うことができる。具体的には、油脂に、糖類、粉乳等の各種粉末食品、カカオマス、ココアパウダー、乳化剤、香料、色素等の原料を適宜選択して混合し、ロール掛け及び、コンチング若しくはミキシング処理を行い、得ることができる。
【実施例0032】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明の精神は以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、%および部はいずれも質量基準を意味する。
【0033】
・検討1
(チョコレート生地の調製)
表1記載に従い配合し、常法によりカカオマス、糖類、全粉乳、澱粉及び一部の油脂を混合し、ロール掛けによる粉砕、及びコンチングによる混練を行い、原料となるチョコレート生地を作製した。
カカオマスは、フジカカオマス100(不二製油株式会社製)を使用した。
全粉乳は、よつ葉全粉乳(よつ葉乳業株式会社製)を使用した。
砂糖は、粉糖(株式会社有友商店製)を使用した。
澱粉は、ミラゲル463(Tate & Lyle Solutions USA, LLC製)を使用した。
植物油脂XはStOStが76.5質量%、SUSが91.7質量%のカカオバター代用脂を使用した。
(成形チョコレートの製造)
表2、表3に記載の条件で、調製したチョコレート生地の温度調整工程を施し、テンパーインデックス値を測定した。一部の比較例においては、温度調整工程を施さず、シード剤をチョコレート生地に対して0.2質量%添加してよく攪拌することでシード剤によるテンパリング操作を施した。
温度調整工程時の温度は多少のフレが生じるため、テンパリングマシンをしばらく運転し、チョコレート生地の品温が安定してからサンプルを採取し、テンパーインデックスを確認した。表中の温度はテンパーインデックス測定時にテンパリングマシンが示したチョコレート生地の品温を記載した。
温度調整工程又はシード剤によるテンパリング操作を施したチョコレート生地をシート成形した後に、サイズ113×15×6.5mmに切り出して、成形チョコレートを製造した。
温度調整工程には、チョコレート生地の融解槽と融解槽に連結した連続式のテンパリングマシンであるAasted社製mikroverk AMK1500Pを使用した。
シード剤は、チョコシードLT(不二製油株式会社製)を使用した。
テンパーインデックス値の測定には、テンパーメーターとしてAasted社のChocoMeterを使用した。測定条件は測定開始温度が32℃、冷却セット温度は8℃、測定時間は9分とした。
製造した成形チョコレートを20℃で1ヶ月保管した後の外観及び食感を確認した。
食感の評価は、硬くスナップ性のある食感を、歯ごたえのある食感として、良好である、と評価した。一方、ブルーム発現によってざらつきのある食感やぼそぼそとした食感のものを、不良であると評価した。
結果を表2および表3に示した。表中に記載の温度調整工程の温度は1)及び2)についてはチョコレート生地の品温、3)は2)に記載したチョコレート生地の品温との温度差と()内にチョコレート生地の品温を記載した。
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
実施例1、2、3については、その後もテンパーインデックスを3.6~4.6で制御できていた。実施例の条件で成形した成形チョコレートは、保管後もブルーム無く、食感も歯ごたえのある、スナップ性の高い食感を有していた。一方、温度制御が適切でない比較例ではブルームが発現したり、粘性が高かったりして成形チョコレートの製造条件としては適切でなかった。
シード剤を添加してテンパリングを行った比較例4では、結晶量が多く粘性が高くなった。また、※にあるようにテンパーインデックスの測定ができなかった。比較例5は実施例と近いテンパーインデックスであったが、ブルームが発生した。
【0038】
・検討2
表4記載に従い配合し、検討1と同様に常法により、原料となるチョコレート生地を作製した。
表5に記載の条件で、検討1と同様に調製したチョコレート生地の温度調整工程を施し、テンパーインデックス値を測定した。温度調整工程時の温度は多少のフレが生じるため、テンパリングマシンをしばらく運転し、チョコレート生地の品温が安定してからテンパーインデックスを確認した。
表中に記載の温度調整工程の温度は、表2と同様に1)及び2)についてはチョコレート生地の品温、3)は2)に記載したチョコレート生地の品温との温度差と()内にチョコレート生地の品温を記載した。
その後、実施例4は65×25×6.5mmのモールドに充填して成形チョコレートを製造した。実施例5は、0.3g中心でチップ状の成形チョコレートを製造した。
製造した成形チョコレートを検討1と同様に20℃で1ヶ月保管し、評価した。
【0039】
【0040】
【0041】
実施例4はその後もテンパーインデックスを4.0~4.8で制御できていた。実施例5はその後テンパーインデックスを2.9~4.0で制御できていた。成形方法を変更しても、保管後もブルーム無く、食感も歯ごたえのある食感を有していた。
【0042】
・検討3
表6記載に従い配合し、検討1(チョコレート生地の調製)同様に常法によりチョコレート生地を作製した。その後表7に記載の条件で検討1(成形チョコレートの製造)と同様に調製したチョコレート生地の温度調整工程を施し、サイズ113×15×6.5mmに切り出して、成形チョコレートを製造した。
(焼成後食感の確認)
成形チョコレートを20℃で1か月間保管した後、パンでの焼成試験を実施し、焼成後食感を確認した。パン生地は冷凍パン生地 クロワッサンシートR(敷島製パン株式会社製)に成形チョコレートを1本ずつ内包して、30℃、湿度80%で1時間ホイロした後、上火200℃、下火200℃のオーブンで14分焼成した。
焼成したチョコクロワッサンを25℃で保管し、1日後の焼成された成形チョコレートの食感を評価した。結果を表7に示した。
表中に記載の温度調整工程の温度は、表2と同様に1)及び2)についてはチョコレート生地の品温、3)は2)に記載したチョコレート生地の品温との温度差と()内にチョコレート生地の品温を記載した。
【0043】
【0044】
【0045】
実施例6の条件で製造した成形チョコレートは、チョコクロワッサンとして焼成しても、非焼成の成形チョコレートのような歯ごたえのある食感であった。一方StOStの含有量が少ない比較例は、ブルームが無い条件で製造したものであっても、焼成後は軟らかい食感であった。
本発明によって、ブルームなどの外観の不具合が無く、歯ごたえのある成形チョコレートを製造すること、およびその製造方法によって製造された成形チョコレートを提供することができる。