(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142390
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】液体肥料製造装置及び液体肥料製造方法
(51)【国際特許分類】
C05G 5/20 20200101AFI20241003BHJP
B01D 61/42 20060101ALI20241003BHJP
B01D 65/06 20060101ALI20241003BHJP
C05C 11/00 20060101ALI20241003BHJP
C05F 17/993 20200101ALI20241003BHJP
【FI】
C05G5/20
B01D61/42
B01D65/06
C05C11/00
C05F17/993
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054513
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】596136316
【氏名又は名称】三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】523117340
【氏名又は名称】築上町
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【弁理士】
【氏名又は名称】君塚 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】長尾 衛
(72)【発明者】
【氏名】杉本 直也
(72)【発明者】
【氏名】太田 美加
(72)【発明者】
【氏名】矢部 光保
【テーマコード(参考)】
4D006
4H061
【Fターム(参考)】
4D006GA06
4D006GA17
4D006HA01
4D006HA41
4D006KA01
4D006KA31
4D006KA52
4D006KA55
4D006KA57
4D006KB22
4D006KC03
4D006KD11
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4D006PA01
4D006PB08
4D006PC80
4H061AA02
4H061AA03
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4H061BB02
4H061CC35
4H061DD20
4H061EE41
4H061FF02
4H061GG22
4H061GG41
4H061GG49
4H061GG54
4H061KK08
4H061KK09
(57)【要約】
【課題】電気透析部のイオン交換膜の洗浄時に発生する洗浄液を液体肥料の成分として利用することができる液体肥料製造装置及び液体肥料製造方法を提供することを主たる目的とする。
【解決手段】有機物の消化液を原料として、無機態窒素を含有する液体肥料を製造する液体肥料製造装置であって、被処理液を濃縮する電気透析部40と、電気透析部40のイオン交換膜を薬品洗浄する薬品洗浄機構43と、を有し、該イオン交換膜の閉塞時に、薬品洗浄機構43が硝酸を用いてイオン交換膜を薬品洗浄する、液体肥料製造装置。被処理液を濃縮する電気透析工程と、該電気透析工程のイオン交換膜の閉塞時に、硝酸を用いて該イオン交換膜を薬品洗浄する薬品洗浄工程とを有する、有機物の消化液を原料として、無機態窒素を含有する液体肥料を製造する液体肥料製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物の消化液を原料として、無機態窒素を含有する液体肥料を製造する液体肥料製造装置であって、
被処理液を濃縮する電気透析部と、
該電気透析部のイオン交換膜を薬品洗浄する薬品洗浄機構と、を有し、
該イオン交換膜の閉塞時に、該薬品洗浄機構が硝酸を用いてイオン交換膜を薬品洗浄する、液体肥料製造装置。
【請求項2】
前記薬品洗浄で発生した洗浄液を、前記電気透析部の前段に戻す機構を有する、請求項1に記載の液体肥料製造装置。
【請求項3】
前記薬品洗浄で発生した洗浄液を、前記電気透析部の電気透析濃縮液と配合する機構を有する、請求項1に記載の液体肥料製造装置。
【請求項4】
前記薬品洗浄で発生した洗浄液を、液体肥料の成分として利用する、請求項1~3のいずれか一項に記載の液体肥料製造装置。
【請求項5】
