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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142386
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/127 20060101AFI20241003BHJP
   B23K 9/18 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B23K9/127 503D
B23K9/18 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054509
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【弁理士】
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【弁理士】
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】上川 健司
(72)【発明者】
【氏名】阿部 洋平
(72)【発明者】
【氏名】藤本 貴大
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】中谷 光良
(72)【発明者】
【氏名】安部 正光
【テーマコード(参考)】
4E001
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001BB05
4E001DA01
4E001DC05
(57)【要約】
【課題】開先に対してトーチ部を容易に倣わせる。
【解決手段】溶接装置1は、被溶接材91間の突合せ部に、所定の長手方向に延びて形成される開先93に溶接を行うトーチ部3と、被溶接材91が並ぶ幅方向にトーチ部3を移動可能な状態で支持する支持部4と、当該長手方向に沿う溶接方向に支持部4をトーチ部3と共に移動する移動機構2と、トーチ部3に対して固定され、幅方向における開先93の所定位置にトーチ部3の基準位置を配置する倣い機構5とを備える。倣い機構5は、開先93の深さ方向に沿って延びる支持軸511と、支持軸511の開先93側の端部に取り付けられ、支持軸511に沿って見た場合に支持軸511を挟んで両側に配置される一対の接触子と、支持軸511の当該端部が開先93に挿入された状態で支持軸511を回転することにより、一対の接触子を開先93の両側面にそれぞれ接触させる回転機構512とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接装置であって、
被溶接材間の突合せ部に、所定の長手方向に延びて形成される開先に溶接を行うトーチ部と、
前記被溶接材が並ぶ幅方向に前記トーチ部を移動可能な状態で支持する支持部と、
前記長手方向に沿う溶接方向に前記支持部を前記トーチ部と共に前記被溶接材に対して相対的に移動する移動機構と、
前記トーチ部に対して固定され、前記幅方向における前記開先の所定位置に、前記トーチ部の基準位置を配置する倣い機構と、
を備え、
前記倣い機構が、
前記開先の深さ方向に沿って延びる支持軸と、
前記支持軸の前記開先側の端部に取り付けられ、前記支持軸に沿って見た場合に前記支持軸を挟んで両側に配置される一対の接触子と、
前記支持軸の前記端部が前記開先に挿入された状態で、前記支持軸を回転することにより、前記一対の接触子を前記開先の両側面にそれぞれ接触させる回転機構と、
を備える溶接装置。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接装置であって、
前記幅方向における前記開先の前記所定位置が、前記開先の中央であり、
前記一対の接触子が、前記支持軸から同じ距離だけ離れる溶接装置。
【請求項3】
請求項1に記載の溶接装置であって、
前記一対の接触子のそれぞれが、前記支持軸に沿う中心軸を中心として回転可能なローラである溶接装置。
【請求項4】
請求項1に記載の溶接装置であって、
前記トーチ部が、前記溶接方向に沿う配列方向に配列された複数の溶接トーチを備え、
前記支持部が、前記深さ方向に垂直な面内において、前記溶接方向に対する前記配列方向の傾斜角を変更可能であり、
前記倣い機構が、
前記支持軸、前記一対の接触子および前記回転機構を有する位置調整部と、
前記位置調整部と同様の構造を有する他の位置調整部と、
を備え、
前記溶接方向に関して、前記位置調整部と前記他の位置調整部との間に、前記複数の溶接トーチが配置される溶接装置。
【請求項5】
請求項4に記載の溶接装置であって、
前記支持部が、前記移動機構の移動体と前記トーチ部との間を連結する連結部を備え、
前記連結部が、前記深さ方向に沿う第1回転軸を中心として前記移動体に対して回転可能であり、前記トーチ部が、前記深さ方向に沿う第2回転軸を中心として前記連結部に対して回転可能であり、
前記第1回転軸周りの前記連結部の回転、および、前記第2回転軸周りの前記トーチ部の回転により、前記トーチ部が前記幅方向に移動可能であり、かつ、前記配列方向の前記傾斜角が変更可能である溶接装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1つに記載の溶接装置であって、
前記一対の接触子が前記開先の前記両側面に接触した状態における前記支持軸の回転角に基づいて、前記開先の幅を取得する開先幅取得部と、
前記開先幅取得部による出力に基づいて溶接条件を決定する制御部と、
をさらに備える溶接装置。
【請求項7】
請求項6に記載の溶接装置であって、
