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特開2024-142387液体肥料製造装置及び液体肥料製造方法
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  • 特開-液体肥料製造装置及び液体肥料製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142387
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】液体肥料製造装置及び液体肥料製造方法
(51)【国際特許分類】
   C05G 5/20 20200101AFI20241003BHJP
   B01D 61/42 20060101ALI20241003BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20241003BHJP
   C05C 11/00 20060101ALI20241003BHJP
   C05F 17/00 20200101ALI20241003BHJP
   C05F 17/993 20200101ALI20241003BHJP
【FI】
C05G5/20
B01D61/42
B01D61/58
C05C11/00
C05F17/00
C05F17/993
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054510
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】596136316
【氏名又は名称】三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】523117340
【氏名又は名称】築上町
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】長尾 衛
(72)【発明者】
【氏名】杉本 直也
(72)【発明者】
【氏名】太田 美加
(72)【発明者】
【氏名】矢部 光保
【テーマコード(参考)】
4D006
4H061
【Fターム(参考)】
4D006GA06
4D006GA18
4D006HA01
4D006HA41
4D006HA93
4D006KA31
4D006KA52
4D006KA55
4D006KA57
4D006KB22
4D006KE02Q
4D006KE08P
4D006KE15Q
4D006KE16Q
4D006MA01
4D006MA03
4D006MA13
4D006MA14
4D006MC29
4D006PA01
4D006PB08
4D006PC80
4H061AA02
4H061AA03
4H061BB01
4H061CC35
4H061EE41
4H061FF02
4H061GG10
4H061GG22
4H061GG29
4H061GG49
4H061GG54
4H061KK08
4H061KK09
(57)【要約】
【課題】無機態窒素成分の組成比が調整された液体肥料を簡便に製造できる液体肥料製造装置及び液体肥料製造方法を提供することを主たる目的とする。
【解決手段】無機態窒素の目標組成比に沿って運転条件を設定する制御部24,26,28と、制御部24,26,28の設定に従って、有機物の消化液を生物処理して膜分離する膜分離部20と、膜分離部20で濾過された分離液を濃縮する電気透析部40と、を有する、無機態窒素を含有する液体肥料を製造する液体肥料製造装置。無機態窒素の目標組成比に沿って運転条件を設定する制御工程と、該制御工程の設定に従って、有機物の消化液を生物処理して膜分離する膜分離工程と、該膜分離工程で濾過された分離液を濃縮する電気透析工程と、を有する、無機態窒素を含有する液体肥料を製造する液体肥料製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機態窒素を含有する液体肥料を製造する液体肥料製造装置であって、
該無機態窒素の目標組成比に沿って運転条件を設定する制御部と、
該制御部の設定に従って、有機物の消化液を生物処理して膜分離する膜分離部と、
該膜分離部で濾過された分離液を濃縮する電気透析部と、を有する、液体肥料製造装置。
【請求項2】
前記分離液の組成比を測定する測定部を更に有する、請求項1に記載の液体肥料製造装置。
