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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024142408
(43)【公開日】2024-10-11
(54)【発明の名称】電動飛行体
(51)【国際特許分類】
   B64D 25/00 20060101AFI20241003BHJP
   B64U 10/13 20230101ALI20241003BHJP
   B64U 50/19 20230101ALI20241003BHJP
   B64U 50/18 20230101ALI20241003BHJP
   B64U 50/23 20230101ALI20241003BHJP
   B64U 30/26 20230101ALI20241003BHJP
【FI】
B64D25/00
B64U10/13
B64U50/19
B64U50/18
B64U50/23
B64U30/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023054541
(22)【出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】山下 知志
(72)【発明者】
【氏名】桑村 祥弘
(72)【発明者】
【氏名】森崎 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】長谷 卓
(72)【発明者】
【氏名】仲谷 雄一
(72)【発明者】
【氏名】小田 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】岩谷 淳二
(57)【要約】
【課題】異常発生時に機体の姿勢をさらに精緻にコントロールすることが可能な電動飛行体を提供する。
【解決手段】電動飛行体は、機体と、平面視で機体の重心を挟むようにして一対ずつ設けられた複数の推進器と、推進器の動作を制御する制御部と、を備え、推進器は、軸線回りに回転可能なファンと、ファンを回転駆動する電動機と、ファンを外周側から覆うダクトと、ダクトの内周側で、ダクトが生成する気流を転向させる転向部と、転向部の姿勢を制御する転向駆動部と、を有し、制御部は、複数の推進器のうちのいずれか1つが異常により停止した場合に、停止した推進器に対して重心を挟んで反対側に位置する推進器を異常対応モードに切り替える。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体と、
平面視で該機体の重心を挟むようにして一対ずつ設けられた複数の推進器と、
該推進器の動作を制御する制御部と、
を備え、
前記推進器は、
軸線回りに回転可能なファンと、
該ファンを回転駆動する電動機と、
前記ファンを外周側から覆うダクトと、
該ダクトの内周側で、該ダクトが生成する気流を転向させる転向部と、
該転向部の姿勢を制御する転向駆動部と、
を有し、
前記制御部は、
前記複数の推進器のうちのいずれか1つが異常により停止した場合に、該停止した推進器に対して前記重心を挟んで反対側に位置する前記推進器を異常対応モードに切り替える電動飛行体。
【請求項2】
前記異常対応モードでは、前記反対側に位置する前記推進器を停止させる請求項1に記載の電動飛行体。
【請求項3】
前記制御部は、前記異常対応モードにおいて停止した少なくとも一対の前記推進器以外の前記推進器の前記転向部を動作させることによって、前記機体の進行方向をロール軸とするローリング角度を調節する請求項2に記載の電動飛行体。
【請求項4】
前記制御部は、前記異常対応モードにおいて停止した少なくとも一対の前記推進器以外の前記推進器の前記転向部を動作させることによって、前記機体の重心を通るヨー軸とするヨーイング角度を調節する請求項2又は3に記載の電動飛行体。
【請求項5】
前記制御部は、前記異常対応モードにおいて停止した少なくとも一対の前記推進器以外の前記推進器の回転数を変化させることによって、前記機体の進行方向に直交する水平方向をピッチ軸とするピッチング角度を調節する請求項2又は3のいずれか一項に記載の電動飛行体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動飛行体に関する。
【背景技術】
【0002】