前記倣い機構の前記支持軸において、前記支持軸から突出して配置される被検出部が設けられており、
前記支持軸に垂直な一の方向における前記被検出部の位置が、前記支持軸の回転角に応じて変化し、
前記開先幅取得部が、前記一の方向における前記被検出部の位置を測定することにより、前記開先の幅を取得する溶接装置。
【請求項8】
請求項1ないし5のいずれか1つに記載の溶接装置であって、
前記トーチ部において、フラックスを散布する散布ノズル、および、溶接を行う溶接トーチが前記溶接方向に沿って設けられ、
前記開先の溶接時に、前記散布ノズルの散布口および前記溶接トーチの端部が、前記開先内に配置され、前記溶接方向における前記開先の各位置を前記散布ノズルおよび前記溶接トーチが順に通過し、
前記開先の幅が、前記溶接トーチの前記端部の直径の2倍以下であり、
前記開先の底面から前記散布ノズルの前記散布口までの高さが、前記溶接トーチの前記端部の先端までの高さ以下である溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被溶接材間の突合せ部に形成された開先に溶接を行う溶接装置が利用されている。溶接装置では、開先に対してトーチ部を倣わせるための構成が設けられる。例えば、特許文献1の装置では、回転軸の下端に固定された回動ア-ムの両端部において、回転軸から同じ距離の位置に接触子が設けられる。回転軸が回転すると、まず、一方の接触子の接触端部材が開先の一方の側面に当たり、その後、他方の接触子が他方の側面に当たる。各接触子が開先の側面に接触したときの回動アームの回転角度に基づいて、演算部により開先の位置情報等が求められる。なお、特許文献1の各接触子では、接触端部材と回動ア-ムとの間にコイルばねが設けられる。一方の接触子の接触端部材が開先の側面に当たると、当該接触端部材の移動が止められるが、コイルばねが曲がることにより、回動アームには停止拘束力は作用しない。
【0003】
特許文献2では、開先幅の検出方法が開示されている。当該方法では、外周部が一定の角度を持つテーパ状の形状を備えたローラが溶接アークの前方で開先内に入り込むように配置される。また、ローラの左右両側に、被溶接部材の板面との距離を計測する距離検出手段が固定される。そして、当該左右の距離の変位量の和から開先幅の変動量が検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3478572号公報
【特許文献2】特開2001-276974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1および2の装置では、開先の位置情報や開先幅の変動量等を取得する際に、煩雑な演算が必要となる。したがって、開先に対してトーチ部を容易に倣わせる新規な手法が求められている。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、開先に対してトーチ部を容易に倣わせることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の態様1は、溶接装置であって、被溶接材間の突合せ部に、所定の長手方向に延びて形成される開先に溶接を行うトーチ部と、前記被溶接材が並ぶ幅方向に前記トーチ部を移動可能な状態で支持する支持部と、前記長手方向に沿う溶接方向に前記支持部を前記トーチ部と共に前記被溶接材に対して相対的に移動する移動機構と、前記トーチ部に対して固定され、前記幅方向における前記開先の所定位置に、前記トーチ部の基準位置を配置する倣い機構とを備え、前記倣い機構が、前記開先の深さ方向に沿って延びる支持軸と、前記支持軸の前記開先側の端部に取り付けられ、前記支持軸に沿って見た場合に前記支持軸を挟んで両側に配置される一対の接触子と、前記支持軸の前記端部が前記開先に挿入された状態で、前記支持軸を回転することにより、前記一対の接触子を前記開先の両側面にそれぞれ接触させる回転機構とを備える。
【0008】
本発明の態様2は、態様1の溶接装置であって、前記幅方向における前記開先の前記所定位置が、前記開先の中央であり、前記一対の接触子が、前記支持軸から同じ距離だけ離れる。
【0009】
本発明の態様3は、態様1(態様1または2であってもよい。)の溶接装置であって、前記一対の接触子のそれぞれが、前記支持軸に沿う中心軸を中心として回転可能なローラである。
【0010】
本発明の態様4は、態様1(態様1ないし3のいずれか1つであってもよい。)の溶接装置であって、前記トーチ部が、前記溶接方向に沿う配列方向に配列された複数の溶接トーチを備え、前記支持部が、前記深さ方向に垂直な面内において、前記溶接方向に対する前記配列方向の傾斜角を変更可能であり、前記倣い機構が、前記支持軸、前記一対の接触子および前記回転機構を有する位置調整部と、前記位置調整部と同様の構造を有する他の位置調整部とを備え、前記溶接方向に関して、前記位置調整部と前記他の位置調整部との間に、前記複数の溶接トーチが配置される。
【0011】
本発明の態様5は、態様4の溶接装置であって、前記支持部が、前記移動機構の移動体と前記トーチ部との間を連結する連結部を備え、前記連結部が、前記深さ方向に沿う第1回転軸を中心として前記移動体に対して回転可能であり、前記トーチ部が、前記深さ方向に沿う第2回転軸を中心として前記連結部に対して回転可能であり、前記第1回転軸周りの前記連結部の回転、および、前記第2回転軸周りの前記トーチ部の回転により、前記トーチ部が前記幅方向に移動可能であり、かつ、前記配列方向の前記傾斜角が変更可能である。
【0012】
本発明の態様6は、態様1ないし5のいずれか1つの溶接装置であって、前記一対の接触子が前記開先の前記両側面に接触した状態における前記支持軸の回転角に基づいて、前記開先の幅を取得する開先幅取得部と、前記開先幅取得部による出力に基づいて溶接条件を決定する制御部とをさらに備える。