【請求項3】
前記測定部の測定値に基づき、前記制御部が前記運転条件を再設定する、請求項2に記載の液体肥料製造装置。
【請求項4】
前記膜分離部が、メンブレンバイオリアクターである、請求項1~3のいずれか一項に記載の液体肥料製造装置。
【請求項5】
前記メンブレンバイオリアクターが流量調節装置を備え、前記制御部が前記流量調節装置の運転条件を設定する、請求項4に記載の液体肥料製造装置。
【請求項6】
前記メンブレンバイオリアクターが液温調節装置を備え、前記制御部が前記液温調節装置の運転条件を設定する、請求項4に記載の液体肥料製造装置。
【請求項7】
前記メンブレンバイオリアクターがpH調節装置を備え、前記制御部が前記pH調節装置の運転条件を設定する、請求項4に記載の液体肥料製造装置。
【請求項8】
無機態窒素を含有する液体肥料を製造する液体肥料製造方法であって、
下記工程(1)~(3)を有する、液体肥料製造方法;
工程(1):該無機態窒素の目標組成比に沿って運転条件を設定する制御工程、
工程(2):該制御工程の設定に従って、有機物の消化液を生物処理して膜分離する膜分離工程、
工程(3):該膜分離工程で濾過された分離液を濃縮する電気透析工程。
【請求項9】
下記工程(4)を更に有する、請求項8に記載の液体肥料製造方法;
工程(4):前記分離液の組成比を測定する測定工程。
【請求項10】
前記測定工程の測定値に基づき、前記制御工程で運転条件を再設定する、請求項9に記載の液体肥料製造方法。
【請求項11】
前記膜分離工程が、メンブレンバイオリアクターを用いる工程である、請求項8~10のいずれか一項に記載の液体肥料製造方法。
【請求項12】
前記メンブレンバイオリアクターが流量調節機能を備え、前記制御工程で前記流量調節機能の運転条件を設定する、請求項11に記載の液体肥料製造方法。
【請求項13】
前記メンブレンバイオリアクターが液温調節機能を備え、前記制御工程で前記液温調節機能の運転条件を設定する、請求項11に記載の液体肥料製造方法。
【請求項14】
前記メンブレンバイオリアクターがpH調節機能を備え、前記制御工程で前記pH調節機能の運転条件を設定する、請求項11に記載の液体肥料製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体肥料製造装置及び液体肥料製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体肥料は穀物、野菜、果物、花卉等、様々な種類の植物の生育に有用である。液体肥料が含有する無機態窒素は、(1)アンモニア態窒素、(2)硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素に大別される。
植物の生育条件は様々であり、栽培環境としては露地栽培、施設園芸が挙げられる。また、上述の通り、植物の種類も様々である。
【0003】
これらの、植物の生育条件や植物の種類によって、液体肥料が含有する無機態窒素に求められる組成比は様々であり、求められる組成比ではない液体肥料を散布すると、過剰害が発生してしまうことがあった。
有機物の消化液を濃縮して液体肥料を製造する方法として、特許文献1では、限外濾過膜を使用する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-131432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で提案されている方法では、有機物の消化液を濃縮した濃縮液中の無機態窒素成分は、アンモニア態窒素が中心となる。このため、植物の生育条件や植物の種類によっては、無機態窒素成分の組成比を変える必要があった。
無機態窒素成分の組成比を変える方法としては、例えば、活性汚泥槽等の装置の設置や、作付け前に液体肥料を散布して数日経過させ、土壌中微生物の硝酸化成作用を用いる方法が挙げられるが、いずれも作業工程やコストが増加するという課題があった。
【0006】
本発明の主たる目的は、無機態窒素成分の組成比が調整された液体肥料を簡便に製造できる液体肥料製造装置及び液体肥料製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、無機態窒素成分の組成比を簡便に調整できる液体肥料の製造装置及び製造方法について鋭意研究した結果、有機物の消化液を生物処理して膜分離する膜分離部の運転条件を制御することによって、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明に至った。