前記薬品洗浄で発生した洗浄液を、外部に排出しない、請求項1~3のいずれか一項に記載の液体肥料製造装置。
【請求項6】
有機物の消化液を原料として、無機態窒素を含有する液体肥料を製造する液体肥料製造方法であって、
下記工程(1)及び(2)を有する、液体肥料製造方法;
工程(1):被処理液を濃縮する電気透析工程、
工程(2):該電気透析工程のイオン交換膜の閉塞時に、硝酸を用いて該イオン交換膜を薬品洗浄する薬品洗浄工程。
【請求項7】
前記薬品洗浄工程で発生した洗浄液を、前記電気透析工程の前段に戻す工程を有する、請求項6に記載の液体肥料製造方法。
【請求項8】
前記薬品洗浄工程で発生した洗浄液を、前記電気透析工程の電気透析濃縮液と配合する工程を有する、請求項6に記載の液体肥料製造方法。
【請求項9】
前記薬品洗浄工程で発生した洗浄液を、液体肥料の成分として利用する、請求項6~8のいずれか一項に記載の液体肥料製造方法。
【請求項10】
前記薬品洗浄工程で発生した洗浄液を、外部に排出しない、請求項6~8のいずれか一項に記載の液体肥料製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体肥料製造装置及び液体肥料製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体肥料は穀物、野菜、果物、花卉等、様々な種類の植物の生育に有用である。液体肥料は無機態窒素を含有しており、無機態窒素は、(1)アンモニア態窒素、(2)硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素に大別される。
液体肥料の製造において肥料成分(窒素、リン酸、カリウム)を濃縮するために電気透析処理を行う工程がある場合、特に、有機物の消化液を原料として用いる液体肥料の製造において電気透析処理を行う工程がある場合、イオン交換膜付近で溶解度積以上の濃縮がかかると無機成分の析出が生じる。
例えば、消化液中にリン酸とカルシウムが含まれている場合、リン酸カルシウムが析出して、イオン交換膜を閉塞させる。
【0003】
イオン交換膜の閉塞時には、酸性薬剤を用いてイオン交換膜を洗浄することが一般的である。酸性薬剤としては、コスト的なメリットから塩酸を用いることが一般的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
イオン交換膜の洗浄に塩酸を用いることは従来から実施されてきた。
洗浄作業で発生する洗浄液は塩酸を含み、酸性であることから、そのまま公共用水域へ放流することができない。
放流するためには、pHの中和作業が必要であり、中和処理するために作業やコストが発生することは、液体肥料の生産性の向上を考えるうえで、不利になるという課題があった。
また、中和処理後に放流すると、洗浄液に含まれる肥料成分のリン酸も放流することになり、原料中に含まれる肥料成分の一部が液体肥料として利用されないという課題があった。
【0005】
本発明の主たる目的は、電気透析部のイオン交換膜の洗浄時に発生する洗浄液を液体肥料の成分として利用することができる液体肥料製造装置及び液体肥料製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題の解決について鋭意検討した結果、イオン交換膜の閉塞時に用いる酸性薬剤として硝酸を使用し、硝酸を含む洗浄液を液体肥料の成分として利用することで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明に至った。
【0007】
即ち、本発明は以下の特徴を有する。
[1]有機物の消化液を原料として、無機態窒素を含有する液体肥料を製造する液体肥料製造装置であって、
被処理液を濃縮する電気透析部と、
該電気透析部のイオン交換膜を薬品洗浄する薬品洗浄機構と、を有し、
該イオン交換膜の閉塞時に、該薬品洗浄機構が硝酸を用いてイオン交換膜を薬品洗浄する、液体肥料製造装置。
[2]前記薬品洗浄で発生した洗浄液を、前記電気透析部の前段に戻す機構を有する、[1]に記載の液体肥料製造装置。
[3]前記薬品洗浄で発生した洗浄液を、前記電気透析部の電気透析濃縮液と配合する機構を有する、[1]又は[2]に記載の液体肥料製造装置。
[4]前記薬品洗浄で発生した洗浄液を、液体肥料の成分として利用する、[1]~[3]のいずれかに記載の液体肥料製造装置。
[5]前記薬品洗浄で発生した洗浄液を、外部に排出しない、[1]~[3]のいずれかに記載の液体肥料製造装置。