【0013】
本発明の態様7は、態様6の溶接装置であって、前記倣い機構の前記支持軸において、前記支持軸から突出して配置される被検出部が設けられており、前記支持軸に垂直な一の方向における前記被検出部の位置が、前記支持軸の回転角に応じて変化し、前記開先幅取得部が、前記一の方向における前記被検出部の位置を測定することにより、前記開先の幅を取得する。
【0014】
本発明の態様8は、態様1ないし5のいずれか1つ(態様1ないし7のいずれか1つであってもよい。)の溶接装置であって、前記トーチ部において、フラックスを散布する散布ノズル、および、溶接を行う溶接トーチが前記溶接方向に沿って設けられ、前記開先の溶接時に、前記散布ノズルの散布口および前記溶接トーチの端部が、前記開先内に配置され、前記溶接方向における前記開先の各位置を前記散布ノズルおよび前記溶接トーチが順に通過し、前記開先の幅が、前記溶接トーチの前記端部の直径の2倍以下であり、前記開先の底面から前記散布ノズルの前記散布口までの高さが、前記溶接トーチの前記端部の先端までの高さ以下である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、開先に対してトーチ部を容易に倣わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】溶接装置を示す正面図である。
図2】溶接装置を示す右側面図である。
図3】溶接トーチの端部および散布ノズルの散布口近傍を示す図である。
図4】支持部を示す平面図である。
図5】開先幅取得部の構成を示す図である。
図6】倣い機構の動作を説明するための図である。
図7】開先幅取得部の動作を説明するための図である。
図8】開先幅取得部の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る溶接装置1を示す正面図である。図2は、溶接装置1を示す右側面図である。溶接装置1は、アーク溶接により複数の被溶接材91を接合する装置であり、本実施の形態では、サブマージアーク溶接が行われる。溶接装置1では、サブマージアーク溶接以外の溶接が行われてもよい。図1および図2では、互いに直交する3方向をX方向、Y方向およびZ方向として矢印にて示す(他の図において同様)。X方向およびY方向は、水平方向であり、Z方向は、上下方向(鉛直方向)である。X方向およびY方向が、水平方向に対して傾斜してもよく、Z方向が、上下方向に対して傾斜してもよい。
【0018】
溶接装置1は、被溶接材91間の突合せ部に形成された開先93に対する溶接を行う。図1および図2に示す例では、被溶接材91がY方向に並んでおり、Z方向の窪みである開先93は、X方向に沿う長手方向に延びる。溶接装置1では、後述のトーチ部3がX方向に移動して、開先93の長手方向に延びる溶接ビードを開先93内に形成する。以下、X方向を「溶接方向」ともいい、被溶接材91が並ぶY方向を「幅方向」ともいう。
【0019】
本実施の形態では、幅方向における開先93の幅は比較的狭く(例えば、16~20mm)、溶接ビードは、開先93の幅の略全体に広がる。開先角度はほぼ0°であり、溶接装置1が、溶接ビードの形成をN回(Nは2以上の整数)繰り返すことにより、開先93の深さ方向(すなわち、Z方向)にN層の溶接ビードが積層される。このように、初層から最終層まで1層1パスで溶接ビードが積層される。開先93の深さは、任意に決定されてよいが、例えば200mmである。図1および図2に示す例では、開先93の深さ方向は、上下方向と平行である。開先93の深さ方向は、上下方向に対して傾斜してもよい。溶接装置1では、単層溶接が行われてもよく、後述するように、1層が複数パスにより形成されてもよい。
【0020】
図1に示す溶接装置1は、移動機構2と、トーチ部3と、支持部4と、倣い機構5と、開先深さ取得部6と、開先幅取得部7と、制御部10とを備える。制御部10は、自動制御盤、および、コンピュータ等を有する。制御部10は、溶接装置1の各構成に電気的に接続され、溶接装置1の全体制御を担う。トーチ部3は、複数の溶接トーチ31a,31bと、複数の散布ノズル32a,32b,32cと、複数のワイヤ送給装置33a,33bと、フラックス供給部(図示省略)と、保持ブロック36と、ベース部37とを備える。
【0021】
複数の溶接トーチ31a,31bおよび複数の散布ノズル32a~32cは、それぞれ上下方向(Z方向)に沿って延びており、溶接方向(X方向)に沿って延びる保持ブロック36に固定される。図1の例では、2個の溶接トーチ31a,31b、および、3個の散布ノズル32a~32cが設けられ、(+X)側から(-X)側に向かって順に、散布ノズル32a、溶接トーチ31a、散布ノズル32b、溶接トーチ31b、散布ノズル32cが配列される。上下方向に沿って見た場合に、散布ノズル32a、溶接トーチ31a、散布ノズル32b、溶接トーチ31bおよび散布ノズル32cは、直線上に配置され、以下、当該直線を「トーチ部3の基準線」という(後述の図4の一点鎖線K1参照)。また、溶接トーチ31a,31bおよび散布ノズル32a~32cの配列方向を、以下、「トーチ配列方向」という。後述するように、上下方向に垂直な面内において、溶接方向に対するトーチ配列方向の傾斜角が変更可能である。溶接装置1の構造の説明では、トーチ配列方向が溶接方向に平行であるものとする。
【0022】