【0008】
即ち、本発明は以下の特徴を有する。
[1]無機態窒素を含有する液体肥料を製造する液体肥料製造装置であって、
該無機態窒素の目標組成比に沿って運転条件を設定する制御部と、
該制御部の設定に従って、有機物の消化液を生物処理して膜分離する膜分離部と、
該膜分離部で濾過された分離液を濃縮する電気透析部と、を有する、液体肥料製造装置。
[2]前記分離液の組成比を測定する測定部を更に有する、[1]に記載の液体肥料製造装置。
[3]前記測定部の測定値に基づき、前記制御部が前記運転条件を再設定する、[2]に記載の液体肥料製造装置。
[4]前記膜分離部が、メンブレンバイオリアクターである、[1]~[3]のいずれかに記載の液体肥料製造装置。
[5]前記メンブレンバイオリアクターが流量調節装置を備え、前記制御部が前記流量調節装置の運転条件を設定する、[4]に記載の液体肥料製造装置。
[6]前記メンブレンバイオリアクターが液温調節装置を備え、前記制御部が前記液温調節装置の運転条件を設定する、[4]又は[5]に記載の液体肥料製造装置。
[7]前記メンブレンバイオリアクターがpH調節装置を備え、前記制御部が前記pH調節装置の運転条件を設定する、[4]~[6]のいずれかに記載の液体肥料製造装置。
[8]無機態窒素を含有する液体肥料を製造する液体肥料製造方法であって、
下記工程(1)~(3)を有する、液体肥料製造方法;
工程(1):該無機態窒素の目標組成比に沿って運転条件を設定する制御工程、
工程(2):該制御工程の設定に従って、有機物の消化液を生物処理して膜分離する膜分離工程、
工程(3):該膜分離工程で濾過された分離液を濃縮する電気透析工程。
[9]下記工程(4)を更に有する、[8]に記載の液体肥料製造方法;
工程(4):前記分離液の組成比を測定する測定工程。
[10]前記測定工程の測定値に基づき、前記制御工程で運転条件を再設定する、[9]に記載の液体肥料製造方法。
[11]前記膜分離工程が、メンブレンバイオリアクターを用いる工程である、[8]~[10]のいずれかに記載の液体肥料製造方法。
[12]前記メンブレンバイオリアクターが流量調節機能を備え、前記制御工程で前記流量調節機能の運転条件を設定する、[11]に記載の液体肥料製造方法。
[13]前記メンブレンバイオリアクターが液温調節機能を備え、前記制御工程で前記液温調節機能の運転条件を設定する、[11]又は[12]に記載の液体肥料製造方法。
[14]前記メンブレンバイオリアクターがpH調節機能を備え、前記制御工程で前記pH調節機能の運転条件を設定する、[11]~[13]のいずれかに記載の液体肥料製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液体肥料製造装置によれば、無機態窒素成分の組成比が調整された液体肥料を、簡便に製造することができる。
本発明の液体肥料製造方法によれば、簡便な操作で、無機態窒素成分の組成比が調整された液体肥料を製造することができる。
本発明によれば、更なる装置や作業工程は必要なく、植物の生育条件や植物の種類に応じて様々な組成比の液体肥料を迅速に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の液体肥料製造装置の一形態例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。以下の実施の形態は本発明を説明するための単なる例示であって、本発明をこの実施の形態にのみ限定することは意図されない。
本発明は、その趣旨を逸脱しない限り、様々な態様で実施することが可能である。また、使用する図面は実施の形態の一例を説明するためのものであり、実際の大きさを表すものではない。
【0012】
<液体肥料製造装置>
本発明の液体肥料製造装置は、無機態窒素を含有する液体肥料を製造する液体肥料製造装置であって、無機態窒素の目標組成比に沿って運転条件を設定する制御部と、制御部の設定に従って、有機物の消化液を生物処理して膜分離する膜分離部と、膜分離部で濾過された分離液を濃縮する電気透析部と、を有する。
【0013】
本発明の液体肥料製造装置は、制御部と、膜分離部と、電気透析部とを有し、後述する測定部を更に有することが好ましい。これらの他にも、一般的な液体肥料製造装置に付帯する設備を有することができる。