ドローンやマルチコプターに代表される電動飛行体の活用が近年進められている(例えば下記特許文献1)。電動飛行体は、機体と、機体に設けられた複数の推進器と、を主に備えている。推進器は、回転数の制御が可能である。複数の推進器のうちの1つが異常により停止した際には、残余の推進器の回転数を制御することで、機体の姿勢をコントロールすることが一般的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2018-529571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のように回転数の制御のみによって機体の姿勢をコントロールする場合、ピッチング角度の調節は可能である一方で、ローリングやヨーイングの角度を精緻に調節することが難しいという課題があった。
【0005】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、異常発生時に機体の姿勢をさらに精緻にコントロールすることが可能な電動飛行体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示に係る電動飛行体は、機体と、平面視で該機体の重心を挟むようにして一対ずつ設けられた複数の推進器と、該推進器の動作を制御する制御部と、を備え、前記推進器は、軸線回りに回転可能なファンと、該ファンを回転駆動する電動機と、前記ファンを外周側から覆うダクトと、該ダクトの内周側で、該ダクトが生成する気流を転向させる転向部と、該転向部の姿勢を制御する転向駆動部と、を有し、前記制御部は、前記複数の推進器のうちのいずれか1つが異常により停止した場合に、該停止した推進器に対して前記重心を挟んで反対側に位置する前記推進器を異常対応モードに切り替える。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、異常発生時に機体の姿勢をさらに精緻にコントロールすることが可能な電動飛行体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の実施形態に係る電動飛行体の構成を示す平面図である。
図2】本開示の実施形態に係る推進器の構成を示す断面模式図である。
図3】本開示の実施形態に係る制御部の構成を示す機能ブロック図である。
図4】本開示の実施形態に係る制御部が機体を水平移動させる際の制御フローを示すフローチャートである。
図5】機体を水平移動させる際の転向部の動作と推力方向を示す説明図であって、機体を上方から見た図である。
図6】機体を水平移動させる際の転向部の動作と推力方向、及び推力の大きさの関係を示す説明図であって、機体を水平方向から見た図である。
図7】機体をヨー軸回りに回転させる際の転向部の動作と推力方向を示す説明図である。
図8】本開示の実施形態に係る制御部が推進器の異常発生時に実行する制御フローを示すフローチャートである。
図9】異常発生時における推進器の動作状態を示す説明図である。
図10】本開示の実施形態に係る電動飛行体の第一変形例を示す平面図である。
図11】本開示の実施形態に係る電動飛行体の第二変形例を示す平面図である。
図12】本開示の実施形態に係る転向部の変形例を示す模式図である。
図13】本開示の実施形態に係る制御部のハードウェア構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態に係る電動飛行体1について、図1から図7を参照して説明する。本実施形態に係る電動飛行体1は、2地点間における物品の搬送等に加えて、低所から高所にかけての資材の上昇や降下等に用いられることが想定されている。
【0010】
(電動飛行体1の構成)
図1に示すように、電動飛行体1は、機体10と、推進器20と、制御部30と、を備える。機体10は、バッテリーやGPSセンサー、送受信装置等の各種機器を収容している。詳しくは図示しないが、機体10には物品や貨物を搭載するためのスペースが形成されていてもよい。図1の例では、一例として機体10は平面視で矩形状をなしている。機体10の4つの角部には、それぞれ推進器20が1つずつ配置されている。つまり、推進器20は、矩形をなす機体10の幾何的な重心位置Gを挟んで対角線上に一対ずつ、計4つ設けられている。
【0011】
(推進器20の構成)
推進器20は、機体10の上昇下降や水平移動、ヨーイングの際の推力を発生させるための装置である。図2に示すように、推進器20は、電動機21と、ファン22と、ダクト23と、転向部24と、転向駆動部25と、を有する。