溶接処理では、トーチ部3が(-X)側から(+X)側へと移動するため、溶接方向における開先93の各位置を、散布ノズル32a、溶接トーチ31a、散布ノズル32b、溶接トーチ31b、散布ノズル32cが順に通過する。以下の説明では、溶接トーチ31aおよび溶接トーチ31bをそれぞれ「先行溶接トーチ31a」および「後行溶接トーチ31b」ともいう。また、散布ノズル32a、散布ノズル32bおよび散布ノズル32cをそれぞれ「先行散布ノズル32a」、「中間散布ノズル32b」および「後行散布ノズル32c」ともいう。
【0023】
図3は、溶接トーチ31a,31bの端部311、および、散布ノズル32a~32cの散布口320近傍を示す図である。後述するように、開先93に対して溶接を行う際には、溶接トーチ31a,31bの端部311((-Z)側の端部)、および、散布ノズル32a~32cの散布口320は、開先93内に配置される。図3では、開先93内に配置された溶接トーチ31a,31bおよび散布ノズル32a~32cを示し、被溶接材91および散布ノズル32a~32cについては、開先93の幅の略中央における断面(幅方向に垂直な断面)を示す。
【0024】
先行溶接トーチ31aの端部311、および、後行溶接トーチ31bの端部311は互いに近接して配置される。図3の例では、先行溶接トーチ31aは、上下方向に略平行であり、後行溶接トーチ31bは、下側から上側((-Z)側から(+Z)側)に向かうに従って(-X)側に位置するように傾斜する。溶接トーチ31a,31bは筒状であり、溶接トーチ31a,31bの長手方向に垂直な断面は略円環状である。例えば、溶接トーチ31a,31bの外径は10mmであり、内径は4mmである。もちろん、溶接トーチ31a,31bのサイズは適宜変更されてよい。溶接トーチ31a,31bは、例えば銅等の金属にて形成され、十分な耐熱性を有する。溶接トーチ31a,31bの内部には、溶加材であるワイヤ310がワイヤ送給装置33a,33b(図1参照)から送り込まれる。ワイヤ310の外面には絶縁材が巻き付けられ、ワイヤ310と開先93の側面931との絶縁が確保されてもよい。各溶接トーチ31a,31bおよび被溶接材91は、溶接電源(図示省略)に電気的に接続される。
【0025】
トーチ配列方向が溶接方向に平行な状態において、散布ノズル32a~32cの上下方向に垂直な断面の外形は、溶接方向に長い略矩形であり、幅方向の幅は、溶接トーチ31a,31bの端部311の直径と同じ、または、当該直径よりも僅かに小さい。先行散布ノズル32aは、上下方向に略平行であり、先行溶接トーチ31aの(+X)側に近接して配置される。中間散布ノズル32bは、先行溶接トーチ31aに近接して沿う(+X)側の側面と、後行溶接トーチ31bに近接して沿う(-X)側の側面とを有する。後行散布ノズル32cは、後行溶接トーチ31bの(-X)側に近接して配置され、後行溶接トーチ31bと略平行である。
【0026】
散布ノズル32a~32cの内部には、フラックス供給部からフラックスが送り込まれる。これにより、各散布ノズル32a~32cの散布口320から開先93内にフラックスが散布される。上下方向に関して、開先93の底面932から各散布ノズル32a~32cの散布口320までの高さは、当該底面932から各溶接トーチ31a,31bの端部311の先端(すなわち、ワイヤ310の周囲を囲む部位の先端)までの高さと同じ、または、当該高さよりも低い。
【0027】
サブマージアーク溶接では、ワイヤ310の先端がフラックスに覆われた状態で、被溶接材91とワイヤ310との間にアークを発生させて溶接が行われる。先行散布ノズル32aに加えて、中間散布ノズル32bおよび後行散布ノズル32cが設けられる溶接装置1では、適切な量のフラックスを開先93内に供給することができ、アークがフラックスの外部に漏れ出すオープンアークの発生を抑制することが可能である。
【0028】
本実施の形態では、開先93の幅は、極狭であり、溶接トーチ31a,31bの端部311の直径の2倍以下である。開先93の幅は、当該直径よりも大きいため、溶接トーチ31a,31bの端部311を開先93内に配置することは可能であるが、当該端部311と開先93の各側面931との間の隙間は、当該直径よりも小さい。したがって、仮に、大量のフラックスが当該隙間に入り込むと、溶接方向におけるトーチ部3の移動に支障が生じる可能性がある。既述のように、溶接装置1では、散布ノズル32a~32cの散布口320の高さが、溶接トーチ31a,31bの先端の高さ以下であるため、大量のフラックスが上記隙間に入り込むことが抑制される。その結果、トーチ部3を溶接方向に沿って適切に移動することが可能である。図3では、開先93内に供給されるフラックス99を二点鎖線にて示す。
【0029】
図1および図2に示すように、溶接方向における保持ブロック36の両端部には、倣い機構5の2個の位置調整部51a,51bがそれぞれ固定される。位置調整部51a,51bの詳細については後述する。保持ブロック36の上方には、ベース部37が配置される。ベース部37は、溶接方向に延びる部材であり、溶接方向に並ぶ2個の接続板38を介して、保持ブロック36がベース部37に固定される。ベース部37の長手方向は、トーチ配列方向と平行である。溶接方向におけるベース部37の両端部には、既述のワイヤ送給装置33a,33bがそれぞれ固定される。図2では、ワイヤ送給装置33a,33bの図示を省略している。なお、保持ブロック36とベース部37とが、1個の接続板38により接続されてもよく、両者が一体的に形成されてもよい。
【0030】