【0014】
図1では、本発明に関する設備として、制御部24,26,28、膜分離部20、電気透析部40、測定部29,43を示している。また、膜分離部20が備え得る設備として、液温調節装置23、pH調節装置25、流量調節装置27を示している。
この他に、一般的な設備として、消化液タンク10、処理水タンク30、第1の流路11、第2の流路21、第3の流路31等を示している。
【0015】
無機態窒素は、前述した通り、(1)アンモニア態窒素、(2)硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素に大別される。
本発明において製造される液体肥料は、前記無機態窒素を含有する液体肥料であり、(1)アンモニア態窒素と、(2)硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素とを、任意の組成比で含有することができる。
ここで、硝酸態窒素とは、硝酸又は硝酸塩を指す。また、任意の組成比とは、植物の生育条件や植物の種類に応じて必要とされる様々な組成比の意味であり、これは即ち、無機態窒素の目標組成比である。
本発明の液体肥料は、前記無機態窒素を任意の濃度で含有することができる。
【0016】
<消化液>
本発明で用いる消化液は、有機物の消化液であり、し尿等の有機物を発酵処理した後の液である。
消化液としては、嫌気性発酵の消化液、好気性発酵の消化液が挙げられる。嫌気性発酵の消化液とは、空気を遮断した無酸素の状態下で発酵処理した液である。好気性発酵の消化液とは、空気で曝気した状態下での発酵処理液である。
【0017】
<制御部>
本発明の制御部は、無機態窒素の目標組成比に沿って運転条件を設定する。
本発明において、無機態窒素の組成比を調節するのは主に膜分離部であることから、制御部は、無機態窒素の目標組成比に沿って膜分離部の運転条件を設定する。
【0018】
後述するメンブレンバイオリアクターが流量調節装置を備える場合、制御部は、分離液の流量を測定し、流量調節装置の運転条件を設定する。
これ以降、この制御部を、「制御部(流量)」と称する場合もある。
【0019】
後述するメンブレンバイオリアクターが液温調節装置を備える場合、制御部は、消化液の処理温度を測定し、液温調節装置の運転条件を設定する。
これ以降、この制御部を、「制御部(液温)」と称する場合もある。
【0020】
後述するメンブレンバイオリアクターがpH調節装置を備える場合、制御部は、消化液の処理pHを測定し、pH調節装置の運転条件を設定する。
これ以降、この制御部を、「制御部(pH)」と称する場合もある。
制御部は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
<膜分離部>
本発明の膜分離部は、前記制御部の設定に従って、前記消化液を生物処理して膜分離する。
膜分離部としては、消化液を生物処理して膜分離できる機能を有していればよく、具体的には、メンブレンバイオリアクターが挙げられる。
メンブレンバイオリアクターは、「膜分離活性汚泥法」とも称される。
【0022】
本発明で用いるメンブレンバイオリアクターは、処理水と活性汚泥の入った処理槽と、精密濾過膜又は限外濾過膜等の膜を用いるものである。
メンブレンバイオリアクターで、消化液を活性汚泥で処理することにより、好気性細菌による硝化が進行し、アンモニア態窒素が、硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素に変換される。処理後の消化液は前記膜で濾過され、前記膜を透過した分離液が電気透析部に送られる。
これ以降、「メンブレンバイオリアクター」を、「MBR」と称する場合もある。
【0023】
<電気透析部>
本発明の電気透析部は、膜分離部で濾過された分離液を濃縮する。電気透析部としては、公知の電気透析装置を用いればよい。
電気透析装置としては、例えば、AGCエンジニアリング社製のDW-1が挙げられる。
【0024】
電気透析装置とは、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を交互に、スペーサーを介して多数組積層し、その両端に1対の電極を配置し、陽極側の陰イオン交換膜と陰極側の陽イオン交換膜で仕切られたスペースである脱塩室(D室)と、それとは反対に陽極側の陽イオン交換膜と陰極側の陰イオン交換膜で仕切られたスペースである濃縮室(C室)が交互に配置されたものである。