[6]有機物の消化液を原料として、無機態窒素を含有する液体肥料を製造する液体肥料製造方法であって、
下記工程(1)及び(2)を有する、液体肥料製造方法;
工程(1):被処理液を濃縮する電気透析工程、
工程(2):該電気透析工程のイオン交換膜の閉塞時に、硝酸を用いて該イオン交換膜を薬品洗浄する薬品洗浄工程。
[7]前記薬品洗浄工程で発生した洗浄液を、前記電気透析工程の前段に戻す工程を有する、[6]に記載の液体肥料製造方法。
[8]前記薬品洗浄工程で発生した洗浄液を、前記電気透析工程の電気透析濃縮液と配合する工程を有する、[6]又は[7]に記載の液体肥料製造方法。
[9]前記薬品洗浄工程で発生した洗浄液を、液体肥料の成分として利用する、[6]~[8]のいずれかに記載の液体肥料製造方法。
[10]前記薬品洗浄工程で発生した洗浄液を、外部に排出しない、[6]~[8]のいずれかに記載の液体肥料製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造装置によれば、電気透析部のイオン交換膜の洗浄時に発生する洗浄液を液体肥料の成分として利用することができる。
本発明の製造方法によれば、電気透析部のイオン交換膜の洗浄時に発生する洗浄液の処理に煩わされることがなく、また、その洗浄液を液体肥料の成分として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の液体肥料製造装置の一形態例を示した図である。
【
図2】本発明の液体肥料製造装置の運転例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。以下の実施の形態は本発明を説明するための単なる例示であって、本発明をこの実施の形態にのみ限定することは意図されない。
本発明は、その趣旨を逸脱しない限り、様々な態様で実施することが可能である。また、使用する図面は実施の形態の一例を説明するためのものであり、実際の大きさを表すものではない。
【0011】
<液体肥料製造装置>
本発明の液体肥料製造装置は、有機物の消化液を原料として、無機態窒素を含有する液体肥料を製造する液体肥料製造装置であって、被処理液を濃縮する電気透析部と、電気透析部のイオン交換膜を薬品洗浄する薬品洗浄機構と、を有し、イオン交換膜の閉塞時に、該薬品洗浄機構が硝酸を用いてイオン交換膜を薬品洗浄する。
【0012】
本発明の液体肥料製造装置は、電気透析部と、薬品洗浄機構とを有し、後述する洗浄液を電気透析部の前段に戻す機構、又は、洗浄液を電気透析部の処理水と配合する機構を有することが好ましい。これらの他にも、一般的な液体肥料製造装置に付帯する設備を有することができる。
【0013】
図1では、本発明に関する設備として、電気透析部40、薬品洗浄機構43、洗浄液の第1の流路44、洗浄液の第2の流路45、洗浄液の第3の流路46を示している。
この他に、一般的な設備として、消化液タンク10、膜分離部20、処理水タンク30、第1の流路11、第2の流路21、第3の流路31等を示している。
【0014】
無機態窒素は、前述した通り、(1)アンモニア態窒素、(2)硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素に大別される。本発明の液体肥料は、前記無機態窒素を含有する液体肥料である。
ここで硝酸態窒素とは、硝酸又は硝酸塩を指す。
【0015】
<消化液>
本発明で用いる消化液は、有機物の消化液であり、し尿等の有機物を発酵処理した後の液である。
消化液としては、嫌気性発酵の消化液、好気性発酵の消化液が挙げられる。嫌気性発酵の消化液とは、空気を遮断した無酸素の状態下で発酵処理した液である。好気性発酵の消化液とは、空気で曝気した状態下での発酵処理液である。
【0016】
<被処理液>
電気透析部で処理される被処理液は、有機物の消化液を原料とするものであればよい。
有機物の消化液を直接、電気透析部で処理することも可能ではあるが、電気透析部の閉塞を避けるためにも、電気透析処理をする前に、前処理を実施することが好ましい。
前処理としては、例えば、砂濾過、沈降分離、精密濾過膜又は限外濾過膜等の膜を用いた膜分離、メンブレンバイオリアクターが挙げられる。
これらの中では、液体肥料が含有する無機態窒素の組成比を調節可能であることから、メンブレンバイオリアクターが好ましい。
【0017】
メンブレンバイオリアクターは、「膜分離活性汚泥法」とも称される。