【0012】
電動機21は、電動機本体41と、出力軸42と、を有する。電動機本体41は、ステータ、及びロータコアを収容している。ロータコアには出力軸42が一体に接続されている。出力軸42は、軸線Xに沿って延びるとともに当該軸線X回りに回転可能である。出力軸42の軸端にはファン22が取り付けられている。ファン22は、スピナー51と、ブレード52と、を有する。スピナー51は、軸線Xを中心とする円盤状をなしている。なお、スピナー51は、軸線X方向に突出する尖頭状をなしていてもよい。スピナー51は、出力軸42と一体となって軸線X回りに回転する。
【0013】
ブレード52は、スピナー51の外周面から径方向に延びるとともに、周方向に間隔をあけて複数設けられている。図1、及び図2の例では、ブレード52が2枚設けられている。なお、ブレード52の数は2枚に限定されず、3枚以上であってもよい。ブレード52は、径方向から見て翼型の断面形状を有する。ブレード52がスピナー51とともに軸線X回りに回転することで、軸線X方向一方側から他方側に向かう空気の流れが発生する。この空気の流れの圧力(動圧)が機体10を上昇等させるための推力となる。以下の説明では、気流の流れ方向において、気流の流れ去る側を「下流側」と呼び、その反対側を「上流側」と呼ぶことがある。
【0014】
図2に示すように、ダクト23は、上記の電動機21、及びファン22を外周側から覆う筒状をなしている。つまり、ダクト23は軸線Xを中心とする筒状をなしている。ダクト23の内側の空間は、ブレード52が発生させた気流が通過する流路となっている。ダクト23は、ステー60によって電動機本体41に接続されている。ステー60は径方向に延びるとともに周方向に間隔をあけて複数設けられている。この他、電動機本体41を内筒に収容し、当該内筒とダクト23との間にステー60をかけ渡すことでダクト23が支持されていてもよい。
【0015】
転向部24は、ダクト23から流れ出る気流を転向させて推力方向を変化させるための装置である。転向部24は、ダクト23の内周面から径方向内側に向かって突出するとともに、当該径方向に延びる回動軸Y回りに回動可能とされている。転向部24は、回動軸Yから下流側に向かって広がる板状のフラップ24aによって形成されている。図1に示すように、転向部24は、周方向に90°の間隔をあけて4つ設けられている。それぞれの転向部24には転向駆動部25が接続されている。図2に示すように、転向駆動部25は転向部24を回動軸Y回りに回動させるアクチュエータである。転向駆動部25は、後述する制御部30に電気的に接続されており、当該制御部30から送られた電気信号に基づいて駆動状態がコントロールされる。それぞれの転向部24は、互いに独立して制御されるように構成されている。
【0016】
図3に示すように、制御部30は、移動方向受付部31と、駆動信号生成部32と、回転数調節部33と、記憶部34と、姿勢判定部35と、を有する。移動方向受付部31は、例えば遠隔操作によって操縦者が入力した信号に基づいて、機体10を移動させる方向を取得する。以下の説明では、機体10の移動する方向を単に「移動方向D」と呼ぶ。移動方向Dは、水平面内における任意の方向である。
【0017】
駆動信号生成部32は、移動方向受付部31が受け付けた移動方向Dに基づいて、転向部24を駆動するための信号を転向駆動部25に送信する。つまり、移動方向Dに応じて、どの転向部24をどの方向にどれだけ回動させるかが決定される。
【0018】
回転数調節部33は、移動方向Dに基づいて各推進器20の回転数を調節する。回転数調節部33の動作の詳細については後述する。記憶部34は、各種の情報を電気信号として格納している。記憶部34には、例えば移動方向D、移動速度と、転向部24の回動角度、推進器20の回転数との関係などが予め格納されている。姿勢判定部35は、不図示のジャイロセンサー等から入力された機体10の姿勢に関する情報に基づいて、姿勢が正常な状態にあるか否かや、機体10の高度が定められた値を維持しているか否かを判定する。
【0019】
(正常時の動作について)