図4は、支持部4を示す平面図である。図4では、トーチ部3を簡略化して示す。支持部4は、連結部41を備える。上下方向に沿って見た場合に、連結部41はL字状である。連結部41の(-X)側の端部には、上下方向に延びる第1回転軸43が設けられ、第1回転軸43を介して後述のステージ231のL字板232が接続される。連結部41は、第1回転軸43を中心としてステージ231に対して自在に回転可能である。連結部41の(+Y)側の端部には、上下方向に延びる第2回転軸44が設けられ、第2回転軸44を介して既述のベース部37が接続される。ベース部37は、第2回転軸44を中心として連結部41に対して自在に回転可能である。このようにして、連結部41およびベース部37では、開リンク機構が構成されており、第1回転軸43周りの連結部41の回転、および、第2回転軸44周りのベース部37の回転により、上下方向に垂直な面内においてトーチ部3が移動可能であり、溶接方向に対するトーチ配列方向の傾斜角も変更可能である。支持部4では、L字状の連結部41を用いることにより、第1回転軸43に掛かるモーメントを小さくしつつ、支持部4をコンパクトにすることが可能となる。
【0031】
図1および図2に示すように、移動機構2は、台車21と、レール22と、2軸ステージ23とを備える。レール22は、溶接方向に延びる。台車21は、内部に電動モータ等を備えた自走式の台車であり、レール22に沿って溶接方向に移動する。2軸ステージ23は、台車21に固定される。2軸ステージ23は、ボールネジ機構および電動モータを有し、移動体であるステージ231を幅方向および上下方向に移動可能である。図4の例では、ステージ231にはL字板232が固定されており、当該L字板232に上記連結部41が連結される。既述のように、連結部41にはトーチ部3が接続されており、台車21が溶接方向に移動することにより、トーチ部3も台車21と共に溶接方向に移動する。また、2軸ステージ23により、トーチ部3がステージ231と共に幅方向および上下方向にも移動する。移動機構2の構造は、様々に変更されてよく、駆動源としてリニアモータ等が利用されてもよい。
【0032】
図1に示すように、保持ブロック36の(+X)側には、開先深さ取得部6が配置される。開先深さ取得部6は、センサ支持部61を介してベース部37に固定される。開先深さ取得部6は、例えば、レーザセンサであり、出射部および受光部を有する。出射部がレーザ光を被溶接材91の表面に照射し、当該表面にて反射した反射光を受光部にて受光することにより、開先93の底面932までの距離が取得される。開先深さ取得部6では、開先93の底面932までの距離が取得可能であるならば、他のセンサが用いられてもよい。
【0033】
既述のように、倣い機構5は、2個の位置調整部51a,51bを備える。位置調整部51aは、先行散布ノズル32aの(+X)側に配置され、位置調整部51bは、後行散布ノズル32cの(-X)側に配置される。位置調整部51aは、溶接方向における開先93の各位置を、先行散布ノズル32aよりも先に通過し、位置調整部51bは、開先93の当該位置を、後行散布ノズル32cよりも後に通過する。図4のように上下方向に沿って見た場合に、位置調整部51a,51bは、トーチ部3の基準線K1(図4中に一点鎖線にて示す。)上に配置される。以下の説明では、位置調整部51a,51bをそれぞれ「先行位置調整部51a」および「後行位置調整部51b」ともいう。
【0034】
各位置調整部51a,51bは、開先93に対して機械倣いを行う。図1に示すように、位置調整部51a,51bは、支持軸511と、回転機構512と、接触ローラ支持部513と、一対の接触ローラ514とを備える。支持軸511は、上下方向に沿って延びており、図1の例では、上側から下側に向かうに従って直径が漸次小さくなる。支持軸511の上側の端部は、回転機構512に接続される。回転機構512は、圧縮空気を駆動源として支持軸511を回転する。
【0035】
支持軸511の下側の端部(開先93側の端部であり、以下、単に「下端部」という。)には、接触ローラ支持部513が固定される。接触ローラ支持部513は、支持軸511に垂直な方向に延びる部材である。接触ローラ支持部513の幅は、支持軸511の下側の端部の直径と略同じである。接触ローラ支持部513の両端部には、一対の接触ローラ514がそれぞれ設けられる。一対の接触ローラ514は、好ましくは、同じ形状かつ同じ大きさである。上下方向に沿って見た場合に、一対の接触ローラ514および支持軸511は直線上に並び、一対の接触ローラ514は、支持軸511から同じ距離だけ離れる。各接触ローラ514は、接触ローラ支持部513の下側に配置され、接触ローラ支持部513に支持される。接触ローラ514は、上下方向に略平行な中心軸を中心とする円筒状であり、当該中心軸を中心として回転可能である。なお、一対の接触ローラ514において、形状および/または大きさが異なっていてもよい。また、先行位置調整部51aと後行位置調整部51bとの間において、接触ローラ514の形状および/または大きさが異なっていてもよい。
【0036】
先行位置調整部51aにおいて、支持軸511の上端は、回転機構512から上方に突出する。図1および図4に示すように、当該上端には、被検出ローラ支持部516が取り付けられる。被検出ローラ支持部516は、支持軸511に対して略垂直な方向に突出する。被検出ローラ支持部516の先端部には、被検出ローラ517が設けられる。被検出ローラ517は、被検出ローラ支持部516の上側に配置され、上下方向に略平行な中心軸を中心として回転可能である。また、被検出ローラ517は、支持軸511を中心として支持軸511と共に回転し、支持軸511の回転角に応じて幅方向における被検出ローラ517の位置が変化する。本実施の形態では、被検出ローラ517の直径は、接触ローラ514と同じであり、支持軸511を中心とする周方向および径方向において、被検出ローラ517と一方の接触ローラ514とが同じ位置に配置される。したがって、上下方向に沿って見た場合に、支持軸511がいずれの回転角となるときでも、被検出ローラ517の全体が、一方の接触ローラ514の全体と重なる。