メンブレンバイオリアクターは、処理水と活性汚泥の入った処理槽と、精密濾過膜又は限外濾過膜等の膜を用いるものである。
メンブレンバイオリアクターで、消化液を活性汚泥で処理することにより、好気性細菌による硝化が進行し、アンモニア態窒素が、硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素に変換される。処理後の消化液は前記膜で濾過され、前記膜を透過した分離液が電気透析部に送られる。
これ以降、「メンブレンバイオリアクター」を、「MBR」と称する場合もある。
【0018】
<電気透析部>
本発明の電気透析部は、膜分離部で濾過された分離液を濃縮する。電気透析部としては、公知の電気透析装置を用いればよい。
電気透析装置としては、例えば、AGCエンジニアリング社製のDW-1が挙げられる。
【0019】
電気透析装置とは、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を交互に、スペーサーを介して多数組積層し、その両端に1対の電極を配置し、陽極側の陰イオン交換膜と陰極側の陽イオン交換膜で仕切られたスペースである脱塩室(D室)と、それとは反対に陽極側の陽イオン交換膜と陰極側の陰イオン交換膜で仕切られたスペースである濃縮室(C室)が交互に配置されたものである。
D室に原液を供給すると陽イオンは陰極に向かって陽イオン交換膜を透過して陰極よりのC室に移動する。その際、C室の陰極側は陰イオン交換膜で仕切られているため、さらに隣のD室に移動することはできない。
同様に、陰イオンはD室から陽極側のC室に移動する。結果としてD室で脱塩され、C室で濃縮される。
【0020】
電気透析部では、処理対象である分離液を、電気透析濃縮液と、電気透析脱塩液に分ける。電気透析濃縮液は、処理前の分離液よりも塩濃度が高く、電気透析脱塩液は、処理前の分離液よりも塩濃度が低い。
【0021】
被処理液にリン酸成分とカルシウム成分が含まれる場合、これらの成分が電気透析の工程で反応してリン酸カルシウムを形成する。
例えば、被処理液中に、水溶性のリン酸塩と、水溶性のカルシウム塩を含む場合、電気透析の工程でリン酸イオンとカルシウムイオンが反応して、水に対して不溶性のリン酸カルシウムを形成する。このリン酸カルシウムがイオン交換膜に付着することで、イオン交換膜の閉塞が起こり得る。
このイオン交換膜に付着したリン酸カルシウムを除去するため、酸性薬剤でイオン交換膜を洗浄することが一般的であり、従来はコスト的なメリットから塩酸が用いられてきた。
【0022】
<薬品洗浄機構>
本発明の薬品洗浄機構は、電気透析部のイオン交換膜を薬品洗浄する機構であり、イオン交換膜の閉塞時に、硝酸を用いてイオン交換膜を薬品洗浄する機構である。
薬品洗浄機構は、イオン交換膜の閉塞を検知し、イオン交換膜の閉塞時に必要量の硝酸を供給できるものであればよく、自動の洗浄機構でも、手動の洗浄機構でもよい。
薬品洗浄機構は、硝酸に耐性があることが必要であるが、それ以外の点では、公知の機構を用いればよい。
【0023】
<硝酸>
薬品洗浄機構で用いる硝酸は、特に限定されるものではなく、市販の硝酸であればよい。
硝酸の純度は、特に限定されるものではない。
硝酸の濃度も、特に限定されるものではないが、イオン交換膜を含む電気透析部に使用されている部材の耐薬品性と、電気透析部の接液部の洗浄効果の点から、0.5~5質量%であることが好ましい。
【0024】
<洗浄液>
本発明で得られる洗浄液は、電気透析部のイオン交換膜を硝酸で洗浄したものであり、その成分としては、イオン交換膜の閉塞物であったリン酸カルシウムが溶解して生じたリン酸イオンとカルシウムイオン、そして硝酸イオンを含む。硝酸を用いていることから、洗浄液は、酸性を示す。
なお、ここではイオン交換膜の閉塞物をリン酸カルシウムとしているが、閉塞物はリン酸カルシウムに限定されるものではない。消化液に含まれる成分により、リン酸マグネシウムや炭酸カルシウム等が閉塞物となる場合もあり、洗浄液に含まれる成分は様々である。
【0025】
硝酸イオンは、液体肥料が含有する無機態窒素の1つである硝酸態窒素であり、リン酸イオンは、肥料成分として有用なリン成分であることから、本発明で得られる洗浄液は、液体肥料として有用な成分を含んでいる。このため、この洗浄液も液体肥料として利用できる。
従来の塩酸を用いた洗浄液は、塩素イオンを含むことから肥料としては不適切であり、液体肥料として利用することは困難であった。