次いで、図4から図6を参照して、電動飛行体1が移動方向Dに水平移動する際の各装置の挙動について説明する。図4に示すように、移動方向Dが操縦者によって入力されると、ステップS1で、移動方向受付部31が当該移動方向Dについての情報を受け付ける。その後、ステップS2で、移動方向Dに応じて転向部24を駆動させる。具体的には、移動方向受付部31から移動方向Dに関する信号を受信した駆動信号生成部32が、転向駆動部25に所定の電気信号を送信する。これにより、転向部24が所定の方向に所定の角度だけ回動する。すると、ダクト23から流れ出る気流の方向(推力方向)が変化する。これにより、機体10には移動方向Dの反対側に向かう気流の反力としての推力が与えられる(図5参照)。
【0020】
この時、図6に示すように、移動方向Dに直交する水平方向から見た場合、機体10には、当該方向を軸とするピッチングモーメントMが発生する。具体的には、例えば図6のように機体10を紙面左方に向かって移動させる際、機体10には時計回りのピッチングモーメントMが生じる。このピッチングモーメントMが大きくなると、機体10が時計回りに傾いてしまう。そこで、回転数調節部33が、推進器20の回転数を調節することで、ピッチングモーメントMを相殺するための反モーメントM´を発生させる(ステップS3)。複数の推進器20を、機体10の重心を挟んで移動方向Dの一方側(移動していく側:前方側)に位置する推進器20と、他方側(後方側)に位置する推進器20とに分けて考えた場合、回転数調節部33は、移動方向D一方側に位置する推進器20の回転数を、他方側の推進器20の回転数よりも高くなるように調節する。つまり、図6中の矢印の長さの差異によって推進器20から流出する流体の運動量の差を示すように、当該一方側の推進器20による推力が他方側の推進器20による推力よりも大きくなる。すると、反時計回りの反モーメントM´が発生する。これにより、上述のピッチングモーメントMが相殺される。したがって、機体10は傾くことなく、つまりピッチングを伴わずに移動方向D一方側に向かって移動する。
【0021】
さらに、移動方向Dへの水平移動に限らず、転向部24を動作させることによって機体10をヨーイングさせることも可能である。ヨーイングとは、機体10の重心を通るヨー軸回りに当該機体10を回動させる動作を指す。図7に示すように、ヨーイングをさせる際には、それぞれの推進器20の転向部24を同一の方向に同角度だけ回動させることで、軸線Xの周方向に推力を発生させる。つまり、それぞれの推進器20では、周方向一方側から他方側に向かって推力が発生する。これにより、電動飛行体1全体に、ヨー軸回りに周方向一方側から他方側に向かうモーメントが発生してヨーイング動作が行われる。以上のような水平移動、及びヨーイング動作を適宜組み合わせることで、電動飛行体1の移動や姿勢のコントールが行われる。
【0022】
(異常発生時の動作について)
次いで、図8図9を参照して、推進器20の1つに異常が発生した場合の動作について説明する。ここで言う「異常」とは、推進器20の電動機21が駆動しなくなる状態や、転向部24が動作しなくなる状態、又はファン22が損傷して推力が発生しなくなる状態を指す。このような異常が4つの推進器20のうちの1つで発生した場合、制御部30は、図8に示す制御フローを実行する。
【0023】
まず、異常が発生した推進器20を停止させる(ステップS11)。この状態では、残余の3つの推進器20のみによって飛行を継続することとなる。次に、ステップS11で停止させた推進器20に対して機体10の重心位置Gを挟んで反対側(つまり、対角線上)にある他の推進器20を異常動作モードに切り替える(ステップS12)。ここで言う「異常動作モード」とは、当該推進器20を完全に停止させる措置や、残存している機能を利用して最低限の推力の発生や推力方向のコントロールを行う状態を指す。この動作は、上述した駆動信号生成部32、及び回転数調節部33によって行われる。これにより、4つの推進器20のうち、2つの推進器20が停止し、残余の2つの推進器20のみによって飛行を継続する状態となる。この状態で、姿勢判定部35はピッチング角度が正常か否かを判定する(ステップS13)。ピッチング角度が正常でないと判定された場合(ステップS13:No)、回転数調節部33が残余の2つの推進器20の回転数を調節することで、ピッチング角度の是正を行う(ステップS14)。なお、ここで言うピッチング角度とは、残余の2つの推進器20を結ぶ直線に直交する方向を軸とする機体10の角度である。ピッチング角度が正常となった場合(ステップS13:Yes)、後続のステップS15に遷移する。
【0024】