D室に原液を供給すると陽イオンは陰極に向かって陽イオン交換膜を透過して陰極寄りのC室に移動する。その際、C室の陰極側は陰イオン交換膜で仕切られているため、さらに隣のD室に移動することはできない。
同様に、陰イオンはD室から陽極側のC室に移動する。結果としてD室で脱塩され、C室で濃縮される。
【0025】
電気透析部では、処理対象である分離液を、電気透析濃縮液と、電気透析脱塩液に分ける。電気透析濃縮液は、処理前の分離液よりも塩濃度が高く、電気透析脱塩液は、処理前の分離液よりも塩濃度が低い。
電気透析部の機能は上述の通りであり、無機態窒素を濃縮することはできるが、無機態窒素の組成比を積極的に調節するものではない。
【0026】
<測定部>
本発明の液体肥料製造装置は、前記分離液の組成比を測定する測定部を更に有してもよい。
ここで分離液とは、前記活性汚泥で処理され、精密濾過膜又は限外濾過膜等の膜で濾過されたものであり、組成比とは、分離液が含有する無機態窒素の組成比である。
測定部は、分離液の組成比を測定できれば、どの位置に設置されていてもよい。図1を用いて説明すると、測定部29のように、膜分離部20から次工程に向かう第2の流路21に設置されていてもよいし、測定部43のように、電気透析濃縮液流路42に設置されていてもよい。
【0027】
測定部は、分離液中の無機態窒素の組成比を測定できるものであればよく、自動の計測装置でも、手動の計測装置でもよい。
【0028】
<運転条件の設定/制御>
制御部が設定する運転条件としては、例えば、MBRでの消化液の滞留時間、MBRでの消化液の処理温度、MBRでの消化液の処理pHが挙げられる。ここで、MBRでの消化液の滞留時間は、MBRでの分離液の流量によって調節可能である。
これら、MBRの運転条件によって、アンモニア態窒素が、硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素に変換される程度を調節することができる。即ち、無機態窒素の組成比を調節することができる。
但し、MBRでの処理は、硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素が、アンモニア態窒素に変換されるものではないため、被処理水である消化液以上にアンモニア態窒素の組成比を高くすることはできない。
【0029】
MBRでの消化液の滞留時間を長くすれば、硝化が進行するため、アンモニア態窒素の比率が減少し、硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素の比率が増加する傾向にある。
MBRでの消化液の処理温度が適切であれば、硝化が進行するため、アンモニア態窒素の比率が減少し、硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素の比率が増加する傾向にある。
MBRでの消化液の処理pHが適切であれば、硝化が進行するため、アンモニア態窒素の比率が減少し、硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素の比率が増加する傾向にある。
【0030】
上述したMBRの運転条件は、MBRで用いる活性汚泥の種類と状態、用いる消化液の特性によって適切な範囲は異なる。このため、ラボレベルで運転条件の適切な範囲を事前に確認する、または、実機での運転を通じて運転条件の適切な範囲を確認する等が必要である。
上記の方法で確認した適切な範囲に従って、運転条件を適宜設定すればよい。
【0031】
設定した運転条件によって得られた無機態窒素の組成比が、目標とした無機態窒素の組成比と異なることが測定部の測定値によって確認された場合、各制御部は運転条件を再設定する。
この場合、予めプログラムを組んでおき、測定部の測定値を断続的または連続的に監視し、その情報を各制御部にフィードバックし、各制御部が運転条件を再設定するようにしておけばよい。
【0032】
制御部が設定した運転条件を実現するため、MBRは流量調節装置、液温調節装置、pH調節装置を備えることが好ましい。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
複数の調節装置を備えれば、無機態窒素の組成比を調節することが容易となる。
【0033】