【0037】
図5は、開先幅取得部7の構成を示す図である。開先幅取得部7は、接触式の変位センサ71と、開先幅算出部70とを備える。変位センサ71は、保持ブロック36上に取り付けられ(図1参照)、被検出ローラ517の(-Y)側に配置される。変位センサ71には、円板状の接触部72が幅方向に進退可能に設けられ、接触部72が被検出ローラ517に対向する。変位センサ71では、接触部72が(+Y)方向に向かって弱い力で付勢されており、接触部72が、被検出ローラ517に常時接触する。これにより、幅方向における被検出ローラ517の位置、正確には、支持軸511から幅方向に最も離れた被検出ローラ517の外縁の位置が測定される。被検出ローラ517の位置の測定値は、開先幅算出部70に出力される。後述するように、開先幅算出部70では、被検出ローラ517の位置から開先93の幅が算出される。開先幅算出部70は、例えば、制御部10のコンピュータの機能により実現されてもよく、この場合、当該機能が、開先幅取得部7および制御部10により共有されていると捉えることが可能である。
【0038】
次に、溶接装置1による被溶接材91の開先93に対する溶接処理について説明する。溶接処理では、図1の台車21の移動によりトーチ部3が(-X)側から(+X)側へと移動し、先行位置調整部51aの支持軸511、先行散布ノズル32a、先行溶接トーチ31a、中間散布ノズル32b、後行溶接トーチ31b、後行散布ノズル32c、後行位置調整部51bの支持軸511が、溶接方向における開先93の各位置を順に通過する。このとき、開先深さ取得部6により取得される開先93の底面932までの距離に基づいて、制御部10により2軸ステージ23が制御され、溶接トーチ31a,31bの先端と開先93の底面932との間が一定の距離(例えば、30~40mm)に保たれる。すなわち、トーチ部3の高さが自動調整される。なお、直前に溶接ビードが形成されている場合、開先93の底面932は、当該溶接ビードの上面である。溶接処理では、トーチ配列方向およびベース部37が、必ずしもX方向(溶接方向)に平行とはならない。
【0039】
各位置調整部51a,51bでは、支持軸511の下端部が開先93内に配置された後、回転機構512が圧縮空気の圧力により支持軸511を回転する。一対の接触ローラ514のうち一方の接触ローラ514が開先93の一方の側面931に接触すると(押し当てられると)、トーチ部3が幅方向に受動的に移動しつつ、支持軸511がさらに回転する。そして、他方の接触ローラ514も開先93の他方の側面931に接触する。これにより、図6に示すように、開先93の両側面931間の中央に支持軸511が配置される。
【0040】
実際には、支持軸511の下端部が開先93内に配置されている間、回転機構512が支持軸511に対して回転力を継続して付与する。したがって、開先93の幅が変動する場合でも、一対の接触ローラ514が開先93の両側面931に接触した状態が維持され、支持軸511が開先93の両側面931間の中央に自動的に配置される。厳密には、一対の接触ローラ514が接触する開先93の両側面931の位置は、溶接方向にずれているが、当該位置のずれは僅かであるため、倣い動作に対する影響は極めて小さい。
【0041】
また、開先93の長手方向がX方向(台車21の移動方向であり、溶接方向である。)に対して傾いていたり、開先93がX方向に沿って蛇行する場合もある。このような場合でも、トーチ部3のトーチ配列方向がX方向に対して受動的に傾斜しつつ、先行位置調整部51aの支持軸511、および、後行位置調整部51bの支持軸511が、開先93の両側面931間の中央に自動的に配置される。換言すると、トーチ部3の基準線K1が、幅方向における開先93の中央に配置される。これにより、開先93内において幅方向の両側に均質に広がる、適切な溶接ビード(すなわち、欠陥が抑制された溶接ビード)を形成することが可能となる。
【0042】
図1に示すように、先行位置調整部51aにおける一対の接触ローラ514は、散布ノズル32a~32cの下端(散布口320)よりも下方、かつ、開先93の底面932よりも上方に配置される。したがって、溶接ビードを形成すべき上下方向の位置近傍において、先行位置調整部51aの一対の接触ローラ514を開先93の両側面931に接触させて、支持軸511を開先93の中央に配置することが可能である。一方、後行位置調整部51bにおける一対の接触ローラ514は、散布ノズル32a~32cの下端よりも上方に配置されるため、開先93に散布されたフラックスの影響を受けることなく、支持軸511を開先93の中央に配置することが可能である。
【0043】
また、溶接処理では、図7に示すように、溶接方向における開先93の各位置において、被検出ローラ517の幅方向の位置が、変位センサ71により取得される。開先幅算出部70(図5参照)では、例えば、被検出ローラ517の幅方向の位置から支持軸511の回転角が特定され、当該回転角を用いて溶接方向の各位置における開先93の幅が算出される。開先幅算出部70では、被検出ローラ517の幅方向の位置と、開先93の幅との関係を示す関数やテーブル等が予め準備されていてもよい。
【0044】
本処理例では、開先93の複数通りの幅に対して、溶接欠陥が生じにくい溶接条件を示す参照テーブルが、実験等により予め求められ、制御部10に記憶されている。溶接条件は、例えば、溶接トーチ31a,31bに付与する電流および電圧である。制御部10では、開先幅取得部7により取得される開先93の幅を用いて参照テーブルを参照することにより、溶接方向の各位置における溶接条件が決定される。そして、溶接トーチ31a,31bの先端が当該位置に到達する際に、当該溶接条件が示す電流および電圧が溶接トーチ31a,31bに付与される。なお、溶接方向におけるトーチ部3の移動速度(溶接速度)が溶接条件に含まれ、溶接処理において、溶接方向の各位置への溶接時における当該移動速度が、当該位置における開先93の幅に合わせて変更されてもよい。