ステップS15では、姿勢判定部35は推力が正常か否かを判定する。具体的には、所定の高度を維持できるだけの推力が得られているか否かが判定される。ステップS15でNoと判定された場合、ステップS16で回転数調節部33が残余の2つの推進器20の回転数を調節して、所定の高度を得られるだけの推力を発生させる。ステップS15でYesと判定された場合には後続のステップS17に遷移する。ステップS17では、姿勢判定部35がローリング角度、及びヨーイング角度が正常か否かを判定する。ローリング角度とは、残余の2つの推進器20を結ぶ直線方向を軸とする機体10の角度である。ヨーイング角度とは、機体10の重心位置Gを通る上下方向の直線を軸とする機体10の回動角度である。これらローリング角度、及びヨーイング角度は推進器20の回転数調節のみでは是正・調節できない。そのため、ステップS17でNoと判定された場合には、駆動信号生成部32が転向部24を動作させることで、残余の2つの推進器20の推力方向を適宜調節する(ステップS18)。ステップS17でYesと判定された場合には、着陸のための動作に入る(ステップS19)。以上により、推進器20に異常が発生した場合の制御フローが完了する。
【0025】
(作用効果)
ここで、従来の電動飛行体1では、複数の推進器20のうちの1つが異常により停止した際には、残余の推進器20の回転数を制御することで、機体10の姿勢をコントロールすることが一般的であった。しかしながら、上記のように回転数の制御のみによって機体10の姿勢をコントロールする場合、ピッチング角度の調節は可能である一方で、ローリングやヨーイングの角度を精緻に調節することが難しい。そのため、異常発生時の機体10のコントロールが困難となり、後の着陸動作を行う際に影響が及んでしまうという課題があった。そこで、本実施形態に係る電動飛行体1は、上述の各構成を採用している。
【0026】
上記構成によれば、1つの推進器20に異常が発生して停止した場合には、停止した推進器20に対して機体10の重心を挟んで反対側に位置する他の推進器20が異常対応モードに切り替えられる。これにより、1つの推進器20を停止したことによる推力のアンバランス等が解消されるため、異常発生時であっても機体10のバランスや姿勢を大きく損なうことなく、着陸等の次の動作に移ることが可能となる。特に、上記実施形態のように4つの推進器20を備える電動飛行体1では、1つの推進器20が停止し、3つの推進器20を同様に駆動すると、推力の大きさや推力方向のアンバランスが顕著に生じてしまい、機体10のコントロールに影響が及んでしまう。しかしながら、上記構成によれば、このような可能性を低減し、機体10を安定的にコントロールすることが可能となる。
【0027】
また、上記構成によれば、1つの推進器20に異常が発生して停止した場合には、停止した推進器20に対して機体10の重心を挟んで反対側に位置する他の推進器20も停止させる。これにより、1つの推進器20を停止したことによる推力のアンバランス等が解消されるため、異常発生時であっても機体10のバランスや姿勢を大きく損なうことなく、着陸等の次の動作に移ることが可能となる。特に、上記実施形態のように4つの推進器20を備える電動飛行体1では、1つの推進器20が停止し、3つの推進器20を同様に駆動すると、推力の大きさや推力方向のアンバランスが顕著に生じてしまい、機体10のコントロールに影響が及んでしまう。しかしながら、上記構成によれば、異常が発生した推進器20に加えてさらに他の1つの推進器20も停止させることで、このような可能性を低減し、機体10を安定的にコントロールすることが可能となる。
【0028】
さらに、上記構成によれば、異常が発生して停止した推進器20以外の残余の推進器20の転向部24を動作させることでローリング角度を調節する。これにより、異常発生の際に生じたローリング角度の過不足による機体10の姿勢の乱れやアンバランスが是正され、正常な状態に近づけることが可能となる。したがって、異常発生時であっても機体10のバランスや姿勢を大きく損なうことなく、着陸等の次の動作に移ることが可能となる。特に、転向部24を備えていることによって、正常に動作可能な残余の推進器20のみでも、ローリング角度のコントロールが可能となっている。これにより、電動飛行体1のロバスト性が向上し、異常が発生した場合であっても墜落によって地上に被害をもたらすリスクを大きく低減することが可能となる。
【0029】