MBRでの消化液の滞留時間で運転条件を設定する場合、MBRは流量調節装置を備え、制御部(流量)は分離液の流量を測定し、流量調節装置の運転条件を設定する。流量調節装置は、制御部(流量)の設定に従って、MBRでの消化液の滞留時間を調節する。
得られた無機態窒素の組成比が目標値と異なることが確認された場合、制御部(流量)は、流量調節装置の運転条件を再設定する。
流量調節装置は、流量の調節が可能な公知の装置を用いればよく、制御部(流量)は、流量の制御が可能な公知のシステムを用いればよい。
【0034】
MBRでの消化液の処理温度で運転条件を設定する場合、MBRは液温調節装置を備え、制御部(液温)は消化液の処理温度を測定し、液温調節装置の運転条件を設定する。液温調節装置は、制御部(液温)の設定に従って、MBRでの消化液の処理温度を調節する。
得られた無機態窒素の組成比が目標値と異なることが確認された場合、制御部(液温)は、液温調節装置の運転条件を再設定する。
液温調節装置は、液温の調節が可能な公知の装置を用いればよく、制御部(液温)は、液温の制御が可能な公知のシステムを用いればよい。
【0035】
MBRでの消化液の処理pHで運転条件を設定する場合、MBRはpH調節装置を備え、制御部(pH)は消化液の処理pHを測定し、pH調節装置の運転条件を設定する。pH調節装置は、制御部(pH)の設定に従って、MBRでの消化液の処理pHを調節する。
得られた無機態窒素の組成比が目標値と異なることが確認された場合、制御部(pH)は、pH調節装置の運転条件を再設定する。
pH調節装置は、pHの調節が可能な公知の装置を用いればよく、制御部(pH)は、pHの制御が可能な公知のシステムを用いればよい。
MBRでの消化液の処理pHを調節する際に硝酸を用いると、硝酸自体が無機態窒素であり、液体肥料の成分として有効利用できることから、好ましい。
【0036】
<液体肥料製造方法>
本発明の液体肥料製造方法は、無機態窒素を含有する液体肥料を製造する液体肥料製造方法であって、下記工程(1)~(3)を有する;
工程(1):該無機態窒素の目標組成比に沿って運転条件を設定する制御工程、
工程(2):該制御工程の設定に従って、有機物の消化液を生物処理する膜分離工程、
工程(3):該膜分離工程で濾過された分離液を濃縮する電気透析工程。
【0037】
<工程(1)>
工程(1)は、無機態窒素の目標組成比に沿って運転条件を設定する制御工程であり、その主旨は、液体肥料製造装置の項目で説明した「制御部」と同様である。
一方、工程(1)においては、制御部ではなく、制御工程としていることからも明らかなように、制御部という特定の設備を指すものではなく、制御する操作、制御する行為も含めて、制御工程とする。
【0038】
<工程(2)>
工程(2)は、制御工程の設定に従って、有機物の消化液を生物処理する膜分離工程であり、その主旨は、液体肥料製造装置の項目で説明した「膜分離部」と同様である。
一方、工程(2)においては、膜分離部ではなく、膜分離工程としていることからも明らかなように、膜分離部という特定の設備を指すものではなく、膜分離する操作、膜分離する行為も含めて、膜分離工程とする。
【0039】
<工程(3)>
工程(3)は、膜分離工程で濾過された分離液を濃縮する電気透析工程であり、その主旨は、液体肥料製造装置の項目で説明した「電気透析部」と同様である。
一方、工程(3)においては、電気透析部ではなく、電気透析工程としていることからも明らかなように、電気透析部という特定の設備を指すものではなく、電気透析する操作、電気透析する行為も含めて、電気透析工程とする。
【0040】
<工程(4)>
本発明の液体肥料製造方法は、下記工程(4)を更に有してもよい;
工程(4):前記分離液の組成比を測定する測定工程。
工程(4)の主旨は、液体肥料製造装置の項目で説明した「測定部」と同様である。
一方、工程(4)においては、測定部ではなく、測定工程としていることからも明らかなように、測定部という特定の設備を指すものではなく、測定する操作、測定する行為も含めて、測定工程とする。
【0041】
下記の好ましい理由は、液体肥料製造装置の項目で説明した主旨と同様であり、詳細は割愛する。
・本発明の液体肥料製造方法では、測定工程の測定値に基づき、制御工程で運転条件を再設定することが好ましい。
・工程(2)の膜分離工程は、MBRを用いる工程であることが好ましい。
・MBRは流量調節機能を備え、前記制御工程で流量調節機能の運転条件を設定することが好ましい。