【0045】
溶接装置1では、トーチ部3が開先93の(-X)側の端部から(+X)側の端部まで移動することにより、溶接方向における開先93の全体に延びる溶接ビードが形成される。次の溶接ビードを形成する場合、2軸ステージ23がトーチ部3を上方に移動した後、台車21の移動によりトーチ部3が被溶接材91の(-X)側に配置される。その後、上記と同様にして、溶接ビードの形成が行われる。溶接ビードの形成を所定回数繰り返すことにより、多層の溶接ビードが積層され、溶接処理が完了する。
【0046】
上記溶接装置1では、先行位置調整部51aおよび後行位置調整部51bが設けられるが、倣い機構5は、1個の位置調整部のみを有するものであってもよい。例えば、トーチ部3が1個の溶接トーチのみを有する場合等には、1個の位置調整部のみを用いて、当該溶接トーチ(トーチ部3の基準位置)を開先93の略中央に配置し、溶接ビードを適切に形成することが可能である。
【0047】
以上に説明したように、溶接装置1は、トーチ部3と、支持部4と、移動機構2と、倣い機構5とを備える。トーチ部3は、被溶接材91間の突合せ部に、所定の長手方向に延びて形成される開先93に溶接を行う。支持部4は、被溶接材91が並ぶ幅方向にトーチ部3を移動可能な状態で支持する。移動機構2は、当該長手方向に沿う溶接方向に支持部4をトーチ部3と共に移動する。倣い機構5は、トーチ部3に対して固定されており、支持軸511と、一対の接触子(上記では、接触ローラ514)と、回転機構512とを備える。支持軸511は、開先93の深さ方向(上記では、上下方向)に沿って延びる。一対の接触子は、支持軸511の開先93側の端部に取り付けられるとともに、支持軸511に沿って見た場合に支持軸511を挟んで両側に配置される。回転機構512は、支持軸511の当該端部が開先93に挿入された状態で支持軸511を回転することにより、一対の接触子を開先93の両側面931にそれぞれ接触させる。これにより、倣い機構5では、幅方向における開先93の中央にトーチ部3の基準位置(上記では、トーチ部3の基準線K1)を配置することが容易に可能となる、すなわち、開先93に対してトーチ部3を容易に倣わせることができる。その結果、溶接装置1では、好ましい溶接ビードを形成することが実現される。
【0048】
好ましくは、一対の接触子のそれぞれが、支持軸511に沿う中心軸を中心として回転可能な接触ローラ514である。これにより、開先93内において一対の接触子を滑らかに移動させることができ、開先93に対してトーチ部3をより確実に倣わせることができる。なお、溶接装置1の設計によっては、一対の接触子がローラ以外であってもよく、開先93の両側面931に摺動する部材であってもよい。
【0049】
好ましくは、トーチ部3が、溶接方向に沿う配列方向(上記では、トーチ配列方向)に配列された複数の溶接トーチ31a,31bを備える。支持部4が、上記深さ方向に垂直な面内において、溶接方向に対する配列方向の傾斜角を変更可能である。また、倣い機構5が、支持軸511、一対の接触子および回転機構512を有する位置調整部51aと、位置調整部51aと同様の構造を有する他の位置調整部51bとを備える。溶接方向に関して、位置調整部51aと位置調整部51bとの間に、複数の溶接トーチ31a,31bが配置される。このような構造により、開先93の傾きや蛇行に合わせて、複数の溶接トーチ31a,31bの配列方向を傾けることができ、好ましい溶接ビードをより確実に形成することができる。
【0050】
好ましくは、支持部4が、移動機構2の移動体(上記では、ステージ231)とトーチ部3との間を連結する連結部41を備える。連結部41が、深さ方向に沿う第1回転軸43を中心として当該移動体に対して回転可能であり、トーチ部3が、深さ方向に沿う第2回転軸44を中心として連結部41に対して回転可能である。第1回転軸43周りの連結部41の回転、および、第2回転軸44周りのトーチ部3の回転により、トーチ部3が幅方向に移動可能であり、かつ、上記配列方向の傾斜角が変更可能である。このような溶接装置1では、支持部4の構成を簡素化することができる。なお、支持部4の構成は任意に変更されてよく、例えば、トーチ部3を幅方向に移動可能とするスライド機構等が利用されてもよい。
【0051】
好ましくは、溶接装置1が、開先幅取得部7と、制御部10とをさらに備える。開先幅取得部7は、一対の接触子が開先93の両側面931に接触した状態における支持軸511の回転角に基づいて、開先93の幅を取得する。制御部10は、開先幅取得部7による出力に基づいて溶接条件を決定する。これにより、実際の開先93の幅に基づく適切な溶接条件を用いて溶接を行うことができ、欠陥が抑制された溶接ビードを形成することが可能となる。なお、制御部10を実現するコンピュータは、トーチ部3および移動機構2等を含む溶接装置1の本体から離れた位置に設けられてもよい。この場合に、当該コンピュータが、インターネット等のネットワークを介して溶接装置1の本体に通信可能に接続されてもよく、制御部10が、クラウドコンピューティングにより実現されてもよい。
【0052】
好ましくは、倣い機構5の支持軸511において、支持軸511から突出して配置される被検出部(上記では、被検出ローラ517)が設けられ、支持軸511に垂直な一の方向における被検出部の位置が、支持軸511の回転角に応じて変化する。開先幅取得部7が、当該一の方向における被検出部の位置を測定することにより、開先93の幅を取得する。このような溶接装置1では、開先93の幅を容易に取得することができる。なお、被検出部は、ローラ以外であってもよい。