上記構成によれば、異常が発生して停止した推進器20以外の残余の推進器20の転向部24を動作させることでヨーイング角度を調節する。これにより、異常発生の際に生じたヨーイング角度の過不足による機体10の姿勢の乱れやアンバランスが是正され、正常な状態に近づけることが可能となる。したがって、異常発生時であっても機体10のバランスや姿勢を大きく損なうことなく、着陸等の次の動作に移ることが可能となる。特に、転向部24を備えていることによって、正常に動作可能な残余の推進器20のみでも、ヨーイング角度のコントロールが可能となっている。これにより、電動飛行体1のロバスト性が向上し、、異常が発生した場合であっても墜落によって地上に被害をもたらすリスクを大きく低減することが可能となる。
【0030】
加えて、上記構成によれば、異常が発生して停止した推進器20以外の残余の推進器20の回転数を調節することでピッチング角度を調節する。これにより、異常発生の際に生じたピッチング角度の過不足による機体10の姿勢の乱れやアンバランスが是正され、正常な状態に近づけることが可能となる。したがって、異常発生時であっても機体10のバランスや姿勢を大きく損なうことなく、着陸等の次の動作に移ることが可能となる。
【0031】
<その他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0032】
例えば、上記実施形態では、一つの推進器20が複数(4つ)の転向部24、及び転向駆動部25を有する構成について説明した。しかしながら、転向部24、及び転向駆動部25の数はこれに限定されず、第一変形例として図10に示す構成を採ることが可能である。同図の例では、各推進器20が1つのみの転向部24、及び転向駆動部25を有している。また、機体10には、上記実施形態よりも多い8つの推進器20が設けられている。それぞれの推進器20における転向部24の回動軸Yは、機体10の重心を中心として放射状に延びている。つまり、8つの異なる方向に推力方向を変化させることが可能とされている。この構成によれば、上述したものと同様の作用効果を奏することに加えて、各推進器20の可動部の数を減らすことができる。したがって、製造コストやメンテナンスコストを大きく削減することができる。
【0033】
また、図11に第二変形例として示すように、電動飛行体1が、転向部24を有する推進器20と、転向部24を有さない他の推進器120と、を備える構成を採ることも可能である。推進器120は、転向部24以外の構成、つまり、電動機21、ファン22、及びダクト23を有する。この構成によっても上述したものと同様の作用効果を得ることができる。
【0034】
加えて、転向部24の変形例として図12に示す構成を採ることも可能である。同図の例では、転向部24は、ダクト23から気流の下流側に向かって延びるとともに、出口の向きを自在に変更可能なノズル24bを有する。ノズル24bは、管状をなしており、その内部には気流が流通する流路が形成されている。この構成によっても上述したものと同様の作用効果を得ることができる。また、ノズル24bが弾性変形可能な材料で形成されていてもよい。この場合も、出口側端部の延びる方向をアクチュエータによって変化させることで、所望の方向への気流を発生させることができる。
【0035】
さらに、上記実施形態で説明した機体10の形状は一例であって、設計や仕様に応じて適宜選択された任意の形状、寸法体格を採用することが可能である。機体10の形状や寸法体格が変わっても、上記実施形態で説明した構成、及び制御フローは適用可能である。また、推進器20の数も、機体10の形状、寸法体格、及び重量等に応じて適宜決定されてよい。
【0036】
また、上記実施形態で説明した推進器20自体の構成も一例であって、ファン22の下流側に静翼をさらに有する構成を採ることが可能である。静翼は、ファン22が圧送した空気の流れを整流するために設けられる。この構成であっても、上述したものと同様の作用効果を得ることができる。また、ブレード52の枚数や形状も設計や仕様に応じて適宜決定されてよい。さらに、ブレード52のピッチが可変であってもよい。
【0037】
また、制御部30では、移動方向受付部31が移動方向Dの入力を受け付けた後、駆動信号生成部32による駆動信号の生成と、回転数調節部33による回転数の調節は、自律的に行われることが望ましい。言い換えると、ユーザーは、移動方向Dさえ入力すれば、その後の処理は制御部30によって自律的に行われることが望ましい。同様に、移動方向Dの入力を受け付けた後、駆動信号生成部32、及び回転数調節部33によって、ヨーイングを自動で行うように構成されていてもよい。
【0038】