本発明の洗浄液を液体肥料として利用するには、洗浄液を電気透析部の前段に戻す場合と、洗浄液を電気透析部の電気透析濃縮液と配合する場合がある。
【0026】
洗浄液を電気透析部の前段に戻す場合としては、例えば、
図1に示す消化液タンク10に戻す場合、膜分離部20に戻す場合、処理水タンク30に戻す場合が挙げられる。
なお、洗浄液を戻す場所は限定されるものではなく、電気透析部の前段であればよい。
【0027】
洗浄液を膜分離部20に戻す場合、
図1に示す洗浄液の第1の流路44に代表される、洗浄液を膜分離部20に戻す機構を設ければよい。
洗浄液を膜分離部20に戻す場合、洗浄液が酸性であることから、膜分離部の処理に影響を与える可能性がある。
例えば、膜分離部がMBRである場合、酸性の洗浄液を戻すことでMBRでの消化液の処理pHが変動し、MBRでの硝化の進行に影響を与える可能性がある。反対に、MBRの消化液のpHが高い(アルカリ性)場合には、酸性の洗浄液をpH調節剤として用いることができる。
【0028】
洗浄液を処理水タンク30に戻す場合、
図1に示す洗浄液の第2の流路45に代表される、洗浄液を処理水タンク30に戻す機構を設ければよい。
洗浄液を処理水タンク30に戻す場合、洗浄液が酸性であることの影響を受けない設計をしておくことが好ましい。例えば、処理水タンクの容量を大きくすること、処理水タンク内のpHを監視して洗浄液を戻すタイミングを制御すること、が挙げられる。
洗浄液を処理水タンクに戻した後は、特段の処理を必要とせず、そのまま電気透析部に送り、電気透析処理をすればよい。
【0029】
洗浄液を電気透析部の電気透析濃縮液と配合する場合、
図1に示す洗浄液の第3の流路46に代表される、洗浄液を電気透析濃縮液と配合する機構を設ければよい。
洗浄液を電気透析濃縮液と配合する場合、洗浄液が酸性であることから、得られる液体肥料のpHが変動する可能性はあるが、電気透析濃縮液のpH変動の影響は小さいため、新たに電気透析濃縮液のpHを調整する必要はない。
【0030】
本発明の洗浄液を液体肥料として利用するには、洗浄液が酸性であることの影響を受けず、特段の処理を必要としないことから、洗浄液を処理水タンク30に戻すことが好ましい。
上述の通り、本発明の液体肥料製造装置は、薬品洗浄で発生した洗浄液を、液体肥料の成分として利用することを特徴とする。
また、本発明の液体肥料製造装置は、薬品洗浄で発生した洗浄液を、外部に排出しないことを特徴とする。
【0031】
<液体肥料製造方法>
本発明の液体肥料製造方法は、有機物の消化液を原料として、無機態窒素を含有する液体肥料を製造する液体肥料製造方法であって、下記工程(1)及び(2)を有する;
工程(1):被処理液を濃縮する電気透析工程、
工程(2):該電気透析工程のイオン交換膜の閉塞時に、硝酸を用いて該イオン交換膜を薬品洗浄する薬品洗浄工程。
【0032】
<工程(1)>
工程(1)は、被処理液を濃縮する電気透析工程であり、その主旨は、液体肥料製造装置の項目で説明した「電気透析部」と同様である。
一方、工程(1)においては、電気透析部ではなく、電気透析工程としていることからも明らかなように、電気透析部という特定の設備を指すものではなく、電気透析する操作、電気透析する行為も含めて、電気透析工程とする。
【0033】
<工程(2)>
工程(2)は、電気透析工程のイオン交換膜の閉塞時に、硝酸を用いて該イオン交換膜を薬品洗浄する薬品洗浄工程であり、その主旨は、液体肥料製造装置の項目で説明した「薬品洗浄機構」と同様である。
一方、工程(2)においては、薬品洗浄機構ではなく、薬品洗浄工程としていることからも明らかなように、薬品洗浄機構という特定の設備を指すものではなく、薬品洗浄する操作、薬品洗浄する行為も含めて、薬品洗浄工程とする。
【0034】
<洗浄液を電気透析工程の前段に戻す工程>
洗浄液を電気透析工程の前段に戻す工程の主旨は、液体肥料製造装置の項目で説明した内容と同様である。
一方、液体肥料製造方法の発明においては、「工程」としていることからも明らかなように、洗浄液を電気透析部の前段に戻す特定の設備を指すものではなく、洗浄液を電気透析工程の前段に戻す操作、洗浄液を電気透析工程の前段に戻す行為も含めて、洗浄液を電気透析工程の前段に戻す工程とする。
【0035】
<洗浄液を電気透析工程の電気透析濃縮液と配合する工程>
洗浄液を電気透析濃縮液と配合する工程の主旨は、液体肥料製造装置の項目で説明した内容と同様である。