【0053】
好ましくは、トーチ部3において、フラックスを散布する散布ノズル32a、および、溶接を行う溶接トーチ31aが溶接方向に沿って設けられる。開先93の溶接時に、散布ノズル32aの散布口320および溶接トーチ31aの端部311が、開先93内に配置され、溶接方向における開先93の各位置を散布ノズル32aおよび溶接トーチ31aが順に通過する。開先93の幅が、溶接トーチ31aの当該端部311の直径の2倍以下であり、開先93の底面932から散布ノズル32aの散布口320までの高さが、溶接トーチ31aの当該端部311の先端までの高さ以下である。これにより、溶接トーチ31aと開先93の側面931との間にフラックスが詰まり、トーチ部3の移動が阻害されることを抑制することができる。
【0054】
上記溶接装置1では様々な変形が可能である。
【0055】
上記実施の形態では、一対の接触子(接触ローラ514)が、支持軸511から同じ距離だけ離れるため、幅方向においてトーチ部3の基準位置が開先93の中央に配置される(すなわち、後述の所定位置が開先93の中央である)。一方、溶接装置1の設計によっては、一方の接触子と支持軸511との間の第1の距離が、他方の接触子と支持軸511との間の第2の距離と相違してもよい。このような溶接装置1では、第1の距離と第2の距離との比に対応する、幅方向における開先93の所定位置に、トーチ部3の基準位置を配置することが可能である。この場合、例えば、溶接トーチ31a,31bが開先93の中央に配置されるように、幅方向においてトーチ部3の基準位置からずれた位置に溶接トーチ31a,31bが配置される。
【0056】
上下方向において、一対の接触子が取り付けられる支持軸511の位置は、当該一対の接触子が開先93の両側面931に接触可能であるならば、支持軸511の先端から(+Z)側にある程度離れていてもよい。すなわち、一対の接触子が取り付けられる支持軸511の端部は、支持軸511の先端からある程度離れた支持軸511の部位も含む。また、一対の接触子は、上下方向に互いにずれた位置に配置されてもよい。
【0057】
上記実施の形態の形態では、支持軸511に沿って見た場合に、被検出ローラ517が接触ローラ514と同じ位置に配置されるが、図8に示すように、被検出ローラ517が接触ローラ514と異なる位置に配置されてもよい。図8の例では、支持軸511を中心として接触ローラ514から90°ずらした角度位置に被検出ローラ517が配置される。この場合、変位センサ71の長手方向を溶接方向に略平行とすることができ、トーチ部3に取り付けられる構成の幅方向のサイズを小さくすることが可能となる。
【0058】
上記実施の形態では、被検出ローラ517が開先93の外部に配置されるが、開先93の幅等によっては、被検出ローラ517が開先93の内部に配置されてもよい。
【0059】
開先幅取得部7では、接触式の変位センサ71が設けられるが、被検出ローラ517の変位が取得可能であるならば、他の種類のセンサが用いられてもよい。また、開先幅取得部7では、ロータリエンコーダ等を支持軸511に取り付けることにより、支持軸511の回転角が取得されてもよい。支持軸511の回転角に基づいて開先93の幅を取得する開先幅取得部7は、様々な態様にて実現することが可能である。
【0060】
溶接トーチの個数は、1個または3個以上であってもよい。この場合でも、上記倣い機構5を有する溶接装置1では、開先93に対してトーチ部3を容易に倣わせて、好ましい溶接ビードを形成することが可能である。例えば、溶接トーチの個数が1個である場合、溶接方向における当該溶接トーチの前後に散布ノズルが設けられることが好ましい。散布ノズルの個数も、溶接トーチの個数に合わせて適宜変更されてよい。
【0061】
溶接装置1では、溶接部の1層が複数パスにより形成されてもよい。この場合、例えば、幅方向における溶接トーチ31a,31bの位置をトーチ部3の基準線K1に対してパス毎にずらすことにより、各パスにおいて、開先93の中央から所望の距離だけずれた位置に溶接ビードを形成することが可能である。
【0062】
移動機構2は、必ずしも支持部4およびトーチ部3を移動させる機構である必要はなく、被溶接材91を溶接方向に移動させる機構であってもよい。すなわち、移動機構2は、溶接方向に支持部4およびトーチ部3を被溶接材91に対して相対的に移動すればよい。
【0063】
被溶接材91は、略平板状や略円筒状等、様々な形状を有していてよい。また、複数の溶接装置1が設けられ、1つまたは複数の開先93に対して並行して(同時に)溶接が行われてもよい。この場合に、複数の溶接装置1における溶接条件が同じであっても、異なっていてもよい。
【0064】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【符号の説明】
【0065】
1 溶接装置
2 移動機構
3 トーチ部
4 支持部
5 倣い機構
7 開先幅取得部
10 制御部
31a,31b 溶接トーチ
32a~32c 散布ノズル
41 連結部
43 第1回転軸
44 第2回転軸
51a,51b 位置調整部
91 被溶接材
93 開先
99 フラックス
231 ステージ
311 (溶接トーチの)端部
320 散布口
511 支持軸
512 回転機構
514 接触ローラ
517 被検出ローラ
931 (開先の)側面
932 (開先の)底面
K1 基準線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8