上述の機体10は、人員が搭乗可能であってもよい。その場合、機体10には操縦装置や航法装置が搭載されていることが望ましい。
【0039】
また、移動方向Dにおける加速度の入力に基づいて、転向部24の回動速度を変化させるように構成されていてもよい。これにより、入力された移動方向Dへの加速度に則って機体10の精緻なコントロールが可能となる。
【0040】
なお、本開示の実施形態における制御部30の処理は、適切な処理が行われる範囲において、処理の順番が入れ替わってもよい。
【0041】
本開示の実施形態における記憶部34、その他の記憶装置のそれぞれは、適切な情報の送受信が行われる範囲においてどこに備えられていてもよい。また、記憶部34、その他の記憶装置のそれぞれは、適切な情報の送受信が行われる範囲において複数存在しデータを分散して記憶していてもよい。
【0042】
上述した制御部30による処理の過程は、プログラムの形式でコンピュータ200が読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータ200が読み出して実行することによって、上記処理が行われる。コンピュータ200の具体例を以下に示す。
【0043】
図13に示すように、コンピュータ200は、CPU201と、メインメモリ202と、ストレージ203と、インターフェース204と、を備える。
例えば、上述の制御部30はコンピュータ200に実装される。そして、上述した各処理部の動作は、プログラムの形式でストレージ203に記憶されている。CPU201は、プログラムをストレージ203から読み出してメインメモリ202に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。また、CPU201は、プログラムに従って、上述した記憶部34に対応する記憶領域をメインメモリ202に確保する。
【0044】
ストレージ203の例としては、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disc Read Only Memory)、半導体メモリ等が挙げられる。ストレージ203は、コンピュータ200のバスに直接接続された内部メディアであってもよいし、インターフェース204または通信回線を介してコンピュータ200に接続される外部メディアであってもよい。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ200に配信される場合、配信を受けたコンピュータ200が当該プログラムをメインメモリ202に展開し、上記処理を実行してもよい。なお、ストレージ203は、一時的でない有形の記憶媒体である。
【0045】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現してもよい。さらに、上記プログラムは、前述した機能をコンピュータ200にすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるファイル、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0046】
なお、上記構成に加えて、または上記構成に代えてPLD(Programmable Logic Device)などのカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、GPU(Graphics Processing Unit)、及びこれらに類する処理装置を備えてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。この場合、プロセッサによって実現される機能の一部または全部が当該集積回路によって実現されてよい。
【0047】
<付記>
各実施形態に記載の電動飛行体1は、例えば以下のように把握される。
【0048】
(1)第1の態様に係る電動飛行体1は、機体10と、平面視で該機体10の重心を挟むようにして一対ずつ設けられた複数の推進器20と、該推進器20の動作を制御する制御部30と、を備え、前記推進器20は、軸線X回りに回転可能なファン22と、該ファン22を回転駆動する電動機21と、前記ファン22を外周側から覆うダクト23と、該ダクト23の内周側で、該ダクト23が生成する気流を転向させる転向部24と、該転向部24の姿勢を制御する転向駆動部25と、を有し、前記制御部30は、前記複数の推進器20のうちのいずれか1つが異常により停止した場合に、該停止した推進器20に対して前記重心を挟んで反対側に位置する前記推進器20を異常対応モードに切り替える。