・MBRは液温調節機能を備え、前記制御工程で液温調節機能の運転条件を設定することが好ましい。
・MBRはpH調節機能を備え、前記制御工程でpH調節機能の運転条件を設定することが好ましい。また、MBRのpHを調節する際には硝酸を用いることが好ましい。
【0042】
<液体肥料>
本発明における液体肥料は、本発明の液体肥料製造装置、又は、液体肥料製造方法で得られるものであり、無機態窒素を含有する。
液体肥料は、前記無機態窒素以外に、肥料として一般的な添加剤を後から配合してもよい。また、無機態窒素を後から配合して、個別の使用場面に応じて、無機態窒素の組成比を調節することも可能である。
【0043】
<用途>
本発明における液体肥料は、一般的な肥料として使用可能であるが、特に、植物の生育条件や植物の種類に応じた、土耕及び水耕栽培における元肥、追肥として好適に用いられる。
【実施例0044】
以下に実施例を示し、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例においては、下記の方法により各種物性を測定した。
【0045】
[評価方法]
(1)アンモニア態窒素の濃度
HCAH社製「DR2700吸光光度計」を使用し、ネスラー法により分析した。
【0046】
(2)硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素の濃度
東ソー社製「IC-2100」を用い、イオンクロマトグラフ法により測定した。
東ソー社製「TSKgel SuperIC-A HS」をカラムとし、NaHCO、NaCO混合液を移動相として、電気伝導度により検出した。
【0047】
[実施例1]
原水として、築上町消化液を用いた。築上町消化液は、有機物の消化液であり、し尿由来の好気発酵消化液である。
膜分離部として、三菱ケミカル社製の限外濾過膜(膜素材:ポリフッ化ビニリデン、公称孔径0.05μm、膜形状:中空糸)を備えた、容積2mの水槽を用いた。
消化液を水槽に投入し、限外濾過膜を消化液に浸漬させた。このとき、消化液の液温(処理温度)は25℃とした。
この状態で、連続で吸引濾過をして、限外濾過膜で濾過された分離液と、濾過されなかった汚泥を含む分散液に分けた。分離液の流量は60L/hとした。このときの消化液の滞留時間は33時間であった。
得られた分離液を処理水タンクに貯槽した。
【0048】
分離液を、AGCエンジニアリング社製の電気透析装置「DW-1型」(カチオンイオン交換膜:CMVN、アニオンイオン交換膜:AMVN)で処理した。電気透析電圧は15Vとし、電気透析濃縮液と電気透析脱塩液に分けた。
電気透析脱塩液は、1.1m/hの流量で処理水タンクに戻し、循環運転とした。
得られた電気透析濃縮液について、アンモニア態窒素の濃度と、硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素の濃度を測定した。
結果を表1に示す。
【0049】
[実施例2]
分離液の流量を30L/hとし、このときの消化液の滞留時間が67時間であったこと以外は、実施例1と同様にして、電気透析濃縮液を得た。
結果を表1に示す。
【0050】
[実施例3]
消化液の液温(処理温度)を10℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、電気透析濃縮液を得た。
結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1から明らかなように、本発明の製造方法(実施例1~3)は、運転条件の設定により、電気透析濃縮液の、アンモニア態窒素/硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素の組成比を調整することができた。これにより、本発明によって、無機態窒素成分の組成比が調整された液体肥料を簡便に製造することができる。
【符号の説明】
【0053】
10 消化液タンク、11 第1の流路
20 膜分離部(MBR)、21 第2の流路、22 汚泥引抜流路
23 液温調節装置、24 制御部(液温)、25 pH調節装置、26 制御部(pH)、27 流量調節装置、28 制御部(流量)、29 測定部
30 処理水タンク、31 第3の流路
40 電気透析部、41 電気透析脱塩液流路、42 電気透析濃縮液流路、43 測定部
図1