一方、液体肥料製造方法の発明においては、「工程」としていることからも明らかなように、洗浄液を電気透析濃縮液と配合する特定の設備を指すものではなく、洗浄液を電気透析濃縮液と配合する操作、洗浄液を電気透析濃縮液と配合する行為も含めて、洗浄液を電気透析濃縮液と配合する工程とする。
【0036】
上述の通り、本発明の液体肥料製造方法は、薬品洗浄で発生した洗浄液を、液体肥料の成分として利用することを特徴とする。
また、本発明の液体肥料製造方法は、薬品洗浄で発生した洗浄液を、外部に排出しないことを特徴とする。
【0037】
<液体肥料>
本発明の液体肥料は、本発明の液体肥料製造装置、又は、液体肥料製造方法で得られるものであり、無機態窒素を含有する。
液体肥料は、前記無機態窒素以外に、肥料として一般的な添加剤を後から配合してもよい。
【0038】
<用途>
本発明における液体肥料は、一般的な肥料として使用可能であるが、特に、植物の生育条件や植物の種類に応じた、土耕及び水耕栽培における元肥、追肥として好適に用いられる。
【実施例0039】
以下に実施例を示し、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例においては、下記の方法により各種物性を測定した。
【0040】
[評価方法]
(1)電気伝導度
堀場製作所社製「HE-480H」を使用し、電気伝導度を測定した。
【0041】
[実施例]
原水として、有機物の消化液を用いた。この消化液は、し尿由来の好気発酵消化液である。
膜分離部として、三菱ケミカル社製の限外濾過膜(膜素材:ポリフッ化ビニリデン、公称孔径0.05μm、膜形状:中空糸)を備えた、容積2m3の水槽を用いた。
消化液を水槽に投入し、限外濾過膜を消化液に浸漬させた。この状態で、連続で吸引濾過をして、限外濾過膜で濾過された分離液と、濾過されなかった汚泥を含む分散液に分けた。
得られた分離液の電気伝導度は7mS/cmであった。分離液の電気伝導度は、液体肥料の有用成分である窒素、リン酸、カリウム等の溶解成分の濃度に比例する。
得られた分離液を処理水タンクに貯槽した。
【0042】
分離液を被処理水とし、AGCエンジニアリング社製の電気透析装置「DW-1型」(カチオンイオン交換膜:CMVN、アニオンイオン交換膜:AMVN)で処理した。電気透析電圧は13~15Vとし、電気透析濃縮液と電気透析脱塩液に分けた。
電気透析脱塩液は、1.1m3/hの流量で処理水タンクに戻し、循環運転とした。
【0043】
図2に示すように、2022年の6月8日に電気透析の連続運転を開始した。このときの電気透析電圧は15Vである。
連続運転を継続することで、電気伝導度から算出した濃縮倍率(EC濃縮倍率)が低下する傾向が見られた。この濃縮倍率の低下は、電気透析装置のイオン交換膜の閉塞によるものである。イオン交換膜の閉塞時には、電気透析濃縮液側に液が流出せず、濃縮率は低下する。
【0044】
電気透析濃縮液の電気伝導度が46.1mS/cmまで低下し、EC濃縮倍率が6.6倍となったところで、電気透析装置の運転を停止した。
濃度1.5質量%の硝酸水溶液50Lを用意し、電気透析装置の濃縮液側の出口と、電気透析装置の入口の循環運転とすることで、イオン交換膜を薬品洗浄した。
その後、水洗、濃度1質量%のNaOH水溶液での洗浄、水洗を経て、電圧13Vで電気透析の連続運転を再開した。再開時の電気透析濃縮液の電気伝導度は81.6mS/cm、EC濃縮倍率は11.7倍まで回復しており、硝酸洗浄によってイオン交換膜の閉塞が解消したことを確認した。詳細は表1及び
図2に示す。
【0045】
【0046】
連続運転を継続し、8月24日には濃度2質量%の硝酸水溶液を用いてイオン交換膜を薬品洗浄した。9月26日には濃度1質量%の硝酸水溶液を用いてイオン交換膜を薬品洗浄した。いずれの場合も薬品洗浄後の運転再開でEC濃縮倍率は回復しており、各種濃度の硝酸洗浄によってイオン交換膜の閉塞が解消したことを確認した。
【0047】
さらに連続運転を継続し、11月14日には濃度3質量%の塩酸水溶液を用いてイオン交換膜を薬品洗浄した。薬品洗浄後の運転再開でEC濃縮倍率は回復した。この回復の程度は、硝酸洗浄と塩酸洗浄で差が見られなかったことから、硝酸を用いた場合であっても、従来の塩酸を用いる場合と同様に、イオン交換膜の閉塞を解消できることを確認した。
また、硝酸を用いてイオン交換膜を洗浄した場合、洗浄液には液体肥料として有用な成分が含まれることから、洗浄液を液体肥料として利用できることを確認した。