【0049】
上記構成によれば、1つの推進器20に異常が発生して停止した場合には、停止した推進器20に対して機体10の重心を挟んで反対側に位置する他の推進器20が異常対応モードに切り替えられる。これにより、1つの推進器20を停止したことによる推力のアンバランス等が解消されるため、異常発生時であっても機体10のバランスや姿勢を大きく損なうことなく、着陸等の次の動作に移ることが可能となる。
【0050】
(2)第2の態様に係る電動飛行体1は、(1)の電動飛行体1であって、前記異常対応モードでは、前記反対側に位置する前記推進器20を停止させる。
【0051】
上記構成によれば、1つの推進器20に異常が発生して停止した場合には、停止した推進器20に対して機体10の重心を挟んで反対側に位置する他の推進器20も停止させる。これにより、1つの推進器20を停止したことによる推力のアンバランス等が解消されるため、異常発生時であっても機体10のバランスや姿勢を大きく損なうことなく、着陸等の次の動作に移ることが可能となる。
【0052】
(3)第3の態様に係る電動飛行体1は、(2)の電動飛行体1であって、前記制御部30は、前記異常対応モードにおいて停止した少なくとも一対の前記推進器20以外の前記推進器20の前記転向部24を動作させることによって、前記機体10の進行方向をロール軸とするローリング角度を調節する。
【0053】
上記構成によれば、異常が発生して停止した推進器20以外の残余の推進器20の転向部24を動作させることでローリング角度を調節する。これにより、異常発生の際に生じたローリング角度の過不足による機体10の姿勢の乱れやアンバランスが是正され、正常な状態に近づけることが可能となる。したがって、異常発生時であっても機体10のバランスや姿勢を大きく損なうことなく、着陸等の次の動作に移ることが可能となる。
【0054】
(4)第4の態様に係る電動飛行体1は、(2)又は(3)の電動飛行体1であって、前記制御部30は、前記異常対応モードにおいて停止した少なくとも一対の前記推進器20以外の前記推進器20の前記転向部24を動作させることによって、前記機体10の重心を通るヨー軸とするヨーイング角度を調節する。
【0055】
上記構成によれば、異常が発生して停止した推進器20以外の残余の推進器20の転向部24を動作させることでヨーイング角度を調節する。これにより、異常発生の際に生じたヨーイング角度の過不足による機体10の姿勢の乱れやアンバランスが是正され、正常な状態に近づけることが可能となる。したがって、異常発生時であっても機体10のバランスや姿勢を大きく損なうことなく、着陸等の次の動作に移ることが可能となる。
【0056】
(5)第5の態様に係る電動飛行体1は、(2)から(4)のいずれか一態様に係る電動飛行体1であって、前記制御部30は、前記異常対応モードにおいて停止した少なくとも一対の前記推進器20以外の前記推進器20の回転数を変化させることによって、前記機体10の進行方向に直交する水平方向をピッチ軸とするピッチング角度を調節する。
【0057】
上記構成によれば、異常が発生して停止した推進器20以外の残余の推進器20の回転数を調節することでピッチング角度を調節する。これにより、異常発生の際に生じたピッチング角度の過不足による機体10の姿勢の乱れやアンバランスが是正され、正常な状態に近づけることが可能となる。したがって、異常発生時であっても機体10のバランスや姿勢を大きく損なうことなく、着陸等の次の動作に移ることが可能となる。
【符号の説明】
【0058】
1…電動飛行体 10…機体 20…推進器 21…電動機 22…ファン 23…ダクト 24…転向部 24a…フラップ 24b…ノズル 25…転向駆動部 30…制御部 31…移動方向受付部 32…駆動信号生成部 33…回転数調節部 34…記憶部 35…姿勢判定部 41…電動機本体 42…出力軸 51…スピナー 52…ブレード 60…ステー 120…推進器 200…コンピュータ 201…CPU 202…メインメモリ 203…ストレージ 204…インターフェース G…重心位置 M…ピッチングモーメント M´…反モーメント X…軸線 Y…回動軸 D…移動方向
図1
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図13